以下、実施形態の測定方法及び地中レーダ装置を、図面を参照して説明する。以下の実施形態では、比誘電率を算出する場合を説明するが、誘電率を算出する場合にも同様に適用することができる。
(第1の実施形態)
図1から図10を参照し、第1の実施形態について説明する。図1は、測定対象である埋設物に関する既知情報を示す。図1に示す地中の埋設物(測定対象)は通信のために設けられたマンホール100である。マンホール100は、半径a[m]で高さ(深さ)d[m]の円筒状である地上との出入口の部分(首部と呼ばれる)と、地中にはマンホール100の本体である直方体状の空間の部分とから構成される。マンホール100の本体は、鉄筋コンクリートで作られ、長さL[m]で幅W[m]のサイズの直方体の形状である。マンホール100の首部の蓋101は、半径a[m]の円盤状である。マンホール100の天井(上床板と呼ばれる)は、厚さd0[m]である。マンホール100の上床板は、マンホールの蓋101を境にした両側の各範囲102,103で鉄筋コンクリート製の板(コンクリート板)となっている。範囲102,103の各々は、長さ「L/2−a」で幅Wの矩形状である。マンホール100の上床板は地面から深さdで埋設される。マンホール100の上床板の詳細な状況を地上から地中レーダを使用して把握することを想定する。マンホール100の上床板の詳細な状況が分かると、マンホール100の保守点検作業の負担を大幅に軽減することができる。地中レーダを使用してマンホール100の上床板の状況を詳細に把握するためには、地中レーダから送信された電磁波が伝搬する地中(土壌)の比誘電率を精度よく測定することが重要である。以下に、図1に示されるマンホール100を測定対象にする場合を例にして、比誘電率の測定方法を説明する。
図2は、1対のアンテナ配置を示す断面図である。図2には、1対である送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2とが示される。送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2とは、間隔X[m]で地上に配置される。送信アンテナA1−1は、地中レーダの電磁波を地中に向かって放射する。受信アンテナA1−2は、送信アンテナA1−1から放射された電磁波の反射波を測定するために、地中レーダの電磁波を受信する。送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2とが各々配置される場所は、図1に示される地中の深さdに存在するコンクリート板に対応する範囲102,103にある。送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2とは両方共に、範囲102又は範囲103のうち、いずれか一方の同じ範囲に配置される。この理由は、送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2とが範囲102と範囲103とに各々分かれて配置されると、送信アンテナA1−1から地中に向かって放射された電磁波が、マンホール100の上床板のコンクリート表面で反射されるまで又は反射されてから受信アンテナA1−2に到達するまでの途中で、マンホール100の首部により伝搬を妨げられるからである。送信アンテナA1−1から地中に向かって放射された電磁波は、土壌を伝搬してマンホール100の上床板のコンクリート表面に到達する。マンホール100の上床板のコンクリート表面に到達した電磁波が該コンクリート表面で反射された反射波は、受信アンテナA1−2で受信される。
図3は、円周上のアンテナ配置を示す上面図である。図3には、円周上のアンテナ配置の一例として、送信アンテナと受信アンテナとの組を4つ示す。図3において、送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2との組と、送信アンテナA2−1と受信アンテナA2−2との組と、送信アンテナA3−1と受信アンテナA3−2との組と、送信アンテナA4−1と受信アンテナA4−2との組と、が同一の円111の円周上に配置される。一の組において、円111の一の直径上の一方の端に送信アンテナを配置し、もう一方の端に受信アンテナを配置する。円111において、送信アンテナと受信アンテナとの各組を異なる直径上に配置する。円111の直径はXであり、各組のアンテナ間隔はXとなる。上述の図2は、図3中の一点鎖線112を断面箇所とした断面図である。円111の中心は、図2中の一点鎖線110に対応する。各組において、送信アンテナから地中に向かって放射された地中レーダの電磁波は、土壌を伝搬してマンホール100の上床板のコンクリート表面に到達し、該コンクリート表面で反射され、反射波として受信アンテナで受信される。
図4は、1対のアンテナ配置と、コンクリート表面からの電磁波反射と不要散乱体からの電磁波反射とを示す断面図である。図4には、図3に示される1対である送信アンテナA2−1と受信アンテナA2−2とが示される。図4では、マンホール100の上床板のコンクリート表面による電磁波の反射と、岩などの不要散乱体による電磁波の反射とが発生する。
ここで、マンホール100の上床板のコンクリート表面による電磁波の反射と、不要散乱体による電磁波の反射及び散乱と、について説明する。マンホール100の上床板が埋設された深さdは既知である。送信アンテナA2−1と受信アンテナA2−2との配置と、送信アンテナA2−1と受信アンテナA2−2とのアンテナ間隔Xも既知である。送信アンテナA2−1から地中に向かって放射された地中レーダの電磁波が、土壌を伝搬してマンホール100の上床板のコンクリート表面で反射され、反射波として受信アンテナA2−2に到達するまでの伝搬距離l[m]は、次の式(4)で表される。
マンホール100の上床板が存在する場所である上記の図1に示した範囲102,103においては、不要散乱体による反射が上記の式(4)を満たすことはない。上記の式(4)は、上記の図3に示される各組の送信アンテナと受信アンテナとに対して成立する。したがって、上記の図3に示される各組の送信アンテナと受信アンテナとに対して、上記の式(4)を満たす不要散乱体はないと言える。
仮に、図4に示される送信アンテナA2−1と受信アンテナA2−2との1組のみに対して、不要散乱体が上記の式(4)を満たすことを想定する。この場合、送信アンテナA2−1と受信アンテナA2−2とを焦点とする楕円上の周囲に不要散乱体が配置されることになる。そして、その場合の反射強度を考慮すると、楕円体に沿う反射面を持つ必要がある。このため、上記の式(4)を満たし、且つ反射強度がある程度強い条件で楕円体に沿う反射面を持つ不要散乱体はほぼないと考えられる。さらに、他の送信アンテナと受信アンテナとの組である「送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2との組」と、「送信アンテナA3−1と受信アンテナA3−2との組」と、「送信アンテナA4−1と受信アンテナA4−2との組」とをそれぞれに焦点とする各楕円上の周囲に不要散乱体が存在するという条件、を全て満たす位置は極めて限られるか又は全ての条件を同時に満たす位置はないため、このような位置の不要散乱体は存在しないと言ってもよい。
次に、送信アンテナA2−1から地中に向かって放射された地中レーダの電磁波が、土壌を伝搬してマンホール100の上床板のコンクリート表面で反射され、反射波として受信アンテナA2−2に到達するまでの到達時間をτとする。土壌の比誘電率εrは、次の式(5)で表される。但し、cは真空中における光速「3.0×108 [m/s]」である。
伝搬距離lと到達時間τとから上記の式(5)により、土壌の比誘電率εrを計算することができる。しかしながら、図4に示される不要散乱体の影響から、伝搬距離lと到達時間τとを精度よく求めることが一般的に難しい。
図5は、各アンテナ対の反射波の時間応答の例を示す。図5のグラフにおいて、横軸は時間(t)であり、縦軸は反射強度(I)である。図5には、図3に示される4つのアンテナ対である、「A1対:送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2との組」と、「A2対:送信アンテナA2−1と受信アンテナA2−2との組」と、「A3対:送信アンテナA3−1と受信アンテナA3−2との組」と、「A4対:送信アンテナA4−1と受信アンテナA4−2との組」との各々についての反射波の時間応答が示される。各アンテナ対のグラフは、上記の図4に示される地中の状態で、各受信アンテナで受信された受信信号に基づく。すなわち、図5の各グラフは、マンホール100の上床板のコンクリート表面による電磁波の反射と、岩などの不要散乱体による電磁波の反射と、が発生する地中の状態において、各アンテナ対の送信アンテナから地中に向かって放射された地中レーダの電磁波の反射波を、各アンテナ対の受信アンテナで受信した受信信号の時間変化を示す。
図5中の実線のグラフは、マンホール100の上床板のコンクリート表面による電磁波の反射の時間応答を示す。図5中の破線のグラフは、不要散乱体による電磁波の反射の時間応答を示す。マンホール100の上床板のコンクリート表面による電磁波の反射については、4つのアンテナ対の全てのアンテナ間隔がXで同じであり、且つ、マンホール100の上床板のコンクリート表面の同じ反射点(深さdの同じ位置)で反射するので、4つのアンテナ対の全てで到達時間τが同じとなる。
図6は、図5に示される4つのアンテナ対についての反射波の時間応答を合成した結果を示す。図6のグラフにおいて、横軸は時間(t)であり、縦軸は合成反射強度(Ic)である。図5では、4つのアンテナ対についての反射波の時間応答を個別にグラフで示したが、図6では、各アンテナ対についての同時刻の反射波の時間応答を重ね合せて合成し示している。この重ね合せによる反射波の合成は、時間ごとに反射強度を加算する処理により行う。この反射波の合成の処理での注意点は、各アンテナ対の反射波における時間軸の合せを、深さが既知である埋設物の反射、ここではマンホール100の上床板のコンクリート表面(深さd)による反射の時間で合わせることである。この結果、到達時間の値と同じ時間τにおいて、マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波が重なり合い、合成反射強度(Ic)として強めあう結果(図6中の実線のグラフ)となる。
他方、不要散乱体による反射波の合成の結果(図6中の破線のグラフ)では、各アンテナ対で到達時間が異なるので、時間的に分散したまま合成されることから、合成反射強度(Ic)として強めあうことがない。この理由は、上記の図4に示した不要散乱体が各アンテナ対の送信アンテナと受信アンテナとの中間の位置に存在しないため、上記の図3に示されように各アンテナ対の送信アンテナと受信アンテナの位置が変わると不要散乱体による反射波の到達時間が変わるからである。
なお、仮に不要散乱体が図3に示される円111の中心に存在した場合、複数のアンテナ対の送信アンテナと受信アンテナとの中間の位置に不要散乱体が存在するので、不要散乱体による反射波の合成の結果、合成反射強度(Ic)として強めあうことになる。しかし、そのような条件の位置に不要散乱体が存在すること自体が希である。また、万一その条件の位置に不要散乱体が存在した場合には、既知の深さの埋設物による反射に大きく影響が現れる。例えば、既知の深さの埋設物による反射波について、算出された到達時間の周辺に反射波が存在しないなどの現象が発生する。これにより、アンテナ対の送信アンテナと受信アンテナの位置を変えて再測定を実行うことにより、不要散乱体による反射波の合成の結果、合成反射強度(Ic)として強めあうことがなくなるので、問題はない。
上述したように、各アンテナ対についての同時刻の反射波の時間応答を重ね合せて合成することにより、不要散乱体による反射波については合成反射強度(Ic)として強めあうことがなく、一方、マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波については合成反射強度(Ic)として強めあうことになる。したがって、図6のグラフにおいて、不要散乱体による反射波についての成分(不要散乱成分)を容易に区別し分離することができる。これにより、図6のグラフから、マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波についての成分のみを抽出することができる。すると、マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波についての到達時間τが正確に分かる。伝搬距離lは、各アンテナ対に共通のアンテナ間隔Xと深さdとから上記の式(4)により計算できる。そして、該到達時間τと該伝搬距離lとから上記の式(5)により、土壌の比誘電率εrを精度よく計算できる。この計算結果の比誘電率εrを使用して地中レーダの校正を行うことにより、地中レーダによる測定の精度を向上させることができる。
図7は、4対のアンテナ配置と地面から地中のコンクリート表面までの状況と各電磁波反射とを示す鳥瞰図である。図7に示される4つのアンテナ対「A1対:送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2との組」と、「A2対:送信アンテナA2−1と受信アンテナA2−2との組」と、「A3対:送信アンテナA3−1と受信アンテナA3−2との組」と、「A4対:送信アンテナA4−1と受信アンテナA4−2との組」とは、上記の図3に示される配置である。また、図7に示される、マンホール100の上床板のコンクリート表面による電磁波の反射と、岩などの不要散乱体による電磁波の反射とは、上記の図2や図4に示したのと同様である。
図8(a)は、図7に示される4つのアンテナ対の反射波の時間応答の例を示す。図8(a)のグラフにおいて、横軸は時間(t)であり、縦軸は反射強度(I)である。図8(b)は、図8(a)に示される4つのアンテナ対についての反射波の時間応答を合成した結果を示す。図8(b)のグラフにおいて、横軸は時間(t)であり、縦軸は合成反射強度(Ic)である。図8(b)のグラフから、不要散乱成分を除去する処理を実施する。この不要散乱成分の除去処理では、4つのアンテナ対の各々の反射波の合成により合成反射強度(Ic)として強め合う時間τに現れる反射波の時間応答(実線のグラフ)以外の他の反射波の時間応答(破線のグラフ)を削除する。これにより、図8(b)のグラフから、合成反射強度(Ic)として強め合う時間τとして、マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波についての到達時間τが正確に分かる。そして、4つのアンテナ対に共通のアンテナ間隔Xと深さdとから上記の式(4)により伝搬距離lを計算し、該到達時間τと該伝搬距離lとから上記の式(5)により、図7に示される地中の土壌の比誘電率εrを精度よく計算できる。この計算結果の比誘電率εrを使用して地中レーダの校正を行い、該校正後の地中レーダにより、図7に示される地中の測定を精度よく行うことができる。
次に本実施形態に係る地中レーダの装置構成を説明する。図9は、地中レーダ装置130の構成を示す。図9に示す地中レーダ装置130は、送信部150と、受信部170と、4つのアンテナ対「A1対:送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2との組」と「A2対:送信アンテナA2−1と受信アンテナA2−2との組」と「A3対:送信アンテナA3−1と受信アンテナA3−2との組」と「A4対:送信アンテナA4−1と受信アンテナA4−2との組」と、を備える。この4つのアンテナ対の送信アンテナと受信アンテナとの各々は、上記の図3に示されるように、同一の円111の円周上に配置される。送信部150は、送信選択制御部151と電磁波生成部152とを備える。受信部170は、受信検出部171と受信合成部172と比較部173と不要散乱波除去・誘電率算出部174と校正・受信信号再処理部175とを備える。
送信部150において、送信選択制御部151は、4つのアンテナ対の送信アンテナA1−1,A2−1,A3−1,A4−1の中から電磁波を放射させる送信アンテナを順次選択する。送信選択制御部151は、選択した送信アンテナを示す選択信号を、電磁波生成部152と受信部170へ出力する。受信部170に入力された選択信号は、受信合成部172と比較部173とに入力される。電磁波生成部152は、4つのアンテナ対の送信アンテナA1−1,A2−1,A3−1,A4−1の各々に接続される。電磁波生成部152は、送信選択制御部151から入力された選択信号で示される送信アンテナへ、電磁波を出力する。これにより、送信選択制御部151による選択信号で示される送信アンテナから地中に向かって地中レーダの電磁波が放射される。
受信部170において、受信検出部171は、4つのアンテナ対の受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の各々に接続される。受信検出部171は、各受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2で受信された信号から、受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2ごとに地中レーダの電磁波を検出する。受信検出部171で受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2ごとに検出された地中レーダの電磁波の受信信号は、受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の別に、受信合成部172と比較部173とへ出力される。
受信合成部172は、受信検出部171から入力された各受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の受信信号のうち、送信選択制御部151から入力された選択信号で示される送信アンテナと対の受信アンテナの受信信号を記録する。受信合成部172は、各々記録された各受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の受信信号を合成する。この受信信号の合成では、上記の図5と図6や図8により説明したように、4つのアンテナ対の受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の各々の受信信号の反射強度(I)を、時間毎に加算する。この反射強度(I)の加算では、時間軸の合せを、深さが既知である埋設物の反射、ここではマンホール100の上床板のコンクリート表面(深さd)による反射の時間で合わせる。
比較部173は、受信検出部171から入力された各受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の受信信号のうち、送信選択制御部151から入力された選択信号で示される送信アンテナと対の受信アンテナの受信信号を記録する。比較部173は、各々記録された各受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の受信信号についての相互比較を行う。この比較の結果、受信信号が異常であることを判定するための予め定められた異常判定条件を満足する受信信号が存在する場合、比較部173は、当該受信信号の受信アンテナを受信合成部172へ通知する。受信合成部172は、比較部173から通知された受信アンテナの受信信号を、上述の受信信号の合成の対象から除外する。これは、次の理由による。測定対象である埋設物、ここではマンホール100の上床板のコンクリート表面、による反射が明確に大幅に違うような異常がある受信信号を受信信号の合成の対象に含めると、統計的な処理(例えば平均値や中央値の算出)を行ったとしても処理結果に大きな影響が生じる可能性がある。このため、異常と判定された受信信号を受信信号の合成の対象から除外することにより、より正確な処理結果を得ることができる。さらに受信信号の合成の後の処理(不要散乱波除去・誘電率算出処理、校正・受信信号再処理)による地中レーダ画像の精度が向上する。
不要散乱波除去・誘電率算出部174は、受信合成部172による受信信号の合成の結果から不要散乱波を除去し、不要散乱波の除去の結果に基づいて比誘電率を計算する。この比誘電率の計算方法は、上述の図6や図8を参照して説明した方法である。校正・受信信号再処理部175は、不要散乱波除去・誘電率算出部174により算出された比誘電率を使用して校正を行う。校正・受信信号再処理部175は、校正の結果に基づいて受信信号の再処理を行う。
図10を参照して、図9に示される地中レーダ装置130の動作を説明する。図10は、本実施形態の地中レーダ測定方法のフローチャートである。
(ステップS101)送信選択制御部151が、4つのアンテナ対の送信アンテナA1−1,A2−1,A3−1,A4−1の中から電磁波を放射させる送信アンテナを一つ選択する。
(ステップS102)電磁波生成部152が、送信選択制御部151により選択された送信アンテナへ電磁波を出力する。これにより、送信選択制御部151により選択された送信アンテナから地中に向かって地中レーダの電磁波が放射される。
(ステップS103)受信検出部171が、電磁波を放射した送信アンテナと対の受信アンテナにより地中レーダの電磁波である反射波を受信する。
(ステップS104)受信合成部172と比較部173とは、受信検出部171により受信された反射波の受信信号を記録する。なお、同じ送信アンテナから複数回の電磁波放射が行われる場合には、各回で受信検出部171により受信された反射波の受信信号を合成し、合成した結果を記録する。反射波の合成は、異なる位置に配置した送信アンテナと受信アンテナにより各々受信された反射波の強度を加算して行われる。
(ステップS105)送信選択制御部151は、4つのアンテナ対の送信アンテナA1−1,A2−1,A3−1,A4−1の全てからの電磁波の放射が完了したかを判断する。この結果、完了した場合にはステップS106へ進む。一方、未完了である場合にはステップS101へ進み、送信選択制御部151は、未放射である送信アンテナを選択する。
(ステップS106)受信合成部172は、記録された各受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の受信信号を合成する。受信合成部172は、合成した結果から不要散乱体による反射波である不要散乱波を除去する。
(ステップS107)比較部173は、ステップS106による不要散乱波の除去の結果から得られる「マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射の時間(比較対象時間)」に基づいて、記録された各受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の受信信号の比較評価を行う。記録された各受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の受信信号における「マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射の時間」が、比較対象時間に対して、大きく異なるかを判断する。例えば、予め定められた割合(例えば10%)以上異なるかを判断する。この判断の結果、比較対象時間に対して大きく異なる場合には、比較部173は、比較対象時間に対して大きく異なると判断された受信信号の受信アンテナを受信合成部172へ通知する。この通知を受けた受信合成部172は、通知された受信アンテナを受信信号の合成の対象から除外して、記録された各受信アンテナの受信信号の合成を行う。この受信信号の合成の結果が以降の処理に使用される。
なお、比較部173から、受信信号の合成の対象から除外する受信アンテナの通知がない場合には、受信合成部172は、ステップS107での受信信号の合成を行わない。この場合、ステップS106による受信信号の合成の結果が以降の処理に使用される。
(ステップS108)不要散乱波除去・誘電率算出部174は、受信合成部172による受信信号の合成の結果から不要散乱波を除去し、不要散乱波の除去の結果に基づいて比誘電率を計算する。ここで、受信信号の合成の結果は反射波の強度の加算した結果であり、この結果に基づいて対象物からの反射波の到達時間を判断する。この到達時間と対象物の深さとアンテナ間隔を用いて土壌の比誘電率が算出される。
(ステップS109)校正・受信信号再処理部175は、不要散乱波除去・誘電率算出部174により算出された比誘電率を使用して校正を行う。校正・受信信号再処理部175は、校正の結果に基づいて反射波の受信信号の再処理を行う。
(ステップS110、S111)地中レーダ装置130は、校正・受信信号再処理部175により再処理された反射波の受信信号から埋設物の位置や状況を計算する。地中レーダ装置130は計算された埋設物の位置や状況を表示する。
上述した第1の実施形態によれば、地面に配置された送信アンテナから、土壌に埋設された深さが既知である対象物が存在する地中に向かって地中レーダの電磁波を放射する。その電磁波の反射波を、送信アンテナと一定のアンテナ間隔で地面に配置された受信アンテナで受信する。次いで、送信アンテナと受信アンテナとの配置のうち送信アンテナ又は受信アンテナのうち少なくとも一方の位置が異なる複数の配置において受信アンテナで各々受信された反射波の強度を加算する。次いで、反射波の強度の加算の結果に基づいて、対象物からの反射波の到達時間を判断する。次いで、到達時間の判断の結果と対象物の深さとアンテナ間隔とを使用して、土壌の比誘電率を算出する。これにより、土壌に存在する不要散乱体による反射波の影響を軽減して土壌の比誘電率を算出することができる。よって、地中レーダを使用した比誘電率の測定の精度を向上させることができる。
第1の実施形態によれば、対象物の真上の地面に中心が存在する同一円周上に、送信アンテナと受信アンテナとを配置する。これにより、送信アンテナから放射されて対象物の一点で反射された反射波を、複数の位置で受信することを容易に実現できる。
(第2の実施形態)
図11、図12を参照し、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態においても、上述の第1の実施形態と同様に、図1に示す地中のマンホール100が測定対象である。
図11は、第2の実施形態の地中レーダ装置200の構成を示す。図11に示す地中レーダ装置200は、送信部210と、受信部230と、1つのアンテナ対「A1対:送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2との組」と、を備える。上述の図9に示す第1の実施形態の地中レーダ装置130では、4つのアンテナ対「A1対:送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2との組」と「A2対:送信アンテナA2−1と受信アンテナA2−2との組」と「A3対:送信アンテナA3−1と受信アンテナA3−2との組」と「A4対:送信アンテナA4−1と受信アンテナA4−2との組」とを備え、各アンテナ対の送信アンテナと受信アンテナとを、上記の図3に示されるように、同一の円111の円周上に配置した。本実施形態では、アンテナ対として「A1対:送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2との組」のみを備え、送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2とを、上記の図3に示される各アンテナ対の位置に順次移動させて測定を実施する。図11中には、A2対とA3対とA4対とについての送信アンテナと受信アンテナとの各々の位置をカッコ書きで示す。
送信部210は、送信制御部211と電磁波生成部212とアンテナ位置制御部213とを備える。受信部230は、受信検出部231と受信情報記録部232と受信合成部233と比較部234と不要散乱波除去・誘電率算出部235と校正・受信信号再処理部236とを備える。
送信部210において、送信制御部211は、地中レーダの電磁波の送信の指示を、電磁波生成部212とアンテナ位置制御部213とへ出す。電磁波生成部212は、送信アンテナA1−1に接続される。電磁波生成部212は、送信制御部211からの指示と、アンテナ位置制御部213からのアンテナ位置情報の入力とにより、送信アンテナA1−1へ電磁波を出力する。アンテナ位置制御部213は、送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2とを、上記の図3に示される各アンテナ対の位置に順次移動させる。アンテナ位置制御部213は、送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2とを上記の図3に示される各アンテナ対の位置のうち測定位置に移動させたら、当該測定位置を示すアンテナ位置情報を電磁波生成部212と受信部230へ出力する。受信部230に入力されたアンテナ位置情報は、受信情報記録部232と比較部234とに入力される。この送信部210により、上記の図3に示される各アンテナ対の位置のうちアンテナ位置情報で示される測定位置の送信アンテナA1−1から、地中に向かって地中レーダの電磁波が放射される。また、その測定位置が順次移動される。
なお、送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2との移動は、図11に図示されないアンテナ移動装置によって自動的に行われてもよく、又は、アンテナ位置制御部213からの移動の指示に従って人手で行われてもよい。
受信部230において、受信検出部231は、受信アンテナA1−2に接続される。受信検出部231は、受信アンテナA1−2で受信された信号から、地中レーダの電磁波を検出する。受信検出部231で検出された地中レーダの電磁波の受信信号は、受信情報記録部232と比較部234とへ出力される。
受信情報記録部232は、受信検出部231から入力された受信信号を、送信部210から受信部230に入力されたアンテナ位置情報に関連付けて記録する。受信合成部233は、受信情報記録部232に記録されたアンテナ位置情報と受信信号とを使用して、アンテナ位置情報で示される測定位置の各々の受信信号を合成する。この受信信号の合成では、上述の第1の実施形態と同様に、上記の図3に示される4つのアンテナ対の受信アンテナA1−2,A2−2,A3−2,A4−2の測定位置の各々の受信信号の反射強度(I)を、時間毎に加算する。この反射強度(I)の加算では、時間軸の合せを、深さが既知である埋設物の反射、ここではマンホール100の上床板のコンクリート表面(深さd)による反射の時間で合わせる。
比較部234は、受信情報記録部232に記録されたアンテナ位置情報と受信信号とを使用して、アンテナ位置情報で示される測定位置の各々の受信信号についての相互比較を行う。この比較の結果、受信信号が異常であることを判定するための予め定められた異常判定条件を満足する受信信号が存在する場合、比較部234は、当該受信信号の測定位置を受信合成部233へ通知する。受信合成部233は、比較部234から通知された測定位置の受信信号を、上述の受信信号の合成の対象から除外する。この理由は、上述の第1の実施形態の比較部173についての説明と同じである。
不要散乱波除去・誘電率算出部235は、受信合成部233による受信信号の合成の結果から不要散乱波を除去し、不要散乱波の除去の結果に基づいて比誘電率を計算する。この比誘電率の計算方法は、上述の第1の実施形態と同じである。校正・受信信号再処理部236は、不要散乱波除去・誘電率算出部235により算出された比誘電率を使用して校正を行う。校正・受信信号再処理部236は、校正の結果に基づいて受信信号の再処理を行う。
図12を参照して、図11に示される地中レーダ装置200の動作を説明する。図12は、本実施形態の地中レーダ測定方法のフローチャートである。
(ステップS201)アンテナ位置制御部213が、最初の測定位置に送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2を配置させる。最初の測定位置として例えばA1対の位置とする。受信情報記録部232が、アンテナ位置情報により最初の測定位置を記録する。
(ステップS202)電磁波生成部212が、送信アンテナA1−1へ電磁波を出力する。これにより、測定位置に設定された送信アンテナA1−1から地中に向かって地中レーダの電磁波が放射される。
(ステップS203)受信検出部231が、受信アンテナA1−2により地中レーダの電磁波である反射波を受信する。
(ステップS204)受信情報記録部232が、受信検出部231により受信された反射波の受信信号を記録する。なお、同じ測定位置から複数回の電磁波放射が行われる場合には、各回で受信検出部231により受信された反射波の受信信号を合成し、合成した結果を記録する。
(ステップS205)アンテナ位置制御部213は、上記の図3に示される4つのアンテナ対の位置の全てで、送信アンテナA1−1からの電磁波の放射が完了したかを判断する。この結果、完了した場合にはステップS208へ進む。一方、未完了である場合にはステップS206へ進む。
(ステップS206)受信情報記録部232が、ステップS204で記録した受信信号に測定位置を関連づけて記録する。
(ステップS207)アンテナ位置制御部213が、送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2とを次の測定位置に移動させる。例えば図11に示されるように、A1対の位置からA2対の位置、つまり図11中の(A2−1)と(A2−2)の位置に、送信アンテナA1−1と受信アンテナA1−2とを移動させる。受信情報記録部232が、アンテナ位置情報により次の測定位置を記録する。この後、ステップS202へ戻る。
(ステップS208)受信合成部233は、受信情報記録部232に記録された各測定位置の受信信号を合成する。受信合成部233は、合成した結果から不要散乱体による反射波である不要散乱波を除去する。
(ステップS209)比較部234は、ステップS208による不要散乱波の除去の結果から得られる「マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射の時間(比較対象時間)」に基づいて、受信情報記録部232に記録された各測定位置の受信信号の比較評価を行う。各測定位置の受信信号における「マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射の時間」が、比較対象時間に対して、大きく異なるかを判断する。この比較評価の方法は、上述の第1の実施形態の図10のステップS107の方法と同じである。比較評価の結果、比較対象時間に対して大きく異なる場合には、比較部234は、比較対象時間に対して大きく異なると判断された測定位置を受信合成部233へ通知する。この通知を受けた受信合成部233は、通知された測定位置を受信信号の合成の対象から除外して、受信情報記録部232に記録された各測定位置の受信信号の合成を行う。この受信信号の合成の結果が以降の処理に使用される。
なお、比較部234から、受信信号の合成の対象から除外する測定位置の通知がない場合には、受信合成部233は、ステップS209での受信信号の合成を行わない。この場合、ステップS208による受信信号の合成の結果が以降の処理に使用される。
(ステップS210)不要散乱波除去・誘電率算出部235は、受信合成部233による受信信号の合成の結果から不要散乱波を除去し、不要散乱波の除去の結果に基づいて比誘電率を計算する。
(ステップS211)校正・受信信号再処理部236は、不要散乱波除去・誘電率算出部235により算出された比誘電率を使用して校正を行う。校正・受信信号再処理部236は、校正の結果に基づいて反射波の受信信号の再処理を行う。
(ステップS212、S213)地中レーダ装置200は、校正・受信信号再処理部236により再処理された反射波の受信信号から埋設物の位置や状況を計算する。地中レーダ装置200は計算された埋設物の位置や状況を表示する。
上述した第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、土壌に存在する不要散乱体による反射波の影響を軽減して土壌の比誘電率を算出することができる。よって、地中レーダを使用した比誘電率の測定の精度を向上させることができる。さらに、第2の実施形態と同様に、送信アンテナから放射されて対象物の一点で反射された反射波を、複数の位置で受信することを容易に実現できる。
さらに第2の実施形態によれば、対象物の真上の地面に中心が存在する同一円周上で1対の送信アンテナと受信アンテナとを移動させる。これにより、1対の送信アンテナと受信アンテナのみを備えればよいので、コストの軽減を図ることができる。
(第3の実施形態)
図13から図22を参照し、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態においても、上述の第1の実施形態と同様に、図1に示す地中のマンホール100が測定対象である。
図13は、本実施形態の送信アンテナと受信アンテナとの移動の例を示す鳥瞰図である。本実施形態では、1つのアンテナ対「Aa対:送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2との組」のみを備え、送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2とを、各測定位置に順次移動させて測定を実施する。図13中には、3つの測定位置として、送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2とが示される「Aa対」の位置と、カッコ書きで示される「Ab対:送信アンテナ位置Ab−1と受信アンテナ位置Ab−2」の位置と、カッコ書きで示される「Ac対:送信アンテナ位置Ac−1と受信アンテナ位置Ac−2」の位置とが示される。
送信アンテナAa−1は同一の線301上を移動する。したがって、送信アンテナAa−1の各測定位置は線301上に存在する。受信アンテナAa−2は同一の線302上を移動する。したがって、受信アンテナAa−2の各測定位置は線301上に存在する。各測定位置において、送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2とのアンテナ間隔はXであり一定である。なお、線301,302は、直線であってもよく、又は、曲線であってもよい。送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2とは地上に配置される。各測定位置は、測定対象である埋設物の範囲内に存在する。図13では、各測定位置は、上記の図1に示すマンホール100の上床板の範囲102又は103内に存在する。地面からマンホール100の上床板のコンクリート表面までの深さはdであり、各測定位置に対して共通である。
図14(a)は、図13に示される3つの測定位置「Aa対」、「Ab対」、「Ac対」での反射波の時間応答の例を示す。図14(a)のグラフにおいて、横軸は時間(t)であり、縦軸は反射強度(I)である。図14(b)は、図14(a)に示される3つの測定位置「Aa対」、「Ab対」、「Ac対」についての反射波の時間応答を合成した結果を示す。図14(b)のグラフにおいて、横軸は時間(t)であり、縦軸は合成反射強度(Ic)である。図14(b)のグラフから、不要散乱成分を除去する処理を実施する。この不要散乱成分の除去処理では、3つの測定位置「Aa対」、「Ab対」、「Ac対」についての各々の反射波の合成により合成反射強度(Ic)として強め合う時間τに現れる反射波の時間応答(実線のグラフ)以外の他の反射波の時間応答(破線のグラフ)を削除する。これにより、図14(b)のグラフから、合成反射強度(Ic)として強め合う時間τとして、コンクリート表面による反射波についての到達時間τが正確に分かる。そして、3つの測定位置「Aa対」、「Ab対」、「Ac対」に共通のアンテナ間隔Xと深さdとから上記の式(4)により伝搬距離lを計算し、該到達時間τと該伝搬距離lとから上記の式(5)により、図13に示される地中の土壌の比誘電率εrを精度よく計算できる。この計算結果の比誘電率εrを使用して地中レーダの校正を行い、該校正後の地中レーダにより、図13に示される地中の測定を精度よく行うことができる。
ここで、図15から図20を参照し、本実施形態の特徴について説明する。図15から図17は、本実施形態の説明図である。図18から図20は、本実施形態と比較する対象の説明図である。
まず図18から図20を参照し、本実施形態と比較する対象を説明する。図18及び図19は、本実施形態と比較する対象の送信アンテナと受信アンテナとの移動の例を示し、図18は鳥瞰図であり、図19は上面図である。図18の送信アンテナと受信アンテナとは、例えば上記の図37(a)に示す場合の送信アンテナと受信アンテナとである。図18及び図19では、1つのアンテナ対である送信アンテナと受信アンテナとを、同一の線331上で移動させる。図18及び図19では、3つの測定位置として、「Ai対:送信アンテナ位置Ai−1と受信アンテナ位置Ai−2」の位置と、「Aii対:送信アンテナ位置Aii−1と受信アンテナ位置Aii−2」の位置と、「Aiii対:送信アンテナ位置Aiii−1と受信アンテナ位置Aiii−2」の位置と、が示される。各測定位置において、送信アンテナと受信アンテナとのアンテナ間隔は同じである。各測定位置は、地中に埋設された対象物(水平な埋設板)の真上に存在する。図18及び図19には、各測定位置について、対象物による反射波(電磁波)の伝搬経路が実線矢印で示され、不要散乱体による反射波(電磁波)の伝搬経路が破線矢印で示される。
図19において、一点鎖線の楕円は、各測定位置についての対象物による反射の伝搬経路で等距離であることを示す。破線の楕円は、一点鎖線の楕円に比して伝搬距離は長く、各測定位置についての不要散乱体による反射の伝搬経路で等距離の範囲を示す。そして、各測定位置についての破線の楕円が重なるポイントに不要散乱体が示されている。
図20は、図18及び図19の各測定位置での反射波の時間応答を合成した結果を示す。図20のグラフにおいて、横軸は時間(t)であり、縦軸は合成反射強度(Ic)である。対象物での反射については、対象物が水平な埋設板であるので、各測定位置において反射波の到達時間はτ2で同じである。しかし、図20に示されるように、対象物による反射波も不要散乱体による反射波(不要散乱)も、合成の結果により合成反射強度(Ic)として強めあう。このため、不要散乱に関する時間τ1と対象物に関する時間τ2とで、どちらの時間が対象物による反射波の到達時間であるのかが判断できなくなる。
次に図15から図17を参照し、本実施形態を説明する。図15及び図16は、本実施形態の送信アンテナと受信アンテナとの移動の例を示し、図15は鳥瞰図であり、図16は上面図である。図15及び図16では、上記の図13のように、1つのアンテナ対の送信アンテナと受信アンテナとのうち、送信アンテナを線301上で移動させ、受信アンテナを線302上で移動させる。図15及び図16では、3つの測定位置として、「Aa対:送信アンテナ位置Aa−1と受信アンテナ位置Aa−2」の位置と、「Ab対:送信アンテナ位置Ab−1と受信アンテナ位置Ab−2」の位置と、「Ac対:送信アンテナ位置Ac−1と受信アンテナ位置Ac−2」の位置と、が示される。各測定位置において、送信アンテナと受信アンテナとのアンテナ間隔は同じである。各測定位置は、地中に埋設された対象物(水平な埋設板)の真上に存在する。図15及び図16には、各測定位置について、対象物による反射波(電磁波)の伝搬経路が実線矢印で示され、不要散乱体による反射波(電磁波)の伝搬経路が破線矢印で示される。
図16において、一点鎖線の楕円は、各測定位置についての対象物による反射の伝搬経路で等距離であることを示す。破線の楕円は、各測定位置についての不要散乱体による反射の伝搬経路で等距離の範囲を示す。破線の楕円は、一点鎖線の楕円に比して伝搬経路が長い。本実施形態の場合、図16に示されるように、不要散乱体による反射波の伝搬距離は、各測定位置に応じて大きく変動する。例えば、Ab対の測定位置では、Aa対の測定位置及びAc対の測定位置に比して、不要散乱体による反射波の伝搬距離は短い。この不要散乱体による反射波の伝搬距離の変動は、本実施形態による測定位置の移動方法によって生じるものである。
図17は、図15及び図16の各測定位置での反射波の時間応答を合成した結果を示す。図17のグラフにおいて、横軸は時間(t)であり、縦軸は合成反射強度(Ic)である。対象物での反射については、対象物が水平な埋設板であるので、各測定位置において反射波の到達時間はτで同じである。他方、不要散乱体による反射波(不要散乱)については、上述したように各測定位置で伝搬距離が変動するため、到達時間がばらつくことになる。これにより、対象物による反射波は合成の結果により合成反射強度(Ic)として顕著に強めあうことになるので、対象物による反射波の到達時間が時間τであることを判断することができる。
図21は、第3の実施形態の地中レーダ装置350の構成を示す。図21に示す地中レーダ装置350は、送信部360と、受信部380と、1つのアンテナ対「Aa対:送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2との組」と、を備える。本実施形態では、アンテナ対として「Aa対:送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2との組」のみを備え、送信アンテナAa−1を線301上で、受信アンテナAa−2を線302上で、それぞれに各測定位置に順次移動させて測定を実施する。図21中には、3つの測定位置として、送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2とが示される「Aa対」の位置と、カッコ書きで示される「Ab対:送信アンテナ位置Ab−1と受信アンテナ位置Ab−2」の位置と、カッコ書きで示される「Ac対:送信アンテナ位置Ac−1と受信アンテナ位置Ac−2」の位置とが示される。各測定位置は、測定対象である埋設物の範囲、ここでは上記の図1に示すマンホール100の上床板の範囲102又は103「長さ「L/2−a」で幅Wの矩形状」内に存在する。
送信部360は、送信制御部361と電磁波生成部362とアンテナ位置制御部363とを備える。受信部380は、受信検出部381と受信情報記録部382と受信合成部383と比較部384と不要散乱波除去・誘電率算出部385と校正・受信信号再処理部386とを備える。
送信部360において、送信制御部361は、地中レーダの電磁波の送信の指示を、電磁波生成部362とアンテナ位置制御部363とへ出す。電磁波生成部362は、送信アンテナAa−1に接続される。電磁波生成部362は、送信制御部361からの指示と、アンテナ位置制御部363からのアンテナ位置情報の入力とにより、送信アンテナAa−1へ電磁波を出力する。アンテナ位置制御部363は、送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2とを、各測定位置に順次移動させる。アンテナ位置制御部363は、送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2とを測定位置に移動させたら、当該測定位置を示すアンテナ位置情報を電磁波生成部362と受信部380へ出力する。受信部380に入力されたアンテナ位置情報は、受信情報記録部382と比較部384とに入力される。この送信部360により、各測定位置のうちアンテナ位置情報で示される測定位置の送信アンテナAa−1から、地中に向かって地中レーダの電磁波が放射される。また、その測定位置が順次移動される。
なお、送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2との移動は、図21に図示されないアンテナ移動装置によって自動的に行われてもよく、又は、アンテナ位置制御部363からの移動の指示に従って人手で行われてもよい。
受信部380において、受信検出部381は、受信アンテナAa−2に接続される。受信検出部381は、受信アンテナAa−2で受信された信号から、地中レーダの電磁波を検出する。受信検出部381で検出された地中レーダの電磁波の受信信号は、受信情報記録部382と比較部384とへ出力される。
受信情報記録部382は、受信検出部381から入力された受信信号を、送信部360から受信部380に入力されたアンテナ位置情報に関連付けて記録する。受信合成部383は、受信情報記録部382に記録されたアンテナ位置情報と受信信号とを使用して、アンテナ位置情報で示される測定位置の各々の受信信号を合成する。この受信信号の合成では、上述の第1の実施形態と同様に、各測定位置の受信信号の反射強度(I)を、時間毎に加算する。この反射強度(I)の加算では、時間軸の合せを、深さが既知である埋設物の反射、ここでは上記の図1に示すマンホール100の上床板のコンクリート表面(深さd)による反射の時間で合わせる。
比較部384は、受信情報記録部382に記録されたアンテナ位置情報と受信信号とを使用して、アンテナ位置情報で示される測定位置の各々の受信信号についての相互比較を行う。この比較の結果、受信信号が異常であることを判定するための予め定められた異常判定条件を満足する受信信号が存在する場合、比較部384は、当該受信信号の測定位置を受信合成部383へ通知する。受信合成部383は、比較部384から通知された測定位置の受信信号を、上述の受信信号の合成の対象から除外する。この理由は、上述の第1の実施形態の比較部173についての説明と同じである。
不要散乱波除去・誘電率算出部385は、受信合成部383による受信信号の合成の結果から不要散乱波を除去し、不要散乱波の除去の結果に基づいて比誘電率を計算する。この比誘電率の計算方法は、上述の第1の実施形態と同じである。校正・受信信号再処理部386は、不要散乱波除去・誘電率算出部385により算出された比誘電率を使用して校正を行う。校正・受信信号再処理部386は、校正の結果に基づいて受信信号の再処理を行う。
図22を参照して、図21に示される地中レーダ装置350の動作を説明する。図22は、本実施形態の地中レーダ測定方法のフローチャートである。
(ステップS301)アンテナ位置制御部363が、最初の測定位置に送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2を配置させる。最初の測定位置として例えばAa対の位置とする。受信情報記録部382が、アンテナ位置情報により最初の測定位置を記録する。
(ステップS302)電磁波生成部362が、送信アンテナAa−1へ電磁波を出力する。これにより、測定位置に設定された送信アンテナAa−1から地中に向かって地中レーダの電磁波が放射される。
(ステップS303)受信検出部381が、受信アンテナAa−2により地中レーダの電磁波である反射波を受信する。
(ステップS304)受信情報記録部382が、受信検出部381により受信された反射波の受信信号を記録する。なお、同じ測定位置から複数回の電磁波放射が行われる場合には、各回で受信検出部381により受信された反射波の受信信号を合成し、合成した結果を記録する。
(ステップS305)アンテナ位置制御部363は、「Aa対」の位置と「Ab対」の位置と「Ac対」の位置との全てで、送信アンテナAa−1からの電磁波の放射が完了したかを判断する。この結果、完了した場合にはステップS308へ進む。一方、未完了である場合にはステップS306へ進む。
(ステップS306)受信情報記録部382が、ステップS304で記録した受信信号に測定位置を関連づけて記録する。
(ステップS307)アンテナ位置制御部363が、送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2とを次の測定位置に移動させる。例えば図21に示されるように、Aa対の位置からAb対の位置、つまり送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2の位置からそれぞれ(Ab−1)と(Ab−2)の位置に、送信アンテナAa−1と受信アンテナAa−2とを移動させる。受信情報記録部382が、アンテナ位置情報により次の測定位置を記録する。この後、ステップS302へ戻る。
(ステップS308)受信合成部383は、受信情報記録部382に記録された各測定位置の受信信号を合成する。受信合成部383は、合成した結果から不要散乱体による反射波である不要散乱波を除去する。
(ステップS309)比較部384は、ステップS308による不要散乱波の除去の結果から得られる「マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射の時間(比較対象時間)」に基づいて、受信情報記録部382に記録された各測定位置の受信信号の比較評価を行う。各測定位置の受信信号における「マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射の時間」が、比較対象時間に対して、大きく異なるかを判断する。この比較評価の方法は、上述の第1の実施形態の図10のステップS107の方法と同じである。比較評価の結果、比較対象時間に対して大きく異なる場合には、比較部384は、比較対象時間に対して大きく異なると判断された測定位置を受信合成部383へ通知する。この通知を受けた受信合成部383は、通知された測定位置を受信信号の合成の対象から除外して、受信情報記録部382に記録された各測定位置の受信信号の合成を行う。この受信信号の合成の結果が以降の処理に使用される。
なお、比較部384から、受信信号の合成の対象から除外する測定位置の通知がない場合には、受信合成部383は、ステップS309での受信信号の合成を行わない。この場合、ステップS308による受信信号の合成の結果が以降の処理に使用される。
(ステップS310)不要散乱波除去・誘電率算出部385は、受信合成部383による受信信号の合成の結果から不要散乱波を除去し、不要散乱波の除去の結果に基づいて比誘電率を計算する。
(ステップS311)校正・受信信号再処理部386は、不要散乱波除去・誘電率算出部385により算出された比誘電率を使用して校正を行う。校正・受信信号再処理部386は、校正の結果に基づいて反射波の受信信号の再処理を行う。
(ステップS312、S313)地中レーダ装置350は、校正・受信信号再処理部386により再処理された反射波の受信信号から埋設物の位置や状況を計算する。地中レーダ装置350は計算された埋設物の位置や状況を表示する。
次に図23から図28を参照し、第3の実施形態の変形例を説明する。図23から図25は、第3の実施形態の変形例の説明図である。図23(a)、図24(a)、図25(a)は、送信アンテナと受信アンテナとの配置の例を示す平面図である。図23(b)、図24(b)、図25(b)は、送信アンテナと受信アンテナとの配置の例を示す鳥瞰図である。本変形例では、送信アンテナの位置をAo−1に固定する。受信アンテナは、送信アンテナの位置Ao−1が中心である円390の円周上を移動させる。本変形例では、受信アンテナを、中心角として30度ずつ移動させて測定を実施する。図23には、受信アンテナの最初(1番目)の測定位置として、測定位置Aa−2が示される。図24には、受信アンテナの2番目の測定位置として、測定位置Ab−2が示される。図25には、受信アンテナの最後(12番目)の測定位置として、測定位置Al−2が示される。
図23(b)、図24(b)、図25(b)に示されるように、位置Ao−1の送信アンテナから地中に向かって放射された地中レーダの電磁波は、位置Ao−1が中心であり且つ送信アンテナと受信アンテナとのアンテナ間隔の半分の長さ(つまり、円390の半径の半分の長さ)が半径である円の円周上で反射されて、受信アンテナの各測定位置Aa−2、Ab−2、・・・、Al−2で受信される。
図23から図25の第3の実施形態の変形例においても、上記の図21の地中レーダ装置350と同様の装置構成であり、また、上記の図22の地中レーダ測定方法と同様の地中レーダ測定方法である。但し、アンテナ位置制御部363は、受信アンテナの位置を、1番目の測定位置Aa−2から12番目の測定位置Al−2まで順次移動させる。そして、電磁波生成部362は、アンテナ位置情報の入力により、各測定位置Aa−2、Ab−2、・・・、Al−2に受信アンテナが配置されてから、位置Ao−1の送信アンテナに電磁波を出力し、送信アンテナから地中に向かって地中レーダの電磁波を放射させる。
図26から図28を参照し、上述した第3の実施形態の変形例の特徴について説明する。図26から図28は、上述した第3の実施形態の変形例の説明図である。図26及び図27は、第3の実施形態の変形例の送信アンテナと受信アンテナとの配置を示し、図26は鳥瞰図であり、図27は上面図である。
図26及び図27において、送信アンテナは位置Ao−1に固定される。受信アンテナの各測定位置Aa−2、Ab−2、・・・、Al−2は、送信アンテナの位置Ao−1が中心である円390の円周上に存在する。したがって、受信アンテナの各測定位置において、送信アンテナと受信アンテナとのアンテナ間隔は、円390の半径の長さであり同じである。送信アンテナの位置Ao−1と受信アンテナの各測定位置Aa−2、Ab−2、・・・、Al−2とは、地中に埋設された対象物(水平な埋設板)の真上に存在する。図26及び図27には、対象物による反射波(電磁波)の伝搬経路が実線矢印で示され、不要散乱体による反射波(電磁波)の伝搬経路が破線矢印で示される。
図27において、一点鎖線は、受信アンテナの各測定位置についての対象物による反射の伝搬経路で等距離であることを示す。しかし、不要散乱体による反射波の伝搬距離は、受信アンテナの各測定位置に応じて大きく変動する。例えば、受信アンテナの測定位置Ai−2では、受信アンテナの測定位置Aa−2に比して、不要散乱体による反射波の伝搬距離は短い。受信アンテナの測定位置Ad−2では、不要散乱体による反射波の伝搬距離がさらに長く最長となる。この不要散乱体による反射波の伝搬距離の変動は、第3の実施形態の変形例による測定位置の移動方法によって生じるものである。
図28は、図26及び図27の受信アンテナの各測定位置での反射波の時間応答を合成した結果を示す。図28のグラフにおいて、横軸は時間(t)であり、縦軸は合成反射強度(Ic)である。対象物での反射については、対象物が水平な埋設板であるので、受信アンテナの各測定位置において反射波の到達時間はτで同じである。他方、不要散乱体による反射波(不要散乱)については、上述したように受信アンテナの各測定位置で伝搬距離が変動するため、到達時間がばらつくことになる。これにより、対象物による反射波は合成の結果により合成反射強度(Ic)として顕著に強めあうことになるので、対象物による反射波の到達時間が時間τであることを判断することができる。
なお、上記の図23から図25では、送信アンテナを円390の中心の位置として固定し、受信アンテナを円390の円周上で移動させたが、移動方法をその逆にしてもよい。すなわち、受信アンテナを円390の中心の位置として固定し、送信アンテナを円390の円周上で移動させてもよい。
上述した第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、土壌に存在する不要散乱体による反射波の影響を軽減して土壌の比誘電率を算出することができる。よって、地中レーダを使用した比誘電率の測定の精度を向上させることができる。
さらに第3の実施形態によれば、送信アンテナと受信アンテナとを各々異なる線上に配置する。これにより、送信アンテナから放射されて対象物の複数の位置で各々反射された反射波を別個に受信することができる。
(第4の実施形態)
図29及び図30を参照し、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態においても、上述の第1の実施形態と同様に、図1に示す地中のマンホール100が測定対象である。
図29は、第4の実施形態の地中レーダ測定方法の説明図である。第4の実施形態では、同一の測定対象に対して、送信アンテナと受信アンテナとのアンテナ間隔を変えて測定を実施する。図29(a)には、最初(1番目)のアンテナ間隔Xαと、マンホール100の上床板のコンクリート表面(深さd)による反射波の伝搬距離lαとが示される。図29(b)には、2番目のアンテナ間隔Xβとマンホール100の上床板のコンクリート表面(深さd)による反射波の伝搬距離lβとが示される。図29(c)には、最後(3番目)のアンテナ間隔Xγとマンホール100の上床板のコンクリート表面(深さd)による反射波の伝搬距離lγとが示される。各アンテナ間隔の大小関係は「Xα<Xβ<Xγ」である。また、各アンテナ間隔で深さdは共通で同じである。これにより、各アンテナ間隔での伝搬距離の大小関係は「lα<lβ<lγ」となる。
図29(d)には、最初(1番目)のアンテナ間隔Xαでの反射波の時間応答の例を示す。アンテナ間隔Xαではマンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波の到達時間はταである。図29(e)には、2番目のアンテナ間隔Xβでの反射波の時間応答の例を示す。アンテナ間隔Xβではマンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波の到達時間はτβである。図29(f)には、最後(3番目)のアンテナ間隔Xγでの反射波の時間応答の例を示す。アンテナ間隔Xγではマンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波の到達時間はτγである。各アンテナ間隔で深さdは共通で同じであるので、各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγに応じて、送信アンテナから放射された電磁波の伝搬距離lα,lβ,lγが変わる。これにより、各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγに応じて、マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波の到達時間τα,τβ,τγが変わる。各アンテナ間隔での到達時間の大小関係は「τα<τβ<τγ」となる。
図29(g)は、図29(d),(e),(f)の各アンテナ間隔での反射波の時間応答を合成した結果を示す。この反射波の合成処理では、時間軸を、各アンテナ間隔に応じて調整する。各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγと共通の深さdとから、上記の式(4)により、伝搬距離lα,lβ,lγを計算することができる。このことから、各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγに応じて、各アンテナ間隔での反射波における時間軸の合せを、マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射の時間で合わせる。この結果、図29(g)に示されるように、各到達時間τα,τβ,τγにおける、マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波が重なり合い、合成反射強度(Ic)として強めあう結果となる。これにより、不要散乱体による反射波についての成分(不要散乱成分)を容易に区別し分離することができるので、マンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波についての成分のみを抽出することができ、アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγの各々に対応する到達時間τα,τβ,τγが正確に分かる。よって、アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγの各々に対応する到達時間τα,τβ,τγと伝搬距離lα,lβ,lγとから、上記の式(5)により、土壌の比誘電率εrを精度よく計算できる。この計算結果の比誘電率εrを使用して地中レーダの校正を行うことにより、地中レーダによる測定の精度を向上させることができる。
図30は、第4の実施形態の地中レーダ装置400の構成を示す。図30に示す地中レーダ装置400は、送信部410と、受信部430と、3つのアンテナ対「アンテナ間隔Xαの送信アンテナと受信アンテナとの組」と「アンテナ間隔Xβの送信アンテナと受信アンテナとの組」と「アンテナ間隔Xγの送信アンテナと受信アンテナとの組」と、を備える。各アンテナ対の送信アンテナと受信アンテナとは、測定対象である埋設物の範囲、ここでは上記の図1に示すマンホール100の上床板の範囲102又は103「長さ「L/2−a」で幅Wの矩形状」内で、地上に配置される。送信部410は、送信選択制御部411と電磁波生成部412とを備える。受信部430は、受信検出部431と受信合成部432と比較部433と不要散乱波除去・誘電率算出部434と校正・受信信号再処理部435とを備える。
送信部410において、送信選択制御部411は、3つのアンテナ対の「アンテナ間隔Xαの送信アンテナ」と「アンテナ間隔Xβの送信アンテナ」と「アンテナ間隔Xγの送信アンテナ」との中から電磁波を放射させる送信アンテナを順次選択する。送信選択制御部411は、選択した送信アンテナのアンテナ間隔を示すアンテナ間隔情報を、電磁波生成部412と受信部430へ出力する。受信部430に入力された選択信号は、受信合成部432と比較部433とに入力される。電磁波生成部412は、3つのアンテナ対の「アンテナ間隔Xαの送信アンテナ」と「アンテナ間隔Xβの送信アンテナ」と「アンテナ間隔Xγの送信アンテナ」との各々に接続される。電磁波生成部412は、送信選択制御部411から入力されたアンテナ間隔情報で示されるアンテナ間隔の送信アンテナへ、電磁波を出力する。これにより、送信選択制御部411によるアンテナ間隔情報で示されるアンテナ間隔の送信アンテナから地中に向かって地中レーダの電磁波が放射される。
受信部430において、受信検出部431は、3つのアンテナ対の「アンテナ間隔Xαの受信アンテナ」と「アンテナ間隔Xβの受信アンテナ」と「アンテナ間隔Xγの受信アンテナ」との各々に接続される。受信検出部431は、各アンテナ間隔の受信アンテナで受信された信号から、各アンテナ間隔の受信アンテナごとに地中レーダの電磁波を検出する。受信検出部431で各アンテナ間隔の受信アンテナごとに検出された地中レーダの電磁波の受信信号は、アンテナ間隔の別に、受信合成部432と比較部433とへ出力される。
受信合成部432は、受信検出部171から入力された各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγでの受信信号のうち、送信選択制御部411から入力されたアンテナ間隔情報で示されるアンテナ間隔での受信信号を記録する。受信合成部432は、各々記録された各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγでの受信信号を合成する。この受信信号の合成では、上記の図29により説明したように、各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγに応じて時間軸を調整し、各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγで受信信号の反射強度(I)を時間毎に加算する。
比較部433は、受信検出部431から入力された各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγでの受信信号のうち、送信選択制御部411から入力されたアンテナ間隔情報で示されるアンテナ間隔での受信信号を記録する。比較部433は、各々記録された各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγでの受信信号についての相互比較を行う。この比較の結果、受信信号が異常であることを判定するための予め定められた異常判定条件を満足する受信信号が存在する場合、比較部433は、当該受信信号のアンテナ間隔を受信合成部432へ通知する。受信合成部432は、比較部433から通知されたアンテナ間隔での受信信号を、上述の受信信号の合成の対象から除外する。この理由は、上述の第1の実施形態の比較部173についての説明と同じである。
不要散乱波除去・誘電率算出部434は、受信合成部432による受信信号の合成の結果から不要散乱波を除去し、不要散乱波の除去の結果に基づいて比誘電率を計算する。この比誘電率の計算方法は、上述の第1の実施形態と同じである。校正・受信信号再処理部435は、不要散乱波除去・誘電率算出部434により算出された比誘電率を使用して校正を行う。校正・受信信号再処理部435は、校正の結果に基づいて受信信号の再処理を行う。
次に図31から図34を参照し、第4の実施形態の変形例を説明する。図31から図33は、第4の実施形態の変形例の説明図である。図31(a)、図32(a)、図33(a)は、送信アンテナと受信アンテナとの配置の例を示す平面図である。図31(b)、図32(b)、図33(b)は、送信アンテナと受信アンテナとの配置の例を示す鳥瞰図である。本変形例では、3つのアンテナ対の各々の送信アンテナと受信アンテナとを、アンテナ間隔が直径である同一円(円の中心451)の円周上に配置する。
図31では、アンテナ間隔Xαが直径である同一円の円周上に、3つの組の各々の送信アンテナと受信アンテナとの測定位置を設ける。図31では、送信アンテナの位置A1−1と受信アンテナの位置A1−2との組と、送信アンテナの位置A2−1と受信アンテナの位置A2−2との組と、送信アンテナの位置A3−1と受信アンテナの位置A3−2との組と、の3つの組で各々測定が実施される。図32では、アンテナ間隔Xβが直径である同一円の円周上に、3つの組の各々の送信アンテナと受信アンテナとの測定位置が設けられる。図32では、送信アンテナの位置A4−1と受信アンテナの位置A4−2との組と、送信アンテナの位置A5−1と受信アンテナの位置A5−2との組と、送信アンテナの位置A6−1と受信アンテナの位置A6−2との組と、の3つの組で各々測定が実施される。図33では、アンテナ間隔Xγが直径である同一円の円周上に、3つ組の各々の送信アンテナと受信アンテナとの測定位置を設ける。図33では、送信アンテナの位置A7−1と受信アンテナの位置A7−2との組と、送信アンテナの位置A8−1と受信アンテナの位置A8−2との組と、送信アンテナの位置A9−1と受信アンテナの位置A9−2との組と、の3つの組で各々測定が実施される。
例えば、最初に図31に示すアンテナ間隔Xαの3組の配置の各々に送信アンテナと受信アンテナとを順次配置し、各配置で順次測定を実施する。2番目に図32に示すアンテナ間隔Xβの3組の配置の各々に送信アンテナと受信アンテナとを順次配置し、各配置で順次測定を実施する。最後に図33に示すアンテナ間隔Xγの3組の配置の各々に送信アンテナと受信アンテナとを順次配置し、各配置で順次測定を実施する。
なお、各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγでの送信アンテナと受信アンテナとの配置は、全て、測定対象である埋設物の範囲、ここでは上記の図1に示すマンホール100の上床板の範囲102又は103「長さ「L/2−a」で幅Wの矩形状」内で、地上に配置される。
図34を参照して、第4の実施形態の変形例の地中レーダ測定方法を説明する。図34は、第4の実施形態の変形例の地中レーダ測定方法のフローチャートである。ここでは、1対の送信アンテナと受信アンテナのみを使用し、図31から図33に示される各配置に1対の送信アンテナと受信アンテナを順次移動させて各配置での測定を順次実施する。また、各配置の測定の順番は、まず円の中心451からの方位を固定して各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγでの測定を実施し、全アンテナ間隔の測定後に次の方位に固定して各アンテナ間隔Xα,Xβ,Xγでの測定を実施していく。
(ステップS401)1対の送信アンテナと受信アンテナとを最初の方位、最初のアンテナ間隔で配置する。
(ステップS402)測定位置の送信アンテナから地中に向かって地中レーダの電磁波を放射する。
(ステップS403)測定位置の受信アンテナにより地中レーダの電磁波である反射波を受信する。
(ステップS404)測定位置の受信アンテナにより受信された反射波の受信信号を記録する。なお、同じ測定位置から複数回の電磁波放射が行われる場合には、各回で受信された反射波の受信信号を合成し、合成した結果を記録する。
(ステップS405)全てのアンテナ間隔で、送信アンテナからの電磁波の放射が完了したかを判断する。この結果、完了した場合にはステップS408へ進む。一方、未完了である場合にはステップS406へ進む。
(ステップS406)ステップS404で記録した受信信号に測定位置を関連づけて記録する。
(ステップS407)送信アンテナと受信アンテナとを、次のアンテナ間隔で配置する。このとき、方位は変えない。この後、ステップS402へ戻る。
(ステップS408)送信アンテナと受信アンテナとを、次の方位で且つ最初のアンテナ間隔で配置する。
(ステップS409)全ての方位で、送信アンテナからの電磁波の放射が完了したかを判断する。この結果、完了した場合にはステップS410へ進む。一方、未完了である場合にはステップS402へ戻る。
(ステップS410)記録された各測定位置の受信信号を合成する。合成した結果から不要散乱体による反射波である不要散乱波を除去する。
(ステップS411)反射波の比較評価を行う。この比較評価の方法は、上述の第1の実施形態の図10のステップS107の方法と同様である。
(ステップS412)受信信号の合成の結果から不要散乱波を除去し、不要散乱波の除去の結果に基づいて比誘電率を計算する。
(ステップS413)算出された比誘電率を使用して校正を行う。校正の結果に基づいて反射波の受信信号の再処理を行う。
(ステップS414、S415)再処理された反射波の受信信号から埋設物の位置や状況を計算する。計算された埋設物の位置や状況を表示する。
上述した第4の実施形態によれば、地面に配置された送信アンテナから、土壌に埋設された深さが既知である対象物が存在する地中に向かって地中レーダの電磁波を放射する。その電磁波の反射波を、送信アンテナと既知のアンテナ間隔で地面に配置された受信アンテナで受信する。次いで、各々異なるアンテナ間隔で配置された複数の受信アンテナで各々受信された反射波の強度を、受信アンテナの各々のアンテナ間隔に応じて時間軸を合わせ、加算する。次いで、反射波の強度の加算の結果に基づいて、対象物からの反射波の到達時間を判断する。次いで、到達時間の判断の結果と対象物の深さとアンテナ間隔とを使用して、土壌の比誘電率を算出する。これにより、土壌に存在する不要散乱体による反射波の影響を軽減して土壌の比誘電率を算出することができる。よって、地中レーダを使用した比誘電率の測定の精度を向上させることができる。さらに、送信アンテナと受信アンテナとのアンテナ間隔を変えて測定することにより、複数のアンテナ間隔での反射波に基づいて比誘電率を算出できる。これにより、比誘電率の測定の精度をさらに向上させることができる。
第4の実施形態によれば、送信アンテナと受信アンテナとの配置のうちアンテナ間隔が同じである複数の異なる配置において受信アンテナで各々受信された反射波の強度を加算する。これにより、同じアンテナ間隔において複数の位置で受信された反射波に基づいて比誘電率を算出できる。これにより、比誘電率の測定の精度をさらに向上させることができる。
なお、上記の図34に示す地中レーダ測定方法のフローチャートでは、送信アンテナと受信アンテナの方位を固定してアンテナ間隔を変えた後、送信アンテナと受信アンテナの方位を変えるようにした。すなわち、図31から図33で具体的にアンテナ位置の移動を示すと、送信アンテナはA1−1、A4−1、A7−1、A2−1、A5−1、A8−1、A3−1、A6−1、A9−1の順番で位置を移動し、受信アンテナは送信アンテナの位置に対応するようにA1−2、A4−2、A7−2、A2−2、A5−2、A8−2、A3−2、A6−2、A9−2の順番で位置を移動する。
このアンテナの位置の移動の仕方とは違い、先に同じアンテナ間隔のままで送信アンテナと受信アンテナの方位を変えて全ての方位に移動させた後、アンテナ間隔を変えるようにしてもよい。この場合、図31から図33におけるアンテナ位置の具体的な移動としては、送信アンテナはA1−1、A2−1、A3−1、A4−1、A5−1、A6−1、A7−1、A8−1、A9−1の順番で位置を移動し、受信アンテナは送信アンテナの位置に対応するようにA1−2、A2−2、A3−2、A4−2、A5−2、A6−2、A7−2、A8−2、A9−2の順番で位置を移動する。
(第5の実施形態)
図35及び図36を参照し、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態は、測定対象の埋設物の深さが未知である場合、例えば、図1に示すマンホール100の深さdが未知である場合の地中レーダ測定方法である。
図35及び図36は、第5の実施形態の説明図である。図35(a)、図36(a)は、送信アンテナと受信アンテナとの配置の例を示す鳥瞰図である。図35(a)では、上記の図31と同様に、アンテナ間隔Xαが直径である同一円の円周上に、3つの組の各々の送信アンテナと受信アンテナとの測定位置を設ける。図36(a)では、上記の図33と同様に、アンテナ間隔Xγが直径である同一円の円周上に、3つの組の各々の送信アンテナと受信アンテナとの測定位置を設ける。
図35(b)は、図35(a)の各測定位置での反射波の時間応答を合成した結果を示す。この合成の結果から、アンテナ間隔Xαに対して、測定対象であるマンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波についての到達時間ταが得られる。図36(b)は、図36(a)の各測定位置での反射波の時間応答を合成した結果を示す。この合成の結果から、アンテナ間隔Xγに対して、測定対象であるマンホール100の上床板のコンクリート表面による反射波についての到達時間τγが得られる。
図35に示すアンテナ間隔Xαの場合、上記の式(4)と式(5)とから、比誘電率εrは次の式(6)で表される。
図36に示すアンテナ間隔Xγの場合、上記の式(4)と式(5)とから、比誘電率εrは次の式(7)で表される。
上記の式(6)と式(7)とにおいて、未知の値は比誘電率εrと深さdである。同じ測定対象であるマンホール100の場合、未知の値である比誘電率εrと深さdとは同じ値である。このことから、上記の式(6)と式(7)とを連立方程式とすることができる。ここで、アンテナ間隔Xα,Xγは既知である。到達時間τα,τγは上述の合成の結果から得られる。これにより、上記の式(6)と式(7)とから、次の式(8)に変形する。
上記の式(8)から、深さdは次の式(9)で表される。
既知のアンテナ間隔Xα,Xγと上述の合成の結果から得られた到達時間τα,τγとを使用して、上記の式(9)により深さdを計算することができる。
また、上記の式(9)と上記の式(5)とから、比誘電率εrは次の式(10)で表される。
既知のアンテナ間隔Xα,Xγと上述の合成の結果から得られた到達時間τα,τγとを使用して、上記の式(10)により比誘電率εrを計算することができる。
上述の第5の実施形態によれば、地面に配置された送信アンテナから、土壌に埋設された対象物が存在する地中に向かって地中レーダの電磁波を放射する。その電磁波の反射波を、送信アンテナと既知のアンテナ間隔で地面に配置された受信アンテナで受信する。次いで、各々異なるアンテナ間隔で配置された複数の受信アンテナで各々受信された反射波の強度を、アンテナ間隔の別に加算する。次いで、反射波の強度の加算の結果に基づいて、アンテナ間隔の別に、対象物からの反射波の到達時間を判断する。次いで、アンテナ間隔の別に判断された到達時間の結果とアンテナ間隔とを使用して、土壌の比誘電率を算出する。これにより、土壌に埋設された対象物の深さが未知である場合でも、土壌に存在する不要散乱体による反射波の影響を軽減して土壌の比誘電率を算出することができる。よって、地中レーダを使用した比誘電率の測定の精度を向上させることができる。また、土壌に埋設された対象物の深さも算出することができる。
なお、3つ以上のアンテナ間隔を使用すると、その組合せの数で連立方程式を立てることができ、組合せ数分の比誘電率を得て該比誘電率を統計的に処理することが可能となる。これにより、比誘電率の精度をより高くすることができる。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、上述の地中レーダ装置は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、あるいはパーソナルコンピュータ等のコンピュータシステムにより構成され、地中レーダ装置の各部の機能を実現するためのプログラムを実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
また、その地中レーダ装置には、周辺機器として入力装置、表示装置等が接続されてもよい。ここで、入力装置とはキーボード、マウス等の入力デバイスのことをいう。表示装置とはCRT(Cathode Ray Tube)や液晶表示装置等のことをいう。また、上記周辺機器については、地中レーダ装置に直接接続するものであってもよく、あるいは通信回線を介して接続するようにしてもよい。