JP6505490B2 - 分子インプリンティング膜、その製造方法、鋳型化合物、およびステロイドホルモン化合物の検出方法 - Google Patents

分子インプリンティング膜、その製造方法、鋳型化合物、およびステロイドホルモン化合物の検出方法 Download PDF

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Description

本発明は、ステロイドホルモン化合物に対する感度が極めて高い分子インプリンティング膜、当該分子インプリンティング膜の製造方法、当該分子インプリンティング膜の製造に用いる鋳型化合物、および、当該分子インプリンティング膜を用いてステロイドホルモン化合物を検出する方法に関するものである。
生体内情報伝達物質は、細胞間における情報の伝達などを媒介し、生体の恒常性維持に寄与している。例えば、ステロイドホルモンであるコルチゾールは血圧や血糖値の調整において重要な役割を果たしており、ストレスに敏感に応答して分泌されることが知られている。そのため最近では、精神疾患の予防などのため、コルチゾールをストレスマーカーとして高感度で且つ簡便に検出するための研究が行われている。
生体内分子の主な検出法としてはELISA(Enzyme−linked immunosorbent assay)が挙げられる。ELISAは、検出すべき生体内分子に特異的な抗体を固定化し、試料を添加した後、抗体に結合した生体内分子に標識した二次抗体を結合させ、抗体−標的生体内分子−酵素標識抗体の複合体を検出する方法である。その他、金微小電極を自己組織化単分子膜(SAM)で修飾し、その表面に抗コルチゾール抗体を結合させたセンサーが開発されている(非特許文献1,2)。何れにせよ、従来は、生体内分子の検出にあたり抗体や酵素を用いるのが主流であった。
しかし抗体や酵素には、その製造や単離には高コストがかかり、また、不安定であることから保存が難しく、製品化に難があるといった問題がある。
そこで、生体がもつ緻密な分子認識能を模倣した人工分子認識材料創製法である分子インプリンティング法(MI法)が注目を集めている。MI法は、検出すべき標的分子の存在下でモノマーを重合させ、得られたポリマーから標的分子を除去することにより、標的分子に特異的な認識空間を形成することを基本とする。
例えば特許文献1には、ステロイドホルモンの存在下、イタコン酸など、当該ステロイドホルモンと相互作用する官能基を2つ以上有するモノマーを重合させた後、得られたポリマーからステロイドホルモンを除去することにより製造される分子インプリンティングポリマーが開示されており、特許文献2には、同様のポリマーからなる微粒子が開示されている。
また、特許文献3には、検出すべき標的分子と同様の分子構造と比色指示薬を有する置換分子を選択的に受容して結合するための空間を有するコアを含む分子インプリンティングポリマーセンサー装置において、試料液と当該分子インプリンティングポリマーを接触させ、試料液における色の変化により試料液中の標的分子の存在を検出する方法が開示されている。
特許文献4には、コルチゾールに結合した発色団を含む分子インプリンティングポリマーを有するコルチゾール分子検出用センサーが開示されている。当該ポリマーは、コルチゾールの存在下、コルチゾールに結合するリガンドであってビニル基を有するものを重合させることにより製造されている。
国際公開第2013/046826号パンフレット 特開2014−219353号公報 米国特許出願公開第2012/0288944号明細書 米国特許第6833274号明細書
Sunil K.Aryaら,Biosens Bioelectron,2010,25(10),pp.2296−2301 Cruz AFら,Biosens Bioelectron,2014,62,pp.249−254
上述したように、検出すべき標的分子に特異的な認識空間をポリマー中に形成し、標的分子の検出に用いるMI法は既に知られている。しかし、従来のMI法の選択性や感度は必ずしも十分ではなかった。
そこで本発明は、従来のMI法に比して高い感度でのステロイドホルモン化合物の検出が可能になる分子インプリンティング膜、当該分子インプリンティング膜の製造方法、当該分子インプリンティング膜の製造に用いる鋳型化合物、および、当該分子インプリンティング膜を用いてステロイドホルモン化合物を高い感度で検出できる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、まず、検出すべき標的化合物であるステロイドホルモンへ、オキシム基を介してビニル基を導入し、さらにアダマンチル基を導入した鋳型化合物をデザインした。当該鋳型化合物のアダマンチル基を自己組織化単分子膜の表面に結合させたβ−シクロデキストリンと相互作用させることにより、自己組織化単分子膜上に当該鋳型化合物を配向させつつ、当該ビニル基とビニルモノマーとを共重合させてポリマー化した。次に、オキシム基を加水分解することにより鋳型化合物を除去することにより、標的化合物に対する特異的認識空間が配向した分子インプリンティング膜を得ることに成功した。
従来、分子インプリンティングポリマーは、標的化合物と、ビニル基を有し且つ当該標的化合物との親和性を有するリガンド化合物およびビニルモノマーの混合物を共重合させることにより製造されており、標的化合物や特異的認識空間を配向させることは全く考慮されていなかった。その結果、分子インプリンティングポリマーの特性を均一にすることは難しかった。詳しくは、ポリマー中に無秩序状態で存在する鋳型化合物の中には除去できないものもあり、その場合には部分的に特異的認識空間が形成されないことになる。また、形成された特異的認識空間もポリマー中に無秩序状態で形成されているため、ある特異的認識空間が標的化合物の他の特異的認識空間への相互作用を阻害したり、特異的認識空間の重複などにより標的化合物に対する選択性が損なわれるといったことが考えられる。
それに対して本発明に係る分子インプリンティング膜では、特異的認識空間が規則的に配向しているため、おそらくは個々の特異的認識空間が標的化合物に対して有効に作用し、従来の分子インプリンティングポリマーに対して感度が顕著に高まっており、また、その品質は均一である。
以下、本発明を示す。
[1] ステロイドホルモン化合物の分子インプリンティング膜であって、
上記ステロイドホルモン化合物が下記式(I)で表されるものであり、
[式中、
1は、メチル基、ヒドロキシメチル基またはホルミル基を示し、
2は、水素原子、水酸基またはオキソ基を示し、
3は、メチル基、ヒドロキシメチル基またはホルミル基を示し、
4は、1以上の置換基αで置換されているC1-10アルキル基、または水酸基を示し、
5は、水素原子または水酸基を示し、
4とR5は一緒になってオキソ基を形成してもよく、
置換基αは、水酸基およびオキソ基から選択される置換基を示す]
自己組織化単分子膜の上にポリマー層が積層されている積層構造を有し、
上記自己組織化単分子膜の表面にはβ−シクロデキストリンが結合しており、
上記ポリマー層には上記ステロイドホルモン化合物に対する特異的認識空間が形成されており、
上記特異的認識空間の一端には上記β−シクロデキストリンが存在し、且つ、上記特異的認識空間の他端にはアミノオキシ基が存在することを特徴とする分子インプリンティング膜。
[2] 分子インプリンティングポリマーの特異的認識空間を形成するための鋳型化合物であって、下記式(II)で表されることを特徴とする鋳型化合物。
[式中、
XとYは、独立してリンカー基を示し、
1は、メチル基、ヒドロキシメチル基またはホルミル基を示し、
2は、水素原子、水酸基またはオキソ基を示し、
3は、メチル基、ヒドロキシメチル基またはホルミル基を示し、
5は、水素原子または水酸基を示し、
6は、水素原子またはメチル基を示す]
[3] ステロイドホルモン化合物の分子インプリンティング膜を製造するための方法であって、
金属基板上に自己組織化単分子膜を形成する工程、
上記自己組織化単分子膜の表面にβ−シクロデキストリンを結合させる工程、
上記β−シクロデキストリンに、上記[2]に記載の鋳型化合物のアダマンチル基を相互作用させる工程、
ビニルモノマーを添加し、上記鋳型化合物のビニル基と共重合させる工程、
上記鋳型化合物のオキシム基を加水分解し、上記鋳型化合物のステロイド部分を除去する工程を含むことを特徴とする方法。
[4] 試料中におけるステロイドホルモン化合物を検出する方法であって、
上記ステロイドホルモン化合物は、上記[1]で規定されている式(I)で表されるものであり、
溶媒中、上記[1]に記載の分子インプリンティング膜と上記試料を接触させる工程、および、
上記分子インプリンティング膜と上記試料との接触による反応系の変化を測定する工程を含むことを特徴とする方法。
[5] さらに、上記接触工程の前に、上記分子インプリンティング膜の特異的認識空間に、標識基を有する疑似ステロイドホルモン化合物を挿入する工程を含み、
上記測定工程において、反応系の溶液における標識基の濃度変化を測定する上記[4]に記載の方法。
[6] 上記測定工程において、反応系の変化を、表面プラズモン共鳴測定法、水晶振動子マイクロバランス法または電気化学インピーダンス法で測定する上記[4]に記載の方法。
本発明において「C1-10アルキル基」とは、炭素数1以上、10以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、1,5−ジメチルヘキシル、n−ノナニル、n−デカニルなどである。
「リンカー基」は、例えば上記化合物(II)においてビニル基やアダマンチル基の自由度を高めることによりそれらの反応性や相互作用能を改善したり、化合物(II)を合成し易くするといった機能を有し、比較的安定な構造をいう。例えば、C1-6アルキレン基、C6-12アリーレン基、アミノ基(−NH−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、カルボニル基(−C(=O)−)、チオニル基(−C(=S)−)、エステル基(−O−C(=O)−または−C(=O)−O−)、アミド基(−NH−C(=O)−または−C(=O)−NH−)、スルホキシド基(−S(=O)−)、スルホニル基(−S(=O)2−)、およびこれら2以上が結合した基を挙げることができる。但し、本発明に係るリンカー基はある程度安定である必要があるので、上記の「これら2以上が結合した基」には、例えばペルオキシド基(−O−O−)など不安定な構造は含まれない。このような不安定な構造や合成不可能な構造は、当業者に公知である。また、リンカー基が過剰に長くなると、検出対象であるステロイドホルモン化合物に対する特異的認識空間の選択性が低下するおそれがあり得るため、リンカー基が2以上の上記基が結合した基である場合、結合した基の数としては15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、5以下がよりさらに好ましい。
また、上記ステロイドホルモン化合物(I)および鋳型化合物(II)において、ステロイド骨格のA環における点線は、単結合または無結合を示す。即ち、当該A環は、シクロヘキサンまたは4,5−シクロヘキセンであってもよい。
本発明に係る分子インプリンティング膜では、特定のステロイドホルモン化合物に対する特異的認識空間の方向と位置が揃っており、その配向性が高い。よって、個々の特異的認識空間の標的ステロイドホルモン化合物に対する選択性が均一であり、また、それぞれが有効に利用可能であると考えられる。その上、当該特異的認識空間には、ステロイドホルモン化合物のA環の第3位に存在するカルボニル基とオキシム基や水素結合を形成可能なアミノオキシ基があり、また、ステロイドホルモン化合物の基本骨格であるA〜D環と疎水性相互作用が可能なβ−シクロデキストリン構造も存在する。よって、本発明に係る分子インプリンティング膜は、従来の分子インプリンティングポリマーに比べて特定のステロイドホルモン化合物の検出感度が極めて高いという利点がある。
図1は、本発明に係る分子インプリンティング膜の製造方法を模式的に示した図である。 図2は、本発明に係るコルチゾールに特異的な分子インプリンティング膜が形成された金/ガラス板と、それ以外のポリマー層が形成された金/ガラス板の存在下、コルチゾールの添加濃度と、コルチゾールにより各ポリマー層から反応溶液中へ移動する疑似ステロイドホルモン化合物の濃度に依存する反応溶液の相対蛍光強度変化量との関係を示すグラフである。 図3は、上記図2に結果を示す実験において、コルチゾールに加え、それ以外のステロイドホルモン化合物を用いて行った同様の実験の結果を示すグラフである。 図4は、上記図2に結果を示す実験において、本発明に係る未架橋分子インプリンティング膜と架橋分子インプリンティング膜を用いて行った同様の実験の結果を示すグラフである。 図5は、上記図2に結果を示す実験において、本発明に係る架橋分子インプリンティング膜を用い、且つ、コルチゾールに加え、それ以外のステロイドホルモン化合物を用いて行った同様の実験の結果を示すグラフである。
以下、先ず、本発明に係る分子インプリンティング膜の特異的認識空間を形成するために用いられる鋳型化合物(II)の製造方法につき説明する。
1.鋳型化合物(II)の製造方法
本発明に係る分子インプリンティング膜は、上記ステロイドホルモン化合物(I)に対して選択性を示すので、その特異的認識空間を形成するための鋳型化合物(II)は、ステロイドホルモン化合物(I)を原料化合物とすることができる。
なお、ステロイドホルモン化合物(I)は特に制限されず、その存在・不存在や濃度を測定することによりヒトの疾患、症状、状態などを評価できるものであればよい。例えば、17α−ヒドロキシプロゲステロン、21−デオキシコルチゾール、コルチゾール、コルチゾン、プロゲステロン、11−デオキシコルチコステロン、コルチコステロン、18−ヒドロキシコルチコステロン、アルドステロン、テストステロン、19−ヒドロキシテストステロン、19−オキソテストステロン、アンドロステンジオン、19−ヒドロキシアンドロステンジオン、19−オキソアンドロステンジオン、11β−ヒドロキシアンドロステンジオン、アドレノステロン、アンドロスタンジオン、アンドロステロンなどを挙げることができる。
鋳型化合物(II)は、リンカー基であるXおよびYに応じて、ステロイドホルモン化合物(I)から合成することができる。
例えばアダマンチル基は、ステロイドホルモン化合物(I)のR4および/またはR5における水酸基やオキソ基を、さらに必要であればこれらを官能基変換した上で、リンカー基Yを形成するために、アダマンタン誘導体と反応させることにより導入できる。また、R4および/またはR5における官能基の反応選択性が他の官能基に対して同等または乏しい場合には、他の官能基を選択的に保護しておいてもよい。これら官能基変換、リンカー基Yの形成反応、選択的な保護反応や脱保護反応は、当業者であれば容易に実施できる。例えば、R4中の第一級水酸基と1−アダマンタンカルボン酸を脱水縮合剤により反応させた場合、エステル結合によりアダマンチル基を導入することができる。
また、ビニル基は、リンカー基Xを介してビニル基が導入されているヒドロキシアミン誘導体と、ステロイドホルモン化合物(I)のA環の第3位カルボニル基とを反応させてオキシム基を形成することにより導入することができる。或いは、リンカー基Xを形成するための官能基を有するヒドロキシアミン誘導体とステロイドホルモン化合物(I)のA環の第3位カルボニル基とを反応させてオキシム基を形成した後、ビニル基およびリンカー基Xを形成するための官能基を有する化合物をさらに反応させることにより、ビニル基を導入してもよい。
次に、鋳型化合物(II)を用いて本発明に係る分子インプリンティング膜を製造する方法を説明する。なお、当該製造方法を模式的に示したスキームを図1として示す。
2.分子インプリンティング膜の製造方法
(2−1) 自己組織化単分子膜の形成工程
本工程では、金属基板上に自己組織化単分子膜(SAM:Self−Assembled Monolayer)を形成する。SAMは、金属基板へ化学結合していると共に、金属基板上に分子が分子間力により密に且つ規則的に整列していることから、安定で均一である。
金属基板を構成する金属としては、金が汎用されているが、銀、銅、白金、パラジウムなども用いることができる。また、ガラス基板やテフロン(登録商標)基板上にこれら金属の薄膜を形成したものも金属基板として利用可能である。
SAMを形成するための分子としては、通常、炭素数8以上の直鎖アルキルチオール、ジスルフィド、酢酸チオールなどを用いることができ、チオール基などに対する他端には、アミノ基など、次工程でβ−シクロデキストリン基を導入するための官能基を有する化合物を用いる。また、強固なSAMを形成すべく長鎖部分が同一または類似するものである範囲で、β−シクロデキストリン基を導入するための官能基以外の官能基を有する分子を併用してもよい。他の官能基としては、例えば、ビニルモノマーの重合開始作用を有する基を挙げることができる。
SAMの形成は、常法に従えばよい。例えば、SAM形成分子をエタノールなどに溶解し、得られた溶液に金属基板を常温で30分間以上24時間程度浸漬すれば、当該分子がチオエーテル結合を介して金属基板表面に結合し、且つ分子間力により配向しつつ密に集合し、SAMが形成される。次いで、過剰のSAM形成分子を洗浄により除去した後、乾燥すればよい。
次工程ではSAMの表面にβ−シクロデキストリンを結合させるが、例えばSAMが非常に密である場合には、かかる結合が難しい場合があり得る。そのような場合には、β−シクロデキストリンの結合を容易にするため、図1に示すように、SAMの表面にいったんリンカー基を導入してもよい。
(2−2) β−シクロデキストリンの結合工程
本工程では、上記工程(2−1)により金属基板上に形成されたSAM、または当該SAMの表面に導入されたリンカー基に、β−シクロデキストリン(以下、「β−CD」と略記する)を結合させる。
β−CDは、7個のD−グルコースがα(1→4)グルコシド結合により環状に結合した環状オリゴ糖であり、その空洞の大きさから、アダマンタンを選択的に包接するという特性を示す。本発明では、かかる特性を利用する。
β−CDの結合は常法に従えばよい。具体的には、SAM形成分子の末端官能基や、SAM表面に結合したリンカー基の末端官能基と、β−CDに導入した反応性官能基とを反応させればよい。
(2−3) 鋳型化合物(II)の結合工程
本工程では、上記β−CDに鋳型化合物(II)のアダマンチル基を相互作用させる。この際、当該アダマンチル基はβ−CDに包接させるので、鋳型化合物(II)の向きは均一であり、上記SAMの表面に配向されることになる。
(2−4) 共重合工程
本工程では、ビニルモノマーを添加し、SAM表面に配向させた鋳型化合物(II)中のビニル基と共重合させることにより、鋳型化合物(II)を含むポリマー層を形成する。
添加するビニルモノマーは、鋳型化合物(II)中のビニル基と共重合可能なビニル基構造を有するものであれば特に制限されず、適宜選択することができるが、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを好適に用いることができる。2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンはリン脂質と類似した構造を有し、そのポリマーは生体への親和性に優れるため、血液などの生体試料の分析に適しているという利点がある。
重合条件は、常法に従って設定すればよい。例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンは水溶性であるので、水系溶媒に、少なくとも上記工程(2−1)〜(2−3)を経た基板と2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを添加し、重合開始剤(SAM表面に結合させたものでもよい)により重合を開始すればよい。反応液には、リビングラジカル重合を行うため、1価の銅化合物や、2価の銅化合物とアスコルビン酸などの還元剤との組み合わせを添加してもよい。重合温度は常温、さらには0℃以上120℃以下程度でよく、重合時間は10分間以上50時間以下程度とすることができる。具体的な重合条件は、重合が十分でないと形成された特異的認識空間の標的化合物への選択性が低下するおそれがあり得る一方で、過剰に重合させると次工程で鋳型化合物を除去できなくなるおそれがあり得るので、予備実験などで決定してもよい。
重合反応後は、余分な試薬を除去するため、使用した溶媒などでよく洗浄することが好ましい。
(2−5) 鋳型化合物の除去工程
本工程では、ビニル基の共重合によりポリマー中に取り込まれている鋳型化合物(II)のオキシム基を加水分解し、鋳型化合物(II)のステロイド部分を除去する。その結果、ポリマー中には、除去されたステロイド部分に特異的な認識空間が形成される。なお、上記ステロイド部分とは、鋳型化合物(II)のうち、リンカー基を介してアダマンチル基が結合したステロイド骨格部分をいう。
オキシム基の加水分解は、常法に従えばよい。例えば、20℃以上60℃以下程度の塩酸などの酸性水溶液に、上記工程(2−1)〜(2−4)を経た基板を2時間以上50時間以下程度浸漬すればよい。また、上記ステロイド部分を十分に除去するために、上記ステロイド部分を溶解できる溶媒で基板を十分に洗浄することが好ましい。
以上で得られる本発明に係る分子インプリンティング膜には、ステロイドホルモン化合物(I)と同様の三次元立体構造を有する特異的認識空間が形成されている。また、この特異的認識空間の方向と位置は均一であり、配向性が高い。また、当該特異的認識空間には、ステロイドホルモン化合物(I)のA環の第3位カルボニル基と相互作用可能なアミノオキシ基が存在し、その他端にはステロイドホルモン化合物(I)の基本骨格であるA〜D環と疎水性相互作用が可能なβ−シクロデキストリン構造も存在する。よって、本発明に係る分子インプリンティング膜は、ステロイドホルモン化合物(I)に対する親和性が極めて高く、その選択的な検出感度が極めて高い。
以下、本発明に係る分子インプリンティング膜を用いたステロイドホルモン化合物(I)の検出方法につき説明する。
本発明に係るステロイドホルモン化合物(I)の検出方法は、溶媒中、本発明に係る分子インプリンティング膜と試料を接触させる工程(接触工程)、および、上記分子インプリンティング膜と上記試料との接触による反応系の変化を測定する工程(測定工程)を含む。
測定すべき試料は、ステロイドホルモン(I)の存在または不存在を確認すべきもの、また、ステロイドホルモン(I)の濃度を測定すべきものであれば、特に制限されない。例えば、ヒトまたは動物の血液、血清、血漿、尿、唾液などを挙げることができる。
使用する溶媒は、試料中に含まれる程度の量のステロイドホルモン(I)を溶解できるものであれば特に制限されない。例えば、検出すべきステロイドホルモン(I)を適度に溶解できる緩衝液を用いることができる。また、試料が液体である場合は、試料自体を溶媒として用いてもよく、試料を希釈してもよい。
本発明の分子インプリンティング膜と試料とを接触させるには、試料、または溶媒と試料の混合物中に、分子インプリンティング膜を浸漬すればよい。その際の温度は、測定結果が温度により異なることがあり得るので、例えば20℃以上30℃以下、特に25℃など、一定にすることが好ましい。また、浸漬時間は、対象となるステロイドホルモン(I)が特異的認識空間へ十分に取り込まれるよう十分な時間とし、例えば、5分間以上、5時間以下程度とすることができる。
本発明に係るステロイドホルモン化合物(I)の検出方法では、分子インプリンティング膜と試料との接触による反応系の変化、即ち、特異的認識空間内に取り込まれたステロイドホルモン化合物(I)を測定することにより、対象であるステロイドホルモン化合物(I)の存在の有無や濃度を求める。
反応液の変化を測定する方法としては、例えば、表面プラズモン共鳴測定法、水晶振動子マイクロバランス法、電気化学インピーダンス法を挙げることができる。
本発明に係る分子インプリンティング膜を金属膜上に形成した場合には、そのまま表面プラズモン共鳴測定法で利用することができる。即ち、プリズムに分子インプリンティング膜を形成した金属膜を貼り付け、プリズム側から金属膜へ光を全反射する様に照射すると表面プラズモン共鳴(SPR)が生じることによって反射光強度が低下する入射角度がある。この際の角度は、金属上に形成された分子インプリンティング膜に取り込まれたステロイドホルモン化合物(I)の量、即ち質量変化により鋭敏に変化することから、SPR測定装置では、試料の添加前と添加後における質量変化を反射光強度から測定データ(レゾナンスユニット:1RU=1pg/mm2)として表示することができる。
水晶振動子マイクロバランス法と電気化学インピーダンス法も、試料の添加により分子インプリンティング膜の特異的認識空間内に取り込まれたステロイドホルモン化合物(I)の有無や量を、それぞれ水晶振動子の共振周波数の変化とインピーダンスの変化により測定することができる。これら方法の具体的な条件は、常法を適用することができる。
或いは、試料の添加前後における反応系の変化は、反応溶液中における標識化合物の量の変化により測定することもできる。具体的には、試料の添加前、即ち上記接触工程の前に分子インプリンティング膜の特異的認識空間に、標識基を有する疑似ステロイドホルモン化合物を挿入しておく。当該特異的認識空間は測定対象であるステロイドホルモン化合物(I)に対する特異性が高いため、上記接触工程において、特異的認識空間中に存在する疑似ステロイドホルモン化合物は試料中に含まれるステロイドホルモン化合物(I)に追い出される形となり、反応溶液中における疑似ステロイドホルモン化合物の濃度が高まる。よって、上記測定工程において、反応系の溶液における標識基の濃度変化を測定することにより、試料中におけるステロイドホルモン化合物(I)の有無や濃度を求めることが可能になる。
上記の疑似ステロイドホルモン化合物は、測定対象であるステロイドホルモン化合物(I)に類似する化学構造を有し、特異的認識空間に取り込まれ得るものである一方で、ステロイドホルモン化合物(I)に比べて特異的認識空間に対する親和性は低いものである必要がある。かかる疑似ステロイドホルモン化合物としては、ステロイド骨格と三次元立体構造が近いことが知られているビスフェノール化合物であって標識基を有するものを挙げることができる。
疑似ステロイドホルモン化合物の標識基としては、例えば蛍光発色基を挙げることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1: モレキュラーインプリンティングポリマー(MIP)の製造
(1) templete化合物の調製
(1−1) アダマンタンカルボン酸エステルの調製
1−アダマンタンカルボン酸(270mg,1.5mmol)、EDC(285mg,1.5mmol)、およびDMAP(183mg,1.5mmol)をジクロロメタンに溶解させ、氷冷下で撹拌した。そこにコルチゾール(362mg,1.0mmol)を加え、一晩撹拌した。反応の初期には反応混合液は白濁していたが、一晩撹拌した後は淡黄色の溶液になっていた。薄層クロマトグラフィー(展開液−ヘキサン:酢酸エチル=1:1)のスポットについて、DMAPのRf値は0、コルチゾールのRf値は0.125、目的化合物のRf値は0.375であり、一晩攪拌後でも原料化合物であるコルチゾールのスポットが消えていなかったので、新たに1−アダマンタンカルボン酸(135mg,0.75mmol)、EDC(143mg,0.75mmol)、およびDMAP(92mg,0.75mmol)を追加した。3時間後に薄層クロマトグラフィーで反応の進行を確認したが、原料スポットは依然として消えなかったので、反応を終了し、反応液を飽和クエン酸、飽和炭酸水素ナトリウムおよび飽和食塩水で洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液−ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製した。その後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去し、真空乾燥することにより、目的化合物を白色固体として得た(収量:212mg,収率:40.3%)。
1H-NMR(300.40MHz,CDCl3):δ=5.68(s,1H,4位のH),2.03(s,3H,アダマンタン),1.91(s,6H,アダマンタン),1.72(t,6H,アダマンタン),2.8-1.4(m,コルチゾール)
MALDI-TOF-MS m/z=525.6[M+H+],547.7[M+Na+
(1−2) オキシム化
上記(1−1)で得た アダマンタンカルボン酸エステル(131mg,0.25mmol)を、メタノール:ジクロロメタン=1:1の混合溶媒に溶解させ、そこへピロリジン(124μL,1.5mmol)を加えた。20分後、溶液が黄色に変色したことを確認し、カルボキシメトキシアミン・0.5塩酸塩(54.5mg,0.5mmol)を加え、室温で5時間撹拌した。反応終了時における薄層クロマトグラフィー(展開液−酢酸エチル)のスポットについて、ピロリジンのRf値は0、目的化合物のRf値は0.1であり、原料化合物のRf値=0.725のスポットの消失を確認した。溶媒を減圧留去し、残渣に純水を加え、1M HClにてpH=2.0に調整し、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧留去し、真空乾燥することにより、目的化合物を淡黄色固体として得た(収量:149mg,収率:99.7%)。
1H-NMR(300.40MHz,DMSO-d6):δ=1.99(s,3H,アダマンタン),1.82(s,6H,アダマンタン),1.68(t,6H,アダマンタン),2.5-1.5(m,コルチゾール)
MALDI-TOF-MS m/z=598.8[M+H+],620.8[M+Na+
(1−3) モノマーの結合
上記(1−2)で得たオキシム化合物(149mg,0.25mmol)をメタノールに溶解させ、氷冷下、4−アミノスチレン(44.5mg,0.375mmol)とDMT−MM(138mg,0.5mmol)を加えた。氷浴を外し、常温で一晩反応させた。反応終了時における薄層クロマトグラフィー(展開液−ヘキサン:酢酸エチル=1:1)のスポットについて、目的化合物のRf値は0.35であり、原料化合物のRf値=0.725のスポットの消失を確認した。溶媒を減圧留去し、残渣を酢酸エチルに溶解させ、飽和クエン酸水溶液と食塩水にて洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液−ヘキサン:酢酸エチル=1:2)で精製した。その後、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧留去し、真空乾燥することにより、目的化合物を白色固体として得た(収量:61.0mg,収率:34.9%)。
1H-NMR(300.40MHz,CDCl3):δ=8.02(d,1H,NH),7.50(d,2H,ベンゼン環),7.38(d,2H,ベンゼン環),2.02(s,3H,アダマンタン),1.97(s,6H,アダマンタン),1.73(t,6H,アダマンタン),2.8-1.5(m,コルチゾール)
MALDI-TOF-MS m/z=699.1[M+H+],721.3[M+Na+
(2) モノアミノ−β−シクロデキストリンの調製
(2−1) トシル化
氷冷下で0.4Mの水酸化ナトリウム水溶液(40mL)にβ−シクロデキストリン(2.0g,1.75mmol)を溶解し、p−トルエンスルホニルクロリド(2.0g,6eq)を加え4間撹拌した。薄層クロマトグラフィー(展開液 − 1−ブタノール:メタノール:水=5:4:3にて目的物のスポット(Rf値=0.6)および二置換体(Rf値=0.65)が確認されたことから、未反応のp−トルエンスルホニルクロリドをろ過で取り除き、ろ液を塩酸水溶液で中和した。その後一晩放置し、成長した結晶を減圧ろ過により回収し、真空乾燥させることにより目的化合物である6−トシル−β−シクロデキストリンを得た(収量:830mg,収率:36.8%)。
1H-NMR(300.40MHz,DMSO-d6):δ=7.76(d,2H,phenyl),7.43(d,2H,phenyl),5.89-5.57(m,14H,OH),4.91-4.73(m,7H,CD),4.52-4.31(m,7H,CD),3.77(m,42H,CD),2.43(s,3H,Methyl)
MALDI-TOF-MS m/z=1311[M+Na+
(2−2) アジド化
上記(2−1)で得た6−トシル−β−シクロデキストリン(830mg,0.644mmol)を80℃の水に懸濁し、アジ化ナトリウム(455mg,7mmol)を加え、80℃のオイルバス中で一晩反応させた。反応終了後、室温までゆっくり冷却した後、この溶液をアセトン(60mL)に注ぎ込み、生じた白色沈殿を減圧ろ過により回収し、真空乾燥させることにより、目的化合物である6−アジド−β−シクロデキストリンを得た(収量:548mg,収率:73.4%)。
1H-NMR(300.40MHz,DMSO-d6):δ=5.74-5.63(m,14H,OH),4.82(m,7H,CD),4.52-4.46(m,6H,CD),3.62-3.57(m,42H,CD)
MALDI-TOF-MS m/z=1182[M+Na+
(2−3) アミノ化
上記(2−2)で得た6−アジド−β−シクロデキストリン(548mg,0.472mmol)とトリフェニルホスフィン(262mg,1.0mmol)をDMFに溶解させ、室温で1時間撹拌後、反応液に超純水(Milli−Q水,1mL)を添加し、90℃のオイルバス中で一晩反応させた。薄層クロマトグラフィー(展開液 − 1−ブタノール:メタノール:水=5:4:3にて目的物のスポット(Rf値=0.075)が確認され、原料化合物のスポット(Rf値=0.55)の消失が確認されたことから、反応を終了した。室温までゆっくり冷却した後、この溶液をアセトン(60mL)に注ぎ込み、生じた白色沈殿を減圧ろ過により回収し、真空乾燥させることにより、目的化合物である6−アミノ−β−シクロデキストリンを得た(収量:430mg,収率:80.4%)。
1H-NMR(300.40MHz,DMSO-d6):δ=5.76-5.65(m,14H,OH),4.82(m,7H,CD),4.46(b,6H,CD),3.63-3.55(m,28H,CD)
MALDI-TOF-MS m/z=1156[M+Na+
(3) モレキュラーインプリンティングポリマー(MIP)の製造
(3−1) 複合自己組織化単分子膜(複合SAM膜)の形成
金/ガラス基板(日本分光社製)を水とエタノールで十分に洗浄した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥した。乾燥した金表面をArエッチング処理した後、0.5mMビス[2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)ウンデシル]ジスルフィド+0.5mM 11−アミノ−1−ウンデカンチオール塩酸塩を含むエタノール溶液(5mL)に、25℃で24時間浸漬した。なお、2−ブロモイソブチリル基は、重合開始作用を示す。
(3−2) 複合SAM膜の活性化
上記金/ガラス基板を、さらに5mM NHS−dPEG4−NHSエステルを含むDMF溶液(10mL)に、25℃で1時間浸漬することにより、上記複合SAM膜の末端アミノ基に、PEG鎖を介してNHS活性化カルボキシ基を導入した。
(3−3) β−シクロデキストリンの固定化
上記(2)で調製したモノアミノ−β−シクロデキストリン(20.4mg,18μmol)をDMF(6mL)に溶解し、3mM溶液を調製した。次いで、NHS活性化カルボキシ基が導入された上記金/ガラス基板を当該溶液に25℃で3時間浸漬することにより、β−シクロデキストリンを固定化した。
(3−4) templete化合物の固定化
上記(1)で調製したtemplete化合物(3.5mg,5μmol)を少量のDMSOに溶解した後、水(5mL)を加えて1mM溶液を調製した。β−シクロデキストリンを固定化した上記金/ガラス基板を当該溶液に25℃で24時間浸漬することにより、templete化合物を固定化した。
(3−5) 重合反応
反応容器中に、水(5mL)、templete化合物が固定化された上記金/ガラス基板、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC,88.6mg,300μmol)、臭化銅(II)(1.34mg,6μmol)、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA,1.25μL,6μmol)を加え、反応容器中の気相を窒素ガスで置換した。次いで、アスコルビン酸(0.52mg,3μmol)を水(1mL)に溶解した0.5mM溶液を反応容器中に注入し、25℃で30分間重合反応を行った。
(3−6) templete化合物の除去
重合反応後、上記金/ガラス基板を分離し、水で洗浄した。次いで、残留している銅イオン(II)を除去するため、1M EDTA−4Na水溶液に、25℃で12時間浸漬した。
次に、オキシム基を加水分解することによりtemplete化合物を除去するため、上記金/ガラス基板を100mM塩酸に40℃で24時間浸漬し、次いで、純水およびエタノールで十分に洗浄することにより、コルチゾールの特異的認識空間を有するMPC薄膜が形成された金/ガラス基板を得た。
比較例1: β−シクロデキストリンのみが固定化された基板の作製
上記実施例1(3−4)〜(3−6)の「templete化合物の固定化」と「templete化合物の除去」を行わない以外は上記実施例1を同様にして、β−シクロデキストリンのみが固定化された高分子薄膜が形成された金/ガラス基板を作製した。
比較例2: オキシム結合部位のみを有する基板の作製
(1) 自己組織化単分子膜(SAM膜)の形成
金/ガラス基板(日本分光社製)を水とエタノールで十分に洗浄した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥した。乾燥した金表面をArエッチング処理した。別途、ビス[2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)ウンデシル]ジスルフィド(1.8μL,3μmol)をエタノール(6mL)に溶解し、0.5mM溶液を調製した。上記金/ガラス基板を当該溶液に25℃で24時間浸漬した。
(2) 重合反応
反応容器中に、水(3.00mL)、DMSO(1mL)、上記(1)で得た金/ガラス基板、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC,66.5mg,225μmol)、上記実施例1(1)で得たtemplete化合物(3.15mg,4.5μmol)、臭化銅(II)(1.00mg,4.5μmol)、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA,0.94μL,4.5μmol)を加え、反応容器中の気相を窒素ガスで置換した。次いで、アスコルビン酸(0.39mg,2.25μmol)を水(0.5mL)に溶解した0.5mM溶液を反応容器中に注入し、25℃で30分間重合反応を行った。
(3) templete化合物の除去
重合反応後、上記金/ガラス基板を分離し、水で洗浄した。次いで、残留している銅イオン(II)を除去するため、1M EDTA−4Na水溶液に、25℃で12時間浸漬した。
次に、オキシム基を加水分解することによりtemplete化合物を除去するため、上記金/ガラス基板を100mM塩酸に40℃で24時間浸漬することにより、コルチゾールの特異的認識空間を有するMPC薄膜が形成された金/ガラス基板を得た。但し、実施例1とは異なりβ−シクロデキストリンを固定化していないため、特異的認識空間の方向はランダムである。
実施例2: 蛍光測定によるコルチゾールの検出
フルオレセインイソチオシアネート−ビスフェノールA(FITC−BPA)を10mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し、100nM FITC−BPA溶液を調製した。当該溶液に、コルチゾールに対するMIP膜が形成された金/ガラス基板(実施例1)を25℃で1時間浸漬した後、コルチゾールを10mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した溶液を加えていき、上澄み液の蛍光を測定した。この際、コルチゾールとビスフェノールAは立体コンフォメーションが似ているので、ビスフェノールAはコルチゾールに対するMIP膜に捕捉される一方で、MIP膜に対する親和性がより高いコルチゾールの添加により置換されて溶液中に漏出する。なお、蛍光測定における励起波長は495nmとし、測定蛍光波長は515nmとした。相対蛍光強度変化量[(I−I0)/I0]と、MIP金/ガラス基板が浸漬されている溶液に添加したコルチゾール濃度との関係を図2に示す。また、測定結果をグラフ作成ソフト(日本ポラデジタル「DeltaGraph」)で処理し、MIP金/ガラス基板とコルチゾールとの結合定数Kを算出した。結果を表1に示す。
また、比較のために、β−シクロデキストリンのみが固定化されたMIP金/ガラス基板(比較例1)とオキシム結合部位のみを有するMIP金/ガラス基板(比較例2)を用い、同様に測定を行った。結果を図2と表1に示す。
図2と表1に示す結果のとおり、β−シクロデキストリンとオキシム結合部位の両方を有するコルチゾール特異的認識空間を有するMIP膜は、これら何れか一方のみを有するMIP膜に比べて、コルチゾールに対する選択的親和性が高いことが実証された。
実施例3: コルチゾールに対する選択性試験
上記実施例2において、コルチゾールに加え、構造が類似する17−β−エストラジオール、コレステロール、テストステロンおよびプロゲステロンを用いた以外は同様にして、本発明に係るMIP膜の親和性を測定した。各化合物の構造を以下に示し、測定結果を図3に示す。なお、図3中、コルチゾールの測定結果を「◆」で示し、その他の化合物の測定結果を「■」で示す。
図3に示す結果のとおり、本発明に係るMIP膜は、コルチゾールと構造が非常に似ているその他のステロイド化合物に比べても、コルチゾールに対する選択的な親和性を有することが明らかとなった。
実施例4: 架橋MIP膜の作製と選択的親和性試験
上記実施例1(3−5)において、水(6mL)、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC,70.9mg,240μmol)、架橋剤であるN,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm,9.25mg,60μmol)、臭化銅(I)(1.34mg,6μmol)、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA,1.25μL,6μmol)およびアスコルビン酸(0.52mg,3μmol)を用いた以外は上記実施例1と同様にして、金/ガラス基板上に架橋MIP膜を形成した。
得られた架橋MIP膜と上記実施例1で得た未架橋MIP膜を用い、上記実施例2と同様の条件で、コルチゾールに対する選択的親和性を試験した。結果を図4に示す。また、得られた測定結果より当該架橋MIP膜のコルチゾールに対する結合定数Kを算出したところ、結合定数Kは2.30×1011-1であった。これらの結果より、架橋MIP膜は未架橋MIP膜に比べると、相対蛍光強度変化量は小さくなったが、コルチゾールに対する結合定数は大きくなったことが読み取れる。よって、架橋により、コルチゾールに対する特異的な認識空間がより堅固に構築されることにより結合定数が大きくなり、また、非特異的な吸着サイトが減少したために相対蛍光強度変化量が小さくなったと考えられる。
さらに、コルチゾールに加えて17−β−エストラジオール、コレステロール、テストステロンおよびプロゲステロンを用いて、相対蛍光強度変化量を測定した。結果を図5に示す。なお、図5中、コルチゾールの測定結果を「◆」で示し、その他の化合物の測定結果を「■」で示す。
図5に示す結果のとおり、架橋MIP膜を用いた場合、未架橋MIP膜を用いた場合に比べ、コルチゾールとその他のステロイド化合物のとの相対蛍光強度変化量の差はより大きくなっており、架橋MIP膜のコルチゾールに対する選択的親和性はより一層高いといえる。

Claims (6)

  1. ステロイドホルモン化合物の分子インプリンティング膜であって、
    上記ステロイドホルモン化合物が下記式(I)で表されるものであり、
    [式中、
    1は、メチル基、ヒドロキシメチル基またはホルミル基を示し、
    2は、水素原子、水酸基またはオキソ基を示し、
    3は、メチル基、ヒドロキシメチル基またはホルミル基を示し、
    4は、1以上の置換基αで置換されているC1-10アルキル基、または水酸基を示し、
    5は、水素原子または水酸基を示し、
    4とR5は一緒になってオキソ基を形成してもよく、
    置換基αは、水酸基およびオキソ基から選択される置換基を示す]
    自己組織化単分子膜の上にポリマー層が積層されている積層構造を有し、
    上記自己組織化単分子膜の表面の一部にβ−シクロデキストリンが結合しており、
    上記ポリマー層には上記ステロイドホルモン化合物に対する特異的認識空間が形成されており、
    上記特異的認識空間の一端には上記β−シクロデキストリンが存在し、且つ、上記特異的認識空間の他端にはアミノオキシ基が存在することを特徴とする分子インプリンティング膜。
  2. 分子インプリンティングポリマーの特異的認識空間を形成するための鋳型化合物であって、下記式(II)で表されることを特徴とする鋳型化合物。
    [式中、
    XとYは、独立して、C 1-6 アルキレン基、C 6-12 アリーレン基、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、チオニル基、エステル基、アミド基、スルホキシド基、スルホニル基、およびこれら2以上、5以下が結合したリンカー基を示し、
    1は、メチル基、ヒドロキシメチル基またはホルミル基を示し、
    2は、水素原子、水酸基またはオキソ基を示し、
    3は、メチル基、ヒドロキシメチル基またはホルミル基を示し、
    5は、水素原子または水酸基を示し、
    6は、水素原子またはメチル基を示す]
  3. ステロイドホルモン化合物の分子インプリンティング膜を製造するための方法であって、
    金属基板上に自己組織化単分子膜を形成する工程、
    上記自己組織化単分子膜の表面にβ−シクロデキストリンを結合させる工程、
    上記β−シクロデキストリンに、請求項2に記載の鋳型化合物のアダマンチル基を相互作用させる工程、
    2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを含むビニルモノマーを添加し、上記鋳型化合物のビニル基と共重合させる工程、
    上記鋳型化合物のオキシム基を加水分解し、上記鋳型化合物のステロイド部分を除去する工程を含むことを特徴とする方法。
  4. 試料中におけるステロイドホルモン化合物を検出する方法であって、
    上記ステロイドホルモン化合物は、請求項1で規定されている式(I)で表されるものであり、
    溶媒中、請求項1に記載の分子インプリンティング膜と上記試料を接触させる工程、および、
    上記分子インプリンティング膜と上記試料との接触により上記特異的認識空間内に取り込まれた上記ステロイドホルモン化合物を測定する工程を含むことを特徴とする方法。
  5. さらに、上記接触工程の前に、上記分子インプリンティング膜の特異的認識空間に、標識基を有し、上記ステロイドホルモン化合物に類似する化学構造を有し、上記特異的認識空間に取り込まれ得るものであり、且つ上記ステロイドホルモン化合物に比べて上記特異的認識空間に対する親和性が低い疑似ステロイドホルモン化合物を挿入する工程を含み、
    上記測定工程において、反応系の溶液における標識基の濃度変化を測定する請求項4に記載の方法。
  6. 上記測定工程において、反応系の変化を、表面プラズモン共鳴測定法、水晶振動子マイクロバランス法または電気化学インピーダンス法で測定する請求項4に記載の方法。
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