以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
本発明に係る薄膜太陽電池モジュールは、素子基板である樹脂基材上に電荷取り出し層を有する太陽電池素子備え、当該太陽電池素子が保護フィルムにより封止されており、該保護フィルムの波長370nmにおける光線透過率が5%以下であり、該保護フィルムの波長380nmにおける光線透過率が5%以上である構成を有する。当該構成により、本発明に係る薄膜太陽電池モジュールは、長時間経過後も高い変換効率を達成することができる。
一般に、素子基板として用いられる樹脂基材は、紫外線領域の光を吸収しやすい傾向がある。そのため、長時間、薄膜太陽電池モジュールが紫外線に晒されると、樹脂基材が黄変してしまい、その結果、薄膜太陽電池モジュールの可視光領域における透過率が低下してしまうと考えられる。このように薄膜太陽電池モジュールの可視光線透過率が低下してしまうと、太陽電池素子を構成する活性層が充分に受光できなくなるために、薄膜太陽電池モジュールの変換効率が徐々に低下してしまう。
そこで、公知の日本国特開2012−136019号公報に記載されるように、波長250nm〜400nmの紫外線領域の光をカットして、当該波長の透過率を調整することが好ましいと考えられる。しかしながら、本発明者らの検討によると、このように上記波長領域の吸収をカットした場合、薄膜太陽電池モジュールが高い変換効率が得られなくなる場合があることが判明した。そこで、本発明は、保護フィルムの370nmにおける光線透過率を低減しつつ、従来の常識に反して、波長380nmにおける特定波長における光線透過率を高くすることにより、素子基板の黄変を防ぎ、かつ、高い変換効率を備えた薄膜太陽電池モジュールを提供できるものである。このメカニズムは明らかではないが、下記の理由が考えられる。
一般的に、有機半導体化合物又はペロブスカイト半導体化合物を活性層に用いた太陽電池素子は、変換効率を向上させるために、活性層で発生した電荷の移動を促進する目的で各電極と活性層との間に電荷取り出し層を有する。すなわち、カソードと活性層との間の電荷取り出し層は、電子の取出し効率を向上させるための電子取り出し層として機能し、アノードと活性層との間の電荷取り出し層は、正孔の取出し効率を向上させるための正孔取り出し層として機能する。
このような電荷取り出し層は、仕事関数の最適化のために、十分に光励起させることが望ましいと考えられる。一般的に、電荷取り出し層は、半導体化合物又は有機導電性化合物により形成されているために、光を吸収することにより光励起が引き起こされる。
一方、電荷取り出し層の光励起の好ましい光の波長は不明であったが、波長380nmの光が、予想以上に電荷取り出し層の光励起に寄与しており、さらに、波長380nmの光は、樹脂基材を大きく黄変することもないために、これらの相乗効果により高い変換効率が得られるものと考えられる。
本発明において、各波長の光線透過率は、例えば、分光光度計を用いてJIS R 3106:1998に準じた方法により測定することができる。具体的に、作製された薄膜太陽電池モジュールにおいて、太陽電池素子が形成されていない側の保護フィルムの波長370nm及び波長380nmにおける光線透過率を測定する場合、薄膜太陽電池モジュールから太陽電池素子が形成された素子基板に沿って切り出し、残った保護フィルムの光線透過率を測定すればよい。この際、素子基板の切出し面については平滑化処理を実施する方が好ましいが、透過率に影響する平滑化処理が必要な場合は実施しなくても良い。なお、該保護フィルムと太陽電池素子との間に集電線が存在する場合、光線透過率は集電線が存在しない位置を測定するものとする。
以下に、本発明の一実施形態に係る図1の薄膜太陽電池モジュールについて説明する。
<1.薄膜太陽電池モジュール>
本発明の一実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールは、図1の模式断面図に示すように、素子基板3上に太陽電池素子4が形成されており、該太陽電池素子4は、保護フィルム8、9により封止されている。具体的な薄膜太陽電池モジュールの積層構造は、保護フィルム8と、素子基板3と、太陽電池素子4と、保護フィルム9と、をこの順に有する。また、太陽電池素子4により発電した電気を外部に取り出すために、太陽電池素子4に集電線7が接続されている。本実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールの場合、バリアフィルム1及び封止層2の積層体である保護フィルム8の波長370nmにおける光線透過率が5%以下であり、波長380nmにおける光線透過率が5%以上である。
<1−1.素子基板3>
素子基板3は太陽電池素子4を支持する支持部材である。なお、本発明において、素子基板3は、樹脂基材で構成される。素子基板3が樹脂基材であることにより設置自由度の高いフレキシブルな薄膜太陽電池モジュールを提供することができる。
素子基板3の材料は、樹脂基材として使用できるものであれば特段の制限はないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、セルロース、アセチルセルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリノルボルネン等の有機材料などが挙げられる。これらのなかでも、太陽電池素子4の形成のし易さからポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリル樹脂が好ましい。また、太陽電池素子の可視光領域の吸収を防げない点やフィルム物性の点から、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートが特に好ましい。特に、ポリエチレンナフタレーは紫外光により黄変しやすく、薄膜太陽電池モジュールの変換効率が大幅に低下する傾向があるために、素子基板3の材料として、ポリエチレンナフタレートを使用した場合、本発明は特に有効になりえる。
素子基板3の樹脂材料は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、素子基板3は、樹脂材料以外に炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維を含ませ、機械的強度を補強させても良い。
また、樹脂基材の可視光線透過率に特段の制限はないが、第1のバリアフィルム1側を受光面とする場合、太陽電池素子の活性層が多くの光を吸収できるように樹脂基材の可視光線透過率が高いことが好ましい。具体的には、樹脂基材の可視光線透過率が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
素子基板3の厚さは、特段の制限はないが、取り扱いの容易さの観点から、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、一方、光線透過率や生産性の観点からは、500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがさらに好ましく、150μm以下であることが特に好ましい。
<1−2.太陽電池素子4>
太陽電池素子4は、図5に示すように、一対の電極101、105と、該一対の電極間に活性層103と、各電極と活性層との間に電荷取り出し層102、104を有する。
<1−2−1.一対の電極(101、105)>
一対の電極101、105は、下部電極101及び上部電極105により構成され、一対の電極101、105のうち一方の電極は活性層103が光を吸収することにより発生する正孔を捕集する機能を有する電極(以下、アノードと称す)であり、他方の電極は、活性層103が光を吸収することにより発生する電子を捕集する機能を有する電極である(以下、カソードと称す)。下部電極101をアノードとする場合、上部電極105をカソードとし、下部電極101をカソードとする場合、上部電極をアノード105とすることが好ましい。なお、一対の電極101、105のうち、少なくとも一方の電極は透明電極である。すなわち、一対の電極101、105のうち、少なくとも薄膜太陽電池モジュールの受光面側に位置する電極を透明電極とすればよい。なお、シースルー型の薄膜太陽電池モジュールとする場合、一対の電極101、105はともに透明電極であることが好ましい。
なお、本発明において、透明電極とは、可視光線透過率が50%以上のものを意味するものとする。なお、可視光線透過率は、JIS R 3106:1998に従って、分光光度計により測定することができる。波長400nm〜780nmまでの透過率が算出され、これらの波長領域の透過率の平均として、透明電極の可視光線透過率を算出することができる。
透明電極は、透明導電層のみにより形成してもよいし、透明導電層及び金属層との積層により形成されていてもよく、例えば、透明導電層、金属薄層及び透明導電層が順次形成された積層構造であってもよい。
透明電極層に用いられる材料としては、特段の制限はないが、スズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、亜鉛をドープしたインジウム酸化物(IZO)、タングステンをドープしたインジウム酸化物(IWO)、亜鉛とアルミニウムとの酸化物(AZO)、酸化インジウム(In2O3)等である。これらの中でも、スズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、亜鉛をドープしたインジウム酸化物(IZO)、タングステンをドープしたインジウム酸化物(IWO)等の非晶質性酸化物を用いることが好ましい。
また、透明導電層は、シート抵抗が100Ω/□以下であることが好ましく、50Ω/□以下であることがさらに好ましく、一方、0.1Ω/□以上であることが好ましい。
透明電極を、透明導電層及び金属層の積層構造とする場合、金属層の材料は、特段の制限はなく、例えば、金、白金、銀、アルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、クロム、銅、コバルトの等の金属又はその合金が挙げられる。これらのなかでも、金属層を形成する材料は、高い電気伝導性を示すとともに、薄膜における可視光線透過率の高い銀又は銀の合金であることが好ましい。なお、銀の合金としては、硫化又は塩素化の影響を受けにくく薄膜としての安定性を向上させるために、銀と金の合金、銀と銅の合金、銀とパラジウムの合金、銀と銅とパラジウムの合金、銀と白金の合金等が挙げられる。
金属層の膜厚は、透明電極として適切な可視光線透過率を維持できる限りにおいて、特段の制限はなく、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、一方、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。この理由は、金属層が薄すぎると、高い導電性を得ることが困難となる場合があり、また、金属層が厚すぎると光透過率が低下して光電変換素子に入射する光量が低下してしまい、変換効率が低下してしまうためである。
下部電極101及び上部電極105のそれぞれの厚さは、特段の制限はなく、光学特性及び電気特性を考慮して任意で選択すればよい。なかでも、シート抵抗を抑えるために、下部電極101及び上部電極105のそれぞれの厚さは、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、一方、高い透過率を維持するために、10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがさらに好ましく、500nm以下であることが特に好ましい。
下部電極101をアノードとし、上部電極105をカソードとする場合、下部電極101は上部電極105よりも仕事関数の大きい材料を使用することが好ましい。一方、下部電極101をカソードとして、上部電極105をアノードとする場合、下部電極101は上部電極105よりも仕事関数の小さい材料により形成することが好ましい。なお、太陽電池素子4に、後述するような電荷取り出し層を設けて仕事関数を調整することにより、下部電極101及び上部電極105は同じ仕事関数を有する材料により形成することもできる。
下部電極101及び上部電極105の形成方法は、特段の制限はなく、使用する材料に合わせて公知の方法により形成することができる。例えば、蒸着法、スパッタ法等の真空成膜方法、又はナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布して成膜する湿式成膜法等が挙げられる。なお、下部電極及び上部電極に対して表面処理を行うことにより、電気特性や濡れ特性等を改良してもよい。
<1−2−2.活性層103>
活性層103の層構成としては、有機半導体化合物を含有し太陽光により発電する限りにおいて、特段の制限はなく、p型の有機半導体化合物を含有する層とn型の半導体化合物を含有する層とが積層された薄膜積層型、p型の有機半導体化合物とn型の半導体化合物が混合した層(混合層)であるバルクヘテロ型接合型、又はペロブスカイト半導体化合物を含有する構成が挙げられる。なお、バルクヘテロ接合型の活性層又はペロブスカイト化合物を含有する活性層は、該活性層の他に、p型の半導体化合物を含有する層及び/又はn型の半導体化合物を含有する層がさらに積層された構造であってもよい。
p型の有機半導体化合物は、特段の制限はなく、p型の低分子有機半導体化合物、p型の有機半導体オリゴマー、及びp型の有機半導体ポリマーが挙げられる。
p型の低分子有機半導体化合物は、特段の制限はないが、テトラベンゾポルフィリン、テトラベンゾ銅ポルフィリン、テトラベンゾ亜鉛ポルフィリン等のポルフィリン化合物;フタロシアニン、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン等のフタロシアニン化合物;ナフタロシアニン化合物;テトラセンやペンタセンのポリアセン等が挙げられる。
p型の有機半導体オリゴマーは特段の制限はないが、セキシチオフェン等のオリゴチオフェン又はこれら化合物を骨格として含む誘導体等が挙げられる。
p型の有機半導体ポリマーは、特段の制限はない。例えば、ポリ(3−アルキルチオフェン)などを含むポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリトリアリルアミン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、チオフェン環又はチオフェン縮合環を含むポリマー等が挙げられる。より具体的には、国際公開第2011/016430号パンフレット、国際公開第2013/180243号パンフレット、日本国特開2012−191194号公報等に記載されるような公知のp型半導体ポリマーが挙げられる。
n型半導体化合物としては、特段の制限はないが、例えば、フラーレン;フラーレン誘導体;8−ヒドロキシキノリンアルミニウムに代表されるキノリノール誘導体金属錯体;ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド又はペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の縮合環テトラカルボン酸ジイミド類;ペリレンジイミド誘導体、ターピリジン金属錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体、ペリノン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ビススチリル誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジン誘導体、ボラン誘導体;アントラセン、ピレン、ナフタセン又はペンタセン等の縮合多環芳香族炭化水素の全フッ化物;単層カーボンナノチューブ、n型ポリマー(n型高分子半導体材料)等が挙げられる。これらのなかでも、フラーレン化合物が特に好ましい。フラーレン化合物としては、特段の制限はないが、例えば、国際公開第2011/016430号又は日本国特開2012−191194号公報等の公知文献に記載のものが挙げられる。なお、上記のうち一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
ペロブスカイト半導体化合物は、特段の制限はないが、下記式(1)で表わされる化合物であることが好ましい。
AnMX(n+2) ・・・(1)
式(1)中、nは1又は2の整数を表わす。
式(1)中、Aは1価の有機分子を表す。
1価の有機分子は特段の制限はないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジメチルアミン、ジプロピルアミンジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、ブチルメチルアミン、メチルペンチルアミン、ヘキシルメチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、イミダゾール、アゾール、ピロール、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、アゾール、イミダゾリン、カルバゾール及びこれらのイオン(例えば、メチルアンモニウム(CH3NH3)等)やフェネチルアンモニウム等が挙げられる。なかでも、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン及びこれらのイオンやフェネチルアンモニウムが好ましく、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン及びこれらのイオンがより好ましい。
式(1)中、Mは2価の金属原子を表す。2価の金属原子は特段の制限はないが、鉛、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、コバルト、銀、銅、ガリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、インジウム、アルミニウム、マンガン、クロム、モリブデン、ユーロピウム等が挙げられる。これらの元素は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
式(1)中、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子を表す。ハロゲン原子は、特段の制限はないが、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、硫黄が挙げられる。また、カルコゲン原子は特段の制限はないが、セレンが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
なお、ペロブスカイト半導体化合物の具体例としては、例えば、国際公開第2014/045021号、日本国特開2014−49596号公報、日本国特開2016−82003号公報等に記載のペロブスカイト半導体化合物が挙げられる。
また、活性層103がペロブスカイト半導体化合物により形成されている場合、当該化合物を含む層の下に、TiO2、Al2O3等の多孔質膜が形成されていてもよい。
活性層103の膜厚は、特段の制限はないが、通常50nm以上、好ましくは100nm以上であり、一方、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。活性層の膜厚が50nm以上であることは、膜の均一性が保たれ、短絡を起こしにくくなるため、好ましい。また、活性層103の厚さが1000nm以下であることは、内部抵抗が小さくなる点、及び電極間が離れすぎず電荷の拡散が良好となる点で、好ましい。
活性層103の形成方法は、特段の制限はく、使用する材料を考慮して、公知の方法により形成することができる。具体的には、蒸着法、スパッタ法等の真空成膜法又は該活性層を形成する化合物又はその前駆体化合物と、溶媒を含有するインクを用いた湿式成膜法により形成することができる。
湿式成膜法としては、特段の制限はなく、スピンコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法等が挙げられる。
溶媒は、特段の制限はないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、テトラリン若しくはデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン若しくはオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、テトラリン若しくはデカリン等の脂環式炭化水素類;メタノール、エタノール若しくはプロパノール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン若しくはシクロヘキサノン等の脂肪族ケトン類;アセトフェノン若しくはプロピオフェノン等の芳香族ケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル若しくは乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン若しくはトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン若しくはジオキサン等のエーテル類;又は、ジメチルホルムアミド若しくはジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。なお、溶媒は1種の溶媒を単独で用いてもよいし、任意の2種以上の溶媒を任意の比率で併用してもよい。
活性層103をp型の有機半導体化合物を含む層とn型の半導体化合物とを含む層の薄膜積層型とする場合、特段の制限はないが、上述のような方法により各層を成膜することにより形成すればよい。また、活性層103をバルクヘテロ接合型とする場合、特段の制限はないが、p型の有機半導体化合物と、n型の半導体化合物と、溶媒とを含むインクを作製しておき、該インクを用いて湿式成膜法により形成することが好ましい。
また、活性層103をペロブスカイト半導体化合物により形成する場合、活性層の形成方法は特段の制限はないが、国際公開第2014/045021号、日本国特開2014−49596号公報、日本国特開2016−82003号公報等に記載されるように前駆体となる塗布液を塗布することにより、該活性層を形成することができる。
<1−2−3.電荷取り出し層(102、104)>
電荷取り出し層102、104は、活性層からカソードへの電子取り出し効率を向上させる電子取り出し層又は活性層からアノードへの正孔取り出し効率を向上させる正孔取り出し層に分類される。なお、本発明において、便宜上、活性層103と上部電極105との間に設ける電荷取り出し層を上部電荷取り出し層と称し、活性層103と下部電極101との間に設ける電荷取り出し層を下部電荷取り出し層と称す場合がある。なお、下部電極101をアノードとし、上部電極105をカソードとする場合、下部電荷取り出し層102を正孔取り出し層とし、上部電荷取り出し層104を電子取り出し層とすればよい。一方、下部電極101をカソードとし、上部電極105をアノードとする場合、下部電荷取り出し層102を電子取り出し層とし、上部電荷取り出し104層を正孔取り出し層とすればよい。電荷取り出し層102、104は必ずしも両方有する必要はなく、下部バッファ層102及び上部バッファ層104のうち、一方の電荷取り出し層のみを有していてもよい。
なお、上述の通り、活性層103をペロブスカイト化合物により形成する場合、ペロブスカイト化合物層の下地層として、多孔質の酸化チタン層を設ける場合があるが、このような多孔質層も電荷取り出し効率を高める限りにおいて電荷取り出し層に含まれるものとする。
電荷取り出し層102、104の形成材料は、特段の制限は無く、後述の材料を使用することができるが、半導体化合物又は有機導電性化合物が挙げられる。
電子取り出し層の材料は、活性層からカソードへの電子取り出し効率を向上させることができる材料であれば特段の制限はないが、無機化合物又は有機化合物が挙げられる。
無機半導体化合物の例としては、Li、Na、K又はCs等のアルカリ金属塩;酸化チタン(TiOx)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化インジウム、酸化スズ(SnOx)等のn型の金属酸化物等が挙げられる。なかでも、アルカリ金属塩としては、LiF、NaF、KF又はCsFのようなフッ化物塩が好ましく、n型の金属酸化物としては、酸化チタン(TiOx)、酸化亜鉛(ZnO)又は酸化スズ(SnOx)が好ましい。このような材料の動作機構は不明であるが、Al等で構成されるカソードと組み合わされた際にカソードの仕事関数を小さくし、太陽電池素子内部に印加される電圧を上げる事が考えられる。
有機半導体化合物の例としては、例えば、トリアリールホスフィンオキシド化合物のようなリン原子と第16族元素との二重結合を有するホスフィン化合物;バソキュプロイン(BCP)又はバソフェナントレン(Bphen)のような、置換基を有してもよく、1位及び10位がヘテロ原子で置き換えられていてもよいフェナントレン化合物;トリアリールホウ素のようなホウ素化合物;(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)のような有機金属酸化物;オキサジアゾール化合物又はベンゾイミダゾール化合物のような、置換基を有していてもよい1又は2の環構造を有する化合物;ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)又はペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)のような、ジカルボン酸無水物のような縮合ジカルボン酸構造を有する芳香族化合物等が挙げられる。
正孔取り出し層の材料としては、活性層からアノードへの正孔の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば、特段の制限はないが、有機導電性化合物又は無機半導体化合物が挙げられる。
有機導電性化合物としては、特段の制限はなく、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等に、スルホン酸及び/又はヨウ素等がドーピングされた有機導電性ポリマー;スルホニル基を置換基に有する、チオフェン誘導体又はアリールアミン等の導電性の有機低分子化合物が挙げられる。無機半導体化合物としては、特段の制限はないが、例えば、酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステン等のp型の金属酸化物等が挙げられる。これらの中でも、正孔取り出し層の形成材料として、好ましくは、スルホン酸をドーピングした導電性ポリマーであり、より好ましくは、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングした(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)である。
中でも、金属酸化物層は、ゾルゲル法等の塗布法により形成した場合、欠陥の多い金属酸化物層になりやすい傾向がある。一方、本発明においては、効率良く、欠陥を補う光励起が可能になるために、本発明は電荷取り出し層に金属酸化物層を用いた場合、特に有効になりえる。
電荷取り出し層102、104のそれぞれの膜厚は特段の制限はないが、電荷取り出し層材料として半導体化合物を用いる場合、電子又は正孔取り出し効率を向上させるために、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることが特に好ましく、一方、光電変換素子の内部抵抗を低く保ち、光電変換素子の変換効率を向上させるために、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。一方、電荷取り出し層材料として有機導電性化合物を用いる場合、電子又は正孔取り出し効率を向上させるために、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、100nm以上であることが特に好ましく、一方、光電変換素子の内部抵抗を低く保ち、光電変換素子の変換効率を向上させるために1000nm以下であることが好ましく、700nm以下であることがさらに好ましく、500nm以下であることが特に好ましい。
電荷取り出し層102、104の形成方法は特段の制限は無く、使用する材料に合わせて公知の方法により形成することができる。例えば、昇華性を有する材料を用いる場合は蒸着法、スパッタ法等の真空蒸着法により形成することができる。また、溶媒に可溶な材料を用いる場合は、スピンコートやインクジェット等の湿式塗布法等により形成することができる。また、半導体材料を用いる場合は、活性層の低分子有機半導体化合物と同様に、前駆体を用いて層を形成した後に前駆体を半導体化合物に変換してもよい。
<1−3.保護フィルム(8、9)>
保護フィルム8、9は、防湿性、酸素透過防止性、光による劣化防止性、耐衝撃性等が付与された層から構成されるものであり、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。なお、図1の薄膜太陽電池モジュールをシースルー型の薄膜太陽電池モジュールとする場合、保護フィルム8側又は保護フィルム9側を受光面とすることは可能であるが、通常、保護フィルム8側を受光面とすることが好ましい。この場合、保護フィルム8の波長370nmにおける光線透過率は5%以下であり、波長380nmにおける光線透過率は5%以上である。一方、非受光面側の保護フィルム9も、保護フィルム8と同様の光線透過率を有していても良いが、非受光面側の主な光源は散乱光であり発電への影響は少ないため、波長250nm〜400nmの紫外光をカットすることが好ましい。よって、保護フィルム8のように必ずしも波長380nmの光線透過率を高くする必要はない。
なお、保護フィルム8を積層構成とする場合、保護フィルム8の光線透過率は当該範囲とするために、各層の光線透過率を適宜調整すればよい。各層の光線透過率の調整は公知の方法を使用することができる。
なかでも、素子基板の黄変を防ぐために、保護フィルム8の波長370nmにおける光線透過率は4%以下であることが好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、2%以下が特に好ましい。一方、特に下限はない。
また、電荷取り出し層を効率良く励起させるために、保護フィルム8の波長380nmにおける光線透過率は7%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、12%以上であることが特に好ましく、一方、素子基板の黄変を防ぐために50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、20%以下であることが特に好ましい。
例えば、図2の薄膜太陽電池モジュールにおいて、保護フィルム8は、バリアフィルム1及び封止層2により構成される。また、保護フィルム9は、バリアフィルム6及び封止層5により構成される。以下、各層について説明する。
<1−3−1.バリアフィルム(1、6)>
バリアフィルム1、6は、それぞれ水及び酸素の透過を防止する層である。太陽電池素子4は湿気及び酸素に弱い傾向があり、特に、活性層に有機半導体化合物又はペロブスカイト化合物を用いた太陽電池素子は、水分及び酸素により劣化することがある。そこで、バリアフィルム1、6を設けることにより、太陽電池素子4を水及び酸素から保護し、長期間にわたって発電性能を維持することができる。なお、図2の実施形態に係る薄膜太陽電池モジュールにおいて、便宜上、バリアフィルム1を第1のバリアフィルムと称し、バリアフィルム6を第2のバリアフィルムと称す場合がある。
上述の通り、保護フィルム8の波長370nmにおける光線透過率が5%以下であり、波長380nmにおける光線透過率は5%以上とする限りにおいて、第1のバリアフィルム1の370nm及び380nmにおける光線透過率に特段の制限は無いが、370nmにおける光線透過率は5%以下であることが好ましく、2%以下であることが更に好ましく、1%以下であることが特に好ましい。一方、第1のバリアフィルム1の380nmにおける光線透過率は5%以上であることが好ましく、7%以上であることが更に好ましく、10%以上であることが特に好ましい。なお、第1のバリアフィルムの370nm及び380nmにおける光線透過率は、公知の方法により調整することができ、例えば、紫外線吸収剤により調整することが可能である。紫外線吸収剤の量は、所望の光線透過率を得られるように適宜、調整すればよい。
紫外線吸収剤としては、波長300〜420nmの領域の少なくとも一部の波長領域の光を吸収する有機系紫外線吸収剤を用いることができる。この範囲に吸収波長のある有機系紫外線吸収剤を用いることで、波長370nm及び380nmの光線透過率を調整することができる。
有機系紫外線吸収剤として、例えばベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾオキサジノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、サルチレート系およびアクリロニトリル系の有機系紫外線吸収剤を用いることができる。これらの中でも、ベンソフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾオキサジノン系の有機系紫外線吸収剤は、紫外線の吸収率が高く、波長制御が容易である点から、特に好ましく用いることができる。
ベンゾフェノン系の有機系紫外線吸収剤として、2,2−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ4−メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系の有機系紫外線吸収剤として、(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、(2’−ヒドロキシ−5’−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールおよび(2’−ヒドロキシ−3’−ターシャリブチル5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ、オクチル−3−[3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネート、2−エチルヘキシル−3−[3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネート等が挙げられる。
ベンゾオキサジノン系の有機系紫外線吸収剤として、2,2‘−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3、1−ベンゾオキサジン−4−オン]、2,6−ナフタレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等が挙げられる。
有機系紫外線吸収剤は、一種類を用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。また、低分子量型のものでも、高分子量型のものでもよい。
また、有機系紫外線吸収剤の長期での耐光性を向上させることを目的として、光安定剤を含有させてもよい。光安定剤には、クエンチャーとHALSの2種類がある。クエンチャーは、一般に励起状態にある活性分子を脱励起させる機能を有する。また、HALSは、紫外線により発生するラジカルを補足する捕捉剤として機能していると考えられている。光安定剤としては、クエンチャーとHALSのいずれも用いることができる。光学安定剤のうち、HALSとしては、例えばヒンダードアミン化合物を用いることができる。
光安定剤を含有させる場合、含有量は、有機系紫外線吸収剤100重量%を基準として、例えば0.01〜30重量%、好ましくは0.1〜20重量%である。
第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6に要求される防湿能力の程度は、40℃90%RHの環境下においてそれぞれ単位面積(1m2)の1日あたりの水蒸気透過率が、1×10-1g/m2/day以下であることが好ましく、1×10-2g/m2/day以下であることがより好ましく、1×10-3g/m2/day以下であることが更に好ましく、1×10-4g/m2/day以下であることが中でも好ましく、1×10-5g/m2/day以下であることがとりわけ好ましく、1×10-6g/m2/day以下であることが特に好ましい。水蒸気の透過を抑制するほど、太陽電池素子4を構成する活性層等の水分との反応に起因する劣化が抑えられるので、長期間にわたって、発電効率を維持することができる。そのため、薄膜太陽電池モジュールの耐久性を向上させることができる。なお、第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6の水蒸気透過率は同じであってもよいし異なっていてもよい。
第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6は、太陽電池素子4の光吸収を妨げない観点から波長400nm〜780nmを透過させるものが好ましい。特に本発明に係る薄膜太陽電池モジュールの400nm〜780nm以上の光線透過率は、活性層が多くの光を吸収するために、5%以上であることが好ましい。そのため、変換効率の向上のためにはその他の薄膜太陽電池モジュールを構成する各層の当該光線透過率を高くすることが好ましい。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するため、第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6の当該光線透過率は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上、中でも好ましくは85%以上、とりわけ好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、その中でも特に好ましくは97%以上である。なお、第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルムの6の当該光透過率は同じであってもよいし異なっていてもよい。
第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6は、通常、樹脂基材と薄膜の無機層を積層させた構成を有する
なお、樹脂基材としては、樹脂基材の波長400〜780nmにおける500時間後の光線透過率が±3%以下のものが好ましい。
樹脂基材を形成する材料は、特段の制限はなく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等の単独重合体又は共重合体等のポリオレフィン系樹脂;環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体部分加水分解物(EVOH)、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、生分解性樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、太陽電池素子の光吸収を防げない点やフィルム物性の点から、ポリエステル系樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)が特に好ましい。なお、第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6を構成する樹脂基材は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
なお、上記樹脂基材は、公知の添加剤等を含有していてもよい。
無機層を構成する無機材料は、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、あるいは、これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、酸化炭化窒化物、ダイヤモンドライクカーボン又はこれらの混合物等が挙げられる。これらのなかでも、薄膜太陽電池モジュールに適用した場合に、電流のリークを防ぐために、無機層を構成する材料は、酸化珪素、酸化炭化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、ダイヤモンドライクカーボン並びにこれらの混合物が好ましい。これらのなかでも、高い防湿性が安定に維持できるために、酸化珪素、酸化炭化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化窒化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、窒化アルミニウム及びこれらの混合物が特に好ましい。なお、無機層は複数の無機材料により構成されていてもよい。また、複数の無機層を有していてもよい。この場合も、複数の無機層は同じ材料で形成されていてもよいし、異なる材料で形成されていてもよい。薄膜太陽電池モジュールの意匠性の観点から、光学物性はより透明であることがよく、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素が好ましい。なお、第1のバリアフィルム1を構成する無機層、及び第2のバリアフィルムを構成する無機層は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また、第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6は、それぞれ無機層が形成された、複数の樹脂基材を粘着剤や接着剤を用いて積層させた構造であってもよい。
無機層の形成方法としては、特段の制限はなく、使用する材料に合わせて任意の方法で形成すればよい。具体的には、蒸着法、コーティング法等の方法がいずれも使用できる。なかでも、バリア性の高い均一な薄膜が得られるという点で蒸着法が好ましい。この蒸着法には、物理気相蒸着(PVD)、化学気相蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)等の方法が含まれる。物理気相蒸着法としては、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられ、化学気相蒸着法としては、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等が挙げられる。
また、無機層を多層設ける場合は、各層は同一の方法を用いてもよいし、各層ごとに異なる方法により形成してもよいが、各層を減圧下で連続して形成することが、効率的に、防湿性を高めることができるために好ましい。
無機層の厚さは、防湿性能の向上のために、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることが特に好ましく、一方、透明性の向上のために、1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがさらに好ましく、600nm以下であることが特に好ましい。
樹脂基材の耐候性を向上させるために、上述の通り、樹脂基材中に無機フィラーを添加してもよい。無機フィラーとしては、特段の制限はないが、例えば、シリカ、マイカ、タルク、クレー、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリナイト、ワラストナイト、炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、ガラス繊維などが挙げられる。これらのなかでも、好ましくはタルクが挙げられる。なお、樹脂基材中に混合される無機フィラーは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
また、薄膜太陽電池モジュールは光を受けて熱せられることが多いため、第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6を形成する材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池モジュールの使用時にバリアフィルムの融解・劣化を低減することができる。
第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6の厚さは、特段の制限はなく、通常10μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。バリアフィルムを厚くすることでバリア性が向上する傾向にあり、薄くすることにより柔軟性が向上するとともに、可視光線透過率が向上する傾向にある。
第1のバリアフィルム1及び第2のバリアフィルム6の形状は特段の制限はないが、長期にわたって薄膜太陽電池モジュールの性能を維持するために、第1のバリアフィルム1の端部は第1の封止層2の端部と揃っていることが好ましい。同様に、第2のバリアフィルム6の端部は第2の封止層5の端部と揃っていることが好ましい。
<1−3−2.封止層(2、5)>
封止層2は、第1のバリアフィルム1と太陽電池素子4との密着性を高める層である。同様に、封止層5は第2のバリアフィルム6と太陽電池素子4との密着性を高める層である。なお、図1に係る薄膜太陽電池モジュールにおいて、便宜上、封止層2を第1の封止層と称し、封止層5を第2の封止層5と称す。
保護フィルム8の波長370nmにおける光線透過率が5%以下であり、波長380nmにおける光線透過率は5%以上とする限りにおいて、第1の封止層2の370nm及び380nmにおける光線透過率に特段の制限は無いが、370nmにおける光線透過率は5%以下であることが好ましく、2%以下であることが更に好ましく、1%以下であることが特に好ましい。一方、第1の封止層2の380nmにおける光線透過率は10%以上であることが好ましく、15%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが特に好ましい。なお、第1の封止層2の370nm及び380nmにおける光線透過率は、紫外線吸収剤等を適宜、添加して調整することができる。なお、紫外線吸収剤としては、上述の有機系紫外線吸収剤等を使用することができる。
第1の封止層2及び第2の封止層5の可視光線透過率は、バリアフィルムと同様に、光吸収を妨げない観点から波長400〜780nmに光を透過させるものが好ましい。例えば、波長400〜780nmの光線透過率は、単一の封止層において通常75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、なかでも好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。これは、太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
第1の封止層2及び第2の封止層5はそれぞれ1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていても良い。また、第1の封止層2及び第2の封止層5はそれぞれ単層であってもよいし、2層以上の積層構造であってもよい。積層構造の場合、封止層を形成する材料は同じであってもよいし異なっていてもよい。
封止層を形成する材料は、特段の制限はなく、例えば、非結晶性の樹脂材料としては、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、ポリイソブチレン(PIB)樹脂、ポリイミド樹脂(PI)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合(ABS)樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂、エポキシ樹脂、又はアクリル系粘着剤等、を用いることができる。結晶性樹脂材料としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、エチレンメチルアクリレート(EMA)樹脂、エチレン−メチルメタクリレート(EMMA)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、マレイン酸またはシラン等で変性した変性ポリエチレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、または、ポリアミド(PA)樹脂、を用いることができる。これらのなかでも、太陽電池素子の光吸収を防げない点や透明性向上の点から、非結晶性の樹脂材料を選択することが好ましいが、特に制限はない。
また、薄膜太陽電池モジュールを施工する際や曲げが生じた場合に、薄膜太陽電池モジュール内部での剥離を防止するために、第1の封止層2と第1のバリアフィルム1とのT字型剥離試験で測定される層間密着強度は5N/25mm以上であることが好ましく、10N/25mm以上であることがさらに好ましい。一方、上限は特にない。
第1の封止層2及び第2の封止層5は、薄膜太陽電池モジュールの強度保持の観点から曲げ強度が高いことが好ましい。封止材以外の層の強度とも関係することになり一概には規定しにくいが、薄膜太陽電池モジュール全体が良好な曲げ加工性を有し、折り曲げ部分の剥離を生じないような曲げ強度を有するのが望ましい。具体的には、施工する際に薄膜太陽電池モジュール内部に生じる応力を緩和する観点から、第1の封止層2及び第2の封止層5の25℃における曲げ強度は1.0×105Pa以上、1.0×107Pa以下であることが好ましい。
また、第1の封止層2及び第2の封止層5は、薄膜太陽電池モジュールを施工する際に薄膜太陽電池モジュールに加わる外的応力を緩和する観点から25℃における縦弾性率が高い方が好ましい。特にフィルム型の薄膜太陽電池モジュールにおいては重要な実用性能である。縦弾性率の測定方法としては、封止層を溶融した後に試験片に加工し(硬化が必要な場合は硬化処理を含む)、得られた試験片から従来公知の引張試験機で測定される応力−歪曲線において、フックの法則が成立する弾性範囲での同軸方向の応力と歪の比例定数から求められる。
第1の封止層2及び第2の封止層5の25℃における縦弾性率は、1.0×108Pa以上、好ましくは5.0×108Pa以上、より好ましくは1.0×109Pa以上である。縦弾性率がこの範囲にあることで、薄膜太陽電池モジュールへのダメージを最小限とし施工することができ、仕上がり後の薄膜太陽電池モジュールの意匠性が良好である。さらに、薄膜太陽電池モジュールとしてのコシも付与できるため、施工時や加工時の薄膜太陽電池モジュールの折れ、シワの防止、および薄膜太陽電池モジュール取扱いの際のハンドリング性を向上させることができる。
さらに、薄膜太陽電池モジュールは光を受けて熱せられることが多いため、第1の封止層2及び第2の封止層5も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、第1の封止層2及び第2の封止層5を形成する材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池モジュールの使用時に封止材が融解・劣化するのを防ぐことができる。
第1の封止層2及び第2の封止層5の膜厚は特段の制限はないが、薄膜太陽電池モジュール表層側からの外圧や衝撃により発電素子がダメージを受けてしまうことを防止するために10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることが特に好ましく、一方、可視光線透過率が大幅に低下するのを防ぐために、100μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがさらに好ましく、60μm以下であることが特に好ましい。
なお、第1の封止層2及び/又は第2の封止層5に、紫外線遮断、熱線遮断、導電性、反射防止、防眩性、光拡散、光散乱、波長変換、ガスバリア性等の機能を付与してもよい。特に、太陽電池素子として、太陽電池素子を用いる場合、水や酸素により劣化しやすい傾向があり、また、太陽光の紫外線により劣化する場合があるため、ガスバリア性や紫外線遮断機能を持つことが好ましい。このような機能を付与する方法としては、該機能を有する材料を溶解・分散させるなどして第1の封止層2及び/又は第2の封止層5に含有させてもよい。
第1の封止層2及び第2の封止層5の100μmにおける水蒸気透過率は、40℃90%RH環境下で、通常10-1g/m2/day以下、好ましくは10-2g/m2/day以下、より好ましくは10-3g/m2/day以下、さらに好ましくは10-4g/m2/day以下である。水蒸気透過率は、JIS K7129に準じた感湿センサ、赤外線センサ、ガスクロマトグラフを備えた装置による測定、カップ法(JIS Z0208)により、40℃90%RH環境で測定することができる。
第1の封止層2及び第2の封止層5の100μmにおける酸素透過性は、25℃環境下で、通常1cc/m2/day/atm以下であり、1×10-1cc/m2/day/atm以下であることが好ましく、1×10-2cc/m2/day/atm以下であることがより好ましく、1×10-3cc/m2/day/atm以下であることがさらに好ましく、1×10-4cc/m2/day/atm以下であることがとりわけ好ましく、1×10-5cc/m2/day/atm以下であることが特に好ましい。酸素が透過しなければしないほど、薄膜太陽電池素子の酸化による劣化が抑えられる利点がある。なお、酸素透過率は、JIS K7126Aに準じた差圧法に基づく装置、あるいはJIS K7126Bに準じた等圧法に基づく赤外線センサ、ガスクロマトグラフを備えた装置で測定することができる。
また、保護フィルム8、9は図2の構成に限定されるわけではなく、上述の通り、他の機能を有する層をさらに兼ね備えていてもよい。例えば、図3に示すように、保護フィルム8は、さらにバリアフィルム1の表面に、粘着剤層10を有していてもよい。粘着剤層10は、例えば、薄膜太陽電池モジュールを窓ガラス等に貼り付けて設置する場合に使用される層であり、衝撃吸収層としての機能も兼ね備えた層である。
粘着層10の厚さは特段の制限はないが、物理的な衝撃の緩和のために、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、一方、太陽電池素子が多くの光を受光するために200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。
粘着層10の形成材料は、特段の制限はないが、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、及びポリウレタン系粘着剤などが挙げられる。なかでも、耐候性および透明性の観点からアクリル系粘着材が好ましい。
なお、図3に示されるような薄膜太陽電池モジュールにおいても、保護フィルム8が所望の光線透過率を満たすために、第1のバリアフィルム1、封止層2、及び粘着層10の光線透過率を適宜調整すればよい。粘着層10の波長370nm及び380nmにおける光線透過率を調整するために、粘着層10は紫外線吸収材を含んでいてもよい。紫外線吸収剤としては、上述の有機系紫外線吸収剤が挙げられる。
粘着層10は、公知の方法で設けることができる。例えば、剥離紙上に粘着層10を設け、バリアフィルム1の表面にドライラミネートしたのち、剥離紙を剥がすことにより設けることができる。
保護フィルム9は、さらに別の層を含んでいてもよい。その他の例としては、例えば、ハードコート層、ゲッター層、耐光層、等が挙げられる。
ハードコート層は、薄膜太陽電池モジュールに耐薬品性、耐擦傷性および表面平滑性を付与することができる層である。
ハードコート層は、公知の材料により形成することができ、例えば、紫外線硬化樹脂;電子線硬化樹脂;アルコキシシラン加水分解縮合系樹脂;メラミン系樹脂;(メタ)アクリレート系アルコール変性多官能化合物、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、1,6ヘキサンジオール(メタ)アクリレート等のアクリル系樹脂等を用いて形成することができる。また、ハードコート層は上記の材料に加えて、シリカ粒子とマット剤とを含有していることが好ましい。
シリカ粒子の平均一次粒径は特段の制限はないが、0.0005μm以上であることが好ましく、0.001μm以上であることがさらに好ましく、一方、0.1μm以下であることが好ましく、0.01μm以下であることがさらに好ましい。
ハードコート層の硬度は、鉛筆硬度で2H以上であるのが好ましく、3H以上であるのがさらに好ましい。
ハードコート層の膜厚は、耐擦傷性を向上させるために、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがさらに好ましく、一方、ハードコート層の硬化収縮を抑えるために10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがさらに好ましい。
また、ハードコート層を塗布した表面保護フィルムとは反対側の面のJIS B0601(1994)に規定する算術平均粗さ(Ra)を適切な範囲とすることで薄膜太陽電池モジュールの透過性を制御することができる。
算術平均粗さ(Ra)が、0.01μm未満であると、十分にニュートンリングの発生を抑制できない。また、当該(Ra)が0.05μmを超えると、ギラツキが大きくなり視認性が低下してしまう。当該(Ra)は、0.01〜0.05μmであることが、ニュートンリングの発生及びギラツキをより抑制する点、透過性を高くする点から好ましい。算術平均粗さ(Ra)は、(株)小坂研究所製SE−3400を用いることにより求めることができる。
ゲッター層は水分及び/又は酸素を吸収する層である。太陽電池素子の構成部品のなかには上述の通り、水分で劣化するものがあり、また、酸素によって劣化するものもある。そこで、ゲッター層により太陽電池素子を覆うことにより、太陽電池素子等を水分及び/又は酸素から保護し、発電性能を高く維持することが可能となる。
ここで、ゲッター層は上述のようなバリアフィルムとは異なり、水分の透過を妨げるものではなく、水分を吸収するものである。水分を吸収する層を用いることにより、バリアフィルム等で太陽電池素子を被覆した場合に、バリアフィルム間で形成される空間に僅かに浸入する水分をゲッター層が捕捉して水分による太陽電池素子への影響を排除できる。
ゲッター層の水分吸収能力の程度は、通常0.1mg/cm2以上、好ましくは0.5mg/cm2以上、より好ましくは1mg/cm2以上である。この数値が高いほど水分吸収能力が高く太陽電池素子の劣化を抑制しうる。また、上限に制限は無いが、通常10mg/cm2以下である。また、ゲッター層が酸素を吸収することにより、バリアフィルム等で太陽電池素子を被覆した場合に、バリアフィルムで形成される空間に僅かに浸入する酸素をゲッター層が捕捉して酸素による太陽電池素子への影響を排除できる。
さらに、薄膜太陽電池モジュールは光を受けて熱せされることが多いため、ゲッター層も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、ゲッター層の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池モジュールの使用時にゲッター層が融解・劣化する可能性を低減できる。
ゲッター層の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
ゲッター層は吸水剤又は乾燥剤の種類に応じて任意の方法で形成することができるが、例えば、吸水剤又は乾燥剤を分散したフィルムを粘着剤で添付する方法、吸水剤又は乾燥剤の溶液をスピンコート法、インクジェット法又はディスペンサー法等で塗布する方法等を用いることができる。また真空蒸着法やスパッタリング法等の成膜法を使用してもよい。
吸水剤又は乾燥剤のためのフィルムとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂又はポリカーボネート系樹脂等を用いることができる。中でも、ポリエチレン系樹脂、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂又はポリカーボネート系樹脂のフィルムが好ましい。なお、前記樹脂は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
耐光層は、例えば、紫外線を吸収する層であり、上述のような有機系紫外線吸収剤を含有して形成される層である。すなわち、耐光層を設けることで、保護フィルムの波長370nm、及び波長380nmの光線透過率を調整することも可能である。
なお、保護フィルム8が、ハードコート層、ゲッター層、耐光層等を有する場合も、保護フィルム8の波長370nmにおける光線透過率が5%以下であり、380nmにおける光線透過率が5%以上となるように、保護フィルム8を構成する他の層の光線透過率を考慮した上で、ハードコート層、ゲッター層、耐光層等の光線透過率を適宜、調整すればよい。光線透過率を調整する場合、上述のような有機系紫外線吸収剤を使用してもよい。
また、保護フィルム8、9は、上記以外の構成であってもよい。例えば、図4に示すように、保護フィルム8にはバリアフィルム1と封止層2を設けずに耐光層11を用いた構成であってもよい。但し、図4に示す薄膜太陽電池モジュールの構成の場合、素子基板3側のバリア性能を高めるために、上述の<1−3.保護フィルム>の項目において説明した無機膜等を素子基板3と太陽電池素子4との間に設けることが好ましい。この場合、保護フィルム8は耐光層11のみで形成されるために、耐光層11の波長370nmにおける光線透過率が5%以下とし、380nmにおける光線透過率が5%以上となるように調整すればよい。
このように、保護フィルム8、9の構成は限定されることなく、所望の薄膜太陽電池モジュールの構成に合わせて適宜、各層を選択して構成すればよい。
<1−5.集電線7>
集電線7は、太陽電池素子で発生した電気を外部に取り出すために配線である。具体的には、太陽電池素子4の上部電極及び/又は下部電極に接続することで、太陽電池素子において発電した電気を取り出すことができる。
集電線の材料としては、金属や合金などが挙げられ、中でも抵抗率の低い銅やアルミ、銀、金、ニッケルなどを用いることが好ましく、銅やアルミが安価であることから、特に好ましい。また、錆防止のため、集電線の周囲をスズや銀などでメッキしたり、表面を樹脂などでコートしてあったり、フィルムをラミネートしてあってもよい。集電線の形状としては、例えば、平角線、箔、平板、ワイヤ状等が挙げられるが、接着面積の確保などの理由から、平角線や、箔、平板状のものを用いることが好ましい。また、集電線を電気取出端子として使用することができるため、平板状であることがより好ましい。
なお、本明細書において「箔」は厚みが100μm未満のものをいい、「板」は厚みが100μm以上のものをいう。また「平角線」とは、断面が円形のワイヤを圧延して、断面の形状を四角形にしたものをいう。
集電線は、導電性を有する限り特段の限定はされないが、接続する上部電極や下部電極よりも抵抗値が低いものが好ましく、特に、上部電極や下部電極より厚さを厚くすることによって、抵抗値を低減させることが好ましい。集電線の厚さとしては、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上である。また、2mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは500μm以下、特に好ましくは300μm以下である。集電線の厚さが上記下限以上であることで、集電線の抵抗値の上昇を抑制し、発電した電力を効率よく外部に取り出すことができる。また、上記上限以下であることで、薄膜太陽電池モジュールの重量が増加するとともに可撓性が減少したり、薄膜太陽電池モジュール表面に凹凸が発生しやすくなったり、生産コストが増加するなどの問題が生じる恐れがある。
集電線の幅は、通用0.5mm以上、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上であり、通常50mm以下、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下である。集電線の幅が上記下限以上であることで、集電線の抵抗値の上昇を抑制し、発電した電力を効率よく取り出すことができる。また、集電線の機械強度を維持し、破断等を抑制することができる。上記上限以下であることで、モジュール全体における開口率を維持し、モジュールの発電量の低下を抑制することができる。
なお、集電線を太陽電池素子の電極と接続する方法は特段の制限はなく、公知の方法により接続させればよい。例えば、導電性接着剤、導電性テープ、はんだ等により接続することができ、なかでも導電性接着剤により接続させることが好ましい。導電性接着剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、熱可塑性、熱硬化性等の導電性接着剤を使用することができる。
本発明に係る薄膜太陽電池モジュールの製造方法は特段の制限はなく、本発明に係る薄膜太陽電池モジュールが製造できる限りにおいては、どのように製造してもよい。例えば、図1に示される薄膜太陽電池モジュールの製造方法としては以下の方法が挙げられる。
第1のバリアフィルム1及び第1の封止層2を積層させた積層体及び第2のバリアフィルム6及び第2の封止層5を積層させた積層体を用意する。これらの積層体を、図1に示される薄膜太陽電池モジュールの積層構造になるように、太陽電池素子4及び素子基板3に重ねた後に、真空ラミネーション、ホットプレス、またはロールラミネーション等の公知の方法により一体化することで薄膜太陽電池モジュールを得ることができる。なお、上述の真空ラミネーション、ホットプレス、ロールラミネーションの条件は、薄膜太陽電池モジュールを構成する層の材料等を考慮して適宜調整すればよい。また、あらかじめ、太陽電池素子を構成する任意の電極に集電線7を設置しておくことが好ましい。該電極に集電線を設置する方法は公知の方法を用いればよい。
本発明に係る薄膜太陽電池モジュールは、任意の用途に用いることができる。例えば、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池等が挙げられる。特に、本発明に係る薄膜太陽電池モジュールは意匠性が重要視される建物等の窓ガラス等に設置して設けられることが好ましい。
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。まず、本実施例で行った測定・評価試験について説明する。
<光線透過率の測定方法>
薄膜太陽電池モジュールの太陽電池素子が形成されていない側の保護フィルムの光線透過率は日立ハイテクノロジー製U−4100を用い、JIS R 3106に準じた方法で測定した。具体的には、後述の通り作製した薄膜太陽電池モジュールの端部から太陽電池素子が形成されていない素子基板面の保護フィルムを切り出し、保護フィルムの波長370nm及び波長380nmにおける光線透過率を測定した。なお、得られた透過スペクトルを図6に示す。
<薄膜太陽電池モジュールの変換効率の測定方法>
薄膜太陽電池モジュールにソーラシュミレーター(分光計器社製)でAM1.5G条件の光を照射強度1000W/cm2を照射して、得られた電流・電圧曲線から、エネルギー変換効率(PCE)を求めた。
<薄膜太陽電池モジュールの光照射方法>
セリック社製ソーラーシミュレーター、SML−2K1を使用して、AM1.5G条件の光(照射強度1000W/cm2)を連続照射して、光照射試験を行なった。連続照射時は、薄膜太陽電池モジュールの太陽電池素子が形成されていない側の素子基板面から光が入射するようにモジュールをセットした。
<実施例1>
図1の模式断面図に示す層構成を有する薄膜太陽電池モジュールを以下の手順で作成した。
素子基板として用意したポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム社製Q65、厚さ100μm)の片面に、スパッタリング法により、厚さ50nmの第1の酸化インジウム層、厚さ8nmの銀層、厚さ30nmの第2の酸化インジウム層をこの順に積層して、下部電極を形成した。
次に、下部電極の上に、日本国特開2015−127408号公報に記載された方法により、電子取り出し層として、厚さ50nmの酸化亜鉛層を形成した。
次に、酸化亜鉛層上に、厚さ320nmの活性層を形成した。具体的には、高分子有機半導体とフェニルC61フラーレン酪酸メチルエステル(PCBM)を重量比1:2.5で含む混合物を、6質量%となるように有機溶媒に溶解させた溶液を用いて塗布により形成した。
次に、活性層上に、正孔取り出し層として、厚さ400nmのPEDOT:PSS層を形成した。具体的には、PEDOT:PSS層は、PEDOT:PSS分散液を超音波分散した後、96時間放置し、その後、ドクターブレード法で活性層上に塗布し、窒素雰囲気化145℃、30分間乾燥して形成した。
次に、正孔取り出し層上に、スパッタリング法により厚さ8nmの銀層、及び厚さ40nmの酸化インジウム層をこの順に積層して、上部電極を形成した。こうして、素子基板上に太陽電池素子を作製した。
次に、導電性熱硬化樹脂組成物付集電線(デグセリアルズ社製 DT101C4、(導電性粒子としてニッケル粒子を含むエポキシ系導電性硬化樹脂、硬化温度120℃)15μm+銅箔35μm厚、幅4mm)を設置した。
次に、バリアフィルムとして厚み60μmの三菱樹脂製、VIEW−BARRIER、VDK3DAを準備した。なお、バリアフィルムの波長370nmにおける光線透過率は3%、波長380nmにおける光線透過率は16%であり、波長400nmにおける光線透過率は75%であり、40℃90%RHにおける水蒸気透過率は5×10-3g/m2/dayであった。続いて、作成したバリアフィルムに封止層として厚み30μmのオレフィン樹脂(クラボウ社製クランベター)を積層した積層体を2つ作製した。なお、封止層の波長370nmにおける光線透過率は91%、波長380nmにおける光線透過率は92%であった。
次に、これらの積層体を、下から順に、バリアフィルム、封止層、素子基板、太陽電池素子、封止層、バリアフィルムとなるように積層体、太陽電池素子及び太陽電池基板を重ねて、真空ラミネーター(NPC社製、NLM−270×400)に投入した。最初にラミネーター内部を減圧下で15分間保持した後、積層体を大気圧で圧着状態としつつ、120℃で10分間保持し、その後すぐに室温下まで冷却した。その後、太陽電池素子が形成されていない側のバリアフィルム表面に粘着層として厚み170μアクリル系粘着剤(3M社製粘着剤転写テープ)をドライラミネートにより積層し、貼り付けた。なお、粘着層の波長370nmにおける光線透過率は82%、波長380nmにおける光線透過率は83%であった。
実施例1により得られた薄膜太陽電池モジュールの太陽電池素子が形成されていない側の基板面の保護フィルム側から光が入射するように、AM1.5G条件(照射強度1000W/cm2)の下、500時間連続照射後の変換効率を測定した。得られた結果を表1に示す。また、上述の方法により測定した素子基板側の保護フィルムの波長370及び波長380nmの光線透過率も表1に示す。
<比較例1>
バリアフィルムを三菱樹脂製、VIEW−BARRIER、VDK3DAの代わりに厚み50μmのポリエチレンテレフタレート基材の一方の面に200nmのSiO2をスパッタリングして作成したバリアフィルムに変更、および、粘着糊を厚み30μの紫外線吸収剤入りアクリル系粘着剤(3M社製粘着剤転写テープ)に変更した以外は実施例1と同様の方法により、薄膜太陽電池モジュールを作製し、同様の評価を行った。なお、バリアフィルムの波長370nmにおける光線透過率は90%、波長380nmにおける光線透過率は92%であり、40℃90%RHにおける水蒸気透過率は5×10-4g/m2/dayであった。また、紫外線吸収剤入り粘着層の波長370nmにおける光線透過率は0.2%、波長380nmにおける光線透過率は0.5%、波長400nmにおける光線透過率は30%であった。得られた結果を表1に示す。また、上述の方法により測定した素子基板側の保護フィルムの波長370及び波長380nmの光線透過率も表1に示す。
<比較例2>
バリアフィルムを三菱樹脂製、VIEW−BARRIER、VDK3DAの代わりに厚み50μmのポリエチレンテレフタレート基材の一方の面に厚さ200nmのSiO2をスパッタリングして作成したバリアフィルムに変更した以外は実施例1と同様の方法により、薄膜太陽電池モジュールを作製し、同様の評価を行った。なお、バリアフィルムの波長370nmにおける光線透過率は90%、波長380nmにおける光線透過率は92%であり、40℃90%RHにおける水蒸気透過率は5×10-4g/m2/dayであった。得られた結果を表1に示す。また、上述の方法により測定した素子基板側の保護フィルムの波長370及び波長380nmの光線透過率も表1に示す。
実施例1及び比較例1の薄膜太陽電池モジュールの素子基板は黄変しなかった。一方、比較例2の薄膜太陽電池モジュールの素子基板は黄変していた。
実施例1の薄膜太陽電池モジュールについて、AM1.5G(照射強度1000W/cm2)条件、500時間連続照射後の変換効率を測定した結果、発電効率が4.57%と良好な値であった。一方、比較例1及び2の薄膜太陽電池モジュールの発電効率はそれぞれ、4.24%、4.15%であり、実施例1に係る薄膜太陽電池モジュールの変換効率と比較して10%近く低い値となった。この理由としては以下の理由が考えられる。
比較例1では、紫外線領域の透過光を過剰に遮断したため、素子基板の黄変は抑制されたものの、紫外線領域での電荷取り出し層の光励起が効率良く起こらず、発電効率が低くなったものと考えられる。また、比較例2では、紫外線領域の透過率が高すぎるため、素子基板の黄変により400nm〜780nmの光線透過率が低下してしまい、発電効率のロスに繋がる結果となってしまったものと考えられる。
以上の結果から、本発明のように特定の保護フィルムを用いることで、素子基板の黄変も防ぎつつ、高い変換効率を備えた薄膜太陽電池モジュールを提供できるものと考えられる。