JP6966745B2 - 偽造防止印刷物 - Google Patents
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Description
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の分野において、観察できる画像が入射する光の角度に応じて異なる画像に変化する、色彩表現に富んだ偽造防止印刷物に関わるものである。
近年のスキャナ、プリンター、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのような複製や偽造を防止する偽造防止技術の一つとして、印刷物や観察角度によって画像が変化するホログラムに代表される光学的なセキュリティ要素を貼付したものが多く存在するようになった。
しかし、ホログラムはインキを用いた印刷によって形成する従来の偽造防止技術とは異なり、複雑な製造工程と特殊な材料を用いて形成されることから、従来の偽造防止用印刷物と比較すると製造に手間が掛かり、かつ、極めて高価である。このことから、金属インキ、干渉マイカ、酸化フレークマイカ、顔料コートアルミニウムフレーク、光学的変化フレーク等の特殊な光反射性粉体をインキや塗料に配合し、かつ、特殊な材料同士の重ね合わせや複雑な網点構成を用いることによって、ホログラムと同様な画像変化を実現した、一般的な印刷方法で形成可能な偽造防止用印刷物が出現している。
本出願人は、一般的、かつ、比較的安価な材料及び簡単な印刷手段を使用していながら、拡散反射光下の観察角度において、印刷物中の特定部位における人の目に認識される情報が、正反射光下の観察角度に変化させることによって、全く別の情報に変化する偽造防止用情報担持体に係る発明を既に出願している(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5参照)。
特許文献1の技術に関しては、第一の印刷画像を構成する光輝性材料と第二の印刷画像を構成する色材料は色相が異なるため、出現する第二の画像に対して、光輝性材料の反射光による1つの色彩と、色材料によるもう1色の合計2色の色彩で表現できる特徴を有する。しかし、逆に言えば、2色以上の色彩を用いた表現は不可能であって、表現可能な色彩が限定されるという問題があった。また、色材料によって潜像を形成することから、適切に設計した場合でも、本来、拡散反射光下で観察者に視認されてはならない第二の画像が視認されてしまい、観察者に違和感を抱かせる場合があるという問題があった。また、拡散反射光下で観察者に視認されない程度に色材料の面積率を抑えて第二の画像を形成することから、正反射光下で出現する第二の画像の視認性が低いという問題があった。加えて、第一の印刷画像と第二の印刷画像の重ね合わせにおいて、所定の位置関係に精度よく合わせる必要があり、製造難度が高かった。
特許文献2から特許文献5までに記載の技術は、第二の画像を構成する色材料を透明化するか、又は第一の画像と第二の画像を等色のペアインキによって構成することによって、第二の画像の隠蔽性を高めるとともに、視認性を向上させた技術である。しかし、色相変化を伴う画像のチェンジ効果を実現した特許文献1の技術とは異なり、主として光輝性材料の明度の上昇を利用して画像のチェンジ効果を実現する技術であるため、チェンジする画像は単一の色相の濃淡のみで表現された単調なモノトーンの画像に制限されるという問題があった。また、特許文献3から特許文献5までの技術に関しては、特許文献1の技術と同様に二つの画像の位置関係を精度よく合わせる必要があった。
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、拡散反射光下と正反射光下で画像がチェンジする効果を有する印刷物であって、拡散反射光下で視認できる画像と正反射光下で視認できる画像に対して、豊かな色彩を付与することが可能であって、正反射光下で出現する画像の視認性が高く、高いチェンジ効果を有する。また、特許文献1のように第一の印刷画像と第二の印刷画像の重ね合わせにおいて高い刷り合わせ精度を必要とせずに容易に製造可能であることを特徴とした偽造防止印刷物を提供する。
本発明の偽造防止印刷物は、基材上の少なくとも一部に、基材と異なる色彩の印刷画像を備え、印刷画像は少なくとも一つの有彩色を含み、2色以上の異なる色彩を有するカラー画像と、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性を有して、所定の面積率の範囲で構成されて濃淡を現した光輝性画像と、拡散反射光下では透明又は半透明であって、正反射光下の色彩が光輝性画像と異なり、面積率の差異によって画像を構成した潜像画像が積層されて成り、カラー画像と、光輝性画像及び潜像画像は色彩共有性を有し、拡散反射光下において、光輝性画像とカラー画像が合成されることで第一の有意情報が視認され、正反射光下において、光輝性画像の明度が上昇することで光輝性画像の濃淡が目視上消失し、潜像画像とカラー画像が合成されることで第二の有意情報が視認されることを特徴とする。
また、本発明の偽造防止印刷物は、カラー画像の少なくとも一つの有彩色の彩度C*が3以上であることを特徴とする。
また、本発明の偽造防止印刷物は、光輝性画像における最大面積率と最小面積率の差異が10%以上50%以下であることを特徴とする。
また、本発明の偽造防止印刷物は、光輝性画像の最大面積率を90%以下であることを特徴とする。
また、本発明の偽造防止印刷物は、潜像画像が光輝性画像より上に形成されることを特徴とする。
また、本発明の偽造防止印刷物は、光輝性画像より下に、透明又は半透明な反射層を更に備えることを特徴とする。
本発明の偽造防止印刷物の正反射光下で出現する潜像画像(従来技術における第二の画像)に適用できる色彩は、特許文献1の技術と異なり、2色に限定されることがない。また、特許文献2から特許文献5までの技術と異なり、色彩表現がモノトーンに制限されることがない。そのため、本発明の偽造防止印刷物は、潜像画像を構成する色数に制限がなく、色彩豊かな表現が可能である。また、潜像画像同様に、拡散反射光下で視認できる画像を多色化することが可能となった。
本発明の偽造防止印刷物は特許文献1の技術と異なり、透明な潜像画像を高い面積率で形成するため、正反射光下で出現する第二の有意情報の視認性が高い。
本発明の偽造防止印刷物は、特許文献1、特許文献3及び特許文献4の技術と異なり、光輝性画像と潜像画像の重ね合わせにおいて、所定の位置関係に精度よく合わせる必要がなく、製造難度が低い。
以上の手法で形成した偽造防止印刷物は、生産性の高い印刷方式であるオフセット印刷で製造可能であることから、コストパフォーマンスに優れるとともに最新のデジタル機器を用いたとしてもチェンジ効果を実現することは不可能であることから、偽造防止効果に優れる。
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
なお、本明細書中でいう「明度」とは、色の明るさを指し、高い場合には明るく、低い場合には暗い。また、彩度とは、色の鮮やかさの度合いを指す。加えて、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400nm〜700nm)の特定の波長の高低の分布を示すものである。本明細書中では、特に、無彩色である白や黒も一つの色相と考え、白、灰色、黒は同じ色相であるとする。
本発明について図面を用いて説明する。図1に、本発明における偽造防止印刷物(1)を示す。偽造防止印刷物(1)は、基材(2)の上に、基材(2)と異なる色彩の印刷画像(3)を有する。印刷画像(3)は、拡散反射光下では第一の有意情報(4)を表して成る。印刷画像(3)の大きさや形状に制約はない。
本発明の偽造防止印刷物(1)に用いる基材(2)は、紙、プラスティック、金属等のインキや塗料、色材等を受理できる特性を有することを条件として、材質は問わない。効果をより高めるためには、印刷する基材(2)表面は、平滑であることが望ましい。
印刷画像(3)は、図2に示す光輝性画像(6)、潜像画像(7)及びカラー画像(8)の三つの異なる画像の重ね合わせによって構成される。具体的な積層関係については後述する。
光輝性画像(6)は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を有する。図3(a)に示すように、拡散反射光下において、光輝性画像(6)の表す単一色の濃淡と、カラー画像(8)の色彩とが合成されることで、第一の有意情報(4)を表す。潜像画像(7)は、透明又は半透明であり、拡散反射光下では不可視だが、正反射光下において可視化される。図3(b)に示すように、正反射光下において、潜像画像(7)の表す単一色の濃淡とカラー画像(8)の色彩とが合成されることで、第二の有意情報(5)を表す。カラー画像(8)は、色相の異なる二つ以上の色彩によって構成されて成り、拡散反射光下において印刷画像(3)の中に現れる第一の有意情報(4)の色彩を表し、正反射光下において印刷画像(3)の中に現れる第二の有意情報(5)の色彩を表す。
本実施の形態において、第一の有意情報(4)は、図3(a)に示す雲が浮かぶ雪山をバックにした丘の上に桜の巨木がある風景を表した画像であり、雲と雪山は白色とグレーで、丘は緑色、桜の巨木は桃色の色彩を有する。一方の第二の有意情報(5)は、図3(b)に示す桜の花びらのマークであり、黄色の花弁を持つ大きな二つの桃色の桜の花びらの周りを小さな白い桜の花と緑の葉が囲んだ画像である。なお、これらの画像は飽くまで一例であり、これに限定されるものではない。
まず、光輝性画像(6)について具体的に説明する。光輝性画像(6)は、物体色を有し、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともどちらか一方の光学特性を備え、所定の面積率の範囲で構成され、拡散反射光下では第一の有意情報(4)の濃淡を表す。一方の正反射光下では、光を反射することで濃淡が消失して目視上消失する働きを成す。言い換えれば、光輝性画像(6)は、第一の有意情報(4)をモノクロ化した画像である。
光輝性画像(6)が備える明暗フリップフロップ性とは、光を反射した場合に、物体(画像)の明度が上昇する特性であり、一方のカラーフリップフロップ性とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。
光輝性画像(6)に明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を付与する方法としては、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を有するインキやトナー、色材、塗料等で光輝性画像(6)を形成するのが最も容易である。明暗フリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキや、グロスタイプの着色インキがある。一般的に艶があると感じられる物質は、明暗フリップフロップ性を備える。例えば、銀インキは、光を強く反射しない拡散反射光下では暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下では、より淡い灰色か又は白色に見える。このように、明暗フリップフロップ性を有するインキは、正反射光下で明度が変化する。正反射光下で明度が変化するのであれば、インキ中の顔料が光を強く反射する特性を有してもよいし、インキの樹脂自体が光を強く反射する特性を有してもよい。
一方のカラーフリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、液晶インキ、OVI(OptiCal Variable Ink)、CSI(Color Shifting Ink)等が存在する。このようなカラーフリップフロップ性を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。
濃淡を有する光輝性画像(6)を正反射光下で消失させるためには、光輝性画像(6)を所定の面積率の範囲で形成する必要がある。この面積率の範囲は、光輝性画像(6)の形成方法や形成した材料等でそれぞれ異なる。例えば、一般的な印刷方法によって、印刷インキを用いて光輝性画像(6)を構成した場合、最大面積率と最小面積率の差を50%以下に制限して光輝性画像(6)を構成する必要がある。これによって、光輝性画像(6)が正反射した場合に、光輝性画像(6)が強く光を反射することで画像の明度が上昇し、画像中の濃淡が肉眼で捉えられなくなり、あたかも光輝性画像(6)が消失したかのような効果を得ることができる。最大面積率と最小面積率の差が小さ過ぎると、拡散反射光下で光輝性画像(6)の濃淡を捉えにくいため、最大面積率と最小面積率の差を少なくとも10%以上とする必要がある。一方、最大面積率と最小面積率の差が大き過ぎると、正反射光下で光輝性画像(6)の濃淡が消失しきらなくなるため、50%以下にとどめる必要がある。以上のように、一般的な印刷インキを用いて光輝性画像(6)を構成する場合、最大面積率と最小面積率の差を10%以上50%以下とする必要がある。
一般に画像の面積率は高い方が、光を強く反射する効果は高まるため、光輝性画像(6)は、ハイライトから中間調で光輝性画像(6)を構成するより、中間調からシャドーで画像を構成する方が、正反射光下における光輝性画像(6)の濃淡の消失効果は高まる。ただし、光輝性画像(6)の面積率が高過ぎると、光輝性画像(6)の濃淡によってカラー画像(8)の色彩が隠蔽され、本発明の特徴の一つである画像の彩度が低くなってしまう。また、光を強く反射するインキや、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷のように光沢を得やすい印刷方式の場合、面積率100%から90%程度の領域の反射光はそれ以下の面積率の領域の反射光よりも著しく強くなる傾向があり、明度が上がり過ぎて逆に白く目立ってしまう場合がある。このため、光輝性画像(6)の最大面積率を90%以下に抑えることが望ましい。
なお、光輝性画像(6)が満たすべき色彩の構成条件の一つとして、カラー画像(8)との「色彩共有性」があるが、これについてはカラー画像(8)の説明の中で具体的に記載する。
続いて、潜像画像(7)について具体的に説明する。潜像画像(7)は、透明又は半透明であって、正反射光下において光輝性画像(6)と異なる色彩の物体色を有さない材料で構成され、第二の有意情報(5)の濃淡を面積率の違いによって表す。言い換えれば、潜像画像(7)は、第二の有意情報(5)をモノクロ化した画像である。
潜像画像(7)は、透明又は半透明であるため、拡散反射光下では不可視だが、正反射光下において光輝性画像(6)と異なる色彩を発することから、光を反射した場合に、光輝性画像(6)の放つ強い反射光をバックとして、光輝性画像(6)の色彩と異なる色彩によって可視化される。光輝性画像(6)よりも相対的にマット(低光沢)な光学特性とすることが、第二の有意情報(5)が視認性を高く保つために望ましい条件であり、この場合は、反射光の強弱が作り出す濃淡(明暗)として可視化される。なお、本発明でいう透明又は半透明とは、下層が透けて見える状態を指す。下層にある画像が完全に隠蔽される構造は、潜像画像(7)の構成には適さない。
光輝性画像(6)と異なり、潜像画像(7)はいかなる面積率も取り得る。100%の領域が存在してもよいし、0%の領域が存在してもよい。光輝性画像(6)よりも相対的にマットな光学特性を有する潜像画像(7)が、正反射光下で可視化された場合、100%の領域は、最も暗い状態となり、0%の領域は、最も明るい状態となる。
潜像画像(7)はいかなる面積率も取り得ることから、二値画像であってもよいし、階調画像であってもよい。
潜像画像(7)は、透明又は半透明なインキを用いて形成する必要があり、印刷によって形成する場合には、一般的な印刷インキのOPニスやメジューム、レジューサー等の名称で販売されている、着色されていないインキを使用すればよい。また、蛍光インキやパールインキのような機能性を有した半透明なインキを用いてもよい。潜像画像(7)の視認性を高めるためには、光輝性画像(6)よりも相対的にマットであることが望ましいため、グロスタイプよりもマットタイプの透明インキを用いることが望ましい。以上が潜像画像(7)の説明である。光輝性画像(6)と同じく、潜像画像(7)が満たすべき条件である「色彩共有性」については、カラー画像(8)の説明の中で具体的に記載する。
最後にカラー画像(8)について説明する。カラー画像(8)は、少なくとも一つの有彩色を含む、色相の異なる二つ以上の色彩によって構成されて成り、拡散反射光下において印刷画像(3)の中に現れる第一の有意情報(4)の色彩を表し、それに加えて、正反射光下において印刷画像(3)の中に現れる第二の有意情報(5)の色彩を表す。この色数に関する条件は、第1の有意情報及び第2の有意情報を多色化するために必須の条件である。2色以上で、有彩色を少なくとも一つ含む必要があるため、最低限の色彩の構成としては、「有彩色」と「無彩色」の構成を取り得る。当然、「有彩色」と「有彩色」でもよいし、3種類以上の有彩色で構成することが本発明を効果的に見せる上でより望ましい。
カラー画像(8)は、第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)の色彩を表す。このため、第一の有意情報(4)の濃淡を表す光輝性画像(6)と、第二の有意情報(5)の濃淡を表す潜像画像(7)の両方と矛盾なく合成できる色彩である必要がある。この光輝性画像(6)と潜像画像(7)の異なる二つの画像の濃淡と、カラー画像(8)の色彩が矛盾なく適合する特性を「光輝性画像(6)及び潜像画像(7)は、カラー画像(8)と色彩共有性を有する」と定義する。
本実施の形態における色彩共有性の具体例について説明する。図3に示すのは、光輝性画像(6)とカラー画像(8)を重ね合わせた合成画像の第1の有意情報(4)と、潜像画像(7)とカラー画像(8)を重ね合わせた合成画像の第2の有意情報(5)である。本実施の形態のカラー画像(8)は、第二の有意情報(5)の色彩をベースとして、拡散反射光下で第一の有意情報(4)の色彩に当てはめた場合に、色彩の矛盾がない程度に色彩を調整した画像である。「光輝性画像(6)と潜像画像(7)が、カラー画像(8)と色彩共有性を有する」ことは、言い換えれば、第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)に色彩共有性があることと同義であるため、まず、第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)をデザインする段階で、色彩とその色彩配置に共有性がある構成とする必要がある。
実際に、光輝性画像(6)と潜像画像(7)にカラー画像(8)との色彩共有性があるか否かは、画像処理ソフト上や製版フィルム上等で光輝性画像(6)とカラー画像(8)を合成した合成画像を視認して合成画像の濃淡と色彩に矛盾がないかを確認し、また、同じく潜像画像(7)とカラー画像(8)を合成した合成画像を視認して合成画像の濃淡と色彩に矛盾がないかを確認する必要がある。
そもそも異なる画像である第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)の色彩配置を完全に一致させることは不可能である。そこで、まず、光輝性画像(6)及び潜像画像(7)と、カラー画像(8)が色彩共有性を有する関係を成り立たせるためには、第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)自体を色彩配置の似た画像としてデザインする必要があり、第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)のデザインの段階で色彩配置をある程度同じにすることを考慮しなければ、最終的な色彩共有性を担保することは難しい。
第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)をデザインするに当たって、緑色の中に配された赤色や、青色の中に配された黄色等、特に観察者(10)の目を引く部分、すなわち、色差の大きな部分の色彩配置に共有性を持たせることを重視してデザインすることが好ましい。色差の大きな部分の色彩と濃淡のずれは、観察者(10)に最も違和感を抱かせる。逆に言えば、色差の大きな部分の色彩と濃淡が一致していれば、観察者(10)は画像に対して違和感を抱かない。以上のように、まず、可能な限り、色差の大きな部分の濃淡と色彩が一致するように第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)をデザインすることが望ましい。
第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)のデザインを工夫した上で、それ以上の色彩共有の余地がなくなった場合、又は顧客が第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)をデザインし、設計側でデザインの改善の余地がない場合等、これ以上のデザイン上での改善が望めず、いまだ濃淡と色彩に大きな矛盾が生じる場面では、カラー画像(8)の矛盾がある領域の色彩を調整するか、ぼかしやグラデーション等の画像処理を施す等の工夫を施す必要がある。以下に、色彩共有性を高めるいくつかの手段を記載する。
色彩共有性を高める、すなわち、濃淡と色彩の矛盾をなくす最も確実で容易な方法は、矛盾のある領域のカラー画像(8)の色彩を無彩色に近づける方法である。すなわち、カラー画像(8)の矛盾のある部分の色彩の彩度を下げればよい。当然のことながら、カラー画像(8)が白色や灰色、黒色等の無彩色のみで構成される場合、光輝性画像(6)と潜像画像(7)の濃淡に対するカラー画像(8)の色彩との矛盾は存在しない。このため、カラー画像(8)の彩度を落とせば、第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)がどんな画像の組合せであったとしても、濃度と色彩の矛盾は小さくなり、色彩共有性は必ず相対的に高まる方向へと改善される。ただし、カラー画像(8)が無彩色に近づけば近づくほど、本発明のカラー化の効果は損なわれ、効果が低下する。彩度を下げる割合は、矛盾が目立つ領域に限定して、可能な限り最小限の幅にとどめることが望ましい。彩度C*が3以上あれば、いかなる高い面積率で光輝性画像(6)が重ねられたとしても、有彩色と認識できるため、カラー画像(8)は、彩度C*が3以上の少なくとも一つの色彩を備えることが望ましい。なお、彩度C*は、CIEのL*a*b*の色空間での数値とする。
また、カラー画像(8)の色彩を調整することの他に、カラー画像(8)を部分的にぼかすことも、濃淡と色彩の矛盾を解消する上で有効である、ぼかし処理は、一般的な画像処理ソフトの効果の一つとして搭載された機能を用いればよい。ぼかし処理を施すと、色彩の境目がぼやけて周囲の色彩と区別して認識されにくくなるため、色彩構成の冗長性を高めることができる。カラー画像(8)に対して、光輝性画像(6)と潜像画像(7)の二つの異なる画像に対する色彩共有性を付与するためには、ぼかし処理は好ましい画像処理である。また、色彩を緩やかに変化させるグラデーション処理等も同様に有効である。
実施の形態の例では、第二の有意情報(5)の色彩をベースとして、第一の有意情報(4)の色彩に適用できるように色彩を調整してカラー画像(8)としたが、この方法に限定されるものではなく、第一の有意情報(4)の色彩をベースとして、第二の有意情報(5)の色彩に適用できるように色彩を調整してカラー画像(8)としてもよいし、あらかじめ第一の有意情報(4)の色彩と第二の有意情報(5)の色彩を平均化してカラー画像(8)にしてもよい。最終的にカラー画像(8)の色彩がそれぞれの画像と矛盾なく適応する構成を用いればよい。
以上のように、第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)のデザインの段階で色彩配置に配慮した上で、部分的に彩度を調整したり、画像をぼかしたり、グラデーションを用いることで、第一の有意情報(4)と第二の有意情報(5)のそれぞれの色彩の大きな矛盾を無くし、光輝性画像(6)及び潜像画像(7)と色彩共有性を有した構成とする。以上が、カラー画像(8)の説明である。
続いて、本発明の偽造防止印刷物(1)の層構造について図4を用いて説明する。本発明の代表的な層構造について図4(a)、図4(b)に示す。図4(a)に示すのは、カラー画像(8)の上に光輝性画像(6)が重なり、その上に潜像画像(7)が重なる構成であり、図4(b)に示すのは、光輝性画像(6)の上にカラー画像(8)が重なり、その上に潜像画像(7)が重なる構成である。これらの層構造の他に、光輝性画像(6)の上に潜像画像(7)が重なり、その上にカラー画像(8)が重なる形態でもよい。重要なことは、光輝性画像(6)よりも上層に潜像画像(7)が重なることである。潜像画像(7)の上に光輝性画像(6)が重なる形態は、基材(2)の平滑性が高い場合を除いて、正反射光下での第二の有意情報(5)の視認性が極端に低下するので望ましくない。
以上の構成で形成した、本発明の偽造防止印刷物(1)の効果について図5を用いて説明する。光源(9)と偽造防止印刷物(1)と観察者(10)を、図5(a)に示すような位置関係とし、偽造防止印刷物(1)を拡散反射光が支配的な観察角度(印刷物に入射する光の入射角度と、観察者(10)と印刷物とを結ぶ反射角度が大きく異なる角度)で観察した場合には、印刷画像(3)の中に光輝性画像(6)の濃淡とカラー画像(8)の色彩が合成された第一の有意情報(4)が視認される。また、拡散反射光下において、潜像画像(7)が表す第二の有意情報(5)の濃淡は、光輝性画像(6)の濃淡によって隠蔽されて観察者(10)には認識できない。
また、偽造防止印刷物(1)を、図5(b)に示すような、正反射光下が支配的な角度(印刷物に入射する光の角度と、観察者(10)と印刷物とを結ぶ反射角度が近い値である角度)の中で観察した場合には、第一の有意情報(4)の濃淡が消失し、潜像画像(7)が表す濃淡とカラー画像(8)の色彩の合成画像である、第二の有意情報(5)が視認される。以上のように、拡散反射光下と正反射光下で印刷画像(3)中に視認できる画像が第一の有意情報(4)から第二の有意情報(5)へとチェンジする。
本発明の第一の有意情報(4)は、光輝性画像(6)の濃淡とカラー画像(8)の色彩が合成された画像であり、色相の異なる複数の色彩で表現された画像、いわゆるカラフルな画像である。また、本発明の第二の有意情報(5)も、潜像画像(7)の濃淡とカラー画像(8)の色彩で表現された画像であり、いわゆるカラフルな画像である。このように、本発明の偽造防止印刷物(1)は、カラフルな画像が別のカラフルな画像へとチェンジする効果を獲得した。以上が本発明の効果の説明である。
本発明の二つの画像がチェンジする基本的な原理は、以下のとおりである。図5(a)に示す拡散反射光が支配的な観察角度において、光輝性画像(6)とカラー画像(8)はそれぞれ物体色を持つ画像であり、潜像画像(7)は透明又は半透明な画像であるため、観察者(10)には、光輝性画像(6)とカラー画像(8)のみが同時に視認される。このため、拡散反射光が支配的な観察角度において、観察者(10)には光輝性画像(6)とカラー画像(8)が合成された画像である、第一の有意情報(4)が視認される。一方の正反射光下においては、光輝性画像(6)が光を反射することで光輝性画像(6)の明度が上昇し、光輝性画像(6)の濃淡が圧縮され、結果として観察者(10)は光輝性画像(6)を視認できなくなる。一方の潜像画像(7)は、光輝性画像(6)と異なる光学特性を有することから、正反射光下において光輝性画像(6)と潜像画像(7)の光学特性の差異から反射光の強弱が生じ、光の強弱によって表された潜像画像(7)の濃淡情報が浮かび上がる。また、カラー画像(8)は、通常の着色インキで構成されているため、正反射光下においても色彩の大きな変化は生じない。このため、正反射光下において、第一の有意情報(4)が消失し、潜像画像(7)の濃淡とカラー画像(8)の色彩とが合成された第二の有意情報(5)が視認される。以上が、本発明の効果発現の原理の説明である。
また、本発明の効果を高めるために、図6に示すように、透明又は半透明な反射層(11)を形成してもよい。反射層(11)をベタの塗りつぶしで構成した例で説明するが、一定ピッチで配置したスリットやドットで構成してもよい。反射層(11)を形成することで、光輝性画像(6)の反射率が高まり、正反射光下で出現する第二の有意情報(5)の視認性を飛躍的に向上させることができる。反射層(11)は、インキ樹脂で形成したり、フィルムを挿入したりすればよい。当該構成によれば、基材(2)に直接、印刷画像(3)を形成する場合より、第二の有意情報(5)の視認性を飛躍的に向上させることができる。反射層(11)は、光輝性画像(6)よりも基材(2)側に形成されるのであれば、どの層に配置されても問題ない。
本発明の偽造防止印刷物(1)を形成する場合、生産性の高いオフセット印刷で形成することができる。この場合、光輝性画像(6)に明暗フリップフロップ性を付与することができる。その他、凸版印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、凹版印刷等でも形成可能である。グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、凹版印刷等のインキ転移量の多い印刷方式で光輝性画像(6)を形成する場合、顔料粒子系の大きな特殊な機能性顔料を使用することができるため、この場合にはカラーフリップフロップ性を付与することも可能である。また、特にスクリーン印刷の場合には、インキの樹脂自体が高い光沢を有するため、赤や青等の一般的な着色顔料を微量添加することで光を強く反射する着色インキとすることができる。潜像画像(7)やカラー画像(8)、反射層(11)も、生産性の高いオフセット印刷や凸版印刷等で形成可能であり、製造者のシーズに応じてフレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、凹版印刷等を用いてもよい。また、インクジェットプリンターやレーザープリンター等のプリンターで形成することもできる。プリンターで形成する場合には、一枚一枚付与された潜像が異なる可変印刷が可能であり、住民票やパスポート等のような個人情報付与に最適である。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した偽造防止印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
(実施例)
本発明の実施例について、実施の形態と同様に図1から図6までを用いて説明をする。まず、基材(2)として、汎用性の高いファンシーペーパー(グラディオスCC:日本製紙製)を用いた。次に、レーザープリンター(IPSIO SP C820:RICOH製)でカラー画像(8)を印刷した。その上に、図2に示す丘の上の桜の巨木を表した光輝性画像(6)を、銀インキ(ダイキュア R シルバー:DIC製)を用いてオフセット印刷で印刷し、最後に潜像画像(7)を透明なマットインキ(UVマットOPニスAD−BN:T&K TOKA製)を用いてオフセット印刷した。潜像画像(7)は、最大面積率は90%、最小面積率は0%とした。なお、潜像画像(7)の最大面積率を100%としなかったのは、オフセット印刷において面積率100%の場合に発生しやすい、むかれやピッキングといったトラブルを予防するためである。光輝性画像(6)の最大面積率は85%、最小面積率40%とした。層構造は、図4(a)に示すとおりである。
本発明の実施例について、実施の形態と同様に図1から図6までを用いて説明をする。まず、基材(2)として、汎用性の高いファンシーペーパー(グラディオスCC:日本製紙製)を用いた。次に、レーザープリンター(IPSIO SP C820:RICOH製)でカラー画像(8)を印刷した。その上に、図2に示す丘の上の桜の巨木を表した光輝性画像(6)を、銀インキ(ダイキュア R シルバー:DIC製)を用いてオフセット印刷で印刷し、最後に潜像画像(7)を透明なマットインキ(UVマットOPニスAD−BN:T&K TOKA製)を用いてオフセット印刷した。潜像画像(7)は、最大面積率は90%、最小面積率は0%とした。なお、潜像画像(7)の最大面積率を100%としなかったのは、オフセット印刷において面積率100%の場合に発生しやすい、むかれやピッキングといったトラブルを予防するためである。光輝性画像(6)の最大面積率は85%、最小面積率40%とした。層構造は、図4(a)に示すとおりである。
図5に本発明の偽造防止印刷物(1)の効果を記す。図5(a)は、観察者(10)が拡散反射光下で偽造防止印刷物(1)を観察した場合に観察される画像であり、印刷画像(3)の中にはカラフルな丘の上の桜の巨木が視認できた。一方、図5(b)に示すように、観察者(10)が正反射光下で偽造防止印刷物(1)を観察した場合、印刷画像(3)の中に二つの桜の花びらのカラフルな画像が視認できた。以上のように、拡散反射光下と正反射光下において、二つの異なるカラフルな画像がチェンジする効果が確認できた。
1 偽造防止印刷物
2 基材
3 印刷画像
4 第一の有意情報
5 第二の有意情報
6 光輝性画像
7 潜像画像
8 カラー画像
9 光源
10 観察者
11 反射層
2 基材
3 印刷画像
4 第一の有意情報
5 第二の有意情報
6 光輝性画像
7 潜像画像
8 カラー画像
9 光源
10 観察者
11 反射層
Claims (6)
- 基材上の少なくとも一部に、基材と異なる色彩の印刷画像を備え、
前記印刷画像は少なくとも一つの有彩色を含み、2色以上の異なる色彩を有するカラー画像と、
明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性を有して、所定の面積率の範囲で構成されて濃淡を現した光輝性画像と、
拡散反射光下では透明又は半透明であって、正反射光下の色彩が前記光輝性画像と異なり、面積率の差異によって画像を構成した潜像画像が積層されて成り、
前記カラー画像と、前記光輝性画像及び前記潜像画像は色彩共有性を有し、
拡散反射光下において、前記光輝性画像と前記カラー画像が合成されることで第一の有意情報が視認され、正反射光下において、前記光輝性画像の明度が上昇することで前記光輝性画像の濃淡が目視上消失し、前記潜像画像と前記カラー画像が合成されることで第二の有意情報が視認されることを特徴とする偽造防止印刷物。 - 前記カラー画像の少なくとも一つの有彩色の彩度C*が3以上であることを特徴とする請求項1記載の偽造防止印刷物。
- 前記光輝性画像における最大面積率と最小面積率の差異が10%以上50%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の偽造防止印刷物。
- 前記光輝性画像の最大面積率が90%以下であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載の偽造防止印刷物。
- 前記潜像画像が前記光輝性画像より上に形成されることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載の偽造防止印刷物。
- 前記光輝性画像より下に、透明又は半透明な反射層をさらに備えることを特徴とする請求項1から5までのいずれか一項に記載の偽造防止印刷物。
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JP6504564B2 (ja) * | 2015-12-01 | 2019-04-24 | 独立行政法人 国立印刷局 | 偽造防止印刷物 |
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