JP6528378B2 - 細胞展開方法およびそのためのキット - Google Patents

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Description

本発明は、細胞展開方法、ならびに当該方法を実施するためのキットに関する。
血液中には通常、赤血球、白血球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球)などの血液細胞が含まれているが、さらに循環腫瘍細胞(CTCs:Circulating Tumor Cells)、循環血管内皮細胞(CECs:Circulating Endothelial Cells)、循環血管内皮前駆細胞(CEPs:Circulating Endothelial Progenitors)、その他の前駆細胞などの稀少細胞が含まれている場合がある。また、培養されている細胞集団には、幹細胞、特定の分化細胞、その他の特徴的な細胞が含まれている場合がある。
たとえば、血液循環癌細胞(CTC)は、乳癌、肺癌、前立腺癌、膵臓癌などの患者の血中に見出される細胞であり、その数は癌の転移性を反映しているなど、臨床上の重要な情報になることで注目されている。しかしながら、血液中のCTCの密度は極めて低く(少ない場合、全血10mLあたり1〜10個程度)、その検出および計数は容易ではない。また、CTCが発現しているバイオマーカーのプロファイリングは、その原発性がんのバイオマーカーのプロファイリングとの比較を通じて転移のメカニズムを解明したり、有用な抗がん剤(分子標的薬)を判定したり、CTCの亜集団(上皮細胞、間葉系細胞、幹細胞などの特性を有するCTC)を特定したりなど、様々な観点からCTCの研究を進めるためにも重要である。
上記のような目的でCTC等の稀少細胞や特徴的な細胞の検出をする際には、細胞の形態や染色状況などを個々に顕微鏡観察などにより判断することが望ましい。細胞の位置を特定するために核染色や蛍光染色などを行い、血液中からCTC等を検出する方法などが知られている。たとえば、細胞を収容できる多数のマイクロチャンバー(ウェル構造)を表面に有する基板上に流路形成枠体を設置して作製された、細胞展開用デバイスを用いて、顕微鏡観察や染色を行いやすい状態になるよう、細胞懸濁液中の細胞を展開するシステムが用いられている(特許文献1等参照)。このシステムでは、細胞懸濁液を細胞展開用デバイスが備える流路に導入し、流路を移動させながら細胞をマイクロチャンバー内に回収した後、細胞懸濁液を流路から排出するようにする。また、溝のようにマイクロチャンバー以外の構造を設けることによって細胞を補足しやすくした細胞展開用基板を用いて細胞を展開する方法、あるいはそのような構造を有さない細胞展開用基板を用いて細胞を展開する方法もある。
国際公開公報WO2014/007190号パンフレット 特開2014−083010号公報 特開2013−138629号公報
CTCのような稀少細胞は存在数が非常に少ないため、細胞懸濁液の調製や前述したシステムの細胞展開用デバイスに細胞懸濁液を導入するためなどに用いられる、ピペットチップやマイクロチューブなどの実験器具表面に対する稀少細胞の吸着が、細胞数の測定の精度に影響を与えることがある。なお、それらの実験器具の材質としてはポリプロピレン等がよく採用されている。
その一方で、特許文献1に記載されているような細胞展開用基板(デバイス)を利用するシステムにおいては、マイクロチャンバーの底面に稀少細胞等が吸着させることが必要となってくる。稀少細胞の数を測定するために、マイクロチャンバー内に回収された細胞の形態や染色などの状況を1つ1つ見て判定する場合があるが、1つのマイクロチャンバー内に複数の細胞が回収されることもあるため、全ての細胞をマイクロチャンバーの底面に吸着させて互いに重なり合わないようにすることが望ましい。また、稀少細胞等がマイクロチャンバーの底面に吸着していれば、一旦回収した稀少細胞等が細胞懸濁液の移動に伴って再びマイクロチャンバー外に出て失われしまうことを防ぐこともできる。なお、細胞展開用基板(デバイス)の材質としてはポリスチレン等がよく採用されている。
実験器具表面に対する稀少細胞の吸着を抑制することに関連して、特許文献2には、ブロッキング効果が期待される高分子溶液中に細胞を懸濁させ、マイクロウェルを有する基板にその細胞懸濁液を滴下して細胞アレイを作製した後、マイクロウェル内に収容された細胞を吸引等により選択的に取得する方法が記載されている。前記高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレン、アガロースなどの親水性高分子、またはこれらの共重合体型の高分子(Pluronic(登録商標))、あるいはアルブミン、ヘパリン、ゼラチン、ゼラチンメタクリレート、フィブリンなどの生体由来のタンパク質が挙げられている。この方法は、細胞が基板(マイクロウェルの底面)に吸着することを防止することで、収容された細胞を吸引によって取得しやすくすることを目的としている。したがって、特許文献2に記載された方法を特許文献1に記載されたようなシステムに応用した場合、実験器具表面に対する細胞の非特異的な吸着は抑制される一方で、細胞展開用デバイスのマクロチャンバーの底面にも細胞が非常に吸着しにくくなり、比較的大きな流量で細胞懸濁液やその他の液体(洗浄液等)の送液が行われることもある当該システムにおいては、稀少細胞等の回収が非常に困難になるという問題が生じる。
また、特許文献3には、細胞培養器具、マルチウェルプレート等の試験器具の表面に、ポリアルキレングリコール鎖等からなる親水性層による修飾をほどこすことで、細胞の吸着を抑制する方法が記載されている。
しかしながら、細胞表面には親水性・疎水性や電荷の状態などが異なる様々な領域があるために、特許文献3に記載された方法を利用して特許文献1に記載されたようなシステムに用いられる実験器具の表面を修飾しても、細胞の吸着を完全に防ぐことは困難であった。
本発明は、上述したような課題を解決するために、細胞を処理する物質を用いて、実験器具表面への吸着を抑制しながらも細胞展開用基板の表面(好ましくはマイクロチャンバーの底面)への吸着を妨げないことで、稀少細胞等を効率よく回収できる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、細胞懸濁液に含まれる細胞を、一分子中に二つ以上のアルデヒド基を有する化合物で処理し、続いてその細胞懸濁液内からタンパク質を除去してから、前述したようなシステムにおける細胞展開用デバイスの流路に導入することにより、細胞懸濁液に含まれる細胞を細胞展開用基板に設けられたマイクロチャンバー内に効率よく回収することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。上記の化合物も固定化剤としては公知であったが、これらの化合物が、細胞懸濁液中にブロッキング効果を発揮する量のタンパク質が存在しない条件下で、特定の材質からなる実験器具表面への細胞吸着を抑制する一方、他の特定の材質からなる細胞展開用基材への細胞の吸着を妨げないということは知られていなかった。
すなわち、本発明は次のような細胞展開方法および細胞展開用キットを提供する。
[1]
下記(a)〜(c)の条件を満たす、細胞懸濁液に含まれる細胞の固定化処理を行う工程(細胞固定化処理工程)、細胞懸濁液からタンパク質を除去する工程(タンパク質除去工程)、およびタンパク質除去工程を経た細胞懸濁液に含まれる細胞を細胞展開用基板上に展開して吸着させて回収する工程(細胞展開工程)を含む細胞展開方法:
(a)細胞固定化処理工程において、一分子中に二つ以上のアルデヒド基を含む化合物からなる固定化剤を使用する;
(b)少なくともタンパク質除去工程および/または細胞展開工程において、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリメタクリル酸メチルまたはシクロオレフィンポリマーから選ばれる材質のピペットチップおよび/またはマイクロチューブを用いる;
(c)細胞展開工程においてポリスチレン製の細胞展開用基板を用いる。
[2]
前記タンパク質除去工程を前記細胞固定化処理工程の後に行う項1に記載の細胞展開方法。
[3]
前記(a)の細胞固定化処理工程において、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒドおよびグルタルアルデヒドからなる群から選択される少なくとも一種からなる固定化剤を用いる、項1または2に記載の細胞展開方法。
[4]
タンパク質除去工程によって、細胞懸濁液に含まれるタンパク質の濃度を0.001%未満とする、項1〜3の何れか一項に記載の細胞展開方法。
[5]
前記(b)の少なくともタンパク質除去工程/細胞展開工程において、ポリプロピレン製のピペットチップおよび/またはマイクロチューブを用いる、項1〜4の何れか一項に記載の細胞展開方法。
[6]
前記(c)の細胞展開工程において、チャンバーを有する細胞展開用デバイスを用いる、項1〜5の何れか一項に記載の細胞展開方法。
[7]
(i)一分子中に二つ以上のアルデヒド基を含む化合物からなる固定化剤、
(ii)ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリメタクリル酸メチルまたはシクロオレフィンポリマーから選ばれる材質のピペットチップおよび/またはマイクロチューブ、ならびに
(iii)ポリスチレン製の細胞展開用基板
を含む、細胞展開用キット。
[8]
前記(i)として、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒドおよびグルタルアルデヒドからなる群から選択される少なくとも一種からなる固定化剤を含む、項7に記載の細胞展開用キット。
[9]
前記(ii)として、ポリプロピレン製のピペットチップおよび/またはマイクロチューブを含む、項7または8に記載の細胞展開用キット。
[10]
前記(iii)として、チャンバーを有する細胞展開用デバイスを含む、項7〜9の何れか一項に記載の細胞展開用キット。
本発明の細胞展開方法を用いれば、細胞懸濁液中の稀少細胞のロスを大幅に抑制することで、より多くの細胞を細胞展開用基板上に展開させることができ、さらに細胞展開後のアッセイ中も細胞が基板に吸着した状態を保つことができる。
図1は、本発明の細胞展開方法の一実施形態を示すフローチャートである。 図2は、本発明の細胞展開方法を実施することのえきる細胞検出装置の十氏形態を示す模式図である。 図3は、実施例および比較例のサンプルを用いた比較試験1(PP製実験器具表面に対する細胞の吸着抑制に関する効果)の結果を示すグラフである。
− 細胞展開方法 −
本発明の細胞展開方法は、少なくとも、細胞固定化処理工程、タンパク質除去工程および細胞展開工程を含む。このような細胞展開方法の各工程は、たとえば、図1に示すフローチャートに沿った手順で実施することができる。以下、本発明の細胞展開方法に含まれる各工程について、より詳細に説明する。
(細胞)
本発明の細胞展開方法が対象とする細胞(集団)は特に限定されるものではないが、代表例としては、血液、尿、リンパ液、組織液、体腔液など、ヒトまたはその他の動物から採取された検体に含まれる細胞、あるいは培養された細胞(細胞株)が挙げられる。特に、血液等に含まれるCTC、CEC、CEP、その他の前駆細胞などの稀少細胞や、培養細胞中に含まれる幹細胞、特定の分化細胞、その他の特徴的な細胞を目的細胞とし、そのような目的細胞を含む細胞(集団)を細胞展開方法の対象とすることが好ましい。
(細胞懸濁液)
細胞懸濁液は、例えば、稀少細胞またはその他の目的細胞を含んでいる可能性がある、血液、尿、リンパ液、組織液、体腔液等の検体、あるいはそれらの検体から得られた細胞画分や精製物などの前処理物を、PBS等の適切な溶媒で希釈することにより調製することができる。また、細胞懸濁液は、試験、研究等のために培養した、稀少細胞またはその他の目的細胞の細胞株、あるいは目的細胞を含む細胞集団を、PBS等に分散させて調製したものであってもよい。患者の血中細胞モデルとして、健常者から採取された血中細胞の懸濁液にCTC等の稀少細胞の細胞株を添加したものを、細胞懸濁液として用いてもよい。
本発明において細胞展開工程に供される段階にある細胞懸濁液は、細胞固定化処理工程およびタンパク質除去工程を経たもの、すなわち所定の固定化剤により処理されたCTC等の目的細胞を含み、かつブロッキング効果を付与してしまうようなタンパク質が除去されている細胞懸濁液である。
(ピペットチップ/マイクロチューブ)
本発明の細胞展開方法における細胞固定化処理工程、タンパク質除去工程、細胞展開工程などにおいては、ピペットチップ、マイクロチューブなどの実験用器具が用いられる。これらの実験用器具の材質としては様々なものが知られているが、本発明では、少なくともタンパク質除去工程および/または細胞展開工程においては、ポリプロピレン、ポリカーボナイト、ポリエチレンテレフタラート、ポリメタクリル酸メチルまたはシクロオレフィンポリマーから選ばれる材質のピペットチップおよび/またはマイクロチューブが用いられ、特にポリプロピレン製のものを用いることが好ましい。また、上記の材質の実験用器具の表面は、たとえば親水化処理など、さらに細胞が吸着しにくくなる処理が施されていてもよい。
上記の材質の実験用器具に対しては、細胞を本発明における特定の固定化剤で処理した場合、ブロッキング作用を有するBSA等のタンパク質が細胞懸濁液中に含まれていなくても、細胞が比較的吸着しにくい。そのため、本発明においてそのような状態が生み出されるタンパク質除去工程以降においても、稀少細胞等の目的細胞の吸着を抑制し、細胞展開用基板上に展開できないものの割合を減少させることができる。これに対して、細胞を本発明における特定の固定化剤以外の固定化剤で処理した場合、ブロッキング作用を有するBSA等のタンパク質が細胞懸濁液中に含まれていない限り、上記の材質の(さらに表面処理されていてもよい)実験用器具に対する細胞の吸着を抑制することは困難であり、多数の稀少細胞等の目的細胞が細胞展開用基板上に展開することができなくなってしまう。
なお、細胞固定化処理工程においても同様に、ポリプロピレン等の材質のピペットチップ、マイクロチューブなどの実験用器具を用いてもよいが、タンパク質除去工程よりも前の段階では大抵、細胞懸濁液中にタンパク質がブロッキング作用を発揮する濃度で含まれているので、ピペットチップ、マイクロチューブなどの実験用器具の材質がポリプロピレン等でなくても、ある程度細胞の吸着を抑制することができる。
(1)細胞固定化処理工程
細胞固定化処理工程は、細胞懸濁液に含まれる細胞の固定化処理を行う工程である。固定化処理は、細胞の自己分解や腐敗を遅延させ、その形態や抗原性を保持するために行われる処理であり、CTC等の目的細胞の検出性を高めることができる。
(固定化剤)
本発明では、細胞の固定化処理に用いられる固定化剤として、一分子中に二つ以上のアルデヒド基を含む化合物を用いる。一分子中に二つ以上のアルデヒド基を含む化合物は一般的に、式:H(O=)C−R−C(=O)H[式中、Rは単結合またはアルキレン基を表す。]で表される。たとえば、前記Rで表される炭素数が0(単結合)、1〜3の化合物に相当する、グリオキサール、マロンアルデヒド、グルタルアルデヒドなどは、本発明における固定化剤として好ましい。
なお、本発明で用いる固定化剤以外の公知の固定化剤としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エタノール、メタノール等のアルコール類が挙げられる。また、それ自体が固定化剤として直接作用するものではないが、加水分解等を受けることによって固定化剤を遊離する供与体、たとえばホルムアルデヒド供与体も公知の固定化剤の一形態として用いられている。
固定化処理は、適切な濃度の固定化剤を適切な時間、細胞に接触させることで行うことができる。固定化処理液中の固定化剤の濃度は適宜調節することができるが、たとえば0.1〜10w/w%程度である。固定化処理液と細胞との接触時間(固定化処理時間)も適宜調節することができるが、例えば、室温で、10分間〜1時間程度である。
(その他の処理)
細胞の固定化処理に先だって、血液またはそれから調製される画分に対しては、上述した固定化処理以外の処理を必要に応じて施すことができる。特に、細胞懸濁液をヒトまたはその他の動物から採取された検体を用いて調製する場合は、必要な前処理をあらかじめを行っておくことが適切である。以下、CTCを含有する代表的な検体である血液についての前処理方法について説明する。この場合、前述した固定化処理(細胞固定化処理工程)は一般的に、抗凝固処理および遠心分離処理を経た細胞懸濁液に対して施される。
・抗凝固処理
採取されて体外に取り出された血液(全血)は、そのまま空気に触れさせると時間の経過と共に凝固し、そこに含まれる細胞を回収して観察することができなくなる。そのため、採取された血液は直ちに抗凝固処理することが好ましい。
全血用の抗凝固剤としては様々なものが公知であり、一般的な濃度、処理時間等の条件に従って用いることができる。例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やクエン酸(ナトリウム塩等の塩を含む)に代表される、キレート作用によりカルシウムイオンと結合し、反応系から除去することによって凝固を阻止するタイプの抗凝固剤や、ヘパリンに代表される、血漿中のアンチトロンビンIIIと複合体を形成してトロンビンの産生を抑制することにより凝固を阻止するタイプの抗凝固剤が挙げられる。このような抗凝固剤があらかじめ収容された採血管を利用してもよい。
・遠心分離処理
全血から稀少細胞等の目的細胞を含む細胞画分を得て、さらに細胞展開工程に供するのに適した細胞懸濁液を調製するためには、通常、数回の遠心分離処理が行われる。遠心分離処理によって全血からCTC等の稀少細胞(白血球)を分離、精製し、そのような細胞を含む画分を調製するための手法は公知であり、適切な遠心分離機および遠心分離条件を用いて実施することができる。
ここで、密度勾配遠心法は、各種の細胞を含む血液中の成分を比重に従って分画することができる方法として知られている。特に、血液中に多量に含まれている赤血球を除去して、CTC等の目的細胞を含む白血球のみを細胞展開工程に供するためには、密度勾配遠心法を用いることが好ましい。
密度勾配遠心法に用いられる分離液は、血液中の細胞の分画に適した比重を有し、また細胞を破壊することのない浸透圧およびpHを有するよう調製したものであればよいが、例えば、市販されているフィコール(登録商標)、パーコール(登録商標)などのショ糖溶液を用いることができる。この分離液の比重を、赤血球の比重よりも小さく、白血球の比重よりも大きくなるよう調節した上で密度勾配遠心処理を行うと、血液検体を「赤血球が多く含まれる画分」と「赤血球以外の細胞が多く含まれる画分」の少なくとも二層に分離することができる。例えば、分離液の比重を好ましくは1.113以下、より好ましくは1.085以下にすると、「赤血球以外の細胞が多く含まれる画分」への赤血球の混入率を2〜6%またはそれ以下に抑えることができる。「赤血球以外の細胞が多く含まれる画分」を用いて細胞観察を行うと、CTC等の目的細胞が赤血球に紛れて検出し損ねる危険性が低下し、診断の精度を高めることができるため好ましい。
(2)タンパク質除去工程
タンパク質除去工程は、細胞懸濁液からタンパク質を除去する工程である。タンパク質除去工程は、固定化処理工程前であっても固定化処理工程後であってもよいが、固定化処理工程後のほうが好ましい。細胞展開工程において細胞に対してブロッキング効果を与えてしまうタンパク質を細胞懸濁液中から除去することで、細胞がマイクロチャンバーの内部に吸着する能力を失わないようにすることができる(ブロッキング効果ないしブロッキング処理については別途後述する)。
タンパク質除去工程で除去すべきタンパク質には、血液(血漿)中に含まれるアルブミン、γ−グロブリン、その他の血漿タンパク質が包含される。チューブやピペットチップ等の実験器具への細胞の非特異的吸着を抑制する目的で、細胞懸濁液にブロッキング処理剤としてBSA等のタンパク質を添加していてもよいが、そのような添加されたタンパク質も、タンパク質除去工程では除去すべきものとなる。血液からではなく、培養細胞を用いて細胞懸濁液を調製する場合、培地中に含まれているBSA等のタンパク質も、上記と同様に除去すべきタンパク質となる。
タンパク質除去工程では、細胞が細胞展開工程において細胞展開用基板の表面(好ましくはマイクロチャンバーの底面)に吸着する能力を一定程度保持できるよう、細胞懸濁液中のタンパク質の濃度を適切なレベルにまで低減させる必要がある。タンパク質除去工程後の細胞懸濁液中のタンパク質の濃度は、できるかぎり低いことが望ましいが、たとえば0.001w/v%未満であれば、細胞の細胞展開用基板に対する吸着能力は十分に保持されるため好ましい。
細胞懸濁液からのタンパク質の除去は、適切な遠心分離機および遠心分離条件を用いて実施することができる。タンパク質除去工程は、たとえば、300〜500Gで1〜5分間の遠心分離処理を、1回、または3回程度繰り返すことで実施することができる。
(3)細胞展開工程
細胞展開工程は、タンパク質除去工程を経た細胞懸濁液に含まれる細胞を細胞展開用基板上に展開して吸着させて回収する工程である。
(細胞展開用基板)
細胞展開用基板は、典型的には、後述する細胞展開用ないし細胞観察用のシステムに用いられるデバイスの流路基板に相当する。流路形成部材と組み合わせて流路を形成し、その流路に細胞懸濁液を導入することにより、細胞展開用基板(流路基板)の表面に細胞懸濁液中の細胞を展開するようにして用いられる。しかしながら、本発明の細胞展開方法を実施することのできる細胞展開用基板はそのような実施形態に限定されるものではなく、表面に細胞懸濁液を展開してその中に含まれる細胞を吸着させることができるものであればよい。たとえば、細胞展開用基板はスライドグラスや細胞培養用のシャーレの底面であってもよい。
・細胞の固相化方法:細胞展開用基板の材質および構造
稀少細胞等の目的細胞の検出効率を高めるためには、細胞を固相化する、つまり細胞展開用基板上の細胞の位置が動かないようにする必要がある。細胞を固相化することにより、観察の対象とする細胞の位置を特定しやすくなり、必要に応じて検出された目的細胞を回収することも可能となる。
細胞の固相化のための手法は、細胞展開用基板の表面の構造によって細胞の移動できる範囲を制限するようにする手法(構造的手法)と、細胞展開用基板の表面の性状によって生じる物理的相互作用により細胞を吸着させて動かないようにする手法(相互作用手法)とに大別することができる。本発明においては、少なくとも細胞展開用基板に細胞を吸着させる相互作用的手法を利用し、好ましくはさらに構造的手法を併用する。
本発明では、固相化の相互作用的手法として、細胞が吸着しやすいポリスチレン製の細胞展開用基板を用いるようにする。ポリスチレンは疎水性のプラスチックであるが、細胞展開用基板の上部に流路を設けて細胞懸濁液を導入し、好ましくは細胞展開用基板に次に述べるマイクロチャンバーのような構造を設けて細胞を収容することなどを考慮すると、細胞懸濁液と馴染みやすくするために、大気雰囲気化でUVを照射するUVオゾン処理や酸素プラズマ処理によって適度に親水化してもよい。なお、ポリスチレン以外の材質の細胞展開用基板であっても、ポリスチレンと同様の作用効果が奏されるものであれば、本発明を適用することが可能である。
一方、固相化の構造的手法としては、たとえば、細胞展開用基板の表面に微細なチャンバー(マイクロチャンバー)または溝を複数形成することによって、細胞の移動をチャンバーまたは溝の中だけに制限することが挙げられる。構造的手法を利用しない場合は、細胞展開用基板の表面は平滑であってもよい。
チャンバーの形状は特に限定されるものではないが、例えば、底面が平坦で側面がテーパー形状である逆円錐台形が好ましい。チャンバーの底面の直径および深さは、観察に適した数の細胞を回収して収容することができるよう、適宜調節することができる。例えば、1つのチャンバーあたり1〜100個の細胞を収容できるよう、底面の直径を20〜500μm、深さを20〜500μmの範囲とすることが好ましい。なお、血液中の種々の細胞(赤血球を除く)の直径は一般的に5〜100μmであり、CTC等の稀少細胞の直径は10〜100μm程度と言われている。
細胞展開用基板(流路基板)の表面上における、複数のチャンバーの配置は特に限定されるものではないが、細胞の回収率(懸濁液中の全ての細胞のうちチャンバー内に回収できた細胞の割合)がなるべく高くなるよう、配列の向きやチャンバー同士の間隔を調節されていることが好ましい。例えば、流路に細胞懸濁液を送液したときに流入口から流出口に至るまでのどこか少なくとも1箇所で細胞がチャンバーに沈降するよう、チャンバーを配列させることが好ましい。
本発明では特に、チャンバーを有する、ポリスチレン製の細胞展開用基板上に細胞を展開することが好適である。底面がポリスチレンであるマイクロチャンバーに細胞を吸着させることで、細胞懸濁液から細胞を効率的に分離、回収することができ、また細胞展開用基板上(流路中)の細胞懸濁液またはその他の液体の流れが比較的強くても一旦分離、回収された細胞が失われにくくなる。
・ブロッキング処理
表面にマイクロチャンバーを備えるポリスチレン製の細胞展開用基板を用いる場合、マイクロチャンバーの開口以外の領域は、ブロッキング処理しておくことが好ましい。そのような領域をブロッキング処理しておき細胞が吸着してしまうことを防ぐことで、稀少細胞等をマイクロチャンバー内に効率的に回収して吸着させることができる。
なお、従来の細胞展開方法においては、稀少細胞等の吸着を抑制するために、細胞または細胞展開用デバイス(流路基板および流路形成部材)の少なくとも一方に対して、BSA等のタンパク質を用いたブロッキング処理が行われている。本発明では主に、底面がブロッキング処理されていないマイクロチャンバーの内部に、ブロッキング処理されていない細胞を回収することで、そのマイクロチャンバーの底面に細胞を吸着させやすくするという実施形態が想定されている。したがって、本発明においては、ブロッキング処理されていない細胞、すなわちブロッキング効果を有する濃度のタンパク質を含有しない細胞懸濁液を細胞展開工程に用いるようにする。本発明では、タンパク質除去工程によってそのような細胞懸濁液を調製することができるが、タンパク質除去工程の前に細胞懸濁液中にブロッキング効果を有する濃度のタンパク質が存在すること、たとえば実験器具に対する細胞の付着を抑制するために意図的に細胞懸濁液中にBSA等を添加することは、妨げられるものではない。また、マイクロチャンバーの底面に対してもブロッキング処理は行わないが、細胞展開用基板のマイクロチャンバーの開口以外の領域は、前述したような理由からブロッキング処理を行ってもよい。
・細胞展開用デバイス
細胞展開用デバイスは、流路基板および流路形成部材よって構築されており、これらによって閉鎖されている空間が、細胞懸濁液等の液体を送液して満たすことのできる流路となっている。流路の上流側および下流側の末端付近には、上記の各種の液体を流入および排出させるための流入口および排出口が形成される。流路基板と流路形成部材とは、観察やメンテナンスのしやすさの観点から、係合、ねじ固定、粘着等の手段で取り付け・取り外しが可能なようになっていてもよい。
細胞展開用デバイスの流路基板として、前述したような細胞展開用基板を用いることにより、本発明の細胞展開方法を実施する上で好適な細胞展開用デバイスを作製することができる。本実施形態における流路基板としての細胞展開用基板は、前述したように、少なくとも細胞を吸着させる相互作用的手法を利用できるようになっており、好ましくはさらに構造的手法を併用できるようになっている。
流路形成部材は、流路に所定の高さを持たせるための空隙を生み出すとともに流路の平面的な範囲を形作る、流路の側壁を形成する枠部材と、枠部材の上に載せられ流路の天井を形成する天板部材によって構築されていてもよい。流路の上流側および下流側の末端付近において、その天井を形成している流路形成部材(蓋部材)には、流路の流入口および排出口に相当する開口が設けられる。天板部材は、流入口または流出口に連通している、細胞懸濁液等の液体を一時的に貯留する空間(リザーバー)を備えていてもよい。
流路形成部材は、細胞展開用基板(流路基板)と同様、例えばポリスチレンで作製することができ、その場合は細胞展開用基板のマイクロチャンバーの開口以外の領域と同様、ブロッキング処理されていることが好ましい。
流路の高さ(流路基板と天板部材の間隔、すなわち枠部材の厚さ)は、50μm〜500μmであることが好ましい。流路の高さがそのような範囲内であると、流路内の細胞懸濁液内の稀少細胞を送液の力で容易に移動させることができるとともに、流路の細胞による目詰まりが発生しにくいため、細胞を円滑に展開することができる。
細胞展開工程では、細胞展開用基板(細胞塊収容デバイスの流路基板)上に細胞懸濁液を送液し、所定の時間静置して細胞を沈降させるようにすればよい。細胞展開用基板の表面にチャンバーを設け、その中に細胞を収容して回収する場合は、細胞の回収効率を高めるために、送液の流量(流速)や向きに変化を付けてもよい。例えば、短時間送液した後、短時間静置するといったパターン(間欠送液)にしたり、流入口から流出口への順方向に送液した後、その逆方向送液するといったパターンにすることにより、流路基板のチャンバー以外の領域に残存したり、最後までチャンバー内に回収されずに廃棄されたりする稀少細胞等の目的細胞を極力減らすことが可能になる。
<細胞展開方法の用途>
本発明の細胞展開方法の用途は特に限定されるものではなく、目的に応じた様々な実施形態において本発明の細胞展開方法を利用することができる。典型的には、本発明の細胞展開方法は、稀少細胞等の目的細胞を検出するために利用され、細胞展開用基板上に細胞を展開した後、細胞の(蛍光)染色および観察などが行われる。このような実施形態が前述したような細胞展開用デバイスを用いて行われる場合、細胞を展開するための細胞懸濁液の送液の後に、(蛍光)染色剤の送液や洗浄剤の送液などが引き続き行われる。
<細胞展開方法の実施手段(装置・システム)>
本発明の細胞展開方法を実施するための手段は特に限定されるものではなく、細胞固定化処理工程、タンパク質除去工程および細胞展開工程を公知の手段を用いて順次行っていけばよい。
好ましい実施形態において、本発明の細胞展開方法のうち、少なくとも細胞展開工程は、タンパク質除去工程を経た細胞懸濁液を細胞展開用基板(細胞展開用デバイスにおける流路基板)上に展開するための送液系機構を備えた装置・システムを用いて実施することができる。さらに、前述したように稀少細胞等の目的細胞を検出するために、細胞展開工程に続いて細胞の(蛍光)染色や観察などが行われる場合、それらをまとめて実施することのできる細胞検出装置・システムを用いて実施することも可能である。さらに、このような細胞展開用ないし細胞検出用の装置・システムは、細胞固定化処理工程およびタンパク質除去工程を実施するための装置・システムと連動できるようにすることも可能である。
細胞検出装置は、図2に示すように、一つの実施形態において、細胞回収デバイスの流路に各種の液体を送液するための送液系機構、細胞回収デバイスで回収され、細胞を観察するための光学系機構、細胞回収デバイスを保持する細胞回収デバイスホルダー、試薬収容器を保持する試薬収容器ホルダー、ならびに細胞検出装置が備える各種の機器類を制御するための制御手段を備える。送液系機構および光学系機構は、任意の位置で液の吸引・吐出および細胞観察を可能にするための、空間的な移動手段を備えることが望ましい。光学的機構は顕微鏡に準じた構成とすることができ、特に蛍光色素で染色された細胞を観察できるよう蛍光顕微鏡に準じた構成とすることが好ましい。制御手段は、特に細胞展開工程を自動的に行えるよう、所定の量の所定の液体を、所定のタイミングで所定の流量で細胞展開基板上(流路内)に導入できるよう、プログラムにより送液系機構を制御できることが好ましい。
・送液系機構
送液系機構は、好ましくは制御手段の制御により、試薬収容器の細胞懸濁液、(蛍光)染色液、洗浄液、その他の試薬類それぞれの収納部と細胞回収デバイスの流入口との間を移動し、それらの液の吸引および吐出を行う機構である。具体的には、送液系機構によって、試薬収容器に収容されている細胞懸濁液等の液体を所定の量吸引し、細胞回収デバイスの流入口で所定の流量で吐出して、流路に導入する。また、送液により所定の処理が終わった後は、流路を満たしていた液体を流入口から吸引して排出し、試薬収容器の廃液収納部で吐出する。送液系機構は、例えば、シリンジポンプ、交換可能なチップ、X軸方向(図の左右方向)およびZ軸方向(図の上下方向)に移動可能なアクチュエーターなどを用いて構築することができる。シリンジポンプは、細胞展開工程およびその他の工程において、細胞懸濁液、洗浄液等を所望の流量で吸引および吐出ができる能力を有する。
・試薬収容器
試薬収容器には、細胞懸濁液、染色液(核染色剤溶液、免疫蛍光染色溶液等)、洗浄液など、細胞展開工程およびその他の細胞観察のための工程を行う上で流路に送液する必要のある各種の液体が収容されている。例えば、洗浄液など比較的保存性の高い液体は、密封された状態であらかじめ試薬収容器の所定の部位に収容しておくことが可能であり、細胞懸濁液、染色液など細胞観察の直前に調製する必要のある液体は、調製後に試薬収容器の所定の部位に添加して収容させることができるようにする。本発明では、細胞懸濁液として、固定化処理工程およびタンパク質除去工程を経たものが用いられる。染色液、洗浄液など、細胞観察の際に複数回使用される溶液は、各工程に対応した容量の溶液を別個の部位に収容しておいてもよいし、各工程で同一の組成の溶液を繰り返し使用する場合はそれらの合計の用量の液体を1つの部位に収容しておいてもよい。また、試薬収容器には必要に応じて、送液後に吸引して流路から排出させた廃液を貯留する部位を設けておくようにする。
− 細胞展開用キット −
本発明の細胞展開方法を実施するために利用することのできる細胞展開用キットは、例えば、上述したような一分子中に二つ以上のアルデヒド基を含む化合物からなる固定化剤;ポリプロピレン、ポリカーボナイト、ポリエチレンテレフタラート、ポリメタクリル酸メチルまたはシクロオレフィンポリマーから選ばれる材質のピペットチップおよび/またはマイクロチューブ;ならびにポリスチレン製の細胞展開用基板を含む。このような細胞展開用キットは、必要に応じて、その他の試薬、試薬を調製するための器具、使用説明書などを含んでいてもよい。その他の試薬としては、例えば、前述したような核染色液、洗浄液、あるいはこれらを調製するための核染色剤、洗浄剤、とそれらの希釈液(PBS等の溶媒)などが挙げられる。
[実施例1]
MDA−MB231細胞(ヒト乳癌由来細胞)を回収し、200G,4分遠心処理を行い、PBSで2回の洗浄を行った。この細胞をPBSで懸濁し、3.0×105/mlの濃度の細胞懸濁液200μlを調製した。この細胞懸濁液に最終濃度が4w/v%となるようグルタルアルデヒドを添加して、プロテオセーブSS1.5mlマイクロチューブ(品番MS−4215M、登録商標、住友ベークライト、超親水化処理済みのポリプロピレン製)内で、室温で細胞の固定化処理を行った。得られた細胞懸濁液を実施例1のサンプルとした。
[実施例2]
最初に実施例1と同様にして調製された細胞懸濁液を用い、最終濃度が4w/v%となるようグルタルアルデヒドを添加したことに代えて、最終濃度が0.5w/v%となるようグリオキサールを添加して細胞の固定化処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のサンプルを得た。
[比較例1]
最初に実施例1と同様にして調製された細胞懸濁液を用い、最終濃度が4w/v%となるようグルタルアルデヒドを添加したことに代えて、最終濃度が4w/v%となるようホルマリンを添加して細胞の固定化処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のサンプルを得た。
[比較例2]
PBSに代えてBSAを1w/v%の濃度で含むPBSを用いて調製された細胞懸濁液を用いたこと、また最終濃度が4w/v%となるようグルタルアルデヒドを添加したことに代えて、最終濃度が4w/v%となるようホルマリンを添加して細胞の固定化処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のサンプルを得た。
[比較例3]
最初に実施例1と同様にして調製された細胞懸濁液を用い、最終濃度が4w/v%となるようグルタルアルデヒドを添加したことに代えて、−30℃にてメタノールを添加して細胞の固定化処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のサンプルを得た。
[比較例4]
最初に実施例1と同様にして調製された細胞懸濁液を用い、最終濃度が4w/v%となるようグルタルアルデヒドを添加したことに代えて、−30℃にてアセトンを添加して細胞の固定化処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして、比較例4のサンプルを得た。
[評価試験1:ポリプロピレン(PP)製実験器具表面に対する細胞の吸着抑制に関する効果]
実施例1〜2および比較例1〜4の各サンプルについて、下記の手順で評価試験1を行った。
(1)固定化処理直後、サンプル20μlをマイクロピペットにて秤量し、血球計数板を用いて16視野全数測定にて細胞数を計測し、当該サンプル中の細胞濃度を算出した。
(2)固定化処理直後、サンプルの全量を、ARTチップ(登録商標、molecular Bio Products)を用いて20回ピペッティングした後、(1)と同様にサンプル20μlをマイクロピペットにて秤量し、血球計数板を用いて16視野全数測定にて細胞数を計測し、サンプル中の細胞濃度を算出した。
(3)固定化処理開始から30分後、上記(2)と同様にピペッティングしたサンプルの細胞濃度を算出した。
(4)さらに30分後(固定化処理開始から60分後)、上記(2)と同様にピペッティングしたサンプルの細胞濃度を算出した。
上記(1)の細胞濃度に対する、上記(2)、(3)および(4)それぞれの細胞濃度の割合を求め、実験器具表面に対する細胞の吸着度合いを評価した。結果を図3に示す。本発明に係る細胞固定化剤で処理した実施例1および2のサンプルはいずれも、ピペットチップおよび容器への細胞の吸着を抑制する効果に優れ、60分間固定化処理を行った場合においても8割近い細胞を懸濁液内に止めておくことができた。一方、従来広く用いられていた細胞固定化剤で処理した比較例2のサンプルでは、ピペットチップおよび容器への細胞の吸着を抑制する効果が十分ではなく、半数以上の細胞が懸濁液から失われてしまった。比較例3および4では、ピペットチップおよび容器への細胞の吸着をほとんど抑制できず、ほとんどの細胞が懸濁液から失われてしまった。なお、比較例1は、固定化処理剤と併用されたBSAによる非特異的吸着の抑制効果のため、ピペットチップおよび容器への細胞の吸着は実施例1および2と同程度に抑制できているが、後記評価試験2において示されているように、PS製細胞展開用基板に対する細胞の吸着性に関しては悪影響を及ぼす。
[評価試験2:ポリスチレン(PS)製細胞展開用基板に対する細胞の吸着に関する効果]
実施例1〜2および比較例1〜4の各サンプルについて、下記の手順で評価試験2を行った。
細胞の固定化処理(処理時間20分、室温)が行われたサンプルを用いて、1×105個の固定化処理された細胞を含む細胞懸濁液100μLを調製した。この細胞懸濁液に、濃度が1μg/mlとなるようHoechst溶液を添加し、10分間染色した。
所定の金型を用いて成形したポリスチレン製の細胞展開用基板を準備し、基板および流路蓋にUV/O3を20秒間照射して親水化処理を行った。この基板にはBSAによるブロッキング処理は行っていない。
この基板におけるマイクロチャンバーの直径は100μm、深さは50μmであり、マイクロチャンバーの形状は、底部が平坦な逆円錐形であった。隣接するマイクロチャンバー同士の中心間の距離を表わすピッチは200μmであり、また、空隙率(空隙とはマイクロチャンバーの開口部が流路に対して垂直の方向において存在しない部分の長さである。空隙率とは基板の当該向きの幅における空隙の割合)は0%であった。また、流路の高さは100μm、流路の幅は15mm、流路の長さは40mmであった。すなわち、流路の断面は1.5mm2であり、流路の容積は60mm3(=0.06mL)となる。
まず、チューブおよび50mLテルモシリンジを流路に接続し、このシリンジポンプを用いて細胞展開用基板上の流路内に超純水を導入してプレウェットを行ない(流速:40mL/min、容積:40mL)、この液体で流路内を満たした。
次に、チューブおよび1mLハミルトンシリンジを流路に接続し、このシリンジポンプを用いてPBSを吸引し(流速:0.1mL/min、容積:150μL)、このPBSで流路内を満たした(プレウェット)。
続いて、同じシリンジポンプを用いて、前述したようにして調製した細胞懸濁液を吸引し(流速:0.1mL/min、容積:150μL)、流路内に細胞を導入した。その後、倒立顕微鏡にて1回目の画像撮影を行った。
さらに、前記シリンジポンプを用いてPBSを吸引することで(流速:1mL/min、容積:500μL)、流路内を洗浄した。その後、1回目のときと同一の視野における、2回目の画像撮影を行った。
1回目の撮影画像(洗浄液送液前)における細胞数および2回目の撮影画像(洗浄液送液後)における細胞数を計測し、前者に対する後者の割合を算出した。結果を表1に示す。本発明に係る細胞固定化剤で処理した実施例1および2のサンプルはいずれも、比較的大きな流量で行われた基板洗浄後も細胞が展開用基板からまったく剥離せず、十分な吸着性を保っていることが分かった。一方、比較例1のサンプルは、固定化処理剤と併用されたBSAによる非特異的吸着の抑制効果のため、ピペットチップおよび容器への細胞の吸着のみならず、細胞展開用基板への細胞の吸着も抑制され、送液が比較的大きな流量で行われると一旦吸着した細胞が流失してしまった。なお、比較例2〜4のサンプルは、PS製細胞展開用基板に対しては実施例1および2と同程度に吸着性を保持していたが、前記評価試験1において示されているように、PP製実験器具に対する細胞の吸着抑制に関しては悪影響を及ぼす。
評価試験1と評価試験2で示した結果を表2にまとめた。PP製実験器具表面に対する細胞の吸着抑制性能とPS製細胞展開用基板に対する細胞の吸着性能の両立を実現させるためには、実施例に示した条件で細胞を処理した時において成立することが分かり、本発明の有効性を示すことが出来た。
(表2の見方)
PP表面に対する細胞吸着抑制性能は上記評価試験1における(1)の細胞濃度に対する、工程(4)において測定された細胞濃度割合を、○:67%〜100%、△:33%〜67%、×:0%〜33%と評価し、
PS表面に対する細胞吸着性能は、洗浄液送液前に対する洗浄液送液後の細胞数の割合は○:67%〜100%、△:33%〜67%、×:0%〜33%、と評価した。
1 流路
2 流入口
3 流出口
4 リザーバー
5 マイクロチャンバー
10 細胞回収デバイス
11 流路基板
12 流路形成部材
12a 枠部材
12b 天板部材
20 試薬収容器
CL 細胞懸濁液
100 細胞検出装置
110 送液系機構
111 チップ
120 光学系機構
160 細胞回収デバイスホルダー
170 試薬収容器ホルダー
190 制御手段
200 細胞観察システム

Claims (7)

  1. 下記(a)〜(c)の条件を満たす、細胞懸濁液に含まれる細胞の固定化処理を行う工程(細胞固定化処理工程)、細胞懸濁液からタンパク質を除去することで細胞懸濁液に含まれるタンパク質の濃度を0.001w/v%未満とする工程(タンパク質除去工程)、およびタンパク質除去工程を経た細胞懸濁液に含まれる細胞を細胞展開用基板上に展開して吸着させて回収する工程(細胞展開工程)を含む細胞展開方法:
    (a)細胞固定化処理工程において、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒドおよびグルタルアルデヒドからなる群から選択される固定化剤を使用する;
    (b)少なくともタンパク質除去工程および/または細胞展開工程において、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリメタクリル酸メチルまたはシクロオレフィンポリマーから選ばれる材質のピペットチップおよび/またはマイクロチューブを用いる;
    (c)細胞展開工程においてポリスチレン製の細胞展開用基板を用いる。
  2. 前記タンパク質除去工程を前記細胞固定化処理工程の後に行う請求項1に記載の細胞展開方法。
  3. 前記(b)の少なくともタンパク質除去工程および/または細胞展開工程において、ポリプロピレン製のピペットチップおよび/またはマイクロチューブを用いる、請求項1または2に記載の細胞展開方法。
  4. 前記(c)の細胞展開工程において、チャンバーを有する細胞展開用デバイスを用いる、請求項1〜の何れか一項に記載の細胞展開方法。
  5. (i)グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒドおよびグルタルアルデヒドからなる群から選択される少なくとも一種からなる、細胞の固定化処理に用いられる固定化剤
    (ii)ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリメタクリル酸メチルまたはシクロオレフィンポリマーから選ばれる材質のピペットチップおよび/またはマイクロチューブ、ならびに
    (iii)ポリスチレン製であり、前記固定化剤により前記固定化処理が施された細胞を展開するための細胞展開用基板
    を含む、請求項1〜4の何れか一項に記載の細胞展開方法を行うための細胞展開用キット。
  6. 前記(ii)として、ポリプロピレン製のピペットチップおよび/またはマイクロチューブを含む、請求項に記載の細胞展開用キット。
  7. 前記(iii)として、チャンバーを有する細胞展開用デバイスを含む、請求項5または6に記載の細胞展開用キット。
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