JP6497318B2 - 血小板浮遊液洗浄用の中空糸膜モジュール - Google Patents

血小板浮遊液洗浄用の中空糸膜モジュール Download PDF

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Description

本発明は、血小板浮遊液中のタンパク質を洗浄除去するための中空糸膜モジュールに関する。
血小板製剤は、献血ドナーから採取した血液成分を遠心分離することで血液から血球成分を取り除いて、血漿中に血小板が浮遊した血小板浮遊液の状態にすることで製造されているが、通常の血小板製剤は血漿中にタンパク質等の夾雑物が残存しているため、血小板製剤を輸血する際、血漿中のタンパク質が原因の一つとなって、非溶血性の輸血副作用が起きる場合がある。この非溶血性の輸血副作用の発生頻度を減らすためには、タンパク質等の夾雑物を除去することにより、洗浄された血小板(洗浄血小板)の使用が推奨されている。洗浄血小板は、血小板浮遊液から物理的にタンパク質等の夾雑物を分離除去することで製造され、血小板浮遊液からタンパク質を分離除去する方法としては、遠心分離法と膜濾過法がある。
従来、洗浄血小板の製造には遠心分離法が使われている。遠心分離法は、原料となる血小板浮遊液を遠心分離して、タンパク質を含む上澄みを除去した後に、濃縮された血小板に保存液を添加する方法である。一方で、膜濾過法は、血小板浮遊液を濾過することでタンパク質を除去する方法である。例えば、体外循環による膜濾過法に用いられる血漿分離膜モジュールが報告されている(特許文献1)。また、膜濾過法の具体的な方法として、クロスフロー濾過により、血小板浮遊液からタンパク質を除去する方法や、血小板浮遊液を膜で全量濾過する方法が報告されている(特許文献2及び3)。
特開平1−171566号公報 特開2012−143554号公報 特開2012−176081号公報
しかしながら、従来、洗浄血小板の製造に使用されてきた遠心分離法は、遠心分離による血小板へのダメージが大きく、活性化や凝集塊の発生などが問題となる。また、上澄みを完全に除去することが難しいため、総タンパク質量を充分に低下させるためには、複数回分離を行うことが必要であり、操作が煩雑で処理時間も長く、血小板回収率が低いという問題がある。
また、特許文献1及び2に記載されるクロスフロー濾過による膜濾過法は、膜に並行の流れと膜を濾過する流れを任意の比率で流すクロスフロー濾過でタンパク質を除去しており、膜に並行の流れからはタンパク質は除去されない。そのため、総タンパク質量を充分に低下させるには、複数回分離を行うことが必要であり、操作が煩雑で処理時間も長く、血小板の活性化の亢進や血小板回収率が低いという問題がある。
さらに、特許文献3に記載される、血小板浮遊液を膜で全量濾過する方法は、タンパク質除去率が高い方法だが、血小板の膜への目詰まりがおこりやすく、目詰まりした血小板が回収されずに血小板回収率が低くなるという問題がある。目詰まりした血液成分を剥離することが記載されているが、膜の濾過量が2割以下に低下しており、その目詰まりの抑制効果は充分ではなく、回収率については言及されていない。
このように、血小板浮遊液からタンパク質等の夾雑物を除去して血小板を洗浄し、洗浄血小板を製造するには、タンパク質除去率と血小板回収率が高いことが必要であるが、従来では、タンパク質除去率と血小板回収率の両方が高い、洗浄血小板を製造するためのモジュールは存在しなかった。
本発明は、中空糸膜への血小板の目詰まりを抑えることで、タンパク質除去率と血小板回収率の両方を高くすることが可能な、血小板浮遊液洗浄用の中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、以下の(1)〜(9)の発明を見出した。
(1) 血小板浮遊液から夾雑物を除去して血小板を洗浄する中空糸膜モジュールであり、 血小板浮遊液流入口、洗浄血小板流出口及び濾液排出口を有するハウジングと、上記血小板は通過しないが上記夾雑物は通過する孔を有し、上記ハウジングの内部に配置されて、上記血小板浮遊液を濾過する中空糸膜と、を備え、上記血小板浮遊液流入口と連通し、上記ハウジング内における上記中空糸膜で濾過される前の上記血小板浮遊液を収容する流入側空間の容積が、30〜400mLであり、かつ、モジュール透水性能が、50〜300mL/Pa/hrである、中空糸膜モジュール。
(2) 上記ハウジングの長手方向に対して垂直な上記流入側空間の断面の面積(A)に対する上記中空糸膜の有効長(L)の比(L/A)が、250〜1300m−1である、上記(1)記載の中空糸膜モジュール。
(3) 1.25×10個/mLの血小板浮遊液の200mLを50mL/分の流速で全量濾過したときの濾過圧力の最大圧力が、30kPa以下である、上記(1)又は(2)記載の中空糸膜モジュール。
(4) 上記流入側空間に面する中空糸膜の表面の開孔率が、10〜30%である、上記(1)〜(3)のいずれか記載の中空糸膜モジュール。
(5) 上記中空糸膜は、ポリスルホン系高分子からなる膜である、上記(1)〜(4)のいずれか記載の中空糸膜モジュール。
(6) 上記流入側空間に面する中空糸膜の表面から10nmの深さまでの全分子に対する親水性高分子の存在率が、40〜60質量%である、上記(1)〜(5)のいずれか記載の中空糸膜モジュール。
(7) 上記流入側空間に面する中空糸膜の表面から10nmの深さまでの全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子の存在率が、0.1〜10原子数%である、上記(1)〜(6)のいずれか記載の中空糸膜モジュール。
(8) 上記(1)〜(7)のいずれか記載の中空糸膜モジュールと、血小板浮遊液流入口の上流側に配置され、容積が1〜30mLであるエアーチャンバーと、を備える、血小板浮遊液洗浄用デバイス。
(9) ローラーポンプが、上記エアーチャンバーに対して上記血小板浮遊液の液流の上流側に配置されている、上記(8)記載の血小板浮遊液洗浄用デバイス。
本発明によれば、タンパク除去率と血小板回収率の両方を高めた中空糸膜モジュールを使用することで、総タンパク質量が低く、総血小板数の多い洗浄血小板を製造することができる。
本発明の第1の実施形態に係る内圧式用の中空糸膜モジュールの長手方向断面図である。 本発明の第1の実施形態に係る内圧式用の中空糸膜モジュールの長手方向に対して垂直の断面図である。 本発明の第2の実施形態に係る外圧式用の中空糸膜モジュールの長手方向断面図である。 本発明の第2の実施形態に係る外圧式用の中空糸膜モジュールの長手方向に対して垂直の断面図である。 本発明の第1の実施形態に係る内圧式用の中空糸膜モジュールを用いた血小板浮遊液洗浄用デバイスの概略図である。
本発明の中空糸膜モジュールは、血小板浮遊液から夾雑物を除去して血小板を洗浄する中空糸膜モジュールであり、血小板浮遊液流入口、洗浄血小板流出口及び濾液排出口を有するハウジングと、上記血小板は通過しないが上記夾雑物は通過する孔を有し、上記ハウジングの内部に配置されて、上記血小板浮遊液を濾過する中空糸膜と、を備え、上記血小板浮遊液流入口と連通し、上記ハウジング内における上記中空糸膜で濾過される前の上記血小板浮遊液を収容する流入側空間の容積が、30〜400mLであり、かつ、モジュール透水性能が、50〜300mL/Pa/hrであることを特徴としている。
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。また、図面の比率は説明のものとは必ずしも一致しない。
本発明に係る第1の実施形態として、内圧式用の中空糸膜モジュールを図1及び図2を用いて示す。図1は内圧式用の中空糸膜モジュール1の長手方向断面図であり、図2は内圧式用の中空糸膜モジュール1の長手方向に対して垂直の断面図である。内圧式用の中空糸膜モジュールの場合、血小板浮遊液を中空糸膜の中空部に流して濾過を行う。
内圧式用の中空糸膜モジュール1は、筒状部材2と、筒状部材2の両端に液密に接続固定されたヘッダー3及び4を有するハウジングと、ハウジング内部に収容される中空糸膜5の束からなる構成となっている。また、ヘッダー3の頂部には、血小板浮遊液を中空糸膜モジュールに導入するための血小板浮遊液流入口6が突出して形成されており、ヘッダー4の頂部には、中空糸膜の束5により濾過されることで、血小板浮遊液から分離された洗浄血小板を含む液を放出するための洗浄血小板流出口7が突出して成形されている。さらに、筒状部材2のヘッダー4側の側部には、血小板浮遊液から分離されたタンパク質等の夾雑物を含む濾液を排出するための濾液排出口8が形成されている。
中空糸膜5の束は、筒状部材2内の長軸方向の全長にわたって配置されており、中空糸膜5の両端部は、中空糸膜5の内腔である中空糸膜中空部13の開口部が閉塞されないようにして、硬化したポッティング剤によって形成されたヘッダー3側の隔壁9及びヘッダー4側の隔壁10により、筒状部材2の内部に固定されている。
血小板浮遊液流入口6から血小板浮遊液を導入すると、血小板浮遊液は流入側空間11に流れ込む。この流入側空間11とは、濾過前の血小板浮遊液が流れる空間のことである。内圧式用の中空糸膜モジュール1では、流入側空間11は、図1に示すヘッダー3と隔壁9とで囲まれる空間及びヘッダー4と隔壁10とで囲まれる空間、並びに図2に示す中空糸膜中空部13内の空間を纏めた空間を指す。また、流入側空間11は、血小板浮遊液流入口6及び洗浄血小板流出口7と連通している。さらに、流入側空間は、血小板側空間と呼ぶこともできる。
流入側空間11に流れる血小板浮遊液は、中空糸膜5の表面に存在する細孔を通過することにより濾過が行われ、タンパク質等の夾雑物を含む濾液は細孔を透過して濾過側空間12に流れ込む。濾過側空間12とは、中空糸膜の細孔を透過した、タンパク質等の夾雑物を含む濾液が流れ込む空間のことである。内圧式用の中空糸膜モジュール1では、濾過側空間12は、筒状部材2と隔壁9及び10とに挟まれた空間のうち、中空糸膜5及び中空糸膜中空部13を除く空間を指す。また、濾過側空間12は濾液排出口8と連通している。
本発明に係る第2の実施形態として、外圧式用の中空糸膜モジュールを図3及び図4を用いて示す。図3は外圧式用の中空糸膜モジュール14の長手方向断面図であり、図4は外圧式用の中空糸膜モジュール14の長手方向に対して垂直の断面図である。外圧式用の中空糸膜モジュールの場合、血小板浮遊液を中空糸膜の外側の空間に流して濾過を行う。なお、第2の実施形態である外圧式用の中空糸膜モジュールについて、同様の機能を持つものは同じ付番を用いて説明する。
外圧式用の中空糸膜モジュール14は、筒状部材2と、筒状部材2の両端に液密に接続固定されたヘッダー3及び4を有するハウジングと、ハウジング内部に収納される中空糸膜5の束からなる構成となっている。また、筒状部材2のヘッダー3側の側部には、血小板浮遊液を中空糸膜モジュールに導入するための血小板浮遊液流入口6が形成されており、筒状部材2のヘッダー4側の側部には、中空糸膜の束5により濾過されることで、血小板浮遊液から分離された洗浄血小板を含む液を放出するための洗浄血小板流出口7が突出して成形されている。さらに、ヘッダー4の頂部には、血小板浮遊液から分離された不要なタンパク質を含む濾液を排出するための濾液排出口8が形成されている。
中空糸膜5の束は、筒状部材2内の長軸方向の全長にわたって配置されており、中空糸膜5の両端部は、中空糸膜5の内腔である中空糸膜中空部13の開口部が閉塞されないようにして、硬化したポッティング剤によって形成されたヘッダー3側の隔壁9及びヘッダー4側の隔壁10により、筒状部材2の内部に固定されている。
第1の実施形態では、濾液排出口8から遠い側の中空糸膜5の末端が開口したものを用いたが、外圧式用の中空糸膜モジュールでは、濾液排出口8から遠い側の中空糸膜5の末端は、閉口していてもよく、U字に折り返していてもよい。
血小板浮遊液流入口6から血小板浮遊液を導入すると、血小板浮遊液は流入側空間11に流れ込む。この流入側空間11とは、濾過前の血小板浮遊液が滞留する空間のことである。外圧式用の中空糸膜モジュール14では、流入側空間11は、筒状部材2と隔壁9及び10とに挟まれた空間のうち、中空糸膜5及び中空糸膜中空部13を除く空間を指す。また、流入側空間11は、血小板浮遊液流入口6及び洗浄血小板流出口7と連通している。
さらに、外圧式用の中空糸膜モジュール14では、濾過側空間12は、ヘッダー3と隔壁9とで囲まれる空間、ヘッダー4と隔壁10とで囲まれる空間及び中空糸膜中空部13内の空間を纏めた空間を指す。また、濾過側空間12は濾液排出口8と連通している。
また、本発明の中空糸膜モジュールを用いた血小板浮遊液洗浄用デバイスについて、図5を用いて示す。図5は本発明の第1の実施形態に係る内圧式用の中空糸膜モジュールを用いた血小板浮遊液洗浄用デバイスの概略図である。血小板浮遊液流入口6に繋がる回路の最上流に血小板浮遊液を入れるバッグおよび保存液を入れるバッグが並列で配置されており、回路への接続を切り替えられるよう、その下流にチューブクランプ17が配置されている。血小板浮遊液をおよび保存液と内圧式用の中空糸膜モジュール1との間には、血小板浮遊液および保存液を送液するためのポンプ16及び気体が内圧式用の中空糸膜モジュール1に混入するのを防ぐためのエアーチャンバー15が配置されている。濾液排出口8に繋がる回路の下流に濾液を入れるバッグが配置され、洗浄血小板流出口7に繋がる回路の下流に洗浄血小板を入れるバッグが配置されており、回路への接続を切り替えられるようそれぞれのバッグの上流にチューブクランプ17が配置されている。
ここで、血小板浮遊液とは、血液中の血球成分が除去され、血小板と血漿が分離採取された液体のことである。この血小板浮遊液は、クエン酸等の抗凝固剤や保存液が添加されていてもよい。
ここで、保存液とは、血小板を安定的に液中に浮遊させる液体のことである。この保存液は、重炭酸を含んだ液体が好適に用いられる。
ここで、洗浄液とは、血小板を安定的に洗浄するための液体のことである。洗浄液としては安定して洗浄するため、保存液と同様に重炭酸を含んだ液体が好適に用いられる。
本発明の中空糸膜モジュールを用いて、血小板浮遊液から洗浄血小板を製造する方法は、特に限定されるものではないが、具体的な例として、以下に記載した方法により洗浄血小板を製造することができる。
血小板浮遊液から洗浄血小板を製造する方法は、中空糸膜モジュールの流入側空間から濾過側空間へ血小板浮遊液を全量濾過で流し、タンパク質等の夾雑物を含む濾液を濾過側空間に透過させることで、血小板を含む液とタンパク質等の夾雑物を含む濾液を分離する濾過工程、流入側空間から濾過側空間へ洗浄液を流し、血小板を含む液に残存するタンパク質等の夾雑物を濾過側空間に透過させて、タンパク質等の夾雑物を除去する洗浄工程、流入側空間に保存液を流して洗浄血小板を含む液を回収する回収工程を有している。
濾過工程では、血小板浮遊液を中空糸膜モジュールの血小板浮遊液流入口から導入し、流入側空間から濾過側空間にむけて全量濾過を行う。血小板浮遊液中のタンパク質等の夾雑物を含む濾液は、中空糸膜を透過して濾過側空間に流れ込み、連通する濾液排出口から排出される。一方、血小板浮遊液中の血小板は、中空糸膜を透過できず、流入側空間に残る。
次に、洗浄工程では、洗浄液を同様に全量濾過することで、流入側空間内に残存していたタンパク質等の夾雑物は、中空糸膜を透過して濾過側空間に流れ込み、連通する濾液排出口からタンパク質等の夾雑物を含む濾液として排出される。
その後、回収工程では、保存液を血小板浮遊液流入口から流入側空間に導入することにより、保存液と血小板を混和させて、洗浄血小板流出口から血小板を含む液体として放出させる。このとき、原料として用いた血小板浮遊液の液量と保存液の液量を同じにすることで、処理前と同じ血小板濃度の洗浄血小板が得られる。
流入側空間の容積を小さくすることで、濾過工程において濾過される液量が増えるため、流入側空間に残るタンパク質等の夾雑物の量を減らすことができる。また、洗浄工程において流入側空間の血小板浮遊液の液量が減るため、洗浄効率が上がり、少ない洗浄液の液量でタンパク質等の夾雑物の除去率を上げることができる。回収工程においても、流入側空間の液量に対する回収に用いる保存液の液量が減るため、血小板の回収率が低くなる。一方で、流入側空間の容積が小さすぎると、濾過工程における、流入側空間に残存する血小板が高濃度となるため、血小板同士の相互作用によって血小板の活性化や凝集が発生しやすくなる。そのため、中空糸膜モジュールの流入側空間の容積は、30mL以上が必要であり、70mL以上が好ましい。また、400mL以下が必要であり、200mL以下であることが好ましい。
また、従来の中空糸膜モジュールでは、全量濾過法で血小板浮遊液を濾過する過程で血小板が中空糸膜の表面で目詰まりを起こして濾過圧力が上昇していき、濾過圧力の上昇により血小板が膜に強く押し付けられるために凝集がおこることで、更に目詰まりが進行する。血小板が凝集してしまうと、中空糸膜の表面に粘着し、血小板の回収のために保存液を流しても剥離されずに中空糸膜の表面に残存してしまうため、血小板の回収率が低下する。また、中空糸膜中空部に血小板浮遊液を流す内圧式で濾過を行った場合、凝集した血小板が中空部を閉塞してしまうため、血小板の回収のために保存液を流しても、保存液が中空糸膜中空部を通りづらくなるため、血小板の回収率が低下する。特に、輸血に用いられる血小板浮遊液は、体内に比べて血小板濃度が3倍以上に濃縮されていることが多いため、濾過を行う際目詰まりが発生しやすい。
全量濾過法による血小板浮遊液の濾過では、目詰まりを抑制すると共に血小板の回収率を上げるためには、濾過圧力が低く血小板の凝集を抑制した状態を保つことが必要である。中空糸膜モジュールの透水性能が低いと、濾過圧力が高くなるため、血小板回収率が低くなる。
中空糸膜モジュールの透水性能は、内蔵する中空糸膜の透水性能と膜面積によって決まるため、透水性能を大きくするには、膜面積の増加や中空糸膜の透水性能の増加を伴う。一方、中空糸膜の膜面積を増加させると、中空糸膜モジュールが大型になり、取り扱い性の悪化や、中空糸膜モジュールの使用前の洗浄の液量が増加するなどの問題がある。また、中空糸膜の透水性能を増加するには、中空糸膜の孔径を拡大するのが一般的だが、孔径を拡大すると血小板も膜を透過しやすくなる。
そこで、実験を行った結果、中空糸膜モジュールの取り扱い性を維持しつつ、血小板回収率を高くするために最適な中空糸膜の透水性能を見出した。具体的には、中空糸膜の透水性能は2.5mL/Pa/hr/m 以上が必要であり、4mL/Pa/hr/m 以上が好ましい。また、15mL/Pa/hr/m 以下が必要であり、13mL/Pa/hr/m 以下が好ましい。
また、実験を行った結果、目詰まりによる濾過圧力の上昇を抑制するためには、流入側空間の中空糸膜表面の開孔率を大きくすることが好ましいことが分かった。具体的には、流入側空間の中空糸膜表面の開孔率は、10%以上が好ましく、12%以上がより好ましい。一方で、開孔率が高すぎると膜の強度が不足するため、開孔率は30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。開孔率とは、中空糸膜の膜表面の面積における、中空糸膜表面の孔の面積の総和の割合である。膜表面の開孔率の測定方法の詳細については後述するが、電子顕微鏡で1000倍に拡大した画像をatrox Inspector2.2(Matrox Electronic Systems Ltd.)等の公知のソフトウェアで画像処理することによって得ることができる。
また、血小板の凝集を抑制して血小板回収率を高くするためには、濾過工程における濾過圧力を30kPa以下にすることが好ましい。洗浄血小板の原料としては、一般的に5、10、15、20単位の血小板浮遊液が用いられるが、その中でも最も用いられるのが10単位の血小板浮遊液である。10単位の血小板浮遊液とは、その規格では血小板濃度は8.3×10個/mL以上、1.8×10個/mL以下、であり、液量は160mL以上、240mL以下である。本発明における中空糸膜モジュールは、10単位の血小板製剤である1.25×10個/mLの血小板浮遊液200mLを50mL/minの流速で全量濾過したときの濾過圧力の最大圧力が30kPa以下となることが好ましく、20kPa以下となることがより好ましい。
濾過工程では、供給空間側の中空糸膜の表面との接触により、血小板にせん断による応力がかかる。血小板に強いせん断応力をかけると血小板が活性化することが知られており、そのため、濾過工程における、血小板にかかるせん断応力を小さくすることで、血小板の凝集を抑制して血小板回収率を高くすることができる。一方で、回収工程では、血小板にかかるせん断応力を上げることで、中空糸膜表面に付着した血小板が剥離されやすくなるため、血小板回収率が高くなる。血小板にかかるせん断応力は、中空糸膜モジュールを流れる線速度に比例する。
ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積(A)に対する中空糸膜の有効長(L)の比(L/A)を大きくすることで線速度が上がり、L/Aを小さくすることで線速度が下がる。例えば、流量を50mL/minから500mL/minの範囲とする場合、線速度を上げて中空糸膜に付着した血小板を剥離して血小板回収率を高くするため、L/Aは250m−1以上が好ましく、500m−1以上がより好ましい。一方で、線速度を下げて血小板の凝集を抑制して血小板回収率を高くするため、L/Aは1300m−1以下が好ましく、700m−1以下がより好ましい。
中空糸膜の有効長とは、実質的に濾過が可能な中空糸膜の長さのことであり、中空糸膜の隔壁および隔壁に埋没した部分を除いた長さである。中空糸膜モジュールの膜面積も、この有効長を基準に算出される。
ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積(A)は、内圧式用の中空糸膜モジュールでは中空糸膜中空部の断面の面積であり、式1により算出される。
A=(ID/2)×π×n ・・・式1
A : ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積(m
ID : 中空糸内径(m)
π : 円周率
n : 中空糸膜の本数
ここで、中空糸膜モジュールに内蔵する中空糸膜が、中空糸内径の異なる2種類以上の中空糸膜からなる場合、それぞれの中空糸膜について式1を用いて得られた値を積算してハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積(A)を算出する。
また、ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積(A)は、外圧式用の中空糸膜モジュールでは、ハウジングの血小板浮遊液流入口および洗浄血小板流出口のない箇所の断面の面積から中空糸膜の断面の面積を引いた値であり、式2及び式3により算出される。
=(OD/2)×π×n ・・・式2
A=A−A ・・・式3
A : ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積(m
: ハウジングの断面の面積(m
: 中空糸膜の断面の面積(m
OD : 中空糸外径(m)
π : 円周率
n : 中空糸膜の本数
ここで、中空糸膜モジュールに内蔵する中空糸膜が、中空糸外径の異なる2種類以上の中空糸膜からなる場合、それぞれの中空糸膜について式2を用いて得られた値を積算して中空糸膜の断面の面積(A)を算出する。また、ハウジングの断面の面積は、ハウジングの長手方向において中空糸膜の有効長と同じ区間内での平均値である。例えば、ハウジングの形状が長手方向に連続的に変化する場合は、長手方向における中空糸膜の有効長と同じ区間で一方の端部からもう一方の端部に等間隔に計5点で断面積を測定して算術平均を求める。また、ハウジングの形状が長手方向に不連続的に変化する場合は、形状の異なる各部位についてそれぞれ断面積を測定し、長手方向における中空糸膜の有効長と同じ区間における各部位の占める割合を乗じて、足し合わせることにより、ハウジングの断面の面積の平均を求める。
本発明において、中空糸膜モジュールに使用する中空糸膜は、血小板の活性化を抑制する、いわゆる血液適合性を有する素材で製造された中空糸膜であれば特に限定されず、膜濾過法により洗浄血小板を製造する公知の手法で用いられる中空糸膜、例えば特許文献2、3に記載される中空糸膜を好ましく用いることができる。
中空糸膜の素材としては、具体的にポリスルホン系高分子、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンといったいわゆるポリスルホン系高分子を主たる原料とした中空糸膜は、透水性能や分画性能に優れていることが知られている。本発明では、使用する素材としてはポリスルホン系高分子が好適に用いられる。ポリスルホン系高分子とは、その主鎖に芳香環、スルフォニル基及びエーテル基を有する高分子をいう。
ポリスルホン系高分子としては、例えば、一般式(I)で示されるポリスルホン、一般式(II)で示されるポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリアリルエーテルスルホン等が挙げられるが、これらの中でも一般式(I)で示されるポリスルホン及び一般式(II)で示されるポリスルホンが好ましく、さらにn数が50〜80であるものがより好ましい。なお、一般式(I)又は(II)で示されるポリスルホンと、他のモノマーとのブロック共重合体や、一般式(I)又は(II)で示されるポリスルホンの変性体を用いてもよい。一般式(I)又は(II)で示されるポリスルホンと他のモノマーとのブロック共重合体におけるポリスルホン由来の構造は、ブロック共重合体全体に対して90質量%以上であることが好ましい。
中空糸膜の内径及び膜厚は、特に限定されないが、内径100〜500μm程度、膜厚30〜200μm程度のものを好ましく用いることができる。
中空糸膜の細孔の平均孔径は、血小板は通過しないが夾雑物は通過する孔径であればどのような径でもよいが、洗浄処理の対象となる血小板、中でもヒト血小板の大きさが2〜4μmであることから、1.5μm以下、好ましくは1μm以下である。
中空糸膜束を構成する中空糸膜は、これと接触した血小板の活性化を防ぐために、少なくとも血小板に接触する側の表面(例えば、内圧式で濾過を行なう場合であれば、少なくとも中空糸膜内腔側の表面)に親水性成分を含有していることが好ましい。ここで、「親水性成分」とは、水に易溶な物質であって、かつ、20℃の純水に対して10g/100g以上の溶解度を有するものをいう。また、より好ましくは親水性成分の中でも親水性高分子を用いることが好ましい。
中空糸膜の表面に親水性高分子を含有させることで、血液への適合性が高まり、血小板の凝集が抑制される。血小板の凝集を抑制するためには、流入側空間の中空糸膜表面における表面から10nmの深さまでの全分子に対する親水性高分子の存在率は、40質量%以上であることが好ましい。一方で、親水性高分子が過剰に存在すると、中空糸膜から親水性高分子が溶出して洗浄血液製剤に混入する懸念があり、中空糸膜表面で膨潤することで中空糸膜の孔が狭まって透水性能の低下も懸念される。そのため、流入側空間の中空糸膜表面における表面から10nmの深さまでの全分子に対する親水性高分子の存在率は、60質量%以下であることが好ましい。
ここで、親水性高分子とは、水溶性の高分子化合物であるか、又は非水溶性であっても静電相互作用や水素結合により水分子と相互作用する高分子をいう。ここで親水性高分子とは、25℃の純水中に1000ppm以上の割合で溶解する高分子をいう。特に限定しないが、親水性高分子の具体例としては、ポリエチレングリコール若しくはポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニル酢酸、ポリビニルカプロラクタム、ヒドロキシエチルメタクリレート若しくはメチルメタクリレート等の非イオン性親水性高分子又はデキストラン硫酸、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン若しくはポリアリルアミン等のイオン性親水性高分子が挙げられる。
中空糸膜の表面に親水性高分子を含有させる方法としては、例えば、物理的吸着によるコーティング法、熱若しくは放射線による架橋法又は化学反応による化学結合法が挙げられる。また、中空糸膜を製造する工程では、二重環状口金から製膜原液を吐出する際に内側に注入液を流すが、この注入液に親水性高分子を添加しても良い。このようにすると、中空糸膜が相分離し、膜構造が決定する前に、注入液中の親水性高分子が製膜原液側に拡散するため、中空糸膜の表面に親水性高分子を局在化させることができる。
流入側空間の中空糸膜表面における表面から10nmの深さまでの全分子に対する親水性高分子の存在率は、X線電子分光法(以下、「ESCA」)で測定角を90°として測定を行い、中空糸膜の表面から10nmの深さまでにおける元素の存在比率を調べることによって算出することができる。より具体的には、以下の方法により測定及び算出することができる。
内圧式に用いる中空糸膜モジュールの場合、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さを測定する場合、まず片刃で半円筒状にそぎ切ることで中空糸膜の内表面を露出させる。超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させたものを測定サンプルとする。サンプルを装置にセットし、X線の入射角に対する検出器の角度を調整して測定角を90°として測定をする。得られたC1s、N1s及びS2pのそれぞれのスペクトルの面積強度並びに装置付属の相対感度係数から、炭素原子、窒素原子及び硫黄原子の存在比率を求める。
ここで、例えば、中空糸膜の素材がポリスルホンと親水性高分子のポリビニルピロリドンである場合には、以下の式4により、表面におけるポリビニルピロリドンの存在率を算出する。
表面におけるポリビニルピロリドンの存在率(質量%)=N×111/(N×111+
S×442)×100 ・・・式4
N : 窒素原子の存在比率
S : 硫黄原子の存在比率
111: ポリビニルピロリドンの繰り返し単位の分子量
442: ポリスルホンの繰り返し単位の分子量
中空糸膜の表面に血小板が付着するメカニズムとしては、2つの経路が存在する。第1の経路は、血小板が中空糸膜の表面に接触すると同時に活性化され、凝集して付着する経路である。第2の経路は、血液凝固に関与するフィブリノーゲン等のタンパク質が中空膜の表面に付着して血小板を活性化し、血小板の付着を誘発する経路である。このため、中空糸膜表面への血小板付着を抑制するためには、中空糸膜表面への血小板の接近及びフィブリノーゲン等のタンパク質の中空糸膜表面への付着を防ぐ必要がある。
中空糸膜の表面への血小板の接近を防ぐ手段としては、中空糸膜の表面に、親水性高分子による散漫層を形成することが有効である。この散漫層による排除体積効果により、血小板は中空糸膜の表面に近づけない。散漫層の形成により、フィブリノーゲン等のタンパク質の中空糸膜表面への付着も防ぐことができる。しかしながら、散漫層の親水性が強すぎると、タンパク質の周囲の結合水が散漫層にトラップされることでタンパク質の構造変化が引き起こされ、中空糸膜表面への付着が惹起されるため、フィブリノーゲン等のタンパク質の付着抑制効果は低下する。ここで結合水とは、タンパク質の周囲に存在し、水素結合により運動性が束縛された水をいう。結合水は、タンパク質の構造を安定化するとされている。
この散漫層の形成に好適な親水性高分子としては、ビニルカプロラクタム、プロピレングリコール、酢酸ビニル、ヒドロキシエチルメタクリレート又はメチルメタクリレート等、やや疎水的なユニットを有する非水溶性高分子が好ましく、エステル基を有する高分子がより好ましく、酢酸ビニル基又はアクリル酸メチル基等の側鎖型のエステル基を有する高分子がさらに好ましい。酢酸ビニル基又はアクリル酸メチル基等の側鎖型のエステル基はその親水性が適度であるため、結合水をトラップしないと推察される。一方でエステル基を有していても、疎水性が強いポリエチレンテレフタレートのような高分子は好ましくない。
ビニルカプロラクタム、プロピレングリコール、酢酸ビニル、ヒドロキシエチルメタクリレート又はメチルメタクリレート等のユニットのホモ重合体は、膨潤した散漫層を形成しにくいことから、これらユニットと、ビニルピロリドン、エチレングリコール又ビニルアルコールユニットとの共重合体を親水性高分子とすることが好ましく、水溶性と疎水性のバランスがよい、ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体、ビニルピロリドンとメチルメタクリレートとの共重合体、エチレングリコールと酢酸ビニルとの共重合体又はエチレングリコールとメチルメタクリレートとの共重合体を親水性高分子とすることがより好ましい。
散漫層の形成に好適な親水性高分子としては、1分子の中で親水性と疎水性のバランスが好適なものがよく、ランダム共重合体又は交互共重合体が好ましい。これら共重合体がエステル基を有する場合、エステル基ユニットのモル比は0.3〜0.7が好ましい。
流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子の存在率は、ESCAで測定角を90°として測定を行い、中空糸膜の表面から約10nmの深さまでにおけるC1sのピーク全体から、エステル基由来の成分のピークを分割することによって算出することができる。より具体的には、C1sを構成する、主にCHx、C−C、C=C及びC−S由来の成分、主にC−O及びC−N由来の成分、π−πサテライト由来の成分、C=O由来の成分及びエステル基由来の成分の5つの成分のピーク全体から、エステル基由来の成分のピークを分割して、C1sのピーク全体の面積に対するエステル基由来の成分のピーク面積比(以下、「エステル基由来ピーク面積比」)を求めることで算出することができる。なお、エステル基由来の成分のピークは、CHx等由来の成分のメインピーク(285eV付近)から+4.0〜4.2eVに現れる。C1sの炭素量(原子数%)にエステル基由来ピーク面積比(3箇所について測定をし、その平均値(小数第一位を四捨五入)を算出する。エステル基由来ピーク面積比が0.4%以下の場合には、検出限界以下として扱う)を乗じた値が、流入側空間の中空糸膜の表面における全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子の存在率となる。エステル基由来の炭素原子の存在率は、0.1原子数%以上が好ましく、0.5原子数%以上がより好ましい。また、10原子数%以下が好ましく、5原子数%以下がより好ましく、1原子数%以下がさらに好ましい。
また、親水性高分子が中空糸膜の表面に保持されるためには架橋点が多い、すなわち重量平均分子量が大きいものが有利である。しかしながら、重量平均分子量が高すぎると、高粘性やゲル化によって中空糸膜の表面における均一な状態で膜表面を保持することが困難となり、膨潤した散漫層が形成されなくなる。一方で、重量平均分子量が低すぎると、その溶出につながりかねない。そのため、親水性高分子の重量平均分子量は、5000〜1500000が好ましく、10000〜1000000がより好ましい。
親水性高分子は単一の重量平均分子量のものを用いても、重量平均分子量の異なるものを複数混合して用いても構わない。また、市販の製品を精製して重量平均分子量分布を狭くしたものを用いても構わない。
親水性高分子としてポリビニルピロリドン(以下、PVPと記載する)を用いる場合、K15〜K120といわれるものが好ましい。親水性を向上させるため、PVPの重量平均分子量は、10000以上が好ましく、40000以上がより好ましい。PVPはN−ビニルピロリドンをビニル重合させた水溶性高分子であり、例えば、BASF社製のルビテック(登録商標)、ISP社製のプラスドン(登録商標)、第一工業製薬株式会社製のピッツコール(登録商標)の商品名で、各種の分子量の製品が市販されている。
PVPと酢酸ビニルとの共重合体としては、その重量比率がPVP:酢酸ビニルの比率で(7:3)、(6:4)、(5:5)又は(3:7)等のものが市販されているが、重量比率が6/4であるBASF社製のコリドン(登録商標)のVA64や、VA73、VA55、VA37又はPVC55等を用いることが好ましい。
流入側空間の中空糸膜の表面の親水性高分子の存在率を制御する方法としては、特に限定しないが、中空糸膜の製造プロセスにて製膜原液に混入させる方法、製膜時に親水性高分子溶液を表面に接触させる方法、表面に親水性高分子をコーティングする方法等がある。さらに、これらの方法で表面に親水性高分子を付与した後に、放射線や熱処理等によって親水性高分子高分子を中空糸膜に架橋させてもよく、これにより、中空糸表面からの親水性高分子の溶出を抑制することができる。また、親水性高分子と中空糸膜を化学反応によって固定化しても良い。
得られた中空糸膜を加熱する加熱架橋では、中空糸膜表面に存在する、親水性高分子同士が架橋される。親水性高分子同士を架橋させつつも分解反応が生じないよう、加熱架橋の温度は、120〜250℃が好ましく、130〜200℃がより好ましい。一また、加熱架橋の時間は、1〜10時間が好ましく、3〜8時間がより好ましい。
得られた中空糸膜に放射線を照射する放射線架橋では、親水性高分子と、ポリスルホン系高分子とが架橋される。架橋反応を進行させつつも分解反応が生じないようにするためには、放射線架橋の照射線量は、5〜75kGyが好ましく、10〜50kGyがより好ましい。照射する放射線としては、α線、β線、X線、γ線又は電子線が用いられるが、なかでもγ線又は電子線が好ましい。なお、架橋反応を進行し易くするためには、放射線架橋に供する中空糸膜に水を含ませることが好ましい。
洗浄血小板では、製造時に除去した血漿の代わりに、血小板機能の保存安定性の高い保存液に血小板が浮遊している。回収工程では、中空糸膜モジュール内の血小板を回収するための保存液として、重炭酸を含む保存液が好適に用いられる。濾過工程又は洗浄工程では、血小板との親和性が高いことから、重炭酸を含む保存液を用いることが好ましい。
重炭酸からは炭酸ガスが発生するため、重炭酸を含む保存液を中空糸膜モジュールに流すと、中空糸膜モジュールへの気泡の混入が問題となる。気泡が中空糸膜モジュールに混入すると、気泡と血小板の接触による血小板の凝集が発生しやすくなり、血小板回収率が低下する。また、中空糸膜モジュールの流入側空間の流路を気泡が閉塞することで液が流れなくなり、洗浄や回収が困難となり、タンパク質の除去率や血小板回収率が低下する。そこで、血小板浮遊液流入口の上流にエアーチャンバーを有する回路を接続することで、保存液から発生する気泡が中空糸膜モジュール内に入るのを抑制することができる。保存液から発生する気泡を充分に除去するためには、エアーチャンバーの容積は1mL以上が好ましい。一方でエアーチャンバーの容積を小さくすると、チャンバー内の血小板の滞留が抑制されて血小板回収率が向上することから、エアーチャンバーの容積は30mL以下が好ましい。
血小板浮遊液を中空糸膜モジュールで全量濾過する方法としては、一定圧力で送液する定圧濾過法と一定速度で送液する定速濾過法がある。前述の通り、血小板浮遊液の流れる線速度が血小板回収率に影響を与えるため、流速を制御できる定速濾過法で全量濾過することが好ましい。血小板浮遊液を一定速度で流すための送液手段としてが、シリンジポンプやローラーポンプがある。ローラーポンプは大量の血小板浮遊液を送液可能であるため好ましい。一方、ローラーポンプのしごきによって、重炭酸を含む保存液から気泡が発生しやすくなるため、血小板浮遊液を送液する上流から、ローラーポンプ、エアーチャンバー、中空糸膜モジュールの順に配置することが好ましい。
本発明では、特に内圧式用の中空糸膜モジュールを用いることが、血小板浮遊液の速度ムラが発生しにくく、中空糸膜を均一に使うことができ、血小板の滞留も抑制されるため好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
透水性能の測定:
中空糸膜モジュールの透水性能は、中空糸膜モジュールから切り出した中空糸膜の膜面積あたりの透水性能を測定し、中空糸膜モジュールに内蔵される中空糸膜の膜面積を乗ずることで算出される。まず、膜面積あたりの透水性は以下の方法により測定することができる。中空糸膜モジュールに内蔵される中空糸膜を切り出す。プラスチック管に中空糸膜を挿入し、中空糸膜の両端をプラスチック管両端部の内壁にポッティングして、有効長10cmのミニモジュールを作製した。中空糸膜の本数は、ミニモジュールの膜面積が0.003mになるように調整した。膜面積は、中空糸膜モジュールが内圧式で用いられる場合には、内径ベースの膜面積であり、中空糸膜モジュールが外圧式で用いられる場合には、外径ベースの膜面積である。ミニモジュールの膜面積を、以下の式5により算出した。ここで、中空糸膜モジュールが2種類以上の中空糸膜を内蔵する場合、中空糸膜モジュールとミニモジュールの各中空糸膜の本数比率を同じにし、膜面積の計算においても各中空糸膜について式5により算出した値を積算した。
mini=D×π×L×n ・・・式5
mini : ミニモジュールの膜面積(m
D : 中空糸直径(m)(内圧式の場合は内径。外圧式の場合は外径)
π : 円周率
L : 有効長(m)
n : 中空糸膜の本数
作製したミニモジュールに、1.3×10Paの水圧をかけ、中空糸膜の濾液が得られる表面側に放出してくる単位時間当たりの水の量を測定した。水圧をかける方向は、中空糸膜モジュールが内圧式で用いられる場合には、ミニモジュールに内圧式で水圧をかけ、中空糸膜モジュールが外圧式で用いられる場合には、ミニモジュールに外圧式で水圧をかけた。以下の式6により中空糸膜の透水性能を算出した。
=Q/(T×P×Amini) ・・・式6
: 中空糸膜の透水性能(mL/hr/Pa/m
Q : 放出した水の量(mL)
T : 水圧をかけた時間(hr)
P : 水圧(Pa)
mini : ミニモジュールの膜面積(m
次に、中空糸膜モジュールの膜面積を式7で算出した。ここで、中空糸膜モジュールが2種類以上の中空糸膜を内蔵する場合、各中空糸膜について式7により算出した値を積算した。中空糸膜モジュールの透水性能を以下の式8によって算出した。
MD=D×π×L×n ・・・式7
MD : 中空糸膜モジュールの膜面積(m
D : 中空糸直径(m)(内圧式の場合は内径。外圧式の場合は外径)
π : 円周率
L : 有効長(m)
n : 中空糸膜の本数
MD=F×AMD ・・・式8
MD : 中空糸膜モジュールの透水性能(mL/Pa/hr)
: 中空糸膜の透水性能(mL/hr/Pa/m
MD : 中空糸膜モジュールの膜面積(m
血小板浮遊液の濾過圧力の測定:
血小板浮遊液の濃度を測定し、1.25×10個/mLとなるように、血小板浮遊液を調製した。血小板濃度が低い場合は遠心分離で血小板を沈降させて上澄みを除去して濃縮した。血小板濃度が高い場合は血小板浮遊液の一部を小分けし、遠心分離して血小板を沈降させ、上澄みを元の血小板浮遊液に添加して希釈した。洗浄血小板流出口を閉止して、血小板浮遊液流入口および濾液排出口を開放し、血小板浮遊液流入口に濃度調整した血小板浮遊液200mLを、50mL/minで流し、全量濾過した。血小板浮遊液流入口の圧力P1、洗浄血小板流出口の圧力P2、濾液排出口の圧力Poを測定した。以下の式9より、濾過圧力を算出した。
濾過圧力(kPa)=(P1+P2)/2−Po ・・・式9
膜表面の開孔率の測定:
走査型電子顕微鏡で、血小板浮遊液と接触する側である、流入側空間の中空糸膜の膜表面の1000倍画像を撮影した。次に、Matrox Inspector2.2(Matrox Electronic Systems Ltd.)で、孔の部分を白く、それ以外の部分を黒く反転させる画像処理を行い、白い孔の個数(以下、「総開孔数」)及び白い孔の部分のピクセル数の総和(以下、「総開孔面積」)を求め、以下の式10及び式11により、画像1枚当たりの開孔率及び平均孔径を算出する。これらの測定作業を中空糸膜5本につきそれぞれランダムに10箇所ずつ、計50回繰り返し、全50枚の画像についての平均値を、流入側空間の中空糸膜表面の開孔率とする。なお、上記の1000倍画像の撮影条件は以下のとおりである。
画像サイズ: 655×740ピクセル
画像解像度: 0.140845μm/ピクセル
画像面積S: 9615.2μm (縦92.3μm×横104.2μm角)
開孔率(%)=総開孔面積/画像サイズ×100 ・・・式10
平均孔径(μm)=総開孔数×(総開孔面積/π)0.5 ・・・式11
中空糸膜表面の全分子に対する親水性高分子の存在率の測定:
流入側空間の中空糸膜の表面を露出させ、超純水でリンスした後、室温、0.5 Torrにて10時間乾燥させたものを測定サンプルとする。サンプルをX線光電子分光装置(例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のESCALAB220i−XL等を使用可能)にセットし、X線の入射角に対する検出器の角度を調整して測定角を90°として測定を行なう。得られたC1s、N1s及びS2pのそれぞれのスペクトルの面積強度、並びに装置付属の相対感度係数から、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでにおける炭素原子、窒素原子及び硫黄原子の存在比率を求める。
ここで、例えば、膜素材がポリスルホンとポリビニルピロリドンの場合には、測定角を90°としてXPSで測定をして、膜表面から10nmの深さまでにおける炭素原子、窒素原子及び硫黄原子の存在比率を調べ、以下の式12により、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの全分子に対する親水性高分子の存在率を算出することができる。
全分子に対する親水性高分子の存在率(質量%)=N×111/(N×111+S×4
42)×100 ・・・式12
N : 窒素原子の存在比率
S : 硫黄原子の存在比率
111 : ポリビニルピロリドンの繰り返し単位の分子量
442 : ポリスルホンの繰り返し単位の分子量
中空糸膜の表面の全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子の存在率の測定:
中空糸膜の表面の親水性高分子の存在率の測定と同様に、ESCAで測定角を90°として測定を行い、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでのC1sのピーク全体から、エステル基由来の成分のピークを分割することによって全炭素原子にエステル基由来の炭素の存在率を算出した。
より具体的には、C1sを構成する、主にCHx、C−C、C=C及びC−S由来の成分、主にC−O及びC−N由来の成分、π−πサテライト由来の成分、C=O由来の成分及びエステル基由来の成分の5つの成分のピーク全体から、エステル基由来の成分のピークを分割して、C1sのピーク全体の面積に対するエステル基由来の成分のピーク面積比(以下、「エステル基由来ピーク面積比」)を求めることで算出することができる。なお、エステル基由来の成分のピークは、CHx等由来の成分のメインピーク(285eV付近)から+4.0〜4.2eVに現れる。C1sの炭素量(原子数%)にエステル基由来ピーク面積比(3箇所について測定をし、その平均値(小数第一位を四捨五入)を算出する;エステル基由来ピーク面積比が0.4%以下の場合には、検出限界以下として扱う)を乗じた値が、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子の存在率となる。
タンパク質濃度測定:
タンパク質濃度測定は、BCA法にて、BCA PROTEIN ASSAY KIT(THERMO SCIENTIFIC製)を用いて行った。測定サンプルには、血小板浮遊液又は洗浄血小板を2000×g、10分間の条件で遠心分離し、その上澄みを用いた。測定については、初めにBCA試薬と検量線用のサンプルを調製した。サンプルの希釈には、洗浄血小板の製造に用いた保存液であるM−solを用いた。キットの仕様に従い、検量線用サンプル又は測定サンプルに対してBCA試薬を加え、室温で10秒間ミクロミキサーを用いて撹拌した。その後、37℃で30分間インキュベートした。サンプルを室温まで下げた後、波長562nmにおけるサンプルの吸光度を測定した。吸光度を測定する波長は、厳密に同じでなくても、その近辺の波長±20nm程度の範囲内であればよい。検量線サンプルから、タンパク質濃度と吸光度の検量線を引き、検量線の式に測定サンプルの吸光度を代入することで、測定サンプルのタンパク質濃度を求めた。
洗浄血小板の調製:
10単位の血小板浮遊液は、2×1011から3×1011個の血小板を含有しており、液量は約200mLである。血小板浮遊液中の血小板の個数を、多項目自動血球計数装置XT1800i(シスメック社製)で測定した。血小板浮遊液のタンパク質濃度を測定した。
テルモ社製Solacet F(登録商標) 746.2mLに大塚製薬社製Meylon(登録商標) 52.2mL、テルモ社製ACD−A液126.8mL、大塚製薬社製硫酸Mg補正液(1mEq/mL)3.2mL、大塚製薬社製蒸留水71.6mLを加えて混合し、人工保存液としてM−sol 1Lを調製した。
10単位の血小板浮遊液200mLを、その2倍量のM−sol400mLで希釈した。回路チューブ内をM−solで液密にし、中空糸膜モジュールの血小板浮遊液流入口に接続した。さらに回路中に、ローラーポンプと中空糸膜モジュールの間に容量13mLのエアーチャンバーを設置した。中空糸膜モジュールにM−solを流し、中空糸膜モジュール内の液をM−solに置換した。洗浄血小板流出口を閉止し、血小板浮遊液流入口と濾液排出口を開放し、希釈済みの血小板浮遊液を中空糸膜モジュールの血小板浮遊液流入口から流量50mL/minで入れた。血小板浮遊液は中空糸膜モジュールの流入側空間を経て中空糸膜で濾過され、濾液は中空糸膜モジュールの濾過側空間を通して、濾液排出口から放出させた。このとき、血小板は中空糸膜を透過しないので中空糸膜モジュールの流入側空間に留まり、中空糸膜を透過するタンパク質と水分が濾液として排出される。血小板浮遊液を全量流した後に、洗浄液としてM−sol 1000mLを同様の経路で、50mL/minで流した。次に、濾液排出口を閉止し、血小板浮遊液流入口と洗浄血小板流出口を開放して、保存液としてM−sol 200mLを、流速250mL/minで血小板浮遊液流入口から中空糸膜モジュールの流入側空間に流しこみ、洗浄血小板流出口から放出させた。得られた洗浄血小板の血小板濃度とタンパク質濃度を測定した。血小板浮遊液及び洗浄血小板の濃度と液量から、式13を用いてタンパク質除去率を算出し、式14を用いて血小板回収率を算出した。
タンパク質除去率(%)=(1−(Co1×Vo)/(Ci1×Vi))×100 ・・・式13
Co1:洗浄血小板のタンパク質濃度(mg/mL)
Ci1:血小板浮遊液のタンパク質濃度(mg/mL)
Vo:洗浄血小板の液量(mL)
Vi:血小板浮遊液の液量(mL)
血小板回収率(%)=((Co2×Vo)/(Ci2×Vi))×100 ・・・式14
Co2:洗浄血小板の血小板濃度(個/mL)
Ci2:血小板浮遊液の血小板濃度(個/mL)
Vo:洗浄血小板の液量(mL)
Vi:血小板浮遊液の液量(mL)
(実施例1)
15部のユーデル(登録商標)ポリスルホン(P3500;ソルベイ社)、8部のPVP(K90;ISP社)、75部のDMAC及び2部の水からなる混合物を、90℃で混合溶解した後に、50℃に保温したものを製膜原液とした。また、80部のDMAC及び20部の水からなる混合溶液に、30部のPVP(K30;ISP社)を加え混合溶解したものを芯液とした。
外径1.0mm/内径0.7mmのオリフィス型二重円筒型口金を用いて、外側の筒から製膜原液を、内側の筒から芯液を、それぞれ同時に吐出し、30℃に設定した長さ70mmの乾式部を通過させた後、85部の水及び15部のDMACからなる混合溶液を入れた90℃の凝固浴に浸漬して凝固させ、さらに80℃の温水浴で温水洗浄してからカセ枠に巻き取り、湿潤状態の中空糸膜を得た。なお、製膜速度を40m/分としたところ、中空糸膜内径は300μm、中空糸膜の膜厚は80μmとなった。
得られた湿潤状態の中空糸膜を0.4mの長さに切断して小分けし、90℃の温水浴に50分間浸漬して温水洗浄した後、100℃で10時間の乾燥処理を行い、さらに乾熱乾燥機により170℃で5時間の加熱架橋処理を行って、中空糸膜を得た。
得られた中空糸膜から、以下のようにして中空糸膜モジュールを作製した。まず、内径50mm長さ290mmのサイズの筒状の部材であって、濾液排出口が筒状部材端面から21mmの箇所、すなわち筒状部材端面から端面長に対して7%の箇所に設けられた筒状のプラスチック製の部材に、上記製膜操作により得られた6864本の中空糸膜の束を挿入し、端部をポリウレタン樹脂からなるポッティング剤によって封止して隔壁を設け、端部における中空糸膜が両面とも外側に向かって開口するようにポッティング剤を筒状部材の断面と平行な方向に沿ってカットし、濾液排出口から遠い側の筒状部材端部に血小板浮遊液流入口を有する容積8.2mLのヘッダーを取り付け、もう一方に洗浄血小板流出口を有する容積8.2mLのヘッダーを取り付けた。中空糸膜を内蔵したハウジング内に、0.1質量%のエタノールを溶解したVA64 1000ppm水溶液を充填し、ハウジングの外側からγ線25kGyを照射して放射線照射架橋処理をして、中空糸膜モジュールを得た。得られた中空糸膜モジュールは内圧式用であり、中空糸膜モジュールの流入側空間は、両方のヘッダーの内側及び中空糸膜の中空部である。
中空糸膜の有効長(L)は255mmであり、中空糸膜中空部の断面の面積(A)(ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積)は0.00049mであった。そのため、中空糸膜中空部の断面の面積(A)に対する中空糸膜の有効長(L)の比(L/A)の値は520m−1だった。中空糸膜モジュールの流入側空間の容積は155mLだった。中空糸膜モジュールの透水性能は125mL/Pa/hrだった。流入側空間の中空糸膜表面の開孔率は17.3%、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの親水性高分子の存在率は54.2%、流入側空間の中空糸膜表面における表面から10nmの深さまでの全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子のピーク面積百分率は0.5原子数%であった。濾過圧力の測定では、最大圧力は5kPaだった。
洗浄血小板の調製を行うと、血小板回収率は97.5%で、タンパク質除去率は93.5%だった。中空糸膜モジュールの透水性能が高く、濾過圧力が上がりにくいため、全量濾過法における血小板回収率が高かった。血小板濃度が高く、タンパク質濃度の低い洗浄血小板を製造することができた。上記の結果を実施例1として表1に示した。
(実施例2)
筒状部材の内径を44mm、ヘッダーの容積を6.4mL、挿入する中空糸膜の本数を5243本にした以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを作製した。
中空糸膜の有効長(L)は255mmであり、中空糸膜中空部の断面の面積(A)(ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積)は0.00037mだった。そのため、中空糸膜中空部の断面の面積(A)に対する中空糸膜の有効長(L)の比(L/A)の値は689m−1だった。中空糸膜モジュールの流入側空間の容積は118mLだった。中空糸膜モジュールの透水性能は95mL/Pa/hrだった。流入側空間の中空糸膜表面の開孔率は17.3%、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの親水性高分子の存在率は54.2%、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子のピーク面積百分率は0.5原子数%であった。濾過圧力の測定では、最大圧力は7kPaだった。
洗浄血小板の調製を行うと、血小板回収率は96.5%で、タンパク質除去率は98.6%だった。上記の結果を実施例2として表1に示した。
(実施例3)
筒状部材の内径を40mm、ヘッダーの容積を5.3mLとし、挿入する中空糸膜の本数を4494本にした以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを作製した。
中空糸膜の有効長(L)は255mmであり、中空糸膜中空部の断面の面積(A)(ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積)は0.00032mだった。そのため、中空糸膜中空部の断面の面積(A)に対する中空糸膜の有効長(L)の比(L/A)の値は796m−1だった。中空糸膜モジュールの流入側空間の容積は101mLだった。中空糸膜モジュールの透水性能は82mL/Pa/hrだった。流入側空間の中空糸膜表面の開孔率は17.3%、流入側空間の中空糸膜表面における表面から10nmの深さまでの親水性高分子の存在率は54.2%、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子のピーク面積百分率は0.5原子数%であった。濾過圧力の測定では、最大圧力は7kPaだった。
洗浄血小板の調製を行うと、血小板回収率は82.9%で、タンパク質除去率は98.1%だった。上記の結果を実施例3として表1に示した。
(実施例4)
筒状部材の内径を38mm、ヘッダー容積を4.8mLとし、挿入する中空糸膜の本数を3995本にした以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを作製した。
中空糸膜の有効長(L)は255mmであり、中空糸膜中空部の断面の面積(A)(ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積)は0.00028mだった。そのため、中空糸膜中空部の断面の面積(A)に対する中空糸膜の有効長(L)の比(L/A)の値は910m−1だった。中空糸膜モジュールの流入側空間の容積は90mLだった。中空糸膜モジュールの透水性能は72mL/Pa/hrだった。流入側空間の中空糸膜表面の開孔率は17.3%、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの親水性高分子の存在率は54.2%、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子のピーク面積百分率は0.5原子数%であった。濾過圧力の測定では、最大圧力は20kPaだった。
洗浄血小板の調製を行うと、血小板回収率は69.9%で、タンパク質除去率は97.0%だった。上記の結果を表1に示した。
(実施例5)
筒状部材の長さを220mmとし、挿入する中空糸膜の本数を4600本にした以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを作製した。
中空糸膜の有効長(L)は198mmであり、中空糸膜中空部の断面の面積(A)(ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積)は0.00032mだった。そのため、中空糸膜中空部の断面の面積(A)に対する中空糸膜の有効長(L)の比(L/A)の値は614m−1だった。中空糸膜モジュールの流入側空間の容積は88mLだった。中空糸膜モジュールの透水性能は85mL/Pa/hrだった。流入側空間の中空糸膜表面の開孔率は17.3%、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの親水性高分子の存在率は54.2%、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子のピーク面積百分率は0.5原子数%であった。濾過圧力の測定では、最大圧力は6kPaだった。
洗浄血小板の調製を行うと、血小板回収率は96.7%で、タンパク質除去率は98.2%だった。上記の結果を表1に示した。
(比較例1)
筒状部材の内径を19mm、ヘッダー容積を1.2mLとし、挿入する中空糸膜の本数を1000本にした以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを作製した。
中空糸膜の有効長(L)は255mmであり、中空糸膜中空部の断面の面積(A)(ハウジングの長手方向に対して垂直な流入側空間の断面の面積)は0.00007mだった。そのため、中空糸膜中空部の断面の面積(A)に対する中空糸膜の有効長(L)の比(L/A)の値は3642m−1だった。中空糸膜モジュールの流入側空間の容積は23mLだった。中空糸膜モジュールの透水性能は19mL/Pa/hrだった。流入側空間の中空糸膜表面の開孔率は17.3%、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの親水性高分子の存在率は54.2%、流入側空間の中空糸膜における表面から10nmの深さまでの全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子のピーク面積百分率は0.5原子数%であった。濾過圧力の測定では、最大圧力は64kPaだった。
洗浄血小板の調製を行うと、血小板回収率は32%で、タンパク質除去率は98.2%だった。実施例1に比較して、中空糸膜の透水性が低く、L/Aが大きく、中空糸膜モジュールの流入側空間の容積が小さいため、全量濾過時に血小板の凝集による圧力上昇がおこりやすく、血小板回収率が低下した。上記の結果を表1に示した。
本発明の中空糸膜モジュールを用いることで、血小板浮遊液から、血小板濃度を低下させることなく、タンパク質等の夾雑物を高率に除去することが可能であり、タンパク質濃度が低く、血小板濃度が高い洗浄血小板を製造することができる。
1・・・内圧式用の中空糸膜モジュール、2・・・筒状部材、3・・・ヘッダー、4・・・ヘッダー、5・・・中空糸膜、6・・・血小板浮遊液流入口、7・・・洗浄血小板流出口、8・・・濾液排出口、9・・・隔壁、10・・・隔壁、11・・・流入側空間、12・・・濾過側空間、13・・・中空糸膜中空部、14・・・外圧式用の中空糸膜モジュール、15・・・エアーチャンバー、16・・・ローラーポンプ、17・・・チューブクランプ

Claims (9)

  1. 血小板浮遊液から夾雑物を除去して血小板を洗浄する中空糸膜モジュールであり、
    血小板浮遊液流入口、洗浄血小板流出口及び濾液排出口を有するハウジングと、
    前記血小板は通過しないが前記夾雑物は通過する孔を有し、前記ハウジングの内部に配置されて、前記血小板浮遊液を濾過する中空糸膜と、
    を備え、
    前記血小板浮遊液流入口と連通し、前記ハウジング内における前記中空糸膜で濾過される前の前記血小板浮遊液を収容する流入側空間の容積が、88〜155mLであり、かつ、モジュール透水性能が、72〜125mL/Pa/hrである、中空糸膜モジュール。
  2. 前記ハウジングの長手方向に対して垂直な前記流入側空間の断面の面積(A)に対する前記中空糸膜の有効長(L)の比(L/A)が、250〜1300m−1である、請求項1記載中空糸膜モジュール。
  3. 1.25×10個/mLの血小板浮遊液の200mLを50mL/分の流速で全量濾過したときの濾過圧力の最大圧力が、30kPa以下である、請求項1又は2記載の中空糸膜モジュール。
  4. 前記流入側空間に面する中空糸膜の表面の開孔率が、10〜30%である、請求項1〜3のいずれか一項記載の中空糸膜モジュール。
  5. 前記中空糸膜は、ポリスルホン系高分子からなる膜である、請求項1〜4のいずれか一項記載の中空糸膜モジュール。
  6. 前記流入側空間に面する中空糸膜の表面から10nmの深さまでの全分子に対する親水性高分子の存在率が、40〜60質量%である、請求項1〜5のいずれか一項記載の中空糸膜モジュール。
  7. 前記流入側空間に面する中空糸膜の表面から10nmの深さまでの全炭素原子に対するエステル基由来の炭素原子の存在率が、0.1〜10原子数%である、請求項1〜6のいずれか一項記載の中空糸膜モジュール。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項記載の中空糸膜モジュールと、
    血小板浮遊液流入口の上流側に配置され、容積が1〜30mLであるエアーチャンバーと、
    を備える、血小板浮遊液洗浄用デバイス。
  9. ローラーポンプが、前記エアーチャンバーに対して前記血小板浮遊液の液流の上流側に配置されている、請求項8記載の血小板浮遊液洗浄用デバイス。

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