以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して能動型防振装置10の構造について説明する。図1は本発明の一実施の形態における能動型防振装置10の軸方向断面図であり、図2は可動部材の模式図である。なお、図1では、エンジンを支持する前の状態(即ち、エンジンの重量が負荷される前の状態)を図示している。
能動型防振装置10は、自動車のエンジン(振動体、図示せず)を支持固定しつつ、そのエンジン振動を車体フレーム(図示せず)へ伝達させないようにするための防振装置であり、図1に示すように、エンジン側に取り付けられる第1取付具11と、エンジン下方の車体フレーム側に取付けられる筒状の第2取付具12と、これらを連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体15と、第2取付具12に取付けられて防振基体15との間に液室17を形成すると共にゴム状弾性体から構成されるダイヤフラム18と、ダイヤフラム18に連結される駆動軸42を有すると共にダイヤフラム18を挟んで液室17と反対側に配設されるアクチュエータ40と、アクチュエータ40の駆動軸42により軸方向へ加振変位されるピストン部材30と、ピストン部材30が挿通される挿通孔20を有する仕切板19とを備えている。
第1取付具11は、アルミニウム合金などの金属材料から略円柱状に形成され、その上端面には、内周面にめねじが形成された孔部が凹設されている。第2取付具12は、防振基体15が加硫成形される筒状金具13と、その筒状金具13の下方にかしめ加工により固着される底金具14とを備えている。筒状金具13は上広がりの開口を有する筒状に、底金具14は底部を有するカップ状に、それぞれ鉄鋼材料などから形成されている。底金具14の底部には、取付けボルトが突設されている。
防振基体15(弾性体)は、ゴム状弾性体から円錐台形状に形成され、第1取付具11の下面側と筒状金具13の上端開口部との間に加硫接着されている。防振基体15の下端部には、筒状金具13の内周面を覆うゴム膜16が連なっており、このゴム膜16に仕切板19の外周縁が密着されることで、仕切板19とゴム膜16との間にオリフィス21が形成される。
ダイヤフラム18は、ゴム状弾性体から蛇腹状に屈曲したゴム膜として形成されており、上面視円環状の取付け板23に外周が加硫接着され、軸状の軸状部材44に内周が加硫接着されている。軸状部材44は、径方向外方へ向けてフランジ状に張り出す張出部24が、ダイヤフラム18と一体に成形されると共に外周面に加硫接着されている。ダイヤフラム18は、取付け板23が、底金具14により筒状金具13と共にかしめ加工により狭持固定されることで、第2取付具12に取着される。その結果、ダイヤフラム18の上面側と防振基体15の下面側との間に液室17が形成される。液室17には、エチレングリコール等の不凍性の液体(図示せず)が封入される。
仕切板19は、樹脂材料から円板状に形成される部材である。仕切板19が防振基体15とダイヤフラム18との間に配設されることで、液室17が防振基体15側の第1液室17aとダイヤフラム18側の第2液室17bとの2室に仕切られる。なお、仕切板19は、軸心O方向に沿って穿設された挿通孔20を備える。挿通孔20にピストン部材30が挿通され、ピストン部材30が第1液室17a及び第2液室17bを仕切る区画壁(壁面)の一部を形成している。また、仕切板19は、ダイヤフラム18の取付け板23と防振基体15の膜部16に形成された段部との間で挟圧保持される。
仕切板19は、外周側に、径方向外向きに開かれた断面コの字状をなすオリフィス形成部22が形成され、オリフィス形成部22の内周側(軸心O側)に、ダイヤフラム18及びピストン部材30を収納するための、下方に開かれた空間が形成されている。オリフィス形成部22は、筒状金具13の内周を覆うゴム膜16に密着することで、断面略矩形状のオリフィス21を形成する。オリフィス形成部22は、オリフィス形成部22の上側の壁部に凹欠形成される切欠き部(図示せず)と、オリフィス形成部22の胴部に開口形成される開口部(図示せず)と、オリフィス形成部22の上下の壁部および胴部を接続する縦壁(図示せず)とを備える。オリフィス21は、縦壁により周方向に分断され、切欠き部を介して第1液室17aに連通されると共に、開口部を介して第2液室17bに連通される。即ち、本実施の形態では、切欠き部から開口部まで約半周の流路長を持つオリフィス流路として、オリフィス21が形成される。
ピストン部材30(可動部材の一部)は、ゴム状弾性体から略円柱状に形成される部材であり、軸状部材44の先端にねじ33で固定されている。ピストン部材30は、径方向外方へ向けて張り出す張出部31が、外周面に形成されている。ピストン部材30及び軸状部材44は、第2取付具12の軸心Oに沿って(本実施の形態では同軸に)縦姿勢に配設されている。ピストン部材30は、駆動軸42を介してアクチュエータ40の駆動力が伝達されることで、液室17内で軸心O方向に加振変位される。これにより液室17の容積を変化させ、液圧制御が行われる。なお、軸状部材44は、駆動軸42の一部をなす部材であり、可動子43(後述する)と共に駆動軸42を構成する。
ピストン部材30は、軸心O方向上端および下端に、張出部31,24が径方向外方へ向けてフランジ状に張り出して設けられている。張出部31は第1液室17a側に配設される部位であり、張出部24は第2液室17b側に配設される部位である。張出部31,24の直径は、挿通孔20の内径よりも大きくされている。よって、ピストン部材30のアクチュエータ40へ近接する方向への変位が所定量以上に達した場合には、張出部31が仕切板19の上面に当接することで、ピストン部材30の変位が規制される。また、ピストン部材30の防振基体15へ近接する方向への変位が所定量以上に達した場合には、張出部24が仕切板19の下面に当接することで、ピストン部材30の変位が規制される。
アクチュエータ40は、鉄心可動形の電磁石式のリニアアクチュエータであり、底金具14により形成される収納空間に外部から密閉された状態で収納保持されている。アクチュエータ40は、第2取付具12に固定された固定子41と、固定子41に対して往復動可能に支持されると共にピストン部材30に連結される可動子43とを備える。可動子43は、第2取付具12の軸心Oに沿って(本実施の形態では同軸に)縦姿勢に配設された軸状の部材であり、その先端部が、ピストン部材30に取り付けられた軸状部材44に同軸に連結され、可動子43と軸状部材44とが一体となってピストン部材30を軸心O方向に沿って上下に加振変位(往復動)させる。
駆動軸42(可動部材の一部)は、可動子43と軸状部材44とボルトとを備えて構成される。可動子43は、軸心Oに沿って貫通孔を有する筒状に形成される一方、軸状部材44は、基端側に開口し内周面にめねじが形成されためねじ部を備え、可動子43の基端側から挿通されたボルトの先端を軸状部材44のめねじ部に螺合することで、可動子43と軸状部材44とが一体に連結され、駆動軸42が構成される。
可動子43は、外周面に、電磁鋼板等の磁性金属よりなる多数の金属板を積層してなる可動子鉄心としての磁性材部45(可動部材の一部)が固設される。磁性材部45は、軸心O方向に所定間隔を隔てつつ複数個(本実施の形態では2個)が設けられている。可動子43は、上下一対の弾性支持材である板バネ46を介して、固定子41に対して、軸心O方向に往復動可能に、かつ、軸心O方向位置および軸心Oの直交方向位置を位置決めした状態に支持されている。
固定子41は、可動子43の外周を同軸に取り囲む環状をなし、その中空部において可動子43を軸心O方向に往復動可能に支持しており、取付け板25によって底金具14内に吊り下げ状態に保持されている。取付け板25は、筒状金具13及びダイヤフラム18の取付け板23と共に底金具14によりかしめ固定されている。
固定子41は、電磁鋼板等の磁性金属よりなる多数の環状の金属板を積層してなるヨーク47と、ヨーク47の中央部において磁性材部45を挟んで相対向するように両側より径方向内方に向かって突出する一対の磁極部48を備える。
磁性材部45に対向する固定子41の磁極部48の先端(即ち、磁極部48の内端)には、可動子43の往復動方向(軸心O方向)に沿って隣り合った状態に並設されつつ可動子43に対向する上下一対の円弧板状をなす永久磁石50,51が、それらの磁極が互いにNS交互の異極をなすように、可動子43の往復移動方向と直交する方向に磁極を並べて、かつ、互いの磁極(N極とS極)の並びが逆となる状態に配設されている。本実施の形態では、上下一対の永久磁石50,51が、磁性材部45に対応させて、軸心O方向に2組が並設されている。
固定子41の一対の磁極部48には、それぞれその周りにコイル52が、可動子43の往復動方向(軸心O方向)と直交する方向の軸心周りに巻回され、一対の永久磁石50,51を通る磁束が発生可能に構成されている。本実施の形態では、一対の永久磁石50,51が、磁性材部45を挟んで対向する固定子41の一対の磁極部48の内端部にそれぞれ設けられており、各永久磁石50,51は、可動子43の往復動方向と直交する方向で可動子43を挟んで対向すると共に、この対向する磁極が互いに異極をなすように磁極の並びを左右(図1左右)で逆にして配設されている。
アクチュエータ40のコイル52が消磁状態にあるとき、板バネ46により固定子41に対して軸心O方向へ変位可能に支持された駆動軸42は、ピストン部材30及び駆動軸42の重量と板バネ46の弾性力とが釣り合う位置に停止する。この状態からコイル52に正方向の励磁電流を流すと、コイル52に発生する起磁力の向きと上側の永久磁石50の起磁力の向きとが同一となって、起磁力が強まる。一方、下側の永久磁石51の起磁力の向きとコイル52の起磁力の向きが反対になって、両者の起磁力が相殺されて弱まる。その結果、磁性材部45に上向きの力が作用して、板バネ46を弾性変形させながら可動子43が上昇する。可動子43に結合されたピストン部材30が上方へ移動するので、第1液室17aの容積が減少する。
一方、コイル52に逆方向の励磁電流を流すと、上記とは反対に、磁性材部45に下向きの力が作用して、板バネ46を弾性変形させながら可動子43が下降する。可動子43に結合されたピストン部材30が下方へ移動するので、第1液室17aの容積が増加する。このように、コイル52の励磁電流の向きを正逆に交互に切り替えることで、駆動軸42及びピストン部材30を上下に往復動させて第1液室17aの容積を変化させることができる。
なお、アクチュエータ40のコイル52が消磁状態にあるとき、第1取付具11に荷重が入力され防振基体15が弾性変形して第1液室17aの内圧が上昇すると、ピストン部材30及び駆動軸42は、アクチュエータ40側へ押される(下降する)。第1液室17aの内圧の上昇によってピストン部材30に生じる推力(第1液室17aから押し出される力)とその推力によって生じるピストン部材30の変位量との比であるばね定数と、ピストン部材30及び駆動軸42の質量とにより(図2参照)、ピストン部材30及び駆動軸42の固有振動数は決定される。このばね定数は、主に板バネ46によって決定されるが、ピストン部材30を挿通孔20において仕切板19と干渉させることにより調整することができる。ピストン部材30のねじ33や駆動軸42の質量は比較的容易に調整できる(質量を変えられる)ので、固有振動数の調整を比較的容易にできる。
この固有振動数は、アクチュエータ40を駆動して防振機能を発揮させる振動の周波数帯域内に設定されている。本実施の形態では、この固有振動数は、アクチュエータ40を駆動して防振機能を発揮させる振動の周波数帯域より狭い30Hz〜100Hzの範囲内に設定されている。
以上のように構成された能動型防振装置10(図1参照)の製造方法について説明する。第1取付具11と第2取付具12(筒状金具13)とが防振基体15により連結された第1成形体と、ダイヤフラム18及び張出部24が一体に成形されると共に取付け板23及び軸状部材44が加硫接着された第2成形体と、ピストン部材30とを、ゴム加硫金型によりそれぞれ加硫成形する。ゴム加硫金型による加硫成型の後は、まず、仕切板19に第2成形体を組み付けて中間組立体を組み立てる。具体的には、仕切板19と第2成形体とを液体中に沈め、仕切板19の挿通孔20へピストン部材30を挿入し、ねじ33でピストン部材30を軸状部材44に固定する。
次いで、第1成形体も液体中に沈め、第1成形体の下方開口から中間組立体を仕切板19側から筒状金具13内へ挿入し、第1組立体を液体中で組み立てる。その後、第1組立体を第1取付具11が下方となる姿勢で液体外へ取り出し、この姿勢を維持しつつ、アクチュエータ40をダイヤフラム18の下面側から重ね、軸状部材44と可動子43とをボルトにより締結固定する。そして、底金具14をアクチュエータ40に被せ、筒状金具13の下方開口に底金具14をかしめ加工により固着する。これにより能動型防振装置10の製造が完了する。
次に図3を参照して能動型防振装置10の電気的構成について説明する。図3は能動型防振装置10の電気的構成を示したブロック図である。図3に示すように能動型防振装置10のアクチュエータ40はECU60(Electronic Control Unit)により制御される。ECU60は、CPU61、ROM62及びRAM63を備え、それらがバスライン64を介して入出力ポート65に接続されている。入出力ポート65には、クランクパルスセンサ71等の装置が接続されている。
CPU61は、バスライン64により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM62は、CPU61により実行される制御プログラム(例えば図4から図6に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。RAM63は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。
クランクパルスセンサ71は、エンジンのクランクシャフトの回転に伴って出力されるクランクパルスを検出するセンサであり、検出結果を処理してCPU61に出力する出力回路(図示せず)を備えている。TDCパルスセンサ72は、エンジンの各気筒の上死点(TDC:Top Dead Center)パルスを検出するセンサであり、検出結果を処理してCPU61に出力する出力回路(図示せず)を備えている。
駆動回路73は、アクチュエータ40のコイル52(図1参照)に電流を通電するスイッチング回路である。電流センサ74は、コイル52に実際に流れる電流を検出するセンサであり、検出結果を処理してCPU61に出力する出力回路(図示せず)を備えている。電流アンプ75は、コイル52に通電する直流電流を増幅する装置である。
加速度センサ装置76は、自動車の前後方向の加速度(前後G)及び左右方向の加速度(横G)を検出するセンサであり、検出結果を処理してCPU61に出力する出力回路(図示せず)を備えている。CPU61は、加速度センサ装置76から入力された検出結果(前後G、横G)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、自動車の走行速度を取得する。
他の入出力装置77としては、エンジンのクランクシャフトに取り付けられるセンサであってエンジンの回転数を検出すると共に検出結果をCPU61に出力する回転数センサ、アクセルペダル(図示せず)の操作量を検出すると共に検出結果をCPU61に出力するアクセルペダルセンサ、変速機のシフトポジションを検出すると共に検出結果をCPU61に出力するシフトポジションセンサ等が挙げられる。CPU61は、これらのセンサの検出結果から自動車の運転状態を判断することができる。
次に図4から図6を参照してACM処理について説明する。図4はACM処理のフローチャートであり、図5は拘束処理のフローチャートであり、図6は可動処理のフローチャートである。ACM処理は、ECU60の電源が投入されている間、CPU61によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、アクチュエータ40を制御して能動型防振装置10に防振機能を発揮させる処理である。
図4に示すように、CPU61はACM処理に関し、自動車の加速度(前後G)及び走行速度を取得し(S1,S2)、自動車の走行速度が所定の走行速度以上であるか否かを判断する(S3)。S3の処理では、S2の処理で取得した走行速度と、その走行速度に対応してROM62に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、走行中(停車中ではない)と判断される走行速度)とを比較する。
S3の処理の結果、自動車の走行速度が所定の走行速度以上であると判断される場合には(S3:Yes)、CPU61は、自動車の加速度が所定の加速度以下であるか否かを判断する(S4)。S4の処理では、S1の処理で取得した加速度と、その加速度に対応してROM62に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、定速走行であると判断される加速度)とを比較する。S4の処理の結果、自動車の加速度が所定の加速度以下であると判断される場合には(S4:Yes)、自動車は加速度の小さい定速走行をしていると判断されるので(S4:Yes)、CPU61は、アクチュエータ40に対して拘束処理(S5)を実行する。
これに対し、S3の処理の結果、自動車の走行速度が所定の走行速度未満であると判断される場合には(S3:No)、自動車は停車中(エンジン停止状態)かアイドル運転がされていると判断される。S4の処理の結果、自動車の加速度が所定の加速度を超えると判断される場合には(S4:No)、自動車は加速または減速がされていると判断される。これらの場合にCPU61は、アクチュエータ40に対して可動処理(S6)を実行する。
図5に示す拘束処理(S5)は、自動車が加速度の小さい定速走行をしている場合に実行される。自動車の定速走行に伴って低周波数(例えば7Hz〜20Hz)のエンジンシェイク振動が発生すると、エンジンから第1取付具11(図1参照)を介して入力される荷重で防振基体15が弾性変形して第1液室17aの容積が変化する。そうすると、オリフィス21を介して接続された第1液室17aと第2液室17bとの間で液体が行き来する。第1液室17aの容積が拡大・縮小すると、それに応じて第2液室17bの容積が縮小・拡大するが、この第2液室17bの容積変化は、ダイヤフラム18の弾性変形により吸収される。オリフィス21の形状および寸法、並びに防振基体15のばね定数は、エンジンシェイク振動の周波数領域で低ばね特性および高減衰力を示すように設定されているので、エンジンから車体へ伝達される振動を低減できる。
しかし、第1液室17aの容積変化による第1液室17aの内圧の変化に伴う推力によってピストン部材30が変位すると、ピストン部材30の変位によって第1液室17aの容積変化が吸収される。そうすると、オリフィス21を通って第1液室17aと第2液室17bとの間を行き来する液体の量が減るので、所望する減衰力が得られないことがある。これを防ぐためにCPU61は拘束処理(S5)を実行する。拘束処理(S5)は、自動車の定速走行中のピストン部材30の変位を規制して、エンジンシェイク振動の周波数領域における防振性能を確保するための処理である。
図5に示すようにCPU61は、拘束処理(S5)に関し、コイル52(図1参照)を電流が流れるか否かを判断する(S11、電流検出手段)。コイル52に流れる電流は、コイル52に対してピストン部材30及び駆動軸42が変位することでコイル52に生じる誘導電流であり、電流センサ74(図3参照)により検出される。S11の処理の結果、CPU61は、コイル52に電流が流れないと判断した場合には(S11:No)、この拘束処理(S5)を終了する。
一方、S11の処理の結果、CPU61は、コイル52に電流が流れると判断した場合には(S11:Yes)、コイル52による反力(推力に抗する電磁力)が大きくなるように、電流アンプ75を通して直流電流をコイル52に流す(S12、制限手段)。その結果、コイル52が励磁され、ピストン部材30及び駆動軸42の変位が規制される。これにより、第1液室17aの容積変化に伴いオリフィス21を通って第1液室17aと第2液室17bとの間を行き来する液体の量を確保することができる。よって、エンジンシェイク振動の周波数領域における低ばね特性および高減衰力を確保できる。
また、CPU61は、コイル52に対してピストン部材30及び駆動軸42が変位することでコイル52に生じる誘導電流を検出し、その電流の検出に基づいてピストン部材30及び駆動軸42の変位を規制する。第1液室17aの内圧の上昇に伴う推力によってピストン部材30及び駆動軸42が移動してから、短時間でピストン部材30及び駆動軸42の可動を制限できるので、応答の遅延(ピストン部材30の移動開始から移動停止までの時間差)により生じるピストン部材30の変位を最小限に抑えることができる。よって、応答の遅延により生じる防振性能の低下を抑制できる。
なお、エンジンシェイク振動よりも高い周波数の振動(例えばエンジンのクランクシャフトの回転に起因するアイドル時の振動(例えば20Hz〜40Hz)や加速運転時の振動(例えば100Hz〜200Hz)、気筒休止時の振動)が発生した場合、第1液室17aと第2液室17bとを接続するオリフィス21は目詰まり状態になる。そうすると、オリフィス21を通って液体が流動することによる防振性能が発揮されないので、CPU61は可動処理(S6、図6参照)によりアクチュエータ40を駆動して防振性能を発揮させる。
図6に示す可動処理(S6)は、停車中(エンジン停止状態またはアイドル運転状態)又は自動車の加減速運転時に実行される。CPU61は可動処理(S6)に関し、クランクパルスセンサ71により検出されるクランクパルス(所定のクランクアングル毎に出力されるパルス)を取得し、TDCパルスセンサ72により検出されるTDCパルスを取得する(S21)。次いでCPU61は、取得したクランクパルスと、基準となるクランクパルス(特定のシリンダのTDCパルス)と比較してクランクパルスの時間間隔を算出する(S22)。次にCPU61は、クランクアングルをクランクパルスの時間間隔で除算することによりクランク角速度ωを算出し(S23)、クランク角速度ωを時間微分してクランク角加速度dω/dtを算出する(S24)。
次いでCPU61は、エンジンのクランクシャフト回りのトルクTqを、Tq=I×dω/dtにより算出する(S25)。但し、Iはエンジンのクランクシャフト回りの慣性モーメントである。トルクTqはクランクシャフトが一定の角速度ωで回転していると仮定すると0であるが、膨張行程ではピストンの加速により角速度ωが増加し、圧縮行程ではピストンの減速により角速度ωが減少してクランク角加速度dω/dtが発生するので、そのクランク角加速度dω/dtに比例したトルクTqが発生する。
次にCPU61は、時間的に隣接するトルクの最大値(最大トルク)及び最小値(最小トルク)を判定し(S25)、トルクの最大値および最小値の偏差、即ちトルクの変動量としてエンジンを支持する能動型防振装置10の位置における振幅(エンジン振動の大きさ)を算出する(S27)。CPU61は、算出したエンジン振動の大きさ及びエンジン振動の位相に基づいて、アクチュエータ40のコイル52に流す電流の出力タイミング及びデューティ波形を決定し、駆動回路73によりコイル52に交流電流(正弦波信号や矩形波信号)を流す(S28)。なお、エンジンが停止状態の場合にはクランクパルスは発生しないので、コイル52に電流は流されない。
振動によってエンジンが下方に変位して第1液室17aの容積が減少したときに、S28の処理によりタイミングを合わせてコイル52に励磁電流を流し、磁性材部45に下向きの力を作用させると、板バネ46を弾性変形させながら可動子43が下降する。可動子43に結合されたピストン部材30が下方へ移動するので、第1液室17aの容積が増加する。その結果、第1液室17aの液圧の増加を抑制できるので、能動型防振装置10はエンジンから車体への伝達力を能動的に抑制できる。
これとは逆に、振動によってエンジンが上方に変位して第1液室17aの容積が増加したときに、S28の処理によりタイミングを合わせてコイル52に励磁電流を流し、磁性材部45に上向きの力を作用させると、板バネ46を弾性変形させながら可動子43が上昇する。可動子43に結合されたピストン部材30が上方へ移動するので、第1液室17aの容積が減少する。その結果、第1液室17aの液圧の減少を抑制できるので、能動型防振装置10はエンジンから車体への伝達力を能動的に抑制できる。
本実施の形態において、第1液室17aの内圧の変化によってピストン部材30に生じる推力(軸心O方向の力)とその推力によって生じるピストン部材30の変位量との比であるばね定数と、ピストン部材30及び駆動軸42の質量とにより決定されるピストン部材30及び駆動軸42の固有振動数は、アクチュエータ40を駆動して防振機能を発揮させる振動の周波数帯域内(20Hz〜200Hz)に設定されている。その結果、この固有振動数に略等しい振動をアクチュエータ40は駆動軸42に与えることができるので、アクチュエータ40の出力が小さくても共振によって強い振れを生じさせることができる。小出力のアクチュエータ40を採用できるので、アクチュエータ40を小型化(特に低背化)できる。また、ピストン部材30及び駆動軸42を振動させ易くできるので、コイル52に流す電流を小さくできる。よって、アクチュエータ40の消費電力を削減できる。
また、ピストン部材30及び駆動軸42の固有振動数は、自動車のアイドル運転状態において抑制する振動(例えば20Hz〜40Hz)を代表する第1周波数(30Hz)と、自動車の走行運転状態において抑制する振動(例えば100Hz〜200Hz)を代表する周波数であって第1周波数より高い第2周波数(100Hz)との間に設定されている。そのため、アイドル運転状態、走行運転状態のいずれの場合も、アクチュエータ40により駆動(振動)されるピストン部材30の振動の周波数と、ピストン部材30及び駆動軸42の固有振動数とを近づけることができる。よって、アイドル運転状態、走行運転状態のいずれの場合も、アクチュエータ40の消費電力を削減できる。
また、アクチュエータ40は、自動車のアイドル運転状態において固有振動数より低い周波数域(例えば20Hz〜40Hz)でピストン部材30を駆動し、自動車の走行運転状態において固有振動数より高い周波数域(例えば100Hz〜200Hz)でピストン部材30を駆動する。そのため、共振によってピストン部材30が制御し難くなることを防ぎつつ、アイドル運転状態および走行運転状態の防振性能を確保できる。
ここで、アクチュエータ40は、拘束処理(S5、反力発生手段)により、防振基体15の変形により変化した第1液室17aの内圧でピストン部材30に生じる推力に抗する反力を発生する。これにより、第1液室17aの内圧が変化したときのピストン部材30の移動を抑制できる。その結果、ピストン部材30の変化による第1液室17aの容積変化を抑制できるので、防振基体15のばね定数やオリフィス21によって予め設定された減衰力等を得ることができ、能動型防振装置10の防振性能を確保できる。
また、ACM処理(図4参照)によって、自動車の運転状態に関する情報がS1,S2の処理(情報取得手段)により取得され、取得された自動車の運転状態が所定の走行運転状態であるか、S3,S4の処理(運転状態判断手段)により判断される。判断の結果、自動車の運転状態が定速走行状態である場合に(S4:Yes)、S5の処理(反力発生手段)が実行される。よって、自動車が定速走行状態のときのエンジンシェイク振動を抑制する防振性能を確保できる。
また、自動車の運転状態が所定の走行運転状態であるかS3,S4の処理(運転状態判断手段)により判断された結果、自動車の運転状態がアイドル運転状態または加減速運転状態である場合に(S3:No,S4:No)、S6の処理(可動処理)が実行される。可動処理(S6)においてアイドル運転時や加減速運転時のエンジンの振動が車体に伝達される伝達力を能動的に抑制できる。よって、自動車の定速走行状態、アイドル運転状態および加減速運転状態における防振性能を確保できる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
上記実施の形態では、仕切板19によって液室17が仕切られ、第1液室17a及び第2液室17bが形成され、第1液室17aと第2液室17bとの間がオリフィス21によって接続される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、要求される防振性能に応じて、第1液室17aと第2液室17bとの間を複数のオリフィスで接続することは当然可能である。また、第1液室17a及び第2液室17bに加え、さらに1乃至複数の副液室を有する構成とすることは当然可能である。この場合には、第1液室17a、第2液室17b及び副液室の内の2つの液室間を、オリフィス21以外の他の1乃至複数のオリフィスによって連通させることができる。また、オリフィス21によって抑制される振動の周波数より高い周波数の振動を抑制する弾性膜を液室17内に設けることは当然可能である。
上記実施の形態では、自動車のエンジンを弾性支持するエンジンマウントとして能動型防振装置10を用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ボディマウント、デフマウント等、任意の振動体の振動を抑制する防振装置に能動型防振装置10を適用することは当然可能である。
上記実施の形態では、防振基体15の下方にダイヤフラム18が配置されることで、第1液室17aの下方に第2液室17bが設けられる能動型防振装置10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、防振基体15及びダイヤフラム18は任意の位置に配置できる。例えば、防振基体の上方にダイヤフラムを配置して、第1液室の上方に第2液室を設けることは当然可能である。この場合には、防振基体の外周に、第1液室と第2液室とを接続するオリフィスが形成される。
上記実施の形態では、アクチュエータ40に交流電流(正弦波信号や矩形波信号など)を通電してコイル52を励磁し、板バネ46で弾性支持された駆動軸42を往復動させる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。コイルスプリングによって駆動軸が軸心O方向の一方へ付勢されているアクチュエータの場合には、コイルに直流電流を断続的に通電してコイルの励磁・消磁を断続的に行うと、コイルの励磁によりコイルスプリングを圧縮して駆動軸を変位させ、コイルの消磁によりコイルスプリングの復元力により駆動軸を変位させることができる。このようなアクチュエータが採用された能動型防振装置においても、本実施の形態と同様の作用・効果を実現できる。
上記実施の形態では、仕切板19の挿通孔20内を往復動するピストン部材30によって第1液室17aの容積を変化させる能動型防振装置10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ピストン部材30に代えて、液室の壁面の一部を構成するゴム膜(可動部材)をアクチュエータで変位して液室の容積を変化させる能動型防振装置に、本実施の形態で説明した技術を適用することは当然可能である。
上記実施の形態では、ACM処理(図4参照)において、CPU61が算出したエンジン振動の大きさ(振幅)及び位相に基づいて、アクチュエータ40のコイル52に流す電流の出力タイミング及びデューティ波形を決定する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えばCPU61(図3参照)は、エンジンの回転数を検出する回転数センサ(他の入出力装置77)の検出結果から、その周波数と、振幅および位相に相関する運転状態を取得することができる。アクチュエータ40のコイル52に流す電流の出力信号を、運転状態における各周波数についてデータマップとしてROM62に記憶しておけば、CPU61は、適合するデータマップをROM62から読み出すことができる。CPU61は、読み出したデータマップに基づいて制御信号を生成して駆動回路73に出力する。入力された制御信号に基づいて駆動回路73が駆動信号を生成すると、アクチュエータ40が通電されて、能動型防振装置10の加振力がエンジン側に及ぼされる。これにより、本実施の形態と比較して簡易に防振性能が発揮される。これは一例であり、これ以外の公知の制御手段(処理方法)を採用することが可能である。