JP6531807B2 - ノンアスベスト摩擦材組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、ノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材に関する。詳しくは、自動車等の制動に用いられるディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材に適しており、銅の含有量が少ないため環境に優しく、高温における耐摩耗性に優れ、かつメタルキャッチの生成が少ないノンアスベスト摩擦材組成物、さらに該ノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材に関する。
自動車等には、その制動のためにディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材が使用されている。摩擦材は、ディスクローターやブレーキドラム等の対面材と摩擦することにより、制動の役割を果たしている。そのため、摩擦材には、高い摩擦係数と摩擦係数の安定性が求められるだけでなく、低温から高温にかかる広いブレーキ使用温度域において、パッド寿命が長いこと(耐摩耗性)が要求される。
また、高温のブレーキ使用温度域では、摩擦材表面にメタルキャッチと呼ばれる金属摩耗粉の塊が生成し、ディスクローター及び摩擦材の摩耗量の増大、並びにブレーキの鳴きが発生することがある。そこで、高温での耐摩耗性向上及びメタルキャッチの抑制のために、金属硫化物を配合することが提案されている(特許文献1参照)。
一方、摩擦材には、結合材、繊維基材、無機充填材及び有機充填材等が含まれ、前記特性を発現させるために、一般的に、それぞれ1種もしくは2種以上を組み合わせたものが含まれる。繊維基材としては、有機繊維、金属繊維、無機繊維等が用いられ、耐摩耗性を向上させるために、金属繊維として銅及び銅合金の繊維が用いられている。また、摩擦材として、ノンアスベスト摩擦材が主流となっており、このノンアスベスト摩擦材には銅や銅合金等が多量に使用されている。
しかし、銅や銅合金を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅を含み、河川、湖や海洋汚染等の原因となる可能性が示唆されているため、使用を制限する動きが高まっている。そこで、銅や銅合金等の金属を含有せず、酸化マグネシウムと黒鉛を摩擦材中に45〜80体積%含有し、酸化マグネシウムと黒鉛の比を1/1〜4/1とする方法が提案されている(特許文献2参照)。
特開2003−313312号公報 特開2002−138273号公報
しかし、これまで開発されてきた銅及び銅合金の含有量が少ない摩擦材では、高温での耐摩耗性及びメタルキャッチの抑制を両立させることは困難であった。
そこで、本発明は、銅及び銅合金の含有量が少なくても、高温での耐摩耗性に優れ、かつメタルキャッチの生成が少ない摩擦材を与えることができるノンアスベスト摩擦材組成物、さらに該ノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ノンアスベスト摩擦材組成物において、元素としての銅の含有量を一定以下とし、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量を一定以下とし、チタン酸塩を特定量含有し、さらに特定粒子径の酸化ジルコニウムを含有することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、有機充填材の含有量が1〜20質量%であり、チタン酸塩の含有量が13〜24質量%であり、酸化ジルコニウムの含有量が5〜30質量%かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下である、ノンアスベスト摩擦材組成物。
[2]前記繊維基材が、無機繊維、金属繊維、有機繊維及び炭素系繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
[3]前記繊維基材の含有量が5〜40質量%である、上記[1]又は[2]に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
[5]上記[1]〜[3]のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、自動車用ディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材に用いた際に、制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境に優しく、高温での耐摩耗性に優れ、かつメタルキャッチを抑制することができる。また、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を用いることにより、上記特性を有する摩擦材及び摩擦部材を提供できる。
以下、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材について詳述する。
[ノンアスベスト摩擦材組成物]
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩及び粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウムを含有し、かつ、該チタン酸塩の含有量が10〜35質量%であり、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを実質的に含有しないことを特徴とする。
上記構成により、従来品と比較して制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境に優しく、高温での耐摩耗性に優れ、かつメタルキャッチを抑制できるという効果を発現することができる。
(結合材)
結合材は、摩擦材組成物に含まれる有機充填材、無機充填材及び繊維基材等を一体化し、強度を与えるものである。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる結合材としては特に制限はなく、通常、摩擦材の結合材として用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂及びシリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等の各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びアルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂等が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中における、結合材の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。結合材の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下をより抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴き等の音振性能悪化を抑制できる。
(有機充填材)
有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性等を向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる有機充填材としては、上記性能を発揮できるものであれば特に制限はなく、通常、有機充填材として用いられる、カシューダストやゴム成分等を用いることができる。
上記カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られる、通常、摩擦材に用いられるものであればよい。
上記ゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)等が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
また、カシューダストとゴム成分とを併用してもよく、カシューダストをゴム成分で被覆したものを用いてもよいが、音振性能の観点から、カシューダストとゴム成分とを併用することが好ましい。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における、有機充填材の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、3〜8質量%であることがさらに好ましい。有機充填材の含有量を1〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなること、鳴き等の音振性能の悪化を避けることができ、また耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下を避けることができる。また、カシューダストとゴム成分とを併用する場合、カシューダストとゴム成分とは、質量比で2:1〜10:1の割合であることが好ましく、3:1〜9:1であることがより好ましく、3:1〜8:1であることがさらに好ましい。
(無機充填材)
無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるための摩擦調整剤として含まれるものであり、本発明において無機充填剤としてチタン酸塩及び酸化ジルコニウムを必須とする。
チタン酸塩としては、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等を用いることができる。チタン酸カリウムとしては、例えば、K2O・6TiO2、K2O・8TiO2等が挙げられる。チタン酸リチウムカリウムとしては、例えば、チタン源とリチウム源とカリウム源とを混合して製造したK0.3-0.7Li0.27Ti1.733.8-3.95で表される組成のものなどが挙げられる。チタン酸マグネシウムカリウムとしては、例えば、チタン源とマグネシウム源とカリウム源とを混合して製造したK0.2-0.7Mg0.4Ti1.63.7-3.95で表される組成のものなどが挙げられる。
これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。中でも、高温での耐摩耗性をより向上させることから、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムが好ましい。
チタン酸塩の形状としては、繊維状、柱状、板状、粒子状又は鱗片状のものを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
チタン酸塩の形状は、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)観察から解析することができる。
ここで、チタン酸塩の形状についての定義の一例を記載する。チタン酸塩に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い辺を長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さTとして(B>Tとする)、チタン酸塩の形状をアスペクト比(L/T、L/B)で定義する。
繊維状のチタン酸塩とは、L/Tが10よりも大きく、L/Bが10よりも大きいチタン酸塩である。例えば、ティスモD、ティスモN(いずれも、大塚化学株式会社製)等が挙げられる。
柱状のチタン酸塩とは、L/T=2〜10、L/B=2〜10であるチタン酸塩である。TOFIX−S(東邦マテリアル株式会社製)などが挙げられる。
板状のチタン酸塩とは、L/Tが10よりも大きく、L/Bが10よりも小さいチタン酸塩である。例えば、TXAX−A、TXAX−MA、TXAX−KA、TXAX−CT(いずれも、株式会社クボタ製)等が挙げられる。
粒子状のチタン酸塩とは、L/Tが10よりも小さく、L/Bが2よりも小さいチタン酸塩である。例えば、TOFIX−SGL(東邦マテリアル株式会社製)、GTX−C(株式会社クボタ製)等が挙げられる。
また、粒子状のチタン酸塩のうち、鱗のような薄板状の形状のものを鱗片状のチタン酸塩といい、例えば、テラセスPS、テラセスPM、テラセスL、テラセスTF−S(いずれも、大塚化学株式会社製)等が挙げられる。
上記形状の中でも、高温の耐摩耗性をより向上させるために、燐片状、柱状又は板状のものを用いることが好ましい。
また、平均粒子径が1〜50μm、比表面積が0.5〜10m2/gのものが好ましい。なお、平均粒子径はメジアン径で表され、メジアン径とは、レーザー回折法の体積分布から求めた50%径を示す。また、比表面積は吸着ガスとして窒素ガスを用いたBET法等により求めることができる。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物におけるチタン酸塩の含有量は、高温での耐摩耗性の向上、及びメタルキャッチの抑制の観点から、10〜35質量%であり、13〜24質量%であることが好ましく、14〜20質量%であることがより好ましい。チタン酸塩の含有量が10質量%未満の場合、耐摩耗性が悪化し、メタルキャッチが生成しやすい傾向がある。また、含有量が35質量%を超える場合、耐摩耗性の悪化及び摩擦係数の低下、さらにメタルキャッチが生成しやすい傾向がある。
本発明のノンアスベスト摩擦材用組成物は、無機充填剤として粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウム(以下、単に酸化ジルコニウムと称すことがある。)を必須成分とし、かつ、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを実質的に含有しない。好ましくは酸化ジルコニウムの粒子径が28μm以下で、かつ粒子径が28μmを超える酸化ジルコニウムを実質的に含有しないことであり、より好ましくは酸化ジルコニウムの粒子径が25μm以下で、かつ粒子径が25μmを超える酸化ジルコニウムを実質的に含有しないことである。
粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウムを用いることで、良好な高温の耐摩耗性が発現し、メタルキャッチを抑制することができる。また、粒子径が30μm以下の酸化ジルコニウムの最小粒子径は特に制限はないが、粒子径は0.1μm以上であることが好ましい。
ここで、「実質的に含有しない」とは、例えば、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを実質的に含有しない場合、本発明の摩擦材組成物に含有される酸化ジルコニウムのうち、粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの割合が1.0質量%以下であることをいい、0.5質量%以下であることがより好ましく、30μmを超える酸化ジルコニウム粒子を含有しないこと(0質量%)がさらに好ましい。
酸化ジルコニウムの含有量は、2〜41質量%であることが好ましく、1〜40質量%であることがより好ましい。酸化ジルコニウムの含有量を2〜41質量%、好ましくは1〜40質量%とすることで優れた耐摩耗性を示し、メタルキャッチを抑制することができる。また、これらの効果をより発現させるために、5〜30質量%であることがさらに好ましく、5〜20質量%であることが特に好ましい。
酸化ジルコニウムの平均粒子径は、1〜7μmであることが好ましく、1〜6.5μmであることがより好ましく、1〜6μmであることがさら好ましい。酸化ジルコニウムの平均粒子径を1μm以上とすることで良好な摩擦係数、耐摩耗性が発現し、7μm以下とすることで、耐摩耗性の悪化を避けることができる。
なお、酸化ジルコニウムの粒子径及び平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定などの方法を用いて測定することができる。例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920(堀場製作所製)で測定することができる。平均粒子径は、粒度分布の体積分布から求めた50%径をいう。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、上記チタン酸塩及び酸化ジルコニウム以外の無機充填材をさらに含有することができる。含有することができる無機充填剤としては、通常摩擦材に用いられるものであれば特に制限はない。
上記無機充填材としては、例えば、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、三硫化アンチモン、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、黒鉛、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、酸化鉄、γ−アルミナ等の活性アルミナ等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、対面材への攻撃性低下の観点から、黒鉛、硫酸バリウムを含有することが好ましく、摩擦係数向上の観点から、三硫化アンチモンを含有することが好ましい。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における無機充填材の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましく、60〜80質量%であることがさらに好ましい。無機充填材の含有量を30〜80質量%の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができる。なお、上記無機充填材の含有量には、前記チタン酸塩及び特定粒径の酸化ジルコニウムの含有量が含まれる。
(繊維基材)
繊維基材は、摩擦材において補強作用を示すものである。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる繊維基材としては、通常、繊維基材として用いられる、無機繊維、金属繊維、有機繊維、炭素系繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、ここでいう繊維基材には上述したチタン酸塩の繊維状のものは含まれない。
上記無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、シリケート繊維等を用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、ここでいう鉱物繊維とは、スラグウール等の高炉スラグ、バサルトファイバー等の玄武岩、その他の天然岩石等を主成分として溶融紡糸した人造無機繊維であり、Al元素を含む天然鉱物であることがより好ましい。具体的には、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2O等が含まれるもの、又はこれら化合物が1種又は2種以上含有されるものを用いることができ、より好ましくはこれらのうちAl元素を含むものが、鉱物繊維として用いることができる。摩擦材組成物中に含まれる鉱物繊維全体の平均繊維長が大きくなるほど摩擦組成物中の各成分との接着強度が低下する傾向があるため、鉱物繊維全体の平均繊維長は500μm以下が好ましく、より好ましくは100〜400μmである。ここで、平均繊維長とは、該当する全ての繊維の長さの平均値を示した数平均繊維長のことをいう。例えば200μmの平均繊維長とは、摩擦材組成物原料として用いる鉱物繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長を測定し、その平均値が200μmであることを示す。
本発明で用いられる鉱物繊維は、人体有害性の観点で生体溶解性であることが好ましい。ここでいう生体溶解性の鉱物繊維とは、人体内に取り込まれた場合でも短時間で一部分解され体外に排出される特徴を有する鉱物繊維である。具体的には、化学組成がアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上で、かつ呼吸による短期バイオ永続試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内又は腹膜内試験で過度の発癌性の証拠がないか又は長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生がないことを満たす繊維を示す(EU指令97/69/ECのNotaQ(発癌性適用除外))。このような生体分解性鉱物繊維としては、SiO2−Al23−CaO−MgO−FeO−Na2O系繊維等が挙げられ、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2O等を任意の組み合わせで含有した繊維が挙げられる。市販品としてはLAPINUSFIBERSB.V製のRoxulシリーズなどが挙げられる。「Roxul」は、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2O等が含まれる。
上記金属繊維としては、耐クラック性や耐摩耗性の向上のため、銅又は銅合金の繊維を用いることができる。ただし、銅又は銅合金の繊維を含有させる場合、環境への優しさを考慮すると、該摩擦材組成物中における銅全体の含有量は、銅元素として5質量%以下の
範囲であることを要する。
銅又は銅合金の繊維としては、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
また、上記金属繊維として、摩擦係数向上、耐クラック性の観点から銅及び銅合金以外の金属繊維を用いてもよいが、耐摩耗性の向上及びメタルキャッチ抑制の観点から含有量が0.5質量%以下であることを要する。好ましくは、摩擦係数の向上の割には耐摩耗性
の悪化及びメタルキャッチの発生がしやすいため、銅及び銅合金以外の金属繊維を含有しないこと(含有量0質量%)である。
銅及び銅合金以外の金属繊維としては、例えば、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン等の金属単体又は合金形態の繊維や、鋳鉄繊維等の金属を主成分とする繊維が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
上記有機繊維としては、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維(架橋構造を有する)等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができ、耐摩耗性の観点からアラミド繊維を用いることが好ましい。
上記炭素系繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における繊維基材の含有量は、5〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜18質量%であることがさらに好ましい。繊維基材の含有量を5〜40質量%の範囲とすることで、摩擦材としての最適な気孔率が得られ、鳴き防止ができ、適正な材料強度が得られ、耐摩耗性を発現し、成形性をよくすることができる。なお、上記繊維基材の含有量には、銅又は銅合金の金属繊維の含有量が含まれる。
(その他の材料)
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、前記の結合材、有機充填材、無機充填材、繊維基材以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができる。
例えば、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物中における、銅全体の含有量が、銅元素として5質量%以下となる範囲で、銅粉、黄銅粉、青銅粉等の金属粉末等を配合することができる。また、耐摩耗性の観点から、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素系ポリマー等の有機添加剤等を配合することができる。
[摩擦材及び摩擦部材]
また、本発明は、上述のノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供する。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、これを成形することにより、自動車等のディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材として使用することができる。本発明の摩擦材は高温での耐摩耗性及びメタルキャッチ制御に優れるため、制動時に負荷の大
きいディスクブレーキパッドの摩擦材に好適である。
さらに、上記摩擦材を用いることにより、該摩擦材を摩擦面となるように形成した摩擦部材を得ることができる。摩擦材を用いて形成することができる摩擦部材としては、例えば、下記の構成等が挙げられる。
(1)摩擦材のみの構成。
(2)裏金と、該裏金の上に摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦材とを有する構成。
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、及び、裏金と摩擦材との接着を目的とした接着層をさらに介在させた構成。
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属または繊維強化プラスチック等を用いることができ、例えば、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。プライマー層及び接着層としては、通常、ブレーキシュー等の摩擦部材に用いられるものであればよい。
本発明の摩擦材は、一般に使用されている方法を用いて製造することができ、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を成形して、好ましくは加熱加圧成形して製造される。
具体的には、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を、レディーゲミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130℃〜160℃、成形圧力20〜50MPaの条件で2〜10分間で成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理する。必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理を行うことによって摩擦材を製造することができる。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、高温での耐摩耗性やメタルキャッチ抑制などに優れるため、ディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦部材の「上張り材」として有用であり、さらに摩擦部材の「下張り材」として成形して用いることもできる。
なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近の剪断強度、耐クラック性向上を目的とした層のことである。
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明によって何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例(参考例を含む)及び比較例に示す評価は次のように行った。
(1)高温での耐摩耗性の評価
耐摩耗性は、制動前ブレーキ温度500℃、制動前速度60km/h、減速度0.3Gで1000回制動を行い、試験前後の摩擦材厚みから、摩擦材の摩耗量を算出した。
(2)メタルキャッチ生成の評価
メタルキャッチ生成の評価では、制動前速度60km/h、制動条件1.96m/s2、2.94m/s2、3.92m/s2でそれぞれ2回ずつ、制動前温度を50℃から300℃まで50℃間隔で昇温する計36回の制動を行った後、250℃から50℃まで50℃間隔で降温し、かつ上記同様の制動条件による計30回の制動を行った。試験完了後、摩擦材摺動面に生成したメタルキャッチの大きさと数を、以下の基準で評価した。
A:メタルキャッチの生成無し
B:長径2mm未満のメタルキャッチが1個〜2個生成
C:長径2mm未満のメタルキャッチが3個以上生成
D:長径2mm以上のメタルキャッチが1個以上生成
(3)摩擦係数の評価
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に基づき測定し、第2効力試験における摩擦係数の平均値を算出した。
なお、上記耐摩耗性の評価、メタルキャッチ生成及び摩擦係数の評価は、ダイナモメータを用い、イナーシャ7kgf・m・s2で評価を行った。また、ベンチレーテッドディスクロータ(株式会社キリウ製、材質FC190)、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。
[実施例(参考例を含む)1〜13及び比較例1〜5]
ディスクブレーキパッドの作製
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例(参考例を含む)及び比較例の摩擦材組成物を得た。なお、表1の各成分の配合量の単位は、摩擦材組成物中の質量%である。
この摩擦材組成物をレディーゲミキサー(株式会社マツボー社製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業株式会社製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工株式会社製)を用いて日立オートモティブシステムズ株式会社製の裏金と共に加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cm2)を得た。
作製したディスクブレーキパッドについて、前記の評価を行った結果を表1に示す。
なお、実施例(参考例を含む)及び比較例において使用した各種材料は次のとおりである。
(結合材)
・フェノール樹脂:日立化成工業株式会社製(商品名:HP491UP)
(有機充填剤)
・カシューダスト:東北化工株式会社製(商品名:FF−1056)
(無機充填剤)
・チタン酸塩1:大塚化学株式会社製 (商品名:テラセスL)
成分:チタン酸リチウムカリウム、形状:燐片状
メジアン径:25μm、比表面積:0.6m/g
・チタン酸塩2:大塚化学株式会社製 (商品名:テラセスPS)
成分:チタン酸マグネシウムカリウム、形状:燐片状
メジアン径:4μm、比表面積:2.5m/g
・チタン酸塩3:大塚化学株式会社製 (商品名:テラセスTF−S)
成分:チタン酸カリウム、形状:燐片状
メジアン径:7μm、比表面積:3.5m/g
・チタン酸塩4:株式会社クボタ製 (商品名:TXAX−MA)
成分:チタン酸カリウム、形状:板状
比表面積:1.5m/g
・チタン酸塩5:東邦マテリアル株式会社製 (商品名:TOFIX−S)
成分:チタン酸カリウム、形状:柱状
メジアン径:6μm、比表面積:0.9m/g
・チタン酸塩6:大塚化学株式会社製 (商品名:ティスモD)
成分:チタン酸カリウム、形状:繊維状
比表面積:7.0m/g
・酸化ジルコニウム1:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR−3QZ、平均粒子径2.0μm、最大粒子径15μm)
・酸化ジルコニウム2:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR−QZ、平均粒子径6.5μm、最大粒子径26μm)
・酸化ジルコニウム3:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR−12QZ、平均粒子径8.5μm、最大粒子径45μm)
・黒鉛:TIMCAL社製(商品名:KS75)
(繊維基材)
・アラミド繊維(有機繊維):東レ・デュポン株式会社製(商品名:1F538)
・鉄繊維(金属繊維):GMT社製(商品名:#0)
・銅繊維(金属繊維):Sunny Metal社製(商品名:SCA−1070)
・鉱物繊維(無機繊維):LAPINUS FIBERS B.V製(商品名:RB240 Roxul 1000、平均繊維長300μm)
実施例(参考例を含む)1〜13は500℃での摩擦材摩耗量が少なく、優れた耐摩耗性を示し、メタルキャッチを抑制することができ、かつ高い摩擦係数を発現した。酸化ジルコニウムを含有しない比較例2、最大粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを含有する比較例1、チタン酸塩の含有量が10質量%より少ない比較例3、チタン酸塩の含有量が35質量%より多い比較例4、並びに鉄繊維を1質量%含有する比較例5では、十分な耐摩耗性が得られず、またメタルキャッチの抑制をすることができなかった。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、従来品と比較して制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境に優しく、高温での耐摩耗性に優れ、かつ、メタルキャッチ生成を抑制できるため、自動車のディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材及び摩擦部材に有用である。

Claims (5)

  1. 結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
    該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、有機充填材の含有量が1〜20質量%であり、チタン酸塩の含有量が13〜24質量%であり、酸化ジルコニウムの含有量が5〜30質量%かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下である、ノンアスベスト摩擦材組成物。
  2. 前記繊維基材が、無機繊維、金属繊維、有機繊維及び炭素系繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
  3. 前記繊維基材の含有量が5〜40質量%である、請求項1又は2に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。
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