以下、添付図面を参照して、超音波診断装置の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。図1に例示するように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、モニタ2と、入力装置3と、装置本体10とを有する。
超音波プローブ1は、超音波の送受信を行なうために、装置本体10に接続される。超音波プローブ1は、例えば、複数の圧電振動子を有し、これら複数の圧電振動子は、後述する装置本体10が有する送受信部11から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子は、被検体Pからの反射波を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ1は、圧電振動子に設けられる整合層と、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。なお、超音波プローブ1は、装置本体10と着脱自在に接続される。
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
なお、第1の実施形態は、超音波プローブ1が、被検体Pを2次元で走査する1Dアレイプローブであっても、被検体Pを3次元で走査するメカニカル4Dプローブや2Dアレイプローブであっても適用可能である。
入力装置3は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等を有する。入力装置3は、超音波診断装置の操作者からの各種設定要求を受け付け、装置本体10に対して受け付けた各種設定要求を転送する。
モニタ2は、超音波診断装置の操作者が入力装置3を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体10において生成された超音波画像データ等を表示したりする。
装置本体10は、超音波プローブ1が受信した反射波信号に基づいて超音波画像データを生成する装置である。図1に示す装置本体10は、2次元の反射波信号に基づいて2次元の超音波画像データを生成可能であり、3次元の反射波信号に基づいて3次元の超音波画像データを生成可能な装置である。ただし、第1の実施形態は、装置本体10が、2次元データ専用の装置である場合であっても適用可能である。
装置本体10は、図1に例示するように、送受信部11と、バッファ12と、Bモード処理部13と、ドプラ処理部14と、画像生成部15と、画像メモリ16と、内部記憶部17と、制御部18とを有する。
送受信部11は、後述する制御部18の指示に基づいて、超音波プローブ1が行なう超音波送受信を制御する。送受信部11は、パルス発生器、送信遅延回路、パルサ等を有し、超音波プローブ1に駆動信号を供給する。パルス発生器は、所定の繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)で送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。また、送信遅延回路は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束し、かつ送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生器が発生する各レートパルスに対し与える。また、パルサは、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。すなわち、送信遅延回路は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面から送信される超音波の送信方向を任意に調整する。
なお、送受信部11は、後述する制御部18の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧等を瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、又は、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
また、送受信部11は、アンプ回路、A/D(Analog/Digital)変換器、受信遅延回路、加算器、直交検波回路等を有し、超音波プローブ1が受信した反射波信号に対して各種処理を行って反射波データを生成する。アンプ回路は、反射波信号をチャンネル毎に増幅してゲイン補正処理を行う。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をA/D変換する。受信遅延回路は、デジタルデータに受信指向性を決定するのに必要な受信遅延時間を与える。加算器は、受信遅延回路により受信遅延時間が与えられた反射波信号の加算処理を行う。加算器の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。
そして、直交検波回路は、加算器の出力信号をベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-pahse)と直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)とに変換する。そして、直交検波回路は、I信号及びQ信号(以下、IQ信号と記載する)を反射波データとして、バッファ12に格納する。なお、直交検波回路は、加算器の出力信号を、RF(Radio Frequency)信号に変換した上で、バッファ12に格納しても良い。IQ信号や、RF信号は、位相情報が含まれる信号(受信信号)となる。以下では、送受信部11が出力する反射波データを、受信信号と記載する場合がある。
送受信部11は、被検体Pを2次元走査する場合、超音波プローブ1から2次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した2次元の反射波信号から2次元の反射波データを生成する。また、送受信部11は、被検体Pを3次元走査する場合、超音波プローブ1から3次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した3次元の反射波信号から3次元の反射波データを生成する。
バッファ12は、送受信部11が生成した反射波データ(I/Q信号)を一時的に記憶するバッファである。具体的には、バッファ12は、数フレーム分のI/Q信号、又は、数ボリューム分のI/Q信号を記憶する。例えば、バッファ12は、FIFO(First-In/First-Out)メモリであり、所定フレーム分のI/Q信号を記憶する。そして、例えば、バッファ12は、新たに1フレーム分のI/Q信号が送受信部11にて生成された場合、生成時間が最も古い1フレーム分のI/Q信号を破棄して、新たに生成された1フレーム分のI/Q信号を記憶する。
Bモード処理部13及びドプラ処理部14は、送受信部11が反射波信号から生成した反射波データに対して、各種の信号処理を行なう信号処理部である。Bモード処理部13は、バッファ12から読み出した反射波データ(I/Q信号)に対して、対数増幅、包絡線検波処理、対数圧縮などを行なって、複数のサンプル点それぞれの信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。
なお、Bモード処理部13は、フィルタ処理により、検波周波数を変化させることで、映像化する周波数帯域を変えることができる。このBモード処理部13の機能を用いることにより、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、コントラストハーモニックイメージング(CHI:Contrast Harmonic Imaging)や、ティッシュハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)等のハーモニックイメージングを実行可能である。すなわち、Bモード処理部13は、造影剤が注入された被検体Pの反射波データから、造影剤(微小気泡、バブル)を反射源とするハーモニック成分の反射波データ(高調波データ又は分周波データ)と、被検体P内の組織を反射源とする基本波成分の反射波データ(基本波データ)とを分離する。Bモード処理部13は、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)から、造影画像データを生成するためのBモードデータを生成することができる。
また、このBモード処理部13のフィルタ処理機能を用いることにより、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、ティッシュハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)を実行可能である。すなわち、Bモード処理部13は、被検体Pの反射波データから、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)である高調波データ又は分周波データを分離することができる。そして、Bモード処理部13は、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)から、ノイズ成分を除去した組織画像データを生成するためのBモードデータを生成することができる。
また、CHIやTHIのハーモニックイメージングを行なう際、Bモード処理部13は、上述したフィルタ処理を用いた方法とは異なる方法により、ハーモニック成分を抽出することができる。ハーモニックイメージングでは、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)法や位相変調(PM:Phase Modulation)法、AM法及びPM法を組み合わせたAMPM法と呼ばれる映像法が行なわれる。AM法、PM法及びAMPM法では、同一の走査線に対して振幅や位相が異なる超音波送信を複数回行なう。これにより、送受信部11は、各走査線で複数の反射波データ(受信信号)を生成し出力する。そして、Bモード処理部13は、各走査線の複数の反射波データ(受信信号)を、変調法に応じた加減算処理することで、ハーモニック成分を抽出する。そして、Bモード処理部13は、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)に対して包絡線検波処理等を行なって、Bモードデータを生成する。
例えば、PM法が行なわれる場合、送受信部11は、制御部18が設定したスキャンシーケンスにより、例えば(−1,1)のように、位相極性を反転させた同一振幅の超音波を、各走査線で2回送信させる。そして、送受信部11は、「−1」の送信による受信信号と、「1」の送信による受信信号とを生成し、Bモード処理部13は、これら2つの受信信号を加算する。これにより、基本波成分が除去され、2次高調波成分が主に残存した信号が生成される。そして、Bモード処理部13は、この信号に対して包絡線検波処理等を行なって、THIのBモードデータやCHIのBモードデータを生成する。
或いは、例えば、THIでは、受信信号に含まれる2次高調波成分と差音成分とを用いて映像化を行なう方法が実用化されている。差音成分を用いた映像化法では、例えば、中心周波数が「f1」の第1基本波と、中心周波数が「f1」より大きい「f2」の第2基本波とを合成した合成波形の送信超音波を、超音波プローブ1から送信させる。この合成波形は、2次高調波成分と同一の極性を持つ差音成分が発生するように、互いの位相が調整された第1基本波の波形と第2基本波の波形とを合成した波形である。送信部11は、合成波形の送信超音波を、位相を反転させながら、例えば、2回送信させる。かかる場合、例えば、Bモード処理部13は、2つの受信信号を加算することで、基本波成分が除去され、差音成分及び2次高調波成分が主に残存したハーモニック成分を抽出した後、包絡線検波処理等を行なう。
ドプラ処理部14は、バッファ12から読み出した反射波データを周波数解析することで、走査範囲内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報を抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。具体的には、ドプラ処理部14は、移動体の運動情報として、平均速度、平均分散値、平均パワー値等を、複数のサンプル点それぞれでドプラデータを生成する。ここで、移動体とは、例えば、血流や、心壁等の組織、造影剤である。本実施形態に係るドプラ処理部14は、血流の運動情報(血流情報)として、血流の平均速度、血流の平均分散値、血流の平均パワー値等を、複数のサンプル点それぞれで推定したドプラデータを生成する。
上記のドプラ処理部14の機能を用いて、本実施形態に係る超音波診断装置は、カラーフローマッピング法(CFM:Color Flow Mapping)とも呼ばれるカラードプラ法を実行可能である。CFM法では、超音波の送受信が複数の走査線上で複数回行なわれる。そして、CFM法では、同一位置のデータ列に対してMTI(Moving Target Indicator)フィルタを掛けることで、静止している組織、或いは、動きの遅い組織に由来する信号(クラッタ信号)を抑制して、血流に由来する信号を抽出する。そして、CFM法では、この血流信号から血流の速度、血流の分散、血流のパワー等の血流情報を推定する。後述する画像生成部15は、推定結果の分布を、例えば、2次元でカラー表示した超音波画像データ(カラードプラ画像データ)を生成する。そして、モニタ2は、カラードプラ画像データを表示する。
MTIフィルタとしては、通常、バタワース型のIIR(Infinite Impulse Response)フィルタや、多項式回帰フィルタ(Polynomial Regression Filter)等、係数が固定されたフィルタが用いられる。一方、本実施形態に係るドプラ処理部14は、MTIフィルタとして、入力信号に応じて係数を変化させる適応型のMTIフィルタを用いる。具体的には、本実施形態に係るドプラ処理部14は、適応型のMTIフィルタとして、「Eigenvector Regression Filter」と呼ばれているフィルタを用いる。以下、固有ベクトルを用いた適応型MTIフィルタである「Eigenvector Regression Filter」を、「固有ベクトル型MTIフィルタ」と記載する。
固有ベクトル型MTIフィルタは、相関行列から固有ベクトルを計算し、計算した固有ベクトルから、クラッタ成分抑制処理に用いる係数を計算する。この方法は、主成分分析や、カルーネン・レーベル変換(Karhunen-Loeve transform)、固有空間法で使われている手法を応用したものである。
固有ベクトル型MTIフィルタを用いる第1の実施形態に係るドプラ処理部14は、図1に例示するように、相関行列計算部141と、計算部142と、MTIフィルタ処理部143と、推定部144とを有する。相関行列計算部141は、同一位置(同一サンプル点)の連続した反射波データのデータ列から、走査範囲の相関行列を計算する。計算部142は、例えば、相関行列の固有値及び当該固有値に対応する固有ベクトルを計算する。そして、計算部142は、例えば、各固有値の大きさに基づいて各固有ベクトルを並べた行列のランクを低減した行列を、クラッタ成分を抑制するフィルタ行列として計算する。
MTIフィルタ処理部143は、フィルタ行列を用いて、同一位置(同一サンプル点)の連続した反射波データのデータ列から、クラッタ成分が抑制され、血流に由来する血流信号が抽出されたデータ列を出力する。推定部144は、MTIフィルタ処理部143が出力したデータを用いた自己相関演算等の演算を行なって、血流情報を推定し、推定した血流情報をドプラデータとして出力する。なお、第1の実施形態に係るドプラ処理部14が行なう具体的な処理については、後に詳述する。
ここで、図1に例示するBモード処理部13及びドプラ処理部14は、2次元の反射波データ及び3次元の反射波データの両方について処理可能である。すなわち、Bモード処理部13は、2次元の反射波データから2次元のBモードデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のBモードデータを生成する。また、ドプラ処理部14は、2次元の反射波データから2次元のドプラデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のドプラデータを生成する。
画像生成部15は、Bモード処理部13及びドプラ処理部14が生成したデータから超音波画像データを生成する。画像生成部15は、Bモード処理部13が生成した2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度で表した2次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部15は、ドプラ処理部14が生成した2次元のドプラデータから血流情報が映像化された2次元ドプラ画像データを生成する。2次元ドプラ画像データは、速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又は、これらを組み合わせた画像データである。画像生成部15は、ドプラ画像データとして、血流情報がカラーで表示されるカラードプラ画像データを生成したり、1つの血流情報がグレースケールで表示されるドプラ画像データを生成したりする。
ここで、画像生成部15は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成部15は、超音波プローブ1による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成部15は、スキャンコンバート以外に、種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行なう。また、画像生成部15は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
すなわち、Bモードデータ及びドプラデータは、スキャンコンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成部15が生成するデータは、スキャンコンバート処理後の表示用の超音波画像データである。なお、Bモードデータ及びドプラデータは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。画像生成部15は、スキャンコンバート処理前の2次元超音波画像データから、表示用の2次元超音波画像データを生成する。
更に、画像生成部15は、Bモード処理部13が生成した3次元のBモードデータに対して座標変換を行なうことで、3次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部15は、ドプラ処理部14が生成した3次元のドプラデータに対して座標変換を行なうことで、3次元ドプラ画像データを生成する。画像生成部15は、「3次元のBモード画像データや3次元ドプラ画像データ」を「3次元超音波画像データ(ボリュームデータ)」として生成する。
更に、画像生成部15は、ボリュームデータをモニタ2にて表示するための各種の2次元画像データを生成するために、ボリュームデータに対してレンダリング処理を行なう。画像生成部15が行なうレンダリング処理としては、例えば、断面再構成法(MPR:Multi Planer Reconstruction)を行なってボリュームデータからMPR画像データを生成する処理がある。また、画像生成部15が行なうレンダリング処理としては、例えば、3次元の情報を反映した2次元画像データを生成するボリュームレンダリング(VR:Volume Rendering)処理がある。
画像メモリ16は、画像生成部15が生成した表示用の画像データを記憶するメモリである。また、画像メモリ16は、Bモード処理部13やドプラ処理部14が生成したデータを記憶することも可能である。画像メモリ16が記憶するBモードデータやドプラデータは、例えば、診断の後に操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成部15を経由して表示用の超音波画像データとなる。また、画像メモリ16は、送受信部11が出力した反射波データを記憶することも可能である。
内部記憶部17は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行なうための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、内部記憶部17は、必要に応じて、画像メモリ16が記憶する画像データの保管等にも使用される。また、内部記憶部17が記憶するデータは、図示しないインターフェースを経由して、外部装置へ転送することができる。また、内部記憶部17は、外部装置から図示しないインターフェースを経由して転送されたデータを記憶することも可能である。
制御部18は、超音波診断装置の処理全体を制御する。具体的には、制御部18は、入力装置3を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部17から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信部11、Bモード処理部13、ドプラ処理部14及び画像生成部15の処理を制御する。例えば、制御部18は、送受信部11を介して超音波プローブ1を制御することで、超音波走査の制御を行なう。通常、CFM法では、血流像データであるカラードプラ画像データとともに、組織像データであるBモード画像データを表示する。かかる表示を行なうため、制御部18は、第1走査範囲内の血流情報を取得する第1超音波走査を超音波プローブ1に実行させる。第1超音波走査は、例えば、ドプラモードでカラードプラ画像データを収集するための超音波走査である。また、制御部18は、第1超音波走査とともに、第2走査範囲内の組織形状の情報を取得する第2超音波走査を超音波プローブ1に実行させる。第2超音波走査は、例えば、BモードでBモード画像データを収集するための超音波走査である。
制御部18は、送受信部11を介して超音波プローブ1を制御することで、第1超音波走査及び第2超音波走査を実行させる。なお、第1走査範囲と第2走査範囲は、同じ範囲であっても、第1走査範囲が第2走査範囲より小さい範囲であっても、第2走査範囲が第1走査範囲より小さい範囲であっても良い。
また、制御部18は、画像メモリ16や内部記憶部17が記憶する表示用の超音波画像データをモニタ2にて表示するように制御する。なお、装置本体10に内蔵される送受信部11等は、集積回路などのハードウェアで構成されることもあるが、ソフトウェア的にモジュール化されたプログラムである場合もある。
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、固有ベクトル型MTIフィルタを用いて推定された血流情報(ドプラデータ)によりCFM法を行なう。上述したように、固有ベクトル型MTIフィルタを用いるドプラ処理部14は、相関行列から固有ベクトルを計算する。ここで、固有ベクトル型MTIフィルタにより映像化したドプラ画像データの画質は、如何なる条件で相関行列を計算するかによって変わる。このため、固有ベクトルを用いた適応型MTIフィルタにより映像化した画像の画質は、必ずしも向上しない場合があった。この点について、以下、図2及び図3を用いて説明する。図2及び図3は、従来技術を説明するための図である。
通常のカラードプラ法では、超音波送受信を同一方向で複数回行ない、これにより受信した信号から、血流信号を抽出する。かかる超音波送受信により得られる同一位置からの反射波信号(反射波データ)のデータ列は、パケットと呼ばれる。パケットサイズは、1フレームの血流情報を得るために同一方向で行なわれる超音波送受信の回数となる。一般的なカラードプラ法でのパケットサイズは、5から16程度である。固有ベクトル型MTIフィルタの性能は、パケットサイズが大きい方が、向上するが、パケットサイズを大きくすると、フレームレートは、低下する。
また、従来のカラードプラ法では、折り返し速度を小さくして、低流速の血流の検出能を向上させるために、交互スキャンと呼ばれる超音波走査が行なわれている。しかし、交互スキャンでは、ドプラデータ収集用の第1走査範囲は、複数の走査ブロックに分割され、走査ブロック間には、時間差が発生する。このため、固有ベクトル型MTIフィルタを用いる場合、ドプラ処理部14は、相関行列を各走査ブロックで計算することで、走査ブロックごとに異なるMTIフィルタ処理を行なう必要がある。このため、従来のカラードプラ法では、走査ブロックの境界で、超音波画像データが不連続になってしまっていた。
図2は、交互スキャンの一例を示している。図2では、第1走査範囲と第2走査範囲とが同じ走査範囲であり、この走査範囲が第1走査線から第8走査線の8本の走査線により形成される場合を例示している。また、図2では、8本の走査線それぞれを、方位方向(超音波プローブ1の振動子の配列方向)に沿って、「1,2,3,4,5,6,7,8」と示している。また、図2では、Bモード用の第2超音波走査を黒塗りの矩形で示し、ドプラモード用の第1超音波走査を斜線でハッチングされた矩形で示している。
図2に例示する交互スキャンでは、「第1走査線、第2走査線」の順で第2超音波走査が行なわれた後、「第1走査線、第2走査線」の順で第1超音波走査が8回繰り返される。これにより、第1走査線及び第2走査線それぞれの血流情報が出力される。そして、図2に例示する交互スキャンでは、「第3走査線、第4走査線」の順で第2超音波走査が行なわれた後、「第3走査線、第4走査線」の順で第1超音波走査が8回繰り返される。これにより、第3走査線及び第4走査線それぞれの血流情報が出力される。
そして、図2に例示する交互スキャンでは、「第5走査線、第6走査線」の順で第2超音波走査が行なわれた後、「第5走査線、第6走査線」の順で第1超音波走査が8回繰り返される。これにより、第5走査線及び第6走査線それぞれの血流情報が出力される。そして、図2に例示する交互スキャンでは、「第7走査線、第8走査線」の順で第2超音波走査が行なわれた後、「第7走査線、第8走査線」の順で第1超音波走査が8回繰り返される。これにより、第7走査線及び第8走査線それぞれの血流情報が出力される。
上記の処理により、第1フレームのBモード画像データ及びカラードプラ画像データが生成表示される。また、上記の処理を繰り返すことで、図2に例示するように、第2フレーム以降の画像データの生成表示が行なわれる。図2に例示する交互スキャンは、隣接した2本の走査線を交互に走査する交互2段のスキャンであり、パケットサイズが「8」となる。図2に例示する交互スキャンでは、パケットごとに1つのデータを出力するので、1フレームのスキャンが完了して、1フレームが表示されることになる。すなわち、交互スキャンでは、表示フレーム数とスキャンフレーム数とは、常に同じとなる。
図2に例示する交互スキャンは、8本の走査線で形成されるドプラモード用の走査範囲を交互2段でスキャンするため、ドプラモード用の走査範囲は、図3に示すように、4つの走査ブロックに分割される。各走査ブロックのドプラデータは、「8×2=16回」の超音波送受信が行なわれた後に生成される。このため、図2に例示する交互スキャンが行なわれた場合、ドプラ画像データは、走査ブロック間が不連続な画像データとなる。
そこで、第1の実施形態では、固有ベクトル型MTIフィルタにより血流情報を映像化した画像の画質を向上させるために、走査範囲を走査ブロックに分割する必要のないドプラモード用の超音波走査を行なう。
具体的には、第1の実施形態で行なわれる第1超音波走査は、複数の走査線で形成される走査範囲での超音波送受信により、同一位置の反射波データを複数フレームにわたって収集可能な走査形態を繰り返すことで、実行される。より具体的には、第1の実施形態で行なわれる第1超音波走査は、複数の走査線で形成される走査範囲での超音波送受信を各走査線で1回とする走査形態を繰り返すことで、実行される。かかる走査形態は、通常のBモードで行なわれる第2超音波走査と同じ走査形態であり、フレームレートを向上させるためにCFM法で行なわれている走査形態と同じ走査形態である。以下、上記の第1超音波走査を「高フレームレート用超音波走査」と記載し、「高フレームレート用超音波走査」により行なわれるCFM法を「高フレームレート法」と記載する。
高フレームレート法では、各フレームの同じ位置のデータ列に対してフレーム方向(時間方向)で処理を行なうことができる。例えば、高フレームレート法では、MTIフィルタ処理を、パケットという有限長のデータ処理から無限長のデータに対する処理とすることができる。その結果、高フレームレート法により、MTIフィルタの性能を向上させるとともに、高いフレームレートで血流情報を表示することが可能になる。
高フレームレート用超音波走査により収集された反射波データからは、Bモード画像データ及びドプラ画像データを生成表示することができる。しかし、かかる場合、例えば、画質の良いTHI法によりBモード画像データを生成表示することができない。このため第1の実施形態に係る制御部18は、更に、高フレームレート用超音波走査による第1超音波走査とともに、第2超音波走査を、以下に説明する走査形態で実行させる。図4〜図6は、第1の実施形態に係る超音波走査の一例を示す図である。
第1の実施形態に係る制御部18は、第2超音波走査として第2走査範囲を分割した複数の分割範囲それぞれの超音波走査を、第1超音波走査の間に時分割で超音波プローブ1に実行させる。換言すると、第1の実施形態では、第1超音波走査の間に第2超音波走査の一部分を行い、数フレーム分の第1超音波走査を行なう期間で、1フレーム分の第2超音波走査を完結させる。かかる走査形態により、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、第1超音波走査と第2超音波走査とで超音波送受信条件を独立に設定可能となる。例えば、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、第2超音波走査をTHI法に基づく条件で実行させることができる。すなわち、第2超音波走査は、上述したフィルタ処理によりTHIを行なうための超音波送受信条件で実行することができる。また、第2超音波走査は、上述したAM法、PM法、AMPM法、又は差音成分を用いた方法等、1本の走査線に対して複数レートの超音波送信を行なう映像化法に基づくTHIを行なうための超音波送受信条件で実行することができる。
上記の制御処理の一例について、図4を用いて説明する。例えば、制御部18は、操作者からの指示や、初期設定された情報等に基づいて、第2走査範囲を4つの分割範囲(第1分割範囲〜第4分割範囲)に分割する。なお、図4に示す「B」は、Bモード用の送受信条件を用いて超音波走査が行なわれている範囲を示している。また、図4に示す「D」は、カラードプラモード用の送受信条件を用いて超音波走査が行なわれている範囲を示している。例えば、図4に示す「D」は、上記の高フレームレート法で行なわれる超音波走査が行なわれている範囲となる。すなわち、図4に例示する第1超音波走査は、一般的なカラードプラ法のように、超音波を同一方向に複数回送信して、複数回反射波を受信するのではなく、各走査線で超音波送受信を1回行なっている。制御部18は、第1超音波走査として、第1走査範囲を形成する複数の走査線それぞれで1回ずつ超音波送受信を行ない、複数フレーム分の反射波を用いて血流情報を取得する方法(高フレームレート法)に基づく超音波走査を実行させる。
まず、制御部18は、第2超音波走査として第1分割範囲の超音波走査を実行させ(図4の(1)を参照)、第2走査範囲(1フレーム分)の第1超音波走査を実行させる(図4の(2)を参照)。そして、制御部18は、第2超音波走査として第2分割範囲の超音波走査を実行させ(図4の(3)を参照)、第2走査範囲(1フレーム分)の第1超音波走査を実行させる(図4の(4)を参照)。そして、制御部18は、第2超音波走査として第3分割範囲の超音波走査を実行させ(図4の(5)を参照)、第2走査範囲(1フレーム分)の第1超音波走査を実行させる(図4の(6)を参照)。そして、制御部18は、第2超音波走査として第4分割範囲の超音波走査を実行させ(図4の(7)を参照)、第2走査範囲(1フレーム分)の第1超音波走査を実行させる(図4の(8)を参照)。
ここで、図4に例示するように、制御部18は、第1超音波走査が行なわれる間隔を等間隔とする。すなわち、第1走査範囲の「ある走査線」上の「点X」は、図4の(2)、(4)、(6)及び(8)の第1超音波走査で1回ずつ走査されるが、その走査間隔は、一定の「T」となるように制御される。具体的には、制御部18は、第2超音波走査で行なわれる各分割走査に要する時間を同一として、第1超音波走査が行なわれる間隔を等間隔とする。例えば、制御部18は、図4の(1)、(3)、(5)及び(7)で行われる第2超音波走査の分割走査に要する時間を、必ず同じ時間となるように制御する。制御部18は、第2走査範囲を分割した各分割範囲の大きさや、走査線数、走査線密度及び深度等を同一とする。例えば、走査線数が同じであるならば、第2超音波走査の各分割走査に要する時間は、同じとなる。ドプラ処理部14は、「D」のフレーム間の同じ位置のデータ列(図4に示す「Xn−3、Xn−2、Xn−1、Xn、・・・」)に対して、後述する処理を行なって、「点X」の血流情報を出力する。なお、上記の方法では、第2走査範囲全体の走査は、「4T」間隔で完結するが、制御部18は、「4T」間隔で組織像データを更新するのではなく、分割走査範囲ごとに組織像データを更新する。また、1本の走査線に対して複数レートの超音波送信を行なう映像化法に基づくTHIを行なう場合は、1フレーム分の受信信号を得るための超音波送信回数が増えるため、通常のBモード撮影や、フィルタ処理によりTHIを行なう場合と比較して、第2走査範囲の分割数を増やす必要がある。例えば、PM法を行なう場合、第2走査範囲は、4分割から8分割に変更される。かかる場合、第2走査範囲全体の走査は、「8T」間隔で完結する。かかる場合も、制御部18は、「8T」間隔で組織像データを更新するのではなく、分割走査範囲ごとに組織像データを更新する。
従来のカラードプラの処理では、パケット内で閉じたデータ列に対して、「MTIフィルタ処理」及び「速度・分散・パワー推定処理」を行なう。このため、従来のカラードプラの処理では、1つのパケットで1つの血流情報しか出力できない。これに対して、高フレームレート法の走査形態で行なわれるカラードプラの処理では、スキャン自体にパケットという概念がない。このため、上記の走査形態で行なわれるカラードプラの処理では、1つの血流情報を出力するための処理に使用するデータ列のデータ長は、任意に変更可能である。更に、上記の走査形態で行なわれるカラードプラの処理では、前の時相の血流情報を出力するための処理に使用したデータ列と、次の時相の血流情報を出力するための処理に使用するデータ列とを重複させることが可能である。
この点について、図5を用いて説明する。図5では、第1走査範囲と第2走査範囲とが同じ走査範囲であり、この走査範囲が第1走査線から第8走査線の8本の走査線により形成される場合を例示している。また、図5では、8本の走査線それぞれを、方位方向(超音波プローブ1の振動子の配列方向)に沿って、「1,2,3,4,5,6,7,8」と示している。また、図5では、Bモード用の第2超音波走査を黒塗りの矩形で示し、ドプラモード用の第1超音波走査を斜線でハッチングされた矩形で示している。図5は、図2に例示した走査範囲を、第1の実施形態で行なわれる走査形態でスキャンする場合を例示した図となる。
図5に例示するスキャンでは、第1走査線の第2超音波走査が行なわれた後、「第1走査線〜第8走査線」の順で第1超音波走査が行なわれ、第2走査線の第2超音波走査が行なわれた後、「第1走査線〜第8走査線」の順で第1超音波走査が行なわれる。そして、図5に例示するスキャンでは、第3走査線の第2超音波走査が行なわれた後、「第1走査線〜第8走査線」の順で第1超音波走査が行なわれ、第4走査線の第2超音波走査が行なわれた後、「第1走査線〜第8走査線」の順で第1超音波走査が行なわれる。
そして、図5に例示するスキャンでは、第5走査線の第2超音波走査が行なわれた後、「第1走査線〜第8走査線」の順で第1超音波走査が行なわれ、第6走査線の第2超音波走査が行なわれた後、「第1走査線〜第8走査線」の順で第1超音波走査が行なわれる。そして、図5に例示するスキャンでは、第7走査線の第2超音波走査が行なわれた後、「第1走査線〜第8走査線」の順で第1超音波走査が行なわれ、第8走査線の第2超音波走査が行なわれた後、「第1走査線〜第8走査線」の順で第1超音波走査が行なわれる。
ここで、図5に例示する場合では、データ列のデータ長が「8」に設定され、更に、表示されるフレーム間におけるデータ列の重複数が「4」に設定されている。かかる場合、図5に例示するように、1回目の第1超音波走査から8回目の第1超音波走査までに収集されたデータから、第1フレーム用のドプラデータが出力され、第1フレームのドプラ画像データが生成表示される。そして、図5に例示するように、5回目の第1超音波走査から12回目の第1超音波走査までに収集されたデータから、第2フレーム用のドプラデータが出力され、第2フレームのドプラ画像データが生成表示される。そして、図5に例示するように、9回目の第1超音波走査から16回目の第1超音波走査までに収集されたデータから、第3フレーム用のドプラデータが出力され、第3フレームのドプラ画像データが生成表示される。
なお、Bモード用の第2超音波走査は、図5に例示する場合、2フレーム分の第1超音波走査が完了すると完結する。図5に例示する場合では、ドプラ画像データの1フレームが表示される間に、走査範囲(第1走査範囲)の半分の領域のBモード画像データが更新される表示形態となる。
ドプラ用の第1超音波走査を、高フレームレート用超音波走査で行なうことで、走査範囲(第1走査範囲)は、従来のように、時間差が発生する複数の走査ブロックに分割されない。その結果、走査範囲全体は、図6に示すように、時間差が略無い、時間的に均一な状態となる。従って、以下に詳細に説明する固有ベクトル型MTIフィルタを用いたドプラ処理部14の処理が行なわれても、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、不連続な境界が発生しないドプラ画像データを生成表示することができる。
まず、第1の実施形態に係る相関行列計算部141は、複数の走査線で形成される走査範囲(第1走査範囲)での超音波送受信により複数フレームにわたって収集された同一位置の反射波データのデータ列から、走査範囲(第1走査範囲)の相関行列を計算する。具体的には、第1の実施形態に係る相関行列計算部141は、走査範囲(第1走査範囲)にわたり、1回の超音波送受信を行なうごとに、走査線を切り替える走査形態を繰り返すことで収集された同一位置の連続した反射波データのデータ列を、走査範囲の相関行列を計算するデータ列として用いる。より具体的には、第1の実施形態に係る相関行列計算部141は、走査範囲(第1走査範囲)での超音波送受信を各走査線で1回とする走査形態を繰り返すことで収集された同一位置の連続した反射波データのデータ列を、走査範囲の相関行列を計算するデータ列として用いる。
具体的には、相関行列計算部141は、以下に示す式(1)により相関行列「Rxx」を計算する。
ここで、式(1)に示す「xm」は、ある位置「m」におけるデータ列を列ベクトルとしたものである。列ベクトル「xm」の長さ「L」は、1フレームのドプラデータ(血流情報)の推定計算に使用するデータ長である。例えば、図5に例示する場合、「L」は、「8」である。また、式(1)に示す「xm H」は、「xm」の各要素の複素共役を取った行列の転置行列を示す。
ここで、位置「m」は、高フレームレート用超音波走査を行なう全空間で設定されるサンプル点の位置である。位置「m」は、2次元スキャンの場合は、2次元座標系で示され、3次元スキャンの場合は、3次元座標系で示される。また、式(1)に示す「M」は、位置「m」の総数である。
すなわち、相関行列計算部141は、式(1)により、複数のサンプル点それぞれで、データ列の自己相関行列を計算し、複数のサンプル点それぞれの自己相関行列の平均を計算する。これにより、相関行列計算部141は、走査範囲の相関行列を計算する。相関行列「Rxx」は、式(1)により、L行L列の行列となる。上述したように、相関行列が計算されるデータ列のデータ長「L」は、任意に変更可能である。また、相関行列が計算されるデータ列は、表示フレーム間で重複して設定可能である。
そして、計算部142は、相関行列を用いて主成分分析を行ない、クラッタ成分を主成分として近似し低減する行列演算を行なうことで組織からのクラッタを抑圧するフィルタ係数を計算する。本実施形態では、計算部142は、相関行列の固有値及び当該固有値に対応する固有ベクトルを計算する。すなわち、計算部142は、相関行列「Rxx」から、「L」組の「固有値及び固有ベクトル」を計算する。そして、計算部142は、各固有値の大きさに基づいてL個の固有ベクトルを並べた行列「V」を設定する。そして、計算部142は、行列「V」のランクを低減した行列を、クラッタ成分を抑制するMTIフィルタ行列として計算する。計算部142は、L個の固有ベクトルそれぞれをL個の列ベクトルとし、L個の列ベクトルを、固有値の大きい順に並べた行列を「V」として、以下の式(2)により、MTIフィルタ行列「W」を計算する。
ここで、式(2)に示す「VH」は、「V」の複素共役転置行列である。また、式(2)の右辺において、「V」と「VH」との間の行列は、L行L列の対角行列である。MTIフィルタ行列「W」は、式(2)により、L行L列の行列となる。ここで、低減される主成分の数、すなわち、低減されるランク数は、L行L列の対角行列の対角要素を何個「0」にするかにより、定まる。以下、低減されるランク数を「ランクカット数」と記載する。
固有値が大きい列ベクトル(固有ベクトル)は、ドプラ用の走査範囲内で、ドプラ効果による周波数偏移が小さい、すなわち、移動速度が低いクラッタ成分に対応する。式(2)は、行列「V」のランクを固有値の大きい方からランクカット数個分の成分をカットした行列を計算し、この行列に対して「VH」による逆変換を行なう。この式(2)により、組織の動き成分(クラッタ成分)を除去するハイパスフィルタとして機能するMTIフィルタ行列「W」を得ることができる。
ここで、計算部142は、例えば、予め設定された値、或いは、操作者が指定した値により、低減される主成分の数、すなわち、ランクカット数の値を決定する。しかし、心臓や血管等、拍動により移動速度が時間により変化する組織が走査範囲内に含まれる場合、ランクカット数の値は、固有値の大きさから適応的に決定されることが好適である、すなわち、計算部142は、相関行列の固有値の大きさに応じて、低減する主成分の数を変更する。本実施形態では、計算部142は、固有値の大きさに応じて、低減するランク数を変更する。
固有値の大きさからランクカット数を適応的に決定する論理は、超音波走査が行なわれる部位に応じて最適化する必要があるが、例えば、計算部142は、図7に示す閾値と、図9に示すアルゴリズムとにより、ランクカット数を決定する。図8に示すアルゴリズムは、2番目に大きい固有値を1番大きい固有値で割った値に基づいてランクカット数を決定するアルゴリズムである。図7及び図8は、第1の実施形態に係るランクカット数の決定処理の一例を説明するための図である。
まず、計算部142は、相関行列「Rxx」の固有値を大きい順に並べた配列の中で、k番目の固有値を「eig(k)」と定義する。「k」は、「1≦k≦L」の整数となる。そして、計算部142は、k番目に大きい固有値を1番大きい固有値「eig(1)」で割った値をdB単位で表した値「eigdB(k)」を、以下の式(3)により計算する。
なお、式(3)において、「abs」は絶対値を演算する関数となる。式(3)において、「k=2」とした「eigdB(2)」は、2番目に大きい固有値を1番大きい固有値「eig(1)」で割った値をdB単位で表した値となる。
また、計算部142は、L個の固有値が得られることから、ランクカット数決定用のL個の閾値(THi、1≦i≦L)を用いる。THiは、iの値によって変化する値が設定される。例えば、「L=8」の場合、8個の閾値「TH1〜TH8」は、図7に示すように設定される。図7では、TH1及びTH2は「1000000dB」に設定される。また、図7では、TH3は「20dB」に設定され、TH4は「15dB」に設定される。また、図7では、TH5は「10dB」に設定され、TH6は「5dB」に設定される。また、図7では、TH7及びTH8は「−1dB」に設定される。図7に例示する閾値を用いた場合、ランクカット数は、以下に説明する図8のアルゴリズムにより、2以上6以下の値となる。図8では、ランクカット数を「RankCut」と示している。
まず、計算部142は、「RankCut=0」に設定し(ステップS1)、「i=1」に設定する(ステップS2)。そして、計算部142は、「i」が「L」より大きいか、又は、「−eigdB(2)」が「THi」より大きいかを判定する(ステップS3)。ここで、「i」が「L」以下であり、かつ、「−eigdB(2)」が「THi」以下である場合(ステップS3否定)、計算部142は、ランクカット数をインクリメントして「RankCut=RankCut+1」とする(ステップS4)。
そして、計算部142は、「i=i+1」に設定して(ステップS5)、ステップS3の判定処理を行なう。なお、例えば、最初のステップS5の処理の後にステップS3の判定処理で用いられる「−eigdB(2)」は、L個の固有値を大きい順に並べた配列から1番大きい固有値を除外した配列において、2番目に大きい固有値を1番大きい固有値「eig(1)」で割った値をdB単位で表した値に「−1」を乗算した値となる。
一方、「i」が「L」より大きい場合、又は、「−eigdB(2)」が「THi」より大きい場合(ステップS3肯定)、計算部142は、最新の「RankCut」を、低減するランク数として決定する(ステップS6)。
なお、ランクカット数を固有値の大きさから適応的に決定するアルゴリズムは、上記のアルゴリズム以外にも、様々なアルゴリズムにより行なうことができる。これらのアルゴリズムは、例えば、撮影部位に応じて、選択可能である。
計算部142は、図8に例示したアルゴリズムにより、各表示フレームでランクカット数を決定して、MTIフィルタ行列「W」を計算する。
そして、MTIフィルタ処理部143は、フィルタ係数を用いて、同一位置(同一サンプル点)の連続した反射波データのデータ列から、クラッタ成分が抑制され、血流に由来する血流信号が抽出されたデータ列を出力する。本実施形態では、MTIフィルタ処理部143は、フィルタ行列を用いて、同一位置(同一サンプル点)の連続した反射波データのデータ列から、クラッタ成分が抑制され、血流に由来する血流信号が抽出されたデータ列を出力する。具体的には、MTIフィルタ処理部143は、位置「m」の列ベクトル「xm」を入力データとし、入力データとMTIフィルタ行列「W」とから、位置「m」の出力データである列ベクトル「ym」を以下の式(4)により計算する。列ベクトル「ym」の長さは、「L」となる。
MTIフィルタ処理部143は、「M」個のサンプル点それぞれにおいて、式(4)の計算を行なう。これにより、MTIフィルタ処理部143は、「M」個のサンプル点それぞれの出力データを、推定部144に出力する。
推定部144は、位置「m」の出力データである列ベクトル「ym」から、自己相関演算処理及び速度・分散・パワー推定処理を行なって、位置「m」の血流情報を推定する。まず、推定部144は、列ベクトル「ym」から、ラグ0及びラグ1の自己相関値の演算を行なう。ラグ0を「C0」とし、ラグ1を「C1」とすると、推定部144は、以下の式(5)によりラグ0「C0」を計算し、以下の式(6)によりラグ1「C1」を計算する。
なお、式(5)及び式(6)では、列ベクトル「ym」の位置を表す添字「m」を省略し、代わりに列ベクトル「ym」の要素「i」を添字で表している。また、式(6)において、上付きのアスタリスク「*」は、複素共役を示す。推定部144は、「M」個のサンプル点それぞれの「C0」及び「C1」を計算する。
そして、推定部144は、「C0」及び「C1」から速度「V」を以下の式(7)により計算し、「C0」及び「C1」から分散「T」を以下の式(8)により計算し、「C0」からパワー「P」を以下の式(9)により計算する。
なお、式(7)の「atan2」は、「−π〜+π」までの角度を出力する「アークタンジェント関数」であり、「imag」は、複素数から虚数部のみを出力する関数であり、「real」は、複素数から実数部のみを出力する関数である。パワーは、自己相関演算によりラグ0として求められ、速度及び分散は、自己相関演算の結果を周波数解析することで求められる。
推定部144は、「M」個のサンプル点それぞれの「V、T、P」を計算する。そして、推定部144は、「M」個のサンプル点それぞれの「V、T、P」を1フレーム分のドプラデータとして、画像生成部15に出力する。
そして、画像生成部15は、フィルタ係数を用いて推定された血流情報(ドプラデータ)から、超音波画像データ(カラードプラ画像データ)を生成する。本実施形態では、画像生成部15は、MTIフィルタ行列を用いて推定された血流情報(ドプラデータ)から、超音波画像データ(カラードプラ画像データ)を生成する。そして、制御部18は、超音波画像データ(カラードプラ画像データ)をモニタ2に表示させる。
図9は、従来技術により表示される画像データの一例を示す図であり、図10は、第1の実施形態により表示される画像データの一例を示す図である。図9に例示するカラードプラ画像データAは、高フレームレート用超音波走査と多項式回帰フィルタとを用いて生成表示された画像データである。また、図10に例示するカラードプラ画像データBは、高フレームレート用超音波走査と固有値の大きさから適応的に決定したランクカット数により計算された固有ベクトル型MTIフィルタとを用いて生成表示された画像データである。
図9に示すカラードプラ画像データAでは、ノイズが混在した状態で、すなわち、低コントラストで血流が描出されている。これに対して、図10に示すカラードプラ画像データBでは、ノイズが無い状態で、すなわち、高コントラストで血流が描出されている。また、図9に示すカラードプラ画像データAでは描出されていない細い血流が、図10に示すカラードプラ画像データBでは、明瞭に描出されている。また、図10に示すカラードプラ画像データBでは、高フレームレート用超音波走査により、不連続な境界が発生していない。
また、固有値の大きさから適応的に決定したランクカット数により計算された固有ベクトル型MTIフィルタを用いることで、第1の実施形態で計算されるMTIフィルタの特性は、組織の動きに応じて変化する。その結果、第1の実施形態で生成表示される血流像データでは、モーションアーティファクトが大幅に抑えられる。
例えば、IIRフィルタや多項式回帰フィルタを用いた高フレームレート法では、クラッタ信号が通過しやすくなり、モーションアーティファクトが発生する場合がある。これに対応するために、例えば、複数フレーム分のパワー値の平均値に基づいて、血流情報の値を低下する補正を行なう場合がある。かかる補正により、モーションアーティファクトを低減することが可能となるが、例えば、超音波プローブ1を動かすことで、血流情報が一時的に描出されない場合がある。一方、第1の実施形態では、モーションアーティファクトが大幅に抑制されるため、上記の補正を行なう必要がない。
次に、図11を用いて、第1の実施形態に係る超音波診断装置が行なう処理の一例について説明する。図11は、第1の実施形態に係る超音波診断装置が行なう処理の一例を説明するためのフローチャートである。なお、図11に例示するフローチャートは、第1の実施形態に係る超音波診断装置が行なうドプラ画像データの生成表示処理を説明したフローチャートである。
図11に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置の制御部18は、処理対象となるスキャンフレーム数分(データ長分)の反射波データが収集されたか否かを判定する(ステップS101)。ここで、スキャンフレーム数分の反射波データが収集されていない場合(ステップS101否定)、制御部18は、収集されるまで待機する。
一方、スキャンフレーム数分の反射波データが収集された場合(ステップS101肯定)、制御部18の指示により、相関行列計算部141は、走査範囲の相関行列を計算し(ステップS102)、計算部142は、相関行列からL組の固有値及び固有ベクトルを計算する(ステップS103)。
そして、計算部142は、L個の固有値の大小関係から、低減するランク数を決定し(ステップS104)、MTIフィルタ行列を計算する(ステップS105)。そして、MTIフィルタ処理部143は、MTIフィルタ処理を行ない(ステップS106)、推定部144は、MTIフィルタ処理で出力された出力データを用いて、自己相関演算処理を行なう(ステップS107)。そして、推定部144は、自己相関演算処理の結果から血流情報を推定する(ステップS108)。
そして、画像生成部15は、血流情報からカラードプラ画像データを生成し(ステップS109)、制御部18の制御により、モニタ2は、カラードプラ画像データを表示し(ステップS110)、処理を終了する。
上述したように、第1の実施形態では、固有ベクトル型MTIフィルタを用いた血流情報の推定処理を、高フレームレート用超音波走査と組み合わせて行なう。これにより、第1の実施形態では、走査範囲全体で1つの相関行列を計算して、画像全体に同一の固有ベクトル型MTIフィルタを掛けることができる。このため、ドプラ画像データには、MTIフィルタの特性差による不連続な境界が発生しない。また、従来のCFM法で行われる交互スキャンの走査ブロックが存在しないので、走査ブロックに起因する不連続な境界が発生しない。従って、第1の実施形態では、固有ベクトルを用いた適応型MTIフィルタにより血流情報を映像化した画像の画質を向上させることができる。
また、第1の実施形態では、高フレームレート用超音波走査を行なうことで、処理対象となるデータ列のデータ長を任意に変更可能となるので、使用するデータ列のデータ長を大きくすることで、ドプラ画像データの画質を向上させることができる。また、第1の実施形態では、高フレームレート用超音波走査を行なうことで、処理対象となるデータ列を、表示フレーム間で重複して設定可能となるので、ドプラ画像データを表示するフレームレートを向上させることができる。
また、第1の実施形態では、固有値の大きさから適応的に決定したランクカット数により計算された固有ベクトル型MTIフィルタを用いることで、MTIフィルタの特性を、組織の動きに応じて変化させることができる。その結果、第1の実施形態では、モーションアーティファクトを大幅に抑制することができる。
なお、上記では、Bモード用の超音波走査を、図4や図5を用いて説明した分割走査で行なう場合について説明した。しかし、第1の実施形態は、Bモード用の超音波走査の形態は、任意の走査形態により実行する場合でも適用可能である。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、固有ベクトル型MTIフィルタを用いたドプラ画像データの画質を更に向上される方法について説明する。
第2の実施形態に係る超音波診断装置は、図1を用いて説明した第1の実施形態に係る超音波診断装置と同様の構成となる。ただし、第2の実施形態に係るドプラ処理部14は、以下に説明する処理により、MTIフィルタ行列を計算する。
第1の実施形態では、血流を表示する走査範囲全体で1つの相関行列を計算し、画像全体に同一のMTIフィルタを掛けている。一方、血流を表示する走査範囲において、場所により組織の動きが大きく異なる場合、当該走査範囲を複数の処理ブロックに分割し、各処理ブロックで固有ベクトル型MTIフィルタを計算することで、各処理ブロックで最適なMTIフィルタを掛けることが望ましい。しかし、かかる場合、フィルタの特性差により、ドプラ画像データには、処理ブロック間で不連続な境界が発生してしまう。
そこで、第2の実施形態では、各処理ブロックで計算した相関行列を空間的に補間することで、固有ベクトル型MTIフィルタの係数を計算する。なお、第2の実施形態に係る走査形態は、第1の実施形態で説明した高フレームレート用超音波走査と同様の走査形態となる。
まず、第2の実施形態に係る相関行列計算部141は、走査範囲を分割した複数の範囲(複数の処理ブロック)それぞれで、相関行列を計算する。そして、相関行列計算部141は、複数の処理ブロックそれぞれより細分化された複数の細分化範囲(複数の細分化処理ブロック)それぞれの相関行列を、複数の処理ブロックそれぞれの相関行列を用いた補間処理により計算する。
そして、第2の実施形態に係る計算部142は、複数の細分化処理ブロックそれぞれの相関行列から、各細分化処理ブロックのフィルタ係数を計算する。具体的には、計算部142は、複数の細分化処理ブロックそれぞれの相関行列から、各細分化処理ブロックのフィルタ行列を計算する。そして、第2の実施形態に係るMTIフィルタ処理部143は、各細分化処理ブロックのフィルタ係数を用いて、各サンプル点の血流信号を抽出する。具体的には、MTIフィルタ処理部143は、各細分化処理ブロックのフィルタ行列を用いて、各サンプル点の血流信号を抽出する。そして、第2の実施形態に係る推定部144は、各サンプル点の血流情報を推定する。これにより、画像生成部15は、複数の細分化処理ブロックそれぞれのフィルタ係数を用いて推定された血流情報から、超音波画像データ(ドプラ画像データ)を生成する。具体的には、画像生成部15は、複数の細分化処理ブロックそれぞれのフィルタ行列を用いて推定された血流情報から、超音波画像データ(ドプラ画像データ)を生成する。
図12は、第2の実施形態に係る相関行列計算部が行なう処理の一例を示す図である。例えば、走査範囲は、図12に例示するように、4つの処理ブロック(R1、R2、R3、R4)に分割される。なお、走査範囲の分割数や各処理ブロックは、任意に設定可能である。相関行列計算部141は、第1の実施形態で説明した式(1)を用いた計算処理を、処理ブロックR1〜R4それぞれで行なう。これにより、相関行列計算部141は、処理ブロックR1の相関行列「R1」と、処理ブロックR2の相関行列「R2」と、処理ブロックR3の相関行列「R3」と、処理ブロックR4の相関行列「R4」とを計算する。ここで、図12に示すように、処理ブロックR1の中心座標を(x1,y1)とし、処理ブロックR2の中心座標を(x2,y1)とし、処理ブロックR3の中心座標を(x1,y2)とし、処理ブロックR4の中心座標を(x2,y2)とする。
例えば、相関行列計算部141は、複数の細分化処理ブロックそれぞれが、走査範囲内の個々のサンプル点として設定された場合、サンプル点R(x,y)の相関行列を、以下の式(10)を用いたバイリニア補間により計算する。
そして、計算部142は、式(2)により、M個のサンプル点それぞれの相関行列を用いて、M個のサンプル点それぞれのMTIフィルタ行列を計算する。なお、計算部142は、固有値の大きさに応じて、M個のサンプル点それぞれで、ランクカット数を決定する。そして、フィルタ処理部143は、各サンプル点の血流信号を、該当するMTIフィルタ行列を用いて抽出し、推定部144は、各サンプル点の血流情報を推定する。
図13は、第2の実施形態の効果を説明するための図である。図13に例示する左図は、血流表示が行なわれる走査範囲を16個の処理ブロックに分割し、各処理ブロックでMTIフィルタ行列を計算した場合に表示されるドプラ画像データである。一方、図13に例示する右図は、血流表示が行なわれる走査範囲を16個の処理ブロックに分割し、各サンプル点の相関行列を補間処理で計算し、更に、各サンプル点でMTIフィルタ行列を計算した場合に表示されるドプラ画像データである。
図13の左図に例示するように、上記の補間処理を行なわない「補間無し」のドプラ画像データには、16個の処理ブロック間に、不連続な境界が発生している。一方、図13の右図に例示するように、上記の補間処理を行なった「補間有り」のドプラ画像データには、16個の処理ブロック間に、不連続な境界が発生していない。
なお、上記では、細分化処理ブロックが1個のサンプル点で形成される場合について説明した。しかし、第2の実施形態は、処理負荷を軽減するために、例えば、10個のサンプル点で走査範囲を分割した複数の細分化処理ブロックそれぞれでMTIフィルタ行列を計算しても良い。
次に、図14を用いて、第2の実施形態に係る超音波診断装置が行なう処理の一例について説明する。図14は、第2の実施形態に係る超音波診断装置が行なう処理の一例を説明するためのフローチャートである。なお、図14に例示するフローチャートは、第2の実施形態に係る超音波診断装置が行なうドプラ画像データの生成表示処理を説明したフローチャートである。また、図14では、細分化処理ブロックが1つのサンプル点として設定された場合を例示している。
図14に示すように、第2の実施形態に係る超音波診断装置の制御部18は、処理対象となるスキャンフレーム数分(データ長分)の反射波データが収集されたか否かを判定する(ステップS201)。ここで、スキャンフレーム数分の反射波データが収集されていない場合(ステップS201否定)、制御部18は、収集されるまで待機する。
一方、スキャンフレーム数分の反射波データが収集された場合(ステップS201肯定)、制御部18の指示により、相関行列計算部141は、各処理ブロックで相関行列を計算し(ステップS202)、各サンプル点の相関行列を補間処理により計算する(ステップS203)。そして、計算部142は、サンプル点ごとに、相関行列からL組の固有値及び固有ベクトルを計算する(ステップS204)。
そして、計算部142は、サンプル点ごとに、低減するランク数を決定し(ステップS205)、サンプル点ごとに、MTIフィルタ行列を計算する(ステップS206)。そして、MTIフィルタ処理部143は、MTIフィルタ処理を行ない(ステップS207)、推定部144は、MTIフィルタ処理で出力された出力データを用いて、自己相関演算処理を行なう(ステップS208)。そして、推定部144は、自己相関演算処理の結果から血流情報を推定する(ステップS209)。
そして、画像生成部15は、血流情報からカラードプラ画像データを生成し(ステップS210)、制御部18の制御により、モニタ2は、カラードプラ画像データを表示し(ステップS211)、処理を終了する。
上述したように、第2の実施形態では、各処理ブロックの相関行列を用いた補間処理により各細分化処理ブロックの相関関数を計算することで、各細分化処理ブロックで最適化されたMTIフィルタ行列を計算することができる。その結果、第2の実施形態では、場所により組織の動きが大きく異なる場合であっても、モーションアーティファクトが大幅に抑制されたドプラ画像データを生成表示することができる。
なお、第2の実施形態で説明した補間処理が行なわれる場合、ドプラ用の第1超音波走査は、高フレームレート用超音波走査以外の走査形態により実行されても良い。すなわち、第2の実施形態は、血流情報の推定が可能な反射波データのデータ列が収集可能であれば、任意の走査形態を適用可能である。例えば、交互スキャンを実行する場合でも、第2の実施形態で説明した補間処理を行なうことで、走査ブロック及び処理ブロックに起因するアーティファクトが発生することを大幅に抑制することができる。
かかる場合、相関行列計算部141は、任意の走査形態で超音波送受信が行なわれた走査範囲を複数の処理ブロックに分割し、各範囲で収集された同一位置の反射波データのデータ列から、複数の処理ブロックそれぞれの相関行列を計算する。そして、相関行列計算部141は、更に、複数の細分化処理ブロックそれぞれの相関行列を、複数の処理ブロックそれぞれの相関行列を用いた補間処理により計算する。そして、計算部142は、各細分化範囲において該当する相関行列を用いて主成分分析を行ない、クラッタ成分を主成分として近似し低減する行列演算を行なうことで組織からのクラッタを抑圧するフィルタ係数を、前記複数の細分化範囲それぞれで計算する。具体的には、計算部142は、各細分化処理ブロックにおいて該当する相関行列の固有値及び当該固有値に対応する固有ベクトルを計算し、各固有値の大きさに基づいて各固有ベクトルを並べた行列のランクを低減した行列を、クラッタ成分を抑制するMTIフィルタ行列として計算する。これにより、計算部142は、複数の細分化処理ブロックそれぞれのフィルタ行列を計算する。
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、第1の実施形態で説明した処理、又は、第2の実施形態で説明した処理が行なわれている際に、フィルタ係数、すなわち、MTIフィルタ行列を計算するために使用した情報を出力する場合について、図15を用いて説明する。図15は、第3の実施形態を説明するための図である。
上述したように、第1の実施形態で説明した処理では、走査範囲全体で組織の動きに対して最適化されたMTIフィルタ行列が計算され、第2の実施形態で説明した処理では、細分化処理ブロックぞれぞれで組織の動きに対して最適化されたMTIフィルタ行列が計算される。また、MTIフィルタ行列を計算するために使用した情報は、第1の実施形態では、フレームごとに更新され、第2の実施形態では、細分化処理ブロックぞれぞれでフレームごとに更新される。かかる情報は、組織の動きを可視化した診断情報となる。従って、かかる情報を表示したり、記憶媒体に格納したり、印刷したりする出力制御を行なうことは、操作者に有用な情報を提供することになる。
そこで、第3の実施形態に係る制御部18は、フィルタ係数に関する情報を出力させる。フィルタ係数に関する情報は、フィルタ係数の計算に用いた固有値に関する情報と、フィルタ係数の周波数特性と、フィルタ係数のカットオフ周波数と、フィルタ係数の入出力のパワー値との少なくとも1つが設定される。具体的には、制御部18は、MTIフィルタ行列に関する情報を出力させる。MTIフィルタ行列に関する情報は、MTIフィルタ行列の計算に用いた固有値に関する情報と、MTIフィルタ行列の周波数特性と、MTIフィルタ行列のカットオフ周波数と、MTIフィルタ行列の入出力のパワー値との少なくとも1つが設定される。
例えば、制御部18の制御により、モニタ2は、図15に示すように、現時点のフレームであるドプラ画像データCの生成に用いたMTIフィルタ行列に関する情報を領域D及び領域Eに表示させる。なお、ドプラ画像データCは、第1の実施形態で説明した処理により生成表示された血流像である。
モニタ2は、図15に例示するように、領域Dのサブ領域D1に、MTIフィルタ行列の計算に用いた固有値に関する情報を表示する。なお、サブ領域D1の上に表示されている「Ens=16」は、データ長が「16」であることを示し、「fno=1」は、ドプラ画像データCが第1フレームであることを示している。また、サブ領域D1の上に表示されている「RankCut=12」は、ランクカット数が12であることを示している。すなわち、「RankCut=12」は、16個の固有値の中で、上位12個の固有値に対応する固有ベクトルがカットされたMTI行列が用いられていることを示している。
そして、領域Dのサブ領域D1には、図15に例示するように、16個の固有値が棒グラフで表示されている。図15に例示する棒グラフは、相関行列から計算された16個の固有値を大きい順に並べた棒グラフである。また、図15に例示する棒グラフでは、更に、16個の固有値の中で、第1位の最大固有値を「0dB」とし、第2位から第16位の各固有値をdB単位に換算している。なお、制御部18は、「第k位」の固有値のデシベル値を、以下の式(11)により計算する。
なお、図15に例示する棒グラフにおいて、点でハッチングされた12本の棒は、組織成分としてカットされた固有値であり、黒塗りの4本の棒は、血流成分として表示された固有値である。サブ領域D1に表示される棒グラフは、フレームが更新されるごとに、更新される。
また、モニタ2は、図15に例示するように、領域Dのサブ領域D2に、MTIフィルタ行列「W」の周波数特性を表示する。例えば、制御部18は、MTIフィルタ行列「W」の周波数特性を、デシベル値で示した折れ線グラフをサブ領域D2に表示させる。なお、制御部18は、周波数特性を示すデシベル値を、以下の式(12)により計算する。
サブ領域D2に表示される周波数特性の折れ線グラフは、フレームが更新されるごとに、更新される。
また、モニタ2は、図15に例示するように、領域Eに、MTIフィルタ行列「W」ののカットオフ周波数を表示する。領域Eの「MTI fc 0.35」は、第1フレームのMTIフィルタ行列で、「−20dB」となるカットオフ周波数が「0.35」であることを示している。なお、制御部18は、「−20dB」となるカットオフ周波数を、以下の式(13)により計算する。
領域Eに表示されるカットオフ周波数の値は、フレームが更新されるごとに、更新される。
また、モニタ2は、図15に例示するように、領域Dのサブ領域D3に、MTIフィルタ行列の入出力のパワー値を表示する。例えば、制御部18は、図15に示すように、MTIフィルタ入力前のパワー値を点線で、MTIフィルタ出力後のパワー値を実線線で示した折れ線グラフをサブ領域D3に表示させる。サブ領域D3に表示されるパワー値の折れ線グラフは、フレームが更新されるごとに、更新される。
通常のドプラモードでは、MTIフィルタの特性は、固定である。一方、第1の実施形態や、第2の実施形態では、MTIフィルタの特性は、フレームごとに異なる。しかし、操作者は、現在表示されているフレームでは、如何なる特性のMTIフィルタが掛けられているのかを把握することができない。
そこで、第3の実施形態では、図15に例示するような表示制御を行なう。これにより、操作者は、現在表示されているフレームでは、如何なる特性のMTIフィルタが掛けられているのかを把握することができる。例えば、操作者は、サブ領域D1を参照して、組織としてカットされた部分と、血流情報として利用している部分とを把握することができる。その結果、操作者は、現在表示されているフレームが、如何なる条件で取得されたドプラ画像データであるのかを、客観的に知ることができる。また、操作者は、領域Dや領域Eを参照することで、拍動等による組織の動きや、超音波プローブ1を動かしたことによる組織の動きを、把握することができる。
なお、上記のMTIフィルタ行列に関する情報を参照した操作者は、ドプラ画像データ生成条件の変更を所望する場合がある。そこで、制御部18は、更に、以下に説明する制御処理を行なっても良い。制御部18は、フィルタ係数に関する情報を参照した操作者から、当該フィルタ係数の計算に用いるパラメータの変更要求を受け付けた場合、変更後のパラメータによりフィルタ係数の再計算を計算部142に実行させる。具体的には、制御部18は、MTIフィルタ行列に関する情報を参照した操作者から、当該MTIフィルタ行列の計算に用いるパラメータの変更要求を受け付けた場合、変更後のパラメータによりフィルタ行列の再計算を計算部142に実行させる。例えば、変更されるパラメータとしては、ランクカット数や、ランクカット数の決定アルゴリズム、ランクカット数の決定に用いる閾値等が挙げられる。例えば、計算部142は、変更後のランクカット数に基づいて、MTIフィルタ行列を再計算する。これにより、ドプラ処理部14は、変更後のパラメータに基づくドプラデータを出力し、画像生成部15は、変更後のパラメータに基づくドプラ画像データを生成する。かかる制御により、操作者は、自身が所望する画質で血流情報を観察することができる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、第1〜第3の実施形態で説明した「高フレームレート用超音波走査による走査形態」の変形例について、図16及び図17を用いて、説明する。図16及び図17は、第4の実施形態を説明するための図である。
第4の実施形態に係る制御部18は、第1〜第3の実施形態で説明した「高フレームレート用超音波走査による走査形態」を、並列同時受信で実行させる。例えば、制御部18は、図16に示すように、8ビーム並列同時受信を実行させる。図16では、送信される超音波の深さ方向における中心軸を実線の矢印で示し、1回目で同時受信される8本の反射波ビームを破線の矢印で示している。送受信部11は、1回の超音波送受信で、8本の走査線上の反射波信号を超音波プローブ1から受信する。これにより、送受信部11は、1回の超音波送受信で、8本の走査線上の受信信号群(反射波データ群)を生成して、ドプラ処理部14に出力することができる。
また、図17では、ラスタ方向(走査方向)を左右方向で示し、時間方向(フレーム方向)を上下方向で示している。また、図17に示す一例は、第1走査範囲を形成する走査線数(ラスタ数)が「16」であり、並列同時受信により4方向の反射波を同時受信する場合を例示している。また、図17に示す一例では、走査線数が「16」であり、並列同時受信数が「4」であることから、第1走査範囲が4本の走査線で形成される4つの範囲(第1範囲、第2範囲、第3範囲、第4範囲)に分割される。
超音波プローブ1は、第1範囲のラスタ方向における中心位置を送信走査線とする超音波送信を行なって、第1範囲を形成する4方向の走査線の反射波を同時に受信する。これにより、第1範囲の4本の受信信号が生成される。同様の処理が第2範囲、第3範囲及び第4範囲でも行なわれ、第1走査範囲を形成する16本の走査線の受信信号が得られる。図17に示す「A」、「B」及び「C」それぞれは、「(n−2)フレーム、(n−1)フレーム、nフレーム」の同一位置の受信信号(反射波データ)を示している。ドプラ処理部14は、これら連続するフレームの同一位置のデータ列「A、B、C」を用いて、第1〜第3の実施形態で説明した処理を行なうことができる。
上述したように、第4の実施形態では、「高フレームレート用超音波走査による走査形態」に並列同時受信を適用することで、ドプラ画像データを表示するフレームレート(又は、ボリュームレート)を、更に向上させることができる。なお、並列同時受信数は、送受信部11が並列同時受信可能な上限数以下の範囲で、要求されるフレームレート(又は、ボリュームレート)に応じて、任意の値に設定可能である。
(第5の実施形態)
第5の実施形態では、「高フレームレート用超音波走査による走査形態」以外に、第1〜第3の実施形態で説明した画像処理方法に適用可能な走査形態について、図18及び図19を用いて説明する。図18及び図19は、第5の実施形態を説明するための図である。
第5の実施形態に係る第1超音波走査の走査形態は、第1〜第4の実施形態で説明した走査形態と同様に、フレーム方向で、同一位置の連続した反射波データのデータ列を収集するための走査形態である、ただし、第5の実施形態に係る制御部18は、走査線ごとに超音波送受信を複数回行なう超音波走査を、第1超音波走査の走査形態として実行させる。そして、第5の実施形態に係る制御部18の制御により、送受信部11、又は、ドプラ処理部14は、各走査線の複数の受信信号に対して加算平均処理を実行する。これにより、第1走査範囲を形成する複数の走査線それぞれの反射波データが取得される。そして、ドプラ処理部14は、フレーム方向のデータ列を用いて、第1〜第3の実施形態で説明した処理を行なう。
すなわち、第5の実施形態に係る相関行列計算部141は、走査線ごとに超音波送受信を複数回行なうことで得られた各走査線の複数の反射波データに対して加算平均処理を実行することで走査範囲(第1走査範囲)を形成する複数の走査線それぞれの反射波データを取得する走査形態を繰り返すことで収集された同一位置の連続した反射波データのデータ列を、相関行列を計算するデータ列として用いる。
第5の実施形態に係る第1超音波走査では、まず、1本の走査線で複数の受信信号が得られる。そして、第5の実施形態に係る第1超音波走査では、1本の走査線で得られた複数の受信信号に対する加算平均処理が行なわれ、最終的に、1本の走査線で1つの受信信号(反射波データ)が出力される。加算平均処理が行なわれる複数の受信信号は、IQ信号やRF信号等、位相情報を有する信号である。すなわち、第5の実施形態で行なわれる加算平均処理は、コヒーレント加算処理となる。コヒーレント加算を行なうことで、受信信号の信号雑音比(S/N:Signal/Noise)を向上させることができる。その結果、第5の実施形態では、例えば、カラードプラ画像データのS/Nを向上させることができる。
例えば、第5の実施形態に係る第1超音波走査では、第1走査範囲を形成する走査線ごとに、超音波送受信が4回行なわれる。そして、第5の実施形態に係る第1超音波走査では、例えば、1本の走査線で得られた4組の反射波データ(受信信号)に対する加算平均処理が行なわれ、最終的に、1本の走査線で1つの受信信号が出力される。例えば、4組の受信信号を加算平均することで、最終的に得られる走査線上の各サンプル点での反射波データのS/Nは、「6dB」向上する。
ただし、上記の走査形態による第1超音波走査では、1フレーム分の超音波走査を行なう際に、各走査線で超音波送受信が4回行なってわれることから、フレームレートが低下する。そこで、第5の実施形態に係る第1超音波走査では、制御部18は、「第1走査範囲を形成する走査線ごとに超音波送受信を複数回実行させて、該当する走査線上の1つの反射波データを取得する走査形態」を、並列同時受信で実行させても良い。
第5の実施形態に係る第1超音波走査に並列同時受信を適用する場合、制御部18は、第1方法又は第2方法を実行させる。第1方法では、制御部18は、隣接する範囲が重複しないように、第1走査範囲を複数の範囲に分割して並列同時受信を実行させる。また、第2方法では、制御部18は、隣接する範囲が重複するように第1走査範囲を複数の範囲に分割して並列同時受信を実行させる。
図18は、第1方法に基づいて、第5の実施形態に係る第1超音波走査に並列同時受信を適用した一例を示している。また、図19は、第2方法に基づいて、第5の実施形態に係る第1超音波走査に並列同時受信を適用した一例を示している。
図18及び図19では、第4の実施形態にて説明した図17に示す一例と同様に、ラスタ方向(走査方向)を左右方向で示し、時間方向(フレーム方向)を上下方向で示している。また、図18及び図19では、図17で説明した一例と同様に、第1走査範囲を形成する走査線数(ラスタ数)が「16」であり、並列同時受信により4方向の反射波を同時受信する場合を例示している。また、図18及び図19の「T1」は、サンプリング周期を示す。また、図18及び図19の「T2」は、加算幅を示す。また、図18及び図19の「T3」は、フレーム周期を示す。フレーム周期「T3」は、通常のドプラモードにおけるパルス繰り返し周期となる。
第1方法では、図18に示すように、図17に示す一例と同様に、第1走査範囲が4本の走査線で形成される4つの範囲(第1範囲、第2範囲、第3範囲、第4範囲)に分割される。ただし、第1方法では、例えば、図18に示すように、各範囲で並列同時受信が4回繰り返される。これにより、図18に示すように、(n−2)フレームにおいて、同一の受信走査線の同一地点の受信信号が4組得られる。図18では、これら4組のデータを「a1,a2,a3,a4」で示している。同様に、図18に示すように、(n−1)フレームにおいて、同一の受信走査線の同一地点の受信信号が4組得られる。図18では、これら4組のデータを「b1,b2,b3,b4」で示している。同様に、図18に示すように、nフレームにおいて、同一の受信走査線の同一地点の受信信号が4組得られる。図18では、これら4組のデータを「c1,c2,c3,c4」で示している。
例えば、送受信部11は、「A=(a1+a2+a3+a4)/4」を出力する。また、例えば、送受信部11は、「B=(b1+b2+b3+b4)/4」を出力する。また、送受信部11は、「C=(c1+c2+c3+c4)/4」を出力する。これにより、S/Nは、加算平均前と比較して、「6dB」向上する。そして、ドプラ処理部14は、
連続するフレームの同一位置のデータ列「A、B、C」を用いて、第1〜第3の実施形態で説明した処理を行なう。
なお、ドプラ周波数的には、4データの加算によってローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)が掛かるが、サンプリング周期「T1」及び加算幅「T2」によってカットされる速度成分は、フレーム周期「T3」に比べて十分高速なので、低流速を観察する場合において問題になることはない。
また、第2方法では、例えば、図19に示すように、送信走査線の位置を1走査線ずつずらして、4方向並列同時受信が行なわれる。これにより、第1方法と同様に、図19に示すように、(n−2)フレームにおいて、同一の受信走査線の同一地点の4組の受信信号「a1,a2,a3,a4」が得られ、「A=(a1+a2+a3+a4)/4」が出力される。また、第1方法と同様に、図19に示すように、(n−1)フレームにおいて、同一の受信走査線の同一地点の4組の受信信号「b1,b2,b3,b4」が得られ、「B=(b1+b2+b3+b4)/4」が出力される。また、第1方法と同様に、図19に示すように、nフレームにおいて、同一の受信走査線の同一地点の4組の受信信号「c1,c2,c3,c4」が得られ、「C=(c1+c2+c3+c4)/4」が出力される。これにより、S/Nは、加算平均前と比較して、「6dB」向上する。図18及び図19では、ドプラ画像データのフレームレートは同じである。
なお、図19に示す一例では、2組の受信信号しか得られない走査線においては、2組の受信信号の加算平均が行なわれ、3組の受信信号しか得られない走査線においては、3組の受信信号の加算平均が行なわれる。また、図19に示す一例では、1組の受信信号しか得られない走査線においては、この受信信号がドプラ処理部14の処理対象のデータとなる。また、第2方法では、加算平均対象となる受信信号の組数に応じて、例えば、送信走査線の位置を2走査線ずつずらす場合であっても良い。なお、第2方法の走査形態は、「1回の超音波送受信を行なうごとに、走査線を切り替える」という観点では、第1〜第4の実施形態で説明した走査形態と同様の走査形態となる。
第2方法を行なう利点について、以下説明する。第1方法の走査形態を行なう場合、第1超音波走査では、複数回の並列同時受信が行なわれる各範囲は、重複していない。図18に例示する第1方法では、同一走査線で4つの受信信号を得るための送信位置が同一であることから、送信ビームによる位相の変化が生じない。ただし、図18に例示する第1方法では、4回の並列同時受信が行なわれる各範囲は、重複していない。このため、図18に例示する第1方法では、4ラスタごとの範囲間に筋状のアーチファクトが発生する場合がある。
一方、第2方法の走査形態を行なう場合、第1超音波走査では、隣接する範囲を重複させた各範囲で並列同時受信が1回行なわれる。図19に例示する第2方法では、同一走査線で4つの受信信号を得るための送信位置が異なるための微小な位相ずれ生じるが、かかる位相ずれは、後段のフィルタ処理で除去可能である。そして、図19に例示する第2方法では、並列同時受信が行なわれる各範囲が3走査線分重複しているため、筋状のアーチファクトが発生しない。
上述したように、第5の実施形態では、各走査線で得られた複数の受信信号をコヒーレント加算した受信信号(反射波データ)を用いて、相関行列の計算処理、MTIフィルタ行列(フィルタ係数)の計算処理及びMTIフィルタ行列(フィルタ係数)を用いたフィルタ処理を行なう。これにより、第5の実施形態では、第1〜第4の実施形態で説明した第1超音波走査の走査形態と比較してフレームレートが低下するものの、血流情報を示す画像を生成するための反射波データのS/Nを向上させることができる。なお、上記では、並列同時受信数が「4」である場合を一例として説明したが、並列同時受信数は、任意の数に設定可能である。また、最初に説明したように、第5の実施形態に係る第1超音波走査の走査形態は、並列同時受信を行なわない場合であっても、実行可能である。また、第5の実施形態に係る制御部18の制御により、送受信部11、又は、ドプラ処理部14は、各走査線で得た複数の受信信号に対して、加算平均処理に類似するLPF処理を実行しても良い。また、第1〜第4の実施形態で説明した内容は、第1超音波走査の形態が異なる点以外、第5の実施形態でも適用可能である。
(第6の実施形態)
上記の第1〜第5の実施形態では、「相関行列の主成分分析を行ない、クラッタ成分を主成分として近似し低減する」ための方法の一例として、「相関行列の固有値及び当該固有値に対応する固有ベクトルを計算し、各固有値の大きさに基づいて各固有ベクトルを並べた行列のランクを低減した行列を、クラッタ成分を抑制するフィルタ行列として定める」場合について説明した。すなわち、第1〜第5の実施形態では、式(2)に示すように、対角行列にて「0」とする対角要素の数を決定することで、「クラッタ成分を低減する行列(フィルタ行列)を定める」場合について説明した。
しかし、「クラッタを特定する行列を定め、この行列と原信号とを用いてクラッタ成分を主成分として近似した信号を原信号から減算する」方法も、「相関行列の主成分分析を行ない、クラッタ成分を主成分として近似し低減する」処理を行なう方法の別の形態として、第1〜第5の実施形態に適用することが可能である。
かかる方法について、以下、数式を用いて説明する。第1の実施形態で具体的に記載した方法は、主成分分析と呼ばれる手法で説明すると、以下のようになる。すなわち、相関行列を主成分分析し、原信号(入力信号)を主成分で近似することで、信号成分として支配的な大きな組織からの信号(クラッタ)を抽出することができる。そして、抽出した主成分で近似した信号、すなわち、クラッタを、原信号から減算することで、血流からの信号を抽出することができる。この処理は以下の式(14)で表現することができる。
ここで、式(14)に示す「x」は、原信号の列ベクトルである。また、式(14)に示す第2項の「V」及び「VH」は、式(2)と同様である。そして、式(14)に示す第2項の対角行列の対角要素の「1」の数は、近似する主成分の数である。すなわち、式(14)に示す第2項は、クラッタ成分を主成分として近似した信号となる。式(14)は、原信号のデータ列「x」から、第2項で表現される「クラッタ成分を近似した信号」を減算することで、血流信号を抽出することを示している。
ここで、式(14)は、以下の式(15)で示すように、1つのフィルタ行列と原信号ベクトルとの積で表現できる。
式(15)に示すように、式(14)の処理は、式(2)と等価な処理であることが分かる。すなわち、式(14)に示す『対角行列の「1」によりクラッタを特定するフィルタ係数を用いた血流情報の推定処理(抽出処理)』は、第1〜第5の実施形態で説明した『対角行列の「0」によりクラッタを低減するフィルタ係数を用いた血流情報の推定処理(抽出処理)』と等価な処理である。このように、第1〜第5の実施形態で説明した画像処理方法は、計算部142が、相関行列の主成分分析により、クラッタ成分を特定する行列(フィルタ係数)を計算することでも、実行可能である。従って、第6の実施形態で説明した処理によっても、血流情報を映像化した画像の画質を向上させることができる。
なお、上記では、第1〜第6の実施形態で説明した画像処理方法が、超音波診断装置で実行される場合について説明した。しかし、第1〜第5の実施形態で説明した画像処理方法は、送受信部11が出力した反射波データ(IQ信号)を取得可能な画像処理装置において実行される場合であっても良い。
また、上記の実施形態において、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。更に、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
また、第1の実施形態〜第6の実施形態で説明した画像処理方法は、予め用意された画像処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。この画像処理プログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、この画像処理プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVD、USBメモリ及びSDカードメモリ等のFlashメモリ等、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に記録され、コンピュータによって非一時的な記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
以上、説明したとおり、第1の実施形態〜第6の実施形態によれば、固有ベクトルを用いた適応型MTIフィルタにより血流情報を映像化した画像の画質を向上させることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。