JP6524252B2 - 光・温度感受性不稔系を創製する方法および植物育種におけるその使用 - Google Patents

光・温度感受性不稔系を創製する方法および植物育種におけるその使用 Download PDF

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Description

本発明は、農業および生物技術の分野に関し、特に、光・温度感受性不稔系を創製する方法および植物育種におけるその使用に関する。
農業生産において、従来の除雄の手段では手間と時間がかかるため、雄性不稔系は雑種種子生産、農業生産量の向上において大きな優位がある。雄性不稔は、通常、細胞質雄性不稔(CMS)と遺伝子雄性不稔(GMS)に分かれる。三系交雑系の構築は細胞質雄性不稔に基づくものである。しかしながら、三系交雑系の実践における幅広い応用は幾つかの欠点によって阻まれる。まず、細胞質雄性不稔株は一般的に質が劣るという問題が存在する。次に、三系交雑のイネを組み合わせて生産量を向上させる可能性が低くなってきた。また、WA型の雄性不稔の細胞質が単一であるため、細胞質の不稔の喪失または壊滅的な病虫害が起こると、莫大な損失になる。遺伝子雄性不稔における光・温度感受性条件による雄性不稔の発見に伴い、二系法による交雑イネができた。三系交雑系に対し、光・温度感受性不稔系は不稔系と維持系の二つの状態を兼ね持つ。三系法と比較すると、二系法は回復-維持の関係に制限されず、遺伝子不稔で多くの通常の品種と交雑することが可能で、組み合わせが自由であるため、優れた形質の雑種強勢を得ることがより容易で、根本的に三系における雄性不稔の細胞質の単一化の問題を解決する。近年、二系交雑イネの中国の農業生産における応用は幅広くなってきた。
1973年に石明松はすでに中国の湖北省で晩生ジャポニカ品種(Oryza sativa ssp. japonica)の農墾58から光・温度感受性不稔系を選別して一系両用のイネ雑種強勢の利用の新規な方向を提出した。その後、農墾58S(NK58S)を雄性株とし、インディカ米と交雑して得られた培矮64S(PA64S)も二系交雑において幅広く応用された。しかし、培矮64Sの稔性は温度の変化により敏感である。イネにおいて、光・温度感受性不稔系は単一劣性遺伝子座に制御されない。最近の研究では、農墾58Sと培矮64Sの稔性形質は同一の遺伝子座によって制御され、温度と光照射のいずれもこの部位に影響を与えることが示され、これらの発見は光・温度感受性の稔性転換の分子機序に対する理解をより困難にさせた。
今まで、イネにおいて、pms1、pms2、pms3、rpms1、rpms2、tms1、tms2、tms3、tms4、tms5、tms6、rtms1およびMs-hと、合計13個の光・温度感受性不稔系が発見され、それぞれ7、3、12、8、9、8、7、6、2、2、5、10および9番目の染色体に局在する。光・温度感受性不稔は、トマト、トウモロコシおよびコムギでも報告された。最近の研究で、突然変異のスモールRNA(small RNA)であるosa-smR5864mはpms2 およびp/tms2-1 (農墾58Sおよび培矮64S)変異体の不稔表現型をもたらしたことが見出された。しかしながら、光・温度感受性不稔の分子機序はまだ不明で、二系育種における実際の問題の解決に有効な理論の支持および技術手段が欠けている。
シロイヌナズナは、小さいゲノム、速い成長周期および大量の変異体ライブラリーなどの比類のない利点により、植物生物学の研究の分野においてモデル植物になっている。 また、シロイヌナズナは、温度、光照射などの条件が厳格に制御された狭い空間で培養することができる。従来の研究で、いくつかのシロイヌナズナの条件的不稔変異体、たとえばPEAMT遺伝子変異体t365やGA/IAA生物合成が阻害されるms33変異体などが見出され、いずれも温度感受性不稔の表現型が示された。
しかしながら、現在、本分野では植物育種の過程に使用される調整方法が簡単な植物不稔系が欠けているため、調整方法が簡単な植物不稔系の育成技術が切望されている。
本発明の目的は、植物の光・温度感受性不稔系を育成する方法を提供することで、当該方法は花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの発現または活性を低下させることによって光・温度感受性の植物材料を創製することを含むことで、現在の遺伝性不稔の光・温度感受性の遺伝子座が少なく、育種の純度が低いという問題を解決する。
本発明の第一では、植物の不稔系を育成する方法であって、前記植物株における花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの発現または活性を低下させる工程を含む方法を提供する。
もう一つの好適な例において、前記のGDSLエステラーゼは前記植物の花粉の発育過程における脂質代謝に関与するものである。
もう一つの好適な例において、前記のGDSLエステラーゼはトリグリセリドを加水分解してグリセリンと脂肪酸にするものである。
もう一つの好適な例において、前記の「低下」とは前記植物株の花粉の発育過程におけるGDSLエステラーゼの発現活性を以下の条件を満足するように低下させることで、
A1/A0の比は≦80%、好ましくは≦60%、より好ましくは≦40%、最も好ましくは0〜30%で、
ここで、A1は前記植物株における花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの酵素活性で、A0は野生型の同種の植物株における同一のGDSLエステラーゼの酵素活性である。
もう一つの好適な例において、前記GDSLエステラーゼはTMF1またはその相同性蛋白質である。
もう一つの好適な例において、前記TMF1の野生型のアミノ酸配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6からなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記GDSLエステラーゼは植物の花序および葯からなる群から選ばれる細胞、組織または器官で特異的に発現するものである。
もう一つの好適な例において、前記細胞または組織は、タペート層、小胞子母細胞、またはこれらの組み合わせを含む。
もう一つの好適な例において、前記GDSLエステラーゼは葯発育期で特異的に発現するものである。
もう一つの好適な例において、前記の葯発育期は、前葯形成段階(-3日〜0日)、葯形成段階、後葯形成段階(葯形成後1〜5日)を含む。
もう一つの好適な例において、前記GDSLエステラーゼは葯発育の第6ステージで特異的に発現するものである。
もう一つの好適な例において、前記GDSLエステラーゼは花粉の減数分裂期で発現のピークに達する。
もう一つの好適な例において、前記植物株における花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの活性を低下させる方法は、GDSLエステラーゼをコードする遺伝子の発現レベルを低下させる方法、および/またはGDSLエステラーゼの活性を低下させる方法を含む。
もう一つの好適な例において、前記の低下とは、野生型GDSLエステラーゼの発現レベルE0と比べ、前記植物株における花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの発現レベルE1が野生型の0〜80%、好ましくは0〜60%、より好ましくは0〜40%であることか、かつ/または野生型GDSLエステラーゼの酵素活性A0と比べ、前記植物株における花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの酵素活性A1が野生型の0〜80%、好ましくは0〜60%、より好ましくは0〜40%であることをいう。
もう一つの好適な例において、前記の植物株におけるGDSLエステラーゼの活性を低下させることは、遺伝子突然変異、遺伝子ノックアウト、遺伝子破壊、RNA干渉技術、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる方法によって実現する。
もう一つの好適な例において、前記GDSLエステラーゼをコードする遺伝子はTMF1遺伝子である。
もう一つの好適な例において、前記TMF1遺伝子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5または配列番号6で示されるアミノ酸配列をコードするものである。
もう一つの好適な例において、前記方法は、前記植物株におけるTMF1遺伝子の発現レベルを低下させること、TMF1遺伝子を欠失させることおよび/またはTMF1遺伝子を突然変異させることによって植物株におけるGDSLエステラーゼの発現または活性を低下させる工程を含む。
もう一つの好適な例において、前記の植物は、農作物、林業植物、花卉を、好ましくはイネ科、マメ科およびアブラナ科の植物を、より好ましくはイネ、トウモロコシ、モロコシ、コムギ、ダイズまたはシロイヌナズナを含む。
もう一つの好適な例において、前記の植物は、アブラナ科(Brassicaceae)の植物、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)の植物、シロイヌナズナ(A. thaliana)から選ばれる。
本発明の第二では、植物の不稔系の育成、あるいは植物の不稔系を育成する試薬またはキットの製造に使用される、花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼまたはそのコード遺伝子の使用を提供する。
もう一つの好適な例において、前記のコードする遺伝子はTMF1遺伝子である。
もう一つの好適な例において、前記TMF1遺伝子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5または配列番号6で示されるアミノ酸配列をコードするものである。
本発明の第三では、植物を不稔性から稔性に転換させる方法であって、花粉の細胞膜の合成速度を低下させる工程、および/または花粉の発育速度を遅延させる工程を含む方法を提供する。
もう一つの好適な例において、前記の植物は花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの発現または活性レベルが低下した植物である。
もう一つの好適な例において、前記植物は本発明の第一に係る方法で育成された植物の不稔系である。
もう一つの好適な例において、前記方法は、花粉の細胞膜の合成速度を低下させることによって、花粉の発育を遅延させることを含む。
もう一つの好適な例において、前記方法は、植物株の代謝レベルを低下させることによって、花粉の細胞膜の合成速度を低下させることを含む。
もう一つの好適な例において、前記低下または遅延は、植物株の成長の環境温度を低下させること、植物株の光照射時間を減少させること、またはこれらの組み合わせによって実現される。
もう一つの好適な例において、植物株の成長の環境温度を低下させるというのは、環境温度(平均温度)を17〜22℃、好ましくは17〜20℃、たとえば17℃、18℃、19℃または20℃に制御することである。
もう一つの好適な例において、植物株の成長の環境温度を低下させる時期は、葯形成段階、花粉成熟段階および開花授粉段階、またはその前後の2週間を含む。
もう一つの好適な例において、植物株の抽薹または出穂の時から植物株の成長温度を低下させ、低温で3〜10日栽培した後、正常の温度に戻して栽培する。
本発明の第四では、植物株の不稔を維持する工程と、植物株を不稔性から稔性に転換させる工程と、植物株の稔性を維持して育種する工程とを含み、
前記植物株の不稔を維持する工程において、本発明の第一に係る方法で育成された植物の不稔系を維持することを含み、
植物株を不稔性から稔性に転換させる工程において、本発明の第三に係る方法で植物株を不稔性から稔性に転換させることを含む、
植物の育種方法を提供する。
本発明の第五では、発育してなった植物株における花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの発現または活性が低下した植物細胞を提供する。
もう一つの好適な例において、前記GDSLエステラーゼはTMF1である。
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(例えば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
図1は低温は雄性不稔tmf1変異体の稔性を回復させることができることを示す。a. Ler株の正常稔性表現型。b. 正常の条件における、tmf1変異体の種子を含まない短小な鞘。c. 低温の条件において、tmf1変異体の植物株は完全に稔性に回復した。d-f.野生型、tmf1(24℃)およびtmf1(17℃)の鞘の種子を比較した。野生型(d)およびtmf1(17℃)(f)は稔性の鞘を多く有したが、tmf1(24℃)(e)の短小な鞘に種子が含まれなかった。g-i. 野生型およびtmf1変異体の葯のアレキサンダー染色。野生型(g)およびtmf1(17℃)(i)の葯には紫色で活力のある花粉が満ちていたが、tmf1(24℃)の葯(f)には緑色の残留しかなくて花粉の退化が示された。Bar =100um。j. 17℃で異なる持続時間の処理においてtmf1変異株は稔性の鞘の数が回復した。k.異なる温度の処理においてtmf1変異株は稔性表現型が変化し、24℃では鞘が短小で不稔性で、17℃で処理した場合、鞘の稔性が回復し、変異体をまた24℃に置いたら再び不稔性表現型を示した。l. 異なる植物の成長段階における低温処理は、生殖器官が現れた時だけ変異体の稔性が低温で回復することができることを示した。 図2はtmf1変異体の稔性が回復する臨界温度および回復時間を示す。a. tmf1の稔性が回復する臨界温度および異なる温度におけるtmf1の稔性回復率。b. 低温処理後のtmf1の稔性が回復する時間。
図3は回復変異体の花粉発育段階の半薄切片分析を示す。野生型(a)とおよびtmf1(24℃)(b)およびtmf1(17℃)(c)の葯の半薄切片。第7ステージの葯において、野生型とtmf1(24℃または17℃)変異体の葯に違いが観察されなかった。第8ステージにおいて、野生型とtmf1(24℃または17℃)変異体の葯室で、小胞子が四分子体から放出された。第9ステージにおいて、tmf1(24℃)では、一部の小胞子の分解が始まったが、tmf1(17℃)における小胞子は野生型と一致していた。第10ステージにおいて、大半のtmf1(24℃)の小胞子の細胞質が収縮して分解した。しかしながら、tmf1(17℃)では回復した小胞子の大半は正常であった。第11ステージにおいて、大半のtmf1(24℃)の小胞子は葯室で分解したが、tmf1(17℃)では、ほんの一部の退化した小胞子を除いて、花粉粒が現れた。第12ステージにおいて、tmf1(17℃)では成熟した花粉粒が現れたが、tmf1(24℃)では葯室の内壁に付着している分解した細胞の残留しかなかった。E:表皮層、En:葯室内壁、ML:中間層、Msp:小胞子、PG:花粉粒、RM:残留、T:タペート層、Tds:四分子体。 Bar=20 um。
図4は回復変異体の花粉発育段階の走査電子顕微鏡分析を示す。野生型とtmf1(24℃または17℃)変異体の花粉発育の走査電子顕微鏡観察。野生型と回復株tmf1(17℃)の成熟した葯に正常の花粉が多く含まれ、外壁の構造が正常であった。一方、tmf1(24℃)変異体では、花粉がなかった。 図5は回復変異体の花粉発育段階の透過型電子顕微鏡分析を示す。野生型(a)およびtmf1(24℃)(b)とtmf1(17℃)(c)の花粉発育の超微細構造。第7ステージにおいて、野生型とtmf1(24℃または17℃)変異体の四分子体の発育は正常であった。変異体における初期外壁の沈着は野生型と一致した。第8ステージにおいて、野生型とtmf1(17℃)では放出された小胞子は外壁の外層が形成したが、tmf1(24℃)では小胞子は僅かに分解が始まった。第9ステージ(すなわち空胞期)において、tmf1(24℃)では、小胞子は破壊して細胞質の漏洩が伴ったが、正常の外壁の様態を持っていた。それに対し、tmf1(17℃)の小胞子はこの欠陥を克服した。第12ステージにおいて、tmf1(17℃)の成熟した花粉粒は内壁と外壁を持っていた。Ba:柱状構造、I:内壁、Msp:小胞子、Ne:外壁内層、PC:花粉カバー、PG:花粉粒、RM:残留、Tc:テクタム構造。Bars=5um。
図6はTMF1が膜局在性のGDSLドメインを有するエステラーゼをコードすることを示す。a. tmf1変異体の精確な局在区間。b. tmf1遺伝子の構造情報および変異体の突然変異部位。c. tmf1タンパク質の突然変異部位および保存ドメイン(配列番号1)。 図7はTMF1のタペート層および小胞子母細胞における効率的な発現を示す。a. tmf1は葯のタペート層および小胞子母細胞で効率的に発現された。Rt:根、St:茎、Lf:葉、Inf:花序、Sl:幼苗、SP:胞子形成細胞、MMC:小胞子母細胞、T:タペート層、MC:減数分裂細胞、Tds:四分子体、PG:花粉粒。b. 細胞内局在解析では、当該タンパク質が細胞膜に局在することが示された。 図8はTMF1タンパク質がエステラーゼの活性を有することを示す。a. 原核発現の野生型TMF1および変異体TMF1(T90I)のタンパク質。b. p-NPBを基質とし、上記二つの精製タンパク質の酵素活性を測定した。c. GC/MS技術によって、トリグリセリドを基質とし、TMF1のエステラーゼ/加水分解酵素の活性を同定した。28分のピークの産物はヘキサデカン脂肪酸であった。
図9はTMF1の発現が温度によって誘導されないことを示す。a. 野生型(24℃/17℃)とtmf1変異体(24℃/17℃)の花序RNAにおけるTMF1の定量RT-PCR。b. 野生型(24℃/17℃)とtmf1変異体(24℃/17℃)におけるTMF1のウェスタンブロット実験。c. p-NPBを基質とし、TMF1およびTMF1(T90I)の精製タンパク質の異なる温度における酵素活性を測定した。 図10はTMF1および共発現の遺伝子が稔性回復の過程に関与しないことを示す。a. 野生型(24℃/17℃)とtmf1変異体(24℃/17℃)における8つのTMF1の共発現の相同遺伝子の定量RT-PCR。b. tmf1 at1g52570およびtmf1 at3g55190の二重突然変異分析。c. p-NPBを基質とする、野生型(24℃/17℃)とtmf1変異体(24℃/17℃)における花序から単離された全植物タンパク質の酵素活性実験。 図11は低温によって花粉膨張期の成長速度が遅延されたことを示す。a. 花粉の発育は4つの時期(小胞子放出期、1核細胞期、2核細胞期および3核細胞期)に分かれる。左の図面は異なる時期の花芽の大きさを示す。異なる時期における小胞子の発育の大きさは右上の図面にある。これらの小胞子のDAPI染色でその発育段階が示され、右下の図面で示す。b. 異なる発育の時期における野生型小胞子の大きさの統計的解析。c. 異なる外部温度における野生型小胞子の平均成長速度。
図12は光周期の短縮によって花粉膨張期の成長速度が同様に遅延されたことを示す。a. tmf1変異体株は光周期の調整によって稔性を回復させることができる(左の図面)。光培養16時間/暗培養8時間の条件において、アレキサンダー染色でtmf1変異体に緑色の退化花粉しかなかったことが示された(右下)。一方、光培養8時間/暗培養16時間の条件において、紫色の活力のある花粉が現れた(右上)。b. 異なる光周期条件におけるtmf1変異体株の稔性回復率。c. 光照射周期と温度を合わせた稔性転換の統計データ。 図13は異なる種におけるtmf1遺伝子のタンパク質配列の類似性および進化解析を示す。a. タンパク質配列アラインメントでは、TMF1のオーソロガス遺伝子のアミノ酸配列は非常に保存的で、大体60%以上であることが示された。b. 進化解析では、異なる種におけるオーソロガス遺伝子は双子葉植物と単子葉植物で明らかな分岐があり、共通の起源を有することが示された。 図14は野生型イネTMF1-MBP組換えタンパク質の発現および活性を示す。a. イネTMF1-MBP組換えタンパク質の電気泳動の検出結果。b. 組換えタンパク質の活性の検出結果。
具体的な実施形態
本発明者は、幅広く深く研究したところ、初めて意外に、ある特定の植物不稔系に対し、花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの発現または活性を調節することによって、前記植物株の稔性を調節し、不稔性と稔性の間の制御可能な転換を実現させることができることを見出した。また、本発明者は相応の植物の不稔系の育成などのいくつかの農業育種などで幅広い応用価値がある技術を開発した。これに基づき、本発明を完成させた。
実験において、出願者はシロイヌナズナのTMF1遺伝子(THERMOSENSITIVE MALE FERTILITY 1)がGDSLのエステラーゼをコードし、かつ花粉の発育における脂質代謝の過程に関与し、当該遺伝子の欠失によって変異体が正常の成長条件において(24℃、16時間光照射/8時間暗黒)完全に不稔性の表現型を示すことを見出した。また、低温および短い光照射によって花粉の成長速度および脂質代謝の過程が遅延し、変異体が当該遺伝子の欠失による脂質代謝の欠陥を克服するようになり、花粉が無事に快速膨張期を経過することを見出した。
GDSLエステラーゼおよびそのコード配列
GDSLエステラーゼは、異なる種に存在するスーパーファミリーのタンパク質で、脂質化合物の加水分解および合成において重要な役割を果たす(Akohら, 2004; Brickら, 1995)。植物において、現在、一部のエステラーゼの機能は、ストレス抵抗性、形態発育に関連すると報告された(Cameraら 2005; Ohら 2005)。たとえば、トマトの種子発芽およびカーネーションの花弁の老化のいずれにもエステラーゼの遺伝子の発現がある(Matsuiら 2004; Hongら 2000)。現在、花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼはまだ報告されていない。
本発明に適用する花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼは特に限定されず、任意の植物品種由来のものでもよく、代表的な植物は以下のものを含むが、これらに限定されない。
イネ(遺伝子番号:OS02G0290900、シロイヌナズナのオーソロガスTMF1タンパク質の相同性59%)、トウモロコシ(遺伝子番号:GRMZM2G166330、シロイヌナズナのオーソロガスTMF1タンパク質の相同性59%)、モロコシ(遺伝子番号:Sb04g011320、シロイヌナズナのオーソロガスTMF1タンパク質の相同性58%)、コムギ(遺伝子番号:Traes_1BL_8D2A7532F、シロイヌナズナのオーソロガスTMF1タンパク質の相同性58%)、ダイズ(遺伝子番号:GLYMA01G43590、シロイヌナズナのオーソロガスTMF1タンパク質の相同性71%)。
図13において、Osはイネで、Atはシロイヌナズナで、Sbはモロコシで、Taはコムギで、Zmはトウモロコシで、Gmはダイズである。図13の異なる種におけるTMF1遺伝子のタンパク質配列の類似性および進化解析から、当該遺伝子は異なる種における保存性が強く、シロイヌナズナでは当該遺伝子の突然変異によって不稔性の形質が現れるため、当該遺伝子に対して分子遺伝学的操作を行うことによってほかの種の不稔系を育成することができることがわかる。
シロイヌナズナのTMF1のタンパク質配列:
1 MSIKLLVLVF SLLIIFTRPK LIADHHLTTR ISPIYPSIST FQPSIPPFLP
51 PSPSRRAQSP TVKPSLPFVP ALFVFGDSSV DSGTNNFLGT LARADRLPYG
101 RDFDTHQPTG RFCNGRIPVD YLGLPFVPSY LGQTGTVEDM FQGVNYASAG
151 AGIILSSGSE LGQRVSFAMQ VEQFVDTFQQ MILSIGEKAS ERLVSNSVFY
201 ISIGVNDYIH FYIRNISNVQ NLYTPWNFNQ FLASNMRQEL KTLYNVKVRR
251 MVVMGLPPIG CAPYYMWKYR SQNGECAEEV NSMIMESNFV MRYTVDKLNR
301 ELPGASIIYC DVFQSAMDIL RNHQHYGFNE TTDACCGLGR YKGWLPCISP
351 EMACSDASGH LWWDQFHPTD AVNAILADNV WNGRHVDMCY PTNLETMLHS
(配列番号1)
シロイヌナズナのTMF1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号7で示されるものである。
イネのTMF1のタンパク質配列:
1 MALPFLLLLA FALLFPLSAP PRCCSAAPAS SPPPSPPPSP AAAAAAPRRT
51 PLVPALFVIG DSTADVGTNN YLGTLARADR EPYGRDFDTR RPTGRFSNGR
101 IPVDYIAEKL GLPFVPPYLE QNMRMGVGSV DLSNIDGMIQ GVNYASAAAG
151 ILSSSGSELG MHVSLSQQVQ QVEDTYEQLS LALGEAATTD LFRKSVFFFS
201 IGSNDFIHYY LRNVSGVQMR YLPWEFNQLL VNAMRQEIKN LYNINVRKVV
251 MMGLPPVGCA PHFLWEYGSQ DGECIDYINN VVIQFNYALR YMSSEFIRQH
301 PGSMISYCDT FEGSVDILKN RDRYGFLTTT DACCGLGKYG GLFMCVLPQM
351 ACSDASSHVW WDEFHPTDAV NRILADNVWS GEHTKMCYPV DLQQMVKLK
(配列番号2)
イネのTMF1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号8で示されるものである。
モロコシのTMF1のタンパク質配列:
1 MAVAPLLTLL LLLFLSGSGP RRCSAAATAN STSSPSPPPR PAPLVPALFV
51 IGDSTADVGT NNYLGTLARA DREPYGRDFD THRPTGRFSN GRIPVDYIAE
101 RLGLPFVPPY LEQNMRTGAA DVGLTSIDGM IQGVNYASAA AGIISSSGSE
151 LGMHVSLTQQ VQQVEDTYEQ LSLALGEAAV ANLFRRSVFF VSIGSNDFIH
201 YYLRNVSGVQ MRYLPWEFNQ LLVSTMRQEI KNLYDINVRK VILMGLPPVG
251 CAPHFLEEYG SQTGECIDYI NNVVIEFNYA LRHMSSEFIS QHPDSMISYC
301 DTFEGSVDIL NNREHYGFVT TTDACCGLGK YGGLIMCVLP QMACSDASSH
351 VWWDEFHPTE AVNRILADNV WSSQHTKMCY PLDLQQMVKL KL
(配列番号3)
モロコシのTMF1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号9で示されるものである。
コムギのTMF1のタンパク質配列:
1 MAPSLAHLVC LLLLLLLLLS ALPLSAAAST PRSAPPSAPP TPLVPALFVI
51 GDSTSDVGTN NYLGTLARAD REPYGRDFDT HRPTGRFSNG RIPVDYLAEK
101 LGLPFVPPYL EQSMRMGGGG VGLSNIGGMI QGVNYASAAA GILSSSGSEL
151 GMHVSLTQQV QQVEDTYEQL ALALGEAATV DLFRRSVFFV SIGSNDFIHY
201 YLRNVSGVQM HYLPWEFNQL LVNAVRQEIK NLYNINVRKV VLMGLPPVGC
251 APHFLSDYGS QNGECIDYIN NVVIEFNYGL RHMSSEFIRQ YPDSMISYCD
300 TFEGSVDILE NRDRYGFLTT TDACCGLGKY GGLFICVLPQ MACSDASSHV
351 WWDEFHPTDA VNRILAENVW SGEHTRMCYP VNLQEMVKLKQ
(配列番号4)
コムギのTMF1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号10で示されるものである。
ダイズのTMF1のタンパク質配列:
1 MMSVRVIVYL LSTVLVVSST FVESRALLQF QDPSPPSTAP SSSPVPLAPA
51 LFVIGDSSVD CGTNNFLGTF ARADHLPYGK DFDTHQPTGR FSNGRIPVDY
101 LALRLGLPFV PSYLGQTGAV EDMIQGVNYA SAGAGIILSS GSELGQHISL
151 TQQIQQFTDT LQQFILNMGE DAATNHISNS VFYISIGIND YIHYYLLNVS
201 NVDNLYLPWH FNHFLASSLK QEIKNLYNLN VRKVVITGLA PIGCAPHYLW
251 QYGSGNGECV EQINDMAVEF NFLTRYMVEN LAEELPGANI IFCDVLEGSM
301 DILKNHERYG FNVTSDACCG LGKYKGWIMC LSPEMACSNA SNHIWWDQFH
351 PTDAVNAILA DNIWNGRHTK MCYPMNLEDM VNRMAR
(配列番号5)
ダイズのTMF1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号11で示されるものである。
トウモロコシのTMF1のタンパク質配列:
1 MAVAPLFALL VLFLSGPRRC AAAAAAAAAA ASPSSPSPSP RPAPLVPALF
51 VIGDSTADVG TNNYLGTLAR ADREPYGRDF DTHHPTGRFS NGRIPVDYIA
101 ERLGLPFVPP YLEQSMRTGA GGVGLTNIDG MIQGVNYASA AAGIISSSGS
151 ELGMHVSLTQ QVQQVEDTYE QLSLALGEAA AGNLFRRSVF FVSIGSNDFI
201 HYYLRNVSGV QMRYLPWEFN QLLVSTMRQE IKNLYDINVR KVILMGLPPV
251 GCAPHFLEEY GSQTGECIDY INNVVIEFNY ALRHMSREFI SQHPDSMISY
301 CDTFEGSVDI LNNREHYGFV TTTDACCGLG KYGGLIMCVL PQMACSDASS
351 HVWWDEFHPT DAVNRILADN VWSSQHTKMC YPLDLQQMVK LKL
(配列番号6)
トウモロコシのTMF1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号12で示されるものである。
一つの面では、本発明は、植物の不稔系を育成する方法であって、前記植物株における花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの発現または活性を低下させる工程を含む方法を提供する。
用語「GDSLエステラーゼ」、「GDSLポリペプチド」、「GDSLタンパク質」などとはGDSLタンパク質のアミノ酸配列(たとえば配列番号1〜6)を有するタンパク質またはポリペプチドをいい、入れ替えて使用することができる。特別に説明しない限り、用語「GDSLタンパク質」は野生型と突然変異型のGDSLタンパク質を含む。
本発明のGDSLエステラーゼは、配列番号1〜6で示されるアミノ酸の配列を含んでもよい。しかしながら、これらに限定されず、それは植物の種類または品種によって、当該タンパク質のアミノ酸配列が変わることがある。言い換えれば、そのアミノ酸配列は配列番号1〜6で示されるアミノ酸配列の一つまたは複数の位置に一つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加が含まれ、当該タンパク質の活性を弱化することによって植物の不稔系を育成することに有用なものであれば、突然変異型のタンパク質または人工変異体でもよい。ここの「複数」は、タンパク質におけるアミノ酸残基の立体構造の位置またはタイプにもよるが、とりわけ2〜20、特に2〜10、さらに2〜5を示す。また、植物の個体または種類によって、アミノ酸の置換、欠失、挿入、付加または逆位は人工変異体または天然の突然変異によるものを含む。
1) 当該タンパク質をコードするポリヌクレオチドの一部または全部を欠失させる方法、2) 発現調節配列を修飾することによって当該ポリヌクレオチドの発現を低下させる方法、3) 染色体における配列を修飾する方法、あるいは4) これらの組み合わせによって本発明のGDSLエステラーゼの活性を低下(弱化)させることができる。
上記では、染色体に遺伝子を挿入するベクターを利用し、内在性標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを遺伝子が標識されたものまたは一部のヌクレオチド配列が欠失したものに変えることによって、タンパク質をコードするポリヌクレオチドの一部または全部を欠失させることができる。「一部」欠失の長さはポリヌクレオチドの種類にもよるが、とりわけ2 bp〜300 bp、さらに2 bp〜100 bp、さらに1 bp〜5 bpである。
また、ヌクレオチド配列の欠失、挿入、保存的もしくは非保存的置換またはこれらの組み合わせで発現調節配列に突然変異を誘導することによって、発現調節配列の活性をさらに弱化させる方法、あるいは発現調節配列をより活性の低いものに変える方法によって、発現調節配列を修飾してポリヌクレオチドの発現を低下させることができる。発現調節配列は、プロモーターをコードする配列、オペロン配列、リボソーム結合部位および転写と翻訳の終止を制御する配列を含む。
また、ヌクレオチド配列の欠失、挿入、保存的もしくは非保存的置換またはこれらの組み合わせで配列に突然変異を誘導することによって、当該配列の活性をさらに弱化させる方法、あるいはポリヌクレオチド配列を修飾されたものに変えることによって、より弱いタンパク質活性を得る方法によって、染色体におけるポリヌクレオチド配列を修飾してタンパク質の活性を弱化させることができる。
ここで用いられるように、「単離された」とは、物質がその本来の環境から単離されたこと(天然の物質の場合、本来の環境は天然の環境である)をいう。たとえば、活細胞内の天然の状態におけるポリヌクレオチドとポリペプチドは単離・精製されていないが、同様のポリヌクレオチドまたはポリペプチドが天然の状態から存在するほかの物質とわかれると、単離・精製されたものになる。
ここで用いられるように、「単離されたGDSLタンパク質またはポリペプチド」とは、GDSLタンパク質に実質的に自然でそれに関連するほかのタンパク質、脂質、糖類またはほかの物質が含まれないことである。当業者は標準のタンパク質精製技術によってイネなどの植物におけるGDSLタンパク質を精製することができる。実質的に純粋なポリペプチドは、非還元ポリアクリルアミドゲルでは単一のメインバンドが現れる。
本発明のポリペプチドは、組み換えポリペプチド、天然ポリペプチド、合成ポリペプチドでもよいが、組み換えポリペプチドが好ましい。本発明のポリペプチドは、天然精製の産物、あるいは化学合成の産物、あるいは組換え技術で原核または真核宿主(例えば、細菌、酵母、高等植物、昆虫や哺乳動物細胞)から生成するものでもよい。組み換え生産プロセスで用いられる宿主によって、本発明のポリペプチドは、グリコシル化されたものでもよく、又はグリコシル化されていないものでもよい。また、本発明のポリペプチドは、開始のメチオニン残基を含有してもよく、含有しなくてもよい。
本発明は、さらに、GDSLタンパク質の断片、誘導体および類似物を含む。ここで用いられるように、用語の「断片」、「誘導体」および「類似物」は、基本的に本発明の天然GDSLタンパク質と同じ生物学的機能または活性を維持するポリペプチドをいう。
本発明のポリペプチドの断片、誘導体または類似物は、
(i)一つまたは複数の保存的または非保存的なアミノ酸残基(好ましくは保存的なアミノ酸残基)が置換されたポリペプチドでもよく、このような置換されたアミノ酸残基が遺伝コードでコードされてもされていなくてもよく、
(ii)一つまたは複数のアミノ酸残基に置換基があるポリペプチドでもよく、
(iii)成熟のポリペプチドともう一つの化合物(たとえば、ポリエチレングリコールのようなポリペプチドの半減期を延ばす化合物)と融合したポリペプチドでもよく、
(iv)付加のアミノ酸配列がこのポリペプチドに融合したポリペプチド(たとえばリーダー配列または分泌配列またはこのポリペプチドを精製するための配列またはタンパク質前駆体配列、あるいは融合タンパク質)でもよい。
本明細書の開示に基づき、これらの断片、誘導体および類似物は当業者に公知の範囲に入っている。
本発明の好適な実施形態において、「GDSLタンパク質」または「GDSLポリペプチド」の配列は、配列番号1〜6で示されるものである。この用語は、さらに、GDSLタンパク質と同じ機能を有する、配列番号1〜6の配列の変異の様態を含む。これらの変異の様態は、一つまたは複数(通常は1〜50個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、最も好ましくは1〜10個)のアミノ酸の欠失、挿入および/または置換、ならびにC末端および/またはN末端への一つまたは複数(通常は20個以内、好ましくは10個以内、より好ましくは5個以内)のアミノ酸の付加を含むが、これらに限定されない。たとえば、本分野において、機能が近い、または類似のアミノ酸で置換する場合、通常、蛋白質の機能を変えることがない。また、C末端および/またはN末端への一つまたは複数のアミノ酸の付加も、通常、蛋白質の機能を変えることはない。この用語は、さらに、GDSLタンパク質またはポリペプチドの活性断片と活性誘導体を含む。
当該ポリペプチドの変異の様態は、相同配列、保存的変異体、対立遺伝子変異体、天然突然変異体、誘導突然変異体、高いまたは低い厳格さの条件においてGDSLタンパク質とDNA交雑が可能なDNAがコードするタンパク質を含む。本発明は、さらに、ほかのポリペプチド、たとえばGDSLタンパク質またはその断片の融合タンパク質を含む。ほとんど全長のポリペプチドのほか、本発明は、さらに、GDSLタンパク質の可溶性断片を含む。通常、当該断片はGDSLタンパク質配列の少なくとも約10個の連続のアミノ酸、通常少なくとも約30個の連続のアミノ酸、好ましくは少なくとも約50個の連続のアミノ酸、より好ましくは少なくとも約80個の連続のアミノ酸、最も好ましくは少なくとも約100個の連続のアミノ酸を有する。
修飾(通常は一次構造が変わらない)形態は、体内または体外のポリペプチドの化学的に誘導された形態、例えばアセチル化またはカルボキシ化を含む。修飾は、さらに、グリコシル化を含む。修飾形態は、さらにリン酸化アミノ酸残基(例えばリン酸チロシン、リン酸セリン、リン酸トレオニン)を有する配列を含む。さらに、修飾によって抗タンパク質加水分解性を向上させたポリペプチドまたは溶解性を改善したポリペプチドを含む。
本発明において、「GDSL保存的変異ポリペプチド」とは、配列番号1〜6で示されるアミノ酸配列と比較すると、10個以下、好ましくは8個以下、より好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下のアミノ酸が類似または近い性質を持つアミノ酸で置換されてなるポリペプチドをいう。これらの保存的変異ポリペプチドは、表1のようにアミノ酸の置換を行って生成することが好ましい。
本発明のポリヌクレオチドは、DNA形態でもRNA形態でもよい。DNA形態は、cDNA、ゲノムDNAまたは人工合成のDNAを含む。DNAは、一本鎖でも二本鎖でもよい。DNAは、コード鎖でも非コード鎖でもよい。成熟ポリペプチドをコードするコード領域の配列は、配列番号7〜12で示されるコード領域の配列と同様でもよく、あるいは縮重変異体でもよい。
ここで用いられるよに、「縮重変異体」とは本発明において配列番号1〜6を有するタンパク質をコードするが、配列番号7〜12で示されるコード領域の配列と違う核酸配列をいう。
配列番号1〜6の成熟ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、成熟ポリペプチドだけをコードするコード配列、成熟ポリペプチドのコード配列および様々な付加コード配列、成熟ポリペプチドのコード配列(および任意の付加コード配列)および非コード配列を含む。
一つの好適な実施形態において、前記のGDSLポリペプチドのコード配列は、(1) 配列番号1〜6に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列、(2) 配列番号7〜12で示されるポリヌクレオチド配列、(3) (1)または(2)に記載のポリヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれる。
用語「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」は、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドでもよく、さらに付加のコードおよび/または非コード配列を含むポリヌクレオチドでもよい。
本発明は、さらに、本発明と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはポリペプチドの断片、類似物および誘導体をコードする上記ポリヌクレオチドの変異体に関する。このポリヌクレオチドの変異体は、天然に発生した対立遺伝子変異体でも非天然に発生した変異体でもよい。これらのヌクレオチド変異体は、置換変異体、欠失変異体および挿入変異体を含む。本分野で知られているように、対立遺伝子変異体は、ポリヌクレオチドの代替形態で、1つまたは2つ以上のヌクレオチドの置換、欠失または挿入でもよいが、実質的にコードするポリペプチドの機能を変えることはない。
本発明は、さらに、上記の配列とハイブリダイズし、かつ2つの配列の間に少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドに関する。本発明は、特に、厳格な条件で本発明に係るポリヌクレオチドとハイブリダイズできるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「厳格な条件」とは、(1)低いイオン強度および高い温度、例えば0.2×SSC、0.1%SDS、60℃でのハイブリダイズおよび溶離、あるいは(2)ハイブリダイズ時変性剤、例えば42℃で50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ胎児血清/0.1% Ficollなどを入れること、あるいは(3)2つの配列の間の相同性が少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の時だけハイブリダイズすることである。そして、ハイブリダイズできるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドは、配列番号1〜で示される成熟ポリペプチドと同じ生物学的機能および活性を有する。
本発明は、さらに、上記の配列とハイブリダイズする核酸断片に関する。ここで用いられるように、「核酸断片」の長さは、少なくとも15個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも30個のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも50個のヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも100個のヌクレオチド以上を含む。核酸断片は、核酸の増幅技術(例えばPCR)に使用し、GDSLタンパク質をコードするポリヌクレオチドを同定および/または単離することができる。
本発明のGDSLタンパク質のヌクレオチド全長配列或いはの断片は、通常、PCR増幅法、組換え法又は人工合成の方法で得られる。PCR増幅法について、本発明で公開された関連のヌクレオチド配列、特に読み枠によってプライマーを設計し、市販のcDNAライブラリーまたは当業者に既知の通常の方法によって調製されるcDNAライブラリーを鋳型とし、増幅して関連配列を得る。配列が長い場合、通常、2回または2回以上のPCR増幅を行った後、各回の増幅で得られた断片を正確な順でつなげる必要がある。
関連の配列を獲得すれば、組換え法で大量に関連配列を獲得することができる。この場合、通常、その配列をベクターにクローンした後、細胞に導入し、さらに通常の方法で増殖させた宿主細胞から関連配列を単離して得る。また、特に断片の長さが短い場合、人工合成の方法で関連配列を合成してもよい。通常、まず多数の小さい断片を合成し、そして連接させることにより、配列の長い断片を得ることができる。現在、本発明のタンパク質(又はその断片、或いはその誘導体)をコードするDNA配列を全部化学合成で獲得することがすでに可能である。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(或いはベクターなど)や細胞に導入してもよい。また、化学合成で本発明のタンパク質配列に変異を導入することもできる。
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、および本発明のベクターまたはGDSLタンパク質コード配列で遺伝子工学によって生成する宿主細胞、ならびに組み換え技術によって本発明に係るポリペプチドを生成する方法にも関する。通常の組み換えDNA技術(Science,1984;224:1431)によって、本発明のポリヌクレオチド配列で組み換えのイネGDSLタンパク質を発現または生産することができる。一般的に、(1).本発明のGDSLタンパク質をコードするポリヌクレオチド(または変異体)を使用し、あるいは当該ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターを使用し、適切な宿主細胞を形質転換または形質導入する工程、(2).適切な培地において宿主細胞を培養する工程、(3).培地または細胞からタンパク質を単離・精製する工程がある。
本発明において、GDSLタンパク質のポリヌクレオチド配列は組換え発現ベクターに挿入してもよい。用語「組換え発現ベクター」とは、本分野でよく知られている細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物細胞ウイルスまたはほかのベクターである。つまり、宿主体内で安定して複製することができれば、どんなプラスミドおよびベクターでも使用できる。発現ベクターの重要な特徴の一つは、通常、複製起点、プロモーター、マーカー遺伝子および翻訳制御エレメントを含むことである。
GDSLタンパク質のコードDNA配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターの構築に当業者によく知られている方法を使用することができる。これらの方法は、体外組換えDNA技術、DNA合成技術、体内組換え技術などを含む。前記のDNA配列は、有効に発現ベクターにおける適切なプロモーターに連結し、mRNA合成を指導することができる。発現ベクターは、さらに、翻訳開始用リボゾーム結合部位および転写ターミネーターを含む。
また、発現ベクターは、好ましくは1つまたは2つ以上の選択性マーカー遺伝子を含み、形質転換された宿主細胞を選択するための形質、たとえば真核細胞培養用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性および緑色蛍光タンパク質(GFP)、あるいは大腸菌用のテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性を提供する。上記の適切なDNA配列及び適切なプロモーターまたは制御配列を含むベクターは、適切な宿主細胞を形質転換し、タンパク質を発現するようにすることができる。宿主細胞は、原核細胞、例えば細菌細胞、或いは、低等真核細胞、例えば酵母細胞、或いは、高等真核細胞、例えば植物細胞でもよい。代表例として、大腸菌、ストレプトマイセス属、アグロバクテリウム菌、酵母のような真菌細胞、植物細胞などがある。
本発明のポリヌクレオチドが高等真核細胞において発現される場合、ベクターにエンハンサー配列を挿入すると転写が強化される。エンハンサーは、DNAのシスエレメントで、通常、約10〜300bpで、プロモーターに作用して遺伝子の転写を強化する。
当業者は、どうやって適切なベクター、プロモーター、エンハンサーおよび宿主細胞を選択するか、よくわかる。DNA組換えによる宿主細胞の形質転換は当業者に熟知の通常の技術で行っても良い。宿主が原核細胞、例えば大腸菌である場合、DNAを吸収できるコンピテントセルは指数成長期後収集でき、CaCl2法で処理し、用いられる工程は本分野では周知のものである。もう一つの方法は、MgCl2を使用する。必要により、形質転換はエレクトロポレーションの方法でもよい。宿主が真核生物の場合、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションのような通常の機械方法、リポフェクションなどのDNAトランスフェクションの方法が用いられる。
植物の形質転換は、アグロバクテリウム菌による形質転換またはパーティクル・ガンによる形質転換などの方法、たとえばリーフディスク法を使用してもよい。形質転換された植物細胞、組織または器官は通常の方法によって植物株に再生させることによって、耐性が変わった植物を得ることができる。
得られる形質転換体は通常の方法で培養し、本発明の遺伝子がコードするポリペプチドを発現することが出来る。用いられる宿主細胞によって、培養に用いられる培地は通常の培地を選んでも良い。宿主細胞の成長に適する条件で培養する。宿主細胞が適当の細胞密度に成長したら、適切な方法(例えば温度転換もしくは化学誘導)で選んだプロモーターを誘導し、さらに細胞を培養する。
本発明のポリヌクレオチドの一部または全部はプローブとしてマイクロアレイ(microarray)またはDNAチップ(「遺伝子チップ」とも呼ばれる)に固定化し、組織における遺伝子の差次的発現解析に使用することができる。GDSLタンパク質に特異的なプライマーでRNA-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の体外増幅を行うことによってGDSLタンパク質の転写産物を検出することもできる。
花粉の発育
植物における異なる器官で特異的に発現するエステラーゼ遺伝子は、植物の発育においてエステラーゼは脂質代謝の調節で重要な役割を果たすことも示唆する(Brickら 1995、Huら, 2003)。加水分解酵素であるエステラーゼは、一つ、二つまたは三つのグリセリンを離脱させて脂肪酸とアルコール類を放出することを触媒することができる(AngkawidjajaおよびKanaya 2006)。酵素活性反応は、TMF1が機能性のエステラーゼ活性を有することで、脱エステル作用によって一つのエステル分子を加水分解することを示唆し、花粉の発育において、細胞膜の快速成長には、膜の合成のための遊離脂肪酸を含め、余分な原料の補充が多く必要であるため、小胞子の細胞膜の脂質代謝に関与し、細胞膜の合成に脂質分子の原料を提供することが推測される。
本発明の主な利点は以下の通りである。
(a)植物における花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの発現または活性を低下させることによって植物の不稔系を創製する方法を提供する。
(b)花粉の細胞膜の合成速度を低下させること、および/または花粉の発育速度を遅延させることによって、不稔性の植物株の形質を稔性に転換させる方法を提供する。
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、例えばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) または植物分子生物学・実験マニュアル(Plant Molecular Biology - A Laboratory Mannual, Melody S. Clark編, Springer-verlag Berlin Heidelberg,1997)に記載の条件などの通常の条件に、或いは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に説明しない限り、百分率および部は重量百分率および重量部である。
材料および方法
植物材料と栽培
本発明において、シロイヌナズナの材料はLersberg erecta背景のものである。EMS変異種の誘導と選別はZhangら 2007を参照する。4℃の条件において、0.1%アガロース培地で種子を72時間予備発芽させた。植物材料をバーミキュライトで培養し、培養条件は室温24℃で、光培養16時間/暗培養8時間(正常条件)で、抽薹まで培養した。その後、抽薹株を光照射のインキュベーターに移して低温(17℃〜22℃)で培養した。異なる光周期に対して、抽薹株を室温24℃で、それぞれ光培養12時間/暗培養12時間、光培養10時間/暗培養14時間または光培養8時間/暗培養16時間で処理した。
プロトプラストの単離とトランスフェクション
シロイヌナズナのプロトプラストの単離とトランスフェクションの工程はYOOら, .2007を参照する。野生型植物株を鋳型とし、TMF1の全長cDNA断片(終止コドンを除く)をクローンし、GFPタグの融合に使用した。PCR産物をeGFPタグ付きのPMON530ベクターにクローンした後、新しく単離したシロイヌナズナのプロトプラストにトランスフェクトした。トランスフェクション後のプロトプラストを23℃、暗黒の条件で20時間培養した。最後に、ZEISSの共焦点レーザー顕微鏡で観察した(LSM 5 PASCAL; ZEISS, http://www.zeiss.com)。
細胞学的解析
ニコンのデジタルカメラ(D-7000)で植物材料を撮影した。アレキサンダー染色とDAPI染色はAlexander, 1969; Rossら., 1996を参照する。半薄切片に対し、花芽の異なる発育段階を選んで固定し、Spurrエポキシ樹脂に包埋した(具体的な方法はZhangら, 2007を参照する)。Powertome XL (RMC Products, Tucson, Arizona, USA)ミクロトームで1μmごとにカットしてトルイジンブルーで染色した。Olympus DX51デジカルカメラ(Olympus, Japan)で葯の切片を撮影した。8nm金顆粒で新鮮な雄蕊と花粉粒の材料をコーティングして走査電子顕微鏡の実験を行い、JSM-840顕微鏡 (JEOL, Japan)で観察した。透過型電子顕微鏡の実験では、シロイヌナズナの花序を氷の上で固定液(配合は2.5%グルタルアルデヒド含有0.1Mリン酸緩衝液で、pH 7.2)において固定した。花芽材料はさらに順に樹脂(‘Hard Plus’ Embedding Resin, Unite Kingdom)に包埋した(具体的な方法はZhanら, 2007を参照する)。超薄切片(50-70nm)はJEM-1230透過型電子顕微鏡(JEOL, Japan)で観察した。
RNAの抽出と定量RT-PCR
全RNAはTrizol試薬(Invitrogen, USA)で成熟土で培養したシロイヌナズナ植物の花組織から抽出することができる。poly-dT(12-18)プライマー、MMLV逆転写酵素および相応の試薬で5μgのRNAから逆転写して1本目のcDNA鎖を得た(60分間、42℃)。合成されたcDNA鎖をPCRの鋳型とした。定量RT-PCRは、SYBR Green I master mix (Toyobo, Japan)を利用してABI PRISM 7300システム(Applied Biosystems, USA)によって検出した。定量RT-PCRのプロセスのパラメーター:95℃ 5分間、94℃ 10秒変性、40サイクル、60℃ アニーリング・伸長1分間。定量RT-PCRで使用されたプライマーは電子版の添付書類にリストアップした。β-チューブリンをコントロールとした。
インサイチューハイブリダイゼーション
digoxigenin (DIG) RNA標識キットおよびPCR DIGプライマー合成キット(Roche)の説明書に従って非放射性RNAインサイチューハイブリダイゼーション実験を行った。TMF1に特異的なプライマーでcDNA断片を増幅させた。PCR産物をpSKベクターにクローンしてシークエンシングした(Stratagene)。プラスミドDNAは完全にHindIIIとBamHIで徹底的に消化し、かつこれを鋳型としてT3またはT7 RNAポリメラーゼでそれぞれ転写させた。Olympus DP70デジタルカメラで写真の撮影を行った。
植物内在性酵素活性実験
植物タンパク質抽出試薬(Thermo Scientific Prod#89803, USA)で異なる光周期および温度において花芽組織のタンパク質を抽出した。無色の基質である酪酸p-ニトロフェニル(p-nitrophenol butyrate、p-NPB)を20 mMのイソプロパノールに溶解させた。溶液が清澄になって安定した乳状液になるまで、1:10で軽く揺れながらphosphate-Triton X-100緩衝液を希釈した。混合液(50ul)をキュベットに分配し、かつそれぞれ24℃と17℃で15分間予備インキュベートした。植物全タンパク質(0.08ug/ul, 50ul)を含有する各酵素液を50 mMリン酸緩衝液(pH 7 24℃/17℃)で用意した後、基質混合液を入れて反応系を100ulとし、かつ24℃/17℃の条件においてさらに15分間インキュベートした。分光光度計(BIO-RAD Model Smart Spectm Plus)で吸光度405においてp-NPの黄色の反応産物を検出した。最後に、総吸光度からブランク吸光度(植物の酵素を含まない反応混合物)を引いて相応の酵素活性を算出した。
GC-MSによる遊離脂肪酸の分析
各花芽標本(野生型24℃/17℃、tmf1変異体24℃/17℃)に対して50mgの新鮮な組織を取り、ポリテトラフルオロエチレンのねじ口ガラス管に置いた。1mlの2.5 %硫酸含有メタノールを入れた。サンプルを80℃で1時間加熱して室温で冷却した。その後、順に500 μLペンタン、1.5 mLの0.9% NaClを入れて脂肪酸メチル(FAME)を抽出した。激しく振とうした後、遠心して層分離を促進した。上層の相(ペンタンを含む脂肪酸メチル)の一部を注射小瓶に移した。反応混合物をTrace GC - Polaris Q(Finnigan-spectronex)質量分析装置によって分析した。典型的な質量分析条件は分流式注入または非分流式注入でもよく、炎電子検出器の温度は240℃で、オーブンの温度プログラムは60℃ 2分間、10℃/minで240℃まで、この温度に30分間維持するものである。
実施例1 シロイヌナズナtmf1変異体の不稔表現型は低温条件において回復される
発明者はEMS化学誘発突然変異の方法でシロイヌナズナLer生態型からtmf1-1変異体を単離した。同時に、シロイヌナズナCol生態型のT-DNA挿入変異体ライブラリーからエクソンが挿入された変異体tmf1-2を選別した正常の環境温度(24℃)において、ホモ接合体のtmf1変異体の栄養成長が成長であったが、稔性がなくなり、短小な種子のない鞘しかなかった(図1bおよびe)。遺伝分析では、tmf1変異体は胞子体の雄性不稔に属し、単一劣性遺伝子座に制御されることが示された(Yiら, 2006)。出願者は、tmf1変異体を24℃で抽薹まで培養し、それを17℃の連続培養に移し、その後の鞘は全部稔性が回復した(図1cおよびf)。同様の低温条件において、野生型の植物株は影響を受けなかった(結果は未表示)。アレキサンダー染色では、低温条件において変異体の花粉は紫紅色に染色され、野生型と同様であったが(図1i)、正常条件における変異体の葯には稔性の花粉がなかったことが示された(図1h)。この結果は、低温はtmf1変異体における雄性配偶体の発育欠陥を補うことを示した。
低温が変異体の稔性を影響するかどうか検証するため、出願者は抽薹のtmf1植物株を17℃でそれぞれ1〜5日処理した後、24℃に戻した。図に示すように、回復した稔性鞘の数は処理時間の延長に伴って増加し(図1j、k)、稔性の回復は低温の持続処理と正相関することが示された。臨界温度を測定するため、出願者はtmf1 変異体をそれぞれ17、18、19、20、21、22、23℃で培養して稔性の回復状況を観察した結果、17〜20℃の条件において、変異体は全部稔性が回復したが、21℃および22℃の条件において稔性はそれぞれ85%および48%に低下し、より高い温度は完全に不稔につながったことがわかった(図2a)。しかしながら、出願者の観察の結果、環境温度22℃以下の場合、高温よりも早く植物の稔性を回復させることができることを見出した(図2b)。同時に、その低温回復の発育ポイントを研究するため、出願者は異なる発育段階のtmf1変異体(それぞれ6、12、18、24および30日の植物株)を低温条件に移してそれぞれ5日培養した。結果から、抽薹の植物株では、低温処理は稔性を回復させることができたが(24および30日の植物株)、それより早い発育段階の植物株は不稔のままであったことがわかった。そのため、出願者は、花序が形成した後ではなければ、低温は稔性回復に影響を与えることができないと推測した(図11)。
実施例2 低温はtmf1変異体における四分子体放出後の小胞子の発育欠陥を補う
tmf1変異体の花粉の発育における欠陥を確定するため、出願者は葯の半薄切片を作った。野生型では、第6および7ステージにおいて、小胞子母細胞は減数分裂を経て四分子体になった(Sandersら, 1999)。その後、小胞子は四分子体から放出され、かつ段々正常の花粉壁を有する3核花粉粒になってきた(図3a)。常温の条件(24℃)におけるtmf1変異体では、葯の発育の第7ステージまで変異体と野生型で視認できる違いが観察されず、これは変異体の雄配偶体の減数分裂は影響を受けないことを示した(図3b)。葯の発育の第8ステージにおいて、tmf1小胞子は四分子体から放出され、野生型と比べ、不規則な腫れの表現型を示した。第9ステージにおいて、ほとんどのtmf1小胞子は分解し始め、その後小胞子の細胞質が収縮・崩壊した。最後に、葯室に一部の退化した花粉の破片しか残らず、正常の花粉が形成できなかった(図3b)。一方、低温の状態(17℃)において、tmf1小胞子は第8ステージの腫れの表現型がまだ存在していた。しかし、その後の発育段階で、ほとんどの小胞子が破裂・分解せず、段々正常に回復し、最終的に僅かな一部の退化した花粉を除き、低温における葯室で正常の成熟花粉粒が生成した(図3c)。
走査電子顕微鏡では、tmf1変異体は常温条件(24℃)における葯室に花粉粒がなかったが、その低温条件における花粉粒の数と構造が野生型と基本的に一致していたことが示された(図4)。 TEM観察によって、tmf1小胞子の細胞完全性は低温条件において回復したことが示された(図5c)。四分子体期では、異なる条件において、tmf1小胞子の形質膜の波型の起伏は野生型と比べても正常で、花粉の外壁の沈着のパターンは影響を受けなかったことが示された(図5b)。小胞子放出期では、野生型およびtmf1の小胞子はいずれも正常の柱状およびテクタム構造が形成して花粉の外壁を構成した(図5aおよび5c)。小胞子のリング状空胞化(ring-vacuolated)期では、正常温度(24℃)において、tmf1小胞子の外壁構造はまだ規則的であったが、その細胞質は明らかに流出し、これは小胞子の後期の破裂・分解につながった。この結果から、小胞子の外壁は正常に形成したが、当該遺伝子の欠失によって細胞膜の完全性が損なわれたことが示された。低温条件(17℃)において、tmf1小胞子の花粉の細胞質が安定していたが(図5c)、低温はtmf1突然変異による細胞完全性の欠陥を克服することができることが示された。
実施例3 TMF1遺伝子はタペート層および小胞子母細胞で特異的に発現される膜局在性のGDSLエステラーゼをコードする
以前の研究で、出願者は既にTMF1遺伝子を精確にシロイヌナズナの4番染色体の49.5Kbの領域に位置づけた。この仕事では、出願者は3000超の後代変異体を利用し、TMF1遺伝子を13 kbの8つの遺伝子を含む領域に位置づけた(図6a)。中では、At4g10950遺伝子はGDSLエステラーゼ/加水分解酵素ファミリーのタンパク質をコードする。tmf1変異体において、当該遺伝子の1つ目のエクソンでACCからATCへの突然変異(スレオニンからイソロイシンへの突然変異)の単一ヌクレオチド突然変異が検出された。Phosphatデータベース(http://phosphat.mpimp-golm.mpg.de/)の予測によると、この突然変異のスレオニンは仮定のリン酸化部位である。T-DNA挿入変異体tmf1-2に対し、出願者はTAIL-PCRの方法を使用し、増幅した境界配列をシークエンシングしたところ、tmf1-2変異体の最後のエクソンにT-DNA挿入が存在することを見出した(図6b)。出願者は遺伝的相補性実験によってさらに検証した。上流のプロモーター領域および下流の領域を含め、At4g10950ゲノムの断片をクローンし、アグロバクテリウム菌を介してtmf1/+ヘテロ接合株に形質転換した。同定によって9つの遺伝子組み換え株のうち7株がtmf1/tmf1背景のものであることが示され、これらの植物株は正常温度(24℃)において稔性が回復して正常の鞘を形成した。これは、At4g10950はTMF1で、相補に使用されたゲノム断片はTMF1の生物学的機能の実行に十分な遺伝情報を含むことを示した。
TMF1遺伝子は40個のアミノ酸を含有する約45kDaのタンパク質をコードする。ドメインの分析では、TMF1タンパク質はGDSLドメインを含有するエステラーゼ/加水分解酵素ファミリーに属し、4つの保存的領域(I, II, III, V)(図6c)を有し、これらのドメインは当該酵素の触媒活性に重要な役割を果たすことが示された。出願者は35sプロモーターによって駆動されるTMF1タンパク質C末端融合GFPのベクターを構築し、シロイヌナズナのプロトプラストを形質転換し、共焦点レーザー顕微鏡でTMF1の細胞内局在性を観察した。結果は、GFPの蛍光はプロトプラストの細胞膜に発現されたことを示した(図7b)。一方、陽性コントロールの35S::GFPでは、蛍光は全細胞に満ちていた。しかしながら、配列解析では、TMF1タンパク質は膜貫通ドメインを有さないため、出願者はこのタンパク質が細胞膜に分泌されると推測した。半定量のRT−PCR技術を利用し、出願者は根、茎、葉、叶、花および幼苗におけるTMF1の相対発現を検出した結果、TMF1は花序で効率的に発現されたことが示された(図7a)。その葯の発育における時空的発現を検出するため、出願者はインサイチューハイブリダイゼーション技術を使用し、結果はTMF1が葯の発育の第4ステージで発現し始め、減数分裂期はタペート層および小胞子母細胞でピークに達した後、段々減少し始めた(図7a)。上記の変異体は、細胞学的解析では、変異体の小胞子の欠陥も四分子体放出期から始まったことが示され、これはTMF1発現の結果と一致する。
実施例4 TMF1タンパク質がエステラーゼの活性を有するが温度によって誘導されない
TMF1タンパク質がエステラーゼの活性を有するかどうか検出するため、出願者は原核発現システムによってその発現・精製を行った。tmf1-1変異体は点突然変異であるため、出願者は同時に野生型TMF1と変異体のTMF1(T90I)遺伝子をクローンして原核発現を行った(図8a)。p-ニトロフェニル(p-nitrophenol butyrate、p-NPB)を基質とし、この二つの精製したタンパク質に対して酵素の測定を行った結果、変異体TMF1(T90I)タンパク質の活性は野生型タンパク質と比べて約50%の活性が低下したことを見出し(図8b)、当該突然変異部位は酵素活性に対する影響が大きいことが示された。また、出願者はGC/MS技術によってさらにそのエステラーゼの機能を検証し、トリグリセリド(Triglyceride)を基質として野生型のTMF1とインキュベートした後、検出結果から、TMF1がトリグリセリドにおける脂肪酸鎖を切断してヘキサデカン酸(hexadecanoic acid)を生成することができることが見出され(図8c)、それが花粉の発育における脂質代謝過程に関与することが示された。
tmf1変異体の温度敏感性の機序を判明するため、出願者は異なる温度条件での野生型と変異体の花芽におけるTMF1転写とタンパク質のレベルを検出した。定量PCR検出では、常温(24℃)と低温(17℃)の条件において変異体と野生型のTMF1の転写レベルで有意差がなかったことが示された(図9a)。更なるウェスタンブロット検出では、そのタンパク質レベルでも顕著な変化がなかったことが見出され(図9b)、これらの結果はTMF1は異なる温度によって誘導されて発現することがないことを示した。また、異なる温度の条件において、出願者はそれぞれ野生型TMF1および変異TMF1(T90I)タンパク質の酵素活性を測定した結果、環境温度の低下に伴い、両者の酵素活性も段々低下し、17℃で酵素活性が基本的に同等になったことを見出した(図9c)。同時に、GDSLファミリーの遺伝子の補償機序が存在するかどうか同定するため、出願者は葯で共発現するTMF1相同性タンパク質を9つ選んで異なる条件における転写レベルの検出を行った。結果はそのうちの5つが顕著に変化しなかったことを示した(図10a)。残りの4つの差次的発現遺伝子のうち、出願者はSIGnAL変異体ライブラリー(Alonsoら, 2003)からそのうちの二つの遺伝子のT-DNA変異体を得た。この二つの変異体はそれぞれtmf1-1と二重突然変異を構築したところ、二重突然変異体の不稔形質は低温でも回復することができたことが見出された(図10b)。ほかの相同性補償機序を検出するため、出願者は野生型と変異体の花序の全タンパク質を抽出してp-NPBの酵素活性実験を行った結果、野生型の全タンパク質の活性は常温(24℃)で高く、低温(17℃)で顕著に低下したことが示された。一方、変異体の全タンパク質の活性は常温で既に低下し、低温でも回復しなかった(図10c)。これらの結果から、低温の条件において、シロイヌナズナの花粉の発育過程でエステラーゼにあまり依存せず、かつ相同性補償機序で稔性の回復と直接の関連がなかったことが示された。
実施例5 低い環境温度はシロイヌナズナの花粉発育速度を遅延させる
上記の細胞学的観察では、常温(24℃)でほとんどのtmf1変異体の小胞子はリング状空胞期で分解したことが示された。早期の文献では、シロイヌナズナの花粉は成熟過程で体積が段々大きくなったことが示された。出願者はtmf1変異体において、小胞子は快速膨張過程に耐えず花粉の破裂と退化につながったことを推測した。そのため、出願者は野生型の小胞子の雄配偶体の発生過程における表面積を測定し、花芽の大きさによって大きく花粉の発育過程を小胞子放出期(released stage)、1核花粉期(uninucleate stage)、2核花粉期(bicellular stage)および3核花粉期(tricellular stage)と4つの時期に分けた(図11a)。データ統計の結果から、小胞子が四分子体から放出された後の表面積は約500um2であったことが示された。また、1回目の有糸分裂を経た後、2核期の小胞子の面積は約2倍拡大した。3核花粉が形成した後、花粉の表面積が2300um2に増大した(図11b)。同時に、出願者は異なる温度における各時期の成長速度を統計した結果、常温条件(24℃)において小胞子放出期から1核花粉期までの小胞子の成長速度は約8.6um2/hrで、1核花粉期から2核花粉期までの小胞子の成長速度は約38.9um2/hrであったことが示され、細胞学的解析では、ほとんどのtmf1小胞子の破裂はこの段階に存在し、2核花粉期から3核花粉期までの速度は33.7um2/hrであったことが示された。しかしながら、低温条件(17℃)において、第二段階の成長速度が約3倍低下した(図11c)。測定したところ、成長速度は野生型とtmf1変異体で近かった。そのため、この結果は低温で遅延した成長発育の時間はtmf1小胞子の結果を補う要因であることを示唆した。
実施例6 光敏感性の稔性転換現象は同様にtmf1に存在する
早期の研究では、長期間日照の培養条件において植物の生殖器官の発育は短期間日照よりも早いことが見出された(Ebling, 1994; Zhuら, 1997)。そのため、出願者は短期間日照の条件においてtmf1小胞子の発育欠陥は回復するか推測した。出願者は常温条件(24℃)において長期間日照(16時間光照射、8時間暗黒/16L8D)で抽薹段階までtmf1変異体を培養した後、それを短期間日照(8時間光照射、16時間暗黒/8L16D)で5日培養した。結果は変異体の稔性が同様に回復したことを示した(図12d)。アレキサンダー染色実験では、長期間日照の条件において変異体の葯内に花粉がなかったが、短期間日照の条件において一定量の花粉が形成したことが示された(図12a)。出願者はさらに常温条件において10時間光照射、14時間暗黒(10L14D)および12時間光照射、12時間暗黒の条件における稔性回復状況を検出したところ、まだ80%以上の植物株の稔性が回復した(図12b)。これらの結果は、tmf1は短期間日照の条件における稔性回復機序は低温処理の機序と類似することを示した。その後、出願者は温度と光照射の条件を合わせて実験を行い、まず出願者は環境温度を下げたが、光照射時間を伸ばしたところ、21℃、20L4Dの条件において68%の植物の稔性が回復したが、同様の温度、22L2Dの条件において回復率が30%以下に低下したことを見出した。しかし、高温(27℃)において、8L16Dの光照射周期で培養した変異体は30%しか稔性が回復しなかったが、10L14Dの光照射周期で培養した変異体の稔性回復率は9%しかなかったが(図12c)、これらの結果はTMF1変異体に対し、環境温度は光照射周期よりも稔性の回復により重要な作用を果たす。
実施例7 イネにおけるTMF1タンパク質が同様にエステラーゼの活性を有する
GenBankデータベースの配列アラインメント情報から、TMF1はほとんどの陸生植物でオーソロガスタンパク質を有するが、緑藻にはオーソロガスな存在がない。出願者はシロイヌナズナ、イネ、モロコシ、トウモロコシおよびダイズのタンパク質配列に対して相同性比較を行った結果、GDSLドメインは陸生植物で高度に保存することが示された(図13a)。近隣結合法(neighbor-joining)に基づいて分析して得られた無根系統樹では、異なる種におけるオーソロガス遺伝子は双子葉植物と単子葉植物で明らかな分岐があり、共通の起源を有することが示された(図13b)。
異なる植物においてTMF1タンパク質の相同性が高いため、出願者は野生型イネにおけるOsTMF1(OS02G0290900)遺伝子をクローンし、かつそれをp-C5x原核発現ベクターに構築した。原核発現システムを利用してTMF1-MBP組み換えタンパク質を発現させて精製した。結果は、IPTGを入れた後、70KDの箇所に顕著なバンドがあったことを示した(図14a)。OsTMF1タンパク質がエステラーゼの活性を有するかどうか検出するため、出願者は酪酸p-ニトロフェニル(p-nitrophenyl butyrate、p-NPB)を基質とし、精製した組み換えタンパク質(0.5ug)に対して酵素活性の測定、A405nmの吸光度の測定を行ったところ、OsTMF1タンパク質はp-NPBを加水分解してかつインキュベート時間と正相関することを見出した(図14b)。
上記の実験結果から、イネのTMF1タンパク質は同様にエステラーゼの活性を有し、イネにおけるTMF1タンパク質の発現または活性を低下させることによってイネの不稔系を育成することができることがわかる。
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、この分野の技術者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の様態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
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Claims (16)

  1. 植物の不稔系を育成する方法であって、前記植物における花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの発現または活性を低下させる工程を含み、前記GDSLエステラーゼは 、TMF1(THERMOSENSITIVE MALE FERTILITY 1)蛋 白質またはその相同性蛋白質であり、
    前記TMF1蛋白質は、配列番号1〜6のいずれかにしめされるアミノ酸配列を有し、お よび
    前記相同性蛋白質は、前記TMF1蛋白質と同じ機能をともなう配列番号1〜6のいずれ かの配列の野生型であり、そして、配列番号1〜6における1〜20個のアミノ酸の欠失 、挿入、および/または置換、および/または配列番号1〜6のアミノ酸配列のC末端お よび/またはN末端において10個以内の付加を含み、
    前記植物は、イネ科、マメ科またはアブラナ科の植物を包む
    前記方法。
  2. 相同性蛋白質が、1〜10個のアミノ酸の欠失、挿入、および/または置換を含む、請求 項1に記載の方法。
  3. TMF1蛋白質の野生型のアミノ酸配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5または配列番号6からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  4. 前記GDSLエステラーゼが、植物の花序および葯からなる群から選ばれる細胞、組織または器官で特異的に発現するものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  5. 前記植物における花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの活性を低下させる方法が、GDSLエステラーゼをコードする遺伝子の発現レベルを低下させる方法、および/または、GDSLエステラーゼの活性を低下させる方法を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  6. 物が、アブラナ科の植物を含む、請求項1に記載の方法。
  7. 植物が、イネ、トウモロコシ、モロコシ、コムギ、ダイズまたはシロイヌナズナを含む、 請求項1に記載の方法。
  8. 花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼまたはそのコード遺伝子の使用であって、植物の不稔系の育成、あるいは植物の不稔系を育成する試薬またはキットの製造に使用され、前記GDSLエステラーゼは、TMF1(THERMOSENSITIVE MAL E FERTILITY 1)蛋白質またはその相同性蛋白質であり、
    前記TMF1蛋白質は、配列番号1〜6のいずれかにしめされるアミノ酸配列を有し、お よび
    前記相同性蛋白質は、前記TMF1蛋白質と同じ機能をともなう配列番号1〜6のいずれ かの配列の野生型であり、そして、配列番号1〜6における1〜20個のアミノ酸の欠失 、挿入、および/または置換、および/または配列番号1〜6のアミノ酸配列のC末端お よび/またはN末端において10個以内の付加を含み、
    前記植物は、イネ科、マメ科またはアブラナ科の植物を含む、
    前記使用。
  9. 前記コード遺伝子が、TMF1遺伝子であることを特徴とする、請求項に記載の使用。
  10. 植物を不稔性から稔性に転換させる方法であって、花粉の細胞膜の合成速度を低下させる工程、および/または、花粉の発育速度を遅延させる工程を含み、かつ前記植物は花粉の発育に関連するGDSLエステラーゼの発現または活性が低下した植物であり、前記G DSLエステラーゼは、TMF1(THERMOSENSITIVE MALE FER TILITY 1)蛋白質またはその相同性蛋白質であり、
    ここで、前記TMF1蛋白質は、配列番号1〜6のいずれかにしめされるアミノ酸配列を 有し、および
    前記相同性蛋白質は、前記TMF1蛋白質と同じ機能をともなう配列番号1〜6のいずれ かの配列の野生型であり、そして、配列番号1〜6における1〜20個のアミノ酸の欠失 、挿入、および/または置換、および/または配列番号1〜6のアミノ酸配列のC末端お よび/またはN末端において10個以内の付加を含み、
    前記植物は、イネ科、マメ科またはアブラナ科の植物を含む、
    前記方法。
  11. 前記方法が、植物の代謝レベルを低下させることによって、花粉の細胞膜の合成速度を低下させることを含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
  12. 前記低下または遅延が、植物の成長の環境温度を低下させること、植物の光照射時間を減少させること、またはこれらの組み合わせによって実現されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
  13. 植物の成長の環境温度を低下させることが、環境温度(平均温度)を17〜22℃に制御することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
  14. 植物の抽薹または出穂の時から植物の成長の環境温度を低下させ、低温で3〜10日栽培した後、正常の温度に戻して栽培することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
  15. 前記植物が、請求項1に記載の方法で育成された植物の不稔系であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
  16. 植物の不稔を維持する工程と、植物を不稔性から稔性に転換させる工程と、植物の稔性を維持して育種する工程とを含む植物の育種方法であって、
    前記植物の不稔を維持する工程において、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法で育成された植物の不稔系を維持することを含み、
    植物を不稔性から稔性に転換させる工程において、請求項1015のいずれか一項に記載の方法で植物を不稔性から稔性に転換させることを含み、
    前記植物が、アブラナ科の植物を含む、
    前記方法。
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