本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
(第一の実施の形態)
第一の実施の形態として、特許文献5の特願2018-10577号公報に記載の技術を改良した形態について説明する。本発明における潜像印刷物(1)の基本的な構成について、図1から図8までの図面を用いて説明する。
図1に本発明の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上に印刷画像(3)を有して成る。図1(b)は、図1(a)のA-A’断面図であるが、印刷画像(3)は、蒲鉾状要素群(4)、色彩層(5)及び潜像要素群(6)の順に積層して成る。基材(2)は、印刷画像(3)が形成可能な面を備えていればよく、上質紙、コート紙、プラスティック、金属等、材質は特に限定されない。その他、基材(2)の色彩や大きさについても特に制限はない。
図2に印刷画像(3)の概要を示す。印刷画像(3)は、蒲鉾状要素群(4)、色彩層(5)及び潜像要素群(6)を備えて成る。印刷画像(3)の大きさについても特に制限はない。また、印刷画像(3)の色彩については透明であってはならないが、透明でなければいかなる色彩であってもよい。
まず、蒲鉾状要素群(4)について説明する。図3に蒲鉾状要素群(4)の一例を示す。本実施の形態における蒲鉾状要素群(4)は、一定の画線幅の直線であり、一定の盛り上がり高さを有した蒲鉾のような形状を有する蒲鉾状要素(7)が規則的に配列されて成る。本発明において「規則的に配列する」とは、特定形状の要素が所定のピッチで特定の方向に複数配列されている状態をいう。第一の実施の形態においては、一定(W1)の画線幅を有した蒲鉾状要素(7)が、画線方向と直交する第一の方向(S1方向)に一定のピッチ(P1)で連続して配列されて成る。なお、第一の実施の形態において蒲鉾状要素群(4)は、盛り上がりを有した蒲鉾状の画線の集合によって構成された例について説明するが、本発明における蒲鉾状要素群(4)の形状は、画線に限定されるものではない。
蒲鉾状要素群(4)を構成する蒲鉾状要素(7)は、透明であっても、半透明であってもよいし、物体色を有していてもよい。本発明においては、蒲鉾状要素(7)の色彩に制限はないが、蒲鉾状要素(7)上に重なる色彩層(5)の色彩を目立たなくしてしまう程の濃い色彩を有さないことが望ましい。また、蒲鉾状要素(7)は、最下層に付与されるため、下地を完全に隠蔽する特性を有していても何ら問題ない。すなわち、光透過性を有しても、有さなくてもよい。
蒲鉾状要素(7)は樹脂を含んだ材料によって構成される必要がある。ここで言う「樹脂」とは、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の一般的な印刷インキのワニス成分に当たる、一定の光沢を有した樹脂を指す。すき入れやエンボス等によって基材(2)に直接凹凸を形成する構成では本発明の必須要件を満たさない。なお、本発明は、蒲鉾状要素(7)によるレンズ効果を利用するものではないため、樹脂の屈折率等に配慮する必要はない。
蒲鉾状要素(7)は正反射時に明度が上昇する明暗フリップフロップ性か、色相が変化するカラーフリップフロップ性の、少なくともいずれか一方の光学特性を備える必要がある。蒲鉾状要素(7)の正反射時に生じる反射光の高低や色相変化時の色差の大きさは、潜像として出現する画像の視認性や階調表現域の広さに直結するため、蒲鉾状要素(7)の反射光量や色相変化時の色差は大きいことが好ましい。
明暗フリップフロップ性は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の一般的な印刷インキのワニスを用いれば、容易に備えることができる光学特性である。また、カラーフリップフロップ性を付与するためには、特殊な機能性材料をインキに配合する必要があり、これら機能性材料としては、パール顔料、メタリック顔料、ガラスフレーク、エフェクト顔料等が存在し、機能性インキとしてはOVI(Optical Variable Ink)、CSI(Color Shifting Ink)、コレステリック液晶インキ等が存在する。ただし、本発明の色彩表現は、蒲鉾状要素(7)のカラーフリップフロップ性による色彩変化に依存しない効果であるため、必ずしもカラーフリップフロップ性は必要無い。基本的に蒲鉾状要素群(4)には明暗フリップフロップ性があれば充分な色彩表現が可能である。
蒲鉾状要素(7)の画線の盛り上がりの高さは、特に制限するものではないが流通適性を考えると1mm以上の高さを有することは望ましくない。また、蒲鉾状要素(7)をインキによって形成する場合であって、皮膜の厚さが3μm以下の場合は、図8及び図15に示す潜像画像(13A、13B)の動画効果が低くなる場合がある。よって、蒲鉾状要素(7)をインキ皮膜によって形成する場合には3μm以上1mm以下であることが望ましい。
蒲鉾状要素群(4)を形成する場合、蒲鉾状要素(7)に一定の盛り上がり高さが形成できるのであれば、その手段は特に限定しない。印刷で形成する場合、スクリーン印刷、凹版印刷、グラビア印刷等が適当である。一方で、オフセット印刷、凸版印刷等は不向きである。また、インキジェットやレーザー方式のプリンターで厚くインキを盛って蒲鉾状要素群(4)を形成しても何ら問題ない。近年進展が著しいUV乾燥型のUVIJPやUVコーター等のデジタル印刷機を用いた場合でも、盛り上りのある蒲鉾状要素(7)を容易に形成することができる。以上が、蒲鉾状要素群(4)の説明である。
次に、潜像要素群(6)について図4を用いて説明する。ここでは、潜像要素群(6)に含まれる二つの桜を表す画像のうち、右下にある潜像要素群(6B)を中心にして説明する。潜像要素群(6)は、正反射時に出現する潜像となる画像の元となる、基画像(8)を特許第6361978号公報に記載の方法で加工することで形成する。具体的には、基画像(8)に対して、第一の方向(S1方向)に一定の幅で基画像(8)を切り出し、特定の縮率で第一の方向(S1方向)に圧縮することで、一つの潜像要素(9)を作成する。基画像(8)を切り出す位置を同じピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)にずらしながら、切り出しから圧縮を繰り返して潜像要素(9)を順番に作成し、それぞれの潜像要素(9)を同じピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)に並べることで潜像要素群(6)を作成することができる。第一の実施の形態では、図4に示す桜の花びらを基画像(8)として、潜像要素群(6)を作成した。
潜像要素群(6)は、一定の画線幅(W2)の潜像要素(9)が、蒲鉾状要素群(4)と同じ第一の方向(S1方向)に、蒲鉾状要素群(4)と同じピッチ(P1)で、規則的に配列されて成る。それぞれ隣り合う潜像要素(9)は互いに形状が異なる。なお、左上の潜像要素群(6A)の右下の潜像要素群(6B)との違いとは、潜像要素群(6B)に位置を基準として第一の方向(S1方向)に、「P1の倍数+P1の2分の1」だけ離れた位置に配置していることである。「P1の2分の1」だけS1方向に位相をずらして配置することで、蒲鉾状要素群(4)の山と谷に対する位置関係が反転するため、動画効果が生じた場合に動きの方向が逆転する効果を得ることができる。なお、上下方向にも位相がずれているのは、単なるデザイン上の配慮であって、技術的必要事項ではない。正反射光下で傾けた場合、左上の潜像要素群(6A)から生じる潜像画像(13A)は、右下の潜像要素群(6B)から生じる潜像画像(13B)に対して移動方向が逆方向となる。
潜像要素群(6A)及び潜像要素群(6B)の具体的な作成方法は、特開2016-203459号公報に記載の方法を用いればよいが、潜像画像(13A、13B)として出現する画像の動きや構成をより単純化したい場合には、特許第5200284号公報に記載の方法を用いればよい。なお、特許第5200284号公報に記載の方法を更に発展させたのが、特開2016-203459号公報に記載の方法である。
本実施の形態における基画像(8)は、桜の花びらの輪郭と色彩の境目をなぞった輪郭線で表した画像とし、この基画像(8)を基準に潜像要素群(6)を構成している。これは拡散反射光下と正反射光下で周囲に対する輪郭線のコントラストを高め、かつ、基画像(8)の内部の色差を鮮やかに表現するための工夫である。すなわち、潜像要素群(6)と蒲鉾状要素群(4)との干渉によって出現する潜像画像(13A、13B)は明度の低い、暗い画像となるため、色彩層(5)の色彩の境目にそった輪郭線のみが出現する構成とすることで、輪郭線とその周囲のコントラストを高めることができる。一方で、基画像(8)内部の色彩は、色彩層(5)に配した鮮やかな色彩によって表現する。このため、鮮やかな色彩で潜像画像(13A、13B)を表現するにも関わらず、暗い輪郭線によって潜像画像(13A、13B)と周りの背景とのコントラストは維持することができる。
なお、デザイン上、色彩表現を重視しないのであれば、従来技術と同様に、図5(a)に表すように輪郭線の内部を輪郭線よりも淡い色彩でポジ状に塗り潰すことや、図5(b)に表すように輪郭線の外部を輪郭線よりも淡い色彩でネガ状に塗り潰して潜像要素群(6)を構成しても問題はない。色彩表現よりも、潜像画像(13A、13B)のコントラストを重視する場合には有効な方法の一つである。
潜像要素群(6)を構成する潜像要素(9)は、透明であることが最も望ましい。物体色を有していてもよいが、印刷画像(3)となった場合に、はっきりと周囲との違いが目視できるような濃い物体色を有してはならない。基本的には、物体色を有する場合には、積層されて印刷画像(3)となった場合に、周りとの色差△Eが6.5を超えるような色彩であってはならず、より望ましくは、色差△Eが3.2以下となるような色彩である。なお、二つの色彩間の色差△Eが3.2未満の場合、一般に同じ色彩と思われる範囲にあり、6.5未満だと、印象的に同じ色彩と扱われる範囲にある。
また、本発明は、強い光が入射した場合に、蒲鉾状要素(7)から生じる強い反射光を潜像要素(9)が抑制することで潜像画像(13A、13B)が可視化される構成である。このため、潜像画像(13A、13B)に一定以上の視認性を与えるためには、正反射光下において、潜像要素(9)と蒲鉾状要素(7)との間に反射光量の違いを含め、一定の色彩の違いが必要である。具体的には、潜像要素(9)と蒲鉾状要素(7)との間に少なくとも色差△Eで10以上の差が必要である。多くの場合、蒲鉾状要素(7)は高光沢な構成となることから、潜像要素(9)は相対的に低光沢であることが望ましい。すなわち、正反射時に蒲鉾状要素(7)の明度が高く、潜像要素(9)の明度が低い構成とすることが望ましい。そのため、潜像要素群(6)を印刷する場合、透明、かつ、マットなインキを用いることが好ましい。
潜像要素群(6)は、蒲鉾状要素群(4)と異なり、盛り上がり高さは不要であることから、生産性の高いオフセット印刷や凸版印刷等で形成してもよく、また、インキジェットやレーザープリンター等のプリンターで形成することもできる。プリンターで潜像要素群(6)を形成する場合には、潜像として出現する画像がそれぞれに異なる可変印刷が可能であり、住民票やパスポート等のような個人情報付与に最適である。以上が、潜像要素群(6)の説明である。
続いて、色彩層(5)について説明する。図6に色彩層(5)を示す。色彩層(5)に含まれる色彩は、拡散反射光下で視認される印刷画像(3)の色彩となるとともに、正反射光下で出現する潜像画像(13A、13B)を彩る色彩となる。色彩層(5)は少なくとも一部が基材(2)と異なる色彩で着色されている必要があり、また、それぞれの色彩の少なくとも一部は、色相が異なっていることが望ましい。
色彩層(5)は、潜像要素群(6)と同じ基画像(8)から構成された二つの色彩要素群(5A、5B)と、その背景となる色彩背景部(5C)を有する。また、色彩層(5)は、色彩要素群(5A、5B)の輪郭を基準として色分けされている必要がある。これは、図4に示すように潜像要素群(6)が輪郭線で構成されていても、図5(a)、図5(b)に示すようにポジやネガ等で構成されていても同様である。
図6に表す色彩層(5)は、左上の桜を現した色彩要素群(5A)の花びらが桃色、花中心の五角形が黄色で塗り潰され、右下の桜を現した色彩要素群(5B)が花びらは白色、花中心の五角形が黄色で塗り潰され、背景画像となる色彩背景部(5C)が青色で塗り潰されている。色彩層(5)において、それぞれの色彩で色分けされた境界を「色彩の境目」と呼ぶ。なお、色彩要素群(5A、5B)において、潜像要素群(6)の輪郭と無関係に存在する、動画効果に寄与しない単なる色の境界が存在しても問題ない。ただし、この動画効果に寄与しない色の境界については、本明細書中において「色彩の境目」とは呼ばない。この動画効果に関与しない色の境界については、本発明の本質ではなく、印刷画像(3)中の単なる修飾要素で、デザイン上のアクセサリーと考える。以下に、色彩層(5)の具体的な画線構成について具体的に説明する。
色彩層(5)は、基本的には、潜像要素群(6)と同じ方法で構成する。すなわち、基画像(8)に対して、第一の方向(S1方向)に一定の幅で基画像(8)を切り出し、特定の縮率で第一の方向(S1方向)に圧縮することで、一つの色彩要素(10)を作成する。基画像(8)を切り出す位置を同じピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)にずらしながら、切り出しから圧縮を繰り返して色彩要素(10)を順番に作成し、それぞれの潜像要素(9)を同じピッチ(P1)で第一の方向(S1方向)に並べ、背景となる色彩背景部(5C)に配置することで色彩層(5)を作成することができる。
それぞれ色彩要素(10)の色彩は、基画像(8)の段階で付与してもよいし、色彩層(5)を構成した段階で付与してもよい。基本的には、潜像要素群(6)が色分けされて色彩要素群(5A、5B)となり、背景となる色彩背景部(5C)に配置されたのが色彩層(5)である。なお、色彩層(5)内の色彩要素群(5A、5B)の配置位置と、対応する潜像要素群(6A、6B)の配置位置は、二つの要素が重畳した場合に同じ位置となることが望ましく、少なくとも第一の方向(S1方向)の中心位置は同じであることが重要である。
本技術において、正反射光下において輪郭線に沿って複数の色彩で色分けされた潜像画像(13A、13B)が動いて見える効果は、潜像要素群(6)から生じた、光の明暗によって表現された輪郭線と一緒に、色彩層(5)の中の色彩の境目が同期して動いているように認識されることによって生じる。色彩層(5)の中の色彩の境目が潜像要素群(6)から生じた輪郭線と同期して動いて見える効果を得るためには、それぞれの色彩の境目は、上に重なる潜像要素群(6)の輪郭と近い形状で塗り分ける必要がある。正反射光下での動画効果を重視する場合、最も望ましいのは、上に重なる潜像要素群(6)の輪郭と色彩の境目を一致させる構成である。潜像要素群(6)の輪郭と関係しない部分を色分けして色彩の境目を設けてもよいが、その部分は正反射光下においても単に色分けされただけの領域となり、その色彩の境目において動画効果は生じない。また、仮に、デザイン上の理由があれば、潜像要素群(6)の輪郭線に当たる部分でも色彩の境目を設けず、あえて色分けしない部分を設けてもよい。ただし、その部分は、正反射光下においても単一の色彩の輪郭線のみが視認され、複数の異なった色彩は表現できない。
本実施の形態においては、色彩層(5)における色彩の境目は、上に重なる潜像要素群(6)の輪郭線と完全に一致した構成としているが、これに限定するものではない。潜像要素群(6)の輪郭線とは若干異なる構成で色彩の境目を形成した場合でも、本発明の効果である動画効果が生じる構成が存在する。このような本発明の効果が生じる、色彩の境目を含んだ色彩層(5)の中の色彩配置を「潜像要素群(6)の輪郭線と形状相関性の高い色彩配置」と定義する。ここでいう色彩配置とは、色彩の境目における色彩の微細な塗り分けの形状や位置関係だけでなく、色彩層(5)全体における全ての色彩の塗り分けの形状や位置関係を含む。色彩層(5)の潜像要素群(6)の輪郭線と形状相関性の高い色彩配置については特願2018-10577号公報に記載のとおりである。
なお、潜像要素(9)と色彩要素(10)の縮率は、本来、同じであることが、正反射光下の動画効果を高める上で望ましい構成である。ただし、色彩層(5)の色彩要素(10)が移動して見える効果は錯覚から生じるものであるから、潜像要素(9)と色彩要素(10)の縮率は必ずしも同じである必要は無く、潜像要素(9)と色彩要素(10)の縮率が異なる場合、動画効果は若干低下する傾向はあるものの、ある一定程度の動画効果は維持される。他方、潜像要素(9)の縮率を下げると、正反射光下での動画効果の低下にダイレクトに繋がるため、潜像要素(9)の縮率は可能な限り高く保つ(強く圧縮する)ことが望ましい。基本的には、色彩要素(10)は、潜像要素(9)の縮率の3倍程度まで縮率を下げても色彩要素(10)の動画効果は生じる。
続いて、色彩層(5)の色彩制限に関する説明をする。実際には、印刷画像(3)における色彩制限である。色彩の境目において、色差が大きすぎる色彩同士を隣接し、隣り合う色彩として配置した場合、本発明の効果は生じないか、その効果が著しく低下する。色彩層(5)における隣り合う色彩の大きすぎる色差は、潜像要素群(6)が生み出す明暗のコントラストを打ち消してしまうため、本発明の効果を消失させるか、大きく低下させる働きを成す。例えば、極めて濃い赤と完全な白を色彩の境目で隣り合わせた場合、いかに潜像要素群(6)や色彩層(5)の構成で工夫を凝らしたとしても、本発明の効果は生じない。そのため、色彩の境目で隣り合う色彩は一定の色差の範囲に収める必要がある。
具体的な数値としては、印刷画像(3)として完成した状態における色彩の境目の色差が△Eで40以下である必要がある。より具体的には、色彩層(5)の色彩の境目で隣り合う色彩の上に、蒲鉾状要素群(4)が重なり、潜像要素群(6)が重なり、印刷画像(3)として完成した状態で、印刷画像(3)の下部に色彩の境目で隣り合う色彩を印刷画像(3)上から測定した場合の、それぞれの色差が△Eで40以下である必要がある。本技術においては、蒲鉾状要素群(4)は着色される場合があり、潜像要素群(6)も着色されている場合がある。蒲鉾状要素群(4)や潜像要素群(6)の色彩の影響を受け、色彩層(5)単体での色彩の境目で隣り合う色彩の色差と、印刷画像(3)となった場合の色彩は大きく異なるため、本発明においては、印刷画像(3)となった場合の色彩の境目で隣り合う色彩によって定義する。
第一の実施の形態における潜像印刷物(1)においては、印刷画像(3)上から測定して隣り合う色彩が色差△Eで40を超える色差を含んだ構成となった場合、いかなる材料を用いたとしても、本発明の効果は生じない。一般的な印刷用紙を用いて印刷によって蒲鉾状要素群(4)を形成する場合は、印刷画像(3)上の色彩の境目で隣り合う色彩の色差△Eを40以下で形成することで本発明の効果が生じる。
ただし、印刷画像(3)の中に含まれる色彩であっても、色彩の境目で隣接して隣り合っていなければ、色差△Eで40を超えていても問題ない。本発明の色彩層(5)の色彩設計において重要なのは、印刷画像(3)において色彩の境目で隣接して隣り合っている色彩間の色差△Eが40を超えないことである。このため、徐々に色彩が変化するグラデーションを有効に活用すれば、隣り合う色彩間の色差を小さくでき、印刷画像(3)中に表現できる色彩表現域は拡大できる。以上が、色彩層(5)の色彩制限に関する説明である。
また、色彩層(5)を構成する色彩要素群(5A、5B)と、背景となる色彩背景部(5C)は、同じ色彩を表すのであっても、濃度の低い色彩を用いて大きな網点面積率で構成するのではなく、濃度の高い色材を用いて小さな網点面積率で構成することが望ましい。また、色彩層(5)は、高い明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性を有した特殊な光学特性を有する機能性インキを用いて形成してはならない。印刷で色彩層(5)を形成する場合には、いわゆる通常タイプの着色インキを用いて色彩層(5)を印刷する。極端に艶が高かったり、又は低過ぎたりする着色インキの使用は避けなければならない。すなわち、高グロスタイプのインキやマットタイプのインキを用いてはならない。
以上のように、色彩層(5)の網点を小さく、通常の着色インキを用いて形成する理由は、色彩層(5)に光学的な原理に基づく動画効果を発生させないためである。後述の本発明の効果においても説明するが、潜像要素群(6)に対して生じる光学的な原理に基づく動画効果と異なり、色彩層(5)において生じる色彩の動画効果は、実際には観察者(12)の錯覚であり、本当の動画効果は生じていない。このため、色彩要素群(5A、5B)と色彩背景部(5C)は、蒲鉾状要素群(4)の上における複数の色彩の位置関係が第一の方向(S1方向)にずれが生じたとしても、動画効果に差異は生じない。しかし、色彩層(5)の構成が特定の条件を満たした場合、色彩層(5)に対しても光学的な原理に基づく実際の動画効果が生じる場合がある。
色彩層(5)に対して光学的な原理に基づく本当の動画効果が生じた場合、蒲鉾状要素群(4)の上に重なる、色彩要素群(5A、5B)と色彩背景部(5C)の複数の色彩の刷り合わせの位置関係において、第一の方向(S1方向)に僅かでもずれが生じると、それぞれの色彩が別々の方向へと移動する問題が発生する。加えて、色彩層(5)と潜像要素群(6)の位置関係も位置ずれなく完全に合わせなければ、色彩層(5)から生じる色彩の動きと、潜像要素群(6)から生じる潜像画像(13A、13B)の輪郭の動きが一致せず、色彩と輪郭が別々の方向に動く問題が発生する。以上のように、色彩層(5)に対して光学的な原理に基づく動画効果が生じた場合、色彩層(5)の各色彩の位置関係と、潜像要素群(6)との位置関係を寸分の狂いなく合わせる必要が生じる。これを維持して製造し続けることは、品質管理上の大きな負荷となる。
以上のことから、色彩層(5)に対して光学的な原理に基づく実際の動画効果が生じることがないように、色彩層(5)の構成に一定の制約を設ける必要がある。色彩層(5)において、光学的な原理に基づく実際の動画効果が生じる条件は、蒲鉾状要素群(4)と蒲鉾状要素群(4)の上に重なった色彩層(5)の正反射時の明度差が大きいことと、色彩層(5)を構成する色彩要素群(5A、5B)と背景となる色彩背景部(5C)の網点面積率が大きいことであるため、これらと逆の条件で色彩層(5)を形成して、光学的な動画効果の発生を抑制するものである。以上が、色彩層(5)の網点を小さく、通常の着色インキを用いて形成する理由である。
色彩層(5)は、潜像要素群(6)と同様に、生産性の高いオフセット印刷や凸版印刷等で形成してもよい。また、インキジェットやレーザー等のプリンターで形成することもできる。ここで、プリンターで形成する場合には、一枚一枚付与された潜像として出現する画像が異なる、可変印刷が可能であり、住民票やパスポート等のような個人情報付与に最適である。以上が、色彩層(5)の説明である。
続いて、本発明の潜像印刷物(1)の積層順について説明する。図7に示すように、基材(2)をベースにして、まず、蒲鉾状要素群(4)を形成し、その上に色彩層(5)と潜像要素群(6)を形成する。また、基材(2)側の最下層に蒲鉾状要素群(4)があることを条件に、色彩層(5)と潜像要素群(6)の位置関係は逆に形成してもよい(図示せず)。以上のような層構造であれば、スクリーン印刷、凹版印刷、UVIJP及びUVコーター等の盛り上がりを形成できる印刷機で蒲鉾状要素群(4)を形成し、その後、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷等といった印刷機やプリンターによって色彩層(5)と潜像要素群(6)を同時に形成することが可能となり、潜像印刷物(1)の製造工程を従来の3工程から2工程へと減少させることができる。
続いて、本発明の潜像印刷物(1)の効果について、図8を用いて説明する。図8(a)のように光源(11)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(1)から反射する光の反射角度が大きく異なる、いわゆる拡散反射光下の観察において、観察者(12)からは色彩層(5)と蒲鉾状要素群(4)の色彩が合成された画像が視認できる。
続いて、図8(b)のように光源(11)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(1)から反射する光の反射角度がほぼ同じ、いわゆる正反射光下の観察において、観察者(12)には色彩層(5)からサンプリングされた色彩とともに、色彩層(5)の色彩の境目に沿って潜像要素群(6)の一部が可視化され、基画像(8)がカラー化された潜像画像(13A、13B)を視認できる。具体的には、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13A)と白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13B)が青色の色彩背景部(5C)の中に視認できる。また、図8(c)のように正反射光下の観察において、図8(b)の観察角度からやや観察角度を変えて観察すると、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13A)と白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13B)の第一の方向(S1方向)の位相が変化して見える。図8(b)から図8(c)への位置の変化は連続的であり、観察角度の変化に伴って、色分けされた潜像画像(13A、13B)がそれぞれ逆方向にスムーズに移動する、動画的効果が生じる。
以上のような効果を生じる原理について説明する。まず、図8(a)に示すような拡散反射光下では、透明な潜像要素群(6)は不可視であるため、色彩層(5)と蒲鉾状要素群(4)の色彩が合成された画像がそのまま視認される。
また、図8(b)から図8(c)に示すような正反射光下では、色彩層(5)は、拡散反射光下と同様に視認される。そして、正反射光下では、特許文献1から特許文献6までの従来技術と同様に盛り上がりを有する蒲鉾状要素(7)の画線表面のうち、入射する光と直交した画線表面のみが光を強く反射し、その上に重なった潜像要素(9)の情報の一部のみがサンプリングされ、潜像要素群(6)全体として基画像(8)と同じ形状の潜像画像(13A、13B)が強い光の明暗によって可視化される。色彩層(5)の色彩と明暗によって輪郭を現した基画像(8)が合成されることでカラー化された潜像画像(13A、13B)として視認される。
図8(b)から図8(c)のように、正反射光下で角度を変化させると、蒲鉾状要素(7)の画線表面のうち、入射する光と直交した画線表面の位置が変化するため、サンプリングされる潜像画像(13A、13B)の位置が変化して視認される。また、明暗で構成された輪郭線の移動に伴って、色彩層(5)に配された桃色、黄色、白といった色彩も色彩背景部(5C)の青色の中を移動して見える。なお、蒲鉾状要素群(4)の下にある色彩層(5)の色彩の境目も潜像画像(13A、13B)の輪郭と同期して動いて見えることから、カラー化された基画像(8)が動いて視認される。この色彩層(5)の色彩の境目が潜像画像(13A、13B)の輪郭と同期して動いて見える効果については、観察者(12)の錯覚であり、光学的に生じる現象ではない。この現象については、特願2018-10577号公報に記載のとおりである。以上が、第一の実施の形態の説明である。
(第二の実施の形態)
続いて、第二の実施の形態として拡散反射光下と正反射光下で画像がチェンジする効果を追加した、より付加価値の高い形態について説明する。これは、特許文献6の特願2018-165107号公報の技術を改良した形態である。
本明細書において、第二の実施の形態が第一の実施の形態と異なるのは、蒲鉾状要素群(4)、色彩層(5)、潜像要素群(6)に加えて、新たに光輝性画像(14)を追加したことである。基材(2)、蒲鉾状要素群(4)、色彩層(5)及び潜像要素群(6)の図柄や画線構成については、第一の実施の形態と同じとした。
図9に印刷画像(3)の概要を示す。図9(b)は、図9(a)のA-A’断面図であるが、印刷画像(3)は、蒲鉾状要素群(4)、色彩層(5)、光輝性画像(14)及び潜像要素群(6)の順に積層して成る。印刷画像(3)は、拡散反射光下において印刷画像(3)中には、第一のカラー画像が視認され、正反射光下において印刷画像(3)中には、第二のカラー画像が視認される。図10に印刷画像(3)の構造の概要を示す。第一の実施の形態と同様の蒲鉾状要素群(4)、色彩層(5)、及び潜像要素群(6)に加え、第二の実施の形態においては、更に光輝性画像(14)を備えて成る。蒲鉾状要素群(4)、色彩層(5)、及び潜像要素群(6)の基本的な構成については、第一の実施の形態と共通しているため、色彩層(5)の構成の一部を除き、説明を省略する。
図11に光輝性画像(14)を示す。光輝性画像(14)は、物体色を有し、明暗フリップフロップ性かカラーフリップフロップ性の少なくともどちらか一方の光学特性を備え、図11に示すように一定の面積率の範囲で構成され、拡散反射光下では第一のカラー画像の濃淡を表した濃淡画像を形成する。一方の正反射光下では、光を強く反射することで淡く変化し、濃淡画像が目視上消失して、その上で蒲鉾状要素(7)から生じる反射光を嵩上げして一様な光を放つバックライトのような存在と化し、正反射光下で出現する潜像画像(13A、13B)の視認性を飛躍的に高める働きを成す。蒲鉾状要素(7)と光輝性画像(14)の二つの要素の合計の反射光量が最終的な第二のカラー画像の中の潜像画像(13A、13B)の視認性の高低に直結するため、可能な限り優れた明暗フリップフロップ性か、カラーフリップフロップ性を付与する必要がある。
本実施の形態において、第一のカラー画像は、図12(a)に示すピンクと白の二組の桜の枝を表した画像を指す。その中で光輝性画像(14)は、第一のカラー画像の中の濃淡のみを表す。言い換えれば、光輝性画像(14)は、第一のカラー画像をモノクロ化した画像である。なお、図12(b)に示すのは、正反射光下で第一のカラー画像に変わって出現する第二のカラー画像である。
光輝性画像(14)の濃淡画像を正反射光下で消失させるためには、光輝性画像(14)を一定の面積率の範囲で形成する必要がある。この面積率の範囲は、光輝性画像(14)の形成方法や、形成した材料等でそれぞれ異なる。例えば、一般的な印刷方法によって、印刷インキを用いて光輝性画像(14)を構成した場合、最大面積率と最小面積率の差を50%以下に制限して光輝性画像(14)を構成する必要がある。これにより、光輝性画像(14)が正反射した場合に、光輝性画像(14)が強く光を反射することで濃淡画像の明度が上昇し、画像中の濃淡が肉眼で捉えられなくなり、あたかも光輝性画像(14)の濃淡画像が消失したかのような効果を得ることができる。最大面積率と最小面積率の差が小さすぎると、拡散反射光下で光輝性画像(14)の濃淡画像を捉え難いため、最大面積率と最小面積率の差を少なくとも10%以上とすることが望ましい。一方、最大面積率と最小面積率の差が小さすぎると、正反射光下で光輝性画像(14)の濃淡画像が消失しきらなくなるため、完全な消失効果を確保したい場合には、50%以下に留めることが望ましい。以上のように、一般的な印刷インキを用いて光輝性画像(14)を構成する場合、最大面積率と最小面積率の差を10%以上50%以下とすることが望ましい。
一般に光輝性画像(14)の面積率は高い方が、光を強く反射する効果は高まるため、ハイライトから中間調までの間で光輝性画像(14)を構成するより、中間調からシャドーの間で画像を構成する方が、正反射光下における光輝性画像(14)の濃淡の消失効果は高まり、第二のカラー画像の視認性も高くなる。ただし、光輝性画像(14)の面積率が高すぎると、光輝性画像(14)の濃淡によって色彩層(5)の色彩が隠蔽され、色彩の彩度が低くなる。また、光を強く反射するインキや、フレキソ印刷、グラビア印刷又はスクリーン印刷のように光沢を得やすい印刷方式の場合、面積率100%から90%程度までの領域の反射光はそれ以下の網点面積率の領域の反射光よりも著しく強くなる傾向があり、明度が上がりすぎてかえって白く目立ってしまう場合がある。このため、印刷方式によっては、光輝性画像(14)の最大面積率を90%以下に抑えることが望ましい。
光輝性画像(14)は、蒲鉾状要素群(4)と異なり、盛り上がり高さは不要であることから、生産性の高いオフセット印刷や凸版印刷等で形成してもよい。また、インキジェットやレーザープリンター等のプリンターで形成することもできる。プリンターを使用して、光輝性画像(14)を形成する場合には、一枚一枚付与された潜像が異なる可変印刷が可能であり、住民票やパスポート等のような個人情報付与に最適である。
ここで、光輝性画像(14)と色彩層(5)が満たすべき色彩の構成条件の一つとして、「色彩共有性」がある。第二の実施の形態においては、色彩層(5)は、拡散反射光下において印刷画像(3)の中に現れる第一のカラー画像の主たる色彩を表すとともに、それに加えて、正反射光下において印刷画像(3)の中に現れる第二のカラー画像の主たる色彩も表す。このため、第一のカラー画像の濃淡画像を表す光輝性画像(14)と、第二のカラー画像の濃淡を表す潜像要素群(6)の両方と矛盾なく合成できる色彩である必要がある。これは、第一の実施の形態の潜像印刷物(1)ではなかった制約である。
この光輝性画像(14)と潜像要素群(6)の異なる二つの画像の濃淡と、色彩層(5)の色彩が矛盾なく適合する特性を「色彩層(5)、光輝性画像(14)及び潜像要素群(6)は、色彩共有性を有する」と定義する。ただし、色彩層(5)は、元々、潜像要素群(6)と同一又はほぼ同一の形状を有して色分けされるため、そもそも色彩層(5)と潜像要素群(6)について色彩共有性が成り立つのは当然のことである。そのため、本明細書では「色彩層(5)と光輝性画像(14)は、色彩共有性を有する」とだけ定義し、以下で「色彩層(5)と光輝性画像(14)は、色彩共有性を有する」ことについて具体的に説明する。
本実施の形態における色彩共有性の具体例について説明する。図13に示すのは、光輝性画像(14)と色彩層(5)を重ね合わせた合成画像(15)と、潜像要素群(6)と色彩層(5)を重ね合わせた合成画像(16)である。本実施の形態の色彩層(5)は、元々、第二のカラー画像の色彩をベースとして、拡散反射光下で第一のカラー画像の色彩に当てはめた場合に、色彩の矛盾がない程度に色彩を調整した画像である。「色彩層(5)と光輝性画像(14)及び潜像要素群(6)は、色彩共有性を有する」ことは、言い換えれば、第一のカラー画像と第二のカラー画像に色彩共有性があることと同義であるため、まず、第一のカラー画像と第二のカラー画像をデザインする段階で、色彩とその色彩配置に共有性がある構成とする必要がある。
実際に、光輝性画像(14)と潜像要素群(6)及び色彩層(5)に色彩共有性があるか否かは、図13に示すように、画像処理ソフト上や製版フィルム上等で光輝性画像(14)と色彩層(5)を合成した合成画像を視認して合成画像の濃淡と色彩に矛盾がないかを確認し、また、同じく潜像要素群(6)と色彩層(5)を合成した合成画像を視認して合成画像の濃淡と色彩に矛盾がないかを確認する必要がある。
第一のカラー画像と第二のカラー画像を自由に設計した場合、そもそも異なる画像である二つのカラー画像の色彩配置を完全に一致させることは困難である。そこで、まず、光輝性画像(14)及び潜像要素群(6)と、色彩層(5)が色彩共有性を有する関係を成り立たせるためには、第一のカラー画像と第二のカラー画像自体を色彩配置の似た画像としてデザインする必要がある。まず、第一のカラー画像と第二のカラー画像のデザインの段階で色彩配置をある程度同じにすることを考慮しなければ、最終的な色彩共有性を確保することは難しい。
第一のカラー画像と第二のカラー画像をデザインするにあたって、特に緑色の中に配された赤色や、青色の中に配された黄色等の、特に観察者(12)の目を引く部分、すなわち、色差の大きな部分の色彩配置に共有性を持たせることを重視してデザインすることが好ましい。色差の大きな部分の色彩と濃淡のずれは、観察者(12)に最も強い違和感を抱かせる。言い換えれば、色差の大きな部分の色彩と濃淡が一致していれば、観察者(12)は画像に対して違和感を抱かない。以上のように、まず、可能な限り、色差の大きな部分の濃淡と色彩が一致するように第一のカラー画像と第二のカラー画像をデザインすることが望ましい。
第一のカラー画像と第二のカラー画像のデザインを工夫した上で、それ以上の色彩共有の余地がなくなった場合、あるいは、顧客が第一のカラー画像と第二のカラー画像をデザインし、設計側でデザインの改善の余地がない場合等、これ以上のデザイン上での改善が望めず、未だ濃淡と色彩に大きな矛盾が生じる場面では、色彩層(5)の矛盾がある領域の色彩を調整するか、ぼかしやグラデーション等の画像処理を施す等の工夫を施す必要がある。色彩共有性を高めるいくつかの手段については、特願2018-165107号公報に記載の手段を用いればよい。
なお、光輝性画像(14)の濃淡画像の図柄をデザインする場合、あらかじめ、下地にある色彩層(5)の色彩を強調したい部分と、カモフラージュしたい部分とに分けて、図柄の濃淡の構成を設計することが望ましい。例えば、実施の形態における光輝性画像(14)の濃淡画像のように、桜の枝と背景はポジの構成とし、高い面積率で構成して色彩層(5)をカモフラージュする一方で、小さな桜の花びらの表現した領域は、ネガの構成として面積率を可能な限り下げて下地にある色彩層(5)の色彩を活かす構成を用いている。すなわち、第一のカラー画像の中に、ピンクと白が桜の花びらの色彩が映えるよう下地にある色彩層(5)の構成を活かして、光輝性画像(14)の濃淡を設計している。仮に、同じ図柄であっても、このネガポジの関係が逆転している場合には、色彩層(5)と光輝性画像(14)の色彩共有性が成り立たない場合もあることから、色彩層(5)の色彩と光輝性画像(14)の濃淡の関係には注意を払って設計する必要がある。
第二の実施の形態の例では、実際の順序として、第二のカラー画像の色彩と潜像(13A、13B)の動画効果を決定して、まず、潜像要素群(6)を構成し、これをベースに色彩層(5)と色彩要素(10)を設計し、その後、既に設計した色彩層(5)の色彩と矛盾のないように光輝性画像(14)の濃淡画像をデザインする手順で図柄の設計を進めたが、この方法に限定されるものではない。第一のカラー画像の色彩をベースとして、第二のカラー画像の色彩に適用できるように色彩を調整しておおまかな色彩層(5)とし、その色彩層(5)に合うように潜像要素群(6)を設計した後、色彩要素(10)に切り分けてもよい。また、あらかじめ第一のカラー画像の色彩と第二のカラー画像の色彩を平均化して色彩層(5)の色彩配置の概要を決めて、その後、潜像要素群(6)を構成し、色彩要素(10)に切り分けて潜像(13A、13B)に動画効果を付与してもよい。いずれの手順を用いても、最終的に色彩層(5)の色彩がそれぞれの画像と矛盾なく共有できる構成となればよい。
実施の形態においては、第二のカラー画像の色彩をベースに、光輝性画像(14)が重なった場合に第二のカラー画像の存在を察知できない程度に、色彩層(5)にぼかし処理を施した。ぼかし処理には、画像処理ソフトのぼかし機能を用いた。このような手順を踏み、第一のカラー画像と第二のカラー画像のそれぞれの色彩に矛盾が生じない構成とする。以上が、色彩層(5)の「色彩層(5)と光輝性画像(14)が色彩共有性を有する」ことについての説明である。
以上の構成の蒲鉾状要素群(4)、色彩層(5)、潜像要素群(6)及び光輝性画像(14)を図14(a)又は図14(b)に示す順序で積層する。図14(a)は、蒲鉾状要素群(4)を最下層として、色彩層(5)、光輝性画像(14)、潜像要素群(6)の順番に重ねた形態であり、図14(b)は、蒲鉾状要素群(4)を最下層として、光輝性画像(14)、色彩層(5)、潜像要素群(6)の順番に重ねた形態である。また、その他の形態として、蒲鉾状要素群(4)を最下層として、光輝性画像(14)、潜像要素群(6)、色彩層(5)の順番に重ねてもよい(図示せず)。また、特開2017-128075号公報のように、蒲鉾状要素群(4)を最下層として、色彩層(5)、潜像要素群(6)、光輝性画像(14)の順番に重ねてもよい(図示せず)。また、特開2017-144558号公報に記載の技術のように、潜像要素群(6)を着色した構成とし、かつ、光輝性画像(14)の中の潜像要素群(6)が配置される領域から、潜像要素群(6)分の濃度を差し引いて、光輝性画像(14)と潜像要素群(6)が嵌め合わせの構造として光輝性画像(14)と潜像要素群(6)を並置の層構造としてもよい(図示せず)。
基本的な層構造としては、蒲鉾状要素群(4)が最下層にあればよく、いずれの層構造であっても一定の効果を発揮する。以上のような層構造であれば、スクリーン印刷、凹版印刷、UVIJP及びUVコーター等の盛り上がりを形成できる印刷機で蒲鉾状要素群(4)を形成し、その後、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷等の印刷機やプリンターによって色彩層(5)、光輝性画像(14)及び潜像要素群(6)を同時に形成することが可能となり、製造工程を従来の3工程から2工程へと減少させることができる。
第二の実施の形態の潜像印刷物(1)においては、それぞれの層を積層して、潜像印刷物(1)として完成した場合に、印刷画像(3)上の色彩の境目で隣り合う色彩の色差△Eで50以下となるように設計する必要がある。第一の実施の形態の潜像印刷物(1)では、印刷画像(3)上の色彩の境目で隣り合う色彩の色差は、△Eで40以下となるように設計する必要があったが、第二の実施の形態の潜像印刷物(1)においては△Eで50以下に設計する。第二の実施の形態の方が色差を大きく設定できるのは、光輝性画像(14)の存在によって潜像のコントラストが高まり、錯覚が作用しやすくなるためである。
続いて、本発明の潜像印刷物(1)の効果について、図15で説明する。図15(a)のように光源(11)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(1)から反射する光の反射角度が大きく異なる、いわゆる拡散反射光下の観察において、観察者(12)からは、色彩層(5)と蒲鉾状要素群(4)の色彩と、光輝性画像(14)の図柄が合成された第一のカラー画像が視認できる。
続いて、図15(b)のように光源(11)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(1)から反射する光の反射角度がほぼ同じ、いわゆる正反射光下の観察では、光輝性画像(14)が現す濃淡が消失し、観察者(12)には色彩層(5)からサンプリングされた色彩とともに、色彩層(5)の色彩の境目に沿って潜像要素群(6)の一部が可視化された第二のカラー画像を視認できる。また、図15(c)のように正反射光下の観察において、図15(b)の観察角度からやや観察角度を変えて観察すると、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13A)と白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13B)の第一の方向(S1方向)の位相が変化して視認できる。図15(b)から図15(c)への位置の変化は連続的であり、観察角度の変化に伴って、色分けされた潜像画像(13A、13B)が逆方向にスムーズに移動する動画的効果が生じる。
以上のような効果を生じる原理について説明する。まず、図15(a)に示すような拡散反射光下では、透明な潜像要素群(6)は不可視であるため、色彩層(5)と蒲鉾状要素群(4)の色彩、そして、光輝性画像(14)の濃淡によって表された図柄が合成された第一のカラー画像が視認される。
また、図15(b)、図15(c)に示すような正反射光下では、色彩層(5)は、蒲鉾状要素群(4)の非画線部によって一定のピッチ(P1)でサンプリングされるとともに、特許文献1から特許文献5までの従来技術と同様に盛り上がりを有する蒲鉾状要素(7)の画線表面のうち、入射する光と直交した画線表面のみが光を強く反射し、その上に重なった潜像要素(9)の情報の一部のみがサンプリングされ、潜像要素群(6)全体として基画像(8)と同じ形状の潜像画像(13A、13B)が強い光の明暗によって可視化されることで第二のカラー画像が視認される。
図15(b)、図15(c)のように、正反射光下で角度を変化させると、蒲鉾状要素(7)の画線表面のうち、入射する光と直交した画線表面の位置が変化するため、サンプリングされる潜像画像(13A、13B)の位置が変化して視認される。また、明暗で構成された輪郭線の移動に伴って、色彩層(5)に配された桃色、黄色、白といった色彩も色彩背景部(5C)の青色の中を移動して見える。なお、蒲鉾状要素群(4)の下にある色彩層(5)の色彩の境目も潜像画像(13A、13B)の輪郭と同期して動いて視認される効果については、観察者(12)の錯覚であり、光学的に生じる現象ではないのは第一の実施の形態と同様である。以上が、第二の実施の形態の説明である。
第一の実施の形態及び第二の実施の形態の説明において潜像要素群(6)と色彩層(5)に適用したのは、特開2016-203459号公報に記載の動画効果が生じる構成であるが、本発明の効果とそれを実現するための構成は、これに限定されるものではない。動画効果を実現する構成としては、より単純な特許第5200284号公報の構成を用いてもよい。また、特開2017-105042号公報記載の構成を適用することもできる。これらはいずれもインテグラルフォトグラフィ方式の動画効果を生じさせる画線構成である。また、連続的なチェンジ効果を主体としてパラパラ漫画方式で動画効果を実現する構成を適用することもできる。例えば、特許第4682283号公報や特開2016-221889号公報に記載の技術のように、相互に関連性のある図柄を次々にチェンジさせることで動画効果を実現する構成を適用することもできる。
ただし、本発明において生じる、色彩層(5)の色彩の境目が動いて見える効果は、表面反射や屈折によって画像が実際にサンプリングされているわけではなく、錯覚によって生じる現象であることから、無条件にこれらの技術の画線構成に転用できるものではない。例えば、「A」から「B」に潜像画像がチェンジする効果に同期して色彩層(5)の色彩の境目が動いて見える効果を付与することは困難である。これは、劇的で鮮明な潜像画像(13A、13B)の変化に対して、錯覚が働き難いためである。
また、同じ動画効果であっても、モアレマグニフィケーション(モアレ拡大現象)を利用して動画効果を生じさせる特許第4844894号公報や特許第5131789号公報の画線構成を用いて、色彩層(5)の色彩の境目が動いて見える効果を実現することも同様に難しい。モアレ拡大現象は潜像要素群(6)の構成が第一の方向(S1方向)に非常に長い帯状の構成となるため、正反射光下で出現した潜像画像(13A、13B)が背景の色彩と同化しやすく、本発明の効果である色彩の境目がぼやけて、色彩の違いを知覚し難いためである。
本発明の効果が高く発揮できるのは、インテグラルフォトグラフィ方式の動画効果と、パラパラ漫画方式のチェンジ効果を応用した動画効果である。特に潜像画像の動きの幅を過剰に大きく設計しないことが本発明の効果を高める上で重要である。パラパラ漫画方式で動画効果を実現するには、特許第4682283号公報に記載の構成で潜像要素群(6)を構成し、色彩層(5)を特願2018-10577号公報に記載の方法で塗り分ければよい。
ここで、パラパラ漫画方式で動画効果を実現する一例について説明する。図16は、潜像要素群(6)として、特開2016-221889号公報に記載の画線構成を用いた場合の色彩層(5)の構成を示す。この形態では、それぞれ僅かに回転角度の異なる5枚の雪の結晶の画像を次々にチェンジさせることによって、あたかも雪の結晶が回転しているかのように見せるパラパラ漫画方式の動画効果を生じさせる。この例における色彩層(5)は、潜像要素群(6)の輪郭を色彩の境目とした青色の色彩要素群(5A)と、灰色の色彩背景部(5C)で構成した。図17に、図16の色彩層(5)を下地として蒲鉾状要素群(4)と潜像要素群(6)を重ねて形成した場合の潜像印刷物(1)の効果を示す。なお、光輝性画像(14)には、図17(a)に示す彩紋模様を用いた。この彩紋模様である光輝性画像(14)と色彩層(5)とは色彩共有性を有する。
図17(a)のように光源(11)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(1)から反射する光の反射角度が大きく異なる、いわゆる拡散反射光下の観察において、観察者(12)からは、青色と灰色で色分けされた彩紋模様を表した第一のカラー画像が視認できる。続いて、図17(b)のように光源(11)から入射する光の入射角度と、潜像印刷物(1)から反射する光の反射角度がほぼ同じ、いわゆる正反射光下の観察において、第一のカラー画像が消失し、灰色の背景の中に青色で色分けされた雪の結晶を表す第二のカラー画像が視認できる。また、図17(c)のように正反射光下の観察において、図17(b)の観察角度からやや観察角度を変えて観察すると、青色で色分けされた雪の結晶を表す潜像画像(13)が角度を変えた状態で視認できる。図17(c)から図17(b)へかけての潜像画像(13)の角度変化は実際には不連続であるが、一つ一つの潜像画像の角度の違いは僅かであるため、観察角度の変化に伴って、色分けされた潜像画像(13)がスムーズに回転しているように見える動画的効果が生じる。
このように、インテグラルフォトグラフィ方式とは異なる、パラパラ漫画形成の画線構成を用いた場合でも、色彩層(5)を形成し、本発明の潜像印刷物(1)を形成することが可能である。パラパラ漫画方式で動画効果を実現する一例として、特開2016-221889号公報に記載の画線構成を用いた場合で説明したが、特許4682283号公報のより単純な方式を用いても何ら問題ない。
また、本実施の形態の説明において蒲鉾状要素群(4)を構成するそれぞれの要素は、画線で形成したが、これに限定するものではない。蒲鉾状要素(7)や潜像要素(9)を画線ではなく画素とした場合の構成については、特許第4660775号公報、特許第4682283号公報、特許第5200284号公報、特許第6075244号公報及び特許第6120082号公報に記載の構成を用いればよい。また、蒲鉾状要素(7)や潜像要素(9)を直線ではなく、曲線で形成する場合には特許第6032423号公報、特許第6112357号公報の構成を用いればよい。また、より特殊な効果を実現するのであれば、特開2016-203459号公報、特開2016-210149号公報、特開2016-221889号公報、特開2017-56577号公報及び特開2017-105042号公報等に記載の潜像要素群(6)の画線構成を用いてもよい。これに伴って色彩層(5)は、潜像要素群(6)が表すそれぞれの要素の輪郭線にそって色彩の境目で色分けした構成とすればよい。以上のように、色彩層(5)、蒲鉾状要素群(4)及び潜像要素群(6)の形状については、限定されるものではなく、従来の蒲鉾状要素(7)の上に潜像要素群(6)を重ねて潜像画像を発現させる技術で用いられていた構成をそのまま用いることができる。
なお、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、「異なる色彩」とは、色相、明度又は彩度のうちのどれかが異なるか、若しくは、それらの組み合わせが異なることをいう。また、本発明における色差とは、CIE1976L*a*b*表色系の△Eで定義するものとする。CIE1976L*a*b*表色系とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間のことであり、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。色差は、ある二色の色空間中における距離のことであり、CIE1976L*a*b*表色系での色差は、二色のL*の差、a*の差、及びb*の差をそれぞれ二乗して加え、その平方根をとることで求めることができる。なお、本明細書においては、白、灰、黒等の無彩色も一つの色として考える。
また、本明細書中でいう「正反射」とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度とほぼ等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、「拡散反射」とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色の強い光を発する。また、「正反射光下で観察する」とは、印刷物に入射した光の角度とほぼ等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、「拡散反射光下で観察する」とは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
本発明における「画線」とは、印刷画像(3)を形成する最小単位の小さな点である網点を特定の方向に一定の距離連続して配置した点線や破線の分断線、直線、曲線及び破線等を指し、「画素」とは、少なくとも一つの印刷網点又は印刷網点を複数集めて一塊にした円や三角形、四角形を含む多角形、星形等の各種図形、あるいは文字や記号、数字等を指す。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作成した潜像印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
(実施例)
実施例については、第二の実施の形態で説明した潜像印刷物(1)の例を用いて説明する。図9に、実施例の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)の印刷画像(3)は、蒲鉾状要素群(4)の上に、白、桃色、黄色、青色の色彩から成る色彩層(5)が重なり、その上に光輝性画像(14)が重なり、更にその上に潜像要素群(6)が重なり合って成る。印刷画像(3)の大きさは40mm×40mmとした。
蒲鉾状要素群(4)を図3に示す。蒲鉾状要素群(4)は、幅0.3mmの直線を成す蒲鉾状要素(7)を第一の方向(S1方向)にピッチ0.4mmで連続して配置した。蒲鉾状要素(7)の画線高さは15μmとした。
図6に色彩層(5)を示す。色彩層(5)の色彩の境目は、潜像要素群(6)の輪郭と形状相関性の最も高い構成とした。具体的には、潜像要素群(6)の輪郭に沿ってそのまま色分けした。実施の形態と同様に左上の桜を現した色彩要素群(5A)の花びらを桃色、花中心の五角形を黄色で塗り潰し、右下の桜を現した色彩要素群(5B)の花びらを白色、花中心の五角形を黄色で塗り潰し、その他の背景部分を青色で塗り潰した。色彩層(5)は通常のプロセスインキを用い、それぞれの網点面積率が35%を超えない構成とした。
図11に光輝性画像(14)を示す。光輝性画像(14)は、二組の桜の枝を配した濃淡画像で構成し、色を強く見せたい領域は中間調で、その周辺の背景はシャドーで構成した。最大面積率は枝の部分で70%とし、最小面積率は、最も淡い桜の花びらの25%とした。
図4に潜像要素群(6)を示す。潜像要素群(6)は二つの潜像要素群(6A、6B)を含んで成る。基画像(8)は桜の花びらとして、インテグラルフォトグラフィ方式の圧縮画線によって潜像要素群(6)を構成した。左上の潜像要素群(6A)の第一の方向(S1方向)の位置を基準として、右下の潜像要素群(6B)の第一の方向(S1方向)の位置は、「P1の倍数(12mm)+P1の2分の1(0.2mm)」分に当たる、12.2mm位相をずらして配置した。印刷画像(3)、蒲鉾状要素群(4)、潜像要素群(6)、色彩層(5)、光輝性画像(14)におけるその他の具体的な構成は第二の実施の形態と同様である。
まず、基材(2)上に、蒲鉾状要素群(4)を透明なスクリーンインキ(UV FIL-383クリアー 帝国インキ製)でスクリーン印刷した。その上に色彩層(5)を通常のプロセスインキ(ダイキュア 黄・藍・紅・黒:DIC製)を用いてオフセット印刷で印刷した。そして、色彩層(5)の上に光輝性画像(14)を銀インキ(ダイキュア R シルバー:DIC製)にてオフセット印刷で形成した。更に、その上に潜像要素群(6)を透明なマットインキ(UVマットOPニスAD-BN:T&K TOKA製)でオフセット印刷した。層構造は、図14(a)に示す構成とした。印刷画像(3)の中で隣り合う色差△Eは30以下となった。
実施例の潜像印刷物(1)の効果について図15を用いて説明する。図15(a)のように拡散反射光下において、観察者(12)からは、第一のカラー画像が視認できた。続いて、図15(b)のような正反射光下の観察において、第一のカラー画像が消失し、観察者(12)には、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像(13A)と、白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像(13B)が青色の背景の中に表された第二のカラー画像にチェンジする効果が視認できた。また、図15(b)の観察角度からやや角度を変えて観察すると、図15(c)に示すように、桃色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13A)と、白色と黄色で色分けされた桜を表す潜像画像(13B)の第一の方向の位相が変化した。図15(b)から図15(c)への位置の変化は連続的であり、観察角度の変化に伴って、色分けされた潜像画像(13A、13B)が逆方向にスムーズに移動する、動画的効果が生じることを確認した。