液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等の電子機器には、樹脂フィルムの上に配線回路が形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板は、樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付樹脂フィルムに対してフォトリソグラフィーやエッチング等の薄膜技術で金属膜をパターニング処理することによって得られる。近年、フレキシブル配線基板の配線回路パターンは、ますます微細化、高密度化する傾向にあり、そのため金属膜付樹脂フィルムには平坦でシワのないものが求められている。
上記の金属膜付樹脂フィルムの製造方法として、従来、金属箔を接着剤により樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、及び樹脂フィルムに真空成膜法単独で、又は真空成膜法と湿式めっき法との併用で金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。そして、メタライジング法の真空成膜法には、一般に真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等が用いられている。
例えば特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にスパッタリングでクロム層を形成した後、スパッタリングで銅層を形成することでポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2には、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングにより形成された第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングにより形成された第二の金属薄膜とがこの順にポリイミドフィルム上に積層されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。なお、ポリイミドフィルム(基板)のような樹脂フィルムに連続的に真空成膜を行う場合は、長尺状の樹脂フィルムをロールツーロールで搬送しながら成膜することが可能なスパッタリングウェブコータを用いることが一般的である。
ところで、上記の真空成膜法のうち、一般にスパッタリング法は密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。また、樹脂フィルムは成膜の際に大きな熱負荷がかかるとシワが発生し易くなることも知られている。このシワの発生を防ぐため、上記のスパッタリングウェブコータでは、冷却機能を備えた回転駆動式キャンロールの外周面に長尺樹脂フィルムを巻き付けて裏面側から冷却しながら表面側にスパッタリング成膜する方式が採用されている。
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式真空スパッタリング装置は、上記キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されており、更にクーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側に設けたサブロールによってフィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
しかしながら、非特許文献1に記載されているように、キャンロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、キャンロールとその外周面に密着して搬送される長尺樹脂フィルムとの間には真空空間を介して離間するギャップ部(間隙)が存在している。このため、スパッタリングや蒸着の際に生じる長尺樹脂フィルムの熱は、実際には長尺樹脂フィルムからキャンロールに効率よく伝熱されているとはいえず、これが長尺樹脂フィルムのシワ発生の原因となっていた。
この問題を解決するため、上記キャンロール外周面と長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部にキャンロール側からガスを導入して、当該ギャップ部の熱伝導率を真空に比べて高くする技術が提案されている。例えば特許文献4には、上記ギャップ部にキャンロール側からガスを導入する具体的な方法として、キャンロールの外周面にガスの導入口となる多数の微細な孔を設ける技術が開示されている。また、特許文献5には、キャンロールの外周面にガスの導入口となる溝を設ける技術が開示されている。更に、キャンロール自体を多孔質体で構成し、その多孔質体自身の微細孔をガスの分配及び導入口とする方法も知られている。
しかし、これらいずれのガス放出機構付きキャンロールにおいても、キャンロールの外周面において長尺樹脂フィルムが巻き付けられていない領域は長尺樹脂フィルムが巻き付けられている領域に比べてガス導入口の抵抗が低くなるため、キャンロールに供給したガスの多くはこの長尺樹脂フィルムの巻き付けられていない領域のガス導入口を経て真空チャンバーの空間に放出されてしまう。その結果、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられている長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部に本来導入されるべき量のガスが供給されず、熱伝導率を高める効果が得られなくなることがあった。
この問題に対しては、キャンロールの外周面から出没するバルブをガス導入口に設け、このバルブを長尺樹脂フィルムの裏面で押さえつけることによってガス導入口を開放する方法や(特許文献5)、キャンロールの外周面のうち長尺樹脂フィルムを送り出してから導き入れるまでに該当する長尺樹脂フィルムの巻き付けられない領域にカバーを取り付けて、この領域から真空チャンバーにガスが放出されるのを防止してキャンロール外周面と長尺樹脂フィルムとのギャップ部に良好にガスを導入する方法(特許文献6)などが提案されている。
しかし、特許文献5に示すような長尺樹脂フィルムの裏面でバルブを押さえつけてガス導入口を開閉させる方法は、バルブの接触により長尺樹脂フィルムの裏面に僅かなキズや凹みを生じさせるおそれがあり、高い品質が要求される電子機器のフレキシブル配線基板の製造に採用することは難しかった。また、特許文献6に示すようなカバーを用いて長尺樹脂フィルムが巻き付けられない領域のガス導入口を封鎖する方法は、高い真空度で成膜処理を行う成膜装置ではカバーとキャンロール外周面との隙間からのガス漏れを防ぐことはできなかった。
そこで、特許文献7や特許文献8に記載されているように、複数のガス導入口にガスを分配して供給するため、キャンロールの外周肉厚部に周方向に均等に複数のガス導入路を設けると共に、キャンロールの中心軸上に取り付けられたガスロータリージョイントを利用してこれら複数のガス導入路へのガス供給を個別に制御できるようにした機構が提案されている。これにより上記した長尺樹脂フィルムが巻き付けられない領域からのガスの放出を効果的に防ぐことができる。
なお、非特許文献2によれば、キャンロールの外周面と長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部に導入するガスがアルゴンガスであって、そのガス圧力が500Pa、ギャップ部のギャップ間距離が約40μm以下の時、ギャップ部の熱伝導率は250(W/m2・K)となる。この導入ガスの圧力を高くしてキャンロールの外周面と長尺樹脂フィルムとのギャップ間のガス圧力を高くすれば、熱伝達に寄与する分子の数が多くなるので熱伝達率が向上することが知られている。しかし、導入ガスの圧力を高くする場合は、その圧力に抗して長尺樹脂フィルムをキャンロールの外周面に押し付けるための抗力とバランスさせることが必要となる。すなわち下記式1に示すように、上記抗力Pは、長尺樹脂フィルムの巾1m当たりの張力T及びキャンロールの半径Rによって定まることが非特許文献3に記載されている。
[式1]
P=T/R
例えば、キャンロール(半径R:0.4m)の外周面に巻き付いている巾0.57mの長尺樹脂フィルムの張力が200Nの時、抗力Pは877Pa/m2になる。一方、ギャップ部内のガスの熱伝達係数kgasは、ギャップ部の熱伝導率λ(W/m・K)、キャンロールの外周面と長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部のギャップ間距離b(m)、平均自由行程L(m)から下記式2で表すことができる。そして、ギャップ部内のガス圧が高くなると、平均自由行程が短くなるので熱伝達係数が向上することが非特許文献4に記載されていている。
[式2]
kgas=λ/(b+2L)
(1)真空成膜装置
先ず、本発明の帯状物の搬送制御方法を好適に実施可能な帯状物の処理装置の一具体例として、図1の真空成膜装置50について説明する。この図1に示す長尺基板真空成膜装置50はスパッタリングウェブコータとも称される装置であり、帯状物の一例としての長尺樹脂フィルムを真空チャンバー51内でロールツーロール方式で搬送しながらその表面に熱負荷の掛かる処理であるスパッタリング成膜処理を連続的に効率よく施す場合に好適に用いられる。
具体的に説明すると、真空チャンバー51には、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の真空装置が具備されており、スパッタリング成膜の際にはこれら真空装置により到達圧力10−4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素などのガスが添加される。真空チャンバー51の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。
この真空チャンバー51内に巻出ロール52からキャンロール56を経て巻取ロール64までロールツーロール方式で搬送を行う長尺樹脂フィルムFの各種ロール群及び乾式成膜手段が設けられている。これにより、巻出ロール52から巻き出された長尺樹脂フィルムFに対してスパッタリング成膜処理を行った後、巻取ロール64で巻き取るようになっている。
すなわち、巻出ロール52からキャンロール56までの搬送経路には、長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール53、長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール54、及びモータ駆動のフィードロール55がこの順で配置されている。フィードロール55ではキャンロール56の周速度に対する調整が行われており、これによりキャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルムFを密着させることができる。
キャンロール56から巻取ロール64までの搬送経路にも上記と同様に、キャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール61、長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール62、及び長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。上記した巻出ロール52及び巻取ロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。また、キャンロール56の回転とこれに連動して回転するモータ駆動のフィードロール55、61により、巻出ロール52から長尺樹脂フィルムFが巻き出されて巻取ロール64に巻き取られるようになっている。
キャンロール56の外周面上に画定される搬送経路のうち、尺樹脂フィルムFが巻き付けられる領域A(ラップ部又はラップ領域とも称する)に対向する位置に、金属膜のスパッタリング成膜を行う乾式成膜手段としてマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59及び60がこの順に搬送経路に沿って設けられている。なお、ラップ部に対応する上記領域Aの角度のことを長尺樹脂フィルムFの抱き角と称することがある。また、長尺樹脂フィルムFが巻き付けられていない領域Bを非ラップ部又は非ラップ領域と称することがある。
図1には板状のターゲットを使用した場合が示されているが、板状ターゲットはターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがあるので、これが問題になる場合はノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。また、図1の真空成膜装置50は、熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング成膜処理を行うものであるため、マグネトロンスパッタリングカソードが設けられているが、本発明が対象とする処理装置はスパッタリング成膜を行う装置に限定するものではなく、CVD(化学蒸着)や真空蒸着などの熱負荷の掛かる処理装置でもよい。この場合は板状ターゲットに代えてこれらの真空成膜手段が設けられる。
(2)ガス放出機構付キャンロール
次に、上記したキャンロール56について図2を参照しながら説明する。このキャンロール56は金属製の円筒部材10からなり、その内部は冷却水などの温度調節された冷媒が循環できるようにいわゆるジャケットロール構造12になっている。円筒部材10の回転中心Oに位置する回転軸11は真空チャンバー51の外部の図示しないチラーとの間で冷媒を循環させるため二重配管構造になっており、その外周部に設けたベアリング13によって回転可能に支持されている。
この円筒部材10の外周肉厚部に、回転軸11方向に延在する複数のガス導入路14が周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って設けられている。そして、各ガス導入路14に、外周面側に開口する複数のガス放出孔15が回転軸11方向に均等な間隔をあけて設けられている。円筒部材10の一端部にはガスロータリージョイント20が取り付けられており、真空チャンバー51の外部の図示しないガス供給源からのガスを上記した複数のガス導入路14に分配して供給できるようになっている。かかる機構により、複数のガス導入路14及びそれらの各々に連通するガス放出孔15を経てキャンロール56の外周面とそこに巻き付いている長尺樹脂フィルムFとの間のギャップ部にガスが放出され、これにより該ギャップ部の熱伝導率を向上させることができる。
上記のガス導入路14の本数や各ガス導入路に設けるガス放出孔15の数は、キャンロール56の外周面を覆う長尺樹脂フィルムFの面積、ギャップ部へのガス放出量、真空チャンバー51が具備する排気ポンプの能力等により適宜定めることができる。ガス放出孔15の内径は、キャンロール56の外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部(隙間)に良好にガスを導入できる大きさであれば特に限定はないが、極小の内径を有するガス放出孔15を狭ピッチにして多数設けるのがキャンロール56の外周面の全面に亘って熱伝導率を均一化できるという点において好ましい。また、ガス放出孔15の内径が大きいと、長尺樹脂フィルムFのうちこの部分に対向する部位では冷却効率が低下することがある。従って一般的には内径30μm〜1000μm程度が好ましい。但し、極小の内径を有する孔を狭ピッチで多数設ける加工技術は困難を伴うので、現実的には内径150〜500μm程度の小孔を5〜10mmピッチでキャンロール56の外周面に設けるのがより好ましい。
なお、キャンロール56の外周面とそこに巻き付いている長尺樹脂フィルムFとのギャップ部のギャップ間隔が40μm程度のとき、このギャップ部からリークするガスの量は、真空成膜装置50が具備する真空ポンプで排気可能である。また、ギャップ部に導入するガスにスパッタリング雰囲気のガスと同じガスを用いれば、真空チャンバー51のスパッタリング雰囲気を汚染することもない。
(3)ガスロータリージョイント
次に、上記した複数のガス導入路14にガスを分配して供給するガスロータリージョイント20について図2〜図4を参照しながら説明する。図2〜3に示すように、ガスロータリージョイント20は前述した円筒部材10の一端部に固定されて該円筒部材10と共に回転する回転リングユニット21と、回転しない静止リングユニット22とから構成されており、これらは互いの摺動面で摺動するようになっている。
回転リングユニット21にはガス導入路14と同じ数のガス分配路23が放射状に設けられており、これらガス分配路23はそれぞれ接続管24を介してガス導入路14に連通している。ガス分配路23のガス導入路14に接続していない側の端部23aは、静止リングユニット22との摺動面21aにおいて開口している。一方、静止リングユニット22には1本のガス供給路25が設けられており、その一端部は真空チャンバー51の外部の図示しないガス供給源からのガス供給配管26に接続している。図4に示すように、このガス供給路25の他端部は、回転リングユニット21との摺動面22aにおいて、ラップ部Aに位置するガス導入路14に連通するガス分配路23にのみ対向するように、略C字状の溝25aになっている。
このように、回転リングユニット21の複数のガス分配路23に連通する静止リングユニット22のガス供給路25は、摺動面22aにおいて円状ではなく略C型の溝25aとなって開口することにより、キャンロール56の外周面のうち長尺樹脂フィルムFが覆っていない非ラップ領域に位置するガス放出孔15からはガスを放出することなく、長尺樹脂フィルムFが覆うラップ領域のみからガスを放出する構造になっている。なお、略C字状に周方向に延在する溝の範囲を適宜変更することにより、キャンロール56の外周面のうちガスを放出しない非ラップ領域の範囲を調整することが可能になる。なお、数本の隣接するガス導入路14をマニホールドのような集合管でまとめてからガス分配路23に接続してもよい。
かかる構造のガスロータリージョイント20を用いることで、キャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルムFが巻き付いていない領域である非ラップ部Bではガス導入路14へのガス供給が遮断されるので、ガス放出孔15から真空チャンバー51内に無駄にガスが放出されるのを防ぐことができる。よって、真空チャンバー51内の圧力制御への悪影響を抑えることができると共に、導入ガスのガス圧を所定の圧力に安定的に維持することが可能になる。また、電磁バルブや圧空バルブを使用しないため、キャンロール56に複雑な配線や配管を設ける必要がなくなる。
なお、ガスロータリージョイントの構造は、上記したように回転リングユニット21と静止リングユニット22とがそれらの中心軸に垂直な摺動面で互いに摺動する構造に限定されない。例えば小型の環状静止リングユニットの外周面に大型の環状回転リングユニットの内周面が摺接する構造でもよく、この場合は、回転リングユニットの内周面においてガス分配路の一端部を開口させ、静止リングユニットの外周面にはラップ部Aに対応する角度範囲にのみ周方向に延在する溝を設ければよい。ガスロータリージョイントには、公知のガスシール手段を備えてもよく、これにより上記した両リングユニットの互いの摺動面からのガスのリークを防ぐことができる。
次に、キャンロールの外周面において、長尺樹脂フィルムFが巻き付けられていない領域である非ラップ部B及びその前後に位置するガス分配路23の一端部23aと、ガス導入路25の略C字状の溝25aとの上記摺動面上での位置関係について図5を参照しながら説明する。なお、図5では本来円弧状に並んでいるガス分配路23群の一端部を直線的に示しており、また、C字状の溝25aについては両端部のみ示している。
ラップ部Aに位置する各ガス導入路14及びこれに連通するガス導入路23内のガスは、非ラップ部Bを通過する僅かな時間の間にガス放出孔15から真空チャンバー51内にほぼ完全に排出される。すなわち、図5の(1)に示す非ラップ部Bに位置する3つのガス分配路23は、C字状の溝25aに対向していないのでガスの供給が停止されており、これらに連通するガス導入路14及びガス放出孔15と共に真空チャンバー51内と同じ減圧状態になっている。
次に、図5の(1)から少しずつ時間経過した図5の(2)〜(4)に示すように、非ラップ部Bの右端に位置するガス導入路14に連通するガス分配路Xは、極めて短時間の間にC字状の溝25aに対向しない状態から対向する状態に移行することになるので、減圧状態から急激に所定のガス圧になるまでC字状の溝25aからガスが導入される。
その結果、ガス供給源から一定流量でガスロータリージョイント20にガスを供給していても、C字状溝25a内のガス圧を一定に保つことは難しく、キャンロール56の外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部(間隙)のガス圧が変動する原因になっていた。そのため冷却効率が変動してシワ発生の起因になることがあった。そこで下記のガス供給システムを採用するのが望ましい。
(4)ガス供給システム
次に、上記のガスロータリージョイント20にガス供給源からガスを供給するガス供給システムの一具体例について図6を参照しながら説明する。この図6に示すガス供給システム30は、流量を制御するピエゾバルブ(PV)31と質量センサであるマスフローメータ(MFM)32とがガス供給配管26に設けられている。また、ガス供給路25内のガス圧を検出する圧力検出手段としての圧力センサ(P)33がガス供給路25に設けられており、調節計(CPU)34は該圧力センサ33の検出したガス圧に基づいてPV31の開度を制御している。
ガス供給システムはこの図6の方式に限定されるものではなく、例えば図7の方式でもよい。すなわち、この図7に示すガス供給システム130は、ガス供給配管26が部分的に2つに分かれており、それらの一方の流路には上記のガス供給システム30と同様に流量を制御するピエゾバルブ(PV)31と質量流量センサであるマスフローメータ(MFM)32とが設けられており、調節計(CPU)34は、圧力検出手段としての圧力センサ(P)33が検出したガス供給路25内のガス圧に基づいてピエゾバルブ31の開度を制御している。そして、もう一方の流路に、例えばピエゾバルブ、マスフローセンサ、及び調節計がセットになったマスフローコントローラユニット(MFC)35が設けられている。このように、ガス供給路25内のガス圧がフィードバックされる圧力制御方式と、一定流量に制御する流量制御方式とを併用することで制御性を高めることができる。
例えば、キャンロール56の外周面とそこに巻き付いている長尺樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部のガス圧を800Paに保つためにはガス供給源から60sccmのガスを供給するのが必要な場合、この供給ガスの一部を、フルスケール50sccmのマスフローコントローラユニット35を用いた流量制御方式によって一定流量で供給し、供給ガスの残りはフルスケール50sccmのピエゾバルブ31を用いてガス供給路25内のガス圧が一定圧力になるように圧力制御方式によって供給すればよい。このように圧力制御と流量制御とを併用する方が、フルスケール100sccmのピエゾバルブを用いてガス供給路35内のガス圧が一定圧力になるように圧力制御しながらガス供給する方式に比べて制御性が優れているのは明らかである。
(5)ギャップ部の圧力制御方法
キャンロール56の外周面とそこに巻き付いている長尺樹脂フィルムFとの間のギャップ部のガス圧は、前述したように、長尺樹脂フィルムFを放出キャンロール56の外周面に押し付けるための抗力を超えないように設定するのが好ましい。そこで、上記した図6に示すガス供給システム30において、上記ギャップ部とほぼ同等のガス圧を有するガス分配路23のガス圧が前述した式1の抗力Pを超えない設定圧となるようにCPU34で圧力制御する。
そして、所定の搬送速度で長尺樹脂フィルムFを搬送し、キャンロール56の外周面とそこに巻き付く長尺樹脂フィルムFとの間のギャップ部が上記設定圧に達したのを確認してから、搬送速度を0m/min(停止状態)にする。この時、ガス供給システムの調節計(CPU)34のガス流量制御によりガス供給流量がほとんど0sccm(ガス流量計の精度以下)になった場合、ギャップ部ではガス圧が設定圧に維持された状態にあって且つギャップ部からはガス漏れがほとんど生じていないことを示している。
従って、上記の設定圧及び所定の搬送速度で定常運転している時は、非ラップ部に位置するガス導入路14及びこれに連通するガス分配路23のガスは、ガス放出孔15からガスが抜けることから、ギャップ部のガス圧を設定値に保つために必要なガス流量Q[sccm]は、ギャップ部のガス圧をP1[Pa]、マスフローメータでのガス圧をP2[Pa]、キャンロール56に設けたガス導入路14の本数をN[本]、長尺樹脂フィルムの搬送速度をV[m/min]、1本のガス導入路14及びこれに連通するガス導入孔15及びガス分配路23及びガス接続管24の合計容量をC[cc]、キャンロールの半径をR[m]としたとき、下記式3により計算することができる。
[式3]
Q=V/(2πR)・N・C・(P1/P2)
この式3のVをV’、P1をP’に変えて式3を変形すると、下記式4に示すように長尺樹脂フィルムの搬送速度がVからV’に変更されたときのギャップ部のガス圧P’を計算することができる。
[式4]
P1’=P2・Q・(2πR)/(V’・N・C)
上記の式3や式4は、ガス放出機構付キャンロール56やガスロータリージョイント20に構造的なガス漏れがなく、かつ、ギャップ部の設定圧が長尺樹脂フィルムFをキャンロールの外周面に押し付けるための抗力を超えないことを前提条件としている。なお、ガス放出機構付キャンロール56とガスロータリージョイント20は非常に複雑な構造であるため、各製作工程でガス漏れがないように確認しながら進めるのが望ましいが、ガス漏れが生じることが考えられる場合はその分を考慮にいれて上記式3や式4の数値に余裕をもたせておくのが好ましい。
式3について具体的な数値を挙げると、合計容量Cが115cc、ガス導入路の本数Nが36本、キャンロールの半径Rが0.4mの場合、長尺樹脂フィルムの搬送速度Vとガス流量Qとの関係はギャップ部の設定圧P1をパラメータとすると図8のようになる。一方、式4においては、上記と同じ合計容量C、ガス分配路の本数N、キャンロールの半径Rにおいて、長尺樹脂フィルムの搬送速度V’とガス圧P’との関係は、ガス流量Qをパラメータとすると図9のようになる。
ところで、スパッタリング成膜処理では長尺樹脂フィルムの搬送速度を切り替える必要が生じることがある。そのため、スパッタリングウェブコータでは長尺樹脂フィルムの搬送速度を低速モードと高速モードの2モードに、あるいは3以上のモードに設定しておくことがある。例えば、2モードの場合としてはプリスパッタ時(スパッタリングターゲットの表面状態を整えるスパッタ)には長尺樹脂フィルムの搬送速度を低速モードにし、実際に成膜する際のスパッタリング時には長尺樹脂フィルムの搬送速度を高速モードに切り替えることがある。
前述したように、非ラップ部Bを各ガス導入路が通過する毎に圧力が変動するため、ガス放出機構付キャンロールの外周面とそこに巻き付いている長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部のガス圧は圧力制御が適している。ところが、この圧力制御に図6や図7に示したようなPID制御を用いたとしても、長尺樹脂フィルムの搬送速度を切り替えると真空系の時定数が異なるため、一定のPID制御のパラメータでは少なくともいずれかの速度モードで長尺樹脂フィルムを搬送する際にギャップ部のガス圧を設定値に安定的に保つことが困難になる。そこで、本発明の一具体例の処理装置が有するガス供給システムでは、長尺樹脂フィルムの搬送速度のモードを切り替えるたびに、PID制御の制御パラメータが切り替わるようになっている。
すなわち、例えば長尺樹脂フィルムの搬送速度として低速モードと高速モードとの2モードの搬送速度がある場合、上記ガス供給システムは、ギャップ部のガス圧が一旦急激に低下することで低速モードから高速モードに変更されたことを検知し、逆にギャップ部のガス圧が一旦急激に上昇することで高速モードから低速モードに変更されたことを検知する。そして、予め設定しておいた低速モード用のPID制御パラメータ又は高速モード用のPID制御パラメータのうちのいずれか一方に自動的に切り替わるようになっている。
具体的には、圧力センサ(P)33として例えば隔膜真空計でギャップ部のガス圧を検知し、このガス圧信号が入力された例えばコンピュータからなる調節計(CPU)34は、入力されたガス圧と予め設定した設定圧との圧力差を演算してこれが該設定圧の10%のガス圧変動閾値を超える急激な圧力変動の場合は、長尺樹脂フィルムの搬送速度が変更されたと判断し、低速モード又は高速モードに対応したPID制御パラメータに変更し、この変更された制御パラメータに基づいて流量を制御する。上記のコンピュータは、ギャップ部のガス圧が予め設定した上限値を超えた時にピエゾバルブを全閉にする信号を出力してギャップ部へのガス供給を停止するガス圧超過時ガス供給停止手段が備わっていてもよい。これにより、長尺樹脂フィルムをキャンロールの外周面に押し付けるための抗力をギャップ部のガス圧が超えないようにできる。
PID制御パラメータは、スパッタリングウェブコータごとに異なるように設定するのが好ましい。具体的なパラメータは所定の搬送速度に対応したPID制御パラメータを実験的に求めておき、必要に応じて適宜パラメータのチューニングを行えばよい。搬送速度に3つ以上の複数の速度モードが設定されている場合は、これら複数の速度モードの各々に対応して制御パラメータを設定するのが好ましい。この場合、上記のコンピュータは、ギャップ部とほぼ同等のガス圧を有するガス供給路25のガス圧を測定する圧力センサ33の測定値と設定圧との圧力差を算出し、この圧力差が所定のガス圧力変動閾値を超えた時に搬送速度が別の搬送速度に変更されたと判断して予め設定しておいた上記制御パラメータを逐次当てはめ、上記圧力差がガス圧力変動閾値以内に収まる制御パラメータを選択するようにプログラミングされているのが好ましい。
なお、長尺樹脂フィルムの搬送速度のモードの変更は、長尺樹脂フィルムをロールツーロールで搬送するための搬送制御手段によっても把握することができるので、その信号を上記した調節計34に入力することで上記ガス供給システムのPID制御の制御パラメータを変更することも考えられる。しかし、上記搬送制御手段とガス供給システムのPID制御とは互いに信号のやり取りを行わず、制御系が各々独立しているのが望ましい。これらの制御系を各々独立にすることで、スパッタリングウェブコータの維持管理が容易になる上、作製される金属膜付樹脂フィルムの品質のばらつきを抑えることができる。
また、長尺樹脂フィルムのロールツーロール搬送経路上のいずれかのロールにエンコーダ等の回転数検知手段を設置し、これにより長尺樹脂フィルムの搬送速度のモードの変更を検知し、この検知信号を調節計34に入力することで上記ガス供給システムのPID制御パラメータを変更することも考えられる。しかし、ロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムは、搬送方向の張力が変動するため、エンコーダで検出したロールの回転数と実際の長尺樹脂フィルムの搬送速度は異なることがある。そのため、ロールの回転数から長尺樹脂フィルムの搬送速度を推定するのは好ましくない。
(6)帯状物及びその処理装置
上記のガス供給システムを有する真空成膜装置によって長尺樹脂フィルムの表面に金属膜をスパッタリングすることにより、シワ等の不具合のない金属膜付長尺樹脂フィルムを作製することができる。長尺樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム又は液晶ポリマー系フィルムから選ばれる樹脂フィルムを挙げることができる。これら長尺樹脂フィルムは金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
この長尺樹脂フィルムの表面に成膜する金属膜としては、Ni系合金等から成る膜とCu膜とが積層された構造体を挙げることができる。上記Ni合金等から成る膜はシード層と呼ばれ、金属膜付樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性によりその組成が選択される。このシード層には、Ni−Cr合金やインコネルやコンスタンタンやモネル等の各種公知の合金を用いることができる。また、金属膜付長尺樹脂フィルムの金属膜(Cu膜)を更に厚くしたい場合、湿式めっき法を用いて金属膜を形成することがある。この場合、電気めっき処理のみで金属膜を厚くする場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて厚くする場合がある。これら湿式めっき処理の運転条件には特に限定はなく、一般的な湿式めっき法の諸条件を採用することができる。
得られた金属膜付樹脂フィルムに対して、例えばサブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板に加工することができる。なお、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。上記金属膜付樹脂フィルムとして、長尺樹脂フィルムにNi−Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例示したが、上記金属膜のほか、目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等の成膜に本発明の成膜方法を用いることが可能である。
本発明の帯状物の搬送制御方法は、上記した減圧雰囲気下の真空チャンバー内で帯状物にスパッタリング等の真空成膜を行う真空成膜装置に限定されるものではなく、プラズマ処理やイオンビーム処理等の熱負荷が掛かる処理装置に適用してもよい。また、長尺樹脂フィルムのほか、金属箔や金属ストリップが処理対象であってもよい。
ここでプラズマ処理とは、公知のプラズマ処理方法、例えばアルゴンと酸素の混合ガス又はアルゴンと窒素の混合ガスによる減圧雰囲気下において放電を行うことにより、酸素プラズマ又は窒素プラズマを発生させて長尺基板を処理するものである。一方、イオンビーム処理とは、例えば公知のイオンビーム源を用いて強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させて、プラズマ中の陽イオンを陽極による電解でイオンビームとして目的物(長尺基板)へ照射するものである。
[実施例]
図1に示すような金属膜付長尺樹脂フィルムの真空成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50を用いて、長尺樹脂フィルムFとしての幅570mm、長さ1000m、厚さ50μmの東レ株式会社製のPETフィルム「ユーピレックス(登録商標)」に対して金属膜を成膜した。
その際、キャンロール56の円筒部材10には、図2に示すように直径800mm、幅800mmのステンレス製のロールの外周面にハードクロムめっきを施したものを用い、内側はジャケットロール構造にした。そして、その外周肉厚部にその中心軸方向に平行な内径5mmのガス導入路14を180本設け、それらの各々に対して、その長手方向に一列に並ぶ内径0.2mmのガス放出孔15を150個穿孔した。このガス放出機構付キャンロール56を真空成膜装置50に搭載したところ、キャンロール56の外周面のうち長尺樹脂フィルムが巻かれない非ラップ部Bの角度は約90°となった。
180本のガス導入路14を直接ガスロータリージョイントに接続するのは困難であったため、周方向に連続する5本のガス導入路14を1つにまとめて、ガスロータリージョイント20の回転リングユニット21のガス分配路23に接続した。一方、ガスロータリージョイント20の静止リングユニット22のガス供給路25は摺動面側に円状の溝を形成し、そのうち前述した非ラップ部Bの90°に対応する角度範囲にテフロンパッキンを装入した。これによりラップ部Aに対応する270°にC字状の溝25aを形成した。
このようにして得たガスロータリージョイント20のC字状の溝25a内のガス圧を測定するため、圧力検出手段33としてフルスケール1330Paの隔膜真空計をガス供給路25に設けた。また、ガス供給システムには図6のガス供給システム30を採用し、そのガス流量制御にはフルスケール50sccmのピエゾバルブ31を用いた。そして、隔膜真空計で検出した圧力信号を、流量制御を行うCPU(コンピュータ)34に入力した。
また、ガス供給路25のガス圧が抗力Pを超える前にガス供給を停止するようにCPU34をプログラミングした。更に、上記ガス圧が10%以上急激に低下した時、フィルム搬送速度が低速モードから高速モードに変更されたと判断してPID制御パラメータを予め設定しておいた高速モード用に切り替わるようにCPU34をプログラミングし、逆に上記ガス圧が10%以上急激に増加した時、フィルム搬送速度が高速モードから低速モードに変更されたと判断してPID制御パラメータを予め設定しておいた低速モード用に切り替わるようにCPU34をプログラミングした。
長尺樹脂フィルムF(PETフィルム)に成膜される金属膜はシード層であるNi−Cr膜の上にCu膜を成膜するものとし、そのため、マグネトロンスパッタターゲット57にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタターゲット58、59、60にはCuターゲットを用い、更に、アルゴンガスを300sccm導入し、各カソードへの印加電力は10kWの電力制御で成膜を行った。
巻出ロール52と巻取ロール64の張力は200Nとした。この時、ガス放出機構付キャンロール56の半径は0.4m、長尺樹脂フィルムの巾1m当たりの張力は200N/0.57mなので、式1の抗力Pは877N/m2になる。よって、ギャップ部のガス圧は抗力Pの877N/m2を超えないのが望ましいものの、高い方が熱伝達に優れる。キャンロール56は水冷により10℃に制御しているが、長尺樹脂フィルムFとキャンロール56との熱伝導効率が良好でないと冷却効果は期待できない。巻出ロール52に長尺樹脂フィルムFをセットし、その先端を引き出してキャンロール56を経由して巻取ロール64に取り付けた。
真空チャンバー51を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10−3Paまで排気した。キャンロール56に取り付けられたガスロータリージョイント20には、長尺樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部のガス圧を800Paに保つために、マスフローメータ32及びピエゾバルブ31を用いた流量制御に圧力検出手段33による圧力制御をカスケード制御することによりC字状溝25aを800Paになるようにした。そして、長尺樹脂フィルムFの搬送速度を3m/分にした後、各マグネトロンスパッタカソード57、58、59、60にアルゴンガスを導入して電力を印加して、Ni−Cr膜のシード層とその上に成膜するCu膜の成膜を開始した。
ギャップ部のガス圧を上記した877Nを超えないようにするため、ガスロータリージョイント20のガス供給路25のガス圧を800Paに設定して圧力制御を行い、測定開始時のフィルム搬送速度を1.0m/minとし、開始60秒後にフィルム搬送速度を4.0m/minに変更し、120秒後にフィルム搬送速度を再び1.0m/minに変更した時のガス供給25のガス圧と供給ガス流量の変化を測定し、図10に示した。
図10から分かるように測定開始から60秒までは、ガス流量13sccm、ガス圧800Paで安定しているが、60秒後にファイル搬送速度が4.0m/minに変更すると、非ラップ部Bからのガス放出量が4倍に増加したため一気にガス圧が低下し、フィルム搬送速度と共にガス流量も一気に増加したのでPID制御パラメータが高速モードに自動的に切り替わり、オフセットを生じることなくガス圧800Pa付近で安定した。
測定開始120秒後にフィルム搬送速度が1.0m/minに変更すると、非ラップ部Bからのガス放出量が1/4倍に減少したため一気にガス圧が上昇し、PID制御パラメータが自動的に低速モードに切り替わり、更に長尺樹脂フィルムをキャンロールの外周面に押し付ける抗力がガス圧を超える前にガス供給が自動的に停止して、その後は設定圧800Paで安定した。このガス圧力制御ではガス供給路25のガス圧を設定値800Paにほぼ安定して保つことができるため、スパッタリング成膜中にキャンロールのフィルムの冷却能力が不十分になりにくく、よって熱負荷に起因するシワがほとんど発生していなかった。
[比較例1]
ガス供給路25のガス圧が抗力Pを超える前にガス供給を停止すること、上記ガス圧が10%以上急激に低下した時にフィルム搬送速度が高速モードに変更されたと判断してPID制御パラメータを予め設定しておいた高速モード用に切り替えること、及び上記ガス圧が10%以上急激に増加した時にフィルム搬送速度が低速モードに変更されたと判断してPID制御パラメータを予め設定しておいた低速モード用に切り替えることをプログラミングしない以外は上記実施例と同様の条件でガス供給路25のガス圧と供給ガス流量の変化を測定し、図11に示した。
図11から分かるように、測定開始から60秒までは、ガス流量13sccm、ガス圧力800Paで安定しているが、60秒後にファイル搬送速度を4.0m/minに変更すると、非ラップからのガス放出量が4倍に増加したため一気にガス圧力が低下すると共にガス流量も一気に増加したが、PID制御パラメータが低速の1.0m/minにチューニングした値のままであるため、オフセットが生じてしまい、ガス圧640Pa付近で安定してしまった。測定開始120秒後にフィルム搬送速度を1.0m/minに変更すると、非ラップ部からのガス放出量が1/4倍に減少したため一気にガス圧が上昇し、長尺樹脂フィルムをキャンロールの外周面に押し付ける抗力をガス圧が超えてしまい、ラップ部からガス漏れが発生してガス流量が一旦全開になり、その後設定圧800Paで安定した。
フィルム搬送速度4m/minではガス圧が640Paにしか達しないため、冷却に寄与する分子の数が少なくなって熱伝達係数が小さくなり、スパッタリング成膜中にキャンロールによるフィルムの冷却が不十分になり、熱負荷に起因するシワが発生した。更に、130秒後付近で抗力よりガス圧が高くなってしまったときにも、ギャップ間距離が大きくなり分子流領域を超えてしまい、同様にシワが発生した。
[比較例2]
ガス供給路25のガス圧が10%以上急激に低下した時にフィルム搬送速度が高速モードに変更されたと判断してPID制御パラメータを予め設定しておいた高速モード用に切り替えること、及び上記ガス圧が10%以上急激に増加した時にフィルム搬送速度が低速モードに変更されたと判断してPID制御パラメータを予め設定しておいた低速モード用に切り替えることをプログラミングしない以外は上記実施例と同様の条件でガス供給路25のガス圧と供給ガス流量の変化を測定し、図12に示した。
図12から分かるように、測定開始から60秒までは、ガス流量13sccm、ガス圧力800Paで安定しているが、60秒後にファイル搬送速度を4.0m/minに変更すると、非ラップからのガス放出量が4倍に増加したため一気にガス圧力が低下すると共にガス流量も一気に増加したが、PID制御パラメータが低速の1.0m/minにチューニングした値のままであるため、オフセットが生じてしまい、ガス圧640Pa付近で安定してしまった。
測定開始120秒後にフィルム搬送速度を1.0m/minに変更すると、非ラップ部からのガス放出量が1/4倍に減少したため一気にガス圧が上昇し、長尺樹脂フィルムをキャンロールの外周面に押し付ける抗力をガス圧が超える前にガス供給が停止して、その後設定圧力800Paで安定した。フィルム搬送速度4m/minではガス圧が640Paにしか達しないため、冷却に寄与する分子の数が少なくなって熱伝達係数が小さくなり、スパッタリング成膜中にキャンロールによるフィルムの冷却が不十分になり、熱負荷に起因するシワが発生した。
[評価]
上記のように本発明の実施例の長尺樹脂フィルムの搬送制御方法によれば、フィルム搬送速度が変更されたとしてもガス放出機構付キャンロールへのガス圧力が設定圧にほぼ安定して保つことができるため、スパッタリング成膜中にガス放出機構付キャンロールにおいてフィルムの冷却が不十分になりにくく、よって熱負荷に起因するシワの発生を抑えることができる。