以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る圧縮着火式エンジンについて説明する。
(1)エンジンの全体構成
図1〜図3は、本発明の圧縮着火式エンジンの好ましい実施形態を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流するEGR装置50を備えている。
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2にそれぞれ往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。図2に示すように、エンジン本体1は、多気筒型のものであり、図例では一列に並ぶ4つの気筒を有している。
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、この燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。なお、燃焼室6に噴射される燃料は、主成分としてガソリンを含有していればよく、例えばガソリンに加えてバイオエタノール等の副成分を含んでいてもよい。
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室の容積との比は、後述するSPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)に好適な値として、13以上30以下に設定される。より詳しくは、気筒2の幾何学的圧縮比は、オクタン価が91程度のガソリン燃料を使用するレギュラー仕様に場合に14以上17以下に設定し、オクタン価が96程度のガソリン燃料を使用するハイオク仕様の場合に15以上18以下に設定するのが好ましい。
シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度(クランク角度)およびクランク軸7の回転速度(エンジン回転速度)を検出するクランク角センサSN1が設けられている。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に開口する吸気ポート9および排気ポート10と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが設けられている。
図2および図3に示すように、本実施形態のエンジンのバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式である。すなわち、吸気ポート9は、第1吸気ポート9Aおよび第2吸気ポート9Bを有しており、排気ポート10は、第1排気ポート10Aおよび第2排気ポート10Bを有している。吸気弁11は、第1吸気ポート9Aおよび第2吸気ポート9Bをそれぞれ開閉するように(合計2つ)設けられ、排気弁12は、第1排気ポート10Aおよび第2排気ポート10Bをそれぞれ開閉するように(合計2つ)設けられている。
そして、第2吸気ポート9Bには開閉可能なスワール弁18が設けられており、このスワール弁18の開閉によって気筒2内のスワール流(気筒2の軸線の回りを旋回する旋回流)の強度を変更できるようになっている。
吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構13,14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
吸気弁11用の動弁機構13には、吸気弁11の少なくとも開時期を変更可能な吸気VVT13aが内蔵されている。同様に、排気弁12用の動弁機構14には、排気弁12の少なくとも閉時期を変更可能な排気VVT14aが内蔵されている。これら吸気VVT13aおよび排気VVT14aの制御により、当実施形態では、吸気弁11および排気弁12の双方が排気上死点を跨いで開弁するバルブオーバーラップ期間を調整することが可能であり、また、このバルブオーバーラップ期間の調整により、燃焼室6に残留する既燃ガス(内部EGRガス)の量を調整することが可能である。なお、吸気VVT13a(排気VVT14a)は、吸気弁11(排気弁12)の開時期(閉時期)を固定したまま閉時期(開時期)のみを変更するタイプの可変機構であってもよいし、吸気弁11(排気弁12)の開時期および閉時期を同時に変更する位相式の可変機構であってもよい。
図3に示すように、ピストン5の冠面には、その中央部を含む比較的広い領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹陥させたキャビティ20が形成されている。キャビティ20の中心部には、相対的に上方に隆起したほぼ円錐状の隆起部20aが形成されており、この隆起部20aを挟んだ径方向の両側がそれぞれ断面お椀状の凹部とされている。言い換えると、キャビティ20は、隆起部20aを囲むように形成された平面視ドーナツ状の凹部である。また、ピストン5の冠面のうちキャビティ20よりも径方向外側の領域は、円環状の平坦面からなるスキッシュ部21とされている。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(主にガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と燃焼室6に導入された空気との混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。
インジェクタ15は、その先端部に複数の噴孔を有した多噴孔型のインジェクタであり、当該複数の噴孔から放射状に燃料を噴射することが可能である(図3中のFは各噴孔から噴射された燃料の噴霧を表している)。インジェクタ15は、その先端部がピストン5の冠面の中心部(隆起部20a)と対向するように設けられている。
点火プラグ16は、インジェクタ15に対し吸気側に幾分ずれた位置に配置されている。点火プラグ16の先端部(電極部)は、キャビティ20と平面視で重複する位置に設定されている。
図1に示すように、シリンダヘッド4には、さらに、燃焼室6(気筒2)内の圧力である筒内圧を検出するための筒内圧センサ(検出手段)SN2が設けられている。本実施形態では、各気筒2にそれぞれ1本ずつ筒内圧センサSN2が設けられている。
筒内圧センサSN2は燃焼室6の天井面から燃焼室6内を臨むようにシリンダヘッド4に取り付けられている。また、筒内圧センサSN2は、その先端部がピストン5の冠面の中心付近と対向するように配置されている。
筒内圧センサSN2は、燃焼室6内の圧力に応じた電圧を出力する。例えば、筒内圧センサSN2は、その先端部に形成された燃焼室6と連通する通路と、この通路の終端に設けられて前記通路内の圧力に応じて変位するダイアフラムと、このダイアフラムに取付けられた圧電素子とを有する。このような筒内圧センサSN2では、燃焼室6内およびこれと連通する前記通路内の圧力に応じてダイアフラムが変位し、このダイアフラムの変位量に応じた電圧つまり燃焼室6内の圧力である筒内圧に応じた電圧を圧電素子が出力する。このように筒内圧センサSN2は電圧を出力するものであり、筒内圧センサSN2から出力された電圧は後述するECU100において圧力に変換される。
図1に示すように、吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。
吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を過給する過給機33と、吸気を冷却するインタークーラ35と、サージタンク36とが設けられている。図2に示すように、吸気通路30はサージタンク36から下流側において4本の通路に分岐しており、各分岐通路がそれぞれ各気筒2の2本の吸気ポート9と連通している。
吸気通路30の各部には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN3と、吸気の温度を検出する第1・第2吸気温センサSN4,SN5が設けられている。エアフローセンサSN3および第1吸気温センサSN4は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の流量および温度を検出する。第2吸気温センサSN5は、吸気通路30における過給機33とインタークーラ35との間の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の温度を検出する。
また、吸気通路30には、吸気通路内の圧力であって気筒2に導入される吸気の圧力である吸気圧を検出する吸気圧センサSN6が設けられている。吸気圧センサSN6は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の圧力を検出する。吸気圧センサSN6は、サージタンク36内の絶対圧を検出可能に構成されている。
過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャ)である。過給機33の具体的な形式は特に問わないが、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを過給機33として用いることができる。
過給機33とエンジン本体1との間には、締結と解放を電気的に切り替えることが可能な電磁クラッチ34が介設されている。電磁クラッチ34が締結されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる。一方、電磁クラッチ34が解放されると、前記駆動力の伝達が遮断されて、過給機33による過給が停止される。
吸気通路30には、過給機33をバイパスするためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51とを互いに接続している。バイパス通路38には開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガス(排気ガス)は、排気ポート10および排気通路40を通じて外部に排出される。
排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)31bとが内蔵されている。なお、触媒コンバータ41の下流側に、三元触媒やNOx触媒等の適宜の触媒を内蔵した別の触媒コンバータを追加してもよい。
EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを有している。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部分と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部分とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(外部EGRガス)を熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側(吸気通路30に近い側)のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気ガスの流量を調整する。
EGR通路51には、EGR弁53の上流側の圧力と下流側の圧力との差を検出するための差圧センサSN7が設けられている。
(2)制御系統
図4は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるECU100は、各種センサの検出信号が入力されるI/F回路110(図8参照)と、エンジンを統括的に制御するためのマイクロコンピューター120(図8参照)とを含む。
ECU100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、ECU100は、クランク角センサSN1、筒内圧センサSN2、エアフローセンサSN3、第1・第2吸気温センサSN4,SN5、吸気圧センサSN6、および差圧センサSN7と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報がECU100に逐次入力される。また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダル(図示省略)の開度を検出するアクセルセンサSN8が設けられており、このアクセルセンサSN8による検出信号もECU100に入力される。
ECU100のマイクロコンピューター120は、前記各センサからの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU100は、吸気VVT13a、排気VVT14a、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、およびEGR弁53等と電気的に接続されており、前記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
(3)燃焼制御
(3−1)基本制御
図5は、エンジンの回転速度/負荷に応じた制御の相違を説明するためのマップ図である。本図に示すように、エンジンの運転領域は、燃焼形態の相違によって4つの運転領域A1〜A4に大別される。それぞれ第1運転領域A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3、第4運転領域A4とすると、第1運転領域A1は、回転速度および負荷の双方が低い低速・低負荷の領域であり、第3運転領域A3は、回転速度が低くかつ負荷が高い低速・高負荷の領域であり、第4運転領域A4は、回転速度が高い高速領域であり、第2運転領域A2は、第1、第3、第4運転領域A1,A3,A4を除いた残余の領域(言い換えると低速・中負荷領域と中速領域とを合わせた領域)である。以下、各運転領域で選択される燃焼形態等について順に説明する。
(a)第1運転領域
低速・低負荷の第1運転領域A1では、過給機33による過給が停止された状態(自然吸気の状態)で、SI燃焼とCI燃焼とをミックスした部分圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。なお、SPCCI燃焼における「SPCCI」とは、「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
ここで、SI燃焼とは、点火プラグ16により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる形態のことであり、CI燃焼とは、ピストン5の圧縮により高温・高圧化された環境下で混合気を自着火により燃焼させる形態のことである。そして、これらSI燃焼とCI燃焼とをミックスしたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、当該SI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の残りの混合気を自着火によりCI燃焼させる、という燃焼形態のことである。
SPCCI燃焼では、SI燃焼時の熱発生がCI燃焼時の熱発生よりも穏やかになる。例えば、SPCCI燃焼が行われたときの熱発生率の波形は、後述する図6または図7に示すように、立ち上がりの傾きが相対的に小さくなる。また、燃焼室6における圧力変動(つまりdP/dθ:Pは筒内圧 θはクランク角度)も、SI燃焼時はCI燃焼時よりも穏やかになる。言い換えると、SPCCI燃焼時の熱発生率の波形は、SI燃焼によって形成された相対的に立ち上がりの傾きが小さい第1熱発生率部と、CI燃焼によって形成された相対的に立ち上がりの傾きが大きい第2熱発生部とが、この順に連続するように形成される。
SI燃焼によって、燃焼室6内の温度および圧力が高まると、これに伴い未燃混合気が自着火し、CI燃焼が開始される。後述する図6または図7に例示するように、この自着火のタイミング(つまりCI燃焼が開始するタイミング)で、熱発生率の波形の傾きが小から大へと変化する。すなわち、SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで現れる変曲点(図7のX)を有している。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。ただし、CI燃焼は、圧縮上死点の後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが過大になることはない。すなわち、圧縮上死点を過ぎるとピストン5の下降によりモータリング圧力が低下するので、このことが熱発生率の上昇を抑制する結果、CI燃焼時のdp/dθが過大になることが回避される。このように、SPCCI燃焼では、SI燃焼の後にCI燃焼が行われるという性質上、燃焼騒音の指標となるdp/dθが過大になり難く、単純なCI燃焼(全ての燃料をCI燃焼させた場合)に比べて燃焼騒音を抑制することができる。
CI燃焼の終了に伴いSPCCI燃焼も終了する。CI燃焼はSI燃焼に比べて燃焼速度が速いので、単純なSI燃焼(全ての燃料をSI燃焼させた場合)に比べて燃焼終了時期を早めることができる。言い換えると、SPCCI燃焼では、燃焼終了時期を膨張行程内において圧縮上死点に近づけることができる。これにより、SPCCI燃焼では、単純なSI燃焼に比べて燃費性能を向上させることができる。
前記のようなSPCCI燃焼を実現するため、第1運転領域A1では、ECU100によってエンジンの各部が次のように制御される。
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料の全量または大半を圧縮行程中に噴射する。例えば、第1運転領域A1に含まれる運転ポイントP1において、インジェクタ15は、図6のチャート(a)に示すように、圧縮行程の中期から後期にかけた2回に分けて燃料を噴射する。
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、前記運転ポイントP1において、点火プラグ16は、圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火する(図6のチャート(a))。
過給機33はOFF状態とされる。すなわち、電磁クラッチ34が解放されて過給機33とエンジン本体1との連結が解除されるとともに、バイパス弁39が全開とされることにより、過給機33による過給が停止される。
吸気VVT13aおよび排気VVT14aは、吸・排気弁11,12の双方が排気上死点を跨いで開弁されるバルブオーバーラップ期間が十分に形成されるようなタイミングに設定する。これにより、燃焼室6に既燃ガスを残留させる内部EGRが実現され、燃焼室6の温度(圧縮前の初期温度)が高められる。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、基本的に、燃焼室6内の空気(新気)と燃料との重量比である空燃比(A/F)が予め定められた空燃比となるように、その開度が制御される。具体的に、第1運転領域A1での空燃比は、図5に示される負荷ラインLよりも低負荷側で理論空燃比よりもリーン(λ>1)に、負荷ラインLよりも高負荷側で理論空燃比もしくはその近傍(λ≒1)に設定される。そして、EGR弁53の基本的な開度はこの空燃比が実現される開度に設定される。なお、λとは空気過剰率のことであり、空燃比が理論空燃比(14.7)のときにλ=1となり、理論空燃比よりもリーンなときにλ>1となる。第1運転領域A1では、前記のように空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりリーンに設定される上に、燃焼室6にEGRガス(外部EGRガスおよび内部EGRガス)が導入されるので、燃焼室6内の全ガスと燃料との重量比であるガス空燃比(G/F)は、第1運転領域A1内のいずれにおいてもリーンとなる。
スワール弁18は、燃焼室6内に強いスワール流が形成されるように、全閉もしくは全閉に近い低開度まで閉じられる。このスワール流は、吸気行程中に成長して、圧縮行程の途中まで残存する。このため、例えば前述した運転ポイントP1のように圧縮行程中に燃料を噴射した場合には、噴射された燃料をスワール流が比較的弱い燃焼室6の中央部に集めることができ、燃料の成層化が実現される。例えば、燃焼室6の中央部の空燃比が20以上30以下に、燃焼室6の外周部の空燃比が35以上に設定される。
(b)第2運転領域
第2運転領域A2(低速・中負荷領域と中速領域とを合わせた領域)では、過給機33による過給を行いつつ混合気をSPCCI燃焼させるべく、次のような制御が実行される。
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料の一部を吸気行程中に噴射し、残りの燃料を圧縮行程中に噴射する。例えば、第2運転領域A2に含まれる運転ポイントP2において、インジェクタ15は、図6のチャート(b)に示すように、比較的多量の燃料を噴射する1回目の燃料噴射を吸気行程中に実行するとともに、当該1回目の燃料噴射よりも少量の燃料を噴射する2回目の燃料噴射を圧縮行程中に実行する。また、運転ポイントP2よりも高負荷かつ高回転側の運転ポイントP3において、インジェクタ15は、図6のチャート(c)に示すように、吸気行程から圧縮行程にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射する。
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、点火プラグ16は、前記運転ポイントP2では圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火し(図6のチャート(b))、前記運転ポイントP3では圧縮上死点よりもやや遅角側のタイミングで混合気に点火する(図6のチャート(c))。
過給機33はON状態とされる。すなわち、電磁クラッチ34が締結されて過給機33とエンジン本体1とが連結されることにより、過給機33による過給が行われる。このとき、第2吸気圧センサSN6により検出されるサージタンク36内の圧力(過給圧)が、運転条件(回転速度/負荷)ごとに予め定められた目標圧力に一致するように、バイパス弁39の開度が制御される。
吸気VVT13aおよび排気VVT14aは、第2運転領域A2の低負荷側の一部においてのみ内部EGRが行われるように(言い換えると高負荷側では内部EGRが停止されるように)、吸気弁11および排気弁12のバルブタイミングを制御する。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、基本的に、燃焼室6内の空燃比(A/F)が予め定められた空燃比となるように、その開度が制御される。具体的に、第2運転領域A2での空燃比は、負荷ラインL(図5)よりも低負荷側でリーン(λ>1)に、負荷ラインLよりも高負荷側で理論空燃比もしくはその近傍(λ≒1)に設定される。例えば、排気ガスの還流量は、高負荷側ほど少なくなるように調整され、エンジンの最高負荷の近傍においてほぼゼロとされる。言い換えると、燃焼室6内のガス空燃比は、エンジンの最高負荷の近傍を除いていずれもリーンとされる。
スワール弁18は全閉とされるか、もしくは全閉/全開を除いた適宜の中間開度まで開かれる。具体的に、スワール弁18は、第2運転領域A2の低負荷側の一部で全閉とされ、残りの高負荷側の領域で中間開度とされる。なお、後者の領域におけるスワール弁18の開度は、負荷が高いほど大きくされる。
(c)第3運転領域
低速・高負荷の第3運転領域A3では、過給機33による過給を行いつつ混合気をSI燃焼させるべく、次のような制御が実行される。
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料の一部を吸気行程中に噴射し、残りの燃料を圧縮行程中に噴射する。例えば、第3運転領域A3に含まれる運転ポイントP4において、インジェクタ15は、図6のチャート(d)に示すように、比較的多量の燃料を噴射する1回目の燃料噴射を吸気行程中に実行するとともに、当該1回目の燃料噴射よりも少量の燃料を噴射する2回目の燃料噴射を圧縮行程の後期(圧縮上死点の直前)に実行する。
点火プラグ16は、例えば圧縮上死点から5〜20°CA程度経過した比較的遅めのタイミングで混合気に点火する。そして、この点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
過給機33はON状態とされる。またこのとき、サージタンク36内の圧力(過給圧)が目標圧力に一致するようにバイパス弁39の開度が制御される。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりややリッチとなるように、その開度が制御される。一方、燃焼室6内のガス空燃比(G/F)は、エンジンの最高負荷の近傍を除いていずれもリーンとされる。
スワール弁18の開度は、所定の中間開度(例えば50%)またはその近傍値に設定される。
(d)第4運転領域
前記第1〜第3運転領域A1〜A3よりも高速側の第4運転領域A4では、比較的オーソドックスなSI燃焼が実現されるように、次のような制御が行われる。
インジェクタ15は、少なくとも吸気行程と重複する所定の期間にわたって噴射を噴射する。例えば、第4運転領域A4に含まれる運転ポイントP5において、インジェクタ15は、図6のチャート(e)に示すように、吸気行程から圧縮行程にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射する。
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、前記運転ポイントP5において、点火プラグ16は、圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火する(図8のチャート(e))。そして、この点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
過給機33はON状態とされる。またこのとき、サージタンク36内の圧力(過給圧)が目標圧力に一致するようにバイパス弁39の開度が制御される。
スロットル弁32は全開とされる。
EGR弁53は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりややリッチとなるように、その開度が制御される。一方、燃焼室6内のガス空燃比(G/F)は、エンジンの最高負荷の近傍を除いていずれもリーンとされる。
スワール弁18は全開とされる。これにより、第1吸気ポート9Aだけでなく第2吸気ポート9Bが完全に開放されて、エンジンの充填効率が高められる。
(3−2)SI率
前述したように、本実施形態では、SI燃焼とCI燃焼とをミックスしたSPCCI燃焼が第1運転領域A1および第2運転領域A2において実行されるが、このSPCCI燃焼では、SI燃焼とCI燃焼との比率を運転条件に応じてコントロールすることが重要になる。
ここで、当実施形態では、前記比率として、SPCCI燃焼(SI燃焼およびCI燃焼)による全熱発生量に対するSI燃焼による熱発生量の割合であるSI率を用いる。図7は、このSI率を説明するための図であり、SPCCI燃焼が起きたときの熱発生率(J/deg)のクランク角度による変化を示している。図7の波形における変曲点Xは、燃焼形態がSI燃焼からCI燃焼に切り替わるときに現れる変曲点であり、この変曲点Xに対応するクランク角度θciを、CI燃焼の開始時期(混合気が自着火燃焼を開始した時期)と定義することができる。そして、このθciよりも進角側に位置する熱発生率の波形の面積Q1をSI燃焼による熱発生量とし、θciよりも遅角側に位置する熱発生率の波形の面積Q2をCI燃焼に熱発生率とする。これにより、(SI燃焼による熱発生量)/(SPCCI燃焼による熱発生量)で定義される前述したSI率は、前記各面積Q1,Q2を用いて、SI率=Q1/(Q1+Q2)で表すことができる。
CI燃焼の場合は混合気が自着火により同時多発的に燃焼するため、火炎伝播によるSI燃焼と比べて熱発生率が高くなり易く、大きな騒音が発生し易い。このため、SPCCI燃焼におけるSI率(=Q1/(Q1+Q2))は、総じて、負荷が高いほど大きくすることが望ましい。これは、負荷が高い場合は低い場合に比べて、燃料の噴射量が多く燃焼室6内でのトータルの熱発生量が大きいため、SI率を小さくする(つまりCI燃焼の割合を増やす)と大きな騒音が発生するからである。逆に、CI燃焼は熱効率の面では優れているため、騒音が問題にならない限り、できるだけ多くの燃料をCI燃焼させるのが好ましい。このため、SPCCI燃焼におけるSI率は、総じて、負荷が低いほど小さくする(つまりCI燃焼の割合を増やす)ことが望ましい。このような観点から、当実施形態では、負荷が高いほどSI率が大きくなるように、目標とするSI率(目標SI率)がエンジンの運転条件に応じて予め定められており、この目標SI率が実現されるように、点火タイミング、燃料の噴射量/噴射タイミング、および筒内状態量といった制御量の目標値がそれぞれ定められている。なお、ここでいう筒内状態量とは、例えば、燃焼室6内の温度やEGR率等である。EGR率には、燃焼室6内の全ガスに対する外部EGRガス(EGR通路51を通じて燃焼室6に還流される排気ガス)の割合である外部EGR率と、燃焼室6内の全ガスに対する内部EGRガス(燃焼室6に残留する既燃ガス)の割合である内部EGR率とが含まれる。
例えば、点火タイミングが進角されるほど、多くの燃料がSI燃焼により燃焼することになり、SI率が高くなる。また、燃料噴射タイミングが進角されるほど、多くの燃料がCI燃焼により燃焼することになり、SI率が低くなる。あるいは、燃焼室6の温度が高くなるほど、多くの燃料がCI燃焼により燃焼することになり、SI率が低くなる。
前記のような傾向に基づいて、当実施形態では、点火タイミング、燃料の噴射量/噴射タイミング、および筒内状態量(温度、EGR率等)の目標値が、前述した目標SI率を実現可能な組合せになるように運転条件ごとに予め定められている。SPCCI燃焼による運転時(つまり第1・第2運転領域A1,A2での運転時)、ECU100は、これら制御量の目標値に従って、インジェクタ15、点火プラグ16、EGR弁53、吸・排気VVT13a,14a等を制御する。例えば、点火タイミングの目標値に従って点火プラグ16を制御するとともに、燃料の噴射量/噴射タイミングの目標値に従ってインジェクタ15を制御する。また、燃焼室6の温度およびEGR率の各目標値に従ってEGR弁53および吸・排気VVT13a,14aを制御し、EGR通路51を通じた排気ガス(外部EGRガス)の還流量や内部EGRによる既燃ガス(内部EGRガス)の残留量を調整する。すなわち、点火プラグ、インジェクタ15、EGR弁53および吸・排気VVT13a,14aは、(3−1)で説明した基本制御に従って制御されつつ、さらに、詳細に前記目標SI率が実現されるように制御される。
(3−3)補正制御
前記のように制御されることで、基本的には、各領域でSPCCI燃焼あるいはSI燃焼が実現され、且つ、SPCCI燃焼が実施される領域において目標SI率が実現されるが、本実施形態では、これに加えて、SPCCI燃焼が実施される領域において、筒内圧センサSN2の出力値を用いてCI燃焼の開始時期(混合気が自着火燃焼を開始した時期、自着火燃焼時期、以下、CI燃焼開始時期という)θciを検出し、このCI燃焼開始時期θciが予め設定された目標値となるように点火タイミング等を補正する。CI燃焼開始時期θciの検出手順については後述する。
(4)筒内圧センサの信号処理
図8は、筒内圧センサSN2の信号処理を説明するための図である。ECU100のI/F回路110には、ローパスフィルタ(LPF)111が設けられている。また、ECU100のマイクロコンピュータ120には、A/D変換器121、記憶部122、バンドパスフィルタ(BPF)123、IIRフィルタ(IIR)124が設けられているとともに、機能的に、CI着火時期候補抽出部125、角度同期処理部126、圧力変換部127、および燃焼パラメータ算出部128が設けられている。本実施形態では、CI着火時期候補抽出部125と燃焼パラメータ算出部128とが、請求項における推定手段として機能する。
筒内圧センサSN2の信号はまずI/F回路110のローパスフィルタ111に入力される。ローパスフィルタ111は、所定の周波数以下の波形のみを出力するフィルタであり、ローパスフィルタ111を通過することで筒内圧センサSN2の信号から高周波の電気的なノイズ(いわゆるホワイトノイズ)が除去される。ローパスフィルタ111から出力された筒内圧センサSN2の信号はA/D変換器121においてデジタル信号に変換される。例えば、筒内圧センサSN2の信号は50kHzのサンプリング周波数でデジタル信号に変換される。
デジタル信号に変換された筒内圧センサSN2の信号は、記憶部122に送られ、この記憶部122にて記憶される。本実施形態では、吸気下死点付近の複数の信号と、圧縮行程後半(およそ圧縮上死点前90°CA(クランク角度))から膨張下死点付近までの複数の信号が記憶部122に記憶される。
記憶部122に記憶された筒内圧センサSN2の信号は、バンドパスフィルタ123、CI着火時期候補抽出部125を介して燃焼パラメータ算出部128へ、または、IIRフィルタ124、角度同期処理部126、圧力変換部127を介して燃焼パラメータ算出部128に送られる。
燃焼パラメータ算出部128は、入力された情報に基づいて燃焼状態を表すパラメータ(燃焼パラメータ)を算出する。本実施形態では、燃焼パラメータとして、CI燃焼開始時期θci、燃焼重心時期θmfb50を算出する。
(4−1)CI着火時期算出
本願発明者らは、CI燃焼開始時期θciつまりSPCCI燃焼においてCI燃焼が開始する時期の検出方法について鋭意研究した結果、以下の知見を得た。
図9は、筒内圧を周波数解析した結果を示した図であり、所定のエンジン回転数およびエンジン負荷において、SI燃焼のみが行われたときの結果(破線)と、CI燃焼のみが行われたときの結果(実線)とを比較して示している。図9に示すように、本発明者らは、特定の周波数帯域(以下、特定周波数帯域という)Sであって第1周波数f1以上且つ第2周波数f2以下の周波数帯域Sでは、SI燃焼時とCI燃焼時とで筒内圧のスペクトルが明確に異なることを突き止めた。
そして、筒内圧の波形に含まれる特定周波数帯域Sの成分の値、つまり、特定周波数帯域Sにおける筒内圧の値、が最小となる時期と、CI燃焼開始時期θciとがほぼ一致することを突き止めた。
図10は、これを例示した図であり、所定のエンジン回転数およびエンジン負荷において、SI燃焼の後にCI燃焼が適切に生じたときの各パラメータの波形(時間変化)を示している。図10には、上から順に、筒内圧、筒内圧の波形に含まれる特定周波数帯域Sの波形(筒内圧の波形から特定周波数帯域Sの波形だけを抜き出したもの)、熱発生量の波形、熱発生率の波形を示している。
SI燃焼の後にCI燃焼が生じた場合は、前記のように熱発生率の波形に変曲点Xが生じる。詳細には、SI燃焼の後にCI燃焼が生じた場合は、燃焼の途中で(熱発生率が0付近から立ち上がった後に)、CI燃焼の開始に伴って熱発生率が急上昇しており、この熱発生率が急上昇するタイミング(変曲点Xのタイミング)がCI燃焼開始時期θciとなる。そして、筒内圧の特定周波数帯域Sの成分の値(以下、特定周波数出力値という)は、このCI燃焼開始時期θci近傍で最小となっている。
また、本願発明者らは、SI燃焼後においてCI燃焼が適切に生じたときとCI燃焼が適切に生じなかったときとで、特定周波数出力値の最小値が異なることを突き止めた。詳細には、SI燃焼後にCI燃焼が適切に生じたときの方が、SI燃焼後にCI燃焼が適切に生じなかったときよりも、特定周波数出力値の最小値が小さくなることを突き止めた。
図11は、図10と同じエンジン回転数およびエンジン負荷において、SI燃焼の後にCI燃焼が生じなかった場合、つまり、燃焼室6内においてSI燃焼のみが行われた場合の図である。これら図10と図11との比較から明らかなように、SI燃焼後にCI燃焼が適切に生じたときの方が、SI燃焼後にCI燃焼が適切に生じなかったときよりも、特定周波数出力値の最小値は小さくなる。つまり、SI燃焼後にCI燃焼が適切に生じたときは特定周波数出力値の最小値Cmin_ciは所定の閾値Cjよりも小さくなり特定周波数出力値に所定の閾値Cjよりも小さい値が含まれることになり、SI燃焼後にCI燃焼が適切に生じなかったときは特定周波数出力値の最小値Cmin_ciは所定の閾値Cjよりも大きくなり特定周波数出力値に所定の閾値Cjよりも小さい値が含まれないことになる。
また、本願発明者らは、SI燃焼後に適切にCI燃焼が生じた時と生じなかったときとで、特定周波数出力値が最小となる時期(最小時期)θminと燃焼重心時期θmfb50との差が大きく異なることを突き止めた。燃焼重心時期θmfb50は、熱発生量(1燃焼サイクル中に燃焼によって燃焼室6内で発生した熱量)が、1燃焼サイクル中に燃焼室6内で発生する総熱発生量の50%の量に達する時期である。
具体的には、図10に示すように、SI燃焼後に適切にCI燃焼が生じたときは、特定周波数出力値が最小となる時期θminと燃焼重心時期θmfb50とが近い時期にあってこれらの差αは0付近となる。一方、図11に示すように、SI燃焼後に適切にCI燃焼が生じなかったときは、特定周波数出力値が最小となる時期θminと燃焼重心時期θmfb50とが大きく離れておりこれらの差αの絶対値は大きい値となる。
図12は、複数の運転条件においてSI燃焼後に適切にCI燃焼が生じたときと生じなかったときとで前記差αの値を調べた結果である。図12の横軸は、燃焼重心時期θmfb50、縦軸は、前記差α(α=θmfb50−θmin)である。また、図12において四角で示した点がCI燃焼が生じたときのデータであり、丸で示した点がCI燃焼が生じなかったときのデータである。図12に示すように、運転条件によらず、適切にCI燃焼が生じたときには、前記の差αは概ね所定の第1判定偏差D1以上第2判定偏差D2未満の範囲(判定範囲D)内に存在する一方、適切にCI燃焼が所持なかったときには前記差αはこの範囲(判定範囲)から外れる。
さらに、本願発明者らは、特定周波数Sは、エンジン回転数によって変化することを突き止めた。具体的には、エンジン回転数が高いほど、特定周波数Sは高くなる。
以上の知見に基づき、本実施形態では、次のようにしてCI燃焼開始時期θciを推定するとともに、CI燃焼が適切に生じたか否かを判定する。
図13は、ECU100で行われるこの推定手順および判定手順を示したフローチャートである。これらの推定および判定は、機能的に、燃焼パラメータ算出部128が統括している。
まず、ステップS1にて、ECU100は、記憶部122に記憶されている筒内圧センサSN2の信号(デジタル信号に変換された後の筒内圧センサSN2の電圧信号)であって混合気が燃焼した期間を含む予め設定された基準期間の信号を抽出する。本実施形態では、基準期間は、圧縮行程後半(およそ圧縮上死点前90°CA)から膨張行程前半(およそ圧縮上死点後90°CA)に設定されている。
次に、ステップS2にて、ECU100は、ステップS1で抽出した筒内圧センサSN2の信号をバンドパスフィルタ123に通す。
バンドパスフィルタ123は、所定の周波数帯域の波形のみを抽出するフィルタであり、この所定の周波数帯域が前記特定周波数帯域Sとされる。これにより、ステップS2では、筒内圧センサSN2の出力波形から特定周波数帯域Sの波形つまり特定周波数出力値が抽出される。バンドパスフィルタ123から出力された特定周波数出力値はCI着火時期候補抽出部125に送られる。
本実施形態では、このとき、特定周波数帯域Sがエンジン回転数に応じて変更される。具体的には、図14に示すように、特定周波数帯域Sはエンジン回転数が高いほど高周波数側となるように設定されている。図14に示す例では、エンジン回転数が1000rpmにおいて第1周波数f1は0.5kHzに、第2周波数f2は1.5kHzに設定され、エンジン回転数が2000rpmにおいて第1周波数f1は1kHzに、第2周波数f2は2kHzに設定され、エンジン回転数が3000rpmにおいて第1周波数f1は1.25kHzに、第2周波数f2は2.25kHzに設定され、4000rpmにおいて第1周波数f1は1.5kHzに、第2周波数f2は2.5kHzに設定され、エンジン回転数が5000rpmにおいて第1周波数f1は1.75kHzに、第2周波数f2は2.75kHzに設定されており、全体で、特定周波数帯域Sは0.5KHz以上3kHz以下の領域に含まれるように設定されている。ECU100は、現在のエンジン回転数(筒内圧センサSN2の値がステップS1で抽出した値となったときのエンジン回転数)に対応した特定周波数帯域Sを図14のマップから抽出して、バンドパスフィルタ123に適用する。
次に、ステップS3において、ECU100(CI着火時期候補抽出部125)は、抽出した特定周波数出力値の最小値(以下、最小特定周波数出力値という)Cmin_ciを求める。具体的には、筒内圧センサSN2の出力値をバンドパスフィルタ123を通過させると、図10の上から2つ目に示すような波形が得られる。この波形は、筒内圧の波形に含まれる特定周波数帯域内の各周波数の波形が合成された波形である。そして、この波形のうち値(圧力および電圧)が最も小さくなる値が前記最小値Cmin_ciである。
次に、ステップS4において、ECU100(CI着火時期候補抽出部125)は、特定周波数出力値が最小特定周波数出力値Cmin_ciとなるときのクランク角度を、CI着火時期候補θminとして求める。
具体的には、記憶部122には、50kHzでサンプリングされた筒内圧センサSN2の信号と関連づけてクランク角センサSN1の信号が記憶されており、ECU100(CI着火時期候補抽出部125)は、これらの信号に基づいて特定周波数出力値が最小となるときのクランク角度を求める。
ここで、本実施形態では、クランク角度をより精度よく求めるべく、クランク角センサSN1で検出されたクランク角度を、モータリング時(燃焼室6内で燃焼が生じないときの)の筒内圧センサSN2の信号を用いて補正しており、ステップS4では、この補正がなされた後のクランク角度が算出される。このクランク角度の補正については後述する。
次に、ステップS5において、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、ステップS3で算出された最小特定周波数出力値Cmin_ciが予め設定されたCI燃焼判定値Cj未満であるか否かを判定する。CI燃焼判定値は、前記の所定の閾値Cjであり予め設定されてECU100に記憶されている。
ステップS5の判定がYESであって最小特定周波数出力値Cmin_ciがCI燃焼判定値Cj未満のときは、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、ステップS6に進み、CI燃焼が生じたと判定する(筒内圧センサSN2の値がステップS1で抽出した値となったときの燃焼においてCI燃焼が生じたと判定する)。また、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、ステップS3で算出したCI着火時期候補θminをCI燃焼開始時期θciに決定する。
一方、ステップS5の判定がNOのときは、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、ステップS7に進む。
ステップS7では、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、別途算出したLW積分値が所定値より大きいか否かを判定する。ここで、LW積分値とは、従来より知られているLivengood−Wu積分を行った値であり、このLW積分が1付近に設定されたLW積分判定値より大きければCI燃焼が生じていると考えられる。このLW積分およびLW積分を用いてCI燃焼が生じているか否かを判定する手法は従来より知られており、ここでは、この手法の詳細説明を省略する。なお、本実施形態では、LW積分判定値はおよそ0.9に設定されている。
ステップS7の判定がYESであれば、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、ステップS6進む。
一方、ステップS6の判定がNOの場合は、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、テップS8に進む。
ステップS8では、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、CI着火時期候補θminつまり特定周波数出力値が最小となる時期θminと燃焼重心時期θmfb50との差αが、前記の第1判定偏差D1以上第2判定偏差D2未満であるか否かを判定する。これら第1判定偏差D1、第2判定偏差D2は予め設定されてECU100に記憶されている。
ステップS8の判定がYESであれば、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、ステップS6に進む。そして、前記のように、CI燃焼が生じたと判定するとともにステップS4で算出したCI着火時期候補θminをCI燃焼の開始時期θciに決定する。
一方、ステップS8の判定がNOの場合はステップS9に進む。そして、ステップS8において、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、CI燃焼が生じなかったと判定する(筒内圧センサSN2の値がステップS1で抽出した値となったときの燃焼において、CI燃焼が生じなかったと判定する)。また、CI着火時期候補θminをCI燃焼の開始時期θciとして決定せずに、処理を終了する。
このように、本実施形態では、最小特定周波数出力値Cmin_ciがCI燃焼判定値Cj未満であればCI燃焼が適切に生じたと判定するとともに、特定周波数出力値が最小となる時期θminをCI燃焼開始時期θciに決定する。
また、LW積分値がLW積分判定値より大きければ、あるいは、特定周波数出力値が最小となる時期θminと燃焼重心時期θmfb50との差αが第1判定偏差D1以上第2判定偏差D2未満であれば、CI燃焼が適切に生じたと判定するとともに、特定周波数出力値が最小となる時期θminをCI燃焼の開始時期θciに決定する。
(4−2)クランク角度の補正
次に、クランク角センサSN1で検出されたクランク角度の補正手順について説明する。
図15は、横軸をクランク角度として圧縮上死点付近における筒内圧の波形を示した図であって、モータリング時つまり燃焼室6で燃焼が生じなかったときのグラフである。図15に示すように、モータリング時において筒内圧が最大となる時期θPmaxは圧縮上死点TDCよりも進角側の所定の時期となる。これは、圧縮上死点に近づくと、高温となったガスから燃焼室6の壁面を介して外部にエネルギーが放出されるためである。そして、この筒内圧が最大となる時期θPmaxは、エンジン回転数毎にそれぞれ一定の時期に決まっている。具体的には、エンジン回転数が高くなるほど、この時期θPmaxは進角側の時期となる。そこで、本実施形態では、モータリング時に筒内圧が最大となる実際のクランク角度(以下、実筒内圧最大角度)を各エンジン回転数について予め実験等で求めてECU100に記憶させておき、この実筒内圧最大角度を用いてクランク角センサSN1で検出されたクランク角度を算出する。
具体的には、減速時等のモータリングが行われたときに、筒内圧センサSN2の出力値が最大となるクランク角度であってクランク角センサSN1から算出したクランク角度(以下、検出筒内圧最大角度という)を抽出する。また、このときに、エンジン回転数に応じた実筒内圧最大角度を記憶部分から抽出しておく。そして、検出筒内圧最大角度と実筒内圧最大角度との差を補正量として求め、クランク角センサSN1から算出されるクランク角度をこの補正量を用いて補正する。例えば、検出筒内圧最大角度が実筒内圧最大角度よりも所定角度進角側にずれているときは、これらの差(>0)である補正量分、クランク角センサSN1から算出されるクランク角度から遅角した角度を、最終的なクランク角度とする。
(4−3)燃焼重心時期の算出
次に、燃焼重心時期θmfb50の算出手順について、図16のフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS31にて、ECU100は、ステップS1と同様に、記憶部122に記憶されている筒内圧センサSN2の信号(デジタル信号に変換された後の筒内圧センサSN2の電圧信号)であって圧縮行程後半から吸気行程前半の信号を抽出する。
次に、ステップS32にて、ECU100は、ステップS31で抽出した筒内圧センサSN2の信号をIIRフィルタ124に通す。IIRフィルタ124は、所定の周波数の信号を除去可能なフィルタである。IIRフィルタ124は、ノッキングが生じたときの筒内圧の波形の周波数であって予め設定された比較的高い周波数の信号を除去できるように構成されており、IIRフィルタ124を通過することで、筒内圧センサSN2の信号からノッキングの信号が除去される。IIRフィルタ124から出力された筒内圧センサSN2の信号は、角度同期処理部126に送られる。
次に、ステップS33にて、ECU100(角度同期処理部126)は、IIRフィルタ124から出力された筒内圧センサSN2の信号であって50kHzでサンプリングされた信号を、この信号と関連づけて記憶されているクランク角センサSN1の信号を用いて、所定クランク角度毎の信号に変換する。このとき、ECU100(角度同期処理部126)は、(4−2)で説明した補正を行った後のクランク角度と筒内圧センサSN2の信号とを対応付ける。本実施形態では、ステップS33にて、筒内圧センサSN2の信号が3°CA毎の信号に変換される。この筒内圧センサSN2の信号は、圧力変換部127に送られる。
次に、ステップS34にて、ECU100(圧力変換部127)は、角度同期処理部126から入力された筒内圧センサSN2の信号を、筒内圧の絶対圧に変換する。つまり、角度同期処理部126から出力された信号はまだ電圧値であり、圧力変換部127においてこの信号がはじめて筒内圧の絶対圧に変換される。
本実施形態では、筒内圧の絶対圧Pcpsが、筒内圧センサSN2の電圧をVcpsとしてPcps=K×Vcps+OFFSETで算出できるようになっており、この式を用いて筒内圧センサSN2の出力値(電圧値)が絶対圧に変換される。
係数Kは、筒内圧センサSN2毎に予め決められている値であり、ECU100に記憶されている。一方、係数OFFSET(以下、適宜、この係数をオフセット量という)は予め設定されておらず、本実施形態では、吸気圧センサSN5の値を用いて算出する。オフセット量OFFSETの算出手順については後述する。
筒内圧の絶対圧に変換された筒内圧センサSN2の出力値は、燃焼パラメータ算出部128に入力される。
次に、ステップS35にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、クランク角度θにおける熱発生率△Q(θ)を、筒内圧センサSN2の出力値(絶対圧)Pを用いて下記の式(1)より算出する。本実施形態では、前記のように、圧力変換部127を介して角度同期処理部126から燃焼パラメータ算出部128には3°CA刻みの筒内圧センサSN2の出力値が入力されるようになっており、ここでは、3°CA刻みで3°CAあたりの熱発生率△Q(θ)が算出される。また、熱発生率△Q(θ)の演算は、圧縮行程後半に設定された熱発生量演算開始クランク角度θ_sから膨張下死点付近までの範囲について実施される。
式(1)におけるκは燃焼室6内のガスの比熱比であり予め設定された値が用いられる。V(θ)は、クランク角度θにおける燃焼室6の容積である。ECU100には各クランク角度に対する燃焼室6の容積がマップで記憶されており、このマップからクランク角度θに対応する燃焼室6の容積V(θ)が抽出されて式(1)に用いられる。△V(θ)は、クランク角度θにおける燃焼室6の容積Vの変化速度であり、ここでは、クランク角度θにおける燃焼室6の容積Vから、クランク角度θよりも3°CA前の燃焼室6の容積Vを引いた値が用いられる。つまり、△V(θ)には、△V(θ)=V(θ)−V(θ−3°CA)により算出された値が用いられる。
また、P(θ)は、クランク角度θにおける筒内圧(筒内圧センサSN2の出力値(絶対圧))である。△P(θ)は、クランク角度θにおける筒内圧Pの変化速度であり、ここでは、クランク角度θにおける筒内圧Pから、クランク角度θよりも3°CA前の筒内圧Pを引いた値が用いられる。つまり、△P(θ)には、△P(θ)=P(θ)−P(θ−3°CA)により算出された値が用いられる。
次に、ステップS36において、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、熱発生量演算開始クランク角度θ_sにおける熱発生量Q(θ_s)(以下、初期熱発生量Q(θ_s)という)を算出する。本実施形態では、初期熱発生量Q(θ_s)を、熱発生量演算開始クランク角度θ_sにおける筒内圧センサSN2の出力値(絶対圧)と、モータリング時圧力との差を用いて算出する。
モータリング時圧力は、現在のエンジン回転数(熱発生量を算出しようとしている筒内圧の波形が得られたエンジン回転数)と同じエンジン回転数でモータリングを行ったときの、熱発生量演算開始クランク角度θ_sにおける圧力である。本実施形態では、減速時に、熱発生量演算開始クランク角度θ_sにおける筒内圧センサSN2の出力値(絶対圧)を検出するとともに、ECU100に、この出力値をエンジン回転数と関連付けて記憶させるようにしており、この記憶された値から現在のエンジン回転数に対応する筒内圧センサSN2の出力値(絶対圧)をモータリング時圧力として抽出する。
次に、ステップS37にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、ステップS36で算出した初期熱発生量Q(θ_s)に、ステップS35で算出した熱発生率を積算していき、各クランク角度θにおける熱発生量Q(θ)を算出する。具体的には、次の式(2)によって熱発生量Q(θ)を算出する。
次に、ステップS38にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、算出された各クランク角度θの熱発生量Q(θ)の最大値Qmax、および、熱発生量Q(θ)がこの最大値Qmaxとなるときのクランク角度θmf100(以下、最大クランク角度という)を求める。
次に、ステップS39にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、最大クランク角度θmf100よりも進角側のクランク角度において、熱発生量Q(θ)が最小となるときのクランク角度θmf0(以下、最小クランク角度という)を求めるとともに、この最小クランク角度θmf0における熱発生量Q(θ)を熱発生量Q(θ)の最小値Qminとして求める。
次に、ステップS40にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、熱発生量Q(θ)の最大値Qmaxと熱発生量Q(θ)の最小値Qminの平均値(最大値Qmaxと最小値Qminとを足して2で割った値)Q50を算出する。
次に、ステップS41にて、ECU100(燃焼パラメータ算出部128)は、最大クランク角度θmf100よりも進角側のクランク角度において、熱発生量Q(θ)がステップS40で算出した平均値Q50となるときのクランク角度θを算出し、このクランク角度θを燃焼重心時期として決定する。
このように、本実施形態では、最大クランク角度θmaxつまり熱発生量Q(θ)の最大値Qmaxとなるクランク角度θmaxをまず求める。そして、最大クランク角度θmaxよりも進角側で且つ熱発生量が前記平均値Q50となるクランク角度を燃焼重心時期θmfb50として決定する。
なお、燃焼重心時期の算出手順はこれに限らない。例えば、筒内圧センサSN2で検出された圧力から予め記憶したモータリング圧力を差し引いた値を用いて熱発生量を算出し、これに基づいて燃焼重心時期を算出してもよい。
(4−4)オフセット量の算出
次に、筒内圧センサSN2から出力された電圧を絶対圧に変換するのに必要なオフセット量OFFSETの算出手順について図17を用いて説明する。
まず、ステップS21で、圧力変換部127は吸気弁11が閉弁した時期である吸気閉弁時期IVCを読み込む。詳細には、変換処理の対象となる筒内圧センサSN2が設けられた気筒2の吸気閉弁時期IVC、且つ、変換処理の対象となる燃焼サイクルにおける吸気閉弁時期IVCを読み込む。
次に、ステップS22にて、圧力変換部127は、吸気閉弁時期IVCよりも所定のクランク角度前の時期から吸気閉弁時期IVCまでの期間(所定の期間、以下、適宜、平均処理期間という)に吸気圧センサSN5で検出された複数の吸気圧を読み込むとともに、この平均処理期間に筒内圧センサSN2から出力された複数の電圧値を記憶部122から読み込む。なお、本実施形態では、記憶部122には、少なくとも平均処理期間を含む所定の期間にわたって吸気圧センサSN5からの出力値が記憶されている。また、記憶部122には、吸気下死点付近の筒内圧センサSN2の複数の信号であって、平均処理期間を含む期間中に出力された信号が記憶されている。平均処理期間は例えば12°CA(クランク角度)に設定されている。
次に、ステップS23にて、圧力変換部127は、ステップS22で読み込んだ複数の吸気圧の平均値Pim_aveつまり平均処理期間における吸気圧の平均値Pim_aveを算出する。
また、ステップS24にて、圧力変換部127は、ステップS22で読み込んだ複数の筒内圧センサSN2の出力値(電圧値)の平均値Vcps_aveつまり平均処理期間における筒内圧センサSN2の出力値(電圧値)の平均値Vcps_aveを算出する。
次に、ステップS25にて、圧力変換部127は、ステップS24にて算出した筒内圧センサSN2の出力値(電圧値)の平均値Vcps_aveに、前記係数Kをかけた値をオフセット補正前筒内圧として算出する。つまり、ステップS25では、オフセット補正前筒内圧をPcps_ofとして、これを、Pcps_of=K×Vcps_aveにより算出する。
次に、ステップS26にて、圧力変換部127は、ステップS23で算出した吸気圧の平均値Pim_aveからステップS25で算出したオフセット補正前筒内圧Pcps_ofを引いた値をオフセット量として算出する。つまり、オフセット量をOFFSETとして、これを、OFFSET=Pim_ave−Pcps0により算出する。
(5)作用等
以上のように、本実施形態では、第1周波数f1以上且つ第2周波数f2以下の周波数帯域SではSI燃焼時とCI燃焼時とで筒内圧のスペクトルが明確に異なること、および、筒内圧の波形に含まれる特定周波数帯域Sの成分の値(特定周波数帯域Sにおける筒内圧の値)が最小となる時期とCI燃焼開始時期θciとがほぼ一致すること、を利用して、混合気が燃焼した期間を含む基準期間に筒内圧センサSN2により検出された値のうち第1周波数f1以上且つ第2周波数f2以下の周波数帯域の成分(特定周波数出力値)に基づいてCI燃焼開始時期θciを推定しており、容易に且つ精度よくCI燃焼開始時期θciを推定することができる。
特に、本実施形態では、第1周波数f1以上且つ第2周波数f2以下の周波数帯域の成分のみを抽出するバンドパスフィルタ123を設け、このバンドパスフィルタ123で抽出された筒内圧センサSN2の信号のみをCI着火時期候補抽出部125に送信している。
そのため、筒内圧センサSN2の信号の検出値から第1周波数f1以上且つ第2周波数f2以下の特定周波数帯域Sの成分を抽出する処理およびこの抽出した成分からCI燃焼開始時期θci(CI着火時期候補)を推定する処理を、CI着火時期候補抽出部125が行う必要がない。そのためCI着火時期候補抽出部125の演算負荷を小さく抑えることができる。
また、本実施形態では、CI燃焼が適切に生じたときの方が、CI燃焼が適切に生じなかったときよりも、特定周波数出力値の最小値が小さくなるという知見、つまり、混合気がCI燃焼すると、気筒2内の圧力波のうち特定周波数帯域Sの成分の最小値が所定の閾値Cj以下となりやすいという知見に基づき、特定周波数出力値の最小値Cmin_ciが閾値Cj以下の場合、つまり、前記基準期間に筒内圧センサSN2により検出された値のうち特定周波数帯域Sの成分に閾値Cj以下の値が含まれていると、混合気が適切にCI燃焼したと判定しており、特定周波数出力値の最小値Cmin_ciと閾値Cjとを比較するという値簡単な構成で、精度よく、混合気が自着火燃焼(CI燃焼)したか否かを判定することができる。
さらに、本実施形態では、適切にCI燃焼が生じたときは、特定周波数出力値が最小となる時期θminと燃焼重心時期θmfb50との差αが0付近になる一方、適切にCI燃焼が生じなかったときは、特定周波数出力値が最小となる時期θminと燃焼重心時期θmfb50との差が大きくなるという知見に基づき、前記差αが第1判定偏差D1以上第2判定偏差D2の範囲内であればCI燃焼が適切に生じたと判定し、前記差が前記範囲を外れているとCI燃焼が生じなかったと判定しており、CI燃焼が適切に生じたか否かの判定を簡単な構成で且つ精度よく行うことができる。
(6)変形例
前記実施形態において、筒内圧センサSN2の代わりに気筒2内の振動を検出する振動センサ(検出手段)を用いてもよい。例えば、ノックセンサを持ち手もよい。ただし、筒内圧センサSN2を用いれば、気筒内の圧力変動をより精度よく検出することができるため、より精度よくCI燃焼開始時期θciを求めることができる。
また、前記実施形態において、ステップS7の判定は省略してもよい。
また、前記第1周波数f1、第2周波数f2、基準期間等の具体的な値は前記に限らない。