前掲の特許文献1に開示される技術は、一個所に集中させた圧力センサによって移動体を操作するものであり、上記操作部における圧力センサは、把持部分の内側にセンシング部を配置したものであって、オペレータは当該センシング部に対して直接グリップ力を付与させなければならず、そのためにグリップを把持する状態が固定化されることとなるものであった。また、移動方向を変化させる場合には、4つの圧力センサに作用するグリップ力の分布に応じて進行方向を算出する制御システムによるため、オペレータの動作によるグリップ力の変化が当該分布に反映されることとなり、操舵のための操作は個々のオペレータによって異なることが懸念されるものであった。
また、前掲の特許文献2に開示される技術は、単一のハンドル軸に対し、4個所の圧力センサを備え、2個の圧力センサが同時に圧力を検出する場合に、当該2個の圧力センサの位置によって単一ハンドル軸の変位を検出するものであり、当該ハンドル軸の変位の状態によって、移動体が移動するための前後左右の操作を行うものであった。そのため、4個所の圧力センサによって検出されるハンドル軸の変位の状態は、予め定めた状態の範囲内に制限されることとなるうえ、前進または後退の操作と同時に僅かな操舵を操作することには限界があることが懸念されるものであった。
ところで、上記に使用される操作グリップは、その構成が詳細に示されておらず、圧力センサに対する操作力の提示の状態が不明確であった。すなわち、特許文献1では、オペレータが把持することにより、その握力によってグリップ力として提示するものであり、操作力は結局のところ、オペレータの握り方に依存することとなる。また、特許文献2では、ハンドル軸が変位できる状態が固定化されており、二個所の圧力センサが圧力を検出することにより、前後左右の操作を可能にするものであるが、ハンドル軸の可動域は限定的であるため、圧力センサにより検出された圧力の程度に応じてアシスト力を調整できるか否かが明確ではない。この点、当該文献は、圧力センサが圧力の有無を検出するものとして使用されており、圧力センサに代えてスイッチを使用することも可能とされていることから、アシスト力に反映し得る構成とはなっていない。
一般的に、移動体にパワーアシスト機能を備える目的には、移動体の重量が非常に大きい場合に駆動力によって補助する目的のほかに、積載する荷物の重量によって移動体全体の重量が変化する場合においても、当該重量の変化に応じてアシスト力を変化させ、操作力を安定させる目的がある。このような目的の場合においても、操作力を検出・測定し、その操作力に応じたアシスト力を付与させるようにしている。しかしながら、操作部に作用する操作力の向きに応じて、検出・測定される値が頻繁に変化することから、各種の条件を総合的に判断してアシスト力を付与させなければならなかった。そのための機構は複雑であり、操作部の構造も複雑なものとなっていた。
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、比較的簡易な構造により操作力を検出・測定し得る操作グリップを提供し、この操作グリップを用いた移動体を提供することである。
そこで、操作グリップに係る本発明は、パワーアシスト装置に用いられるアクチュエータを操作するための操作グリップであって、前記パワーアシスト装置の操作部に固定される軸部と、この軸部を遊嵌する状態で装着される筒状の把持部と、前記軸部の表面にセンシング部を配置してなる圧力センサと、前記把持部の内部表面において前記圧力センサのセンシング部に対向する位置に突設された作用部と、前記圧力センサおよび前記作用部に対して相互に離間する方向へ付勢する付勢手段とを備えたことを特徴とするものである。
上記構成によれば、未操作時において、圧力センサのセンシング部と、把持部の作用部とは、付勢手段により離間しており、圧力センサによる圧力の検出はない。これに対し、操作時には、把持部に操作力を付与することにより、前記付勢手段に抗して作用部がセンシング部に当接し、圧力センサが作用部によって押圧される圧力を検出・測定することができる。このときの圧力の大きさは、アシスト力に反映させることができることとなる。すなわち、操作時において、把持部に付与される操作力は作用部に集中するため、把持部の他の部位が軸部に接触することがなく、操作力の全てを圧力センサに作用させることができる。また、操作力の付与を解除した場合には、付勢手段により作用部が圧力センサから離間することとなり、アシスト力の作動を停止させることができる。
前記構成の操作グリップにおいては、圧力センサが、前記軸部に埋設され、センシング部を該軸部の表面に露出させるように配置されるように構成することができる。
このような構成の場合には、圧力センサが軸部の表面から突出することにより、把持部との間隙を大きく形成されることがないうえに、把持部に突設される作用部の突出長によって、両者の間隙を小さくすることとなる。この間隙が大きい場合には把持部が不安定な状態となるため間隙はできる限り小さいことが好ましい。
また、前記各構成において、圧力センサは、前記軸部の軸線を中心に相互に逆向きにセンシング部を配置した少なくとも2個の圧力センサ群であり、前記作用部は、前記軸部の両側から前記圧力センサ群の個々のセンシング部に対し個別に対向するように、前記把持部の内部表面に突設された作用部群であり、前記付勢手段は、それぞれの圧力センサおよび作用部に対して双方向に離間させるように付勢する二組の付勢手段で構成することができる。
上記構成の場合には、操作部によるアシスト力の調整に二方向の操作を可能にする。これは、例えば、前進と後退の二方向があり得る。この場合においても、二方向における操作力の検出は、同じ構成による圧力センサに対する作用部の押圧力によるため、同じ程度の大きさによって操作力を付与することにより、二方向への操作を可能にするものである。
また、前記各構成において、前記圧力センサに接続される信号線は、前記軸部の内部に配設されていることが好ましい。圧力センサによって検知される検知信号の信号線は、軸部と把持部とに形成される間隙に配置することも可能であるが、当該信号線を保護するために、軸部の内部に配置することが好ましい。この場合、軸部の内部を中空にすることにより、当該信号線の設置領域を確保することができる。
さらに、前記各構成においては、前記軸部が筒状体または中空体によって構成され、該筒状体または中空体の内部に高剛性材料を挿通または内蔵してなる構成とすることができる。操作グリップ全体の重量を軽減させるため、軸部および把持部をプラスチック等の合成樹脂によって構成し、操作力によって軸部等が撓まないようにするため、芯材として高剛性の材料を使用することができる。高剛性の芯材としては金属材料などがあるが、全体重量を低減させるためには、硬質のプラスチック材料でもよい。なお、寸法上の制限により小径の芯材とする場合には金属材料を使用することが好ましい。
また、前記各構成において、前記軸部は、外部形状における断面形状を矩形とし、前記圧力センサは、上記矩形断面のうち対向する二辺の一方または両方に配置されるものであり、前記把持部は、内部形状における断面形状を矩形とし、前記作用部は、前記圧力センサが配置される辺に対向する辺に設けられ、かつ該圧力センサが配置される辺との間には所定の間隙が形成されるものであり、該圧力センサが設けられない対向する二辺を構成する平面部と、該作用部が設けられない対向する二辺を構成する平面部とが、相互に摺接されているものとすることができる。
上記構成によれば、把持部は、矩形断面の軸部のうち、摺接する平面部に沿った移動が許容されることとなる。矩形断面のうち、圧力センサおよび作用部が設けられる辺は相互に所定の間隙が形成され、その間隙の範囲内で可動できる。従って、把持部は、作用部を圧力センサに向かって押圧するように移動することによって、操作力を圧力センサに検出させることができ、操作力を与えないときは付勢手段によって所定の間隙を形成する状態に復元されることとなる。
さらに、前記各構成における軸部としては、前記把持部の両端が摺接するように大径に膨出させたストッパ手段を備える構成としてもよい。この場合には、把持部が、軸部の軸線方向への移動を制限することができることとなる。
他方、移動体に係る本発明は、前記構成のいずれかに記載の操作グリップを有するパワーアシスト機能を有する移動体であって、左右対称に装着される一対の車輪と、該車輪を独立して駆動するための二つのアクチュエータと、左右対称に設置される一対の操作部とを備え、前記一対の操作部のそれぞれに前記操作グリップが設けられ、該操作グリップの圧力センサによって検出される圧力の程度に応じて、前記アクチュエータを個別に制御してなることを特徴とするものである。
上記のような構成によれば、車輪、アクチュエータおよび操作部が、左右対称に設けられ、一対の操作部に個別の操作グリップを設けた構成となっており、個別の操作グリップによる圧力センサの情報に基づいて、個々のアクチュエータを個別に制御することから、操作部ごとに操作力を与えることにより、アシスト力を得ながら移動体を移動することができる。このとき、前方または後方への移動をアシストする際には、左右の操作部に設置された操作グリップに対して同時に同程度の操作力を付与することとなり、操舵操作が必要な(左右へ向きを変える)場合には、左右の操作部における操作グリップに与える操作力に差違を設けることにより、一方のアクチュエータが他方のアクチュエータよりも強力に作動し、車輪の回転数の差違によって操舵を可能にするものである。これは、左右に分かれた(一対の)操作部を同時に押したり引いたりしながら前進または後退させ、また、左右いずれか一方を他方よりも強く押したり引いたりしながら向きを変える操作と同じである。従って、通常の操作方法と同様でありながら、パワーアシスト機能を発揮させた移動が可能となる。
前記構成において、前記アクチュエータはモータドライバを有する電動モータであり、圧力センサによる検出値に基づきアシスト力を算出するとともに、該アシスト力に必要な前記電動モータの電圧値を算出する演算手段を備え、該演算手段によって算出される電圧指令に基づきモータドライバが電動モータの出力を制御してなる構成とすることができる。
上記構成によれば、左右対称に設置される電動モータの駆動力を、左右個別に制御することのみによって、前進または後退および操舵を可能にするものである。この場合、個々の操作部に設置される操作グリップによって検出される圧力センサの情報は、異なる側のアクチュエータの作動に影響を与えないことから、簡単な制御手段によって実現することができる。
なお、前記各構成における操作部に設けられる操作グリップは、進行方向に向かって前方もしくは後方または前後両方に圧力センサが配置される状態で設置されるものであることが好ましい。すなわち、圧力センサによる操作力の検出を前後方向に一致させることにより、前進または後退させる際の操作力を検出し、当該操作力に応じてアシスト力を付与することができる。
操作グリップに係る本発明によれば、把持部に設けられた作用部に操作力を集中させ、この作用部が圧力センサに対して押圧力を作用させることから、把持部に与えられる操作力は、当該圧力センサによって容易に検出・測定されることとなる。また、圧力センサのセンシング部と作用部とは付勢手段によって離間される状態となり、操作力が与えられない場合には、圧力センサでは押圧力を検出することはなく、当該付勢手段による付勢力に抗して把持部を移動させるような操作力が付与された場合において、作用部が圧力センサに当接し、当該操作力を排除した場合には再び離間状態に復元される。そのため、この操作部の当接によりアシスト力を作用させる際のスイッチとしての機能を果たすことができる。そして、このような操作グリップは、筒状の把持部に軸部を挿通した簡便な構造であり、また、軸部の外側断面形状、および把持部の内側断面形状を、それぞれ矩形とすることにより、把持部の移動方向を限定的なものとすることができ、例えば、前後方向への移動に対するアシスト力を付与する場合において好適なものとなる。
他方、移動体に係る本発明によれば、左右に配置される個別の操作グリップによって検出され、その操作力に応じた制御信号が、左右対称に設けられたアクチュエータに対し付与されるため、左右の操作グリップに与えられる操作力によって個別に車輪を駆動させることができる。このような機構により、左右の操作グリップに同程度の操作力が付与されれば、左右の車輪が同程度に駆動され、前後方向への移動におけるアシスト力を得ることができ、左右の操作グリップに異なる大きさの操作力が付与されれば、左右方向への操舵が可能となる。左右に操作部を有する一般的な移動体の操作においては、パワーアシスト機能を有しない場合においても、同様の操作を行うことから、通常の操作と同じ感覚によって、移動体を操作しつつアシスト力を適宜受けることができる。この場合、操作グリップに設けられる圧力センサによって押圧力の程度(大きさ)に応じて駆動力の大きさを変化させることにより、当該走行体が重量状態の場合であっても軽量状態の場合と同程度に、適当な負荷を得ながら移動体を操作し得るものとなる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1および図2は、操作グリップに係る第一の実施形態を示す図である。これらの図に示されるように、本実施形態の操作グリップAの概略は、軸部1と、この軸部1を遊嵌するように装着される把持部2とで構成されている。なお、本実施形態の操作グリップAは、軸線方向に沿った分割線で二分割して把持部構成部材2a,2bとし、これら把持部構成部材2a,2bを一体化することによって単一の把持部2を構成させるものとしており、図1は二つの把持部構成部材2a,2bを分解した状態を示し、図2は一体化した状態を示している。
軸部1は、図1に示されているように、断面矩形の長尺な棒状部材で構成され、当該矩形断面の対向する二辺(対向位置にある二つの平面)11,12のほぼ中央に圧力センサ3が設けられている。この圧力センサ3は、フィルム状の圧力センサを使用し、そのセンシング部が当該平面に露出させた状態で配置されている。また、その両側(長手方向両端近傍)には、適宜深さの穴4が2個ずつ(片側平面ごとに合計4個)穿設され、圧縮コイルバネ5,6を収容できるようになっている。この穴4の深さは、圧縮コイルバネ5,6の全体を収容するようなものではなく、圧縮コイルバネ5,6の片方端部を部分的に収容できるものとし、他方の端部は把持部2に収容できるようにするものである。
把持部2は、二つの把持部構成部材2a,2bを対向しつつ一体化することによって、前記軸部1を遊嵌できる中空状を有する筒状体に形成されるものである。
ここで、把持部構成部材2a,2bは、断面形状半円形の外形部21a,21bと、断面矩形の中空状内部22a,22bとで構成され、対向する当接面23a,23b,24a,24bをそれぞれ当接させつつ一体化することにより、全体として断面矩形の中空部を有する筒状体となるものである。本実施形態は、二つの把持部構成部材2a,2bを一体化するために、両端に半円板状の接合部25a,25b,26a,26bがそれぞれ設けられ、さらにこの接合部25a,25b,26a,26bには、外部から前記当接面23a,23b,24a,24bに至る複数の貫通孔27a,27bが適宜間隔で設けられ、ネジまたはボルトおよびナット等による締着具28によって、締着固定できるようになっている(図2参照)。
また、中空状内部22a,22bは三つの表面で構成され、そのうち軸部1の平面11,12に対向する面(内部表面)には、軸部1の二つの平面11,12に設けられる圧力センサ3と対向するように突起部7が設けられている。この突起部7は、圧力センサ3に1対1で当接するものであり、センシング部の大きさ・形状に合わせて、本実施形態では四角形状の面を形成している。この突起部7が圧力センサ3のセンシング部と当接し、かつ圧力(操作力)を作用させることによって、その圧力が検出されるものである。その意味において、当該突起部7は、作用部として機能するものであり、以下において作用部7と表記する。
なお、上記作用部7の両側(長手方向両端近傍)には、前記圧縮コイルバネ6,7の他方の端部を収容するために、適宜深さの穴8が設けられている。また、軸部1の両端には円柱状の膨出部9が設けられ、把持部2(把持部構成部材2a,2b)の軸線方向への移動を制限するストッパ手段として機能させているとともに、該円形部材9が、パワーアシスト装置(移動体等)の操作部に接続(固定)されることにより、当該パワーアシスト装置に装着されるものである。すなわち、円柱状の膨出部(ストッパ手段)9は、軸部1によって形成される矩形断面の一辺の長さよりも大きい外径を有する円柱体であり、把持部構成部材2a,2bを一体化したとき(図2参照)、両端の接合部25a,25b,26a,26bの端面が、膨出部(ストッパ手段)9が膨出した端縁に当接することとなり、把持部2が軸線方向へ移動できない状態とするものである。また、移動体等に装着する場合、その装着すべき操作部は、一般的に円筒形のパイプ状の部材P1,P2であるため、当該パイプ状部材P1,P2の中空内部H1,H2の内径とほぼ同径の外径に形成されることにより、当該中空内部H1,H2に膨出部(ストッパ部)9を挿入することによって、操作部に対する装着を可能としているのである。なお、図示の実施形態では、把持部2の接合部25a,25b,26a,26bを半円板状として、把持部2の表面に対して鍔状とすることにより、前記操作部(パイプ状部材)P1,P2の中空内部H1,H2に膨出部(ストッパ手段)9を挿入した際、操作部P1,P2の端縁が、接合部25a,25b,26a,26bの端面に当接できるようにしている。この両者の当接により、操作グリップAが、操作部P1,P2に対して位置決めされることとなるものである。
把持部構成部材2a,2bを一体化してなる把持部2と、軸部1との関係をさらに詳細に説明する。図3(a)は、図2中のIIIA−IIIA線における断面図であり、(b)はIIIB−IIIB線における断面図を示している。また、図4(a)は、図3(a)中のIVA−IVA線における断面図であり、(b)はIVB−IVB線における断面図である。
これらの図に示されているように、一体化した把持部2は、その内部表面29が軸部1の二つの平面11,12との間に間隙を形成している(図3(a)、図4(a)および(図4(b)参照)。これは、把持部2に外力が作用していない状態であり、圧縮コイルバネ5,6の付勢力によって、軸部1の平面11,12から両側へ向かって把持部構成部材2a,2bを離間させる方向へ付勢しているためである。他方、軸部1の残りの平面と把持部2の残りの内部表面とは当接しており(図3(b)参照)、この対向面に垂直な方向へは移動(摺動)できない状態となっている。
上記構成により、把持部2は、一方向にのみ、すなわち圧縮コイルバネ5,6の付勢に抗する方向へのみ移動(摺動)可能となっており、この移動(摺動)によって、前記間隙が変化し、作用部7が圧力センサ3に当接することができるのである。また、圧縮コイルバネ5,6は、上下対称であり(図3(a)参照)、かつ左右対称である(図4(b)参照)ことから、把持部2に外力が作用する場合、これらの付勢に抗する状態(すなわち平行移動させた状態)において、作用部7が正確に圧力センサ3に当接するものとなり、外力を解消させた場合に、両側に均等な所定の間隙を形成させるように復元できるものである。
また、接合部25a,26b(,26a,26b)とストッパ手段9との関係を詳述すれば、図5(a)に示すように、ストッパ部材9の一部が、接合部25a,26bの端面に当接した状態となっている。特に、把持部2は、軸部1と間隙を有する方向へのみ移動(摺動)可能であるため、当該間隙を形成させる内部表面29の側については、特別にストッパ部材9との当接を考慮せず、移動(摺動)方向に対して両側が当接されるようにしているのである。
そして、図5(b)に示すように、接合部25a,25bは、左右両側において締着部材28によって締着固定されており、軸部1を中心に両側が固定されることにより、二つの接合部25a,25bが対向しつつ当接させた状態で把持部2を含む全体を一体化しているのである。
上記のように、本実施形態は、軸部1と把持部2との間には適宜な間隙が構成されている。この間隙は、圧縮コイルバネ5,6によって、軸部1から把持部構成部材2a,2bをそれぞれ離間する方向へ付勢するものであり、把持部2に外力が作用しない限りにおいて、前記間隙が保持される状態となっている。すなわち、本実施形態における圧縮コイルバネ5,6が、付勢手段として機能しているのである。なお、付勢手段としては、圧縮コイルバネ5,6に限定されるものではなく、板バネを使用してもよく、更には、ゴム等の弾性体を使用してもよい。要するに、外力が作用しない状態において、軸部1と把持部2との間に適宜な間隙を形成させることができればよいのである。
軸部1の二つの平面11,12には、その長手方向ほぼ中央に圧力センサ3が配置されている。この圧力センサ3は、フィルム状の圧力センサであり、肉厚が0.1mm程度の薄肉であるが、本体部分が軸部1に埋め込まれ、センシング部(センサ表面)のみが露出している状態としている。圧力センサ3によって検出される信号は、信号線31,32によって操作グリップAの外方へ送られるが、この信号線31,32は、軸部1の内部に埋設している。なお、フィルム状の圧力センサは、フィルム状のピエゾ抵抗式圧力センサを使用することができるほか、静電容量型の圧力センサ、ひずみゲージ、ロードセル、感圧導電性ゴムなどを使用してもよい。また、信号線31,32は、軸部1の平面11,12に金属薄膜を積層して形成させたものでもよい。
次に、上記実施形態の作動態様について説明する。上述のように、圧力センサ3は、矩形断面の軸部1の二つの対向する平面11,12に設けられており、作用部7は、この圧力センサ3に適宜間隔を有した状態で対向する位置に設けられている。すなわち、軸部1の平面11,12と把持部2の内部表面29との間に間隙を設けたうえで、さらに突設した作用部7の突出長は前記間隙よりも小さくなるように調整されているのである。
詳細には、軸部1の断面形状は矩形であり、把持部構成部材2a,2bによって構成される把持部2の中空内部の断面形状も矩形であるが、把持部2の中空内部の二辺が僅かに長く構成されている。この二辺の長さの相違によって、圧力センサ3が設けられる平面11,12から間隙を有した状態で、把持部2の内部表面29を形成することができるものである。さらに、把持部2の内部表面29に突設される作用部7の先端表面が圧力センサ3に達しない程度に、その突出長を制限して設けているのである。そして、対向する位置にある他の二つの表面には、間隙が形成されておらず摺接状態となっている。当該二表面が摺接することにより、把持部2は、所定の方向に向かって進退(図中上下方向)のみへの移動が許容されることとなるのである。なお、圧力センサ3と作用部7との間隙は僅かな程度(例えば、0.5mm程度)とすることにより、操作者において遊び(ガタ)を感じさせないものとすることができる。また、圧縮コイルバネ5,6の圧縮反発力は緩やかなものとし、外力が消失した状態で間隙を復元できる程度の最小限の大きさとしている。
そこで、本実施形態の作動態様について説明する。図6および図7は、把持部2に対して外力が作用し、当該把持部2が所定の進退方向(図中上下方向)へ移動する状態を示すものである。これらの図に示すように、把持部2(把持部構成部材2a,2b)の内部表面29に突設される作用部7は、圧力センサ3に対向させており、把持部7が所定の進退方向(図中上下方向)へ移動することにより、一方のみが当接し(押圧し)、他方は離間することとなるのである。
そこで、図6に示すように、図中下向き(これを前方とする)に把持部2を移動させる(外力を作用させる)とき、上位の把持部構成部材2aに配置した作用部7が、軸部1の一方平面11に配置した圧力センサ3のセンシング部に当接する。このとき他方の作用部7は、離間する方向へ移動する。そして、把持部2に作用させている外力は、圧力センサ3への当接の後、その強さの程度が圧力として検出されることとなる。このように一方へ外力を作用することにより、その外力の方向へ僅かながら把持部2が移動し、当該外力の大きさを測定することができるのである。このときに検出される圧力の程度に応じて、パワーアシスト機構を作動させることにより、外力を緩和するために必要なアシスト力を付与させることができるのである。
他方、図7に示すように、後退(図中上向き)に把持部2を作動させる場合には、上記と逆に、下方に位置する把持部構成部材2bに配置した作用部7が、軸部1の他方平面11に配置した圧力センサ3のセンシング部に当接し、他方の作用部7は離間する。そして、当接する圧力センサ3によって作用部7から与えられる圧力を検出するのである。
上記のように、操作グリップに係る本実施形態は、圧縮コイルバネ5,6によって、常時は圧力センサ3と作用部7とを離間させておき、外力が作用する(操作を開始する)際には、両者を当接させたうえ、作用部7に集中される外力を圧力センサ3で検出することができるのであり、把持部2の移動が所定方向に制限されていることから、外力(操作力)が作用する方向および大きさを検出することが可能となる。そして、この外力(操作力)の方向および大きさに応じて、アシスト力を付与するためにパワーアシスト機能を作動させることによって、適時かつ適当な大きさのアシスト力の付与が可能となる。
次に、移動体に係る本発明の実施形態について説明する。図8および図9は、搬送用プラットフォームにパワーアシスト機能を搭載したものであり、図10は、車椅子にパワーアシスト機能を搭載したものを示す。これらの搬送用プラットフォーム100,200および車椅子300に操作グリップを使用した状態を例示している。なお、図8のプラットフォーム100は比較的大型であり、操作部101,102が鉛直方向に設置されたものであり、図9のプラットフォーム200は比較的小型であり、操作部101,102を斜状に設けたものである。また、車椅子300はハンドルHDに操作部101,102を設けたものである。図9および図10の操作部101,102を斜状にしたのは、操作者の前腕部がほぼ水平な状態で把持できる高さにおいて、前進または後進の際に、肘の屈伸動作によって操作力を容易に付与させるためである。
これらの図に示されるように、両移動体(プラットフォーム)100,200の基本的な構造は、移動体の本体を構成するフレームFLと、荷物またはパレット等を積載するためのフォーク状荷台部FOとを有している。フォーク状荷台部FOの先端には、回転自在なキャスタ状車輪103,104が設けられ、この車輪103,104には駆動力が付与されず、転動が自在となっており、また、オフセット軸によってフォーク状荷台部FOに装着され、オフセット軸を中心に水平面での回転が自在となっている。フレームFLの下部基端には、駆動車輪105,106が設けられている。フレームFLの基端には、駆動制御ボックス107が設けられ、図示せぬバッテリ、アクチュエータとしての電動モータ、演算手段としてのマイクロコンピュータなどが搭載されている。そして、フレームFLには操作部101,102が設けられ、この操作部101,102に操作グリップAが設置されているのである。
他方、車椅子300の基本的な構造は、フレームFLによって椅子型が構成され、その前方にキャスタ状車輪103(,104)が設けられ、後方には駆動車輪105,106が設置されている。従って、前記プラットフォーム100,200と基本的には同じ構造である。
ここで、操作部101,102、キャスタ状車輪103,104および駆動車輪105,106は、それぞれ左右対称に設けられ、それぞれ一対になって設けられている。また、駆動車輪105,106を駆動するための電動モータも左右一対に用意され、個別の電動モータは、個別にモータドライバを有している。なお、操作部101,102に装着される操作グリップAは、前述のような構成であり(図3参照)、主軸1の向きが、圧力センサ3を設置する二つの平面11,12を前後方向となるように配置されている。また、両支持部101,102における操作力が前記圧力センサ3によって検出され、その検出値はマイクロコンピュータに送られるものである。演算部としてマイクロコンピュータは、単一であるが、左右の操作力を個別に処理するものとなっている。
そして、左側の操作部101に装着される操作グリップAの圧力センサの検出値は、左側の駆動車輪105のみの制御に使用され、右側のグリップAによる検出値は右側の駆動車輪106のみの制御に使用される。従って、左右一対の操作グリップAに対し、操作者が操作力を付与する場合、双方同時に同程度の前進方向の操作力を与えると、左右一対の駆動車輪105,106は同時に回転して前方へ直進し、逆向きに同程度の操作力を付与することにより、後方へ直進することとなるのである。
他方、左右のいずれか一方のみに前方または後方への操作力を付与する場合には、一方のみの駆動車輪105(,106)が回転することとなり、その偏った回転駆動力により、向きを変化させることとなる。さらには、一方の操作力は前方へ、他方の操作力は後方へ、相互に逆向きとした場合においても、駆動車輪の一方(105)が前方へ、他方(106)が後方へ転動することとなり、旋回するような状態で向きを変化させることとなる。なお、キャスタ状車輪103,104は、当該駆動車輪105,106に駆動力が作用し、前後進または方向の変更に応じて、従属的に自在に転動するものである。
このように、操作力に応じて、駆動車輪105,106が駆動力を受けて回転することにより、これらの移動体(プラットフォーム、車椅子)100,200,300を移動させる際に、パワーアシスト機能が発揮されるものとなり、大重量の積載物(または搭乗者)が搭載された状態においても、パワーアシスト機能により容易に移動させることが可能となるのである。
ところで、左右一対の操作系と駆動系とを構築することは、第1に、操作力が両手で操作部101,102を握って操作する際の移動状態に近似させるためであり、第2に、制御機構を簡易にするためである。
すなわち、アシスト力が与えられない状態において操作者が移動体100,200,300を操作する場合には、前進または後退させる場合には、両腕で進行方向へ向かって押し、または引く動作を行う。また、向きを変化させる場合は、左右を異なる力で押し、または引くような動作をしている。これらの動作は、左右の操作部101,102を介して、左右の車輪を個別にコントロールするものである。そのため、これと同じように、操作者の操作力を左右で分離制御することにより、操作者の左右の操作力を駆動車輪105,106に反映させることとしたのである。
また、左右の操作部101,102における操作グリップAで検出される操作力を総合的に演算制御して、移動方向や移動量(移動速度)などをコントロールする場合は、操作者の意図しないアシスト力が付与する原因となる場合がある。例えば、単一のコントローラを使用する場合、コントローラを前後左右の四方向に向けて操作することとなるが、その傾斜方向(コントローラの向き)が僅かな角度の変化によっても意図する方向から逸脱する場合もあり得る。これを左右二つの操作部101,102に独立させることによって、進行方向を感覚的に一致させるような操作が可能となるのである。
そこで、そのための制御システムの概略を説明する。図11は、システムの概略図である。この図に示されているように、操作グリップA(正確には圧力センサ)によって検出された操作力(圧力センサ回路による検出値)は、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと略称する)に送られ、検出の有無とともに、検出値の大きさに応じて、電動モータの電圧値を演算する。演算された電圧値の指令は、モータドライバに送られ、所定の電圧値に制御されつつ電動モータ(駆動モータ)を回転させるのである。このモータによる回転駆動力は車輪105(,106)に伝達され、所定のトルク(回転力)によって車輪(105(,106)を回転させることとなる。なお、駆動モータ(電動モータ)の出力軸(駆動軸)には、エンコーダが設置され、エンコーダで計測された駆動軸の回転状態がマイコンに入力される。マイコンによる演算値に基づく駆動状態と、現実の駆動状態とを比較し、指令値を再演算するためである。
圧力センサ回路、マイコン、モータドライバおよび駆動モータは、いずれも搭載されるバッテリの電源が使用される。このバッテリの電圧の情報は、マイコンに送られておりバッテリの残量に応じて、運転可能か充電を要するかが判断され、表示部としてのバッテリランプの点灯状態を制御させている。バッテリランプの点灯状態は、任意に定めた区別に基づいて、色彩の変化または点灯、点滅、消灯などの区別等によって、操作者に覚知させるものである。
なお、図示は、左右のいずれか一方における制御システムについて示し、図示に基づいて説明したが、これと一対をなす他方の制御システムも同様である。ただし、マイコン、バッテリおよびバッテリランプは単一のものを左右で共有することができる。
移動体に係る本発明の実施形態は、上記のような構成であるから、比較的簡易な構成によりパワーアシスト機能を有する移動体を構成することができる。そして、その移動体は、操作者がパワーアシスト機能を使用しない状態における操作と同様の動作によって、アシスト力を受けながら使用することが可能となり、好適な使用環境を実現させることとなる。
本発明のそれぞれの実施形態は以上のとおりであるが、これらは一例を示すものであって、本発明がこれらの実施形態に限定される趣旨ではない。そこで、前述の実施形態をさらに変形することも可能である。
例えば、図12(a)に示すように、軸部1を断面円形の棒状部材とし、把持部2による中空部の断面形状を略楕円(長孔)としてもよい。この場合、圧力センサ3は、曲面に沿った状態で設けられ、作用部7は、当該曲面に当接可能な円弧状端面とすることとなる。このような形状の変化によっても、同様の機能を得ることができる。
また、図12(b)に示すように、軸部1の中心に芯材10を配置する構成としてもよい。これは、軸部1が、加工を容易とするためにプラスチック材料等を使用する場合があるため、強度を確保するために、剛性のある材料(例えば、金属材料)によって芯材10を内部に挿通するのである。このような構成により、操作グリップAの全体の強度を向上させ、アシスト力が付与されない(通常時)において、強力に押し引き操作する場合に、操作グリップAの破損を未然に防止することができる。また、圧力センサ3の信号線31,32は、軸部1と把持部2とで形成される間隙に配置してもよい。把持部2の移動により当接する部分は、圧力センサ3のセンシング部と作用部7の端面であるから、それ以外の領域には僅かながら間隙が常時形成されることとなる(図6、図7参照)。なお、圧縮コイルバネ5,6は、局所的に設けられるため、信号線31,32は、この圧縮コイルバネ5,6を避けて配線すれば、操作グリップAの作動に支障を来すことがないのである。
さらに、図示はしないが、圧力センサ3および作用部7は、軸部1の二平面にそれぞれ設けたが、一方のみに設ける構成でもよい。このような構成は、移動体が前進のみであって後退することがない場合に使用することができる。また、圧力センサ3と作用部7は、前記実施形態から明らかなとおり、両者が一組となって配置されるものであるが、各対向面に各1個ずつ配置したものを例示したが、適宜間隔で複数設置してもよい。この場合には、操作グリップAに作用する操作力は、複数の圧力センサによって検出された値の合計値として処理すればよい。そして、付勢手段としての代表例として圧縮コイルバネ5,6を圧縮センサ3の両側に各2個(合計4個)を配置したが、好適な反発力を得るために、各1個(合計2個)またはこれら以上としてもよい。