本実施形態の光伝導素子は、テラヘルツ波等の電磁波を出射又は検出することができる。尚、本実施形態の光伝導素子は、「発明が解決するべき課題」の項目で説明した動作態様で、電磁波を出射又は検出してもよい。
本実施形態では特に、一対の電極層の夫々は、電気的に接続される第1電極部及び第2電極部を備えている。第2電極部は、ギャップ部に隣接している。第1電極部は、ギャップ部に隣接していなくてもよい。従って、第2電極部は、第1電極部と比較して、ギャップ部により近い位置に形成される電極部である。言い換えれば、第1電極部は、第2電極部と比較して、ギャップ部からより遠い位置に形成される電極部である。
第2電極部がギャップ部に隣接しているがゆえに、ギャップ部に照射されているレーザ光の一部は、第2電極部にも照射される可能性が高い。本実施形態では、レーザ光に対する第2電極部の透過率は、レーザ光に対する第1電極部の透過率よりも大きい。つまり、ギャップ部の周辺に形成される第2電極層の透過率が相対的に大きい。このため、レーザ光は、第2電極部を相対的に透過しやすいがゆえに、第2電極部の下側に形成されている光伝導層に到達しやすくなる。従って、透過率が相対的に小さい第1電極部がギャップ部に隣接して形成される第1比較例の光伝導素子と比較して、光伝導層に照射されるレーザ光の光量が相対的に大きくなる。このため、ギャップ部へのレーザ光の照射に起因したキャリアの効率的な生成が実現される。その結果、電磁波の出射効率又は検出効率の悪化が抑制される。
一方で、後に詳述するように、キャリアの効率的な生成を実現するための第2電極部の透過率の増加は、第2電極部の電気抵抗値の増加を引き起こす可能性がある。第2電極部の電気抵抗値の増加は、キャリアに応じた電流信号の損失の増加につながる。しかるに、本実施形態では、一対の電極層の夫々は、第2電極部のみならず、レーザ光に対する透過率が相対的に小さい第1電極部をも備えている。第1電極部の透過率の減少は、第1電極部の電気抵抗値の減少につながり得る。このため、キャリアに応じた電流信号は、第2電極部を介して、第2電極部に電気的に接続されており且つ電気抵抗値が相対的に小さい第1電極部に流れる。このため、一対の電極層の夫々の透過率が相対的に大きい第2電極部のみを備えている第2比較例の光伝導素子と比較して、キャリアに応じた電流信号の損失の増加が抑制される。その結果、電磁波の出射効率又は検出効率の悪化が抑制される。
加えて、本実施形態では更に、一対の電極層は、光伝導層の一方の表面に形成されている。つまり、一対の電極層が、夫々、光伝導層の一方の表面及び他方の表面(つまり、裏面)に形成されることはない。このため、光伝導層の2つの表面の夫々に電極層が形成されなくてもよくなるため、光伝導素子の製造工程の複雑化が回避される。
このように、本実施形態の光伝導素子は、製造工程の複雑化を回避しつつも、レーザ光の照射に起因したキャリアの効率的な生成及びキャリアに応じて一対の電極層に流れる電流信号の損失の抑制を両立することができる。
この態様によれば、キャリアに応じた電流信号は、第2電極部を介して、電気抵抗値が相対的に小さい第1電極部に流れる。このため、一対の電極層の夫々の電気抵抗値が相対的に大きい第2電極部のみを備えている第2比較例の光伝導素子と比較して、キャリアに応じた電流信号の損失の増加が抑制される。
電極部の膜厚の減少は、電極部の透過率の増加及び電極部の電気抵抗値の増加につながり得る。このため、この態様によれば、膜厚の調整によって、第2電極部の透過率が第1電極部の透過率よりも大きくなる状態が比較的容易に実現される。更には、膜厚の調整によって、第1電極部の単位長あたりの電気抵抗値が第2電極部の単位長あたりの電気抵抗値よりも小さくなる状態が比較的容易に実現される。
透明電極材料の透過率は、一般的には、金属電極材料の透過率よりも大きい。一方で、透明電極材料の電気抵抗率は、一般的には、金属電極材料の電気抵抗率よりも大きい。このため、この態様によれば、電極部の材料の選択によって、第2電極部の透過率が第1電極部の透過率よりも大きくなる状態が比較的容易に実現される。更には、電極部の材料の選択によって、第1電極部の単位長あたりの電気抵抗値が第2電極部の単位長あたりの電気抵抗値よりも小さくなる状態が比較的容易に実現される。
この態様によれば、計測装置は、テラヘルツ波を用いて計測対象物の特性を計測するテラヘルツ波計測装置として動作することができる。このようなテラヘルツ波計測装置として動作する計測装置もまた、上述した本実施形態の光伝導素子が享受することが可能な効果と同様の効果を好適に享受することができる。
以上説明したように、本実施形態の光伝導素子は、レーザ光に対する透過率が相対的に大きい第2電極部及びレーザ光に対する透過率が相対的に小さい第1電極部を備える。本実施形態の計測装置は、本実施形態の光伝導素子を備える。本実施形態の製造方法は、第1及び第2領域上に電極材料を形成し、第2領域に形成された電極材料にマスキングを施し、第1領域上に形成されており且つマスキングが施されていない電極材料上に電極材料を更に形成する。従って、製造工程の複雑化を回避しつつも、レーザ光の照射に起因したキャリアの効率的な生成及びキャリアに応じて一対の電極層に流れる電流信号の損失の抑制を両立することができる。
以下、図面を参照しながら、光伝導素子及び計測装置の実施例について説明する。特に、以下では、夫々が「光伝導素子」の一具体例であるテラヘルツ波出射素子110及びテラヘルツ波検出素子130を備え且つ「計測装置」の一具体例であるテラヘルツ波計測装置100を用いて説明を進める。
(1)テラヘルツ波計測装置100の構成
初めに、図1を参照しながら、本実施例のテラヘルツ波計測装置100の構成について説明する。図1は、本実施例のテラヘルツ波計測装置100の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、テラヘルツ波計測装置100は、テラヘルツ波THzを計測対象物10に照射すると共に、計測対象物10を透過した又は計測対象物10が反射したテラヘルツ波THz(つまり、計測対象物10に照射されたテラヘルツ波THz)を検出する。尚、図1に示す例では、テラヘルツ波計測装置100は、計測対象物10が反射したテラヘルツ波THzを検出している。
テラヘルツ波THzは、1テラヘルツ(1THz=1012Hz)前後の周波数領域(つまり、テラヘルツ領域)に属する電磁波成分を含む電磁波である。テラヘルツ領域は、光の直進性と電磁波の透過性を兼ね備えた周波数領域である。テラヘルツ領域は、様々な物質が固有の吸収スペクトルを有する周波数領域である。従って、テラヘルツ波計測装置100は、計測対象物10に照射されたテラヘルツ波THzを解析することで、計測対象物10の特性を計測することができる。
ここで、テラヘルツ波THzの周期は、サブピコ秒のオーダーの周期であるがゆえに、当該テラヘルツ波THzの波形を直接的に検出することが技術的に困難である。そこで、テラヘルツ波計測装置100は、時間遅延走査に基づくポンプ・プローブ法を採用することで、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出する。以下、このようなポンプ・プローブ法を採用するテラヘルツ波計測装置100についてより具体的に説明を進める。
図1に示すように、テラヘルツ波計測装置100は、パルスレーザ装置101と、「出射手段」の一具体例であるテラヘルツ波出射素子110と、ビームスプリッタ161と、反射鏡162と、反射鏡163と、ハーフミラー164と、光学遅延機構120と、「検出手段」の一具体例であるテラヘルツ波検出素子130と、バイアス電圧生成部141と、I−V(電流−電圧)変換部142と、制御部150とを備えている。
パルスレーザ装置101は、当該パルスレーザ装置101に入力される駆動電流に応じた光強度を有するサブピコ秒オーダー又はフェムト秒オーダーのパルスレーザ光LBを生成する。パルスレーザ装置101が生成したパルスレーザ光LBは、不図示の導光路(例えば、光ファイバ等)を介して、ビームスプリッタ161に入射する。
ビームスプリッタ161は、パルスレーザ光LBを、ポンプ光LB1とプローブ光LB2とに分岐する。ポンプ光LB1は、不図示の導光路を介して、テラヘルツ波出射素子110に入射する。一方で、プローブ光LB2は、不図示の導光路及び反射鏡162を介して、光学遅延機構120に入射する。その後、光学遅延機構120から出射したプローブ光LB2は、反射鏡163及び不図示の導光路を介して、テラヘルツ波検出素子130に入射する。
テラヘルツ波出射素子110は、テラヘルツ波THzを出射する。具体的には、テラヘルツ波出射素子110が備えるギャップ部114(図2等参照)には、テラヘルツ波出射素子110が備える電極層113a及び113b(図2等参照)を介して、バイアス電圧生成部141が生成したバイアス電圧が印加されている。有効なバイアス電圧(例えば、0Vでないバイアス電圧)がギャップ部114に印加されている状態でポンプ光LB1がギャップ部114に照射されると、ギャップ部114の下側に形成されている光伝導層112(図2等参照)にポンプ光LB1が照射される。この場合、ポンプ光LB1が照射された光伝導層112には、ポンプ光LB1による光励起によってキャリアが発生する。その結果、テラヘルツ波出射素子110には、発生したキャリアに応じたサブピコ秒オーダーの又はフェムト秒オーダーのパルス状の電流信号が発生する。発生した電流信号は、電極層113a及び113bに流れる。その結果、テラヘルツ波出射素子110は、当該パルス状の電流信号に起因したテラヘルツ波THzを出射する。
テラヘルツ波出射素子110から出射したテラヘルツ波THzは、ハーフミラー164を透過する。その結果、ハーフミラー164を透過したテラヘルツ波THzは、計測対象物10に照射される。計測対象物10に照射されたテラヘルツ波THzは、計測対象物10によって反射される。計測対象物10によって反射されたテラヘルツ波THzは、ハーフミラー164によって反射される。ハーフミラー164によって反射されたテラヘルツ波THzは、テラヘルツ波検出素子130に入射する。
テラヘルツ波検出素子130は、テラヘルツ波検出素子130に入射するテラヘルツ波THzを検出する。具体的には、テラヘルツ波検出素子130が備えるギャップ部114(図2等参照)にプローブ光LB2が照射されると、ギャップ部114の下側に形成されている光伝導層112(図2等参照)にプローブ光LB2が照射される。この場合、プローブ光LB2が照射された光伝導層112には、プローブ光LB2による光励起によってキャリアが発生する。その結果、キャリアに応じた電流信号が、テラヘルツ波検出素子130が備える電極層113a及び113b(図2等参照)に流れる。プローブ光LB2がギャップ部114に照射されている状態でテラヘルツ波検出素子130にテラヘルツ波THzが照射されると、電極層113a及び113bに流れる電流信号の信号強度は、テラヘルツ波THzの光強度に応じて変化する。テラヘルツ波THzの光強度に応じて信号強度が変化する電流信号は、電極層113a及び113bを介して、I−V変換部142に出力される。
光学遅延機構120は、ポンプ光LB1の光路長とプローブ光LB2の光路長との間の差分(つまり、光路長差)を調整する。具体的には、光学遅延機構120は、プローブ光LB2の光路長を調整することで、光路長差を調整する。光路長差が調整されると、ポンプ光LB1がテラヘルツ波出射素子110に入射するタイミング(或いは、テラヘルツ波出射素子110がテラヘルツ波THzを出射するタイミング)と、プローブ光LB2がテラヘルツ波検出素子130に入射するタイミング(或いは、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミング)との時間差が調整される。テラヘルツ波計測装置100は、この時間差を調整することで、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出する。例えば、光学遅延機構120によってプローブ光LB2の光路が0.3ミリメートル(但し、空気中での光路長)だけ長くなると、プローブ光LB2がテラヘルツ波検出素子130に入射するタイミングが1ピコ秒だけ遅くなる。この場合、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミングが、1ピコ秒だけ遅くなる。テラヘルツ波検出素子130に対して同一の波形を有するテラヘルツ波THzが数十MHz程度の間隔で繰り返し入射することを考慮すれば、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミングを徐々にずらすことで、テラヘルツ波検出素子130は、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出することができる。つまり、後述するロックイン検出部151は、テラヘルツ波検出素子130の検出結果に基づいて、テラヘルツ波THzの波形を検出することができる。
テラヘルツ波検出素子130から出力される電流信号は、I−V変換部142によって、電圧信号に変換される。
制御部150は、テラヘルツ波検出素子130の検出結果(つまり、I−V変換部142が出力する電圧信号)に基づいて、計測対象物10の特性を計測する。計測対象物10の特性を計測するために、制御部150は、ロックイン検出部151と、信号処理部152とを備えている。
ロックイン検出部151は、I−V変換部142から出力される電圧信号に対して、バイアス電圧生成部141が生成するバイアス電圧を参照信号とする同期検波を行う。その結果、ロックイン検出部151は、テラヘルツ波THzのサンプル値を検出する。その後、ポンプ光LB1の光路長とプローブ光LB2の光路長との間の差分(つまり、光路長差)を適宜調整しながら同様の動作が繰り返されることで、ロックイン検出部151は、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形(時間波形)を検出することができる。ロックイン検出部151は、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形を示す波形信号を、信号処理部152に対して出力する。
信号処理部152は、ロックイン検出部151から出力される波形信号に基づいて、計測対象物10の特性を計測する。例えば、信号処理部152は、テラヘルツ時間領域分光法を用いてテラヘルツ波THzの周波数スペクトルを取得すると共に、当該周波数スペクトルに基づいて計測対象物10の特性を計測する。
(2)テラヘルツ波出射素子110及びテラヘルツ波検出素子130の構成
続いて、テラヘルツ波出射素子110及びテラヘルツ波検出素子130の構成について説明する。尚、テラヘルツ波出射素子110の構成は、テラヘルツ波検出素子130の構成と同様である。従って、以下では、図2(a)から図2(c)及び図3を参照しながら、テラヘルツ波出射素子110の構成について説明する。図2(a)は、本実施例のテラヘルツ波出射素子110の上面を示す上面図である。図2(b)は、図2(a)に示すテラヘルツ波出射素子110のII(1)−II(1)’断面を示す断面図である。図2(c)は、図2(a)に示すテラヘルツ波出射素子110のII(2)−II(2)’断面を示す断面図である。図3は、本実施例のテラヘルツ波出射素子110の構成を示す斜視図である。但し、以下の説明は、テラヘルツ波検出素子130に対しても同様に適用可能である。更に、以下の説明では、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸によって定義される三次元座標空間を用いて、テラヘルツ波出射素子110を説明する。
図2(a)から図2(c)及び図3に示すように、テラヘルツ波出射素子110は、基板111と、基板111の一方の表面(+Z軸方向側の表面)上に形成されている光伝導層112と、光伝導層112の一方の表面(+Z軸方向側の表面)上に形成されている一対の電極層113(つまり、電極層113a及び113b)とを備えている。つまり、テラヘルツ波出射素子110は、基板111と光伝導層112と一対の電極層113とが、積層方向であるZ軸方向(つまり、基板111の表面に平行なXY平面に直交する方向)に沿って積層されている積層構造を有している。
基板111は、半導体基板である。例えば、基板111は、InP(リン化インジウム)基板、GaAs(ガリウム砒素)基板又はSi(シリコン)基板等であってもよい。基板111の形状は板状であるが、その他の形状であってもよい。
光伝導層112は、上述したポンプ光LB1又はプローブ光LB2が照射されることでキャリア(例えば、電子又は正孔)が発生する層である。光伝導層112は、例えば、GaAs、AlGaAs(アルミニウムガリウム砒素)、InGaP(リン化インジウムガリウム)、AlAs(砒化アルミニウム)、InP、InAlAs(砒化インジウムアルミニウム)、InGaAs(砒化インジウムガリウム)、GaAsSb(ガリウム砒素アンチモン)、InGaAsP(リン化インジウムガリウム砒素)、InAs(インジウム砒素)、InSb(アンチモン化インジウム)、及び、低温成長させた上記材料のうちの少なくとも一つから構成される。
光伝導層112の形状は板状である。但し、光伝導層112の形状は、その他の形状であってもよい。光伝導層112の大きさ(特に、XY平面に沿った大きさ)は、基板111の大きさ(特に、XY平面に沿った大きさ)と同一である。光伝導層112の大きさ(特に、XY平面に沿った大きさ)は、基板111の大きさ(特に、XY平面に沿った大きさ)と異なっていてもよい。
電極層113a及び113bは、上述したバイアス電圧が印加されると共に光伝導層112へのポンプ光LB1の照射に起因して発生したキャリアに応じた電流信号が流れる一対の電極層である。但し、電極層113a及び113bがテラヘルツ波検出素子130を構成する場合には、電極層113a及び113bは、光伝導層112へのプローブ光LB2の照射に起因して発生したキャリアに応じた電流信号であって且つテラヘルツ波検出素子130に照射されたテラヘルツ波THzの光強度に応じた電流信号が流れる一対の電極層である。
電極層113aは、物理的に一体化されている又は電気的に接続されている第1電極部113a−1と第2電極部113a−2とを含む。第1電極部113a−1は、Y軸方向に沿って延びる。第2電極部113a−2は、Y軸方向に直交するX軸方向に沿って延びる。第2電極部113a−2は、第1電極部113a−1の一部を起点に電極層113bに向かって延びる。電極層113aの形状(XY平面上での形状)は、アルファベットの「T」となる。
電極層113bは、物理的に一体化されている第1電極部113b−1と第2電極部113b−2とを含む。第1電極部113b−1は、Y軸方向に沿って延びる。第2電極部113b−2は、Y軸方向に直交するX軸方向に沿って延びる。第2電極部113b−2は、第1電極部113b−1の一部を起点に電極層113aに向かって延びる。電極層113bの形状(XY平面上での形状)は、アルファベットの「T」となる。
第2電極部113a−2及び113b−2の夫々は、アンテナとして機能し得る。例えば、第2電極部113a−2及び113b−2は、いわゆるダイポールアンテナとして機能し得る。一方で、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々は、アンテナとして機能し得るとともに、アンテナとして機能し得る第2電極部113a−2及び113b−2を介して電流信号が流れ込む伝送線路として機能し得る。例えば、第1電極部113a−1及び113b−1は、いわゆる平行伝送線路として機能し得る。
第2電極部113a−2と第2電極部113b−2との間には、電極層113a及び113bが形成されないギャップ部114が確保される。従って、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々は、ギャップ部114に隣接している(言い換えれば、ギャップ部114を規定又は形成している)電極部である。ポンプ光LB1(更には、プローブ光LB2)は、ギャップ部114に照射されることが好ましい。つまり、ポンプ光LB1(更には、プローブ光LB2)は、少なくとも、ギャップ部114の下側に形成される光伝導層112に照射されることが好ましい。
本実施例では特に、ポンプ光LB1(更には、プローブ光LB2)に対する第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の透過率は、ポンプ光LB1(更には、プローブ光LB2)に対する第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の透過率よりも大きい。以下、特段の説明がない場合には、「透過率」は、ポンプ光LB1(更には、プローブ光LB2)に対する透過率を意味するものとする。例えば、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の透過率が第1所定値よりも大きい一方で、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の透過率が第1所定値よりも小さくてもよい。例えば、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の透過率が相対的に大きい一方で、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の透過率が相対的に小さくてもよい。
更に、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の電気抵抗値(例えば、厚さ方向であるZ軸方向に直交する方向(つまり、XY平面に沿った方向)に沿った単位長あたりの電気抵抗値、以下同じ)は、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の電気抵抗値よりも小さい。例えば、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の電気抵抗値が第2所定値よりも小さい一方で、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の電気抵抗値が第2所定値よりも大きくてもよい。例えば、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の電気抵抗値が相対的に小さい一方で、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の電気抵抗値が相対的に大きくてもよい。
上述した透過率及び電気抵抗値の条件を満たすために、第1電極部113a−1及び113b−1並びに第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の材料が適切に選択されてもよい。具体的には、透明電極材料の透過率は、一般的には、金属材料の透過率よりも大きい。更には、透明電極材料の電気抵抗率は、一般的には、金属材料の電気抵抗率よりも大きい。このため、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々が透明電極材料から構成される一方で、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々が金属材料から構成されていてもよい。透明電極材料は、例えば、ITO、IZO、AZO、GZO及びIGZOのうちの少なくとも一つであってもよい。金属材料は、例えば、Au、AuCr、AuGeNi及びAuSnのうちの少なくとも一つであってもよい。或いは、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々が、透過率が相対的に大きく且つ電気抵抗値が相対的に大きい電極材料から構成される一方で、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々が、透過率が相対的に小さく且つ電気抵抗値が相対的に小さい電極材料から構成されていてもよい。
上述した透過率及び電気抵抗値の条件を満たすために、第1電極部113a−1及び113b−1並びに第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の膜厚(つまり、Z軸方向に沿ったサイズ)が適切に調整されてもよい。具体的には、電極(特に、透明電極)の膜厚が小さくなると、一般的には、電極の透過率が大きくなる一方で電極の電気抵抗値が大きくなる。このため、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の膜厚は、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の膜厚よりも小さくてもよい。尚、図2(a)から図2(c)及び図3は、第1電極部113a−1及び113b−1並びに第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の膜厚が調整されているテラヘルツ波出射素子110の例を示している。
以上説明した構成を有するテラヘルツ波出射素子110は、以下のように製造される。以下、図4を参照しながら、テラヘルツ波出射素子110の製造方法について説明する。図4は、テラヘルツ波出射素子110の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図4に示すように、まず、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシー)装置に、基板111がローディングされる(ステップS11)。その後、基板111上に、0.1ミクロンから0.5ミクロン程度の厚みを有するバッファ層が形成される(ステップS12)。例えば、GaAsから構成されるバッファ層が形成される場合には、バッファ層は、基板111の温度が概ね500度から600度程度となり、Ga分子線の強度に対するAs分子線の強度の比(以降、“GaAs供給比”と称する)が概ね5から30程度となり且つ1時間当たり1ミクロンの成膜速度が得られる環境下で形成されてもよい。
その後、公知の成膜法等を用いて、バッファ層が形成された基板111上に、1ミクロンから3ミクロン程度の厚みを有する光伝導層112が一様に形成される(ステップS13)。例えば、InGaAsから構成される光伝導層112が形成される場合には、光伝導層112は、基板111の温度が概ね500度以下となり且つ1時間当たり1ミクロンの成膜速度が得られる環境下で形成されてもよい。例えば、GaAsから構成される光伝導層112が形成される場合には、光伝導層112は、基板111の温度が概ね400度以下となり、GaAs供給比が、バッファ層を形成したときに用いられたGaAs供給比以上となり且つ1時間当たり1ミクロンの成膜速度が得られる環境下で形成されてもよい。
その後、光伝導層112に対して、熱アニール処理が施されてもよい。例えば、光伝導層112がGaAsから構成される場合には、光伝導層112に対して、基板111の温度が概ね600度程度となる環境下で5分から10分程度熱アニール処理が施されてもよい。
その後、MBE装置から光伝導層112が形成された基板111を取り出して、公知の成膜法(例えば、スパッタリング法や、真空蒸着法や、金属成長法や、スプレー法等)や公知のパターニング法(例えば、リソグラフィー技術及びエッチング技術を組み合わせたパターニング法)を用いて、光伝導層112上に、電極層113a及び113bが形成される(ステップS14からステップS16)。その後、ダイシングが施される(ステップS17)。その結果、テラヘルツ波出射素子110の製造が完了する。
以下、膜厚が相対的に大きい第1電極部113a−1及び113b−1並びに膜厚が相対的に小さい第2電極部113a−2及び113b−2が光伝導層112上に形成される場合の製造方法について説明する。
まず、光伝導層112の一方の表面のうち第1電極部113a−1及び113b−1が形成されるべき第1領域並びに第2電極部113a−2及び113b−2が形成されるべき第2領域に、電極材料が形成(言い換えれば、成膜又は堆積)される(ステップS14)。この場合、電極材料は、電極材料の膜厚が第2電極部113a−2及び113b−2の膜厚の目標値(以降、“第2目標膜厚”と称する)と同一になるまで形成される。その結果、第2領域には、第2電極部113a−2及び113b−2の全部が形成される。一方で、第1領域には、第1電極部113a−1及び113b−1の膜厚の目標値(以降、“第1目標膜厚”と称する)よりも小さい第2目標膜厚の電極材料が形成されているに過ぎない。従って、第1領域には、第1電極部113a−1及び113b−1の一部が形成されているに過ぎない。
その後、少なくともステップS14で形成された第2電極部113a−2及び113b−2に対してマスキングが施される(ステップS15)。例えば、ステップS14で形成された第2電極部113a−2及び113b−2上に、マスキングとなるジグやレジスト等が形成される。
その後、第1領域に形成されており且つステップS15でマスキングが施されていない電極材料上に、更に電極材料が形成される(ステップS16)。この場合、電極材料は、電極材料の膜厚が、第1目標膜厚と同一になるまで形成される。つまり、ステップS16では、ステップS14で形成された第1電極部113a−1及び113b−1の一部の上に、第1電極部113a−1及び113b−1の残りの一部が更に形成される。その結果、第1領域には、第1電極部113a−1及び113b−1が形成される。
尚、第1電極部113a−1及び113b−1が形成された後に、第2電極部113a−2及び113b−2が形成されてもよい。第2電極部113a−2及び113b−2が形成された後に、第1電極部113a−1及び113b−1が形成されてもよい。更に、材料が適切に選択された第1電極部113a−1及び113b−1並びに第2電極部113a−2及び113b−2についても、同様の流れで光伝導層112上に形成されてもよい。
以上説明した構成を有するテラヘルツ波出射素子110によれば、以下の技術的効果が得られる。
まず、本実施例では、第2電極部113a−2及び113b−2がギャップ部114に隣接しているがゆえに、ギャップ部114に照射されているポンプ光LB1の一部は、第2電極部113a−2及び113b−2にも照射される可能性が高い。ここで、ギャップ部114の周辺に形成される第2電極層113a−2及び113b−2の透過率が相対的に大きい。このため、ポンプ光LB1は、第2電極部113a−2及び113b−2を相対的に透過しやすいがゆえに、第2電極部113a−2及び113b−2の下側に形成されている光伝導層112に到達しやすくなる。従って、透過率が相対的に小さい第1電極部113a−1及び113b−1がギャップ部114に隣接して形成される第1比較例のテラヘルツ波出射素子と比較して、光伝導層112に照射されるポンプ光LB1の光量が相対的に大きくなる。このため、ギャップ部114へのポンプ光LB1の照射に起因したキャリアの効率的な生成が実現される。その結果、テラヘルツ波THzの出射効率又は検出効率の悪化が抑制される。
一方で、後に詳述するように、キャリアの効率的な生成を実現するための第2電極部113a−2及び113b−2の透過率の増加は、第2電極部113a−2及び113b−2の電気抵抗値の増加につながる場合がある。例えば、第2電極部113a−2及び113b−2の膜厚の減少は、第2電極部113a−2及び113b−2の透過率の増加につながる一方で、第2電極部113a−2及び113b−2の電気抵抗値の増加につながる。第2電極部113a−2及び113b−2の電気抵抗値の増加は、キャリアに応じた電流信号の損失の増加(つまり、第2電極部113a−2及び113b−2を流れる電流信号の損失の増加)につながる。しかるに、本実施例では、光伝導層112上には、第2電極部113a−2及び113b−2のみならず、電気抵抗値が相対的に小さい第1電極部113a−1及び113b−1が形成されている。このため、キャリアに応じた電流信号は、第2電極部113a−2及び113b−2を介して、第1電極部113a−1及び113b−1に流れる。このため、透過率が相対的に大きい電極材料(例えば、膜厚が相対的に小さい又は透明な電極材料)のみから電極層113a及び113bが構成される第2比較例の光伝導素子と比較して、キャリアに応じた電流信号の損失の増加が抑制される。その結果、電磁波の出射効率又は検出効率の悪化が抑制される。
電磁波の出射効率又は検出効率の悪化が抑制されると、テラヘルツ波出射素子110のS/N比の悪化が好適に抑制される。尚、S/N比の悪化は、テラヘルツ波出射素子110のダイナミックレンジの狭小化に相当する。ダイナミックレンジは、図5に示すように、テラヘルツ波THzに含まれる信号成分(図5中の「シグナル(S)」)の信号レベルとテラヘルツ波THzに含まれるノイズ成分(図5中の「ノイズ(N)」)の信号レベルとの差分に相当する。本実施例では、ダイナミックレンジの狭小化が抑制される。つまり、ダイナミックレンジが相対的に大きくなる。
加えて、本実施形態では更に、電極層113a及び113bは、光伝導層112の一方の表面に形成されている。つまり、電極層113a及び113bが、夫々、光伝導層112の一方の表面及び他方の表面(つまり、裏面)に形成されることはない。このため、光伝導層112の2つの表面の夫々に電極層113a又は113bが形成されなくてもよくなるため、テラヘルツ波出射素子110の製造工程の複雑化が回避される。
このように、本実施例のテラヘルツ波出射素子110は、製造工程の複雑化を回避しつつも、ポンプ光LB1の照射に起因したキャリアの効率的な生成及びキャリアに応じて電極層113a及び113bに流れる電流信号の損失の抑制を両立することができる。同様に、本実施例のテラヘルツ波検出素子130は、製造工程の複雑化を回避しつつも、プローブ光LB2の照射に起因したキャリアの効率的な生成及びキャリアに応じて電極層113a及び113bに流れる電流信号の損失の抑制を両立することができる。
加えて、本実施例では、電極層113a及び113bを光伝導層112上に形成するための方法として、(i)光伝導層112上に、第2電極部113a−2及び113b−2の全部及び第1電極部113a−1及び113b−1の一部を形成し、その後、(ii)第2電極部113a−2及び113b−2に対してマスキングを施し、その後、(iii)既に形成済みの第1電極部113a−1及び113b−1の一部の上に、第1電極部113a−1及び113b−1の残りの一部を更に形成する方法が採用される。このため、金属材料のみから構成される電極層113a及び113bを形成する比較例の製造方法と比較して、電極層113a及び113bの製造に要するコスト(例えば、費用コストや時間コスト)が減少する。
尚、キャリアの効率的な生成という効果は、主として、ギャップ部114に隣接するように形成される、透過率が相対的に大きい第2電極部113a−2及び113b−2によって実現される。一方で、キャリアに応じた電流信号の損失の抑制という効果は、主として、電気抵抗値が相対的に小さい第1電極部113a−1及び113b−1によって実現される。このため、テラヘルツ波出射素子110は、上述した透過率の条件を満たすことに代えて、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の透過率が第1所定値よりも大きい一方で、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の透過率が、第2電極部113a−2及び113b−2の透過率が相対的に大きいことを示すために用いられた第1所定値とは無関係な任意の第3所定値となるという条件を満たしていてもよい。つまり、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の透過率は、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の透過率と同じであってもよいし、大きくてもよいし、小さくてもよい。同様に、テラヘルツ波出射素子110は、上述した電気抵抗値の条件を満たすことに代えて、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の電気抵抗値が第2所定値よりも小さい一方で、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の電気抵抗値が、第1電極部113a−1及び113b−1の電気抵抗値が相対的に小さいことを示すために用いられた第2所定値とは無関係な任意の第4所定値となるという条件を満たしていてもよい。つまり、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々の電気抵抗値は、第1電極部113a−1及び113b−1の夫々の電気抵抗値と同じであってもよいし、小さくてもよいし、大きくてもよい。この場合であっても、テラヘルツ波出射素子110は、上述した効果を好適に享受することができる。テラヘルツ波検出素子130においても同様のことが言える。
また、上述の説明では、第2電極部113a−2及び113b−2は、いわゆるダイポール型のアンテナとして機能し得る例を用いて説明を進めている。しかしながら、第2電極部113a−2及び113b−2は、その他の形状のアンテナとしてしてもよい。この場合、第2電極部113a−2及び113b−2は、その他の形状のアンテナとして機能することが可能な形状を有することが好ましい。その他の形状のアンテナの一例として、例えば、いわゆるボウタイ型のアンテナが例示される。その他の形状のアンテナの一例として、例えば、図6に示すように、第2電極部113a−2及び113b−2の夫々がX軸方向に沿って延びる複数の電極部分を備えると共に、第2電極部113a−2が備える複数の電極部分と第2電極部113b−2が備える複数の電極部分がY軸方向に沿って交互に配置されるアンテナ(いわゆる、櫛歯状のアンテナ)が例示される。
また、上述の説明では、第2電極部113a−2は、第1電極部113a−1に直接的に接続されている。同様に、第2電極部113b−2は、第1電極部113b−1に直接的に接続されている。しかしながら、第2電極部113a−2と第1電極部113a−1との間に、他の電極部が形成されていてもよい。同様に、第2電極部113b−2と第1電極部113b−1との間に、他の電極部が形成されていてもよい。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う光伝導素子、計測装置及び製造方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。