JP7142351B2 - チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法 - Google Patents

チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法 Download PDF

Info

Publication number
JP7142351B2
JP7142351B2 JP2018181043A JP2018181043A JP7142351B2 JP 7142351 B2 JP7142351 B2 JP 7142351B2 JP 2018181043 A JP2018181043 A JP 2018181043A JP 2018181043 A JP2018181043 A JP 2018181043A JP 7142351 B2 JP7142351 B2 JP 7142351B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
individuals
molted
wavelength
individual
excitation light
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2018181043A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2020048483A (ja
Inventor
哲也 飯塚
瑞樹 蔦
力 平山
謙一郎 立松
英二 岡田
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
National Agriculture and Food Research Organization
Original Assignee
National Agriculture and Food Research Organization
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by National Agriculture and Food Research Organization filed Critical National Agriculture and Food Research Organization
Priority to JP2018181043A priority Critical patent/JP7142351B2/ja
Publication of JP2020048483A publication Critical patent/JP2020048483A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7142351B2 publication Critical patent/JP7142351B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Investigating, Analyzing Materials By Fluorescence Or Luminescence (AREA)
  • Catching Or Destruction (AREA)

Description

本発明は、チョウ目昆虫の幼虫、特にカイコの脱皮個体を判別する方法に関する。
カイコガ(Bombyx mori)は、その幼虫であるカイコが吐糸する絹糸を利用するために古来より人間が改良を重ね、飼育してきた昆虫である。カイコの飼育及び採糸を目的とする養蚕業は、日本においても古くから行なわれていたが、特に開国から第二次世界大戦後の復興期までは生糸が重要な対外輸出品となっており、日本の近代化を支えた主要な産業でもあった。しかし、化学繊維の台頭、安価な外国製絹糸の輸入、及び経済発達に伴う二次及び三次産業人口の増加により農業人口が減少し、国内養蚕業は急速に衰退をしていった。
ところが、近年、遺伝子組換えカイコの作製技術の発達により、従来の絹糸採取目的とは異なる新たな用途、すなわちタンパク質の大量生産系としてカイコが再び熱い視線を浴びている。カイコは、蛹化時に繭を形成するために大量の絹糸を吐糸するが、この絹糸は、タンパク質を短期間で大量に合成できる絹糸腺で生成される。カイコの絹糸腺は大型器官であるため摘出が容易であり、また生成されたタンパク質は絹糸腺内腔に貯蔵されることから回収しやすいという利点もある。したがって、分子生物学的技術を用いて遺伝子組換えカイコを作製することにより絹糸腺内で有用タンパク質を大量に生産することが可能となり、現在、遺伝子組換えカイコを用いた検査用試薬や動物用医薬品の生産が既に開始されている(非特許文献1)。それに伴い、カイコを人工飼料育等で飼育する施設が新設される等、養蚕ニーズは増加傾向にある。ところが、上述の理由から養蚕農家は廃業や高齢化が進み、養蚕技術のノウハウを知る熟練者は、その数を著しく減じているのが現状である。
養蚕ではカイコへの給餌時期の見極めが非常に重要となる。カイコの集団を同時期に蛹化へ誘導し、繭形成をさせるためには生育の斉一化が必要であるが、これは眠解除後、脱皮したカイコ(起蚕)への給餌開始期を同調することで達成できる。「眠(みん)」とは、カイコが脱皮前に数時間~数日摂食を停止する期間をいう。一般に、眠期間中は給餌を停止し(停食)、集団内で起蚕が揃った時点、例えば、8割以上が起蚕となった時点で給餌が再開される。これによって、カイコ集団の生育を斉一化が可能となる(非特許文献2)。
起蚕判定、すなわち眠のカイコと脱皮開始後のカイコの判別は、カイコの行動や頭部(ヘッドカプセル)の大きさ等によって行われるが、熟練した作業員でなければ、その判定は容易ではない。しかし、養蚕ニーズの増加と養蚕熟練者の減少から、たとえ初心者であっても熟練者と同様の起蚕判定ができ、その結果に基づいて給餌時期を決定できる飼育技術の開発が急務となっている。
瀬筒秀樹,立松謙一郎,2014,生化学,86(5):553-560 鶴井裕治 他(編),2010,養蚕,財団法人大日本蚕糸会 蚕技術研究所
本発明は、熟練者でなければ起蚕判定が難しいという養蚕における問題点を解決するために、養蚕に関する経験や知識のない初心者であっても容易かつ確実に起蚕、すなわちカイコの脱皮個体を判別できる技術を開発し、提供することである。また、上記判別技術を用いた脱皮個体判別装置を開発し、提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、カイコをはじめとするチョウ目昆虫の幼虫は、脱皮後の新たな齢の体表面に脱皮時の分泌物を付着させており、その分泌物中に蛍光特性を有する物質(蛍光物質)が含まれていることを見出した。また、この蛍光物質は、眠に入る段階では体表面にほとんど残っていないことも明らかとなった。したがって、この蛍光物質を励起できる励起光をカイコに照射すれば、脱皮個体であれば体表面から比較的強い青白い蛍光を放出するのに対して、眠個体は淡い紫色の弱い光を放出するか、又は肉眼で認識できる光を放出しないという新規の知見を得た。脱皮前の個体と比較したとき、その相違は肉眼でも一目瞭然であった。この知見を応用すれば、養蚕に関する経験や知識のない初心者であっても起蚕判定を容易かつ確実に行うことができる。また、センシング技術や画像判定等のICT(情報通信技術)を用いることでコンピューターによる自動選別も可能になる。
本発明は、当該知見に基づくものであり、以下を提供する。
(1)チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法であって、特定の波長を有する励起光を前記幼虫に照射する工程、及び前記励起光の照射により青白い蛍光を体表面から放出する個体を脱皮個体として判別する工程を含む、前記方法。
(2)前記特定の波長が250nm~380nmである、(1)に記載の方法。
(3)チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法であって、特定の波長を有する励起光を前記幼虫に照射する工程、前記励起光の照射によって体表面から放出される蛍光波長及びその強度を測定する工程、及び得られた測定値に基づいて脱皮個体を判別する工程を含む、前記方法。
(4)前記判別工程において、判別が以下の(a)~(c)のいずれかにより行われる、(3)に記載の方法。
(a)280nm±30nmの励起光照射によって415nm±30nmの範囲に中心波長が現れる蛍光を体表面から放出する個体を脱皮個体とする。
(b)280nm±30nmの励起光照射によって体表面から放出される光のうち、波長330nm±30nmの範囲における中心波長の強度値と415nm±30nmの範囲における中心波長の強度値又は415nmの強度値との強度比に基づいて脱皮個体と未脱皮個体とを判別する。
(c)350nm±30nmの励起光照射によって体表面から放出される光のうち、波長440nm±30nmの範囲における中心波長の強度値と670nm±30nmの範囲における中心波長の強度値との強度比に基づいて脱皮個体と未脱皮個体とを判別する。
(5)前記判別工程において、前記(b)において330nm±30nmの範囲における中心波長の強度値を415nm±30nmの範囲における中心波長の強度値又は415nmの強度値で除した強度比が1以下の個体、又は前記(c)において440nm±30nmの範囲における中心波長の強度値を670nm±30nmの範囲における中心波長の強度値で除した強度比が40以上の個体を脱皮個体と判別する、(4)に記載の方法。
(6)前記チョウ目昆虫がカイコガ科(Bombycidae)又はヤママユガ科(Saturniidae)である、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体選出方法であって、(1)~(6)のいずれかに記載の脱皮個体判別方法により脱皮個体を選出する工程を含む、前記方法。
(8)複数の同齢脱皮個体を選出する、(7)に記載の方法。
(9)(8)に記載の方法で選出された同齢脱皮個体からなる、脱皮個体群。
(10)チョウ目昆虫の幼虫からなる個体群への給餌期判定方法であって、前記個体群に(1)~(6)のいずれかに記載の脱皮個体判別方法を用いて脱皮個体を判別する工程、及び脱皮個体の個体数が前記個体群の70%以上に達したときに給餌を行う工程を含む前記方法。
(11)チョウ目昆虫の幼虫からなる個体群の成長期斉一化方法であって、前記個体群に(7)に記載の脱皮個体選出方法を用いて、複数の同齢脱皮個体を選出する工程、及び選択された脱皮個体からなる脱皮個体群に給餌を行う工程を含む前記方法。
(12)波長280nm±30nm及び/又は350nm±30nm の励起光を放出する光源を備えた、チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別装置。
(13)筐体を備え、前記筐体は遮光空間又は弱光空間を内部に有し、前記幼虫を前記空間内に配置するための観察台、及び前記観察台上の幼虫を観察するための観察窓及び/又はカメラを含み、前記光源が前記観察台上の幼虫に励起光を照射できるように配置されている、(12)に記載の脱皮個体判別装置。
(14)コンピューターをさらに備えた、(12)又は(13)のいずれかに記載の脱皮個体判別装置。
(15)コンピューターに励起光を一定時間点灯し、照射対象である前記幼虫に照射する手順、前記幼虫から放出される蛍光を前記カメラで撮像する手順、撮像した画像データより蛍光強度と蛍光強度比を算出する手順、及び算出した値を予め入力された起蚕個体における蛍光強度及び蛍光強度比の値と照合して、前記幼虫が起蚕個体か否かを判別する手順を実行させるためのプログラムを記録したコンピューター読取可能な記録媒体。
本発明の脱皮個体判別方法によれば、カイコ飼育の初心者であっても容易かつ確実に起蚕を判定することが可能となる。また、その方法を起蚕判定装置に応用することで、起蚕の自動判定も可能となる。
Aはカイコ(品種:中510号)の4齢眠個体及び5齢起蚕個体を含む個体群を蛍光灯下で撮影した図である。Bは暗黒下で、同視野の同個体群を365nmにピーク波長を有するUV-LEDで照射し、撮影した図である。なお、A図撮影後、B図撮影の切り替えまでに時間差があるため、A及びB間で個体の配置に若干の相違が存在する。以下の図においても同様である。図中の矢印は、4齢眠個体を示す。Bでは、4齢眠個体が光を放出していないためほとんど認識できない。 Aはカイコ(品種:錦秋鐘和)の4齢眠個体及び5齢起蚕個体を含む個体群を蛍光灯下で撮影した図である。Bは暗黒下で、同視野の同個体群を365nmにピーク波長を有するUV-LEDで照射し、撮影した図である。図中の矢頭は、5齢起蚕個体を示す。カラー図であれば、より鮮明に識別できるが、グレースケール図でも5齢起蚕個体は白く光っていることがわかる。 異なるカイコ品種の4齢眠個体及び5齢起蚕個体を含む個体群を365nmにピーク波長を有するUV-LEDで照射し、撮影した図である。Aは日137号、Bは支146号、そしてCは中515号を示す。図中の矢印は、4齢眠個体を示す。品種を問わず、5齢起蚕個体は蛍光放出によりグレースケール図では白く光って見えるのに対して、4齢眠個体は暗い個体として認識できる。カラー図であれば、5齢起蚕個体は青白く光る個体、また4齢眠個体は暗く、淡い紫色の個体として認められる。 皮膚色が異常なカイコの突然変異体(lem系統)の4齢眠個体及び5齢起蚕個体を含む個体群を示す図である。Aは蛍光灯下で撮影した図、またBは暗黒下で、同視野の同個体群を365nmに中心波長を有するUV-LEDで照射して撮影した図である。図中の矢印は、4齢眠個体を示す。 カイコの初齢眠個体及び2齢起蚕個体を含む個体群を示す図である。Aは蛍光灯下で撮影した図、またBは暗黒下で同個体群を365nmに中心波長を有するUV-LEDで照射して撮影した図である。図中楕円で囲んだ個体は、初齢眠個体を示す。 カイコの4齢眠個体及び5齢起蚕個体を含む個体群を波長の異なるUV-LEDで照射して撮影した図である。Aは365nmに、またBは254nmに、それぞれ中心波長を有する。図中の矢印は、4齢眠個体を示す。Aにおいて、矢頭で示す個体は、脱皮途中の個体である。頭部を含む体前半部(下側)は白く光り、体後半部(上側)は暗く光を反射していないことがわかる。 蛍光指紋法による4齢眠個体及び5齢起蚕個体、各3頭の体表面の蛍光指紋パターンを示す図である。各図の右カラムは、総蛍光強度を1としたときの試料間の強度差を補正し、標準化した後の蛍光強度を示す。上段a-1~a-3は4齢眠の、また下段b-1~b-3は5齢起蚕の各個体の結果である。横軸は蛍光波長(nm)を、また縦軸は励起波長(nm)を示す。図中の黒丸は、強弱を問わず、中心波長の位置(ピーク位置)を示している。同齢個体では、ほぼ同位置にピークが現れる。一方、眠個体と起蚕個体では、ほぼ同位置に共通して現れるピークの他にも、起蚕個体特有の位置(δ)にピークが現れる。 蛍光指紋パターンにおける波長のピーク位置を比較した図である。a-2及びb-2は図6で示した蛍光指紋パターンであり、cはカイコの固定に用いたガムテープの蛍光指紋パターンである。図中の丸印は中心波長の位置を示す。いずれも横軸は蛍光波長(nm)を、また縦軸は励起波長(nm)を示す。 A:280nmの励起光を4齢眠個体及び5齢起蚕個体に照射したときの蛍光波長と蛍光強度との関係を示す蛍光スペクトルである。aは5齢起蚕個体を、bは4齢眠個体を示す(それぞれn=3)。図中、横軸は蛍光波長(nm)、縦軸は補正を行っていない蛍光強度である。B: 280nmの励起光照射により放出される5齢起蚕個体(a)及び4齢眠個体(b)の340nm(矢印)と415nm(矢頭)の強度比を示す図である。 A:370nmの励起光を4齢眠個体及び5齢起蚕個体に照射したときの蛍光波長と蛍光強度との関係を示す蛍光スペクトルである。aは5齢起蚕個体を、bは4齢眠個体を示す(それぞれn=3)。図中、横軸は蛍光波長(nm)、縦軸は補正を行っていない蛍光強度である。B: 370nmの励起光照射により放出される5齢起蚕個体(a)及び4齢眠個体(b)の440nm(矢印)と675nm(矢頭)の強度比を示す図である。
1.脱皮個体判別方法
1-1.概要
本発明の第1の態様は脱皮個体判別方法である。本発明の方法によれば、チョウ目昆虫の幼虫において脱皮個体とそれ以外の未脱皮個体(例えば眠の個体)とを容易かつ明瞭に判別することができる。
1-2.定義
本明細書で使用する以下の用語について定義する。
「チョウ目昆虫」とは、分類学上のチョウ目(Lepidoptera)に属する昆虫であって、チョウ又はガをいう。チョウには、タテハチョウ科(Nymphalidae)、アゲハチョウ科(Papilionidae)、シロチョウ科(Pieridae)、シジミチョウ科(Lycaenidae)、及びセセリチョウ科(Hesperiidae)に属する昆虫が含まれ、ガには、ヤママユガ科(Saturniidae)、カイコガ科(Bombycidae)、イボタガ科(Brahmaeidae)、オビガ科(Eupterotidae)、カレハガ科(Lasiocampidae)、ミノガ科(Psychidae)、シャクガ(Geometridae)、ヒトリガ科(Archtiidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)等に属する昆虫が含まれる。例えば、ガであれば、Bombyx属、Samia属、Antheraea属、Saturnia属、Attacus属、Rhodinia属に属する種、具体的には、カイコ、クワコ(Bombyx mandarina)、シンジュサン(Samia cynthia;エリサンSamia cynthia ricini及びシンジュサンとエリサンの交配種を含む)、ヤママユガ(Antheraea yamamai)、サクサン(Antheraea pernyi)、ヒメヤママユ(Saturnia japonica)、オオミズアオ(Actias gnoma)等が挙げられる。本発明の方法の対象昆虫には、限定はしないが、産業上の利用可能性の高いカイコガ科昆虫又はヤママユガ科昆虫が好ましく、カイコガは特に好ましい。
「チョウ目昆虫の幼虫」は、チョウ目昆虫の成長段階において、孵化後から蛹化前までの状態をいう。本明細書に記載の方法に供され、被験対象となるチョウ目昆虫の幼虫は、複数個体からなる場合、その個体群は同一種で構成されていることが望ましい。チョウ目昆虫の幼虫は、複数回脱皮を繰り返して齢を上げ、成長していく。通常、5齢までを経る種が多い。本明細書において、発明の対象となるチョウ目昆虫の幼虫の齢は特に限定されず、全齢の幼虫が対象となり得る。具体的には、例えば、初齢、2齢、3齢、4齢及び5齢が該当する。好ましくは3齢以降の中終齢である。なお、前述のように、カイコガの幼虫をここでは「カイコ」と称し、本明細書に記載の方法では、特に好適な被験対象となり得る。
本明細書において「脱皮個体」とは、脱皮完了後、所定の期間までの個体をいう。前述のように、本発明は、チョウ目昆虫の幼虫において、脱皮個体(脱皮中であれば次齢側)の体表面に残存する分泌物に包含される蛍光物質に基づく。この蛍光物質は、幼虫が次の眠を迎える頃には体表にほとんど残存していないことから、脱皮後の時間経過と共に物理的な接触等によって剥落していくと考えられる。したがって、ここでいう「所定の期間」とは、幼虫の体表面に蛍光物質が残存している期間とすることができる。そのような期間は、チョウ目昆虫の種類や幼虫の齢、及び物理的接触の多寡によって異なる。例えば、亜終齢幼虫又は終齢幼虫であれば、通常、脱皮完了から6日間以内、5日間以内、4日間以内、又は3日間以内とすることができる。好ましくは、脱皮完了後、物理的接触による蛍光物質の剥落の少ない期間、例えば、脱皮完了後48時間(2日間)以内、36時間以内、24時間(1日)以内、12時間以内、10時間以内、又は6時間以内である。なお、チョウ目昆虫の幼虫の脱皮は、頭部から開始され、尾部で完了する。そのため、脱皮途中の個体に励起光を照射すると、体の前半部では蛍光を放出し、後半部では放出しない2色の状態を呈する。このような脱皮開始個体は、比較的短時間のうちに脱皮を完了して脱皮個体となることから、本明細書では脱皮個体に包含する。脱皮開始の始期は、通常、頭部(ヘッドキャップ)と背面上皮に亀裂が生じた時点であるが、本明細書では、次齢の体表面が露出し、励起光照射による蛍光が認識できるようになった時点でよい。
本明細書において「未脱皮個体」とは、チョウ目昆虫の幼虫において前記脱皮個体以外の個体をいう。特に、本明細書では脱皮前の状態の個体、例えば、眠の個体が該当する。
本明細書において「眠」とは、チョウ目昆虫の幼虫が齢を上げるため脱皮前に摂食を停止する状態をいう。本来はカイコに対して使用する用語であるが、本明細書ではカイコに限定をされず、広くチョウ目昆虫の幼虫に適用する。眠の個体は、通常摂食のみならず動きも停止又は抑制することが多い。眠は、生物学的には次齢の体を形成するために、体内で盛んに代謝が行われている期間である。眠の期間が完了すると幼虫は直ちに次齢へと脱皮する。なお、眠から解除されて脱皮を開始した、又は完了したカイコを「起蚕」と称するが、本明細書での起蚕はカイコにおける脱皮個体と同義である。
1-3.方法
本発明の方法は、必須工程として照射工程及び判別工程を含む。また、選択工程として測定工程を含む。以下、各工程について、具体的に説明をする。
なお、本方法は、微弱な蛍光を観察することや、自然光や蛍光灯等の雑光の影響による誤判別を回避する理由から、遮光環境下(例えば、暗室内のような)、又は弱光環境下で行うことが好ましい。
(1)照射工程
「照射工程」は、本発明の方法に供されるチョウ目昆虫の幼虫に特定の波長を有する励起光を照射する必須の工程である。
本工程で「特定の波長」とは、チョウ目昆虫の脱皮個体表面に付着する蛍光物質を励起可能な波長(励起波長)である。波長は限定しないが、前記蛍光物質に最も強い蛍光強度を付与する波長(最適励起波長)が好ましい。例えば、250nm~380nmの範囲の波長が挙げられる。
本工程で「特定の波長を有する励起光」とは、前記励起波長を含む光をいう。例えば、400nm以下の短波長域、より好ましくは250nm~380nmの短波長域に中心波長を有する光が挙げられる。「中心波長」とは、所定の波長範囲において最大のエネルギー値を示す波長をいう。通常、蛍光スペクトルにおいて、ピークとなる波長が中心波長に相当する。本工程における励起光の中心波長は、限定はしないが、280nm又は350nmが好ましい。一般に、中心波長の前後30nm、前後25nm、前後20nm、前後15nmの範囲内の光が励起光として有効である。したがって、本工程では、280nm±30nm(250nm~310nm)、又は350nm±30nm(320nm~380nm)の範囲内の光が励起光の波長として好ましい。照射する励起光は、2以上の中心波長を有していてもよい。例えば、280nm及び350nmの各中心波長を有する励起光を同時に、又は別個に照射することができる。
照射時間は、励起光の照射により、脱皮個体を判別できる時間であれば限定はしない。ただし、短波長域の光を照射するため、長時間照射による個体への影響を考慮し、比較的短時間、例えば、30秒以下、25秒以下、20秒以下、15秒以下、10秒以下、9秒以下、8秒以下、7秒以下、6秒以下、5秒以下、4秒以下、3秒以下、2秒以下、又は1秒以下であることが好ましい。
本発明の方法に供され、脱皮個体判別の被験対象となるチョウ目昆虫の幼虫は、一個体であってもよいし、複数個体からなる個体群であってもよい。個体数は、励起光の照射可能な範囲に包含されている限り、特に限定はしない。また、個体群を構成する各個体の種類又は品種や幼虫の齢は限定しないが、好ましくは同種である。また被験対象がカイコであれば、より好ましくは同品種である。さらに幼虫の齢も眠個体群と起蚕個体群がそれぞれ同齢であることが好ましい。
本工程で使用する光源は、前記特定の波長を有する励起光を放出可能な光源であれば、その種類は特に限定しない。本発明に使用可能な光源の具体的な構成については、第5態様で詳述していることから、ここでの説明は省略する。
本工程では、チョウ目昆虫の幼虫の体表面に前記波長域の励起光を照射できる限り、光源からの直接照射又は間接照射を問わない。例えば、光源の光(励起光)を直接幼虫の体表面に照射してもよいし、「励起光のみを透過する励起フィルター」を通して、又はダイクロイックミラーを介して間接的に照射してもよい。
チョウ目昆虫の幼虫への照射部位は、頭部(ヘッドキャップ)以外の体表部位であれば、脱皮個体では蛍光物質が付着し得るため特に限定しない。前記頭部を除く全身、背側面部、腹側面部が好ましいが、それらの一部であってもよい。
(2)測定工程
「測定工程」は、前記照射における励起光照射によってチョウ目昆虫の幼虫の体表面から放出される光の波長及びその強度を測定し、測定値を得る工程である。本工程は選択工程ではあるが、次述の判別工程で特定の波長光及びその光強度に基づき脱皮個体と未脱皮個体を判別する場合には必須の工程となる。
測定対象の光は、励起光照射によってチョウ目昆虫の幼虫の体表面から放出される光である。蛍光や反射光を問わないが、好ましくは蛍光である。
測定する波長の範囲は限定しない。例えば、200nm~700nmの範囲で全波長の光強度を測定すればよいが、特定の波長域の光強度を測定してもよい。特定の波長域の光強度を測定する場合、その波長域は励起波長により定められる。例えば、励起波長が280nm±30nmのときには、415nm±30nm(385nm~445nm)、又は330nm±30nm(300nm~360nm)が測定域となる。また、励起光の波長が350nm±30nmのときには、440nm±30nm(410nm~470nm)、又は670nm±30nm(630nm~700nm)が測定域となる。
チョウ目昆虫の幼虫において測定すべき体表面の部位は、励起光が照射された部位であれば、頭部(ヘッドキャップ)を除き、いずれの部位であってもよい。照射部位全域であってもよいし、その一部であってもよい。
チョウ目昆虫の幼虫の体表面から放出される光の波長及びその強度を測定する方法は、当該分野で公知の測定方法を用いればよい。例えば、落射蛍光測定法が挙げられる。この方法は、測定対象試料(ここではチョウ目昆虫の幼虫)の下方から励起光を照射し、試料から放出される蛍光を落射式で測定する方法である。この方法であれば、試料がチョウ目昆虫の幼虫のような立体形状であっても蛍光測定が可能なため便利である。また、特定の波長域の光強度を測定する場合、その波長域のみを透過する吸収フィルターを使用してもよい。
(3)判別工程
「判別工程」は、前記照射工程後にチョウ目昆虫の幼虫の体表面から放出される光に基づいて脱皮個体を判別する必須の工程である。
脱皮個体であれば、前記照射工程の励起光照射によって体表面の蛍光物質に基づいた比較的強い蛍光が放出される。対して、眠個体のような未脱皮個体では、蛍光はほとんど放出されない。したがって、励起光照射によって体表面から放出される光の色、又は波長及びその強度に基づいて脱皮個体と未脱皮個体とを容易かつ明瞭に判別することができる。
蛍光の色で脱皮個体を判別する場合には、前述の測定工程は必ずしも必要としない。励起光照射時の幼虫体表面の色彩により、肉眼であっても極めて容易かつ確実に脱皮個体と未脱皮個体とを識別できるからである。例えば、励起光照射によって、青白い蛍光を放つ個体は脱皮個体である。一方、光を放射せず黒い状態のままか、励起光が幼虫の体表面で反射した暗く淡い紫色を呈する個体は脱皮個体である。したがって、青白い蛍光を放つ個体を脱皮個体として判別すればよい。また、前述のように、体の前半部が青白い蛍光を放ち、後半部が紫色を呈する2色の個体は、脱皮中の個体であり、これは脱皮個体として判別する。
蛍光波長及びその強度に基づき判別する場合には、測定工程を経た後、以下(a)~(c)のいずれか、又はそれらの組み合わせで判定すればよい。
(a)280nm±30nmの励起光照射によって放出される光のうち、415nm±30nmの範囲に中心波長が現れる個体は脱皮個体のみである。したがって、前記励起光をチョウ目昆虫の幼虫に照射したときに、415nm±30nmの範囲に中心波長が現れる蛍光を放出する個体を脱皮個体として判別することができる。
(b)280nm±30nmの励起光照射によって体表面から放出される光は、415nm±30nmの範囲以外に330nm±30nmの範囲にも中心波長を有する。この中心波長は脱皮個体だけでなく、未脱皮個体でも認められる。ただし、その波長強度は、脱皮個体よりも未脱皮個体において、より強い傾向にある。したがって、330nm±30nmの範囲の中心波長と415nm±30nmの範囲の中心波長の強度値又は415nmとの強度比を算出すれば、その強度比に基づいて脱皮個体と未脱皮個体とを識別することが可能となる。例えば、前記測定工程で得られた330nm±30nmの範囲の中心波長の強度値を415nm±30nmの範囲の中心波長の強度値又は415nmの強度値で除した値を強度比とする場合、その値が1以下であれば脱皮個体と判別することができる。
(c)350nm±30nmの励起光を照射した場合、中心波長が440nm±30nmと670nm±30nmの2つの波長範囲に現れる。いずれの中心波長も脱皮個体、及び未脱皮個体の双方で認められるが、それらの中心波長の光強度は440nm±30nmの範囲の中心波長では脱皮個体が、また670nm±30nmの範囲の中心波長では未脱皮個体が、より強い傾向にある。したがって、440nm±30nmの範囲の中心波長と670nm±30nmの範囲の中心波長との強度比を算出すれば、その強度比に基づいて脱皮個体と未脱皮個体とを識別することが可能となる。例えば、前記測定工程で得られた440nm±30nmの範囲の中心波長の強度値を670nm±30nmの範囲の中心波長の強度値で除した値を強度比とする場合、その値が40以上であれば脱皮個体と判別することができる。
1-4.効果
本発明の判別方法によれば、チョウ目昆虫の幼虫、特にカイコにおいて、脱皮個体と未脱皮個体とを容易かつ明瞭、確実に判別することができる。したがって、本発明を用いることで、従来、養蚕の熟練者でなければ困難であった起蚕判定が養蚕の初心者であっても確実にできるようになる。
2.脱皮個体選出方法
2-1.概要
本発明の第2の態様は、チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体選出方法である。本発明は、第1態様に記載の脱皮個体判別方法によって脱皮個体と判別された個体を人為的に選択する方法である。本発明によれば、脱皮個体のみからなる個体群を得ることができる。
2-2.方法
本発明の方法は、照射工程、判別工程、及び選出工程を必須工程として、また測定工程を選択工程として含む。このうち照射工程、測定工程、及び判別工程は、第1態様の脱皮個体判別方法における照射工程、測定工程、及び判別工程とそれぞれ同一である。つまり、本発明は、第1態様の脱皮個体判別方法と、それに続く選出工程によって構成されている。したがって、ここでは本発明に特有の選出工程についてのみ、以下で具体的に説明をする。
(選出工程)
「選出工程」は、判別工程で、脱皮個体として判別された個体を選出する工程である。
選出対象となる個体は、1頭であってもよいし、複数頭であってもよい。選出対象が複数頭からなる個体群の場合、その個体群を構成する個体の種類、品種、齢、性別は問わないが、同種かつ同品種で、さらに同齢であることが好ましい。選出対象が複数頭の場合、脱皮個体の選出時期は問わない。ただし、選出効率を考慮すれば、個体群における脱皮個体の割合が50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上に達したときに実施するのが好ましい。
脱皮個体の選出方法は特に限定しない。特に個体群の中から脱皮個体を選出する場合、脱皮個体と判別された個体を直接取り出してもよいし、又は未脱皮個体を除去して脱皮個体だけを残してもよい。脱皮個体の取出し、又は未脱皮個体の除去の具体的な方法についても特に限定はしない。肉眼による判別によって、手動で選出することもできるし、蛍光画像分析により判別された脱皮個体を自動で選出することもできる。
2-3.効果
本発明の脱皮個体選出方法によれば、脱皮個体のみで構成される個体群を得ることができる。そのような個体群は、特定の波長を有する励起光を照射したときに、いずれも体表面から青白い蛍光を放出する。また本方法で選出する脱皮個体を同種同齢にすることで、同種同齢の脱皮個体群として得ることができる。そのような個体群は、後述する第4態様に記載の成長斉一化方法におけるベース個体群として利用できる。
3.給餌期判定方法
3-1.概要
本発明の第3の態様は給餌期判定方法である。脱皮前後の複数個体からなるチョウ目昆虫の幼虫個体群において、眠期の幼虫は摂食を行わないため、眠個体率が多い時期に給餌しても、ほとんど摂食されないまま餌交換を行わなければない。そのため、給餌効率が悪くなる。一方、個体群を構成する個体間で脱皮時期は必ずしも同調しないため、最初の脱皮個体と最後の脱皮個体との間には数日の開きが生じ得る。ここで、給餌効率を優先し、全個体が脱皮を完了するまで給餌を保留した場合、最初の脱皮個体は、最期の脱皮個体が脱皮するまでの間、絶食状態を余儀なくされてしまう。しかし、例えば、カイコの場合の場合、4齢又は5齢への脱皮後に5~6日間給餌されないと餓死してしまう。したがって、脱皮前後のチョウ目昆虫の幼虫個体群に給餌する時期(給餌期)の判断は容易でない。
本発明の方法は、脱皮前後のそのような幼虫個体群、特にカイコ個体群において、どの時点で給餌を再開すればよいかを客観的に判定できる。したがって、本方法によれば、養蚕の熟練者でなくても給餌期として最良のタイミングを知ることができる。
3-2.方法
本発明の方法は、照射工程、判別工程、及び給餌工程を必須工程として、また測定工程を選択工程として含む。このうち照射工程、測定工程、及び判別工程は、第1態様の脱皮個体判別方法における照射工程、測定工程、及び判別工程とそれぞれ本質的に同一である。つまり、本発明は、第1態様の脱皮個体判別方法と、それに続く給餌工程によって構成されている。したがって、ここでは本発明に特有の給餌工程についてのみ、以下で具体的に説明をする。
なお、本発明の方法では、被験対象は原則としてチョウ目昆虫の幼虫個体群、すなわち複数の個体からなる個体集団である。好ましくは、眠個体と脱皮個体が混在する脱皮前後の個体集団である。
(給餌工程)
「給餌工程」は、チョウ目昆虫の幼虫からなる被験個体群において、判別工程で判別された脱皮個体の個体数が被験個体群の個体数に対して所定の割合以上に達したときに給餌を行う工程である。
ここでいう「所定の割合以上」は、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上でよい
給餌で用いる餌の種類は、被験対象のチョウ目昆虫の幼虫が摂食可能な餌であれば限定はしない。餌葉のような天然飼料であってもよいし、人工飼料であってもよい。例えば、カイコの場合、天然飼料であれば新鮮な桑葉を、人工飼料であれば、例えばシルクメイト(日本農産工業)を利用することができる。給餌方法は、常法に従って行えばよい。
4.成長斉一化方法
4-1.概要
本発明の第4の態様は成長斉一化方法である。本発明の方法は、チョウ目昆虫の幼虫個体群を飼育する過程で、各個体の成長期を斉一化する方法である。成長期を斉一化することで、その個体群を構成する個体の眠導入、脱皮時期、又は蛹化時期をほぼ同調させることが可能になる。個体群間の成長差がなければ、飼育管理が容易になる他、各個体の絹糸採取期や絹糸腺摘出期を同調することができるため生産コスト面からも好ましい。
4-2.方法
本発明の方法は、照射工程、判別工程、選出工程、及び給餌工程を必須工程として、また測定工程を選択工程として含む。このうち照射工程、測定工程、判別工程、及び選出工程は、第2態様の脱皮個体選出方法における照射工程、測定工程、判別工程、及び選出工程とそれぞれ本質的に同一である。つまり、本発明は、第2態様の脱皮個体選出方法と、それに続く給餌工程によって構成されている。また、給餌工程は、第3態様の給餌期判定方法における給餌工程と本質的に同一である。したがって、ここでは本発明に特徴的な点についてのみ、以下で説明をする。
本発明の目的から、本発明の方法における被験対象は、チョウ目昆虫の幼虫個体群、すなわち複数個体からなる集団である。そのような個体群を構成する各個体の種類、品種、齢、性別は問わないが、同種、同品種で、かつ同齢の脱皮前後個体群が好ましい。同齢の脱皮前後個体群とは、同齢未脱皮個体及び同齢脱皮個体からなる個体群をいう。例えば、初齢と2齢、2齢と3齢、3齢と4齢、及び4齢と5齢からなる個体群が該当する。
本発明の選出工程では選出工程において同齢の脱皮個体を選出する。この時点では給餌が行われていないため、各脱皮個体の成長は停止状態にある。したがって、本工程で選出された個体間の齢や成長期をほぼ同調することができる。
続いて、給餌工程において、選出された脱皮個体群に給餌を行う。同一成長期で成長停止状態にあった各個体に対して同時に給餌することにより給餌開始期が統一されるため、個体群を構成する各個体のその後の成長を斉一化することが可能となる。
なお、前述のように脱皮個体への未給餌期間が長いと幼虫は餓死してしまうことから、脱皮個体の選出期間(最初の脱皮個体選出から最後の脱皮個体選出までの期間)は、6日以内、5日以内、4日以内、3日以内、2日以内、好ましくは、1日以内、20時間以内、16時間以内、12時間以内、8時間以内、6時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、又は1時間以内である。
5.脱皮個体判別装置
5-1.概要
本発明の第5の態様は、脱皮個体判別装置である。本発明の装置は、特定波長の励起光を放出できる光源を備えた、チョウ目昆虫の幼虫の脱皮個体と未脱皮個体とを判別するための装置である。本発明の装置を用いることで、チョウ目昆虫の幼虫で、脱皮個体と未脱皮個体(例えば眠の個体)とを容易かつ正確に判別することが可能となる。また、養蚕自動化システムに適用することができる。
5-2.構成
本発明の脱皮個体判別装置は、必須構成要素として特定波長の励起光を放出できる光源を含み、その他、選択的構成要素として、筐体、フィルター又は反射板、観察台、又は観察窓若しくはカメラ、ハードウェア、又はソフトフェア等を含む。各構成要素について、以下で具体的に説明をする。
(1)光源
光源は、本発明の脱皮個体判別装置において必須構成要素である。本装置で使用される光源は、少なくとも250nm~380nm、好ましくは280nm±30nm及び/又は350nm±30nmの波長域の光を放出可能なように構成されている。これらの波長域の光が、チョウ目昆虫の幼虫に照射する励起光となる。本明細書では、この光源をしばしば「励起用光源」という。
励起用光源の種類は、前記波長域の光、好ましくはその波長域に中心波長(ピーク波長)を含む光を放出できれば特に限定はしない。前記波長域は、可視光寄りの長波長紫外線域に相当するため、長波長紫外線を放出できる紫外線ランプ(UVランプ)等が好適である。そのような紫外線ランプには、例えば、ブラックライトやUV-LED(Ultra Violet-Light Emitting Diode:紫外線発光ダイオード)が含まれる。UV-LEDは、所望する波長域に中心波長が含まれるように設計可能なことから本発明の励起用光源としても特に好ましい。
その他、前記長波長紫外線域を含む全波長域の光を放出する光源も励起用光源として使用することができる。そのような光源として、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、又は蛍光灯が挙げられる。ただし、このような全波長域型の光源を励起用光源として使用する場合、必要な波長域の光のみを選択するためのフィルターや反射板等の補助部材が必要となる。これらの補助部材の具体的な構成については後述する。
本発明の装置内で励起用光源の配置位置は、被験対象であるチョウ目昆虫の幼虫に励起光を照射可能な位置であれば特に限定はしない。この場合、照射は、光源からチョウ目昆虫の幼虫に対する直接照射、フィルターや反射板を介した間接照射、又はそれらを組み合わせた照射のいずれであってもよい。
装置内に設置する励起用光源の数は問わないが、多数の個体に同程度の励起光を照射するために広範囲かつ均一に照射するには、複数の励起用光源を備えていることが好ましい。励起用光源を複数備える場合、各光源の配置位置は限定しないが、集中配置するよりも被験対象に多方向から照射可能なように分散配置することが好ましい。励起用光源を複数有する場合には、各光源から放出される励起光の中心波長は同一であっても、また異なっていてもよい。
本発明の脱皮個体判別装置における光源は、励起用光源に加えて、可視光域の光を放出可能な視認用光源を補助用光源として備えることができる。励起用光源は、長波長紫外線域の光を放出するため、人間の肉眼では照射の有無を十分に認識することができない。特に遮光条件下で励起用光源のみを照射した場合、被験対象の位置すらも視認できない可能性がある。この問題は、視認用光源を本発明の装置に備えることで解消できる。
視認用光源の種類は、可視光を放出する光源であれば特に限定はしない。例えば、白熱球、蛍光灯、可視光LED、水銀灯、メタルハライドランプのような人工光源や太陽光のような自然光が挙げられる。人工光源は、可視光LEDを除き、照射時に多量の熱を発生することから装置内の温度が上昇し、その結果、幼虫に有害な影響を及ぼす可能性がある。したがって、必要に応じて装置内(庫内)の温度を空調により制御するか、間接光照射によって、装置内温度が上昇しない構成にすることが好ましい。また、自然光の場合、装置内に自然光を取り込む採光窓を装置に備えればよい。
装置内における視認用光源の配置位置は限定しない。ただし、装置内、特に被験対象のチョウ目昆虫の幼虫の状態を認識できる程度の可視光が照射されればよい。装置内における視認用光源の数は問わないが、1個又は数個で足りる。
(2)フィルター又は反射板
本発明の脱皮個体判別装置は、選択的構成要素として各種フィルターや反射板を備えていてもよい。
「フィルター」は、光源から放出される光のうち特定の波長を有する励起光のみを透過する励起フィルター、検出すべき波長の蛍光のみを透過する吸収フィルター等、目的に応じた様々なフィルターを具備することができる。本発明の脱皮個体判別装置において、フィルターの種類や設置数は限定しない。フィルターの設置位置も、必要な位置に必要に応じて設置すればよく、限定はしない。通常、装置内で励起用光源と被験対象の間に配置される。例えば、励起用光源に全波長域型の光源を使用する場合には、被験対象に励起光のみが照射されるように、光源と被験対象の間に励起フィルターを設置すればよい。また、脱皮個体の体表面から放出される微弱な蛍光を視認するためには、脱皮個体と、カメラレンズとの間、又は観察窓との間に吸収フィルターを設置すればよい。
「反射板」は、光の全部又は一部を反射可能な鏡面部を有する部材である。本発明の脱皮個体判別装置において、反射板の種類や設置数は限定しない。例えば、光源から放出された光の方向を変える反射ミラーや、特定の波長を有する励起光のみを反射し、他の波長の光は透過するダイクロイックミラー等、必要に応じて様々な反射板を設置することができる。
(3)筐体
筐体は、本発明の脱皮個体判別装置における選択的構成要素であって、箱状部材で構成されている。
筐体は、内部空間を有している。「内部空間」とは、被験対象となるチョウ目昆虫の幼虫を配置し、脱皮個体を判別する空間である。内部空間は、脱皮個体の体表面から放出される蛍光を容易に確認できるように、遮光空間又は弱光空間で構成されている。「遮光空間」とは、光が完全に遮断された空間、つまり完全な暗黒空間をいう。「弱光空間」とは、内部空間が明瞭に視認できないほどに暗いものの僅かな入光がある空間をいう。
本発明の装置が筐体を備えている場合、前述の光源(励起用光源及び視認用光源)は、内部空間を照射可能なように、その内部空間に配置されている。
筐体は、観察台、観察窓及び/又はカメラを具備することができる。観察台、観察窓及び/又はカメラは選択的構成要素であり、必要に応じて本発明の装置に備えればよい。
「観察台」とは、被験対象であるチョウ目昆虫の幼虫を装置内に配置するための台をいう。観察台は、励起光で照射されたチョウ目昆虫の幼虫が脱皮個体であるか否かを判別できるように、また前記幼虫が装置内で所定の場所から容易に脱出及び/又は逃亡しないように構成されていれば、その形状は特に限定はしない。例えば、上部に平面(観察面)を有する台座形状やディッシュ、バット又はトレイのような容器形状が挙げられる。装置内での観察台の配置については、前述の励起用光源から放出される励起光が、観察台に照射されるように装置内に配置すればよい。観察台の大きさは限定しないが、観察台(又は観察面)の概ね全体に、前記励起光が均一に若しくは同程度に照射されるように構成されていれば好ましい。観察台は、筐体の補助部材として、その内部空間に配置されているが、必ずしも筐体の補助部材でなくてもよく、筐体とは独立に装置内に備えることもできる。
「観察窓」とは、筐体に備えられる小窓であり、筐体内部空間の観察台上に配置された幼虫を筐体外から視認、観察できるように構成されている。観察窓の大きさは限定しないが、外部の過剰な光が筐体内に射し込まないように、視認、観察できる最小限の大きさであれば足りる。観察窓の形状も限定はしないが、前記理由を鑑みれば、片眼又は両眼で筐体内部を観察可能な形状であればよい。例えば、ゴーグルのような繭状の形態や、眼の大きさに合わせた1つ又は2つの円形若しくは楕円形形状等が挙げられる。観察窓には、筐体内部空間と筐体外部とを遮断する透明な基材(例えば、ガラスや、アクリル等のプラスチック)が嵌め込まれていてもよい。この透明基材を前記吸収フィルターとすることもできる。また観察窓には、観察後、筐体の内部空間に外部の光が入らないような蓋、又は遮光板を備えていてもよい。
「カメラ」は、被験対象の映像を記録可能なように構成されている。蛍光画像を撮像可能なものであれば、カメラの種類は限定されないが、デジタルカメラやデジタルビデオカメラのようにCCD、CMOS、有機薄膜撮像素子等の撮像素子を有し、撮影した画像をデジタルデータとして保存や処理できるカメラが好ましい。カメラは、筐体の補助部材としてその内部空間に観察台を撮影可能なように配置してもよいが、それに限定はされず、筐体とは独立に本発明の装置に具備することもできる。カメラは、撮影した装置内の被験対象を、モニター上で映像化して間接的に観察したり、脱皮個体判別の結果をデジタル情報として記録、保存きるので好ましい。
「ハードウェア」と「ソフトウェア」は、本装置の選択的構成要素であって2つ一組として使用される。「ハードウェア」は、例えば、CPU、不揮発性メモリ、揮発性メモリ、システムバス、インターフェース、モニター等を含むように構成されている。具体例として、コンピューターが該当する。また、「ソフトウェア」には、例えば、実行プログラムや画像解析プログラムが含まれる。「実行プログラム」は、励起光の点灯及び消灯、カメラ撮影、データの入出力等、本装置の実現に必要な一連の工程を制御し、実行するように構成されていている。「画像解析プログラム」は、蛍光画像データに基づき、蛍光強度や蛍光強度比を算出し、予め入力された起蚕個体の蛍光強度及び蛍光強度比の値とその値を照合して、測定個体が起蚕個体か否かを判別するように構成されている。
ハードウェアとソフトウェアによるデータ処理について、一例を挙げて具体的に説明する。まず、CPUが不揮発性メモリ等に格納された実行プログラムを揮発性メモリ上に展開し、そのプログラムに従った処理を実行する。例えば、前記カメラにより取得した画像(蛍光画像)のデジタル情報を入力情報として、インターフェースを介して揮発性メモリ上に入力する。続いて、画像解析プログラムを不揮発性メモリから揮発性メモリ上に展開し、順次実行することで、入力されたデータが処理されて、画像内に映った被験個体の中から脱皮個体が選別される。実行プログラムは、画像解析プログラムによる分析結果をモニター上に表示する。例えば、280nm±30nmの励起光照射時に前記カメラで撮影された蛍光画像のデジタル情報を入力し、プログラムに基づいて、415nm±30nmに中心波長を有する蛍光の有無や波長330nm±30nmの範囲における中心波長の強度値と415nm±30nmの範囲における中心波長の強度値又は415nmの強度値との強度比を算出し、画像中の被験個体が脱皮個体又は未脱皮個体のいずれであるかを判別し、その結果を出力する。なお、ソフトウェアは、ハードウェアの不揮発性メモリにインストールされたものを利用してもよいし、クラウドコンピューティングのようなネットワーク上のものを利用してもよい。
以下に本発明の実施形態に関して、例を挙げて具体的に説明する。ただし、以下の実施例の結果は、本発明の具体例に過ぎず、本発明の概念や構成を何ら限定するものではない。
<実施例1:励起光照射による脱皮前後のカイコ体表の蛍光観察(1)>
(目的)
本発明の脱皮個体判別方法を用いて、励起光をチョウ目昆虫の幼虫に照射したときに、脱皮個体のみが蛍光を放出することを確認する。
(方法)
チョウ目昆虫の幼虫には、カイコ(中510号)を用いた。本実施例では、複数の眠に入った4齢後期のカイコ(4齢眠)及び眠から解除されて脱皮した5齢初期のカイコ(5齢起蚕)が混合した個体群を判別対象とした。
飼育バット上の前記個体群に対し、暗黒下でUV-LED(るんるんルミネンUV-LED:鎌倉電子)を用いて365nmに中心波長を有する励起光を照射しながら観察した。
(結果)
図1に結果を示す。Aは判別対象の個体群を蛍光灯下で撮影した図である。一方、Bは暗黒下でUV-LEDで照射したときの図である。AとBの撮影間にカイコが多少動くことから両者に若干の相違はあるものの同視野である。図中の矢印は、4齢眠の個体を示す。
Aにおいて矢印のない5齢起蚕は、Bでも対応する位置でも蛍光により白く(カラー図であれば青白く)浮かび上がった状態で確認できるが、4齢眠の個体は、Aの矢印に対応する個体がBではほとんど確認できない。この結果は、励起光の照射により蛍光を放出する5齢起蚕は、肉眼であっても明瞭に識別できるが、脱皮前の4齢眠の個体は認識できないか、できても暗く、弱い光しか放出しないことが立証された。
<実施例2:励起光照射による脱皮前後のカイコ体表の蛍光観察(2)>
(目的)
脱皮個体の蛍光放出がカイコの品種依存ではないことを確認する。
(方法)
判別対象として、カイコの錦秋鐘和、日137号、支146号、及び中515号の4品種を用いた。基本的な手順は、実施例1に準じた。
(結果)
図2に結果を示す。図2-1において、Aはカイコ(錦秋鐘和)の4齢眠個体及び5齢起蚕個体を含む個体群を蛍光灯下で撮影した図である。Bは暗黒下で、Aと同視野の同個体群を365nmの波長を有するUV-LEDで照射し、撮影した図である。図中の矢頭は、5齢起蚕個体を示す。Aを見る限り、各個体間の違いはないようにも見えるが、Bを見ると5齢起蚕個体は白い個体として明瞭に認識できるのに対して、4齢眠個体では暗く認識しにくい個体となっている。図2-2のA(日137号)、B(支146号)、及びC(中515号)は、いずれも365nmの波長を有するUV-LEDで照射して撮影した図であるが、図2-1のAと同様に、5齢起蚕個体では白い個体として明瞭に認識できるのに対して、4齢眠個体(矢印)では暗く認識しにくい個体となっている。カラー図であれば、この4齢眠個体は暗く淡い紫色を呈した個体として認められる。
本実施例により、脱皮個体が励起光の照射により蛍光を放出するのは品種に依存しない現象であることが確認された。
<実施例3:励起光照射による脱皮前後のカイコ体表の蛍光観察(3)>
(目的)
脱皮個体の蛍光放出がカイコの皮膚色に影響されるか否かを確認する。
(方法)
脱皮個体の判別対象として、カイコのlem系統を用いた。lem系統は、セピアプテリン還元酵素遺伝子の変異により、体表色が全身黄色を呈する突然変異体である。その他の基本的な手順は、実施例1に準じた。
(結果)
図3に結果を示す。Aは判別対象の個体群を蛍光灯下で撮影した図である。一方、Bは暗黒下で365nmの波長を有するUV-LEDで照射したときの図である。図1と同様に、AとBの撮影間にカイコが多少動くことから両者に若干の相違はあるものの同視野である。図中の矢印は、4齢眠の個体を示す。
皮膚色が異常な突然変異体であっても、5齢起蚕では蛍光が認められたが、4齢眠では認められなかった。この結果から、カイコの脱皮個体の体表面に見られる蛍光は、皮膚色には影響されないことが明らかとなった。
<実施例4:励起光照射による脱皮前後のカイコ体表の蛍光観察(4)>
(目的)
脱皮個体の蛍光放出がカイコの齢に非依存であることを確認する。
(方法)
カイコ品種には、錦秋鐘和を用いた。また、脱皮個体の判別対象には、眠に入った初齢後期と眠から解除された2齢初期のカイコ(2齢起蚕)が混合した個体群を用いた。カイコの初齢は、毛蚕(けご)とも呼ばれ、他齢カイコと異なり、毛虫のように全身が黒い毛で覆われている。そのため、2齢起蚕の判別は、カイコ飼育において唯一初心者でも容易ではあるが、ここではカイコの齢に関係なく、本発明が適用できることを確認するために使用した。基本的な手順は、実施例1に準じた。
(結果)
図4に結果を示す。Aは判別対象の個体群を蛍光灯下で撮影した図である。一方、Bは暗黒下でUV-LEDで照射したときの図である。図1と同様に、AとBの撮影間にカイコが多少動くことから両者に若干の相違はあるものの同視野である。図中の矢印は、初齢眠の個体を示す。
この図から、前述の実施例と同様に、起蚕個体では蛍光が認められたが、眠個体では認められないことが明らかとなった。図示はしないが、同様の結果は、2齢眠/3齢起蚕、及び3齢眠/4齢起蚕でも確認できた。つまり、蛍光は、眠個体では、いずれの齢であってもほとんど認められないのに対して、起蚕個体では全ての齢で認められることが明らかとなった。これらの結果から、本発明が幼虫の齢とは無関係に適用可能なことが立証された。
<実施例5:異なる波長の励起光照射によるカイコ体表の蛍光観察>
(目的)
励起光が本発明の350nm±30nmの範囲の(365nm)の波長のみならず280nm±30nmの範囲の波長であっても、脱皮個体の体表面で蛍光が放出されることを確認する。
(方法)
カイコ品種には、錦秋鐘和を用いた。また、脱皮個体の判別対象には、4齢眠個体及び5齢起蚕個体が混合した個体群を用いた。基本的な手順は、実施例1に準じ、励起光照射は、アズワン製のハンディUVランプを用いて、365nmと254nmの2チャンネルで照射し、観察した。
(結果)
図5に結果を示す。Aは365nmに、またBは254nmに、それぞれ中心波長を有する励起光を照射した図である。図中の矢印は、4齢眠個体を示す。いずれの励起波長でも起蚕個体は蛍光を放出しているのに対して、眠個体では蛍光はほとんど認められない。この結果から、本発明の励起光の波長範囲であれば、励起波長に関わらず、脱皮個体蛍光を放出することが立証された。
<実施例6:蛍光指紋法によるカイコ体表面の分析>
(目的)
生きたカイコを用いて眠個体と起蚕個体の体表面を蛍光指紋法で分析した。
(方法)
測定にはカイコ(錦秋鐘和)の4齢眠個体(3頭)と脱皮後24時間以内の5齢起蚕個体(3頭)を用いた。体表面の蛍光は、落射蛍光測定ユニットEFA-833(日本分光)を装着したFP-8500分光蛍光光度計(日本分光)を用いて測定した。それぞれのカイコ個体の一部(腹部)が前記ユニットの石英窓を通過するようにして、個体をガムテープで固定した。その後、200nm~500nmの励起光を照射して、発生する光強度を測定した。測定データの処理、図形描写にはMATLAB R2017bソフトウェア(Mathworks)を用いた。また、カイコの固定に用いたガムテープの蛍光波長をバックグラウンドとして測定した。
(結果)
図6及び図7に結果を示す。図中の黒丸は、光強度の強弱を問わず、中心波長の位置(ピーク位置)を示す。
図6の上段a-1~a-3は4齢眠の、また下段b-1~b-3は5齢起蚕の、各個体における蛍光指紋法の解析結果である。同齢個体間、すなわちa-1~a-3間、及びb-1~b-3間では、非常に類似した蛍光パターンを示すことが明らかとなった。同齢個体間では、ピーク波長位置も同位置に認められた。一方、4齢眠個体(a)及び5齢起蚕個体(b)の蛍光パターンは、明らかに異なっていた。ピーク波長位置は、3カ所(α、β、γ)が両者に共通し、ほぼ同位置に認められたが、1か所(δ)は、5齢起蚕個体のみに認められた。この結果は、δピーク波長位置の蛍光波長が脱皮個体の判別に利用できることを示唆している。
以上より、特定の波長を有する励起光を照射したときにカイコの体表面から放出される蛍光パターンは、同齢個体間ではほとんど同じであるが、齢が異なれば変わることが明らかになった。また、波長のピーク波長位置は、眠個体及びそれに続く脱皮個体間で、ほぼ一致するものと、脱皮個体特有のものとがあり、後者は脱皮個体の判別に利用できることも明らかとなった。
図7は、図4で示した4齢眠個体(a-2)と5齢起蚕個体(b-2)、及びガムテープのみ(c)の蛍光指紋法の解析結果を示す。また、各ピーク位置における励起波長、蛍光波長、及び蛍光強度を表1に示す。また、ガムテープの蛍光パターンは、カイコのそれとは例を問わず全く異なっており、ピーク位置も互いに一致する位置には認められなかった。この結果から、カイコの体表面に見られる蛍光は、個体ごとに異なることなく、眠個体と脱皮個体でそれぞれ一定のパターンを示すことが示された。
Figure 0007142351000001
図7及び表1から、4齢眠個体(a-2)と5齢起蚕個体(b-2)において、ピーク波長位置であるα、β、及びγの励起波長と蛍光波長は、それぞれほぼ一致していることがわかった。つまり、特定の励起波長の光照射をしたときに、4齢眠個体と5齢起蚕個体の両方で中心波長の共通する光が放出される。一方で、ピーク波長位置δは、5齢起蚕個体のみで観察され、励起波長は280nm、蛍光波長は410nmであることが明らかとなった。
<実施例7:励起波長280nm及び370nm照射時のカイコ体表面における光強度の分析>
(目的)280nm及び370nmの励起光を未脱皮個体(4齢眠個体)及び脱皮個体(5齢起蚕個体)のそれぞれに照射したときの蛍光波長と蛍光強度との関係と、特定の蛍光波長の強度比について検証する。
(方法)
基本的な測定方法は、実施例5に準じた。4齢眠個体と5齢起蚕個体それぞれ3頭に370nmの励起光を照射したときの蛍光波長とその強度を測定した。
(結果)
図8及び9に結果を示す。図8は280nmの、また図9は370nmの、励起波長を照射した結果である。また、各図のAは4齢眠個体(b)及び5齢起蚕個体(a)に照射したときの蛍光波長と蛍光強度との関係を示す蛍光スペクトルである。図中、横軸は蛍光波長(nm)、縦軸は補正を行っていない蛍光強度を示す。一方、図8のBは、280nmの励起光照射により放出される5齢起蚕個体(a)及び4齢眠個体(b)の340nmと415nmの強度比を示す図であり、図9のBは、370nmの励起光照射により放出される5齢起蚕個体(a)及び4齢眠個体(b)の440nmと675nmの強度比を示す図である。
図8から、280nmの励起光を照射したときに4齢眠個体と5齢起蚕個体は、共に330nm±30nmの範囲に中心波長を有する蛍光を放出するが、その蛍光強度は4齢眠個体の方が圧倒的に高いことが明らかとなった。一方、5齢起蚕個体は、415nm±30nmの範囲に中心波長を有する蛍光を放出するが、4齢眠個体ではその範囲に中心波長を有する蛍光は認められなかった。したがって、実施例5で示したように、280nmの励起光を照射した場合に5齢起蚕個体のみで認められる415nm±30nmの範囲に中心波長を有する蛍光は脱皮個体を判別する上で利用できる。
一方、図8B及び図9Bの結果から、4齢眠個体(未脱皮個体)と5齢起蚕個体(脱皮個体)に共通して現れる蛍光波長は、光強度比を算出することで、脱皮個体と未脱皮個体を判別できることが明らかとなった。

Claims (8)

  1. チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法であって、
    250nm~380nmの波長を有する励起光を前記幼虫に照射する工程、及び
    前記励起光の照射により青白い蛍光を体表面から放出する個体を脱皮個体として判別する工程
    を含む、前記方法。
  2. チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法であって、
    280nm±30nm及び/又は350nm±30nmの波長を有する励起光を前記幼虫に照射する工程、
    前記励起光の照射によって体表面から放出される蛍光波長及びその強度を測定する工程、及び
    得られた測定値に基づいて脱皮個体を判別する工程
    を含
    前記判別工程において、判別が以下の(a)~(c)のいずれかにより行われる、前記方法
    (a)280nm±30nmの励起光照射によって415nm±30nmの範囲に中心波長が現れる蛍光を体表面から放出する個体を脱皮個体とする。
    (b)280nm±30nmの励起光照射によって体表面から放出される光のうち、波長330nm±30nmの範囲における中心波長の強度値と415nm±30nmの範囲における中心波長の強度値又は415nmの強度値との強度比に基づいて脱皮個体と未脱皮個体とを判別する。
    (c)350nm±30nmの励起光照射によって体表面から放出される光のうち、波長440nm±30nmの範囲における中心波長の強度値と670nm±30nmの範囲における中心波長の強度値との強度比に基づいて脱皮個体と未脱皮個体とを判別する
  3. 前記判別工程において、
    前記(b)において330nm±30nmの範囲における中心波長の強度値を415nm±30nmの範囲における中心波長の強度値又は415nmの強度値で除した強度比が1以下の個体、又は
    前記(c)において440nm±30nmの範囲における中心波長の強度値を670nm±30nmの範囲における中心波長の強度値で除した強度比が40以上の個体
    を脱皮個体と判別する、請求項に記載の方法。
  4. 前記チョウ目昆虫がカイコガ科(Bombycidae)又はヤママユガ科(Saturniidae)である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  5. チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体選出方法であって、
    請求項1~のいずれか一項に記載の脱皮個体判別方法により脱皮個体を選出する工程を含む、前記方法。
  6. 複数の同齢脱皮個体を選出する、請求項に記載の方法。
  7. チョウ目昆虫の幼虫からなる個体群への給餌期判定方法であって、
    前記個体群に請求項1~のいずれか一項に記載の脱皮個体判別方法を用いて脱皮個体を判別する工程、及び
    脱皮個体の個体数が前記個体群の70%以上に達したときに給餌を行う工程
    を含む前記方法。
  8. チョウ目昆虫の幼虫からなる個体群の成長期斉一化方法であって、
    前記個体群に請求項に記載の脱皮個体選出方法を用いて、複数の同齢脱皮個体を選出する工程、及び
    選択された脱皮個体からなる脱皮個体群に給餌を行う工程
    を含む前記方法。
JP2018181043A 2018-09-26 2018-09-26 チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法 Active JP7142351B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018181043A JP7142351B2 (ja) 2018-09-26 2018-09-26 チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018181043A JP7142351B2 (ja) 2018-09-26 2018-09-26 チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2020048483A JP2020048483A (ja) 2020-04-02
JP7142351B2 true JP7142351B2 (ja) 2022-09-27

Family

ID=69993937

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2018181043A Active JP7142351B2 (ja) 2018-09-26 2018-09-26 チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7142351B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN112308028B (zh) * 2020-11-25 2023-07-14 四川省农业科学院蚕业研究所 一种家蚕幼虫智能计数方法

Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US20120039813A1 (en) 2009-02-17 2012-02-16 Natalia Chendrawati Tansil Intrinsically colored, luminescent silk fibroin and a method of producing the same
JP2016161420A (ja) 2015-03-02 2016-09-05 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 幼若ホルモンセンサー

Family Cites Families (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH11235136A (ja) * 1998-02-23 1999-08-31 Maki System:Kk 蚕の飼育方法

Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US20120039813A1 (en) 2009-02-17 2012-02-16 Natalia Chendrawati Tansil Intrinsically colored, luminescent silk fibroin and a method of producing the same
JP2016161420A (ja) 2015-03-02 2016-09-05 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 幼若ホルモンセンサー

Non-Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
JAN KOOLMAN,ANALYSIS OF ECDYSTEROIDS BY FLUOROMETRY,Insect Btochem,1980年,Vol 10,pp 381 to 386
昆虫エクジステロイド生合成にかかわる酵素群と昆虫成長制御剤の開発,化学と生物,Vol. 54, No. 7,日本農芸化学会,2016年,509-513

Also Published As

Publication number Publication date
JP2020048483A (ja) 2020-04-02

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Kemp et al. An integrative framework for the appraisal of coloration in nature
Baldwin et al. The male blue crab, Callinectes sapidus, uses both chromatic and achromatic cues during mate choice
Fuchikawa et al. Neuronal circadian clock protein oscillations are similar in behaviourally rhythmic forager honeybees and in arrhythmic nurses
JP7142351B2 (ja) チョウ目昆虫の幼虫における脱皮個体判別方法
TW201209386A (en) Method for non-destructive judgment of pearl quality
Taylor et al. Natural variation in condition-dependent display colour does not predict male courtship success in a jumping spider
Blake et al. Compound eyes of the small white butterfly Pieris rapae have three distinct classes of red photoreceptors
Strobl et al. Light sheet-based fluorescence microscopy of living or fixed and stained Tribolium castaneum embryos
KR20160052367A (ko) 엽록소 형광영상을 이용한 식물의 비생물적 스트레스 또는 제초제 반응의 진단방법
WO2022058660A1 (en) Larvae separation system and method of separating larvae
Ilić et al. Simple and complex, sexually dimorphic retinal mosaic of fritillary butterflies
Kondrashev Spectral sensitivity and visual pigments of retinal photoreceptors in near-shore fishes of the Sea of Japan
Painting et al. Condition dependence of female-specific UV-induced fluorescence in a jumping spider
Puah et al. Live imaging of muscles in Drosophila metamorphosis: Towards high-throughput gene identification and function analysis
Pan et al. Light Optimization for an LED-Based Candling System and Detection Combined with Egg Parameters for Discrimination of Fertility
CN109307662A (zh) 使用基于荧光的检测制备组织切片
Teh et al. In vivo optogenetics for light-induced oxidative stress in transgenic zebrafish expressing the KillerRed photosensitizer protein
Heeke et al. Light-emitting diodes and cool white fluorescent light similarly suppress pineal gland melatonin and maintain retinal function and morphology in the rat
Stecher et al. Embryonic development of the larval eyes of the Sunburst Diving Beetle, Thermonectus marmoratus (Insecta: Dytiscidae): a morphological study
Kuehn et al. Development of a highly sensitive spectral camera for cartilage monitoring using fluorescence spectroscopy
Babišová et al. Apocrine secretion in the salivary glands of Drosophilidae and other dipterans is evolutionarily conserved
Braley et al. Autofluorescence in embryos and larvae of the giant clam Tridacna noae: challenges and opportunities for epifluorescence microscopy
AU2022232395B2 (en) Als camera system
WO2022071480A1 (ja) ミノムシの行動制御方法及び吐糸位置制御方法
Lessman et al. Use of flatbed transparency scanners in zebrafish research: versatile and economical adjuncts to traditional imaging tools for the Danio rerio laboratory

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20210413

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20220216

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20220301

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20220425

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20220607

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20220728

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20220823

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20220906

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 7142351

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150