JP6489672B2 - 関節疾患処置用組成物およびこれを含むキット - Google Patents

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Description

本発明は、関節疾患処置用組成物およびこれを含むキットに関する。
高齢化が進む現代社会において、関節疼痛や関節変性に起因する機能障害である変形性関節症(以下、本明細書において「OA」とも称する。)は、全世界で最も一般的な関節疾患であり、高齢者における日常生活に支障をきたす身体的障害の主要な原因の1つとなっている。また、関節に腫れと痛みを伴う疾患として、多発性関節炎であるリウマチ性関節症(以下、本明細書において「RA」とも称する。)が知られている。RAにおいても、長期間にわたって病状が進行すると、軟骨や骨が破壊されて変性又は変形が起こり、関節を動かせる範囲が狭くなるなど日常生活に支障をきたす身体的障害がもたらされる。
現在、変形性関節症やリウマチ性関節症等の関節症の医薬としてヒアルロン酸やその誘導体を用いた製剤が使用されている。ヒアルロン酸製剤は、通常注射剤として製剤化され、ヒアルロン酸が有する潤滑作用、衝撃吸収作用、軟骨代謝改善作用等を通じた関節症による機能障害の改善及び疼痛抑制を目的として、患部である膝、肩等の関節に直接投与される。製品化されているヒアルロン酸製剤としては、例えば精製ヒアルロン酸ナトリウムを有効成分として含むもの(例えば、アルツ(登録商標)、スベニール(登録商標))がある。当該製剤では、1週毎に1回の頻度で、連続3〜5回の投与が必要とされている。
また、架橋ヒアルロナンを有効成分とする製剤では、1週毎に1回の頻度で連続3回の投与が必要とされるもの(例えば、Synvisc(登録商標))や、1回投与で治療が完結する単回投与用のもの(例えば、Synvisc−One(登録商標)、Gel−One(登録商標)、MONOVISC(登録商標))が知られている。
一方、ステロイドや非ステロイド系の抗炎症化合物は、即効性のある薬剤として知られており、OAやRAに起因した関節疼痛を緩解すること等を目的とした治療にも使用されている。例えば、ステロイドであるトリアムシノロンアセトニドは、関節リウマチなどの関節疾患を治療対象として使用されている。トリアムシノロンアセトニドは、関節腔内注射される薬剤として市販されており、治療には1〜2週間毎の投与を必要とする。また、非ステロイド系抗炎症化合物では、例えばジクロフェナクナトリウムを有効成分として含有する軟膏や経口投与剤が知られており、1日当たり複数回の投与を必要とする。
ヒアルロン酸もしくはその誘導体とステロイドもしくは非ステロイド系抗炎症化合物との混合物または結合物を有効成分とすることも知られている。例えば架橋ヒアルロン酸とトリアムシノロンヘキサアセトニドとの混合物(CINGAL(登録商標))が単回投与用の薬剤として製品化されている。また、ヒアルロン酸またはその誘導体と、ステロイドまたは非ステロイド系抗炎症化合物とが連結した化合物も知られている。例えば特許文献1および2には、抗炎症化合物がスペーサーを介してヒアルロン酸に導入された誘導体が記載されている。これらは速効性のある疼痛緩和と機能障害の改善を通じた長期的な疼痛緩和との両立を目指したものである。しかしながら、OAやRAに対する十分な治療方法が確立し、提供されたと言える段階には現在も至っていない。
国際公開第2005/066214号 特開2016−156029号公報
医薬品の投与間隔は、一般に、患者の身体的負担や服薬管理の煩雑さといった精神的負担とも関連して決定される。医薬品の中でも、その投与における侵襲性が比較的高い注射剤に関しては、1〜2週間毎の連続投与が必要な製剤の場合、患者に対する身体的負担が比較的大きい。一方、単回投与用の注射剤は、1回投与後、保険適用の関係上、一定期間は次回投与ができない。保険適用可能な次回投与までの期間の長さや患者の経済的負担も考慮すると、投与間隔に関して多様な選択肢が存在していることが患者にとって望ましい。
ステロイドや非ステロイド系の抗炎症化合物は即効性に優れるため、急性炎症のような急性症状に対しては高い有効性を示す場合が多い。その一方で、このような抗炎症化合物は生体内での代謝・排泄速度が比較的速く、効果の持続時間が短いため、十分な薬効を維持するためには高頻度での繰り返し投与が必要となる。
注射剤は侵襲性が比較的高い剤形であるため、高頻度での繰り返し投与が患者の負担になる傾向があるところ、慢性炎症(例えば疼痛継続期間が12週間以上である)のような慢性症状を有する患者において関節疾患処置剤が注射剤として投与される場合には、この傾向が特に強い。
したがって、本発明は、慢性的な関節疾患患者(例えば疼痛継続期間が12週間以上である患者)においても、負担が小さく抑えられ、かつ優れた薬効が達成される、注射剤として使用可能な関節疾患処置用組成物の提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題を鑑みて鋭意検討を行ったところ、抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有する関節疾患処置用組成物は、所定用法によってヒト関節疾患患者に投与された場合に特に優れた改善効果を発揮することを意外にも発見し、当該関節疾患処置用組成物によって上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。より詳細には、所定の用法として、ヒト関節疾患患者に対して4週以上の期間に1回、注射剤の形態で投与することにより、当該課題は解決された。
本発明の一側面は、抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有し、ヒトの関節疾患患者に対して所定の用法で投与されることを特徴とする、関節疾患処置用組成物に関する。本発明の別の側面は、当該関節疾患処置用組成物を、それを必要とする患者の関節内に所定の用法で投与する工程を含む、ヒト関節疾患の治療方法に関する。ここで、所定の用法とは、例えば4週以上の期間に1回注射剤として投与することを意味する。本発明のまた別の側面は、当該関節疾患処置用組成物を含むキットに関する。ここで、当該キットとは、例えば当該組成物が注射筒内に充填されている注射器をその一構成要素とするものである。
より具体的な例として、本発明は次の[1]から[5]に関する。
[1]ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有し、ヒト関節疾患患者に対して4週以上の期間に1回注射剤として投与されるように用いられる、関節疾患処置用組成物。
[2]前記[1]に記載の組成物が注射筒内に充填されている注射器を含む、キット。
[3]ヒト関節疾患患者の関節疾患処置方法における使用のための、ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有する組成物であって、前記方法はヒト関節疾患患者に対して4週以上の期間に1回注射剤として前記組成物を投与することを特徴とする、組成物。
[4]ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の、関節疾患処置用組成物の製造における使用であって、前記組成物は注射剤であって、ヒト患者に対する4週以上の期間に1回の関節疾患処置用である、使用。
[5]ヒトの関節疾患処置方法であって、ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有する組成物を関節疾患患者の関節に投与する工程を含み、前記投与は4週以上の期間に1回行うものであり、前記組成物は注射剤である方法。
以下、本発明を実施するための形態について、例を挙げて説明する。
本発明の一側面は、ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有し、ヒト関節疾患患者に対して4週以上の期間に1回注射剤として投与されるように用いられる、関節疾患処置用組成物に関する。
本発明の別の側面は、ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の有効量を、ヒト関節疾患患者に対して4週以上の期間に1回注射剤として投与することを含む、関節疾患の処置方法に関する。
本発明の別の側面は、ヒト関節疾患患者の処置方法における注射剤としての使用のための組成物であって、ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含み、4週以上の期間に1回の頻度で投与される組成物に関する。
本発明のさらに別の側面は、ヒト関節疾患患者の処置用注射剤の製造における、ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の使用であって、前記処置用注射剤の投与頻度が4週以上の期間に1回である使用に関する。
本発明によれば、抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有する関節疾患処置用組成物を所定の用法によってヒト関節疾患患者へ投与することにより、患者の負担が小さく、且つ優れた薬効が達成される。本発明によれば、慢性症状を有する(例えば疼痛継続期間が12週間以上である患者)患者に対しても、上記効果をもたらすことができる。より詳細には、注射剤である前記組成物を4週以上の期間に1回投与することにより、関節疾患患者において、当該関節疾患処置用組成物による優れた改善効果をもたらすことができる。本発明によって、従来の処置方法よりも有効性の高い、ヒト関節疾患患者に対する処置方法、並びに当該処置方法のための組成物及びキット等が提供される。
当業者に明らかであるように、本発明の一側面の好ましい性質および特徴は、本発明の他の側面に適用することができる。
本明細書において、「ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩」を、単に「ヒアルロン酸分子」とも称する。また、「ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩」を、単に「修飾ヒアルロン酸分子」とも称する。
本明細書において「薬学的に許容される塩」とは、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩のような金属塩;アンモニウム塩;メチルアミン塩、ジエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩のようなアミン塩;塩酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、硝酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のような無機酸塩;酢酸塩、フタル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、酒石酸塩、酒石酸水素塩、リンゴ酸塩のような有機酸塩等が例示できるが、これらに限定されない。
本明細書において「関節疾患」とは、膝関節、肩関節、首関節、股関節、脊椎関節、顎関節、指関節、肘関節、手関節、足関節等の各種関節における疾患である。関節疾患としては、より具体的には、変形性関節症、関節リウマチ、関節軟骨損傷、膝関節骨壊死症、大腿骨壊死症、肩関節炎、細菌性関節炎、ウイルス性関節炎、神経病性関節症等が例示できる。本発明にかかる関節疾患処置用組成物は、好ましくは変形性関節症または関節リウマチに用いられ、より好ましくは変形性関節症に用いられる。また、本発明にかかる関節疾患処置用組成物は、好ましくは膝関節の関節疾患に用いられる。本発明にかかる関節疾患処置用組成物は、更に好ましくは変形性膝関節症に用いられる。
本明細書にいて「処置」とは、疾患それ自体に対する処置(例えば、疾患における器質的病変を治癒または改善させる処置)であっても、疾患に伴う諸症状(例えば、疼痛、こわばり、関節機能(例えば、日常行動の困難性(階段の昇降や乗用車の乗降等に代表される)によって評価され得る)など関節に起因するADLの低下)に対する処置であってもよい。また、「処置」は、完全な治癒のみならず、疾患の一部又は全部の症状の改善、および疾患の進行の抑制(維持および進行速度の低下を含む)ならびに予防を含む。ここで予防とは、例えば関節における器質的病変が認められるものの関節の機能的障害、疼痛および/またはこわばりといった関節疾患に伴う諸症状が生じていない場合において、当該諸症状の発生を未然に防ぐことを含む。また、予防とは、例えば関節における明確な器質的病変が認められていないものの、関節の機能的障害、疼痛および/またはこわばりといった関節疾患に伴う諸症状が生じている場合において、当該器質的な病変の発生を未然に防ぐことや当該諸症状のうち顕在化していない症状の発展を抑制することを含む。本発明の関節疾患処置用組成物は、好ましくは関節疾患における症状の改善、治癒、または進行の抑制に用いられ、より好ましくは症状の改善または治癒に用いられ得る。一実施形態では、関節痛の改善、治癒もしくは進行の抑制、または関節機能の改善に好適に用いられ得る。
本明細書において「有効量」とは、合理的なリスク/ベネフィット比に見合って、且つ過度の有害副作用(毒性、刺激性およびアレルギー反応など)を有さずに、所望の応答を得るのに十分な成分の量を意味する。当該「有効量」は、投与対象となる患者の症状、体格、年齢、性別等の諸要素によって変化し得る。しかしながら、当業者であれば、諸要素の組み合わせのそれぞれについての個別の試験を要するまでもなく、一又は複数の具体的な試験例(例えば、後述する実施例)の結果と技術常識とに基づいて、他の場合における有効量をも決定することができる。
ヒアルロン酸分子は、N−アセチル−D−グルコサミンとD−グルクロン酸とがβ1,3結合した構造を二糖単位(構成二糖単位)とし、当該構成二糖単位が繰り返しβ1,4結合した基本骨格により構成されたグリコサミノグリカンを含み、当該基本骨格により構成されたグリコサミノグリカンであれば構造上特に限定されない。また、ヒアルロン酸分子は、動物由来、または微生物由来の精製物、化学的合成等の合成物など、いずれの手法により得られたものであっても用いることが可能である。なお、本明細書におけるヒアルロン酸分子および修飾ヒアルロン酸分子は、架橋反応を施すことによって上記基本骨格間に導入された架橋構造を有しないものである。すなわち、ヒアルロン酸分子および修飾ヒアルロン酸分子としては、光反応性基を有しないものが採用される。なお、上記「光反応性基」とは、光照射によって光二量化反応または光重合反応を生じる化合物の残基であって、ヒアルロン酸分子または修飾ヒアルロン酸分子の分子内または分子間にて架橋する化合物の残基(例えば、ケイ皮酸、置換ケイ皮酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ソルビン酸、クマリン、チミンなど)を指す。また、ヒアルロン酸分子は、還元末端を有しているものや、分子中の一部の水酸基がアセチル化されたものなど、本発明の目的および効果が損なわれない程度において誘導体化されたものであってもよい。
ヒアルロン酸分子または修飾ヒアルロン酸分子の重量平均分子量は特に限定されないが、10,000以上5,000,000以下が例示され、好ましくは500,000以上3,000,000以下、より好ましくは600,000以上3,000,000以下、さらに好ましくは600,000以上1,200,000以下である。なお、本明細書において、「重量平均分子量」は、極限粘度法により測定した値である。
本発明に用いられるヒアルロン酸分子および修飾ヒアルロン酸分子は、塩を形成していない状態でも良く、また薬学的に許容される塩により塩を形成した状態でも良い。ヒアルロン酸および修飾ヒアルロン酸の薬学的に許容される塩とは、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩のような金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。生体への親和性が特に高いという観点から、使用されるヒアルロン酸塩および修飾ヒアルロン酸塩は薬学的に許容されるアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)が好ましく、中でもナトリウム塩が特に好ましい。
修飾ヒアルロン酸分子は、ヒアルロン酸分子に対して、スペーサーを介してまたは介さずに、抗炎症化合物を結合させることにより得ることができる。修飾ヒアルロン酸分子は、1種の抗炎症化合物が結合されてなるものであっても、2種以上の抗炎症化合物が結合されてなるものであってもよい。
ヒアルロン酸分子と抗炎症化合物との結合様式は、本件所望の関節疾患に対する処置効果が損なわれない限りにおいてその様式は特に制限されず、例えば、共有結合であってもよい。例えば、ヒアルロン酸分子と抗炎症化合物とは、アミド結合、エーテル結合等の結合様式により直接結合していてもよい。または、ヒアルロン酸分子と抗炎症化合物とがスペーサーを介して結合している場合、ヒアルロン酸分子とスペーサーとの結合様式は、例えば、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、スルフィド結合が挙げられ、スペーサーと抗炎症化合物との結合様式は、例えば、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、スルフィド結合が挙げられる。
好ましい一実施形態では、修飾ヒアルロン酸分子は、ヒアルロン酸分子に対して、スペーサーを介して抗炎症化合物が結合されてなる。抗炎症化合物の有する官能基に合わせてスペーサーの官能基を選択することにより、所望の結合様式にて抗炎症化合物をヒアルロン酸分子に導入できる。
生分解性の観点から、抗炎症化合物に由来する基が、下記式(1)で示されるスペーサーを介してヒアルロン酸骨格に共有結合されてなる修飾ヒアルロン酸分子が好ましい一実施形態として提供される。なお、本明細書において、「ヒアルロン酸骨格」とは、修飾ヒアルロン酸分子のうち、ヒアルロン酸分子に由来する構造部分をいう。
Figure 0006489672
式(1)中、Rは水素原子または炭素数1以上3以下のアルキル基であり;Rは置換または無置換の炭素数1以上12以下の直鎖アルキレン基である。Rは、水素原子であることが好ましい。Rは、置換または無置換の炭素数1以上4以下の直鎖アルキレン基であることが好ましく、無置換の炭素数1以上2以下の直鎖アルキレン基であることがより好ましい。薬効の持続性の観点から、Rはエチレン基であることが更に好ましく、Rが水素原子であり且つRがエチレン基であることが特に好ましい。
の置換基としては、炭素数6以上20以下のアリール基、炭素数1以上11以下のアルコキシ基、炭素数1以上11以下のアシル基、カルボキシ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。
生分解性の観点から、下記式(2)で示される構成二糖単位を含む修飾ヒアルロン酸分子がより好ましい一実施形態として提供される。
Figure 0006489672
ただし、式(2)中、RおよびRは式(1)と同義であり、上記式(1)における定義が適宜適用され得る。式(2)中、Xは抗炎症化合物に由来する基を示す。
水性組成物にした場合の溶解性と抗炎症化合物の有効濃度とのバランスの観点から、好ましい一実施形態では、修飾ヒアルロン酸を構成する全構成二糖単位に対する式(2)で示される構成単位の割合(後述の導入率に相当する)が、0.1モル%以上80モル%以下である修飾ヒアルロン酸分子が提供される。修飾ヒアルロン酸を構成する全構成二糖単位に対する式(2)で示される構成単位の割合は、5モル%以上50モル%以下がより好ましく、10モル%以上30モル%以下が更に好ましく、15モル%以上30モル%以下が特に好ましい。式(2)で示される構成単位の割合は、ヒアルロン酸分子への抗炎症化合物の導入反応工程において、縮合剤、縮合補助剤、スペーサー分子の反応当量、抗炎症化合物の反応当量等を変えることにより調整可能である。なお、修飾ヒアルロン酸分子における構成二糖単位のうち、上記式(2)で示される構成二糖単位以外の構成二糖単位において、グルクロン酸由来単位は、カルボキシ基またはカルボン酸の塩の基のいずれを有していてもよいが、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)の基を有することが好ましい。
スペーサーとして利用する化合物(スペーサー化合物)は、ヒアルロン酸分子と結合する官能基および抗炎症化合物と結合する官能基をそれぞれ少なくとも1つ有するものを、ヒアルロン酸分子および抗炎症化合物との結合様式に応じて適宜選択すればよい。
例えば、ヒアルロン酸分子のカルボキシ基との間でアミド結合を形成させてスペーサーを導入する場合は、アミノ基を有するスペーサー化合物が選択され得る。ヒアルロン酸分子のカルボキシ基との間でエステル結合を形成させてスペーサーを導入する場合は、水酸基を有するスペーサー化合物が選択され得る。ヒアルロン酸分子の水酸基との間でエステル結合を形成させてスペーサーを導入する場合は、カルボキシ基を有するスペーサー化合物が選択され得る。スペーサー化合物としては、ヒアルロン酸分子への導入のし易さおよび生体内での安定性の観点から、アミノ基を有するスペーサー化合物が望ましい形態の1つとして挙げられる。
同様に、抗炎症化合物のカルボキシ基との間でエステル結合を形成させてスペーサーを導入する場合は、水酸基を有するスペーサー化合物が選択され得る。抗炎症化合物のカルボキシ基との間でアミド結合を形成させてスペーサーを導入する場合は、アミノ基を有するスペーサー化合物が選択され得る。抗炎症化合物の水酸基との間でエステル結合を形成させてスペーサーを導入する場合は、カルボキシ基を有するスペーサー化合物が選択され得る。抗炎症化合物のメルカプト基との間でチオエステル結合を形成させてスペーサーを導入する場合は、カルボキシ基を有するスペーサー化合物が選択され得る。生分解による抗炎症化合物のリリースの観点から、スペーサーと抗炎症化合物との結合様式はエステル結合またはチオエステル結合であることが好ましく、エステル結合であることがより好ましい。
スペーサー化合物は、上述の様に、ヒアルロン酸分子や抗炎症化合物が有する官能基に応じて適宜選択可能であるが、例えば、炭素数2以上18以下のジアミノアルカン、置換基を有していても良い炭素数2以上12以下のアミノアルキルアルコール、およびアミノ酸等が挙げられる。アミノ酸としては、天然、非天然のアミノ酸であってもよく、特に限定されないが、例えば、グリシン、β−アラニン、γ−アミノ酪酸が挙げられる。
抗炎症化合物との間で結合を形成し得る官能基を複数有するスペーサー化合物(多価スペーサー化合物)を用いることで、1つのスペーサーに複数の抗炎症化合物を結合させることが可能となる。よって、抗炎症化合物を導入するヒアルロン酸分子の1つの官能基(例えば1つのカルボキシ基)に対して、複数の抗炎症化合物を導入することが可能になる。また、多価スペーサー化合物を用いることで、ヒアルロン酸分子が有するカルボキシ基や水酸基といった親水性基の一部のみを多価スペーサー化合物と反応させて、より多くの抗炎症化合物を導入することができる。このため、関節疾患処置用組成物を水性組成物にする場合に水溶性の観点から多価スペーサー化合物を用いることの利点がある。当該多価スペーサー化合物の例として、2−アミノプロパン−1,3−ジオール、セリン、トレオニン、2−アミノ−1,5−ペンタンジオール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
ヒアルロン酸分子にスペーサーおよび抗炎症化合物を導入する方法は、スペーサーを導入したヒアルロン酸分子に抗炎症化合物を導入してもよく、予めスペーサーを導入した抗炎症化合物をヒアルロン酸分子と反応させてもよい。
抗炎症化合物、ヒアルロン酸分子およびスペーサー化合物をそれぞれ結合させる方法は特に限定されない。例えば、エステル結合、アミド結合およびチオエステル結合などを形成できる方法であれば、該結合反応を行う手段として一般的に用いられる常法を用いることが可能であり、反応条件に関しても当業者が適宜判断し選択することが出来る。
ヒアルロン酸分子と、スペーサー化合物またはスペーサー結合抗炎症化合物との結合反応は、ヒアルロン酸分子のカルボキシ基あるいは水酸基どちらを利用しても達成できるが、官能基の持つ反応性の高さからカルボキシ基の方が容易に達成できる。このような結合を達成する方法として、例えば水溶性カルボジイミド等(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドメチオシド等)の水溶性の縮合剤を使用する方法、N−ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu)やN−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等の縮合補助剤と上記の縮合剤とを使用する方法、活性エステル法、酸無水物法等が挙げられる。ヒアルロン酸分子と、スペーサー化合物またはスペーサー結合抗炎症化合物との結合は、エステル結合またはアミド結合であることが好ましく、アミド結合であることが更に好ましい。
修飾ヒアルロン酸分子における抗炎症化合物の導入率(以下、本明細書において「修飾ヒアルロン酸分子における抗炎症化合物の導入率」を、単に「導入率」とも称する。)は、水性組成物にした場合の溶解性と抗炎症化合物の有効濃度とのバランスの観点からは、0.1モル%以上80モル%以下が好ましく、5モル%以上50モル%以下がより好ましく、10モル%以上30モル%以下が更に好ましく、15モル%以上30モル%以下が特に好ましい。
ここで、本明細書における「導入率」とは、下記計算式1にて算出される値であり、例えば吸光度測定により求めることができる。導入率は、より具体的には、カルバゾール吸光度法により算出した修飾ヒアルロン酸分子構成二糖単位当たりのモル数と、各抗炎症化合物特有の吸収度を用いて予め作成した検量線から算出した抗炎症化合物のモル数とを、下記計算式1に当てはめることにより得られる。導入率は、ヒアルロン酸分子への抗炎症化合物の導入反応工程において、縮合剤、縮合補助剤、スペーサー分子の反応当量、抗炎症化合物の反応当量等を変えることにより調整可能である。
Figure 0006489672
一実施形態では、スペーサーを介してヒアルロン酸分子に抗炎症化合物を導入する反応後に、アルカリ処理を行う。これにより、修飾ヒアルロン酸分子を含む組成物の流動性や、水性溶媒中での修飾ヒアルロン酸分子の溶解性が向上する場合がある。当該アルカリ処理は、導入反応後の反応溶液がアルカリ性となる処理である限り特に限定されない。具体的には、有機塩基または無機塩基の何れかを該溶液に添加する方法が例示されるが、その後の処理等を考慮すると無機塩基を添加する方法が好ましい。特に、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムのような弱塩基は、ヒアルロン酸分子や抗炎症化合物に影響を及ぼすおそれが低いことから望ましい。ここでのアルカリ処理のpH条件は、例えば7.2以上11以下、好ましくは7.5以上10以下である。また、アルカリ処理の処理時間は特に限定されないが、例えば2時間以上12時間以下、好ましくは2時間以上6時間以下である。具体的一例としては、スペーサーを導入した抗炎症化合物誘導体をヒアルロン酸分子と反応させた後、反応液に炭酸水素ナトリウム等の弱アルカリを加え、数時間攪拌処理した後、中和、エタノール沈殿、乾燥等の後処理をすることにより目的とする修飾ヒアルロン酸分子を得ることができる。
本明細書における「抗炎症化合物」としては、抗炎症作用を有するものとして従来公知のステロイド系化合物および非ステロイド系化合物が使用できる。
ステロイド系抗炎症化合物として、具体的には、ヒドロコルチゾン、コルチゾン酢酸エステル、デキサメタゾン、デキサメタゾンパルミチン酸エステル、ベタメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、パラメタゾン酢酸エステル、ハロプレドン酢酸エステル、プレドニゾロンファルネシル酸エステル、テトラコサクチド酢酸塩等が例示できる。
本明細書において、非ステロイド系抗炎症化合物(以下、本明細書において「NSAID」とも称する。)としては、アリール酢酸系化合物(例えば、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、ジクロフェナク、エトドラク、アセメタシン、プログルメタシン、アンフェナク、フェルビナク、ナブメトン、モフェゾラク、アルクロフェナク、およびこれらの化合物の薬学的に許容される塩など)、オキシカム系化合物(例えば、ピロキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、アンピロキシカム、テノキシカム、およびこれらの化合物の薬学的に許容される塩など)、プロピオン酸系化合物(例えば、イブプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、チアプロフェン酸、オキサプロジン、ザルトプロフェン、ロキソプロフェン、フェンブフェン、アルミノプロフェン、プラノプロフェン、およびこれらの化合物の薬学的に許容される塩など)、フェナム酸系化合物(例えば、メフェナム酸、フルフェナム酸、メクロフェナム酸、トルフェナム酸、フロクタフェニン、およびこれらの化合物の薬学的に許容される塩など)、コキシブ系化合物(例えば、セレコキシブなど)、サリチル酸系化合物(例えば、アスピリン、サリチル酸、サルサラート、ジフルニサル、およびこれらの化合物の薬学的に許容される塩など)、アセトアミノフェン、チアラミド、エピリゾール、エモルファゾン、チノリジン、トルメチン、ジフルニサルフロクタフェニン、疾患修飾性抗リウマチ化合物(DMARD)(例えば、アクタリット、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、レフルノミド、ペニシラミン、オーラノフィン、ミゾリビン、ロベンザリット、タクロムリス、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ、トシリズマブなど)等が例示できる。
ヒアルロン酸分子に対する抗炎症化合物の導入が容易であるという観点から、上記で例示される抗炎症化合物のうち、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、ジクロフェナク、エトドラク、アセメタシン、アンフェナク、フェルビナク、モフェゾラク、アルクロフェナク、イブプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、チアプロフェン酸、オキサプロジン、ザルトプロフェン、ロキソプロフェン、フェンブフェン、アルミノプロフェン、プラノプロフェン、メフェナム酸、フルフェナム酸、メクロフェナム酸、トルフェナム酸、アスピリン、サリチル酸、サルサラート、ジフルニサル、アクタリット、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、およびこれらの化合物の薬学的に許容される塩のような、側鎖にカルボキシ基またはカルボン酸の塩の基を有するものが好ましい。
また、抗炎症化合物は、薬理効果の観点からは、上記で例示されるようなアリール酢酸系化合物であることが好ましく、ジクロフェナクまたはその薬学的に許容される塩であることがより好ましい。
好ましい一実施形態では、抗炎症化合物として、下記式(3)で示される分子骨格を含む化合物が用いられる。
Figure 0006489672
ただし、上記式(3)において、Yは水素原子、ナトリウム原子、またはカリウム原子である。
より好ましい一実施形態では、抗炎症化合物として、下記式(3’)で示される化合物が用いられる。
Figure 0006489672
式(3’)において、Rは直鎖または分岐鎖の炭素数1以上6以下のアルキル基、直鎖または分岐鎖の炭素数1以上6以下のアルコキシ基および水素原子からなる群から選択される。一実施形態では、Rは、Rが結合しているベンゼン環においてカルボキシメチル基を1位、−NH−を2位とした場合に、5位の位置に結合している。R、RおよびRは、それぞれ独立に、直鎖または分岐鎖の炭素数1以上6以下のアルキル基、直鎖または分岐鎖の炭素数1以上6以下のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)および水素原子からなる群から選択される。RおよびRは、それぞれ独立に、直鎖または分岐鎖の炭素数1以上6以下のアルキル基、直鎖または分岐鎖の炭素数1以上6以下のアルコキシ基、トリフルオロメチル基およびハロゲン原子からなる群から選択される。ただし、RおよびRの少なくとも一方はハロゲン原子である。式(3’)において、Yは上記式(3)においてと同義である。前記した抗炎症化合物のより好ましい例の一つであるジクロフェナクは、R、R、RおよびRが水素原子であり、RおよびRが塩素原子であり、Yが水素原子である態様である。
上記式(3’)で示される化合物としては、例えば、国際公開第99/11605号に記載の化合物が挙げられる。同公報の記載内容は本明細書の記載の引用として取り込まれる。
一実施形態では、本発明の関節疾患処置用組成物は、0.01重量%以上80重量%以下の修飾ヒアルロン酸分子を含有する。他の実施形態では、本発明の関節疾患処置用組成物は、0.1重量%以上10重量%以下の修飾ヒアルロン酸分子を含有する。
本発明の関節疾患処置用組成物は、上記の修飾ヒアルロン酸分子に加えて、薬学上許容される担体を含み得る。当該薬学上許容される担体としては、注射用水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水、リンゲル液等の水性溶媒が好ましく例示される。一実施形態では、関節疾患処置用組成物は、当該薬学上許容される担体と修飾ヒアルロン酸分子とを混合することにより調製される。必要に応じ、緩衝剤などのような添加物を組成物に添加してもよい。また、関節疾患処置用組成物は、各成分の混合後に、例えばフィルター濾過等により、除塵、除菌、滅菌等の処理を行ってもよい。
ヒアルロン酸製剤の投与頻度は製剤の種類によって相違し、精製ヒアルロン酸ナトリウムを有効成分として含むものは、1週毎に1回の頻度で、連続3〜5回の投与が必要とされている。例えば、並木ら(「膝」 9(1):69−73,1983)には、ヒアルロン酸分子(分子量約80万)を1%含む製剤を変形性膝関節症ヒト患者の膝関節内へ2.5ml注射した場合、(i)注入したヒアルロン酸分子は、注射から72時間後にはほとんど残留していないこと、(ii)関節液中のヒアルロン酸分子の分子量の測定結果から、ヒアルロン酸注入の影響は弱いながらも1週間後まで残っているとうかがわれることが記載されている。したがって、抗炎症化合物とヒアルロン酸分子とが結合した化合物についても、抗炎症化合物の徐放性がヒアルロン酸分子との結合により向上し得ることを考慮しても、注入したヒアルロン酸分子の生体内における上記残留期間を超える長期的な効果の持続は達成困難であると考えられてきた。一方、本発明者らは、おどろくべきことに、抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸分子を有効成分として含有する組成物が、4週間という長期間にわたって関節疾患の処置に有効性を示すことを見出した。特に、4週以上の期間に1回注射剤として投与されるように用いられることで、慢性的な関節疾患患者に対しても優れた薬効を示すことを見出した。すなわち、本発明の関節疾患処置用組成物は、ヒトに対して4週以上の期間に1回注射剤として投与されるように用いられる。これにより、ヒト患者の身体的負担や精神的負担が最小化され、且つ長期的に持続する優れた薬効が達成される。また、患者の負担が最小化された結果として、服薬コンプライアンスの向上も期待される。
本発明の関節疾患処置用組成物は、4週以上の期間に1回の頻度で、関節内に投与される。本発明の関節疾患処置用組成物は、薬効の観点から、4週以上52週以下の期間に1回投与されることが好ましく、4週以上12週以下の期間に1回投与されることがより好ましく、4週以上8週以下の期間に1回投与されることが更に好ましく、4週以上8週未満の期間に1回投与されることが特に好ましい。
一実施形態では、関節疾患処置用組成物は、約4週に1回の頻度で、関節内に投与される。
一実施形態では、投与から4週間以後まで持続する疼痛抑制効果を有する関節疾患処置用組成物が提供される。本明細書において「疼痛抑制効果」とは、ある評価時点において、WOMAC(登録商標) A(痛み)スコアがプラセボ群に対して統計的に有意に低い(P値が0.05以下である)ことをいう。一実施形態では、投与から4週間以後6週間以前において疼痛抑制効果を有する関節疾患処置用組成物が提供される。
本発明の関節疾患処置用組成物の投与回数は、患者の関節疾患の状態によって適宜決定されるが、例えば2回以上であり、好ましくは3回以上である。
好ましい一実施形態では、本発明の関節疾患処置用組成物の治療期間は投与開始から患者の自覚症状が認められなくなるまでであり、当該治療期間における投与回数は2回以上である。より好ましい一実施形態では、関節疾患処置用組成物の投与回数は2回以上13回以下であり、更に好ましくは3回以上10回以下である。上記「自覚症状」としては、例えば、疼痛や身体機能(関節機能)に関する自覚症状が例示できる。自覚症状の評価は、例えば、実施例に記載のWOMAC(登録商標) AおよびCを用いて行うことができる。
本発明の関節疾患処置用組成物の各投与間隔は、それぞれ同一であっても異なってもよい。また、関節疾患処置の過程において、4週未満の投与間隔が含まれることは妨げられない。好ましくは、各投与間隔は、それぞれ4週以上である。好ましい一実施形態では、本発明の関節疾患処置用組成物は4週以上の一定間隔で投与される。
一実施形態では、薬効の観点から、1回あたり、好ましくは5mg以上100mg以下、より好ましくは10mg以上50mg以下、さらに好ましくは20mg以上40mg以下、特に好ましくは約30mgの修飾ヒアルロン酸分子が投与される。本発明の一態様として、当該投与のために用いられる関節疾患処置用組成物が提供される。
一実施形態では、薬効の観点から、1回あたり、抗炎症化合物として、好ましくは0.1mg以上20mg以下、より好ましくは0.5mg以上10mg以下、さらに好ましくは1mgを超えて5mg以下の量を含む関節疾患処置用組成物が投与される。本発明の一態様として、当該投与のために用いられる関節疾患処置用組成物が提供される。
本発明の関節疾患処置用組成物が、上記で例示されるような水性溶媒を含む水性組成物である場合、処置の利便性の観点から、1回あたり、好ましくは0.5mL以上10mL以下、より好ましくは2mL以上4mL以下の水性組成物が投与される。
好ましい一実施形態では、1回あたり10mg以上50mg以下の修飾ヒアルロン酸分子が、4週以上8週未満に1回の頻度で、2回以上投与される。本発明の一態様として、当該投与のために用いられる関節疾患処置用組成物が提供される。
好ましい別の実施形態では、1回あたり20mg以上40mg以下の修飾ヒアルロン酸分子が、4週以上8週未満の期間に1回の頻度で、3回以上投与される。本発明の一態様として、当該投与のために用いられる関節疾患処置用組成物が提供される。
本発明の関節疾患処置用組成物は、ヒト(ヒト患者)を対象とする。薬効の観点から、本発明の関節疾患処置用組成物は、12週間以上の疼痛を有する(すなわち、疼痛継続期間が12週間以上である)関節疾患患者に対して投与されることが好ましいが、疼痛継続期間が12週間未満の患者に対して投与されることは妨げられない。本発明の好ましい一実施形態では、12週間以上の疼痛を有する関節疾患患者を対象とする。ここで、「12週間以上の疼痛を有する関節疾患患者」とは、処置対象である関節疾患の患部について、本発明の関節疾患処置用組成物の投与開始前に、連続的に12週間以上の疼痛を自覚症状として有する患者を意味する。
同様の観点から、本発明の関節疾患処置用組成物は、26週間(約半年間)以上の疼痛を有する関節疾患患者に対して投与されることがより好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、26週間以上継続した疼痛を有する関節疾患患者を対象とする。ここで、「26週間以上の疼痛を有する関節疾患患者」とは、処置対象である関節疾患の患部について、本発明の関節疾患処置用組成物の投与開始前に、連続的に26週間以上の疼痛を自覚症状として有する患者を意味する。
本発明の関節疾患処置用組成物は、52週間(約1年間)以上の疼痛を有する関節疾患患者に対して投与されることがさらに好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、52週間以上継続した疼痛を有する関節疾患患者を対象とする。ここで、「52週間以上の疼痛を有する関節疾患患者」とは、処置対象である関節疾患の患部について、本発明の関節疾患処置用組成物の投与開始前に、連続的に52週間以上の疼痛を自覚症状として有する患者を意味する。
本発明の関節疾患処置をメカニズムの側面から制限するものではないものの、疼痛継続期間が長期の患者においては、抗炎症化合物とヒアルロン酸分子との相乗的効果により、特に有効な結果がもたらされるのではないかと推測される。
本発明の関節疾患処置用組成物は、薬効の観点から、ボディマス指数(以下、本明細書において「BMI」とも称する。)に注目し、BMI(患者の体重(kg)/(患者の身長(m)))が25kg/m以上の関節疾患患者に対して投与されることが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態は、BMIが25kg/m以上である関節疾患患者を対象とする。BMIが25kg/m以上であることは、日本肥満学会の「肥満症診断基準2011」における肥満の基準とされており、合併症(例えば、耐糖能障害、脂質異常症、高血圧等)の発生頻度上昇との関連性が指摘されている。以下の実施例で具体的に示されるように、関節疾患患者のうちBMIが25kg/m以上である患者群において、本発明の関節疾患処置用組成物による顕著な改善効果が確認されている。BMIが高くなる、すなわち肥満度が高まると関節にかかる負荷が大きくなる(関節疾患を生じやすい状況になる)と考えられるとしても、BMIが所定範囲の患者群において関節疾患処置用組成物による処置によい応答があり、顕著な改善効果がもたらされることは意外であった。当該顕著な改善をもたらすメカニズムは不明であるが、抗炎症化合物とヒアルロン酸分子との相乗的効果により、肥満度が高く関節にかかる負荷が大きい関節疾患患者に対して特に有効な結果が得られるのではないかと推測される。なお、上記メカニズムは推測であり、本発明の関節疾患処置をメカニズムの側面からを制限するものではない。
より好ましくは、本発明の関節疾患処置用組成物は、BMIが25kg/m以上35kg/m未満の関節疾患患者に対して投与される。すなわち、本発明の一実施形態は、BMIが25kg/m以上35kg/m未満である関節疾患患者を対象とする。なお、上記のBMIは、本発明の関節疾患処置用組成物の投与開始前4週間以内に計測された値を指し、好ましくは、本発明の関節疾患処置用組成物の投与開始前2週間以内に計測された値である。
一実施形態では、本発明にかかる関節疾患処置用組成物が注射筒内に充填されている注射器が提供される。一実施形態では、本発明にかかる関節疾患処置用組成物が注射筒内に充填されている注射器を含むキットも、提供可能である。当該注射器は、薬剤押出用プランジャー等を具備し、本発明にかかる関節疾患処置用組成物が押出可能なものである。一実施形態では、注射器内に充填された関節疾患処置用組成物は、滅菌状態で提供され得る。一実施形態では、注射筒内には、1回投与量の関節疾患処置用組成物が予め充填されている。また、該キットは、修飾ヒアルロン酸分子を、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水または注射用水に溶解した溶液を注射筒に充填し、薬剤押出用プランジャーで摺動可能に密封してなる医療用注射剤を含むキットとすることが可能である。なお、薬剤押出用プランジャーは通常用いられているものを用いることが可能であるが、ゴム又は合成ゴム等の弾性体によって形成され、注射筒に摺動可能に密着状態で挿入される。また、キットには、プランジャーを押込操作し薬剤を押出する為のプランジャロッドや、取扱説明書または添付文書等が含まれていても良い。
<実施形態>
本発明の好ましい実施形態を以下に例示する。
[1]ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有し、ヒト関節疾患患者に対して4週以上の期間に1回注射剤として投与されるように用いられる、関節疾患処置用組成物。
[2]26週間以上の疼痛を有する前記関節疾患患者に用いられることを特徴とする、前記[1]に記載の組成物。
[3]ボディマス指数(BMI)が25kg/m以上である前記関節疾患患者に用いられることを特徴とする、前記[1]または[2]に記載の組成物。
[4]前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩は、前記抗炎症化合物に由来する基がスペーサーを介してヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩に対して結合されてなる、前記[1]〜[3]のいずれか1に記載の組成物。
[5]前記ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩と前記スペーサーとの結合様式が、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、およびスルフィド結合からなる群から選択される、前記[4]に記載の組成物。
[6]前記スペーサーと前記抗炎症化合物に由来する基との結合様式が、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、およびスルフィド結合からなる群から選択される、前記[4]または[5]に記載の組成物。
[7]前記抗炎症化合物に由来する基が、下記式(1)で示されるスペーサーを介してヒアルロン酸骨格に共有結合されてなる、前記[1]〜[6]のいずれか1に記載の組成物:
Figure 0006489672
ただし、式(1)中、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり;Rは置換または無置換の炭素数1〜12の直鎖アルキレン基である。
[8]Rが水素原子であり、Rがエチレン基である、前記[7]に記載の組成物。
[9]前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩が、下記式(2)で示される構成単位を含む、前記[1]〜[7]のいずれか1に記載の組成物:
Figure 0006489672
ただし、式(2)中、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり;Rは置換または無置換の炭素数1〜12の直鎖アルキレン基であり;Xは前記抗炎症化合物に由来する基を示す。
[10]Rが水素原子であり、Rがエチレン基である、前記[9]に記載の組成物。
[11]前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を構成する全構成二糖単位に対する前記式(2)で示される構成単位の割合が、0.1モル%以上80モル%以下である、前記[9]または[10]に記載の組成物。
[12]前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の重量として5mg以上100mg以下の用量が1回の投与に用いられることを特徴とする、前記[1]〜[11]のいずれか1に記載の組成物。
[13]前記抗炎症化合物の重量として0.1mg以上20mg以下の用量が1回の投与に用いられることを特徴とする、前記[1]〜[12]のいずれか1に記載の組成物。
[14]前記関節疾患が、変形性関節症である、前記[1]〜[13]のいずれか1に記載の組成物。
[15]前記処置が症状の改善、治癒、または進行の抑制である、前記[1]〜[14]のいずれか1に記載の組成物。
[16]前記処置が、関節痛の改善、治癒もしくは進行の抑制、または関節機能の改善である、前記[15]に記載の組成物。
[17]薬学上許容される担体を含む、前記[1]〜[16]のいずれか1に記載の組成物。
[18]前記ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物が、ジクロフェナクまたはその薬学的に許容される塩である、前記[1]〜[17]のいずれか1に記載の組成物。
[19]前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩は、前記ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基と、重量平均分子量が、10,000以上5,000,000以下のヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩とが結合されたものである、前記[1]〜[18]のいずれか1に記載の組成物。
[20]前記[1]〜[19]のいずれか1に記載の組成物が注射筒内に充填されている注射器を含む、キット。
[21]ヒト関節疾患患者の関節疾患処置方法における使用のための、ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有する組成物であって、前記方法はヒト関節疾患患者に対して4週以上の期間に1回注射剤として前記組成物を投与することを特徴とする、組成物。
[22]前記方法が26週間以上の疼痛を有するヒト関節疾患患者を対象に行われることを特徴とする、前記[21]に記載の組成物。
[23]前記ヒト関節疾患患者はボディマス指数(BMI)が25kg/m以上の患者ある、前記[21]または[22]に記載の組成物。
[24]前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩は、前記抗炎症化合物に由来する基がスペーサーを介してヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩に対して結合されてなる、前記[21]〜[23]のいずれか1に記載の組成物。
[25]前記ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩と前記スペーサーとの結合様式が、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、およびスルフィド結合からなる群から選択される、前記[24]に記載の組成物。
[26]前記スペーサーと前記抗炎症化合物に由来する基との結合様式が、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、およびスルフィド結合からなる群から選択される、前記[24]または[25]に記載の組成物。
[27]前記抗炎症化合物に由来する基が、下記式(1)で示されるスペーサーを介してヒアルロン酸骨格に共有結合されてなる、前記[21]〜[26]のいずれか1に記載の組成物:
Figure 0006489672
ただし、式(1)中、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり;Rは置換または無置換の炭素数1〜12の直鎖アルキレン基である。
[28]Rが水素原子であり、Rがエチレン基である、前記[27]に記載の組成物。
[29]前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩が、下記式(2)で示される構成単位を含む、前記[21]〜[27]のいずれか1に記載の組成物:
Figure 0006489672
ただし、式(2)中、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり;Rは置換または無置換の炭素数1〜12の直鎖アルキレン基であり;Xは前記抗炎症化合物に由来する基を示す。
[30]Rが水素原子であり、Rがエチレン基である、前記[29]に記載の組成物。
[31]前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を構成する全構成二糖単位に対する前記式(2)で示される構成単位の割合が、0.1モル%以上80モル%以下である、前記[29]または[30]に記載の組成物。
[32]前記方法が、前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の重量として5mg以上100mg以下の用量を1回に投与することを特徴とする、前記[21]〜[31]のいずれか1に記載の組成物。
[33]前記方法が、前記抗炎症化合物の重量として0.1mg以上20mg以下の用量を1回に投与することを特徴とする、前記[21]〜[32]のいずれか1に記載の組成物。
[34]前記関節疾患が、変形性関節症である、前記[21]〜[33]のいずれか1に記載の組成物。
[35]前記処置が症状の改善、治癒、または進行の抑制である、前記[21]〜[34]のいずれか1に記載の組成物。
[36]前記処置が、関節痛の改善、治癒もしくは進行の抑制、または関節機能の改善である、前記[35]に記載の組成物。
[37]薬学上許容される担体をさらに含む、前記[21]〜[36]のいずれか1に記載の組成物。
[38]前記ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物が、ジクロフェナクまたはその薬学的に許容される塩である、前記[21]〜[37]のいずれか1に記載の組成物。
[39]前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩は、前記ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基と、重量平均分子量が、10,000以上5,000,000以下のヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩とが結合されたものである、前記[21]〜[38]のいずれか1に記載の組成物。
[40]前記方法が注射により行われることを特徴とする、前記[21]〜[39]のいずれか1に記載の組成物。
[41]ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の、関節疾患処置用組成物の製造における使用であって、前記組成物は注射剤であって、ヒト患者に対する4週以上の期間に1回の関節疾患処置用である、使用。
[42]前記組成物は26週間以上の疼痛を有するヒト関節疾患患者の関節疾患処置用である、前記[41]に記載の使用。
[43]ヒトの関節疾患処置方法であって、ステロイド系もしくは非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有する組成物を関節疾患患者の関節に投与する工程を含み、前記投与は4週以上の期間に1回行うものであり、前記組成物は注射剤である方法。
[44]前記患者が26週間以上の疼痛を有する関節疾患患者である、前記[43]に記載の方法。
[45]前記投与は注射によって行われるものである、前記[43]または[44]に記載の方法。
以下、実施例を用いて本発明の好ましい実施形態についてより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
以下、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定した。
<合成例>
国際公開第2005/066214号の実施例に記載の方法に準じて、アミノエタノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム(被験物質)を合成した(ヒアルロン酸の重量平均分子量:80万、導入率:18モル%)。
より具体的には、以下の手法により合成した。
2−ブロモエチルアミン臭化水素酸塩2.155g(10.5mmol)をジクロロメタン20mLに溶解し、氷冷下でトリエチルアミン1.463mL(10.5mmol)を加え、さらにジ−tert−ブチル−ジカルボナート(BocO)2.299g(10.5mmol)のジクロロメタン溶液5mLを加えて撹拌した。室温で90分間撹拌した後、酢酸エチルを加え、5重量%クエン酸水溶液、水、飽和食塩水で順次分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去してBoc−アミノエチルブロマイドを得た。
上記で得られたBoc−アミノエチルブロマイド2.287g(10.2mmol)のジメチルホルムアミド(DMF)溶液5mLを氷冷し、ジクロフェナクナトリウム3.255g(10.2mmol)のDMF溶液6mLを加え、室温で一晩撹拌した。60℃で11時間撹拌し、室温で一晩撹拌した。酢酸エチルを加え、5重量%炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で順次分液洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水後、酢酸エチルを減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=20:1(v/v)、0.5体積%トリエチルアミン)で精製し、Boc−アミノエタノール−ジクロフェナクを得た。
上記で得られたBoc−アミノエタノール−ジクロフェナク2.108g(4.80mmol)をジクロロメタン5mLに溶解し、氷冷下で4M塩酸/酢酸エチル20mLを加えて2.5時間撹拌した。ジエチルエーテル、ヘキサンを加えて沈殿させ、沈殿を減圧乾燥した。これにより、アミノエタノール−ジクロフェナク塩酸塩を得た。構造はH−NMRにて同定した:
H−NMR(500MHz,CDCl)δ(ppm)=3.18(2H,t,NHCHCHO−), 3.94(2H,s,Ph−CH−CO), 4.37(2H,t,NHCHCHO−), 6.47−7.31(8H,m,Aromatic H,NH)。
重量平均分子量80万のヒアルロン酸500mg(1.25mmol/二糖単位)を水56.3mL/ジオキサン56.3mLに溶解させた後、ヒドロキシコハク酸イミド(1mmol)/水0.5mL、水溶性カルボジイミド塩酸塩(WSCI・HCl)(0.5mmol)/水0.5mL、上記で得られたアミノエタノール−ジクロフェナク塩酸塩(0.5mmol)/(水:ジオキサン=1:1(v/v)、5mL)を順次加え、一昼夜撹拌した。反応液に5重量%炭酸水素ナトリウム水溶液7.5mLを加え、約4時間撹拌した。反応液に50%(v/v)酢酸水溶液215μLを加えて中和後、塩化ナトリウム2.5gを加えて撹拌した。エタノール400mlを加えて沈殿させ、沈殿物を85%(v/v)エタノール水溶液で2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥し、アミノエタノール−ジクロフェナク導入ヒアルロン酸ナトリウム(被験物質)を得た。分光光度計により測定されたジクロフェナクの導入率は18モル%であった。
<試験手順>
変形性膝関節症のヒト患者を対象に、治験薬(本発明の関節疾患処置用組成物である被験薬又はプラセボ)を膝関節腔内に4週ごとに3回投与したときの有効性を、多施設共同、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較試験にて検討した。なお、被験薬及びプラセボは、以下のものを用いた:
被験薬:被験物質を30mg(ジクロフェナクとして3.6mg)含有する3mLの注射用水溶液
プラセボ:被験物質を含有しない3mLの注射用水溶液。
被験薬又はプラセボを、0週時、4週時及び8週時の3回、各時点で全量(3mL)を対象患者の罹患膝の膝関節腔内に投与(注射)した。
投与の対象患者は、以下の選択基準1〜9及び除外基準1〜23に従って決定した。
(選択基準)
以下の選択基準1〜9をすべて満たす患者を対象とした。
1.スクリーニング検査日(初回投与日前2週間以内に実施した。)に米国リウマチ学会の基準により膝OAと診断された患者
2.同意取得日の12週間以上前より、対象膝においてOAによる疼痛を有する患者
3.スクリーニング検査日の立位正面X線画像所見でKellgren and Lawrence(KL)grade 2又は3である患者。ただし、スクリーニング開始日前6箇月以内に撮影されたX線画像がある場合は、当該画像をスクリーニング検査日の画像の代替物として使用可とする
・KL grade 2: 軽度OA。微小な骨棘形成あり、関節裂隙狭小化・骨硬化・骨嚢腫形成を認めることあり
・KL grade 3: 中等度OA。骨棘形成と中等度の関節裂隙狭小化
4.同意取得日の年齢が40歳以上75歳以下の患者
5.スクリーニング検査日及び初回投与日に、対象となる膝のWOMAC(登録商標) A(痛み)スコア5項目の平均値及び50−foot walk test痛みスコアが50mm以上90mm以下である患者
6.スクリーニング検査日及び初回投与日に、対象膝とは反対の膝のWOMAC(登録商標) A(痛み)スコア5項目の平均値及び50−foot walk test痛みスコアが30mm以下である患者
7.歩行器具(杖等)や補助なしで歩行可能な患者
8.スクリーニング開始日から観察終了日まで、対象膝に対して本治験薬及びアセトアミノフェン以外の薬物療法を中止することができる患者(アセトアミノフェンはスクリーニングを含む来院日の2日前より使用を禁止する)
9.説明文書を用いて十分な説明を受け、その内容を理解したうえで自由意思に基づき治験への参加について文書による同意が得られた患者。
(除外基準)
以下の除外基準1〜23のいずれかに該当する患者は除外した。
1.対象膝のOAが、外傷又はその他の疾患による二次性OAであることが明らかな患者
2.スクリーニング検査日又は初回投与日に、下半身に、評価に影響を与えうる原疾患以外の疼痛を有する患者又は膝以外の下半身部位にOA(足関節OA、股関節OA等)を有する患者
3.スクリーニング検査日又は初回投与日に、対象膝関節に炎症疾患、感染症等を有する患者又はこれら疾患の罹患期間が同意取得前1年以内の患者
4.スクリーニング検査日又は初回投与日に、投与部位に皮膚疾患又は感染があり、注射による感染等の恐れがある患者
5.スクリーニング開始日前1年以内に対象膝の外科的処置又はその他の侵襲的処置(関節鏡検査、関節洗浄等)を受けた患者(関節液の排液は除く)
6.スクリーニング開始日前7日以内に、以下の薬剤の投与を受けた患者。ただし、ジクロフェナク及びオピオイド鎮痛剤を除き、外用剤(坐剤は除く)は対象膝の同側下肢に対して使用した場合とする
・NSAID(血栓予防目的の低用量アスピリンの併用は可)
・副腎皮質ステロイド製剤
・オピオイド鎮痛剤
・末梢神経障害性疼痛治療薬
・対象膝に対する局所麻酔剤
・コンドロイチン硫酸の注射剤
・疼痛緩和を目的とした抗痙攣薬、抗うつ薬、抗不安薬、漢方製剤等
7.スクリーニング開始日前6箇月以内に対象膝に対しヒアルロン酸ナトリウム架橋体製剤(サイビスク(登録商標))の関節内投与を受けた患者又はスクリーニング前3箇月以内に対象膝に対しヒアルロン酸ナトリウム製剤(アルツ(登録商標)、スベニール(登録商標)等)の関節内投与を受けた患者
8.スクリーニング開始日前28日以内に、以下の薬剤の投与を受けた患者。ただし、外用剤(坐剤を除く)については、対象膝の同側下肢に対して使用した場合とする
・トリアムシノロンアセトニド
・メチルプレドニゾロン酢酸エステル
・オキサプロジン
・アンピロキシカム
・ピロキシカム
9.スクリーニング開始日前28日以内に、ブロック療法(神経ブロック、硬膜外ブロック、椎間関節ブロック等)を受けた患者
10.スクリーニング開始日前28日以内に、関節の疼痛緩和を目的としたコンドロイチン硫酸(医薬品に限る)を内服した患者(スクリーニング開始日の29日以上前から継続して使用している患者については、治験実施中の継続を可とする)
11.スクリーニング開始日前28日以内に、対象膝OAの治療を目的とした理学療法(運動療法、物理療法、装具療法)を受けた患者(スクリーニング開始日の29日以上前から継続して実施している患者については、治験実施中の継続を可とする)
12.スクリーニング検査日(複数回測定した場合は初回投与日に近い日)のBMIが35.0kg/m以上の患者
13.妊娠中、授乳中又は妊娠検査の結果より妊娠の可能性が判明した女性[妊娠検査は妊娠可能な女性を対象に実施する。子宮摘出、両卵管結紮を受けている女性や閉経したと考えられる(最後の月経から2年以上経過している)女性等、妊娠の可能性が否定される女性は検査不要]
14.同意取得日から観察終了まで、適切な避妊を実施することに同意しない患者
15.アスピリン喘息(NSAID等により誘発される喘息発作)又はその既往歴がある患者
16.ヒアルロン酸ナトリウム、ジクロフェナクナトリウム又はアセトアミノフェンに対し過敏症の既往歴を有する患者
17.悪性腫瘍の既往(同意取得前5年以内)又は合併のある患者。ただし、外科的処置又は局所治療によって治癒と判断された場合は対象として良い
18.本治験の結果に影響を与えうる以下の症状又は疾患を有する患者
・重篤な心疾患・肝疾患・腎疾患・血液疾患・免疫不全等を有する患者
・関節リウマチ、痛風等の全身性の関節疾患を有する患者
・線維筋痛症等の全身性の慢性疼痛疾患を有する患者
・糖尿病等で末梢神経障害を有する患者
19.薬物依存症又はアルコール依存症の既往歴又は合併症を有する患者
20.スクリーニング検査日の臨床検査において、以下のいずれかに該当する患者
・AST又はALTが測定機関の基準値上限の2.5倍以上である患者
・血清クレアチニンが測定機関の基準値上限の1.5倍以上である患者
・C型肝炎ウイルス抗体又はB型肝炎表面抗原検査の結果が陽性である患者
21.過去に本被験物質の治験に参加した患者
22.同意取得日前16週以内に、他の医薬品あるいは医療機器の治験に参加した患者 23.その他、治験責任医師又は治験分担医師が本治験を実施するのに不適と判断した患者。
投与の対象患者は、上記の選択基準1〜9及び除外基準1〜23に従って決定された。
選択基準及び除外基準に合致して決定された合計176名の患者は、本発明の被験薬投与群(87名)とプラセボ投与群(89名)とに無作為に分けられた。
各群において、BMIは25kg/m、疼痛継続期間(DP)(週)は26週及び52週を閾値として患者群をさらに階層分けした結果を、下記の[表1]に示す。
なお、下記表1の患者の人数は、今回の試験開始時の人数に対応する。
初回投与時点、ならびに初回投与後1、2、4、6、8、10および12週目の各評価時点において、次の評価方法に基づき有効性を評価した。
<評価方法>
Dr. Nicholas Bellamyにより開発されたWOMAC(登録商標)評価(The Journal of Rheumatology 1988; 15:12, p.1833−1840)を用いて有効性を評価した。WOMAC(登録商標)評価は、変形性関節症の評価方法として確立されている(The Journal of Rheumatology 2000; 27:11,p.2635−2641)。
患者の回答方法としては、VAS(Visual Analog Scale)によって行った。VASは、各質問に対する患者自身の感触の程度を、患者が100mmの直線上に指し示し、その位置によって程度を判定する方法である。当該位置は、スケール上の左端からの長さとして表される。例えば、投与前及び投与後の各評価時に患者に疼痛に関する同じ質問を行い、患者はスケールにおける位置(度合い)を指し示すことにより回答する。投与前に患者が指し示した長さ(投与前基準値(Baseline))と投与後の各評価時に患者が指し示した長さの間の差に基づき、改善効果を数値化する。
<結果>
投与前に患者が指し示した長さ(投与前基準値(Baseline))と投与後の各評価時に患者が指し示した長さとに基づき、改善効果を数値化した。身体機能評価(WOMAC(登録商標) C;階段の昇降や乗用車の乗降等に代表されるような日常行動の困難性によって評価される。)に関する質問についての解析結果を下記表1に示す。なお、表中、変化量差分の値が0より低いほど改善効果が高いことを示す。
Figure 0006489672
上記のように、本発明の関節疾患処置用組成物である被験薬を4週以上の期間に1回注射剤として投与することで、プラセボ群との比較において慢性的な変形性関節症の顕著な改善が認められた(変化量差分:−6.7)。
患者の疼痛継続期間と改善効果との関係を、より詳細に解析した。その結果、疼痛継続期間が26週間未満の患者であっても変形性関節症に対して一定程度の改善効果が認められた(変化量差分:−2.4)。
一方、被験薬群において、疼痛継続期間が26週間以上の患者では、プラセボ群との比較において変形性関節症に対してより高い改善効果が認められた(変化量差分:−7.9)。この傾向は、疼痛継続期間が52週間以上の患者において、特に顕著であった(変化量差分:−9.0)。
患者のBMIと改善効果との関係を、より詳細に解析した。その結果、被験薬群において、BMIが25kg/m未満の患者であっても、変形性関節症に対して一定程度の改善効果が認められた(変化量差分:−2.0)。
一方、被験薬群において、BMIが25kg/m以上の患者では、プラセボ群との比較において変形性関節症の特に顕著な改善効果が認められた(変化量差分:−12.5)。
さらに、疼痛継続期間が26週間以上であり、且つBMIが25kg/m以上の患者において、被験薬群ではプラセボ群との比較において、変形性関節症に対して最も優れた改善効果が認められた(変化量差分:−13.7)。
上記は身体機能評価(WOMAC(登録商標) C)についての解析結果であるが、疼痛(WOMAC(登録商標) A;歩行時等の痛みの強さによって評価される。)についても同様の改善傾向が認められた。
また、投与後12週目(すなわち、最終投与から4週間後)の疼痛(WOMAC(登録商標) A)に関し、ベースライン値(投与前のスコア)からの変化量について最小二乗平均値を求めた。その結果、被験薬群は−37.5(n数:84、標準誤差:2.6)であり、プラセボ群は−29.0(n数:81、標準誤差:2.6)であり、統計的に有意な差であった(P値:p=0.018、95%信頼区間下限:−15.6、95%信頼区間上限:−1.5)。
<結論>
本発明の関節疾患処置用組成物は、4週以上の期間に1回注射剤として投与されることにより、ヒト関節疾患患者の関節疾患に対して有意な改善効果を示した。また、投与開始前の疼痛持続期間が特に長い、DP26週間以上、またはDP52週間以上の患者において、関節疾患に対するより優れた改善効果が認められた。特に、BMIが25kg/m以上であり、かつDP26週間以上の患者では極めて顕著な改善効果が認められた。本発明の関節疾患処置用組成物は、4週以上の投与間隔、好ましくは4週の投与間隔において、ヒト関節疾患患者の罹患関節の関節内に複数回、注射剤として投与されることにより、関節疾患に対して改善効果をもたらす。
<参考例>
20歳以上40歳以下の健康白人男性の膝関節腔内に、15mg、30mgまたは60mg(6例/各用量)の上記被験物質を単回投与した。被験者から継時的に血漿を採取し、血漿中における被験物質の代謝物濃度を測定した。なお、測定した代謝物は、N−アセチル−D−グルコサミンとD−グルクロン酸とからなる第一の構成二糖単位と、上記式(2)で示される第二の構成二糖単位とが、それぞれ1単位ずつ結合した化合物(テトラマー)である。代謝物の測定は、LC−MS/MS(LC:LC−20ADシリーズ(株式会社島津製作所社製)、MS/MS:QTRAP(登録商標)5500 System(AB SCIEX社製))を用いてMultiple Reaction Monitoring(MRM)法により行った(Monitor ion:m/z = 1097.3 → 700.1)。
その結果、上記代謝物の濃度は、いずれの用量においても投与後2週間で最高値に達した後、減少した。投与後4週間後では、上記代謝物の濃度は、60mg投与群については最高値の約50%、30mg投与群については最高値の約35%、15mg投与群については最高値の約25%であった。
本発明は具体的実施例と様々な実施形態とに関連して記載されているが、本明細書に記載される実施形態の多くの改変や応用が、本発明の精神および範囲を逸脱することなく可能であることは、当業者によって容易に理解される。
本出願は、2017年3月14日付で日本国特許庁に出願された特願2017−49203号および2017年7月6日付で日本国特許庁に出願された特願2017−132509号に基づく優先権を主張し、その内容は参照によって全体として本出願に組み込まれる。
本発明は、ヒト関節疾患患者(特に、慢性的な関節疾患患者)の関節疾患に対して有意な改善効果をもたらす関節疾患処置用組成物、及び当該関節疾患処置用組成物を用いたヒト関節疾患の処置方法等を提供するものであるから、医薬産業などにおける産業上の利用可能性を有している。

Claims (11)

  1. 非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基を有する修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を含有するヒト関節疾患処置用組成物であって、当該組成物は注射剤であり、かつヒト関節疾患患者に対して4週以上の期間に1回投与され、
    前記非ステロイド系抗炎症化合物が、ジクロフェナクまたはその薬学的に許容される塩であり、
    前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩の重量として5mg以上40mg以下の用量が1回の投与に用いられ、
    前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩が、下記式(2)で示される構成単位を含むことを特徴とする、関節疾患処置用組成物:
    Figure 0006489672
    ただし、式(2)中、Rは水素原子であり;Rはエチレン基であり;Xは前記抗炎症化合物に由来する基を示す。
  2. 26週間以上の疼痛を有する前記関節疾患患者に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
  3. BMIが25kg/m以上である前記関節疾患患者に用いられることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
  4. 前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩を構成する全構成二糖単位に対する前記式(2)で示される構成単位の割合が、0.1モル%以上80モル%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
  5. 前記抗炎症化合物の重量として0.1mg以上20mg以下の用量が1回の投与に用いられることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
  6. 前記関節疾患が、変形性関節症である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
  7. 前記処置が症状の改善、治癒、または進行の抑制である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
  8. 前記処置が、関節痛の改善、治癒もしくは進行の抑制、または関節機能の改善である、請求項7に記載の組成物。
  9. 薬学上許容される担体を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
  10. 前記修飾ヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩は、前記非ステロイド系抗炎症化合物に由来する基と、重量平均分子量が、10,000以上5,000,000以下のヒアルロン酸またはその薬学的に許容される塩とが結合されたものである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物が注射筒内に充填されている注射器を含むキットであって、ヒト関節疾患処置用に前記組成物をヒト関節疾患患者に対して4週以上の期間に1回投与するための、キット。
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