以下、本発明にかかる実施例の画像処理装置および画像処理方法を図面を参照して詳細に説明する。なお、実施例は特許請求の範囲にかかる本発明を限定するものではなく、また、実施例において説明する構成の組み合わせのすべてが本発明の解決手段に必須とは限らない。
質感を数値で定量的に表現することができれば、この数値が対象物と一致するように再現物を生成することにより、対象物と同一物に見える再現物を得ることができる。以下では、質感を表す数値を「質感信号」と呼ぶ。
以下では、質感が、例えば、色、光沢、内部散乱、形状などの要素から構成されるものとする。平らで表面の凹凸が充分に小さい印刷物が対象物の場合、同種の平面メディアに画像を記録することで、形状が対象物と略一致する再現物を得ることができる。また、不透明な物体における内部散乱の違いは、見た目の違いに対する影響は小さい。これらの場合、質感として重要な要素は色と光沢であり、これら二つの要素から質感が構成されると見做すことができる。また、他の場合においても色と光沢は質感の主要な要素である。
色の数値表現である色信号には、例えば、非特許文献1に従い測定され、非特許文献2に従い計算されるCIELAB値を利用することができる。CIELABは、主に、拡散反射光の明るさと色度に関する特性を表す。正反射方向と正反射方向近傍の方向を除く方向が拡散反射方向とすると、拡散反射光は、拡散反射方向への反射光に相当する。CIELAB値が対象物と一致するように再現物を形成すれば、拡散反射方向の見えを対象物と略一致させることができる。
光沢の数値表現である光沢信号には、例えば、非特許文献3に従い測定される鏡面光沢度や、非特許文献4や非特許文献5に従い測定される像鮮明度、非特許文献6や非特許文献7に従い測定される反射ヘイズの値を利用することができる。
鏡面光沢度は正反射光の明るさに関する特性を表し、像鮮明度および鏡面光沢度を反射ヘイズで割った値は、試料に写り込んだ照明像の鮮明さに関する特性を表す。以下、この照明像の鮮明さに関する特性を「写像性」と呼ぶ。写像性が大きいとは、像鮮明度が大きく、鏡面光沢度を反射ヘイズで割った値が大きいことを意味する。
鏡面光沢度の値と写像性の値、つまり像鮮明度および/または鏡面光沢度を反射ヘイズで除算した値が対象物と一致するように再現物を形成すれば、正反射方向の見えを対象物と略一致させることができる。
以下では、例えば、前記の規格に従い測定されたCIEALB値、鏡面光沢度、写像性に対応する質感信号から構成されるデータを「質感データ」と呼ぶ。質感データは、対象物の少なくとも色情報と光沢情報を含む一種の画像データであり、微小領域ごとに質感信号を有する。質感信号は、例えば、CIEALBに対応した色信号と、鏡面光沢度および写像性に対応した光沢信号を有する。なお、写像性は、像鮮明度でもよいし、鏡面光沢度を反射ヘイズで除算した値でもよい。また、以下では、質感信号が対応する微小領域を「領域」または「画素」と呼ぶ。
[質感再現処理]
図1のフローチャートにより質感再現処理の一例を説明する。まず、対象物の質感データが入力される(S101)。なお、対象物の質感が領域によって異なる場合は、領域ごとの質感信号に対応した質感データを入力する。例えば、カラー画像データは、領域ごとのCIELAB値に対応した質感信号を有する。
次に、入力された質感データから質感信号(色信号と光沢信号)が取得され(S102)、質感再現装置の質感再現範囲を示す情報が取得される(S103)。質感再現装置の質感再現範囲は、当該装置で再現可能なCIELAB値、鏡面光沢度、写像性の値の組み合わせを示す情報(以下、再現範囲情報)として予め記憶装置に格納されている。
次に、再現範囲情報が示す色再現範囲に基づき、質感信号の色信号が質感再現装置において再現可能な色に対応する色信号に変換される(S104)。この工程における変換が「カラーマッピング」である。なお、ステップS104におけるカラーマッピングは、光沢信号を参照しない。従って、色信号が同じであれば、光沢信号が異なっていても、同一の色信号に変換される。
カラーマッピングは、公知の方法で実施すればよい。例えば、質感信号の色信号は、色相角を維持して色差ΔEが最小の、質感再現装置によって再現可能な色に対応する色信号に変換される。色相角と色差ΔEにはそれぞれ、非特許文献2に定義されているab色相角の値、非特許文献8に定義されているCIEDE2000の値が利用可能である。
次に、再現範囲情報に基づき、カラーマッピング後の色を維持して再現可能な光沢再現範囲が取得される(S105)。つまり、カラーマッピング後の色信号のCIELAB値を含む鏡面光沢度と写像性の値の組み合わせが再現範囲情報から抽出される。抽出された鏡面光沢度と写像性の値の組み合わせが、カラーマッピング後の色を維持して再現可能な光沢再現範囲に相当する。
次に、質感信号の光沢信号が光沢再現範囲内の光沢に対応する光沢信号に変換される(S106)。この工程の変換を「光沢マッピング」と呼ぶ。つまり、ステップS105において取得された光沢再現範囲に基づき、光沢信号は、光沢再現範囲内の光沢信号に変換される。言い替えれば、光沢信号は、カラーマッピング後の色を維持して再現可能な光沢に対応する光沢信号に変換される。
なお、本実施例における光沢マッピングは、カラーマッピング結果に基づいて実施されるため、質感データの光沢信号が同じであっても、当該質感データの色信号が異なれば、同一の光沢信号に変換されない場合がある。
次に、カラーマッピング後の色信号と光沢マッピング後の光沢信号に基づき質感再現装置に出力される出力信号が生成される(S107)。質感再現装置は、例えば、プリンタなどの画像記録装置であり、出力信号は、例えば、画像記録装置が備える色材の量に関する信号であるが、詳細は後述する。
次に、質感再現装置により、出力信号に基づき再現物が生成される(S108)。なお、質感信号で構成される「質感データ」に対して、出力信号で構成されるデータを「制御データ」と呼ぶ。言い替えれば、ステップS104-S106は、入力された質感データを質感再現装置が再現可能な質感に対応する質感データに変換する工程である。また、ステップS107は、ステップS104-106で得られた質感データを質感再現装置の制御データに変換する工程である。
なお、上記の手順は一例であり、例えば、質感データの入力前に、再現範囲情報の取得を行ってもよい。
●光沢マッピング
図2により光沢マッピングを説明する。図2に示すグラフの横軸は写像性の値、縦軸は鏡面光沢度の値を示し、領域21は光沢再現範囲を示し、点22は質感信号の光沢信号を示す。例えば、鏡面光沢度重視の再現を行う場合、光沢信号は、光沢再現範囲21における鏡面光沢度が最も近い光沢信号に変換される。図2の例においては、光沢信号22は点23にマッピングされ、入力された質感データの鏡面光沢度に近い光沢信号が出力される。その結果、入力された質感データが示す鏡面光沢度との差が小さい再現物が得られる。
また、写像性重視の再現を行う場合、光沢信号は、光沢再現範囲21における写像性の値が最も近い光沢信号に変換される。図2の例においては、光沢信号22は点24にマッピングされ、入力された質感データの写像性に近い光沢信号が出力される。その結果、入力された質感データが示す写像性との差が小さい再現物が得られる。
鏡面光沢度と写像性の両方を質感データに近付けたい場合、光沢信号22は、光沢再現範囲21の境界上の最も近い点にマッピングされる。
[装置の構成]
図3のブロック図により実施例の画像処理を実行する情報処理装置の構成例を示す。マイクロプロセッサ(CPU)201は、RAMなどのメインメモリ202をワークメモリとして、HDDまたはSSDなどの記憶部203やROM204に格納されたプログラムを実行し、システムバス205を介して後述する構成を制御する。なお、記憶部203やROM204には、物体の質感を再現する、上述した質感再現処理(S101-S1067)を実現するプログラムや各種データが格納されている。
USBなど汎用インタフェイス(I/F)206には、キーボードやマウスなどの指示入力部207、USBメモリやメモリカードなどの記録メディア(コンピュータが読み取り可能な記録媒体)208、質感再現装置209などが接続される。また、ビデオカード(VC)210に接続されたモニタ211には、CPU201によって、ユーザインタフェイス(UI)や処理経過や処理結果を示す情報が表示される。
例えば、CPU201は、指示入力部207を介して入力されるユーザ指示に従いROM204、記憶部203または記録メディア208に格納されたアプリケーションプログラム(AP)をメインメモリ202の所定領域にロードする。そして、APを実行し、APに従いモニタ211にUIを表示する。
次に、CPU201は、ユーザ指示に従い記憶部203や記録メディア208に格納された各種データをメインメモリ202の所定領域にロードする。そして、APに従いメインメモリ202にロードした各種データに所定の演算処理を施す。そして、CPU201は、ユーザ指示に従い演算処理結果をモニタ211に表示したり、記憶部203や記録メディア208に格納したり、質感再現装置209に出力したりする。また、CPU201は、汎用I/F206を介して、質感再現装置209から各種情報を取得することができる。
なお、CPU201は、システムバス205に接続された図示しないネットワークI/Fを介して、有線または無線ネットワーク上のコンピュータ装置やサーバ装置との間でプログラム、データ、演算処理結果の送受信を行うこともできる。また、モニタ211と指示入力部207は、それらを重ねたタッチパネルであってもよく、その場合、情報処理装置はタブレットデバイスまたはスマートフォンのようなコンピュータ機器である。
[質感再現装置の構成]
図4の概観図により質感再現装置209の構成例を説明する。なお、図4には、質感再現装置209としてインクジェット方式の画像形成装置の例を示す。
キャリッジ3202に交換可能に搭載されたヘッドカートリッジ3201は、複数の記録材吐出口に対応する複数の記録素子を有す記録ヘッドと、記録ヘッドにインクを供給するインクタンクを有する。さらに、ヘッドカートリッジ3201は、各記録素子の駆動信号など記録ヘッドの信号を送受信するためのコネクタを有する。
キャリッジ3202は、コネクタを介してヘッドカートリッジ3201に信号を伝達するためのコネクタホルダを有し、ガイドシャフト3203に沿って往復移動が可能である。つまり、キャリッジ3202は、主走査モータ3204を駆動源とするモータプーリ3205と従動プーリ3206、および、タイミングベルト3207などから構成される駆動機構によって、その位置と移動が制御される。ヘッドカートリッジ3201の吐出口面は、キャリッジ3202から下方へ突出して記録紙3208と平行になるように保持されている。キャリッジ3202のガイドシャフト3203に沿った移動が「主走査」であり、移動方向が「主走査方向」である。
記録紙3208は、オートシートフィーダ(ASF)3210に搭載される。画像形成時、ピックアップローラ3212はギアを介して給紙モータ3211に駆動され、ASF3210から記録紙が一枚ずつ分離され給紙される。そして、記録紙3208は、搬送ローラ3209の回転により、キャリッジ3202上のヘッドカートリッジ3201の吐出口面に対向する記録開始位置に搬送される。搬送ローラ3209は、ギアを介してラインフィード(LF)モータ3213に駆動される。記録紙3208が記録開始位置に搬送されたか否かの判定は、ペーパエンドセンサ3214による記録紙3208の通過検知によって行われる。
記録紙3208が記録開始位置に搬送された後、キャリッジ3202が記録紙3208上をガイドシャフト3203に沿って移動し、移動の際、駆動信号に応じて記録ヘッドの各吐出口からインクが吐出される。移動するキャリッジ3202がガイドシャフト3203の一端に達すると、搬送ローラ3209により、主走査方向に直交する方向に記録紙3208が所定距離、搬送される。この記録紙3208の搬送が「紙送り」または「副走査」であり、その搬送方向が「紙送り方向」または「副走査方向」である。
記録紙3208の紙送りが終了すると、再び、キャリッジ3202がガイドシャフト3203に沿って移動し、駆動信号に応じて記録ヘッドの各吐出口からインクが吐出される。このように、キャリッジ3202による主走査と紙送り(副走査)を繰り返して、記録紙3208上に画像が形成される。
図5により記録ヘッドによって記録紙3208の同一ライン上を複数回走査して画像を形成するマルチパス記録を説明する。図5は2パス記録を示し、例えば、主走査において記録ヘッドの記録幅L分の画像記録を行い、一主走査分の記録が終了するごとに記録紙3208を副走査方向に距離L/2分搬送する。図5に示す領域Aの記録はm回目の主走査とm+1回目の主走査によって完了し、領域Bの記録はm+1回目の主走査とm+2回目の主走査により完了する。
nパス記録を行う場合、一主走査分の記録が終了するごとに記録紙3208を副走査方向に距離L/n分搬送し、記録紙3208の同一ライン上を記録ヘッドがn回主走査することで画像が形成されることになる。なお、記録幅Lは、吐出口列の副走査方向の長さに相当し、質感再現装置209が一主走査で記録可能な領域の副走査方向の長さに相当する。
一般に、記録パス数が多いほど、画像形成に要する時間が長くなるが、記録ヘッドのインク吐出口ごとの吐出量や吐出方向のばらつきの影響が抑制されて濃度むらが目立ち難くなる。また、記録パス数が多いほど、質感再現範囲を拡げることができる。さらに、一回のパスで記録するインク量が少なくなり、一回のパスで形成されるドットが分散する。そして、複数回のパスの記録によって、粒状のドットが重畳して記録紙3208の表面に微小な凹凸が形成される。その結果、表面反射光の散乱が大きくなり、写像性が小さい光沢を再現することができる。
逆に、記録パス数を制限し、少ない記録パス数で画像形成を行うと、一回のパスで記録するインク量が多くなり、インクが層を形成し記録紙3208の表面の平滑化に寄与する結果、表面反射光の散乱が小さくなり、写像性が大きい光沢を再現することができる。ただし、形成される表面凹凸のレベルは記録材の物性に依存し、記録材の種類によって異なる。また、再現する色によって色材量も変化する。そのため、色によって、制御可能な写像性の範囲が異なる。言い替えれば、色によって写像性の再現範囲が変化する。
図5に示すマルチパス記録においてnパス記録を行う場合、一主走査ごとに記録紙3208を副走査方向に距離L/n分搬送するため、一主走査における記録幅はL/nである。一方、本実施例においては、詳細は後述するが、質感再現装置が一主走査で記録可能な領域を単位記録領域として、同じ単位記録領域を複数回主走査して再現物を生成することになる。
●記録ヘッド
図6によりヘッドカートリッジ3201の構成例を示す。ヘッドカートリッジ3201は、記録材としてのインクを貯蔵するインクタンク601と、インクタンク601から供給されるインクを吐出信号に応じて吐出する記録ヘッド602を有する。ヘッドカートリッジ3201は、例えば、イエローY、マゼンタM、シアンC、ブラックK、第一の光沢調整材A、第二の光沢調整材Bの各インクタンクを独立に備える。各インクタンク601は、図6(b)に示すように、記録ヘッド602に対して着脱自在である。
光沢調整材Aおよび光沢調整材Bは、屈折率が異なる無色透明の材料であることが望ましい。しかし、光沢調整材は、完全に透明ではない若干着色した材料でもよく、無色透明に近い材料であればよい。光沢調整材Aの屈折率は、光沢調整材Bの屈折率よりも大きい。
屈折率が大きい光沢調整材Aが記録面の最上面(最表面)に記録された領域は反射率が大きく、鏡面光沢度が大きい光沢を再現することができる。逆に、屈折率が小さい光沢調整材Bが最表面に記録された領域は反射率が小さく、鏡面光沢度が小さい光沢を再現することができる。そして、領域における光沢調整材AとBの使用比率を調整すれば、それらを単体で使用した場合の鏡面光沢度の中間的な鏡面光沢度を再現することができる。
ただし、記録可能な記録材の総量には制限がある。また、再現する色によって使用される色材量が変化するため、使用可能な光沢調整材の量は色によって変化する。そのため、色によって、制御可能な鏡面光沢度の範囲が異なる。言い替えれば、色によって鏡面光沢度の再現範囲が変化する。
[質感再現システムの処理構成]
図7のブロック図により質感再現システムにおける処理構成例を説明する。図7に示す処理構成および機能は、CPU201による上述した画像処理(S101-S107)用のプログラムの実行によって実現される画像処理装置1100、および、CPU201の指示に基づく質感再現装置209の動作により実現される。
データ入力部1101は、記憶部203、記録メディア208または図示しないサーバ装置などから質感信号で構成される質感データを入力する。質感信号は、色信号と光沢信号から構成され、質感データの各画素は、一般的な色信号RGBに加えて、光沢信号GlSpを有する。光沢信号Glは鏡面光沢度に対応する信号であり、光沢信号Spは写像性に対応する信号である。
質感データを構成する質感信号RGBGlSpは、例えば、各要素が8ビット、合計40ビットのディジタル信号である。なお、質感データのフォーマットは、上記に限らず、例えば、色信号RGBで構成される画像データと、光沢信号GlSpで構成される光沢データの二種類のデータを入力する構成でもよい。
質感信号取得部1102は、入力される質感信号をCIELABに対応する色信号Labと、鏡面光沢度に対応する光沢信号g、写像性に対応する光沢信号sに変換する。質感信号取得部1102が出力する質感信号Labgsは、好適には、測定値に対応した、装置に非依存の信号である。
色信号RGBから色信号Labへの変換には、sRGBやAdobeRGBなどの標準色空間に対して規定された変換方法を用いればよい。あるいは、記憶部203などに格納された色信号RGBと色信号Labの対応関係が記述されたカラーテーブル(三次元ルックアップテーブル)を参照する公知の補間演算を用いて色信号RGBに対応する色信号Labを算出してもよい。
光沢信号Glから光沢信号gへの変換、および、光沢信号Spから光沢信号sへの変換にも、定義された標準の変換方法を用いればよい。あるいは、記憶部203などに格納された光沢信号Glと光沢信号gの対応関係および光沢信号Spと光沢信号sの対応関係が記述された光沢テーブルを参照する補間演算により変換を行えばよい。
カラーテーブルや光沢テーブルを利用する場合、好適には、質感データの種類や質感データを生成した質感取得装置ごとにカラーテーブルや光沢テーブルを用意して、例えば質感データのヘッダに記述された識別情報に基づき変換に利用するテーブルを選択する。勿論、ユーザ指示に基づいて変換に利用するテーブルを選択してもよい。
質感マッピング部1103は、記憶部203などに格納された質感再現装置209の再現範囲情報を参照して、カラーマッピングおよび光沢マッピングを行う。カラーマッピング部1111は、再現範囲情報が示す色再現範囲に基づき、色信号Labを質感再現装置209が再現可能な色に対応する色信号L'a'b'に変換する。光沢再現範囲取得部1112は、再現範囲情報を参照して、カラーマッピング後の色信号L'a'b'を維持可能な質感再現装置209の光沢再現範囲を取得する。光沢マッピング部1113は、光沢信号gsを光沢再現範囲内の光沢信号g's'に変換する。
信号変換部1104は、質感信号L'a'b'g's'を質感再現装置209の記録材の量に対応する記録材量信号(色材量信号CMYKと光沢調整材量信号AB)と、質感再現装置209の記録方法を示す記録方法信号(以下、パス数信号P)に変換する。信号変換部1104の変換は、記憶部203などに格納された質感再現装置209のデバイス特性テーブルを参照して行われる。
図8により質感再現装置209のデバイス特性テーブルの一例を示す。デバイス特性テーブルには、離散的な記録材量信号CMYKABとパス数信号Pに対応する質感信号Labgsが記述されている。色材量信号CMYKは色材量に関する信号であり、例えば、各色8ビットのディジタル信号ある。光沢調整材量信号ABはそれぞれ、光沢調整材AとBの量に関する信号であり、例えば、それぞれ8ビットのディジタル信号である。パス数信号Pは、記録パス数nに関する信号である。パス数信号Pは、例えば1から16の値をとり、パス数信号P=1は1パス記録を、パス数信号P=2は2パス記録を、…、パス数信号P=16は16パス記録をそれぞれ示す。
ハーフトーン処理部1105は、信号変換部1104が出力する記録材量信号CMYKABに誤差拡散法や組織的ディザ法によるハーフトーン処理を施し、質感再現装置209の解像度に対応する二値信号C'M'Y'K'A'B'を出力する。二値信号C'M'Y'K'A'B'は、色材および光沢調整材のドットの記録または非記録を示し、言い替えれば、色材および光沢調整材のドットの記録位置を示す。ドットは、例えば、信号値が‘1’の位置に記録され、信号値が‘0’の位置には記録されない。
出力信号生成部1106は、パス数信号P、並びに、色材および光沢調整材のドット配置を示すハーフトーン処理後の二値信号C'M'Y'K'A'B'に基づき、パス分解処理を行って質感再現装置209に出力する出力信号を生成する。パス分解処理により、パスマスクと二値信号C'M'Y'K'A'B'の論理積が計算され、各パスで記録する記録材のドット配置を示すドット配置信号C"M"Y"K"A"B"が出力信号として生成される。
パスマスクは、例えば、1パス記録用から16パス記録用までの16セットで構成され、出力信号生成部1106は、パス数信号Pに対応するパスマスクセットを選択的に利用する。例えば、パス数信号P=2の場合、第一パスのシアン色材のドット配置は、2パス記録用のパスマスクセットの第一パス用のパスマスクと、シアン色材のドット記録位置を示す二値信号C'との論理積によって生成される。
図9によりパスマスクの一例を示す。なお、図9には、簡単のために、パスマスクが4×4の例(記録ヘッドの記録材当りのノズル数が4で、最大4パス記録の例)を示す。1パス記録から16パス記録を行う場合、少なくとも、記録材当りのノズル数は16になり、パスマスクは16×16になる。
図9(a)は1パス記録用の第一パス用のパスマスクを示す。1パス記録においては第一パスで全ドットを記録するため、当該パスマスクの全セルに‘1’が設定される。
図9(b)(c)は2パス記録用のパスマスクセットを示し、図9(b)が第一パス用のパスマスク、図9(c)が第二パス用のパスマスクである。2パス記録においてはドットを第一パスと第二パスに分けて記録するため、第一パス用のパスマスクの各セルの値を反転した値が第二パス用のパスマスクの各セルに設定される。
図9(d)から図9(g)は4パス記録用のパスマスクセットを示し、図9(d)が第一パス用のパスマスク、図9(e)が第二パス用のパスマスク、図9(f)が第三パス用とパスマスク、図9(g)が第四パス用のパスマスクである。4パス記録においてはドットを第一から第四パスの四つのパスに分けて記録するため、値‘1’のセルが、パスマスク間において重複せず、かつ、各パスマスクにおいて均等配置になるように、セルの値が設定される。
このように、nパス記録においてはドットを第一パスから第nパスのnパスに分けて記録するため、値‘1’のセルが、パスマスク間において重複せず、かつ、各パスマスクにおいて均等配置になるように、セルの値が設定される。なお、記録材の種類ごとに異なるパスマスクを用意してもよい。
質感信号取得部1102、質感マッピング部1103、信号変換部1104、ハーフトーン処理部1105、出力信号生成部1106の処理は画素単位に行われる。従って、出力信号生成部1106が画素ごとのパス数信号Pに応じてパス分解に適用するパスマスクセットを切り替えることで、画素ごとに記録パス数が制御されたドット配置信号C"M"Y"K"A"B"が生成される。
出力信号生成部1106は、記録パスごとのドット配置信号C"M"Y"K"A"B"をメインメモリ202または記憶部203に割り当てられたパスバッファ1107に格納する。パスバッファ1107は、複数ラインのデータ記憶が可能なラインバッファに類似し、複数の記録パスのドット配置信号C"M"Y"K"A"B"を記憶することができる。
例えば1パス記録から16パス記録を行う場合、パスバッファ1107の第一パスに対応する記憶領域のデータは第一パスにおいて各記録材を吐出すべき位置を示す。同様に、第二パスに対応する記憶領域のデータは第二パスにおいて各記録材を吐出すべき位置を示し、…、第16パスに対応する記憶領域のデータは第16パスにおいて各記録材を吐出すべき位置を示す。言い替えれば、パスバッファ1107の各記録パスに対応する記憶領域に記憶されたデータの論理和は、記録ヘッドの記録幅Lに相当する単位記録領域において各記録材を吐出すべき位置を示すことになる。
質感再現装置209の記録部1108は、単位記録領域を例えば16回主走査する。その際、画像処理装置1100の出力信号として、主走査に対応する、パスバッファ1107の記憶領域からドット配置信号C"M"Y"K"A"B"が順次出力される。記録部1108は、ドット配置信号C"M"Y"K"A"B"に基づき記録ヘッドを駆動して各ノズルに記録材を吐出させる。単位記録領域の記録が終了すると、記録部1108は、記録紙3208を記録幅L分搬送して、次の単位記録領域の記録を行う。このような単位記録領域の記録動作が繰り返されて再現物1109が生成される。
なお、パスバッファ1107の各記憶領域に記憶されたデータの論理和が‘0’の場合、当該記憶領域に対応する記録パスにおいて記録材を吐出する必要がない。そのような場合、記録部1108は、当該記録パスの主走査を省略して次の記録パスの処理に進むことができる。つまり、パス数信号Pが例えば1から16の値をとるように設定されている場合も、単位記録領域当り常に16回の主走査が必要になるわけではない。言い替えれば、単位記録領域の主走査は一回から、パス数信号Pの最大値に対応する所定回数の範囲で繰り返される。
また、ドット配置信号の出力順は第一パスから第nパスの昇順でもよいし降順でもよい。あるいは、ランダムな出力順も可能である。また、パスバッファ1107の各記憶領域は、nパス記録分の主走査に関する記録部1108の処理(必ずしもnパス分の記録ヘッドの移動が必要なわけではない)が終了した後にクリアされる。あるいは、記憶領域に対応する記録パスの主走査に関する記録部1108の処理(必ずしも当該記録パスにおいて記録ヘッドの移動が必要なわけではない)が終了した時点で当該記憶領域がクリアされてもよい。
このように、質感信号の色信号を質感再現装置209の色再現範囲にカラーマッピングした後、カラーマッピング後の色を維持可能な光沢再現範囲に質感信号の光沢信号を光沢マッピングする。言い替えれば、質感再現装置の色再現範囲から再現する色を決定し、その後、この色を維持して質感再現装置が再現可能な光沢再現範囲から再現する光沢を決定する。さらに、画素ごとの記録パス数nの制御により画素ごとに写像性を制御して、質感データが示す対象物の質感を好適に再現した再現物1109を生成する。
従って、対象物の質感が質感再現装置209の質感再現範囲外にあったり、質感再現装置209の光沢再現範囲が色によって異なる場合も、質感データが示す対象物の質感を好適に再現した再現物1109を生成することができる。とくに、絵画を再現する場合などは、対象物と再現物の色の差が見た目の違いに大きく影響するが、色の維持を優先する本実施例によれば、対象物の色を良好に再現することができる。
また、図1に示す質感再現手順のステップS101はデータ入力部1101、ステップS102は質感信号取得部1102、ステップS103は質感マッピング部1103が実施する処理である。また、ステップS104はカラーマッピング部1111、ステップS105は光沢再現範囲取得部1112、ステップS106は光沢マッピング部1113が実施する処理である。同様に、ステップS107は信号生成部1110を構成する信号変換部1104、ハーフトーン処理部1105、出力信号生成部1106が実施する処理であり、ステップS108は記録部1108が実施する処理である。
また、図7には、画像処理装置1100のデータ入力部1101から出力信号生成部1106が、図1に示す画像処理を実行する図3に示す情報処理装置によって実現される例を示したが、それら処理部を質感再現装置209に組み込むことも可能である。
[変形例]
上記では、鏡面光沢度を重視する光沢マッピング、および、写像性を重視する光沢マッピングを説明したが、鏡面光沢度と写像性のどちらを重視するかはユーザ指示や、質感データや画像の領域に応じて切り替えてもよい。あるいは、カラーマッピングにおける色再現誤差に応じて、鏡面光沢度の重視または写像性の重視を切り替えてもよい。
以下、本発明にかかる実施例2の画像処理装置および画像処理方法を説明する。なお、実施例2において、実施例1と略同様の構成については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する場合がある。
実施例2では、カラーマッピング結果に基づいて光沢信号を補正し、補正した光沢信号に光沢マッピングを施す例を説明する。図10のフローチャートにより実施例2の質感再現処理の手順例を説明する。
実施例1の同様の処理(S101-S105)により、カラーマッピング後の色信号が生成され、色再現範囲が取得されると、カラーマッピング前後の色信号から色再現誤差が算出される(S111)。色再現誤差としては、例えば、両者の明度差ΔLが算出される。
次に、色再現誤差に応じて質感信号の光沢信号が補正される(S112)。この補正は、色再現誤差を光沢によって補うための処理であり、例えば、算出された明度差ΔLに応じて鏡面光沢度に対応する光沢信号が補正される。そして、補正後の光沢信号が光沢再現範囲内の光沢に対応する光沢信号に変換される(S106)。以降の処理は、実施例1と同様であり、詳細説明を省略する。
一般に、鏡面光沢度が大きい程、再現物は明るく観察される。例えば、入力された質感データが示す明度が質感再現装置が再現可能な明度よりも大きいために本来再現したい色よりも暗い色が再現される場合、より大きな鏡面光沢度で再現するように光沢信号が補正される。逆に、質感データが示す明度が質感再現装置が再現可能な明度よりも小さいため本来再現したい色よりも明るい色が再現される場合、より小さな鏡面光沢度で再現されるように光沢信号が補正される。
なお、上記の手順は一例であり、例えば、質感データの入力前に再現範囲情報の取得を行ってもよいし、光沢再現範囲の取得前に色再現誤差の算出と光沢信号の補正を行ってもよい。
[質感再現システムの処理構成]
図11のブロック図により実施例2の質感再現システムにおける処理構成例を説明する。図11に示す処理構成および機能は、CPU201による図10に示す画像処理(S101-S107)用のプログラムの実行によって実現される画像処理装置1100、および、CPU201の指示に基づく質感再現装置209の動作により実現される。
実施例2の画像処理装置1100は、質感マッピング部1103の構成が図7に示す実施例1の構成と異なるが、その他の構成は実施例1と同様であり、それら構成の詳細説明を省略する。質感マッピング部1103は、実施例1と同様のカラーマッピング部1111、光沢再現範囲取得部1112、光沢マッピング部1113に加えて、色再現誤差算出部1114と光沢信号補正部1115を有する。
色再現誤差算出部1114は、カラーマッピング前後の色信号から色再現誤差を算出するステップS111の処理を実行する。光沢信号補正部1115は、色再現誤差に応じて質感信号の光沢信号を補正するステップS112の処理を実行する。鏡面光沢度に対応した光沢信号gの補正は、例えば、下式を用いて行われる。
ΔL = L - L';
g" = g + α×ΔL; …(1)
ここで、Lはマッピング前の明度値、
L'はマッピング後の明度値、
αは所定の定数、
g"は補正後の光沢信号。
また、光沢マッピング部1113は、光沢信号g"sを光沢再現範囲内の光沢信号g's'に変換するステップS106の処理を実行する。つまり、補正後の光沢信号g"と質感信号取得部1102が出力する光沢信号sが光沢再現範囲内の光沢信号g's'に変換される。
このように、カラーマッピング結果の色再現誤差に基づき光沢信号を補正し、補正後の光沢信号に対して光沢マッピングを行うため、対象物と再現物の総合的な見た目の差を小さくすることができる。
[変形例]
上記では、明度誤差ΔLに基づき光沢信号gを補正する例を説明したが、マッピング前の彩度値Cとマッピング後の彩度値C'の差分である彩度誤差ΔC=C-C'に基づき光沢信号gを補正してもよい。一般に、鏡面光沢度が大きい程、照明光がバイアスとなって目に入射するため、再現物の彩度がより低く感じられる。従って、入力された質感データが示す彩度が質感再現装置が再現可能な彩度よりも大きいため本来再現したい色よりもくすんだ色が再現される場合、より小さな鏡面光沢度で再現されるように光沢信号gを補正する。
同様に、色相誤差Δhに基づいて光沢信号gを補正してもよい。この場合、鏡面光沢度に対応する光沢信号gには、明るさの情報だけでなく色情報を含めるようにする。そして、カラーマッピング前後の色の色相誤差を光沢の色相差で補うように補正する。例えば、入力された質感データが示す色相が質感再現装置が再現可能な色相よりも赤色が強い場合は、正反射光の赤色がより大きく再現されるように光沢信号gを補正する。同様に、質感データが示す色相が質感再現装置が再現可能な色相よりも黄色が強い場合、正反射光の黄色がより大きく再現されるように光沢信号gを補正する。
また、光沢信号gの補正を特定の色のみに適用する構成も可能である。この場合、例えば、金色領域や金属色領域を抽出する領域抽出部を追加し、抽出した領域内で入力された質感データが示す彩度よりも質感再現装置が再現可能な彩度が低い場合のみ、より大きな鏡面光沢度が再現されるように当該領域の光沢信号gを補正する。
以下、本発明にかかる実施例3の画像処理装置および画像処理方法を説明する。なお、実施例3において、実施例1、2と略同様の構成については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する場合がある。
実施例3では、質感データを直接、質感再現装置209の制御信号に変換する例を説明する。図12のブロック図により実施例3の質感再現システムにおける処理構成例を説明する。図12に示す処理構成および機能は、CPU201による質感データを制御信号に変換する画像処理用のプログラムの実行によって実現される画像処理装置1100、および、CPU201の指示に基づく質感再現装置209の動作により実現される。
データ入力部1101は、実施例1と同様に、記憶部203、記録メディア208または図示しないサーバ装置などから質感信号で構成される質感データRGBGlSpを入力する。信号変換部1201は、質感データRGBGlSpを質感再現装置209の記録材の量に対応する記録材量信号(色材量信号CMYKと光沢調整材量信号AB)と、質感再現装置209の記録方法を示す記録方法信号(パス数信号P)に変換する。信号変換部1201以降の処理構成は、図7に示す実施例1の処理構成と同様であり、説明を省略する。
信号変換部1201の変換は、記憶部203などに格納された質感再現装置209の質感再現テーブルを参照して行われる。図13により質感再現テーブルの一例を示す。質感再現テーブルには、離散的な質感信号RGBGlSpに対応する制御信号CMYKABPが記述されている。
質感再現テーブルは、実施例1において説明した質感信号取得部1102、質感マッピング部1103、信号変換部1104を用いて作成される。つまり、質感信号取得部1102により、質感再現テーブルに記述された離散的な質感信号RGBGlSpを装置非依存の質感信号Labgsに変換する。次に、質感マッピング部1103により、質感信号Labgsを質感再現装置209が再現可能な質感に対応する質感信号L'a'b'g's'に変換する。そして、信号変換部1104により、質感信号L'a'b'g's'を質感再現装置209の制御信号CMYKABPに変換し、変換結果を対応する質感信号RGBGlSpに関連付けて質感再現テーブルに格納する。
[質感再現テーブルの検証]
実施例3の信号生成部1110は、質感再現テーブルを参照して、図1に示す質感再現手順のステップS102-S107を実施する。従って、対象物の質感を適切に再現した再現物を1109を得るには、適切な質感再現テーブルが作成されていることが前提になる。以下では、質感再現テーブルが適切か否かの検証方法を説明する。
検証用の質感信号RGBGlSpとして、鏡面光沢度が同一で、色が互いに異なる複数の質感信号を用意する。なお、質感信号の色として、質感再現装置209が再現可能な色を設定する。また、鏡面光沢度としては、設定した色の一部と組み合わせた場合は質感再現装置209が再現不可能な鏡面光沢度であり、他との色と組み合わせた場合は質感再現装置209が再現可能な鏡面光沢度を設定する。
図14により検証用の質感信号の条件を説明する。図14の例は、質感再現装置209が再現可能な五色と、質感再現装置209が再現可能な三段階の鏡面光沢度を組み合わせる例を示し、各組み合わせにおいて、鏡面光沢度を再現可能か否かを示している。
図14に示すように、第五の色においては、どの鏡面光沢度も再現不可能であり上記の検証用の質感信号の条件を満たさない。一方、第一と第二の色においては第一と第二の鏡面光沢度が再現可能であり、第三と第四の色においては第二の鏡面光沢度を再現可能である。
他方、鏡面光沢度からみると、第二の鏡面光沢度は第一から第四の色との組み合わせにおいて再現可能であり、第三の鏡面光沢度は、どの色との組み合わせにおいても再現不可能である。従って、検証用の質感信号の条件を満たす組み合わせは、第一の鏡面光沢度と、第一から第四の色の組み合わせである。
検証用の質感信号の条件を満たす各質感信号について、測定可能な大きさのパッチを形成するためのパッチデータを用意する。そして、パッチデータ群を図12に示す質感再現システムに入力し、パッチの鏡面光沢度を測定する。
質感再現テーブルが適切に設定されていれば、光沢マッピングの前にカラーマッピングが行われるため、色と鏡面光沢度の両方を同時に再現することができない質感データのパッチは、当該質感データが示す鏡面光沢度とは異なる鏡面光沢度で再現される。例えば、図14に示す第三と第四の色に対応する質感データのパッチは、第一の鏡面光沢度とは異なる鏡面光沢度で再現される。
一方、色と鏡面光沢度の両方を同時に再現することができる質感データのパッチは、当該質感データが示す鏡面光沢度で再現される。例えば、図14の第一と第二の色に対応する質感データのパッチは、第一の鏡面光沢度で再現される。
つまり、各質感データが示す鏡面光沢度は一致しているが、それら質感データによって形成したパッチの鏡面光沢度は一致せず、パッチの鏡面光沢度にばらつきが生じる。従って、パッチの鏡面光沢度の標準偏差が、後述する質感再現装置209に固有の鏡面光沢度の標準偏差(以下、固有偏差)よりも大きければ、質感再現テーブルが適切に設定されていると判断することができる。逆に、パッチの鏡面光沢度の標準偏差が固有偏差と同程度であれば、質感再現テーブルが適切に設定されていないと判断することができる。固有偏差には、質感再現装置209によって検証用の質感信号と同じ鏡面光沢度のパッチの形成を複数回繰り返し、それらパッチから測定した鏡面光沢度の標準偏差を利用すればよい。
光沢信号が等しく、色信号が互いに異なる質感データの集合を検証データ群とすると、検証用の質感信号は、検証データ群の部分集合である。信号変換部1201は、検証データ群の部分集合の少なくとも一つにおいて次のような制御信号を生成する、と言うことができる。つまり、信号変換部1201は、当該部分集合に含まれる質感データが入力された場合の再現物1109の鏡面光沢度の標準偏差が、質感再現装置209の固有偏差よりも大きくなる制御信号を生成する。言い替えれば、質感再現テーブルは、上記の部分集合に含まれる質感データから生成される出力信号によって質感再現装置209が形成する再現物1109の鏡面光沢度の標準偏差を、質感再現装置209の固有偏差よりも大きくする特性を有する。
このように、離散的な質感信号RGBGlSpと質感再現装置209の制御信号CMYKABPとの対応関係を記述した質感再現テーブルを参照して、実施例1における複数の処理を一回の変換処理で実現することができる。言い替えれば、実施例1における質感信号取得部1102、カラーマッピング部1111、光沢再現範囲取得部1112、光沢マッピング部1113、信号変換部1104の処理を一回の変換処理で実現して、高速な質感再現処理が可能になる。
[変形例]
上記では、色信号としてCIELABを説明したが、これに限らず、任意の数値表現および測定条件を用いてもよい。例えば、CIEXYZでもよく、分光波長ごとの反射率データでもよい。質感データの測定条件についても限定されず、測定時の照明と受光センサの位置関係を表す入射角度および受光角度は任意に設定してよい。また、積分球測定器のように、複数の受光角度を積分する条件であってもよい。また、透明度が高いフィルムのような記録媒体の場合、入射光が記録媒体を透過した後の光を受光するようにしてもよい。
鏡面光沢度に対応する光沢信号は、必ずしも規格の条件で測定された値に限らず、他の条件で測定された値や、その関数でもよい。例えば、測定の照明方向は30度であってもよいし、照明および受光の開き角も、規格の条件に限らない。また、鏡面光沢度に対応する信号は、明るさ情報だけでなく色情報を含む信号でもよい。色情報を含む信号には、例えば、波長ごとの正反射光量を測定し、非特許文献1が規定する方法で計算したCIELAB値を利用することができる。この場合、光沢マッピングにおける鏡面光沢度に対応する信号の変換は、三次元色空間における変換になる。変換方法には、色信号の変換と同様に、公知のカラーマッピング方法を利用することができる。
写像性に対応する光沢信号も、必ずしも規格の条件で測定された値に限らず、他の条件で測定された値や、その関数でもよい。例えば、正反射方向近傍で、反射光量が正反射光の半分になる方向が正反射方向となす角度φを測定し、その角度の逆関数を利用してもよい。
図15により典型的な変角反射光特性を示す。図15において、曲線1501は、試料1502の点Aからの反射光量を示す。反射光量が大きい角度θの方向は、照明に対する正反射方向であり、線分ABの長さは正反射方向への反射光量を示す。点Cは、線分ACの長さが線分ABの長さの半分になる点であり、線分ABと線分ACがなす角度が角度φである。写像性が大きい試料は、正反射方向近傍の光拡散が小さく、角度φは小さい値を示す。逆に、写像性が小さい試料の角度φは大きい値を示す。
さらに、写像性に対応する光沢信号として、表面凹凸の測定値やその関数を利用してもよい。表面凹凸が小さい滑らかな表面を有する対象物は、写像性が大きく、表面凹凸が大きい対象物は写像性が小さい。
さらに、光沢信号として、反射光量が最大になる方向に関する要素である「最大反射方向」を含んでもよい。対象物によっては、最大反射方向が領域によって変化する場合がある。この場合、見た目に一致する再現物を得るには、各領域が保持する情報として、鏡面光沢度と写像性に加えて、最大反射方向に関する情報が必要になる。この情報としては、例えば、図15に示す角度θに対応する信号や、角度θと基準角度との差分に対応する信号を利用することができる。
光沢信号に最大反射方向を含める場合、鏡面光沢度に対応する光沢信号として、反射光が最大になる方向の反射光量に関する情報を利用してもよい。言い替えれば、鏡面光沢度に対応する光沢信号として、領域によって異なる方向に対応する光沢信号を利用してもよい。同様に、写像性に対応する光沢信号として、最大反射方向の近傍で反射光量が最大反射光量の半分になる方向が、最大反射方向となす角度に関する情報を利用してもよい。最大反射方向は表面凹凸を制御して再現することができ、表面凹凸は、例えば、UVインクジェットプリンタや3Dプリンタを利用することで形成することができる。
また、ハーフトーン処理方法は限定されず、公知の任意の階調変換方法を適用することが可能である。階調変換後の信号についても三値以上の信号としてもよい。また、パス分解処理としてパスマスクを用いる方法を説明したが、パス分解処理の方法は限定されず、例えば、パスごとにハーフートーン処理を行う公知の方法を用いてもよい。
また、質感マッピング方法の指定は、画像全体に対するものとは限らない。例えば、画像領域やオブジェクトに応じて異なる質感マッピング方法を指定または設定してもよい。特定の画像領域やオブジェクトを抽出する方法には、ユーザ指定や、画像特徴量に基づく自動識別方法が適用可能である。
上記では、質感再現装置としてシリアルタイプのインクジェットプリンタを例示したが、質感再現装置としてフルラインタイプのインクジェットプリンタや、電子写真プリンタ、昇華型プリンタ、シルク印刷などを利用することもできる。また、表面形状を形成するUVプリンタや、立体形状を形成する3Dプリンタを質感再現装置として利用してもよい。また、プリンタに限らず、ディスプレイやプロジェクタなどの画像表示装置に質感再現処理を適用してもよい。
また、上記では、質感再現装置の記録材をCMYKABの六種類とする例を説明したが、例えば、赤色、白色、金色の記録材を利用してもよいし、光沢調整材も三種類以上利用してもよい。また、インクジェットプリンタ以外の質感再現装置においては、記録材として、トナーやフィルムなどを用いてもよい。また、インクを吐出するヘッドカートリッジを、複数サイズの液滴を打ち分けられる構成としてもよい。
記録媒体には、光沢紙や普通紙などの紙以外の媒体を用いてもよい。例えば、布やフィルムのような素材でもよいし、表面に凹凸があってもよい。また、再現物が立体造形物のようにシート状ではない場合、記録媒体の搬送に対応した機構を質感再現装置に設ければよい。
また、質感データが表す画像の全領域に質感再現処理を施すことは必須ではない。一部の領域に、質感再現処理を適用しない場合や、一部の領域にのみ質感再現処理を適用する場合も本発明に含まれる。例えば、質感データが表す画像の一部領域を、質感再現処理を施すことなく、特定の色材を使って再現するように処理しても構わない。
[その他の実施例]
本発明は、上述の実施形態の一以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける一以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、一以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。