JP6530638B2 - 細胞培養担体及びこれを備える細胞シート - Google Patents

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Description

本発明は、細胞培養担体及びこれを備える細胞シートに関する。
近年、医学、生物学等の分野において、細胞培養への関心が高まっている。細胞培養とは、生体の器官や組織等に由来する細胞などを生体外で培養する技術である。培養の対象となる細胞には、浮遊状態で生育する浮遊細胞や、何かに接着又は付着した状態で生育する接着細胞(付着細胞とも呼ばれる)があり、各細胞の性質に応じて培養方法が選択される。接着細胞の培養を行う場合、細胞が接着する担体が必要となる。心筋細胞や肝細胞、神経細胞などの培養細胞が生体組織同様の機能を持つためには細胞を配列させて立体構造化するための足場材(担体)が重要である。また幹細胞(ES細胞、iPS細胞等)は、幼弱で破壊し易く、分化や増殖を行うために足場材(担体)が必要とされる。この担体には、多孔質構造が有効であるとされている。
このような多孔質構造の細胞培養担体としては、孔径が5μm〜500μmの孔を多数有する含フッ素樹脂の多孔質膜が開発されている(特開2013−215152号公報参照)。この多孔質膜によれば、上記孔径範囲の孔を有することで、細胞の移動が可能であり、多量に細胞を保持しても目詰まりが起こり難いとされている。
特開2013−215152号公報
しかし、単に比較的孔径の大きい多孔質膜を用いた場合、細胞が付着する足場が狭くなることなどから細胞の接着性が低下し、十分な培養が行われない。
本発明は以上のような実情に基づいてなされたものであり、細胞の培養性能に優れ、十分に培養された細胞シートを得ることができる細胞培養担体及びこれを備える細胞シートを提供することを目的とする。
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る細胞培養担体は、多孔質樹脂膜を備える細胞培養担体であって、心筋細胞を3日間培養した後の細胞外電位測定における上記心筋細胞の活動電位維持時間が、0.2秒以上0.4秒以下であることを特徴とする。
上記課題を解決するためになされた別の本発明の一態様に係る細胞シートは、上記細胞培養担体と、この細胞培養担体上で培養された細胞とを備える。
上記課題を解決するためになされた別の本発明の一態様に係る細胞培養担体は、多孔質樹脂膜を備える細胞培養担体であって、上記多孔質樹脂膜の平均孔径が、0.05μm以上10μm以下である。
本発明の細胞培養担体は細胞の培養性能に優れ、十分に培養された細胞シートを得ることができる。本発明の細胞シートは、十分に培養された細胞を備え、再生医療や創薬開発分野等において好適に用いられる。
本発明の一実施形態に係る細胞培養担体の模式的部分拡大平面図である。 実施例で作製した膜D表面のSEM写真である。 評価試験1における膜Aの1日後の状態を示す写真である。 評価試験1における膜Aの3日後の状態を示す写真である。 評価試験1における膜Dの1日後の状態を示す写真である。 評価試験1における膜Dの3日後の状態を示す写真である。 評価試験2における膜Aの1日後の状態を示す写真である。 評価試験2における膜Aの3日後の状態を示す写真である。 評価試験2における膜Dの1日後の状態を示す写真である。 評価試験2における膜Dの3日後の状態を示す写真である。 評価試験3における膜Aの1日後の状態を示す写真である。 評価試験3における膜Aの3日後の状態を示す写真である。 評価試験3における膜Dの1日後の状態を示す写真である。 評価試験3における膜Dの3日後の状態を示す写真である。
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る細胞培養担体は、多孔質樹脂膜を備える細胞培養担体であって、心筋細胞を3日間培養した後の細胞外電位測定における上記心筋細胞の活動電位維持時間が0.2秒以上0.4秒以下である。
当該細胞培養担体は、このように3日間の培養で心筋細胞の成熟度を効率的に高めることができるため、細胞の培養性能に優れ、十分に培養された細胞シートを得ることができる。
上記多孔質樹脂膜の平均孔径としては、0.05μm以上10μm以下が好ましい。多孔質樹脂膜の平均孔径をこのように比較的小さくすることにより、細胞が付着、移動及び増殖するための十分な足場が確保され、細胞の培養性能を高めることができる。
上記多孔質樹脂膜の平均厚さとしては、3μm以上100μm以下が好ましい。多孔質樹脂膜の平均厚さをこのような範囲とすることにより、細胞の培養性能をより高め、細胞シートへより好適に利用することなどができる。
上記多孔質樹脂膜の主ポリマーとしては、フッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂は、非分解性であり、フッ素樹脂を用いることにより多孔質樹脂膜の耐久性等を高めることができる。また、フッ素樹脂は、細胞に対して不活性で毒性が低いことからも好適である。
上記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。PTFEを用いることにより、多孔質樹脂膜の耐熱性、耐薬品性、加工特性等がより良好になる。
上記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。PTFEを用いることにより、多孔質樹脂膜の耐熱性、耐薬品性、加工特性、機械特性(弾性率やその異方制御性など)等がより良好になる。さらに、PTFEは、細胞に対して無毒性であり、ノード及びフィブリルの配向、繊維径、気孔率等の多孔質状態の制御を良好に行うことができる。
上記多孔質樹脂膜は、樹脂フィルムの延伸及び焼成により形成されていることが好ましい。樹脂フィルムの延伸及び焼成により所望のサイズのフィブリル等を有する多孔質樹脂膜を効率的に形成することができ、生産性を高めることなどができる。また、このような形成方法によれば、ノード及びフィブリルの配向制御等も効果的に行うことができる。
本発明の一態様に係る細胞シートは、上記細胞培養担体と、この細胞培養担体上で培養された細胞とを備える。当該細胞シートは、上記細胞培養担体を備えるため、この細胞培養担体上の細胞は、十分に細胞培養担体に接着された状態で良好に培養されたものとなっている。このため、当該細胞シートは、再生医療用途や創薬のスクリーニング用途等に好適に用いることができる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係る細胞培養担体及び細胞シートについて、図面を参照しつつ説明する。
〔細胞培養担体]
図1に示す細胞培養担体1は、多孔質樹脂膜2を備える。
細胞培養担体1は、心筋細胞を3日間培養した後の細胞外電位測定における上記心筋細胞の活動電位維持時間(QT間隔)が0.2秒以上0.4秒以下である。なお、培養条件及び測定条件は、実施例に記載の条件とする。活動電位維持時間が0.4秒を超える細胞培養担体は、培養性能が不十分である。逆に活動電位維持時間が0.2秒未満の場合は、細胞培養担体1自体の生産性が低下するおそれなどがある。
多孔質樹脂膜2は、複数のノード3と、これらのノード3間に接続する多数のフィブリル4とを有する。ここで、図1においては、便宜上、膜表層に存在するノード3及びフィブリル4のみを図示している。但し、複数のノード3及び複数のフィブリル4は、通常、膜厚方向に多重に存在している。ノード3及びフィブリル4は共に樹脂である。樹脂の塊であるノード3から線状のフィブリル4が引き出され、フィブリル4はノード3間を連結している。また、複数のノード3及びフィブリル4によって区切られる各空間が、多孔質構造における各孔となる。
(平均孔径)
多孔質樹脂膜2の平均孔径の下限としては、0.05μmが好ましく、0.1μmがより好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがより好ましく、2μmがより好ましく、4μmがさらに好ましい。一方、この上限としては、10μmが好ましく、8μmがより好ましく、6μmがさらに好ましい。平均孔径が上記下限未満の場合は、細胞がノード3に絡みついて増殖するための十分な空間がとれないため、培養の効率が低下するおそれがある。逆に、平均孔径が上記上限を超える場合も、十分な細胞接着面積が確保できないため、培養の効率が低下するおそれがある。なお、平均孔径は、粒子除去性能試験に基づく値である。
(気孔率)
多孔質樹脂膜2の気孔率の下限としては、50体積%が好ましく、70体積%がより好ましい。一方、この上限としては、99体積%が好ましく、95体積%がより好ましい。多孔質樹脂膜2の気孔率をこのような範囲とすることにより、強度等を維持しつつ、十分な細胞接着面積を確保することなどができる。気孔率は、ASTM D−792に準じて測定する値とする。
(平均膜厚)
多孔質樹脂膜2の平均膜厚の下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。また、この上限としては、例えば200μm以下であり、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、10μmがより好ましい。平均膜厚を上記下限以上とすることで、十分な細胞接着面積を確保することなどができる。一方、平均膜厚が上記上限を超えると、生産コストの増加や取扱性の低下が生じるおそれがある。なお、平均膜厚とは、任意の10箇所で測定した膜厚の平均値とする。
(ノード)
複数のノード3は、それぞれ棒状である。ここで、棒状とは、多孔質樹脂膜2を平面視した状態において、幅(Wn)よりも長さ(Ln)が長い形状であることをいい、柱状であってもよいし、偏平した帯状であってもよい。また、棒状とは、直線状であっても曲線状であってもよい。ノード3の幅(Wn)に対する長さ(Ln)の比(Ln/Wn)の下限としては、例えば3であり、5が好ましく、10がより好ましい。この比(Ln/Wn)の上限としては、特に制限されないが、例えば500であり、100が好ましく、30がより好ましい。
複数のノード3は、一方向(図1においては左右方向)に沿って配設されている。なお、一方向に沿って配設されているとは、全てのノード3が平行に配設されている必要はなく、例えば全てのノード3の少なくとも70%が一方向に対して±30°の範囲内に配向していればよく、±10°の範囲内に配向していればより好ましく、±5°の範囲内に配向していることがさらに好ましい。このように複数のノード3が実質的に一方向に沿って配設されていると、これらのノード3とフィブリル4とにより形成される複数の孔のサイズが略均等化される。これにより、細胞の均質な培養が可能となり、良質な細胞シートを得ることなどができる。
ノード3の幅(Wn)は、線状のフィブリル4の直径と比較して通常大きく、例えばフィブリル4の直径の2倍以上であり、4倍以上が好ましい。なお、この上限としては、例えば20倍である。ノード3の平均幅の下限としては、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、この上限としては、10μmが好ましく、4μmがより好ましい。ノード3の平均幅が上記下限以上であることにより、細胞がノード3表面に接着しやすくなる。ノード3の平均幅が上記上限を超えると、細胞がノード3の裏側に回り込みにくくなり、増殖が阻害される場合がある。
なお、ノード3の平均幅とは、SEMで撮像した視野内に存在する複数のノード3のうち、長さが大きい上位5本のノード3の各幅の平均値をいう。また、各ノード3の幅(Wn)とは、その一本のノード3における最大幅をいう。ここで、SEMで撮像した視野とは、例えば30μm×40μmの領域の拡大領域であり、この領域で十分の数の測定対象物が存在しない場合は、200μm×260μmの領域の拡大領域とすることができる。以下、SEMで撮像した視野は上記と同様とする。
ノード3の平均長さの下限としては、20μmが好ましく、30μmがより好ましい。一方、この上限としては、特に制限されないが、例えば2,000μmであり、300μmが好ましく、100μmがより好ましい。ノードの平均長さを上記下限以上とすることで、ノード3の十分な面積が確保され細胞が接着しやすくなる。また、このような長さとすることで、細胞の十分な伸長、増殖及び移動が可能となり、細胞がより効率的に培養できる。
なお、ノード3の平均長さとは、SEMで撮像した視野内に存在する複数のノード3のうち、長さが大きい上位5本のノード3の各長さ(Ln)の平均値をいう。また、各ノード3の長さ(Ln)とは、その一本のノード3の両端間の直線距離をいう。
ノード3の平均間隔(Dn)の下限としては、1μmが好ましく、3μmがより好ましく、8μmがさらに好ましく、12μmが特に好ましい。一方、この上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、25μmがさらに好ましく、15μmが特に好ましい。ノード3の平均間隔を上記下限以上とすることにより、細胞のノード3裏側への回り込みを隣接するノード3が阻害しにくくなり、細胞がより効果的に接着及び増殖することができる。なお、ノード3の平均間隔が上記上限を超えると、細胞が接着する領域が狭くなり、細胞の接着性が低下するおそれがある。
なお、ノード3の平均間隔(Dn)とは、以下の方法で求める値とする。SEMで撮像した、表面に存在するノード3が5本以上確認できる視野内(例えば200μm×260μmの領域の拡大領域)において、表面に存在するノード3のうち、ノード3の軸方向(配向方向)に略垂直な任意の直線と交わるノード3の本数を求める(但し、交わるノード3の本数が5本以上となる視野内で行う。)。上記直線の長さ(例えば200μm)を上記直線と交わる本数で除した値をノード3の平均間隔とする。
(フィブリル)
多数のフィブリル4は、線状であり、ノード3同士を連結している。フィブリル4は、所定方向に沿って配設されている。具体的なフィブリル4の配設方向は、複数のノード3の配設方向(軸方向)と平面視で略垂直方向(図1において略上下方向)である。ここで配設方向が略垂直方向とは、例えば複数のフィブリル4の少なくとも70%が±30°内の範囲で垂直方向に配設していることをいい、少なくとも70%が±10°内の範囲で垂直方向に配向していることが好ましい。
フィブリル4の平均径(直径)の下限としては、例えば0.002μmであり、0.01μmが好ましく、0.1μmがより好ましい。一方、この上限としては、例えば3μmであり、1μmが好ましく、0.6μmがより好ましい。フィブリル4の平均径が上記下限未満であると、多孔質樹脂膜2の強度が低下するおそれがある。一方、フィブリル4の平均径が上記上限を超えると、太いフィブリル4が接着した細胞の移動等を阻害するおそれがある。
なお、フィブリル4の平均径とは、SEMで撮像した視野内に存在する複数のフィブリル4のうち、長さが大きい上位5本のフィブリル4の各直径の平均値をいう。また、各フィブリル4の直径は、フィブリル4の長さ方向中央位置での直径をいう。
フィブリル4の平均長さの下限としては、例えば1μmであり、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、この上限としては、例えば100μmであり、50μmが好ましく、30μmがより好ましい。フィブリル4の平均長さが上記下限未満の場合は、接着した細胞の移動がフィブリル4により阻害されやすくなる。逆に、フィブリル4の平均長さが上記上限を超える場合は、フィブリル4の強度が低下するおそれなどがある。
なお、フィブリル4の平均長さとは、SEMで撮像した視野内に存在する複数のフィブリル4のうち、長さが大きい上位5本のフィブリル4の各長さ(Lf)の平均値をいう。また、各フィブリル4の長さ(Lf)とは、その一本のフィブリル4の両端間の直線距離をいう。
フィブリル4の平均間隔(Df)の下限としては、例えば0.1μmであり、0.5μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、この上限としては、8μmが好ましく、4μmがより好ましい。フィブリル4の平均間隔が上記下限未満の場合は、密に存在するフィブリル4により細胞の回り込みや増殖を阻害することがある。逆に、フィブリル4の平均間隔が上記上限を超える場合は、フィブリル4の強度が低下するおそれなどがある。
なお、フィブリル4の平均間隔(Df)とは、以下の方法で求める値とする。SEMで撮像した、表面に存在するフィブリル4が5本以上確認できる視野内(例えば30μm×40μmの領域の拡大領域)おいて、表面に存在するフィブリル4のうち、フィブリル4の配設方向(軸方向)に略垂直な任意の直線と交わるフィブリル4の本数を求める。上記直線の長さ(例えば40μm)を上記直線と交わる本数で除した値をフィブリル4の平均間隔とする。
フィブリル4の数密度の下限としては、例えば0.01本/μmであり、0.1本/μmが好ましい。一方、この上限としては、例えば1本/μmが好ましい。フィブリル4の数密度を上記範囲とすることにより、十分な強度を維持しつつ、ノード3に対する細胞の十分な絡みつき等を可能とし、細胞を効率的に培養することができる。
なお、フィブリル4の数密度とは、SEMで撮像した視野内に存在する複数のフィブリル4のうち、表面に存在するフィブリル4の本数を視野の面積で除した値をいう。具体的には、二値化画像処理によるコントラスト調整によってSEM画像から最表面を抽出して最表面に存在するフィブリル数を数えることによりフィブリルの本数を数えることができる。
(形成樹脂)
多孔質樹脂膜2の主ポリマー(多孔質樹脂膜2の形成樹脂)としては特に限定されず、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ナイロン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、液晶ポリマー、生分解性ポリマー等が挙げられるが、フッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂を主ポリマーとすることにより、多孔質樹脂膜2の耐久性等を高めることができる。なお、主ポリマーとは質量基準で最も含有量が多いポリマー(樹脂)をいう。多孔質樹脂膜2中の主ポリマーの含有量の下限としては、例えば50質量%であり、90質量%が好ましい。
フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等を挙げることができる。これらの中でも、耐熱性、耐薬品性、加工特性、機械特性(弾性率やその異方制御性等)などの点からPTFEが好ましい。また、PTFEは、細胞に対して無毒性であり、ノード3及びフィブリル4の配向、繊維径、気孔率等の多孔質状態の制御を良好に行うことができる。
多孔質樹脂膜2を形成する樹脂は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、この樹脂には、潤滑剤、顔料、充填剤等の添加剤が含有されていてもよい。
(形成方法)
多孔質樹脂膜2における多孔質構造を形成する方法としては、造孔法、相分離法、溶媒抽出法、レーザー照射法、エッチング等を挙げることができる。これらの中でも、均一な孔径分布の多孔質樹脂膜2を得ることができるなどの点から延伸法が好ましい。
延伸法による多孔質樹脂膜2の形成は、例えばPTFEを用いた例として、以下の手順で行うことができる。まず、PTFEの未焼結粉末に液体潤滑剤を混合し、この混合物をシート状に成形し、樹脂フィルムを得る。成形後、必要に応じ、樹脂フィルムから液体潤滑剤を除去する。次いで、樹脂フィルムを一軸方向又は二軸方向に延伸することにより、未焼結の多孔質PTFE膜が得られる。未焼結の多孔質PTFE膜を、収縮が起こらないように固定した状態で、PTFEの融点である327℃以上の温度で焼成(加熱)する。これにより、延伸された構造が焼結して固定され、強度の高い延伸多孔質PTFE膜(多孔質樹脂膜2)が得られる。
なお、延伸の際の延伸率、二軸延伸における延伸比(縦方向の延伸率と、横方向の延伸率との比)を調整することなどにより、ノード3やフィブリル4の形状や空孔率等を調整することができる。例えば、延伸率を高くするとフィブリル4の平均長さを大きく、数密度を小さくできる。一軸延伸とすること、又は二軸延伸における延伸比を高くすることなどにより、ノード3の平均長さを大きくすることなどができる。また、延伸率を高くすると平均孔径が大きくなる一方、ノード3の平均幅や平均長さが小さくなる傾向にある。
延伸及び焼成後の樹脂膜に対し、フィブリル(微細繊維)の一部の除去処理を施してもよい。これにより、フィブリル4の数密度をより好ましい状態に低下させることができる。この除去処理方法としては、アルカリ溶液等によるケミカルエッチング法や、高温熱分解法等を挙げることができる。ケミカルエッチング法は、得られた樹脂膜をアルカリ溶液に浸漬することなどにより行うことができる。このアルカリ溶液としては特に限定されず、例えばナトリウム−ナフタレン溶液等を挙げることができる。
(親水化処理)
多孔質樹脂膜2は、表面(ノード3及びフィブリル4の表面)が親水化処理されていることが好ましい。親水化処理されていることにより、細胞培養液の浸透性が高まり、ひいては培養効率が高まる。親水化処理は、通常、親水性樹脂溶液を多孔質樹脂膜2に含浸させ、次いで親水性樹脂を架橋させることにより行われる。これにより、親水性樹脂が多孔質樹脂膜表面にコーティングされる。なお、親水性樹脂溶液の含浸は、浸漬や塗布等により行うことができる。
親水性樹脂としては、水酸基、カルボニル基等の親水性基を有する化合物を挙げることができ、例えばポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、グリセリン、デキストリン、澱粉等を挙げることができる。
架橋方法としては、電子線等の照射による照射架橋、熱架橋、架橋剤を用いる化学架橋などを挙げることができるが、化学架橋が好ましい。架橋剤としては、親水性樹脂が有する反応性基と架橋反応する官能基を有する化合物を適宜選択すればよいが、例えばグルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド、テレフタルアルデヒド、ジアルデヒドデンプン等のアルデヒド類、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシスクシンイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
なお、親水化処理としては、上記方法以外に、例えばプラズマ処理等によって行うこともできる。
また、タンパク質、ペプチド、これらの化学修飾体等が多孔質樹脂膜2(ノード3及びフィブリル4)表面にコーティングされていてもよい。これらがコーティングされていることで、細胞の接着性、ひいては培養効率を高めることができる。このような成分としては、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン(ラミニンフラグメントを含む)、フィブロネクチン、マトリゲル等を挙げることができ、ラミニンが好ましい。なお、マトリゲルとしては、BD社製、コーニング社製等の市販品を用いることができる。また、上記の他、血清成分、細胞外マトリックス成分、成長因子、分化誘導因子、形態形成因子(モルフォゲン)等がコーティングされていてもよい。なお、多孔質樹脂膜2においては、これらのタンパク質、細胞外マトリックス成分等のコーティングを必須とせず、これらがコーティングされていなくとも、十分な細胞接着性を発揮することができる。
(使用方法)
細胞培養担体1は、細胞培養において細胞が接着する担体として用いられる。細胞(通常、接着細胞)は、多孔質樹脂膜2の主にノード3に接着し、伸長、増殖する。培養方法は、特に限定されず公知の方法により行えばよい。
培養される細胞としては、特に限定されず、心筋細胞、肝細胞、神経細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、髄核細胞等のヒト細胞を含む動物細胞などが挙げられる。また、ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、mGS細胞(多能性生殖幹細胞)等の多能性幹細胞、これらの多能性幹細胞由来の上記各動物細胞なども挙げられる。これらの中でも、細胞培養担体1は、iPS細胞及び心筋細胞の培養に好適に用いることができ、心筋細胞(iPS細胞由来の心筋細胞等)の培養に特に好適に用いることができる。当該細胞培養担体は、上述のように細胞が効果的にノード3に絡まり、増殖することが可能な構造であるため、心筋細胞のような拍動する細胞であっても担体からの滑落を防止でき、培養に好適である。
培養に用いられる培養液(培地)としては、培養する細胞にあわせて適宜選択すればよいが、無血清培地が好ましく、支持細胞であるフィーダー細胞を必要としない無血清培地がより好ましい。培養する細胞が多能性幹細胞等である場合、例えばSTEMCELL Technologies社製の「mTeSR1」や「TeSR2」等の市販品を用いることができる。
〔細胞シート〕
本発明の一態様に係る細胞シートは、細胞培養担体と、この細胞培養担体上で培養された細胞とを備える。細胞培養担体は、上述した図1の細胞培養担体1が用いられる。培養された細胞(培養されている細胞)としては、上記の細胞培養担体の使用方法において例示したものを挙げることができる。細胞は、細胞培養担体の外面に接着しており、好ましくは膜状に略均等に接着している。なお、細胞の少なくとも一部は、通常、細胞培養担体のノードに絡みつくように接着している。
当該細胞シートは、例えば再生医療や創薬のスクリーニング等に好適に用いられる。なお、使用の際は、膜状に培養された細胞を細胞培養担体から剥離して使用することもできるし、細胞培養担体に接着した状態で使用することもできる。
〔その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
上記実施形態では、細胞培養担体は1枚の多孔質樹脂膜のみで構成されているが、細胞培養担体は、多孔質樹脂膜を支持又は固定する基板、シート等をさらに有していてもよい。また、細胞培養担体は、多孔質樹脂膜と他の機能を有する膜(例えば酸素透過膜やイオン交換膜等)との積層体や、複数枚の多孔質樹脂膜の積層体であってもよい。
さらには、多孔質樹脂膜は、ノードとフィブリルとから構成される多孔質構造に限定されるものでは無く、所定の細胞増加率を満たす多孔質構造であれば如何なる構造であってもよい。また、ノードとフィブリルとから構成される場合においても、ノードの形状は棒状に限定されず、例えば球状等であってもよい。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでは無い。
樹脂としてPTFEを用いた延伸法により、延伸率及び延伸比を調整し、平均孔径1μmの膜A、平均孔径3μmの膜B、平均孔径5μmの膜C及び平均孔径10μmの膜Dをそれぞれ作製した。これらの各膜は、棒状の複数のノードと、これらのノード間に接続する多数のフィブリルとを有する多孔質樹脂膜である。また、各膜に対して、ポリビニルアルコールのコーティングによる親水化処理を施した。参考に膜DのSEM(走査型電子顕微鏡)写真(WD:11.1mm、加速電圧2kV)を図2に示す。
多孔質樹脂膜(膜A〜D)を細胞培養担体として、以下の評価試験により、細胞の接着性(付着性)を評価した。また、膜A〜Dのノード、フィブリルのサイズ等についての測定値を以下の表1に示す。なお、各測定は、実施の形態に記載の方法により行った。
<評価試験1>iPS細胞由来の心筋細胞の接着性評価
まず、公知の方法で培養されたiPS細胞由来の心筋細胞のコロニーを単一細胞に分散させた。分散させた心筋細胞をmTeSR1培養液に懸濁させ、この心筋細胞を膜A及び膜Cにそれぞれ播種した。2カ月間培養を行い、心筋細胞の接着状態を観察した。2カ月の培養後、免疫染色法により細胞の検出を行った。なお、mTeSR1培養液は毎日交換した。培養開始から1日後と3日後の培養細胞の写真を図3〜図6に示す。図3は膜Aの1日後の状態、図4は膜Aの3日後の状態、図5は膜Dの1日後の状態、図6は膜Dの3日後の状態である。なお、いずれも膜に対してラミニンをコーティングして行った。
図3〜図6において、比較的白色の塊状部分が表面に接着している細胞であり、左右方向の筋が確認できる比較的黒色の部分が表面に露出している膜である。十分なノード長さを有する膜Aにおいては、1日後には細胞が均一的に分布し、細胞の拍動が確認できた(図3参照)。3日後においては、細胞が略全面的に十分に接着していることが確認できる(図4参照)。一方、比較的ノード長さが短い膜Dにおいては、部分的に接着しているものの、筋状に見える膜部分の露出が多い(図5、6参照)。すなわち、細胞の滑落が多く、接着した細胞の分布が不均一な状態であることがわかる。
<評価試験2>iPS細胞の接着性評価
細胞として、iPS細胞を用いたこと、及びラミニンのコーティングを行わなかったこと以外は評価試験1と同様にして、評価試験2を行った。また、培養後、細胞の回収量(率)を確認した。培養開始から1日後と3日後の培養細胞の写真を図7〜図10に示す。図7は膜Aの1日後の状態、図8は膜Aの3日後の状態、図9は膜Dの1日後の状態、図10は膜Dの3日後の状態である。
図7〜図10において、比較的白色の塊状部分が表面に接着している細胞であり、黒色の部分が表面に露出している膜である。膜A及び膜Dのいずれも、iPS細胞は多孔質樹脂膜に接着していることが確認できた。但し、比較的ノード長さが短い膜Dにおいては、膜の露出が確認され、iPS細胞は部分的にしか接着していないことがわかる。
<評価試験3>
細胞として、ヒト肝癌細胞株HepG2(ヒト肝臓癌細胞由来)を用いて10日間の培養を行ったこと、及びラミニンのコーティングを行わなかったこと以外は評価試験1と同様にして、膜A及びDに対して評価試験3を行った。培養開始から1日後と3日後の培養細胞の写真を図11〜図14に示す。図11は膜Aの1日後の状態、図12は膜Aの3日後の状態、図13は膜Dの1日後の状態、図14は膜Dの3日後の状態である。
図11〜図14において、比較的白色の塊状部分が表面に接着している細胞であり、黒色の部分が表面に露出している膜である。膜A及び膜Dのいずれも、肝細胞は膜に十分に接着していることが確認できた。なお、膜Dの方が、全面的に細胞が接着しており、接着状態がより良いことが確認できた。
上記評価試験1〜3の評価結果について、上述した内容と重複した内容も一部含めて下記表2にまとめて示す。
このように、実施例の多孔質樹脂膜(細胞培養担体)においては、心筋細胞、iPS細胞及び肝細胞のいずれも良好に接着し、培養可能であることが確認できた。特に、評価試験1で示されるように、実施例の多孔質樹脂膜には、拍動し、滑落が生じやすい心筋細胞も、十分に接着できることが確認できた。また、上記表2に示されるように、膜A〜Dの中では、心筋細胞及びiPS細胞に対する適合性としては、膜Bが最も高く、次いで膜Cが高いことが確認できた。
<活動電位維持時間>
作製した上記多孔質樹脂膜を用いて、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞の培養を行った。3日間培養した後の細胞外電位測定における上記心筋細胞の活動電位維持時間を測定した。詳細な手順は以下の通りである。
(1)培養
分化誘導開始から1カ月後のヒトiPS細胞由来の心筋細胞を、多孔質樹脂膜上で3日間(72時間)培養した。培養条件は以下の通りである。
[培養条件]
ヒトiPS細胞から分化させた心筋細胞をmTeSR1培養液に懸濁させ、足場材としてのラミニンコーティング済みの上記膜B、膜C(直径5mmの円、19.6mm)上に3x105cellsを播種し、37℃で培養した。
(2)培養された心筋細胞が付着した多孔質樹脂膜を64チャンネル多電極デバイスに載せた。心筋細胞が電極から離れないように、1mm厚さのPDMSシートを用いて心筋細胞を押さえた状態で電気信号を測定した。測定された活動電位維持時間を、下記表3に示す。
膜B及び膜Cの場合のいずれも活動電位時間が0.4秒以下であり、十分に心筋細胞が培養されていることがわかる。
本発明の細胞培養担体は各種接着細胞の培養に好適に用いられ、細胞シートは再生医療、創薬開発等に好適に用いられる。
1 細胞培養担体
2 多孔質樹脂膜
3 ノード
4 フィブリル

Claims (3)

  1. 多孔質樹脂膜を備える細胞培養担体であって、
    上記多孔質樹脂膜の平均孔径が、3μm以上5μm以下であり、
    上記多孔質樹脂膜の平均厚さが、60μm以上80μm以下であり、
    上記多孔質樹脂膜の主ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンであり、
    上記多孔質樹脂膜は、ポリビニルアルコールのコーティングにより親水化処理され、
    培養された心筋細胞が付着した状態で細胞外電位測定を行うことができ、
    心筋細胞を3日間培養した後の細胞外電位測定における上記心筋細胞の活動電位維持時間が0.2秒以上0.4秒以下であることを特徴とする細胞培養担体。
  2. 上記多孔質樹脂膜が、樹脂フィルムの延伸及び焼成により形成されている請求項1に記載の細胞培養担体。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の細胞培養担体と、
    この細胞培養担体上で培養された細胞と
    を備える細胞シート。
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