JP6491881B2 - アシル−acpチオエステラーゼ - Google Patents

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Description

本発明は、新規アシル−ACPチオエステラーゼ及びそれをコードする遺伝子に関する。また、本発明は該アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を含有する形質転換体及びそれを用いた脂質の製造方法に関する。
脂肪酸は脂質の主要構成成分の1つであり、生体内においてグリセリンとエステル結合をしてトリアシルグリセロール等の脂質を構成し、多くの動植物においてエネルギー源として貯蔵され利用される物質である。動植物内に蓄えられた脂肪酸や脂質(油脂)は、食用又は工業用として広く利用されている。
例えば、炭素数12〜18前後の高級脂肪酸を還元して得られる高級アルコールの誘導体は、界面活性剤として用いられている。アルキル硫酸エステル塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩等は陰イオン性界面活性剤として、また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルやアルキルポリグリコシド等は非イオン性界面活性剤として、いずれも洗浄剤又は殺菌剤として利用されている。同じく高級アルコールの誘導体としてアルキルアミン塩やモノ又はジアルキル4級アミン塩等のカチオン性界面活性剤は、繊維処理剤や毛髪リンス剤又は殺菌剤として、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩は殺菌剤や防腐剤として日常的に利用されている。また、植物油脂はバイオディーゼル燃料の原料としても利用されている。
このように脂肪酸や脂質の利用は多岐にわたり、そのため植物等において生体内での脂肪酸や脂質の生産性を向上させる試みがおこなわれている。さらに、脂肪酸の用途や有用性はその炭素数に依存するため、脂肪酸の炭素数、即ち鎖長を制御する試みも行われている。例えば、ゲッケイジュ(Umbellularia californica(California bay))由来のアシル−ACPチオエステラーゼの導入により炭素数12の脂肪酸を蓄積させる方法(特許文献1、非特許文献1)等が提案されている。
近年、バイオ燃料生産に有用であるとして、藻類が注目を集めている。藻類は、バイオディーゼル燃料として利用可能な脂質を光合成によって生産でき、しかも食料と競合しないことから、次世代のバイオマス資源として注目されている。また、藻類は、植物に比べ、高い脂質生産・蓄積能力を有するとの報告もある。
藻類の脂質合成メカニズムやそれを応用した生産技術について研究が始まってはいるが、未解明な部分も多い。例えば、上述のアシル−ACP型チオエステラーゼについても、現在のところ、藻類由来のものはほとんど報告されておらず、珪藻網等でわずかに報告例があるのみである(例えば、非特許文献2)。
特表平7−501924号公報
Voelker TA, Worrell AC, Anderson L, Bleibaum J, Fan C, Hawkins DJ, Radke SE, Davies HM., "Fatty acid biosynthesis redirected to medium chains in transgenic oilseed plants", Science. 1992 Jul 3;257(5066), p.72-74. Yangmin Gong, Xiaojing Guo, Xia Wan, Zhuo Liang, Mulan Jiang, "Characterization of a novel thioesterase (PtTE) from Phaeodactylum tricornutum", Journal of Basic Microbiology, 2011 December, Volume 51, p.666-672.
本発明は、藻類由来の新規アシル−ACPチオエステラーゼ及びこれをコードするアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を提供することを課題とする。また、本発明は、当該遺伝子を含有する形質転換体を提供することを課題とする。さらに、本発明は、当該形質転換体を用いた脂質の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者は、藻類由来の新たなアシル−ACPチオエステラーゼについて鋭意検討を行い、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類から、新規のアシル−ACPチオエステラーゼ及びこれをコードするアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明は、下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質(以下、「本発明のタンパク質」又は「本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ」ともいう)に関する。
(a)配列番号1の115位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)(a)のタンパク質のアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質
(c)(a)又は(b)のタンパク質のアミノ酸配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質
また、本発明は、前記本発明のタンパク質をコードする遺伝子(以下、「本発明の遺伝子」又は「本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子」ともいう)、好ましくは下記(d)〜(f)のいずれかのDNAからなる遺伝子に関する。
(d)配列番号2の343位〜825位までの塩基配列からなるDNA
(e)(d)のDNAの塩基配列と50%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)(d)又は(e)のDNAの塩基配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
また、本発明は、前記本発明の遺伝子を宿主に導入してなる形質転換体(以下、「本発明の形質転換体」ともいう)に関する。
また、本発明は、前記本発明の形質転換体を培地で培養する工程、及び得られた培養物から脂質を採取する工程、を含む脂質の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)に関する。
また、本発明は、宿主に前記本発明の遺伝子を導入する工程を含む、脂質中の脂肪酸組成を改変する方法に関する。
さらに、本発明は、宿主に前記本発明の遺伝子を導入する工程を含む、脂質の生産性を向上させる方法に関する。
本発明によれば、新規アシル−ACPチオエステラーゼ及びこれをコードするアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を提供することができる。また、本発明によれば、該アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を含有する形質転換体を提供することができる。さらに、本発明によれば、該形質転換体を用いた脂質の製造方法を提供することができる。本発明の形質転換体及び製造方法は、脂質生産性に優れ、脂質又は脂肪酸の工業的生産に好適に用いることができる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、下記の記載からより明らかになるであろう。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、脂質には、中性脂肪、ろう、セラミド等の単純脂質、リン脂質、糖脂質、スルホ脂質等の複合脂質、脂肪酸、アルコール類、炭化水素類等の誘導脂質が含まれる。
1.アシル−ACPチオエステラーゼ
本発明のタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列中の少なくとも115位〜274位までのアミノ酸配列を有するタンパク質、及び当該タンパク質と機能的に均等なタンパク質である。具体的に、本発明のタンパク質には、以下の(a)〜(c)のタンパク質が包含される。
(a)配列番号1の115位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)(a)のタンパク質のアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質
(c)(a)又は(b)のタンパク質のアミノ酸配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質
配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質は、ナンノクロロプシス属に属する藻類であるナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)由来の新規アシル−ACPチオエステラーゼである。
アシル−ACP(アシルキャリヤープロテイン)チオエステラーゼは、脂肪酸やその誘導体(トリアシルグリセロール(トリグリセリド)等)の生合成系に関与する酵素である。当該酵素は、植物体や藻類では葉緑体等の色素体内において、細菌・真菌や動物体では細胞質内において、脂肪酸生合成過程の中間体であるアシル−ACP(脂肪酸残基であるアシル基とアシルキャリヤープロテインとからなる複合体)のチオエステル結合を加水分解し、遊離の脂肪酸を生成する。チオエステラーゼの作用によって、ACP上での脂肪酸合成が終了し、切り出された脂肪酸はトリアシルグリセロール等の合成に供される。アシル−ACPチオエステラーゼには、基質であるアシル−ACPを構成するアシル基(脂肪酸残基)の炭素原子数や不飽和結合数によって異なる反応特異性を示す複数のアシル−ACPチオエステラーゼが存在していることが知られており、生体内での脂肪酸組成を決める重要なファクターであると考えられている。
本発明において、「アシル−ACPチオエステラーゼ活性を有する」とは、アシル−ACPのチオエステル結合を加水分解する活性を有することをいう。
配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列の1つとして、配列番号2の塩基配列が挙げられる。配列番号2の塩基配列からなる遺伝子は、ナンノクロロプシス・ガディタナ由来の遺伝子であり、ナンノクロロプシス・ガディタナのゲノム配列情報は2012年に公開されている(Randor Radakovits, et al., “Draft genome sequence and genetic transformation of the oleaginous alga Nannochloropsis gaditana”, Nature Communications, DOI:10.1038/ncomms1688, 2012、参照)。
本発明者らは、配列番号2の塩基配列からなる遺伝子がアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子であることを同定し、さらに、当該遺伝子がコードするアミノ酸配列において、アシル−ACPチオエステラーゼ活性に重要な領域を見出した。
後述の実施例で実証されているように、配列番号1の115位〜274位までのアミノ酸配列を少なくとも含んでなる組換えタンパク質は、アシル−ACPチオエステラーゼとして機能する。すなわち、配列番号1のアミノ酸配列において、115位〜274位までの領域がアシル−ACPチオエステラーゼ活性にとって十分な領域であると考えられる。
前記(b)において、アシル−ACPチオエステラーゼ活性の点から、アミノ酸配列の同一性は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがよりさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
本発明においてアミノ酸配列及び塩基配列の同一性はLipman-Pearson法(Science,227,1435,(1985))によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(ソフトウェア開発)のホモロジー解析(homology search)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
前記(b)のタンパク質として具体的には、下記(a1)又は(a2)のタンパク質が挙げられる。
(a1)配列番号14の128位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
(a2)配列番号16の126位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
配列番号14のアミノ酸配列からなるタンパク質は、ナンノクロロプシス オキュラータ(Nannochloropsis oculata)の新規アシル−ACPチオエステラーゼである。配列番号14の128位〜287位までのアミノ酸配列は、配列番号1の115位〜274位までのアミノ酸配列と約91%の同一性を有する。
また、配列番号16のアミノ酸配列からなるタンパク質は、ナンノクロロプシス グラニュラータ(Nannochloropsis granulata)由来の新規アシル−ACPチオエステラーゼである。配列番号16の126位〜285位までのアミノ酸配列は、配列番号1の115位〜274位までのアミノ酸配列と約90%の同一性を有する。
後述の実施例で実証されているように、配列番号14の128位〜287位までのアミノ酸配列、又は配列番号16の126位〜285位までのアミノ酸配列を少なくとも含んでなる組換えタンパク質は、アシル−ACPチオエステラーゼとして機能する。
前記(b)のタンパク質として、前記(a1)又は(a2)のタンパク質が好ましい。
また、前記(b)のタンパク質としては、前記(a)のタンパク質のアミノ酸配列に、1又は数個(好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下)の変異を導入したタンパク質も好ましい。
また、前記(b)のタンパク質として、前記(a1)のタンパク質のアミノ酸配列に、1又は数個(好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下)の変異を導入したタンパク質も好ましい。
さらに、前記(b)のタンパク質として、前記(a2)のタンパク質のアミノ酸配列に、1又は数個(好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下)の変異を導入したタンパク質も好ましい。
上記変異としては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加が挙げられる。
アミノ酸配列に変異を導入する方法としては、例えば、アミノ酸配列をコードする塩基配列に変異を導入する方法が挙げられる。塩基配列に変異を導入する方法については後述する。
前記(c)のタンパク質は、そのアミノ酸配列の一部として前記(a)又は(b)のタンパク質のアミノ酸配列を含む。(c)のタンパク質を構成するアミノ酸配列中、前記(a)又は(b)のアミノ酸配列以外の配列としては、例えば、配列番号1の115位〜274位以外の任意のアミノ酸配列、配列番号14の128位〜287位以外の任意のアミノ酸配列、配列番号16の126位〜285位以外の任意のアミノ酸配列、又はこれらの配列に1又は数個(好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下)の変異が導入されたアミノ酸配列、等が挙げられる。当該変異としては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加が挙げられる。
前記(c)のタンパク質としては、前記(a)のタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質、前記(a1)のタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質、前記(a2)のタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質、又はこれらの配列に1又は数個(好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下)の変異が導入されたアミノ酸配列を有するタンパク質が好ましい。
さらに、前記(c)のタンパク質としては、配列番号1の36位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号1の45位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号1の55位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号1の65位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号1の75位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号1の85位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号1の95位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号1の105位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質がより好ましい。また、これらの配列に1又は数個(好ましくは1以上20個以下、より好ましくは1以上15個以下、さらに好ましくは1以上10個以下、よりさらに好ましくは1以上5個以下、特に好ましくは1以上3個以下)の変異が導入されたアミノ酸配列からなるタンパク質も好ましい。これらのタンパク質は、アシル−ACPチオエステラーゼ活性を有することが後述の実施例により確認されている。
また、前記(c)のタンパク質として、配列番号14のアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号14の49位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号14の58位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号14の78位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号14の88位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号14の98位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号14の108位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号14の118位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、又はこれらの配列に1又は数個(好ましくは1以上20個以下、より好ましくは1以上15個以下、さらに好ましくは1以上10個以下、よりさらに好ましくは1以上5個以下、特に好ましくは1以上3個以下)の変異が導入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、がより好ましい。
また、前記(c)のタンパク質として、配列番号16のアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号16の35位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号16の55位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号16の85位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、又はこれらの配列に1又は数個(好ましくは1以上20個以下、より好ましくは1以上15個以下、さらに好ましくは1以上10個以下、よりさらに好ましくは1以上5個以下、特に好ましくは1以上3個以下)の変異が導入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、がより好ましい。
上記の変異としては、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加が挙げられる。
また、前記(c)のタンパク質として、前記(a)又は(b)のアミノ酸配列にタンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドが付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質も好ましい。シグナルペプチドの付加としては、葉緑体移行シグナルペプチドのN末端への付加等が挙げられる。
本発明のタンパク質がアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有することは、例えば、大腸菌等の宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を連結した融合遺伝子を脂肪酸分解系が欠損した宿主細胞へ導入し、導入したアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子が発現する条件で培養して、宿主細胞又は培養液中の脂肪酸組成の変化をガスクロマトグラフィー解析等の方法を用いて分析することにより、確認することができる。
また、大腸菌等の宿主細胞内で機能するプロモーターの下流にアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を連結した融合遺伝子を宿主細胞へ導入し、導入したアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子が発現する条件で細胞を培養した後、細胞の破砕液に対し、Yuanらの方法(Yuan L, Voelker TA, Hawkins DJ. “Modification of the substrate specificity of an acyl-acyl carrier protein thioesterase by protein engineering” Proc Natl Acad Sci U S A. 1995 Nov 7;92(23), p.10639-10643)によって調製した各種アシル−ACPを基質とした反応を行うことにより、アシル−ACPチオエステラーゼ活性を測定することができる。
本発明のタンパク質の取得方法については特に制限はなく、通常行われる化学的或いは遺伝子工学的手法等により得ることができる。例えば、ナンノクロロプシス・ガディタナから単離、精製等することで天然物由来のタンパク質を取得することができる。また、配列番号1に示すアミノ酸配列情報をもとに人工的に合成等することもでき、化学合成によりタンパク質合成を行ってもよく、遺伝子組み換え技術により組換えタンパク質を作製してもよい。組換えタンパク質を作製する場合には、後述する本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を用いることができる。
2.アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子
本発明の遺伝子は、前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子である。
前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の具体例として、下記(d)〜(f)のいずれかのDNAからなる遺伝子が挙げられる。
(d)配列番号2の343位〜825位までの塩基配列からなるDNA
(e)(d)のDNAの塩基配列と50%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)(d)又は(e)のDNAの塩基配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
前記(e)において、アシル−ACPチオエステラーゼ活性の点から、塩基配列の同一性は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがよりさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましい。なお、塩基配列の同一性の算出方法については、前述した。
前記(e)のDNAとして具体的には、下記(d1)又は(d2)が挙げられる。
(d1)配列番号15の382位〜864位までの塩基配列からなるDNA
(d2)配列番号17の376位〜858位までの塩基配列からなるDNA
配列番号15の塩基配列は、ナンノクロロプシス オキュラータ(Nannochloropsis oculata)由来の新規アシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子である。配列番号15の382位〜864位までの塩基配列は、配列番号2の343位〜825位までの塩基配列と約76%の同一性を有する。
また、配列番号17の塩基配列は、ナンノクロロプシス グラニュラータ(Nannochloropsis granulata)由来の新規アシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子である。配列番号17の376位〜858位までの塩基配列は、配列番号2の343位〜825位までの塩基配列と約75%の同一性を有する。
前記(e)のDNAとして、前記(d1)又は(d2)のDNAが好ましい。
また、前記(e)のDNAとしては、前記(d)のDNAの塩基配列に1又は数個(好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下)の変異を導入したDNAも好ましい。
また、前記(e)のDNAとして、前記(d1)のDNAの塩基配列に、1又は数個(好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下)の変異を導入したDNAも好ましい。
また、前記(e)のDNAとして、前記(d2)のDNAの塩基配列に、1又は数個(好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下)の変異を導入したDNAも好ましい。
上記変異としては、塩基の欠失、置換、挿入又は付加が挙げられる。
変異を導入する方法としては、例えば、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、Splicing overlap extension(SOE)PCR反応(Horton et al.,Gene 77,61−68,1989)を利用した方法、ODA法(Hashimoto-Gotoh et al.,Gene,152,271-276,1995))、Kunkel法(Kunkel,T. A.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1985,82,488)等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(Clonetech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販のキットを利用することもできる。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。
前記(f)のDNAは、その塩基配列の一部として前記(d)又は(e)のDNAの塩基配列を含む。(f)のDNAを構成する塩基配列中、前記(d)又は(e)の塩基配列以外の配列としては、例えば、配列番号2の343位〜825位以外の任意の塩基配列、配列番号15の382位〜864位以外の任意の塩基配列、配列番号17の376位〜858位以外の任意の塩基配列、又はこれらの配列に1又は数個(好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下)の変異が導入された塩基配列、等が挙げられる。変異としては、塩基の欠失、置換、挿入又は付加が挙げられる。
前記(f)のDNAとしては、前記(d)のDNAの塩基配列を有するDNA、前記(d1)のDNAの塩基配列を有するDNA、前記(d2)のDNAの塩基配列を有するDNA、又はこれらの配列に1又は数個(好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下)の変異が導入された塩基配列を有するDNAが好ましい。
さらに、前記(f)のDNAとしては、配列番号2の106位〜825位までの塩基配列からなるDNA、配列番号2の133位〜825位までの塩基配列からなるDNA、配列番号2の163位〜825位までの塩基配列からなるDNA、配列番号2の193位〜825位までの塩基配列からなるDNA、配列番号2の223位〜825位までの塩基配列からなるDNA、配列番号2の253位〜825位までの塩基配列からなるDNA、配列番号2の283位〜825位までの塩基配列からなるDNA、配列番号2の313位〜825位までの塩基配列からなるDNAがより好ましい。また、これらの配列に1又は数個(好ましくは1以上20個以下、より好ましくは1以上15個以下、さらに好ましくは1以上10個以下、よりさらに好ましくは1以上5個以下、特に好ましくは1以上3個以下)の変異が導入された塩基配列からなるDNAもより好ましい。これらのDNAによりコードされるタンパク質は、アシル−ACPチオエステラーゼ活性を有することが後述の実施例により確認されている。
また、前記(f)のDNAとして、配列番号15の塩基配列からなるDNA、配列番号15の145位〜864位までの塩基配列からなるDNA、配列番号15の172位〜864位までの塩基配列からなるDNA、配列番号15の232位〜864位までの塩基配列からなるDNA、配列番号15の262位〜864位までの塩基配列からなるDNA、配列番号15の292位〜864位までの塩基配列からなるDNA、配列番号15の322位〜864位までの塩基配列からなるDNA、配列番号15の352位〜864位までの塩基配列からなるDNA、又はこれらの配列に1又は数個(好ましくは1以上20個以下、より好ましくは1以上15個以下、さらに好ましくは1以上10個以下、よりさらに好ましくは1以上5個以下、特に好ましくは1以上3個以下)の変異が導入された塩基配列からなるDNA、がより好ましい。
また、前記(f)のDNAとして、配列番号17の塩基配列からなるDNA、配列番号17の103位〜858位までの塩基配列からなるDNA、配列番号17の163位〜858位までの塩基配列からなるDNA、配列番号17の253位〜858位までの塩基配列からなるDNA、又はこれらの配列に1又は数個(好ましくは1以上20個以下、より好ましくは1以上15個以下、さらに好ましくは1以上10個以下、よりさらに好ましくは1以上5個以下、特に好ましくは1以上3個以下)の変異が導入された塩基配列からなるDNA、がより好ましい。
上記の変異としては、塩基の欠失、置換、挿入又は付加が挙げられる。
また、前記(f)のDNAとして、前記(d)又は(e)の塩基配列に、タンパク質の輸送や分泌に関与するシグナルペプチドをコードする塩基配列が付加された塩基配列からなるDNAも好ましい。付加されるシグナルペプチドとしては、前記(c)で述べたものが挙げられる。
本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子の取得方法としては、特に制限されず、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号2に示す塩基配列に基づいて、本発明のチオエステラーゼ遺伝子を人工合成により取得することができる。遺伝子の人工合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、ナンノクロロプシス・ガディタナからクローニングによって取得することもでき、例えば、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W. Russell,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。
3.形質転換体
(1)第1の態様
本発明の形質転換体の第1の態様は、宿主に本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子又は当該遺伝子を含有する組換えベクターを導入してなる形質転換体である。
宿主へのアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子の導入は、通常の遺伝子工学的方法によっておこなうことができる。具体的には、本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を宿主細胞中で発現させることのできる発現ベクターを調製し、これを宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換させることにより本発明の形質転換体を得ることができる。
形質転換体の宿主としては特に限定されず、微生物、植物体、又は動物体を用いることができる。なお、本発明において微生物には微細藻類が含まれる。脂質の製造効率及び得られた脂肪酸の利用性の点から、宿主は微生物又は植物体であることが好ましく、微生物であることがより好ましい。
前記微生物は原核生物、真核生物のいずれであってもよく、エシェリキア(Escherichia)属に属する微生物やバシラス(Bacillus)属に属する微生物等の原核生物、又は酵母や糸状菌等の真核微生物を用いることができる。なかでも、脂質生産性の観点から、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、赤色酵母(Rhodosporidium toruloides)、又はモルチエレラ エスピー(Mortierella sp.)が好ましく、大腸菌がより好ましい。
また、前記微生物としては、微細藻類も好ましい。前記微細藻類としては、遺伝子組換え手法が確立している観点から、クラミドモナス(Chlamydomonas)属に属する藻類、クロレラ(Chlorella)属に属する藻類、ファエオダクティラム(Phaeodactylum)属に属する藻類、又はナンノクロロプシス属に属する藻類が好ましく、ナンノクロロプシス属に属する藻類がより好ましい。ナンノクロロプシス属に属する藻類として具体的には、Nannochloropsis oculataNannochloropsis gaditanaNannochloropsis salinaNannochloropsis oceanicaNannochloropsis atomusNannochloropsis maculataNannochloropsis granulata、又はNannochloropsis sp.、等が挙げられる。なかでも、脂質生産性の観点から、Nannochloropsis oculata、又はNannochloropsis gaditanaが好ましく、Nannochloropsis oculataがより好ましい。
前記植物体としては、種子に脂質を高含有する観点から、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ナタネ、ココヤシ、パーム、クフェア、又はヤトロファが好ましく、シロイヌナズナがより好ましい。
発現ベクターの母体となるベクターとしては、本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を宿主に導入することができ、宿主細胞内で当該遺伝子を発現可能なベクターであればよい。例えば、導入する宿主の種類に応じたプロモーターやターミネーター等の発現調節領域を有する発現ベクターであって、複製開始点や選択マーカー等を有するベクターを用いることができる。また、プラスミド等の染色体外で自立増殖・複製するベクターであってもよいし、染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
具体的なベクターとしては、微生物を宿主とする場合には、例えば、pBluescript II SK(-)(Stratagene社製)、pUC119(宝酒造社製)、pET系ベクター(タカラバイオ社製)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア社製)、pCold系ベクター(タカラバイオ社製)、pHY300PLK(タカラバイオ社製)、pUB110(Mckenzie,T. et al.,(1986),Plasmid 15(2);p.93-103)、pBR322(タカラバイオ社製)、pRS403(ストラタジーン社製)、又はpMW218/219(ニッポンジーン社製)が挙げられる。特に、宿主が大腸菌の場合は、pBluescript II SK(-)、又はpMW218/219が好ましく用いられる。
藻類を宿主とする場合には、例えば、P66(Chlamydomonas Center)、P-322(Chlamydomonas Center)、pPha-T1(前記非特許文献2参照)、又はpJET1(コスモ・バイオ社製)が挙げられる。特に、宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合は、pPha-T1、又はpJET1が好ましく用いられる。また、宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合には、Oliver Kilian, et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Dec 27;108(52), 2011、の文献記載の方法を参考にして、本発明の遺伝子、プロモーター及びターミネーターからなるDNA断片を用いて宿主を形質転換することもできる。このDNA断片としては、例えば、PCR増幅DNA断片や制限酵素切断DNA断片が挙げられる。
植物細胞を宿主とする場合には、例えば、pRI系ベクター(タカラバイオ社製)、pBI系ベクター(クロンテック社製)、又はIN3系ベクター(インプランタイノベーションズ社製)が挙げられる。特に、宿主がシロイヌナズナの場合は、pRI系ベクター又はpBI系ベクターが好ましく用いられる。
プロモーターやターミネーター等の発現調節領域や選択マーカーの種類も特に限定されず、通常使用されるプロモーターやマーカー等を導入する宿主の種類に応じて適宜選択して用いることができる。
具体的なプロモーターとしては、例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、T7プロモーター、SpoVGプロモーター、カリフラワーモザイルウイルス35SRNAプロモーター、ハウスキーピング遺伝子(チューブリン、アクチン、ユビキチン等)のプロモーター、ナタネ由来Napin遺伝子プロモーター、植物由来Rubiscoプロモーター、又はナンノクロロプシス属由来のビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質遺伝子のプロモーターが挙げられる。
また、選択マーカーとしては、抗生物質耐性遺伝子(アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、パロモマイシン耐性遺伝子、又はハイグロマイシン耐性遺伝子)等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子の欠損等を選択マーカー遺伝子として使用することも可能である。
上記ベクターに本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を、制限酵素処理やライゲーション等の通常の手法によって組み込むことにより形質転換に用いる発現ベクターを構築することができる。
形質転換方法としては、宿主に目的遺伝子を導入しうる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、カルシウムイオンを用いる方法、一般的なコンピテントセル形質転換方法(J.Bacterial.93,1925(1967))、プロトプラスト形質転換法(Mol.Gen.Genet.168,111(1979))、エレクトロポレーション法(FEMS Microbiol.Lett.55,135(1990))又はLP形質転換方法(T.Akamatsu及びJ.Sekiguchi,Archives of Microbiology,1987,146,p.353-357;T.Akamatsu及びH.Taguchi,Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,2001,65,4,p.823-829)等を用いることができる。宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合、前述のRandor Radakovits, et al., Nature Communications, DOI:10.1038/ncomms1688, 2012、に記載のエレクトロポレーション法を用いて形質転換を行うこともできる。
目的遺伝子断片が導入された形質転換体の選択は、選択マーカー等を利用することで行うことができる。例えば、ベクター由来の薬剤耐性遺伝子が、形質転換時に目的DNA断片とともに宿主細胞中に導入された結果、形質転換体が獲得する薬剤耐性を指標に行うことができる。また、ゲノムを鋳型としたPCR法等によって、目的DNA断片の導入を確認することもできる。
本態様の形質転換体は、特定の炭素数(鎖長)及び不飽和結合数を有する脂肪酸を効率よく生産し、脂質の生産性を向上させることができる。なお、形質転換体の脂肪酸生産能については、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
(2)第2の態様
本発明の形質転換体の第2の態様は、本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を有する宿主において、当該遺伝子が欠失、変異又は発現抑制された形質転換体である。当該形質転換体は、宿主中のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を、欠失、変異又は発現抑制することで得られる。
本態様の形質転換体の宿主としては、本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を有するものであればよく、微生物、植物体、又は動物体を用いることができる。なかでも、脂質の製造効率の点から、微生物が好ましく、微細藻類がより好ましい。
前記微細藻類としては、脂質生産性の観点から、ナンノクロロプシス属に属する藻類が好ましい。ナンノクロロプシス属に属する藻類として具体的には、Nannochloropsis oculataNannochloropsis gaditanaNannochloropsis salinaNannochloropsis oceanicaNannochloropsis atomusNannochloropsis maculataNannochloropsis granulata、又はNannochloropsis sp.、等が挙げられる。なかでも、脂質生産性の観点から、Nannochloropsis oculata、又はNannochloropsis gaditanaが好ましく、Nannochloropsis oculataがより好ましい。
宿主ゲノムから本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を欠失、変異又は発現抑制する方法としては、標的遺伝子の一部若しくは全部をゲノム中から除去する又は他の遺伝子と置き換える、当該遺伝子中に他のDNA断片を挿入する、当該遺伝子の活性部位・基質結合部位又は転写・翻訳開始領域に変異を与える等の方法によって行うことができる。
上記の欠失・変異・発現抑制方法は、例えば、相同組換えを用いて行うことができる。具体的には、標的遺伝子の上流、下流領域を含むが標的遺伝子を含まない直鎖状のDNA断片をPCR等の方法によって構築し、これを宿主細胞内に取り込ませて宿主ゲノムの標的遺伝子上流側、下流側で2回交差の相同組換えを起こさせることにより、ゲノム上の標的遺伝子を欠失あるいは他の遺伝子断片と置換させることができる。また、塩基置換や塩基挿入等の変異を導入した標的遺伝子をPCR等の方法によって構築し、これを宿主細胞内に取り込ませて宿主ゲノムの標的遺伝子内の変異箇所の外側の2ヶ所で2回交差の相同組換えを起こさせることにより、ゲノム上の標的遺伝子の機能を低下又は消失させることができる。また、標的遺伝子の一部を含むDNA断片を適当なプラスミドベクターにクローニングして得られる環状の組換えプラスミドを宿主細胞内に取り込ませ、標的遺伝子の一部領域に於ける相同組換えによって宿主ゲノム上の標的遺伝子を分断して、その機能を低下又は消失させることができる。
このような相同組換えによる標的遺伝子の欠失・変異・発現抑制方法は、例えば、Besher et al., Methods in molecular biology 47,p.291-302, 1995等の文献を参考に行うことができる。特に、宿主がナンノクロロプシス属に属する藻類の場合、Oliver Kilian, et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Dec 27;108(52), 2011、等の文献を参考にして、相同組換え法によりゲノム中の特定の遺伝子を欠失又は破壊することができる。
目的遺伝子が欠失等した形質転換体の選択は、形質転換体からゲノムDNAを抽出して、目的遺伝子部位を含む領域を対象としてPCRを行う方法、又は目的遺伝子領域に結合するDNAプローブを用いたサザンブロッティング法、等により行うことができる。
本態様の形質転換体は、本発明のアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子が機能しないため、産出される脂質の脂肪酸組成が宿主本来の組成から変化すると考えられる。すなわち、当該形質転換体は、脂質中の脂肪酸組成が改変された脂質を生産することができる。
4.脂質の製造方法
本発明の製造方法は、本発明の形質転換体を用いるもので、当該形質転換体を培地で培養する工程、及び得られた培養物から脂質を採取する工程を含む。なお、本発明において形質転換体を培養するとは、微生物、藻類、動植物やそれらの細胞・組織の培養はもちろん、植物体を土壌等で栽培することも含まれる。また、培養物には、培養液はもちろん、培養等した後の形質転換体そのものも含まれる。
培地及び培養条件は、形質転換体の宿主に応じて適宜選択することができ、その宿主に対して通常用いられる培地及び培養条件を使用できる。また、脂質の生産性向上の点から、培地中に、チオエステラーゼの基質或いは脂肪酸生合成系に関与する前駆物質としてグリセロール、酢酸、マロン酸等を添加してもよい。
一例として、大腸菌を宿主として用いた形質転換体の場合、LB培地又はOvernight Express Instant TB Medium(Novagen社)で、30〜37℃、0.5〜1日間培養を行うことが挙げられる。また、シロイヌナズナを宿主として用いた形質転換体の場合、土壌で温度条件20〜25℃、白色光を連続照射又は明期16時間・暗期8時間等の光条件下で1〜2か月間栽培を行うことが挙げられる。
形質転換の宿主が藻類の場合、以下の培地及び培養条件を用いることができる。
培地は天然海水又は人工海水をベースにしたものを使用してもよいし、市販の培養培地を使用してもよい。具体的な培地としては、f/2培地、ESM培地、ダイゴIMK培地、L1培地、MNK培地、等を挙げることができる。なかでも、脂質の生産性向上及び栄養成分濃度の観点から、f/2培地、ESM培地、又はダイゴIMK培地が好ましく、f/2培地、又はダイゴIMK培地がより好ましく、f/2培地がさらに好ましい。藻類の生育促進、中鎖脂肪酸の生産性向上のため、培地に、窒素源、リン源、金属塩、ビタミン類、微量金属等を適宜添加することができる。
培地に接種する藻類の量は特に限定されないが、生育性の点から、培地当り1〜50%(vol/vol)が好ましく、1〜10%(vol/vol)がより好ましい。培養温度は、藻類の増殖に悪影響を与えない範囲であれば特に制限されないが、通常、5〜40℃の範囲である。藻類の生育促進、中鎖脂肪酸の生産性向上、及び生産コストの低減の観点から、好ましくは10〜35℃であり、より好ましくは15〜30℃である。
また、藻類の培養は、光合成ができるよう光照射下で行うことが好ましい。光照射は、光合成が可能な条件であればよく、人工光でも太陽光でもよい。光照射時の照度としては、藻類の生育促進、中鎖脂肪酸の生産性向上の観点から、好ましくは100〜50000ルクスの範囲、より好ましくは300〜10000ルクスの範囲、さらに好ましくは1000〜6000ルクスの範囲である。また、光照射の間隔は、特に制限されないが、前記と同様の観点から、明暗周期で行うことが好ましく、24時間のうち明期が好ましくは8〜24時間、より好ましくは10〜18時間、さらに好ましくは12時間である。
また、藻類の培養は、光合成ができるように二酸化炭素を含む気体の存在下、又は炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩を含む培地で行うことが好ましい。気体中の二酸化炭素の濃度は特に限定されないが、生育促進、中鎖脂肪酸の生産性向上の観点から0.03(大気条件と同程度)〜10%が好ましく、より好ましくは0.05〜5%、さらに好ましくは0.1〜3%、よりさらに好ましくは0.3〜1%である。炭酸塩の濃度は特に限定されないが、例えば炭酸水素ナトリウムを用いる場合、生育促進、中鎖脂肪酸の生産性向上の観点から0.01〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。
培養時間は特に限定されず、脂質を高濃度に蓄積する藻体が高い濃度で増殖できるように、長期間(例えば150日程度)行なってもよい。藻類の生育促進、中鎖脂肪酸の生産性向上、及び生産コストの低減の観点から、培養期間は、好ましくは3〜90日間、より好ましくは3〜30日間、さらに好ましくは7〜30日間である。なお、培養は、通気攪拌培養、振とう培養又は静置培養のいずれでもよく、通気性の向上の観点から、振とう培養が好ましい。
形質転換体内において産生された脂質の単離、採取は、通常生体内の脂質成分等を単離する際に用いられる方法により行うことができる。例えば、培養物や形質転換体から、ろ過、遠心分離、細胞の破砕、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、クロロホルム/メタノール抽出法、ヘキサン抽出法、エタノール抽出法等により脂質成分を単離、回収する方法が挙げられる。より大規模な場合は、培養物や形質転換体より油分を圧搾又は抽出により回収後、脱ガム、脱酸、脱色、脱蝋、脱臭等の一般的な精製を行い、脂質を得ることができる。このように脂質成分を単離した後、単離した脂質を加水分解することで脂肪酸を得ることができる。脂質成分から脂肪酸を単離する方法として具体的には、アルカリ溶液中で70℃程度の高温で処理をする方法、リパーゼ処理をする方法、高圧熱水を用いて分解する方法等が挙げられる。
本発明の製造方法は、炭素原子数8以上22以下の脂肪酸及びその誘導体の製造に好適に用いることができる。なかでも、本発明の製造方法は炭素原子数12以上20以下の脂肪酸及びその誘導体の製造に用いることが好ましく、炭素原子数12以上14以下の脂肪酸及びその誘導体の製造に用いることがより好ましい。
本発明の製造方法又は形質転換体により得られる脂質は、食用として用いる他、化粧品等の乳化剤や、石鹸や洗剤等の洗浄剤、繊維処理剤、毛髪リンス剤、又は殺菌剤や防腐剤として利用することができる。また、バイオディーゼル燃料の原料としても利用できる。
上述した実施形態に加えて、本発明はさらに以下のタンパク質、遺伝子、形質転換体、方法を開示する。
<1> 下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質。
(a)配列番号1の115位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)(a)のタンパク質のアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、よりさらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質
(c)(a)又は(b)のタンパク質のアミノ酸配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質
<2> 前記(b)のタンパク質が、下記(a1)又は(a2)のタンパク質である、<1>項記載のタンパク質。
(a1)配列番号14の128位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
(a2)配列番号16の126位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
<3> 前記(b)のタンパク質が、前記(a)、(a1)及び(a2)から選ばれるいずれかのタンパク質のアミノ酸配列に1又は数個、好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下の変異を導入したアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質である、<1>項記載のタンパク質。
<4> 前記(c)のタンパク質が、
配列番号1の36位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号1の45位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号1の55位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号1の65位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号1の75位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号1の85位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号1の95位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号1の105位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号14の1位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号14の49位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号14の58位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号14の78位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号14の88位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号14の98位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号14の108位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号14の118位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号16の1位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号16の35位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号16の55位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
配列番号16の85位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
これらの配列に1又は数個、好ましくは1以上20個以下、より好ましくは1以上15個以下、さらに好ましくは1以上10個以下、よりさらに好ましくは1以上5個以下、特に好ましくは1以上3個以下の変異が導入されたアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、
から選ばれるいずれかのタンパク質である、<1>項記載のタンパク質。
<5> 前記変異が、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加である、<3>又は<4>項記載のタンパク質。
<6> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
<7> 下記(d)〜(f)のいずれかのDNAからなる遺伝子。
(d)配列番号2の343位〜825位までの塩基配列からなるDNA
(e)(d)のDNAの塩基配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、よりさらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)(d)又は(e)のDNAの塩基配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
<8> 前記(e)のDNAが、下記(d1)又は(d2)のDNAである、<7>項記載の遺伝子。
(d1)配列番号15の382位〜864位までの塩基配列からなるDNA
(d2)配列番号17の376位〜858位までの塩基配列からなるDNA
<9> 前記(e)のDNAが、前記(d)、(d1)及び(d2)から選ばれるいずれかのDNAの塩基配列に1又は数個、好ましくは1以上10個以下、より好ましくは1以上5個以下、さらに好ましくは1以上3個以下の変異を導入した塩基配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAである、<7>項記載の遺伝子。
<10> 前記(f)のDNAが、
配列番号2の106位〜825位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号2の133位〜825位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号2の163位〜825位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号2の193位〜825位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号2の223位〜825位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号2の253位〜825位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号2の283位〜825位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号2の313位〜825位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号15の1位〜864位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号15の145位〜864位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号15の172位〜864位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号15の232位〜864位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号15の262位〜864位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号15の292位〜864位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号15の322位〜864位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号15の352位〜864位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号17の1位〜858位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号17の103位〜858位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号17の163位〜858位までの塩基配列からなるDNA、
配列番号17の253位〜858位までの塩基配列からなるDNA、及び
これらの配列に1又は数個、好ましくは1以上20個以下、より好ましくは1以上15個以下、さらに好ましくは1以上10個以下、よりさらに好ましくは1以上5個以下、特に好ましくは1以上3個以下の変異が導入された塩基配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
から選ばれるいずれかのDNAである、<7>項記載の遺伝子。
<11> 前記変異が、塩基の欠失、置換、挿入又は付加である、<9>又は<10>項記載のタンパク質。
<12> <6>〜<11>のいずれか1項に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
<13> <6>〜<11>のいずれか1項に記載の遺伝子又は<12>項に記載の組換えベクターを、宿主に導入してなる形質転換体。
<14> <6>〜<11>のいずれか1項に記載の遺伝子を有する宿主において、当該遺伝子が欠失、変異又は発現抑制された形質転換体。
<15> 前記宿主が微生物である、<13>又は<14>項に記載の形質転換体。
<16> 前記微生物が微細藻類である、<15>項に記載の形質転換体。
<17> 前記微細藻類が、クラミドモナス(Chlamydomonas)属に属する藻類、クロレラ(Chlorella)属に属する藻類、ファエオダクティラム(Phaeodactylum)属に属する藻類、又はナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類であり、好ましくはナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類である、<16>項に記載の形質転換体。
<18> 前記ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類が、Nannochloropsis oculataNannochloropsis gaditanaNannochloropsis salinaNannochloropsis oceanicaNannochloropsis atomusNannochloropsis maculataNannochloropsis granulata、又はNannochloropsis sp.であり、好ましくは、Nannochloropsis oculata、又はNannochloropsis gaditanaであり、より好ましくは、Nannochloropsis oculataである、<17>項に記載の形質転換体。
<19> 前記微生物が大腸菌である、<15>項に記載の形質転換体。
<20> <13>〜<19>のいずれか1項に記載の形質転換体を培地で培養する工程、及び得られた培養物から脂質を採取する工程、を含む脂質の製造方法。
<21> 前記脂質が、炭素原子数8以上22以下、好ましくは炭素原子数12以上20以下、より好ましくは炭素原子数12以上14以下の脂肪酸及びその誘導体を含む、<20>項に記載の製造方法。
<22> 宿主に<6>〜<11>のいずれか1項に記載の遺伝子を導入する工程を含む、脂質中の脂肪酸組成を改変する方法。
<23> 宿主に<6>〜<11>のいずれか1項に記載の遺伝子を導入する工程を含む、脂質の生産性を向上させる方法。
<24> 宿主中の<6>〜<11>のいずれか1項に記載の遺伝子を、欠失、変異又は発現抑制する工程を含む、脂質中の脂肪酸組成を改変する方法。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1.Nga07062遺伝子を導入した大腸菌形質転換体の作製、及び形質転換体による脂質の生産
1.Nga07062遺伝子の取得
ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana) CCMP526株の全9052遺伝子の配列情報を、Colorado School of Mines 及びGenome Project Solutions が提供するナンノクロロプシス・ゲノムプロジェクト(Nannochloropsis Genome Project (http://nannochloropsis.genomeprojectsolutions-databases.com/))から取得した。そのうちの1つであるNga07062遺伝子(配列番号2に示す塩基配列からなる遺伝子)について、下記の方法により機能の同定を行った。
2.Nga07062遺伝子発現プラスミドの構築
Nga07062遺伝子を鋳型として、下記表1に示す配列番号3及び配列番号4のプライマー対を用いたPCR反応により、配列番号2の106位〜825位までの塩基配列からなるNga07062遺伝子断片を取得した。なお、配列番号2の塩基配列を有する遺伝子は人工遺伝子の受託合成サービスを利用して取得した。また、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)(Stratagene社製)を鋳型として、下記表1に示す配列番号5及び6のプライマー対を用いたPCR反応によりpBluescriptII SK(-)を増幅し、制限酵素DpnI(東洋紡株式会社製)処理により鋳型の消化を行った。これら2つの断片を、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche Applied Science社製)を用いて精製した後に、In-Fusion HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて融合し、Nga07062遺伝子発現用プラスミドNga07062_106を構築した。なお、本発現プラスミドは、Nga07062遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列番号1)のN末端側1位〜35位までのアミノ酸配列を除去し、さらにプラスミド由来のLacZタンパク質のN末端側1位〜29位のアミノ酸配列と融合させた形で構築した。
配列番号2に示す塩基配列からなるNga07062遺伝子を鋳型とし、下記表1に示す配列番号7〜13のいずれかのプライマーと、配列番号4のプライマーとを対としてPCR反応を行い、配列番号2の163位〜825位までの塩基配列からなるNga07062遺伝子断片、配列番号2の193位〜825位までの塩基配列からなるNga07062遺伝子断片、配列番号2の223位〜825位までの塩基配列からなるNga07062遺伝子断片、配列番号2の253位〜825位までの塩基配列からなるNga07062遺伝子断片、配列番号2の283位〜825位までの塩基配列からなるNga07062遺伝子断片、配列番号2の313位〜825位までの塩基配列からなるNga07062遺伝子断片、配列番号2の343位〜825位までの塩基配列からなるNga07062遺伝子断片、をそれぞれ取得した。
得られた遺伝子断片を用いて、上記と同様にしてpBluescriptII SK(-)ベクターに結合し、Nga07062遺伝子発現用プラスミドNga07062_163、Nga07062_193、Nga07062_223、Nga07062_253、Nga07062_283、Nga07062_313、Nga07062_343、をそれぞれ構築した。なお、これらの発現プラスミドは、Nga07062遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列番号1)のN末端側1位〜54位、1位〜64位、1位〜74位、1位〜84位、1位〜94位、1位〜104位、1位〜114位、までのアミノ酸配列をそれぞれ除去し、さらにプラスミド由来のLacZタンパク質のN末端側1位〜29位のアミノ酸配列と融合させた形で構築した。
Figure 0006491881
3.Nga07062遺伝子発現プラスミドの大腸菌への導入
前記3.で構築した各Nga07062遺伝子発現プラスミドを用いて、大腸菌突然変異株であるK27株(fadD88)(Overath et al, Eur.J.Biochem.7,559-574,1969)をコンピテントセル形質転換法により形質転換した。形質転換処理をしたK27株を37℃で一晩静置し、得られたコロニーをLBAmp液体培地(Bacto Trypton 1%,Yeast Extract 0.5%,NaCl 1%,アンピシリンナトリウム50μg/mL)1mLに接種し、37℃で一晩培養した。前記培養液20μLを、2mLのOvernight Express Instant TB Medium(Novagen社)に接種し、30℃で振とう培養した。培養16時間後、培養液に含まれる脂質成分を、下記5.の方法にて解析した。なお、陰性対照として、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)で形質転換した大腸菌K27株についても同様に実験を行った。
4.大腸菌培養液中の脂質の抽出及び構成脂肪酸の分析
培養液1mLに、内部標準として1mg/mLの7−ペンタデカノンを50μL添加後、0.5mLのクロロホルム、1mLのメタノール及び10μLの2N塩酸を培養液に添加して激しく攪拌後30分間放置した。その後さらに、0.5mLのクロロホルム及び0.5mLの1.5%KClを添加して攪拌後、3,000rpmにて15分間間遠心分離を行い、パスツールピペットにてクロロホルム層(下層)を回収した。得られたクロロホルム層に窒素ガスを吹き付けて乾固し、0.5N水酸化カリウム/メタノール溶液0.7mLを添加し、80℃で30分間恒温した。続いて1mLの14%三フッ化ホウ素溶液(SIGMA社製)を添加し、80℃にて10分間恒温した。その後、ヘキサン、飽和食塩水を各1mL添加し激しく撹拌し、室温にて30分間放置後、上層であるヘキサン層を回収して脂肪酸エステルを得た。
得られた脂肪酸エステルをガスクロマトグラフィー解析に供した。測定条件を以下に示す。
キャピラリーカラム:DB−1 MS 30m×200μm×0.25μm(J&W Scientific)、
移動相:高純度ヘリウム、
カラム内流量:1.0mL/分、
昇温プログラム:100℃(1分間)→10℃/分→300℃(5分間)、
平衡化時間:1分間、
注入口:スプリット注入(スプリット比:100:1),
圧力14.49psi,104mL/分,
注入量1μL、
洗浄バイアル:メタノール・クロロホルム、
検出器温度:300℃
また、脂肪酸エステルの同定は、同サンプルを同条件でガスクロマトグラフ質量分析解析に供することにより行った。
ガスクロマトグラフィー解析により得られた波形データのピーク面積より、各脂肪酸のメチルエステル量を定量した。各ピーク面積を、内部標準である7−ペンタデカノンのピーク面積と比較することで試料間の補正を行い、培養液1リットルあたりの各脂肪酸量を算出した。さらに、各脂肪酸量の総和を総脂肪酸量とし、総脂肪酸量に占める各脂肪酸量の割合を算出した。
各脂肪酸の割合及び総脂肪酸量の測定結果を表2に示す。なお、以下の表中、脂肪酸組成においてCx:yとあるのは、炭素原子数xで二重結合数がyの脂肪酸を表す。
Figure 0006491881
表2から明らかなように、Nga07062遺伝子断片を導入した形質転換体では、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)を導入した形質転換体(表2のpBS)と比べ、総脂肪酸量の増加が観察された。また、当該形質転換体では、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)を導入した形質転換体と比べ、脂肪酸組成が変化していた。特に、C12:1、C12:0、C14:1、C14:0、C16:1脂肪酸の割合が増加した。これらの結果から、Nga07062遺伝子によりコードされるタンパク質は、アシル−ACPから特定の脂肪酸を切り出すアシル−ACPチオエステラーゼであると考えられる。また、少なくとも配列番号1の115位〜274位までのアミノ酸配列を有するタンパク質は、アシル−ACPチオエステラーゼ活性を示すことがわかった。
実施例2 ナンノクロロプシス オキュラータ(Nannochloropsis oculata)由来アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を導入した大腸菌形質転換体の作製、及び形質転換体による脂質の生産
1.Nannochloropsis oculata由来アシル−ACPチオエステラーゼ(以下、「NoTE」ともいう)遺伝子の取得、及びNoTE遺伝子発現用プラスミドの構築
Nannochloropsis oculata NIES2145株の全RNAを抽出し、SuperScript(商標) III First-Strand Synthesis SuperMix for qRT-PCR(invitrogen社製)を用いて逆転写を行ってcDNAを得た。このcDNAを鋳型として、下記表3に示す配列番号18及び配列番号27のプライマー対を用いたPCR反応により、配列番号15に示す塩基配列からなる遺伝子断片を取得した。得られた遺伝子断片を、実施例1の2.と同様の方法でプラスミドベクターpBluescriptII SK(-)にクローニングし、NoTE遺伝子発現用プラスミドNoTE_1を構築した。なお、この発現プラスミドは、NoTE遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列番号14)の1位のN末端側に、プラスミド由来のLacZタンパク質のN末端側1位〜29位のアミノ酸配列と融合させた形で構築した。
同様に、cDNAを鋳型として、下記表3に示す配列番号19〜26のいずれかのプライマーと、配列番号27のプライマーとを対としたPCR反応を行い、配列番号15の145位〜864位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、配列番号15の172位〜864位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、配列番号15の232位〜864位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、配列番号15の262位〜864位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、配列番号15の292位〜864位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、配列番号15の322位〜864位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、配列番号15の352位〜864位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、配列番号15の382位〜864位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、をそれぞれ取得した。得られた遺伝子断片を用いて、上記と同様にしてpBluescriptII SK(-)ベクターに結合し、NoTE遺伝子発現用プラスミドNoTE_145、NoTE_172、NoTE_232、NoTE_262、NoTE_292、NoTE_322、NoTE_352、NoTE_382、をそれぞれ構築した。なお、これらの発現プラスミドは、NoTE遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列番号14)のN末端側1位〜48位、1位〜57位、1位〜77位、1位〜87位、1位〜97位、1位〜107位、1位〜117位、1位〜127位、までのアミノ酸配列をそれぞれ除去し、さらにプラスミド由来のLacZタンパク質のN末端側1位〜29位のアミノ酸配列と融合させた形で構築した。
Figure 0006491881
2.NoTE遺伝子発現プラスミドの大腸菌への導入、大腸菌培養液中の脂質の抽出、及び構成脂肪酸の分析
実施例1の3.と同様の方法でNoTE発現プラスミドを大腸菌へ導入し、実施例1の4.と同様の方法で脂質の解析を行った。
Figure 0006491881
表4から明らかなように、NoTE遺伝子断片を導入した形質転換体では、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)を導入した形質転換体(表4のpBS)と比べ、総脂肪酸量の増加が観察された。また、当該形質転換体では、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)を導入した形質転換体と比べ、脂肪酸組成が変化していた。特に、C12:1、C12:0、C14:1、C14:0、C16:1脂肪酸の割合が増加した。これらの結果から、NoTE遺伝子によりコードされるタンパク質は、アシル−ACPから特定の脂肪酸を切り出すアシル−ACPチオエステラーゼであると考えられる。また、少なくとも配列番号14の128位〜287位までのアミノ酸配列を有するタンパク質は、アシル−ACPチオエステラーゼ活性を示すことがわかった。
実施例3.ナンノクロロプシス グラニュラータ(Nannochloropsis granulata)由来アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を導入した大腸菌形質転換体の作製、及び形質転換体による脂質の生産
1.Nannochloropsis granulata由来アシル−ACPチオエステラーゼ(以下、「NgrTE」ともいう)遺伝子の取得、及びNgrTE遺伝子発現用プラスミドの構築
Nannochloropsis granulata NIES2588株の全RNAを抽出し、SuperScript(商標) III First-Strand Synthesis SuperMix for qRT-PCR(invitrogen社製)を用いて逆転写を行ってcDNAを得た。このcDNAを鋳型として、下記表5に示す配列番号28及び配列番号33のプライマー対を用いたPCR反応により、配列番号17に示す塩基配列からなる遺伝子断片を取得した。得られた遺伝子断片を、実施例1の2.と同様の方法でプラスミドベクターpBluescriptII SK(-)にクローニングし、NgrTE遺伝子発現用プラスミドNgrTE_1を構築した。なお、この発現プラスミドは、NgrTE遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列番号16)の1位のN末端側に、プラスミド由来のLacZタンパク質のN末端側1位〜29位のアミノ酸配列と融合させた形で構築した。
同様に、cDNAを鋳型として、下記表5に示す配列番号29〜32のいずれかのプライマーと、配列番号33のプライマーとを対としたPCR反応を行い、配列番号17の103位〜858位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、配列番号17の163位〜858位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、配列番号17の253位〜858位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、配列番号17の376位〜858位までの遺伝子配列からなる遺伝子断片、をそれぞれ取得した。得られた遺伝子断片を用いて、上記と同様にしてpBluescriptII SK(-)ベクターに結合し、NgrTE遺伝子発現用プラスミドNgrTE_103、NgrTE_163、NgrTE_253、NgrTE_376をそれぞれ構築した。なお、これらの発現プラスミドは、NgrTE遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列番号16)のN末端側1位〜34位、1位〜54位、1位〜84位、1位〜125位までのアミノ酸配列をそれぞれ除去し、さらにプラスミド由来のLacZタンパク質のN末端側1位〜29位のアミノ酸配列と融合させた形で構築した。
Figure 0006491881
2.NgrTE遺伝子発現プラスミドの大腸菌への導入、大腸菌培養液中の脂質の抽出、及び構成脂肪酸の分析
実施例1の3.と同様の方法でNgrTE発現プラスミドを大腸菌へ導入し、実施例1の4.と同様の方法で脂質の解析を行った。
Figure 0006491881
表6から明らかなように、NgrTE遺伝子断片を導入した形質転換体では、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)を導入した形質転換体(表6のpBS)と比べ、総脂肪酸量の増加が観察された。また、当該形質転換体では、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)を導入した形質転換体と比べ、脂肪酸組成が変化していた。特に、C12:1、C12:0、C14:1、C14:0、C16:1脂肪酸の割合が増加した。
実施例4.変異型NoTE遺伝子を導入した大腸菌形質転換体の作製、及び形質転換体による脂質の生産
1.変異型NoTE遺伝子の取得、及び変異型NoTE遺伝子発現用プラスミドの構築
配列番号34に示す変異型NoTEをコードする遺伝子配列(配列番号35)を、人工遺伝子の受託合成サービスを利用して取得した。なお、配列番号34の128位〜287位までのアミノ酸配列は、配列番号1の115位〜274位のアミノ酸配列と約84%の同一性を示す。
この遺伝子断片を鋳型として、上記表3及び下記表7に示す配列番号22及び配列番号36のプライマー対を用いたPCR反応により、配列番号35に示す塩基配列からなる遺伝子断片を取得した。得られた遺伝子断片を、実施例1の2.と同様の方法でプラスミドベクターpBluescriptII SK(-)にクローニングし、変異型NoTE遺伝子発現用プラスミドNoTE_262-mutantを構築した。なお、これらの発現プラスミドは、変異型NoTE遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列番号34)のN末端側1位〜87位までのアミノ酸配列をそれぞれ除去し、さらにプラスミド由来のLacZタンパク質のN末端側1位〜29位のアミノ酸配列と融合させた形で構築した。
Figure 0006491881
2.変異型NoTE遺伝子発現プラスミドの大腸菌への導入、大腸菌培養液中の脂質の抽出、及び構成脂肪酸の分析
実施例1の3.と同様の方法で変異型NoTE発現プラスミドを大腸菌へ導入し、実施例1の4.と同様の方法で脂質の解析を行った。
Figure 0006491881
表8から明らかなように、変異型NoTE遺伝子断片を導入した形質転換体では、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)を導入した形質転換体(表8のpBS)と比べ、総脂肪酸量の増加が観察された。また、当該形質転換体では、プラスミドベクターpBluescriptII SK(-)を導入した形質転換体と比べ、脂肪酸組成が変化していた。特に、C12:1、C12:0、C14:1、C14:0、C16:1脂肪酸の割合が増加した。これらの結果から、変異型NoTEがアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有することがわかった。
実施例5.NoTE遺伝子を導入したナンノクロロプシス形質転換体の作製、及び形質転換体による脂質の生産
1.NoTE遺伝子のナンノクロロプシス発現用プラスミドの構築
Nannochloropsis oculata NIES2145株のcDNAを鋳型として、下記表9に示す配列番号37及び配列番号38のプライマーを用いたPCR反応を行い、配列番号15の292位〜864位までの塩基配列からなるNoTE遺伝子断片を取得した。
GenBankに登録されているナンノクロロプシス エスピー(Nannochloropsis sp.)W2J3B株のVCP1(ビオラキサンチン/クロロフィルa結合タンパク質)遺伝子のcomplete cds 配列(Accession number: JF957601.1)より、VCP1プロモーター配列(配列番号54)、VCP1葉緑体移行シグナル配列(配列番号55)、及びVCP1ターミネーター配列(配列番号56)を人工合成した。合成したDNA断片を鋳型として、下記表9に示す配列番号39及び配列番号40のプライマー対、配列番号41及び配列番号42のプライマー対、配列番号43及び配列番号44のプライマー対を用いてPCR反応を行い、VCP1プロモーター配列、VCP1葉緑体移行シグナル配列、VCP1ターミネーター配列をそれぞれ取得した。また、プラスミドベクターpUC19(タカラバイオ社製)を鋳型として、下記表9に示す配列番号45及び配列番号46のプライマー対を用いたPCR反応を行い、プラスミドベクターpUC19を増幅した。
上記により得られたNoTE遺伝子断片、VCP1プロモーター配列、VCP1葉緑体移行シグナル配列、及びVCP1ターミネーター配列を、実施例1の2.と同様の方法でプラスミドベクターpUC19に融合し、ナンノクロロプシス発現用プラスミドNoTE_292_Nannoを構築した。なお、本発現プラスミドは、VCP1プロモーター配列、VCP1葉緑体移行シグナル配列、NoTE遺伝子断片、及びVCP1ターミネーター配列の順に連結したインサート配列(配列番号57;以下、NoTE遺伝子発現用断片)と、pUC19ベクター配列からなる。
2.ゼオシン耐性遺伝子のナンノクロロプシス発現用プラスミドの構築
ゼオシン耐性遺伝子(配列番号58)、及び文献(Randor Radakovits, et al., Nature Communications, DOI:10.1038/ncomms1688, 2012)記載のナンノクロロプシス ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)CCMP526株由来チューブリンプロモーター配列(配列番号59)を人工合成した。合成したDNA断片を鋳型として、配列番号47及び配列番号48のプライマー対、配列番号49及び配列番号50のプライマー対を用いてPCR反応を行い、ゼオシン耐性遺伝子及びチューブリンプロモーター配列をそれぞれ取得した。これらの増幅断片と、前記1.で取得したVCP1ターミネーター配列、及びプラスミドベクターpUC19の増幅断片を、実施例1の2.と同様の方法で融合し、ゼオシン耐性遺伝子発現プラスミドを構築した。なお、本発現プラスミドは、チューブリンプロモーター配列、ゼオシン耐性遺伝子、VCP1ターミネーター配列の順に連結したインサート配列(配列番号60;以下、ゼオシン耐性遺伝子発現用断片)と、pUC19ベクター配列からなる。
3.NoTE遺伝子発現用断片のナンノクロロプシスへの導入
発現用プラスミドNoTE_292_Nannoを鋳型として、下記表9に示す配列番号51と配列番号52のプライマー対を用いてPCR反応を行い、当該プラスミド中のNoTE遺伝子発現用断片(配列番号57)を増幅した。また、ゼオシン耐性遺伝子発現用プラスミドを鋳型として、配列番号52と配列番号53のプライマー対を用いてPCR反応を行い、ゼオシン耐性遺伝子発現用断片(配列番号60)を増幅した。増幅した両断片を、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche Applied Science社製)を用いて精製した。なお、精製の際の溶出には、キットに含まれる溶出バッファーではなく、滅菌水を用いた。
約10細胞のナンノクロロプシス オキュラータ(Nannochloropsis oculata)NIES2145株を、384mMのソルビトール溶液で洗浄して塩を完全に除去し、形質転換の宿主細胞として用いた。上記で増幅したNoTE遺伝子発現用断片(配列番号57)及びゼオシン耐性遺伝子発現用断片(配列番号60)を、約500ngずつ宿主細胞に混和し、50μF、500Ω、2,200v/2mmの条件でエレクトロポレーションを行った。f/2液体培地にて24時間回復培養を行った後に、2μg/mLのゼオシン含有f/2寒天培地に塗布し、25℃、0.3%CO雰囲気下、12h/12h明暗条件にて2〜3週間培養した。得られたコロニーの中から、NoTE遺伝子発現用断片(配列番号57)を含むものをPCR法により選抜した。選抜した株を、f/2培地の窒素濃度を15倍、リン濃度を5倍に増強した培地(以下、N15P5培地)20mLに播種し、25℃、0.3%CO雰囲気下、12h/12h明暗条件にて4週間振盪培養し、前培養液とした。前培養液2mLを、18mLのN15P5培地に植継ぎ、25℃、0.3%CO雰囲気下、12h/12h明暗条件にて2週間振盪培養した。なお、陰性対照として、野生株であるNIES2145株についても同様に実験を行った。
Figure 0006491881
4.ナンノクロロプシス培養液中の脂質の抽出及び構成脂肪酸の分析
培養後、得られたナンノクロロプシス培養液について、実施例1の4.と同様の方法で、脂質の抽出及び構成脂肪酸の分析を行った。結果を表10に示す。なお、表10において、「n」は、0〜5の整数を表し、例えば、C18:nと記載した場合には、組成がC18:0,C18:1,C18:2,C18:3,C18:4,及びC18:5の脂肪酸の総和を表す。
Figure 0006491881
表10から明らかなように、NoTE遺伝子断片を導入したナンノクロロプシス形質転換体(表10中の「NoTE導入株」)では、宿主であるナンノクロロプシスNIES2145株(表10中の「野生株」)と比べ、総脂肪酸量の増加が観察された。また、当該形質転換体では、ナンノクロロプシスNIES2145株と比べ、C12:0、C14:0脂肪酸の割合が有意に増加した(いずれもp<0.01)。
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
本願は、2012年12月27日に日本国で特許出願された特願2012-286058に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。

Claims (11)

  1. 下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、又は当該遺伝子を含有する組換えベクターを宿主に導入してなる形質転換体を培地で培養する工程、及び得られた培養物から脂質を採取する工程、を含む、炭素原子数12以上14以下の脂肪酸、及び/又はこれを構成成分として含む脂質の製造方法。
    (a)配列番号1の115位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)(a)のタンパク質のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、若しくは配列番号34の128位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
    (c)(a)又は(b)のタンパク質のアミノ酸配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質
  2. 宿主に下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、又は当該遺伝子を含有する組換えベクターを導入する工程を含む、脂質中の脂肪酸組成を改変する方法。
    (a)配列番号1の115位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)(a)のタンパク質のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、若しくは配列番号34の128位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
    (c)(a)又は(b)のタンパク質のアミノ酸配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質
  3. 宿主に下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、又は当該遺伝子を含有する組換えベクターを導入する工程を含む、脂質の生産性を向上させる方法。
    (a)配列番号1の115位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)(a)のタンパク質のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、若しくは配列番号34の128位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質
    (c)(a)又は(b)のタンパク質のアミノ酸配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質
  4. 前記遺伝子が前記(c)のタンパク質をコードし、前記(c)のタンパク質が
    配列番号1の36位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号1の45位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号1の55位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号1の65位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号1の75位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号1の85位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号1の95位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号1の105位〜274位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号14の1位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号14の49位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号14の58位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号14の78位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号14の88位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号14の98位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号14の108位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号14の118位〜287位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号16の1位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号16の35位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号16の55位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、
    配列番号16の85位〜285位までのアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
    これらの配列に1個以上12個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質、
    から選ばれるいずれかのタンパク質である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. 下記(d)〜(f)のいずれかのDNAからなる遺伝子、又は当該遺伝子を含有する組換えベクターを宿主に導入してなる形質転換体を培地で培養する工程、及び得られた培養物から脂質を採取する工程、を含む、炭素原子数12以上14以下の脂肪酸、及び/又はこれを構成成分として含む脂質の製造方法。
    (d)配列番号2の343位〜825位までの塩基配列からなるDNA
    (e)(d)のDNAの塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ配列番号1のアミノ酸配列における115位〜274位までの領域に相当する領域を含み、アシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
    (f)(d)又は(e)のDNAの塩基配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
  6. 宿主に下記(d)〜(f)のいずれかのDNAからなる遺伝子、又は当該遺伝子を含有する組換えベクターを導入する工程を含む、脂質中の脂肪酸組成を改変する方法。
    (d)配列番号2の343位〜825位までの塩基配列からなるDNA
    (e)(d)のDNAの塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ配列番号1のアミノ酸配列における115位〜274位までの領域に相当する領域を含み、アシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
    (f)(d)又は(e)のDNAの塩基配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
  7. 宿主に下記(d)〜(f)のいずれかのDNAからなる遺伝子、又は当該遺伝子を含有する組換えベクターを導入する工程を含む、脂質の生産性を向上させる方法。
    (d)配列番号2の343位〜825位までの塩基配列からなるDNA
    (e)(d)のDNAの塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ配列番号1のアミノ酸配列における115位〜274位までの領域に相当する領域を含み、アシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
    (f)(d)又は(e)のDNAの塩基配列を有し、かつアシル−ACPチオエステラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
  8. 前記宿主が微生物である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  9. 前記微生物が微細藻類である、請求項に記載の方法。
  10. 前記微細藻類がナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に属する藻類である、請求項に記載の方法。
  11. 前記微生物が大腸菌である、請求項10に記載の方法。
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