本発明の実施例に係る建設機械としてのショベルは、概略的には、旋回加速動作の開始時にブーム上げ操作が行われていると判定できた場合に角加速度の制限値を切り替えて旋回用電動機の角速度を制限する処理(以下、「制限値切替処理」とする。)を実行する。そのため、上部旋回体の角速度はその切り替え後の角加速度の制限値にしたがって安定的に加速する。ショベル動作中における車体の振動による或いはブーム操作レバー保持中における操作者の意識外の意図しない体の動きによるブーム操作レバーに対する微操作入力に応じては角加速度の制限値が変化しないためである。その結果、安定した旋回加速動作を実現できる。
最初に、本発明の実施例に係るショベルの全体構成及びその駆動系の構成について説明する。図1は本発明の実施例に係るショベルの構成例を示す側面図である。
図1に示すショベルの下部走行体1には旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載される。上部旋回体3には作業体としてのブーム4が取り付けられる。ブーム4の先端には作業体としてのアーム5が取り付けられ、アーム5の先端には作業体としてのバケット6が取り付けられる。ブーム4、アーム5、及びバケット6は、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。また、上部旋回体3にはキャビン10が設けられる。
図2は図1に示すショベルの駆動系の構成例を示す図である。図2において、機械的動力系は二重線、高圧油圧ラインは太実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御系は細実線でそれぞれ示される。
エンジン11と電動発電機12は減速機13の2つの入力軸にそれぞれ接続される。減速機13の出力軸には油圧ポンプとしてのメインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続される。メインポンプ14には高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続される。また、パイロットポンプ15にはパイロットライン25を介して操作装置26が接続される。
コントロールバルブ17はショベルにおける油圧系の制御を行う油圧制御装置である。本実施例では、コントロールバルブ17は高圧油圧ラインを介して右側走行用油圧モータ2A、左側走行用油圧モータ2B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9等の各種油圧アクチュエータに接続される。
蓄電系120は、蓄電装置19と、昇降圧コンバータ19aと、DCバス19bとを含む。蓄電装置19は例えばキャパシタであり、昇降圧コンバータ19a、DCバス19b、及びインバータ18を介して電動発電機12に接続される。また、蓄電装置19は、昇降圧コンバータ19a、DCバス19b、及びインバータ20を介して旋回用電動機21に接続される。昇降圧コンバータ19aは、蓄電装置19とDCバス19bとの間に配置され、電動発電機12及び旋回用電動機21の運転状態に応じてDCバス19bの電圧レベルが一定の範囲内に収まるように昇圧動作と降圧動作を切り替える制御を行う。DCバス19bは、昇降圧コンバータ19aとインバータ18及びインバータ20のそれぞれとの間に配置され、蓄電装置19、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を可能にする。
インバータ18は、コントローラ30からのトルク電流指令値に応じてモータ駆動電流を電動発電機12に対して出力する。また、インバータ20は、コントローラ30からのトルク電流指令値に応じてモータ駆動電流を旋回用電動機21に対して出力する。
旋回用電動機21の出力軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24が接続される。
操作装置26は、各種油圧アクチュエータを操作するための装置であり、入力された操作量、操作方向等の操作内容に応じたパイロット圧を発生させる。また、操作装置26は、油圧ライン27を介してコントロールバルブ17に接続される。コントロールバルブ17は、操作装置26が発生させたパイロット圧に応じて各種油圧アクチュエータに対応するスプール弁を動かし、メインポンプ14が吐出する作動油を各種油圧アクチュエータに供給する。また、操作装置26は、油圧ライン28を介して圧力センサ29に接続される。圧力センサ29は、操作装置26が発生させたパイロット圧を電気信号に変換し、変換した電気信号をコントローラ30に対して出力する。
なお、ショベルの駆動系は、各種油圧アクチュエータの伸縮速度を検出するセンサ、各種油圧アクチュエータを作動させる作動油の圧力を検出するセンサ等を含んでいてもよい。また、それらセンサは検出した値をコントローラ30に対して出力してもよい。
コントローラ30は、ショベルの駆動制御を行う制御装置である。本実施例では、コントローラ30は、CPU及び内部メモリを含む演算処理装置である。具体的には、コントローラ30は、内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムをCPUに実行させて各種機能を実現する。
また、コントローラ30は、各種油圧アクチュエータの動作状態の検出結果に基づいてショベルの動きを制御してもよい。例えば、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9等の油圧シリンダのストロークの変位を検出する変位センサ50の出力に基づいてショベルの動きを制御してもよい。例えば、変位センサ50はブームシリンダ7のストローク量を検出し、検出値をコントローラ30に対して出力する。コントローラ30は変位センサ50の出力に基づいてブームシリンダ7の伸縮速度(以下、「ブームシリンダ伸縮速度」とする。)を導き出し、ひいてはブーム4の回動速度を導き出すこともできる。なお、変位センサ50は角度センサであってもよい。この場合、変位センサ50はブーム4の回動角度を検出し、検出値をコントローラ30に対して出力する。コントローラ30は変位センサ50の出力に基づいてブーム4の回動速度を導き出すこともできる。また、コントローラ30は、油圧シリンダを流出入する作動油の流量に基づいて油圧シリンダのストローク量、伸縮速度等を導き出してもよい。このようにして、コントローラ30は、ブーム等を含む作業体の動作状態の検出結果をショベルの動きに反映させることができる。
次に、図3を参照し、コントローラ30の機能の詳細について説明する。なお、図3は、コントローラ30の機能ブロック図であり、旋回用電動機21の駆動制御を行う際に用いられる機能要素を含む。本実施例では、コントローラ30は、主に、角速度目標値生成部31、角加速度制限部32、減算器33、PI制御部34、加速開始判定部35、動作状態判定部36、判定時間決定部37、角加速度制限値生成部38、及び出力切替判定部39を有する。
角速度目標値生成部31は、旋回操作レバーのレバー操作量(以下、「旋回操作量」とする。)を表す圧力センサ29からの電気信号に基づいて角速度目標値を生成する。
角加速度制限部32は、角加速度制限値を用いて角速度目標値を角速度制限値以下に制限する。本実施例では、角加速度制限部32は、角速度目標値生成部31が生成した角速度目標値が角速度制限値以上であれば角速度制限値を角速度指令値として減算器33に対して出力する。また、角加速度制限部32は、角速度目標値生成部31が生成した角速度目標値が角速度制限値未満であれば角速度目標値を角速度指令値として減算器33に対して出力する。なお、角速度制限値は、前回の角速度指令値に角加速度制限値を加算した値である。また、角加速度制限値についてはその詳細を後述する。
減算器33は、角速度指令値と旋回角速度の現在値(実旋回角速度)との偏差をPI制御部34に対して出力する。実旋回角速度は、例えば旋回角速度検出器としてのレゾルバ22の検出値から導き出される。具体的には、コントローラ30は、旋回用電動機21のロータの回転位置の変化に基づいて実旋回角速度を導き出す。
PI制御部34は、減算器33から入力される偏差に基づいてPI制御を実行する。本実施例では、PI制御部34は、実旋回角速度が角速度指令値に近づくようにトルク電流指令値を生成する。そして、PI制御部34は、生成したトルク電流指令値をインバータ20に対して出力する。
トルク電流指令値を受けたインバータ20は、そのトルク電流指令値に応じてPWM信号を生成する。そして、インバータ20は、生成したPWM信号でトランジスタ等のスイッチング素子を動作させてモータ駆動電流を生成し、そのモータ駆動電流を旋回用電動機21に対して出力する。なお、インバータ20は、トルク電流指令値とモータ駆動電流の現在値との偏差を極小化するようにトルク電流指令値をフィードバック制御してもよい。
加速開始判定部35は旋回加速操作が開始されたかを判定する。本実施例では、加速開始判定部35は旋回操作量を表す圧力センサ29からの電気信号に基づいて旋回加速操作が開始されたか否かを判定する。そして、加速開始判定部35はその判定結果を出力切替判定部39に対して出力する。
動作状態判定部36は作業体の動作状態を示す状態量に基づいて作業体の動作状態を判定する。本実施例では、動作状態判定部36は変位センサ50が出力するブームシリンダ伸縮速度に基づいてブーム上げ操作が行われているかを判定する。なお、変位センサ50はブーム4の動作状態を検出できるセンサであればどのようなセンサであってもよい。例えば、動作状態判定部36は角度センサの出力等の各種物理量に基づいてブーム上げ操作が行われているかを判定してもよい。以下では、ブームシリンダ7の伸張速度に基づく場合について説明する。
動作状態判定部36は、判定時間決定部37が決定する判定時間に亘ってブームシリンダ7が所定の伸張速度(判定速度)で伸張し続けた場合にブーム上げ操作が行われていると判定する。この場合、「判定時間決定部37が決定する判定時間に亘ってブームシリンダ7が所定の伸張速度(判定速度)で伸張し続ける」というブーム4の動作状態が、ブーム上げ操作が行われているか否かの判定基準としての「作業体の動作状態」を構成する。
判定時間決定部37は、ブームシリンダ7の伸張速度(以下、「ブームシリンダ伸張速度」とする。)が所定の判定速度V1以上の場合、所定時間THを判定時間として決定する。また、判定時間決定部37は、ブームシリンダ伸張速度が所定の判定速度V2(>V1)以上の場合、所定時間TL(<TH)を判定時間として決定する。具体的には、判定時間決定部37は、ブームシリンダ伸張速度が10[mm/s]以上の場合に100[ms]を判定時間とし、ブームシリンダ伸張速度が20[mm/s]以上の場合に30[ms]を判定時間とする。このように、判定時間決定部37はブームシリンダ伸張速度が大きいほど判定時間を短くする。
角加速度制限値生成部38は、角加速度制限値を生成し、生成した角加速度制限値を角加速度制限部32に対して出力する。なお、角加速度制限値は角速度指令値を角速度目標値まで増大させる際の一制御周期当たりの角速度指令値の最大増分値である。そのため、角加速度制限部32は、角加速度制限値生成部38から受けた角加速度制限値を前回の角速度指令値に加算して角速度制限値を導き出す。角加速度制限値生成部38は、2つの角加速度制限値の一方を選択して角加速度制限部32に出力する。
出力切替判定部39は、角加速度制限値生成部38の角加速度制限部32に対する出力の切り替えの要否を判定する。出力切替判定部39は、加速開始判定部35の判定結果と動作状態判定部36の判定結果とに基づき、角加速度制限値生成部38が角加速度制限部32に対して出力する角加速度制限値の切り替えの要否を判定する。
具体的には、出力切替判定部39は、旋回加速操作が開始されたと加速開始判定部35が判定し、且つ、ブーム上げ操作が行われていると動作状態判定部36が判定した場合、すなわちショベルの動作状態が「旋回複合操作モード」にあると判定した場合に、切り替えが必要であると判定する。この場合、出力切替判定部39は、角加速度制限値生成部38が出力する角加速度制限値を通常時の値AccHから制限時の値AccL(<AccH)に切り替える。
また、出力切替判定部39は、旋回加速操作が開始されたと加速開始判定部35が判定し、且つ、ブーム上げ操作が行われていないと動作状態判定部36が判定した場合、すなわちショベルの動作状態が「旋回単独操作モード」にあると判定した場合、切り替えが不要であると判定する。この場合、出力切替判定部39は、角加速度制限値生成部38が出力する角加速度制限値を通常時の値AccHのまま維持する。
このように、通常時の角加速度制限値AccHは旋回加速操作が単独で行われている場合に採用され、通常時の角加速度制限値AccHより小さい制限時の角加速度制限値AccLは旋回加速操作及びブーム上げ操作を含む複合操作が行われている場合に採用される。
また、上述の実施例では、「旋回複合操作モード」及び「旋回単独操作モード」の2つの操作モードのそれぞれに対応する2つの角加速度制限値のうちの1つが作業体としてのブーム4の動作状態に基づいて選択される。但し、3つ以上の操作モードのそれぞれに対応する3つ以上の角加速度制限値のうちの1つが作業体の動作状態に基づいて選択されてもよい。この場合、3つ以上の操作モードは、例えば、ブーム上げ操作及び旋回加速操作を含む「ブーム上げ旋回複合操作モード」、アーム開き操作及び旋回加速操作を含む「アーム開き旋回複合操作モード」等を含んでいてもよい。
次に、図4を参照し、コントローラ30が実行する制限値切替処理について説明する。なお、図4は制限値切替処理の流れを示すフローチャートである。コントローラ30は、旋回加速操作が開始されるまでの間、所定の制御周期で繰り返しこの制限値切替処理を実行し、角加速度制限値を制限時の値AccLに切り替えた時点でこの制限値切替処理の繰り返しを終了させる。
最初に、コントローラ30は旋回加速操作が開始されたかを判定する(ステップS1)。本実施例では、コントローラ30の加速開始判定部35は圧力センサ29の出力に基づいて旋回操作量を検出する。そして、加速開始判定部35は、旋回操作量に基づいて旋回加速操作が開始されたか否かを判定する。例えば、加速開始判定部35は、旋回操作量が所定値以上となった場合に旋回加速操作が開始されたと判定する。
旋回加速操作が開始されていないと判定した場合(ステップS1のNO)、コントローラ30は今回の制限値切替処理を終了させる。
旋回加速操作が開始されたと判定した場合(ステップS1のYES)、コントローラ30はブーム上げ操作が行われているかを判定する(ステップS2)。本実施例では、コントローラ30の動作状態判定部36は、変位センサ50が検出するブームシリンダ7のストローク量からブームシリンダ伸縮速度を導き出し、そのブームシリンダ伸縮速度に基づいてブーム上げ操作が行われているかを判定する。具体的には、動作状態判定部36は、制限値切替処理の実行の有無とは独立してブーム上げ操作が行われているか否かの判定を継続的に行う。そして、コントローラ30は、旋回加速操作が開始されたと判定した場合に動作状態判定部36の判定結果を利用してブーム上げ操作が行われているか否かを判定する。
旋回加速操作が開始された時点でブーム上げ操作が行われていると判定した場合(ステップS2のYES)、すなわちショベルの動作状態が「旋回複合操作モード」にあると判定した場合、コントローラ30は角加速度制限値を制限時の値AccLに切り替える(ステップS3)。本実施例では、動作状態判定部36は、判定時間決定部37が決定する判定時間に亘ってブームシリンダ7が所定の伸張速度以上で伸張し続けた場合にブーム上げ操作が行われていると判定する。そして、コントローラ30の出力切替判定部39は、角加速度制限値生成部38が出力する角加速度制限値を通常時の値AccHから制限時の値AccLに切り替える。この場合、角加速度制限値生成部38は制限時の角加速度制限値AccLを角加速度制限部32に対して出力する。
制限時の角加速度制限値AccLを受けた角加速度制限部32は、一制御周期当たりの角速度指令値の最大増分値を角加速度制限値AccLとする。すなわち、角加速度制限部32は、前回(一制御周期前)の角速度指令値に角加速度制限値AccLを加えた値を今回の角速度指令値の最大値である角速度制限値とする。また、角速度制限値は角速度目標値以下に設定される。
一方、ブーム上げ操作が行われていないと判定した場合(ステップS2のNO)、すなわちショベルの動作状態が「旋回単独操作モード」にあると判定した場合、コントローラ30は角加速度制限値を切り替えることなく今回の制限値切替処理を終了させる。具体的には、コントローラ30は、角加速度制限値を制限時の値AccLに切り替えることなく、角加速度制限値を通常時の値AccHとしたまま、今回の制限値切替処理を終了させる。この場合、角加速度制限値生成部38は通常時の角加速度制限値AccHを角加速度制限部32に対して出力する。
通常時の角加速度制限値AccHを受けた角加速度制限部32は、一制御周期当たりの角速度指令値の最大増分値を角加速度制限値AccHとする。すなわち、角加速度制限部32は、前回(一制御周期前)の角速度指令値に角加速度制限値AccHを加えた値を今回の角速度指令値の最大値である角速度制限値とする。また、角速度制限値は角速度目標値以下に設定される。
このように、コントローラ30は、旋回加速動作の開始時のブーム4の動作状態に基づいて角加速度制限値を決定するため、ショベルの車体の振動が旋回加速動作に悪影響を及ぼすことを防止できる。
例えば車体の振動により、旋回加速操作を含む複合操作中の油圧アクチュエータの状態がその油圧アクチュエータに対する操作者の意図的な操作とは無関係に変化したとしても、その変化に過敏に反応することなく旋回用電動機21の旋回角速度を制御できる。そのため、コントローラ30は、複合操作時の旋回用電動機21による旋回動作をより安定的に旋回用油圧モータによる旋回動作のように行わせることができる。
次に、図5を参照し、旋回加速操作を含む複合操作中の各種物理量の時間的推移について説明する。なお、図5は旋回加速操作を含む複合操作中の各種物理量の時間的推移を示すグラフである。具体的には、図5の点線で示す推移はコントローラ30が複合操作時のブームシリンダ伸張速度に応じて角加速度の制限値を連続的に変化させる制限値連続可変処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移を示し、実線で示す推移はコントローラ30が制限値切替処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移を示す。なお、制限値連続可変処理は特許文献1のショベルで実行される処理に対応する。そして、制限値連続可変処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移は、本発明の実施例に係るショベルが制限値切替処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移との違いを明確にするための比較対象として提示される。
より詳細には、図5(A)はブームシリンダ伸張速度の時間的推移を示す。また、図5(B)は角加速度制限値の時間的推移を示す。また、図5(C)は角速度指令値の時間的推移を示す。具体的には、実線が制限値切替処理中の角速度指令値の時間的推移を示し、点線が制限値連続可変処理中の角速度指令値の時間的推移を示す。また、図5(D)は旋回角速度の時間的推移を示す。
なお、図5(A)に示すブームシリンダ伸張速度は制限値切替処理中及び制限値連続可変処理中で同じ推移を辿る。
最初に、図5及び図6を参照し、コントローラ30が制限値連続可変処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移について説明する。なお、図6は制限値連続可変処理で使用される、ブームシリンダ伸張速度と角加速度制限値の対応関係の一例を示す。
操作者が時刻t1においてブーム操作レバーを上げ方向に傾倒すると、図5(A)の点線で示すようにブームシリンダ伸張速度は増大するが、図5(B)の点線で示すように角加速度制限値は通常時の値AccHのまま推移する。図6に示すように、ブームシリンダ伸張速度が所定値V1以下であれば角加速度制限値は通常時の値AccHに設定されるためである。
その後、時刻t2においてブームシリンダ伸張速度が所定値V1を上回ると、図5(B)の点線で示すように角加速度制限値はブームシリンダ伸張速度が増大するにつれて低下する。図6に示すように、ブームシリンダ伸張速度が所定値V1より大きく所定値V2未満であれば角加速度制限値は通常時の値AccHと制限時の値AccLとの間にある、ブームシリンダ伸張速度に応じた値に設定されるためである。したがって、角加速度制限値は図5(B)の点線で示すように時刻t2以降もブームシリンダ伸張速度の増減に応じて変動する。なお、図6に示すように、角加速度制限値はブームシリンダ伸張速度が所定値V2以上であれば制限時の値AccLに設定される。
ブームシリンダ伸張速度の増減は、操作者がブーム操作レバーを所望のレバー操作量で維持しようとしても完全には維持できないことに起因する。ショベルの車体の揺れの影響を受けるためである。特に、その影響はその所望のレバー操作量が中間領域(中立位置に対応するレバー操作量と最大傾倒位置に対応するレバー操作量との間の領域)にある場合に顕著となる。このように、ブームシリンダ伸張速度は、ブーム操作レバーに対する操作者の意図しない微操作入力に応じて増減してしまう。なお、図5(A)における所定値V1と所定値V2との間のブームシリンダ伸張速度の変動はこの無意識の微操作入力に起因する変動を分かり易く例示したものである。
その後、旋回操作レバーが時刻t3において傾倒されると、旋回操作量、角速度目標値はそれぞれ時刻t3で増大し始める。また、角速度指令値は、図5(C)の点線で示すように時刻t3で増大し始め、その後は角加速度制限値による制限を受けて一制御周期当たりの増分を変動させながら角速度目標値まで増大する。
その結果、旋回角速度は、図5(D)の点線で示すように、角速度指令値の時間的推移に沿うように時刻t3で増大し始め、その後は一制御周期当たりの増分を変動させながら角速度目標値に対応する旋回角速度まで増大する。
このように、旋回加速操作及びブーム上げ操作を含む複合操作中に制限値連続可変処理を実行する場合、コントローラ30は、角加速度制限値をブームシリンダ伸張速度に応じて連続的に変化させる。そのため、ブームシリンダ伸張速度に応じて旋回用電動機21の角加速度を連続的に変化させることができる。しかしながら、コントローラ30はブームシリンダ伸張速度の僅かな変動に敏感に反応して旋回角加速度を増減させるため、旋回用電動機21の旋回動作を不安定にしてしまうおそれがある。また、旋回角加速度の増減が大きくなると、操作者は不安を感じ、旋回操作量及び角速度目標値を低減させ、角速度指令値の増大を制限してしまうおそれがある。その結果、操作者は、旋回角速度の増大を制限して作業効率を低下させてしまうおそれがある。
そこで、コントローラ30は、制限値連続可変処理の代わりに制限値切替処理を実行して旋回加速操作及びブーム上げ操作を含む複合操作中の旋回用電動機21の旋回動作を安定化させる。
ここで、図5及び図7を参照し、コントローラ30が制限値切替処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移について説明する。なお、図7は制限値切替処理で使用される、ブームシリンダ伸張速度と判定時間の対応関係の一例を示す。
操作者が時刻t1においてブーム操作レバーを上げ方向に傾倒すると、図5(A)の実線で示すようにブームシリンダ伸張速度は増大するが、図5(B)の実線で示すように角加速度制限値は通常時の値AccHのまま推移する。コントローラ30は、旋回加速操作が開始されるまでは角加速度制限値を通常時の値AccHのまま維持するためである。
その後、旋回操作レバーが時刻t3において傾倒されると、旋回操作量、角速度目標値はそれぞれ時刻t3で増大し始める。また、旋回操作量が所定値を上回るとコントローラ30は旋回加速操作が開始されたと判定する。
旋回加速操作が開始されたと判定した場合、コントローラ30は、ブーム上げ操作が行われていると既に判定していたときには、角加速度制限値を通常時の値AccHから制限時の値AccLに切り替える。具体的には、コントローラ30は、時刻t21において、ブームシリンダ伸張速度が判定速度V1以上の状態で判定時間THに亘って継続されたと判定し、ブーム上げ操作が行われていると判定する。そして、コントローラ30は、図5(B)の実線で示すように、時刻t3において旋回加速操作が開始されたと判定した場合に角加速度制限値を通常時の値AccHから制限時の値AccLに切り替える。なお、判定時間は図7に示すようにブームシリンダ伸張速度に応じて異なるものであってもよい。例えば、コントローラ30は、ブームシリンダ伸張速度が判定速度V2(>V1)以上の状態が判定時間TL(<TH)に亘って継続されたと判定した場合にブーム上げ操作が行われていると判定してもよい。
そして、角加速度制限値が制限時の値AccLに切り替えられると、角速度指令値は図5(C)の実線で示すように一制御周期当たりの増分を角加速度制限値AccLとしながら角速度目標値まで増大する。
このように、制限値切替処理を実行するコントローラ30は、旋回加速操作の開始時にブーム上げ操作が行われていると既に判定している場合に角加速度制限値を制限時の値AccLに切り替える。そのため、操作者は旋回単独操作モードと旋回複合操作モードとの間で旋回用電動機21の角加速度を切り替えることができる。また、コントローラ30は複合操作時におけるブームシリンダ伸張速度の僅かな変動に敏感に反応して旋回角加速度を増減させることはない。角加速度制限値は、制限時の値AccLに切り替えられた後、旋回加速操作が終了するまでは制限時の値AccLのまま維持されるためである。具体的には、角加速度制限値は、解除フラグがオンされるまでは制限時の値AccLのまま維持されるためである。なお、解除フラグは、旋回操作レバーのレバー操作量がゼロとなった場合や、実旋回角速度がゼロとなった場合等にオンされ、角加速度制限値が通常時の値AccHから制限時の値AccLに切り替えられた場合にオフされる。その結果、コントローラ30は、旋回複合操作モードでの旋回用電動機21の旋回動作を安定させることができる。車体の揺れ等に起因するブームシリンダ伸張速度の意図しない変動が発生したとしても図5(D)に示すように旋回角速度を一定の割合で増大させることができるためである。また、操作者は制限値連続可変処理が実行される場合のように旋回操作量を低減させてしまうこともない。旋回角速度が旋回加速操作に応じて滑らかに増大するため操作者は旋回角速度の意図しない変動による不安を感じることもないためである。その結果、操作者は作業効率を低下させてしまうこともない。
以上の構成により、本発明の実施例に係るショベルは、旋回加速動作の開始時にブーム上げ操作が行われていると判定できた場合に制限値切替処理を実行する。そのため、上部旋回体の角速度はその切り替え後の角加速度の制限値にしたがって安定的に加速する。ショベル動作中における車体の振動による或いはブーム操作レバー保持中における操作者の意識外の意図しない体の動きによるブーム操作レバーに対する微操作入力に応じては角加速度の制限値が変化しないためである。その結果、安定した旋回加速動作を実現できる。
次に、図8を参照し、図1のショベルに搭載されるコントローラ30の別の構成例について説明する。なお、図8は、コントローラ30の機能ブロック図であり図3に対応する。
図8のコントローラ30は、動作状態判定部36が作業体操作レバーとしてのブーム操作レバーのレバー操作量に基づいてブーム4の動作状態を判定する点、及び、判定時間決定部37がブーム操作レバーのレバー操作量に基づいて判定時間を決定する点で図3のコントローラ30と相違するがその他の点で共通する。そのため、ここでは共通部分の説明を省略し、相違部分を詳細に説明する。
動作状態判定部36は、判定時間決定部37が決定する判定時間に亘ってブーム操作レバーが上げ方向へ所定のレバー操作量(判定操作量)以上で操作され続けた場合にブーム上げ操作が行われていると判定する。
判定時間決定部37は、圧力センサ29が出力するブーム上げ操作量に対応する判定時間を決定する。例えば、判定時間決定部37は、ブーム上げ操作量が所定の判定操作量b1以上の場合、所定時間THを判定時間として決定する。また、判定時間決定部37は、ブーム上げ操作量が所定の判定操作量b2(>b1)以上の場合、所定時間TL(<TH)を判定時間として決定する。具体的には、判定時間決定部37は、ブーム上げ操作量が40[%]以上の場合に100[ms]を判定時間とし、ブーム上げ操作量が80[%]以上の場合に30[ms]を判定時間とする。このように、判定時間決定部37は、ブーム操作レバーの判定操作量が大きいほど判定時間を短くする。なお、操作量40[%]は、例えば、ブーム操作レバーの中立状態を0%とし、ブーム上げ方向への最大操作状態を100%とした場合の40%のレバー操作量を意味する。
この構成により、図8のコントローラ30は、図3のコントローラ30と同様の効果を実現できる。
次に、図9を参照し、旋回加速操作を含む複合操作中の各種物理量の時間的推移について説明する。なお、図9は旋回加速操作を含む複合操作中の各種物理量の時間的推移を示すグラフであり、図5に対応する。具体的には、図9の点線で示す推移は図8のコントローラ30が複合操作時のブーム上げ操作量に応じて角加速度の制限値を連続的に変化させる制限値連続可変処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移を示す。また、図9の実線で示す推移は図8のコントローラ30が制限値切替処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移を示す。また、図9(A)に示すブーム上げ操作量は制限値切替処理中及び制限値連続可変処理中で同じ推移を辿る。なお、制限値連続可変処理は特許文献1のショベルで実行される処理に対応する。そして、制限値連続可変処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移は、本発明の実施例に係るショベルが制限値切替処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移との違いを明確にするための比較対象として提示される。
最初に、図9及び図10を参照し、コントローラ30が制限値連続可変処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移について説明する。なお、図10は制限値連続可変処理で使用される、ブーム上げ操作量と角加速度制限値の対応関係の一例を示す。
操作者が時刻t1においてブーム操作レバーを上げ方向に傾倒すると、図9(A)の点線で示すようにブーム上げ操作量は増大するが、図9(B)の点線で示すように角加速度制限値は通常時の値AccHのまま推移する。図10に示すように、ブーム上げ操作量が所定値b1以下であれば角加速度制限値は通常時の値AccHに設定されるためである。
その後、時刻t2においてブーム上げ操作量が所定値b1を上回ると、図9(B)の点線で示すように角加速度制限値はブーム上げ操作量が増大するにつれて低下する。図10に示すように、ブーム上げ操作量が所定値b1より大きく所定値b2未満であれば角加速度制限値は通常時の値AccHと制限時の値AccLとの間にある、ブーム上げ操作量に応じた値に設定されるためである。したがって、角加速度制限値は図9(B)の点線で示すように時刻t2以降もブーム上げ操作量の増減に応じて変動する。なお、図10に示すように、角加速度制限値はブーム上げ操作量が所定値b2以上であれば制限時の値AccLに設定される。
ブーム上げ操作量の増減は、操作者がブーム操作レバーを所望のレバー操作量で維持しようとしても完全には維持できないことに起因する。ショベルの車体の揺れの影響を受けるためである。特に、その影響はその所望のレバー操作量が中間領域にある場合に顕著となる。このように、ブーム上げ操作量は、ブーム操作レバーに対する操作者の意図しない微操作入力に応じて増減してしまう。なお、図9(A)における所定値b1と所定値b2との間のブーム上げ操作量の変動はこの無意識の微操作入力に起因する変動を分かり易く例示したものである。
その後、旋回操作レバーが時刻t3において傾倒されると、旋回操作量、角速度目標値はそれぞれ時刻t3で増大し始める。また、角速度指令値は、図9(C)の点線で示すように時刻t3で増大し始め、その後は角加速度制限値による制限を受けて一制御周期当たりの増分を変動させながら角速度目標値まで増大する。
その結果、旋回角速度は、図9(D)の点線で示すように、角速度指令値の時間的推移に沿うように時刻t3で増大し始め、その後は一制御周期当たりの増分を変動させながら角速度目標値に対応する旋回角速度まで増大する。
このように、旋回加速操作及びブーム上げ操作を含む複合操作中に制限値連続可変処理を実行する場合、コントローラ30は、角加速度制限値をブーム上げ操作量に応じて連続的に変化させる。そのため、操作者はブーム上げ操作量に応じて旋回用電動機21の角加速度を連続的に変化させることができる。しかしながら、コントローラ30はブーム上げ操作量の僅かな変動に敏感に反応して旋回角加速度を増減させるため、旋回用電動機21の旋回動作を不安定にしてしまうおそれがある。また、旋回角加速度の増減が大きくなると、操作者は不安を感じ、旋回操作量及び角速度目標値を低減させ、角速度指令値の増大を制限してしまうおそれがある。その結果、操作者は、旋回角速度の増大を制限して作業効率を低下させてしまうおそれがある。
そこで、コントローラ30は、制限値連続可変処理の代わりに制限値切替処理を実行して旋回加速操作及びブーム上げ操作を含む複合操作中の旋回用電動機21の旋回動作を安定化させる。
ここでは、図9及び図11を参照し、図8のコントローラ30が制限値切替処理を実行する場合の各種物理量の時間的推移について説明する。なお、図11は図8のコントローラ30が実行する制限値切替処理で使用される、ブーム上げ操作量と判定時間の対応関係の一例を示す。
操作者が時刻t1においてブーム操作レバーを上げ方向に傾倒すると、図9(A)の実線で示すようにブーム上げ操作量は増大するが、図9(B)の実線で示すように角加速度制限値は通常時の値AccHのまま推移する。コントローラ30は、旋回加速操作が開始されるまでは角加速度制限値を通常時の値AccHのまま維持するためである。
その後、旋回操作レバーが時刻t3において傾倒されると、旋回操作量、角速度目標値はそれぞれ時刻t3で増大し始める。また、旋回操作量が所定値を上回るとコントローラ30は旋回加速操作が開始されたと判定する。
旋回加速操作が開始されたと判定した場合、コントローラ30は、ブーム上げ操作が行われていると既に判定していたときには、角加速度制限値を通常時の値AccHから制限時の値AccLに切り替える。具体的には、コントローラ30は、時刻t21において、ブーム上げ操作量が判定操作量b1以上の状態で判定時間THに亘って継続されたと判定し、ブーム上げ操作が行われていると判定する。そして、コントローラ30は、図9(B)に示すように、時刻t3において旋回加速操作が開始されたと判定した場合に角加速度制限値を通常時の値AccHから制限時の値AccLに切り替える。なお、判定時間は図11に示すようにブーム上げ操作量に応じて異なるものであってもよい。例えば、コントローラ30は、ブーム上げ操作量が判定操作量b2(>b1)以上の状態が判定時間TL(<TH)に亘って継続されたと判定した場合にブーム上げ操作が行われていると判定してもよい。
そして、角加速度制限値が制限時の値AccLに切り替えられると、角速度指令値は図9(C)に示すように一制御周期当たりの増分を角加速度制限値AccLとしながら角速度目標値まで増大する。
このように、制限値切替処理を実行するコントローラ30は、旋回加速操作の開始時にブーム上げ操作が行われていると既に判定している場合に角加速度制限値を制限時の値AccLに切り替える。そのため、操作者は旋回単独操作モードと旋回複合操作モードとの間で旋回用電動機21の角加速度を切り替えることができる。また、コントローラ30は複合操作時におけるブーム上げ操作量の僅かな変動に敏感に反応して旋回角加速度を増減させることはない。角加速度制限値は、制限時の値AccLに切り替えられた後、旋回加速操作が終了するまでは制限時の値AccLのまま維持されるためである。具体的には、角加速度制限値は、解除フラグがオンされるまでは制限時の値AccLのまま維持されるためである。なお、解除フラグは、旋回操作レバーのレバー操作量がゼロとなった場合、実旋回角速度がゼロとなった場合等にオンされ、角加速度制限値が通常時の値AccHから制限時の値AccLに切り替えられた場合にオフされる。その結果、コントローラ30は、旋回複合操作モードでの旋回用電動機21の旋回動作を安定させることができる。車体の揺れ等に起因するブーム上げ操作量の意図しない変動が発生したとしても図9(D)に示すように旋回角速度を一定の割合で増大させることができるためである。また、操作者は制限値連続可変処理が実行される場合のように旋回操作量を低減させてしまうこともない。旋回角速度が旋回加速操作に応じて滑らかに増大するため操作者は旋回角速度の意図しない変動による不安を感じることもないためである。その結果、操作者は作業効率を低下させてしまうこともない。
以上の構成により、本発明の実施例に係るショベルは、旋回加速動作の開始時にブーム上げ操作が行われていると判定できた場合に制限値切替処理を実行する。そのため、上部旋回体の角速度はその切り替え後の角加速度の制限値にしたがって安定的に加速する。ショベルの動作中に車体に生じる振動による或いはブーム操作レバー保持中における操作者の意識外の意図しない体の動きによるブーム操作レバーに対する微操作入力に応じては角加速度の制限値が変化しないためである。その結果、安定した旋回加速動作を実現できる。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述の実施例では、「旋回加速操作の開始時」は、旋回操作量が所定値以上となった瞬間を指すが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、「旋回加速操作の開始時」は、旋回操作量が所定値以上となってから所定時間が経過するまでの一定の幅を有する期間であってもよい。この場合、角加速度制限値の切り替えは、その期間の開始時に行われてもよく、その期間の途中に行われてもよく、その期間の満了時に行われてもよい。