JP6504564B2 - 偽造防止印刷物 - Google Patents

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Description

本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、観察できる画像が入射する光の角度に応じて、異なる画像に変化する偽造防止印刷物に関わるものである。
近年のスキャナ、プリンタ、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのような複製や偽造を防止する偽造防止技術の一つとして、印刷物や観察角度によって画像が変化するホログラムに代表される光学的なセキュリティ要素を貼付したものが多く存在するようになった。
しかし、ホログラムは、インキを用いた印刷によって形成する従来の偽造防止技術とは異なり、複雑な製造工程と特殊な材料を用いて形成されることから、従来の偽造防止用印刷物と比較すると製造に手間が掛かり、かつ、極めて高価である。このことから、金属インキや干渉マイカや酸化フレークマイカ、顔料コートアルミニウムフレーク、光学的変化フレーク等の特殊な光反射性粉体をインキや塗料に配合し、かつ、特殊な材料同士の重ね合わせや複雑な網点構成を用いることによって、ホログラムと同様の画像変化を実現した一般的な印刷方法で形成可能な偽造防止用印刷物が出現している。
本出願人は、一般的、かつ、比較的安価な材料及び簡単な印刷手段を使用していながら、特定の観察角度において、印刷物中の特定部位における人の目に認識される情報が、観察角度を変化させることによって、全く別の情報に変化する偽造防止用情報担持体に係る発明を既に出願している(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5参照)。
特許第3398758号公報 特許第4604209号公報 特許第5358819号公報 特許第5245102号公報 特許第5360725号公報
特許文献1の技術に関しては、第一の印刷画像を構成する光輝性材料と第二の印刷画像を構成する色材料は、色相が異なるため、拡散反射光下の観察において、本来、視認されてはならない第二の印刷画像が見えてしまうという問題があり、また、第二の印刷画像は、疎な面積率で構成され、かつ、高い面積率で形成された第一の印刷画像の上に重畳される構成であるため、正反射光下で出現する第二の印刷画像の視認性が低いという問題があった。
特許文献2及び特許文献3に記載の技術においては、光輝性材料と透明なインキを重ね合わせて偽造防止印刷物を形成する技術であり、潜像形成に色材料を用いる特許文献1の技術と異なり、潜像を形成するインキが透明であることから、そもそも色調整を行う必要がなく、また、潜像が拡散反射光下で可視化されることもなく、画像のスイッチ性に優れる技術であったが、目視不可能な透明なインキを使用するために、製造時の印刷品質の管理が困難であるという課題があった。
そのための対策としては、透明なインキに紫外線励起タイプの発光顔料を混合した透明な発光インキを使用し、印刷作業時に紫外線を照射して透明インキが問題なく印刷されているか否かを判断するのが一般的であった。しかし、このような対策を用いた場合、製造時の品質管理は、可能となる反面、紫外線照射時に出現する発光画像を見ることで、潜像の構成を容易に把握できてしまうことから、偽造者に偽造防止技術の構造の手掛かりを与えてしまう可能性があり、偽造に対する耐性に関して課題があった。
さらに、特許文献4に記載の技術は、光輝性材料と、光輝性材料と等色の有色インキをペアインキとしてそれぞれ二つの画像を構成し、画像のチェンジ効果を実現した技術であるが、二つのインキで構成したそれぞれの画像は、互いに重なり合わないよう嵌め合わせる「毛抜き合わせ」と呼ばれる最高難度の刷り合わせが要求され、わずかでも刷り合わせのずれが生じた場合には、潜像画像が可視化されてしまうために、偽造防止効果としては、非常に高いものであったが、製造に当たっては、高精度な印刷機と、熟練オペレータが必要であるという課題があった。
特許文献5に記載の技術は、インキの機能性の組合せを変えることで様々な効果を得ることができる偽造防止技術の画線構成に関わる技術であり、その一形態に拡散反射光下と正反射光下で画像のチェンジ効果を実現した技術が存在する。この技術の偽造防止効果は、非常に高いものであったが、光輝性インキとペアとなる有色インキは、光輝性インキよりも淡い(濃度の低い)色彩である必要があった。このインキの淡さゆえに、印刷物の他の部分への流用が難しく、偽造防止技術の形成に当たって専用に2色のインキを用いる必要があった。
これは、その他の特許文献1から特許文献4までに記載の技術も同様であって、偽造防止技術の形成のために専用に2色のインキが必須である。偽造防止技術は、現実にはそれ単体のみで用いられるわけではなく、地紋や彩紋、肖像や文字等の様々なデザイン要素と一体となって印刷物の一部を構成するのであるから、偽造防止技術の形成だけのためにインキ数を多く用いた場合には、当然のことながら、その他のデザイン要素に用いることができるインキの数が制限される。
仮に、4色印刷機(4胴の印刷機)で印刷物を印刷する場合に、偽造防止技術の形成に印刷ユニットを2胴占有されてしまえば、偽造防止技術以外の他のデザイン要素の印刷に用いることができる印刷ユニットは、残り2胴だけとなり、結果として他のデザイン要素は、2色のみでまかなわざるを得ず、印刷物全体としての色彩設計が大きく制約されてしまう。以上のように、従来技術においては、専用に2色のインキが必要であるがゆえに、結果として印刷物トータルの色彩設計の制約が大きくなるという問題があった。
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、光輝性材料を含むインキと光輝性材料と色相が同じ有色インキをペアインキとして形成する、拡散反射光下と正反射光下で画像がチェンジする効果を有する印刷物であって、画像のチェンジ効果が高く、偽造に対する耐性も高く、かつ、製造が容易で、専用に2色のインキを必要としない、コストパフォーマンスの高い偽造防止印刷物を提供する。
本発明は、基材上の少なくとも一部に、拡散反射光下において視認可能な第一の有意情報と、正反射光下で視認可能な第二の有意情報を有する、基材とは異なる色彩の印刷画像を備え、印刷画像は、光輝性インキにより形成された第一の画像と、拡散反射光下において光輝性インキと同じ色相、かつ、前記光輝性インキよりも濃い有色インキにより形成された潜像部を有して第二の有意情報を表した第二の画像とが重畳して成り、第一の画像は、情報部と、潜像部を濃淡反転した潜像カモフラージュ部が濃度の差により区分けされて成り、第二の画像は、潜像部と背景部が濃度の差により区分けされて成り、第一の画像の情報部及び潜像カモフラージュ部の各濃度は、拡散反射光下の印刷画像が表す第一の有意情報の濃度から同じ位置に重なる第二の画像の濃度を減じた濃度で形成され、拡散反射光下において、印刷画像の濃淡の差により第一の有意情報が視認され、正反射光下において各インキの光学特性の違いにより第二の有意情報が視認できることを特徴とする偽造防止印刷物である。
本発明は、光輝性インキが銀インキであり、有色インキが黒インキであることを特徴とする偽造防止印刷物である。
本発明は、第一の画像の網点面積率の最大面積率と最小面積率の差異が、少なくとも50%を超えることを特徴とする偽造防止印刷物である。
本発明の偽造防止印刷物を構成する二つの画像は、一つは光輝性インキ、もう一つは光輝性インキよりも濃い通常の有色インキで形成できる。技術の特徴上、光輝性インキとペアとなる濃い通常の有色インキは、一定以上の濃度を有するインキとなるため、本偽造防止印刷物が形成される印刷物の他のデザイン要素を構成するインキと共通化することができ、本技術を形成するために二つのペアインキを専用に用いる必要がなく、偽造防止技術の形成のためだけに用意する必要があるのは、光輝性インキ1色のみとなる。このため、本技術は印刷ユニットに1胴を用いれば構成可能であり、その他の印刷胴には偽造防止技術以外のデザイン要素を形成するために、異なる色のインキを投入できる。結果として印刷物中の偽造防止技術以外の他のデザイン要素の色彩設計の自由度を高めることができる。
本発明の偽造防止印刷物を構成する二つの画像は、各部の重なり合いの位置関係に決まりがあるため、基本的には、一定の刷り合わせ精度を必要とする。しかしながら、それぞれを構成するインキ同士が重なり合っても問題ないため、通常の印刷作業で実施するように、画像の輪郭を太らせて二つの画像同士をわずかにオーバラップさせて刷り合わせの冗長性を確保することができる。したがって、特許文献4に記載の従来技術のように毛抜き合わせによって画像同士を嵌め合わせる必要がなく、従来技術ほど高い刷り合わせ精度を要求しないため、製造が容易である。
本発明の偽造防止印刷物は、特許文献1の技術と異なり、正反射光下で出現する画像となる第二の画像は、第一の画像によって完全にカモフラージュされるため、拡散反射光下で不可視であって、隠蔽性が高い。
また、特許文献2及び特許文献3に記載の従来技術のような透明インキを使用しないため、従来技術のように潜像画像を発光させて管理する必要がなく、有色インキによって形成された画像の品質を目視で管理すればよい。そのため、二つの画像が重なり合って印刷画像として完成品となった後は、その構成を見破ることは困難であり、偽造に対する耐性が高い。
以上の手法で形成した偽造防止印刷物は、生産性の高い印刷方式であるオフセット印刷で製造可能であることからコストパフォーマンスに優れ、また最新のデジタル機器を用いたとしても、スイッチ効果を実現することは不可能であることから、偽造防止効果に優れる。
本発明における偽造防止印刷物を示す。 本発明における偽造防止印刷物の構成の概要を示す。 本発明における第一の画像の濃度の算出方法の概要図を示す。 本発明における偽造防止印刷物の層構造を示す。 本発明における偽造防止印刷物の効果を示す。
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
まず、本発明について図面を用いて説明する。図1に、本発明における偽造防止印刷物(1)を示す。偽造防止印刷物(1)は、基材(2)の上に、基材(2)と異なる色彩を有する印刷画像(3)を有する。印刷画像(3)は、拡散反射光下では第一の有意情報を表して成る。なお、本実施の形態では、第一の有意情報とはアルファベットの「A」とそれを取り囲む円を指す。すなわち、本発明においては、拡散反射光下において印刷画像(3)が表す図柄全体を第一の有意情報とする。
印刷画像(3)は、図2に示す第一の画像(4)と第二の画像(5)が重畳されて成る。第一の画像(4)は、情報部(4A)及び潜像カモフラージュ部(4B)から成り、これらは、濃度の差によって区分けされている。情報部(4A)は、その輪郭の形状(アウトライン)によって拡散反射光下で印刷画像(3)のアルファベットの「A」の文字を構成して成り、一方の潜像カモフラージュ部(4B)は、第一の画像(4)から情報部(4A)を除いた画像であり、具体的には、後述する潜像部(5A)の濃淡を反転させた画像から、情報部(4A)を除いた構成を有する。第一の画像(4)は、光輝性インキによって形成される。
一方の第二の画像(5)は、潜像部(5A)と、潜像部(5A)に隣接する背景部(5B)が濃度の差によって区分けされており、正反射光の特定の角度において印刷画像(3)の中に現れる第二の有意情報を構成して成る。背景部(5B)は、印刷画像(3)と同じ大きさであって、潜像部(5A)に接して成る。構成上、潜像部(5A)は、背景部(5B)には含まれない。なお、本実施の形態においては、潜像部(5A)が濃く、背景部(5B)が淡い構成を有する形態で説明するが、背景部(5B)が濃く、潜像部(5A)が淡い構成を有する形態であっても何ら問題ない。本実施の形態における第二の有意情報は、アルファベットの「B」の文字とそれを取り囲む円を指す。すなわち、本発明においては、正反射光下において印刷画像(3)が表す図柄全体を第二の有意情報とする。第二の画像(5)は、光輝性インキと同じ色相であって、より濃い濃度の通常の有色インキで形成されて成る。
第一の画像(4)における情報部(4A)と潜像カモフラージュ部(4B)とは、濃度の差を有し、第二の画像(5)における潜像部(5A)と背景部(5B)とは、濃度差を有する必要がある。これは、第一の有意情報及び第二の有意情報を濃淡によって表すために必須な条件である。なお、第一の画像(4)の情報部(4A)と潜像カモフラージュ部(4B)には、一定の濃度が必須であるが、第二の画像(5)の潜像部(5A)あるいは、背景部(5B)のどちらか一方の反射濃度は0であってもよい。
加えて、第一の画像(4)は、情報部(4A)と潜像カモフラージュ部(4B)の間に濃度の差を有するだけでなく、情報部(4A)と潜像カモフラージュ部(4B)の中に異なる濃淡を有して成る。この情報部(4A)と潜像カモフラージュ部(4B)の中の濃淡の構成について、図3を用いて説明する。第一の画像(4)の濃淡とは、印刷画像(3)が拡散反射光下で表す第一の有意情報の濃度から、同じ位置に重なる第二の画像(5)の濃度を差し引いた濃度で構成される。図3を用いて具体的に説明する。
仮に、印刷画像(3)が、無彩色である灰色で形成されていると仮定し、印刷画像(3)中のアルファベットの「A」の文字が黒成分の反射濃度で1.0の濃度を有し、印刷画像(3)のその他の領域が、黒成分の反射濃度で0.5の濃度を有するとし、第二の画像(5)の潜像部(5A)が黒成分の反射濃度で0.4の濃度を有し、背景部(5B)が黒成分の反射濃度で0.1の濃度を有する場合、第一の画像(4)の濃度は、それぞれの領域の濃度を減じることで自動的に決まる。
すなわち、アルファベット「A」を表す情報部(4A)の濃い部分は、印刷画像(3)のアルファベットの「A」の文字の黒成分の反射濃度で、1.0から第二の画像(5)の背景部(5B)の黒成分の反射濃度で、0.1を減じた反射濃度0.9となり、情報部(4A)の淡い部分は、印刷画像(3)のアルファベットの「A」の文字の黒成分の反射濃度で、1.0から第二の画像(5)の潜像部(5A)の黒成分の反射濃度で、0.4を減じた反射濃度0.6となる。また、潜像カモフラージュ部(4B)の濃い部分は、印刷画像(3)の「A」以外の黒成分の反射濃度で、0.5から第二の画像(5)の背景部(5B)の黒成分の反射濃度で、0.1を減じた反射濃度0.4となり、潜像カモフラージュ部(4B)の淡い部分は、印刷画像(3)の「A」以外の領域の黒成分の反射濃度で、0.5から第二の画像(5)の潜像部(5A)の黒成分の反射濃度で、0.4を減じた反射濃度0.1となる。
前述の説明では、印刷画像(3)が無彩色として黒成分のみの濃度について説明したが、有彩色であった場合には、黄、赤、青、黒の全ての色成分について、印刷画像(3)の濃度から第二の画像(5)の濃度を減じて第一の画像(4)の濃度を決定すればよい。本発明の偽造防止印刷物(1)においては、第一の画像(4)と第二の画像(5)が単純に重なり合い、減法混色した色彩によって印刷画像(3)が構成されることから、逆に印刷画像(3)の濃度から、同じ位置にある第二の画像(5)の濃度を減じることによって、第一の画像(4)の濃度を自動的に決定できる。以上の手順で各画像の濃度を決定すれば、本発明の偽造防止印刷物(1)を形成することができる。
また、画像のチェンジ効果を高めるためには、印刷画像(3)が拡散反射光下で表す画像、すなわち第一の有意情報の濃淡に制限を設ける必要がある。具体的には、第一の有意情報の最大濃度と最小濃度の濃度差を0.1以上1.5以下とする必要がある。0.1未満の場合には、拡散反射光下の第一の有意情報の視認性が低くなり過ぎるためであり、1.5を超える場合には、正反射光下で第一の有意情報が消失しきらないためである。また、第二の画像(5)は、印刷画像(3)の濃淡の中に完全に隠蔽される必要があることから、第二の画像(5)の最高濃度は、拡散反射光下の印刷画像(3)が表す画像、すなわち第一の有意情報の最低濃度以下とする必要がある。
また、前述の濃度の条件を満たした上で、第二の画像(5)の望ましい条件について以下に述べる。拡散反射光下において、潜像部(5A)は、完全に隠蔽されているものの、正反射光下における第二の有意情報の視認性が低い場合、潜像部(5A)と背景部(5B)の濃度差を大きくすればよい。潜像部(5A)と背景部(5B)の濃度のいずれか一方を、第一の有意情報の最小濃度値と同じ値とし、いずれか一方の濃度を0とする条件が、第二の有意情報の最も視認性が高まる条件である。
一方、光輝性インキと有色インキとの色彩のバランスが悪く、拡散反射光下において、潜像部(5A)と潜像カモフラージュ部(4B)とが等色とならず、第二の有意情報が完全に隠蔽できない場合には、潜像部(5A)の隠蔽性を向上させるため、潜像部(5A)と背景部(5B)の濃度差を小さくすればよい。
このように潜像部(5A)と背景部(5B)の濃度差を調整することで、第二の有意情報の視認性を高めたり、光輝性インキと有色インキの二つのインキの色彩の違いに由来する画像上の色彩の違いを小さくしたりして、第二の有意情報の隠蔽性を高めることができる。
加えて、第一の画像(4)の網点面積率について、最大面積率と最小面積率の差異を大きく設計することが望ましい。これは、第一の画像(4)の網点面積率の最大面積率と最小面積率の差異の大小は、拡散反射光下の第一の有意情報の濃淡差と同義であり、第一の有意情報の視認性の高低に直結することに加え、光輝性インキによって構成される第一の画像(4)の網点面積率の大小は、第一の画像(4)の正反射時の反射光量の大小に直結するため、最大面積率が高い方が第二の有意情報の視認性は高まる。
以上のことを踏まえると、第一の画像(4)の網点面積率について、最大面積率と最小面積率の差異が少なくとも50%を超えることが望ましく、更に70%を超えることがより望ましい。50%以下の場合、正反射光下の第二の有意情報の視認性が低くなるためである。また、出願人が発明に当たって実施した複数の水準の試験結果から、70%を超えた場合に、更に顕著な効果を見受けられた。以上が第二の画像の説明である。
続いて、第一の画像(4)を構成する光輝性インキと、第二の画像(5)を構成する有色インキの具体的な色彩の関係及び光学特性について説明する。まず、二つのインキの色彩の関係について説明する。本発明の特徴の一つは、ペアインキの一つである有色インキを、地紋や彩紋、文字等の偽造防止技術以外のデザイン要素を構成するインキと共通化することで、偽造防止技術の形成だけのために、2色の専用のインキを用いなくてもよいところにある。
本発明で用いる有色インキとして、拡散反射光下において、光輝性インキと同じ色相であって、かつ、光輝性インキよりも濃い色彩関係にあるインキとする具体的な理由について説明する。光輝性インキと有色インキが同じ色相であることは、光輝性インキで構成した第一の画像(4)の中に第二の画像(5)を隠蔽するための必須事項である。仮に、二つのインキの色相が異なっていた場合、いかに濃度の調整を行おうとも、第一の画像(4)中に第二の画像(5)を完全に隠蔽することができないためである。
また、有色インキの濃度に関しては、偽造防止技術の構成に用いる有色インキと、偽造防止技術以外のデザイン要素の構成に用いるインキとを共通化し、かつ、デザイン要素の色彩設計の自由度を高めることを目的とする以上、濃ければ濃いほどデザイン要素の色彩設計の自由度は高まる。濃いインキを用いた場合、インキよりも淡い色彩は、印刷図柄の網点面積率を調整することで実現できるのに対し、反対にインキの濃度よりも濃い色彩を実現することは、不可能であるためである。このように、濃い濃度のインキをペアインキとすることによって、偽造防止技術以外のデザイン要素の色設計の制約が最も小さくなる。
これらの理由によって、本発明においては、光輝性インキとペアとなる有色インキは、光輝性インキと同じ色相であって、かつ、光輝性インキよりも濃い濃度を有したインキを用いるものである。以上が、第一の画像(4)を構成する光輝性インキと、第二の画像(5)を構成する有色インキの具体的な色彩の関係の説明である。
続いて、二つのインキの光学特性について説明する。光輝性インキについては、拡散反射光下において一定の濃度を有し、正反射光下において光を強く反射して色彩が淡く変化する、いわゆる明暗フリップフロップ性を有する必要がある。また、正反射光下において光を強く反射して色相が変化する、いわゆるカラーフリップフロップ性を有していてもよい。すなわち、光輝性インキは、拡散反射光下の色彩と正反射光下の色彩が大きく異なる必要がある。一方の有色インキに関しては、拡散反射光下において一定の濃度を有し、正反射光下において、光を強く反射することなく、拡散反射光下の色彩と正反射光下の色彩が、大きく変化しないことが望ましい。光輝性インキの正反射光下の色彩と有色インキの正反射光下の色彩の違いが、大きければ大きいほど、正反射光下で出現する第二の有意情報の視認性が高まる。以上が、二つのインキの光学特性の説明である。
ここで、光輝性インキと有色インキの具体例を説明する。本発明の偽造防止技術においては、光輝性インキに銀インキを、有色インキに黒インキを用いた場合、その特徴が最も効果的に発揮される。銀インキと黒インキは同じ色相に属し、かつ、銀インキよりも黒インキの方が一般的に2倍程度濃いことから、本発明を構成するペアインキに必要とする条件を満たす。なお、本発明においては、白、灰、黒の一連の無彩色も、一つの同じ色相に属すると見なす。
銀インキは、オフセット印刷でも安定して高い反射光を生じる、優れた光輝性インキの一つであり、黒色(黒インキ)は、ほとんどの印刷物の文字や図柄に用いられる色であって、極めて汎用性が高い色である。すなわち、偽造防止技術を付与しない場合でも、黒色は、もともと使用する色である場合がほとんどであることから、偽造防止技術の形成だけのために、用意しなければならないのは、光輝性インキである銀インキのみとなる。以上のように、本発明の偽造防止技術を構成する上では、光輝性インキに銀インキを、有色インキに黒インキを用いるペアインキの組合せは、理想的であるといえる。ただし、本発明の構成に用いるインキは、これに限定されるものではなく、赤金インキと赤味の橙インキや、青金インキと青味の橙インキ等の組合せであってもよい。
続いて、第一の画像(4)と第二の画像(5)の積層順序について、図4を用いて説明する。本発明の偽造防止印刷物(1)は、図4(a)に示すように基材(2)に第二の画像(5)を印刷した後、第一の画像(4)を重畳しても、図4(b)に示すように基材(2)に第一の画像(4)を印刷した後、第二の画像(5)を重畳しても、二つの画像が重畳さえすれば、画像のチェンジ効果が発現する。ただし、画像のチェンジ効果が相対的に高くなるのは、図4(b)に示す第一の画像(4)の上に第二の画像(5)を重ねた形態である。これは、特許文献1から3までの技術と同様に、上に重なった有色インキが、第一の画像(4)に入射する入射光を遮断する効果が加わるため、正反射光下において二つの画像のコントラストが相対的に高まり、第二の有意情報の視認性が高くなるためである。
前述のとおり、画像のチェンジ効果を優先する場合には、図4(b)に示す積層順序で形成すればよいが、その場合、印刷機構上における先に配置されている印刷胴によって、メタリックインキで形成した第一の画像(4)が、次の印刷胴で部分的にとられてしまう「ムカレ」や「ピッキング」等の、印刷順序に由来する品質不良が発生する場合や、その懸念がある場合には、図4(a)に示す積層順に変えればよい。
以上の構成で作製した偽造防止印刷物(1)の効果について、図5を用いて説明する。光源(6)と偽造防止印刷物(1)と観察者(7)の位置関係を、図5(a)にあるような、拡散反射光が支配的な観察角度(印刷物に入射する光の入射角度(α)(この例では45°)と、観察者と印刷物とを結ぶ反射角度(β)が大きく異なる角度(この例では0°))で観察した場合には、観察者には、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が視認される。拡散反射光下において、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字は、視認できない。なお、拡散反射光が支配的な観察角度は、正反射光がほとんどなく、拡散反射光の割合が極めて大きい状態である。
一方、偽造防止印刷物(1)を、図5(b)に示すような、正反射光が支配的な角度(印刷物に入射する光の角度(α)と、観察者と印刷物とを結ぶ反射角度(β)が近い値である角度範囲(この例では、両角度とも45°))の中で観察した場合には、第一の画像(4)の示す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が完全に消失し、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字が視認される。なお、正反射光が支配的な角度は、拡散反射光が少なく、正反射光の割合が多い状態である。
本発明の二つの画像がチェンジする基本的な原理は、以下のとおりである。図5(a)に示す拡散反射光が支配的な観察角度において、印刷画像(3)中の濃度の違いによって、第一の有意情報が視認される。また、一方の図5(b)に示すような、正反射光が支配的な観察角度において、光輝性インキで構成された第一の画像(4)が入射した光を正反射して淡く変化することで、第二の画像(5)以外の領域の目視上の濃度差が相対的に小さくなり、階調が圧縮されて第一の有意情報が不可視となる。一方の第二の画像(5)の色彩は、変化せず、結果として正反射光下では第二の画像(5)が表す第二の有意情報が視認される。これが、本発明の偽造防止印刷物(1)において、画像のチェンジ効果が生じる原理である。
発明が解決しようとする課題でも述べたが、第一の画像(4)と第二の画像(5)の重ね合わせに際して、画像の境界部の輪郭を太らせて二つの画像同士をオーバラップさせることで、刷り合わせの冗長性を確保することができる。光輝性インキと有色インキの濃度によって適正な範囲は異なるが、具体的には、0.05mmから0.50mm程度のオーバラップした領域を設けてもよい。オーバラップが大きくなると刷り合わせは容易だが、潜像部(5A)の隠蔽性が低下するため、インキの濃度に応じて適正な値に止める必要がある。
第一の画像(4)を形成する光輝性インキとは、光を強く反射する特性を備えた光輝性材料をインキ中に含んだインキであって、基材(2)と異なる色彩のインキであれば、いかなるインキを用いてもよい。オフセットインキとして市販されているインキとしては、メタリックインキと呼ばれる銀インキや金インキ等が存在し、特殊なパール顔料を配合したパールインキ等を用いてもよい。加えて、光輝性材料の他に着色顔料を混合しても問題ない。着色顔料の色は黒や赤や青、黄色等のいずれの色相であっても何ら問題ない。ただし、過剰な量の顔料を混合した場合には、第一の画像(4)を適切な網点面積率の範囲で形成したとしても、階調表現域が拡大し過ぎて、正反射光下での観察において、第一の画像(4)が消失しきらない事象が生じる。よって、いずれの着色顔料を混合する場合でも、インキ中の光輝性材料の配合割合の2分の1の量を超えない範囲に止めることが望ましい。
前述の光輝性材料は、アルミニウム粉末、銅粉末、亜鉛粉末、錫粉末、真鍮粉末、リン化鉄等の一般的な金属粉顔料であってもよい。また、虹彩色パール顔料、鱗片状顔料等の一般的なパール顔料や、ガラスフレーク顔料、コレステリック液晶顔料等の機能性顔料等を用いてもよい。
第二の画像(5)を形成する有色インキは、光輝性インキと同じ色相であればよい。インキは、グロス系でもマット系でもよいが、基材を問わずに高いスイッチ効果を発現させるには、マット系の透明インキを用いることが望ましい。マット系のインキの方が正反射光下において第二の有意情報のコントラストを高めやすく、画像のチェンジ効果が高くなるためである。また、この有色インキに、蛍光顔料や燐光顔料、蓄光顔料等の発光顔料やIR吸収顔料、フォトクロミック顔料、示温材料、サーモクロミック材料等の機能性材料を加えてもよく、この場合、画像のスイッチ効果に加えて各種の機能性を追加することができる。
ペアインキの色彩を決定する順序としては、製作者やユーザーが偽造防止技術の画像のチェンジ効果を優先するのであれば、明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性等の光学性能の高い光輝性インキをまず見出してから、次にペアとなる有色インキの色彩を合わせればよい。また、印刷物の色彩設計を優先するのであれば、先にペアインキとなる有色インキの色彩を決定した後に、光輝性顔料と着色顔料を適切に配合して有色インキよりも淡い色彩の光輝性インキを設計すればよい。
本発明における偽造防止印刷物の印刷方式は、オフセット印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、凹版印刷等のあらゆる印刷方式で形成することが可能である。また、金属インキを用いることが可能であれば、IJPやレーザプリンタ、昇華型プリンタ等の各種デジタル出力機でも形成でき、この場合には、一枚一枚の出力物の情報を変える、いわゆる可変印刷を実施することができる。
本実施の形態においては、第一の有意情報及び第二の有意情報に二値画像であるアルファベットを用いたが、これに限定されるものではなく、それぞれの画像に写真や絵画のような多階調画像を用いてもよい。
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した偽造防止印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例について、実施の形態と同様に図1から図5までを用いて説明をする。実施例では、基材(2)として、白色の上質紙(しらおい 日本製紙株式会社製)を用いた。
第一の画像(4)及び第二の画像(5)の各部の反射濃度は、実施の形態で説明した数値とし、積層順序としては、図4(b)に示す構成で、光輝性インキとして銀インキ(UV No.3 シルバー 株式会社T&K TOKA社製)を用いて第一の画像(4)を印刷した後、有色インキとして黒インキ(UV 161 墨S 株式会社T&K TOKA社製)を用いて、第二の画像(5)を第一の画像(4)の上に重畳して形成した。黒インキは、銀インキの約2倍の反射濃度であった。
図5に本発明の偽造防止印刷物(1)の効果を記す。図5(a)は、観察者が拡散反射光下で本偽造防止印刷物(1)を観察した場合に、観察される画像であり、印刷画像(3)の中には、情報部(4)が表す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が視認された。一方、図5(b)に示すように、観察者が正反射光下の特定の観察角度で偽造防止印刷物(1)を観察した場合、印刷画像(3)の中からアルファベットの「A」の文字は消失し、代わりに潜像部(5A)が表す、第二の有意情報である「B」の文字が視認された。以上のように、二つの異なる画像がチェンジする効果が確認できた。
1 偽造防止印刷物
2 基材
3 印刷画像
4 第一の画像
5 第二の画像
4A 情報部
4B 潜像カモフラージュ部
5A 潜像部
5B 背景部
6 光源
7 観察者
α 光の入射角度
β 光の反射角度

Claims (3)

  1. 基材上の少なくとも一部に、拡散反射光下において視認可能な第一の有意情報と、正反射光下で視認可能な第二の有意情報を有する、前記基材とは異なる色彩の印刷画像を備え、
    前記印刷画像は、光輝性インキにより形成された第一の画像と、拡散反射光下において前記光輝性インキと同じ色相、かつ、前記光輝性インキよりも濃い有色インキにより形成された潜像部を有して第二の有意情報を表した第二の画像とが重畳して成り、
    前記第一の画像は、情報部と、前記潜像部を濃淡反転した潜像カモフラージュ部が濃度の差により区分けされて成り、
    前記第二の画像は、前記潜像部と背景部が濃度の差により区分けされて成り、
    前記第一の画像の前記情報部及び前記潜像カモフラージュ部の各濃度は、拡散反射光下の前記印刷画像が表す前記第一の有意情報の濃度から同じ位置に重なる前記第二の画像の濃度を減じた濃度で形成され、
    拡散反射光下において、前記印刷画像の濃淡の差により前記第一の有意情報が視認され、正反射光下において前記各インキの光学特性の違いにより前記第二の有意情報が視認できることを特徴とする偽造防止印刷物。
  2. 前記光輝性インキが銀インキであり、前記有色インキが黒インキであることを特徴とする請求項1記載の偽造防止印刷物。
  3. 前記第一の画像の網点面積率の最大面積率と最小面積率の差異が少なくとも50%を超えることを特徴とする請求項1又は2に記載の偽造防止印刷物。
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