以下、本発明のブレーキ装置及びブレーキシステムを実現する形態を、図面を用いて説明する。
[第1実施形態]
[構成]
まず、構成を説明する。図1は、本実施形態のブレーキシステム1の、液圧回路を含む概略構成を示す。ブレーキシステム1は液圧式であり、車輪を駆動する原動機として内燃機関(エンジン)のみを備えた一般的な車両のほか、内燃機関に加えて電動式のモータ(ジェネレータ)を備えたハイブリッド車や、電動式のモータ(ジェネレータ)のみを備えた電気自動車等で利用可能である。ブレーキシステム1は、車両の各車輪FL〜RRに設けられたホイルシリンダ8にブレーキ液を供給してブレーキ液圧(ホイルシリンダ液圧Pw)を発生させる。このPwにより摩擦部材を移動させ、摩擦部材を車輪FL〜RR側の回転部材に押付けることで、摩擦力を発生させる。これにより、各車輪FL〜RRに液圧制動力を付与する。ここで、ホイルシリンダ8は、ドラムブレーキ機構のホイルシリンダのほか、ディスクブレーキ機構における油圧式ブレーキキャリパのシリンダであってもよい。
ブレーキシステム1は、マスタシリンダユニット(ブレーキ装置)としての第1ユニット1Aと、液圧制御ユニットとしての第2ユニット1Bと、電子制御ユニット100とを有する。第1ユニット1Aは、ブレーキ配管10M,10X,10Rを介して第2ユニット1Bに接続される。第2ユニット1Bは、ブレーキ配管10Wを介して各車輪FL〜RRのホイルシリンダ8に接続される。ブレーキシステム1は2系統化されており、前後配管形式が採用される。P(プライマリ)系統のブレーキ配管10Wは左後輪RL及び右後輪RRのホイルシリンダ8c,8dに接続され、S(セカンダリ)系統のブレーキ配管10Wは左前輪FL及び右前輪FRのホイルシリンダ8a,8bに接続される。なお、X字配管等、他の配管形式を採用してもよい。以下、P系統に対応して設けられた部材とS系統に対応する部材とを区別する場合は、それぞれの符号の末尾に添字P,Sを付す。
第1ユニット1Aは、マスタシリンダ3とリザーバタンク4とストロークシミュレータ5とを備える。マスタシリンダ3は、運転者によるブレーキペダル2の操作(ブレーキ操作)により作動する第1の液圧源である。マスタシリンダ3は、プッシュロッド20を介してブレーキペダル2に接続される。なお、ブレーキシステム1は、車両のエンジン又は別に設けた負圧ポンプが発生する負圧を利用してブレーキ操作力(ブレーキペダル2の踏力Fp)を倍力ないし増幅する負圧式の倍力装置を備えていない。ブレーキペダル2は、運転者(ドライバ)のブレーキ操作の入力を受けるブレーキ操作部材である。ブレーキペダル2の根元側にはプッシュロッド20の一端が回転自在に接続される。マスタシリンダ3は、油路を介してホイルシリンダ8と連通することが可能に設けられている。マスタシリンダ3は、ハウジングHSGとシリンダ30とマスタシリンダピストン31とスプリング32とを備える。マスタシリンダピストン31は、シリンダ30の内部にマスタシリンダ室34を画成する。マスタシリンダ3は、ブレーキ操作に応じて、マスタシリンダ室34にブレーキ液圧(マスタシリンダ液圧Pm)を発生する。シリンダ30は補給ポート35と供給ポート36を備える。両ポート35,36は共にシリンダ30の内周面と外周面に開口する。マスタシリンダ3は供給ポート36を介してブレーキ液を外部に供給する。マスタシリンダ3は、ホイルシリンダ8にブレーキ液を供給してホイルシリンダ液圧Pwを発生可能である。
ストロークシミュレータ5は、運転者のブレーキ操作に応じて作動するブレーキ操作模擬装置である。ストロークシミュレータ5は、ハウジングHSGとシミュレータシリンダ50とシミュレータピストン51とスプリング52とを備える。シミュレータピストン51は、シミュレータシリンダ50の内部にシミュレータシリンダ室55を画成する。シミュレータシリンダ50は補給ポート56と供給ポート59を備える。補給ポート56と供給ポート59は共にシミュレータシリンダ50の内周面と外周面に開口する。シミュレータピストン51は、マスタシリンダ室34の液圧により、マスタシリンダピストン31に連動してシミュレータシリンダ50の内部を軸方向に作動(移動)する。これによりシミュレータシリンダ室55の容積が減少すると、ストロークシミュレータ5は供給ポート59を介してシミュレータシリンダ室55からブレーキ液を外部に供給する。これにより、ストロークシミュレータ5は、ペダルストロークSpを発生させる。また、シミュレータピストン51の移動に伴い圧縮されるスプリング52の弾性力により、運転者のブレーキ操作に伴う操作反力(ブレーキ操作反力)を生成可能である。
リザーバタンク4は、ブレーキ液を貯留してマスタシリンダ3や第2ユニット1Bにブレーキ液を補給可能なブレーキ液源であり、大気圧に開放される低圧部である。リザーバタンク4の内部における底部側(車両へ搭載された状態で鉛直方向下側)は、所定の高さを有する複数の仕切部材401,402により、マスタシリンダ用室41と、ストロークシミュレータ用室42と、液溜まり用室43とに区画(画成)される。リザーバタンク4はマスタシリンダ補給ポート410とストロークシミュレータ補給ポート420と供給ポート430とを備える。マスタシリンダ補給ポート410はマスタシリンダ用室41に開口すると共にマスタシリンダ3の補給ポート35に接続する。ストロークシミュレータ補給ポート420はストロークシミュレータ用室42に開口すると共にストロークシミュレータ5の補給ポート56に接続する。供給ポート430は液溜まり用室43に開口する。
第2ユニット1Bは、第2の液圧源としてのポンプ6を備え、運転者によるブレーキ操作とは独立にブレーキ液圧を発生可能な制動制御ユニットである。第2ユニット1Bは、運転者のブレーキ操作に応じてポンプ6を駆動し、ホイルシリンダ液圧Pwを昇圧する。第2ユニット1Bは、液圧回路を構成する複数の油路を備えると共に、制御液圧を発生するための液圧機器(アクチュエータ)として、ポンプ6のモータ60及び複数の制御弁(電磁弁21等)を備える。第2ユニット1Bは、マスタシリンダポート7Mとシミュレータポート7Xとリザーバポート7Rとホイルシリンダポート7Wとを備える。マスタシリンダポート7Mは、ブレーキ配管10Mを介してマスタシリンダ3の供給ポート36に接続される。シミュレータポート7Xは、ブレーキ配管10Xを介してストロークシミュレータ5の供給ポート59に接続される。リザーバポート7Rは、ブレーキ配管10Rを介してリザーバタンク4の供給ポート430に接続される。ホイルシリンダポート7Wは、ブレーキ配管10Wを介してホイルシリンダ8に接続される。第2ユニット1Bは、第1ユニット1A(リザーバタンク4又はマスタシリンダ3)からブレーキ液の供給を受け、各ホイルシリンダ8にマスタシリンダ液圧Pm又は制御液圧を個別に供給可能である。
ポンプ6は、マスタシリンダ3以外のブレーキ液源であるリザーバタンク4等からブレーキ液を吸入し、ホイルシリンダ8に向けて吐出する。ポンプ6として、本実施形態では、音振性能等で優れたギヤポンプ、具体的には外接歯車式のポンプユニットを用いる。ポンプ6として、プランジャポンプ等を用いてもよい。ポンプ6はP,S両系統で共通に用いられ、同一の駆動源としての電動式のモータ(回転電機)60により回転駆動される。モータ60は、ブラシ付きモータでもよいし、回転軸の回転角度ないし回転数を検出するレゾルバを備えるブラシレスモータでもよい。電磁弁21等は、制御信号に応じて開閉動作し、複数の油路11等の連通状態を切り替えることで、ブレーキ液の流れを制御する。第2ユニット1Bは、マスタシリンダ3とホイルシリンダ8との連通を遮断した状態で、ポンプ6が発生する液圧によりホイルシリンダ8を加圧することが可能に設けられている。また、第2ユニット1Bは、ポンプ6の吐出圧やPm等、各所の液圧を検出する液圧センサ91〜93を備える。
電子制御ユニット(以下、ECUという。)100は、主に第2ユニット1Bの作動を制御するコントロールユニットである。ECU100には、各種センサ90〜93等から送られる検出値、及び車両側から送られる走行状態に関する情報が、入力される。ECU100は、これら各種情報に基づき、内蔵されるプログラムに従って情報処理を行う。また、この処理結果に従って第2ユニット1Bの各アクチュエータに指令信号を出力し、これらを制御する。具体的には、電磁弁21等の開閉動作や、モータ60の回転数(すなわちポンプ6の吐出量)を制御する。これにより各車輪FL〜RRのホイルシリンダ液圧Pwを制御することで、各種ブレーキ制御を実現する。例えば、倍力制御や、アンチロック制御や、車両運動制御のためのブレーキ制御や、自動ブレーキ制御や、回生協調ブレーキ制御等を実現する。倍力制御は、運転者のブレーキ操作力では不足する液圧制動力を発生してブレーキ操作を補助する。アンチロック制御は、制動による車輪FL〜RRのスリップ(ロック傾向)を抑制する。車両運動制御は、横滑り等を防止する車両挙動安定化制御(以下、ESCという。)である。自動ブレーキ制御は、先行車追従制御等である。回生協調ブレーキ制御は、回生ブレーキと協調して目標減速度(目標制動力)を達成するようにPwを制御する。
以下、第1ユニット1Aについて詳細を説明する。マスタシリンダ3とストロークシミュレータ5は、一体的に設けられている。すなわち、マスタシリンダ3(のシリンダ30)とストロークシミュレータ5(のシミュレータシリンダ50)は、同一(言換えると共通)のハウジングHSGに設けられており、1つのユニット(第1ユニット1A)を構成している。第1ユニット1Aには、リザーバタンク4が一体的に設置されている。図1では、シリンダ30の軸心を通る断面を示す。
以下、説明の便宜上、シリンダ30の軸心が延びる方向(以下、軸方向という。)にx軸を設ける。マスタシリンダ3に対してストロークシミュレータ5の側をx軸の正方向側とする。マスタシリンダ3のシリンダ30は、ハウジングHSGの内部に筒状に形成される。シリンダ30の内周面300は円筒状である。内周面300には、シリンダ30の軸心の周り方向(以下、周方向という。)に延びる3つの環状の溝301〜303が、x軸方向に並ぶ。中央の溝303には補給ポート35が開口する。溝303のx軸負方向側に隣接する溝301は第1シール溝であり、溝303のx軸正方向側に隣接する溝302は第2シール溝である。内周面300には、第2シール溝302のx軸正方向側に、供給ポート36が開口する。
シミュレータシリンダ50は、ハウジングHSGの内部に有底筒状に形成される。シミュレータシリンダ50の内周面500は円筒状である。シミュレータシリンダ50は、シリンダ30のx軸正方向側に配置され、シリンダ30の軸心の延長上に(ハウジングHSGにおけるシリンダ30の軸方向の位置に)、x軸方向に延びる。シミュレータシリンダ50の軸心は、シリンダ30の軸心と略同一線上に延びる。シミュレータシリンダ50のx軸負方向端はシリンダ30のx軸正方向端に開口してシリンダ30と連通する一方、シミュレータシリンダ50のx軸正方向端は閉塞する。シミュレータシリンダ50は、段付きの筒状であり、x軸負方向側にピストン収容部501を有し、x軸正方向側にスプリング収容部502を有する。ピストン収容部501は、x軸負方向側に大径部503を有し、x軸正方向側に小径部504を有する。大径部503の径は、シリンダ30の径と等しい。大径部503の内周面500は、シリンダ30の内周面300と滑らかに連続する。小径部504の径は、大径部503の径よりも小さい。スプリング収容部502の径は、大径部503の径よりも大きい。大径部503の内周面500には、周方向に延びる3つの環状の溝505,506,507が、x軸方向に並ぶ。中央の溝506には補給ポート56とリリーフ油路560の一端が開口する。溝506のx軸負方向側に隣接する溝505は第1シール溝であり、溝506のx軸正方向側に隣接する溝507は第2シール溝である。大径部503の内周面500において、溝507のx軸正方向側には、リリーフ油路560の他端が開口する。小径部504の内周面は、周方向に延びる環状の第3シール溝508を備える。スプリング収容部502の内周面には供給ポート59が開口する。
マスタシリンダピストン31の外周面310は円筒状である。外周面310の径は、シリンダ30の内周面300の径よりも若干小さい。マスタシリンダピストン31は、隔壁部313と、隔壁部313からx軸負方向側に延びる第1筒状部311と、隔壁部313からx軸正方向側に延びる第2筒状部312とを有する。第1筒状部311はマスタシリンダピストン31のx軸負方向端に開口し、第2筒状部312はマスタシリンダピストン31のx軸正方向端に開口する。隔壁部313のx軸負方向側の面(第1筒状部311のx軸正方向側の底部)は半球状の凹部314を備える。第2筒状部312のx軸正方向側で、周方向に複数(例えば4つ)並んで設けられた連通孔315が、第2筒状部312の径方向に延びて第2筒状部312を貫通する。
シミュレータピストン51の外周面は円筒状である。シミュレータピストン51は、隔壁部513と、隔壁部513からx軸負方向側に延びる第1筒状部511と、隔壁部513からx軸正方向側に延びる第2筒状部512とを有する。第1筒状部511はシミュレータピストン51のx軸負方向端に開口し、第2筒状部512はシミュレータピストン51のx軸正方向端に開口する。第2筒状部512の外周面は段付きの筒状である。すなわち、シミュレータピストン51は段付きピストンである。第2筒状部512は、x軸負方向側に大径部514を有し、x軸正方向側に小径部515を有する。大径部514の外周面510の径は、シミュレータシリンダ50の大径部503の径より若干小さく、第1筒状部511の外周面510の径に等しい。小径部515の外周面510の径は、大径部514の外周面510の径よりも小さく、シミュレータシリンダ50の小径部50Dの径より若干小さい。第2筒状部512の外周面510には、大径部514から小径部515へ向うにつれて徐々に縮径するテーパ部516が設けられている。小径部515のx軸正方向側で、周方向に複数(例えば4つ)並んで設けられた連通孔517が、小径部515の径方向に延びて小径部515を貫通する。
マスタシリンダピストン31は、シリンダ30の内部に、内周面300に沿ってx軸方向に移動可能に設置される。シミュレータピストン51は、シミュレータシリンダ50の内部に、内周面500に沿ってx軸方向に移動可能に設置される。第2筒状部512の大径部514は、シミュレータシリンダ50の大径部503に設置され、小径部515は、シミュレータシリンダ50の小径部504に設置される。両ピストン31,51は、同一の軸心上に配置される。シリンダ30の内部には、マスタシリンダピストン31のx軸正方向側(第2筒状部312の内周側を含む)とシミュレータピストン51のx軸負方向側(第1筒状部511の内周側を含む)との間に、マスタシリンダ室34が画成される。シミュレータピストン51のx軸正方向側(第2筒状部512の内周側を含む)に、シミュレータシリンダ室55(背圧室)が画成される。シミュレータピストン51は、シリンダ30及びシミュレータシリンダ50の内部を少なくとも2室(マスタシリンダ室34、シミュレータシリンダ室55)に分離する隔壁部材である。シミュレータピストン51の第2筒状部512における小径部515の外周面510と、シミュレータシリンダ50における大径部503の内周面500との間の隙間は、シミュレータシリンダ50に対するシミュレータピストン51の軸方向移動に伴って容積が変化する可変容積室58である。
マスタシリンダピストン31の第1筒状部311の内周側にはプッシュロッド20が設置される。プッシュロッド20の他端(x軸正方向端)は半球状であり、この他端が凹部314に嵌合する。これにより、プッシュロッド20が旋回(ピボット)運動可能にマスタシリンダピストン31に接続される。マスタシリンダ3には、ストロークセンサ90が設けられる。ストロークセンサ90はマスタシリンダピストン31の軸方向変位量を検出する。この軸方向変位量は、ブレーキペダル2の変位量(ペダルストロークSp)に相当する。なお、ストロークセンサ90をプッシュロッド20やブレーキペダル2に設けてSpを検出するようにしてもよい。
シール溝301等にはロッドシール33等が設置される。ロッドシールは、径方向内側にリップ部を備える周知の断面カップ状のシール部材(カップシール)である。マスタシリンダ3の第1,第2シール溝301,302にはそれぞれ第1,第2ロッドシール331,332が設置される。第1,第2ロッドシール331,332は、マスタシリンダピストン31に摺接して(マスタシリンダピストン31に対し接触しつつ軸方向に移動して)マスタシリンダピストン31の外周面310とシリンダ30の内周面300との間をシールする。第1ロッドシール331は、補給ポート35(溝303)からx軸負方向側(ハウジングHSGの外部)へ向かうブレーキ液の流れを抑制する。第2ロッドシール332は、補給ポート35(溝303)からマスタシリンダ室34へ向うブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを抑制する。ストロークシミュレータ5の第1〜第3シール溝505,507,508にはそれぞれ第1〜第3ロッドシール531〜533が設置される。第1,第2ロッドシール531,532は、シミュレータピストン51の第2筒状部512における大径部514に摺接して大径部514の外周面510とシミュレータシリンダ50(大径部503)の内周面500との間をシールする。第3ロッドシール533は、シミュレータピストン51の第2筒状部512における小径部515に摺接して小径部515の外周面510とシミュレータシリンダ50(小径部504)の内周面500との間をシールする。第1ロッドシール531は、マスタシリンダ室34から補給ポート56(溝506)へ向かうブレーキ液の流れを抑制する。第2ロッドシール532は、補給ポート56(溝506)から可変容積室58へ向かうブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを抑制する。第3ロッドシール533は、可変容積室58からシミュレータシリンダ室55へ向かうブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを抑制する。
マスタシリンダピストン31の第2筒状部312をx軸正方向側からみた面αは、マスタシリンダ室34に臨んでおり、マスタシリンダ室34の液圧を受ける受圧面である。面αの径(受圧径)は、第2筒状部312の外周面310の径に等しい。面αの面積(受圧面積)A0は、第2筒状部312の外周面310を輪郭とする円の面積に等しい。シミュレータピストン51の第1筒状部511をx軸負方向側からみた面βは、マスタシリンダ室34に臨んでおり、マスタシリンダ室34の液圧を受ける第1受圧面である。面βの径(第1の受圧径)は、第1筒状部511の外周面510の径に等しく、第2筒状部512における大径部514の外周面510の径に等しい。面βの面積(第1の受圧面積)A1は、大径部514の外周面510を輪郭とする円の面積に等しく、受圧面積A0に等しい。第2筒状部512の小径部515をx軸正方向側からみた面γは、シミュレータシリンダ室55に臨んでおり、シミュレータシリンダ室55の液圧を受ける第2受圧面である。面γの径(第2の受圧径)は、小径部515の外周面510の径に等しく、面βの径(第1の受圧径)よりも小さい。面γの面積(第2の受圧面積)A2は、小径部515の外周面510を輪郭とする円の面積に等しく、A1よりも小さい。
マスタシリンダ室34には、スプリング32が、両ピストン31,51の間に押し縮められた状態で設置されている。スプリング32は、マスタシリンダピストン31の戻しばねとして機能する弾性体であり、本実施形態ではコイルスプリングである。スプリング32は、マスタシリンダピストン31をx軸負方向側に常時付勢すると共に、シミュレータピストン51をx軸正方向側に常時付勢する。
シミュレータシリンダ室55には、スプリング52が、シミュレータピストン51とシミュレータシリンダ50のx軸正方向端部との間に押し縮められた状態で設置されている。スプリング52は、シミュレータピストン51の戻しばねとして機能すると共に、ブレーキペダル2へ反力を付与する反力ばねとして機能する弾性体であり、本実施形態ではコイルスプリングである。スプリング52は、第1スプリング521と第2スプリング522を備える。第1スプリング521の外径および線径は第2スプリング522よりも小さい。第1スプリング521のばね定数は第2スプリング522よりも小さい。第1,第2スプリング521,522は、リテーナ部材57を介して直列に配置されている。リテーナ部材57は有底筒状であり、本体部570と底部571と鍔部572とを有する。本体部570は円筒状である。底部571は本体部570の軸方向一端側を閉塞する。鍔部572は、本体部570の軸方向他端側の開口部位において、リテーナ部材57の径方向外側へ向って広がる。リテーナ部材57はスプリング収容部502の内部に設置される。底部571がx軸正方向側に、鍔部572がx軸負方向側に配置される。鍔部572の外径はスプリング収容部502の内径よりも小さい。本体部570の内径はシミュレータピストン51の小径部515の外径よりも大きい。第1スプリング521は、リテーナ部材57の底部571とシミュレータピストン51の隔壁部513との間に押し縮められた状態で設置される。第1スプリング521のx軸正方向側はリテーナ部材57の本体部570の内周側に収容され、第1スプリング521のx軸負方向側はシミュレータピストン51の第2筒状部512の内周側に収容される。第2スプリング522は、スプリング収容部502のx軸正方向端部(シミュレータシリンダ室55の壁)とリテーナ部材57の鍔部572との間に押し縮められた状態で設置される。第2スプリング522のx軸負方向側はリテーナ部材57の本体部570の外周側に嵌合する。第1,第2スプリング521,522は、x軸方向に変形可能であり、シミュレータピストン51の変位量(ストローク量Sss)に応じて反力を発生可能である。
ブレーキペダル2に踏力Fpが作用していない状態(初期状態)で、両ピストン521,522はx軸負方向側に最大変位する。初期状態で、マスタシリンダピストン31の第2筒状部312の外周面310における連通孔315の開口は、第2ロッドシール332のリップ部と第2筒状部312の外周面310との当接部位よりも若干x軸負方向側にあり、補給ポート35(溝303)に連通する。シミュレータピストン51の小径部515の外周面510における連通孔517の開口は、第3ロッドシール533のリップ部と小径部515の外周面510との当接部位よりも若干x軸負方向側にあり、可変容積室58に連通する。リテーナ部材57の鍔部572はスプリング収容部502のx軸負方向端部に当接する。シミュレータピストン51のx軸正方向端は、スプリング収容部502とピストン収容部501(小径部504)との境付近にある。
マスタシリンダピストン31は、運転者のブレーキ操作に連動して作動し、ブレーキ操作に応じて軸方向に移動する。運転者によるブレーキペダル2の踏込み操作によって、プッシュロッド20がマスタシリンダピストン31をx軸正方向側に押す。この推力によりマスタシリンダピストン31がx軸正方向側にストロークし、マスタシリンダ室34の容積が減少すると、マスタシリンダ室34から供給ポート36を介してブレーキ液が流出する。また、上記推力によりマスタシリンダ室34に液圧Pmが発生する。マスタシリンダ室34は液圧室として機能する。
シミュレータピストン51は、Pmにより、マスタシリンダピストン31に連動して軸方向に移動する。マスタシリンダ室34はストロークシミュレータ5の正圧室として機能し、シミュレータシリンダ室55はストロークシミュレータ5の背圧室として機能する。シミュレータシリンダ室55の容積が減少すると、シミュレータシリンダ室55から供給ポート59を介してブレーキ液が流出する。供給ポート59からのブレーキ液の流出量が制限されていなければ(供給ポート59が低圧に解放されていれば)、シミュレータシリンダ室55は低圧に保たれる。供給ポート59からのブレーキ液の流出量が制限されていれば(供給ポート59が低圧に解放されていなければ)、シミュレータシリンダ室55に(上記低圧より高い)液圧が発生する。このように、シミュレータシリンダ室55は液圧室としても低圧室としても機能する。
シリンダ30に対するマスタシリンダピストン31のx軸方向における可動範囲内で、マスタシリンダ室34には、供給ポート36が、マスタシリンダピストン31の外周面310によって完全に塞がれることなく、常時開口する。シミュレータシリンダ50に対するシミュレータピストン51のx軸方向における可動範囲内で、リリーフ油路560は、シミュレータピストン51(大径部514)の外周面510によって完全に塞がれることなく、可変容積室58に常時開口する。リテーナ部材57は、第1スプリング521から作用する荷重が第2スプリング522から作用する荷重を上回ると、シミュレータピストン51に連動して軸方向に移動する。スプリング収容部502に対するリテーナ部材57のx軸方向における可動範囲内で、供給ポート59は、リテーナ部材57(底部571)によって完全に塞がれることなく、スプリング収容部502に常時開口する。
次に、第2ユニット1Bの液圧回路を図1に基づき説明する。各車輪FL〜RRに対応する部材や構成には、その符号の末尾にそれぞれ添字a〜dを付して適宜区別する。第1油路11は、マスタシリンダポート7MとP系統のホイルシリンダポート7Wとを接続する。第2油路12は、シミュレータポート7XとS系統のホイルシリンダポート7Wとを接続する。第1遮断弁(マスタカット弁)21は、第1油路11に設けられた常開型の(非通電状態で開弁する)電磁弁である。第1油路11は、第1遮断弁21によって、マスタシリンダ室34側の油路11Aとホイルシリンダ8側の油路11Bとに分離される。第2遮断弁(ストロークシミュレータイン弁)22は、第2油路12に設けられた常開型の電磁弁である。第2油路12は、第2遮断弁22によって、シミュレータシリンダ室55側の油路12Aとホイルシリンダ8側の油路12Bとに分離される。ソレノイドイン弁(加圧弁)SOL/V IN23は、第1,第2油路11,12における第1,第2遮断弁21よりもホイルシリンダ8側(油路11B)に、各車輪FL〜RRに対応して設けられた常開型の電磁弁である。SOL/V IN23をバイパスして第1,第2油路11,12と並列にバイパス油路110,120が設けられている。バイパス油路110,120には、チェック弁(一方向弁ないし逆止弁)230が設けられている。チェック弁230は、ホイルシリンダ8側からマスタシリンダ室34またはシミュレータシリンダ室55側へのブレーキ液の流れのみを許容する。
吸入油路13は、リザーバポート7Rとポンプ6の吸入部とを接続する。吸入油路13上には、所定量のブレーキ液を貯留可能な所定容積の液溜まり(容積室)130が設けられている。液溜まり130は、第2ユニット1Bの内部のリザーバである。吐出油路14は、ポンプ6の吐出部と、第1,第2油路11,12における第1,第2遮断弁21,22とSOL/V IN23との間とを接続する。チェック弁140は、吐出油路14に設けられ、ポンプ6の吐出部の側(上流側)から第1,第2油路11,12の側(下流側)へのブレーキ液の流れのみを許容する。チェック弁140は、ポンプ6が備える吐出弁である。吐出油路14は、チェック弁140の下流側でP系統の油路14PとS系統の油路14Sとに分岐する。各油路14P,14Sはそれぞれ第1油路11と第2油路12に接続する。油路14P,14Sは、第1,第2油路11,12を互いに接続する連通路として機能する。連通弁24は、各油路14P,14Sに設けられた常閉型の(非通電状態で閉弁する)電磁弁である。
第1減圧油路15は、吐出油路14におけるチェック弁140と連通弁24との間と、吸入油路13とを接続する。調圧弁25は、第1減圧油路15に設けられた第1減圧弁としての、常開型の電磁弁である。第2減圧油路16は、第1,第2油路11,12におけるSOL/V IN23よりもホイルシリンダ8側と、吸入油路13とを接続する。ソレノイドアウト弁(減圧弁)SOL/V OUT26は、各車輪FL〜RRに対応して第2減圧油路16a〜16dに設けられた第2減圧弁としての、常閉型の電磁弁である。シミュレータ油路17は、第2油路12におけるシミュレータポート7Xと第2遮断弁22との間(油路12A)と、吸入油路13とを接続する。ストロークシミュレータアウト弁(シミュレータカット弁)SS/V OUT27は、シミュレータ油路17に設けられた常閉型の電磁弁である。SS/V OUT27をバイパスして、シミュレータ油路17と並列にバイパス油路170が設けられている。バイパス油路170には、チェック弁270が設けられている。チェック弁270は、吸入油路13の側から第2油路12Aの側へ向うブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを抑制する。なお、第1減圧油路15と第2減圧油路16とシミュレータ油路17とは、吸入油路13に接続する側で部分的に共通する。これらの油路は液溜まり130に接続する。
第1,第2遮断弁21,22、SOL/V IN23、及び調圧弁25は、ソレノイドに供給される電流に応じて弁の開度が調整される比例制御弁である。他の弁、すなわち連通弁24、SOL/V OUT26、及びSS/V OUT27は、弁の開閉が二値的に切換え制御される2位置弁(オン・オフ弁)である。なお、上記他の弁に比例制御弁を用いることも可能である。また、調圧弁25は常閉型でもよい。第1油路11におけるマスタシリンダポート7Mと第1遮断弁21との間(油路11A)には、この箇所の液圧(マスタシリンダ液圧Pm)を検出する液圧センサ91が設けられる。第1,第2油路11,12における第1,第2遮断弁21,22とSOL/V IN23との間には、この箇所の液圧(ホイルシリンダ液圧Pw)を検出する液圧センサ(プライマリ系統圧センサ、セカンダリ系統圧センサ)92が設けられる。吐出油路14におけるポンプ6の吐出部(チェック弁140)と連通弁24との間には、この箇所の液圧(ポンプ吐出圧)を検出する液圧センサ93が設けられる。
次に、ECU100について詳細を説明する。ECU100は、ブレーキ操作状態検出部101と、目標ホイルシリンダ液圧算出部102と、踏力ブレーキ発生部103と、ホイルシリンダ液圧制御部104とを備える。ブレーキ操作状態検出部101は、ストロークセンサ90が検出した値の入力を受けて、運転者によるブレーキ操作量としてのペダルストロークSpを検出する。また、Spに基づき、運転者がブレーキ操作中であるか否か(ブレーキペダル2の操作の有無)を検出すると共に、運転者のブレーキ操作速度を検出ないし推定する。具体的には、Spの変化速度(ペダルストローク速度ΔSp/Δt)を演算することで、ブレーキ操作速度を検出ないし推定する。なお、踏力Fpを検出する踏力センサを設け、その検出値に基づきブレーキ操作量を検出又は推定することとしてもよい。また、液圧センサ91の検出値に基づきブレーキ操作量を検出又は推定することとしてもよい。すなわち、制御に用いるブレーキ操作量として、Spに限らず、他の適当な変数を用いてもよい。
目標ホイルシリンダ液圧算出部102は、目標ホイルシリンダ液圧Pw*を算出する。例えば、倍力制御時には、検出されたSp(ブレーキ操作量)に基づき、所定の倍力比に応じてSpと運転者の要求ブレーキ液圧(運転者が要求する車両減速度)との間の理想の関係(ブレーキ特性)を実現するPw*を算出する。例えば、通常サイズの負圧式倍力装置を備えたブレーキ装置において、負圧式倍力装置の作動時に実現されるSpとPw(制動力)との間の所定の関係を、Pw*を算出するための上記理想の関係とする。また、アンチロック制御時には、各車輪FL〜RRのスリップ量(擬似車体速に対する当該車輪の速度の乖離量)が適切なものとなるよう、各車輪FL〜RRのPw*を算出する。ESC時には、例えば検出された車両運動状態量(横加速度等)に基づき、所望の車両運動状態を実現するよう、各車輪FL〜RRのPw*を算出する。回生協調ブレーキ制御時には、回生制動力との関係でPw*を算出する。例えば、回生制動装置のコントロールユニットから入力される回生制動力と目標ホイルシリンダ液圧に相当する液圧制動力との和が、運転者の要求する車両減速度を充足するようなPw*を算出する。
踏力ブレーキ発生部103は、第1,第2遮断弁21,22を開弁方向に制御すると共に、SS/V OUT27を閉弁方向に制御する。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、第1,第2遮断弁21,22を閉弁方向に制御し、連通弁24を開弁方向に制御し、調圧弁25を閉弁方向に制御すると共に、ポンプ6を作動させる。このとき、液圧センサ92の検出値がPw*に近づくようにポンプ6の回転数や調圧弁25の開弁状態(開度等)をフィードバック制御する。本実施形態では、基本的に、ポンプ6(モータ60)の回転数ではなく調圧弁25の開弁状態を変化させる。例えば、モータ60の回転数の指令値Nm*を、Pwの加圧中に所定の大きな一定値に設定するほかは、Pwの保持又は減圧中、必要最低限のポンプ吐出圧を発生(ポンプ吐出量を供給)するための所定の小さな一定値に保持する。ホイルシリンダ液圧制御部104は、運転者のブレーキ操作に応じた制動力を前後車輪FL〜RRに発生させる通常ブレーキ時には、基本的に倍力制御を行う。通常の倍力制御では、モータ60の回転数指令値Nm*を所定の一定値に設定してポンプ6を作動させる。連通弁24を開弁方向に制御し、各車輪FL〜RRのSOL/V IN23を開弁方向に制御し、SOL/V OUT26を閉弁方向に制御する。第1,第2遮断弁21,22を閉弁方向に制御した状態で、調圧弁25を閉弁方向に制御(開度等をフィードバック制御)する。また、SS/V OUT27を開弁方向に制御する。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、補助加圧制御部105を有する。補助加圧制御部105は、ホイルシリンダ液圧制御部104による倍力制御(通常ブレーキ)時、運転者によるブレーキペダル2の踏込み操作(Spの増大)に応じて各車輪FL〜RRのPwを上昇させる(ポンプ6によるホイルシリンダ加圧制御が行われる)際、運転者のブレーキ操作状態に応じて、補助加圧制御を実行する。具体的には、第2遮断弁22を非作動とし(開弁方向に制御し)、SS/V OUT27を非作動とする(閉弁方向に制御する)。ポンプ6を作動させる等、その他のアクチュエータの制御内容は通常の倍力制御時と同様である。補助加圧制御部105は、例えば、運転者のブレーキ操作状態が所定の急ブレーキ操作であるか否かを判断し、急ブレーキ操作が行われている(ブレーキペダル2の踏込み速度が速い)と判断した場合、補助加圧制御を実行可能とする。急ブレーキ操作が行われていない(ブレーキペダル2の踏込み速度が速くない)と判断した場合、補助加圧制御を実行しない。具体的には、ブレーキ操作状態検出部101により検出ないし推定されたブレーキ操作速度(ペダルストローク速度ΔSp/Δt)が所定値α(補助加圧制御の開始及び終了の判断閾値)以上である場合に上記所定の急ブレーキ操作が行われていると判断し、ΔSp/Δtがαより小さい場合に上記所定の急ブレーキ操作が行われていないと判断する。補助加圧制御部105は、急ブレーキ操作が行われていると判断した場合、レゾルバ等の検出信号に基づき検出ないし推定したモータ60の回転数Nmが所定値Nm0(補助加圧制御の終了の判断閾値)以下であり、かつ検出されたペダルストロークSpが所定値Sp0(補助加圧制御の終了の判断閾値)以下のとき、上記のように補助加圧制御を実行する。一方、急ブレーキ操作が行われていると判断した場合であっても、NmがNm0より大きいか、又はSpがSp0より大きいとき、補助加圧制御の終了条件が成立したと判断して、補助加圧制御を実行しない。この場合、ホイルシリンダ液圧制御部104が、第2遮断弁22を閉弁方向に制御し、SS/V OUT27を開弁方向に制御して、通常の倍力制御(ポンプ6によるホイルシリンダ加圧制御)を実行する。これにより、補助加圧制御が終了する。
[作用]
次に、作用を説明する。図2〜図4は、ブレーキシステム1の作動状態を示す、図1と同様の図である。ブレーキ液の流れを一点鎖線で示す。
(踏力ブレーキ)
図2は、踏力ブレーキ時におけるブレーキシステム1の作動状態を示す。踏力ブレーキ発生部103は、第1,第2遮断弁21,22を開弁方向に制御する。これにより、第2ユニット1Bの状態を、マスタシリンダ液圧Pm、及び、シミュレータシリンダ室55に発生した液圧(以下、シミュレータ液圧という。)Psにより、ホイルシリンダ液圧Pwを発生可能な状態とし、踏力ブレーキ(非倍力制御)を実現する。マスタシリンダ3は供給ポート36を介して第2ユニット1Bにブレーキ液を供給する。第2ユニット1Bは、マスタシリンダ3から供給されるブレーキ液を用いて、ホイルシリンダ8の液圧Pwを昇圧可能である。言換えると、第2ユニット1Bがマスタシリンダ液圧Pmをホイルシリンダ8へ供給可能である。マスタシリンダ3は、マスタシリンダ室34に発生した液圧PmによりP系統の油路(第1油路11)を介してホイルシリンダ8c,8dを加圧可能である。第1遮断弁21が開弁方向に制御された状態で、(第1油路11を含み)マスタシリンダ室34とホイルシリンダ8c,8dとを接続するブレーキ系統は、踏力Fpを用いて発生させたマスタシリンダ液圧Pmによりホイルシリンダ液圧Pwを発生させる。
また、ストロークシミュレータ5は供給ポート59を介して第2ユニット1Bにブレーキ液を供給する。第2ユニット1Bは、ストロークシミュレータ5から供給されるブレーキ液を用いて、ホイルシリンダ8の液圧Pwを昇圧可能である。言換えると、第2ユニット1Bがシミュレータ液圧Psをホイルシリンダ8へ供給可能である。ストロークシミュレータ5は、シミュレータシリンダ室55に発生した液圧PsによりS系統の油路(第2油路12)を介してホイルシリンダ8a,8bを加圧可能である。第2遮断弁22が開弁方向に制御された状態で、(第2油路12を含み)シミュレータシリンダ室55とホイルシリンダ8a,8bとを接続するブレーキ系統は、踏力Fpを用いて発生させたシミュレータ液圧Psによりホイルシリンダ液圧Pwを発生させる。このとき、踏力ブレーキ発生部103は、SS/V OUT27を閉弁方向に制御する。これにより、シミュレータシリンダ室55からシミュレータ油路17を介して液溜まり130(リザーバタンク4)へブレーキ液が排出されることが抑制される。よって、運転者のブレーキ操作に対して、マスタシリンダ3及びストロークシミュレータ5からブレーキ液が効率的にホイルシリンダ8に向けて供給される。したがって、運転者がFpにより発生させるPwの低下を抑制することができる。
第1ユニット1AのハウジングHSGは、供給ポート36(マスタシリンダポート)と供給ポート59(シミュレータポート)を備える。供給ポート36が一方の系統のホイルシリンダ8c,8dに接続され、供給ポート59が他方の系統のホイルシリンダ8a,8bに接続される。よって、どちらかの系統に失陥が発生したときでも、制動力の確保が可能である。第1,第2遮断弁21,22は常開弁である。このため、電源失陥時には両弁21,22が開弁することで、踏力ブレーキを自動的に実現することが可能である。SS/V OUT27は常閉弁である。このため、電源失陥時にはSS/V OUT27が閉弁することで、シミュレータシリンダ室55から液溜まり130(リザーバタンク4)へのブレーキ液の排出が自動的に抑制される。連通弁24は常閉型である。このため、電源失陥時には連通弁24が閉弁することで、P,S両系統のブレーキ液圧系が互いに独立となり、各系統で別々にFpによるホイルシリンダ加圧が可能となる。SOL/V IN23は常開型である。このため、電源失陥時にはSOL/V IN23が開弁することで、ホイルシリンダ8へブレーキ液を供給可能となる。SOL/V OUT26は常閉型である。このため、電源失陥時にはSOL/V OUT26が閉弁することで、ホイルシリンダ8を効率的に加圧可能となる。これらにより、フェールセーフ性能を向上できる。
踏力ブレーキ時について、以下、具体的に説明する。マスタシリンダピストン31が初期状態における位置(初期位置)からx軸正方向側へ若干移動すると、マスタシリンダピストン31の外周面における連通孔315の開口が第2ロッドシール332よりもx軸正方向側となる。これにより、補給ポート35(リザーバタンク4)とマスタシリンダ室34との連通が遮断され、マスタシリンダ室34に液圧Pmが発生しうる。スプリング32がシミュレータピストン51をx軸正方向側に付勢すると共にマスタシリンダピストン31をx軸負方向側に付勢する力をF0とする。F0は、マスタシリンダピストン31を初期位置に戻すための力である。Pmの大きさは、踏力Fp(をマスタシリンダピストン31の推力に換算したもの)からスプリング32の力F0を減じたものを、受圧面積A0で割った値に相当する。シミュレータピストン51には、第1の受圧面βにPmが作用することにより、x軸正方向側へ推力F1が作用する。推力F1の大きさは、Pmに第1の受圧面積A1を乗じた値に相当する。数式(1): F1=Pm×A1が成り立つ。シミュレータピストン51が初期位置からx軸正方向側へ若干移動すると、シミュレータピストン51の外周面における連通孔517の開口が第3ロッドシール533よりもx軸正方向側となる。これにより、シミュレータシリンダ室55から可変容積室58および補給ポート56(リザーバタンク4)へ向うブレーキ液の流れが遮断され、シミュレータシリンダ室55内には液圧Psが発生しうる。シミュレータピストン51には、第2の受圧面γにPsが作用することにより、x軸負方向側へ反力F2が作用する。F2の大きさは、Psに第2の受圧面積A2を乗じた値に相当する。数式(2): F2=Ps×A2が成り立つ。大気圧をP0とする。リザーバタンク4(大気圧)と連通する可変容積室58の液圧はP0である。シミュレータピストン51のx軸正方向側への移動に伴い、容積が縮小する可変容積室58内のブレーキ液は、リリーフ油路560及び補給ポート56を介してリザーバタンク4へ排出される。これによりシミュレータピストン51が円滑に作動する。可変容積室58の液圧がピストン52の外周面に作用することでピストン52がx軸負方向側に押される力をF3とする。可変容積室58の液圧(大気圧P0)はテーパ部516に作用するため、数式(3): F3=P0×(A1−A2)が成り立つ。
スプリング52がシミュレータピストン51をx軸負方向側に付勢する力をF4とする。摩擦力等を無視して、シミュレータピストン51に作用する力の釣り合いを考えると、F0とF1の合計は、F2〜F4の合計に等しい。数式(4): F0+F1=F2+F3+F4)が成り立つ。左辺(F0+F1)が右辺(F2+F3+F4)よりも大きければ、シミュレータピストン51がスプリング52を押し縮めつつx軸正方向側にストロークする。Psは、F0+F1からF3+F4 を減じたもの(すなわちF2)を、第2の受圧面積A2で除した値となる。A2はA1よりも小さいため、Psは、A2がA1と等しい場合に比べ、高くなる。すなわち、低い踏力Fp(ブレーキ操作力)で高い液圧Psを得ることができる。S系統のホイルシリンダ8a,8bに供給されるPsは、A2がA1と等しい場合よりも、高い。このように昇圧されたブレーキ液をホイルシリンダ8a,8b側へ供給することによって、低い踏力Fpで高いホイルシリンダ8a,8bの液圧Pwを得ることができる。すなわち、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上することができる。数式(4)においてF0、F3、F4を捨象すると(F3が十分に小さく、また、例えばF0=F4であると仮定すると)、F1=F2となるから、数式(1)(2)より、数式(5): Pm×A1=Ps×A2が成り立つ。A2はA1よりも小さいため、A2に対するA1の比の分だけ、PsはPmよりも高くなる。より正確には、数式(4)においてF3が十分に小さいと仮定すると、F0≦F4であるとき、F1−(F4−F0)=F2である。この両辺をA2で除すと、数式(1)(2)より、数式(6): Pm×A1/A2−(F4−F0)/A2=Psが成り立つ。数式(6)より、A1/A2が十分に大きければ、PsはPmよりも高くなることがわかる。すなわち、同じ踏力Fpであっても、PsをPmよりも高くすることが可能である。この場合、S系統のホイルシリンダ8a,8bに供給されるPsは、P系統のホイルシリンダ8a,8bに供給されるPmよりも、高い。
なお、シミュレータシリンダ室55からホイルシリンダ8a,8bに向けて供給されるブレーキ液量は、A2がA1と等しい場合に比べ、シミュレータピストン51のストロークが同じであっても、A2がA1よりも小さい分だけ、少なくなる。これに対し、ブレーキペダル2のレバー比を小さく設定すれば、同じペダルストロークSpに対してシミュレータピストン51のストロークが大きくなり、液量の上記減少分を埋め合わせることが可能となるため、有効である。また、上記レバー比を小さく設定すれば、Pmが低くなる分、F4を大きく設定しなくて済む。このため、スプリング52による損失を小さくし、高いPsを効率よく発生させることができる。
なお、低い踏力Fpにより高い液圧を得るため、ストロークの途中でレバー比が変わるブレーキペダル(可変ペダル)を用いることも考えられる。しかし、可変ペダルを用いると、構造が複雑化し、部品点数が増加するおそれがある。また、ブレーキペダルが大型化するため、レイアウトのためのスペースが余計に必要となる。本実施形態では、ブレーキペダル2の構造ではなく、ピストン51の受圧面積の設定により、低い踏力Fpで高い液圧Psを得る。よって、ブレーキペダル2(ブレーキ操作部材)の構造を簡素化し、部品点数を抑制できる。言換えると、より簡素な構造で、低いFpによって高いPsを得ることができる。したがって、ブレーキシステム1の複雑化を抑制し、小型化を図ることが可能である。また、車両側のブレーキペダル2の周りのレイアウト自由度を向上することが可能である。
なお、両ピストン31,51がスプリング32を介して連動しない構成であってもよい。例えば、両ピストン31,51の間に隔壁を設け、スプリング32のx軸正方向端が上記隔壁に支持されると共に、シミュレータピストン51のx軸負方向側への移動が上記隔壁との当接により規制されるようにしてもよい。本実施形態では、両ピストン31,51はスプリング32を介して連動する。よって、マスタシリンダ室34に連通する一方の系統(P系統)にブレーキ液漏れ等の失陥が発生した場合、マスタシリンダピストン31によりスプリング32を介してシミュレータピストン51を押すか、またはマスタシリンダピストン31により直接シミュレータピストン51を押すかすることができる。これにより、運転者のブレーキ操作力によりシミュレータシリンダ室55に液圧Psを発生させることができる。よって、シミュレータシリンダ室55に連通する他方の系統(S系統)のホイルシリンダ8c,8dを加圧することができる。したがって、フェールセーフ性能を向上できる。なお、シミュレータシリンダ室55に連通する他方の系統(S系統)にブレーキ液漏れ等の失陥が発生した場合、シミュレータピストン51がx軸正方向側に最大変位した状態でもマスタシリンダピストン31がストローク可能となるように設けることで、両ピストン31,51がスプリング32を介して連動するか否かにかかわらず、運転者のブレーキ操作力によりマスタシリンダ室34に液圧Pmを発生させることができる。よって、マスタシリンダ室34に連通する一方の系統(P系統)のホイルシリンダ8a,8bを加圧することが可能である。
(ブレーキバイワイヤ制御)
図3は、通常のホイルシリンダ加圧制御時におけるブレーキシステム1の作動状態を示す。ホイルシリンダ液圧制御部104は、連通弁24を開弁方向に制御することで、第2ユニット1Bの状態を、液圧源としてのポンプ6によりホイルシリンダ液圧Pwを発生(昇圧)可能な状態とする。この状態で、第2ユニット1Bの各アクチュエータを制御して目標ホイルシリンダ液圧Pw*を実現する液圧制御、すなわちブレーキバイワイヤ制御(例えば倍力制御)を実行する。(吸入油路13及び吐出油路14を含み)リザーバタンク4(液溜まり130)とホイルシリンダ8を接続するブレーキ系統は、ポンプ6を用いて発生させた液圧によりPwを発生させる。ポンプ6は、液溜まり130を介してブレーキ液を吸入し、連通路(吐出油路14P,14S)にブレーキ液を吐出することで、第1,第2油路11,12に液圧を発生させる。この液圧により各ホイルシリンダ8を加圧可能である。具体的には、ポンプ6を作動させると共に、調圧弁25を閉弁方向に制御する。液圧センサ92の検出値がPw*に近づくようにポンプ6の回転数や調圧弁25の開弁状態(開度等)をフィードバック制御することで、所望の制動力を得ることができる。すなわち、調圧弁25の開弁状態を制御し、吐出油路14からブレーキ液を吸入油路13へ適宜漏らすことで、Pwを調節することができる。本実施形態では、基本的に、ポンプ6(モータ60)の回転数ではなく調圧弁25の開弁状態を変化させることによりPwを制御する。例えば、モータ60の回転数の指令値Nm*を、Pwの加圧中に所定の大きな一定値に設定するほかは、Pwの保持又は減圧中、必要最低限のポンプ吐出圧を発生(ポンプ吐出量を供給)するための所定の小さな一定値に保持する。調圧弁25を比例制御弁とすることで、細かい制御が可能となり、Pwの滑らかな制御が実現可能となる。
ホイルシリンダ液圧制御部104は、第1,第2遮断弁21,22を閉弁方向に制御する。これにより、マスタシリンダ3及びストロークシミュレータ5の側とホイルシリンダ8の側とが遮断されるため、運転者のブレーキ操作から独立してPwを制御することが容易となる。第1,第2油路11,12からマスタシリンダ室34及びシミュレータシリンダ室55へ向うブレーキ液の流れが抑制されることで、ポンプ6からブレーキ液が効率的にホイルシリンダ8に向けて供給される。また、マスタシリンダ室34及びシミュレータシリンダ室55の液圧の上昇により各ピストン31,51がx軸負方向側へ戻されることが抑制されるため、ブレーキ操作フィーリングの低下を抑制できる。
また、ホイルシリンダ液圧制御部104は、SS/V OUT27を開弁方向に制御する。
これにより、シミュレータシリンダ室55と吸入油路13(リザーバタンク4)の側とが連通する。よって、運転者のブレーキ操作に伴い、シミュレータピストン51が円滑にストロークし、マスタシリンダピストン31及びブレーキペダル2のストロークが確保される。すなわち、ブレーキペダル2の踏込み操作に伴い、マスタシリンダピストン31及びシミュレータピストン51がストロークすると共に、シミュレータシリンダ室55から第2油路12へSpに応じた量のブレーキ液が流れ出て、吸入油路13に流入する。すなわち、シミュレータシリンダ室55からブレーキ液が吸入油路13の側に排出される。これにより、ペダルストロークSpが発生する。また、スプリング52がシミュレータピストン51をx軸負方向側に押し戻す力F4により、ブレーキペダル2に作用する操作反力(以下、ペダル反力という。)が発生する。すなわち、ストロークシミュレータ5は、ブレーキバイワイヤ制御(以下、単にバイワイヤ制御という。)時に、ブレーキペダル2の特性(Fpに対するSpの関係であるF-S特性)を生成する。したがって、ブレーキ操作フィーリングを向上できる。なお、第2遮断弁22および/またはSS/V OUT27の開閉動作を制御することで、シミュレータシリンダ室55の液圧を変化させ、これによりシミュレータピストン51に作用する力やシミュレータピストン51のストロークを変化させてもよい。これにより、所望のブレーキ操作フィーリングを発生させることができる。例えばABS制御時におけるホイルシリンダ液圧の変化に起因する従来車両のブレーキ操作フィーリングを模擬することも可能である。
バイワイヤ制御時について、以下、具体的に説明する。マスタシリンダ液圧Pmはマスタシリンダピストン31の受圧面αに作用することでペダル反力(ブレーキペダル2に反力として伝達される力)を発生する。マスタシリンダピストン31の受圧面積A0はシミュレータピストン51の第1の受圧面積A1に等しい。マスタシリンダピストン31に作用するPmによる力F1=Pm×A1は、F0と共に、ペダル反力を構成する。SS/V OUT27を開弁方向に制御した状態では、Ps=P0とみなせる。よって、数式(2)より、F2=P0×A2であるため、数式(3)より、F2+F3=P0×A1となり、シミュレータピストン51が段付きでない大径ピストンである(第2の受圧面積がA1である)場合と同様になる。シミュレータピストン51をx軸負方向側に押す力のうち、液圧による力F2+F3は大気圧P0によるものとなるため、その大きさは比較的小さい。数式(4)において、F2+F3=0とすると、F0+F1=F4となる。左辺はペダル反力に相当するため、ペダル反力は、スプリング52による付勢力F4となる。すなわち、スプリング52によりF-S特性が生成される。ここで、F4は、シミュレータピストン51のストローク量Sssにスプリング52のばね定数を乗じた値である。Sssは、スプリング52の圧縮量であり、ペダルストロークSpに比例する。例えば、Spの増大(Sssの増大)は、F4の増大を介してF1(Pm)の増大をもたらし、これはペダル反力の増大として運転者のブレーキ操作のフィーリング(ペダルフィーリング)に反映される。このようにして、ブレーキペダル2の操作に応じたペダル反力が生成される。以上のように、ストロークシミュレータ5は、ペダルストロークSpとペダル反力を発生させることで、ホイルシリンダ8等の液剛性を模擬して適切なペダル踏込み感を再現する。
バイワイヤ制御時、第1遮断弁21が閉弁方向に制御されるため、マスタシリンダピストン31の連通孔315が第2ロッドシール332よりx軸正方向側へ移動した後、マスタシリンダ室34の容積はほとんど変化せず、マスタシリンダピストン31とシミュレータピストン51はほぼ一体となってストロークする。両ピストン31,51がほぼ一体となって動き出す踏力Fpの大きさは、スプリング52のセット荷重(シミュレータピストン51の初期位置におけるF4)により規定される。言換えると、このセット荷重により、マスタシリンダピストン31の作動(ペダルストロークSpの増大)開始時の踏力Fpを制御できる。これにより、ペダルフィーリングを向上可能である。なお、スプリング52(弾性体)はコイルスプリング等の金属ばねに限らず、ゴム製の部材等であってもよい。
また、スプリング52は、複数のスプリングを組み合わせたものに限らず、例えば1つのスプリングを用いてもよく、任意の構成を採用可能である。本実施形態では、スプリング52は第1,第2スプリング521,522を有する。このため、Sss(Sp)に対するF4(Fp)の変化の特性(F-S勾配)の設計自由度を向上できる。例えば、F-S特性を、負圧式の倍力装置を備えたブレーキシステムのものに近似させることも可能である。一例を挙げると、第1スプリング521のばね定数を、例えばマスタシリンダピストン31のスプリング32と同程度まで小さく設定すれば、両ピストン31,51がほぼ一体となって動き出した直後における、Fpの増加分に対するSpの増加分(増加勾配)が大きくなる。よって、負圧式の倍力装置を備えたブレーキシステムのジャンプイン特性を有するF-S特性を模擬できる。なお、第1,第2スプリング521,522のいずれかが圧縮限界に達する際の衝撃を緩和してF-S特性の変曲点を滑らかにするため、または、任意のヒステリシスをF-S特性に持たせるため、シミュレータシリンダ室55にゴム製等のダンパを設けてもよい。
両ピストン31,51がスプリング32を介して連動しない構成である場合、すなわちPmのみでシミュレータピストン51を作動させる構成では、マスタシリンダピストン31の作動開始(Pmの発生)後、シミュレータピストン51がマスタシリンダピストン31に連動して作動せず、シミュレータピストン51の作動開始までにタイムラグが生じる。これには、シミュレータピストン51へ伝達される圧力の損失やシミュレータピストン51に対するロッドシール53の摩擦等が関係する。このタイムラグ(シミュレータピストン51の引っ掛かり)により、ブレーキ操作時に違和感が生じるおそれがある。本実施形態では、両ピストン31,51はスプリング32を介して連動する。よって、上記タイムラグを解消可能である。したがって、ブレーキ操作時の引っ掛かり感を抑制してペダルフィーリングを向上できる。また、上記引っ掛かりを考慮せずスプリング52のセット荷重を自由に設定できるため、F-S特性の設計自由度を向上できる。なお、スプリング32(弾性体)はコイルスプリング等の金属ばねに限らず、ゴム製の部材等であってもよい。
本実施形態では液溜まり130を設けたが、これを省略してもよい。本実施形態のように液溜まり130を設ければ、リザーバタンク4と第2ユニット1Bとを接続する配管10R(例えばこの配管10Rの第2ユニット1Bとの接続部位)からブレーキ液が漏れ出る態様の失陥時にも、液溜まり130をブレーキ液の供給源や排出先(リザーバ)として機能させることができる。よって、ポンプ6を用いた倍力制御(Pwの加減圧)や補助加圧制御を継続可能である。このため、安定したブレーキ性能を得ることができ、フェールセーフ性能を向上できる。
(補助加圧制御)
図4は、補助加圧制御時におけるブレーキシステム1の作動状態を示す。補助加圧制御部は、連通弁24を開弁方向に制御すると共に、第2遮断弁22を開弁方向に制御し、SS/V OUT27を閉弁方向に制御することで、第2ユニット1Bの状態を、ポンプ6およびストロークシミュレータ5によりPwを発生(昇圧)可能な状態とする。ポンプ6が吐出するブレーキ液が吐出油路14を介してホイルシリンダ8a〜8dに向けて供給される共に、運転者のブレーキ操作に伴いシミュレータシリンダ室55から流出するブレーキ液が第2油路12を介してホイルシリンダ8a,8bに供給される。このように、ポンプ6を用いた通常のホイルシリンダ加圧に加え、ブレーキペダル2の踏込み操作を利用した補助加圧を実行することによって、ポンプ6によるPwの発生が補助され、ホイルシリンダ8の加圧応答性が向上する。補助加圧制御は、ポンプ6によるホイルシリンダ8の加圧応答性が不充分になる場合、実行される。言換えると、補助加圧制御は、ポンプ6によるホイルシリンダ加圧制御の予備(バックアップ)制御として位置づけられる。
ポンプ6によるホイルシリンダ8の加圧応答性が不充分になるのは、急ブレーキ操作時、すなわちブレーキペダル2の踏込み操作速度が速く、この速いブレーキ操作に追従してポンプ6がホイルシリンダ8を加圧することが困難となる場合に、顕著となる。また、上記加圧応答性が不充分になるのは、ホイルシリンダ8へブレーキ液を供給するポンプ6の能力が未だ不充分である場合、具体的にはモータ60の回転数Nmが低い場合に、顕著となる。特に、ブレーキ踏込み操作の開始時、すなわちペダルストロークSpがゼロから増大していく場面にあっては、モータ60を停止状態から駆動して回転数Nmを上げていく必要がある。しかし、指令値Nm*を増大させても、実際のモータ回転数NmはNm*の増大に遅れて上昇を開始する。このような制御の応答遅れ(タイムラグ)により、ホイルシリンダ加圧制御を実行するためのポンプ6の能力が不充分となる可能性が高い。このような場合に補助加圧制御を実行することで、ポンプ6によるPwの発生が補助され、ホイルシリンダ8の加圧速度(加圧応答性)を効果的に向上することができる。
ここで、シミュレータピストン51のA2はA1よりも小さい。このため、踏力ブレーキ時と同様、低い踏力Fp(ブレーキ操作力)で高い液圧Psを得ることができる。よって、シミュレータシリンダ室55から流出するブレーキ液を用いてPwを増圧する際の力の効率がよい。また、シミュレータピストン51に作用するPsは、Pmを介して、ブレーキペダル2に反力として反映される。すなわち、数式(4)において、左辺はペダル反力に相当するため、ペダル反力は、F2+F3+F4となる。F3は十分に小さいためこれを無視すると、Psによる力F2=Ps×A2とスプリング52による付勢力F4とによりペダル反力が生成される。上記のように、補助加圧制御時には、PsはPwに近い値となる。よって、通常のホイルシリンダ加圧制御時に比べ、ペダル反力が若干大きくなり、F-S特性が若干異なることとなる。ただし、補助加圧制御が実行されるのはブレーキ踏込み操作時(FpやSpが変化している動的な場面)であるため、この特性のズレはある程度許容される(運転者に違和感を与えるおそれが比較的少ない)。
所定の条件が成立すると、ポンプ6の加圧応答性が充分となり、ポンプ6によってPwをPmよりも高い値に加圧したり(倍力制御)、PwをPmよりも高い速度で加圧したりすることが可能となる。よって、補助加圧制御を終了し、ポンプ6を用いた通常のホイルシリンダ加圧制御のみを実行する。なお、補助加圧制御の終了を判断する閾値としての上記α、Nm0、Sp0のいずれか1つ又は2つを省略してもよい。要は、ポンプ6の能力が充分になったと判別できればよく、例えば、PwがPs以上になったことを検知したとき補助加圧制御を終了してもよい。具体的には、SS/V OUT27と第2遮断弁22は、シミュレータシリンダ室55と第2油路12との接続、及び、シミュレータシリンダ室55と吸入油路13(液溜まり130)との接続を切り替える接続切換部として機能する。第2遮断弁22を閉弁方向に制御し、SS/V OUT27を開弁方向に制御する。これにより、運転者のブレーキ操作に伴いシミュレータシリンダ室55から流出する上記ブレーキ液の流路が、第2油路12を介してホイルシリンダ8へ向う流路から、シミュレータ油路17を介して吸入油路13(液溜まり130)へ向う流路へと切り替わる。これらの弁22,27の開閉状態を切換えることで、シミュレータシリンダ室55からのブレーキ液の供給先を、ホイルシリンダ8と低圧部との間で切替える。このように、両弁22,27は、上記流路を切り替える切換弁として機能する。
ホイルシリンダ8の加圧応答性が要求される場面であるか否かにより上記接続ないし流路を切換えることが可能である。このため、ペダルフィーリングを向上しつつ、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上することができる。例えば、A2を(A1より小さい範囲で)ある程度大きくすることで、シミュレータシリンダ室55から供給される液量を増加することができる。この場合、ホイルシリンダ8の加圧応答性が要求される場面では、シミュレータシリンダ室55を第2油路12と接続させることで、シミュレータシリンダ室55からより多くの液量をホイルシリンダ8に供給することができる。Pwがある程度上昇しておりホイルシリンダ8の加圧応答性が要求されない場面では、シミュレータシリンダ室55を吸入油路13(液溜まり130)と接続することで、Psを低下させる。よって、A2に対するA1の比を(1より大きい範囲で)ある程度小さくしても、Pmやペダル反力が過度に大きくならない。また、Psが低下した状態では、F-S特性は、Ps(F2)ではなくスプリング52(F4)によって生成されるため、PsによるF-S特性の変動が抑制される。よって良好なペダルフィーリングを実現することができる。
ポンプ6によるホイルシリンダ加圧応答性を向上させるため、ポンプ6に係るアクチュエータとしてのモータ60の性能を向上させる等の手段も考えられる。しかし、モータ60が大型化したり高価になったりするおそれがある。また、ポンプ6以外の新たな液圧源を追加すれば、ブレーキシステム1が大型化したり高価になったりするおそれがある。これに対し、本実施形態では、ストロークシミュレータ5から排出されるブレーキ液を用いて、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上する。よって、モータ60の性能を向上するためにこれを大型化したり高いコストをかけたりする必要がない。また、新たな液圧源を追加する必要もない。よって、ブレーキシステム1の車両への搭載性やレイアウト性を向上することができる。なお、本実施形態では、液圧源としてポンプ6を用い、液圧源に係るアクチュエータとしてモータ60(回転電機)を用いるが、液圧源は、機械的なエネルギー(動力)を液圧に変換したりこれを保持したりすることが可能な流体機構であればよい。例えばピストンシリンダやアキュムレータ等を用いてもよく、ポンプに限定されない。また、アクチュエータは、入力される電気的エネルギー(電力)を物理的な運動(動力)へ変換して液圧源を作動させる機構(電動機)であればよく、モータ(回転電機)に限定されない。
第2遮断弁22およびSS/V OUT27に代え、絞り部を設け、この絞り部を通過する液量(絞り量ないし流路抵抗)を調整することで、シミュレータシリンダ室55から流出するブレーキ液の供給先を切換える(絞り部を上記接続切換部として機能させる)ようにしてもよい。これに対し、本実施形態では、弁23,24が上記接続切換部として機能するため、シミュレータシリンダ室55と油路13,14との接続をより確実に切換え、ストロークシミュレータ5から流出したブレーキ液の有効利用を図ることができる。また、上記切換えをより容易に実現することができる。弁23,24は、制御信号に応じて開弁状態(開閉)を制御可能な電磁弁(制御弁)である。よって、油路13,14の連通状態をより容易に切換えることができるため、補助加圧制御を実行または終了する際の制御性を向上できる。なお、第2遮断弁22として、電磁弁に代え、または電磁弁と共に、シミュレータシリンダ室55の側からホイルシリンダ8の側へ向うブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁を用いてもよい。この場合、Ps≦Pwになるとチェック弁が自動的に閉弁することで、補助加圧制御の終了を簡便に実現できる。本実施形態では、第2遮断弁22として上記チェック弁を用いない。よって、回生協調ブレーキ制御を行うに際して都合がよい。すなわち、バイワイヤ制御の1つである回生協調ブレーキ制御中、第2遮断弁22が閉弁方向に制御され、SS/V OUT27が開弁方向に制御される。回生協調ブレーキ制御では、運転者がブレーキ踏込み操作を行っているにもかかわらずPwを減圧する場面がある。第2遮断弁22として上記チェック弁を用いないことで、上記場面でシミュレータシリンダ室55の側からブレーキ液がホイルシリンダ8へ流入することを抑制できる。
なお、バイパス油路170及びチェック弁270を省略してもよい。本実施形態では、チェック弁270(バイパス油路170)により、吸入油路13や第1,第2減圧油路15,16の側から第2油路12の側へのブレーキ液の流れが許容される。よって、ブレーキ液をシミュレータシリンダ室55へより効率よく戻し、ピストン52の復帰を促進することができる。すなわち、SS/V OUT27の作動状態に関わらず、吸入油路13等の側からバイパス油路170を介してシミュレータシリンダ室55の側(第2油路12)へブレーキ液を戻すことが可能である。例えば、仮に、ブレーキペダル2の踏込み中(ストロークシミュレータ5の作動中)に失陥(電源失陥等)が生じてSS/V OUT27が閉弁状態で固着したような場合でも、ブレーキペダル2の踏み戻しに伴い、吸入油路13等の側からバイパス油路170を介してシミュレータシリンダ室55へブレーキ液を戻すことが可能である。よって、上記失陥時にも、ストロークシミュレータ5を初期の作動位置に戻しつつ、ブレーキペダル2を初期位置まで戻すことが可能となる。
第1ユニット1Aと第2ユニット1Bが別体であるため、車両へのブレーキシステム1の搭載性を向上できる。なお、各構成部品をどのようにユニット化するかは任意である。マスタシリンダ3とストロークシミュレータ5を別体に設けることとしてもよい。本実施形態では、マスタシリンダ3とストロークシミュレータ5は第1ユニット1Aとして一体的に構成される。このようにブレーキシステム1を構成する部品をユニット化することで、部品の組付け性を向上することができる。ストロークシミュレータ5は第1ユニット1Aに配置される。よって、ストロークシミュレータ5がマスタシリンダ3または第2ユニット1Bと別体である場合に比べ、マスタシリンダ3とストロークシミュレータ5または第2ユニット1Bとを接続する配管の長さを短くできると共に、配管の数を減らすことが可能である。よって、ブレーキシステム1の複雑化を抑制できると共に、配管の増加に伴うコストアップを抑制できる。なお、ストロークシミュレータ5は第2ユニット1Bに配置されてもよい。本実施形態では、ストロークシミュレータ5は第1ユニット1Aに配置されるため、第2ユニット1Bの大型化を抑制できる。
なお、マスタシリンダ3のハウジングとストロークシミュレータ5のハウジングを別々に設け、これらを例えば空間的に近接しつつ分離して配置してもよい。本実施形態では、マスタシリンダ3のハウジングとストロークシミュレータ5のハウジングとが一体的に設けられている。よって、マスタシリンダ3とストロークシミュレータ5とを接続する配管を省略できる。具体的には、マスタシリンダ室34とシミュレータシリンダ室55とが連続してハウジングHSGの内部に形成される。よって、両室を接続する配管を省略できる。マスタシリンダ3のハウジングとストロークシミュレータ5のハウジングを別々に設け、これらを一体的に固定してもよい。例えば、両ハウジングを別々に形成した後、マスタシリンダ3の軸方向端部(シリンダ30の開口部)とストロークシミュレータ5の軸方向端部(シミュレータシリンダ50の開口部)とを嵌合させてもよい。本実施形態では、マスタシリンダ3のハウジングとストロークシミュレータ5のハウジングとが共通化されており、シリンダ30とシミュレータシリンダ50は共通のハウジングHSGに設けられる。よって、部品点数の削減が可能である。また、ハウジングHSGの内部に両シリンダ30,50を連続して形成することが容易である。両シリンダ30,50を接続する油路が不要となり、第1ユニット1Aの小型化を図ることができる。
シミュレータシリンダ50は、マスタシリンダピストン31(シリンダ30)の軸線の延長上にある。よって、上記軸線方向から見て、シミュレータシリンダ50とシリンダ30とが重なるため、この重なる領域の分、第1ユニット1Aの小型化を図ることができる。また、マスタシリンダ室34とシミュレータシリンダ室55とを接続する油路を簡素化できる等、第1ユニット1Aのレイアウト性を向上できる。また、シミュレータシリンダ50の軸線は、マスタシリンダピストン31(シリンダ30)の軸線と略平行である。よって、これらの軸線方向から見た第1ユニット1Aの小型化を効果的に図ることができる。具体的には、マスタシリンダ3のピストン32とストロークシミュレータ5のピストン52は、略同一の軸心上に配置されている。よって、上記効果を最大化できる。
シミュレータシリンダ室55から延びるシミュレータ配管10Xは、第2ユニット1Bに接続される。よって、第1ユニット1Aにおいて、シミュレータシリンダ室55(ストロークシミュレータ5)とリザーバタンク4とを接続する配管ないし油路が不要となるため、第1ユニット1Aの小型化を図ることができる。
電磁弁21等及び液圧センサ91等は、第2ユニット1Bに配置される。よって、第1ユニット1Aの小型化を図ることができる。第1ユニット1Aに電磁弁駆動用のECUを必要とせず、また、第1ユニット1AとECU100(第2ユニット1B)との間に電磁弁制御用やセンサ信号伝達用の配線(ハーネス)を必要としない。よって、ブレーキシステム1の複雑化を抑制できると共に、配線の増加に伴うコストアップを抑制できる。また、第1ユニット1AにECUを配置しないため、第1ユニット1Aをより小型化し、そのレイアウト自由度を向上できる。例えば、第2遮断弁22及びSS/V OUT27は第2ユニット1Bに配置される。よって、第1ユニット1Aにストロークシミュレータ5の作動を切換えるためのECUを必要とせず、また、第1ユニット1AとECU100(第2ユニット1B)との間に両弁22,27を制御するための配線(ハーネス)を必要としない。ECU100は、第2ユニット1Bに配置され、ECU100と(電磁弁21等を収容する)ハウジングは第2ユニット1Bとして一体化される。よって、電磁弁21等及び液圧センサ91等とECU100とを接続する配線(ハーネス)を省略できる。例えば、ECU100と第2遮断弁22及びSS/V OUT27とを接続するハーネスを省略できる。モータ60は、第2ユニット1Bに配置され、(ポンプ6を収容する)ハウジングとモータ60は第2ユニット1Bとして一体化される。この第2ユニット1Bはポンプ装置として機能する。よって、モータ60とECU100とを接続する配線(ハーネス)を省略できる。
[効果]
以下、本実施形態の第1ユニット1Aおよびブレーキシステム1が奏する効果を列挙する。
(1-1) 第1ユニット1A(ブレーキ装置)は、シリンダ30(マスタシリンダ)と、シミュレータシリンダ50と、シリンダ30の内部にマスタシリンダ室34を画成し、運転者のブレーキ操作に応じて移動するマスタシリンダピストン31と、シミュレータシリンダ50の内部にシミュレータシリンダ室55を画成し、マスタシリンダ室34の圧力Pmにより、シミュレータシリンダ室55の容積が減少するよう、マスタシリンダピストン31に連動して移動するシミュレータピストン51とを備え、シミュレータシリンダ室55の容積の減少により、シミュレータシリンダ室55内のブレーキ液がシミュレータシリンダ50の外部へ排出され、シミュレータピストン51は、シミュレータシリンダ室55側(A2)のほうがマスタシリンダ室34側(A1)よりも受圧面積が小さい。
よって、構造を簡素化しつつ、小さいブレーキ操作力により高い液圧Psを外部へ供給できる。
(2) 第1ユニット1A(ブレーキ装置)は、上記排出されたブレーキ液によってホイルシリンダ8を加圧する。
よって、ブレーキ操作力を利用してホイルシリンダ8を加圧できる。小さいブレーキ操作力により高いホイルシリンダ液圧Pwを得ることができる。
(3) 第1ユニット1A(ブレーキ装置)は、マスタシリンダピストン31とシミュレータピストン55との間に縮設されたスプリング32(第1弾性体)を備える。
よって、バイワイヤ制御時、ブレーキ操作に伴う引っ掛かり感を抑制してペダルフィーリングを向上できる。
(4) 第1ユニット1A(ブレーキ装置)は、シミュレータシリンダ室55の壁とシミュレータピストン51との間に所定のセット荷重をもって縮設され、シミュレータシリンダ室55の容積が増加する方向にシミュレータピストン51を付勢するスプリング52(第2弾性体)を備える。
よって、バイワイヤ制御時、スプリング52のセット荷重によりマスタシリンダピストン31の作動開始を制御できるため、ペダルフィーリングを向上できる。
(5) シリンダ30(マスタシリンダ)とシミュレータシリンダ50は、共通のハウジングHSGに設けられている。
よって、両シリンダ30,50を接続する配管が不要となり、部品点数の削減が可能である。また、第1ユニット1Aの小型化を図ることができる。
(6) ハウジングHSGは、シリンダ30(マスタシリンダ)に開口する供給ポート36(マスタシリンダポート)と、シミュレータシリンダ50に開口する供給ポート59(シミュレータポート)を備える。
よって、いずれかの系統に失陥が発生したときでも、制動力の確保が可能である。
(8) シミュレータシリンダ50は、マスタシリンダピストン31の軸線の延長上にある。
よって、第1ユニット1Aの小型化やレイアウト性の向上を図ることができる。
(9-1) 運転者のブレーキ操作に応じて液圧を発生するマスタシリンダ3、及び運転者のブレーキ操作反力を生成するストロークシミュレータ5を備える第1ユニット1A(マスタシリンダユニット)と、ポンプ6(液圧源)を備え、運転者のブレーキ操作に応じてポンプ6を駆動し、ホイルシリンダ8の液圧Pwを昇圧する第2ユニット1B(液圧制御ユニット)とを有するブレーキシステム1であって、マスタシリンダ3は、マスタシリンダ室34を画成すると共に運転者のブレーキ操作に連動して作動するマスタシリンダピストン31を備え、ストロークシミュレータ5は、シミュレータシリンダ50と、シミュレータシリンダ50の内部にシミュレータシリンダ室55を画成するシミュレータピストン51とを備え、シミュレータピストン51は、マスタシリンダ室34の液圧Pmにより、シミュレータシリンダ室55の容積が減少するよう作動し、第1ユニット1Aは、シミュレータピストン51の作動によりシミュレータシリンダ室55から排出されるブレーキ液を第2ユニット1Bへ供給する供給ポート59を備え、シミュレータピストン51は、シミュレータシリンダ室55側(A2)のほうがマスタシリンダ室34側(A1)よりも受圧面積が小さい。
よって、構造を簡素化しつつ、小さいブレーキ操作力により高い液圧Psを第2ユニット1Bへ供給できる。
(10) 第1ユニット1A(マスタシリンダユニット)は、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク4(リザーバ)と、リザーバタンク4に設けられた供給ポート430(接続ポート)と、ストロークシミュレータ5に設けられた上記供給ポート59と、マスタシリンダ3に設けられた供給ポート36(マスタシリンダポート)とを備え、上記各ポート430等を介して第2ユニット1B(液圧制御ユニット)と接続する。
よって、リザーバタンク4からのブレーキ液を第2ユニット1Bが利用可能であると共に、第2ユニット1Bが、マスタシリンダ液圧Pmとシミュレータ液圧Psを選択的にホイルシリンダ8へ供給可能である。
(11) リザーバタンク4(リザーバ)は供給ポート430(接続ポート)を介してポンプ6(液圧源)にブレーキ液を供給可能であり、ストロークシミュレータ5は供給ポート59を介してホイルシリンダ8にブレーキ液を供給可能であり、マスタシリンダ3は供給ポート36(マスタシリンダポート)を介してホイルシリンダ8にブレーキ液を供給可能である。
よって、第2ユニット1Bが、リザーバタンク4からのブレーキ液を利用してポンプ6によりホイルシリンダ液圧Pwを昇圧可能であると共に、マスタシリンダ3及びストロークシミュレータ5からのブレーキ液を利用してPwを昇圧可能である。また、いずれかの系統に失陥が発生したときでも、制動力の確保が可能である。
(12) 第2ユニット1B(液圧制御ユニット)は、ストロークシミュレータ5から流出したブレーキ液の供給先を切り換えるSS/V OUT27(切換弁)と第2遮断弁22(切換弁)を備える。
よって、第1ユニット1Aの小型化を図りつつ、ストロークシミュレータ5から流出するブレーキ液を有効利用することができる。
(13) 上記供給先はホイルシリンダ8及びリザーバタンク4(リザーバ)である。
よって、供給先をホイルシリンダ8に切換えることで、失陥時にホイルシリンダ8を加圧できる。また、ホイルシリンダ液圧Pwの昇圧応答性を向上できる。
供給先をリザーバタンク4に切換えることで、ブレーキ操作のフィーリングを確保できる。
(17) ブレーキシステム1は、ハウジングHSGと、ハウジングHSGに形成されたシリンダ30と、運転者のブレーキ操作に応じてシリンダ30の内部を軸方向に移動するマスタシリンダピストン31と、ハウジングHSGにおけるシリンダ30の軸方向の位置に、シリンダ30と連通して形成されたシミュレータシリンダ50と、シミュレータシリンダ50の内部を、マスタシリンダピストン31に臨むマスタシリンダ室34(第1室)と、シミュレータシリンダ室55(第2室)とに画成し、運転者のブレーキ踏込み操作時に、マスタシリンダピストン31に連動してシミュレータシリンダ室55の容積が減少するよう、シミュレータシリンダ50の内部を軸方向に移動するシミュレータピストン51とを備え、シミュレータシリンダ室55の容積の減少によりシミュレータシリンダ室55から排出されるブレーキ液をホイルシリンダ8に供給し、シミュレータピストン51は、シミュレータシリンダ室55側(A2)のほうがマスタシリンダ室34側(A1)よりも受圧面積が小さい。
よって、構造を簡素化しつつ、小さいブレーキ操作力により高いホイルシリンダ液圧Pwを得ることができる。両シリンダ30,50を接続する配管が不要となり、部品点数の削減を図ることができる。また、小型化やレイアウト性の向上を図ることができる。
[第2実施形態]
図5は、本実施形態のブレーキシステム1の、液圧回路を含む概略構成を示す。リリーフ油路560上にはリリーフ弁28が設置される。リリーフ弁28はチェック弁である。リリーフ弁28は、可変容積室58の側から補給ポート56の側へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを抑制する。リリーフ弁28は、ボール280と、ボール280を弁座281に向けて常時付勢するコイルスプリング282とを備える。ボール280が弁座281に着座するとリリーフ弁28が閉弁し、リリーフ油路560が遮断される。可変容積室58の液圧をPaとする。ボール280が弁座281に着座した状態で、可変容積室58の側からボール280に作用するPaによる力Faが、コイルスプリング282の付勢力(と補給ポート56側からボール280に作用する大気圧による力との合計)Fbを上回ると、ボール280が弁座281から離れてリリーフ弁28が開弁する。コイルスプリング282のばね定数等の調整により、リリーフ弁28が開弁するときの液圧Paは所定値Pa1に設定される。他の構成は、第1実施形態と同様である。
運転者のブレーキ踏込み操作の開始直後、シミュレータピストン51がx軸正方向側へストロークする際、連通孔517が第3ロッドシール533よりもx軸正方向側へ変位すると、PaがP0より高くなる。PaがPsより高ければ、可変容積室58の容積の減少に伴い、可変容積室58から第3ロッドシール533を介してシミュレータシリンダ室55へブレーキ液が供給される。このブレーキ液は、シミュレータシリンダ室55の容積の減少分のブレーキ液と共に、シミュレータシリンダ室55から排出され第2ユニット1Bへ供給される。PaがPa1より高くなると、リリーフ弁28が開弁することで可変容積室58が補給ポート56と連通する。よって、可変容積室58からブレーキ液がリリーフ油路560を介して補給ポート56(リザーバタンク4)へ流れるようになると共に、Paが大気圧P0程度まで低下する。PaがPs以下になれば、可変容積室58からシミュレータシリンダ室55へのブレーキ液の上記供給が終了する。
踏力ブレーキ時または補助加圧制御時、運転者のブレーキ踏込み操作が開始されてからリリーフ弁28が開弁するまで、可変容積室58から、可変容積室58の容積の減少分のブレーキ液がシミュレータシリンダ室55へ供給される。シミュレータシリンダ室55から、シミュレータシリンダ室55の容積の減少分に加え、可変容積室58の容積の減少分のブレーキ液量が第2ユニット1Bへ供給される。シミュレータシリンダ室55に臨むシミュレータピストン51の受圧面積は実質的にA1となり、シミュレータピストン51は大径ピストンとして機能する。シミュレータシリンダ室55から第2ユニット1Bを介してホイルシリンダ8に供給されるブレーキ液量は、可変容積室58の容積の減少分だけ、増加する。よって、ブレーキ踏込み操作の開始後、車輪において摩擦部材の移動が完了する(車輪側の回転部材に対し摩擦力が発生する)までの時間が短縮されるため、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上することができる。なお、シミュレータピストン51の受圧面積が実質的に増大しても、Ps及びPaが低い領域であるため、受圧面積の増大によるペダル反力の増大は抑制される。リリーフ弁28が開弁した後は、シミュレータシリンダ室55から、シミュレータシリンダ室55の容積の減少分のみのブレーキ液量が第2ユニット1Bへ供給される。シミュレータピストン51の受圧面積はA2となり、シミュレータピストン51は小径ピストンとして機能する。シミュレータシリンダ室55から第2ユニット1Bを介してホイルシリンダ8に供給されるPsは、受圧面積の減少分だけ、上昇する。よって、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上することができる。
このように、ホイルシリンダ8が液圧よりも液量を必要とするブレーキ操作領域で、シミュレータピストン51は大径ピストンとして機能し、シミュレータシリンダ室55からホイルシリンダ8に供給される液量が増大する。よって、シミュレータシリンダ室55に臨むシミュレータピストン51の受圧面積が常にA2である場合に比べ、ホイルシリンダ8の液量不足を補い、ホイルシリンダ8の加圧応答性をより向上することができる。なお、車輪側の回転部材に対し摩擦力が発生し始めた後にリリーフ弁28が開弁するようにPa1を設定すれば、効果的である。なお、リリーフ弁28は電磁弁でもよい。例えば、検出されるPwが所定値以下である間はリリーフ弁28を閉弁方向に制御し、Pwが所定値より高くなってからリリーフ弁28を開弁方向に制御してもよい。または、ブレーキ操作が検出されてから所定時間が経過するまではリリーフ弁28を閉弁方向に制御し、ブレーキ操作が検出されてから所定時間が経過するとリリーフ弁28を開弁方向に制御してもよい。他の作用効果は、第1実施形態と同様である。
[第3実施形態]
図6は、本実施形態のブレーキシステム1の、液圧回路を含む概略構成を示す。溝506のx軸方向寸法は、第1実施形態の溝506よりも大きい。シミュレータピストン51は、大径部材51Aと小径部材51Bとを一体的に有する。大径部材51Aは、第1筒状部511と第2筒状部512と本体部513とを有する。第1筒状部511は本体部513のx軸負方向側に延び、大径部材51Aのx軸負方向端に開口する。第2筒状部512は本体部513のx軸正方向側に延び、大径部材51Aのx軸正方向端に開口する。第2筒状部512におけるx軸負方向側(底部側)の部位で、複数(4つ)の連通孔514が第2筒状部512の径方向に延びて第2筒状部512を貫通する。本体部513の外周面510Bのx軸正方向側には、周方向に延びる環状の溝515がある。溝515はx軸方向両側にテーパ部516を有する。テーパ部516を含む溝515のx軸方向寸法は、溝506のx軸方向寸法と略等しい。小径部材51Bは有底円筒状である。小径部材51Bにおけるx軸正方向側(開口側)の部位で、複数(4つ)の連通孔517が小径部材51Bの径方向に延びて小径部材51Bを貫通する。大径部材51Aの第2筒状部512の内周側には小径部材51Bのx軸負方向側(底部側)が嵌合する。小径部材51Bの外周面510Bと第2筒状部512の内周面との間には若干の隙間がある。他の構成は、第1実施形態と同様である。
ブレーキペダル2が操作されていない初期状態で、小径部材51Bの連通孔517は第3ロッドシール533(リップ部)よりも所定距離だけx軸負方向側にあり、大径部材51Aの連通孔514は第2ロッドシール532(リップ部)よりも上記所定距離と略同じ距離だけx軸負方向側にある。大径部材51Aと小径部材51Bは一体となってストロークする。ブレーキペダル2が踏み込まれた後、小径部材51Bがx軸正方向側に上記所定距離以上ストロークすると、シミュレータシリンダ室55から可変容積室58へ向うブレーキ液の流れが第3ロッドシール533により抑制される。よって、シミュレータシリンダ室55の容積の減少に伴い、シミュレータシリンダ室55からブレーキ液が排出される。また、大径部材51Aがx軸正方向側に上記所定距離以上ストロークすると、可変容積室58から補給ポート56へ向うブレーキ液の流れが第2ロッドシール532により抑制される。よって、可変容積室58の容積の減少に伴い、可変容積室58に液圧が発生し、可変容積室58から第3ロッドシール533を介してシミュレータシリンダ室55へブレーキ液が供給される。このブレーキ液は、シミュレータシリンダ室55の容積の減少分のブレーキ液と共に、シミュレータシリンダ室55から排出され第2ユニット1Bへ供給される。
大径部材51Aがx軸正方向側に更にストロークし、溝515(テーパ部516を含む。以下、同様)がx軸方向で第2ロッドシール532(リップ部)と重なるようになると、可変容積室58と補給ポート56とが連通する。よって、可変容積室58の容積の減少に伴い、可変容積室58から補給ポート56を介してリザーバタンク4へブレーキ液が排出される。可変容積室58から第3ロッドシール533を介してシミュレータシリンダ室55へブレーキ液が供給されない。踏力ブレーキ時または補助加圧制御時、運転者のブレーキ踏込み操作が開始されてから、大径部材51Aの外周面510Aにおける連通孔514と溝515との間の領域がx軸方向で第2ロッドシール532(リップ部)と重なる間、シミュレータシリンダ室55から、シミュレータシリンダ室55の容積の減少分に加え、可変容積室58の容積の減少分のブレーキ液が、第2ユニット1Bを介してホイルシリンダ8に供給される。溝515が第2ロッドシール532(リップ部)とx軸方向で重なるようになった後は、シミュレータシリンダ室55から、シミュレータシリンダ室55の容積の減少分のみのブレーキ液が、第2ユニット1Bを介してホイルシリンダ8に供給される。よって、第2実施形態と同様、ホイルシリンダ8が液量を必要とするブレーキ操作領域で、シミュレータピストン51を大径ピストンとして機能させることで、ホイルシリンダ8の加圧応答性を向上することができる。車輪側の回転部材に対し摩擦力が発生し始めた後に溝が第2ロッドシール532(リップ部)と重なるように設定すれば、効果的である。他の作用効果は、第1実施形態と同様である。
[第4実施形態]
図7は、本実施形態のブレーキシステム1の、液圧回路を含む概略構成を示す。リザーバタンク4のマスタシリンダ用室41は、仕切部材400により、第1マスタシリンダ用室41Aと、第2マスタシリンダ用室41Bとに区画(画成)される。リザーバタンク4は第1マスタシリンダ補給ポート410Aと第2マスタシリンダ補給ポート410Bを備える。第1マスタシリンダ補給ポート410Aは第1マスタシリンダ用室41Aに開口すると共にマスタシリンダ3の第1補給ポート35Aに接続する。第2マスタシリンダ補給ポート410Bは第2マスタシリンダ用室41Bに開口すると共にマスタシリンダ3の第2補給ポート35Bに接続する。
マスタシリンダ3のハウジングHSG1とストロークシミュレータ5のハウジングHSG2は別々に設けられ、これらが一体的に固定されることで1つのハウジングHSGが形成される。マスタシリンダ3のシリンダ30は有底円筒状であり、x軸負方向側に第1ピストン収容部30Aを有し、x軸正方向側に第2ピストン収容部30Bを有する。第1ピストン収容部30Aは、第1実施形態のシリンダ30と同様である。第1補給ポート35Aが第1実施形態の補給ポート35に相当する。第2ピストン収容部30Bは第1ピストン収容部30Aと同じ軸心上を第1ピストン収容部30Aのx軸正方向側に延びる。第2ピストン収容部30Bのx軸正方向側の底面に連通油路38が開口する。第2ピストン収容部30Bの内周面300は、第1ピストン収容部30Aと同様、第2補給ポート35Bと溝301B〜303Bを備える。
シミュレータシリンダ50は、段付きの筒状であり、x軸負方向側にピストン収容部501を有し、x軸正方向側にスプリング収容部502を有する。ピストン収容部501は、x軸負方向側に大径部503を有し、x軸正方向側に小径部504を有する。大径部503は有底円筒状であり、x軸負方向側の底面に連通油路38が開口する。マスタシリンダ3のハウジングHSG1における連通油路38とストロークシミュレータ5のハウジングHSG2における連通油路38は接続し、略同じ軸心上をx軸方向に延びる。ピストン収容部501(大径部503)は、連通油路38を介してシリンダ30に連通する。大径部503の径は、シリンダ30よりも若干小さい。小径部502の径は、大径部503の径よりも小さい。スプリング収容部502の径は、シリンダ30の径よりも大きい。大径部503の内周面のx軸方向略中央に、補給ポート56が開口する。
マスタシリンダ3は、第1マスタシリンダピストン31Aと第2マスタシリンダピストン31Bを備える。第1マスタシリンダピストン31Aは、第1実施形態のマスタシリンダピストン31と同様である。第2マスタシリンダピストン31Bは、第1マスタシリンダピストン31Aよりも第1筒状部311のx軸方向寸法が短く、凹部314を備えない点を除き、第1マスタシリンダピストン31Aと同様である。両ピストン31A,31Bの径(受圧面積)は等しい。第2マスタシリンダピストン31Bは、第2ピストン収容部30Bの内部に、内周面300に沿ってx軸方向に移動可能に設置される。シリンダ30の内部には、第1マスタシリンダピストン31Aのx軸正方向側(第2筒状部312の内周側を含む)と第2マスタシリンダピストン31Bのx軸負方向側(第1筒状部311の内周側を含む)との間に、第1マスタシリンダ室34Aが画成される。第2マスタシリンダピストン31Bのx軸正方向側(第2筒状部312の内周側を含む)とシリンダ30のx軸正方向側の底部との間に、第2マスタシリンダ室34Bが画成される。第2マスタシリンダピストン31Bに摺接する第1ロッドシール331は、第1マスタシリンダ室34Aから補給ポート35Bへ向かうブレーキ液の流れを抑制する。第2ロッドシール332は、補給ポート35Bから第2マスタシリンダ室34Bへ向かうブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを抑制する。供給ポート36は1つ設けられ、第2マスタシリンダ室34Bに開口せず、第1マスタシリンダ室34Aのみに開口する。
シミュレータピストン51は段付きピストンであり、x軸負方向側に大径部514を有し、x軸正方向側に小径部515を有する。大径部514の外周面510は、周方向に延びる環状のシール溝518を備える。シミュレータピストン51は、シミュレータシリンダ50の内部に、内周面500に沿ってx軸方向に移動可能に設置される。大径部514は、シミュレータシリンダ50のピストン収容部501の大径部503に設置され、小径部515は小径部504に設置される。シミュレータシリンダ50の内部には、大径部514のx軸負方向側に、正圧室54が画成される。小径部515のx軸正方向側に、背圧室55(シミュレータシリンダ室)が画成される。小径部515の外周面510と、シミュレータシリンダ50における大径部503の内周面500との間の隙間は、可変容積室58である。シミュレータシリンダ50に対するシミュレータピストン51のx軸方向における可動範囲内で、補給ポート56は、シミュレータピストン51(大径部514)の外周面510によって完全に塞がれることなく、可変容積室58に常時開口する。
シール溝518にはカップシールであるピストンシール534が設置される。ピストンシール534は、ピストン収容部501の大径部503に摺接して大径部503の内周面500とシミュレータピストン51の大径部514の外周面510との間をシールする。ピストンシール534は、可変容積室58(補給ポート56)から正圧室54へ向かうブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを抑制する。シール溝508にはカップシールであるロッドシール533が設置される。ロッドシール533は、シミュレータピストン51の小径部515に摺接して小径部515の外周面510とシミュレータシリンダ50の小径部504の内周面500との間をシールする。ロッドシール533は、可変容積室58から背圧室55へ向かうブレーキ液の流れを許容し、逆方向の流れを抑制する。
シミュレータピストン51の大径部514をx軸負方向側からみた面βは、正圧室54に臨んでおり、正圧室54の液圧を受ける第1受圧面である。小径部515をx軸正方向側からみた面γは、背圧室55に臨んでおり、背圧室55の液圧を受ける第2受圧面である。面γの面積(第2の受圧面積)A2は、面βの面積(第1の受圧面積)A1よりも小さい。第1マスタシリンダ室34Aには、第1スプリング321が、両ピストン31A,31Bの間に押し縮められた状態で設置される。第2マスタシリンダ室34Bには、第2スプリング322が、第1マスタシリンダピストン31Aと第2マスタシリンダ室34Bのx軸正方向側の底部との間に押し縮められた状態で設置される。第2スプリング322は、第2マスタシリンダピストン31Bをx軸負方向側に常時付勢する。初期状態で、第2マスタシリンダピストン31Bの外周面310における連通孔315の開口は、第2ロッドシール332(リップ部)よりも若干x軸負方向側にあり、第2補給ポート35Bに連通する。シミュレータピストン51(大径部514)のx軸負方向端は、シミュレータシリンダ50(ピストン収容部501の大径部503)のx軸負方向側の底面に当接する。他の構成は、第1実施形態と同様である。
ブレーキペダル2の踏込み操作によって、第1マスタシリンダ室34Aに液圧Pmが発生すると共に、第2マスタシリンダ室34Bに略同じ液圧Pmが発生する。
ストロークシミュレータ5の正圧室54には連通油路38を介して第2マスタシリンダ室34Bの液圧Pmが伝達され、略同じ液圧Pmが発生する。シミュレータピストン51に作用する力は、F0がない点を除き、第1実施形態と同様である。力の釣り合いを考えると、F1は、F2〜F4の合計に等しい(F1=F2+F3+F4)。この数式から導かれる諸帰結も、F0がない点を除き、第1実施形態と同様である。A2はA1よりも小さいため、踏力ブレーキ時または補助加圧制御時、背圧室55の液圧Psは、A2がA1と等しい場合に比べ、高くなる。
マスタシリンダピストン31を2つ備える。よって、従来のタンデム式マスタシリンダを流用することで、第1ユニット1Aの改変の程度を小さくできる。なお、第1〜第3実施形態の第1ユニット1Aは、本実施形態の第2マスタシリンダピストン31Bとシミュレータピストン51とを一体化してこれをシミュレータピストン51として機能させたものと見ることもできる。第1〜第3実施形態では、シリンダ30とシミュレータシリンダ50は、略同一の軸線上に配置される。よって、マスタシリンダピストン31とシミュレータピストン51とを共通化することが容易である(共通化したピストンの作動を容易化できる)。
供給ポート36は、第1マスタシリンダ室34Aのみに開口する。よって、マスタシリンダ室34(マスタシリンダピストン31)を複数有する場合でも、ポートの数を削減できる。なお、供給ポート36は、第2マスタシリンダ室34Bのみに開口することとしてもよい。本実施形態では、背圧室55からセカンダリ系統のホイルシリンダ8a,8bへブレーキ液を供給する。よって、第2マスタシリンダ室34Bからホイルシリンダ8a,8bへブレーキ液を供給するための油路及びブレーキ配管を省略できる。また、補助加圧制御のための切換弁としての第2遮断弁22を、バイワイヤ制御のための遮断弁としても利用する(補助加圧制御とバイワイヤ制御とで弁を共通化する)。よって、弁の数を第2ユニット1B全体として減らすことができる。ストロークシミュレータ5と第2ユニット1Bを接続する配管は、正圧室54と第2ユニット1Bを接続する配管を有せず、背圧室55と第2ユニット1Bを接続する配管10Xのみを有する。よって、第1ユニット1A(ストロークシミュレータ5)と第2ユニット1Bを接続する配管の数を減らすことができる。他の作用効果は、第1実施形態と同様である。
以下、本実施形態の第1ユニット1Aおよびブレーキシステム1が奏する効果を列挙する。
(7) 第1ユニット1A(ブレーキ装置)は、シリンダ30(マスタシリンダ)の内部に第2マスタシリンダ室34Bを画成する第2マスタシリンダピストン31Bを備え、供給ポート36(マスタシリンダポート)は、第1マスタシリンダ室34Aのみに開口する。
よって、マスタシリンダ室34(マスタシリンダピストン31)を複数有する場合に、ポートの数を削減できる。
(17-1) ブレーキシステム1は、ハウジングHSGと、ハウジングHSGに形成されたシリンダ30と、運転者のブレーキ操作に応じてシリンダ30の内部を軸方向に移動するマスタシリンダピストン31と、ハウジングHSGにおけるシリンダ30の軸方向の位置に、シリンダ30と連通して形成されたシミュレータシリンダ50と、シミュレータシリンダ50の内部を、第2マスタシリンダピストン31Bに臨む正圧室54(第1室)と、背圧室55(第2室)とに画成し、運転者のブレーキ踏込み操作時に、第2マスタシリンダピストン31Bに連動して背圧室55の容積が減少するよう、シミュレータシリンダ50の内部を軸方向に移動するシミュレータピストン51とを備え、背圧室55の容積の減少により背圧室55から排出されるブレーキ液をホイルシリンダ8に供給し、シミュレータピストン51は、背圧室55側(A2)のほうが正圧室54側(A1)よりも受圧面積が小さい。
よって、上記(17)と同様の効果が得られる。
[第5実施形態]
図8は、本実施形態のブレーキシステム1の、液圧回路を含む概略構成を示す。マスタシリンダ3のシリンダ30は段付きの有底円筒状であり、x軸負方向側に第1ピストン収容部30Aを有し、x軸正方向側に第2ピストン収容部30Bを有する。第1ピストン収容部30Aは、第1実施形態のシリンダ30と同様である。第2ピストン収容部30Bは、x軸負方向側に大径部305を有し、x軸正方向側に小径部306を有する。大径部305は、第1実施形態のシミュレータシリンダ50の大径部503と同様である。構成301B〜303B,35B,350がそれぞれ構成505〜507,56,560に相当する。大径部305の径は、第1ピストン収容部30Aの径と等しい。大径部305の内周面300は、第1ピストン収容部30Aの内周面300と滑らかに連続する。小径部306の径は、大径部305の径よりも小さい。小径部306の内周面は、x軸負方向側に、周方向に延びる環状のシール溝304を備える。小径部306のx軸正方向側の底面に連通油路38が開口する。シミュレータシリンダ50のピストン収容部501は有底円筒状であり、x軸負方向側の底面に連通油路38が開口する。第4実施形態と同様、ピストン収容部501は、連通油路38を介してシリンダ30に連通する。ピストン収容部501は、第1実施形態のような段付きでない。ピストン収容部501の内周面は、第1実施形態のような溝505〜508を備えない。ピストン収容部501の径は小径部306よりも若干小さい。スプリング収容部502の径は大径部305の径よりも大きい。
マスタシリンダ3は、第1マスタシリンダピストン31Aと第2マスタシリンダピストン31Bを備える。第1マスタシリンダピストン31Aは、第1実施形態のマスタシリンダピストン31と同様である。第2マスタシリンダピストン31Bは、第1実施形態のシミュレータピストン51と同様の段付きピストンであり、x軸負方向側に大径部314を有し、x軸正方向側に小径部315を有する。構成310〜317がそれぞれ構成510〜517に相当する。第2マスタシリンダピストン31Bは、第2ピストン収容部30Bの内部に、内周面300に沿ってx軸方向に移動可能に設置される。大径部314は大径部305に設置され、小径部315は小径部306に設置される。シリンダ30の内部には、第4実施形態と同様、第1マスタシリンダ室34Aと第2マスタシリンダ室34Bが画成される。第2マスタシリンダピストン31Bの小径部315の外周面310と、第2ピストン収容部30Bにおける大径部305の内周面300との間の隙間は、可変容積室38である。各ロッドシール33は、第1実施形態のロッドシール53と同様である。供給ポート36は1つ設けられ、第2マスタシリンダ室34Bに開口せず、第1マスタシリンダ室34Aのみに開口する。
第2マスタシリンダピストン31Bの第1筒状部311をx軸負方向側からみた面δは、第1マスタシリンダ室34Aに臨んでおり、第1マスタシリンダ室34Aの液圧Pm1を受ける第1受圧面である。第2筒状部312の小径部315をx軸正方向側からみた面εは、第2マスタシリンダ室34Bに臨んでおり、第2マスタシリンダ室34Bの液圧Pm2を受ける第2受圧面である。面εの面積(第2の受圧面積)A2は、面δの面積(第1の受圧面積)A1よりも小さい。第1マスタシリンダ室34Aには、第1スプリング32Aが、両ピストン31A,31Bの間に押し縮められた状態で設置される。第2マスタシリンダ室34Bには、第2スプリング32Bが、第2マスタシリンダピストン31Bと第2マスタシリンダ室34Bの底部(x軸正方向端部)との間に押し縮められた状態で設置される。第2スプリング32Bは、第2マスタシリンダピストン31Bをx軸負方向側に常時付勢する。
シミュレータピストン51は、第1実施形態のような段付きでない。シミュレータピストン51の外周面510のx軸負方向側は、周方向に延びる環状のシール溝518を備える。シミュレータピストン51は、シミュレータシリンダ50の内部に、ピストン収容部501の内周面500に沿ってx軸方向に移動可能に設置される。シミュレータシリンダ50の内部には、第4実施形態と同様、正圧室54と背圧室(シミュレータシリンダ室)55が画成される。シール溝518にはOリングであるピストンシール534が設置される。ピストンシール534は、正圧室54と背圧室55との間をシールする。シミュレータピストン51をx軸負方向側からみた面βは、正圧室54に臨んでおり、正圧室54の液圧Pm2を受ける第1受圧面である。シミュレータピストン51をx軸正方向側からみた面γは、背圧室55に臨んでおり、背圧室55の液圧Psを受ける第2受圧面である。面βの径は面γの径に等しく、面βの面積(第1の受圧面積)A11は面γの面積(第2の受圧面積)A12に等しい。
初期状態で、第2マスタシリンダピストン31B(小径部315)の外周面310における連通孔317の開口は、第3ロッドシール333(リップ部)よりも若干x軸負方向側にあり、可変容積室38に連通する。シミュレータピストン51のx軸負方向端は、シミュレータシリンダ50(ピストン収容部501)のx軸負方向側の底面に当接する。他の構成は第1実施形態と同様である。
第1スプリング32Aが第2マスタシリンダピストン31Bをx軸正方向側に付勢すると共に第1マスタシリンダピストン31Aをx軸負方向側に付勢する力をF0とする。ブレーキペダル2の踏込み操作によって、第1マスタシリンダ室34Aに第1液圧Pm1が発生しうる。第2マスタシリンダピストン31Bには、第1の受圧面δにPm1が作用することにより、x軸正方向側へ推力F1が作用する。F1の大きさは、Pm1に第1の受圧面積A1を乗じた値に相当する。数式(1-1): F1=Pm1×A1が成り立つ。第2マスタシリンダピストン31Bが初期位置からx軸正方向側へ若干移動すると、第3ロッドシール333により、第2マスタシリンダ室34Bから可変容積室38へ向うブレーキ液の流れが遮断され、第2マスタシリンダ室34Bには第2液圧Pm2が発生しうる。第2マスタシリンダピストン31Bには、第2の受圧面εにPm2が作用することにより、x軸負方向側へ反力F2が作用する。F2の大きさは、Pm2に第2の受圧面積A2を乗じた値に相当する。数式(2-1): F2=Pm2×A2が成り立つ。第2マスタシリンダピストン31Bのx軸正方向側への移動に伴い、容積が縮小する可変容積室38の内部のブレーキ液はリリーフ油路350及び補給ポート35Bを介してリザーバタンク4へ排出される。可変容積室38の液圧が第2マスタシリンダピストン31Bの外周面に作用することで第2マスタシリンダピストン31Bがx軸負方向側に押される力をF3とする。
第2スプリング322が第2マスタシリンダピストン31Bをx軸負方向側に付勢する力をF4とする。第2マスタシリンダピストン31Bに作用する力の釣り合いを考えると、F0とF1の合計は、F2〜F4の合計に等しい。上記数式(4)が成り立つ。この数式から導かれる諸帰結は、第1実施形態と同様である。A2はA1よりも小さいため、Pm2は、A2がA1と等しい場合に比べ、高くなる。
シミュレータピストン51には、第1の受圧面βにPm2が作用することにより、x軸正方向側へ推力F5が作用する。F5の大きさは、Pm2に第1の受圧面積A11を乗じた値に相当する。数式(7): F5=Pm2×A11が成り立つ。スプリング52がシミュレータピストン51をx軸負方向側に付勢する力をF6とする。シミュレータピストン51には、第2の受圧面γに液圧Psが作用することにより、x軸負方向側へ反力F7が作用する。F7の大きさは、Psに第2の受圧面積A12を乗じた値に相当する。数式(8): F7=Ps×A12が成り立つ。シミュレータピストン51に作用する力の釣り合いを考えると、F6とF7の合計は、F5に等しい。数式(9): F5=F6+F7が成り立つ。数式(7)〜(9)より、数式(10): Pm2×A11=F6+Ps×A12、及び数式(11): Ps=Pm2×A11/A12−F6/A12が成り立つ。ここで、A11=A12であるため、数式(11)より、数式(12): Ps=Pm2−F6/A11が成り立つ。Psは、Pm2からF6に相当する液圧を差し引いた大きさになる。すなわち、踏力ブレーキ時または補助加圧制御時、背圧室55の液圧Psは、A2がA1と等しい場合に比べ、Pm2と共に高くなる。他の作用効果は、第4実施形態と同様である。
以下、本実施形態の第1ユニット1Aおよびブレーキシステム1が奏する効果を列挙する。
(1-2) 第1ユニット1A(ブレーキ装置)は、シリンダ30(マスタシリンダ)と、
シミュレータシリンダ50と、シリンダ30の内部に第2マスタシリンダ室34Bを画成し、運転者のブレーキ操作に応じて移動する第2マスタシリンダピストン31Bと、シミュレータシリンダ50の内部にシミュレータシリンダ室55を画成し、第2マスタシリンダ室34Bの圧力Pm2により、シミュレータシリンダ室55の容積が減少するよう、第2マスタシリンダピストン31Bに連動して移動するシミュレータピストン51とを備え、シミュレータシリンダ室55の容積の減少により、シミュレータシリンダ室55内のブレーキ液がシミュレータシリンダ50の外部へ排出され、第2マスタシリンダピストン31Bは、第2マスタシリンダ室34B側(A2)のほうが、第2マスタシリンダピストン31Bを挟んで第2マスタシリンダ室34Bとは反対側(A1)よりも、受圧面積が小さい。
よって、上記(1-1)と同様の効果が得られる。
(9-2) 運転者のブレーキ操作に応じて液圧Pmを発生するマスタシリンダ3、及び運転者のブレーキ操作反力を生成するストロークシミュレータ5を備える第1ユニット1A(マスタシリンダユニット)と、ポンプ6(液圧源)を備え、運転者のブレーキ操作に応じてポンプ6を駆動し、ホイルシリンダ8の液圧Pwを昇圧する第2ユニット1B(液圧制御ユニット)とを有するブレーキシステム1であって、マスタシリンダ3は、第2マスタシリンダ室34Bを画成すると共に運転者のブレーキ操作に連動して作動する第2マスタシリンダピストン31Bを備え、ストロークシミュレータ5は、シミュレータシリンダ50と、シミュレータシリンダ50の内部にシミュレータシリンダ室55を画成するシミュレータピストン51とを備え、シミュレータピストン51は、第2マスタシリンダ室34Bの液圧Pm2により、シミュレータシリンダ室55の容積が減少するよう作動し、第1ユニット1Aは、シミュレータピストン51の作動によりシミュレータシリンダ室55から排出されるブレーキ液を第2ユニット1Bへ供給する供給ポート59を備え、第2マスタシリンダピストン31Bは、第2マスタシリンダ室34B側(A2)のほうが、第2マスタシリンダピストン31Bを挟んで第2マスタシリンダ室34Bとは反対側(A1)よりも、受圧面積が小さい。
よって、上記(9-1)と同様の効果が得られる。
[第6実施形態]
図9は、本実施形態のブレーキシステム1の、液圧回路を含む概略構成を示す。第1ユニット1Aにはリリーフ油路350の一部351が設けられ、第2ユニット1Bにはリリーフ油路350の別の一部352が設けられる。2本のブレーキ配管10Q1,10Q2が両油路351,352を接続することで、1つのリリーフ油路350が構成される。リリーフ油路350上にリリーフ弁29が設けられる。リリーフ弁29は電磁弁であり、常開の2位置弁である。リリーフ弁29は第2ユニット1B(油路352上)に設置される。踏力ブレーキ発生部103は、リリーフ弁29を開弁方向に制御する。ホイルシリンダ液圧制御部104はリリーフ弁29を閉弁方向に制御する。補助加圧制御部105は、リリーフ弁29を非作動とする(開弁方向に制御する)。他の構成は、第5実施形態と同様である。
図10〜図12は、ブレーキシステム1の作動状態を示す、図9と同様の図である。ブレーキ液の流れを一点鎖線で示す。図10は、踏力ブレーキ時におけるブレーキシステム1の作動状態を示す。リリーフ弁29が開弁方向に制御されるため、可変容積室38はリリーフ油路350を介して補給ポート35Bと連通する。よって、第2マスタシリンダピストン31Bのx軸正方向側への移動に伴い、可変容積室38の内部のブレーキ液はリリーフ油路350及び補給ポート35Bを介してリザーバタンク4へ排出される。リリーフ弁29が閉弁方向に制御される(下記のように第2マスタシリンダピストン31Bが大径ピストンとして機能する)場合に比べ、Pm2およびPsは、第5実施形態と同様、高くなる。
図11は、通常のホイルシリンダ加圧制御(バイワイヤ制御)時におけるブレーキシステム1の作動状態を示す。リリーフ弁29が閉弁方向に制御されるため、可変容積室38と補給ポート35B(リザーバタンク4)とのリリーフ油路350を介した連通は遮断される。よって、可変容積室38の容積の減少に伴い、可変容積室38から第3ロッドシール333を介して第2マスタシリンダ室34Bへブレーキ液が供給される。このブレーキ液は、第2マスタシリンダ室34Bの容積の減少分のブレーキ液と共に連通油路38を介して正圧室54へ流入する。この流入量と同じ量のブレーキ液が背圧室55から第2ユニット1Bへ供給される。背圧室55から第2ユニット1Bに供給されるブレーキ液量は、可変容積室38の容積の減少分だけ、増加する。言換えると、第2マスタシリンダ室34Bに臨む第2マスタシリンダピストン31Bの受圧面積A2は実質的にA1となり、第2マスタシリンダピストン31Bは大径ピストンとして機能する。
図12は、補助加圧制御時におけるブレーキシステム1の作動状態を示す。リリーフ弁29が開弁方向に制御されるため、踏力ブレーキ時と同様、Pm2およびPsは、リリーフ弁29が閉弁方向に制御される場合に比べ、高くなる。
第5実施形態と同様、数式(10)及びA11=A12が成り立つため、数式(13): F6=(Pm2−Ps)×A11が成り立つ。バイワイヤ制御時、SS/V OUT27が開弁方向に制御されるため、Ps=P0とみなせる。数式(13)より、数式(14): F6=(Pm2−P0)×A11が成り立つ。スプリング52のばね力F6として、Pm2に相当する大きさが必要であることがわかる。本実施形態では、バイワイヤ制御時、リリーフ弁29が閉弁方向に制御されるため、Pm2は、リリーフ弁29が開弁方向に制御される場合(A2がA1よりも小さい場合)に比べ、低くなる。よって、バイワイヤ制御時にペダル反力を発生させるため必要なF6の大きさが、小さくなる。言換えると、スプリング52のばね定数を大きく設定しなくて済む。踏力ブレーキ時または補助加圧制御時、第5実施形態と同様、数式(12)が成り立ち、Psは、Pm2からF6に相当する液圧を差し引いた大きさになる。スプリング52のばね定数(言換えるとF6)を大きく設定しなくて済むことで、踏力ブレーキ時や補助加圧制御時にスプリング52による損失を小さくし、高いPsを効率よく発生させることができる。
なお、補助加圧制御時、検出されるホイルシリンダ液圧Pwが所定値以下である間はリリーフ弁29を閉弁方向に制御し、Pwが所定値より高くなってからリリーフ弁29を開弁方向に制御してもよい。または、ブレーキ操作が検出されてから所定時間が経過するまではリリーフ弁29を閉弁方向に制御し、ブレーキ操作が検出されてから所定時間が経過するとリリーフ弁29を開弁方向に制御してもよい。これらの場合、運転者のブレーキ踏込み操作の開始直後、リリーフ弁29が開弁するまで、バイワイヤ制御時と同様、第2マスタシリンダピストン31Bが大径ピストンとして機能することで、シミュレータシリンダ室55からホイルシリンダ8に供給されるブレーキ液量が増加する。よって、第2実施形態と同様、ホイルシリンダ8の加圧応答性を効果的に向上することができる。なお、第2実施形態と同様、リリーフ弁29はチェック弁でもよい。本実施形態では、リリーフ弁29を電磁弁としたことで、バイワイヤ制御中、リリーフ弁29を閉弁方向に制御できる。よって、上記のようにスプリング52のばね定数を小さく設定できる。
また、リリーフ弁29は第1ユニット1Aに設けられてもよい。本実施形態では、第2ユニット1Bがリリーフ弁29を備えることで、第1ユニット1Aがリリーフ弁29を備える場合に比べ、第1ユニット1Aの小型化を図ることができる。また、第1ユニット1Aにリリーフ弁29の作動を制御するためのECUを必要とせず、また、第1ユニット1AとECU100(第2ユニット1B)との間にリリーフ弁29を制御するための配線(ハーネス)を必要としない。他の作用効果は、第5実施形態と同様である。
[他の実施形態]
以上、本発明を実現するための形態を、実施形態に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、本発明が適用されるブレーキシステムは、操作反力を模擬するための機構(ストロークシミュレータ)を備えると共に、マスタシリンダ以外の液圧源によりホイルシリンダを加圧することが可能なものであればよく、実施形態のものに限らない。実施形態では、液圧式のホイルシリンダを各車輪に設けたが、これに限らず、例えば前輪側を液圧式ホイルシリンダとし、後輪側を電動モータで制動力を発生可能なキャリパとしてもよい。また、Pwを制御するための各アクチュエータの作動方法、例えばNm*の設定方法等は実施例のものに限らず、適宜変更可能である。実施形態ではシリンダにシール溝を設けた(所謂、ロッドシールとした)が、代わりにピストンにシール溝を設け(所謂、ピストンシールとし)てもよい。
以下、実施形態から把握される発明を列挙する。
(14) 請求項13に記載のブレーキシステムにおいて、
前記液圧制御ユニットは、
前記マスタシリンダポートから流出したブレーキ液を前記ホイルシリンダへ送る油路と、
前記油路に設けられた遮断弁とを備え、
前記遮断弁を閉弁方向に作動させ、前記切換弁を作動させて前記供給先を前記リザーバとし、運転者のブレーキ操作に基づき、前記液圧源を駆動して前記ホイルシリンダの液圧を昇圧するブレーキバイワイヤ制御を行うことを特徴とするブレーキシステム。
(15) 請求項9に記載のブレーキシステムにおいて、
前記マスタシリンダユニットは、前記マスタシリンダピストンと前記シミュレータピストンとの間に縮設された第1弾性体を備えることを特徴とするブレーキシステム。
(16) 上記(15)に記載のブレーキシステムにおいて、
前記マスタシリンダユニットは、前記シミュレータシリンダ室の壁と前記シミュレータピストンとの間に所定のセット荷重をもって縮設され、前記シミュレータシリンダ室の容積が増加する方向に前記シミュレータピストンを付勢する第2弾性体を備えることを特徴とするブレーキシステム。