以下、本開示における典型的な実施形態の一つについて、図面を参照して説明する。本実施形態では、患者眼に対して硝子体手術を行うために使用される手術装置1を例示して説明を行う。詳細には、本実施形態の手術装置1は、白内障手術および硝子体手術を共に実行することができる眼科用の装置である。以下では、手術装置1の構成のうち、硝子体手術を実行するための構成について説明する。
図1〜図4を参照して、本実施形態の手術装置1および手術器具2の概略構成について説明する。図1に示すように、本実施形態の手術装置1には手術器具2が接続される。手術装置1は、接続された手術器具2を駆動する。
<手術器具の概略構成>
手術器具2について説明する。本実施形態の手術器具2は硝子体カッターであり、患者眼の硝子体組織を破壊(本実施形態では切断)すると共に、眼内に供給される灌流液と共に硝子体組織を吸引する。図1に示すように、手術器具2は、ハウジング3、外筒刃4、可動部6、ピストン10、ダイヤフラム12、付勢部材15等を備える。ハウジング3は略筒状の部材であり、外筒刃4および可動部6等の各種構成を保持する。ハウジング3は、手術中に術者によって把持される。
外筒刃4は、ハウジング3の内部から先端側へ真っ直ぐに延びる。外筒刃4はハウジング3に対して固定されている。外筒刃4の形状は、先端が壁部によって閉塞された筒状(例えば円筒状)である。外筒刃4の筒部における先端部近傍には、物質(例えば硝子体組織)を吸引するための開口である吸引口5が形成されている。本実施形態では、外筒刃4の先端部が患者眼の硝子体内に挿入されて、硝子体組織が吸引口5から吸引される。
可動部6は、可動することで物質を破壊する。一例として、本実施形態の可動部6は、外筒刃4の内部において軸方向(図1〜図4における左右方向)に可動可能な筒状の刃(いわゆる内筒刃)である。図2〜図4に示すように、本実施形態の可動部6の外径は、外筒刃4の内径と略一致している。可動部6の先端には開口部7が形成されている。筒状の可動部6の内部は、物質を吸引するための吸引経路8の一部を構成する。つまり、吸引経路8は、外筒刃4の吸引口5から可動部6の内部を通り、後述する廃液袋33(図1参照)へ延びる。
図2に示すように、物質を破壊するための破壊動力(本実施形態では切断動力)が可動部6に対して加えられていない場合、可動部6の先端の開口部7は、吸引口5よりも後端側の可動開始位置にある。この状態では、吸引経路8は完全に開放されているので、吸引経路8内の流体に吸引圧が加えられると、物質が吸引口5から吸引経路8に引き込まれる。
図2および図3に示すように、可動部6に破壊動力が加えられると、可動部6は、可動範囲内を可動終端位置に向けて可動する。その結果、吸引口5から引き込まれた物質に可動部6の開口部7が接触し、物質が切断される。つまり、可動部6の開口部7が、物質を切断する刃として機能する。なお、可動部6が可動終端位置に近づくにつれて、吸引口5が徐々に可動部6によって閉塞されていく。
図4に示すように、可動部6に十分な破壊動力が加えられると、物質が完全に切断されて、可動部6の開口部7が外筒刃4の先端の壁部に接触する。開口部7が外筒刃4の壁部に接触すると、可動部6の可動は停止する。従って、本実施形態では、可動部6の可動終端位置は、開口部7が外筒刃4の壁部に接触する位置となる。なお、本実施形態では、可動部6が可動終端位置に達すると、外筒刃4の吸引口5は可動部6によって完全に閉塞される。
以上のように、本実施形態の手術器具2は、可動部6を可動させることで物質を破壊する。詳細には、可動部6は、破壊動力が加えられることで一方向(本実施形態では軸方向の先端側)に可動し、先端の開口部7によって物質を破壊(切断)する。また、詳細は後述するが、可動部6への破壊動力の印加が停止すると、可動部6は反対方向(本実施形態では軸方向の後端側)に可動する。本実施形態の手術装置1は、可動部6の一往復を1つのサイクルとし、このサイクルを繰り返させることで、物質を断続的に切断させる。
また、本実施形態のように、破壊動力によって可動された可動部6が可動範囲の終端位置に達すると、手術器具2の一部(本実施形態では外筒刃4の先端の壁部)に可動部6が衝突して衝撃が発生する場合がある。特に、本実施形態では、可動部6が繰り返し往復されるので、可動部6が手術器具2の一部に連続して衝突し、手術器具2に振動が発生する場合がある。破壊動力の大きさを単純に減少させると、衝撃は緩和される可能性があるものの、可動部6の可動速度が減少する。特に、単位時間あたりに実行される可動部6の往復回数(以下、「カットレート」という)を大きくする程、高い可動速度が必要となるが、可動速度が足りないと可動部6が可動範囲を十分に往復できずに切断が不十分となる場合がある。詳細は後述するが、本実施形態の手術装置1は、可動部6の可動速度が減少することを抑制しつつ、手術器具2に発生し得る衝撃を緩和させる。
図1に示すように、可動部6の後端部近傍はピストン10に固定されている。ピストン10は、ハウジング3の内部に形成されたシリンダ11内に配置されている。詳細には、ピストン10は、シリンダ11に固定されたダイアフラム12によって、外筒刃4および可動部6の軸方向に移動可能に保持されている。ダイアフラム12よりも後方のシリンダ11内の空間は、圧縮気体が導入される気体導入室13となる。
ダイヤフラム12よりも前方に形成されたコンパートメント14には、付勢部材15(圧縮コイルばね)が配置されている。付勢部材15は、コンパートメント14内の先端とピストン10との間に配置され、ピストン10に軸方向後方への付勢力を加える。ハウジング3には、コンパートメント14の内部からハウジング3の外部まで延びる通気孔16が形成されている。従って、ピストン10が軸方向に移動してコンパートメント14の体積が変化しても、コンパートメント14内の圧力は大気圧に保たれる。
気体導入室13に圧縮気体が導入されると、ダイアフラム12によって保持されているピストン10が先端側に移動する。その結果、可動部6が外筒刃4の内部を先端側に可動する。気体導入室13への圧縮気体の導入が停止されて、気体導入室13内から気体が抜かれると、付勢部材15の付勢力によって、ピストン10および可動部6が後端側へ可動する。
ハウジング3の後部には、気体導入チューブ17と吸引チューブ18が接続される。気体導入チューブ17は、手術装置1と気体導入室13との間で気体を移動させる経路の一部となる。吸引チューブ18は、筒状の可動部6内に形成された流体の経路を手術装置1に接続する。
<手術装置の概略構成>
手術装置1について説明する。図1に示すように、本実施形態の手術装置1は、圧縮気体発生源20、レギュレータ21、流量制限部22、気体貯留部23、圧力検出センサ24、電磁弁25、マフラー30、吸引ポンプ32、および廃液袋33等を備える。圧縮気体発生源20が発生させた圧縮気体は、レギュレータ21、流量制限部22、気体貯留部23、および電磁弁25を経て手術器具2に導入される。
圧縮気体発生源(コンプレッサー)20は、手術器具2の可動部6を可動させるための動力源として用いられる。つまり、本実施形態では、圧縮気体発生源20が発生させる圧縮気体が、手術器具2の気体導入室13に導入されることで、手術器具2が駆動される。本実施形態では、圧縮気体発生源20は手術装置1の内部に組み込まれている。しかし、圧縮気体発生源20は、手術装置1の外部に設けられていてもよい。また、本実施形態の手術装置1は空気を圧縮して使用するが、空気以外の気体を用いることも可能である。
レギュレータ21は、圧縮気体発生源20から電磁弁25に延びる気体の経路に設けられている。レギュレータ21は、圧縮気体発生源20から電磁弁25に向けて(つまり、気体貯留部23に)送られる圧縮気体の圧力を、設定圧力以下にする。つまり、レギュレータ21は、レギュレータ21よりも下流側の気体の圧力を設定値以下に保つ。本実施形態では、CPU50(図5参照)を含む制御部からの信号によって電動で駆動する電動駆動レギュレータが用いられている。しかし、ユーザが手動で設定圧力を調整するレギュレータを採用してもよい。
流量制限部22は、圧縮気体発生源20から電磁弁25に延びる気体の経路(本実施形態ではレギュレータ21と気体貯留部23の間の経路)に設けられている。流量制限部22は、圧縮気体発生源20から電磁弁25へ向けて流入する圧縮気体の流量を制限する。つまり、本実施形態の流量制限部22は、流量制限部22と電磁弁25の間の空間(本実施形態では気体貯留部23を含む貯留空間)に流入させる圧縮気体の流量を制限する。さらに換言すると、レギュレータ21は、圧縮気体発生源20から貯留空間に送られる圧縮気体の圧力の上限を設定圧力以下に制限する。一方で、レギュレータ21の上流側と下流側(貯留空間側)の圧力差が大きければ、大量の圧縮気体が短時間でレギュレータ21を通過する。従って、一般的なレギュレータ21には、圧縮気体の流量を制限する機能は無い。これに対し、流量制限部22の機能は、上流側と下流側に圧力差がある場合に、単位時間あたりに貯留空間に流入する圧縮気体の流量を、流量制限部22が無い場合に比べて減少させる機能である。
詳細には、本実施形態の流量制限部22は、手術器具2の可動部6が可動範囲の可動開始位置から終端位置に向けて可動している間の、圧縮気体発生源20から気体貯留部23に流入する圧縮気体の流量を、気体貯留部23から手術器具2に供給(導入)される圧縮気体の流量よりも少なくする。従って、圧縮気体によって可動部6が可動範囲を移動している間、気体貯留部23における圧縮気体の圧力は、レギュレータ21によって設定されている圧力を常に維持することは無い。つまり、可動部6が可動開始位置から終端位置まで移動する間のいずれかのタイミングで、気体貯留部23内の圧縮気体の圧力は一旦低下する。電磁弁25が制御されて、手術器具2への圧縮気体の導入が停止されると、気体貯留部23内の圧縮気体の圧力は、レギュレータ21によって設定された圧力を上限として上昇する。
一例として、本実施形態の流量制限部22には、圧縮気体発生源20から気体貯留部23に延びる圧縮気体の経路の通過面積を変更する可変絞り(スピードコントローラと言われる場合もある)が用いられている。通過面積とは、圧縮気体の通過方向に対して垂直な方向における経路内の断面積のうち、その経路において最も小さい断面積である。本実施形態の流量制限部22は、制御部からの信号によって電動で駆動されることで、経路の通過面積を変更する。しかし、流量制限部22の構成は適宜変更することができる。例えば、手動で通過面積が変更される絞りを採用することも可能である。絞り量(通過面積)が固定されている固定絞りを採用してもよい。また、詳細は後述するが、電磁弁を流量制限部22として採用してもよい。
気体貯留部23は、流量制限部22と電磁弁25の間の圧縮気体の経路に設けられている。気体貯留部23は、圧縮気体発生源20から流量制限部22を通じて送られた圧縮気体を蓄える。気体貯留部23の容積を適切な容積とすることで、電磁弁25を経て手術器具2に圧縮気体を導入する際の、圧縮気体の圧力の変化態様を、適切な態様とすることができる。例えば、気体貯留部23の容積を大きくする程、電磁弁25を開放させた以後の、電磁弁25と流量制限部22の間に存在する圧縮気体の圧力降下を緩やかにすることができる。この場合、動力が不足して可動部6の可動が不十分になることが抑制される。よって、手術装置1は、高いカットレートで可動部6を駆動する場合でも、より適切に駆動を制御することができる。なお、気体貯留部23は、箱状の部屋とする必要は無い。例えば、流量制限部22と電磁弁25の間の気体の経路の少なくとも一部の太さを調整することで、気体貯留部23を設けてもよい。
圧力検出センサ24は、流量制限部22と電磁弁25の間の貯留空間に存在する気体の圧力を検出する。本実施形態では、圧力検出センサ24は気体貯留部23に設けられている。本実施形態の手術装置1は、圧力検出センサ24によって検出された圧力に基づいて、流量制限部22による圧縮気体の流量の制限量を決定することができる。
電磁弁25は、手術器具2の気体導入室13への圧縮気体の導入、および導入の停止を切り換える。本実施形態では、電磁弁25のハウジングには、注入口P、排気口R、出力ポートA、および出力ポートBが設けられている。電磁弁25の電磁コイル26に通電が行われると、可動鉄心が固定鉄心側に引き寄せられて弁が移動する。その結果、注入口Pと出力ポートBが接続される(弁が開く)。電磁コイル26への通電が遮断されると、ばね27の付勢力によって弁が移動する。その結果、排気口Rと出力ポートBが接続されると共に、注入口Pと出力ポートAが接続される。出力ポートAには蓋28が設けられているので、電磁コイル26への通電が遮断されている間は、注入口Pは閉塞状態とされる(弁が閉じる)。CPU50(図5参照)によって電磁コイル26への通電のON/OFFが制御されることで、電磁弁25が開閉され、気体導入室13への圧縮気体の導入と導入の停止とが切り換えられる。
電磁弁25のON/OFFの周期(1サイクルの時間)は、カットレート(カッティング速度)に基づいて設定される。カットレートとは、単位時間あたりに実行されるサイクルの回数であり、本実施形態では「回数/分」の単位で表される。1サイクルにおけるON時間は、デューティー比(つまり、1つのサイクルの時間に対する、切断動力が加えられるON時間の比)として設定される。本実施形態のCPU50は、設定された値に基づいて、手術器具2の可動部6を繰り返し往復可動させることで、硝子体組織を細かく切断する。
マフラー30は、電磁弁25の排気口Rから延びる気体の経路に接続されている。電磁弁25を通じて手術器具2から排出される圧縮気体は、マフラー30を経て外部に排出される。その結果、排気によって生じる騒音が低減される。
吸引ポンプ32は、吸引経路8内の流体に吸引圧を加えることで、手術器具2の吸引口5から流体を吸引する。吸引ポンプ32には種々の構成を使用することができる。例えば、可撓性を有する流路を押圧しながら回転することで吸引圧を発生させるペリスタリックポンプ(蠕動型ポンプ)を採用できる。また、加圧した気体をベンチュリー管に送って低い圧力を作り出すベンチュリーポンプを採用してもよい。また、手術装置1は、複数種類の吸引ポンプ32を備えてもよい。吸引ポンプ32からの吸引圧によって吸引された流体は、吸引経路8に接続された廃液袋33に排出される。
<手術装置の電気的構成>
図5を参照して、本実施形態の手術装置1の電気的構成について説明する。手術装置1は、手術装置1の制御を司るCPU50を備える。CPU50は、手術機器2の駆動制御等を含む各種制御を行う。つまり、CPU50は、手術装置1の制御部の一部である。CPU50には、RAM51、ROM52、不揮発性メモリ53、表示部55、操作部56、フットスイッチ57、外部通信I/F58、圧縮気体発生源20、レギュレータ21、流量制限部22、圧力検出センサ24、電磁弁25、および吸引ポンプ32が、バスを介して接続されている。
RAM51は、各種情報を一時的に記憶する。ROM52には、CPU50が実行するプログラム、および各種初期値等が記憶されている。不揮発性メモリ53は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。手術器具2の駆動制御を行うための制御プログラムは、不揮発性メモリ53に記憶されていてもよい。
表示部55は各種情報を表示する。操作部56は、ユーザによって操作されることで、ユーザからの各種操作指示の入力を受け付ける。操作部56としては、各種ボタン等を備えた操作パネル、表示部55の表面に設けられたタッチパネル、およびマウス等、種々の構成を採用できる。フットスイッチ57は、ユーザ(術者)が手術器具2の動作指示を入力するために、ユーザの足によって操作される。外部通信I/F58は、手術装置1と外部装置100との間の通信(有線通信でも無線通信でもよい)を行うことができる。
<可動部の駆動態様>
図6を参照して、本実施形態の手術装置1によって駆動される手術器具2の駆動態様について説明する。図6は、可動部6が可動開始位置から可動終端位置まで1回移動する間の、可動部6の位置と時間の関係を示す図である。横軸は時間を示す。横軸の原点は、可動部6が可動開始位置から可動を開始した時点(つまり、電磁弁25を開放させた時点)を示す。縦軸は可動部6の位置を示す。
なお、グラフ63が、本実施形態における可動部6の駆動態様を示す。グラフ61およびグラフ62は、本実施形態の手術装置1と従来装置の駆動態様の違いを説明するために示されたグラフであり、流量制限部22および気体貯留部23を備えない従来の手術装置によって可動された可動部6の駆動態様を示す。また、図6のグラフは、本実施形態による駆動態様の特徴を分かりやすく示すために模式的に駆動態様を示すものであり、実際の駆動態様とは異なる場合もあり得る。
例えば、電磁弁25を開放してから時間T1で、可動部6を可動開始位置から可動終端位置まで可動させる場合を考える。この場合、図6のグラフ61が示すように、流量制限部22を備えない従来の手術装置でも、レギュレータ21から電磁弁25に向けて送られる圧縮気体の圧力を調整することで、時間T1で可動部6を可動終端位置まで可動させることは可能である。しかし、流量制限部22が設けられていない場合、電磁弁25から気体導入室13に供給される圧縮気体の圧力は常に高くなる。その結果、可動終端位置に到達する際の可動部6の運動エネルギーは高くなり易い。よって、可動部6が手術器具2の一部(本実施形態では、外筒刃4の先端の壁部)に衝突する際の衝撃が大きくなり易い。
図6のグラフ62が示すように、レギュレータ21から送られる圧縮気体の圧力を、グラフ61に示す場合に比べて低下させると、可動終端位置に到達する際の可動部6の運動エネルギーは、グラフ61が示す場合よりも低くなる。しかし、この場合、可動部6が可動開始位置から可動終端位置まで到達するために必要な時間は、グラフ61が示す時間T1よりも長い時間T2となる。
これに対し、本実施形態の手術装置1は、電磁弁25とレギュレータ21の間の流路に流量制限部22と気体貯留部23を備える。また、図6のグラフ63に示す例では、レギュレータ21から送られる圧縮気体の圧力が、グラフ61に示す場合に比べて高い値に設定されている。この場合、まず、気体貯留部23内の貯留空間に蓄えられた高い圧力の圧縮気体が、勢いよく気体導入室13に導入される。その結果、可動部6は、グラフ61に示す場合に比べて高い速度で可動を開始する。次いで、貯留空間への圧縮気体の流量が流量制限部22によって制限されるので、貯留空間から気体導入室13に圧縮気体が導入されることに伴い、貯留空間内の圧力は徐々に低下する。その結果、気体導入室13内の圧力の増加速度も徐々に低下し、可動部6の可動速度が低下する。従って、流量制限部22が設けられていない場合に比べて、可動終端位置に達する時点における可動部6の運動エネルギーが低下し、衝撃の発生が緩和される。また、流量制限部22を用いずに、単純にレギュレータ21から供給される圧力を低下させる場合(例えば、グラフ62に示す場合)に比べて、可動開始時における可動部6の可動速度は低下し難い。その結果、図6のグラフ63に示すように、可動部6の可動速度(詳細には、可動部6が可動開始位置から終端位置に達するまでの平均速度)は低下せずに、手術器具2に発生し得る衝撃が緩和される。つまり、図6のグラフ63では、可動部6が時間T1で可動終端位置まで到達しつつ、グラフ61の場合に比べて衝撃が緩和される。
<貯留空間の圧力に基づく流量の制限量の決定>
図7を参照して、貯留空間の圧力に基づいて流量制限部22による流量の制限量を決定する方法の一例について説明する。本実施形態では、CPU50は、貯留空間(気体貯留部23)内の気体の圧力に基づいて、流量制限部22によって制限される圧縮気体の流量の制限量を決定することができる。
図7は、可動部6の可動が複数回繰り返される間の、貯留空間内の圧力と時間の関係を示す図である。横軸は時間を示す。縦軸は、貯留空間内の圧力(本実施形態では、圧力検出センサ24によって検出される圧力)を示す。グラフ71は、流量制限部22による流量の制限量が適切な制限量よりも小さい(つまり、貯留空間に供給される気体の流量が適切な量よりも多い)場合を示す。グラフ72は、流量の制限量が適切な制限量よりも大きい(つまり、貯留空間に供給される気体の流量が適切な量よりも少ない)場合を示す。グラフ73は、流量制限部22による流量の制限量が適切な場合を示す。
レギュレータ21から貯留空間に送られる圧縮気体の圧力をPrとする。前述したように、本実施形態では、レギュレータ21と貯留空間の間に流量制限部22が設けられている。従って、図7に示すように、電磁弁25がONとされて、可動部6が可動開始位置から終端位置へ可動するまでの間に、貯留空間内の気体の圧力はPrから下がる。電磁弁25がOFFとされて、貯留空間から気体導入室13への圧縮気体の導入が停止されると、貯留空間内の気体の圧力はPrを上限として上昇する。
図7のグラフ71では、流量制限部22による流量の制限量が、適切な制限量よりも小さい。この場合、電磁弁25がONとされている間における貯留空間内の圧力の低下量が、グラフ72の場合よりも小さくなるので、OFFとされている間に圧力はPrに戻りやすい。しかし、ONとされている間の貯留空間内の圧力が十分に低下しないと、可動終端位置に到達する時点の可動部6の運動エネルギーが十分に低下しない可能性がある。この場合、衝撃を緩和させる効果が薄れる。
一方で、図7のグラフ72では、流量制限部22による流量の制限量が、適切な制限量よりも大きい。この場合、可動終端位置に到達する時点の可動部6の運動エネルギーは、グラフ71の場合よりも低下する。しかし、グラフ72では、電磁弁25がOFFとされている間に圧力がPrに戻らないので、可動部6がサイクルを繰り返す毎に、貯留空間内の圧力が徐々に低下する。その結果、可動部6が適切な動作を行うことができなくなる。
これに対し、図7のグラフ73では、可動部6が可動終端位置に到達する際の衝撃が緩和され、且つ、貯留空間内の圧力も1つのサイクル毎にPrに回復する。従って、CPU50は、貯留空間内の気体の圧力に基づいて、流量制限部22による流量の制限量を決定することで、グラフ73に例示するような適切な態様で可動部6を駆動させることができる。
貯留空間の圧力に基づいて流量制限部22による流量の制限量を決定する具体的な方法について例示する。例えば、CPU50は、貯留空間内の圧力の変化を監視し、圧力変化がグラフ73に近づくように制限量を決定してもよい。また、電磁弁25をONからOFFに切り替えた時点の貯留空間内の圧力を監視してもよい。この場合、CPU50は、例えば、ONからOFFに切り替えた際の圧力が、予め定められた適切な範囲内となるように、制限量を決定する方法等を採用できる。また、電磁弁35をOFFからONに切り替えた時点の貯留空間内の圧力を監視してもよい。この場合、CPU50は、例えば、OFFからONに切り替えた際の圧力がPrとなる範囲内で、極力大きい制限量を探索する方法等を採用できる。また、CPU50は、具体的な制限量の値を決定せずに、制限量を増加または減少させるか否かのみを決定してもよい。この場合、貯留空間内の圧力が適切な範囲内に収まるまで、流量制限部22による実際の制限量が調整されればよい。
なお、本実施形態のCPU50は、貯留空間の圧力に基づいて決定した制限量に基づいて、流量制限部22の動作を制御することができる。従って、手術装置1は、ユーザの作業を増加させることなく、手術器具2を適切に駆動することができる。また、本実施形態では、可変絞りである流量制限部22の制限量(絞り量)が一旦適切な量に制御されると、手術器具2を駆動している途中で絞り量が変更される必要は無い。従って、CPU50は、流量制限部22に対する複雑な制御を実行する必要が無い。
<カットレートに基づく流量の制限量の決定>
流量制限部22による流量の制限量をカットレートに基づいて決定する方法の一例について説明する。本実施形態では、CPU50は、流量制限部22によって制限される貯留空間への圧縮気体の流量の制限量を、カットレートに基づいて決定することができる。
前述したように、本実施形態のCPU50は、可動部6の一往復を1つのサイクルとして、このサイクルが繰り返されるように電磁弁25を制御する。この場合、図7に示すように、1サイクルの時間が短い程、一旦低下した貯留空間内の圧力をPrに戻すために費やすことができる時間(つまり、電磁弁25をOFFとする時間)が短くなる。一方で、1サイクルの時間が長い程(つまり、カットレートが低い程)、貯留空間内の圧力をPrに戻すための時間を確保することが容易になる。この場合、流量制限部22による流量の制限量を大きい値に決定しても、圧力がPrに戻り、可動部6は適切に可動する。従って、本実施形態のCPU50は、カットレートが低い程、流量制限部22による流量の制限量が大きくなるように、制限量を決定する。その結果、可動部6が可動終端位置に到達する際の衝撃がより適切に緩和され、且つ、貯留空間内の圧力も1つのサイクル毎にPrに回復する。
なお、本実施形態のCPU50は、カットレートに基づいて決定した制限量に基づいて、流量制限部22の動作を制御することができる。従って、ユーザの作業を増加させることなく、手術器具2を適切に駆動することができる。また、CPU50は、カットレートと貯留室内の圧力を共に参照して制限量を決定してもよい。例えば、CPU50は、先にカットレートに応じて制限量を決定し、決定した制限量に基づいてテスト動作を実行する。次いで、テスト動作中に検出した貯留空間内の圧力に基づいて、制限量を再度決定し、流量制限部22による実際の制限量を調整してもよい。
以上説明したように、本実施形態の手術装置1は、電磁弁25よりも上流側の圧縮気体の流路に気体貯留部23と流量制限部22を備える。気体貯留部23は、圧縮気体発生源から送られる圧縮気体を蓄える。流量制限部22は、圧縮気体発生源20から気体貯留部23に流入する圧縮気体の流量を制限する。この場合、電磁弁25が駆動されて手術器具2への圧縮気体の導入が開始されると、まず、高い圧力で蓄えられた貯留空間内の圧縮気体が、勢いよく手術器具2に導入される。その結果、可動部6は高い速度で可動を開始する。次いで、貯留空間内への圧縮気体の流量が流量制限部22によって制限されるので、貯留空間から手術器具2に圧縮気体が導入されることに伴い、貯留空間内の圧力は低下する。その結果、手術器具2内の圧力の増加速度も低下し、可動部6の可動速度が低下する。従って、流量制限部22が設けられていない場合に比べて、可動範囲の終端位置に達する時点における可動部6の運動エネルギーが低下し、衝撃の発生が緩和される。また、圧縮気体発生源20から電磁弁25に向けて供給する圧縮気体の圧力を、流量制限部22を用いずに単純に減少させる場合に比べて、可動開始時における可動部6の可動速度は低下し難い。従って、本実施形態の手術装置1は、可動部6の可動速度が減少することを抑制しつつ、手術器具2に発生し得る衝撃を適切に緩和させることができる。
本実施形態の流量制限部22は、可動部6が可動開始位置から終端位置に可動している間において、圧縮気体発生源20から気体貯留部23に供給される圧縮気体の流量を、気体貯留部23から気体導入室13へ導入される圧縮気体の流量よりも少なくする。その結果、気体貯留部23内の貯留空間に存在する気体の圧力は、可動部6が終端位置に達する時点の方が、可動開始時よりも低くなる。従って、本実施形態の手術装置1は、手術器具2に発生し得る衝撃を適切に緩和させることができる。
本実施形態の手術装置1は、流量制限部22と電磁弁25の間の気体の経路に、圧縮気体を蓄える気体貯留部23を備える。適切な容積の気体貯留部23を設けることで、電磁弁25を経て手術器具2に圧縮気体を導入する際の、圧縮気体の圧力の変化態様を、適切な態様とすることができる。例えば、気体貯留部23の容積を大きくする程、手術器具2への圧縮気体の導入を開始させた以後の、貯留空間内の圧力降下を緩やかにすることができる。この場合、動力が不足して可動部6の可動が不十分になることが抑制される。
本実施形態の流量制限部22は、気体貯留部23に供給される圧縮気体の流量(換言すると、流量の制限量)を変更することができる。気体貯留部23に供給される圧縮気体の流量の制限量が変更されると、気体貯留部23内における貯留空間の圧力の変化態様が変更される。従って、本実施形態の手術装置1は、より適切に手術器具2を駆動することができる。
本実施形態の手術装置1は、貯留空間内に存在する圧縮気体の圧力に基づいて、流量制限部22による圧縮気体の流量の制限量を決定することができる。また、本実施形態の手術装置1は、流量制限部22による圧縮気体の流量の制限量を、カットレートに基づいて決定することもできる。従って、圧力の変化態様が、容易に適切な態様に調整される。
本実施形態の手術装置1は、流量制限部22として可変絞りを備える。従って、手術器具2の可動中に複雑な制御を行わなくても、気体貯留部23に供給される圧縮気体の流量を制御することができる。また、本実施形態の手術装置1は、貯留空間内の圧力およびカットレートのうちの少なくともいずれかに基づいて決定した制限量に基づいて、流量制限部22の動作を自動的に制御することができる。従って、ユーザの作業を増加させることなく、手術器具2を適切に駆動することができる。
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で開示された技術を変更して手術装置に適用することも可能である。例えば、上記実施形態では、硝子体組織を切断する手術器具2を駆動する場合を例示した。しかし、上記実施形態で例示した技術は、他の物質を破壊するための手術器具を駆動する場合にも適用できる。例えば、物質の粉砕、変形等を行う手術器具を駆動する場合にも、上記実施形態で例示した技術は適用できる。患者眼以外の生体組織(例えば内臓)を手術するための手術装置にも、上記実施形態で例示した技術を適用できる。
上記実施形態の手術器具2は、可動部6(内筒刃)を外筒刃4に対して直線に沿って往復移動させる。しかし、可動部の構成も変更できる。例えば、手術器具は、筒状である外筒刃4の軸を中心として可動部を回転させてもよい。可動部は、曲線等に沿って往復移動してもよい。また、可動部が同一の往復動作を繰り返さず、1回ずつ往復動作を行って組織を破壊する場合でも、上記実施形態で例示した技術を適用できる。この場合でも、手術装置は、可動部の可動開始時の速度低下を抑制して組織を効率よく破壊しつつ、可動部が手術器具の一部に衝突することによる衝撃を緩和させることができる。また、上記実施形態の手術装置1は、物質を破壊する方向に可動部6を可動させる動力(破壊動力)として圧縮気体を用いる。しかし、手術装置1は、可動部6を可動開始位置に戻す動力(戻り動力)として圧縮気体を用いてもよい。破壊動力および戻り動力の両方の動力に圧縮気体を用いてもよい。両方の動力に圧縮気体が用いられる場合、手術器具2は、破壊動力としての圧縮気体が導入される気体導入室と、戻り動力としての圧縮気体が導入される気体導入室とを別々に備えていてもよい。この場合の駆動方法として、例えば、1または複数の電磁弁が、一方の気体導入室への圧縮気体の導入を停止させている間に、他方の気体導入室に圧縮気体を導入させる方法等を採用できる。
上記実施形態の手術装置1は、流量制限部22として、圧縮気体の経路の通過面積を変更する可変絞りを用いている。しかし、流量制限部22の構成を変更することも可能である。例えば、流量制限部22として電磁弁(以下、「流量制限電磁弁」という)を用いてもよい。この場合、CPU50は、可動部6を可動開始位置から終端位置へ移動させている間の少なくともいずれかの間に、流量制限電磁弁をOFFとして、圧縮気体発生源20から貯留空間への圧縮気体の流入を制限すればよい。この場合でも、流量制限部22は、電磁弁25が開放されて可動部6の可動が開始される際の貯留空間内の圧力よりも、可動部6が可動終端位置に達する際の貯留空間内の圧力を低くすることができる。
詳細には、CPU50は、電磁弁25をON/OFFするタイミングと、流量制限電磁弁をOFF/ONするタイミングとを同期させてもよい。例えば、貯留空間(気体貯留部23)の容積が十分に大きければ、電磁弁25がONとされている間に流量制限電磁弁を常にOFFとしても、可動部6は適切に可動する場合がある。また、CPU50は、電磁弁25をONとして手術器具2への圧縮気体の導入を開始させた後の所定時間経過後に、流量制限電磁弁をOFFとしてもよい。この場合、可動部6は、所定時間が経過するまで高い速度で可動した後、所定時間経過後に速度を低下させる。また、CPU50は、可動部6を可動開始位置から終端位置へ移動させている期間のうち、流量制限電磁弁をOFFとする期間を増減させることで、貯留空間に流入させる圧縮気体の流量の制限量を調整することも可能である。以上のように、流量制限電磁弁を用いる場合、手術装置1は、貯留空間へ流入させる圧縮気体の流量を、より細かく制限することができる。
また、流量制限部22として流量制限電磁弁を用いた場合、CPU50は、貯留空間内の圧力およびカットレートのうちの少なくともいずれかに基づいて決定した制限量に基づいて、流量制限部22の動作を自動的に制御してもよい。また、手術装置1は、流量制限部22として、電磁弁と絞りを組み合わせて用いてもよい。また、上記実施形態の手術装置1は、流量制限部22による圧縮気体の流量の制限量を変更することで、貯留空間内の圧力の変化態様を変更する。しかし、手術装置1は、気体貯留部23の容積を可変とすることで、貯留空間内の圧力の変化態様を変更してもよい。また、手術装置1は、容積が異なる複数の気体貯留部23を備えてもよい。この場合、手術装置1は、流量制限部22からの圧縮気体を流入させる気体貯留部23を切り換えることで、圧力の変化態様を変更してもよい。
また、電磁弁25から手術器具2の気体導入室13への圧縮気体の導入を、上記実施形態とは異なる方法で制御することで、手術器具2に発生する衝撃を抑制することも可能である。例えば、電磁弁25から気体導入室13へ延びる気体の経路に、気体を外部へ排出するための排出路を設けてもよい。さらに、気体の排出と、排出の停止とを切り換える排出制限電磁弁を、排出路に設けてもよい。この場合、例えば、CPU50は、電磁弁25をONとして手術器具2への圧縮気体の導入を開始してから所定時間が経過するまでの間、排出制限電磁弁をOFFとして、気体の排出を停止させる。この間、可動部6は高い速度で可動する。次いで、CPU50は、所定時間が経過すると、排出制限電磁弁をONとし、気体を排出させる。すると、可動部6の可動速度は低下し、手術器具2に発生する衝撃が抑制される。なお、排出路から外部に排出される気体の流量を、絞り等を用いて制限してもよい。この場合、手術装置1は、排出制限電磁弁をONとした後の気体導入室13内の圧力の増加態様を適切に調整することができる。
上記実施形態の手術装置1は、貯留空間内の圧力、およびカットレートのうちの少なくともいずれかに基づいて、流量制限部22による流量の制限量を決定する。しかし、手術装置1は、レギュレータ21から電磁弁25へ向けて供給させる圧縮気体の圧力を、貯留空間内の圧力およびカットレートの少なくともいずれかに基づいて決定してもよい。この場合、手術装置1は、より適切に手術器具2を駆動することができる。
上記実施形態では、CPU50は、流量制限部22による流量の制限量を決定すると、決定した制限量に基づいて流量制限部22の動作を制御することができる。しかし、手術装置1は、流量制限部22の動作を自動的に制御しなくてもよい。例えば、CPU50は、決定した制限量を、表示部55等を用いてユーザに報知してもよい。この場合、ユーザは、報知された制限量に基づいて流量制限部22の操作等を行うことで、適切な手術を実行することができる。