本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
本発明における潜像印刷物(1)の基本的な構成について、図1から図13を用いて説明する。図1に、本発明の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に印刷画像(3)を有して成る。基材(2)は、印刷画像(3)が形成可能な平面を備えていればよく、上質紙、コート紙、プラスティック、金属等、材質は特に限定されない。その他、基材(2)の色彩や大きさについても特に制限はない。印刷画像(3)の色彩については、透明であってはならないが、不透明であればいかなる色彩でもよく、正反射光下での反射光量が大きいか、又は正反射時に目視できる色彩を呈するのであれば問題ない。具体的には反射層(6)の光学特性として後述する。
図2に印刷画像(3)の概要を説明するための展開図を示す。印刷画像(3)は、蒲鉾状要素群(4)の上に潜像要素群(5)が重なり、さらにその上に反射層(6)が形成されて成る。正反射時に出現する有意情報は、潜像要素群(5)中に含まれる。この例において潜像要素群(5)は、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字を表す第一の潜像要素群(5A)と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字を表す第二の潜像要素群(5B)から成る。
図3に、基材(2)上に形成された蒲鉾状要素群(4)の一例を示す。蒲鉾状要素群(4)は、一定の幅(W1)の直線であり、一定の盛り上がり高さを有した蒲鉾形状を有する蒲鉾状要素(7)が、万線状に配置されて成る。本発明において、「万線状に配置する」とは、複数の要素が規則的に所定のピッチで配列されている状態をいう。より具体的には、蒲鉾状要素(7)が、画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配置されて成る。なお、実施の形態において蒲鉾状要素群(4)は、盛り上がりを有した蒲鉾状の画線の集合によって構成された例について説明するが、本発明における蒲鉾状要素群(4)は、これに限定されるものではなく、蒲鉾状の画素形態として単純に上下左右に等ピッチで配置して蒲鉾状要素群(4)としてもよい。
蒲鉾状要素群(4)は樹脂を含んだ材料によって構成される必要がある。ここでいう樹脂とは、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の一般的な印刷インキのワニス成分に当たる、一定の光沢を有した樹脂を指す。すき入れやエンボス等によって基材(2)に直接凹凸を形成する構成では本発明の必須要件を満たさない。これは、基材(2)と同じ素材で構成した場合には、蒲鉾状要素群(4)の上に形成される反射層(6)の反射光量を嵩上げする効果を得られないためである。また、最終的に蒲鉾状要素群(4)の反射光量は、反射層(6)の反射光量を嵩上げする役目を担うため、蒲鉾状要素群(4)の反射光量が高いことが好ましい。すなわち、蒲鉾状要素群(4)の光沢は、高ければ高いほど最終的な潜像画像の視認性の高さに寄与する。
一般にUV硬化型のスクリーン印刷によって蒲鉾状要素群(4)を形成する場合、スクリーンインキの粘度が高い方が、蒲鉾状要素(7)の盛り上がり高さは高く、かつ、それぞれの蒲鉾状要素(7)の三次元立体形状は、互いに均一になる傾向にある。このような蒲鉾状要素(7)の均一な構造は、潜像の視認性や鮮明さを高めるためには極めて好ましいことから、本発明の蒲鉾状要素群(4)を形成するに当たっては、粘度の高いインキを用いることが好ましい。
従来のように、蒲鉾状要素群(5)自体に特殊な光学特性を付与しなければならない形態において、高粘度インキを使用した場合には、インキ内の機能性材料の配向に悪影響を与え、光学特性が低下することから、粘度の低いインキを用いざるを得ず、蒲鉾状要素(7)の三次元立体形状は犠牲になることが通例であった。これに対し、粘度の高いインキを用いて均質な蒲鉾状要素(7)の形成を成し得るのは、蒲鉾状要素(7)が特別な光学特性の実現を担う必要がないことに起因するものであり、本発明の大きな長所の一つである。均質な立体構造の蒲鉾状要素(7)の形成を重視するのであれば、インキ粘度は1.5Pa・sを超えていることが好ましい。
蒲鉾状要素群(4)の上に形成される反射層(6)とは、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を有して光反射特性に優れた印刷皮膜である。なお、蒲鉾状要素(7)と、蒲鉾状要素(7)の間にある、基材(2)が露出した非画線部については、蒲鉾状要素群(5)に含まれ、印刷画像(3)に含まれるものとする。
なお、反射層(6)は、正反射時に出現する潜像の視認性を高めるために、理論上面積率100%(ベタ)で形成することが最も効果的であるが、面積率100%で形成した場合、反射層(6)の色彩や光学特性によっては、反射層(6)の下に存在する蒲鉾状要素群(4)と潜像要素群(7)との正反射光下での色差が減衰し、出現する基画像の視認性が大きく低下する場合がある。そのような場合には、反射層(6)の網点面積率を低く設計すればよい。反射層(6)は、少なくとも20%以上の網点面積率で形成することが好ましい。
反射層(6)は、先に印刷され、既に硬化した蒲鉾状要素群(4)の上に形成される。反射層(6)は、一定膜厚のインキ層から成ることから、蒲鉾状要素群(4)に反射層(6)が重なった場合には、土台となる蒲鉾状要素群(4)の盛り上がりの高さや幅のような大まかな立体構造はそのまま反映されるが、一方で蒲鉾状要素群(4)の画線表面のわずかな凹凸は、反射層(6)の膜厚によって印刷直後にある程度平坦に埋められる。このため、蒲鉾状要素群(4)に反射層(6)が重なった場合の表面は、蒲鉾状要素群(5)の表面よりも滑らかになり、結果として正反射光下で出現する基画像の鮮明さが向上することとなる。なお、反射層(6)は、蒲鉾状要素(4)上にのみ形成される必要はなく、蒲鉾状要素(7)と蒲鉾状要素(7)の間の非画線部にも形成されてもよい。
また、反射層(6)は、光が入射した場合には強く光を反射する特性を有する必要がある。具体的には、光が入射した場合に、明るさ(明度)が上昇する特性、いわゆる明暗フリップフロップ性か、光が入射した場合に色相が変化する特性、いわゆるカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性を有する必要がある。明暗フリップフロップ性は、アルミや真鍮、酸化鉄等の一般的な金属顔料をインキ中に配合することで容易に付与することができる。また、カラーフリップフロップ性は、カラーフリップフロップ性を備えた機能性材料をインキ中に配合することで付与できる。
カラーフリップフロップ性を備えた機能性材料の具体的な一例としては、パール顔料やコレステリック液晶、ガラスフレーク顔料、金属粉顔料や鱗ペン状金属顔料等がある。また、当然のことながら機能性顔料をインキに配合するだけではなく、明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性を有するインキとして市販されているインキを用いて反射層(7)を形成してもよい。明暗フリップフロップ性を有する市販インキとしては、金インキや銀インキ、樹脂自体の光沢が高いOPニス、グロスニス等が存在し、カラーフリップフロップ性を有する市販インキとしてはCSIやOVI、液晶インキ等がある。
ここで、反射層(6)の拡散反射光下における色彩について説明する。まず、反射層(6)は不透明とする必要がある。特定の色彩で着色されていても、されていなくてもよいが、いずれにしても入射光を透過する特性を有していてはならない。これは、蒲鉾状要素(7)の上に重なった反射層(6)に光が入射した場合に、蒲鉾状要素(7)の内部から内面反射光を生じさせないために必要となる光学特性であり、この条件を満たすことで、蒲鉾状要素(7)の上に重なった反射層(6)に光が入射した場合に生じる反射光は全て蒲鉾状要素(7)の上に重なった反射層(6)の画線表面から生じる表面反射光となり、本発明の効果の一つである潜像の鮮明さを担保することができる。
続いて、潜像要素群(5)について図4を用いて説明する。なお、この潜像要素群(5)については、図4に示す構成に限るものではなく、後述する図8及び図10に示す構成で形成することも可能である。潜像要素群(5)は、正反射時に出現する潜像の基となる、複数の有意情報を含んで成る。本実施の形態の例では第一の有意情報である、アルファベットの「A」の文字と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字の二つの有意情報を含んでいる。それぞれの有意情報を表した画像をそれぞれ基画像と呼ぶ。本実施の形態においては、アルファベット「A」の文字は、第一の基画像とし、アルファベットの「B」の文字は、第二の基画像とする。
本実施の形態において、第一の基画像が表す第一の有意情報は、図4(b)に示す第一の潜像要素群(5A)によって表され、第二の基画像が表す第二の有意情報は、図4(c)に示す第二の潜像要素群(5B)によって表される。第一の潜像要素群(5A)は、一定の画線幅(W2)の第一の潜像要素(8A)が、蒲鉾状要素群(4)と同じ第一の方向(S1方向)に、同じピッチ(P1)で、万線状に連続して配置されて成り、第二の潜像要素群(5B)は、一定の画線幅(W3)の第二の潜像要素(8B)が、蒲鉾状要素群(4)と同じ第一の方向(S1方向)に、同じピッチ(P1)で、万線状に連続して配置されて成る。第一の潜像要素(8A)の画線幅(W2)は全て同じであり、第二の潜像要素(8B)の画線幅(W3)も全て同じである必要があるが、第一の潜像要素(8A)の画線幅(W2)と第二の潜像要素(8B)の画線幅(W3)の値は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
ここで、それぞれの第一の潜像要素(8A)と第二の潜像要素(8B)の位置関係について説明する。第一の潜像要素(8A)と第二の潜像要素(8B)は重なり合ってはならない。具体的には第一の潜像要素(8A)と第二の潜像要素(8B)は、第一の方向(S1)に位相がずれている必要がある。図4(a)は、その一例として、ピッチ(P1)の2分の1ずれて配置された状態を示している。仮に、第一の潜像要素(8A)と第二の潜像要素(8B)が重なり合って配置された場合には、正反射光下の特定の観察角度において、第一の有意情報と第二の有意情報が重なり合った不明瞭な画像が出現するため、そのような構成は避けなければならない。なお、以降の説明では、具体的に個別の潜像要素(8A、8B)を指すのではなく、潜像要素全般を指す場合には潜像要素(8)として説明する。
以上のように、製作者が正反射光下で潜像として出現させたいと意図する情報(画像)が基画像であり、基画像を本技術の構成に合わせて分断及び/又は圧縮等の処理を施した画像が潜像要素群(5)であり、潜像要素群を構成している一つ一つの要素が潜像要素(8)である。
潜像要素群(5)を構成するそれぞれの潜像要素(8)の正反射光下における色彩は、透明であっても半透明であってもよく、着色されていてもよい。ただし、蒲鉾状要素(7)の上に潜像要素(8)が重なって、更にその上に反射層(6)が重なった場合に、潜像要素(8)が視認できるほど、濃い濃度で着色されていてはならない。具体的には、ベタ部分の反射濃度で主成分が0.5を超える色濃度を有していてはならない。
正反射光下で出現する基画像の視認性を高くするためには、蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)は、その表面性が大きく異なっていることが好ましい。特に、本発明においては、蒲鉾状要素(7)の上に潜像要素(8)が重なり、更にその上に反射層(6)が重なる。反射層(6)は、蒲鉾状要素(7)と比較すると薄い膜厚であることから、蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)の表面性の違いが反射層(6)に反映される。すなわち、滑らかな蒲鉾状要素(7)の上に重なった反射層(6)は、その表面が滑らかであり、粗い潜像要素(8)の上に重なった反射層(6)は、その表面が粗くなる。
基本的には蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)の表面性の違いが、反射層(6)の表面性の違いとして反映され、そしてそのまま基画像の視認性へと直結する。逆に、その表面性の差異が小さい場合には、反射層(6)の膜厚によって埋められてしまい、反射層(6)表面にその表面性の差異が反映されず、正反射光下で出現する基画像の視認性が低くなる。以上のことから、蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)は、可能な限り大きな表面性の違いが生じるように設計することが好ましい。
表面性の差異の具体的な範囲については、微細領域の表面性の違いを容易に測定できる数値で表すことは困難であることから、表面性と相関の高い数値である、正反射時の明度の差に換算して示すと、蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)の間には少なくとも明度L*で10以上の明度差が必要である。なお、明度L*の測定については、明度が測定可能な装置であれば特に限定はなく、例えば、一般的な色彩色差計を用いることができる。多くの場合、蒲鉾状要素(7)は高光沢な構成となることから、潜像要素(8)は逆に低光沢であることが好ましい。すなわち、蒲鉾状要素(7)の明度が高く、潜像要素(8)の明度が低い構成とすることが好ましい。
基材(2)、蒲鉾状要素群(4)、潜像要素群(5)及び反射層(6)は、図1(b)の本発明の潜像印刷物(1)の断面図に示すように密着して形成される。積層順序は図5に示すように、まず、基材(2)に蒲鉾状要素群(5)を印刷し、その上に潜像要素群(5)を印刷し、更にその上に反射層(6)を重ね合わせて形成する。
蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)の上に反射層(6)が密着して形成された印刷画像(3)に、特定の光源(9)から光が入射した場合の光の挙動の模式的な拡大図を図6に示す。本発明の潜像印刷物(1)に入射した光は、ほぼ全てが反射層(6)表面で反射及び吸収される。また、この際、インキ樹脂(蒲鉾状要素(7))の上に形成された反射層(6)は、その反射光量が嵩上げされて反射光量は相対的に増大する。また、従来技術の図14(b)の例のように、蒲鉾状要素(7)の内部へと光が侵入することはなく、蒲鉾状要素(7)の内部から発せられる内面反射光は生じない。このため、反射光は全て画線表面で反射される反射光となり、入射する光の角度に応じて適正な潜像要素(8)のみがサンプリングされる効果が生まれる。図6の例においては、本発明の効果を示す図として、入射する光が反射層(6)で反射され、第一の潜像要素(8A)のみがサンプリングされ、第二の潜像要素(8B)はサンプリングされない状態を示している。この結果、正反射光下で出現する基画像の視認性が向上するとともに、画像の鮮明さも向上する。
なお、仮に反射層(6)が透明であって、蒲鉾状要素(7)が不透明である場合には、反射層(6)と蒲鉾状要素(7)の画線表面によって光は反射され、同様に蒲鉾状要素(7)内部に光は侵入しないため、本発明の効果に近い効果を得ることができる。ただし、この場合、反射層(6)が不透明な場合と異なり、入射する光を反射する画線表面が反射層(6)と蒲鉾状要素(7)の二つの面となる。反射面が二つ存在する場合、この反射面の距離の差(反射層(6)の厚み)が1μm以下であっても、潜像の鮮明さに影響を与えるため、潜像は不鮮明になる場合がある。このため、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像を鮮明に出現させるためには、反射層(6)を不透明とする必要がある。
以上、説明したとおり、本発明の潜像印刷物(1)において、蒲鉾状要素(7)と潜像要素(8)の上に反射層(6)を形成し、かつ、反射層(6)を不透明とすることで、反射光の光量を増大させるとともに、反射光を画線表面由来の光のみとすることができる。
続いて、本発明の潜像印刷物(1)の効果について図7を用いて説明する。図7(a)のように、右側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(10)には、第一の有意情報であるアルファベットの「A」が視認される。一方、図7(b)のように、左側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(10)には、第二の有意情報であるアルファベットの「B」が視認される。以上のように、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果を有する。
以上のような効果を生じる理由について説明する。図7(a)に示すように、右側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を有する反射層(6)は、盛り上がりを有する蒲鉾状要素(7)上に形成されて成るため、入射した光と法線を成す面のみを中心に光を強く反射する。反射層(6)の画線表面のうち、盛り上がりの中心より右側は光を強く反射して色彩が変化する。反射層(6)の右側の下層には、通常の観察条件では不可視ではあるが、蒲鉾状要素(7)と表面性の異なる第一の潜像要素(8A)が重なって形成されており、表面性の違いに起因する反射率の違いによって、第一の潜像要素(8A)が周囲とは異なる色彩で可視化される。
この場合、反射層(6)の表面のそれぞれの盛り上がりにある全ての第一の潜像要素(8A)が一度に可視化されるため、結果として第一の潜像要素群(5A)が表す第一の有意情報のアルファベットの「A」(第一の基画像)が出現する。その一方で、入射した光と法線を成さなかった反射層(6)の盛り上がりの中心より左側表面は、光を反射できないため色彩は変化せず、結果として左側表面にある第二の潜像要素(8B)は、可視化されず、第二の有意情報は出現しない。
逆に、図7(b)のように、左側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合には、反射層(6)の左側の下層に重ねられた第二の潜像要素(8B)が色彩の違いによって可視化され、第二の潜像要素群(5B)が表す第二の有意情報であるアルファベットの「B」が出現する。この場合、右側表面にある第一の潜像要素(8A)は、可視化されず、第一の有意情報は出現しない。
以上のように、蒲鉾状要素(7)の画線表面に重ねられた潜像要素(8)のうち、入射した光と法線を成した反射層(6)の下層に存在する潜像要素(8)のみが色彩の違いによって可視化され、それ以外の潜像要素(8)は可視化されない効果が生じる。これによって、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果が生じる。以上が、本発明の潜像印刷物(1)の画像のチェンジ効果が生じる原理である。なお、特許第4682283号公報や特許第4660775号公報に記載の画線、画素構成や効果に関しては、本発明の潜像印刷物(1)に全て応用することができる。
ここまで説明した潜像印刷物(1)は、潜像要素群(5)を特許第4682283号公報や特許第4660775号公報に記載の技術のような特定の有意情報を潜像要素(8)によって分割した画線構成を用いて形成する形態であり、潜像印刷物(1)を傾けることである有意情報から異なる有意情報へとチェンジする、画像のチェンジ効果が生じる形態であった。しかしながら、本発明の潜像印刷物(1)の潜像要素群(5)の構成や、その構成に伴って生じる効果は、前述したように、これに限定されるものではない。例えば、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載の技術のようなモアレが拡大されて視認できる「モアレ拡大現象(Moire Magnification)」を利用した動画効果や、特許第5200284号公報に記載の技術のように、インテグラルフォトグラフィ方式の動画効果を生じさせる形態に適用してもよい。これらについて以下に具体的に説明する。
図8に示すのは、モアレ拡大現象を利用して、図9に示すように潜像として拡大モアレ(12A、12B)が出現し、潜像印刷物(1)を傾けることで出現した拡大モアレ(12A、12B)が動いて見える、特殊な動画効果を生じさせることが可能な潜像要素群(5)の一形態である。潜像要素群(5)以外の印刷画像(3)の構成については、先に説明した画像のチェンジ効果が生じる形態と全く同じであるので説明を省略する。
モアレ拡大現象を利用する潜像要素群(5)は、蒲鉾状要素(7)の画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に基画像(11A、11B)を圧縮した潜像要素(8)を、蒲鉾状要素群(4)のピッチ(P1)とわずかに異なるピッチ(P2、P3)で連続して万線状に連続して配置した構成を有する。図8の例では、潜像要素群(5)は二つの要素群から成り、第一の潜像要素群(5A)と、第二の潜像要素群(5B)から成る。第一の潜像要素群(5A)は、第一の基画像(11A)としてアルファベットの「J」の文字を第一の方向(図中S1方向)に圧縮して画線幅W2とした第一の潜像要素(8A)を蒲鉾状要素群(4)のピッチ(P1)よりわずかに小さなピッチ(P2)で、第一の方向(図中S1方向)に連続して配置して成る。第二の潜像要素群(5B)は、第二の基画像(11B)としてアルファベットの「P」の文字を第一の方向(図中S1方向)にミラー反転して圧縮して画線幅W3とした第二の潜像要素(8B)を蒲鉾状要素群(4)のピッチ(P1)よりわずかに大きなピッチ(P3)で、第一の方向(図中S1方向)に連続して配置して成る。
図8に示した潜像要素群(5)を用いた場合の潜像印刷物(1)の効果は図9に示すとおりである。図9(a)のように、観察者の視点(10)が強い反射光が生じない拡散反射光下にある場合、観察者は、印刷画像(3)の中に何も視認できない。しかし、図9(b)や図9(c)のように、観察者の視点(10)が強い反射光が生じる正反射光下にある場合、観察者は、印刷画像(3)の中にアルファベットの「J」を表す拡大モアレ(12A)と、アルファベットの「P」を表す拡大モアレ(12B)が視認できる。
また、図9(b)や図9(c)のように、潜像印刷物(1)を傾けたり、入射する光の角度を変えたりした場合には、それぞれの拡大モアレ(12A、12B)が、第一の方向(S1方向)か、あるいは第一の方向(S1方向)と逆方向にそれぞれ反対方向に動く様子を視認することができる。以上のように、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像要素群(5)の画線構成を変えるだけで、チェンジ効果とは全く異なるモアレ拡大現象を利用した動画効果を生じさせることができる。なお、このような効果が生じる原理や効果的な構成、条件等については、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載のとおりであり、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報に記載の画線、画素構成等については、本発明の潜像印刷物(1)に応用することができる。
続いて、図10に示すのは、インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用して、潜像として基画像(13)が出現し、潜像印刷物(1)を傾けることで出現した基画像(13)が動いて見える、動画効果が生させることが可能な潜像要素群(5)の一形態である。潜像要素群(5)以外の印刷画像(3)の構成については、先に説明した画像のチェンジ効果が生じる形態と全く同じであるので説明を省略する。
インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用する潜像要素群(5)は、蒲鉾状要素群(4)の画線方向と直交する第一の方向(図中S1方向)に基画像(13)を分割して圧縮した潜像要素(8)を、蒲鉾状要素群(4)のピッチ(P1)と同じピッチ(P1)で連続して複数配置した構成を有する。図10の例では、潜像要素群(5)は「桜の花びら」を表した基画像(13)から作製した複数の潜像要素(8)から成る。
潜像要素群(5)は、基画像(13)を一定の幅で分割して取り出して、取り出した画像を第一の方向(図中S1方向)に圧縮して画線幅(W2)とした潜像要素(8)を蒲鉾状要素群(4)のピッチ(P1)と同じピッチ(P1)で、第一の方向(図中S1方向)に万線状に連続して配置して成る。モアレ拡大現象を利用した図8の例と異なり、隣り合う潜像要素(8)同士は、基画像(13)から取り出す際の位相を一ピッチ分だけずらして圧縮しているため、わずかに形状が異なる。
図10に示した潜像要素群(5)を用いた場合の潜像印刷物(1)の効果は、図11に示すとおりである。図11(a)のように、観察者の視点(10)が強い反射光が生じない拡散反射光下にある場合、観察者は、印刷画像(3)の中に何も視認できない。しかし、図11(b)や図11(c)のように、観察者の視点(10)が強い反射光が生じる正反射光下にある場合、観察者は、印刷画像(3)の中に基画像(13)である「桜の花びら」が視認できる。また、図11(b)や図11(c)のように、潜像印刷物(1)を傾けたり、入射する光の角度を変えたりした場合には、基画像(13)が第一の方向(S1方向)か、又は第一の方向(S1方向)と逆方向に動く様子を視認することができる。
以上のように、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像要素群(5)の画線構成を変えるだけで、チェンジ効果とは全く異なるインテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用した動画効果を生じさせることができる。なお、このような効果が生じる原理、効果的な構成、条件等については、特許第5200284号公報に記載のとおりであり、特許第5200284号公報に記載の画線、画素構成を本発明の潜像印刷物(1)の構成に応用することができる。
図4、図8及び図10を用いて説明したように、本発明の潜像印刷物(1)は、蒲鉾状要素群(4)の上に重ねる潜像要素群(5)の構成を変えることで、様々な効果を生み出すことができる。
また、前述の反射層(6)は、単一の面積率で構成された、濃淡のない単調な階調を表した構成であったが、反射層(6)が面積率の差異によって任意の有意情報を表すことを特徴とする構成を用いてもよい。この場合、拡散反射光下でも任意の有意情報が視認され、正反射光下では異なる画像(基画像)が出現する、拡散反射光下と正反射光下で画像がチェンジする効果を、前述の正反射光下での効果に追加することができる。
次に、図12に反射層(6)が面積率の差異によって任意の有意情報を表すことを特徴とする構成の積層関係の概要を示す。図5の積層関係の概要図で示した「単一の面積率で構成された、濃淡のない単調な階調を表した反射層(6)」とは異なり、図12では、反射層(6)が網点面積率の差異によって「JPN」という有意情報を表している。図5の構成と図12の構成の違いは、反射層(6)の網点面積率の構成のみであり、その他の構成や材料等は同じである。
図12のような反射層(6)が有意情報を表す構成においては、反射層(6)の最大網点面積率と最小網点面積率の差異は、5%以上50%以下とする必要がある。5%未満の場合、階調表現域が狭くなり過ぎて拡散反射光下における有意情報の視認性が低くなるためであり、50%を超える場合、拡散反射光下における有意情報の視認性は高くなるが、反射層(6)が表す有意情報が正反射光下で完全に消失しきらない場合があるためである。
本発明の潜像印刷物(1)の効果について図13を用いて説明する。図13(a)に示すような観察者の視点(10)が拡散反射光下にある場合において、印刷画像(3)の内部には「JPN」が視認される。また、図13(b)のようにある特定の角度から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、「JPN」は完全に消失し、観察者(10)には、第一の有意情報であるアルファベットの「A」が視認される。一方、図7(b)のように、別の角度から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(10)には、第二の有意情報であるアルファベットの「B」が視認される。以上のように、拡散反射光下においては、反射層(6)に形成された有意情報が視認されるとともに、正反射光下においては、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果を有する。
なお、実施の形態において、画像のチェンジ効果については、一例として二つの潜像がチェンジする構成について説明したが、潜像の数を二つに限定するものではない。すなわちn個の潜像を付与するのであれば、第一の潜像要素群から第nの潜像要素群までを有する潜像要素群(5)を構成し、それぞれの潜像要素が重なり合わないように配置すればよい。
蒲鉾状要素(7)の画線の盛り上がりの高さは、特に制限するものではないが流通適性を考えると1mm以上の高さを有することは好ましくない。また、蒲鉾状要素(7)をインキによって形成する場合であって、皮膜の厚さが2μm以下の場合は、画像のチェンジ効果が低くなる場合がある。よって、蒲鉾状要素(7)をインキ皮膜によって形成する場合には、2μm以上1mm以下であることが好ましい。
全ての構造や画線に共通する一定のピッチ(P1)は、0.01mm以上5.0mm以下で形成することが好ましい。0.01mm未満のピッチで、蒲鉾状要素に2μm以上の盛り上がりを形成する場合には、一般的な印刷で再現できる蒲鉾状要素のピッチとしては、ほぼ限界のピッチであり、印刷物品質の安定性に欠ける上に、たとえ0.01mm未満のピッチで要素を形成できた場合でも、ほとんどの場合、出現する潜像の視認性が極端に低くなるため適切ではない。また、逆に、5.0mmを超えるピッチで形成した場合には、潜像として再現できる画像の解像度が極端に低くなってしまうため適切ではない。
実施の形態の潜像印刷物(1)のように、潜像要素群(5)を印刷で形成する場合には、比較的高解像度な印刷が可能なオフセット印刷方式やフレキソ印刷方式等が適している他、インクジェットプリンタやレーザプリンタ等のデジタル印刷機を用いて形成することも可能である。これらのデジタル印刷機を用いる場合には、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。また、レーザー加工機を用いて反射層(6)を切削して潜像要素群(5)を反射層(6)上に直接形成してもよい。この場合にも、これらのデジタル印刷機で形成する場合と同様に、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。
なお、本明細書中でいう「正反射」とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度とほぼ等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、「拡散反射」とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例に挙げると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色の強い光を発する。また、「正反射光下で観察する」とは、印刷物に入射した光の角度とほぼ等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、「拡散反射光下で観察する」とは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
また、本発明における画線とは、印刷画像を形成する最小単位の小さな点である網点を特定の方向に一定の距離連続して配置した点線や破線の分断線、直線、曲線及び破線等を指し、画素とは、少なくとも一つの印刷網点又は印刷網点を複数集めて一塊にした円や三角形、四角形を含む多角形、星形等の各種図形、あるいは文字や記号、数字等を指す。
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作成した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定するものではない。
実施例1については、実施の形態で説明した潜像印刷物(1)の例で説明する。具体的には、実施の形態と同様に図1から図7を用いて説明する。図1に、実施例1の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に銀色の印刷画像(3)を有して成る。基材(2)には、一般的なコート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
図2に印刷画像(3)の概要を示す。印刷画像(3)は、蒲鉾状要素群(4)の上に潜像要素群(5)が重なり、更にその上に、反射層(6)が重なり合わさって成る。潜像要素群(5)は、アルファベットの「A」を構成する第一の潜像要素群(5A)及びアルファベットの「B」を構成する第二の潜像要素群(5B)を含んで成る。
図3に、基材(2)上に形成した蒲鉾状要素群(4)を示す。蒲鉾状要素群(4)は、幅0.3mmの直線を成す蒲鉾状要素(7)が、直線方向と直交する第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置されて成る。このような画線構成の蒲鉾状要素群(4)をUV乾燥方式のスクリーン印刷で、高粘度で透明なスクリーンインキ(UV POT 点字用クリア 帝国インキ製造株式会社製)を用いて基材(2)上に印刷した。それぞれの蒲鉾状要素(7)の高さは、約15μmであった。
潜像要素群(5)について図4を用いて説明する。潜像要素群(5)は、第一の有意情報である、アルファベットの「A」と、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の二つの有意情報を含む。第一の有意情報は、図4(b)に示す第一の潜像要素群(5A)によって表され、第二の有意情報は、図4(c)に示す第二の潜像要素群(5B)によって表される。第一の潜像要素群(5A)は、画線幅0.15mmの第一の潜像要素(8A)を、第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置して構成し、第二の潜像要素群(5B)は、画線幅0.15mmの第二の潜像要素(8B)を第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置して構成した。第一の潜像要素(8A)と第二の潜像要素(8B)は、第一の方向(S1方向)にピッチの半分に当たる0.2mmだけずらした構成とした。以上のような構成の潜像要素群(5)をウェットオフセット印刷により、低光沢で透明なインキ(マットメジウム T&K TOKA製)で、蒲鉾状画線群(4)の上に形成した。
図2に示す反射層(6)は、網点面積率60%とし、ウェットオフセット印刷で銀インキ(ニューチャンピオン シルバー DIC製)を用いて蒲鉾状要素群(4)と潜像要素群(5)上に印刷した。この反射層(6)は、拡散反射光下では暗い灰色で、正反射光下では白色となる、優れた明暗フリップフロップ性を有する。反射層(6)の印刷皮膜は、約1μmであった。
実施例1の潜像印刷物(1)の効果について、図7を用いて説明する。図7(a)のように、右側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(10)には明るい白色の光の中に、第一の有意情報であるアルファベットの「A」が周囲より暗い灰色の色彩で視認された。一方、図7(b)のように、左側から潜像印刷物(1)に光が入射した場合、観察者(10)には明るい白色の光の中に、第一の有意情報であるアルファベットの「B」が、周囲より暗い灰色の色彩で視認された。以上のように、入射する光の角度の変化に応じて、印刷画像(3)中に視認される画像がチェンジする効果を有することが確認できた。