JP6479951B2 - 気体圧縮機 - Google Patents

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Description

本発明は、気体圧縮機に関する。
車両等に搭載されている空気調和システム(以下、空調システムという。)の気体圧縮機として、ベーンロータリ形式のものがある。このベーンロータリ形式の気体圧縮機は、ロータの1回転の間に、気体の吸入、圧縮及び吐出の行程を2回行う、いわゆる2サイクルのものがある。このような2サイクルのベーンロータリ形式の気体圧縮機は、シリンダの内周面の断面輪郭形状が楕円形で形成されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2016−223315号公報
ところで、2回サイクルの気体圧縮機は、ロータが180[度]回転する間に気体の吸入、圧縮及び吐出の行程を行うため圧縮期間が短く、圧縮室内の圧力が規定圧力よりも高くなる過圧縮が起こり易い。そこで、圧縮行程を長くするため、シリンダの内周面の断面輪郭形状の楕円形状を、楕円の長径の位置(シリンダの内周面とロータの外周面とが最も離れた最遠隔部)を吸入行程の側(ロータの回転方向の上流側)に偏らせた形状にすることがある。
しかし、このように長径の位置を吸入行程側に偏らせるにしたがって、楕円の短径の位置(シリンダの内周面がロータの外周面に最も近い最近接部)からロータの回転方向の下流側の長径の位置までの輪郭形状の変化が大きくなって、ロータの回転に伴ってロータから突出するベーンがその輪郭形状の変化に追従しきれなくなり、ベーンの先端がシリンダの内周面から離れ易くなるという問題がある。このため、長径の位置を、吸入行程の側に大きく偏らせることができず、過圧縮を防止又は抑制する効果を十分に発揮させることができない。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、過圧縮を防止又は抑制しつつ、ベーンが追従しきれなくなるのを防止することができる気体圧縮機を提供することを目的とする。
本発明は、内周面を有するシリンダと、前記内周面で囲まれた内側に配置され、中心軸回りに回転する、断面輪郭形状が円形の外周面を有するロータと、前記ロータに設けられ、前記ロータの回転にしたがって、前記外周面から突出し、先端が前記内周面に接しながら移動することで、吸入行程と圧縮行程及び吐出行程とを形成する複数のベーンと、を備え、前記内周面の断面輪郭形状は、
(1)前記ロータに最も近い最近接部と、前記ロータから最も離れた最遠隔部とを有し、
(2)前記最遠隔部は、前記圧縮行程及び前記吐出行程が前記吸入行程よりも長くなるように、前記ロータの回転方向の上流側に偏って形成され、
(3)前記吸入行程に対応した前記最近接部から前記回転方向の下流側の前記最遠隔部までの部分が、少なくとも、前記ロータの回転に伴う前記ベーンの飛び出しにより前記ベーンの先端が接し続ける第1の曲線と、前記中心軸からの距離が変化して、前記第1の曲線の端と前記最遠隔部とをそれぞれ滑らかに接続する、前記第1の曲線とは異なる第2の曲線とを含んでいる気体圧縮機である。
本発明に係る気体圧縮機によれば、過圧縮を防止又は抑制しつつ、ベーンが追従しきれなくなるのを防止することができる。
本発明の一実施形態であるコンプレッサにおける圧縮機構部の断面図である。 図1の内周面の断面輪郭形状だけを示した図である。 ロータの回転角度[度]とベーンの突出長さ[mm](内周面による拘束無し)との対応関係の一例を示すグラフである。
以下、本発明に係る気体圧縮機の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態であるコンプレッサ100における圧縮機構部60の断面図である。
<概要>
コンプレッサ100は、ベーンロータリ形式のもので、ロータ50から突出するベーン58の先端58aが接するシリンダ40の内周面41の断面輪郭形状について、最近接部からロータ50の回転方向Rの下流側の最遠隔部までを互いに異なる2つの曲線で形成したものである。
<コンプレッサ>
コンプレッサ100は、車両に搭載された空気調和システム(以下、単に空調システムという。)の一部として構成され、この空調システムの他の構成要素である凝縮器、膨張弁、蒸発器等とともに、冷却媒体の循環経路上に設けられている。コンプレッサ100は、空調システムの蒸発器から取り入れた気体状の冷却媒体としての冷媒ガスG(気体)を圧縮し、この圧縮された冷媒ガスGを空調システムの凝縮器に供給する。コンプレッサ100は、ハウジングの内部に、図1に示すように、低圧の冷媒ガスGを内部に吸入し、吸入した冷媒ガスGを高圧に圧縮して外部に吐出する圧縮機構部60を備えている。
圧縮機構部60は、図1に示すように、回転軸59と、ロータ50と、ベーン58と、シリンダ40と、2つのサイドブロック20,30と、を備えている。シリンダ40は、図1に示した断面における輪郭形状(断面輪郭形状)の内周面41を有している。ロータ50は、断面輪郭形状が円形の外周面を有する円柱状に形成されている。ロータ50は、シリンダ40の内周面41で囲まれた内側に配置されている。ロータ50は、その中心部に嵌め合わされた回転軸59と一体的に、中心軸C回りに、図1において時計回り方向Rに回転する。
ベーン58は、ロータ50に、外周面51から突出可能に設けられている。ベーン58は、中心軸C回りの等角度間隔で複数枚(例えば角度72[度]間隔で5枚)設けられている。各ベーン58はロータ50に形成されたベーン溝の内部に配置されている。各ベーン58は、ロータ50の回転によって生じる遠心力と、ベーン溝の最内側に形成された背圧室52に作用する油圧とにより、ロータ50の外周面51から外側に向かう荷重を受けることで、ベーン溝に沿って、外周面51から突出可能に設けられている。
2つのサイドブロック20,30は、シリンダ40の端面とロータ50の端面とに跨って、これらの各端面を覆うように配置され、また、ロータ50の各端面から突出した回転軸59を回転自在に支持している。一方のサイドブロック(フロントサイドブロック)20は、外部から導入された低圧の冷媒ガスGが導かれる、コンプレッサ100の吸入室(図示せず)に近い側の端面を覆い、他方のサイドブロック(リヤサイドブロック)30は、外部に吐出された高圧の冷媒ガスGが導かれる吐出室(図示せず)に近い側の端面を覆っている。
なお、図1において、リアサイドブロック30は、シリンダ40及びロータ50の奥側に配置されているため、実体として視認される。一方、フロントサイドブロック20は、図1において、シリンダ40及びロータ50の手前側に配置されているため、実体として視認されないが、手前側に存在することを示すためにカッコ付の符号で表記している。
このように、圧縮機構部60の内部は、シリンダ40の内周面41とロータ50の外周面51と両サイドブロック20,30の内側面とによって、断面輪郭が概略三日月状である2つのシリンダ室53,54を形成している。これら2つのシリンダ室53,54は、中心軸Cに対して回転対称に形成されている。
各シリンダ室53,54は、ロータ50の外周面51から突出したベーン58によって複数の空間に仕切られる。すなわち、突出したベーン58の先端58aがシリンダ40の内周面41に押し付けられて接しながら、ロータ50が時計回り方向Rに回転する。そして、ベーン58によって仕切られた各空間は、ロータ50の時計回り方向Rへの回転にしたがって、容積が変化する圧縮室55である。
圧縮室55は、ロータ50の回転にしたがって、容積が増大して低圧の冷媒ガスGを内部に吸入する吸入行程を形成し、容積が減少して冷媒ガスGを高圧に圧縮する圧縮行程を形成し、容積がさらに減少してゼロに近づいて冷媒ガスGを外部に吐出する吐出行程を形成している。
なお、冷媒ガスGは、吸入行程で、フロントサイドブロック20に形成された吸入口21及びシリンダ40に形成された吸入通路48を通じて、圧縮室55の内部に吸入される。一方、圧縮室55で高圧に圧縮された冷媒ガスGは、シリンダ40に形成された吐出口(図示せず)を通じて外部に吐出される。
このように、圧縮機構部60は、車載のエンジンを動力源として、又はコンプレッサ100自体が電動モータを有するものであればその電動モータを動力源として、回転軸59を中心軸C回りに、図1の時計回り方向Rに回転させることで、ロータ50を回転させる。そして、圧縮機構部60は、図1の上側のシリンダ室53に形成された圧縮室55と下側のシリンダ室54に形成された圧縮室55とがそれぞれ吸入行程、圧縮行程、吐出行程という一連のサイクルを行う。
したがって、各圧縮室55は、ロータ50が1回転する間に、吸入行程、圧縮行程、吐出行程という一連のサイクルを2回(シリンダ室53の側で1回、シリンダ室54の側で1回)行うように構成されている。2つの吸入行程、2つの圧縮行程、2つの吐出行程は、回転軸59の中心軸Cを挟んで回転角度180[度]だけずれた回転対称の範囲に設定されている。
<シリンダの内周面の断面輪郭形状>
図2は、図1の内周面41の断面輪郭形状だけを示した図である。次に、このコンプレッサ100のシリンダ40の内周面41の断面輪郭形状の詳細について、図2を参照して説明する。
内周面41の断面輪郭形状は、以下のように設定されている。まず、図2に示すように、中心軸Cをxy直交座標系の原点O(0,0)として、内周面41の断面輪郭形状をxy直交座標における原点Oからの距離rで表す。ここで、x軸は、例えば、シリンダ40の内周面41とロータ50の外周面51とが最も近い最近接部(所定の角度範囲2×θ1に亘って形成されている部分a)における周方向に沿った中央と中心軸Cとを結ぶ直線として設定した。
また、x軸の正方向からy軸の正方向に向かうとき(ロータ50の回転方向Rとは反対の向き)の原点O回りの角度をθとする。y軸の正の範囲における断面輪郭形状とy軸の負の範囲における断面輪郭形状は原点Oに対して回転対称である。
ここで、図2に示すように、断面輪郭形状のうちx軸の正方向(θ=0)と交差する部分を含む所定の角度範囲(0≦θ[度]≦θ1;θ1は90[度]未満の角度で、例えば10[度]以下の角度)の部分aは最近接部であり、原点Oを中心とする半径Pの円弧(r=P)で形成されている。なお、x軸の正方向に対して角度θが負となる所定の角度範囲(−θ1≦θ≦0)の部分eも、同様に最近接部であり、原点Oを中心とする半径Pの円弧(r=P)で形成されている。
y軸の正の範囲における断面輪郭形状とy軸の負の範囲における断面輪郭形状は原点Oに対して回転対称であるため、x軸の正方向に対して角度θが負となる所定の角度範囲(−90<−θ1≦θ≦0)の部分eと回転対称となる角度範囲(90<θ4≦θ≦180;ただし、θ4=180−θ1)の部分eについても、原点Oを中心とする半径Pの円弧(r=P)で形成されている。
また、断面輪郭形状のうち、x軸の正方向からの角度θが、角度θ1以上の角度範囲(θ1≦θ≦θ2)の部分bは、一例として下記式(1)の距離rで規定される曲線で形成されている。
r=P+Qsin{S(θ−θ1)}(ただし、0<P,0<Q,0<S<1) (1)
この式(1)の曲線は、短径がP、長径がP+Qの楕円形を示す式である。そして、式(1)のSが1より小さい正数であるため、式(1)が表す楕円形は、短軸x1がx軸の正方向から角度θ1だけy軸の正方向(θ=90[度])に傾いた角度位置にあり、長軸y1がy軸の正方向から角度(θ1+90/S−90)[度]だけx軸の負方向(θ=180)に傾いた角度位置にある。
なお、短軸x1が内周面41と交差する部分a1は、前述した最近接部の一部であり、長軸y1が内周面41と交差する部分b1は、シリンダ40の内周面41がロータ50の外周面51から最も離れた最遠隔部である。最遠隔部は最近接部とは異なり、所定の角度範囲に亘って形成されたものではなく、内周面41において互いに対称となる2点のみである。
ここで、S<1の場合、角度(90/S)[度]は角度90[度]より大きいため、この楕円形の長軸y1は式(1)の楕円形の短軸x1の角度位置(θ=θ1)に直交する方向(θ=θ1+90)よりも、x軸の負方向すなわちロータ50の回転方向Rの上流側(吸入行程側)に角度Δθ(=90/S−90)だけ偏った角度位置となっている。つまり、長軸y1は、短軸x1と直交せずに、ロータ50の回転方向Rの上流側に偏っている。なお、長軸y1がx軸の負方向に偏っていることで、最遠隔部は、圧縮行程及び吐出行程が吸入行程よりも長くなるように、ロータ50の回転方向Rの上流側に偏って形成されている。
上述した式(1)におけるSの条件は、S<1に限定されるものではない。すなわち、式(1)において、S<90/(90−θ1)でもよい。この条件であっても、式(1)の楕円形の長軸y1はx軸の負方向すなわちロータ50の回転方向Rの上流側(吸入行程側)に偏った角度位置となり、最遠隔部は、圧縮行程及び吐出行程が吸入行程よりも長くなるように、ロータ50の回転方向Rの上流側に偏って形成される。
また、式(1)の楕円形は、短軸x1の角度位置(θ=θ1)において、角度範囲(0≦θ≦θ1)において円弧を形成している部分aと、接線の傾きが一致して滑らかに接続するように設定されている。
なお、角度範囲(θ1≦θ≦θ2)の部分bの端である角度θ=θ2の位置は、式(1)の楕円形の長軸y1の角度位置として設定されている(θ2=θ1+90/S)。したがって、角度範囲(θ1≦θ≦θ2)の部分bは、ロータ50の回転方向Rに対応させると、式(1)の断面輪郭形状で長軸y1の角度位置(θ=θ2)から短軸x1の角度位置(θ=θ1)に向かう断面輪郭形状であるため、圧縮室55の容積が小さくなる範囲であり、圧縮室55の圧縮行程及び吐出行程に対応している。
断面輪郭形状のうち、x軸の負方向からy軸の正方向に向かう所定の角度範囲(θ4≦θ≦180)の部分eについては、前述したとおり、原点Oを中心とする半径Pの円弧(r=P)で形成されている。したがって、この部分eも最近接部である。
断面輪郭形状のうち、x軸の正方向からの角度θが、式(1)の楕円形の長軸y1の角度位置(θ=θ2)よりもx軸の負方向の側の位置である角度θ3以上の所定の角度範囲(θ2<θ3≦θ≦θ4<180)の部分dは、一例として下記式(2)の、距離rで規定される曲線(第1の曲線の一例)で形成されている。
r=P+Tsin(θ+θ4)(ただし、Q<T) (2)
この式(2)の曲線は、短径がP、長径がP+Tの楕円形を示す式であり、この楕円形の短軸x2はx軸の負方向(θ=180)からy軸の正方向(θ=90)に角度θ1(=180−θ4)だけ傾いた角度位置にあり、式(2)の楕円形の長軸y2はy軸の正方向からx軸の正方向に角度θ1だけ傾いた角度位置(θ=90−θ1)方向に存在する。したがって、角度範囲(θ3≦θ≦θ4)の部分dは、短軸x2と長軸y2とは直交する。なお、短軸x2が内周面41と交差する部分a2は、前述した最近接部の一部である。
式(2)のTは式(1)のQより大きい正数であるため、式(2)が表す楕円形状の長径(P+T)は式(1)が表す楕円形状の長径(P+Q)よりも長いが、角度範囲(θ3≦θ≦θ4)の部分dには、長軸y2の部分を含まない。
角度範囲(θ3≦θ≦θ4)の部分dは、ロータ50の回転方向Rに対応させると、式(2)の断面輪郭形状で短軸x2の角度位置(θ=θ4)から長軸y2の角度位置に向かう断面輪郭形状であるため、圧縮室55の容積が大きくなる範囲であり、圧縮室55の吸入行程に対応している。
また、式(2)の楕円形は、短軸x2の角度位置(θ=θ4)において、角度範囲(θ4≦θ≦180)において円弧を形成している部分eと、接線の傾きが一致して滑らかに接続するように設定されている。
断面輪郭形状のうち、x軸の正方向からの角度θが、式(1)の楕円形の部分bの長軸y1の角度位置(θ=θ2)から式(2)の楕円形の部分dの端の角度位置(θ=θ3)までの所定の角度範囲(θ2≦θ≦θ3)の部分cは、円弧(第2の曲線の一例)で形成されている。この円弧は、角度範囲(θ1≦θ≦θ2)の部分bを形成している式(1)の楕円形の長軸y1上に中心Ocを有し、半径r(<P+Q)で形成されている。
また、この円弧は、角度位置(θ=θ2)において、式(1)の楕円形の弧を形成している部分bと接線の傾きが一致するように滑らかに接続され、角度位置(θ=θ3)において式(2)の楕円形の弧を形成している部分dと接線の傾きが一致して滑らかに接続されるように設定されている。
以上をまとめると、図2に示した内周面41の断面輪郭形状は、以下の(i)〜(v)で規定される。
(i)角度範囲(0≦θ≦θ1)の部分aは、原点Oを中心とする半径Pの円弧(r=P)で形成されている。この部分aは、全体が最近接部であり、式(1)の楕円形の短軸x1と交差する部分(角度位置(θ=θ1)の部分)を含んでいる。
(ii)角度範囲(θ1≦θ≦θ2)の部分bは、式(1)で表される楕円形の、短軸x1が交差する部分a1から、y軸よりもロータ50の回転方向Rの上流側に偏って形成された長軸y1が交差する部分b1までの弧で形成されている。角度位置(θ=θ1)では部分aと滑らかに接続されている。
(iii)角度範囲(θ4≦θ≦180)の部分eは、全体が最近接部であり、原点Oを中心とする半径Pの円弧(r=P)で形成されている。この部分eは、後述する式(2)の楕円形の短軸x2と交差する部分(角度位置(θ=θ4)の部分)a2を含んでいる。
(iv)角度範囲(θ2≦θ≦θ3)の部分cは、式(1)で表される楕円形の長軸y1上(中心軸Cと最遠隔部(長軸y1が内周面41と交差する部分b1)とを結んだ直線上)に中心Ocを有する半径rの円弧(第2の曲線の一例)で形成されている。この円弧は、原点O(中心軸C)からの距離rが変化する曲線であり、角度位置(θ=θ2)では部分bと滑らかに接続され、角度位置(θ=θ3)では部分dと滑らかに接続されている。
(v)角度範囲(θ3≦θ≦θ4)の部分dは、式(2)で表される楕円形の、短軸x2が交差する部分からの弧(第1の曲線の一例)で形成されている。角度位置(θ=θ4)では部分eと滑らかに接続されている。
角度範囲(θ3≦θ≦θ4)の部分dを規定する式(2)の楕円形は、ロータ50の回転に伴うベーン58の飛び出しによりベーン58の先端58aが内周面41に接し続ける形状となっている。
ベーン58は、前述したように、ロータ50の回転によって生じる遠心力と背圧室52に作用する油圧とを受けて突出する。しかし、シリンダ40の内周面41の断面輪郭形状である原点Oからの距離rが、ロータ50の回転角度に対して急激に大きくなる形状であると、ベーン58の突出が十分に追従できず、ベーン58の先端58aが内周面41から離れてしまうことが起こり得る。特に、ロータ50が停止している状態から回転を開始する起動直後は、遠心力も背圧室52に作用する油圧も小さいため、ベーン58の突出には厳しい条件となる。
図3は、このような厳しい条件での、ロータ50の回転角度[度]とベーン58の突出長さ[mm](内周面41による拘束無し)との対応関係の一例を示すグラフである。なお、グラフにおける横軸のロータ50の回転角度は、ベーン58の先端58aを図2に示したx軸の負方向に一致させた状態を0[度]とし、回転方向Rへの回転が進む方向で回転角度が増大するものとする。したがって、図3におけるロータ50の回転角度は、図2に示した角度θとは、基準となる位置及び増大する向きが異なる。
図3に示すように、ロータ50の回転角度が小さい範囲、すなわち、ベーン58が、吸入行程に対応した、図2の角度範囲(θ3≦θ≦θ4)の部分dを通過するときは、ベーン58の突出長さが比較的少ない。したがって、この部分dにおいては、ベーン58の先端58aが内周面41から離れ易い傾向がある。したがって、この部分dを規定する式(2)のrを、対応するロータ50の回転角度におけるベーン58の突出長さで追従できる範囲つまり先端58aが内周面41に接し続けるように、式(2)が設定されている。
また、本実施形態のコンプレッサ100は、内周面41の断面輪郭形状が、全体としては、楕円形であり、原点Oからの距離rが最も短い短径(最近接部)は、式(1)で規定される楕円形の短軸x1が交差する部分a1や式(2)で規定される楕円形の短軸x2が交差する部分a2だけでなく、部分a,eというように円弧の状態で所定の角度範囲に亘って形成されている。一方、本実施形態のコンプレッサ100は、原点Oからの距離rが最も長い長径(最遠隔部)は、式(1)で規定される楕円形の長軸y1が交差する部分(断面輪郭形状において2点)b1だけである。
そして、内周面41の断面輪郭形状のうち、最近接部の端の部分a2からロータ50の回転方向Rの下流側の最遠隔部である部分b1までの角度範囲の部分が、式(2)の楕円形の弧(部分d)と円弧(部分c)との2つの曲線を含んで形成されている。
以上のように構成された本実施形態のコンプレッサ100によれば、圧縮室55での過圧縮を防止又は抑制しつつ、ベーン58が追従しきれなくなるのを防止することができる。すなわち、圧縮行程に対応した部分bについて、長軸y1を吸入行程の方に偏らせた式(1)の楕円形の弧を適用したことで、偏らせていないものに比べて、圧縮行程を長くすることができる。圧縮行程を長くすると、体積変化速度が緩和されて、過圧縮の発生を抑制することができる。
また、部分bの長軸y1を吸入側に偏らせた場合、吸入行程に対応した部分d,cを、部分bと同じ式(2)の楕円形の弧で規定すると、ベーン58の突出が追従し難くなる。しかし、本実施形態のコンプレッサ100は、吸入行程に対応した部分d,cを、圧縮行程に対応した部分bとは異なる曲線であって、ベーン58の追従し得る範囲の別の式(2)の楕円形の弧で規定しているため、ベーン58の突出が厳しい条件においても、ベーン58の先端58aがシリンダ40の内周面41から離れるのを防止又は抑制することができる。
さらに、吸入行程に対応した部分d,cを、圧縮行程に対応した部分bとは異なる曲線に設定すると、この吸入行程の式(2)の楕円形の弧と圧縮行程の式(1)の楕円形の弧とが、滑らかに接続されないか、又は滑らかに接続され難い。しかし、本実施形態のコンプレッサ100は、吸入行程に対応した部分d,cに関して、短径に近い側の部分dをベーン58の追従し得る範囲の別の式(2)の楕円形の弧とし、長径(部分b)に近い側の部分cを式(2)の楕円形の弧と式(1)の楕円形の弧とにそれぞれ滑らかに接続される別の曲線(第2の曲線)の一例である円弧としたことで、ベーン58の追従性を確保しつつ、ベーン58の急激な挙動変化を防止又は抑制することができる。
また、本実施形態のコンプレッサ100によれば、内周面41の断面輪郭形状のうち、部分bも部分cも角度θに応じて原点Oからの距離rが変化し、長軸y1に接続される部分b1だけが最遠隔部となるため、長軸y1を含む一定の角度範囲において角度θに拘わらず原点Oからの距離rが一定となるものに比べて、ベーン58の先端58aの接する部分が移動し、一定の部分が接触し続けることで生じる摩耗の促進を抑制する効果もある。
なお、部分cにおける円弧は、その中心Ocが長軸y1上にあるため、長軸y1上で接続する部分bと部分cとを滑らかに接続しつつ、その円弧の半径rを調整することにより、部分dと滑らかに接続するための調整を行い易い。また、部分cにおける円弧は、その半径rが、長軸y1(部分b)の長径(P+Q)よりも短いため、部分cでのベーン58の突出長さが急激に増大するのを防止又は抑制することができる。
また、本実施形態のコンプレッサ100によれば、吸入行程の部分dに対応した第1の曲線の一例である式(2)の楕円形の弧を、長軸y1からロータ50の回転方向Rの下流側に向けた短軸x1までの断面輪郭形状を形成する式(1)の楕円形とは異なる別の楕円形の弧で形成しているため、部分dにおけるベーン58の先端58aが離れ難い形状の内周面41を選定し易い。
本実施形態のコンプレッサ100は、シリンダ40の内周面41の断面輪郭形状に関して、第1の曲線として楕円形の弧、第2の曲線として円弧をそれぞれ適用したものであるが、本発明に係る気体圧縮機は、この形態に限定されるものではない。すなわち、本発明におけるシリンダの内周面の輪郭形状における第1の曲線は、外側に凸となる楕円形の弧ではない他の曲線であってもよく、また、第2の曲線も、外側に凸となる円弧以外の他の曲線であってもよい。
具体的には、圧縮行程及び吐出行程に対応した最遠隔部b1から最近接部a1までの断面輪郭形状の部分bを形成する曲線が、最遠隔部b1を長径とし、かつ最近接部a1を短径とする特定の第1の楕円式(例えば、下記式(3)において定数B1,B2を適当な値に設定した式)で定義されているものとする。
r=A+B1×sin{B2×(θ−θ1)}(ただし、θ1は0(ゼロ)でもよい)
(3)
このとき、吸入行程に対応した最近接部a2から最遠隔部b1までを、最近接部a2を短径とし、かつ最遠隔部b1を長径とするとともに、最遠隔部b1において特定の第1の楕円式(式(3))で定義された曲線と滑らかに接続する、特定の第2の楕円式(例えば、次下記式(4))で定義された曲線に対して、第1の曲線は、部分dにおいては、シリンダ室53,54の内側(中心軸Cからの寸法が短い)に形成される曲線であればよい。
r=A+B1×sin{B3×(θ−180+θ1)}(ただし、θ1は0(ゼロ)でもよい)
(4)
つまり、第1の曲線を特定の第2の楕円式(4)で定義したとき、第1の曲線に対応した楕円式(4)における定数B1が特定の第2の楕円式(4)における定数B1よりも大きく、かつ、第1の曲線に対応した楕円式(4)おける定数B3が特定の第2の楕円式(4)における定数B3よりも大きい場合は、第1の曲線は特定の第2の楕円式(4)で定義された曲線に比べて、部分dにおいて、シリンダ室53,54の内側に形成され、かつ図3に示したグラフに、より近い曲線とすることができる。
また、第1の曲線を特定の第2の楕円式(4)で定義したとき、第1の曲線に対応した楕円式(4)における定数B1が特定の第2の楕円式(4)における定数B1よりも小さく、かつ、第1の曲線に対応した楕円式(4)おける定数B3が特定の第2の楕円式(4)における定数B3よりも小さい場合も、第1の曲線は特定の第2の楕円式(4)で定義された曲線に比べて、部分dにおいて、シリンダ室53,54の内側に形成され、かつ図3のグラフにより近い曲線とすることができる。
第2の曲線としては、円弧の他として、例えば、外側に凸となる三次ベジェ曲線などの三次方程式で定義される曲線も適用することができる。
また、本実施形態のコンプレッサ100は、最近接部からロータ50の回転方向Rの下流側の最遠隔部までの角度範囲の部分の断面輪郭形状を、互いに異なる2つの曲線で形成したものであるが、本発明に係る気体圧縮機は、この角度範囲の部分の断面輪郭形状は、2つの曲線で形成されるものに限定されず、3つの曲線で形成したものや、4つ以上の曲線で形成したものであってもよい。ただし、内周面41が、多数の曲面で形成されると、製造の労力が増大するため、製造コストの観点では少数であるほうが好ましい。
また、本実施形態のコンプレッサ100は、最遠隔部からロータ50の回転方向Rの下流側の最近接部までの角度範囲の部分(圧縮行程及び吐出行程)の断面輪郭形状を、単一の楕円形で形成したものであるが、本発明に係る気体圧縮機は、この角度範囲の部分の断面輪郭形状は、この実施形態のものに限定されず、2つ以上の曲線で形成したものであってもよい。
40 シリンダ
41 内周面
50 ロータ
58 ベーン
58a 先端
100 コンプレッサ
C 中心軸
R 回転方向(時計回り方向)
a,b,c,d,e 部分
r 距離
x1,x2 短軸
y1、y2 長軸
θ 角度

Claims (5)

  1. 内周面を有するシリンダと、
    前記内周面で囲まれた内側に配置され、中心軸回りに回転する、断面輪郭形状が円形の外周面を有するロータと、
    前記ロータに設けられ、前記ロータの回転にしたがって、前記外周面から突出し、先端が前記内周面に接しながら移動することで、吸入行程と圧縮行程及び吐出行程とを形成する複数のベーンと、を備え、
    前記内周面の断面輪郭形状は、
    (1)前記外周面に最も近い最近接部と、前記外周面から最も離れた最遠隔部とを有し、
    (2)前記最遠隔部は、前記圧縮行程及び前記吐出行程が前記吸入行程よりも長くなるように、前記ロータの回転方向の上流側に偏って形成され、
    (3)前記吸入行程に対応した前記最近接部から前記回転方向の下流側の前記最遠隔部までが、少なくとも、前記ロータの回転に伴う前記ベーンの飛び出しにより前記ベーンの先端が接し続ける第1の曲線と、前記中心軸からの距離が変化して、前記第1の曲線の端と前記最遠隔部とをそれぞれ滑らかに接続する、前記第1の曲線とは異なる第2の曲線とを含み、
    前記吸入行程に対応した前記最近接部を含む所定の角度範囲は円弧であり、
    前記第1の曲線は、前記圧縮行程及び前記吐出行程における前記最遠隔部から前記吐出行程における前記最近接部までの前記断面輪郭形状を形成する曲線とは異なる楕円形の弧であり、
    前記吸入行程に対応した前記最近接部から前記吸入行程に対応した前記最遠隔部までを、前記圧縮行程及び前記吐出行程に対応した前記最遠隔部から前記吐出行程に対応した前記最近接部までの前記断面輪郭形状を形成する曲線と前記最遠隔部において滑らかに接続する、前記吸入行程に対応した前記最近接部を短径かつ前記最遠隔部を長径とする特定の第2の楕円式r=A+B1×sin {B3×(θ−180+θ1)}(ただし、rは中心軸から内周面までの距離、θは最近接部の中央を基準とした中心軸回りの回転角度、Aは中心軸から吸入行程に対応した最近接部までの距離、B1は中心軸から最遠隔部までの距離から距離Aを引いた値、θ1は最近接部の中央を基準とし、吸入行程に対応した最近接部までの中心軸回りの角度、B3は最遠隔部の角度位置において「sin (B3×(θ−180+θ1))」を1とする値)で定義した曲線に対して、前記第1の曲線はシリンダ室の内側に形成されている気体圧縮機。
  2. 前記第2の曲線は円弧である請求項1に記載の気体圧縮機。
  3. 前記円弧は、中心が前記中心軸と前記最遠隔部とを結んだ直線上に設定されている請求項2に記載の気体圧縮機。
  4. 前記第2の曲線は三次ベジェ曲線である請求項1に記載の気体圧縮機。
  5. 前記圧縮行程及び前記吐出行程に対応した前記最遠隔部から前記最近接部までの前記断面輪郭形状を形成する曲線が、前記最遠隔部を長径とし、かつ前記最近接部を短径とする特定の第1の楕円式で定義されている請求項1から4のうちいずれか1項に記載の気体圧縮機。
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