以下、図面とともに本発明の実施形態について詳述する。
図1に一実施形態として説明する地盤変位観測システム1の概略的な構成を示している。同図に示すように、地盤変位観測システム1は、水力発電所の関連設備(導水路や貯水槽、水圧鉄管等)や送電鉄塔が建設される山間部の傾斜面等の、屋外の所定範囲(以下、観測エリア2と称する。)における地盤変位を観測(計測)するシステムである。
地盤変位観測システム1は、観測エリア2に面的に配設され、計測値を含む無線信号(後述の計測データ500)を随時送信する複数のセンサノード10、観測エリア2内もしくは観測エリア2の近傍に設置され、センサノード10と無線通信するゲートウェイ装置20、システムセンタやクラウド等に設けられ、ゲートウェイ装置20と通信網5(インターネット、携帯通信網等)を介して通信するサーバ装置30、電力会社の事業所等に設置され、通信網5を介してサーバ装置30にアクセスするユーザ端末40を含む。
図2にセンサノード10の構成を示している。同図に示すように、センサノード10は、制御装置11、無線装置12、傾斜センサ15、蓄電池17、及び太陽電池18を備える。制御装置11、無線装置12、及び傾斜センサ15は、各種制御線(I2C(Inter-Integrated Circuit)、SPI(Serial Peripheral Interface)、USB(Universal Serial Bus)等)を介して通信可能に接続されている。
制御装置11は、センサノード10の各構成についての統括的な制御、傾斜センサ15が出力する計測値の取得、計測値を含む無線信号の送信制御、ゲートウェイ装置20との間の通信に関する制御等を行う。
無線装置12は、ゲートウェイ装置20や他のセンサノード10の無線装置12と無線通信を行う。無線装置12は、例えば、特定小電力無線局(315MHz帯、426MHz帯、1200MHz帯、920MHz帯等)、小電力無線局(2.4GHz帯等)、近距離無線通信(Zigbee(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、無線LAN、電子タグ等)、微弱な無線局等として機能する。尚、無線装置12は、ゲートウェイ装置20と直接通信するものであってもよいし、センサネットワーク機能やアドホック機能等により他の無線装置12を介して間接的にゲートウェイ装置20と通信するものであってもよい。
傾斜センサ15は、傾斜角(変位角)(1軸又は2軸)に応じた信号(例えば、傾斜角に応じた大きさのアナログ電圧)を出力するセンサであり、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を応用したもの、板ばねを用いた振り子式のもの、フロート式(錘と浮きを併用したハイブリッド機構)のもの等である。本実施形態の傾斜センサ15は、傾斜角を2軸で検出するタイプであるものとする。
蓄電池17は、二次電池(リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛蓄電池等)であり、センサノード10の構成要素に駆動電力を供給する。
太陽電池18は、太陽電池パネルや充電制御装置(チャージコントローラ)を備え、太陽電池パネルによって発電された電力を蓄電池15に供給する。尚、太陽電池18に代えて、もしくは太陽電池18とともに、風力発電設備等の他の自然エネルギー利用の発電設備をセンサノード10に設けてもよい。
図3に制御装置11のハードウェアを示している。同図に示すように、制御装置11は、中央処理装置111、記憶装置112、及び計時装置113を備える。
中央処理装置111は、例えば、MPU(Micro Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)等である。記憶装置112は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non Volatile RAM)等である。
計時装置113は、RTC(Real Time Clock)等を用いて構成され、現在日時を示す情報を出力する。計時装置113が計時する日時と後述するゲートウェイ装置20の計時装置23が計時する日時とは、ゲートウェイ装置20と制御装置11との間の無線通信により随時同期が取られる。
図4に制御装置11の機能及び制御装置11が記憶する情報を示している。同図に示すように、制御装置11は、計測処理部411、計測データ送信部412、及び消費電力制御部413の各機能を有する。これらの機能は、制御装置11の中央処理装置111が、記憶装置112に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。
計測処理部411は、計測値の計測時機が到来すると、傾斜センサ15から計測値を取得し、取得した計測値を計測データ送信部412に渡す。
計測データ送信部412は、計測処理部411から渡された計測値を含むデータである計測データ500をゲートウェイ装置20に向けて送信する。
図5に計測データ500のフォーマットを示している。同図に示すように、計測データ500には、送信元のセンサノード10を特定する識別子であるノードID511、計測値512、及び計測値512を取得した日時である取得日時513等の情報を含む。制御装置11は、ノードID511を、図4のノードID421として記憶している。計測値512は、傾斜センサ15の出力値である。尚、計測データ500の各項目は必ずしも全てが一度に送信されなくてもよく、ノードID511と他の一つ以上の項目との組合せが個別に送信される構成としてもよい。
図4に戻り、消費電力制御部413は、センサノード10の構成要素のうち駆動電力を必要とする構成(例えば、制御装置11、無線装置12、傾斜センサ15)について消費電力の制御を行う。この制御は、例えば、計測処理部411による単位時間当たりの計測値512の取得回数(単位時間当たりのサンプリング数)の増減、スタンバイモード等の待機状態(低消費電力な動作状態)への遷移、後述する傾斜センサ15の選択において選択されなかった傾斜センサ15を機能停止(もしくは低消費電力モードに移行)させること等により行われる。
消費電力制御部413は、例えば、ゲートウェイ装置20から消費電力の制御を指示する命令(以下、消費電力制御指示600と称する。)を受信したのに応じて消費電力の制御を行う。
図6にゲートウェイ装置20から送られてくる消費電力制御指示600のフォーマットを示している。同図に示すように、消費電力制御指示600は、制御対象となるセンサノード10の構成要素を特定する情報(傾斜センサ15の識別子等)である制御対象611、制御の内容に関する情報である制御内容612(傾斜センサ15を低消費電力モードに移行させる、傾斜センサ15を低消費電力モードから通常動作モード(動作が可能なモード)に移行させる等)等の情報を含む。
図4に戻り、制御装置11は、制御情報422を記憶している。制御情報422は、消費電力の制御の内容に関する情報である。制御情報422はゲートウェイ装置20から受信した消費電力制御指示600によって随時更新される。
図7にゲートウェイ装置20のハードウェアを示している。同図に示すように、ゲートウェイ装置20は、中央処理装置21、記憶装置22、計時装置23、無線装置24、出力装置25、及び通信装置26を備える。
中央処理装置21は、例えば、MPU、CPU等であり、記憶装置22は、例えば、RAM、ROM、NVRAM等である。中央処理装置21及び記憶装置22は、ゲートウェイ装置20に情報処理装置としての機能を実現する。計時装置23は、RTC等を用いて構成され、日時情報を出力する。無線装置24は、センサノード10の無線装置12と無線通信する装置であり、例えば、特定小電力無線局、小電力無線局、微弱な無線局等である。出力装置25は、情報を出力するユーザインタフェースであり、例えば、液晶モニタ、スピーカ等である。通信装置26は、NIC(Network Interface Card)や無線LANアダプタ等であり、通信網5を介してサーバ装置30等の他の装置と通信する。
図8にゲートウェイ装置20の機能及びゲートウェイ装置20が記憶する情報を示している。同図に示すように、ゲートウェイ装置20は、計測データ受信部811、計測データ送信部813、制御指示中継部814、及び地盤変位検知部815の各機能を有する。これらの機能は、ゲートウェイ装置20の中央処理装置21が、記憶装置22に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。またゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900及び地盤変位判定結果テーブル950を記憶する。
計測データ受信部811は、センサノード10の制御装置11が送信する計測データ500を受信し、受信した計測データ500の内容を計測値管理テーブル900に出力する。
図9に計測値管理テーブル900の一例を示している。同図に示すように、計測値管理テーブル900は、ノードID911、グループID912、計測値914(傾斜角(変位角))、及び計測日時915の各項目を有するレコードの集合である。
ノードID911には、当該レコードの計測値914の送信元のセンサノード10のノードIDが設定される。グループID912には、当該レコードのノードID911で特定されるセンサノード10の傾斜センサ15が所属している、後述するグループの識別子(以下、グループIDと称する。)が設定される。計測値914には、センサノード10において計測された傾斜角9141(傾斜センサ15の出力値)が設定される。計測日時915には、当該レコードの計測値914が計測された日時が設定される。
図8に戻り、計測データ送信部813は、計測データ受信部811が受信した計測データ500をサーバ装置30に中継送信する。制御指示中継部814は、サーバ装置30から送られてくる消費電力制御指示600を受信すると、これをセンサノード10に中継送信する。
地盤変位検知部815は、現在、地盤変位が生じているか否かを判定する処理(後述する地盤変位検知処理S2255)を行い、その結果を地盤変位判定結果テーブル950に出力する。地盤変位判定結果テーブル950の詳細については後述する。
図10にサーバ装置30のハードウェアを示している。同図に示すように、サーバ装置30は、中央処理装置31、記憶装置32、通信装置33、及び出力装置34を備える。
中央処理装置31は、例えば、MPU、CPU等である。記憶装置32は、例えば、RAM、ROM、NVRAM等である。中央処理装置31及び記憶装置32は、サーバ装置30に情報処理装置としての機能を実現する。通信装置33は、NICや無線LANアダプタ等であり、通信網5を介してゲートウェイ装置20やユーザ端末40と通信する。出力装置34は、情報を出力するユーザインタフェースであり、例えば、液晶モニタ、スピーカ等である。
図11にサーバ装置30の機能及びサーバ装置30が記憶する情報を示している。同図に示すように、サーバ装置30は、計測データ受信部1111、制御指示送信部1114、及び監視制御機能提供部1115の各機能を有する。これらの機能は、サーバ装置30の中央処理装置31が、記憶装置32に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。
計測データ受信部1111は、ゲートウェイ装置20から送られてくる計測データ500を受信する。
制御指示送信部1114は、計測値管理テーブル1122の内容に基づき消費電力制御指示600を生成し、ゲートウェイ装置20に送信する。例えば、制御指示送信部1114は、後述する傾斜センサ15の選択において選択されなかった傾斜センサ15のオフ(もしくは低消費電力モードに移行)を指示する内容の消費電力制御指示600を生成してゲートウェイ装置20に送信する。また例えば、制御指示送信部1114は、傾斜センサ15を低消費電力モードから通常動作モードに移行させる内容の消費電力制御指示600を生成してゲートウェイ装置20に送信する。
監視制御機能提供部1115は、通信網5を介してアクセスしてくる情報処理装置(パーソナルコンピュータ等)であるユーザ端末40に、計測値管理テーブル1122に基づく情報の提供やセンサノード10の制御のための機能の提供を行う。これらの機能は、例えば、Webページを介してユーザ端末40に提供される。
同図に示すように、サーバ装置30は、計測値管理テーブル1122を記憶する。計測値管理テーブル1122の内容は、図9に示した計測値管理テーブル900の内容を含む。サーバ装置30は、ゲートウェイ装置20から送られてくる計測データ500によって計測値管理テーブル1122の内容を随時更新する。
=検知精度の向上=
続いて地盤変位の検知精度を向上させる仕組みについて説明する。
<外乱による傾斜>
前述したように、本実施形態における傾斜センサ15は、傾斜角(変位角)を2軸で検出するタイプであり、傾斜角(変位角)を、二次元座標系(X,Y)の平面上のベクトル(大きさ(傾斜角度),方位角)として表現した値を出力する。二次元座標系(X,Y)の原点Oは、例えば、傾斜センサ15の設置時(動作開始時)から24時間が経過した時点までの平均値に設定される。尚、傾斜センサ15の計測値には正規分布を示す誤差が含まれているが、上記誤差は、統計的に有意な数の計測値を取得してそれらの平均(例えば24回移動平均等)を求めることにより低減することができる。
地盤変位の検知精度を向上させるには、地盤のわずかな動きが正確に傾斜センサ15に伝わるように傾斜センサ15を設置する必要があり、例えば、地盤にコンクリート基礎を埋め込み、コンクリートに対して傾斜センサ15を金物等により堅牢に固定するといった方法がとられる。しかしこの方法を採用したとしても、例えば、施工時にコンクリート基礎の内部に生じた歪みが時間の経過とともに顕在化する、地盤がコンクリート基礎の重量を支えきれずコンクリート基礎が徐々に沈下する、といった理由により、傾斜センサ15が次第に傾斜する現象(以下、この傾斜のことを「外乱による傾斜」とも称する。)が発生することがある。
この外乱による傾斜の推移を検証するため、本発明者等は実験系1200を構成して実験を行った。図12に実験系1200の要部の様子を示す。同図に示すように、傾斜センサ15はコンクリート基礎1211に埋め込まれたアンカーボルトに固定した。またコンクリート基礎1211は、安定性の高い除振台1212の上に載置した。
図13に時間経過に対する「外乱による傾斜ベクトル」の大きさ(傾斜角度)の推移(計測結果(24回移動平均))を示している。同図から、コンクリート基礎1211を非常に安定した除振台1212に載置しているにも関わらず、300hを経過した後、大きさ(傾斜角度)が顕著に増加、停止、逆戻り等していることがわかる。
図14に時間経過に対する「外乱による傾斜ベクトル」の方位角の推移(計測結果)を示している。同図から、方位角については、最初は不安定であるが、300hを経過したあたりから一定の方位に安定していることがわかる。
そこで現場に設置される以上のような傾斜センサ15の特性を踏まえ、本実施形態では次に説明する仕組みにより地盤変位の検知精度を向上させている。
まず図15に示すように、近い位置に設置されている傾斜センサ15を、同じグループ(グループIDを「A」、「B」、「C」・・・」としている。)に分類する。尚、グループは、同じグループに所属している複数の傾斜センサ15の夫々に地盤変位による傾斜ベクトルが一様に作用するように(同じ真の傾斜角(変位角)が計測されるように)設ける。但し、上記一様性に必ずしも厳密性は要求されず、上記一様性は地盤変位観測システム1に対して求められる地盤変位の検知精度や除去不可能な誤差の大きさ等との関係で許容範囲を有していてもよい。
ここで傾斜センサ15の二次元座標系(X,Y)における前述した傾斜角(変位角)のベクトル(大きさ(傾斜角度),方位角)が、例えば、図16に示すように時系列的に変化(変化前のベクトル(細い実線で示すベクトル)からΔt時間経過後の変化後のベクトル(太い実線で示すベクトル)に変化)した場合を考える。この場合、図17に示すように、傾斜センサ15には、「外乱による傾斜ベクトル」と「地盤変位による傾斜ベクトル」が作用している。ここで「外乱による傾斜ベクトル」は、変化前のベクトルと方向は一致しているが大きさが増大している(尚、停止や逆戻りすることもあるが、ここでは説明の簡単のため、大きさが時系列的に増大する場合を例示している。)。そしてこの「外乱による傾斜ベクトル」と「地盤変位による傾斜ベクトル」とを合成したものは図16に示した変化後のベクトルに等しくなる。
ここで「地盤変位による傾斜ベクトル」のうち、「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分(この成分もベクトルである)は、図18に示すように、変化前のベクトルと変化後のベクトルとから、代数学的もしくは幾何学的な演算により求めることができる。そしてこのような垂直な方向の成分は、同一のグループに所属する傾斜センサ15の夫々について求めることができる。図19並びに図20に、同一のグループに所属する他の傾斜センサ15により上記垂直な方向の成分を求めた例を示す。
図18乃至図20に示すように、「外乱による傾斜ベクトル」は傾斜センサ15ごとに異なるが、「地盤変位による傾斜ベクトル」については一致している(同一のグループに所属する各傾斜センサ15には「地盤変位による傾斜ベクトル」が一様に作用するという前述した前提による。)。ここで「地盤変位による傾斜ベクトル」のうち、「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分は、「外乱による傾斜ベクトル」を対象軸として当該対称軸の左右両側に正規分布する。従って、上記の対象軸上をゼロとして「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさについて平均を求めると、その値は地盤変位による傾斜が発生していない場合は0となり、地盤変位による傾斜が発生している場合には正値又は負値となり、求めた上記値から、地盤変位による傾斜が発生しているか否か、地盤変位による傾斜が増加または減少しているか、といった情報を得ることができる。
このように、以上の方法では、上記の情報を得るにあたり、複数の傾斜センサ15から取得される計測値を用いているので、単数の傾斜センサ15で計測値を収集する場合に比べて計測値の収集に要する時間を短縮することができ、ひいては地盤変位の検知速度を早める(地盤変位の検知のリアルタイム性を高める)ことができる。またリアルタイム性を高めようとして、例えば、単純にサンプリング数を増大させてしまうとセンサノード10における電力消費量が増大し、太陽電池18の電力供給不足、蓄電池17の交換が頻繁に発生することによるコストの増大等の問題に繋がるが、上記方法によればそのような問題は生じない。
続いて、図21とともに、上記平均を求める方法、即ち「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の平均を求める方法について具体的に説明する。図21には、図18乃至図20の各図に示した「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさを示している。
まず図21において、図20に示した「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさと、図18に示した「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさとは、行列演算を行っていずれか一方(もしくは双方)のベクトルを回転させて両者の方向を一致させた場合に大きさの符号が一致するので、いずれか一方(もしくは双方)のベクトルを回転させて両者の方向を一致させることにより容易に上記平均を求めることができる。
一方、図20に示した「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさもしくは図18に示した「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさと、図19に示した「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさとは、行列演算を行っていずれか一方(もしくは双方)のベクトルを回転させて両者の方向を一致させた場合に大きさの符号が逆になってしまうため、そのまま両者の平均を求めてしまうと地盤変位による傾斜を正しく評価することができない。
ここでこのように行列演算を行っていずれか一方(もしくは双方)のベクトルを回転させて両者の方向を一致させた場合に、両者のベクトルの大きさの符号が一致するか逆になるかは、傾斜センサ15の「外乱による傾斜ベクトル」の方向と、「地盤変位による傾斜ベクトル」の方向との関係、即ち傾斜センサ15の「外乱による傾斜ベクトル」の方向が、「地盤変位による傾斜ベクトル」の方向に対して左右何れの側にあるか否か(0゜〜180゜の範囲と180゜〜360゜の範囲の何れの側にあるか)に依存して定まる。
そこで本実施形態の地盤変位観測システム1においては、大きさの平均を求めようとする2つのベクトル(「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分)が、いずれか一方(もしくは双方)のベクトルを回転させて両者の方向を一致させた場合に符号が逆になってしまう関係である場合には、両者の平均を求める際にいずれか一方の符号を反転させて符号を一致させるようにしている。尚、いずれか一方(もしくは双方)のベクトルを回転させて両者の方向を一致させた場合に大きさの符号が同じになるか逆になるかは、例えば、次の方法により判定することができる。
まず図21に示すように、原点Oを通る2つの直線L及び直線L’を引き、これらを境界線として二次元座標系(X,Y)を4つの領域(Y軸の正側部分を含む領域(以下、「上領域」と称する。),Y軸の負側部分を含む領域(以下、「下領域」と称する。)、X軸の正側の部分を含む領域(以下、「右領域」と称する。)、及びX軸の負側の部分を含む領域(以下、「左領域」と称する。))に分割する。このとき、原点Oを始点とした場合における「地盤変位による傾斜ベクトル」の先端が下領域に含まれるようにする。尚、計測前の段階では「地盤変位による傾斜ベクトル」を正確には把握できていないので、この場合の「地盤変位による傾斜ベクトル」の方向としては、例えば、過去の計測値から経験的に推定される方向を採用する。また2つの直線L及び直線L’の方向には自由度があるが、好ましくは、同一グループに所属しているなるべく多くの傾斜センサ15が、原点Oを始点とした場合にその「外乱による傾斜ベクトル」の先端が上領域又は下領域に入らないようにする。
二次元座標系(X,Y)をこのような4つの領域に分轄した場合、原点Oを始点とした場合における「外乱による傾斜ベクトル」の先端が右領域内に入っている複数の傾斜センサ15の間では、行列演算を行っていずれか一方(もしくは双方)の「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分を回転させて両者の方向を一致させた場合に大きさの符号が一致する。また原点Oを始点とした場合における「外乱による傾斜ベクトル」の先端が左領域内に入っている複数の傾斜センサ15の間では、行列演算を行っていずれか一方(もしくは双方)の「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分を回転させて両者の方向を一致させた場合に大きさの符号が一致する。
一方、原点Oを始点とした場合における「外乱による傾斜ベクトル」の先端が右領域内に入っている傾斜センサ15と、原点Oを始点とした場合における「外乱による傾斜ベクトル」の先端が左領域内に入っている傾斜センサ15との間では、行列演算を行っていずれか一方(もしくは双方)のベクトルを回転させ両者の方向を一致させた場合に大きさの符号が逆になる。
以上の通り、行列演算を行っていずれか一方(もしくは双方)の「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分を回転させ両者の方向を一致させた場合に大きさの符号が同じになるか逆になるかは、両者の夫々について原点Oを始点とした場合における「外乱による傾斜ベクトル」がいずれの領域に入っているかを調べることにより判定することができる。
尚、同一のグループに所属する傾斜センサ15のうち地盤変位の検知に用いる傾斜センサ15を選択する場合には、「外乱による傾斜ベクトル」の方向が0゜に近いものを優先して選択することにより、「地盤変位による傾斜ベクトル」の方向の幅を広くすることができ、「地盤変位による傾斜ベクトル」の発生をなるべく広い方向範囲で想定することができて地盤変位観測システム1の運用の自由度が向上する。
以上に説明したように、本実施形態の地盤変位観測システム1によれば、複数の傾斜センサ15の計測値(「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさ)の平均を求めることにより、地盤変位による傾斜が発生しているか否か、地盤変位による傾斜が増加または減少しているか、といった情報を得ることができ、統計的に有意な数の計測値を得ることが難しい場合でも、地盤変位を精度よく検知することができる。このため、例えば、地盤変位を予兆の段階で検知することができる。
=処理説明=
続いて、地盤変位観測システム1において行われる処理について説明する。
<地盤変位観測処理>
図22は、地盤変位観測システム1において行われる処理(以下、地盤変位観測処理S2200と称する。)を説明するフローチャートである。以下、同図とともに地盤変位観測処理S2200について説明する。
センサノード10の制御装置11は、ゲートウェイ装置20からの消費電力制御指示600の受信有無をリアルタイムに監視している(S2211)。消費電力制御指示600を受信すると(S2211:YES)、制御装置11は、受信した消費電力制御指示600の内容に従ってセンサノード10の構成要素の消費電力の制御を行う(S2212)。消費電力制御指示600を受信していない場合(S2211:NO)、制御装置11はS2213からの処理を行う。
S2213では、制御装置11は、当該センサノード10の傾斜センサ15が、現在、オン(傾斜角(変位角)を計測可能な状態)であるか否かを判定する。傾斜センサ15がオンである場合(S2213:YES)、処理はS2214に進む。一方、傾斜センサ15がオフ(傾斜角(変位角)を計測できない状態)である場合(S2213:NO)、処理はS2211に戻る。
S2214では、制御装置11は、現在が傾斜角(変位角)の計測時機か否かを判定する。現在が傾斜角(変位角)の計測時機である場合(S2214:YES)、制御装置11は、当該センサノード10の傾斜センサ15から計測値を取得し(S2215)、計測値を設定した計測データ500を生成してゲートウェイ装置20に送信する(S2216)。一方、現在が計測時機でない場合(S2214:NO)、処理はS2211に戻る。
ゲートウェイ装置20は、センサノード10からの計測データ500の受信時機が到来した否かをリアルタイムに監視している(S2251)。現在が計測データ500の受信時機である場合(S2251:YES)、ゲートウェイ装置20は、計測データ500の受信を開始し(S2252)、計測データ500を受信すると、ゲートウェイ装置20は、受信した計測データ500の内容を計測値管理テーブル900に出力する(S2253)。尚、ゲートウェイ装置20は、計測データ500を随時サーバ装置30に中継送信し、一方でサーバ装置30は、計測データ500を受信すると、計測値管理テーブル900の内容を、受信した計測データ500の内容に更新する。
S2254では、ゲートウェイ装置20は、計測データ500を受信することが予定されている全てのセンサノード10からの計測データ500の受信を完了した否か、もしくは、タイムアウトしたか(予定されている受信期間を経過したか)否かを判定する。いずれかの上記条件が成立する場合(S2254:YES)、処理はS2255に進む。上記条件のいずれも成立しない場合(S2254:NO)、処理はS2252に戻る。
S2255では、ゲートウェイ装置20は、地盤変位が生じているか否かを判定する。この処理(以下、地盤変位検知処理S2255と称する。)の詳細については後述する。
S2256では、ゲートウェイ装置20は、地盤変位検知処理S2255の結果が、「地盤変位有り」であるか否かを判定する。地盤変位検知処理S2255の結果が「地盤変位有り」である場合(S2256:YES)、ゲートウェイ装置20は、地盤変位を検知した旨を出力装置25に出力する(S2257)。一方、地盤変位検知処理S2255の結果が「地盤変位有り」でない場合(S2256:NO)、処理はS2258に進む。
S2258では、サーバ装置30が消費電力生成指示600を生成する。S2259では、サーバ装置30が消費電力制御指示600をゲートウェイ装置20を介してセンサノード10に送信する。
<地盤変位検知処理>
図23は、図22における地盤変位検知処理S2255を説明するフローチャートである。以下、同図とともに地盤変位検知処理S2255について説明する。
まずゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、グループ(グループID)を一つ選択する(S2311)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、選択したグループに所属する傾斜センサ15の組を選択する(S2312)。尚、ゲートウェイ装置20は、例えば、夫々の「外乱による傾斜ベクトル」の方向のなす角が0゜に近い傾斜センサ15の組を優先して選択する(尚、このときに参照する各傾斜センサ15の「外乱による傾斜ベクトル」の方向については、例えば、ゲートウェイ装置20に予め格納(記憶)しておく。)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、選択した傾斜センサ15の夫々について、時系列的な変化の前後のベクトルを取得する(S2313)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、選択した傾斜センサ15の夫々について、前述した演算を行うことにより「地盤変位による傾斜ベクトル」のうち「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分を求める(S2314)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、選択した傾斜センサ15の夫々について求めた「外乱による傾斜ベクトル」に対して垂直な方向の成分の大きさの平均を求める(S2315)。
続いて、ゲートウェイ装置20は、S2315で求めた平均値の絶対値が予め設定された閾値を超えているか否かを判定する(S2316)。上記絶対値が予め設定された閾値以上である場合(S2316:YES)、ゲートウェイ装置20は現在選択中のグループについて「地盤変位有り」と判定する(S2317)。その後はS2319に進む。一方、上記絶対値が予め設定された閾値を未満である場合(S2316:NO)、ゲートウェイ装置20は現在選択中のグループについて「地盤変位無し」と判定する(S2318)。その後はS2319に進む。
S2319では、ゲートウェイ装置20は、S2317又はS2318の判定結果を地盤変位判定結果テーブル950に出力する。
図24に、地盤変位判定結果テーブル950の一例を示している。同図に示すように、地盤変位判定結果テーブル950は、グループID951、判定結果952、平均値953、及び判定日時954の各項目を有するレコードの集合である。判定結果952には、当該レコードのグループID951の判定結果が設定される(「地盤変位有り」の場合は「有」、「地盤変位無し」の場合は「無」が設定される。)。平均値953には、当該レコードのグループ951についてS2315にて求めた平均値が設定される。尚、ユーザは合成ベクトル953から合成ベクトルの方向と大きさを知ることができる。判定日時954には、当該レコードのグループ951について当該判定結果952の判定を行った日時が設定される。地盤変位判定結果テーブル950の内容を参照することで、ユーザはグループごとに(観測エリア2の所定領域ごとに)地盤変位が生じているか否かを把握することができる。
ところで、以上の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
例えば、ゲートウェイ装置20とサーバ装置30を共通のハードウェア(ゲートウェイ装置20とサーバ装置30の双方の機能を兼ね備えた装置)としてもよい。
また前述した地盤変位観測処理S2200においてゲートウェイ装置20が主体となって行う処理については、これをサーバ装置30が主体となって行う処理としてもよい。