以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るめっき処理システム及びめっき処理方法を説明する。各図面においては、同一または同等の部分に同一の符号を付している。
(実施の形態1)
図1〜図6を参照して、実施の形態1に係るめっき処理システム及びめっき処理方法を説明する。以下、変電所等の屋外に設置されたパンタグラフ式断路器の固定接触子に銀めっきを施す場合を例に説明するが、めっきを施す対象物はパンタグラフ式断路器の固定接触子に限られず、めっきも銀めっきに限られない。また、地上から約8m〜約9mの位置にあるパンタグラフ式断路器に取り付けられた状態の固定接触子に銀めっきを施す場合を例にして説明するが、固定接触子をパンタグラフ式断路器から取り外した状態で銀めっきを施してもよい。
図1は、実施の形態1に係るめっき処理システム1の構成を示す図である。めっき処理システム1は、めっきの対象物である固定接触子11に銀イオンが溶け込んでいる銀めっき液を供給すると共に、固定接触子11との間に電圧を印加することにより、固定接触子11上に銀めっき層を形成する。図1に示すように、めっき処理システム1は、めっき層形成装置110と、めっき液回収受け槽120と、チューブ130と、めっき液循環ユニット140と、電源装置150と、電線160と、を備える。以下、めっき処理システム1の各構成について説明する。
図2は、図1のめっき層形成装置110を固定接触子11に垂直な方向に切断した様子を示す断面図である。めっき層形成装置110は、ユーザにより把持され、めっきの対象物である固定接触子11に接触された状態で、固定接触子11にめっき液と電流とを供給する。めっき層形成装置110は、電線接続部111と、めっき液供給ノズル112と、電極板113と、金属メッシュ114と、めっき液吸収材115と、メッシュカバー116と、液跳ね防止板117と、を備える。
めっき層形成装置110の重さは、約0.8〜約0.9kgの範囲内であり、めっき液を含んでいる場合は、約0.8kg〜約1.5kgの範囲内である。また、めっき層形成装置110の幅は、約120mm、約170mm、厚さは、約30mmである。
次に、めっき層形成装置110の各構成を説明する。電線接続部111は、電線160を介して電源装置150に接続され、電極板113に正の電圧を印加する。電線接続部111は、先端側に液跳ね防止板117の位置決め用の膨張部111aを備える円柱形状の導電部材である。電線接続部111の先端部は、電極板113及び液跳ね防止板117に固定され、電線接続部111の基端部は、めっき層形成装置110の外側に延びており、電線160が接続可能に構成されている。電線接続部111は、電気伝導性が良好で、耐腐食性と剛性がある金属材料から形成される。例えば、電線接続部111は、銅、ステンレス、アルミニウム合金等で形成されている。図2では、図示していないが、電線接続部111は、ユーザの手により把持される把持部でもあるため、その表面が絶縁材料のカバーにより被覆されている。
めっき液供給ノズル112は、チューブ130を介してめっき液循環ユニット140に接続され、めっき層形成装置110内部にめっき液を供給する。めっき液供給ノズル112は、めっき液を送液可能であって、例えば、円筒形状に形成された管状部材である。めっき液供給ノズル112の基端部には、チューブ130が着脱自在に接続されている。
電極板113は、電線接続部111によって正の電圧を印加され、めっき液に含まれる銀イオンを固定接触子11に移動させる。電極板113は、例えば、略矩形状のカーボン板である。電極板113は、その中心部に凹部113aを備えており、凹部113aには、電線接続部111の先端部が固定されている。また、凹部113aの周辺には、複数の貫通孔113bが形成されている。貫通孔113bには、めっき液供給ノズル112が貫通した状態で固定されている。
金属メッシュ114は、電極板113の表面に配置され、電極板113の表面に発生した水素ガス等の気泡を電極板113から除去する。金属メッシュ114は、電極板113と同一の形状を有する板状部材であり、電極板113の表面を覆うように固定されている。金属メッシュ114は、例えば、ステンレス等の金属材料をメッシュ状に形成した部材である。電極板113に印加された電流により電極板113の表面で発生した水素ガス等の気泡は、金属メッシュに接触することにより電極板113から遊離する。このため、電極板113の表面に水素ガスの膜が形成され、電極板113の電気抵抗が増加することを防止できる。
めっき液吸収材115は、めっき液供給ノズル112から供給されためっき液を吸収して内部に保持し、徐々に外部に放出する。めっき液吸収材115は、電極板113及び金属メッシュ114と同一の形状を有する板状部材であり、金属メッシュ114の表面を覆うように固定されている。めっき液吸収材115は、めっき液供給ノズル112から供給されためっき液を吸収するように、例えば、スポンジ状の樹脂材料から形成されている。めっき液吸収材115がめっき液を保持して徐々に外部に放出させるため、めっき層形成装置110は、固定接触子11の表面に常にめっき液が接触する状態を維持できる。
メッシュカバー116は、互いに重ね合わされた電極板113、金属メッシュ114、及びめっき液吸収材115の周囲を覆うように設けられ、電極板113、金属メッシュ114、及びめっき液吸収材115が固定接触子11と接触して、電極板113、金属メッシュ114、及びめっき液吸収材115を損傷しないように保護する。メッシュカバー116は、めっき液を透過可能であって、めっきの対象物である固定接触子11の表面をスムーズに摺動可能な材料から形成される。メッシュカバー116は、例えば、多孔性の樹脂材料から形成されている。めっき層形成装置110は、表面をメッシュカバー116で覆われているため、銀めっき補修作業時において、めっき層形成装置110を固定接触子11に擦り付けるようにして上下左右に移動させるユーザの作業を容易にできる。
液跳ね防止板117は、メッシュカバー116を覆うように設けられ、めっき液が跳ねてユーザにかかることを防止する。液跳ね防止板117は、メッシュカバー116を完全に覆うように固定された略矩形状の部材である。液跳ね防止板117は、めっき液に対する耐腐食性を有する透明な材料にて形成されている。液跳ね防止板117は、電線接続部111が挿通された状態で固定される貫通孔117aと、各めっき液供給ノズル112が挿通された状態で固定される複数の貫通孔117bと、を備える。
空中車に乗ったユーザは、固定接触子11の位置を確認しながらめっき層形成装置110を上下左右に移動させるため、めっき層形成装置110はユーザの顔の近くに位置する。このため、めっき層形成装置110から放出されためっき液が跳ねた場合、めっき液がユーザにかかる可能性がある。しかし、めっき層形成装置110には、透明な液跳ね防止板117が設けられているため、液跳ね防止板117の向こう側の様子を確認できると共に、めっき液がユーザにかかることを防止できる。
めっき層形成装置110は、上記のように構成されているため、めっき液供給ノズル112から供給されためっき液は、図2の矢印で示すように、一旦めっき液吸収材115に吸収された後、メッシュカバー116から徐々にしみ出すことにより、メッシュカバー116と接触した状態の固定接触子11に供給される。また、電源装置150から供給された電流は、電線接続部111から電極板113に流れ、電極板113から固定接触子11に流れる。このため、めっき層形成装置110は、ユーザの手により任意に移動可能に構成されながら、固定接触子11にめっき液と電流とを安定的に供給できるため、固定接触子11に均一なめっきの層を形成できる。
図1に戻り、めっき液回収受け槽120は、上部に大きな開口部が形成された細長い形状の容器であって、めっき層形成装置110から流出しためっき液を受け止めて回収する。めっき液回収受け槽120の長手方向の端部に配置された側面部の下側には、めっき液回収用のチューブ130を着脱自在に接続する接続部121が設けられている。めっき液回収受け槽120は、めっき層形成装置110から流れ落ちためっき液を受け止めて接続部121に移動させる。接続部121を通過しためっき液は、めっき液回収用のチューブ130を介してめっき液循環ユニット140に戻される。また、めっき液回収受け槽120は、ユーザがじょうろ等を用いて固定接触子11にかけた洗浄液を回収し、めっき液循環ユニット140に供給する。
チューブ130は、めっき液を送液可能な管路を備える曲げ変形可能なチューブである。チューブ130は、例えば、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂材料から形成されている。チューブ130は、めっき液回収受け槽120からめっき液循環ユニット140にめっき液又は洗浄液を送液する回収用チューブ131と、めっき液循環ユニット140からめっき層形成装置110のめっき液供給ノズル112にめっき液を送液する供給用チューブ132と、を備える。
回収用チューブ131は、めっき液回収受け槽120の接続部121と、めっき液循環ユニット140に着脱自在に接続されている。また、供給用チューブ132は、めっき液循環ユニット140と、めっき層形成装置110のめっき液供給ノズル112とに着脱自在に接続されている。供給用チューブ132は、2つのめっき液供給ノズル112に接続されるため、先端部が二叉状となるように形成されている。
めっき液循環ユニット140は、めっき液回収受け槽120から回収しためっき液を設定された温度に調整した後、めっき液をめっき層形成装置110に再び供給するめっき液循環装置の一例である。以下、図3を参照して、めっき液循環ユニット140の構成について説明する。
図3は、めっき液循環ユニット140の正面図である。めっき液循環ユニット140は、筐体141と、めっき液貯蔵槽142と、めっき液用チューブ143と、ポンプ144と、洗浄液回収槽145と、洗浄液用チューブ146と、温度センサ147と、ヒータ148と、制御装置149と、を備える。めっき液循環ユニット140は、空中車のバケットに設置可能なサイズにユニット化されている。
筐体141は、めっき液循環ユニット140の各構成を内部に収容する。めっき液貯蔵槽142は、筐体141の内部に配置され、回収されためっき液を貯蔵する。めっき液用チューブ143は、回収用チューブ131から受け取っためっき液をめっき液貯蔵槽142に供給すると共に、めっき液貯蔵槽142からポンプ144にめっき液を送出する。ポンプ144は、めっき液用チューブ143に接続され、めっき液をめっき層形成装置110に向けて送出する。
洗浄液回収槽145は、筐体141の内部に配置され、めっき液回収受け槽120が回収した洗浄液を貯蔵する。洗浄液用チューブ146は、めっき液回収受け槽120から回収した洗浄液を洗浄液回収槽145に供給する。温度センサ147は、めっき液貯蔵槽142内部のめっき液の温度を測定する。ヒータ148は、めっき液貯蔵槽142内部のめっき液を加熱する。制御装置149は、温度センサ147の測定結果に基づいて、ヒータ148の動作を制御する。
次に、めっき液循環ユニット140の各構成について説明する。
筐体141は、全体として立方体形状であり、矩形状の上面部と、上面部と同一形状の底面部と、上面部の端部と底面部の端部とを接続する3つの側面部と、を備える。底面部には、底面部から下方に延び、底面部を支える複数の脚部141aが設けられている。筐体141は、正面に開口部を備える。扉部141bは、ヒンジにより側面部の端部に回転可能に支持され、閉じられたとき開口部を覆うように構成されている。図3では、扉部141bが開かれている様子を図示している。
筐体141は、その内部に、対向する側面部に支持され、水平方向に延びる2つの棚部材141cを備える。上側の棚部材141cには、制御装置149が設置されている。下側の棚部材141cには、めっき液貯蔵槽142及び洗浄液回収槽145が設置されている。底面部には、ポンプ144が設置されている。制御装置149をめっき液貯蔵槽142及び洗浄液回収槽145よりも上側に設置することにより、万が一、めっき液貯蔵槽142及び洗浄液回収槽145から液体が漏れたとしても、制御装置149が故障することを防止できる。また、めっき液貯蔵槽142をポンプ144よりも上側に設置することにより、ポンプ144からの脱気を容易にしている。
筐体141は、銀めっき補修作業で使用するマスキングテープ、はさみ、ペン等の道具(点線で図示)を収容する収容部141dと、収容部141dの開口部を開閉可能な蓋部141eと、を備える。収容部141dは、上側の棚部材141cと筐体141の上面部との間に設けられ、筐体141の上方からユーザが手を入れることができる開口部を備える。蓋部141eは、筐体141の上面部にヒンジにより開閉可能に支持されている。蓋部141eの上面部にユーザが開閉のために把持可能な把持部が設けられている。道具を収容部141dに収容し、蓋部141eで蓋をすることにより、道具の紛失を防止でき、その結果として紛失した道具に起因する変電所内における送電トラブルの発生を防止できる。
筐体141は、側面部に、回収用チューブ131を接続可能で、めっき液用チューブ143を介してめっき液貯蔵槽142に接続された接続部141fと、回収用チューブ131を接続可能で、めっき液用チューブ143を介して洗浄液回収槽145に接続された接続部141gと、を備える。また、筐体141は、側面部を貫通しており、供給用チューブ132の出し入れが可能な貫通孔を備える。
めっき液貯蔵槽142は、めっき液を内部に貯蔵する容器である。めっき液貯蔵槽142は、立方体形状の容器であって、内部のめっき液を観察できるように透明な樹脂材料にて形成されている。めっき液貯蔵槽142は、矩形状の上面部と、上面部と同一形状の底面部と、上面部と底面部とを接続する4つの側面部と、を備える。
めっき液貯蔵槽142の上面部には、めっき液貯蔵槽142内部に延びる温度センサ147、ヒータ148が挿入された状態で固定される貫通孔が設けられている。また、めっき液貯蔵槽142の上面部、めっき液貯蔵槽142の側面部の下側には、めっき液を回収するためのめっき液用チューブ143が挿入された状態で固定される貫通孔が設けられている。
めっき液用チューブ143は、めっき液をめっき液貯蔵槽142に回収する回収用チューブ143aと、めっき液をめっき液貯蔵槽142から供給する供給用チューブ143bと、を備える。回収用チューブ143aは、めっき液貯蔵槽142の上面部と、筐体141の接続部141fとに固定され、回収用チューブ131が接続部141fに接続されたとき、めっき液回収受け槽120からのめっき液をめっき液貯蔵槽142内部に供給する。また、供給用チューブ143bは、めっき液貯蔵槽142の側面部とポンプ144とに接続され、めっき液貯蔵槽142内部のめっき液をポンプ144に供給する。
ポンプ144は、めっき液貯蔵槽142のめっき液をめっき層形成装置110に送出する送出手段の一例である。ポンプ144の送出側には、供給用チューブ132が接続されている。供給用チューブ132は、筐体141内に折り畳まれて収納されており、筐体141の外部に延出した部分を引っ張ることにより、所望の長さだけ筐体141の外部に引き出すことができる。
洗浄液回収槽145は、めっき液回収受け槽120が回収した洗浄液を内部に貯蔵する容器である。洗浄液回収槽145は、めっき液貯蔵槽142と同様に立方体形状の筒状部材であり、内部の洗浄液を観察できるように透明な樹脂材料にて形成されている。洗浄液回収槽145の上部には、洗浄液用チューブ146が挿入され固定される貫通孔が形成されている。
洗浄液用チューブ146は、めっき液回収受け槽120が回収した洗浄液を受け取って、洗浄液回収槽145に供給するチューブである。洗浄液用チューブ146は、筐体141の接続部141gと洗浄液回収槽145の貫通孔とに固定され、回収用チューブ131が接続部141gに接続されたとき、めっき液回収受け槽120が回収した洗浄液を送液する。
温度センサ147は、めっき液貯蔵槽142内部のめっき液の温度を測定する温度測定手段の一例である。温度センサ147は、例えば、熱電対等からなる温度センサである。温度センサ147は、めっき液貯蔵槽142の上面部に形成された貫通孔に挿入された状態で固定されている。
ヒータ148は、めっき液貯蔵槽142内部のめっき液の温度を調整する温度調整手段の一例である。ヒータ148は、例えば、ニクロム線等の電熱線を備えるヒータ、石英ヒータ、ステンレスヒータ等である。ヒータ148は、めっき液貯蔵槽142の上面部に形成された貫通孔に挿入された状態で固定されている。
制御装置149は、温度センサ147の測定結果に基づいて、ヒータ148の動作を制御する。また、制御装置149は、ユーザの設定した流量に関する指示に基づいて、ポンプ144の動作を制御する。
図4は、制御装置149の構成を示すブロック図である。制御装置149は、指示受付部1491、表示部1492、通信部1493、記憶部1494、制御部1495を備えている。指示受付部1491、表示部1492、通信部1493、記憶部1494は、いずれも制御部1495と有線又は無線の通信回線を介して相互に通信可能に接続されている。
指示受付部1491は、ユーザの指示を受け付け、受け付けた操作に対応する操作信号を制御部1495に供給する。指示受付部1491は、例えば、ボタン、ダイヤル等である。
表示部1492は、制御部1495から供給される画像データに基づいて、ユーザに向けて各種の画像を表示する。表示部1492は、例えば、温度センサ147が測定した温度に関する情報を表示する。表示部1492は、例えば、表示パネルと表示パネル駆動回路とを備える。表示パネルは、例えば、液晶パネル、有機EL(Electro Luminescence)パネルによって実現される。表示パネル駆動回路は、制御部1495から供給される画像データに基づいて表示パネルを駆動し、表示パネルに画像を表示させる。
なお、指示受付部1491と表示部1492とは、タッチパネルによって一体に構成されてもよい。タッチパネルは、所定の操作を受け付ける操作画面を表示する。また、タッチパネルは、操作画面においてユーザが接触操作を行った位置に対応する操作信号を制御部1495に供給する。
通信部1493は、インターネット等の通信ネットワークに接続することが可能なインターフェースである。通信部1493は、外部サーバ、外部端末、外部メモリ等と通信ネットワークを介して通信する。
記憶部1494は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスク装置等を備える。記憶部1494は、制御部1495により実行されるプログラム、各種のデータを記憶する。また、記憶部1494は、制御部1495が処理を実行するためのワークメモリとして機能する。
制御部1495は、CPU(Central Processing Unit)等を備え、制御装置149の各部の制御を行う。制御部1495は、記憶部1494に記憶されているプログラムを実行することにより、図5のめっき液温度調整処理を実行する。
制御部1495は、機能的には、温度調整部1495a、流量調整部1495bを備える。温度調整部1495aは、温度センサ147の測定結果に基づいて、めっき液の温度を設定温度に維持するようにヒータ148の動作を制御する。流量調整部1495bは、指示受付部1491の指示に基づいて、ポンプ144の動作を制御する。
制御装置149は、専用のシステムで実現してもよく、小型汎用コンピュータを用いて実現してもよい。制御装置149が実行する処理は、例えば、上述の物理的な構成を備える装置が、記憶部1494に記憶されたプログラムを実行することによって実現される。本発明は、プログラムとして実現されてもよく、そのプログラムが記録された記憶媒体として実現されてもよい。
再び図1に戻り、電源装置150は、電線160を介してめっき層形成装置110と固定接触子11とに電気的に接続され、めっき層形成装置110と固定接触子11との間に電圧を印加する。電源装置150は、電圧印加時にめっき層形成装置110を陽極として機能させ、固定接触子11を陰極として機能させる。電源装置150は、めっき層形成装置110、電線160、及び固定接触子11と共に電気的な閉回路を構成する。
電源装置150は、めっき層形成装置110に直流電流を供給する整流器151と、通信ケーブル153を介して整流器151に電気的に接続され、整流器151の動作を制御する制御装置152と、を備える。整流器151は、商用電源等から供給された交流を直流に変換する。制御装置152は、制御装置149と同様に、指示受付部、表示部、通信部、記憶部、制御部を備える。指示受付部は、電流値、電圧値等に関するユーザの指示を受け付け、制御部は、ユーザ等の指示に基づいて整流器151の動作を制御する。
電源装置150は、電線160によりめっき層形成装置110及び固定接触子11と接続されているため、空中車の最大積載重量を考慮して、地面に設置してもよく、めっき液循環ユニット140と一緒に空中車のバケットに設置してもよい。
電線160は、例えば、導電性の芯材に絶縁被覆が施された電線である。電線160は、その両端部に、電源装置150の電極、めっき層形成装置110の電線接続部111、固定接触子11を挟み込んで接続可能なクリップを備える。
次に、実施の形態1に係るめっき処理システム1を用いて固定接触子11の銀めっきを補修する銀めっき補修方法について説明する。
まず、ユーザは、テスター等を用いて固定接触子11と可動接触子との間の抵抗値を測定する。具体的には、固定接触子11と可動接触子とを接触させた状態で、テスター棒の一方を固定接触子11に、テスター棒の他方を可動接触子に接触させ、抵抗値を測定する。抵抗値を正確に測定するために、予め固定接触子11及び可動接触子の表面をナイロンパッド等で清掃しておくことが望ましい。
次に、ユーザは、固定接触子11が可動接触子と接触する接点部を確認し、油性ペン等で接点部にマーキングする。このマーキングは、銀めっきを補修する範囲である銀めっき処理範囲を決定する際に役立つ目印となる。
次に、ユーザは、筐体141の蓋部141eを開けて粘着テープを収容部141dから取り出し、固定接触子11の接点部にてテープ試験を行うことにより、接点部の銀めっきの状態を確認する。テープ試験とは、対象物の表面に粘着テープを貼り付けて剥がした場合に、粘着テープの粘着面に対象部が付着しているかどうかを確認する試験である。
次に、ユーザは、固定接触子11の形状、接点部の大きさ、銀めっきの損傷の程度等を考慮して、固定接触子11の銀めっき処理範囲を決定し、銀めっき処理範囲以外を養成テープでマスキングする。固定接触子11の銀めっき処理範囲は、例えば、長さ80mm、幅8mmに設定する。なお、可動接触子の銀めっき処理範囲は、例えば、長さ190mm、幅20mmに設定する。
次に、ユーザは、固定接触子11の銀めっき処理範囲にて銅素地が露出するまでケレンを実施する。ケレンとは、紙やすり等を用いて鋼材、銅材等の表面に付着しているサビや異物を除去する作業である。ケレン終了後、マスキングされた養成テープを剥がし、銀めっき処理範囲をエタノール等で拭き取って洗浄する。
次に、ユーザは、銀めっき処理範囲の銅素地が外部に露出するように、銀めっき処理範囲の周囲をアルミテープでマスキングする(マスキング工程)。アルミテープは、表面にアルミニウムの層が形成され、裏面に粘着層が形成されているため、固定接触子に直接貼り付けることができる。アルミテープの周囲は、養成テープ、布テープ等を用いてマスキングする。
次に、ユーザは、めっき層形成装置110のめっき液供給ノズル112に供給用チューブ132を接続し、めっき液回収受け槽120の接続部121とめっき液循環ユニット140の接続部141fとに回収用チューブ131を接続する。また、めっき層形成装置110の電線接続部111に電線160を介して電源装置150の陽極を接続し、固定接触子11に電線160を介して電源装置150の陰極を接続する。
次に、ユーザは、めっき層形成装置110の絶縁材料で被覆された電線接続部111を手で把持して、メッシュカバー116を固定接触子11に接触させることで、めっき層形成装置110を固定接触子11に近接させる(近接工程)。
次に、ユーザは、めっき液循環ユニット140を作動させ、めっき層形成装置110に温度が調整された銀めっき液を供給させる(めっき液供給工程)。より詳細に説明すると、ユーザは、指示受付部1491にめっき液の流量に関する指示を与える。指示受付部1491は、めっき液の流量に関する指示を受け付け、流量調整部1495bは、指示受付部1491からの指示に基づいて、所定の流量でめっき液を供給するようにポンプ144の動作を制御する。
また、ユーザは、電源装置150を作動させ、めっき層形成装置110と固定接触子11との間に銀めっき層の形成に必要な電圧を印加する(電圧印加工程)。より詳細に説明すると、ユーザは、制御装置152に電流値、電圧値に関する指示を与える。制御装置152の指示受付部は電流値、電圧値に関する指示を受け付け、制御装置152の制御部は、指示受付部からの指示に基づいて、所定の電流値、電圧値で電圧を印加するように整流器151の動作を制御する。
めっき層形成装置110に供給された銀めっき液は銅素地が露出された銀めっき処理範囲に接触し、同時に印加された電流によって化学反応を起こして、銅素地上に新たな銀めっきの層を形成する。めっき層形成装置110から放出されためっき液は、めっき液回収受け槽120に回収され、最終的にめっき液循環ユニット140に戻される。このとき、めっき液循環ユニット140は、銀めっき液の温度を一定に保持するために、図5に示すめっき液温度調整処理を実行する。
次に、図5を参照して、実施の形態1に係るめっき液循環ユニット140が実行するめっき液温度調整処理について説明する。めっき液温度調整処理は、めっき層形成装置110に供給されるめっき液の温度を所定の温度に調整する処理である。
まず、指示受付部1491は、ユーザから銀めっき液の温度に関する指示を受け付ける(ステップS101)。ユーザが指示受付部1491に銀めっき液の設定温度を指示してもよく、指示受付部1491がユーザの指示に基づいて記憶部1494に記憶された銀めっき液の設定温度に関するデータを読み込んでもよい。例えば、屋外の変電所に設置された断路器の固定接触子11に銀めっきを施す場合、銀めっき液の温度は約35℃以上であることが望ましい。
ステップS101において指示を受け付けると、温度調整部1495aは、ステップS101で決定した設定温度を目標としてヒータ148の動作を開始する(ステップS102)。
次に、温度調整部1495aは、温度センサ147から現時点におけるめっき液貯蔵槽142内部の銀めっき液の温度を取得する(ステップS103)。
次に、温度調整部1495aは、ステップS103にて測定されためっき液貯蔵槽142内部の銀めっき液の測定温度がステップS101で設定された銀めっき液の設定温度よりも高いかどうかを判定する(ステップS104)。
めっき液貯蔵槽142内部の銀めっき液の測定温度が銀めっき液の設定温度よりも高い場合(ステップS104;YES)、温度調整部1495aは、ヒータ148の動作を停止させる(ステップS105)。
めっき液貯蔵槽142内部の銀めっき液の測定温度が銀めっき液の設定温度と同一か、それよりも低い場合(ステップS104;NO)、温度調整部1495aは、ヒータ148の動作を続行させつつ、図5のステップS106に進む。
ステップS105の処理を実行した後、または、ステップS104においてNOと判定された場合、温度調整部1495aは、ステップS104の判定から所定時間が経過したかどうかを判定する(ステップS106)。所定時間は、ユーザが任意に設定でき、例えば1秒に設定してもよい。
ステップS104の判定から所定時間が経過した場合(ステップS106;YES)、図5のステップS107に進む。ステップS104の判定から所定時間が経過していない場合(ステップS106;NO)、温度調整部1495aは、所定時間が経過するまで処理を待機する。
ステップS106においてYESと判定された場合、温度調整部1495aは、指示受付部1491がユーザからめっき液温度調整処理を中止する旨の指示を受け付けたかどうかを判定する(ステップS107)。ユーザは、例えば、指定された時間が経過すると、銀めっき層が所定の厚さになったと判断し、めっき液温度調整処理を中止する旨を指示受付部1491に指示する。指示受付部1491がめっき液温度調整処理を中止する旨の指示を受け付けた場合(ステップS107;YES)、温度調整部1495aは、めっき液温度調整処理を終了する。
温度調整部1495aがめっき液温度調整処理を中止する旨の指示を受け付けていない場合(ステップS107;NO)、温度調整部1495aは、処理をステップS103に戻す。そして、指示受付部1491がユーザからめっき液温度調整処理を中止する旨の指示を受け付けるまで、温度調整部1495aはステップS103〜S107の処理を繰り返す。これにより、めっき液貯蔵槽142の銀めっき液の温度は、ステップS101で設定された設定温度に維持される。以上のステップによりめっき液温度調整処理が終了し、銀めっき処理範囲に新たな銀めっき層が形成される。
なお、屋外でめっき補修作業を実施する場合に外気温が低下しているとき、めっき液循環ユニット140に流入するめっき液の温度が極端に低下することを防ぐことが望ましい。このため、このような場合には、例えば、めっき液回収受け槽120をホットガン等で適宜加温することにより、めっき液の温度の低下を抑制してもよい。
再び銀めっき補修方法の説明に戻り、銀めっき処理範囲に銀めっき層が形成された後、ユーザは、回収用チューブ131を筐体141の接続部141fから接続部141gに付け替える。これにより、めっき液回収受け槽120は、回収用チューブ131を介してめっき液循環ユニット140の洗浄液回収槽145に接続される。
次に、ユーザは、銀めっき処理範囲を洗浄液で洗浄する。銀めっき処理範囲の洗浄は、ユーザがじょうろ等を用いて銀めっき処理範囲の上方から洗浄液をかけることにより行われる。洗浄液は、例えば純水である。銀めっき処理範囲にかけられた洗浄液は、めっき液回収受け槽120にて受け止められ、めっき液循環ユニット140の洗浄液回収槽145に回収される。
次に、銀めっき処理範囲の洗浄後、ユーザは、銀めっき処理範囲の周辺のマスキングを剥がす。このとき、銀めっき処理範囲の周辺にマスキングされたアルミテープ上に形成された銀めっき箔は、固定接触子11上に形成された銀めっき層の厚さを測定するために使用するため、廃棄せずに保管する。
次に、ユーザは、ナイロンパッドを用いて銀めっき処理範囲を研磨する。より詳細に説明すると、まず、粒度の粗いナイロンパッドを用いて銀めっき処理範囲の表面を研磨し、次いで、粒度の細かいナイロンパッドを用いて銀めっき処理範囲の表面を研磨する。これにより、銀めっき表面の平滑性を向上させ、光沢のある銀めっき層を形成できる。
最後に、ユーザは、テスター等を用いて銀めっきが研磨された固定接触子11の抵抗値を測定し、さらに、採取した銀めっき箔を用いて銀めっきの厚さを測定する。固定接触子11の抵抗値が所定の範囲内であり、銀めっきの厚さが所定の厚さ以上である場合、銀めっき処理範囲が適切に補修されたと判断し、銀めっき補修作業を終了させる。固定接触子11の抵抗値が所定の範囲内でない場合、又は、銀めっきの厚さが所定の厚さ以下である場合、銀めっき処理範囲の周辺に再度マスキングを行い、めっき処理システム1を用いて銀めっき処理範囲に銀めっき層を形成する。
上記の銀めっき補修作業では、アルミテープ上に形成された銀めっき箔を用いて銀めっき層の厚さを測定していた。以下、図6を参照して、その具体的な方法を説明する。
図6は、固定接触子11の表面に形成された銀めっき層の厚さを測定する方法の流れを示す図である。銀めっき層の厚さを測定するためは、ユーザは、まず図6(a)に示すように、固定接触子11の銅材にケレンを施し、次いで、図6(b)に示すように、アルミテープ(アルミマスキングテープ)で銀めっき処理範囲(銀めっきエリア)を露出するように銅材をマスキングする(マスキング工程)。次に、図6(c)に示すように、マスキングされた銅材に銀めっきを施すと、アルミテープ上にも銀めっき箔が析出する。
次に、図6(d)に示すように、ユーザは、アルミテープから銀めっき箔を剥がす(剥離工程)。銀めっき箔はアルミニウムに密着しない性質を有するため、破れたり裂けたりせずにアルミテープから剥がすことができる。
次に、図6(e)に示すように、ユーザは、アルミテープから剥がした銀めっき箔の厚さをマイクロメータで測定する(測定工程)。このとき、銀めっき処理範囲にできるだけ近い部分(めっき有効エリア)を挟むようにして銀めっき箔の厚さを測定する。マイクロメータにより測定された銀めっき箔の厚さは、固定接触子11に形成された銀めっき層の厚さとほぼ一致する。このため、アルミテープから剥がした銀めっき箔の厚さを測定することにより、固定接触子11に形成された銀めっき層の厚さを簡単に測定できる。
以上説明したとおり、実施の形態1に係るめっき処理システム1は、対象物にめっき液と電流とを供給するめっき層形成装置110と、めっき層形成装置110に接続され、めっき層形成装置110から放出されためっき液を回収し、所定の温度に調整し、めっき層形成装置110に再び供給するめっき液循環ユニット140と、めっき層形成装置110に接続され、めっき層形成装置110に電流を供給する電源装置150と、を備える。このため、所望の場所で対象物に高品質なめっきを施すことができる。また、めっき処理の前後における、めっき対象物の取り外し及び取り付けの作業が不要となるため、めっき補修作業の効率化、めっき対象物の使用効率の向上を実現できる。
また、実施の形態1に係るめっき処理システム1では、めっき層形成装置110は、曲げ変形可能な柔軟なチューブ130を介してめっき液循環ユニット140に接続されている。このため、めっき層形成装置110は、ユーザによってめっき対象物である固定接触子11の任意の位置に移動可能であるため、ユーザがめっき層形成装置110を固定接触子11の表面に均等に擦り付けることにより、固定接触子11の表面には均一な厚さのめっき層が形成される。
さらに、実施の形態1に係るめっき処理システム1では、めっき液循環ユニット140は、空中車のバケットに設置可能なサイズにユニット化されている。このため、めっき液循環ユニット140は、空中車のバケットに載せた状態で、高所にあるパンタグラフ式断路器に取り付けられた固定接触子11に近づけて配置され得る。その結果、チューブ130の長さを短縮できるため、めっき処理システム1の取扱いが容易になると共に、めっき液の温度変化を抑制できる。
(実施の形態2)
図7〜図10を参照して、本発明の実施の形態2に係るめっき処理システム2について説明する。実施の形態1においては、めっき層形成装置110とめっき液回収受け槽120とは別体であったが、めっき層形成装置とめっき液回収受け槽とは一体に構成してもよい。実施の形態2に係るめっき処理システム2の基本的な構成は、実施の形態1に係るめっき処理システム1と同一であるため、以下、両者の異なる部分を中心に説明する。
また、実施の形態2では、可動接触子をパンタグラフ式断路器から取り外して、地上に設置されためっき処理システム2を用いて銀めっきを施す場合を例にして説明するが、めっきを施す対象物はパンタグラフ式断路器の可動接触子に限られず、めっきも銀めっきに限られない。
図7は、めっき処理システム2の全体的な構成を示す図である。めっき処理システム2は、めっき層形成装置210と、支持フレーム220と、洗浄液回収容器230と、を備える。めっき層形成装置210は、可動接触子12に銀めっき液と電流とを供給して可動接触子12の表面に銀めっきを施す。
支持フレーム220は、地面に設置され、上部にめっき層形成装置210を支持する支持部材である。支持フレーム220は、矩形状の底面部と、底面部の四隅に配置され、底面部から上方に延びる長尺な4本の延出部と、延出部の上端部に支持され、めっき層形成装置210を着脱自在に設置する設置部と、を備える。
洗浄液回収容器230は、めっき層形成装置210から放出された洗浄液を回収する容器である。洗浄液回収容器230は、支持フレーム220の底面部に設置され、チューブを介してめっき層形成装置210に接続されている。
図8は、めっき層形成装置210の平面図であり、図9は、図8のめっき層形成装置210をA−A線で矢視した断面図である。理解を容易にするために、図8では、可動接触子12の図示を省略している。可動接触子12は、長手方向に細長い部材であり、図9に示すように横断面がL字状に形成されている。
めっき層形成装置210は、可動接触子12に銀めっき液と電流を供給することにより、可動接触子12に銀めっきを施すめっき液処理槽211と、銀めっきが施された可動接触子12を洗浄した洗浄液を回収する洗浄液処理槽212と、を備える。めっき液処理槽211と洗浄液処理槽212とは、互いに隣接して配置されている。
洗浄液処理槽212は、可動接触子12に合わせて細長い形状に形成された容器である。洗浄液処理槽212の底面部には、洗浄液を回収するための回収用チューブ131が接続される接続部212aが設けられている。また、洗浄液処理槽212には、可動接触子12が設置可能な設置部212bが設けられている。設置部212bは、水平方向に延びる細長部材であり、底面部との間に隙間を形成するように側面部の両側に支持されている。
めっき液処理槽211は、めっき液回収受け槽213と、めっき液供給槽214と、電極板215と、金属メッシュ216と、を備える。めっき液回収受け槽213は、めっき液供給槽214から流出するめっき液を回収する。めっき液供給槽214は、めっき液回収受け槽213の内部に設けられ、電極板215の表面にめっき液を吐出(噴出を含む)する。電極板215は、めっき液供給槽214の上部に設置され、その上面部に金属メッシュ216が設置されている。
以下、めっき液処理槽211の各構成を説明する。めっき液回収受け槽213は、最も外側に配置された容器であり、その底面部に回収用チューブ131が接続される接続部213aが設けられている。
図10は、図8のめっき層形成装置210をB−B線で矢視した断面図である。図10に示すように、めっき液回収受け槽213の側面部には、水平方向に延び、めっき液供給槽214の底面部を支持する複数の支持部材213bが形成されている。
図8、図9に戻り、めっき液供給槽214は、底面部と、底面部から上方に延びる側面部と、を備える。めっき液供給槽214は、めっき液回収受け槽213の底面部との間に隙間を形成した状態で支持されている。めっき液供給槽214の側面部には、内部に銀めっき液を供給するめっき液供給ノズル214aが固定されている。めっき液供給ノズル214aには、供給用チューブ132が着脱自在に接続されている。なお、図9では、理解を容易にするために、本来、紙面に垂直な方向に延びるめっき液供給ノズル214aを横向きに図示すると共に、設置部212b及び支持部材213bの図示を省略している。
また、めっき液供給槽214は、その上部に電極板215を設置するための設置部214bを備える。めっき液供給槽214では、めっき液供給ノズル214aが設けられた側面部が反対側の側面部よりも上方に延びるように形成されている。これにより、金属メッシュ216上に設置された可動接触子12の転倒を防止すると共に、めっき液が電極板215上にスムーズに流れるように誘導する。
さらに、めっき液供給槽214は、その長手方向の両端側に可動接触子12の両端部を設置する設置部を備える。めっき液供給槽214の設置部は、可動接触子12が設置されたとき、可動接触子12と金属メッシュ216との間に約2mm〜約5mmの隙間を形成するように構成されている。これにより、可動接触子12と金属メッシュ216とが接触してショートを引き起こすことを防止できる。
電極板215は、可動接触子12に電流を供給する電極である。電極板215は、例えば、電気伝導性を有するカーボン板である。電極板215は、めっき液供給槽214の上部に設けられた設置部214bの上に設置される。電極板215は、めっき液供給槽214よりも小さく形成されている。このため、電極板215を設置部214bに設置したとき、めっき液供給ノズル214aが固定された側面部と電極板215の端部との間には、めっき液が吐出可能な隙間217が形成される。
電極板215は、電線160を介して電源装置150の陽極に接続され、可動接触子12は、電線160を介して電源装置150の陰極に接続されている。これにより、電源装置150を作動させたとき、電極板215と可動接触子12との間には電圧が印加される。
金属メッシュ216は、金属メッシュ114と同様の構成であり、電極板215の上に設置されている。金属メッシュ216は、電極板215の表面で発生した水素ガス等の気泡を除去する。また、金属メッシュ216は、電極板215と可動接触子12の間にめっき液が通過するための空間を形成する。
めっき層形成装置210は、上記のように構成されているため、めっき液供給ノズル214aから供給されためっき液は、図9の矢印で示すように、めっき液供給槽214と電極板215とで囲まれた空間を満たし、めっき液供給槽214と電極板215との間の隙間217から徐々に上方に流出する。電極板215の上に流出しためっき液は、金属メッシュ216によって形成された可動接触子12と電極板215との間の隙間を流れる。このとき、電極板215から金属メッシュ216及びめっき液を介して可動接触子12へと電流を印加すると、可動接触子12の底面部に銀めっき層が形成される。次いで、めっき液はめっき液供給槽214からこぼれてめっき液回収受け槽213に流出し、回収用チューブ131を介してめっき液循環ユニット140に回収される。
その後、ユーザは、回収用チューブ131を接続部213aから接続部212aに付け替え、銀めっきが施された可動接触子12を洗浄液処理槽212に移動させる。そして、ユーザは、洗浄液処理槽212に設置された可動接触子12の上方から洗浄液をかけることにより、銀めっき液を洗い流す。以上の工程により、めっき処理システム2を用いた銀めっき補修作業が終了する。
以上説明したように、実施の形態2に係るめっき処理システム2においては、対象物を内部に設置可能であり、設置された対象物の少なくとも一部にめっき液を吐出しながら電流を供給するめっき液処理槽211を備え、めっき液処理槽211は、めっき液を回収してめっき液循環ユニット140に供給するめっき液回収受け槽213を備える。このため、屋外等でめっき処理を実施するための準備が容易であると共に、対象物に高品質なめっきを施すことができる。
(実施の形態3)
図11、図12を参照して、本発明の実施の形態3に係るめっき処理システムについて説明する。実施の形態1、2に係るめっき処理システム1、2では、1つの対象物にめっき層を形成していたが、互いに形状の異なる複数の対象物にめっき層を形成してもよい。実施の形態3に係るめっき処理システムの基本的な構成は、実施の形態1、2に係るめっき処理システム1、2と同一であるため、以下、両者の異なる部分を中心に説明する。
実施の形態3では、水平二点切断路器のブレード及びフィンガーに同時に銀めっきを施す場合を例にして説明するが、めっきを施す対象物は水平二点切断路器のブレード及びフィンガーに限られず、めっきも銀めっきに限られない。
図11は、めっき層形成装置310の平面図であり、図12は、図11のめっき層形成装置310をC−C線で矢視した断面図である。図11では、理解を容易にするために、めっき対象物であるブレード13及びフィンガー14の図示を省略している。めっき層形成装置310は、水平二点切断路器のブレード13にめっき処理を施す第1のめっき液処理槽311と、水平二点切断路器のフィンガー14にめっき処理を施す第2のめっき液処理槽312と、を備える。第1のめっき液処理槽311と第2のめっき液処理槽312とは、互いに隣接して配置されている。
第1のめっき液処理槽311及び第2のめっき液処理槽312は、それぞれ実施の形態2に係るめっき液処理槽211と同様の構成を有しているが、略平板形状のブレード13の両側端部とフィンガー14の二叉部の内側面とに銀めっきを施すために、実施の形態2に係るめっき液処理槽211とは、めっき液供給槽及び電極板の構造、配置等が異なっている。
第1のめっき液処理槽311は、めっき液回収受け槽313と、めっき液供給槽314と、ブレード13を横向きに設置する設置部315と、電極板316と、を備える。
以下、第1のめっき液処理槽311の各構成を説明する。めっき液回収受け槽313は、回収用チューブ131が接続され、めっき液を回収用チューブ131に供給する接続部313aを備える。また、めっき液回収受け槽313は、その側面部に、水平方向に延び、めっき液供給槽314の底面部を支持する複数の支持部材313bが形成されている。
めっき液供給槽314は、供給用チューブ132が接続され、めっき液を供給用チューブ132から受け取り、めっき液供給槽314内にめっき液を供給するめっき液供給ノズル314aを備える。
設置部315は、めっき液供給槽314の底面部から上方に延びる支持脚315aと、支持脚315aの先端部に設けられ、ブレード13を設置可能な設置台315bと、を備える。
電極板316は、ブレード13に電流を供給する電極であり、例えば、金属メッシュ又は金属メッシュを重ねた束により形成されている。電極板316として金属メッシュを重ねた束を用いることにより、電極板316の表面積を増やすことができるため、めっきの析出効率を向上させることができる。電極板316は、めっき液供給槽314の両側の側面部に、設置部315を挟むように設けられている。2つの電極板316は、電線160を介して電源装置150に接続され、陽極として機能する。設置部315の上に設置されたブレード13は、電線160を介して電源装置150に接続され、陰極として機能する。
電極板316は、それぞれめっき液回収受け槽313の側面側に形成された電極板係止部316aにより着脱自在に固定されている。電極板係止部316aは、めっき液回収受け槽313の底面部から上方に延び、めっき液回収受け槽313の側面部と共に電極板316を挟み込むように構成されている。
第2のめっき液処理槽312は、第1のめっき液処理槽311と同様の構成を備えているが、第1のめっき液処理槽311とは異なり、底面部に設置部315を備えていない。フィンガー14は、第2のめっき液処理槽312の底面部に、二叉状の電極片を下向きにして設置される。
また、第2のめっき液処理槽312は、めっき液供給槽314の中心部を長手方向に延びる電極板317を備える。電極板317は、第1のめっき液処理槽311の場合と同様に、例えば、金属メッシュ又は金属メッシュを重ねた束により形成されている。電極板317は、電線160を介して電源装置150に接続され、陽極として機能する。第2のめっき液処理槽312の底面部に設置されたフィンガー14は、電線160を介して電源装置150に接続され、陰極として機能する。フィンガー14は、電極板317を挟み込むようにしてめっき液供給槽314の底面部に設置される。
電極板317は、第2のめっき液処理槽312の底面部から上方に延びる電極板係止部317aに両端を着脱自在に固定される。電極板係止部317aは、上方から観察してコの字状に形成されており、電極板317の長手方向の両端部を挟み込むことで、電極板317を所定の位置に配置する。また、電極板317は、電極板係止部317aから抜け出ることがないように、その上部を抑え部材318によって押さえつけられている。抑え部材318は、めっき液供給槽314の両側面部に設けられた抑え部材係止部318aによって所定の位置に係止されている。
めっき層形成装置310は、上記のように構成されているため、図12の矢印で示すように、第1のめっき液処理槽311及び第2のめっき液処理槽312のそれぞれにおいて、めっき液供給ノズル314aからめっき液供給槽314の内部にめっき液が供給される。この状態で電極板316、317とブレード13及びフィンガー14との間に電圧が印加されると、ブレード13及びフィンガー14に銀めっき層が形成される。そして、めっき液供給槽314からあふれためっき液は、めっき液回収受け槽313にて受け止められ、さらに回収用チューブ131を介してめっき液循環ユニット140にて回収される。
以上説明したように、実施の形態3に係るめっき処理システムにおいては、互いに形状の異なる複数の対象物をそれぞれ設置可能な複数のめっき液処理槽311、312を備えるため、形状の異なる対象物に一度にめっきを施すことができる。このため、めっき補修作業の効率化を実現できる。
(実施例)
実施の形態1、2に係るめっき処理システム1、2をそれぞれ用いて、パンタグラフ式断路器の固定接触子11及び可動接触子12に銀めっき層を形成した。そして、固定接触子11及び可動接触子12に形成された銀めっき層の厚さと密着性について検証を行った。
まず、図13を参照して、実施の形態1に係るめっき処理システム1を用いた銀めっき補修作業の一例を説明する。図13は、固定接触子11の欠損した銀めっきの補修作業の流れを示す図である。図13(a)は、固定接触子11の銀めっき補修部分を露出するように、銀めっき補修部分の周囲にアルミマスキングテープ(アルミテープ)とマスキングテープを貼り付けた様子を示す。固定接触子11は、断路器に取り付けられたままの状態であり、ユーザは空中車のバケットに乗ったまま作業を進めた。
図13(b)は、空中車のバケットに乗ったユーザが図2に示すようなめっき電極(めっき層形成装置)を把持して、めっき電極を銀めっき補修部分に擦りつけながら上下左右に動かしている様子を示す。めっき電極から銀めっき液と電流とが供給されることにより、銀めっき補修部分に銀めっきが徐々に析出した。図13(b)では、めっき液がめっき電極の下側にこぼれている様子を確認することができる。
図13(c)は、空中車のバケットに乗ったユーザが、アルミマスキングテープとマスキングテープを剥がして、銀めっき補修部分を研磨した後の様子を示す。固定接触子11の欠損した銀めっきが光沢を帯び、外観上、銀めっきが問題なく補修されたことを確認できる。なお、可動接触子12についても、実施の形態2に係るめっき処理システム2を用いて同様に銀めっき補修作業を実施した。
次に、上記の銀めっき補修作業により固定接触子11及び可動接触子12に形成された銀めっき層の厚さを検証した結果を示す。
本検証では、マスキング用のアルミテープに析出した銀めっき箔を採取し、マイクロメータを用いて厚さの測定を行うことにより、固定接触子11及び可動接触子12に形成された銀めっきの厚さを測定した。銀めっき箔の厚さの測定には、株式会社ミツトヨ製のNo.422−411のマイクロメータを使用した。アルミテープ上に析出した銀めっき箔の厚さは、いずれも目標とする100μmを下回ることがなく、良好な結果が得られた。
また、アルミテープ上に析出した銀めっき箔の厚さと、固定接触子11及び可動接触子12に形成された銀めっき層の厚さの理論値と、を比較した。固定接触子11及び可動接触子12に形成された銀めっき層の厚さの理論値は、めっき面積、電流値、めっき処理に要した時間、めっき液の温度等に基づいて算出した。算出された銀めっきの厚さの理論値は、マイクロメータを用いた銀めっき箔の厚さの測定値とほぼ一致した。このことから、アルミテープ上に析出した銀めっき箔の厚さをマイクロメータで測定することにより、めっき対象物に形成されためっき層の厚さを簡単に測定できることを確認できた。
次に、上記の銀めっき補修作業により固定接触子11及び可動接触子12に形成された銀めっき層の密着性を検証した結果を示す。
本検証では、JIS H 8504密着性試験に基づいたテープ試験方法を用いた検証を行った。テープ試験で使用する粘着テープはJIS Z 1522に適合した適合品を用いた。具体的には、粘着テープとしてニチバン製セロテープ(登録商標)No.405(呼び幅18mm)を用いた。
固定接触子11及び可動接触子12に形成された銀めっき層にテープを貼り付け、剥がした粘着テープの粘着面の様子を目視で確認したところ、いずれのテープにも銀めっきは付着しておらず、固定接触子11及び可動接触子12に形成された銀めっき層の密着性が良好であることを確認できた。上記の検証により、本発明のめっき処理システム及びめっき処理方法では、めっき対象物に適切な厚さで密着性の良好なめっきを施すことができることを確認できた。
そして、本発明はこれに限られず、以下に述べる変形も可能である。
(変形例)
上記実施の形態においては、めっき液循環ユニット140、電源装置150が別々の装置であったが、本発明はこれに限定されない。例えば、めっき液循環ユニット140、電源装置150を一体に構成してもよい。
上記実施の形態においては、固定接触子11とカーボン板からなる電極板113との間に印加された電圧により、銀めっき液に溶け込んでいる銀イオンが固定接触子11に移動して銀めっき層を形成していたが、本発明はこれに限られない。例えば、電極板113を銀から形成し、めっき液供給ノズル112から銀イオンを含まないめっき液を供給することにより、固定接触子11上に銀めっきを施してもよい。
上記実施の形態においては、めっき液循環ユニット140の内部に洗浄液回収槽145が設けられていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、洗浄液回収槽145をめっき液循環ユニット140の外部に別体で配置してもよい。また、めっき液循環ユニット140は、洗浄液回収槽145を備えている場合であっても、洗浄液回収槽145とは異なる洗浄液回収容器に洗浄液を回収してもよい。
上記実施の形態においては、めっき層形成装置110の電極板113としてカーボン板が設けられていたが、本発明はこれに限定されない。めっき層形成装置110の電極板113としては、電気伝導性があり、耐腐食性を有する材料であれば、いかなる材料で構成してもよく、例えば、銅、アルミニウム合金から構成してもよい。
上記実施の形態においては、めっき液貯蔵槽142のめっき液の温度調整手段としてヒータ148のみを用いていたが、本発明はこれに限られない。例えば、めっき液貯蔵槽142にめっき液を冷却するクーラーを併設してもよい。温度調整手段としてヒータ148とクーラーを併設した場合、めっき液貯蔵槽142のめっき液をより正確に所定の温度に維持できる。
上記実施の形態においては、温度センサ147、ヒータ148、制御装置149がユニット化されてめっき液循環ユニット140を構成していたが、本発明はこれに限られない。例えば、制御装置149は、めっき液循環ユニット140から離れた場所に設置し、有線又は無線の通信回路を介してめっき液循環ユニット140とデータの送受信を行うようにしてもよい。
上記実施の形態においては、温度センサ147、ヒータ148は、めっき貯蔵槽142に固定されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、温度センサ147、ヒータ148の少なくとも一つをチューブ130の途中に設置してもよい。
上記実施の形態においては、めっき処理システム1、2は、一つのめっき層形成装置110、210、310を備えていたが、本発明はこれに限られない。例えば、めっき処理システム1、2は、複数の回収用チューブ131及び複数の供給用チューブ132のそれぞれに接続された複数のめっき層形成装置110、210、310を備えていてもよい。
上記実施の形態においては、測定温度と設定温度との大小に基づいてヒータ148をオンオフする制御を行っていたが、本発明はこれに限られない。例えば、測定温度と設定温度との差分を偏差eとしたとき、以下の式(1)を満たすようにヒータ148に電力Pを供給するPID(Proportional-Integral-Differential)制御を行ってもよい。k1、k2、k3は定数である。
P=k1・e+k2・∫edt+k3・de/dt …(1)
上記実施の形態においては、指示受付部1491がユーザから指示されためっき液貯蔵槽142のめっき液の設定温度を受け付けていたが、本発明はこれに限られない。例えば、記憶部1494は、めっき液の粘度、流量、電気化学当量、めっき範囲の面積、めっき層形成装置に印加される電流値、外気温等に応じて予め設定されためっき液の設定温度を記憶する設定温度データベースを備えていてもよい。
上記変形例に関連して、制御部1495は、指示受付部1491が受け付けた指示(例えば、めっき液の粘度、電気化学当量、めっき範囲の面積、めっき層形成装置に印加される電流値等)、温度センサ147が測定しためっき液の温度データ、流量測定部が測定しためっき液貯蔵槽142からのめっき液の流出量データ等に基づいて、設定温度データベースに記憶された設定温度を読み出し、読み出した設定温度をめっき槽のめっき液の設定温度として設定する温度設定部を備えていてもよい。
上記実施の形態においては、制御装置149は記憶部1494に記憶されたプログラムに基づいて動作していたが、本発明はこのようなものに限定されない。例えば、プログラムにより実現された機能的な構成をハードウェアにより実現してもよい。
上記実施の形態においては、めっき液温度調整処理を実行するプログラムは、制御装置149の内部に設けられた記憶部1494に記憶されていたが、本発明はこのようなものに限定されない。例えば、その全部又は一部がLAN(Local Area Network)等を介して外部サーバ、コンピュータ等に記憶されてもよい。
上記実施の形態においては、めっきを施す対象物としてパンタグラフ式断路器の固定接触子11、可動接触子12、水平二点切断断路器のブレード13及びフィンガー14を例示していたが、本発明はこれに限られない。本発明のめっき処理システム、めっき処理方法を用いて、あらゆる対象物に対してめっきを施すことができる。
上記の実施形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。