JP6493047B2 - 銅合金材およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、銅合金材およびその製造方法に関する。
機器用ケーブルの導体や鉄道車両に給電するためのトロリ線を構成する材料としては、銅材料が用いられている。この銅材料には、高い導電率だけでなく、屈曲特性や耐摩耗性の観点から高い機械的強度が求められている。
そこで、トロリ線などの銅材料としては、例えば、銅(Cu)にマグネシウム(Mg)を添加して合金化させた銅合金材が用いられている。Mgを含む銅合金材は、Cu母相中にMgが固溶して構成されることにより固溶強化されており、導電性とともに機械的強度に優れている。
Mgを含む銅合金材は、例えば、銅母材を溶融させて銅溶湯とした後、銅溶湯にMgを添加、溶融させ、Mgを含む銅合金溶湯を鋳造することによって製造される。一般に、銅合金材は、SCR(Southwire Continuous Rod System)方式などにより鋳造から圧延まで一貫して連続的に行われることで、長尺の線材として製造される。
上記銅合金材の製造においては、Mgが酸化しやすい金属元素であることから、以下のような問題がある。すなわち、酸化しやすいMgは、銅溶湯に添加されたときに、銅溶湯中に混入している酸素により酸化されてMg酸化物(例えばMgO)を形成する。Mg酸化物は、溶銅温度よりも融点が高いので銅溶湯に溶融せずに固体のまま残存することになる。つまり、添加したMgの一部が銅溶湯に溶融せず、酸化物として残存することになる。その結果、鋳造により得られる銅合金材においては、Cu母相中に固溶するMgの固溶量が、製造の際に添加したMgの添加量よりも少なくなり、Mgによる固溶強化を十分に得られなくなる。このように、Mgは、一部が酸化して銅溶湯に溶融しないため、添加歩留が低く、所望の固溶強化を得られにくい。
そこで、例えば特許文献1では、銅溶湯に添加するMgの酸化を抑制する方法として、銅溶湯にMgを添加する前に銅溶湯を脱酸する方法が提案されている。具体的には、脱酸により銅溶湯に含まれる酸素の含有量を10ppm以下に低減した上でMgを添加している。これにより、銅溶湯中でのMgの酸化を抑制しつつ、銅溶湯に溶融させることができる。
特許第5515313号
しかしながら、特許文献1の方法では、Mgの酸化を抑制してMgの添加歩留を改善することにより、機械的強度および導電率に優れる銅合金材を製造できるものの、この銅合金材は熱間圧延などの圧延加工を施したときに割れやすいという問題がある。
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであり、機械的強度および導電率に優れ、かつ圧延加工により割れにくい銅合金材、およびMgの酸化を抑制して添加歩留よく銅合金材を製造する銅合金材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様によれば、
30mass ppm以下の酸素を含む銅原料を溶融して銅溶湯を形成する溶融工程と、
前記銅溶湯に4mass ppm以上55mass ppm以下のTiを添加するTi添加工程と、
前記Ti添加工程の後に100mass ppm以上7000mass ppm以下のMgを添加するMg添加工程と、を有する、銅合金材の製造方法が提供される。
本発明の他の態様によれば、
Oが30mass ppm以下、Tiが4mass ppm以上55mass ppm以下、Mgが100mass ppm以上7000mass ppm以下、残部がCuおよび不可避不純物からなり、Cu母相中にTi酸化物が分散するとともにMgが固溶するように構成される、銅合金材が提供される。
本発明によれば、機械的強度および導電率に優れ、かつ圧延加工により割れにくい銅合金材が得られる。
本発明の一実施形態に係る銅合金材の製造方法を示す工程図である。 本発明の一実施形態に係る銅合金材の製造方法で用いられる連続鋳造圧延装置の概略構成図である。
上記課題について本発明者らが検討を行ったところ、以下の理由から銅合金材が圧延加工の際に割れやすくなることが見出された。すなわち、銅溶湯を脱酸する方法では、銅溶湯に存在する酸素の含有量を10mass ppm以下に低減してMgの酸化を抑制できるが、酸素を完全には除去できないため、添加したMgの一部が酸化してMg酸化物を形成する。Mg酸化物は、融点が高く銅溶湯に溶融しないだけでなく、Cuよりも密度が小さいため銅溶湯の表面に浮遊して凝集することで酸化物凝集体(スラグ)を形成してしまう。このスラグは鋳造される銅合金材中に析出して異物として混入することになる。Mgのスラグは高融点で変形しにくいため、スラグが存在する銅合金材では、熱間圧延を施したときに、スラグを起点として割れが生じてしまう。
このように銅溶湯中に酸素が少量でも存在すると、Mgを添加したときに酸化されてしまうことから、本発明者らは、脱酸に代わる方法であって、銅溶湯に存在する酸素によるMgの酸化を抑制する方法について検討を行った。そして、まず、銅溶湯にMg以外の金属元素を添加した後にMgを添加する方法に着目した。この方法によれば、銅溶湯中に存在する酸素をMg以外の金属元素と反応させて酸化物として析出させ、銅溶湯中に存在する酸素の含有量を低減することができる。そして、酸素の含有量が少なくなった銅溶湯にMgを添加することにより、Mgを酸化させることなく、溶融させることができる。
また、銅溶湯に添加する金属元素としては、Mgと同様に密度が小さいものであると、スラグを形成しやすいことから、Mgよりも密度が大きく、銅溶湯の表面に浮遊しにくいチタン(Ti)がよいことが分かった。Tiは、Mgと同様に酸素と反応しやすいので銅溶湯中の酸素の含有量を大きく低減できる一方、Ti酸化物は、密度が比較的大きく、銅溶湯に浮遊せずに微細に分散することができるので、銅合金材の品質を損なうようなスラグを形成することがない。
したがって、本発明によれば、銅溶湯にTiを添加することで銅溶湯に溶存する酸素をTiとの酸化物として析出させ、その後、Mgを添加することで、Mgを添加歩留を低下させることなく銅溶湯に溶融させるとともに、Mgのスラグの形成を抑制することができる。本発明は、上記知見に基づいて成されたものである。
なお、本明細書において、銅溶湯に存在する酸素とは、銅溶湯に不純物として溶存しており、銅溶湯に添加されるMgと反応し得る酸素を示す。
〔本発明の一実施形態〕
以下、本発明の一実施形態に係る銅合金材の製造方法について図を用いて説明をする。図1は、本発明の一実施形態に係る銅合金材の製造方法を示す工程図である。図2は、本発明の一実施形態に係る銅合金材の製造方法で用いられる連続鋳造圧延装置の概略構成図である。
<連続鋳造圧延装置>
まず、銅合金材の製造方法の説明に先立ち、その製造方法で用いる連続鋳造圧延装置について説明する。図2に示すように、連続鋳造圧延装置100は、溶解炉10と、保持炉20と、Ti添加手段30と、タンディッシュ40と、Mg添加手段50と、ベルトホイール式連続鋳造機60と、連続圧延装置70と、コイラー80とを備えている。
溶解炉10は、銅母材を加熱して溶融させ、銅溶湯を生成するためのものである。溶解炉10は、炉本体(図示略)と炉本体の下部に設けられるバーナー(図示略)とを備えており、炉本体に投入される銅母材(例えば電気銅など)をバーナーで加熱して溶融させ、銅溶湯を連続的に生成する。
上樋11は、溶解炉10と保持炉20との間を連結して、溶解炉10で生成された銅溶湯を下流側の保持炉20に移送するためのものである。
保持炉20は、上樋11から送られる銅溶湯を所定の温度で貯留し、一定量の銅溶湯を下樋21に送るためのものである。保持炉20にはTi添加手段30が連結されており、保持炉20は、Tiが連続的に添加されることで保持炉20内の銅溶湯のTi含有量が所定の値となるように構成されている。
下樋21は、保持炉20とタンディッシュ40との間を連結して、保持炉20からの銅溶湯を下流側のタンディッシュ40に移送するためのものである。
タンディッシュ40は、ベルトホイール式連続鋳造機60に銅溶湯を連続的に供給するために設けられる貯留槽である。タンディッシュ40にはMg添加手段50が連結されており、タンディッシュ40は、Mgが連続的に添加されることでタンディッシュ40内の銅溶湯のMg含有量が所定の値となるように構成されている。このタンディッシュ40の銅溶湯の流れ方向終端側には、注湯ノズル41が設けられており、タンディッシュ40内の銅溶湯が注湯ノズル41を介してベルトホイール式連続鋳造機60へと供給されるようになっている。
ベルトホイール式連続鋳造機60は、外周面に溝(図示略)が形成されたホイール61と、ホイール61の外周面の一部に接触するように周回移動されるベルト62とを備えている。ベルトホイール式連続鋳造機60においては、ホイール61の溝とベルト62との間に形成された空間に注湯ノズル41を介して銅溶湯が注入される。ホイール61およびベルト62は例えば冷水により冷却されており、これにより銅溶湯が冷却・固化されて、棒状の鋳造材1が連続的に鋳造される。
連続圧延装置70は、ベルトホイール式連続鋳造機60の下流側に設けられており、ベルトホイール式連続鋳造機60から送られる棒状の鋳造材1を連続的に圧延し、所定の外径の銅合金線2に成形加工する。銅合金線2は、連続圧延装置70の下流に設けられるコイラー80に巻き取られる。
<銅合金材の製造方法>
続いて、上述した連続鋳造圧延装置100を用いて銅合金材を製造する銅合金材の製造方法について説明をする。本明細書において、銅合金材とは、例えば銅合金線などを構成する銅材料を示し、銅合金線は、例えば、荒引線(いわゆるワイヤロッド)や、荒引線に伸線加工や圧延加工を施した後に焼鈍させて得られ、電線に用いられる導体などを示す。以下では、銅合金材からなる銅合金線として、荒引線を製造する場合を例として説明をする。
(溶融工程S1)
まず、図1に示す溶融工程S1として、銅原料としての電気銅を溶解炉10に投入して加熱溶融することにより、銅溶湯を形成する。
銅原料としては、30mass ppm以下の酸素を含む銅を用いることができる。銅原料における酸素の含有量が30mass ppmを超えると、銅溶湯に含まれる酸素が過度に多くなるため、後述するTi添加工程S2やMg添加工程S4において多量の酸化物が形成されることとなり、最終的に得られる銅合金線2の品質が大きく損なわれる。一方、銅原料に含まれる酸素の含有量の下限値は、特に限定されないが、一般的な電気銅であれば、10mass ppmとなる。なお、電気銅などの銅原料には、その製造の際に硫黄などの不可避不純物が混入しており、硫黄が例えば3mass ppm〜12mass ppmの範囲で混入している。
(Ti添加工程S2)
続いて、溶解炉10で生成された銅溶湯を上樋11を介して保持炉20に移送して貯留する。この保持炉20内に貯留する銅溶湯に対してTi添加手段30によりTiを連続的に添加する。これにより、Tiと銅溶湯に存在する酸素とを反応させてTi酸化物を形成する。Ti酸化物は、融点が1870℃であって銅溶湯の温度(銅の溶融温度、例えば1100℃程度)よりも高くなるため、銅溶湯中に固形状態で析出することになる。すなわち、Ti添加工程S2では、銅溶湯に存在する酸素をTiと反応させてTi酸化物として析出させることで、銅溶湯に存在する酸素の含有量を低減している。
また、Ti酸化物は、Mg酸化物と比較して密度が大きいので、Mg酸化物ほど銅溶湯に急激に浮上して凝集することなく、銅溶湯中に分散させやすい。具体的には、Tiの密度は4.11g/cmであって、Cuの密度(8.94g/cm)よりも小さいものの、Mgの密度(1.74g/cm)ほど小さくないので、Ti酸化物は銅溶湯中に分散させやすい。そのため、Ti酸化物によれば、Mg酸化物のような凝集によるスラグの形成を抑制することができる。
このように、Ti添加工程S2では、銅溶湯にTiを添加することにより、銅溶湯に存在する酸素の量を低減するとともに、Ti酸化物を銅溶湯中に分散させて、銅合金線2の品質を大きく損ねるようなスラグの形成を抑制することができる。その結果、Ti添加工程S2では、酸素の含有量が少なく、かつTi酸化物が微細に分散している銅溶湯が得られる。
Ti添加工程S2では、銅溶湯におけるTiの含有量が4mass ppm以上55mass ppm以下となるように、Tiを添加する。Tiの含有量が4mass ppm未満となると、銅溶湯に含まれる酸素の量を低減することが困難となり、Mgを添加するときにMgの酸化を十分に抑制できなくなる。一方、Tiの含有量が55mass ppmを超えると、Tiの固溶限を超えるおそれがあり、最終的に得られる銅合金線2においてTiが析出するおそれがある。
Ti添加工程S2においては、Tiの含有量は上記範囲であればよいが、銅溶湯中の酸素を低減する観点からは、銅溶湯におけるTiの含有量が銅溶湯における酸素の含有量以上となるように、Tiを添加することが好ましい。具体的には、Tiと酸素との比率が1:1〜8:1の範囲となるようにTiを添加することがより好ましい。これにより、銅溶湯に含まれる酸素の量を低減することができ、銅溶湯にMgを添加するときのMgの酸化をさらに抑制することができる。
Tiを添加する方法としては、特に限定されないが、TiからなるTiワイヤを銅溶湯中に投入するワイヤインジェクションがよい。Ti自体の融点は1668℃と銅溶湯の温度よりも高いが、Tiワイヤは銅溶湯と接触したときに合金化し、その融点が銅溶湯の温度よりも低くなることから、Tiワイヤを銅溶湯へ徐々に溶融させることができる。そして、Tiワイヤの径を適宜変更することで銅溶湯への溶融速度を調整し、銅溶湯の表面だけでなく、内部にもTiを供給することができる。
なお、銅溶湯には、酸素以外に硫黄などの不可避不純物も含まれるが、これらの成分はTi酸化物と反応して化合物を形成していると考えられる。
(酸化物除去工程S3)
続いて、Tiが添加された銅溶湯から上述のTi添加工程S2で生成したTi酸化物を除去する。Ti酸化物は銅溶湯中に分散しているものの、一部は銅溶湯の表面に浮遊している。浮遊するTi酸化物の量は少ないので、銅合金線2の品質を大きく損ねるようなスラグは形成されないが、浮遊するTi酸化物を除去することによって、銅合金線2に含まれる不純物量を低減し、その品質をさらに向上させることができる。
酸化物除去工程S3においては、Ti酸化物を好適に除去する観点から、銅溶湯に不活性ガスをバブリングすることが好ましい。不活性ガスをバブリングすることにより、銅溶湯中に分散するTi酸化物を表面に浮上させ、より多くのTi酸化物を除去することが可能となる。不活性ガスとしては、銅溶湯に取り込まれないようなものであれば、特に限定されず、例えばArガスなどを用いることができる。
(Mg添加工程S4)
続いて、Ti酸化物を除去した銅溶湯を保持炉20から下樋21を介してタンディッシュ40へ移送する。タンディッシュ40内の銅溶湯に対してMg添加手段50によりMgを連続的に添加する。上述したように、タンディッシュ40内の銅溶湯は、予めTiが添加されることで酸素の含有量が少なくなっている。そのため、銅溶湯にMgを添加するときに、Mgの酸化を抑制しつつ、銅溶湯に溶融させることができる。これにより、Mg酸化物やその凝集体の生成を抑制し、スラグの混入が少ない銅合金材を得ることができる。しかも、Mgの酸化を抑制することにより、Mgの添加歩留を大きく低下させることなく、例えば添加歩留を70%以上として、Mgを銅溶湯に溶融させることができる。なお、添加歩留とは、銅溶湯に添加したMgの添加量に対する、銅溶湯を鋳造して得られる銅合金材に固溶するMgの固溶量の比率を示す。
Mg添加工程S4においては、銅溶湯におけるMgの含有量が100mass ppm以上7000mass ppm以下となるように、Mgを添加する。Mgの含有量が100mass ppm未満となると、銅合金線2においてCu母相中に固溶するMgが少なくなり、Mgによる固溶強化の効果を十分に得られなくなる。一方、Mgの含有量が7000mass ppmを超えると、Mgの固溶限を超えるおそれがあり、銅合金線2においてMgが析出するおそれがある。
Mg添加工程S4で得られる銅溶湯は、所定の組成となっており、Oが30mass ppm以下、Tiが4mass ppm以上55mass ppm以下、Mgが100mass ppm以上7000mass ppm以下、残部がCuおよび不可避不純物からなっている。
Mgの添加方法としては、特に限定されないが、Tiと同様にワイヤインジェクションがよい。Mgは融点が低く溶融しやすいので、Mgからなるワイヤを高速で銅溶湯の底に落とし込むように投入するとよい。また、Mgは密度が小さく、銅溶湯の表面に浮遊しやすいので、MgワイヤをCuで被覆して複合ワイヤとして投入してもよい。複合ワイヤとして投入することで、Mgワイヤよりも密度を大きくできるとともに、銅溶湯に溶融しにくくできるので、銅溶湯の底まで押し込むことができる。これにより、Mgを銅溶湯の表面だけでなく、全体的に拡散させることができ、銅溶湯においてMg含有量を均一にすることができる。
(連続鋳造工程S5)
TiおよびMgが添加されて所定の組成となった銅合金溶湯を、タンディッシュ40に設けられた注湯ノズル41を介してベルトホイール式連続鋳造機60に供給する。ベルトホイール式連続鋳造機60では、ホイール61に設けられた溝とベルト62との間に、例えば断面が略矩形状の空間が形成されており、この空間に銅溶湯が流し込まれて冷却されることで、断面が略矩形状である棒状の鋳造材1が連続的に形成されることになる。この鋳造材1は、所定の組成の銅合金から構成されており、Cu母相中にMgが固溶するとともに、Ti酸化物が凝集することなく、Cu母相中に微細に分散して析出した状態となっている。
(連続圧延工程S6)
棒状の鋳造材1を連続圧延装置70に導入する。連続圧延装置70において、鋳造材1に圧延加工を施すことにより線状の銅合金線2を製造しつつ、得られた銅合金線2をコイラーで巻き取る。
連続圧延工程S6では、鋳造材1に熱間圧延を施すことが好ましく、鋳造材1の温度を400℃以上とし、減面率を80%以上99%以下で熱間圧延することがより好ましい。本実施形態では、鋳造材1を構成する銅合金は、Cu母相中にTi酸化物が存在するものの、微細に分散しており、品質を大きく損ねるようなスラグが実質的に存在しないため、上記条件で熱間圧延を施して銅合金線2を製造する場合であっても銅合金線2に割れが生じにくい。減面率とは、鋳造材1を銅合金線2に伸線したときの断面積の減少割合を示す。なお、圧延を複数回にわたって行う場合、複数回の圧延による減面率の合計が上記範囲内となるように各圧延での減面率を調整するとよい。
<銅合金材の構成>
上述した製造方法により得られる銅合金線2は、所定の銅合金材からなり、銅合金材は、Oが30mass ppm以下、Tiが4mass ppm以上55mass ppm以下、Mgが100mass ppm以上7000mass ppm以下、残部がCuおよび不可避不純物からなる。そして、銅溶湯にTiを添加した後にMgを添加して製造されることで、Tiを銅溶湯に添加したときに銅溶湯に存在する酸素とTiとの反応で形成されるTi酸化物がCu母相中に分散するとともに、MgがCu母相中に固溶するように構成されている。
Ti酸化物は、Mg酸化物のように銅溶湯に浮上して凝集体を形成しないので、微細な粒子となる。その粒子径は、好ましくは1μm以下となる。
本実施形態の銅合金材からなる銅合金線2は、所定量のMgがCu母相中に固溶して構成されているので、機械的強度および導電率に優れている。具体的には、銅合金線2の機械的強度は、上述の連続圧延工程S6の熱間圧延直後のいわゆる荒引き線の状態では240MPa以上280MPa以下となる。また、その後の冷間伸線を行った状態では440MPa以上500MPa以下となる。銅合金線2の導電率は72〜83%IACSとなる。
また、銅合金線2は、Cu母相中にTi酸化物が存在するものの、凝集することなく、微細に分散して構成されているため、圧延加工を施したときに割れにくい。そのため、例えば加熱温度を400℃以上、減面率を80%以上99%以下として熱間圧延したとしても割れにくい。
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
本実施形態では、銅溶湯にMgを添加する前にTiを添加して銅合金材を製造している。Tiを添加することで、銅原料を溶融させた銅溶湯に存在する酸素をTiとの反応によりTi酸化物として析出させ、銅溶湯に存在する酸素の含有量を低減している。そして、酸素の含有量が少なくなった銅溶湯にMgを添加することで、Mgの酸化を抑制しつつ、銅溶湯にMgを溶融させている。一方、Ti酸化物は、比較的密度が大きいので、Mg酸化物のように凝集してスラグを形成することなく、銅溶湯中に微細に分散させることができる。このように、Mgが溶融するとともにTi酸化物が微細に分散している銅合金溶湯を鋳造することによって、所定の組成を有し、Cu母相中にTi酸化物が分散するとともにMgが固溶するように構成される銅合金材が得られる。
本実施形態では、銅溶湯にTiを添加することにより銅溶湯に存在する酸素の含有量を低減できるので、銅原料として、酸素の含有量が30mass ppm以下の銅を用いた場合であっても、Mgを酸化させることなく、銅溶湯に溶融させることができる。
本実施形態では、予めTiを添加することによりMgの酸化を抑制できるので、その添加歩留を70%以上としてMgを溶融させることができる。
本実施形態では、Tiの添加により、銅溶湯に存在する酸素の含有量を低減できるので、脱酸するための大掛かりな設備を必要としない。
本実施形態では、銅溶湯に含まれる酸素の含有量以上のTiを銅溶湯に添加する。これにより、銅溶湯に酸素よりも多くのTiを存在させることができるので、例えば製造工程で混入する酸素をTi酸化物として析出させることができる。そのため、保持炉20やタンディッシュ40などをシールする必要がない。
本実施形態では、Tiと銅溶湯に含まれる酸素との比率が1:1〜1:8となるように、Tiを添加する。これにより、銅溶湯に存在する酸素をTi酸化物として析出させやすくなり、酸素の含有量をより低減することができる。
本実施形態では、Tiを添加する工程と、Mgを添加する工程との間に、Tiの添加により形成されたTi酸化物を除去する工程を設ける。これにより、銅溶湯に析出するTi酸化物を低減し、銅合金材の品質をさらに向上させることができる。
本実施形態では、Ti酸化物を除去する際に、銅溶湯に不活性ガスをバブリングする。これにより、銅溶湯中に分散するTi酸化物を銅溶湯の表面に浮遊させ、除去しやすくできる。
本実施形態の銅合金材は、所定量のMgがCu母相中に固溶して構成されているので、機械的強度および導電率に優れている。具体的には、銅合金材の機械的強度は、上述の連続圧延工程S6の熱間圧延直後のいわゆる荒引線の状態では240MPa以上280MPa以下となり、その後の冷間伸線を行った状態では440MPa以上500MPa以下となる。銅合金材の導電率は72〜83%IACSとなる。
本実施形態の銅合金材は、Cu母相中にTi酸化物が存在するものの、凝集することなく、微細に分散して構成されているため、圧延加工を施したときに割れにくい。そのため、例えば、銅合金材からなる荒引線を導体に加工する際に400℃以上の温度で、減面率を80%以上99%以下として熱間圧延を行った場合であっても、割れを抑制することができる。
〔本発明の他の実施形態〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
上述の実施形態では、連続鋳造圧延により銅合金線2を連続して製造する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、Mg添加工程S4の後に銅合金材を鋳塊として形成し、その鋳塊を押出・冷間加工することで銅合金線2を製造してもよい。
また、上述の実施形態では、ベルトホイール式連続鋳造機60を備える連続鋳造圧延装置100を用いて銅合金線2を製造する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、連続鋳造機として、ベルトとベルトにより構成された双ベルト式連続鋳造機を用いてもよい。
また、上述の実施形態では、Ti添加手段30により保持炉20にTiを添加し、Mg添加手段50によりタンディッシュ40にMgを添加する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、Ti添加手段30をMg添加手段50よりも上流側に設けるように構成すれば特に限定されず、溶解炉10、上樋11、保持炉20、下樋21およびタンディッシュ40にTi添加手段30およびMg添加手段50を設けてもよい。また、Mg添加手段50については、Mgが低融点で溶融しやすいことから、ベルトホイール式連続鋳造機60の注湯部、つまりホイール61の溝とベルト62との間に形成される空間にMgを直接注湯するように設けられてもよい。
次に、本発明の実施例を説明する。
<実施例1>
図2に示す連続鋳造圧延装置を用いて銅合金材を製造した。
まず、銅原料としての電気銅を溶解炉10に投入し、加熱溶融することにより銅溶湯を形成した。このとき、ガスバーナーの空燃費を調整して還元性にすることにより、銅溶湯における酸素濃度を20mass ppmまで低下させた。続いて、銅溶湯を溶解炉10から上桶11を通って保持炉20に移送して貯留した。保持炉20にて、Ti添加手段30により銅溶湯にTiを30mass ppmとなるように連続的に添加した。Tiの添加により、銅溶湯中で直ちにTi酸化物が形成されることが確認された。Ti酸化物は、粒子径が1μm以下の微細な粒子であり、銅溶湯中で凝集することなく、銅溶湯中に舞うように浮遊していることが観察された。続いて、Tiを添加した銅溶湯から浮遊するTi酸化物を適宜すくい取り、その銅溶湯を保持炉20から下桶21を通ってタンディッシュ40へ移送した。タンディッシュ40にて、Mg添加手段50によりMgを濃度100mass ppm〜7000mass ppmの範囲で添加して溶融させた。このとき、Mg酸化物の生成による大きなスラグの形成は確認されなかった。そして、Mgを含む銅溶湯を注湯ノズル41を介してベルトホイール式連続鋳造機60に供給して鋳造することにより鋳造材1を作製した。最後に、鋳造材1を連続圧延装置70に導入して圧延加工を施すことにより、線状の銅合金材を得た。
得られた銅合金材についてMgの添加歩留を測定したところ、70%以上であり、添加したMgの70%以上を銅合金材に固溶できることが確認された。
得られた銅合金材について機械的強度(耐力)および導電率を測定したところ、温度400℃で減面率を80%以上99%以下として熱間圧延を行った直後の直径30mmの荒引き線の状態では、機械的強度が260MPa、導電率が80%IACSであることが確認された。一方、さらに冷間伸線を行い、直径約18mmのトロリ線を作製するのと同様の歪みを与えた状態では、機械的強度が450MPa、導電率が80%IACSであることが確認された。また、銅合金材は、スラグの混入が少ないため、所定条件で熱間圧延を施しても割れが生じなかった。
<比較例1>
比較例1では、Tiを添加せずにMgを添加した以外は、実施例1と同様に銅合金材を製造した。
銅溶湯にMgを添加したところ、Mgの酸化によりMg酸化物が生成し、その酸化物が銅溶湯の表面に浮遊して凝集することで大きさ0.5mm〜3mmのスラグが形成されることが観察された。Mgの添加歩留を測定したところ、10%〜20%と低く、Mgの多くが酸化してしまい、Mgを銅溶湯に溶融させてCu母相中に十分に固溶できないことが確認された。また、比較例1の銅合金材を実施例1と同様の条件で熱間圧延を行ったところ、銅合金材に多量のスラグが混入していたためか、スラグを起点に割れが生じてしまった。
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
[付記1]
本発明の一態様によれば、
30mass ppm以下の酸素を含む銅原料を溶融して銅溶湯を形成する溶融工程と、
前記銅溶湯に4mass ppm以上55mass ppm以下のTiを添加するTi添加工程と、
前記Ti添加工程の後に100mass ppm以上7000mass ppm以下のMgを添加するMg添加工程と、を有する、銅合金材の製造方法が提供される。
[付記2]
付記1の銅合金材の製造方法であって、好ましくは、
前記Ti添加工程では、前記銅溶湯に含まれる酸素の含有量以上のTiを添加する。
[付記3]
付記1又は2の銅合金材の製造方法であって、好ましくは、
前記Ti添加工程では、Tiと前記銅溶湯に含まれる酸素の含有量との比率が1:1〜1:8となるように、Tiを添加する。
[付記4]
付記1〜3の銅合金材の製造方法であって、好ましくは、
Mgが添加された前記銅溶湯を連続的に鋳造し、鋳造材を得る連続鋳造工程と、
前記鋳造材を連続的に熱間圧延する連続圧延工程と、を有し、
前記連続圧延工程では、前記鋳造材の温度を400℃以上とし、減面率を80%以上99%以下で熱間圧延する。
[付記5]
付記1〜4の銅合金材の製造方法であって、好ましくは、
前記Mg添加工程の前に、前記Ti添加工程において形成されたTiの酸化物を取り除く酸化物除去工程を有する。
[付記6]
付記1〜5の銅合金材の製造方法であって、好ましくは、
前記酸化物除去工程では、前記銅溶湯中に不活性ガスをバブリングする。
[付記7]
本発明の他の態様によれば、
Oが30mass ppm以下、Tiが4mass ppm以上55mass ppm以下、Mgが100mass ppm以上7000mass ppm以下、残部がCuおよび不可避不純物からなり、Cu母相中にTi酸化物が分散するとともにMgが固溶するように構成される、銅合金材が提供される。
1 鋳造材
2 銅合金線
10 溶解炉
20 保持炉
30 Ti添加手段
40 タンディッシュ
50 Mg添加手段
60 ベルトホイール式連続鋳造機
70 連続圧延装置
80 コイラー
100 連続鋳造圧延装置

Claims (7)

  1. 30mass ppm以下の酸素を含む銅原料を溶融して銅溶湯を形成する溶融工程と、
    前記銅溶湯に4mass ppm以上55mass ppm以下のTiを添加するTi添加工程と、
    前記Ti添加工程の後に100mass ppm以上7000mass ppm以下のMgを添加するMg添加工程と、を有する、銅合金材の製造方法。
  2. 前記Ti添加工程では、前記銅溶湯に含まれる酸素の含有量以上のTiを添加する、請求項1に記載の銅合金材の製造方法。
  3. 前記Ti添加工程では、Tiと前記銅溶湯に含まれる酸素の含有量との比率が1:1〜1:8となるように、Tiを添加する、請求項1又は2に記載の銅合金材の製造方法。
  4. Mgが添加された前記銅溶湯を連続的に鋳造し、鋳造材を得る連続鋳造工程と、
    前記鋳造材を連続的に熱間圧延する連続圧延工程と、を有し、
    前記連続圧延工程では、前記鋳造材の温度を400℃以上とし、減面率を80%以上99%以下で熱間圧延する、請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金材の製造方法。
  5. 前記Mg添加工程の前に、前記Ti添加工程において形成されたTiの酸化物を取り除く酸化物除去工程を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の銅合金材の製造方法。
  6. 前記酸化物除去工程では、前記銅溶湯中に不活性ガスをバブリングする、請求項5に記載の銅合金材の製造方法。
  7. Oが30mass ppm以下、Tiが4mass ppm以上55mass ppm以下、Mgが100mass ppm以上7000mass ppm以下、残部がCuおよび不可避不純物からなり、Cu母相中にTi酸化物が分散するとともにMgが固溶するように構成される、銅合金材。
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