JP6535483B2 - 幼若ホルモンセンサー - Google Patents

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本発明は、生体内外の幼若ホルモンを検出及び定量することのできる幼若ホルモンセンサー、及び該幼若ホルモンセンサーを用いた、幼若ホルモンの生体内動態モニタリング方法及び幼若ホルモン類似体探索方法に関する。
幼若ホルモン(Juvenile Hormone:JH)(以下、本明細書ではしばしば「JH」と表記する)は、昆虫をはじめとする節足動物に固有のホルモンで、卵から成体までの全ステージの生理現象に関与している。JHは、発現後、シグナルペプチド除去等の細胞内輸送を経て、血液中に分泌される。その後、血液中を移動して標的細胞や組織に運ばれ、JH受容体に結合してその機能を発揮する(非特許文献1)。
このJHの分子構造を模したJH類似体(JH様化合物)は、昆虫等の節足動物の変態を効果的に阻害することができる。一方、ヒトをはじめとする哺乳動物に対しては影響がないか、又は極めて低いため、安全性の高い殺虫剤として農薬等の有効成分に利用されている。しかし、薬理効果の高いJH類似体の開発及び探索には技術的な困難を伴うことから、近年では新しいJH類似体が得られていない。一般に、新規JH類似体を効果的かつ効率的に開発するためには、簡便、迅速、かつ高感度にJHを検出及び定量できるハイスループットなリガンドスクリーニング方法が必用となる。しかし、JHをハイスループットでスクリーニングする方法は、現在まで確立していない。
従来、JHの検出及び定量には、高速液体クロマトグラフ−質量分析(LC-MS)法(非特許文献2及び3)、ラジオアイソトープ(RI)法(非特許文献4)、又は電気化学インピーダンス分光(EIS)法(非特許文献5)が使用されてきた。しかし、LC-MS法によるJHの検出及び定量は、煩雑なJH抽出処理が必要な上に、高感度で測定するにはJHを誘導体に変換する必要があるという問題がある。また、RI法によるJH定量は、RI施設が必要な上に、結果を得るまでに時間も要するという問題がある。さらに、EIS法によるJH定量は、一報告例があるに過ぎず、再現性や汎用性の点で問題がある。これら以外にも、JHの新規検出及び定量方法として、「JH応答配列を利用した新規昆虫制御剤のスクリーニングシステム」(非特許文献6)を用いる方法が知れられている。この方法は、従来法に比較すると技術的には有用性の高い方法ではあるが、コスト面及び間接的なJH定量という問題を抱えている。
したがって、従来のJHの検出及び定量方法は、いずれもハイスループットスクリーニング法としては不向きであり、より簡便かつ迅速で高感度なJHの検出及び定量方法の開発が求められていた。
さらに、生体内におけるJH類似体の薬理効果を検証するためには、JHの体内動態をモニタリングする方法が不可欠となるが、そのような方法は現在まで知られていない。例えば、前述のJHを検出及び定量する方法は、いずれも体液や組織の抽出等の細胞若しくは組織の破壊作業を伴うため、生体内におけるJHの動態に関する情報を得ることはできないという問題があった。
神村学、篠田徹郎, 2008, 蛋白質核酸酵素 53: 105-110 Westerlund S.A. and Hoffmann K.H., 2014, Anal. Bioanal. Chem., 379: 540-543 Furuta K., et al., 2013, Biosci. Biotechnol. Biochem., 77(5): 988-991 Vermunt A.M.W., et al., 2001, Insect Mol. Biol. 10: 147-154 Stobiecka A., et al., 2008, Front. Biosci. 13: 2866-2874 Kayukawa T., et al., 2012, Proc Natl Acad Sci USA, 109(29): 11729-11734
本発明の課題は、インビトロ及びインビボにおいてJHを高感度で検出及び定量できるJH用のバイオセンサーを開発し、提供すること、並びにそのJHセンサーを用いて有効性の高いJH類似体をハイスループットでスクリーニングする方法、及びJHの生体内動態をモニターする方法を提供することである。
JHは体液を介して全身に作用するが、難水溶性であることから単独では体液中を移動することができない。そこで、チョウ目昆虫では、幼若ホルモン結合タンパク質(JH binding protein:JHBP)(以下、本明細書ではしばしば「JHBP」と表記する)の内部にJHを格納し、複合状態(JHBP-JH複合体)になることで体液中での移動を可能にしている。
本発明者らは、以前にJHBP及びJHBP-JH複合体の立体構造解析等を行い、JHBPの立体構造がJHの結合によって変化することを明らかにした(Suzuki et al. 2011, Sci. Rep. 1: 133. DOI: 10.1038/srep00133)。今回、本発明者らは、上記課題を解決するためにJHの結合によるJHBPの立体構造変化に着目し、研究を重ねた結果、JHBPの特定の位置に蛍光特性の異なる2種類の蛍光物質を組み込んだときにのみ、JHの結合を蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によって検出できることを見出した。この結果に基づいて、JHの高感度な検出や定量、及び生体内におけるJHの動態を解析できるJH特異的なバイオセンサータンパク質を開発するに至った。本発明は、当該研究開発結果に基づくものであって、以下を提供する。
(1)チョウ目昆虫におけるJHBPのシグナルペプチドを除いた切端アミノ酸配列において、該切端アミノ酸配列のアミノ末端におけるアミノ酸残基を1位としたときに、10〜15位のいずれか一のアミノ酸残基が共鳴エネルギー供与型物質及び該共鳴エネルギー供与型物質の励起エネルギーを受容する共鳴エネルギー受容型物質のいずれか一方で修飾され、かつ前記切端アミノ酸配列のカルボキシル末端のアミノ酸残基が前記共鳴エネルギー供与型物質及び前記共鳴エネルギー受容型物質の他方で修飾されているタンパク質からなるJHセンサー。
(2)前記共鳴エネルギー供与型物質が発光若しくは蛍光共鳴エネルギー供与型物質である、(1)に記載のJHセンサー。
(3)チョウ目昆虫におけるJHBPのシグナルペプチドを除いた切端アミノ酸配列において、該切端アミノ酸配列のアミノ末端におけるアミノ酸残基を1位としたときに、10〜15位の範囲内の連続する2つのアミノ酸残基間に共鳴エネルギー供与型物質及び該共鳴エネルギー供与型物質の励起エネルギーを受容する共鳴エネルギー受容型物質のいずれか一方を連結し、かつ前記切端アミノ酸配列のカルボキシル末端に前記共鳴エネルギー供与型物質及び前記共鳴エネルギー受容型物質の他方を連結した融合ポリペプチドからなるJHセンサー。
(4)前記共鳴エネルギー供与型物質及び/又は共鳴エネルギー受容型物質がペプチドである、(3)に記載のJHセンサー。
(5)前記ペプチドが発光若しくは蛍光ペプチドである、(4)に記載のJHセンサー。
(6)チョウ目昆虫における幼若ホルモン結合タンパク質のシグナルペプチドを除いた切端アミノ酸配列において、該切端アミノ酸配列のアミノ末端におけるアミノ酸残基を1位としたときに、10〜15位の範囲内の連続する2つのアミノ酸残基間に2分割された発光又は蛍光タンパク質断片のアミノ末端側のアミノ酸配列を連結し、かつ前記切端アミノ酸配列のカルボキシル末端に2分割された発光又は蛍光タンパク質断片のカルボキシル末端側のアミノ酸配列を連結した融合ポリペプチドからなるJHセンサー。
(7)前記連続する2つのアミノ酸残基間が11位と12位のアミノ酸残基間である、(3)〜(6)のいずれかに記載のJHセンサー。
(8)前記切端アミノ酸配列が(a)〜(c)で示すいずれかのアミノ酸配列である、(3)〜(7)のいずれかに記載のJHセンサー。
(a)配列番号2、3、6又は8で示すアミノ酸配列、
(b)(a)に記載のいずれか一のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は
(c)(a)に記載のいずれか一のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列
(9)(4)〜(8)のいずれかに記載のJHセンサーを構成する融合ポリペプチドをコードするDNA。
(10)(9)のDNAを発現可能な状態で包含するJHセンサー発現ベクター。
(11)(10)に記載のJHセンサー発現ベクターを宿主細胞又は宿主生物に導入した形質転換体又はその後代。
(12)節足動物の生体内におけるJHの動態をモニタリングする方法であって、被験体の節足動物に(1)〜(8)のいずれかに記載のJHセンサーを導入する工程、前記被験体において共鳴エネルギー移動により変動するエネルギー変異又は発光若しくは蛍光タンパク質の再構築により発生する発光若しくは蛍光を測定する工程、及び前記測定工程で測定された測定値に基づいてJHを検出する工程を含む前記方法。
(13)前記変動するエネルギー変異が発光若しくは蛍光である、(12)に記載の方法。
(14)節足動物の生体内におけるJHの動態をモニタリングする方法であって、被験体の節足動物に(10)に記載のJHセンサー発現ベクターを導入し、形質転換体を作製する工程、前記形質転換体においてJHセンサー発現ベクターから発現したJHセンサーに由来する発光若しくは蛍光共鳴エネルギー移動により変動するエネルギー変異又は蛍光タンパク質の再構築により発生する発光若しくは蛍光を測定する工程、及び前記測定工程で測定された測定値に基づいてJHを検出する工程を含む前記方法。
(15)前記変動するエネルギー変異が発光若しくは蛍光である、(14)に記載の方法。
(16)節足動物のJHに構造的に類似するJH類似体の探索方法であって、(1)〜(8)のいずれかに記載のJHセンサーと候補物質とを混合する工程、JHセンサーの共鳴エネルギー移動によるエネルギー変異又は発光若しくは蛍光タンパク質の再構築により発生する蛍光を測定する工程、及び前記測定工程で得られた測定値に基づいて候補物質をJH類似体として選択する工程を含む前記方法。
(17)前記変動するエネルギー変異が発光若しくは蛍光である、(16)に記載の方法。
(18)前記選択工程が、前記混合工程において候補物質を混合しない陰性対照の測定値との有意差、又は候補物質の濃度依存的な測定値の増加に基づく、(16)又は(17)に記載の方法。
本発明のJHセンサーによれば、インビトロ及びインビボでJHを高感度に検出及び定量することができる。
本発明のJH類似体探索方法によれば、前記JHセンサーを用いてJH類似体をハイスループットでスクリーニングするシステムを提供することができる。
本発明のJHの生体内動態モニタリング方法によれば、細胞若しくは組織の破壊作業を行うことなく、個体内、組織内、又は細胞内等の生体内でのJHの動態をモニターすることができる。
JHBPの立体構造とJHの結合によるその変化を示す図である。A:JH未結合時のJHBPの立体構造である。JH未結合時は、JHBPの分子扉が開かれ、分子内のJH結合ポケットが開放された状態となっている。B:JHBPにJHが結合したJHBP-JH複合体の立体構造である。JH結合ポケットへのJHの結合によって分子扉が閉じ、JHをJHBP分子内に格納した状態となる。 チョウ目昆虫におけるJHBPのアミノ酸配列をアラインメントした図である。図中、BmJHBPはカイコ(Bombyx mori)JHBPを、MsJHBPはタバコスズメガ(Manduca sexta)JHBPを、HvJHBPはオオタバコガ(Heliothis virescens)JHBPを、そしてGmJHBPはハチノスツヅリガ(Galleria mellonella)JHBPを示す。これらのJHBPは、いずれもアミノ末端側のシグナルペプチドが切断された成熟型JHBPのアミノ酸配列である。図中、核配列の上部の数字は、成熟型JHBPのアミノ末端側のアミノ酸残基を1位としたときの、各アミノ酸残基の位置を示す。また、4種のJHBPをアラインメントとしたときに、4種間のうち3種以上でアミノ酸同一性が見られた残基は、網掛けで表示している。さらに、枠で囲んだ各種JHBPのアミノ酸配列は、本願JHセンサーにおいて、共鳴エネルギー供与型物質又は共鳴エネルギー受容型物質で修飾されるアミノ酸残基の範囲、共鳴エネルギー供与型物質又は共鳴エネルギー受容型物質が連結されるアミノ酸残基の範囲、又は2分割した発光又は蛍光タンパク質のアミノ末端側断片が連結される範囲を示す。 JHセンサー構築用のクローニングベクターを示す。AはmTFPmVenus_pRSET-A(Kpn)_ver1.2のプラスミドマップ、また、BはmTFPmVenus_pRSET-A(RV)_ver1.2のプラスミドマップである。 実施例1で構築した各FRET-JHBPコンストラクトの模式図を示す。FRET-JHBP-TypeAが本発明のJHセンサーの構成を有するコンストラクトである。 実施例1で構築した各FRET-JHBPコンストラクトによるJH存在下及び非存在下でのFRETの有無を示す図である。AはFRET-JHBP-TypeAを、BはFRET-JHBP-TypeBを、そしてCはFRET-JHBP-TypeCを、FRET-JHBPコンストラクトとして使用した時の結果である。 FRET-JHBP-TypeAd5をJHセンサーとして用いたときの各種JH又はJH類似体存在下におけるFRETの経時変化を示す図である。図中、「met. acid」はメトプレン酸を、また「MeFa」はファルネセン酸メチル(MF)を示す。 FRET-JHBP-TypeAd5をJHセンサーとして用いたときの各種JH又はJH類似体の濃度とFRETの関係を示す図である。
以下で本発明の各態様について具体的に説明をする。
1.幼若ホルモンセンサー
1−1.概要
本発明の第1の態様は、幼若ホルモンセンサー(JHセンサー)である。本態様のJHセンサーは、幼若ホルモンの結合によるチョウ目昆虫由来の幼若ホルモン結合タンパク質(JHBP)の立体構造変化を利用したバイオセンサーであり、FRETの共鳴エネルギー移動の原理に基づいて、又は蛍光又は発光タンパク質の再構築に基づいて、節足動物のJHをインビトロ及びインビボにおいて高感度に検出及び定量することを特徴とする。
1−2.構成
本発明のJHセンサーは、(1)チョウ目昆虫由来のJHBPの異なる2つの特定の位置のアミノ酸残基に、共鳴エネルギー移動を生じ得る共鳴エネルギー供与型物質及び共鳴エネルギー受容型物質を修飾してなる修飾タンパク質、又は、(2)チョウ目昆虫由来のJHBPの異なる2つの特定の位置に共鳴エネルギー供与型物質及び共鳴エネルギー受容型物質を連結してなる融合ポリペプチド、あるいは(3)チョウ目昆虫由来のJHBPの異なる2つの特定の位置に、2分割した発光又は蛍光タンパク質断片のアミノ末端側断片とカルボキシル末端側断片をそれぞれ連結してなる融合ポリペプチド、で構成される。
本明細書において「節足動物」とは、分類学上の節足動物門(Arthropoda)に属する生物種である。節足動物は、キチン質からなる外骨格で覆われた複数の体節で構成され、脱皮によって成長することを特徴とする。節足動物には、例えば、昆虫綱(Insecta)に属する生物(昆虫)、甲殻綱(Crustacea)に属する生物(甲殻生物)、蛛形綱(Arachnida)に属する生物(蛛形綱生物)等が含まれる。昆虫には、チョウ目(Lepidoptera)生物、甲虫目(Coleoptera)生物、ハエ目(Diptera)生物、ハチ目(Hymenoptera)生物、カメムシ目(Hemiptera)生物、バッタ目(Orthoptera)生物等が含まれる。甲殻生物は、エビ目(Decapoda)生物等が含まれる。また、蛛形綱生物には、ダニ目(Acari)生物、クモ目(Araneae)生物、サソリ目(Scorpionida)生物等が含まれる。
本明細書において「幼若ホルモン(JH):Juvenile Hormone」とは、本発明のJHセンサーの主たる検出及び定量の対象となる物質である。JHは、セスキテルペノイド骨格を有する化合物であり、節足動物の胚発生、脱皮・変態の制御、生殖、休眠、寿命等の卵から成体に至る全てのステージの生理現象に関与するホルモンとして機能する。一般には昆虫におけるJHが良く知られているが、本明細書におけるJHは、昆虫における狭義のJHのみならず、節足動物において上記生理現象に関与するセスキテルペノイド誘導体を含む広義のJHを示す概念である。したがって、甲殻生物におけるファルネセン酸メチル(Methyl farnesoate:MF)等も本明細書におけるJHに包含される。また、昆虫におけるJHには、JH I、4-メチルJH I、JH II、JH III、JHB3、及びJHSB3が知られているが、いずれのJHも後述するJHBPに結合し得ることから本発明のJHセンサーの対象となり得る。
JHは、昆虫では頭部後端部のアラタ体(corpora-allata:CA)と呼ばれる腺組織内で生合成され、血液中に分泌される。前述のようにJHは、水に対して難溶性の化合物であることから、JHが血液を介して標的細胞に到達するには輸送タンパク質が必要となる。
本明細書において「幼若ホルモン結合タンパク質(JHBP):Juvenile Hormone Binding Protein」とは、血中に分泌されたJHと結合し、JHを標的器官まで運搬する、チョウ目昆虫に存在する輸送タンパク質である。JHBPは、図1に示すように、分子内にJH結合ポケットを持つ。JH結合前には、このJH結合ポケットの分子扉が開かれた状態(図1A)となっており、JHの結合によりその分子扉を閉じて分子内にJHを格納した状態(図1B)となる(Suzuki et al. 2011、前述)。JHBPは、JHの分解酵素等からの保護、血中輸送、及び貯蔵を調節することにより、チョウ目昆虫の正常な発生及び生育を制御している。
JHBPは、アミノ末端側にシグナルペプチド(シグナル配列)を有する全長230〜260アミノ酸からなるJHBP前駆体として発現する。その後、細胞内輸送を経て、シグナルペプチドが切断、除去され、切端(truncated)アミノ酸配列からなる成熟型JHBP(分泌型JHBP)となり、細胞外に分泌される。JHBP前駆体の具体例としては、配列番号1で示すアミノ酸配列からなるカイコ(Bombyx mori)のJHBP前駆体が挙げられる。全長243アミノ酸からなるカイコJHBP前駆体では、開始メチオニンを含むアミノ末端から18アミノ酸残基がシグナルペプチドに相当する。したがって、カイコの成熟型JHBPは、前記シグナルペプチドを除いた配列番号2で示すアミノ酸配列(225アミノ酸)からなる。なお、本明細書では、特に断りのない限りJHBPと記載した場合にはシグナルペプチドが除去された「成熟型JHBP」を意味し、シグナルペプチドを含むJHBPは「JHBP前駆体」と表記する。
本明細書において「共鳴エネルギー供与型物質」(本明細書では、しばしば「ドナー型物質」と表記する)及び「共鳴エネルギー受容型物質」(本明細書では、しばしば「アクセプター型物質」と表記する)とは、両物質間で共鳴エネルギー移動を生じ得る2種1組からなる物質をいう。
「共鳴エネルギー移動」とは、ドナー型物質とアクセプター型物質が物理的近傍に位置するときに、ドナー型物質で生じた蛍光又は発光等の励起エネルギーがアクセプター型物質に移動するFRET(Forster resonance energy transfer又はFluorescence resonance energy transfer)と呼ばれる現象をいう。FRETでは、ドナー型物質の発光又は蛍光スペクトルとアクセプター型物質の吸収スペクトルが一部重複する関係にある。本明細書において、FRETは、ドナー型物質の励起エネルギーによってアクセプター型物質が増感反応を生じ、アクセプター型物質が蛍光又は発光等を発する輻射反応のみならず、ドナー型物質の励起エネルギーがアクセプター型物質に移動するもののアクセプター型物質が蛍光又は発光等を発することない非輻射的反応(いわゆる消光反応)も含むものとする。後者の場合、励起エネルギーの移動によりドナー型物質からの蛍光や発光も消失することから、結果的にアクセプター型物質は、ドナー型物質に対して消光剤(クエンチャー)として機能する。
ドナー型物質とアクセプター型物質は、上記のように、原則としてそれ自身がFRET現象を生じ得る物質である。ただし、本明細書では、それ自身はFRET現象を生じ得る物質ではないが、FRET現象を生じ得る物質を担持し得る物質を含むものとする。ここでいう「担持」とは、付加又は修飾をいう。FRET現象を生じ得る物質を担持可能な物質として、例えば、アミノ酸(天然アミノ酸、非天然アミノ酸を含む)が挙げられる。例えば、JHBPのアミノ酸配列において、後述する特定の位置のアミノ酸残基間及びC末端アミノ酸残基に、JHBPのアミノ酸配列とは無関係のアミノ酸を連結し、本発明のJHセンサー合成時又は合成後に、該アミノ酸にFRET現象を生じ得る物質、すなわち蛍光色素分子や発光分子等を担持させることで、該アミノ酸は、結果的にドナー型物質とアクセプター型物質となり得る。
ドナー物質及びアクセプター物質は、FRET現象を生じ得る物質であれば特に限定はしない。例えば、蛍光色素分子若しくは発光分子、及び共鳴エネルギー供与型若しくは受容型ペプチド等が挙げられる。
ドナー型物質及びアクセプター型物質としての蛍光色素分子若しくは発光分子は、上記性質を有する関係にあれば特に限定はしない。FRETの効率は、ドナー型物質及びアクセプター型物質の発光又は蛍光スペクトルの重なりの大きさ、距離、及び角度により左右されることから、公知の蛍光色素分子又は発光分子の励起スペクトル、及び発光又は蛍光スペクトルに基づいて、2つの物質のスペクトルの重なりを勘案しながら適宜定めればよい。例えば、FITC又はFAMをドナー型物質とし、TRITC、Rhodamin又はTAMURAをアクセプター型物質とする組み合わせや、Cy3、Rhodamine又はTAMURAをドナー型物質とし、Cy5をアクセプター型物質とする組み合わせが挙げられる。そのほかにもEDANS又は6-FAMをドナー型物質とし、クエンチャーであるDABCYLをアクセプター型物質とする組み合わせが挙げられる。
本明細書において「共鳴エネルギー供与型ペプチド」(本明細書では、しばしば「ドナー型ペプチド」と表記する)及び「共鳴エネルギー受容型ペプチド」(本明細書では、しばしば「アクセプター型ペプチド」と表記する)とは、ペプチド間で共鳴エネルギー移動を生じ得る2種1組からなるペプチド、例えばタンパク質をいう。共鳴エネルギー移動の原理は、上述の通りである。ドナー型ペプチドで生じた蛍光又は発光等の励起エネルギーがアクセプター型ペプチドに移動するFRET現象で、ここでは、特に生物発光エネルギー移動(Bioluminescence resonance energy transfer:BRET)を含む。
ドナー型ペプチドとアクセプター型ペプチドは、上記ドナー型物質及びアクセプター型物質と同様に、両ペプチドのスペクトルの重なりを勘案しながら適宜定めればよく、特に限定はしない。例えば、ドナー型タンパク質/アクセプター型タンパク質ペアとして、mTFP1/mVenus、CFP/YFP、GFP/mCherry、Clover GFP/mRuby、及びルシフェラーゼ/GFPが挙げられる。これらのタンパク質のアミノ酸配列情報は、当該分野では公知であり、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のホームページにおけるProtein検索サイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein)等の検索サイトを利用することで、容易に入手することができる。例えば、mTFP1のアミノ酸配列であれば配列番号10で示されるアミノ酸配列、mVenusであれば配列番号12で示されるアミノ酸配列が挙げられる。
また、ペプチドどうしの組み合わせに限らず、ペプチドと蛍光色素分子若しくは発光分子との組み合わせ、ペプチドと消光剤との組み合わせ等であってもよい。
「蛍光又は発光タンパク質の再構築」とは、2分割された発光又は蛍光タンパク質断片のそれぞれが、互いに物理的に接近すると、自己組織化によって再構築され、構造的補完によって発光又は蛍光放射能が回復することをいう。
本明細書において「2分割された(した)発光又は蛍光タンパク質断片」(本明細書では、しばしば「2分割タンパク質断片」と表記する)とは、一つの発光タンパク質又は蛍光タンパク質をアミノ末端側領域(本明細書では、しばしば「N末側断片」と表記する)とカルボキシル末端側領域(本明細書では、しばしば「C末側断片」と表記する)の2つの領域に分割したポリペプチド断片である。発光タンパク質や蛍光タンパク質は特に限定はしない。例えば、蛍光タンパク質であればGFP等が、また発光タンパク質であればルシフェラーゼ等が利用できる。具体的な例としては、split GFPやsplit Renilla ルシフェラーゼ(Ozawa T. et al., 2001, Anal Chem., 73(11):2516-21)が挙げられる(Ozawa T. et al., 2006, Anal Chim Acta., 556(1):58-68)。また、特表2007−508841号に記載のスプリット蛍光タンパク質システムを利用することもできる。発光又は蛍光タンパク質を2分割するアミノ酸配列上の位置については、2分割によって発光又は蛍光が失われる位置であり、かつ2分割によって生じたN末側断片とC末側断片の物理的接近による構造的補完作用で発光又は蛍光の回復が可能な位置であれば、特に限定しない。
本態様のJHセンサーは、JHBP前駆体の全長アミノ酸からシグナルペプチドが除去された切端(truncated)アミノ酸配列からなる成熟型JHBPを基本骨格とする。したがって、JHBPのアミノ末端に位置するアミノ酸残基は、開始メチオニンではない。このようなJHBPの具体例として、前述の配列番号2で示すアミノ酸配列からなるカイコJHBPの他、同じチョウ目昆虫に属する他種JHBP、例えば、配列番号4で示すタバコスズメガ(Manduca sexta)のJHBP、配列番号6で示すオオタバコガ(Heliothis virescens)のJHBP、及び配列番号8で示すハチノスツヅリガ(Galleria mellonella)のJHBPが挙げられるが、これらに限定されない。
また、JHBPは、チョウ目昆虫における各種の野生型JHBPのアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる変異型JHBP、又はチョウ目昆虫の各種の野生型JHBPのアミノ酸配列に対して90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる変異型JHBPであってもよい。本明細書において「複数個」とは、例えば、2〜20個、2〜15個、2〜10個、2〜7個、2〜5個、2〜4個又は2〜3個をいう。「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じていずれかのアミノ酸配列にギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、野生型JHBPのアミノ酸残基数に対する同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。アミノ酸同一性は、BLASTやFASTAによるタンパク質の検索システムを用いて算出することができる(Karlin,S.et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877;Altschul,S.F.et al., 1990, J. Mol. Biol., 215: 403-410;Pearson,W.R.et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448)。前記変異型JHBPは、実質的に野生型JHBPと同一の性質を保持している。したがって、変異型JHBPのアミノ酸配列における変異アミノ酸残基や変異位置は、JHBPの立体構造やJH結合能に影響を及ぼさない性質又は位置であることが望ましい。例えば、前記アミノ酸置換であれば、電荷、側鎖、極性、芳香族性等の性質の類似する保存的アミノ酸内での置換が望ましい。具体的には、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン)内、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)内、無電荷極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン)内、無極性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン)内、分枝鎖アミノ酸(ロイシン、バリン、イソロイシン)内、又は芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン)内でのアミノ酸置換が挙げられる。また、前記アミノ酸欠失や付加であれば、野生型JHBPの立体構造やJH結合能を破壊しない位置とする。例えば、配列番号2において、173〜186位が該当する。当該位置は、図1で示すJHBPの立体構造において、JH結合ポケットを形成するJH結合部位が存在するJHBPの上部領域とは逆側のJHBPの下部領域に相当する。
本発明のJHセンサーを構成するJHBPは、図2に示すように、チョウ目昆虫種間での保存性がアミノ酸相同性で40〜50%程度であり、比較的低い。しかし、立体構造及びJHを認識するアミノ酸残基は互いに近似する。したがって、JHBPの異種オルソログの同定は、後述する既知JHBPとのアミノ酸配列の種間保存性のみに基づくのではなく、該アミノ酸配列から予測される立体構造が既知JHBPの立体構造と類似している点を考慮して判断される。
本明細書において「JHBPの特定の位置」とは、(1)ドナー型物質及びアクセプター型物質を修飾させるJHBPのアミノ酸配列上の特定のアミノ酸残基の位置、(2)ドナー型物質及びアクセプター型物質を連結するJHBPのアミノ酸配列上の特定の位置、又は(3)N末側断片及びC末側断片を連結するJHBPのアミノ酸配列上の特定の位置をいう。(1)では、JHBPのアミノ酸配列に改変は生じないが、(2)及び(3)の場合には、JHBPのアミノ酸配列に改変が生じる。JHの結合によるJHBPの立体構造変化をFRETの原理や蛍光タンパク質等の再構築に基づいて検出するためには、JHのJHBPへの結合を阻害せず、かつJHBPの立体構造変化によってFRETを生じる位置、又は構造的補完を生じる位置にドナー型物質及びアクセプター型物質を修飾又は連結するか、あるいはN末端側断片及びC末端側断片を連結しなければならない。したがって、上記JHBPの特定の位置は、本発明のJHセンサーにおいて最も重要な特徴である。以下、前記(1)〜(3)のそれぞれの場合について具体的に説明をする。
(1)JHBPのアミノ酸配列上の特定のアミノ酸残基をドナー型物質及びアクセプター型物質で修飾する場合
成熟型JHBPのアミノ末端のアミノ酸残基を1位としたときに、10〜15位のいずれか一のアミノ酸残基、及びカルボキシル末端のアミノ酸残基がJHBPの特定の位置に該当する。
本明細書において「10〜15位の範囲内のいずれか一のアミノ酸残基」のうち、修飾可能なアミノ酸残基であればJHBPの特定の位置はいずれの位置であってもよい。ここで「修飾可能なアミノ酸残基」には、例えば、Cys残基、Lys残基、Tyr残基、Trp残基、His残基等が含まれる。その他、Click反応で修飾しやすいようにデザインした非天然アミノ酸をドナー型物質又はアクセプター型物質としてJHBPの特定の位置に連結してもよい。ドナー型物質やアクセプター型物質を所定のアミノ酸残基に修飾する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いればよい。例えば、Bioconjugation法、Bioorthogonal反応法、アフィニティラベル化後修飾(Post-affinity labeling modification (P-ALM)/ Affinity-based labeling)法が挙げられる。
本発明のJHセンサーがドナー型物質及びアクセプター型物質で修飾される場合、各物質の修飾順序は問わない。例えば、ドナー型物質がJHBPの10〜15位の範囲内のいずれか一のアミノ酸残基を修飾していてもよいし、JHBPのカルボキシル末端のアミノ酸残基を修飾していてもよい。ドナー型物質の修飾位置が決まれば、残った他方の位置のアミノ酸残基が必然的にアクセプター型物質で修飾されることになる。
(2)JHBPのアミノ酸配列上の特定の位置にドナー型物質及びアクセプター型物質を連結する場合
成熟型JHBPのアミノ末端のアミノ酸残基を1位としたときに、10〜15位の範囲内の連続する2つのアミノ酸残基間、及びJHBPのカルボキシル末端がJHBPの特定の位置に該当する。
本明細書において「10〜15位の範囲内の連続する2つのアミノ酸残基間」は、具体的には、10位と11位(「10位/11位」と表記する;以下同様)間、11位/12位間、12位/13位間、13位/14位間、及び14位/15位間が該当する。好ましくは11位/12位間である。例えば、配列番号2で示すアミノ酸配列からなるカイコJHBPの場合であれば、10位のリジン/11位のロイシン(「K10/L11」と表記する;以下同様)間、L11/G12間、G12/D13間、D13/M14間、及びM14/Q15間であり、好適にはL11/G12間である。
ドナー型物質とアクセプター型物質の連結順序は問わない。例えば、ドナー型物質がJHBPの10〜15位の範囲内の連続する2つのアミノ酸残基間に連結されていてもよいし、JHBPのカルボキシル末端に連結されていてもよい。ドナー型物質の連結位置が決まれば、残った位置にアクセプター型物質が連結されることになる。
(3)JHセンサーが2分割タンパク質断片のN末側断片及びC末側断片を含む場合
(2)と同様に、成熟型JHBPのアミノ末端のアミノ酸残基を1位としたときに、10〜15位の範囲内の連続する2つのアミノ酸残基間、及びJHBPのカルボキシル末端がJHBPの特定の位置に該当する。
上記(1)及び(2)と異なり、N末側断片とC末側断片の連結順序は、定まっており、N末側断片はJHBPの10〜15位の範囲内の連続する2つのアミノ酸残基間に連結し、C末側断片はJHBPのカルボキシル末端に連結しなければならない。
1−3.効果
本発明のJHセンサーは、JHに対して高い特異性を有することから、JHを高感度に検出及び定量することができる。特に甲殻生物のJHであるMFは、エポキシ環を持たないためイオン化し難く、質量分析による定量は極めて困難であったが、本発明のJHセンサーによれば、微量MFの高感度検出や定量化も可能となる。
本発明のJHセンサーは、生体内のJHを10-8濃度レベルで細胞や組織を破壊することなく検出することができる。
本発明のJHセンサーは、新規JH類似体等の開発におけるハイスループットリガンドスクリーニングを可能にすることができる。
本発明のJHセンサーは、JHを発現する節足動物綱のあらゆる生物種のみならず、JHのない微生物、植物、脊椎動物等に適用することができる。それによって、生体内におけるJHの移行メカニズムや代謝メカニズムの研究が可能となる。
2.幼若ホルモンセンサーをコードするDNA
2−1.概要
本発明の第2の態様は、第1態様のJHセンサーをコードするDNA(本明細書では、しばしば「JHセンサーDNA」と表記する)である。本態様のJHセンサーDNAは、第1態様のJHセンサーにおいて、該センサーがドナー型ペプチド及びアクセプター型ペプチドを含むJHBPの融合ポリペプチドの場合に該当する。
2−2.構成
JHセンサーDNAにおいて、JHBPをコードするDNA(本明細書では、しばしば「JHBP遺伝子」と表記する)の塩基配列には、配列番号2で示すアミノ酸配列からなるカイコJHBPをコードするJHBP遺伝子、具体的には、例えば、配列番号3で示す塩基配列からなるカイコJHBP遺伝子、配列番号4で示すアミノ酸配列からなるタバコスズメガJHBPをコードするJHBP遺伝子、具体的には、例えば、配列番号5で示す塩基配列からなるタバコスズメガJHBP遺伝子、配列番号6で示すアミノ酸配列からなるオオタバコガJHBPをコードするJHBP遺伝子、具体的には、例えば、配列番号7で示す塩基配列からなるオオタバコガJHBP遺伝子、そして配列番号8で示すアミノ酸配列からなるハチノスツヅリガJHBPをコードするJHBP遺伝子、具体的には、例えば、配列番号9で示す塩基配列からなるハチノスツヅリガJHBP遺伝子が挙げられる。JHBP遺伝子は、上記の野生型JHBP遺伝子の他にも第1態様に記載した各生物種の変異型JHBPをコードする変異型JHBP遺伝子であってもよい。
JHセンサーDNAにおいて、ドナー型ペプチド及びアクセプター型ペプチドをコードするDNA、又は2分割タンパク質断片のN末側断片及びC末側断片をコードするDNAは、それぞれのペプチド又はタンパク質断片をコードする塩基配列からなるDNAであればよい。これらのペプチドをコードするDNAの塩基配列情報も当該分野では公知である。例えば、NCBIのホームページにおけるGene検索サイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene)等の検索サイトを利用することで、容易に入手することができる。具体的には、配列番号10で示されるアミノ酸配列からなるmTFP1をコードするDNAの塩基配列として配列番号11で示される塩基酸配列が、また配列番号12で示されるアミノ酸配列からなるmVenusをコードするDNAの塩基配列として配列番号13で示される塩基酸配列が、挙げられる。
本発明のJHセンサーDNAは、5’末端にシグナルペプチドをコードするDNA(本明細書では、しばしば「シグナルDNA」と表記する)を連結してもよい。シグナルペプチドは、細胞内で生合成されたタンパク質の細胞外移行に必要なペプチドである。シグナルペプチドをJHセンサーのアミノ末端に融合することで、JHセンサーを分泌タンパク質として発現させることができる。
シグナルペプチドのアミノ酸配列は、特に限定しない。節足動物の生体内で機能し得るあらゆるシグナルペプチドを利用することができる。また、シグナルペプチドのアミノ酸長も、特に限定はしない。3アミノ酸〜60アミノ酸、好ましくは7〜30アミノ酸、8〜25アミノ酸又は9〜20アミノ酸の範囲内にあればよい。したがって、シグナルDNAは、9〜120塩基、好ましくは21〜90塩基、24〜75塩基又は27〜60塩基の範囲内にあればよいことになる。一般的にアミノ酸長の短いシグナルペプチドが好ましい。シグナルペプチドの具体的な例として、配列番号14で示すアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。このシグナルペプチドは、配列番号2で示すアミノ酸配列からなるカイコJHBP前駆体の開始メチオニンを含むアミノ末端から18アミノ酸残基からなるペプチドに相当する。カイコJHBP前駆体のシグナルペプチドをコードするDNAとしては、例えば、配列番号15で示す塩基配列からなるDNAが挙げられる。
2−3.JHセンサーDNAの調製
本発明のJHセンサーDNAは、JHBP、及びドナー型ペプチド及びアクセプター型ペプチドとしての発光若しくは蛍光タンパク質、又は2分割タンパク質断片のN末側断片及びC末側断片のそれぞれをコードするDNAを当該分野で公知の分子遺伝学的手法に基づいて連結することで調製できる。
JHBPコードするDNAは、例えば、上記配列番号2、4、6又は8で示す塩基配列情報や、NCBIのホームページにおけるGene検索サイト等の検索サイトより入手した塩基配列情報に基づいて、その塩基配列の一部配列又はそれに相補する一部配列をプローブ又はプライマーとして、適当な生物種のcDNAライブラリからPCR等によって得ることができる。
シグナルDNAは、公知のシグナルDNAの塩基配列情報に基づいて化学合成するか、又はシグナルDNAを含む遺伝子からPCR等により得ることができる。
発光若しくは蛍光タンパク質のドナー型タンパク質及びアクセプター型タンパク質又は2分割タンパク質断片のN末側断片及びC末側断片のそれぞれをコードするDNAは、JHBPコードするDNAの場合と同様に調製することができる。例えば、上述のGene検索サイト等の検索サイトより入手した塩基配列情報に基づいて、その塩基配列の一部配列又はそれに相補する一部配列をプローブ又はプライマーとして用い、前記DNAを包含するプラスミド等からPCR等によって調製すればよい。これらのDNAを包含するプラスミドは、市販されており、それを利用することもできる。
JHセンサーDNAの調製は、JHBPコードするDNAにおいて、まず、JHBPの10〜15位の範囲内の連続する2つのアミノ酸をコードするコドン間、具体的にはJHBPコードするDNAの5’末端の塩基を1位としたときに、30位と31位の塩基間、33位と34位の塩基間、36位と37位の塩基間、39位と40位の塩基間、そして42位と43位の塩基間に、読み取り枠(Reading frame)が合うようにドナー型タンパク質及びアクセプター型タンパク質のいずれか一方をコードするDNA、又は2分割タンパク質断片のN末側断片コードするDNAを連結する。次に、JHBPコードするDNAの3’末端に、読み取り枠が合うようにドナー型タンパク質及びアクセプター型タンパク質の他方をコードするDNA、又は2分割タンパク質断片のC末側断片コードするDNAを連結する。シグナルDNAを連結する場合には、JHセンサーDNAの5’末端側に読み取り枠が合うように連結すればよい。このときシグナルDNAとJHセンサーDNA間に数塩基のリンカー配列を含んでいても構わない。
上記各DNAのクローニング方法やJHセンサーDNAの調製方法は、当該分野の公知技術で達成し得る。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法を参照にして調製すればよい。本明細書では、JHセンサーDNA調製の一例として、後述する実施例1で、その具体的な調製方法を記載している。
3.幼若ホルモンセンサー発現ベクター
3−1.概要
本発明の第3の態様は、第2態様のJHセンサーDNAを発現可能な状態で包含する幼若ホルモンセンサー発現ベクター(本明細書では、しばしば「JHセンサー発現ベクター」と表記する)である。本発明のJHセンサー発現ベクターは、JHセンサーの発現を制御することができる。また宿主である節足動物に導入することによって、その形質転換体を得て後述する第5態様のJHの生体内動態モニタリング方法によりJHの生体内動態モニタリングシステムを構築することが可能となる。
3−2.構成
本明細書において「JHセンサー発現ベクター」とは、ベクター内部にコードされたJHセンサーDNAを発現可能な状態で包含し、その発現を誘導できる発現系単位をいう。
本明細書で「発現可能な状態」とは、JHセンサーDNAが発現可能なように発現ベクター内に組み込まれていることを意味する。具体的には、JHセンサーDNAがJHセンサー発現ベクター内のプロモーター制御下に配置されていることをいう。
本態様のJHセンサー発現ベクターは、母核(コア)ベクター、JHセンサーDNA、及びプロモーターを必須構成エレメントとして含む。また、ターミネーター、エンハンサー、マルチクローニングサイト、5’UTR、3’UTR、選抜マーカー、インスレーター、及びトランスポゾンの逆位末端反復配列、細胞膜局在化シグナル配列、細胞小器官局在化シグナル配列等を選択構成エレメントとして含むことができる。以下、本態様のJHセンサー発現ベクターの各構成エレメントについて具体的に説明をする。
(1)母核(コア)ベクター
母核ベクターは、JHセンサー発現ベクターの骨格部分を構成する。母核ベクターには、様々なベクターを利用することができる。例えば、プラスミド若しくはバクミド(Bacmid)のような自律複製可能なベクター、ウイルスベクター、又は染色体中に相同組換え可能なベクターが挙げられる。母核ベクターとして、一般には導入する宿主生物の細胞内で複製可能なベクターが選択される。また、母核ベクターは、大腸菌等の他の細菌と節足動物間で複製可能なシャトルベクターであってもよい。さらに、ライフサイエンスメーカーの各社から、母核ベクター中に後述するプロモーター、ターミネーター、マルチクローニングサイト、選抜マーカー等が既に挿入されたタンパク質発現用ベクターが市販されており、それらをJHセンサー発現ベクターに利用することもできる。
(2)JHセンサーDNA
このJHセンサーDNAは、前記第2態様に記載したJHセンサーDNAである。JHセンサーを分泌タンパク質として発現させる場合には、5’末端にシグナルDNAを連結したJHセンサーDNAとすればよい。例えば、本発明のJHセンサー発現ベクターを後述する第4態様のJHの生体内動態モニタリング用として、宿主である節足動物に導入する場合には、シグナルDNAが連結されたJHセンサーDNAにする必要がある。
JHセンサーがシグナルDNAを連結していない場合には、転写後に所望の位置から翻訳を開始させるためJHセンサーDNAの5’末端側に開始コドンであるATGを挿入しておく。これは、JHセンサーを構成するJHBPがシグナルペプチドを切断、除去された切端ペプチドであり、そのアミノ末端に開始メチオニンを含んでいないためである。
(3)プロモーター
JHセンサー発現ベクターに含まれるプロモーターは、本発明のJHセンサー発現ベクターにおいてJHセンサーの発現を制御する必須構成エレメントである。プロモーターは、宿主細胞内で転写制御機能を有するプロモーターであれば、その種類は特に限定はしない。当該分野で公知のプロモーターを用いればよい。一般的には、例えば、宿主内で目的の遺伝子を、過剰に発現可能な過剰発現型プロモーター、恒常的に発現可能な構成的活性型プロモーター、宿主の発生段階に応じて発現制御できる時期特異的活性型プロモーター、発現を自由に制御できる発現誘導型プロモーター、そして宿主の特定組織や特定部位で選択的に発現することができる部位特異的プロモーター等が知られている。いずれのプロモーターを用いてもよく、本発明のJHセンサー発現ベクターの使用用途を勘案して適宜定めればよい。
(4)ターミネーター
ターミネーターは、本発明のJHセンサー発現ベクターにおいてJHセンサーDNAの発現時にその転写を終結できる塩基配列で構成される選択構成エレメントである。プロモーターにより転写されたJHセンサーDNAの転写を終結できる配列であれば特に限定はしない。
(5)エンハンサー
エンハンサーは、プロモーターを制御する調節因子であり、本発明のJHセンサー発現ベクターにおける選択構成エレメントである。
(6)マルチクローニングサイト
マルチクローニングサイトは、クローニング用制限酵素部位を多数包含するクラスター領域で、本発明のJHセンサー発現ベクターにおける選択構成エレメントである。マルチクローニングサイトを構成する塩基配列や包含する制限酵素部位の種類及び数については特に制限はしない。また、JHセンサー発現ベクターにおけるマルチクローニングサイトの数や配置される位置についても制限はしないが、JHセンサーDNAを発現可能な状態でJHセンサー発現ベクターには、少なくともプロモーターの制御領域範囲内に配置しておくことが好ましい。
(7)5’UTR及び3’UTR
5’UTR及び3’UTRは、それ自身がタンパク質やその断片、又は機能性核酸をコードしない非翻訳領域からなる核酸領域である。3’UTRは、ポリAシグナルを含むことができる。本発明のJHセンサー発現ベクターにおける選択構成エレメントである。5’UTRはJHセンサーDNAの開始コドン上流に、また3’UTRはJHセンサーDNAの終止コドン下流に配置される。
(8)選抜マーカー
選抜マーカーは、宿主が本発明のJHセンサー発現ベクターを保持していることを示す確認用マーカーとして機能し得る。本発明のJHセンサー発現ベクターの選択構成エレメントである。選抜マーカーには、一般に、酵素、蛍光タンパク質、色素合成タンパク質又は発光タンパク質等をコードする遺伝子が利用される。例えば、薬剤耐性遺伝子(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子又はネオマイシン耐性遺伝子)、栄養素遺伝子(例えば、ロイシン、ウラシル、アデニン、ヒスチジン、リジン又はトリプトファンの生合成遺伝子)、蛍光又は発光レポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニターゼ(GUS)、又はGFP)、酵素遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPT II)、ジヒドロ葉酸還元酵素等)、ブラストサイジンS耐性遺伝子等の酵素遺伝子が挙げられる。ただし、蛍光又は発光レポーター遺伝子を選抜マーカーとする場合には、共鳴エネルギー移動に関与する発色団の活性を阻害しない蛍光又は発光スペクトルを選択する。JHセンサーの共鳴エネルギー移動供与型又は受容型物質が蛍光又は発光タンパク質の場合、それを選抜マーカーとして利用してもよい。必要に応じて、一つのJHセンサー発現ベクターに同一の又は異なる複数の選抜マーカーを包含することができる。
(9)インスレーター
インスレーターは、本発明のJHセンサー発現ベクターにおける選択構成エレメントであって、周囲の染色体のクロマチンによる影響を受けることなく、その配列に挟まれた遺伝子の転写を、安定的に制御できる塩基配列である。例えば、ショウジョウバエのgypsy配列などが挙げられる。
(10)トランスポゾンの逆位末端反復配列
「トランスポゾンの逆位末端反復配列(Inverted terminal repeat sequence)」は、本発明のJHセンサー発現ベクターが相同組換え可能な発現ベクターの場合に含まれ得る選択構成エレメントである。逆位末端反復配列は、通常は2個1組で使用され、例えば、昆虫のトランスポゾンとしては、piggyBac、mariner、minos等を用いることができる(Shimizu,K. et al., 2000, Insect Mol. Biol., 9, 277-281;Wang W. et al.,2000, Insect Mol Biol 9(2):145-55)。
3−3.JHセンサー発現ベクターの調製
本発明のJHセンサー発現ベクターの調製方法も前記第2態様のJHセンサーDNAの調製方法と同様に、当該分野の公知技術で達成し得る。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012(前述)に記載の方法に従って行えばよい。本明細書では後述する実施例1で、JHセンサー発現ベクターの具体的な調製方法を一例として、記載している。
4.形質転換体又はその後代
4−1.概要
本発明の第4の態様は形質転換体又はその後代である。本発明の形質転換体は、第3態様のJHセンサー発現ベクターを包含することを特徴とする。本発明の形質転換体が、大腸菌や酵母等の単細胞生物であればJHセンサー発現系として利用することができる。また、節足動物門生物の形質転換体であれば、第5態様に記載のJHの生体内動態モニタリング用形質転換体として利用することができる。
4−2.構成
本発明の形質転換体は、第3態様のJHセンサー発現ベクターを細胞内に包含する。すなわち、第3態様のJHセンサー発現ベクターの導入によって形質転換された宿主が本態様の形質転換体となる。したがって、本態様の形質転換体は、宿主及び第3態様のJHセンサー発現ベクターで構成されている。以下、具体的に説明をする。
(1)宿主
本発明の形質転換体を構成する宿主は、JHセンサー発現ベクターに包含されたJHセンサーDNAを発現することができる細胞又は個体であれば、特に制限はされない。宿主が原核細胞であれば、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)等が挙げられる。また、宿主が真核細胞であれば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、昆虫細胞(例えば、Sf9、Sf21、SF+、High-Five、BmN4)等の培養細胞が挙げられる。さらに、宿主が個体であれば、節足動物、例えば、前述の昆虫、甲殻生物、又は蛛形綱生物等が挙げられる。個体として特に好ましい宿主は、昆虫である。
(2)JHセンサー発現ベクター
本発明の形質転換体に包含されるJHセンサー発現ベクターは、第3態様に記載のJHセンサー発現ベクターである。宿主が大腸菌、枯草菌、出芽酵母、分裂酵母、又は培養細胞の場合、JHセンサー発現ベクターに包含されるJHセンサーDNAは、シグナルDNAを連結していても、いなくてもよい。一方、宿主が多細胞生物個体の場合には、JHセンサー発現ベクターに包含されるJHセンサーDNAは、シグナルDNAを連結していることが好ましい。JHセンサー発現ベクターは、宿主ゲノム内に組み込まれていても構わない。
(3)後代
本明細書で「後代」とは、形質転換体第1世代の子孫個体であって、第3態様のJHセンサー発現ベクターをその細胞内に保持している個体をいう。後代は、第3態様のJHセンサー発現ベクター保持する限りにおいてその世代数を問わない。
4−3.形質転換体の作製方法
本発明の形質転換体の作製は、宿主へのJHセンサー発現ベクターの導入によって行われる。JHセンサー発現ベクターの導入方法は、導入する宿主に応じた公知の導入方法を用いればよい。細菌や酵母に該ベクターを導入する方法であれば、例えば、ヒートショック法、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。これらの技術は、いずれも当該分野で公知であり、様々な文献に記載されている。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012(前述)に記載の方法を参照にすればよい。また、細胞に該ベクターを導入する方法であれば、例えば、リポフェクチン法(PNAS,1989,86: 6077;PNAS, 1987,84: 7413)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(Virology, 1973, 52: 456-467)、リポソーム法、DEAE-Dextran法等が好適に用いられる。また、個体に導入する方法も公知技術を用いればよい。例えば、昆虫の個体にJHセンサー発現ベクターを導入する方法としては、遺伝子発現ベクターをカイコに導入するTamuraらの方法(Tamura T. et al., 2000, Nature Biotechnology, 18, 81-84)を利用することができる。
5.幼若ホルモンの生体内動態モニタリング方法
5−1.概要
本発明の第5の態様は、JHの生体内動態モニタリング方法である。本発明の方法は、第1態様に記載のJHセンサーを導入した個体又は第4態様に記載の形質転換体を用いて、FRETに基づく生体内の蛍光スペクトルの変化を検出する。当該方法によって、従来のJH検出及び定量方法では成し得なかった生体内におけるJHの動態をモニタリングすることができる。
本明細書において「JHの生体内動態」とは、生体内においてJHが存在する空間的位置、生体内におけるJHの位置的な量、JHの経時的又は位置的な変化をいう。
本明細書において「生体」とは、個体が生存している状態をいう。
5−2.方法
本発明の方法は、第1実施形態と第2実施形態からなる。以下、それぞれの実施形態について説明をする。
5−2−1.第1実施形態
第1実施形態は、第1態様に記載のJHセンサーを個体に導入し、その個体を用いて生体内動態モニタリングを行う形態である。本実施形態は、導入工程、測定工程、及びJH検出工程を含む。以下、各工程について説明をする。
(1)導入工程
「導入工程」は、被験体の節足動物に第1態様に記載のJHセンサーを導入する工程である。
本工程の「被験体」は、本発明のJHの生体内動態モニタリング方法に供される節足動物個体をいう。節足動物は、昆虫、甲殻生物又は蛛形綱生物が好ましく、昆虫はより好ましい。
JHセンサーを被験体内に導入する方法は、特に限定はしない。最も容易な方法は、シリンジ等を用いて体液中、又は組織(細胞を含む)中にインジェクションする方法である。その他、エンドサイトーシスを介した細胞内導入や特許5097412号又は特許4885476号に記載の導入方法を利用することができる。
(2)測定工程
「測定工程」は、導入工程後の被験体からJHセンサーに由来するFRET又はタンパク質再構築により発生する蛍光又は発光を測定する工程である。前述のように、本発明のJHセンサーは、JHの結合によるJHBPの立体構造変化をFRET又はタンパク質再構築による発光若しくは蛍光として捉えることを原理とする。その発光又は蛍光スペクトルの変化を測定することによって、生体内におけるJHの存在やその量を間接的に検出し、定量化することができる。
本工程では、被験体においてJHとJHセンサーの結合によって生じた発光又は蛍光スペクトルを検出し、測定する。生体外から発光又は蛍光を検出及び測定する方法は、限定はしないが、例えば、in vivoバイオイメージング法を用いることができる。具体的には、例えば、Katz, M.H. et al., 2003, Cancer Res. 63: 5521-5525、Schmitt, C.A. et al., 2002, Cancer Cell, 1: 289-298, Katz, M.H. et al., 2003, J. Surg. Res., 113: 151-160等に記載の方法が挙げられるが、これに限定はされない。市販のIVIS Imaging System(Caliper)やそれに類似する装置により検出してもよい。
(3)JH検出工程
「JH検出工程」は、前記測定工程で測定された測定値に基づいてJHを検出する工程である。「測定値」とは、前記測定工程における発光又は蛍光の測定方法に基づいて得られた数値である。数値単位は、測定方法によって異なる。例えば、蛍光を検出し、測定する方法であれば、数値単位として、蛍光強度(Fluorescence intensity)(単位:arbitrary unit)等となる。
JHの検出は、前記測定値の大きさ、経時的変化、及び/又はJHセンサーを導入していない非導入個体との測定値の差異等に基づいた相対値として算出すればよい。検出したJHの生体内における空間的位置、経時的変化、及び位置的変化を解析することで生体内におけるJHの動態をモニタリングすることができる。
5−2−2.第2実施形態
第2実施形態は、第4態様に記載の形質転換体を用いて生体内動態モニタリングを行う形態である。本実施形態は、形質転換体作製工程、測定工程、及びJH検出工程を含む。以下、各工程について説明をする。
(1)形質転換作製工程
「形質転換体作製工程」は、被験体である節足動物に第3態様のJHセンサー発現ベクターを導入し、形質転換体を作製する工程である。本工程は、第4形態の形質転換体又はその後代が入手可能な場合には不要な工程である。その場合、次の測定工程から行えばよい。
本工程の形質転換体は、前記第4態様に記載の形質転換体の作製方法に準じて行えばよい。宿主の形質転換には、5’末端にシグナルDNAが連結されたJHセンサーDNAを包含するJHセンサー発現ベクターを用いる。また、被験体生物種と、導入するJHセンサー発現ベクターに含まれるJHセンサーDNAのJHBP遺伝子の由来生物種は、必ずしも同一でなくてもよい。これは、前述のように、JHBPは生物種間で立体構造が保存されており、異なる生物種間のJHとJHBPであっても互いに結合し、その結果、JHBPの立体構造に変化を生じ得るからである。例えば、JHセンサー発現ベクターに含まれるJHセンサーDNAのJHBP遺伝子がカイコ由来であって、このJHセンサー発現ベクターを導入する宿主生物が分類学上の科レベルで異なるハチノスツヅリガであっても構わない。
(2)測定工程
「測定工程」は、前記形質転換体のJHセンサー発現ベクターから発現したJHセンサーに由来するFRET、又は発光若しくは蛍光タンパク質の再構築により発生する蛍光又は発光を測定する工程である。基本的には、第1実施形態の測定工程に準じて行えばよい。そこで、ここでは、第1実施形態とは異なる点について説明をする。
本工程は、発現誘導ステップを含んでいてもよい。「発現誘導ステップ」は、JHセンサー発現ベクター中に挿入されたJHセンサーDNAの発現を誘導するステップである。本ステップは、JHセンサー発現ベクター内でJHセンサーの発現を制御するプロモーターの種類によってその要否が決定する。例えば、プロモーターが発現誘導型プロモーターの場合には、本ステップが必要となる。一方、構成的活性型プロモーターの場合には形質転換体内でJHセンサーが恒常的に発現していることから本ステップは不要である。発現誘導方法は、発現誘導型プロモーターの性質に応じて行えばよい。例えば、熱ショックプロモーターであれば、形質転換体に一定時間、加温処理を行うことでJHセンサーの発現を誘導することができる。
(3)JH検出工程
「JH検出工程」は、前記測定工程で測定された測定値に基づいてJHを検出する工程である。基本的には、第1実施形態のJH検出工程に準じて行えばよい。ここでは、第1実施形態とは異なる点について説明をする。
JHの検出は、前記測定値の大きさ、経時的変化、及び/又は第3態様のJHセンサー発現ベクターを含まない非形質転換体との測定値の差異等に基づいた相対値として算出すればよい。検出したJHの生体内における空間的位置、経時的変化、及び位置的変化を解析することで生体内におけるJHの動態をモニタリングすることができる。
5−3.効果
従来のJH検出及び定量方法は、いずれの方法もJHの検出にあたっては、細胞や組織を破壊する必要があり、生体内におけるJHの動態を観察することはできなかった。本発明のJHの生体内動態モニタリング方法によれば、従来方法では成し得なかった生体内におけるJHの動態をモニタリングすることができる。
6.幼若ホルモン類似体の探索方法
6−1.概要
本発明の第6の態様は、JH類似体の探索方法である。本発明の方法は、JH類似体をハイスループットでスクリーニングする方法である。本方法によれば、昆虫等の変態を効果的に阻害する薬剤としてのJH類似体を簡便かつ迅速に探索し、得ることができる。
本明細書において「JH類似体」とは、節足動物においてJHと脱皮ホルモン(エクジソン)のホルモンバランスを破壊し、その結果として脱皮及び/又は変態を阻害することのできる物質を言う。例えば、JHに類似の作用を示す物質や、逆にJHBPやJH受容体と結合してJHの機能を拮抗阻害するアンタゴニストとしての作用を示す物質が挙げられる。JH類似体は、JHと構造的に類似していることが多いが、上記作用を有する限り必ずしもJHの構造類似体である必要はない。
ヒトをはじめとする哺乳動物にはJHや脱皮ホルモンが存在しないことから、JH類似体は哺乳動物に対しては毒性がないか、又は極めて低い。それ故に、JH類似体は哺乳動物に対して安全性の高い有効な殺虫剤となり得る。現在、メトプレン、フェノキシカルブ、ピリプロキシフェン等のJH類似体が殺虫剤として利用されている。
6−2.方法
本発明の方法は、混合工程、測定工程、及び選択工程を含む。
(1)混合工程
「混合工程」とは、前記第1態様に記載のJHセンサーと候補物質とを混合する工程である。
「候補物質」とは、目的とするJH類似体の候補となり得る物質である。低分子化合物、核酸、ペプチドのいずれであってもよいが、好ましくはJHと同じ低分子化合物である。構造的にJHに類似した低分子化合物はより好ましい。候補物質は、公知の任意の合成方法によって調製すればよい。例えば、有機化学反応によって合成することができる。
本発明の方法は、インビトロ系及びインビボ系のいずれで行ってもよい。
本発明の方法をインビトロ系で行う場合には、予めJHセンサーを調製しておく。JHセンサーは、公知のタンパク質発現方法により本発明のJHセンサー発現ベクターを包含する大腸菌や酵母等の単細胞生物か昆虫細胞等の培養細胞の形質転換体から抽出することができる。大腸菌、酵母、培養細胞等の培養方法、タンパク質発現方法及びタンパク質抽出方法の具体的な方法については、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012(前述)に記載の方法を参考にすればよい。なお、形質転換体がシグナルDNAを有するJHセンサー遺伝子を含んだJHセンサー発現ベクターを包含しているのであれば、発現したJHセンサーは、培養液中に分泌されることから、培養上清を回収することでJHセンサーを得ることができる。JHセンサーを含む培養上清は、必要に応じて公知のタンパク質分離精製技術、例えば、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーを用いて回収することができる。
JHセンサーと候補物質は、適当なバッファー又は反応溶液中で混合する。バッファーにはTris、HEPES、リン酸バッファー等を使用すればよい。両者の混合比率は、JHセンサー:候補物質が1:0.1〜1:1000となるようにする。混合は、混合溶液を撹拌棒やスターラ―バー等で軽く撹拌することで達成し得る。陽性対照用として、JHセンサーとJHを同条件で混合しておくことが望ましい。
本発明の方法をインビボ系で行う場合には、シグナルDNAを有さないJHセンサー遺伝子を含んだJHセンサー発現ベクターで形質転換された形質転換体をそのまま用いる。
混合は、形質転換体の培養液中、又は形質転換体を回収し、洗浄後、適当なバッファー等に懸濁した溶液中に候補物質を加えることで達成し得る。
(2)測定工程
「測定工程」とは、JHセンサーの発光若しくは蛍光共鳴エネルギー移動又は蛍光タンパク質の再構築により発生する蛍光又は発光を測定する工程である。
本工程では、JHセンサーと候補物質の結合によって生じる発光又は蛍光スペクトルを検出し、測定する。測定方法は、特に制限はしない。例えば、蛍光プレートリーダーや蛍光分光光度計を用いた、公知の方法を利用することができる。
(3)選択工程
「選択工程」とは、前記測定工程で得られた測定値に基づいた候補物質をJH類似体として選択する工程である。
測定値に基づく候補物質の選択方法は限定しないが、例えば、前記混合工程において候補物質を混合しない陰性対照の測定値との有意差に基づいて選択する方法や候補物質の濃度依存的な測定値の増加に基づく選択方法が挙げられる。
前記有意差に基づく選択方法は、例えば、候補物質を混合した時の測定値と混合しないときの測定値とを比較して両者に統計学的に有意に差があるときに、その候補物質をJH類似体として選択すればよい。「統計学的に有意」とは、例えば、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には、p<0.05、p<0.01又はp<0.001の場合が挙げられる。ここで、「p」又は「p値」とは、統計学的検定において、統計量が仮定した分布の中で、仮定が偶然正しくなる確率を示す。したがって「p」又は「p値」が小さいほど、仮定が真に近いことを意味する。「統計学的に有意に差がある」とは、候補物質を混合した時の測定値と混合しないときの測定値の差異を統計学的に処理したときに両者間に有意に差があることをいう。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法を用いることができる。
前記候補物質の濃度依存的な測定値の増加に基づく選択方法は、例えば、混合工程において候補物質を異なる濃度で混合する。各濃度における測定値が濃度依存的に増加したときにその候補物質をJH類似体として選択すればよい。
<実施例1:JHセンサー発現ベクターの構築>
本発明のJHセンサー発現ベクターを構築した。
(1)mTFPmVenus_pRSET-A(Kpn)_ver1.2の構築
大腸菌タンパク質発現用ベクターであるpRSET-A-BFP(Life technologies)を母核として、そのベクターに含まれるBFP ORF(open reading frame:読取枠)をFRET発色団ORFと置換した「mTFPmVenus_pRSET-A(Kpn)_ver1.2」を構築した。FRETの発色団ORFには、配列番号11で示される塩基配列からなるシアン蛍光タンパク質mTFP1 ORFと配列番号13で示される塩基配列からなる黄蛍光タンパク質mVenus ORFを用いた。
具体的な方法は、まず、mVenus-pRSET-Bを鋳型として制限酵素認識配列を付加したプライマーペアmVenus-f1(配列番号16)及びpRSETA-r1(配列番号17)を用いて、PCRで増幅した。耐熱性ポリメラーゼには校正機能付きポリメラーゼPrimeSTAR HS及びPrimeSTAR Max(TaKaRa Bio)を用いた。反応条件を94℃30秒、58℃30秒及び72℃90秒を1サイクルとして、サーマルサイクラー(MyCycler;Bio-Rad)で35サイクル行った。反応後のPCR産物は、エタノール沈殿及びPCR精製キット (NucleoSpin Gel and PCR Clean-up;MACHEREY-NAGEL)を用いて精製した後、PCR産物とpRSET-A-BFPをKpn1及びHind IIIで制限酵素処理した。目的DNA鎖をエタノール沈殿及びPCR精製キット(NucleoSpin Gel and PCR Clean-up;MACHEREY-NAGEL)を用いて精製した後、Mighty Mix (TaKaRa Bio)を用い、ライゲーション酵素反応により連結した。反応条件は添付のプロトコルに準じた。ライゲーション反応後の反応液で大腸菌K12株DH-5aを形質転換し、得られた形質転換体からPlasmid DNA Mini-PrepKit(Life technologies)を用いて、プラスミドmVenus-pRSET-Aを抽出した。次いで、mVenusの5’末端側にmTFP1を挿入するために、mTFP-pGEMTを鋳型とし、mTFP1_f1(配列番号18)とmTFP1_r1(配列番号19)を用いて、mTFP1 ORFをPCRで増幅した。得られたPCR産物とmVenus-pRSET-AをBamHI及びKpnIで制限酵素処理した。目的DNA鎖の精製、ライゲーション反応、形質転換法は、mVenus-pRSET-Aの調製法に準じた。最終的に得られたmTFPmVenus_pRSET-A(Kpn)は、BigDye Terminator v3.1 cycle sequencing kit (Life technologies)を用いて、ABI Prism 3730 (Life technologies)で塩基配列を決定した。シークエンス解析及びアッセンブリは、GENETYX-MAC ver. 16 software (GENETYX, Tokyo, Japan)で解析した。完成したmTFPmVenus_pRSET-A(Kpn)_ver1.2のプラスミドマップを図3Aに示す。
(2)mTFPmVenus_pRSET-A(RV)_ver1.2の構築
mTFPmVenus_pRSET-A(Kpn)_ver1.2においてmTFPm ORFとVenus ORF間の制限酵素認識配列はKpnIのみである(図3A参照)。それ故、JHセンサーを構築する上で、JHBP遺伝子挿入時における利便性が低い。そこで、Inverse PCR法により制限酵素認識配列(XhoI、EcoRV、KpnI)を付加したmTFPmVenus_pRSET-A(RV)_ver1.2を構築した。核酸増幅用プライマーとして配列番号20と配列番号21で示すプライマーペアを用いた。完成したmTFPmVenus_pRSET-A(RV)_ver1.2のプラスミドマップを図3Bに示す。
(3)JHセンサーの構築
FRET-JHBP-TypeA〜TypeCを含むFRET-JHBPキメラタンパク発現ベクターを構築した。FRET-JHBP-TypeA〜TypeC(図4)は、それぞれmTFP及びmVenusのJHBPへの挿入位置が異なるキメラタンパク質をコードする。このうちFRET-JHBP-TypeAが本発明のJHセンサーの構成を有する。
(i)FRET-JHBP-TypeCの構築
成熟型JHBP ORFには、配列番号3で示す塩基配列からなるカイコ成熟型JHBP II ORF(BmJHBP II)を用いた(Vermunt et al., 2001. Insect Mol. Biol. 10: 147)。JHBPII-pGEX2Tを鋳型として、5’末端側にXho Iを付加したプライマーJHBP_f1(配列番号22)と3’ 末端側にKpn Iを付加したプライマーJHBP_r1(配列番号23)でPCRを行い、得られたPCR産物を精製後、XhoI及びKpnIで切断処理してBmJHBP II DNA断片(XhoI/KpnI)を得た。続いて、mTFPmVenus_pRSET-A(RV)_ver1.2をXhoI及びKpnIで切断し、BmJHBP II DNA断片(XhoI/KpnI)を組み込んだ。PCR条件やライゲーション反応条件は、(1)の方法に準じて行った。その結果、BmJHBP II ORFの5’末端側にmTFP ORFが、また3’末端側にmVenus ORFが連結されたFRET-JHBP-TypeCを得た(図4)。
(ii)FRET-JHBP-TypeAの構築
JHの結合及び乖離時のJHBPの立体構造情報(Suzuki et al., 2011)から、蛍光タンパク質をJHBP内に挿入することで、FRET効率が大きくなるアミノ酸領域を推定した。その候補領域の一つを成熟JHBPにおける10〜15位のアミノ酸として、BmJHBPの11位のリジンコドン(L11)と12位のグリシンコドン(G12)間にmTFP ORFを挿入し、またmVenus ORFをJHBP ORFの3’末端に連結したFRET-JHBP-TypeA(図4)を構築した。
FRET-JHBP-TypeAは、mTFP1 ORFの挿入位置であるBmJHBP ORFの33位と34位を境界としたN末端領域とC末端領域の2つのDNA断片から構築した。
まず、mTFP1 ORFの5’末端側にBmJHBPの1位〜11位のアミノ酸残基をコードする1位〜33位の塩基配列を付加したN末端領域をPCRプライマー伸長反応によって調製した。前述のFRET-JHBP-TypeCを鋳型として、フォワードプライマーにはAJH_Ff1(配列番号24)、AJH_Ff2(配列番号25)及びAJH_Ff3(配列番号26)を、またリバースプライマーにはAJH_Fr1(配列番号27)を用いた。AJH_Ff3の5’末端には、GeneArt認識配列として機能するpBluescript II (sk)配列及びBamHI認識配列が付加されている。さらにAJH_Fr1は、N末端領域の3’末端側とC末端領域の5’末端側の塩基配列を包含し、後述するAJH_Rf1と互いに重複(相補)するようにデザインされている。PCRの反応条件は、サーマルサイクラー(MyCycler;Bio-Rad)を用いて、94℃30秒、58℃30秒、及び72℃90秒を1サイクルとして、35サイクルとした。反応後に得られたPCR産物をZero Blunt(登録商標) PCR Cloning Kit(Life technologies)のpCR-Blunt TOPOに、添付のプロトコルに従って直接クローニングした後、BigDye Terminator v3.1 cycle sequencing kit (Life technologies)を用いてPCR産物の塩基配列を確認した。
一方、BmJHBPの12位〜225位のアミノ酸残基をコードする33位〜675位の塩基配列の3’末端側にmVenus ORFを付加したC末端領域は、前述のFRET-JHBP-TypeCを鋳型としてPCRによって調製した。フォワードプライマーにはAJH_Rf1(配列番号28)を、またリバースプライマーにはAJH_Rr1(配列番号29)を用いた。前述のようにAJH_Rf1は、N末端領域の3’末端側とC末端領域の5’末端側の塩基配列を包含し、AJH_Fr1と互いに相補するようにデザインされている。また、AJH_Rr1の5’末端には、GeneArt認識配列として機能するpBluescript II (sk)配列及びHind III認識配列が付加されている。反応後に得られたPCR産物をN末端領域と同様の方法で直接クローニングした後、BigDye Terminator v3.1 cycle sequencing kit (Life technologies)を用いてPCR産物の塩基配列を確認した。
続いて、N末端領域とC末端領域を鋳型として、N末端領域の5’末端側GeneArt認識配列に結合するフォワードプライマーAJH-Ff3(配列番号26)とN末端領域の3’末端側GeneArt認識配列に結合するリバースプライマーAJH-Fr1(配列番号27)、C末端領域の5’末端側GeneArt認識配列に結合するフォワードプライマーAJH-Rf1(配列番号28)とC末端領域の3’末端側GeneArt認識配列に結合するリバースプライマーAJH_Rf1(配列番号29)を用いてPCRを行い、GeneArt Seamless cloning(Life technologies)によりFRET-JHBP-TypeAの全長断片を調製した。全長断片を含むPCR産物をpBluescript II (sk)に直接クローニングした後、BigDye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(Life technologies)を用いてPCR産物の塩基配列を決定し、JHBP ORF内の特定の位置にmTFP1 ORFがシームレスに挿入されていることを確認した。Bam HIとHind IIIによる切断処理によってpBluescript II (sk)からFRET-JHBP-TypeAの全長断片を切り出した後、その断片をBam HIとHind IIIによる切断処理によってBFP ORFを除いたpRSET-A-BFP(Life technologies)のBam HI/Hind III制限酵素認識配列中に挿入した。得られたFRET-JHBP-TypeAキメラタンパク質発現ベクターを「FRET-JHBP-TypeA_pRSE Ta」とした。FRET-JHBP-TypeA_pRSE Taの塩基配列を配列番号30に示す。前述のように、この発現ベクターは、本発明のJHセンサー発現ベクターの構成を有する。
(iii)FRET-JHBP-TypeBの構築
FRET効率が大きくなる他の推定アミノ酸領域として、成熟BmJHBPの137位のアスパラギンコドン(N137)と138位のグリシンコドン(G12)を選択し、それらのアミノ酸残基間にmVenus ORFを挿入し、またmTFP ORFをBmJHBPの5’末端に連結したFRET-JHBP-TypeB(図4)を構築した。
FRET-JHBP-TypeBもFRET-JHBP-TypeAと同様にmTFP1 ORFの挿入位置であるBmJHBP ORFの137位と138位を境界としたN末端領域とC末端領域及びmVenus ORFの3つのDNA断片から構築した。
基本的な方法は、FRET-JHBP-TypeAの調製方法に準じた。まずN末端領域は、後述するFRET-JHBP-TypeCを鋳型として、mTFP1 ORFの5’末端領域の塩基配列を含むフォワードプライマーAve_f1(配列番号31)とBmJHBPの130位〜137位のアミノ酸残基をコードする388位〜411位の塩基配列に相補的な塩基配列を含むリバースプライマーBJH-Fr1(配列番号32)を用いて、PCRによって調製した。Ave_f1の5’末端には、GeneArt認識配列として機能するpBluescript II (sk)配列及びBamHI認識配列が付加されている。さらにBJH_Fr1は、N末端領域の3’末端側とmVenusの5’末端側の塩基配列を包含し、後述するBJH_vef1と互いに重複(相補)するようにデザインされている。PCR条件は、FRET-JHBP-TypeAの調製方法に準じ、得られたPCR産物は、FRET-JHBP-TypeAのN末端領域と同様の方法で直接クローニングした後、BigDye Terminator v3.1 cycle sequencing kit (Life technologies)を用いてPCR産物の塩基配列を確認した。
次に、mVenus ORFは、後述するFRET-JHBP-TypeCを鋳型として、mVenus ORFの5’末端領域の塩基配列を含むフォワードプライマーBJH_vef1(配列番号33)とmVenus ORFの3’末端領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含むリバースプライマーBJH_ver1(配列番号34)を用いて、PCRによって調製した。BJH_vef1は、N末端領域の3’末端側とmVenus ORFの5’末端側の塩基配列を包含し、前述のBJH_Fr1と互いに重複(相補)するようにデザインされている。またBJH_ver1は、mVenus ORFの3’末端側とC末端領域の5’末端側の塩基配列に相補的な塩基配列を包含し、後述のBJH_Rr1と互いに重複(相補)するようにデザインされている。PCR条件は、FRET-JHBP-TypeAの調製方法に準じて行い、得られたPCR産物は、FRET-JHBP-TypeAのN末端領域と同様の方法で直接クローニングした後、BigDye Terminator v3.1 cycle sequencing kit (Life technologies)を用いてPCR産物の塩基配列を確認した。
最後に、C末端領域は、前述のFRET-JHBP-TypeCを鋳型として、BmJHBPの138位〜143位のアミノ酸残基をコードする412位〜429位の塩基配列を含むフォワードプライマーBJH_Rf1(配列番号35)とBmJHBP ORFの3’末端側の塩基配列に相補的な塩基配列を含むリバースプライマーBJH_Rr1(配列番号36)を用いて、PCRによって調製した。BJH_Rf1は、mVenus ORFの3’末端側とC末端領域の5’末端側の塩基配列を包含し、前述のBJH_ver1と互いに重複(相補)するようにデザインされている。BJH_Rr1はC末端領域の3’末端側の塩基配列に相補的な塩基配列を包含し、その5’末端には、GeneArt認識配列として機能するpBluescript II (sk)配列及びHind III認識配列が付加されている。反応後に得られたPCR産物をFRET-JHBP-TypeAのN末端領域と同様の方法で直接クローニングした後、BigDye Terminator v3.1 cycle sequencing kit (Life technologies)を用いてPCR産物の塩基配列を確認した。
N末端領域、mVenus ORF、及びC末端領域を鋳型として、PCRを行い、FRET-JHBP-TypeBの全長断片を調製した。全長断片を含むPCR産物をpBluescript II (sk)に直接クローニングした後、BigDye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(Life technologies)を用いてPCR産物の塩基配列を決定し、JHBP ORF内の特定の位置にmTFP1 ORFがシームレスに挿入されていることを確認した。Bam HIとHind IIIによる切断処理によってpBluescript II (sk)からFRET-JHBP-TypeBの全長断片を切り出した後、その断片をBam HIとHind IIIによる切断処理によってBFP ORFを除いたpRSET-A-BFP(Life technologies)のBam HI/Hind III制限酵素認識配列中に挿入した。得られたFRET-JHBP-TypeBキメラタンパク質発現ベクターを「FRET-JHBP-TypeB_pRSE Ta」とした。FRET-JHBP-TypeB_pRSE Taの塩基配列を配列番号37に示す。
<実施例2:形質転換体の作製とJHセンサーの発現及び精製>
実施例1で調製した3種類の遺伝子発現ベクターを宿主に導入した形質転換体を作製し、各遺伝子発現ベクターにコードされたFRET-JHBPキメラタンパク質の発現誘導とその精製を行った。
常法に基づいてFRET-JHBPキメラタンパク質発現ベクターのそれぞれをE. coli BL21(DE3)株(Novagen)に導入した。得られた形質転換体をLB培地で37℃にて培養した後、濁度(OD600)が0.4〜0.6に達したところで培養温度を16℃に下げ、終濃度1 mM IPTGを添加して14〜16時間、タンパク質の発現誘導処理を行なった。その後、大腸菌を集菌し、菌体をPBS (pH7.5)に再懸濁し、超音波出力70〜100%で20〜30分間、氷浴中で超音波破砕処理を行なった。細胞破砕溶液を40,000×gで30分間遠心分離した後、可溶性画分を回収して、5 mLのHisTrap HP(GE healthcare)でアフィニティー精製を行なった。目的物については400 mM imidazoleを含むバッファー(50 mM Tris- HCl (pH7.5), 200 mM NaCl, 400 mM imidazole)で溶出し、また夾雑物については20 mM imidazoleを含むバッファー(20 mM Tris-HCl (pH 8.0), 200 mM NaCl, 20 mM imidazole)で溶出して回収した。さらに、キメラタンパク質を含む画分については、HiLoad 26/60 Superdex 200 prep grade(GE healthcare)によりゲルろ過クロマトグラフィー精製を行なった。バッファーとして10 mM Tris-HCl (pH7.5), 150 mM NaClを用いた。最終的な精製度はSDS-PAGEによって確認した。各遺伝子発現ベクターからの発現によって得られたキメラタンパク質の濃度は、UV測定によって決定した。
<実施例3:FRET-JHBPキメラタンパク質の蛍光測定>
実施例2で調製し、単一精製した各FRET-JHBPキメラタンパク質によるJH存在下での蛍光強度を測定した。
10 mM Tris-HCl (pH7.5)、150 mM NaCl、1% ethanolのバッファー条件で、FRET-JHBPキメラタンパク質(5μM:TypeA又はTypeB;2μM:TypeC)に、基質となるJH III(Sigma-Aldrich)を最終濃度10μMで添加し、1時間、16℃、暗所でインキュベートした。対照としてJH III無添加のサンプルを同様に調製した。反応後、蛍光分光光度計F-4500(HITACHI)を用いて、励起波長450 nm、スキャン領域 480〜550 nm、温度20℃の条件で蛍光測定を行なった。mTFP1の蛍光ピーク(494 nm)とmVenusの蛍光ピーク(527 nm)の比を計測し、JH濃度による蛍光強度の変化を求めた。
結果を図5に示す。AはFRET-JHBP-TypeAを、BはFRET-JHBP-TypeBを、そしてCはFRET-JHBP-TypeCを、用いたときの結果である。本発明のJHセンサーの構成を有するFRET-JHBP-TypeAは、JH III存在下(10μM)でFRETが観察された。しかし、FRET-JHBP-TypeBとFRET-JHBP-TypeCでは、JH III存在下の蛍光強度の変化がJH III非存在下(0μM)のそれとほぼ同じパターンであり、FRETを検出できなかった。この結果から、JHBPとJHとの結合をFRETやBRETを利用して検出するには、本発明で示した限られた特定の箇所に蛍光タンパク質等を挿入した場合でなければ機能しないことが明らかとなった。
<実施例4:高安定性FRET-JHBPセンサーの構築とその蛍光測定>
実施例3の結果から、FRET-JHBP-TypeAは、JHセンサーとして機能することが明らかとなった。しかし、FRET-JHBP-TypeAは、FRETが不安定という問題があった。そこで、TypeAの配列を基に、高い安定性を保持したJHセンサーの開発を行った。
一般に、蛍光タンパクC末端は親水性に富み、蛍光タンパク立体構造に寄与せず、蛍光に影響しないことが知られており、これらリンカー配列のアミノ酸残基を欠失・挿入することで、安定したセンサータンパクの発現が可能と考えた。そこでJHBP内に挿入されたmTFP1のC末端を欠失及び挿入したコンストラクトを構築した。mTFP1 C末端のトリミングが可能なアミノ酸残基数は明らかにされていなかったが、CFPやGFPなどのバリアントタンパクはC末端9アミノ酸残基のトリミングが可能であった。mTFP1との相同性を確認したところ、C末端配列GMDELYKが他の蛍光タンパク配列と一致することがわかった。そこで、FRET-JHBP-TypeAキメラタンパク質においてmTFP1 ORFの3’末端から1アミノ酸残基ずつトリミングしたコンストラクト、すなわち1〜5アミノ酸分をコードする塩基(3〜15塩基)を削除したmTFP1-dX(X=1〜5の整数)を含む発現ベクターをFRET-JHBP-TypeA_pRSE Taからsite directed mutagenesis法により作製した。得られたFRET-JHBP-TypeAキメラタンパク質発現ベクターを「FRET-JHBP-TypeAdX_pRSE Ta」(X=1〜5の整数)とした。
また、JHBPセンサー部分と蛍光タンパク間のリンカー部分の稼働性を高めることでセンサータンパクの安定性改善を目的として蛍光タンパクC末端にアミノ酸残基の挿入を行った。挿入付加するアミノ酸残基は、20種類のアミノ酸の中で最も大きなコンフォメーションスペースを持つ特性から、多様な立体構造を取ることができるグリシン(G)を選択し、挿入アミノ酸数は1又は2個とした。FRET-JHBP-TypeAキメラタンパク質発現ベクターにおいてmTFP1 ORFの3’末端に1又は2個のグリシン(Gly)残基をコードする塩基(3又は6塩基)を付加したmTFP1-in(n=1又は2)を含む発現ベクターをFRET-JHBP-TypeA_pRSE Taからsite directed mutagenesis法により作製した。得られたFRET-JHBP-TypeAキメラタンパク質発現ベクターを「FRET-JHBP-TypeAin_pRSE Ta」(n=1又は2)とした。
さらに、FRET-JHBP-TypeCキメラタンパク質発現ベクターにおいて、mTFP1 ORFの3’末端から5アミノ酸分をコードする塩基(15塩基)を削除したmTFP1-d5のORFをmTFP1のORFに替えて挿入し、またmVenus ORFの3’末端から5アミノ酸分をコードする塩基(15塩基)を削除したmVenus-d5のORFをBmJHBPの83位のリジンコドン(K83)と84位のアラニンコドン(A84)間(K83/A84)に挿入して、FRET-JHBP-TypeCd5キメラタンパク質発現ベクター「FRET-JHBP-TypeCd5_pRSE Ta」を構築した。
最後に、mTFP1-d5のORFを11位のロイシンコドン(L11)と12位のグリシンコドン(G12)間(L11/G12)に挿入し、mVenus ORFの3’末端から4アミノ酸分をコードする塩基(12塩基)を削除したmVenus-d4のORFを137位のアスパラギンコドン(N137)と138位のグリシンコドン(G138)間(N137/G138)に挿入して、FRET-JHBP-TypeDd5キメラタンパク質発現ベクター「FRET-JHBP-TypeDd5_pRSE Ta」を構築した。
実施例3に記載の方法に準じて、各FRET-JHBPキメラタンパク質におけるJH存在下での蛍光強度をIn vitroアッセイにより測定した。
結果を表1に示す。
Figure 0006535483
表中、FRET値はJHIII(10μM)存在下及び非存在下での蛍光強度比の差を示す。FRET値からJHセンサーとして機能し得るFRET-JHBPキメラタンパク質に「○」を、機能し得ないFRET-JHBPキメラタンパク質に「×」をつけて評価した。
上記の結果から、FRET-JHBP-TypeAをベースとするキメラタンパク質、すなわち一方の蛍光タンパク質の挿入位置がL11/G12であり、他方の蛍光タンパク質の挿入位置がC末端の場合には、いずれもJHセンサーとして機能し得ることが立証された。中でもmTFP1-d4及び-d5が除去されたJHセンサーTypeAd4及びTypeAd5が高いFRET効率且つ高い安定性を備えたJHバイオセンサーであることがわかった。
しかし、一方の蛍光タンパク質の挿入位置がN末端か及び/又は他方の蛍光タンパク質の挿入位置がC末端以外であった場合には、FRET-JHBPキメラタンパク質はJHセンサーとして機能し得ないことが明らかとなった。
<実施例5:JHセンサーによるJH又はJH類似体の検出>
実施例3及び4では、JHとしてJH IIIを用いた。本発明のJHセンサーがJH III以外のJH又はJH類似体を検出可能なことを検証する。
実施例4で作成したTypeAd5をJHセンサーとして用いて、各種JH(JH I (SciTech)、JH II (SciTech)、JH III (Sigma-Aldrich)、又はMF (Echelon Biosciences))又はJH類似体(メトプレン (AccuStandard)、又はメトプレン酸(Sigma-Aldrich))の存在下におけるFRETの蛍光強度を経時測定した。JHの陰性対照として、オレイン酸(Sigma-Aldrich)を用いた。
基本的な測定方法は、実施例3に記載の方法に準じた。各種JH又はJH類似体の添加量は1.38μM及び10μMとし、対照用にJH無添加のサンプルを同条件で調製した。蛍光測定時間は、各種JH又はJH類似体の添加後から1時間、2時間、3時間、6時間とした。
結果を図6に示す。いずれのJH及びJH類似体もTypeAd5 JHセンサーによるFRETを検出することができた。また、総じてJH又はJH類似体の濃度が高い方が、検出される蛍光強度も高い傾向にあった。以上の結果から、本発明のJHセンサーは、JH IIIのみならず、様々なJHやJH類似体を検出可能であることが立証された。
<実施例6:JHセンサーによるJHの定量化>
本発明のJHセンサーにより試料中のJH又はJH類似体を定量化できることを確認した。
96wellマイクロプレート(Falcon #3072)に、実施例4で調製したJHセンサー(FRET-JHBP-TypeAd5)を最終濃度が1 μMとなるように150mM NaCLを含む198μLの10mM Tris-HCl buffer(pH 7.5)に加え、その後、リガンドとして0.1nM〜1×107nMのJH(JH I (SciTech)、JH II (SciTech)、JH III (Sigma-Aldrich)、MF (Echelon Biosciences))又はJH類似体(メトプレン酸 (Sigma-Aldrich))のエタノール溶液2 μLを濃度ごとに各wellに添加して、室温(約25℃)にて暗所で1時間静置した。反応後、各wellにおける励起波長450nm、測定波長480、及び535nmの蛍光強度を蛍光プレートリーダー(Perkin-Elmer ARVO MX ;1420 Multilabel Counter)で測定した。535nm/480nmの蛍光強度比を算出した。
結果を図7に示す。この図で示すように、JH及びJH類似体の濃度依存的なFRETが観測され、本発明のJHセンサーにより各種リガンドの定量化が可能であることが明らかとなった。

Claims (18)

  1. チョウ目昆虫における幼若ホルモン結合タンパク質のシグナルペプチドを除いた切端アミノ酸配列において、
    該切端アミノ酸配列のアミノ末端におけるアミノ酸残基を1位としたときに、10〜15位のいずれか一のアミノ酸残基が共鳴エネルギー供与型物質及び該共鳴エネルギー供与型物質の励起エネルギーを受容する共鳴エネルギー受容型物質のいずれか一方で修飾され、かつ
    前記切端アミノ酸配列のカルボキシル末端のアミノ酸残基が前記共鳴エネルギー供与型物質及び前記共鳴エネルギー受容型物質の他方で修飾されている
    タンパク質からなる幼若ホルモンセンサー。
  2. 前記共鳴エネルギー供与型物質が発光若しくは蛍光共鳴エネルギー供与型物質である、請求項1に記載の幼若ホルモンセンサー。
  3. チョウ目昆虫における幼若ホルモン結合タンパク質のシグナルペプチドを除いた切端アミノ酸配列において、
    該切端アミノ酸配列のアミノ末端におけるアミノ酸残基を1位としたときに、10〜15位の範囲内の連続する2つのアミノ酸残基間に共鳴エネルギー供与型物質及び該共鳴エネルギー供与型物質の励起エネルギーを受容する共鳴エネルギー受容型物質のいずれか一方を連結し、かつ
    前記切端アミノ酸配列のカルボキシル末端に前記共鳴エネルギー供与型物質及び前記共鳴エネルギー受容型物質の他方を連結した
    融合ポリペプチドからなる幼若ホルモンセンサー。
  4. 前記共鳴エネルギー供与型物質及び/又は共鳴エネルギー受容型物質がペプチドである、請求項3に記載の幼若ホルモンセンサー。
  5. 前記ペプチドが発光若しくは蛍光ペプチドである、請求項4に記載の幼若ホルモンセンサー。
  6. チョウ目昆虫における幼若ホルモン結合タンパク質のシグナルペプチドを除いた切端アミノ酸配列において、
    該切端アミノ酸配列のアミノ末端におけるアミノ酸残基を1位としたときに、10〜15位の範囲内の連続する2つのアミノ酸残基間に2分割された発光又は蛍光タンパク質断片のアミノ末端側のアミノ酸配列を連結し、かつ
    前記切端アミノ酸配列のカルボキシル末端に2分割された発光又は蛍光タンパク質断片のカルボキシル末端側のアミノ酸配列を連結した
    融合ポリペプチドからなる幼若ホルモンセンサー。
  7. 前記連続する2つのアミノ酸残基間が11位と12位のアミノ酸残基間である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の幼若ホルモンセンサー。
  8. 前記切端アミノ酸配列が(a)〜(c)で示すいずれかのアミノ酸配列である、請求項3〜7のいずれか一項に記載の幼若ホルモンセンサー。
    (a)配列番号2、4、又は8で示すアミノ酸配列、
    (b)(a)に記載のいずれか一のアミノ酸配列において1若しくは2〜20個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は
    (c)(a)に記載のいずれか一のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列
  9. 請求項4〜8のいずれか一項に記載の幼若ホルモンセンサーを構成する融合ポリペプチドをコードするDNA。
  10. 請求項9に記載のDNAを発現可能な状態で包含する幼若ホルモンセンサー発現ベクター。
  11. 請求項10に記載の幼若ホルモンセンサー発現ベクターを宿主細胞又は宿主生物に導入した形質転換体又はその後代。
  12. 節足動物の生体内における幼若ホルモンの動態をモニタリングする方法であって、
    被験体の節足動物に請求項1〜8のいずれか一項に記載の幼若ホルモンセンサーを導入する工程、
    前記被験体において共鳴エネルギー移動により変動するエネルギー変異又は発光若しくは蛍光タンパク質の再構築により発生する発光若しくは蛍光を測定する工程、及び
    前記測定工程で測定された測定値に基づいて幼若ホルモンを検出する工程
    を含む前記方法。
  13. 前記変動するエネルギー変異が発光若しくは蛍光である、請求項12に記載の方法。
  14. 節足動物の生体内における幼若ホルモンの動態をモニタリングする方法であって、
    被験体の節足動物に請求項10に記載の幼若ホルモンセンサー発現ベクターを導入し、形質転換体を作製する工程、
    前記形質転換体において幼若ホルモンセンサー発現ベクターから発現した幼若ホルモンセンサーに由来する発光若しくは蛍光共鳴エネルギー移動により変動するエネルギー変異又は発光若しくは蛍光タンパク質の再構築により発生する発光若しくは蛍光を測定する工程、及び
    前記測定工程で測定された測定値に基づいて幼若ホルモンを検出する工程
    を含む前記方法。
  15. 前記変動するエネルギー変異が発光若しくは蛍光である、請求項14に記載の方法。
  16. 節足動物の幼若ホルモンに構造的に類似する幼若ホルモン類似体の探索方法であって、 前記請求項1〜8のいずれか一項に記載の幼若ホルモンセンサーと候補物質とを混合する工程、
    前記幼若ホルモンセンサーの共鳴エネルギー移動によるエネルギー変異又は発光若しくは蛍光タンパク質の再構築により発生する蛍光を測定する工程、及び
    前記測定工程で得られた測定値に基づいて候補物質を幼若ホルモン類似体として選択する工程
    を含む前記方法。
  17. 前記変動するエネルギー変異が発光若しくは蛍光である、請求項16に記載の方法。
  18. 前記選択工程が、前記混合工程において候補物質を混合しない陰性対照の測定値との有意差、又は候補物質の濃度依存的な測定値の増加に基づく、請求項16又は17に記載の方法。
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