(1)エンジンの全体構成
図1および図2は、本発明の制御装置が適用されたエンジンの好ましい実施形態を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流するEGR装置50を備えている。
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。エンジン本体1は、典型的には複数の(例えば4つの)気筒を有する多気筒型のものであるが、ここでは簡略化のため、1つの気筒2のみに着目して説明を進める。
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、この燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。なお、燃焼室6に噴射される燃料は、主成分としてガソリンを含有していればよく、例えばガソリンに加えてバイオエタノール等の副成分を含んでいてもよい。
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室の容積との比は、後述するSPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)に好適な値として、13以上30以下に設定される。より詳しくは、気筒2の幾何学的圧縮比は、オクタン価が91程度のガソリン燃料を使用するレギュラー仕様の場合に14以上17以下に設定し、オクタン価が96程度のガソリン燃料を使用するハイオク仕様の場合に15以上18以下に設定するのが好ましい。
シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度(クランク角)およびクランク軸7の回転速度(エンジン回転速度)を検出するクランク角センサSN1が設けられている。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に開口する吸気ポート9および排気ポート10と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが設けられている。なお、当実施形態のエンジンのバルブ形式は、図2に示すように、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式である。すなわち、吸気ポート9は、第1吸気ポート9Aおよび第2吸気ポート9Bを有しており、排気ポート10は、第1排気ポート10Aおよび第2排気ポート10Bを有している。吸気弁11は、第1吸気ポート9Aおよび第2吸気ポート9Bをそれぞれ開閉するように合計2つ設けられ、排気弁12は、第1排気ポート10Aおよび第2排気ポート10Bをそれぞれ開閉するように合計2つ設けられている。
図3に示すように、第2吸気ポート9Bには開閉可能なスワール弁18が設けられている。スワール弁18は、第2吸気ポート9Bにのみ設けられており、第1吸気ポート9Aには設けられていない。このようなスワール弁18が閉方向に駆動されると、スワール弁18が設けられていない第1吸気ポート9Aから燃焼室6に流入する吸気の割合が増大するため、気筒軸線の回りを旋回する旋回流(スワール流)を強化することができる。逆に、スワール弁18を開方向に駆動すれば当該旋回流を弱めることができる。
吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構13,14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
吸気弁11用の動弁機構13には、吸気弁11の少なくとも開時期を変更可能な吸気VVT13aが内蔵されている。同様に、排気弁12用の動弁機構14には、排気弁12の少なくとも閉時期を変更可能な排気VVT14aが内蔵されている。これら吸気VVT13aおよび排気VVT14aの制御により、当実施形態では、吸気弁11および排気弁12の双方が排気上死点を跨いで開弁するバルブオーバーラップ期間を調整することが可能であり、また、このバルブオーバーラップ期間の調整により、燃焼室6に残留する既燃ガス(内部EGRガス)の量を調整することが可能である。なお、吸気VVT13a(排気VVT14a)は、吸気弁11(排気弁12)の開時期(閉時期)を固定したまま閉時期(開時期)のみを変更するタイプの可変機構であってもよいし、吸気弁11(排気弁12)の開時期および閉時期を同時に変更する位相式の可変機構であってもよい。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(主にガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と燃焼室6に導入された空気との混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。シリンダヘッド4には、さらに、燃焼室6の圧力(以下、筒内圧力ともいう)を検出する筒内圧センサSN2が設けられている。なお、筒内圧センサSN2は請求項にいう「検出部」に相当する。
図2に示すように、ピストン5の冠面には、その中央部を含む比較的広い領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹陥させたキャビティ20が形成されている。キャビティ20の中心部には、相対的に上方に隆起したほぼ円錐状の隆起部20aが形成されており、この隆起部20aを挟んだ径方向の両側がそれぞれ断面お椀状の凹部とされている。言い換えると、キャビティ20は、隆起部20aを囲むように形成された平面視ドーナツ状の凹部である。また、ピストン5の冠面のうちキャビティ20よりも径方向外側の領域は、円環状の平坦面からなるスキッシュ部21とされている。
インジェクタ15は、その先端部に複数の噴孔を有した多噴孔型のインジェクタであり、当該複数の噴孔から放射状に燃料を噴射することが可能である(図2中のFは各噴孔から噴射された燃料の噴霧を表している)。インジェクタ15は、その先端部がピストン5の冠面の中心部(隆起部20a)と対向するように設けられている。
点火プラグ16は、インジェクタ15に対し吸気側に幾分ずれた位置に配置されている。点火プラグ16の先端部(電極部)は、キャビティ20と平面視で重複する位置に設定されている。
図1に示すように、吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。
吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を圧縮しつつ送り出す過給機33と、過給機33により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ35と、サージタンク36とが設けられている。
吸気通路30の各部には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN3と、吸気の温度を検出する第1・第2吸気温センサSN4,SN6と、吸気の圧力を検出する第1・第2吸気圧センサSN5,SN7とが設けられている。エアフローセンサSN3および第1吸気温センサSN4は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の流量および温度を検出する。第1吸気圧センサSN5は、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間(後述するEGR通路51の接続口よりも下流側)の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の圧力を検出する。第2吸気温センサSN6は、吸気通路30における過給機33とインタークーラ35との間の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の温度を検出する。第2吸気圧センサSN7は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の圧力を検出する。
過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャ)である。過給機33の具体的な形式は特に問わないが、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを過給機33として用いることができる。
過給機33とエンジン本体1との間には、締結と解放を電気的に切り替えることが可能な電磁クラッチ34が介設されている。電磁クラッチ34が締結されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる。一方、電磁クラッチ34が解放されると、上記駆動力の伝達が遮断されて、過給機33による過給が停止される。
吸気通路30には、過給機33をバイパスするためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51とを互いに接続している。バイパス通路38には開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガス(排気ガス)は、排気ポート10および排気通路40を通じて外部に排出される。
排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)41bとが内蔵されている。なお、触媒コンバータ41の下流側に、三元触媒やNOx触媒等の適宜の触媒を内蔵した別の触媒コンバータを追加してもよい。
EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを有している。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部分と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部分とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(外部EGRガス)を熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側(吸気通路30に近い側)のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気ガスの流量を調整する。
EGR通路51には、EGR弁53の上流側の圧力と下流側の圧力との差を検出するための差圧センサSN8が設けられている。
(2)制御系統
図4は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるECU100は、エンジンを統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
ECU100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、ECU100は、上述したクランク角センサSN1、筒内圧センサSN2、エアフローセンサSN3、第1・第2吸気温センサSN4,SN6、第1・第2吸気圧センサSN5,SN7、および差圧センサSN8と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転速度、筒内圧力、吸気流量、吸気温、吸気圧、EGR弁53の前後差圧等)がECU100に逐次入力されるようになっている。
また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度を検出するアクセルセンサSN9が設けられており、このアクセルセンサSN9による検出信号もECU100に入力される。
ECU100は、上記各センサからの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU100は、吸気VVT13a、排気VVT14a、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、およびEGR弁53等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
なお、上記のようなECU100は、請求項にいう「演算部」、「燃焼制御部」、および「記憶部」に相当する。
(3)運転状態に応じた制御
図5は、エンジンの回転速度/負荷に応じた制御の相違を説明するためのマップ図である。本図に示すように、エンジンの運転領域は、燃焼形態の相違によって4つの運転領域A1〜A4に大別される。それぞれ第1運転領域A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3、第4運転領域A4とすると、第1運転領域A1は、回転速度および負荷の双方が低い低速・低負荷の領域であり、第3運転領域A3は、回転速度が低くかつ負荷が高い低速・高負荷の領域であり、第4運転領域A4は、回転速度が高い高速領域であり、第2運転領域A2は、第1、第3、第4運転領域A1,A3,A4を除いた残余の領域(言い換えると低速・中負荷領域と中速領域とを合わせた領域)である。以下、各運転領域で選択される燃焼形態等について順に説明する。
(a)第1運転領域
低速・低負荷の第1運転領域A1では、SI燃焼とCI燃焼とをミックスした部分圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。具体的に、第1運転領域A1では、過給機33による過給が停止された状態(自然吸気の状態)で、SPCCI燃焼が実行される。なお、SPCCI燃焼における「SPCCI」とは、「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
ここで、SI燃焼とは、点火プラグ16により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる形態のことであり、CI燃焼とは、ピストン5の圧縮により高温・高圧化された環境下で混合気を自着火により燃焼させる形態のことである。そして、これらSI燃焼とCI燃焼とをミックスしたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、当該SI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の残りの混合気を自着火によりCI燃焼させる、という燃焼形態のことである。
SPCCI燃焼では、SI燃焼時の熱発生がCI燃焼時の熱発生よりも穏やかになる。例えば、SPCCI燃焼が行われたときの熱発生率の波形は、後述する図6または図7に示すように、立ち上がりの傾きが相対的に小さくなる。また、燃焼室6における圧力変動(dp/dθ)も、SI燃焼時はCI燃焼時よりも穏やかになる。言い換えると、SPCCI燃焼時の熱発生率の波形は、SI燃焼によって形成された相対的に立ち上がりの傾きが小さい第1熱発生率部と、CI燃焼によって形成された相対的に立ち上がりの傾きが大きい第2熱発生部とが、この順に連続するように形成される。
SI燃焼によって、燃焼室6内の温度および圧力が高まると、これに伴い未燃混合気が自着火し、CI燃焼が開始される。後述する図6または図7に例示するように、この自着火のタイミング(つまりCI燃焼が開始するタイミング)で、熱発生率の波形の傾きが小から大へと変化する。すなわち、SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで現れる変曲点(図7のX)を有している。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。ただし、CI燃焼は、圧縮上死点の後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが過大になることはない。すなわち、圧縮上死点を過ぎるとピストン5の下降によりモータリング圧力が低下するので、このことが熱発生率の上昇を抑制する結果、CI燃焼時のdp/dθが過大になることが回避される。このように、SPCCI燃焼では、SI燃焼の後にCI燃焼が行われるという性質上、燃焼騒音の指標となるdp/dθが過大になり難く、単純なCI燃焼(全ての燃料をCI燃焼させた場合)に比べて燃焼騒音を抑制することができる。
CI燃焼の終了に伴いSPCCI燃焼も終了する。CI燃焼はSI燃焼に比べて燃焼速度が速いので、単純なSI燃焼(全ての燃料をSI燃焼させた場合)に比べて燃焼終了時期を早めることができる。言い換えると、SPCCI燃焼では、燃焼終了時期を膨張行程内において圧縮上死点に近づけることができる。これにより、SPCCI燃焼では、単純なSI燃焼に比べて燃費性能を向上させることができる。
上記のようなSPCCI燃焼を実現するため、第1運転領域A1では、ECU100によってエンジンの各部が次のように制御される。
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料の全量または大半を圧縮行程中に噴射する。例えば、第1運転領域A1に含まれる運転ポイントP1において、インジェクタ15は、図6のチャート(a)に示すように、圧縮行程の中期から後期にかけた2回に分けて燃料を噴射する。
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、上記運転ポイントP1において、点火プラグ16は、圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火する。そして、この点火をきっかけにSPCCI燃焼が開始され、燃焼室6内の一部の混合気が火炎伝播により燃焼(SI燃焼)し、その後に残りの混合気が自着火により燃焼(CI燃焼)する。
過給機33はOFF状態とされる。すなわち、電磁クラッチ34が解放されて過給機33とエンジン本体1との連結が解除されるとともに、バイパス弁39が全開とされることにより、過給機33による過給が停止される。
吸気VVT13aおよび排気VVT14aは、吸気弁11および排気弁12のバルブタイミングを内部EGRを行うためのタイミング、つまり、吸・排気弁11,12の双方が排気上死点を跨いで開弁されるバルブオーバーラップ期間が十分に形成されるようなタイミングに設定する。これにより、燃焼室6に既燃ガスを残留させる内部EGRが実現され、燃焼室6の温度(圧縮前の初期温度)が高められる。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、燃焼室6内の空気(新気)と燃料との重量比である空燃比(A/F)が予め定められた目標空燃比となるように、その開度が制御される。具体的に、第1運転領域A1での目標空燃比は、図5に示される負荷ラインLよりも低負荷側で理論空燃比よりもリーン(λ>1)に、負荷ラインLよりも高負荷側で理論空燃比もしくはその近傍(λ≒1)に設定される。なお、λとは空気過剰率のことであり、空燃比が理論空燃比(14.7)のときにλ=1となり、理論空燃比よりもリーンなときにλ>1となる。EGR弁53は、上述した目標空燃比に相当する空気(新気)量が燃焼室6に導入されるように、EGR通路51を通じて還流される排気ガス(外部EGRガス)の量を調整する。言い換えると、EGR弁53は、スロットル弁32が全開の場合に燃焼室6に導入される全ガス量から、上記目標空燃比相当の空気量と、内部EGRにより燃焼室6に残留させられる既燃ガスの量とを除いた分のガスが、外部EGRガスとしてEGR通路51から燃焼室6に還流されるように、EGR通路51内の流量を調整する。第1運転領域A1では、上記のように空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりリーンに設定される上に、燃焼室6にEGRガス(外部EGRガスおよび内部EGRガス)が導入されるので、燃焼室6内の全ガスと燃料との重量比であるガス空燃比(G/F)は、第1運転領域A1内のいずれにおいてもリーンとなる。
スワール弁18は全閉もしくは全閉に近い低開度まで閉じられる。これにより、燃焼室6に導入される吸気は、その全部もしくは大部分が第1吸気ポート9A(スワール弁18が設けられていない側の吸気ポート)からの吸気となるので、燃焼室6内に強いスワール流が形成される。このスワール流は、吸気行程中に成長して、圧縮行程の途中まで残存する。このため、例えば上述した運転ポイントP1のように圧縮行程中に燃料を噴射した場合には、スワール流の作用によって燃料の成層化が実現される。すなわち、スワール流が存在する状況下で圧縮行程の中期以降に燃料が噴射されると、噴射された燃料は、スワール流が比較的弱い燃焼室6の中央部に集められる。これにより、燃焼室6の中央部の燃料濃度がその外側の領域(外周部)に比べて濃くなるという濃度差が生じ、燃料の成層化が実現される。例えば、燃焼室6の中央部の空燃比が20以上30以下に、燃焼室6の外周部の空燃比が35以上に設定される。
(b)第2運転領域
第2運転領域A2(低速・中負荷領域と中速領域とを合わせた領域)では、過給機33による過給を行いつつ混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される。具体的に、このような過給を伴ったSPCCI燃焼を実現するため、第2運転領域A2では、ECU100によってエンジンの各部が次のように制御される。
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料の一部を吸気行程中に噴射し、残りの燃料を圧縮行程中に噴射する。例えば、第2運転領域A2に含まれる運転ポイントP2において、インジェクタ15は、図6のチャート(b)に示すように、比較的多量の燃料を噴射する1回目の燃料噴射を吸気行程中に実行するとともに、当該1回目の燃料噴射よりも少量の燃料を噴射する2回目の燃料噴射を圧縮行程中に実行する。また、運転ポイントP2よりも高負荷かつ高回転側の運転ポイントP3において、インジェクタ15は、図6のチャート(c)に示すように、吸気行程から圧縮行程にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射する。
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、点火プラグ16は、上記運転ポイントP2では圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火し(図6のチャート(b))、上記運転ポイントP3では圧縮上死点よりもやや遅角側のタイミングで混合気に点火する(図6のチャート(c))。そして、この点火をきっかけにSPCCI燃焼が開始され、燃焼室6内の一部の混合気が火炎伝播により燃焼(SI燃焼)し、その後に残りの混合気が自着火により燃焼(CI燃焼)する。
過給機33はON状態とされる。すなわち、電磁クラッチ34が締結されて過給機33とエンジン本体1とが連結されることにより、過給機33による過給が行われる。このとき、第2吸気圧センサSN7により検出されるサージタンク36内の圧力(過給圧)が、運転条件(回転速度/負荷)ごとに予め定められた目標圧力に一致するように、バイパス弁39の開度が制御される。例えば、バイパス弁39の開度が大きくなるほど、バイパス通路38を通じて過給機33の上流側に逆流する吸気の流量が多くなる結果、サージタンク36に導入される吸気の圧力つまり過給圧が低くなる。バイパス弁39は、このように吸気の逆流量を調整することにより、過給圧を目標圧力に制御する。
吸気VVT13aおよび排気VVT14aは、第2運転領域A2の低負荷側の一部においてのみ内部EGRが行われるように(言い換えると高負荷側では内部EGRが停止されるように)、吸気弁11および排気弁12のバルブタイミングを制御する。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が予め定められた目標空燃比となるように、その開度が制御される。具体的に、第2運転領域A2での目標空燃比は、負荷ラインL(図5)よりも低負荷側でリーン(λ>1)に、負荷ラインLよりも高負荷側で理論空燃比もしくはその近傍(λ≒1)に設定される。EGR弁53は、この目標空燃比に相当する空気(新気)量が燃焼室6に導入されるように、EGR通路51を通じて還流される排気ガス(外部EGRガス)の量を調整する。例えば、排気ガスの還流量は、高負荷側ほど少なくなるように調整され、エンジンの最高負荷の近傍においてほぼゼロとされる。言い換えると、燃焼室6内のガス空燃比(G/F)は、エンジンの最高負荷の近傍を除いていずれもリーンとされる。
スワール弁18は全閉とされるか、もしくは全閉/全開を除いた適宜の中間開度まで開かれる。具体的に、スワール弁18は、第2運転領域A2の低負荷側の一部で全閉とされ、残りの高負荷側の領域で中間開度とされる。なお、後者の領域におけるスワール弁18の開度は、負荷が高いほど大きくされる。
(c)第3運転領域
低速・高負荷の第3運転領域A3では、過給機33による過給を行いつつ混合気をSI燃焼させる制御が実行される。具体的に、このような過給を伴ったSI燃焼を実現するため、第3運転領域A3では、ECU100によってエンジンの各部が次のように制御される。
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料の一部を吸気行程中に噴射し、残りの燃料を圧縮行程中に噴射する。例えば、第3運転領域A3に含まれる運転ポイントP4において、インジェクタ15は、図6のチャート(d)に示すように、比較的多量の燃料を噴射する1回目の燃料噴射を吸気行程中に実行するとともに、当該1回目の燃料噴射よりも少量の燃料を噴射する2回目の燃料噴射を圧縮行程の後期(圧縮上死点の直前)に実行する。
点火プラグ16は、例えば圧縮上死点から5〜20°CA程度経過した比較的遅めのタイミングで混合気に点火する。そして、この点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。なお、第3運転領域A3での点火時期が上記のように遅角されるのは、ノッキングやプリイグニッション等の異常燃焼を防止するためである。ただし、第3運転領域A3では、2回目の燃料噴射が圧縮行程の後期(圧縮上死点の直前)というかなり遅めのタイミングに設定されるので、点火時期が上記のように遅角されたとしても、点火後の燃焼速度(火炎伝播速度)は比較的速いものになる。すなわち、2回目の燃料噴射から点火までの期間が十分に短いことから、点火時点における燃焼室6内の流動(乱流エネルギー)が比較的強くなり、当該流動を利用して点火後の燃焼速度を速めることができる。これにより、異常燃焼を防止しつつ熱効率を高く維持することができる。
過給機33はON状態とされる。すなわち、電磁クラッチ34が締結されて過給機33とエンジン本体1とが連結されることにより、過給機33による過給が行われる。またこのとき、サージタンク36内の圧力(過給圧)が目標圧力に一致するようにバイパス弁39の開度が制御される。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりややリッチとなるように、その開度が制御される。一方、燃焼室6内のガス空燃比(G/F)は、エンジンの最高負荷の近傍を除いていずれもリーンとされる。
スワール弁18の開度は、所定の中間開度(例えば50%)またはその近傍値に設定される。
(d)第4運転領域
上記第1〜第3運転領域A1〜A3よりも高速側の第4運転領域A4では、比較的オーソドックスなSI燃焼が実行される。このSI燃焼の実現のために、第4運転領域A4では、ECU100によってエンジンの各部が次のように制御される。
インジェクタ15は、少なくとも吸気行程と重複する所定の期間にわたって噴射を噴射する。例えば、第4運転領域A4に含まれる運転ポイントP5において、インジェクタ15は、図6のチャート(e)に示すように、吸気行程から圧縮行程にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射する。なお、運転ポイントP5は、かなり高速かつ高負荷の条件であるため、1サイクル中に噴射すべき燃料の量がそもそも多い上に、所要量の燃料を噴射するのに要するクランク角期間が長期化する。運転ポイントP5における燃料の噴射期間が既述の他の運転ポイント(P1〜P4)のいずれよりも長いのはこのためである。
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、上記運転ポイントP5において、点火プラグ16は、圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火する。そして、この点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
過給機33はON状態とされる。すなわち、電磁クラッチ34が締結されて過給機33とエンジン本体1とが連結されることにより、過給機33による過給が行われる。またこのとき、サージタンク36内の圧力(過給圧)が目標圧力に一致するようにバイパス弁39の開度が制御される。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりややリッチとなるように、その開度が制御される。一方、燃焼室6内のガス空燃比(G/F)は、エンジンの最高負荷の近傍を除いていずれもリーンとされる。
スワール弁18は全開とされる。これにより、第1吸気ポート9Aだけでなく第2吸気ポート9Bが完全に開放されて、エンジンの充填効率が高められる。
(4)SI率について
上述したように、当実施形態では、SI燃焼とCI燃焼とをミックスしたSPCCI燃焼が第1運転領域A1および第2運転領域A2において実行されるが、このSPCCI燃焼では、SI燃焼とCI燃焼との比率を運転条件に応じてコントロールすることが重要になる。
ここで、当実施形態では、上記比率として、SPCCI燃焼(SI燃焼およびCI燃焼)による全熱発生量に対するSI燃焼による熱発生量の割合であるSI率を用いる。図7は、このSI率を説明するための図であり、SPCCI燃焼が起きたときの熱発生率(J/deg)のクランク角による変化を示している。図7の波形における変曲点Xは、燃焼形態がSI燃焼からCI燃焼に切り替わるときに現れる変曲点であり、この変曲点Xに対応するクランク角θciを、CI燃焼の開始時期と定義することができる。そして、このθci(CI燃焼の開始時期)よりも進角側に位置する熱発生率の波形の面積Q1をSI燃焼による熱発生量とし、θciよりも遅角側に位置する熱発生率の波形の面積Q2をCI燃焼による熱発生率とする。これにより、(SI燃焼による熱発生量)/(SPCCI燃焼による熱発生量)で定義される上述したSI率は、上記各面積Q1,Q2を用いて、Q1/(Q1+Q2)で表すことができる。つまり、当実施形態では、SI率=Q1/(Q1+Q2)である。
CI燃焼の場合は混合気が自着火により同時多発的に燃焼するため、火炎伝播によるSI燃焼と比べて熱発生率が高くなり易く、大きな騒音が発生し易い。このため、SPCCI燃焼におけるSI率(=Q1/(Q1+Q2))は、総じて、負荷が高いほど大きくすることが望ましい。これは、負荷が高い場合は低い場合に比べて、燃料の噴射量が多く燃焼室6内でのトータルの熱発生量が大きいため、SI率を小さくする(つまりCI燃焼の割合を増やす)と大きな騒音が発生するからである。逆に、CI燃焼は熱効率の面では優れているため、騒音が問題にならない限り、できるだけ多くの燃料をCI燃焼させるのが好ましい。このため、SPCCI燃焼におけるSI率は、総じて、負荷が低いほど小さくする(つまりCI燃焼の割合を増やす)ことが望ましい。このような観点から、当実施形態では、負荷が高いほどSI率が大きくなるように(言い換えると負荷が低いほどSI率が小さくなるように)、目標とするSI率(目標SI率)がエンジンの運転条件に応じて予め定められており、この目標SI率が実現されるように、点火時期、燃料の噴射量/噴射時期、および筒内状態量といった制御量の目標値がそれぞれ定められている。なお、ここでいう筒内状態量とは、例えば、燃焼室6内の温度やEGR率等である。EGR率には、燃焼室6内の全ガスに対する外部EGRガス(EGR通路51を通じて燃焼室6に還流される排気ガス)の割合である外部EGR率と、燃焼室6内の全ガスに対する内部EGRガス(燃焼室6に残留する既燃ガス)の割合である内部EGR率とが含まれる。
例えば、点火時期が進角されるほど、多くの燃料がSI燃焼により燃焼することになり、SI率が高くなる。また、燃料の噴射時期が進角されるほど、多くの燃料がCI燃焼により燃焼することになり、SI率が低くなる。あるいは、燃焼室6の温度が高くなるほど、多くの燃料がCI燃焼により燃焼することになり、SI率が低くなる。
上記のような傾向に基づいて、当実施形態では、点火時期、燃料の噴射量/噴射時期、および筒内状態量(温度、EGR率等)の各目標値が、上述した目標SI率を実現可能な組合せになるように運転条件ごとに予め定められている。SPCCI燃焼による運転時(つまり第1・第2運転領域A1,A2での運転時)、ECU100は、これら制御量の目標値に基づいて、インジェクタ15、点火プラグ16、EGR弁53、吸・排気VVT13a,14a等を制御する。例えば、点火時期の目標値に基づいて点火プラグ16を制御するとともに、燃料の噴射量/噴射時期の目標値に基づいてインジェクタ15を制御する。また、燃焼室6の温度およびEGR率の各目標値に基づいてEGR弁53および吸・排気VVT13a,14aを制御し、EGR通路51を通じた排気ガス(外部EGRガス)の還流量や内部EGRによる既燃ガス(内部EGRガス)の残留量を調整する。
なお、目標SI率がエンジンの運転条件ごとに予め定められている当実施形態では、この目標SI率に適合する燃焼が行われた場合のCI燃焼の開始時期θciもおのずと定まっていることになる。以下の説明では、このように目標SI率に基づき定まっているCI燃焼の開始時期を標準θciと称する。この標準θciは、後述するフローチャート(図8のステップS4)において目標θciを決定するときの基準となる。
(5)ノック指標値に応じた制御
ここで、SI燃焼とCI燃焼とをミックスしたSPCCI燃焼では、SI燃焼およびCI燃焼のそれぞれに起因したノッキングが起きる可能性がある。SI燃焼に起因したノッキングをSIノック、CI燃焼に起因したノッキングをCIノックとすると、SIノックとは、混合気がSI燃焼した領域の外側の未燃ガスが異常な局所自着火(正常なCI燃焼とは明確に異なる局所自着火)により急速燃焼する現象のことであり、CIノックとは、CI燃焼による圧力変動に起因してエンジンの主要部品(シリンダブロック/ヘッド、ピストン、クランクジャーナル部など)が共振する現象のことである。SIノックは、局所自着火により燃焼室6内で気柱振動が起きることにより、約6.3kHzの周波数をもった大きな騒音として出現する。一方、CIノックは、上記エンジンの主要部品の共振が起きることにより、約1〜4kHzの周波数(より厳密には当該範囲に含まれる複数の周波数)をもった大きな騒音として出現する。このように、SIノックとCIノックとは、異なる原因に起因した異なる周波数の騒音として出現するものであり、CIノック時の騒音の周波数の方が、SIノック時の騒音の周波数よりも低くなる。
上記のようなSIノックおよびCIノックは、いずれも、車室内の乗員に耳障りな騒音として検知されるため、SIノックとCIノックとがともに起きないようにSPCCI燃焼を制御する必要がある。そこで、当実施形態では、SIノックと相関のあるSIノック指標値と、CIノックと相関のあるCIノック指標値とを、筒内圧センサSN2の検出値に基づいて特定し、特定した各ノック指標値に基づいてSPCCI燃焼を制御する。なお、当実施形態において、SIノック指標値とは、SIノックの発生に伴い増大する6.3kHz付近の騒音を代表する値であり、CIノック指標値とは、CIノックの発生に伴い増大する1〜4kHz付近の騒音を代表する値である。これら各ノック指標値は、後で詳しく述べるように、筒内圧センサSN2による検出波形をフーリエ変換することにより算出される。
図8は、SPCCI燃焼時、つまり図5に示した第1運転領域A1および第2運転領域A2での運転時にECU100によって行われる制御の具体的手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す制御がスタートすると、ECU100は、クランク角センサSN1により検出されるエンジン回転速度と、アクセルセンサSN9の検出値(アクセル開度)やエアフローセンサSN3の検出値(吸気流量)等から特定されるエンジン負荷とに基づいて、インジェクタ15からの燃料の噴射量および噴射時期を決定する(ステップS1)。なお、上記(4)で説明したとおり、当実施形態では、エンジンの運転条件に応じて目標SI率が予め定められているとともに、この目標SI率を実現するための燃料の噴射量/噴射時期がエンジンの運転条件ごとに予め定められている。上記ステップS1で決定される燃料の噴射量/噴射時期は、この目標SI率を実現するための噴射量/噴射時期である。
次いで、ECU100は、現時点の運転条件下で許容できるSIノック指標値の上限であるSIノック指標値の許容限界W1(図11(a))を決定するとともに(ステップS2)、同じく現時点の運転条件下で許容できるCIノック指標値の上限であるCIノック指標値の許容限界W2(図11(b))を決定する(ステップS3)。
具体的に、上記ステップS2において、ECU100は、クランク角センサSN1により検出されるエンジン回転速度と、アクセルセンサSN9の検出値(アクセル開度)等から特定されるエンジン負荷と、図11(a)に示されるマップM1とに基づいて、SIノック指標値の許容限界W1を特定する。同様に、上記ステップS3において、ECU100は、上記エンジン回転速度/負荷と、図11(b)に示されるマップM2とに基づいて、CIノック指標値の許容限界W2を特定する。
図11(a)のマップM1は、SIノック指標値の基本限界V1をエンジン回転速度/負荷ごとに規定したマップであり、図11(b)のマップM2は、CIノック指標値の基本限界V2をエンジン回転速度/負荷ごとに規定したマップである。これらのマップM1,M2は、ECU100に予め記憶されている。各マップM1,M2において、SI/CIノック指標値の基本限界V1,V2は、エンジン回転速度/負荷が高くなるほど大きくなるように定められている。すなわち、各基本限界V1,V2は、エンジン回転速度および負荷のいずれが高くなっても大きくなる値であり、エンジン回転速度および負荷がともに低い低回転・低負荷の条件のときが最も小さく、エンジン回転速度および負荷がともに高い高回転・高負荷の条件のときが最も大きくなる。これは、低回転・低負荷条件であるほど小さな騒音でも感知され易い(逆に言えば高回転・高負荷条件であるほど大きな騒音でも感知され難い)からである。
上記ステップS2,S3において、ECU100は、上記各センサSN1,SN9の検出値等から特定される現時点のエンジンの運転条件(回転速度/負荷)を上記図11(a)(b)のマップM1,M2にそれぞれ照合することにより、現運転条件に対応するSIノック指標値の基本限界V1xと、現運転条件に対応するCIノック指標値の基本限界V2xとを特定する。そして、これら基本限界V1x,V2xから、過去に取得されたSI/CIノック指標値のバラつきに基づく余裕代a,bを差し引いた値を、SI/CIノック指標値のそれぞれの許容限界W1,W2として決定する。すなわち、現運転条件に対応するSIノック指標値の基本限界V1xをマップM1(図11(a))を用いて特定するとともに、当該基本限界V1xから、過去に取得されたSIノック指標値のバラつきに基づく余裕代aを差し引いた値を、SIノック指標値の許容限界W1として決定する。同様に、現運転条件に対応するCIノック指標値の基本限界V2xをマップM2(図11(b))を用いて特定するとともに、当該基本限界V2xから、過去に取得されたCIノック指標値のバラつきに基づく余裕代bを差し引いた値を、CIノック指標値の許容限界W2として決定する。
なお、上記の処理において各基本限界V1x,V2xから差し引かれる余裕代a,bは、過去に取得されたSI/CIノック指標値の履歴より求められるものであり(後述するステップS11)、所定期間に亘って蓄積された過去のSI/CIノック指標値の標準偏差に対応している。このようにSI/CIノック指標値のバラつき(標準偏差)を考慮して許容限界W1,W2を決定するのは、燃焼サイクルごとの騒音バラつきが大きいにもかかわらずノック指標値の許容限界が一定であると、許容限界を超えるような大きな騒音の燃焼が偶発的に起きる可能性が高くなるからである。言い換えると、許容限界を超えるような大きな騒音の燃焼が騒音バラつきの程度によらずどの燃焼サイクルでも起きないことを担保するために、上記のとおりバラつき(標準偏差)を考慮した許容限界W1,W2を設定しているのである。
次いで、ECU100は、目標とするCI燃焼の開始時期である目標θciを決定する(ステップS4)。この目標θciは、SI燃焼からCI燃焼に切り替わるクランク角(図7に示したクランク角θci)の目標値であり、SI/CIノック指標値を許容限界W1,W2以下に抑えることを目的に決定される。
図9は、目標θciを決定する上記ステップS4の制御の具体的手順を示すサブルーチンである。このサブルーチンに示す制御がスタートすると、ECU100は、クランク角センサSN1により検出されるエンジン回転速度と、アクセルセンサSN9の検出値等から特定されるエンジン負荷と、上記ステップS2で決定されたSIノック指標値の許容限界W1と、図12(a)に示されるマップM3とに基づいて、SIノック指標値を許容限界W1以下に抑え得る限界のCI燃焼の開始時期である第1θci限界を決定する(ステップS21)。同様に、ECU100は、上記エンジン回転速度/負荷と、上記ステップS3で決定されたCIノック指標値の許容限界W2と、図12(b)に示されるマップM4とに基づいて、CIノック指標値を許容限界W2以下に抑え得る限界のCI燃焼の限界の開始時期である第2θci限界を決定する(ステップS22)。
図12(a)のマップM3は、θci(CI燃焼の開始時期)とSIノック指標値との標準的な関係を規定したマップであり、請求項にいう「第1の特性」に対応している。また、図12(b)のマップM4は、θciとCIノック指標値との標準的な関係を規定したマップであり、請求項にいう「第2の特性」に対応している。より具体的に、マップM3は、エンジン回転速度を一定(N1)としかつエンジン負荷を種々変化させた場合に得られるSIノック指標値の標準的な特性を規定しており、横軸はθciを、縦軸はSIノック指標値(予測値)をそれぞれ表している。また、マップM4は、エンジン回転速度を一定(N1)としかつエンジン負荷を種々変化させた場合に得られるCIノック指標値の標準的な特性を規定しており、横軸はθciを、縦軸はCIノック指標値(予測値)をそれぞれ表している。これらのマップM3,M4は、ECU100に予め記憶されている。なお、図12(a)(b)では便宜上、低負荷、中負荷、高負荷の3種類の負荷のみを示しているが、これら3種類の負荷以外における特性も上記各マップM3,M4には含まれている。また、上記マップM3,M4はエンジン回転速度を一定(N1)とした場合のものであるが、これとは異なる種々のエンジン回転速度に対し作成されたマップについても、上記マップM3,M4と同様にそれぞれECU100に記憶されている。エンジン回転速度/負荷が各マップM3,M4に規定のない値である場合には、例えば線形補完によりSI/CIノック指標値を予測することができる。このように、当実施形態では、エンジン回転速度/負荷が異なる種々の条件下でθciを変化させた場合に、これに伴ってSI/CIノック指標値がどのように変化するかを、図12(a)(b)の各マップM3,M4を用いて予測できるようになっている。
上記ステップS21において、ECU100は、上記ステップS2で決定されたSIノック指標値の許容限界W1を図12(a)のマップM3に照合することにより、SIノック指標値が当該許容限界W1に一致するようなθciを特定し、これを上述した第1θci限界として決定する。同様に、上記ステップS22において、ECU100は、上記ステップS3で決定されたCIノック指標値の許容限界W2を図12(b)のマップM4に照合することにより、CIノック指標値が当該許容限界W2に一致するようなθciを特定し、これを上述した第2θci限界として決定する。
次いで、ECU100は、上記ステップS21で決定された第1θci限界と、上記ステップS22で決定された第2θci限界とを比較して、両者のうちの遅い方を最終θci限界として決定する(ステップS23)。なお、場合によっては、第1θci限界と第2θci限界とが完全に同一になることもあり得るが、このような場合は、第1θci限界および第2θci限界の双方に一致する値が最終θci限界として決定されることになる。
次いで、ECU100は、上記ステップS23で決定された最終θci限界が、予め定められた標準θciよりも遅角側であるか否かを判定する(ステップS24)。なお、ここでいう標準θciとは、上記(4)で説明したとおり、運転条件ごとに予め定められた目標SI率を達成するような燃焼(いわば狙い通りのSPCCI燃焼)が実現できた場合に得られるCI燃焼の開始時期のことである。
上記ステップS24でYESと判定されて最終θci限界が標準θciよりも遅角側であることが確認された場合、ECU100は、最終θci限界を目標θciとして決定する(ステップS25)。
一方、上記ステップS24でNOと判定されて最終θci限界が標準θciよりも遅角側でないこと、つまり最終θci限界と標準θciとが同一であるかもしくは最終θci限界が標準θciよりも進角側であることが確認された場合、ECU100は、標準θciを目標θciとして決定する(ステップS26)。
以上のようにして目標θciの決定処理が終了すると、ECU100は、クランク角センサSN1の検出値に基づいて、予め定められた特定クランク角が到来したか否かを判定する(ステップS5)。この特定クランク角は、点火プラグ16による点火時期を決定するタイミングとして予め定められたものであり、例えば圧縮上死点前60°CA程度に定められている。
上記ステップS5でYESと判定されて特定クランク角が到来したことが確認された場合、ECU100は、上記ステップS4で決定された目標θciを実現するための点火時期を決定する(ステップS6)。ここで、当実施形態では、エンジンの運転条件ごとに、目標SI率と、当該目標SI率に対応する標準θciと、これら目標SI率/標準θciを実現するための点火時期、燃料の噴射量/噴射時期、および筒内状態量(温度、EGR率等)の各目標値が予め定められているので、これらの各目標値を基準に点火時期を決定することができる。例えば、標準θciと目標θciとのずれ量と、上記特定クランク角時点での筒内状態量とに基づいて、目標θciを実現するための点火時期を決定することができる。
すなわち、標準θciと目標θciとのずれ量が大きいほど、標準θciに対応して定められた点火時期の当初の目標値(以下、これを仮点火時期という)から大きくずらした時期を点火時期として決定する必要があり、また、上記特定クランク角時点での筒内状態量がその目標値から大きくずれているほど、やはり仮点火時期から大きくずらした時期を点火時期として決定する必要がある。一方、上記ステップS1で説明したとおり、当実施形態では、燃料の噴射量/噴射時期として当初の目標値がそのまま採用されるので、これら燃料の噴射量/噴射時期のずれ量は考慮しなくてよい。上記ステップS6では、以上のような事情に基づき予め用意された所定の演算式を用いて、標準θciと目標θciとのすれ量と、筒内状態量の目標値に対するずれ量とから、点火プラグ16による点火時期を決定する。筒内状態量つまり燃焼室6の温度やEGR率等は、例えば第2吸気温センサSN6、第2吸気圧センサSN7、差圧センサSN8等の検出値から予測することができる。なお、目標θciが標準θciと同一であり、しかも上記特定クランク角時点での筒内状態量が目標値と同一である場合には、仮点火時期がそのまま点火時期として採用されることになる。
次いで、ECU100は、上記ステップS1で決定された燃料の噴射量/噴射時期と、上記ステップS6で決定された点火時期と、上記特定クランク角時点での筒内状態量およびエンジン回転速度とに基づいて、1サイクル中に燃焼室6に噴射される燃料のうちその半分の質量に相当する燃料(50%質量分)が燃焼した時点である燃焼重心を予測する(ステップS7)。このステップS7の予測処理は、予め用意された予測モデルに基づいて行われる。
次いで、ECU100は、上記ステップS7で予測された燃焼重心を含む所定期間を、後述するステップS10のSI/CIノック指標値算出のために筒内圧力を検出する期間として決定する(ステップS8)。この筒内圧力を検出する期間(以下、検出期間という)は、上記燃焼重心を含む有限かつ一連の期間となるように定められる。検出期間は、時間を基準に設定される期間であってもよいし、クランク角を基準に設定される期間であってもよい。クランク角を基準とする場合、例えば、燃焼重心から40°CAだけ進角したクランク角から40°CAだけ遅角したクランク角までの間を上記検出期間として決定することができる(後述する図13参照)。
次いで、ECU100は、上記ステップS6で決定された点火時期にて点火プラグ16に点火を行わせ、この点火をきっかけに混合気をSPCCI燃焼させる(ステップS9)。
次いで、ECU100は、上記ステップS8で決定された検出期間中に筒内圧センサSN2により検出された筒内圧力の波形に基づいて、SIノック指標値およびCIノック指標値をそれぞれ算出する(ステップS10)。
図10は、SI/CIノック指標値を算出する上記ステップS10の制御の具体的手順を示すサブルーチンである。このサブルーチンに示す制御がスタートすると、ECU100は、上記検出期間中に筒内圧センサSN2により検出された筒内圧力の波形を読み込む(ステップS31)。
図13は、上記ステップS31で読み込まれた筒内圧力の波形の一例を示すグラフである。なお、グラフの横軸に表示されるクランク角は、圧縮上死点を0°CAとした場合のクランク角(deg.ATDC)である。この例において、燃焼重心はATDC20°CA付近と予測されており、この燃焼重心の前後の40°CAを合わせた期間(ATDC−20°CAからATDC60°CAまでの期間)が検出期間とされている。この検出期間内の検出波形には、点火プラグ16による点火に起因して生じるノイズである点火ノイズが含まれている。
次いで、ECU100は、上記ステップS31で読み込まれた筒内圧力の波形に対し所定の窓関数を適用し、点火ノイズを除去する(ステップS32)。
図14は、上記ステップS32で用いられる窓関数(以下、点火ノイズ除去窓関数という)を示すグラフである。この図14のグラフでは、点火ノイズ除去窓関数を実線で示す一方、フーリエ解析において一般的に用いられる窓関数(いわゆるハニング窓関数)を一点鎖線で示している。両者の比較から明らかなように、点火ノイズ除去窓関数は、ハニング窓関数と異なり、点火時期の前後の所定期間に亘って関数値がゼロとなるように改変されている。このような点火ノイズ除去窓関数を図13の圧力波形に適用することにより、図15において実線で示すように、点火ノイズが除去された圧力波形が得られることになる。なお、図15の一点鎖線の波形は、上述したハニング窓関数を適用した場合の圧力波形であり、この場合は点火ノイズが残っていることが分かる。
次いで、ECU100は、図15に実線で示した圧力波形、つまり筒内圧力の検出波形に点火ノイズ除去窓関数を適用して得られた波形をフーリエ解析し、周波数成分ごとの振幅を求める(ステップS33)。図16は、このフーリエ解析により得られた周波数スペクトルを示すグラフである。このグラフに示すように、上記ステップS33による解析結果、つまり点火ノイズ除去関数の適用後の波形をフーリエ解析して得られるスペクトル(実線)は、ハニング窓関数を適用した場合のスペクトル(破線)と比較して、各周波数成分の振幅が大きく異なっていることが分かる。すなわち、点火ノイズ除去関数を適用してからフーリエ解析する当実施形態の方法によれば、点火ノイズに起因した余計な周波数成分が混じることがなく、筒内圧力の波形における本来の周波数成分を正確に抽出できている。
次いで、ECU100は、上記ステップS33によるフーリエ解析の結果(周波数スペクトル)を1/3オクターブバンド化処理する(ステップS34)。1/3オクターブバンド化処理とは、周波数スペクトルの各オクターブ領域(ある周波数からその2倍の周波数までの領域)をそれぞれ3分割し、各分割帯域の筒内圧レベル(CPL)を算出する処理のことである。これにより、例えば図17に示すように、‥‥1kHz、1.25kHz、1.6kHz、2kHz、2.5kHz、3.15kHz、4kHz、5kHz、6.3kHz、8.0kHz‥‥をそれぞれ中心周波数とする各帯域の筒内圧レベルが特定されることになる。
次いで、ECU100は、上記ステップS34による1/3オクターブバンド化処理の結果(図17)に基づいて、SIノック指標値とCIノック指標値とをそれぞれ算出する(ステップS35,S36)。具体的に、ECU100は、図17において「◆」のプロットで示す筒内圧レベル、つまり、6.3kHzを中心周波数とする帯域の筒内圧レベルを、SIノック指標値として算出する(ステップS35)。また、ECU100は、図17において「◇」のプロットで示す筒内圧レベル、つまり、1kHz、1.25kHz、1.6kHz、2kHz、2.5kHz、3.15kHz、4kHzをそれぞれ中心周波数とする各帯域の筒内圧レベルの平均値を、CIノック指標値として算出する(ステップS36)。上述したとおり、SIノックが発生すると6.3kHz付近の騒音が増大し、CIノックが発生すると1〜4kHz付近の騒音が増大することから、6.3kHz帯域の筒内圧レベルはSIノックの発生時に特に高くなり、1〜4kHz(1kHz、1.25kHz、‥‥4kHz)帯域の筒内圧レベルの平均値はCIノックの発生時に特に高くなるはずである。そこで、当実施形態では、前者をSIノック指標値として算出し、後者をCIノック指標値として算出するようにしている。
図8に戻って、ECU100は、上記ステップS35で算出された最新のSIノック指標値と、過去に蓄積された複数のSIノック指標値とに基づいて、SIノック指標値の標準偏差を算出・更新するとともに、上記ステップS36で算出された最新のCIノック指標値と、過去に蓄積された複数のCIノック指標値とに基づいて、CIノック指標値の標準偏差を算出・更新する(ステップS11)。このようにして更新されるSI/CIノック指標値の標準偏差は、次に、SI/CIノック指標値の許容限界W1,W2を決定する際に余裕代a,b(図11)として利用される。なお、SI/CIノック指標値の標準偏差は、例えば、直近の所定期間に亘って蓄積されたSI/CIノック指標値から求められるものであってもよいし、同様の運転条件ごとに分類して蓄積されたSI/CI指標値から求められるものであってもよい。
次いで、ECU100は、上記検出期間中の筒内圧力の波形に基づいて燃焼重心を算出するとともに、算出した燃焼重心に基づいて燃焼重心の予測モデルを修正する(ステップS12)。すなわち、ECU100は、上記検出期間中に筒内圧センサSN2により検出された筒内圧力の波形に基づいて、燃焼に伴う発生熱量(熱発生量)をクランク角ごとに予測するとともに、このクランク角ごとの熱発生量のデータに基づいて、燃料の50%質量分が燃焼した時点である燃焼重心を算出する。そして、この算出した燃焼重心と上記ステップS7で予測された燃焼重心とのずれ量に基づいて、燃焼重心を予測するための予測モデルを修正する。この予測モデルの修正は、次回以降に同様の条件下で燃焼重心を予測するときの精度向上(予測値と実際値とのずれ量の抑制)につながる。
(6)作用効果
以上説明したように、当実施形態では、SI燃焼領域の外側の未燃ガスが異常な局所自着火により急速燃焼する(それにより6.3kHz付近の騒音が発生する)SIノックと相関のあるSIノック指標値と、CI燃焼に起因してエンジン部品が共振する(それにより1〜4kHz付近の騒音が発生する)CIノックと相関のあるCIノック指標値とが、筒内圧センサSN2による筒内圧力の検出値に基づき特定されるとともに、この特定されたSI/CIノック指標値に基づいて、各指標値がそれぞれの許容限界W1,W2を超えないように点火時期を調整する等の制御が実行される。このような構成によれば、SI燃焼とCI燃焼とをミックスしたSPCCI燃焼の実行時、つまり、SI燃焼に起因したSIノックとCI燃焼に起因したCIノックとの双方が懸念される運転時に、これらSIノックおよびCIノックが顕在化するのをともに回避することができ、各ノックに起因した耳障りな騒音等が乗員に感知されるのを効果的に抑制することができる。これにより、エンジンの燃費性能を向上させつつその静粛性を十分に確保することができる。
また、上記実施形態では、CI燃焼の開始時期(SI燃焼からCI燃焼への切り替え時期)の目標値である目標θciが、SIノック指標値およびCIノック指標値がそれぞれの許容限界W1,W2を超えないような時期に決定されるとともに、この決定された目標θciが実現されるように点火時期が制御されるので、SIノックおよびCIノックの双方に対し影響力が大きい目標θciを調整することにより、SIノックおよびCIノックをそれぞれ適正に抑制することができる。
具体的に、上記実施形態では、CI燃焼の開始時期θciとSIノック指標値との関係を規定したマップM3に基づいて、SIノック指標値をその許容限界W1以下に抑え得る限界のCI燃焼の開始時期である第1θci限界が求められるとともに、CI燃焼の開始時期θciとCIノック指標値との関係を規定したマップM4に基づいて、CIノック指標値をその許容限界W2以下に抑え得る限界のCI燃焼の開始時期である第2θci限界が求められ、これら第1θci限界および第2θci限界のいずれよりも早くない時期が目標θciとして決定される。例えば、第1・第2θci限界のうち遅い方に対応する時期が目標θciとして決定されるか、もしくは、第1・第2θci限界のいずれよりも遅い時期(当初の目標値である標準θciが第1・第2θci限界よりも遅角側であった場合における標準θci)が、上記目標θciとして決定される。このような構成によれば、SIノック指標値を許容限界W1以下に抑えるための第1θci限界と、CIノック指標値を許容限界W2以下に抑えるための第2θci限界とを、予め定められた特性マップM3,M4を用いて適正に導き出せるとともに、これら第1・第2θci限界よりも早い時期にCI燃焼が開始されないように点火時期を制御することにより、SIノック指標値およびCIノック指標値の双方を確実に許容限界W1,W2以下に抑えることができる。
また、上記実施形態では、気筒への供給燃料の50%質量分が燃焼した時点である燃焼重心を少なくとも含む有限の期間として定められた所定期間(図13等に検出期間として示した期間)に亘り筒内圧センサSN2が検出した筒内圧力に基づいて、SIノック指標値およびCIノック指標値が特定されるので、前段のSI燃焼の期間と後段のCI燃焼の期間との双方に跨る期間における検出圧力に基づきSI/CIノック指標値をそれぞれ適正に算出することができる。また、SIノックおよびCIノックと関係のない期間(燃焼以外の期間)中に検出された筒内圧力をSI/CIノック指標値算出のための分析対象から除外できるので、SI/CIノック指標値の算出に要する負担を軽減することができる。
また、上記実施形態では、上記所定期間(検出期間)中に検出された筒内圧力の波形がフーリエ解析されて、SIノックと相関する周波数成分の強度、つまり6.3kHzを中心周波数とする帯域の筒内圧レベルが、SIノック指標値として算出されるとともに、CIノックと相関する周波数成分の強度、つまり1〜4kHzを中心周波数とする複数の帯域の筒内圧レベルの平均値がCIノック指標値として算出されるので、発生原因の異なるSIノックおよびCIノックの程度を、各ノックに対応する異なる周波数成分の強度として精度よく捉えることができる。
(7)変形例
上記実施形態では、筒内圧センサSN2(検出部)により検出された筒内圧力に基づいてSIノック指標値およびCIノック指標値を特定したが、これらSI/CIノック指標値を特定するために検出が必要なパラメータは、燃焼に伴い生じる騒音に関連するパラメータであればよく、筒内圧力はその一例に過ぎない。例えば、エンジン本体1の振動(振動加速度)や、エンジン本体1から発せられる騒音そのものを上記パラメータとして検出してもよい。すなわち、本発明における検出部としては、筒内圧センサ以外にも、エンジン本体の振動を検出する振動センサや、騒音を検出する騒音センサ等を用いることができる。
上記実施形態では、筒内圧力の検出波形をフーリエ解析することで得られた1kHz、1.25kHz、1.6kHz、2kHz、2.5kHz、3.15kHz、4kHzの各帯域の筒内圧レベルの平均値をCIノック指標値として算出したが、これに代えて、各帯域の筒内圧レベルの最大値をCIノック指標値として算出してもよい。また、CIノックはエンジン部品との共振現象であり、その共振周波数はおのずといくつかの周波数に限られることから、各共振周波数に最も近い限られた帯域の筒内圧レベルのみを用いてCIノック指標値を算出してもよい。言い換えると、上記各帯域のうち共振周波数から遠い一部の帯域の筒内圧レベルについては無視してもよい。
上記実施形態では、SIノック指標値およびCIノック指標値がそれぞれの許容限界W1,W2を超えないような目標θci(CI燃焼の開始時期θciの目標値)を設定するとともに、この目標θciが実現されるように点火プラグ16による点火時期を調整したが、点火時期に代えて、もしくは点火時期に加えて、インジェクタ15からの燃料の噴射時期を調整してもよい。さらには、燃料の噴射時期と噴射量の双方を調整してもよい。
上記実施形態では、エンジン本体1により機械的に駆動される過給機33を吸気通路30に設けたが、このような機械式の過給機33(スーパーチャージャ)に代えて、電気モータで駆動される電動過給機や、排気ガスのエネルギーにより駆動されるターボ過給機を設けてもよい。
上記実施形態では、円錐状の隆起部20aを囲むような平面視ドーナツ状のキャビティ20をピストン5の冠面に設けたが、キャビティ20のうち点火プラグ16と対向する部分の凹部、つまり隆起部20aよりも吸気側に位置する部分の凹部を、これとは反対側(排気側)の凹部よりも小さくなるように形成してもよい。このようにすれば、インジェクタ15から圧縮行程の後期に燃料を噴射したときに、燃料の噴霧をより迅速に点火プラグ16の電極の近傍に移動させることができる。
上記実施形態では、燃焼室6に既燃ガスを残留させる内部EGRを行う際に、排気上死点を跨いで吸・排気弁11,12の双方が開弁するバルブオーバーラップ期間が形成されるように吸・排気VVT13a,14aを制御したが、これとは逆に、排気上死点を跨いで吸・排気弁11,12の双方が閉弁するいわゆるネガティブオーバーラップ期間を形成することで内部EGRを行うことも可能である。
上記実施形態では、運転条件ごとに定められた目標SI率が実現されるように点火時期等の制御目標値を予め定めておき、燃焼騒音が大きい場合(SI/CIノック指標値が許容限界W1,W2を超える場合)には点火時期を補正するというように、SI/CIノック指標値に基づいたフィードバック制御を行うようにしたが、このような制御に加えて、さらにSI率に基づいたフィードバック制御を行ってもよい。すなわち、筒内圧センサSN2による検出波形等から各回の燃焼(SPCCI燃焼)におけるSI率を都度算出し、算出したSI率が目標SI率と一致しない場合には、そのずれ量が小さくなる方向に点火時期や燃料の噴射量/噴射時期等を補正するようにしてもよい。この場合、目標SI率に近づけるために必要な点火時期等の補正量と、SI/CIノック指標値がそれぞれの許容限界を超えないために必要な点火時期等の補正量とは、必ずしも一致しないと考えられる。このように両者の補正量が不一致である場合には、後者の補正量(SI/CIノック指標値に基づく補正量)を採用すればよい。
また、上記のように各回の燃焼のSI率を算出する場合、このSI率を算出する具体的な方法は種々考えられる。
例えば、筒内圧センサSN2による検出波形から各クランク角時点での熱発生率を算出し、算出した熱発生率のデータ(波形)に基づいて、図7に示した面積Q1,Q2をそれぞれ算出してもよい。この場合、既に説明したとおり、SI率=Q1/(Q1+Q2)として算出することができるが、これに代えて、SI率=Q1/Q2としてもよい。
もしくは、図18に示すΔθ1、Δθ2を用いてSI率を算出してもよい。すなわち、SI燃焼のクランク角期間(変曲点Xよりも進角側のクランク角期間)をΔθ1、CI燃焼のクランク角期間(変曲点Xよりも遅角側のクランク角期間)をΔθ2としたときに、SI率=Δθ1/(Δθ1+Δθ2)、もしくはSI率=Δθ1/Δθ2としてもよい。
あるいは、SI燃焼の熱発生率のピークをΔH1、CI燃焼の熱発生率のピークをΔH2としたときに、SI率=ΔH1/(ΔH1+ΔH2)、もしくはSI率=ΔH1/ΔH2としてもよい。