以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
本発明に係る薄膜太陽電池モジュールは、表面保護層、第一封止層、薄膜太陽電池素子、第二封止層、および裏面透明保護層を順次有する薄膜太陽電池モジュールにおいて、該封止層の25℃(スキージする温度)における縦弾性率が1×109Pa以上、および第一封止層と第二封止層との厚さの和が10μm以上110μm以下である。
1. 薄膜太陽電池モジュール
1.1 構成
本発明の一実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールは、図1の模式断面図に示すように表面保護層、第1封止層、薄膜太陽電池素子、第2封止層、裏面保護層を順次有する。また、薄膜太陽電池素子から電気を取り出す場合は、通常、薄膜太陽電池素子の上部電極または下部電極に電気取り出し用の集電線を設置する。
第一封止層および第二封止層(以下、第一封止層および第二封止層を合わせて封止層という場合がある)は薄膜太陽電池素子を封止するために設けられる層であり、薄膜太陽電池素子の大部分を覆うように設けられ、通常、第一封止層と第二封止層とで薄膜太陽電池素子を完全に覆うように設けられることで封止される。表面保護層および裏面保護層(以下、表面保護層および裏面保護層を合わせて保護層という場合がある)と封止層の位置関係、相対的大きさに特段の制限はないが、通常は封止層と保護層は同一の大きさ、および同一の形状で端部を揃えて積層されるか、あるいは保護層が封止層の全面を覆いかつ、保護層が封止層よりも大きく積層される。また、水分又は酸素による劣化を防止し、長期にわたって太陽電池素子の性能を維持するためには、バリア層の端面と太陽電池素子基板の端面との距離が5mm以上になるようにバリア層の端面を太陽電池素子基板の端面の外側に設置するのが好ましい。
また、本発明の薄膜太陽電池モジュールは、その最外層に被着体に貼付するための粘着層を含み、該粘着層によって窓等に設置されるのが好ましい。
例えば、図2に示した通り、粘着層を裏面保護層に設け、表面保護層、第1封止層、薄膜太陽電池素子、第2封止層、裏面保護層、粘着層を順次有する構成とすることができる。
粘着層は従来公知の粘着剤を使用することができるが、耐候性や透明性の観点からアクリル系粘着剤が好ましい。粘着層は、薄膜太陽電池モジュールに用いられる薄膜太陽電池素子の基板側(受光面)又は光電変換層側(非受光面)の最外層に、公知の方法で設けることができるが、薄膜太陽電池素子の発電効率の観点から薄膜太陽電池素子の基板側(受光面)の最外層に設ける方が好ましい。
薄膜太陽電池モジュールは、透光性を有するのが好ましい。薄膜太陽電池モジュールの透光性は、JIS R 3106に準じた方法で測定した可視光線透過率が通常3%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上、更に好ましくは10%以上、特に好ましくは20%以上であって、通常80%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。上記下限以上であると採光性を向上することができる点で好ましい。上記上限以下であることにより発電効率を向上することができる点で好ましい。
透光性を有する薄膜太陽電池モジュールは、例えば、薄膜太陽電池素子の電極として透明電極を使用することで透光性を有する薄膜太陽電池素子とし、薄膜太陽電池素子以外の太陽電池モジュールの構成部材が透光性を有すうることで実現できる。透光性の観点から、薄膜太陽電池素子として有機薄膜太陽電池素子を用いるのが好ましい。
以下、本発明の薄膜太陽電池モジュールの構成部材を説明する。
1.2 構成部材
1.2.1 保護層(表面保護層および裏面保護層)
保護層は温度変化、湿度変化、光、風雨など、薄膜太陽電池モジュールの設置環境から薄膜太陽電池モジュールを保護する層である。保護層で薄膜太陽電池モジュール表面を覆うことにより、薄膜太陽電池モジュールの構成部材、特に薄膜太陽電池素子が保護され、劣化することなく、高い発電能力を得ることができるという利点がある。
保護層は、薄膜太陽電池モジュールの最表層に位置するため、耐候性、耐熱性、透明性、撥水性、耐汚染性、機械強度などの、薄膜太陽電池モジュールの表面被覆材として好適な性能を備え、しかもそれを屋外暴露において長期間維持する性質を有することが好ましい。
また、保護層は、薄膜太陽電池素子の受光面側に用いられる場合、光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、なかでも好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。これは、太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
さらに、保護層は、施工対象物との一体感や外観等の意匠性の観点から曇り度(ヘーズ)が低いものが好ましい。例えば、JIS K 7136で規定されるD65光源を使用する場合のヘーズ値は通常10以下、好ましくは5以下、より好ましくは2以下、さらに好ましくは1以下である。
一方、薄膜太陽電池素子の受光面と反対側の保護層は、必ずしも可視光を透過させる必要がなく不透明でもよいが、窓ガラス等の透明な施工対象物に貼り付ける場合は、薄膜太陽電池素子の受光面側と同様の可視光透過率および曇り度を有することが好ましい。
さらに、薄膜太陽電池素子は光を受けて熱せられることが多いため、保護層も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、保護層の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池素子の使用時に保護層が融解・劣化する可能性を低減できる。
保護層を構成する材料は、薄膜太陽電池モジュールを保護することができるものであれば任意である。その材料の例を挙げると、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリル系樹脂、各種ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド−イミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
中でも好ましくはフッ素系樹脂が挙げられ、その具体例を挙げるとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4−フッ化エチレン−パークロロアルコキシ共重合体(PFA)、4−フッ化エチレン−6−フッ化プロピレン共重合体(FEP)、2−エチレン−4−フッ化エチレン共重合体(ETFE)、ポリ3−フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリフッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。
なお、保護層は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていても良い。また、保護層は単層フィルムにより形成されていても良いが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
保護層の厚みは特に規定されないが、通常10μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上、特に好ましくは50μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。上記下限以上であることで薄膜太陽電池モジュールの機械的強度が高まる傾向にあり、上記上限以下であることで柔軟性が高まる傾向にある。このため、両方の利点を兼ね備える範囲として、上記範囲とするのが望ましい。
また保護層には、他のフィルムとの接着性の改良のために、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を行なってもよい。
保護層は、薄膜太陽電池モジュールにおいてできるだけ外側に設けることが好ましい。デバイス構成部材のうちより多くのものを保護できるようにするためである。
また、保護層に紫外線遮断、熱線遮断、防汚性、親水性、疎水性、防曇性、耐擦性、導電性、反射防止、防眩性、光拡散、光散乱、波長変換、ガスバリア性等の機能を付与してもよい。特に、有機薄膜太陽電池の場合は、太陽光の紫外線により劣化する場合があるため、紫外線遮断機能を持つことが好ましい。
このような機能を付与する方法としては、機能を有する層を塗布成膜等により保護層上に積層してもよいし、機能を発現する材料を溶解・分散させるなどして保護層に含有させてもよい。
また保護層には、薄膜太陽電池モジュールのハンドリングの際の傷付き防止、施工対象物へ水貼りする際のスキージによる傷付き防止、さらには保護層の平滑性を向上させるために、ハードコート層を設けてもよい。
ハードコート層としては、従来公知のものを使用することができ、紫外線硬化樹脂;電子線硬化樹脂;アルコキシシラン加水分解縮合系樹脂;メラミン系樹脂;(メタ)アクリレート系アルコール変性多官能化合物、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、1,6ヘキサンジオール(メタ)アクリレート等のアクリル系樹脂等からなる層が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ハードコート層としては、硬度が鉛筆硬度で2H以上であるのが好ましく、3H以上であるのがさらに好ましい。またその膜厚は1〜10μmであることが好ましい。1μm未満であると耐擦傷性の効果が十分でない可能性があり、10μm以上であるとハードコート層の硬化収縮により保護層がカールする場合がある。
1.2.2 封止層(第1封止層と第2封止層)
本発明においては、薄膜太陽電池モジュールの製造過程において、薄膜太陽電池素子を封止材を介して保護層で封止することが好ましい。薄膜太陽電池素子の封止は、薄膜太陽電池素子の補強や、耐衝撃性を上げるために行う。
封止に使用する封止層は、薄膜太陽電池モジュールの強度保持の観点から曲げ強度が高いことが好ましい。具体的強度については、封止材以外の層の強度とも関係することになり一概には規定しにくいが、薄膜太陽電池モジュール全体が良好な曲げ加工性を有し、折り曲げ部分の剥離を生じないような曲げ強度を有するのが望ましい。
また封止層は、薄膜太陽電池モジュールを施工対象物へ水貼りする際のスキージ施工後のスキージ跡を防止する観点から縦弾性率が高い方が好ましい。ここでいう縦弾性率は、薄膜太陽電池モジュール施工時の態様から考慮して、封止層が熱硬化性樹脂からなる場合は、十分に熱硬化した後の封止層の縦弾性率のことをいう。また、通常スキージ施工する際の温度も考慮すると、25℃付近の場合の縦弾性率のことをいう。縦弾性率の測定方法としては、封止層を溶融した後に試験片に加工し(硬化が必要な場合は硬化処理を含む)、得られた試験片から従来公知の引張試験機で測定される応力−歪曲線において、フックの法則が成立する弾性範囲での同軸方向の応力と歪の比例定数から求められる。
封止層の25℃における縦弾性率は、1.0×108Pa以上、好ましくは5.0×108Pa以上、より好ましくは1.0×109Pa以上である。縦弾性率がこの範囲にあることで、薄膜太陽電池モジュールを水貼り施工する際のスキージ後の封止層のスキージ跡をつけずに施工することができ、仕上がり後の薄膜太陽電池モジュールの意匠性が良好である。さらに、薄膜太陽電池モジュールとしてのコシも付与できるため、スキージの際の薄膜太陽電池モジュールの折れ、シワの防止、および太陽電池モジュール取扱いの際のハンドリング性を向上させることができる。
また、封止層は、薄膜太陽電池素子の受光面側に用いられる場合、光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、単一の封止層において通常75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、なかでも好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。これは、太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
さらに、封止層は、施工対象物との一体感や外観等の意匠性の観点から曇り度(ヘーズ)が低いものが好ましい。例えば、JIS K 7136で規定されるD65光源を使用する場合のヘーズ値は単一の封止層において通常15以下、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは2以下である。
一方、薄膜太陽電池素子の受光面と反対側に封止材を用いる場合は、必ずしも可視光を透過させる必要がなく、不透明でもよいが、窓ガラス等の透明な施工対象物に貼り付けた場合は、薄膜太陽電池素子の受光面側と同様の可視光透過率および曇り度を有することが好ましい。
さらに、薄膜太陽電池モジュールは光を受けて熱せられることが多いため、封止材も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、封止材の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池モジュールの使用時に封止材が融解・劣化するのを防ぐことができる。
第一封止層もしくは第二封止層の厚さの和の下限は封止層のスキージ跡残りの観点からは限定されないが10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは60μm以上であり、また、通常800μm以下、好ましくは400μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは120μm以下である。厚くすることで薄膜太陽電池モジュール全体の強度(コシ)が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まり、また可視光の透過率が向上する傾向にある。このため、両方の利点を兼ね備える範囲として、上記範囲とするのが望ましい。一方で、上記範囲を逸脱した場合、封止層が厚すぎると水貼りに際のスキージ施工時に施工性が悪くなることで薄膜太陽電池モジュールと施工対象物の間に水泡が残ってしまい、封止層が薄すぎるとスキージ圧により薄膜太陽電池素子にダメージを与えてしまい、素子の発電性能の低下を引き起こす。なお、上述の封止層の厚みおよび後述する封止層の厚みは、薄膜太陽電池モジュールを作成後、薄膜太陽電池モジュールを切断した際の切断面を顕微鏡を用いて断面観察した結果から得られる厚みを示す。
第一封止層もしくは第二封止層の各厚みは特に規定されないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、また、通常400μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。厚くすることで薄膜太陽電池素子のダメージを防止することができ、薄くすることで可視光の透過率が向上する傾向にある。このため、両方の利点を兼ね備える範囲として、上記範囲とするのが望ましい。
第一封止層の厚さT1と第二封止層の厚さT2の比率T1/(T1+T2)は特に規定されないが、通常0.3〜0.7の範囲であり、好ましくは0.4〜0.6の範囲、より好ましくは0.5である。厚みの比率がこの範囲にあることで、薄膜太陽電池モジュールのハンドリング性が良く、水貼り施工時に水泡残りの無い薄膜太陽電池モジュールが得られる。一方で、この範囲を超えた場合、薄膜太陽電池モジュールの反りが大きくなり、安定的な施工ができないため水貼り施工時に水泡が残ってしまう。
封止層を構成する材料としては、特に限定されず、架橋剤を含む酢酸ビニル−エチレン共重合体組成物、ポリウレタン、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、ブチルゴム、シリコーンゴム等のエラストマー系樹脂、または上記の複合体でもよい。
封止層は、封止できる温度が通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下、特に好ましくは140℃以下である。本発明においては封止層が、上記熱硬化性樹脂を含むと、薄膜太陽電池モジュールを使用する際に、高温に晒されても変形しづらい点で好ましい。さらに、封止層がエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含む場合、有機薄膜太陽電池モジュールの封止の際に熱硬化性樹脂である封止層の硬化も同時に行えるため好ましい。
封止層に含まれる熱硬化性樹脂の硬化温度(すなわち、熱硬化性樹脂を含む封止材の硬化温度)は、通常50℃以上、好ましくは100℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下、特に好ましくは140℃以下である。
なお、封止層は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていても良い。また、封止層は単層フィルムにより形成されていても良いが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
封止層は、通常薄膜太陽電池素子を挟み込むように設ける。
また、封止層に、紫外線遮断、熱線遮断、導電性、反射防止、防眩性、光拡散、光散乱、波長変換、ガスバリア性等の機能を付与してもよい。特に、有機薄膜太陽電池の場合は、水や酸素により劣化する場合があり、また、太陽光の紫外線により劣化する場合があるため、ガスバリア性や紫外線遮断機能を持つことが好ましい。
このような機能を付与する方法としては、機能を有する層を塗布成膜等により封止層上に積層してもよいし、機能を発現する材料を溶解・分散させるなどして封止材に含有させてもよい。
ガスバリア性としては、例えば、以下の水蒸気透過率および酸素透過性を満たすものが挙げられる。
水蒸気透過率としては、封止材100μm厚における水蒸気透過率Pdが、40℃90%RH環境下で、通常10-1g/m2/day以下、好ましくは10-2g/m2/day以下、より好ましくは10-3g/m2/day以下、さらに好ましくは10-4g/m2/day以下である。水蒸気透過率は、JIS K7129に準じた感湿センサ、赤外線センサ、ガスクロマトグラフを備えた装置による測定、カップ法(JIS Z0208)により、40℃90%RH環境で測定する。
酸素透過性としては、例えば、一般的には、25℃環境下で100μm厚での単位面積(1m2)の1日あたりの酸素透過率が、通常1cc/m2/day/atm以下であり、1×10-1cc/m2/day/atm以下であることが好ましく、1×10-2cc/m2/day/atm以下であることがより好ましく、1×10-3cc/m2/day/atm以下であることがさらに好ましく、1×10-4cc/m2/day/atm以下であることがとりわけ好ましく、1×10-5cc/m2/day/atm以下であることが特に好ましい。酸素が透過しなければしないほど、薄膜太陽電池素子の酸化による劣化が抑えられる利点がある。なお、酸素透過率は、JIS K7126Aに準じた差圧法に基づく装置、あるいはJIS K7126Bに準じた等圧法に基づく赤外線センサ、ガスクロマトグラフを備えた装置で測定することができる。
1.2.3 薄膜太陽電池素子
薄膜太陽電池素子は、通常基板上に下部電極、光電変換層および上部電極が順次積層された構造を有する。
本発明の薄膜太陽電池モジュールに用いられる薄膜太陽電池素子は、水貼り施工時のハンドリング性や薄膜太陽電池モジュールの曲げに強い特徴を有する。本発明において薄膜光電変換素子とは、厚さが150μm以下の光電変換素子をいう。
中でも、光電変換層を塗布により製造可能で、意匠性に優れる点で有機薄膜太陽電池素子が好ましい。有機薄膜太陽電池素子の光電変換層の材料は、本発明の効果を損なわない限りどのようなものであっても用いてもよいが、有機色素材料、有機半導体材料等を用いることが好ましい。これらのうち、有機半導体材料を用いることが、生産性に特に優れ、本発明の目的に沿うことから特に好ましい。以下、有機半導体材料を用いた有機薄膜太陽電池素子の例を説明する。
1.2.3.1 基板
基板は有機薄膜太陽電池素子を支持する部材である。基板の材料としては、本発明を適用できる限り特に限定されず、無機材料、有機材料、紙材料および複合材料等の公知の材料が使用できる。具体的には、石英、ガラス、サファイア又はチタニア等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル又はポリエチレン等のポリオレフィン;セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン又はエポキシ樹脂等の有機材料;紙又は合成紙等の紙材料;ステンレス、チタン又はアルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート又はラミネートしたもの等の複合材料等が挙げられる。これらのうち、有機材料を用いた樹脂基板は、基板に透明性を付与できるため、スーパーストレート構造、サブストレート構造どちらの構造も作成が可能である上、透光性を有するシースルー太陽電池素子の作成が可能である点で好ましい。
中でも、基板が可とう性を有する(フレキシブル)基板であることが好ましい。基板がフレキシブルであることで、有機薄膜太陽電池素子をロール・トゥー・ロール方式により製造することが可能になり、また、有機薄膜太陽電池素子の設置の自由度が向上するためである。フレキシブルとは、例えば、曲率半径170mmで曲げても破壊(塑性変形)しないことをいう。 フレキシブル基板の材料としては、上記材料の中でも、有機材料、紙材料、複合材料が好ましく、有機材料および複合材料がより好ましく、有機材料が特に好ましい。
有機材料は通常Tm(溶融温度)およびTg(ガラス転移温度)を有するが、有機薄膜太陽電池素子の封止をTm未満、好ましくはTg未満で行うことにより基板の変形による外観の悪化を抑制することができる。
基板が樹脂基板である場合、樹脂基板のガラス転移温度(Tg)は、通常30℃以上、好ましくは50℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは160℃以下である。ガラス転移温度(Tg)が上記範囲であることで樹脂基板を製造する際に成形加工しやすく、かつ薄膜太陽電池モジュールの製造する際の加工で変形が起きにくい。
本明細書におけるガラス転移温度とは、JIS K−7121 1987「プラスチックの転移温度測定方法」に定義された示差走査熱量測定(DSC)により求められる値である。
基板の厚さに制限はないが、通常5μm以上、好ましくは20μm以上であり、通常20mm以下、好ましくは10mm以下である。基板の厚さが5μm以上であることは、有機薄膜太陽電池素子の強度が不足する可能性が低くなるために好ましい。基板の厚さが20mm以下であることは、コストが抑えられ、かつ重量が重くならないために好ましい。基板の材料がガラスである場合の厚さは、通常0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上であり、一方、通常1cm以下、好ましくは0.5cm以下である。基板の厚さが0.01mm以上であることは、機械的強度が増加し、割れにくくなるために、好ましい。また、基板の厚さが0.5cm以下であることは、重量が重くならないために好ましい。
基板の長さに制限はないが、通常10cm以上、好ましくは1m以上、より好ましくは10m以上、更に好ましくは50m以上、特に好ましくは100m以上である。上限は、通常10km以下、好ましくは5km以下、より好ましくは1km以下、更に好ましくは500m以下である。
ロール・トゥ・ロール方式により製造する場合は、通常10m以上、好ましくは20m以上、より好ましくは50m以上、更に好ましくは100m以上、特に好ましくは200m以上である。上限は特に制限されないが、通常10km以下、好ましくは5km以下、より好ましくは1km以下である。この範囲の長さにすることで、ロール・トゥ・ロール方式による効率的な生産を行うことができる。ロール・トゥ・ロール方式では、ロールの切り替えに時間がかかるため、ロールの切り替えによる時間のロスを少なくするためには、製造装置が許容する範囲で1つのロールの基板は長い方がよい。一方、ロールが重くなるとハンドリングしづらくなる点にも留意する必要がある。
1.2.3.2 電極
有機薄膜太陽電池素子は、下部電極および上部電極を有する。これらの電極は、光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。したがって、これらの電極として、一方に正孔の捕集に適した電極(以下、アノードと記載する場合もある)を、他方に電子の捕集に適した電極(以下、カソードと記載する場合もある)を用いることが好ましい。下部電極がアノードであり、上部電極がカソードであってもよいし、下部電極がカソードであり、上部電極がアノードであってもよい。下部電極および上部電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。
本発明において透光性があるとは、太陽光線透過率、すなわち太陽光のうち波長360〜830nmの波長の光が透過する割合が、40%以上であることを指す。該太陽光線透過率は好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。
また、透明電極の太陽光線透過率が通常70%以上であることが、透明電極を透過させて光電変換層に光を到達させるために好ましい。
これらの光線透過率は、JIS7375:2008に準拠して測定した値である。
下部電極及び上部電極としては導電性を有する材料により形成することが可能であり、例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属あるいはそれらの合金;酸化ニッケル、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化錫、酸化亜鉛等の金属酸化物、あるいは、インジウム−スズ酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、インジウム−タングステン酸化物(IWO)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;前記導電性高分子に、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、FeCl3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子などのドーパントを含有させたもの;金属粒子、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性粒子をポリマーバインダー等のマトリクスに分散した導電性の複合材料などが挙げられる。
なかでも、正孔を捕集する電極には、Au、ITO等の深い仕事関数を有する材料が好ましい。一方、電子を捕集する電極には、Alのような浅い仕事関数を有する材料が好ましい。仕事関数を最適化することにより、光吸収により生じた正孔及び電子を良好に捕集する利点がある。
少なくとも受光面側の電極は、光透過性を有しており、好ましくは透明である。但し、電極は、発電性能に著しく悪影響を与えない場合は必ずしも透明でなくてもよい。透明な電極の材料を挙げると、上記の金属酸化物、複合酸化物及び金属薄膜などが挙げられ、金属酸化物および複合酸化物が好ましい。また、上部電極の光の透過率は、有機薄膜太陽電池素子の発電効率を考慮すると、光学界面での部分反射によるロスを除き、80%以上が好ましい。
下部電極及び上部電極の材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
本発明においては、上部電極として金属あるいは合金からなる金属薄膜が好ましく例示できる。金属薄膜は導電率が高いため、導電性高分子等他の材料を用いるより必要となる材料の量が少ない点で好ましい。また、真空成膜による成膜が可能であり、塗布工程に比べ下地に与えるダメージを抑制することができる点でも好ましい。
本発明において、上部電極及び下部電極のいずれか一方が透光性の場合には、基板側に形成される下部電極が透光性を有するのが好ましい。すなわち、上部電極として所定の厚さを有する金属または合金を使用することにより、上部電極に対する集電線の設置が容易になり、集電線と電極との間の抵抗を下げやすくなる。
なお、本発明は、集電線を設置する電極が金属または合金を含んで形成されているときに好適に使用することができる。金属あるいは合金、特に金属を含んで形成された電極に対して、金属ペーストを介して集電線を設置すると、電極を形成する金属と、金属ペーストに含まれる成分とが反応して、電極の変形や変色などの問題が生じる場合がある。本発明によれば、このような問題を解決し、外観に優れた有機薄膜太陽電池素子を提供することができる。
下部電極及び上部電極の形成方法に制限はない。例えば、真空蒸着、スパッタ等のドライプロセスにより形成することができる。また、導電性インク等を用いたウェットプロセスにより形成することもできる。この導電性インクとしては、例えば、導電性高分子、金属粒子分散液等を用いることができる。さらに、電極は2層以上積層してもよく、表面処理による特性(電気特性やぬれ特性等)を改良してもよい。
上部電極及び下部電極の厚みは、特に制限は無いが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは、50nm以上である。一方、通常400μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下である。電極の厚みが上記下限以上であることにより、シート抵抗が抑えられ、また、十分な導通が可能となる。一方、上記上限以下であることにより、柔軟性を維持することができる。電極が透明電極である場合には、光透過率とシート抵抗とを両立できる膜厚を選ぶ必要がある。
電極のシート抵抗は、特段の制限はないが、通常1Ω/□以上、一方、1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。
1.2.3.3 光電変換層
光電変換層は、有機半導体により形成される。有機半導体は半導体特性により、p型、n型に分けられる。p型、n型は、電気伝導に寄与するのが、正孔、電子いずれであるかを示しており、材料の電子状態、ドーピング状態、トラップ状態に依存する。したがって、p型、n型は必ずしも明確に分類できない場合があり、同一物質でp型、n型両方の特性を示すものもある。
p型半導体の例として、高分子有機半導体化合物や低分子有機半導体化合物等が挙げられる。
高分子有機半導体化合物として、特に限定はなく、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリアセチレン又はポリアニリン等の共役ポリマー半導体;アルキル基やその他の置換基が置換されたオリゴチオフェン等のポリマー半導体;等が挙げられる。また、二種以上のモノマー単位を共重合させた半導体ポリマーも挙げられる。共役ポリマーとしては、例えば、Handbook of Conducting Polymers,3rd Ed.(全2巻),2007、Materials Science and Engineering,2001,32,1−40、Pure Appl.Chem.2002,74,2031−3044、Handbook of THIOPHENE−BASED MATERIALS(全2巻),2009等の公知文献に記載されたポリマーやその誘導体、及び記載されているモノマーの組み合わせによって合成し得るポリマーを用いることができる。p型半導体化合物として用いられる高分子有機半導体化合物は、一種の化合物でも複数種の化合物の混合物でもよい。
低分子有機半導体化合物としては、p型半導体材料として働きうるのであれば特段の制限はないが、具体的には、ナフタセン、ペンタセン又はピレン等の縮合芳香族炭化水素;α−セキシチオフェン等のチオフェン環を4個以上含むオリゴチオフェン類;チオフェン環、ベンゼン環、フルオレン環、ナフタレン環、アントラセン環、チアゾール環、チアジアゾール環及びベンゾチアゾール環のうち少なくとも一つ以上を含み、かつ合計4個以上連結したもの;フタロシアニン化合物及びその金属錯体、又はテトラベンゾポルフィリン等のポルフィリン化合物及びその金属錯体、等の大環状化合物等が挙げられる。好ましくは、フタロシアニン化合物及びその金属錯体又はポルフィリン化合物及びその金属錯体である。低分子有機半導体化合物の分子量は、上限、下限ともに特に制限されないが、通常5000以下、好ましくは2000以下であり、一方、通常100以上、好ましくは200以上である。なお、p型半導体層の形成を塗布により行う場合、低分子有機半導体化合物前駆体を塗布後に低分子有機半導体化合物に変換することができる。塗布成膜がより容易である点で、低分子有機半導体化合物前駆体を用いる方法がより好ましい。低分子有機半導体化合物前駆体とは、例えば加熱や光照射等の外的刺激を与えることにより、その化学構造が変化し、低分子有機半導体化合物に変換される化合物である。低分子有機半導体化合物前駆体は成膜性に優れる点で好ましい。
また、p型半導体の例として、テトラベンゾポルフィリン、テトラベンゾ銅ポルフィリン、テトラベンゾ亜鉛ポルフィリン等のポルフィリン化合物;フタロシアニン、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン等のフタロシアニン化合物;ナフタロシアニン化合物;テトラセンやペンタセンのポリアセン;セキシチオフェン等のオリゴチオフェンおよびこれら化合物を骨格として含む誘導体も挙げられる。さらに、ポリ(3−アルキルチオフェン)などを含むポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリトリアリルアミン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール等の高分子等も挙げられる。
n型半導体としては、特段の制限はないが、具体的にはフラーレン化合物、8−ヒドロキシキノリンアルミニウムに代表されるキノリノール誘導体金属錯体;ナフタレンテトラカルボン酸無水物;ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド又はペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の縮合環テトラカルボン酸ジイミド類;ペリレンジイミド誘導体、ターピリジン金属錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体、ペリノン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ビススチリル誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジン誘導体、ボラン誘導体、アントラセン、ピレン、ナフタセン又はペンタセン等の縮合多環芳香族炭化水素の全フッ化物;単層カーボンナノチューブ等が挙げられる。
そのなかでも、フラーレン化合物、ボラン誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、N−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミド及びN−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体が好ましく、フラーレン化合物、N−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体及びN−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミドがより好ましい。上記のうち一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。また、n型半導体としては、n型高分子半導体も挙げられる。
少なくともp型の半導体およびn型の半導体が含有されていれば、光電変換層の具体的な構成は任意である。光電変換層は単層の膜のみによって構成されていてもよく、2以上の積層膜によって構成されていてもよい。例えば、n型の半導体とp型の半導体とを別々の膜に含有させるようにしても良く、n型の半導体とp型の半導体とを同じ膜に含有させても良い。また、n型の半導体及びp型の半導体は、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
光電変換層の具体的な構成例としては、p型半導体とn型半導体が層内で相分離した層(i層)を有するバルクヘテロ接合型、それぞれp型半導体を含む層(p層)とn型半導体を含む層(n層)が界面を有する積層型(ヘテロpn接合型)、ショットキー型およびそれらの組合せが挙げられる。これらの中でもバルクへテロ接合型およびバルクへテロ接合型と積層型を組み合わせた(p−i−n接合型)が高い性能を示すことから好ましい。
光電変換層の作成方法としては、特に制限はないが、塗布法、中でも湿式塗布法が好ましい。塗布法としては、任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法等が挙げられる。光電変換層をロール・トゥ・ロール方式で形成する場合、装置が簡便であり、コストが低く、大量に速く形成できるため、湿式塗布法を適用するのが好ましい。湿式塗布法を行う際には、被塗装層を溶解しない溶媒を選定するのが好ましい。
光電変換層のp層、i層、n層各層の厚みは、通常3nm以上、好ましく10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。層を厚くすることで光電流が増大する傾向にあり、薄くすることで直列抵抗が低下する傾向にある。また、上記下限以上の厚みとすることで、特にセル上に集電線を設置するときは、集電線の設置によるセルの短絡を防止することができる。
1.2.3.4 バッファ層
本発明に係る有機薄膜太陽電池素子は、下部電極および/または上部電極と光電変換層との間にバッファ層を含んでいてもよい。バッファ層とは、電子取り出し層および/または正孔取り出し層を指す。バッファ層は、本発明に係る有機薄膜太陽電池素子において必須ではなく、電子取り出し層と正孔取り出し層のいずれか一方のみを含んでも良い。電子取り出し層はカソードと光電変換層との間に存在するのが好ましく、正孔取り出し層はアノードと光電変換層との間に存在するのが好ましい。
すなわち、電子取り出し層と正孔取り出し層とは、一対の電極間に、光電変換層を挟むように配置されることが好ましい。電子取り出し層および正孔取り出し層の積層順は、上部電極と下部電極の機能、すなわちそれぞれの電極がアノードとカソードのどちらかに応じて、前記説明の通り、適切に選択すればよい。
具体的には、上部電極がアノード、下部電極がカソードであり、バッファ層として電子取り出し層と正孔取り出し層をいずれも含むときは、有機薄膜太陽電池素子は、下部電極、電子取り出し層、光電変換層、正孔取り出し層、及び上部電極をこの順に有するのが好ましい。電子取り出し層を含み、正孔取り出し層を含まない場合は、有機薄膜太陽電池素子が下部電極、電子取り出し層、光電変換層、上部電極をこの順に有するのが好ましい。同様に、正孔取り出し層を含み、電子取り出し層を含まない場合は、有機薄膜太陽電池素子が下部電極、光電変換層、正孔取り出し層、及び上部電極をこの順に有するのが好ましい。
また電子取り出し層と正孔取り出し層の少なくとも一方が異なる複数の層により構成されていてもよい。
〔電子取り出し層〕
電子取り出し層の材料は、光電変換層からカソードへ電子の取り出し効率を向上させる材料であれば特段の制限はないが、無機化合物又は有機化合物が挙げられる。
無機化合物の材料の例としては、Li、Na、K又はCs等のアルカリ金属の塩;酸化チタン(TiOx)や酸化亜鉛(ZnO)のようなn型半導体酸化物等が挙げられる。なかでも、アルカリ金属の塩としては、LiF、NaF、KF又はCsFのようなフッ化物塩が好ましく、n型半導体酸化物としては、酸化亜鉛(ZnO)が好ましい。このような材料の動作機構は不明であるが、Al等で構成されるカソードと組み合わされれた際にカソードの仕事関数を小さくし、有機薄膜太陽電池素子内部に印加される電圧を上げる事が考えられる。
有機化合物の材料の例としては、例えば、トリアリールホスフィンオキシド化合物のようなリン原子と第16族元素との二重結合を有するホスフィン化合物;バソキュプロイン(BCP)又はバソフェナントレン(Bphen)のような、置換基を有してもよく、1位及び10位がヘテロ原子で置き換えられていてもよいフェナントレン化合物;トリアリールホウ素のようなホウ素化合物;(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)のような有機金属酸化物;オキサジアゾール化合物又はベンゾイミダゾール化合物のような、置換基を有していてもよい1又は2の環構造を有する化合物;ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)又はペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)のような、ジカルボン酸無水物のような縮合ジカルボン酸構造を有する芳香族化合物等が挙げられる。
電子取り出し層の厚さは特に限定はないが、通常0.01nm以上、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.5nm以上である。一方、通常400nm以下、好ましくは200nm以下である。電子取り出し層の厚さが上記下限以上であることで、バッファ材料としての機能を果たすことになる。電子取り出し層の厚さが上記上限以下であることで、電子が取り出しやすくなり、光電変換効率が向上しうる。
電子取り出し層の形成方法に制限はない。例えば、昇華性を有する材料を用いる場合は真空蒸着法等により形成することができる。具体的には、例えばアルカリ金属塩を電子取り出し層の材料として用いる場合、真空蒸着、スパッタ等の真空成膜方法を用いて電子取り出し層を成膜することが可能である。なかでも、抵抗加熱による真空蒸着によって、電子取り出し層を形成するのが望ましい。真空蒸着を用いることにより、光電変換層等の他の層へのダメージを小さくすることができる。
また、例えば、溶媒に可溶な材料を用いる場合は、前述の光電変換層の作成方法と同様に、スピンコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法等の湿式塗布法等により形成することができる。
一方、n型半導体の金属酸化物については、例えば、酸化亜鉛ZnOを電子取り出し層の材料として用いる場合には、スパッタ法等の真空成膜方法を用いることもできるが、塗布法を用いて電子取り出し層を成膜することが望ましい。例えば、Sol−Gel Science、C.J.Brinker,G.W.Scherer著、Academic Press(1990)に記載のゾルゲル法に従って、酸化亜鉛で構成される電子取り出し層を形成できる。この場合の厚さは、通常0.1nm以上、好ましくは2nm以上、より好ましくは5nm以上であり、通常1μm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。電子取り出し層が薄すぎると、電子の取り出し効率を向上させる効果が十分でなくなり、厚すぎると、電子取り出し層が直列抵抗成分として作用することにより素子の特性を損なう傾向がある。
電子取り出し層をロール・トゥ・ロール方式で形成する場合、装置が簡便であり、コストが低く、大量に速く形成できるため、湿式塗布法を適用するのが好ましい。湿式塗布法を行う際には、被塗装層を溶解しない溶媒を選定するのが好ましい。
〔正孔取り出し層〕
正孔取り出し層の材料に特に限定は無く、光電変換層からアノードへの正孔の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等に、スルホン酸及び/又はヨウ素等がドーピングされた導電性ポリマー;スルホニル基を置換基に有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物;酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステン等の金属酸化物;ナフィオン、後述のp型半導体等が挙げられる。その中でも好ましくは、スルホン酸をドーピングした導電性ポリマーであり、より好ましくは、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングした(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)である。また、金、インジウム、銀又はパラジウム等の金属等の薄膜も使用することができる。金属等の薄膜は、単独で形成してもよいし、上記の有機材料と組み合わせて用いることもできる。
正孔取り出し層の厚さは特に限定はないが、通常0.2nm以上である。一方、通常400nm以下、好ましくは200nm以下である。正孔取り出し層の厚さが0.2nm以上であることで、バッファ材料としての機能を果たすことになる。正孔取り出し層の厚さが400nm以下であることで、正孔が取り出し易くなり、光電変換効率が向上しうる。
正孔取り出し層の形成方法に制限はない。例えば、昇華性を有する材料を用いる場合は真空蒸着法等により形成することができる。また、例えば、溶媒に可溶な材料を用いる場合は、スピンコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法等の湿式塗布法等により形成することができる。正孔取り出し層は塗布により形成することが好ましい。正孔取り出し層に半導体材料を用いる場合は、後述の有機光電変換層の低分子有機半導体化合物と同様に、前駆体を用いて層を形成した後に前駆体を半導体化合物に変換してもよい。
なかでも、正孔取り出し層の材料としてPEDOT:PSSを用いる場合、分散液を塗布する方法によって正孔取り出し層を形成することが好ましい。PEDOT:PSSの分散液としては、ヘレウス社製のCLEVIOSTMシリーズや、アグファ社製のORGACONTMシリーズ等が挙げられる。
正孔取り出し層をロール・トゥ・ロール方式で形成する場合、装置が簡便であり、コストが低く、大量に速く形成できるため、湿式塗布法を適用するのが好ましい。湿式塗布法を行う際には、被塗装層を溶解しない溶媒を選定するのが好ましい。
1.2.4 その他の層
保護層と封止層との間、又は保護層と粘着層との間に、紫外線カット層、ガスバリア層、ゲッター層を有してもよい。また、これらの層を保護層として使用することもできる。薄膜太陽電池素子が有機薄膜太陽電池素子である場合には、水分又は酸素による劣化を防止し、長期にわたって太陽電池素子の性能を維持するため、ガスバリア層を含むのが好ましく、上述の長期耐久性に加えて光線透過率や透明性等の意匠性が向上できるため、保護層としてガスバリア層を用いるのがより好ましい。
(紫外線カット層)
紫外線カット層は紫外線の透過を防止する層である。
薄膜太陽電池モジュールの構成部品のなかには紫外線により劣化するものがある。また、ガスバリア層は種類によっては紫外線により劣化するものがある。そこで、紫外線カット層を薄膜太陽電池モジュールの受光部分に設け、紫外線カット層で薄膜太陽電池素子の受光面を覆うことにより、薄膜太陽電池素子及び必要に応じてガスバリア層を紫外線から保護し、発電性能を高く維持することができるようになっている。
紫外線カット層に要求される紫外線の透過抑制能力の程度は、紫外線(例えば、波長300nm)の透過率が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、特に好ましくは10%以下である。
また、紫外線カット層は、薄膜太陽電池素子の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、特に好ましくは95%以上である。
さらに、薄膜太陽電池モジュールは光を受けて熱せられることが多いため、紫外線カット層も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、紫外線カット層の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上である。また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点が低すぎると薄膜太陽電池モジュールの使用時に紫外線カット層が融解する可能性がある。
また、紫外線カット層は、柔軟性が高く、隣接する層との接着性が良好であり、水蒸気や酸素をカットしうるものが好ましい。
紫外線カット層を構成する材料は、紫外線の強度を弱めることができるものであれば任意である。その材料の例として、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系又はエステル系の樹脂に紫外線吸収剤を配合して成膜した層などが挙げられる。また、紫外線吸収剤を樹脂中に分散あるいは溶解させたものの層(以下、適宜「紫外線吸収層」という)を基材フィルム上に形成した積層体として用いてもよい。
紫外線吸収剤としては、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系のものを用いることができる。中でもベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系が好ましい。この例としては、ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系の種々の芳香族系有機化合物等が挙げられる。なお、紫外線吸収剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
紫外線カット層の具体的な商品の例として、カットエース(MKVプラスティック株式会社)等が挙げられる。
なお、紫外線カット層は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、紫外線カット層は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上を備えた積層体であってもよい。
紫外線カット層の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上である。また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。厚みを厚くすることで紫外線の吸収が高まる傾向にあり、薄くすることで可視光の透過率を増加させられる傾向にある。
紫外線カット層は、薄膜太陽電池素子の受光面の少なくとも一部を覆う位置に設ければよい。好ましくは薄膜太陽電池素子の受光面の全てを覆う位置に設ける方がよい。ただし、薄膜太陽電池素子の受光面を覆う位置以外の位置にも紫外線カット層が設けられていてもよい。
(ガスバリア層)
ガスバリア層は水及び酸素の透過を防止する層である。
薄膜太陽電池素子は湿気及び酸素に弱い傾向があり、特に、ZnO:Al等の透明電極や、化合物半導体系太陽電池素子及び有機太陽電池素子が水分及び酸素により劣化することがある。そこで、ガスバリア層で薄膜太陽電池素子を被覆することにより、太陽電池素子を水及び酸素から保護し、発電性能を高く維持することができる。
ガスバリア層に要求される防湿能力の程度は、単位面積(1m2)の1日あたりの水蒸気透過率が、1×10-1g/m2/day以下であることが好ましく、1×10-2g/m2/day以下であることがより好ましく、1×10-3g/m2/day以下であることが更に好ましく、1×10-4g/m2/day以下であることが中でも好ましく、1×10-5g/m2/day以下であることがとりわけ好ましく、1×10-6g/m2/day以下であることが特に好ましい。水蒸気の透過を抑制するほど、薄膜太陽電池素子及び当該素子のZnO:Al等の透明電極の水分との反応に起因する劣化が抑えられるので、発電効率が維持されることにより寿命が延びる。このようなガスバリア層を適用することにより太陽電池素子の優れた性質を活かした薄膜太陽電池モジュールの実施が容易となる。
また、ガスバリア層は、薄膜太陽電池素子の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上、中でも好ましくは85%以上、とりわけ好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、その中でも特に好ましくは97%以上である。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
さらに、ガスバリア層は、施工対象物との一体感や外観等の意匠性の観点から曇り度(ヘーズ)が低いものが好ましい。例えば、JIS K 7136で規定されるD65光源を使用する場合のヘーズ値は通常10以下、好ましくは5以下、より好ましくは2以下、さらに好ましくは1以下である。
さらに、薄膜太陽電池モジュールは光を受けて熱せられることが多いため、ガスバリア層も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、ガスバリア層の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池モジュールの使用時にガスバリア層が融解・劣化する可能性を低減できる。
ガスバリア層の具体的な構成は、薄膜太陽電池素子を水から保護できる限り任意である。ただし、ガスバリア層を透過しうる水蒸気や酸素の量を少なくできる構成ほど製造コストが高くなるため、これらの点を総合的に勘案して適切なものを使用することが好ましい。
中でも好適なガスバリア層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)或いはポリエチレンナフタレート(PEN)等の基材フィルムにSiOxを真空蒸着したフィルム等が挙げられる。
なお、ガスバリア層は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、ガスバリア層は単層で形成されていてもよいが、2層以上の積層体であってもよい。
ガスバリア層の厚みは特に規定されないが、通常10μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。厚みを厚くすることでガスバリア性が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まりまた可視光の透過率が向上する傾向にある。
ガスバリア層は、薄膜太陽電池素子を被覆して湿気及び酸素から保護できればその形成位置に制限は無いが、薄膜太陽電池素子の両側の面、具体的には受光面側の面(図3における下側の面)及び受光面とは反対側の面(図3における上側の面)を覆うことが好ましい。薄膜太陽電池モジュールにおいてはその受光面側の面及び受光面とは反対側の面が他の面よりも大面積に形成されることが多いためである。本実施形態ではガスバリア層が薄膜太陽電池素子の受光面側の面および受光面と反対側の面を覆う配置になっている。
ガスバリア層と封止層の位置関係、相対的大きさに特段の制限はないが、通常は封止層と保護層は同一の大きさ、および同一の形状で端部を揃えて積層されるか、あるいは保護層が封止層の全面を覆いかつ、保護層が封止層よりも大きく積層される。また、水分又は酸素による劣化を防止し、長期にわたって太陽電池素子の性能を維持するためには、ガスバリア層の端面と太陽電池素子基板の端面との距離が5mm以上になるようにガスバリア層の端面を太陽電池素子基板の端面の外側に設置するのが好ましい。
(ゲッター層)
ゲッター層は水分及び/又は酸素を吸収する層である。薄膜太陽電池素子の構成部品のなかには前記のように水分で劣化するものがあり、また、酸素によって劣化するものもある。そこで、ゲッター層で薄膜太陽電池素子を覆うことにより、薄膜太陽電池素子等を水分及び/又は酸素から保護し、発電性能を高く維持するようにしている。
ここで、水分ゲッター層は前記のようなガスバリア層とは異なり、水分の透過を妨げるものではなく、水分を吸収するものである。水分を吸収する層を用いることにより、ガスバリア層等で薄膜太陽電池素子を被覆した場合に、ガスバリア層間で形成される空間に僅かに浸入する水分をゲッター層が捕捉して水分による薄膜太陽電池素子への影響を排除できる。
ゲッター層の水分吸収能力の程度は、通常0.1mg/cm2以上、好ましくは0.5mg/cm2以上、より好ましくは1mg/cm2以上である。この数値が高いほど水分吸収能力が高く薄膜太陽電池素子の劣化を抑制しうる。また、上限に制限は無いが、通常10mg/cm2以下である。
また、ゲッター層が酸素を吸収することにより、ガスバリア層等で薄膜太陽電池素子を被覆した場合に、ガスバリア層で形成される空間に僅かに浸入する酸素をゲッター層が捕捉して酸素による薄膜太陽電池素子への影響を排除できる。
さらに、ゲッター層は、薄膜太陽電池素子の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上、中でも好ましくは85%以上、とりわけ好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、その中でも特に好ましくは97%以上である。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
さらに、有機薄膜太陽電池モジュールは光を受けて熱せされることが多いため、ゲッター層も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、ゲッター層の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで有機薄膜太陽電池モジュールの使用時にゲッター層が融解・劣化する可能性を低減できる。
ゲッター層を構成する材料は、水分及び/又は酸素を吸収することができるものであれば任意である。その材料の例を挙げると、水分を吸収する物質としてアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルカリ土類金属の酸化物;アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;シリカゲル、ゼオライト系化合物、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム又は硫酸ニッケル等の硫酸塩;アルミニウム金属錯体又はアルミニウムオキサイドオクチレート等の有機金属化合物等が挙げられる。具体的には、アルカリ土類金属としては、Ca、Sr又はBa等が挙げられる。アルカリ土類金属の酸化物としては、CaO、SrO又はBaO等が挙げられる。その他にZr−Al−BaOやアルミニウム金属錯体等も挙げられる。具体的な商品名を挙げると、例えば、OleDry(双葉電子社製)等が挙げられる。
酸素を吸収する物質としては、活性炭、シリカゲル、活性アルミナ、モレキュラーシーブ、酸化マグネシウム又は酸化鉄等が挙げられる。またFe、Mn、Zn、及びこれら金属の硫酸塩・塩化物塩・硝酸塩等の無機塩も挙げられる。
なお、ゲッター層は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、ゲッター層は単層で形成されていてもよいが、2層以上からなる積層体であってもよい。
ゲッター層の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
ゲッター層は、ガスバリア層間で形成される空間内であればその形成位置に制限は無いが、薄膜太陽電池素子の両面、具体的には、受光面側の面(図4における下側の面)及び受光面側と反対側の面(図4における上側の面)を覆うことが好ましい。有機薄膜太陽電池モジュールにおいてはその受光面側の面及び受光面側と反対側の面が他の面よりも大面積に形成されることが多いため、これらの面を介して水分及び酸素が浸入する傾向があるからである。この観点から、ゲッター層はガスバリア層と薄膜太陽電池素子との間に設けることが好ましい。
ゲッター層は吸水剤又は乾燥剤の種類に応じて任意の方法で形成することができるが、例えば、吸水剤又は乾燥剤を分散したフィルムを粘着剤で添付する方法、吸水剤又は乾燥剤の溶液をスピンコート法、インクジェット法又はディスペンサー法等で塗布する方法等を用いることができる。また真空蒸着法やスパッタリング法等の成膜法を使用してもよい。
吸水剤又は乾燥剤のためのフィルムとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂又はポリカーボネート系樹脂等を用いることができる。中でも、ポリエチレン系樹脂、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂又はポリカーボネート系樹脂のフィルムが好ましい。なお、前記樹脂は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
1.2.5 粘着層
本発明の薄膜太陽電池モジュールは、窓ガラスに設置するための粘着層を有するのが好ましい。粘着層は薄膜太陽電池モジュールの最外層に位置し、薄膜太陽電池モジュールをガラス等の被着体に貼着するための層である。
粘着層としては、公知の透明な粘着剤を用いることができる。例えば、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、及びポリウレタン系粘着剤などが挙げられる。中でも耐候性および透明性の観点からアクリル系粘着材が好ましい。
粘着層は、薄膜太陽電池モジュールの、薄膜太陽電池素子の基板側(受光面)又は光電変換層側(非受光面)の最外層に、公知の方法で設けることができるが、薄膜太陽電池素子の発電効率の観点から薄膜太陽電池素子の基板側(受光面)の最外層に設ける方が好ましい。
粘着層は、薄膜太陽電池モジュールの受光面又は非受光面側の最外層に、公知の方法で設けることができる。例えば、剥離紙上に粘着材を設け、太陽電池の最外層にドライラミネートしたのち、剥離紙を剥がすことにより設けることができる。
粘着層は、窓ガラス破損時にガラスが飛び散らないために充分な接着力や粘着力を有することが好ましい。具体的には、JIS A 5759に示された方法で、約4.0N/25mm以上の剥離力を有するものを用いることができる。
粘着層の厚さは、特に限定されないが、例えば通常20μm以上、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上であり、通常500μm、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。上記下限以上であることで充分な粘着性が担保され、上記上限以下であることで、窓ガラス等の被着体に設置する際のスキージ性が向上する。
1.2.6 集電線
一般的な薄膜太陽電池モジュールは、通常、薄膜太陽電池素子から電気を取り出すための集電線を有する。集電線の材料としては、金属や合金などがよく用いられ、その中でも抵抗率の低い銅やアルミ、銀、金、ニッケルなどを用いることが好ましい。その中でも銅やアルミが安価であることから、特に好ましい。また、錆防止のため、集電線の周囲をスズや銀などでメッキしたり、表面を樹脂などでコートしてあったり、フィルムをラミネートしてあってもよい。集電線の形状としては、平角線、箔、平板、ワイヤー状のものがあるが、接着面積の確保などの理由から、平角線や、箔、平板状のものを用いることが好ましい。
なお、ここでいう「箔」は厚みが100μm未満のものをいい、「板」は厚みが100μm以上のものをいう。また「平角線」とは、断面が円形のワイヤーを圧延して、断面の形状を四角形にしたものをいう。
また集電線は、導電性を有する限り特段の限定はされないが、接続する上部電極や下部電極よりも電気抵抗値が低いものが好ましく、特に、上部電極や下部電極より厚みを厚くすることによって、電気抵抗値を低減させることが好ましい。集電線の厚みとしては、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上である。また、2mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは300μm以下、特に好ましくは200μm以下である。上記範囲より厚みが薄いと、集電線の抵抗値が上昇し、発電した電力を効率よく外部に取り出すことができなくなる恐れがある。また、上記範囲より厚みが厚いと、薄膜太陽電池モジュールの重量が増加するとともに可撓性が減少したり、モジュール表面に凹凸が発生しやすくなったり、生産コストが増加するなどの問題が生じる恐れがある。
また、集電線の幅としては、0.5mm以上であることが好ましく、より好ましくは1mm以上、特に好ましくは2mm以上である。また、集電線の幅は、50mm以下であることが好ましく、より好ましくは20mm以下、特に好ましくは10mm以下である。上記範囲より集電線の幅が狭いと、集電線の電気抵抗値が上昇し、発電した電力を効率よく取り出すことができなくなる恐れがある。また、集電線の機械強度が減少し、破断等の原因になる恐れがある。また、上記範囲より集電線の幅が広いと、モジュール全体における開口率が減少し、モジュールの発電量の低下に繋がる恐れがある。
また、集電線の形状をエンボス形状にすることもできる。エンボス形状とは、何らかの凹凸形状を型押しする等により施された形状を意味する。集電線をエンボス形状にすることで、接着層を用いても、エンボス形状の凹凸の一部が電極に直接接するか、または極めて近接することができるため導電性が高まる。
エンボス深さは、通常5〜100μmであり、10〜50μmであることが好ましい。なお、エンボス深さとは、エンボス加工によって形成された凸部の高さを意味していて、具体的には凸部を含む厚みから集電線の厚みを差し引いた値である。このようなエンボス深さとすることで、エンボスの凸部が電極に直接接することができるため好ましい。
集電線は、導電接着層を介して電極に接続させる。太陽電池の電極に設置する導電性接着成分として、導電性粒子を含む熱硬化性組成物、導電性粒子を含む熱可塑性塑性物、はんだ、金属ペースト、等が知られており、公知の導電接着層を用いることができる。
2.薄膜太陽電池モジュールの施工方法
薄膜太陽電池モジュールの施工方法は被施工物により任意に選択することがでるが、本発明の薄膜太陽電池モジュールは、太陽電池一体型ウインドフィルムとして好適に用いることができ、その場合は一般的なウインドフィルムと同様の方法で施工することができる。
一般的なウインドフィルムは水貼りという方法でガラスに貼られる。この水貼りという貼り方は、フィルムをガラスに貼る際に、フィルムの粘着面およびガラス面に噴霧器で微量の中性洗剤を含む水を噴霧してから仮貼りし、その後スキージでフィルム表面を順次均一に擦り付けて密着させる。その結果、フィルムとガラスの間にある水と気泡がフィルム端部から追い出され、シワおよび気泡のない良好な貼合面を得ることができる。
3.用途
本発明の薄膜太陽電池モジュールは、建物や車両等の、窓、ドア、壁面、又は天井等のガラス等、パーティション等のガラス等の被着体に貼りつけて使用することができる。この際、太陽光、室内の照明、室内の太陽光の散乱光等を利用して発電し、集電線から取り出した電力を、公知の電流電圧変換回路、蓄電池等を利用して充電、利用することができる。特に、本発明の薄膜太陽電池モジュールは、太陽電池一体型ウインドフィルムとして施工性、意匠性に優れる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<評価手法>
本実施例において、薄膜太陽電池モジュールの評価は以下の方法で行った。
[貯蔵弾性率]
封止層を塗布、もしくは積層し、シリコーン離型PETフィルム上で溶融させた後に、プレス、冷却過程を経て厚み200μmとなるようにシート状サンプルを作成した。得られたシート状サンプルから縦4mm、横60mm、厚み200μmの短冊状サンプルを切り出した。
作製した短冊状サンプルを動的粘弾性測定装置(RSAIII、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて温度分散測定(振動周波数:10Hz、昇温速度:2℃/分、歪0.05%の条件で、貯蔵弾性率(E’)を−100℃〜100℃まで測定)を行い、25℃における貯蔵弾性率(E’)を測定した。
[水貼り施工性]
薄膜太陽電池モジュールの水貼りスキージ後の観察結果から、○、△を以下の基準で水貼り施工性を判定した。
厚みが3.2mmのフロートガラスのモジュール貼付け面の埃や汚れを十分に取り除いた後に、薄膜太陽電池モジュールの粘着剤とガラス貼付け面に1%界面活性剤水溶液を吹き付けた。25℃の環境下において粘着剤とガラス貼付け面を密着させ、100mm幅のナイロン製のスキージを押し当てながら粘着剤とガラスの間の1%界面活性剤水溶液と気泡を除去し、スキージ施工を行なった。施工後1日以上経過したのち、1m離れた位置からモジュール薄膜太陽電池モジュールとガラスの間の気泡を観察した。
○:薄膜太陽電池モジュールとガラスの間に水泡残りが視認できない。
△:薄膜太陽電池モジュールとガラスの間に水泡残りが視認できる。
[封止層のスキージ跡]
薄膜太陽電池モジュールのスキージ後の観察結果から、○、△を以下の基準で封止層のスキージ跡を判定した。
水貼りスキージ施工の方法は、上述と同様の方法で行ない、施工後半日以上経過したのち、モジュール有機薄膜太陽電池モジュールとガラスの間の気泡を観察した。
○:薄膜太陽電池モジュールにスキージ跡が視認できない。
×:薄膜太陽電池モジュールにスキージ跡が視認できる。
[モジュール反り]
以下実施例に記載の粘着層を付与する前の薄膜太陽電池モジュールを200mm×200mmの大きさに切断し、水平で平滑な台上に中心部が下に凸になる状態で切断したモジュールを静置させた。次いで、台上から切断したモジュール端部の浮き上がりを金尺により測定して、モジュール反りの程度を評価した。
○:薄膜太陽電池モジュール端部の最大高さが5mm以下
△:薄膜太陽電池モジュール端部の最大高さが5mmを超える。
<実施例1>
図2の模式断面図に示す層構成を有する薄膜太陽電池モジュールを以下の手順で作成した。
具体的には、受光面保護層として厚み0.06mmのバリアフィルム(三菱樹脂製、VIEW−BARRIER、VDK3DA)に、受光面側封止層として厚み0.03mmのエポキシ系熱硬化接着剤(スリーボンド製、16X134)を積層した縦300mm、横200mmのフィルム、次いで厚み0.12mm、縦150mm、横100mmの光電変換層、非受光面保護層として厚み0.06mmのバリアフィルム(三菱樹脂製、VIEW−BARRIER、VDK3DA)に、非受光面側封止層として厚み0.03mmのエポキシ系熱硬化接着剤(スリーボンド製、16X134)を積層した縦300mm、横200mmのフィルムをそれぞれ載せた積層体を、真空ラミネーター(NPC社製、NLM−270×400)に投入した。最初にラミネーター内部を減圧下で15分間保持した後、積層体を大気圧で圧着状態としつつ、80℃で10分間保持した。更に、120℃の熱風オーブン(ユーグロップ社製)に60分間投入し、冷却後、受光面側のバリアフィルムに厚さ0.12mmの市販のアクリル系粘着剤をロールラミ機(MCK製、MRS630A)で貼り合わせて薄膜太陽電池モジュールを製造した。
<実施例2>
受光面側、および非受光面側の封止層の厚みをぞれぞれ0.05mmとしたこと以外は、実施例1と同様に薄膜太陽電池モジュールを製造した。
<実施例3>
受光面側、および非受光面側の封止層の厚みをぞれぞれ0.01mmとしたこと以外は、実施例1と同様に薄膜太陽電池モジュールを製造した。
<実施例4>
受光面側の封止層の厚みを0.06mm、および非受光面側の封止層の厚みを0.04mmとしたこと以外は、実施例1と同様に薄膜太陽電池モジュールを製造した。
<実施例5>
受光面側の封止層の厚みを0.04mm、および非受光面側の封止層の厚みを0.06mmとしたこと以外は、実施例1と同様に薄膜太陽電池モジュール5を製造した。
<実施例6>
受光面側の封止層の厚みを0.08mm、および非受光面側の封止層の厚みを0.02mmとしたこと以外は、実施例1と同様に薄膜太陽電池モジュールを製造した。
<実施例7>
受光面側の封止層の厚みを0.02mm、および非受光面側の封止層の厚みを0.08mmとしたこと以外は、実施例1と同様に薄膜太陽電池モジュールを製造した。
<比較例1>
受光面側、および非受光面側の封止層の厚みをぞれぞれ0.06mmとしたこと以外は、実施例1と同様に薄膜太陽電池モジュールを得た。
<比較例2>
受光面側、および非受光面側の封止層をブチルゴム系粘着剤(住友スリーエム製)としたこと以外は、比較例1と同様に薄膜太陽電池モジュールを得た。
<比較例3>
受光面側、および非受光面側の封止層の厚みをぞれぞれ0.03mmとしたこと以外は、比較例2と同様に薄膜太陽電池モジュールを得た。
<比較例4>
受光面側、および非受光面側の封止層の厚みをぞれぞれ0.02mmとしたこと以外は、比較例2と同様に薄膜太陽電池モジュールを得た。
表1に、実施例1〜3および比較例1〜4の薄膜太陽電池モジュールの水貼り施工性および封止層のスキージ跡の評価結果を示す。
表1より、本発明の薄膜太陽電池モジュールは水貼り施工性が高く、封止層のスキージ跡が残らないことから意匠性に優れることが明らかである。
表2に、実施例2〜7の薄膜太陽電池モジュールのモジュール反りと水貼り施工性の評価結果を示す。
表2より、本発明の薄膜太陽電池モジュールは第一封止層の厚みT1と第二封止層の厚みT2が特定の範囲であると、モジュール反りが少なく、かつ、水貼り施工性が非常に高いことが明らかである。