JP6532673B2 - 表皮材及び表皮材の製造方法 - Google Patents
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Description
表皮材は、適度な伸張性と耐久性を必要とするため、一般的には、基材として基布を使用し、基布裏面にウレタンフォーム層を設けてクッション性を付与し、基布表面には意匠性を付与するための表皮層を設けたものが使用されている。
空隙の多い基布とウレタンフォーム層とを密着させることは困難であり、従来は、ポリウレタンフォームと織物とは、フレームラミネートと称される火炎貼り合わせにより積層されていた。火炎貼り合わせは、生産性の点等になお改良の余地があり、火炎貼り合わせを用いずにクッション性に優れた合成皮革を製造することが検討されている。火炎貼り合わせを用いず、合成皮革を製造する方法として、芯糸が織物組織の間に挿入された編織物、及び、弾性糸が編み込まれた編織物、の少なくともいずれかの編織物の表面に、PVC製又はポリウレタン製の表皮層を、好ましくは、接着剤により合布した合成皮革が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ウレタンフォーム層を設けなくても、良好なクッション性を有する合成皮革として、特定のパイル層を有するダブルラッセル地の表面に樹脂層が形成されてなる合成皮革が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、特許文献2に記載の合成皮革では、弾性糸を用いたり、立体的に変成したりした、ボリューム感、クッション性のある基布を用いることで、ウレタンフォーム層の形成を省略できる。しかし、座席用として十分な反発弾性を有するものとするためには、基布を構成する糸を太くしたり、編成密度を上げたりする必要があり、柔軟性、風合い等が低下する懸念がある。
本発明の別の課題は、ソフトな風合と、適度な弾性を有する表皮材を、生産性よく製造しうる表皮材の製造方法を提供することにある。
即ち、本発明は、以下に示すとおりである。
<1> ポリエステル繊維を含む繊維により構成された立体構造基布を備える表皮材であり、前記立体構造基布が、立体構造基布を構成する繊維のうち、少なくとも中糸交絡部の繊維周縁部に合成樹脂被覆層を有し、反発弾性が5%〜20%である表皮材。
<2> 前記立体構造基布の少なくとも一方の面に、接着剤層と、合成樹脂表皮層と、をこの順に備える、<1>に記載の表皮材。
<3> 前記合成樹脂被覆層が、ポリウレタンを含有する、<1>又は<2>に記載の表皮材。
<5> 前記合成樹脂液が、ポリウレタンを含有する、<4>に記載の表皮材の製造方法。
<6> 前記樹脂被覆層が形成された立体構造基布の少なくとも一方の面に、接着剤層を介して合成樹脂表皮層を形成する表皮層形成工程をさらに含む、<4>又は<5>に記載の表皮材の製造方法。
<8> 前記表皮層形成工程が、表面に凹凸が形成された絞型転写用離型材表面に、表皮層形成用組成物を付与して表皮層形成用組成物層を設ける工程、前記表皮層形成用組成物層表面に接着剤を付与して接着剤層を設ける工程、及び前記絞型転写用離型材表面に形成された表皮層形成用組成物層と接着剤層との積層体の接着剤層表面を前記立体構造基布の表面に接触させて、前記立体構造基布と前記積層体とを熱圧着し、絞型転写用離型材を剥離して、表面に凹凸が転写された合成樹脂表皮層を形成する工程、を含む<6>に記載の表皮材の製造方法。
また、本発明の製造方法によれば、ソフトな風合と、適度な弾性を有する表皮材を、生産性よく製造しうる表皮材の製造方法を提供することができる。
[表皮材]
本発明の表皮材は、ポリエステル繊維を含む繊維により構成された立体構造基布を備え、前記立体構造基布が、立体構造基布を構成する繊維のうち、少なくとも中糸交絡部の繊維周縁部に合成樹脂被覆層を有し、反発弾性が5%〜20%である表皮材である。
図1は、本発明の表皮材10の一態様を示す概略断面図である。
本実施形態の表皮材10は、ポリエステル繊維を含む繊維により構成された立体構造基布12を備え、前記立体構造基布12が、立体構造基布を構成する繊維のうち、少なくとも中糸交絡部12Aの繊維周縁部に合成樹脂被覆層14を有する。以下、少なくとも中糸交絡部12Aの繊維周縁部に合成樹脂被覆層14を有する立体構造基布を表皮材基材と称することがある。
本実施形態では、表皮材基材の表面には、接着剤層16を介して合成樹脂表皮層18を備えている。
合成樹脂被覆層14は、中糸交絡部12Aにおける複数の繊維同士を固定化することができれば、必ずしも繊維周縁部全面に亘って均一に形成されていなくてもよい。中糸交絡部12Aにおける繊維周縁部が合成樹脂被覆層14により被覆されることで、中糸交絡部12Aにおける複数の繊維同士が合成樹脂被覆層14により固定化されることになる。このため、本発明の表皮材基材は、立体構造基布12が本来有する反発弾性に比較して、反発弾性がより向上する。
合成樹脂被覆層14自体も、合成樹脂被覆層14を構成する樹脂を選択することで、伸縮性、可撓性を有する層となり、立体構造基布12が有する風合を維持しつつ、繊維同士の固定化により表皮材基材の反発弾性の向上に寄与する。
なお、立体構造基布12を構成する繊維の中糸交絡部12A以外の領域の繊維についても、合成樹脂被覆層14は必ずしも繊維周縁部の全面に有していなくてもよい。
通常、立体構造基布は、編布、及び織布のいずれにおいても、表編地又は表織地(以下、表地と称することがある)と、裏編地又は裏織地(以下、裏地と称することがある)と、表地と裏地とを繋ぐ中糸とを有し、表地と裏地との間に空隙を有することで、クッション性に優れた基布となる。
本発明の表皮材では、立体構造基布において、表地と裏地とを繋ぐ中糸の交絡部に合成樹脂層を備えることで、立体構造基布の空隙を維持したまま、立体構造基布を構成する繊維のうち、少なくとも中糸交絡部が固定化される。このため、立体構造基布を構成する繊維の太さを太くしたり、編地、織地の密度を向上したりすることなく、表皮材は良好なクッション性、弾性を発現することができる。また、太い繊維を使用した場合に生じる柔軟性の低下等の懸念が無く、立体構造基布の有する本来のソフトな風合が維持される。
このため、この立体構造基布に、良好な外観を付与する合成樹脂表皮層を設けるのみで、ウレタンフォーム層を必要とせず、ソフトな風合い、及び座席用として十分なクッション性を有する表皮材となると推定される。
また、本発明の好ましい態様では、表皮材基材を形成するために用いる合成樹脂液として、湿式ポリウレタンを用いることで、ポリウレタンから形成された合成樹脂表皮層は、連通セルを有することになる。従って、合成樹脂表皮層の通気度が低く抑えられ、圧縮時、応力解放時に表皮材基材内の空気の出入りが遅くなり、ダンパー効果による緩やかな圧縮性及び復元性が発現する。
本発明の表皮材によれば、例えば、立体構造基布が有する空隙が完全につぶれてしまうほどの力で圧縮しても、立体構造基布を構成する繊維周縁部の合成樹脂被覆層の反発弾性が発現し、いわゆる底突き感を解消することができるという利点をも有する。
さらに、合成樹脂表皮層の意匠を選択することで、天然皮革と比べても遜色のない微細な絞表現を持つ、高質感で、クッション性に優れた、自動車内装材、特にシート用、或は、椅子張り用等の広範な用途に好適な表皮材となる。
本発明における立体構造基布とは、表編地又は表織地と、裏編地又は裏織地と、表地と裏地とを繋ぐ中糸とを有し、表地と裏地との間に空隙を有する基布を指す。
本発明の表皮材10に用いる立体構造基布12は、表地と、裏地と、表地と裏地とを繋ぐ中糸とを有し、表地と裏地との間に空隙を有し、クッション性を有する立体構造基布であれば、編地、織地のいずれも用いることができる。
図2は、本発明の表皮材基材の形成に用いる立体構造基布12の一態様を示す概略図である。立体構造基布12は、表地20と裏地22と、表地20と裏地22との間の空隙にパイル糸24を有し、空隙においてパイル糸24同士が交絡する中糸交絡部12Aを有する。なお、本発明における表皮材基材において、中糸交絡部12Aにおける複数の繊維同士を、合成樹脂被覆層14を形成して固定化することが重要であり、必ずしも複数の繊維が互いに絡み合っていなくても、複数の繊維の交差部において、繊維同士が接触していれば、繊維同士の接触箇所に合成樹脂被覆層14を形成することで本発明の効果が発現される。このため、本明細書における中糸交絡部12Aは、複数の中糸が互いに接触した部分をも包含する意味で用いられる。
立体構造基布は編地であっても、織地であってもよい。生産性、コストの観点からは立体構造基布は編地であることが好ましい。
本発明の表皮材に用いうる立体構造基布としては、例えば、ダブルラッセル、ダンボールニット等が挙げられ、基布自体が有する反発弾性力の観点から、ダブルラッセルが好ましい。
他の繊維としては、ポリアミド繊維、高強度ポリアミド繊維であるケブラー繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、綿繊維等が挙げられる。例えば、ポリエステル繊維とポリウレタン繊維とを併用することで、立体構造基布12の伸縮性が向上する。また、ポリエステル繊維とケブラー繊維とを併用することで立体構造基布12の強度をより向上させることができる。
立体構造基布12を構成する繊維の太さには制限はないが、反発弾性及び強度と柔軟性とを両立するという観点からは、56dtex〜167dtex、17フィラメント〜54フィラメントのポリエステル繊維であることが好ましい。
なお、立体構造基布12の厚み、用いる繊維の太さ、編製密度は、表皮材の使用目的に応じて、適宜選択することができる。
立体構造基布12を構成する繊維の中糸交絡部12A周縁部には合成樹脂被覆層14を有する。中糸交絡部12A周縁部に合成樹脂被覆層14を有することで、中糸交絡部12Aにおける繊維同士が固定化され、圧力が掛った場合でも、中糸交絡部12Aにおける繊維の分離が抑制され、表皮材基材において良好な反発弾性が発現する。
合成樹脂被覆層14の形成方法としては、立体構造基布12を構成する繊維の少なくとも中糸交絡部12Aに合成樹脂液を塗布法、噴射法等で適用する方法、合成樹脂液に立体構造基布12を浸漬する方法などが挙げられる。塗布法としては、公知の塗布装置、例えば、バーコータ、スライドビードコータ、エクストルージョンコータ、ロールコータ等を用いて、立体構造基布12の表面に合成樹脂液を塗布する方法が挙げられる。塗布法により立体構造基布12の表面に付与された合成樹脂液は、表地を構成する繊維の空隙から内部の中糸交絡部12A側へ浸透する。
合成樹脂被覆層の形成方法としては、立体構造基布12を合成樹脂液に浸漬する方法が作業性、形成される合成樹脂被覆層の均一性の観点から好ましい。以下、本明細書では、この方法を浸漬法と称する。浸漬法により合成樹脂液を適用すると、中糸交絡部12A周縁部に確実に合成樹脂液を付与することができる。さらに、立体構造基布12を構成する繊維の中糸交絡部以外の繊維周縁部にも合成樹脂液が付着し、乾燥により、合成樹脂被覆層14が容易に形成される。
合成樹脂液に立体構造基布12を浸漬法した後、立体構造基布12を合成樹脂液から引き上げて、余分な合成樹脂液を除去し、その後、合成樹脂液に含まれる合成樹脂を硬化することで、立体構造基布12の空隙を維持したまま、繊維周縁部に合成樹脂被覆層14を形成することができる。
合成樹脂被覆層14の形成に使用されるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられる。本発明の表皮材が自動車用シート、椅子等の長期耐久性が必要な用途に用いられる観点からはポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
ポリウレタンは市販品を用いてもよく、例えば、DIC(株)製のクリスボン等が好適に用いられる。
合成樹脂被覆層14の形成に用いられる合成樹脂液には、主剤となる樹脂、溶剤に加え、本発明の効果を損なわない限りにおいて、架橋剤、架橋促進剤、着色剤、成膜助剤、発泡剤等の種々の添加剤を用いてもよい。
なお、ポリウレタンの硬さ(100%モジュラス)を調整する方法としては、例えば、柔らかくしたい場合には、ソフトセグメントとなるポリオール成分比率を増加、又はポリオールの分子量を大きくし、硬くしたい場合には、ハードセグメントとなるウレタン結合、ウレア結合を増加させ、またヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)等の架橋剤を添加してエネルギーを付与し、架橋構造を形成する方法等が挙げられる。
合成樹脂被覆層14の厚みは、表皮材の使用目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、乾燥前の付量(以下、Wet付量と称することがある)は、20μm〜200μm程度であり、Wet付量で100μm〜180μmであることが好ましい。
合成樹脂被覆層の厚みは、以下の方法で測定することができる。
厚みの測定方法としては、例えば、表皮材基材の断面を、電子顕微鏡写真等により拡大写真を撮影し、拡大写真の画像を用いて合成樹脂被覆層の厚みを測定する方法等が挙げられ、本明細書では、電子顕微鏡写真を用いた方法を採用している。
なかでも、合成樹脂液を含む立体構造基布を搾って合成樹脂液を除去する方法が好ましい。立体構造基布を搾る方法としては、例えば、合成樹脂液を含む立体構造基布を、所定のクリアランスを介して配置された対向する一対のロール間を通過させて余分な合成樹脂液を除去する方法が挙げられる。この方法によれば、繊維に付着した合成樹脂液を除去することなく、立体構造基布の空隙に残存する合成樹脂液を除去することができ、合成樹脂の硬化後に立体構造基布の空隙が維持される。
クリアランスを、立体構造基布の厚みの1/2〜1/1、例えば、1.0mm〜3.0mmに調整して、対向する一対のロール間を通過させればよい。このとき、一対のロール間のクリアランスを制御することで、除去する合成樹脂液の量、即ち、立体構造基布を構成する繊維に付着、残存する合成樹脂液の量を制御することができる。
乾燥は、常法により行なうことができる。乾燥方法としては、温風乾燥、加熱乾燥炉内での乾燥等、非接触加熱乾燥方法をとることが好ましい。
乾燥温度は、立体構造基布、及び、形成された合成樹脂被覆層に影響を与えない温度であることが好ましく、例えば、80℃〜150℃の範囲が好ましく、90℃〜120℃の範囲がより好ましい。乾燥時間は、上記温度条件で、1分間〜10分間行なうことが好ましく、2分間〜5分間行なうことがより好ましい。
なお、乾燥温度条件、乾燥時間は、合成樹脂被覆層に用いられる合成樹脂の種類、及び立体構造基布に用いられる繊維の種類により適切な条件を選択すればよい。
表皮材基材は、弾力性に優れるため、ウレタンフォーム層等のクッション層を別途設けることを必要とせず、表面に、外観を向上させたり、意匠性を付与したりするための合成樹脂表皮層を形成することで、クッション性に優れた表皮材とすることができる。
本発明の表皮材10は、既述の表皮材基材の表面に、合成樹脂表皮層18を有することができる。
合成樹脂表皮層は、表皮材に目的に応じた意匠性を付与するために形成される。合成樹脂表皮層の形成方法には特に制限はなく、公知の合成皮革、及び表皮材に用いられる表皮層の形成方法を適用して合成樹脂表皮層を設けることができる。
以下に合成樹脂表皮層の例を挙げて詳細を説明するが、本発明はこれらの説明に何ら制限されない。
合成樹脂表皮層表面には、皮革様等の任意の凹凸模様(以下、絞と称することがある)を設けることができる。
絞は、表皮材基材上に接着剤層を介して合成樹脂表皮層を形成した後、或は、合成樹脂表皮層を形成する際に、絞を有する絞型転写用ロールを加熱圧着することで形成してもよい。
また、予め絞が形成された絞型転写用離型材表面に、表皮層形成用組成物層、及び接着剤層を有する積層体を形成し、形成された積層体の接着剤層の表面を表皮材基材と接するように積層し、積層体と表皮材基材とを密着させた後、絞型転写用離型材を剥離することで形成してもよい。
表皮層形成用組成物層にポリウレタンを使用する場合、ポリウレタンとしては、JIS K−6301に準じて測定した硬さが、100%モジュラスで98N/cm2〜980N/cm2であり、望ましくは196N/cm2〜588N/cm2が好適である。
合成樹脂表皮層の形成に用いられる表皮層形成用組成物には、主剤となる樹脂に加え、架橋剤、及び、必要に応じて架橋促進剤が添加されていてもよい。
なお、ポリウレタンの硬さ(100%モジュラス)を調整する方法としては、例えば、柔らかくしたい場合には、ソフトセグメントとなるポリオール成分比率を増加、又はポリオールの分子量を大きくし、硬くしたい場合には、ハードセグメントとなるウレタン結合、ウレア結合を増加させ、またヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)等の架橋剤を添加してエネルギーを付与し、架橋構造を形成する方法等が挙げられる。
添加剤としては、例えば、着色剤、難燃剤、発泡剤等が挙げられる。
例えば、表皮層形成用組成物に着色剤を含有させることで意匠性が向上する。また、リン系、ハロゲン系、無機金属系等の公知の難燃剤を添加することで表皮材の難燃性向上が図れる。
さらに、熱膨張マイクロカプセル、アゾジカルボンアミド(ADCA)等の発泡剤を加えて発泡性の合成樹脂表皮層を形成してもよい。合成樹脂表皮層中に気泡が存在することで得られる合成皮革の柔軟性、弾力性が向上し、軽量で厚みのある合成皮革となる。
絞型転写用離型材表面に表皮層形成用組成物を適用する方法は、絞型転写用離型材表面に表皮層形成用組成物を塗布し、乾燥する方法でもよく、絞型転写に支障がない場合には、転写法を用いてもよい。
合成樹脂表皮層は、接着剤層を介して表皮材基材に接着される。
接着剤層を構成する接着剤としては、特に制限はなく、ポリウレタン、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂を含有する接着剤等が挙げられる。
より具体的には、例えば、(1)2液硬化型ポリエステル系接着剤、(2)2液硬化型ポリウレタン接着剤、(3)2液硬化型アクリル粘着剤等が好適に挙げられる。
(2)2液硬化型ポリウレタン接着剤は、2液硬化型ポリエーテル系ポリウレタン接着剤、2液硬化型ポリエステル系ポリウレタン接着剤、2液硬化型ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤のいずれであってもよい。
なお、接着剤層の形成に使用される接着剤は市販品としても入手可能であり、例えば、ウェルダー用接着剤No.3660〔2液硬化型ポリウレタン接着剤:ノーテープ工業(株)〕、ダイカラック7250NT〔2液硬化型ポリエステル接着剤:大同化成工業(株)〕、TA265〔2液硬化型ポリエステル系接着剤:DIC(株)、クリスボンTA205〔ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤:DIC(株)〕等が好適である。
接着剤や粘着剤により形成される接着剤層の厚さは、乾燥膜厚で20μm〜100μmの範囲であることが好ましい。
添加剤としては、着色剤、難燃剤、発泡剤等が挙げられる。
接着剤層の形成に用いる組成物が、リン系等の難燃剤を含有することで、表皮材の難燃性が向上する。しかし、難燃剤の含有量が多過ぎる場合、得られる接着剤層の柔軟性が低下する懸念があるため、難燃剤を使用する場合の含有量は、接着剤に対して5質量%以下であることが好ましい。
接着剤層は、既述の合成樹脂表皮層の剥離材側と異なる側の表面に形成される。形成方法は、塗布法でも転写法でもよい。
合成樹脂表皮層の表面に絞を形成する他の方法としては、前記絞型転写用離型材に代えて、絞型を有しない平滑な離型材を用いて、平滑な離型材表面に、表皮層形成用組成物層、及び接着剤層を前記と同様にして形成し、離型材表面に形成された表皮層形成用組成物層と接着剤層との積層体の接着剤層表面を前記立体構造基布の表面に接触させ、離型材を剥離して、表皮層形成用組成物層と絞型転写用離型材(絞付きエンボスロール等)とを接触させるようにして、積層体と表皮材基材とを熱圧着させ、表面に凹凸が転写された合成樹脂表皮層を形成する方法が挙げられる。
本発明の表皮材には、表皮材基材、接着剤層、及び合成樹脂表皮層に加えて、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の任意の層を設けることができる。
他の層としては、中間層、表面処理層、基布の表皮層とは異なる面に設けられるクッション層等が挙げられる。
表面処理層は、水系エマルジョン樹脂を含む表面処理剤組成物を、合成樹脂表皮層の表面に塗布することで形成される。
表面処理層の形成に使用される水系エマルジョン樹脂に含まれる樹脂としては、水系の媒体に対して均一なエマルジョンを形成しうる限り、何れの樹脂を用いてもよい。用いうる樹脂としては、例えば、ポリウレタン、アクリル、エラストマー等が好ましく、ポリウレタンがより好ましい。
合成樹脂表皮層表面に表面処理剤層を形成することで、外観がより良化する。
表面処理層には、架橋剤、有機フィラー、滑剤、難燃剤等を含有させることができる。例えば、表面処理層に有機フィラー、滑剤等を含有することで、表皮材に滑らかな感触が付与され、耐摩耗性がより向上する。
本発明の表皮材は、既述のように、ウレタンフォーム層の形成は必ずしも必要ではない。しかし、表皮材の風合、柔軟性などをより改良する等の目的に応じて、さらに、ウレタンフォーム層を設けることを妨げない。
よって、所望により設けられる中間層、又は表皮材基材裏面のクッション層は、ポリウレタンを含有してもよく、ポリウレタンは気泡を含むポリウレタンであってもよい。
中間層、又は表皮材基材裏面のクッション層に用いられるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物が挙げられ、長期耐久性が必要な場合には、ポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
ポリウレタン中間層、又は表皮材基材裏面のクッション層を設ける場合の厚みとしては、10μm〜200μmの範囲とすることができる。厚みは、10μm〜100μmの範囲であることが好ましく、30μm〜60μmの範囲であることがより好ましい。
中間層、又は表皮材基材裏面のクッション層として使用するポリウレタンの硬さは、100%モジュラスで98N/cm2〜1176N/cm2が適する。
本発明の表皮材は、反発弾性が5%〜20%である。
本発明の表皮材は、立体構造基布を構成する繊維のうち、少なくとも中糸交絡部の繊維周縁部に合成樹脂被覆層を有している立体構造基布を、基布として用いているため、一般に表皮材が有するウレタンフォーム層を設けなくても、上記好ましい反発弾性を達成するものと考えられる。
表皮材の反発弾性は、8%〜15%の範囲であることがより好ましい。
反発弾性が上記範囲であることで、本発明の表皮材はクッション性に優れたものとなり、座席に適用する表皮材として好適なものとなる。
反発弾性は、JIS K 6255(2013年)に記載の、「加硫ゴム又は熱可塑性ゴムの反発弾性の測定方法」に準じて測定することができる。
本発明の表皮材10は、ポリエステル繊維を含む繊維により構成された立体構造基布12を、合成樹脂液に浸漬する浸漬工程と、前記立体構造基布12を合成樹脂液から引き上げ、立体構造基布の空隙に残存する合成樹脂液を除去した後、合成樹脂を硬化させて、立体構造基布を構成するポリエステル繊維を含む繊維の少なくとも中糸交絡部の繊維周縁部に合成樹脂被覆層14を形成する樹脂被覆層形成工程と、を有する表皮材の製造方法により製造することができる。
前記合成樹脂液としては、表皮材基材により良好な弾性を付与しうるという観点からポリウレタンを含有する合成樹脂液を用いることが好ましい。用いられる合成樹脂液、合成樹脂被覆層14の形成方法の詳細は既述の通りである。
本発明の表皮材の製造方法は、さらに、前記樹脂被覆層14が形成された立体構造基布12の少なくとも一方の面に、接着剤層16を介して合成樹脂表皮層18を形成する表皮層形成工程をさらに含むことが好ましい。
〔実施例1〕
(1.合成樹脂液の調製)
合成樹脂としてポリウレタン(大日精化工業(株)製 クリスボンCUS1500)を100質量部、溶剤としてジメチルホルムアミド(DMF)を200質量部、成膜助剤としてDIC(株)製、クリスボンアシスターSD−7を2質量部、及び着色剤として大日精化工業(株)製、セイカセブンブラックSD−7を3質量部、撹拌、混合することで合成樹脂液を調製した。
得られた合成樹脂液に、中井合繊(株)製、ダブルラッセル(ポリエステル繊維で構成された厚み3.0mmの立体構造基布)を25℃で1分間浸漬した。浸漬後、立体構造基布を合成樹脂液から引き上げ、クリアランスを2.5mmとした一対の対向ロール間を通過させることで、余分な合成樹脂液を除去した。
合成樹脂液を含む立体構造基布を、DMFの5質量%水溶液に、液温(30℃)にて10分間浸漬することで、合成樹脂液に含まれるポリウレタンを凝固させ、立体構造基布を構成する繊維周縁部に合成樹脂表皮層を形成した。
その後、DMFを完全に水と置換させるために、水を満たした洗浄槽に立体構造基布を投入し、引き上げてマングルにて水を絞った。
その後、温度を100℃に維持した乾燥炉に2分間投入して乾燥させ、水分を除去して立体構造基布を構成する繊維周縁部にポリウレタンを含む合成樹脂被覆層を有する表皮材基材を得た。
表皮材の断面の電子顕微鏡写真を観察した結果、立体構造基布の中糸交絡部表面に、厚み約100μmの合成樹脂被覆層が形成されていることを確認された。
離型材として、リリースペーパーARX196M(商品名、旭ロール(株)製)の表面に固形分15質量%にDMF/MEK(メチルエチルケトン) 1:1(質量比)の混合溶剤にて希釈したポリウレタン(DIC(株)、クリスボンNY−324:商品名)をナイフコーターにて、200g/m2の量となるように塗工し、100℃の加熱乾燥炉にて2分間乾燥し、離型材表面に合成樹脂表皮層を形成した。
接着剤(DIC(株)製、クリスボン TA−205:商品名)を、固形分30質量%になるよう上記混合溶剤で希釈し、さらに、架橋剤(DIC(株)製、バーノックDN980 )、及び促進剤(DIC(株)製、アクセルT)を規定量加えて、接着剤層形成用組成物を得た。
前記離型材表面に形成した合成樹脂表皮層の離型材側とは反対の表面に、得られた接着剤層形成用組成物を150g/m2の量で積層塗工し、100℃ の加熱乾燥炉にて2分間乾燥し、離型材上に、合成樹脂表皮層と接着剤層とを有する積層体を得た。
表皮材基材表面に、得られた積層体の接着剤層が接触するように重ね、130℃ 0.2MPaにて熱ラミネートした。その後、40℃にて48時間熟成した後、離型材を剥離して、表皮材基材表面に、接着剤層16を介して合成樹脂表皮層18を備えた、図1に示す如き構成の、実施例1の表皮材を得た。
実施例1において用いた、中井合繊(株)製、ダブルラッセルを用い、合成樹脂液に含浸をせずにそのまま表皮材基材として用いた。
実施例1と同様の操作で作製した離型材の表面に接着剤層と合成樹脂表皮層とを有する積層体を用いて、実施例1におけるのと同じ条件で表皮材基材に積層体を熱ラミネートし、実施例1と同様に熟成させた後、離型材を剥離して、比較例1の表皮材を得た。
表皮材基材として、編布(艶栄工業(株)製、トリコット編布:TL1531PX)を用いた以外は、実施例1と同様の操作で作製した離型材の表面に接着剤層と合成樹脂表皮層とを有する積層体を用いて、実施例1におけるのと同じ条件で表皮材基材に積層体を熱ラミネートし、実施例1と同様に熟成させた後、離型材を剥離した。
その後、基布の合成樹脂表皮層が形成された側とは異なる表皮材基材面に、厚さ5mm、密度0.02g/cm3のナイロンハーフ付スラブウレタンシート〔(株)イノアックコーポレーション製、EL67F〕をフレームラミネートし、比較例2の表皮材を得た。
1.反発弾性
反発弾性を、JIS K 6255(2013年)に記載の、「加硫ゴム又は熱可塑性ゴムの反発弾性の測定方法」に準じて測定した。結果を下記表1に示す。
2.剛軟度
JIS K 6542(1974年)の皮の柔軟度試験法に準拠して、(ガーレ法又はスライド法)により測定した。剛軟度の数値が小さいほど柔軟であると評価する。
得られた表皮材を、モニター10名により、実際に触って、柔らかさ、感触などの風合について、以下の基準で評価した。10名の評価結果のうち、最も多かった評価を本発明の表皮材の総合評価とした。
A:風合いが良好で、実用性がある。
B:実用性はあるが、風合いが硬い。
C:風合いが柔らかすぎ、実用性に適さない。
上記評価基準において、評価Aが実用上問題のないレベルである。
12 立体構造基布
12A 立体構造基布を構成する繊維の中糸交絡部
14 合成樹脂被覆層
16 接着剤層
18 合成樹脂表皮層
20 立体構造基布の表地
22 立体構造基布の裏地
24 パイル糸(中糸)
Claims (6)
- ポリエステル繊維を含む繊維により構成され、表地と裏地と、前記表地と裏地とを繋ぐ中糸とを有し、表地と裏地との間に空隙において、前記中糸同士が交絡する中糸交絡部を有する立体構造基布を備える表皮材であり、
前記立体構造基布が、立体構造基布を構成する繊維のうち、少なくとも中糸交絡部の繊維周縁部に合成樹脂被覆層を有し、
前記立体構造基布の少なくとも一方の面に、接着剤層と、合成樹脂表皮層と、をこの順に備え、
反発弾性が5%〜20%である表皮材。 - 前記合成樹脂被覆層が、ポリウレタンを含有する、請求項1に記載の表皮材。
- ポリエステル繊維を含む繊維により構成され、表地と裏地と、前記表地と裏地とを繋ぐ中糸とを有し、表地と裏地との間に空隙において、前記中糸同士が交絡する中糸交絡部を有する立体構造基布を、合成樹脂液に浸漬する浸漬工程と、
前記立体構造基布を合成樹脂液から引き上げ、立体構造基布の空隙に残存する合成樹脂液を除去した後、合成樹脂を硬化させて、立体構造基布を構成するポリエステル繊維を含む繊維の少なくとも前記中糸同士が交絡する中糸交絡部の繊維周縁部に合成樹脂被覆層を形成する樹脂被覆層形成工程と、
前記合成樹脂被覆層が形成された立体構造基布の少なくとも一方の面に、接着剤層を介して合成樹脂表皮層を形成する表皮層形成工程と、
を有する表皮材の製造方法。 - 前記合成樹脂液が、ポリウレタンを含有する、請求項3記載の表皮材の製造方法。
- 前記表皮層形成工程が、離型材表面に、表皮層形成用組成物を付与して表皮層形成用組成物層を設ける工程、前記表皮層形成用組成物層表面に接着剤を付与して接着剤層を設ける工程、及び、前記離型材表面に形成された表皮層形成用組成物層と接着剤層との積層体の接着剤層表面を前記立体構造基布の表面に接触させ、離型材を剥離して、表皮層形成用組成物層の表面に凹凸を有する絞型転写用離型材を接触させて、前記立体構造基布と前記積層体とを熱圧着し、表面に凹凸が転写された合成樹脂表皮層を形成する工程、を含む請求項3又は請求項4に記載の表皮材の製造方法。
- 前記表皮層形成工程が、表面に凹凸が形成された絞型転写用離型材表面に、表皮層形成用組成物を付与して表皮層形成用組成物層を設ける工程、前記表皮層形成用組成物層表面に接着剤を付与して接着剤層を設ける工程、及び前記絞型転写用離型材表面に形成された表皮層形成用組成物層と接着剤層との積層体の接着剤層表面を前記立体構造基布の表面に接触させて、前記立体構造基布と前記積層体とを熱圧着し、絞型転写用離型材を剥離して、表面に凹凸が転写された合成樹脂表皮層を形成する工程、を含む請求項3又は請求項4に記載の表皮材の製造方法。
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