JP6467259B2 - コンプレッサモータ制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、コンプレッサを回転させるモータの制御装置に関する。
例えば冷凍サイクルに用いられるコンプレッサでは、シリンダ内のロータを回転させて、シリンダ室内に吸入した流体を圧縮しシリンダ室外に吐出している。そして、ロータをモータで回転させる電動コンプレッサにおいては、モータのステータコイルを流れる誘導電流を利用してセンサレスでロータの回転角度を検出し、検出したロータの回転角度に応じてモータのステータコイルに印加する電圧を調整するセンサレスベクトル制御が行われる。
但し、電動コンプレッサの起動時にモータのステータコイルを流れる誘導電流は、ロータの回転量が小さいため微弱であり、ロータの回転角度を検出するには不十分である場合がある。そこで、電動コンプレッサの起動時には、ステータコイルの励磁する極を一定の周波数で強制的に移動させる同期制御でモータを回転させてロータを強制回転させることが行われる。
なお、ロータの回転速度がある程度上昇してロータの回転角度を検出するのに十分な誘導電流がモータのステータコイルを流れるようになったら、モータの制御が同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替えられる。この切り替えの際には、ステータコイルに流す電流値及び電流位相が、ロータの負荷トルクに等しいモータトルクが得られる目標の電流値及び電流位相に向けて徐々に変化される(例えば、特許文献1)。
特許第4453472号公報
上述した同期制御からセンサレスベクトル制御への切り替えの際、電流値及び電流位相を徐々に変化させることでモータトルクがロータの負荷トルクを上回ると、ロータが制御上の指令速度よりも加速されて異音が発生する可能性がある。一方、電流値及び電流位相を徐々に変化させることでモータトルクがロータの負荷トルクを下回ると、モータが脱調してロータが回転摩擦力で停止し、コンプレッサの起動に失敗してしまう可能性がある。
このような問題は、シリンダ室内でロータを回転させるベーンロータリー式の圧縮機構を有するコンプレッサに限らず、例えば、可動スクロールを固定スクロールに対して回転させて気体を圧縮するスクロール方式のコンプレッサ等、回転式の圧縮機構を有するコンプレッサをモータで回転させる場合に共通するものである。
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、コンプレッサの圧縮機構の回転体を回転させるモータの制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に移行する際に、モータの励磁相のコイルに供給する電流値及び位相をモータのロータの負荷トルクに合わせてバランスよく変化させることができるコンプレッサモータ制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明のコンプレッサモータ制御装置は、
吸入した気体が圧縮されるコンプレッサの圧縮機構の回転体を回転させるモータのロータの回転速度が、前記モータのステータに流れる誘導電流により前記ロータの回転角度を検出できる所定速度に達すると、同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替えて前記ロータを回転させる制御装置において、
前記同期制御中の前記所定速度以上の回転速度で前記ロータが回転しているときの前記誘導電流により検出された前記ロータの回転角度から、前記ステータに供給される電流の位相を検出する位相検出手段と、
前記位相検出手段が検出した位相と前記ステータに供給された電流の値とから前記ロータの負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段と、
前記同期制御から前記センサレスベクトル制御への切り替え期間中に、前記モータのモータトルクを前記負荷トルク検出手段が検出した負荷トルクに一致させた状態で、前記ステータに供給する電流の値及び位相を、前記センサレスベクトル制御において前記ステータに供給する電流の目標値及び目標位相に変更させる電流調整手段と、
を備えることを特徴とする。
本発明によれば、コンプレッサの圧縮機構の回転体を回転させるモータのロータが所定速度以上で回転していると、モータのステータに流れる誘導電流によりモータのロータの回転角度を検出することができる。そこで、ロータが所定速度以上で回転しているときの誘導電力により検出したロータの回転角度から位相検出手段がステータに供給される電流の位相を検出し、検出した位相とステータに供給される電流の値とから負荷トルク検出手段がロータの負荷トルクを検出する。
そして、同期制御からセンサレスベクトル制御への切り替え期間中に、ステータに供給する電流の値と位相を電流調整手段によって、負荷トルク検出手段が検出したロータの負荷トルクにモータトルクを一致させた状態で、センサレススペクトル制御における電流の目標値及び目標位相に向けて変更する。
これにより、同期制御からセンサレスベクトル制御への切り替え期間中におけるステータへの供給電流の値と位相の変更によって、モータトルクがロータの負荷トルクと一致しなくなることが防止される。よって、モータトルクがロータの負荷トルクを上回ってロータの回転速度過多により異音が発生したり、モータトルクがロータの負荷トルクを下回ってモータが脱調しロータが回転摩擦力により停止してしまうのを防ぐことができる。
このため、コンプレッサの圧縮機構の回転体を回転させるモータの制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に移行する際に、モータの励磁相のコイルに供給する電流値及び位相をモータのロータの負荷トルクに合わせてバランスよく変化させることができる。
一般的な電動コンプレッサを示す断面図である。 図1の圧縮機構の拡大断面図である。 図1の電動モータで発生するモータトルクと電流の位相との関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る電動コンプレッサの電気的構成を示す説明図である。 図1の電動モータの制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える際の制御例を示すもので、(a)は電動モータの励磁相のコイルに供給する駆動用信号におけるロータの制御上の指令速度及び実速度を示すグラフ、(b)は励磁相のコイルに流す電流値を示すグラフ、(c)は励磁相のコイルに流す電流の位相を示すグラフ、(d)は電動モータで発生するモータトルクを示すグラフである。 図1の電動モータの制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える際の他の制御例を示すもので、(a)は電動モータの励磁相のコイルに供給する駆動用信号におけるロータの制御上の指令速度及び実速度を示すグラフ、(b)は励磁相のコイルに流す電流値を示すグラフ、(c)は励磁相のコイルに流す電流の位相を示すグラフ、(d)は電動モータで発生するモータトルクを示すグラフである。 図1の電動モータのモータトルクと励磁相のコイルを流れる電流の位相との関係を、励磁相のコイルを流れる電流値別に示したグラフである。 図1の電動モータのモータトルクが最大となる位相とその周辺について、モータトルクと励磁相のコイルを流れる電流の位相との関係を拡大して電流値別に示したグラフである。 図1の電動モータのモータトルクを4Nmに保持したまま励磁相のコイルを流れる電流の位相を−8degから30degに変化させる場合の、電流値及び位相の目標値を示す説明図である。 図1の電動モータの制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える期間中に励磁相のコイルを流れる電流値を直線的特性で変化させる場合の電流値及び電流位相の変化特性を示すグラフである。 冷媒の吸入圧力及び吐出圧力で定まる電動コンプレッサのロータの負荷トルクと図1の電動コンプレッサの動作範囲とを示す説明図である。 図1の電動モータの制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える際に図4のモータ制御部が行う制御例を示すもので、(a)は電動モータの励磁相のコイルに供給する駆動用信号におけるロータの制御上の指令速度及び実速度を示すグラフ、(b)は励磁相のコイルに流す電流値を示すグラフ、(c)は励磁相のコイルに流す電流の位相を示すグラフ、(d)は電動モータで発生するモータトルクを示すグラフである。 図4のモータ制御部が電動モータの制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える際に行う制御の手順を示すフローチャートである。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る電動コンプレッサの概略構成を示す正断面図、図2は図1の圧縮機構の拡大断面図である。図1に示す本実施形態の電動コンプレッサ1は、回転式の圧縮機構3を電動モータ5で駆動して冷媒を圧縮するものである。
そして、電動コンプレッサ1(請求項中のコンプレッサに相当)は、圧縮機構3及び電動モータ5の他、これらが収容されるハウジング7、及び、コントローラ15を有している。
圧縮機構3は、一対のサイドブロック3a,3bと、これらによって挟持されたシリンダブロック3cと、シリンダブロック3cの内部に形成された楕円形のシリンダ室3dに収容した円柱状のロータ3eとを有している。
ロータ3e(請求項中の回転体に相当)は、サイドブロック3a,3bの軸受部3f,3gで軸受された電動モータ5の回転軸5aに取り付けられており、図2に示すように、ロータ3eの周面に開口する複数のベーン溝31には、ロータ3eの周面から出没可能に複数のベーン33がそれぞれ支持されている。
ロータ3eが電動モータ5によりシリンダ室3d内で回転方向X(正方向)に回転されると、ロータ3eの各ベーン33がシリンダ室3dの内周面に倣ってベーン溝31から出没し、ロータ3eと隣り合う2つのベーン33とシリンダ室3dとで構成される空間の容積が変化する。
そして、空間の容積が増加する間に、サイドブロック3aに形成した吸入口(図示せず)を通じて低圧の冷媒が吸入され、吸入された冷媒が、空間の容積の減少に伴い圧縮される。圧縮された高圧の冷媒は、シリンダブロック3cの吐出ポート3lの吐出弁3mを開弁させ、さらに、サイドブロック3bに形成した吐出口(図示せず)から吐出される。
図1に示すように、電動モータ5(請求項中のモータに相当)は、回転軸5aに取り付けられたロータ5bと、ロータ5bの外側に配置されたステータ5cとを有している。ステータ5cは複数の極に対応したティース(図示せず)を有しており、各ティースにはコイル5dがそれぞれ巻回されている。電動モータ5は、各コイル5dに所定のパターンで電圧を印加することでステータ5cに回転磁界を発生させることで、ロータ5bを回転させる。
ロータ5bは、本実施形態では、永久磁石を内部に埋め込んだ埋込磁石形(IPM:Interior permanent Magnet )のものを用いている。したがって、電動モータ5のモータトルクは、マグネットトルクとリラクタンストルクとを合成したものとなる。
マグネットトルクは余弦波(cos)波形で表され、電流位相=0degにおいて最大値となる。リラクタンストルクは正弦波(sin)波形で表され、電流位相=45degにおいて最大値となる。したがって、図3のグラフに示すように、マグネットトルクとリラクタンストルクを合成したモータトルクTは、0〜45degの範囲において最大値となる。
ハウジング7は、一端が閉塞された円筒状を呈している。このハウジング7には圧縮機構3が収容されており、収容された圧縮機構3によりハウジング7の内部は、サイドブロック3bが露出する閉塞側の密閉された吐出室7aと、サイドブロック3aが露出する開口側の吸入室7bとに仕切られている。吸入室7bには電動モータ5が収容されており、吸入室7bは、ハウジング7の開口7cに取り付けた蓋部9によって密閉されている。
上述した吸入室7bは、圧縮機構3によって圧縮する低温低圧の冷媒が、電動コンプレッサ1の外部(例えば、冷凍サイクルの蒸発器)から不図示の吸入ポートを介して吸入される空間である。
また、圧縮機構3によって吸入室7bと気密に仕切られた吐出室7aは、圧縮機構3によって圧縮された高温高圧の冷媒を、不図示の吐出ポートを介して電動コンプレッサ1の外部(例えば、冷凍サイクルの凝縮器)に吐出する空間である。この吐出室7aの下部には、潤滑油11が貯留される液溜まり部7dが形成されている。この液溜まり部7dには、吐出室7a内の液相の冷媒(図示せず)も滞留される。
液溜まり部7dの潤滑油11は、吐出室7aの冷媒の圧力によりサイドブロック3a,3bの軸受部3f,3gに供給されて、軸受部3f,3gが軸受する回転軸5aの潤滑に用いられる。軸受部3f,3gは、サイドブロック3a,3bの回転軸5aが貫通する貫通孔の内周面に形成された環状溝からなる。
サイドブロック3aの軸受部3fには、サイドブロック3bの通路3hと、シリンダブロック3cの通路3iと、サイドブロック3aの通路3jとを介して、液溜まり部7dの潤滑油11が供給される。サイドブロック3bの軸受部3gには、サイドブロック3bの通路3kを介して液溜まり部7dの潤滑油11が供給される。
サイドブロック3a,3bの軸受部3f,3gに供給された潤滑油11は、不図示の通路を経て、吐出室7aの液溜まり部7dに回収される。また、サイドブロック3bの軸受部3gに供給された潤滑油11の一部は、シリンダ室3d等を経て、吐出室7aに吐出される高圧の冷媒に混入する。そこで、吐出室7aには、高圧の冷媒から潤滑油11を分離する油分離器7eが設けられている。油分離器7eによって冷媒から分離された潤滑油11は、吐出室7a内の液相の冷媒(図示せず)と共に、吐出室7aの下部の液溜まり部7dに滞留される。
コントローラ15(請求項中のコンプレッサモータ制御装置に相当)は、図4の説明図に示すように、インバータ回路15aとモータ制御部15bとを有している。
インバータ回路15aは、直流電源13の電力を交流に変換して電動モータ5のステータ5cのU,V,W各相のコイル5dに供給するものである。そして、インバータ回路15aは、各相のコイル5dに対応する上アーム及び下アームの電力用スイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor 、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)Q1〜Q6を有している。
なお、IGBTQ1〜Q6は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor 、電界効果トランジスタ)等のパワートランジスタに置き換えてもよい。
モータ制御部15b(請求項中の位相検出手段、負荷トルク検出手段、電流調整手段に相当)は、電動モータ5のステータ5cに回転磁界を発生させるための所定のパターンによる各コイル5dへの電圧印加を制御するもので、例えば、マイクロコンピュータによって構成される。モータ制御部15bは、各種データやテーブル、制御に利用する式等を記憶するメモリ15cを有している。
モータ制御部15bは、ステータ5cの励磁される相以外の相のコイル5dを流れる誘導電流を利用してセンサレスでロータ5bの回転角度を検出し、検出したロータ5bの回転角度に応じて励磁相のコイル5dに印加する電圧(コイル5dを流れる電流)を調整するセンサレスベクトル制御が行われる。
但し、電動モータ5により電動コンプレッサ1を起動させる時にステータ5cの励磁相以外の相のコイル5dを流れる誘導電流は、ロータ5bの回転量が小さいため微弱であり、ロータ5bの回転角度を検出するには不十分である場合がある。ロータ5bの回転角度が検出できないと、ロータ5bの負荷トルクに等しいモータトルクが高効率で発生するように励磁相のコイル5dを流れる電流の位相をロータ5bの回転角度に合わせて調整するのが困難になる。
そこで、電動コンプレッサ1の起動時には、図5(a)のグラフに示すように、誘導電流によりロータ5bの回転角度を検出できる速度(所定速度)にロータ5bの回転速度が上がるまで、図5(b)のグラフに示すように、励磁するコイル5dの相を一定の周波数で強制的に移動させる同期制御(強制転流運転)でモータを強制回転させることが行われる。この同期制御では、励磁相のコイル5dを流れる電流の位相を調整できない分、モータトルクがロータ5bの負荷トルクを確実に上回るように、励磁相のコイル5dを流れる電流が大きめの値に設定される。
そして、ロータ5bの回転速度がある程度上昇してロータ5bの回転角度を検出するのに十分な誘導電流が励磁相以外の相のコイル5dを流れるようになったら、電動モータ5の制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える。
この切り替えの際(同期制御(強制転流運転)の最終期間)には、励磁相以外の相のコイル5dを流れる誘導電流からロータ5bの回転角度を検出し、検出した回転角度から、励磁相以外の相を流れる電流の位相を検出する。そして、図5(c)のグラフに示すように、モータトルクが最大となる目標電流位相に、励磁相のコイル5dに流す電流の位相を調整して変化させる。
ここで、励磁相のコイル5dに流す電流値を変えずに位相を調整するとモータトルクが上がる一方となってしまうので、励磁相のコイル5dに流す電流の位相を変化させるのと同時に、図5(b)に示すように、励磁相のコイル5dに流す電流を目標電流位相に対応する目標電流値に下げる。
このように、励磁相のコイル5dに流す電流の値と位相を目標電流値と目標電流位相に変化させてセンサレスベクトル制御に移行する際、モータトルクは電流値の変化や電流位相の変化に伴って変化する。このため、電流値及び電流位相を徐々に変化させるパターンの組み合わせが適切でないと、図5(d)のグラフに示すように、モータトルクがロータ5bの負荷トルクを上回り、図5(a)に示すようにロータ5bが制御上の指令速度よりも加速されて異音が発生する可能性がある。
あるいは、図6(b),(c)のグラフに示すように、モータトルクがロータ5bの負荷トルクを下回り、図6(a)のグラフに示すように、電動モータ5が脱調してロータ5bが回転摩擦力で停止し、電動コンプレッサ1の起動に失敗してしまう可能性がある。
ここで、励磁相のコイル5dに流す電流の値と位相を目標電流値と目標電流位相に向けて変化させる直前には、ロータ5bに異音が発生したり電動モータ5が脱調したりしていないのであるから、その時点でのモータトルクはロータ5bの負荷トルクと釣り合っていて、ロータ5bの回転速度は制御上の指令速度と一致しているはずである。
そこで、電動モータ5の制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える際には、電動モータ5のモータトルクを切り替え直前のモータトルクのまま一定に保ちながら、励磁相のコイル5dに流す電流の値と位相を目標電流値と目標電流位相に向けて適切なパターンの組み合わせでそれぞれ変化させることが重要となる。
そこで、本実施形態のモータ制御部15bは、電動モータ5の制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える際に、次のようにして決定したペースで、励磁相のコイル5dに流す電流の値と位相を目標電流値と目標電流位相に向けて変化させる。
まず、一例として、同期制御中にモータ制御部15bが励磁相のコイル5dに20A(アンペア)の電流を流していたものとする。そして、ロータ5bの回転速度が所定速度に上がった際に、励磁相以外の相のコイル5dに流れる誘導電流により検出されるロータ5bの回転角度からモータ制御部15bが計算により検出した電流の位相が、−8degであったものとする。
すると、図7のグラフに示すモータトルクと励磁相のコイル5dを流れる電流の位相との関係から、このときのモータトルクは、励磁相のコイル5dを流れる電流(20A)と位相(−8deg)とから4Nmとなる。そこで、モータトルクを4Nmに保ったまま、図8のグラフに示す右矢印のように、励磁相のコイル5dを流れる電流の位相を−8degから30degに変化させる。
この30degという位相は、図8のグラフ中点線の縦罫線で示すように、モータトルクが最大となる位相である。したがって、電動モータ5はこの位相において、4Nmのモータトルクを最も効率よく発生することができる。
そして、図8に記載した右矢印のように、モータトルクを4Nmに保持したまま励磁相のコイル5dを流れる電流の位相を−8degから30degに変化させるためには、この右矢印と交差する18A、16A、14A、12Aの各電流値において、図9の説明図で示すように、励磁相のコイル5dを流れる電流の位相を−5deg、−1deg、5deg、12degとする必要がある。なお、電流の位相を30degに変化した状態では、電流値を10.5Aとする必要がある。
そこで、モータ制御部15bは、電動モータ5の制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える期間(t1〜t6)を等しい時間間隔で5つに区切り、各区切り目と終点に設定した5つの調整点(t2〜t6)において、励磁相のコイル5dを流れる電流値を18A、16A、14A、12A、10.5Aの各目標値となるように変化させる。
また、モータ制御部15bは、各調整点(t2〜t6)において、励磁相のコイル5dを流れる電流の位相を、上述した−5deg、−1deg、5deg、12deg、30degの各目標値となるように変化させる。これにより、図10のグラフに示すように、励磁相のコイル5dを流れる電流値は直線的特性で変化することになり、電流位相は曲線的特性で変化することになる。
なお、励磁相のコイル5dを流れる電流の位相が直線的特性で変化し、電流値が曲線的特性で変化するようにしてもよい。
また、電動モータ5の制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える期間(t1〜t6)中の目標電流値と目標電流位相は、メモリ15cに記憶させたテーブルにおいて、調整点(t2〜t6)毎に図9の説明図で示すように設定してもよい。あるいは、切り替え期間における目標電流値や目標電流位相を定義する時間関数をメモリ15cに記憶させ、変数である時間を代入して目標電流値や目標電流位相を随時計算して求めるようにしてもよい。
さらに、電動モータ5の負荷トルクは電動コンプレッサ1の圧縮機構3のロータ3eの負荷トルクによって決まり、ロータ3eの負荷トルクは、ロータ3eの回転速度が一定の場合、圧縮機構3の冷媒の吸入圧力と吐出圧力とによって定まる。
そこで、吸入圧力と吐出圧力とによって定まるロータ3e負荷トルクに対して、電動コンプレッサ1の動作範囲が例えば図11に示すように2Nm〜7Nmの範囲に及ぶ場合は、2Nm〜7Nmにモータトルクを保持したまま、励磁相のコイル5dを流れる電流の位相を30degに変化させるパターンを、予め決めておいてメモリ15cに記憶させておくとよい。
以上のようにして決定したペースでモータ制御部15bは、電動モータ5の制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える期間において、図12(b),(c)のグラフに示すように、励磁相のコイル5dを流れる電流値と位相を、目標電流値や目標電流位相に変化するように調整する。
これにより、図12(d)のグラフに示すように、モータトルクがロータ5bの負荷トルクと釣り合った状態に保持され、図12(a)のグラフに示すように、ロータ5bの回転速度が制御上の指令速度と一致する。したがって、ロータ5bに異音を発生させたり電動モータ5を脱調させたりすることなく、励磁相のコイル5dを流れる電流値及び位相をロータ5bの負荷トルクに合わせてバランスよく変化させることができる。
モータ制御部15bは、以上に説明した制御を、電動モータ5の制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える際に行う。
具体的には、図13のフローチャートに示すように、モータ制御部15bは、起動指令を受けて電動コンプレッサ1を起動し(ステップS1)、同期制御による電動モータ5の強制転流運転を開始して(ステップS3)、制御上の指令速度を上げることで電動モータ5を加速させる(ステップS5)。
そして、モータ制御部15bは、制御上の指令速度等に基づいて、ロータ5bの回転速度が、励磁相以外の相のコイル5dにロータ5bの回転角度を検出するのに十分な誘導電流が流れる所定速度以上に達したか否かを確認する(ステップS7)。そして、所定速度に達していない場合は(ステップS7でNO)、ステップS5にリターンし、所定速度に達した場合は(ステップS7でYES)、モータ制御部15bは、ロータ5bの負荷トルクを推定する(ステップS9)。
ここで、ロータ5bの負荷トルクは、先に説明したように、励磁相以外の相のコイル5dに流れる誘導電流によりロータ5bの回転角度を検出し、この回転角度から励磁相以外の相のコイル5dを流れる電流の位相を検出して、その位相と、同期制御中の励磁相のコイル5dに供給した電流値とから、計算によって求めて推定値とすることができる。
そして、ロータ5bの負荷トルクを推定したら、モータ制御部15bは、推定した負荷トルクにモータトルクを保ったまま、励磁相のコイル5dに流れる電流値と位相を目標電流値及び目標電流位相に変化させるペース(変化傾き)を決定し(ステップS11)、センサレススペクトル制御に移行して(ステップS13)、決定したペースで励磁相のコイル5dに流れる電流値と位相を目標電流値及び目標電流位相に変化させる。
このように、本実施形態のコントローラ15によれば、電動モータ5の同期制御中にロータ5bの回転速度がある程度上昇して、ロータ5bの回転角度を検出するのに十分な誘導電流が励磁相以外の相のコイル5dを流れるようになったら、その誘導電流によりロータ5bの回転角度を検出し、検出した回転角度から励磁相以外の相のコイル5dを流れる電流の位相を検出するようにした。
そして、検出した位相と同期制御において励磁相のコイル5dに流している電流値とからモータトルクを検出し、検出したモータトルクを保持しつつ、励磁相のコイル5dに流す電流値と位相を、電動モータ5の制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替える期間中に、モータトルクが最大となる目標電流位相とそれに対応する目標電流値と目標電流位相に向けて変化させるようにした。
これにより、同期制御からセンサレスベクトル制御への切り替え期間中に励磁相のコイル5bに流す電流値と位相の変化によって、モータトルクがロータ5bの負荷トルクと一致しなくなることが防止される。よって、モータトルクがロータ5bの負荷トルクを上回ってロータ5bの回転速度過多により異音が発生したり、モータトルクがロータ5bの負荷トルクを下回って電動モータ5が脱調しロータ5bが回転摩擦力により停止してしまうのを防ぐことができる。
このため、電動コンプレッサ1の圧縮機構3のロータ3eを回転させる電動モータ5の制御を同期制御からセンサレスベクトル制御に移行する際に、電動モータ5の励磁相のコイル5dに流す電流値及び位相を電動モータ5のロータ5bの負荷トルクに合わせてバランスよく変化させることができる。
なお、本実施形態では、電動モータ5が、永久磁石を内部に埋め込んだ埋込磁石形(IPM:Interior permanent Magnet )のロータ5bを用いたIPMモータである場合について説明した。しかし、例えば、永久磁石を表面に露出させた表面磁石形(SPM:Surface Permanent Magnet )のロータ5bを用いたSPMモータを電動モータ5に用いてもよい。
その場合、モータトルクTの特性が図3に示すIPMモータの特性とは異なるので、同期制御からセンサレスベクトル制御への切り替え期間中に励磁相のコイル5bに流す電流値と位相を変化させるパターンも、SPMモータのモータトルクの特性に応じて決定する必要がある。
また、以上の実施形態では、シリンダ室3d内でロータ3eを回転させるベーンロータリー式の圧縮機構3を有する電動コンプレッサ1に本発明を適用した場合を例に取って説明した。しかし、本発明は、例えば、可動スクロールを固定スクロールに対して回転させて気体を圧縮するスクロール方式のコンプレッサ等、回転体を回転させることで気体を吸入して圧縮する回転式の圧縮機構を有するコンプレッサをモータで回転させる場合に広く適用可能である。
本発明は、冷媒の圧縮機構を電動モータで駆動する電動コンプレッサにおいて利用することができる。
1 電動コンプレッサ
3 圧縮機構
3a,3b サイドブロック
3c シリンダブロック
3d シリンダ室
3e ロータ
3f,3g 軸受部
3h,3i,3j,3k 通路
3l 吐出ポート
3m 吐出弁
5 電動モータ
5a 回転軸
5b ロータ
5c ステータ
5d コイル
7 ハウジング
7a 吐出室
7b 吸入室
7c 開口
7d 液溜まり部
7e 油分離器
9 蓋部
11 潤滑油
13 直流電源
15 コントローラ
15a インバータ回路
15b モータ制御部
15c メモリ
31 ベーン溝
33 ベーン
Q1〜Q6 IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)
T モータトルク
X 回転方向

Claims (2)

  1. 吸入した気体が圧縮されるコンプレッサ(1)の圧縮機構(3)の回転体(3e)を回転させるモータ(5)のロータ(5b)の回転速度が、前記モータ(5)のステータ(5c)に流れる誘導電流により前記ロータ(5b)の回転角度を検出できる所定速度に達すると、同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替えて前記ロータ(5b)を回転させる制御装置(15)において、
    前記同期制御中の前記所定速度以上の回転速度で前記ロータ(5b)が回転しているときの前記誘導電流により検出された前記ロータ(5b)の回転角度から、前記ステータ(5c)に供給される電流の位相を検出する位相検出手段(15b)と、
    前記位相検出手段が検出した位相と前記ステータ(5c)に供給された電流の値とから、前記ロータ(5b)の負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段(15b)と、
    前記同期制御から前記センサレスベクトル制御への切り替え期間中に、前記モータ(5)のモータトルクを前記負荷トルク検出手段が検出した負荷トルクに一致させた状態で、前記ステータ(5c)に供給する電流の値及び位相を、前記センサレスベクトル制御において前記ステータ(5c)に供給する電流の目標値及び目標位相に変更させる電流調整手段(15b)とを備え、
    前記電流調整手段(15b)は、前記切り替え期間中に等しい時間間隔で設定した複数の調整点(t2〜t6)において、前記ステータ(5c)に供給する電流の値及び位相が前記各調整点にそれぞれ対応する設定値及び設定位相となるように、前記ステータ(5c)に供給する電流の値及び位相をそれぞれ変化させる、
    とを特徴とするコンプレッサモータ制御装置(15)。
  2. 吸入した気体が圧縮されるコンプレッサ(1)の圧縮機構(3)の回転体(3e)を回転させるモータ(5)のロータ(5b)の回転速度が、前記モータ(5)のステータ(5c)に流れる誘導電流により前記ロータ(5b)の回転角度を検出できる所定速度に達すると、同期制御からセンサレスベクトル制御に切り替えて前記ロータ(5b)を回転させる制御装置(15)において、
    前記同期制御中の前記所定速度以上の回転速度で前記ロータ(5b)が回転しているときの前記誘導電流により検出された前記ロータ(5b)の回転角度から、前記ステータ(5c)に供給される電流の位相を検出する位相検出手段(15b)と、
    前記位相検出手段が検出した位相と前記ステータ(5c)に供給された電流の値とから、前記ロータ(5b)の負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段(15b)と、
    前記同期制御から前記センサレスベクトル制御への切り替え期間中に、前記モータ(5)のモータトルクを前記負荷トルク検出手段が検出した負荷トルクに一致させた状態で、前記ステータ(5c)に供給する電流の値及び位相を、前記センサレスベクトル制御において前記ステータ(5c)に供給する電流の目標値及び目標位相に変更させる電流調整手段(15b)とを備え、
    前記電流調整手段(15b)は、前記切り替え期間において前記ステータ(5c)に供給する電流の値及び位相を、時間に対する関数にしたがってそれぞれ変化させる、
    ことを特徴とするコンプレッサモータ制御装置(15)。
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