JP6461504B2 - スクロール圧縮機 - Google Patents
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Description
そのため、特許文献1では、歯先101にフッ素系樹脂から形成されたコーティング被膜を形成している。このコーティング被膜が歯底と接触した際に摩滅することで、焼き付きを生じさせることなく歯先101と歯底102との間を塞ぎ、漏れ経路103の断面積を減少させることができる。このようなコーティング被膜は、アブレイダブルコーティング(Abradable Coating)と呼ばれている。特許文献1では、コーティング被膜をラップの外周側の先端面に設けている。
そのことにより、漏れを低減して圧縮効率のさらなる向上を図ることができるスクロール圧縮機を提供することを本発明は目的とする。
スクロールの温度は気体が最大に圧縮される中心部に近いほど高い。そして、スクロールのラップの熱膨張により、スクロールの中心部に近いほどラップの背丈が伸びる。
さらに、ラップの伸び量はスクロール圧縮機の運転条件により変動する。スクロール圧縮機の圧力比が大である運転時には、圧縮気体によりスクロールが加熱されて高温となるのでラップの伸び量が大きい。それと比べて、圧力比が小である運転時にはラップの伸び量が小さい。
この伸び量の変動は、アブレイダブルコーティングによる封止箇所の漏れに影響しうる。ラップの伸び量が大きいスクロールの内周側において、圧力比が大である運転時にラップが大きく伸び、アブレイダブルコーティングが歯底と接触して摩滅すると、それ以降、圧力比が小である運転時にはラップの歯先と歯底との間に広い隙間があいてしまうので、漏れ量が多くなってしまう。
固定スクロールおよび旋回スクロールの各々のラップは、相手側の端板に対向した状態に互いに噛み合わせられる。
そして、本発明は、固定スクロールおよび旋回スクロールの少なくとも一方の外周側におけるラップの歯先には、相手側の端板における歯底との接触により摩滅する外周コーティングが設けられ、固定スクロールおよび旋回スクロールの各々において外周コーティングが設けられない内周側の領域の歯先には、歯底との間にチップシールが設けられ、固定スクロールおよび旋回スクロールの各々における内周側と外周側との境界は、ラップの最外周から内周側へ1.0π以上、2.5π以下の回転角に位置することを特徴とする。
スクロールの外周側においてチップシールをなくすと、チップシールによる封止を成立させるために不可欠なチップシールの背圧室もなくなる。そして、背圧室により不可避的に生じる漏れがなくなる分、スクロールの全体における漏れ量を低減することができる。
一方、運転条件によりラップの背丈の変動が大であるスクロールの内周側においては、運転条件によらず、背圧により安定した封止能力を発揮するチップシールを設ける必要がある。
但し、固定スクロールおよび旋回スクロールのうちの一方において、外周側であっても、背丈の変動が大きい場合には、チップシールが好適である。
これにより、固定スクロールおよび旋回スクロールの内周側および外周側の双方において歯先と歯底との間を十分に封止しつつ、固定スクロールおよび旋回スクロールの少なくとも一方の外周側におけるチップシールの背圧室がなくなることで圧縮気体の漏れを低減することができる。したがって、スクロール圧縮機の圧縮効率を向上させることができる。
ラップの最外周から2.5πまでの領域には、圧縮前の冷媒との接触による冷却作用が及ぶ。
その冷却作用により、最外周から内周側へ2.5πまでの領域においては、ラップの伸び量が十分に小さく、圧力比が変動しても伸びの変動が殆どないので、外周コーティングにより十分な封止効果を確実に得ることができる。
したがって、スクロールの内周側と外周側との境界を、ラップの最外周から内周側へ2.5π以下の範囲に定め、その境界よりも外周側に位置する領域には外周コーティングのみを設け、境界よりも内周側に位置する領域にはチップシールを設けるとよい。
最外周から内周側へ1.0π未満の領域にチップシールを設けても、チップシールの表面側の圧力と背圧との差圧を十分に確保してチップシールを確実に浮上させることが難しい場合がある。
したがって、スクロールの内周側と外周側との境界を、ラップの最外周から内周側へ1.0π以上、2.5π以下の範囲に定め、その境界よりも外周側に位置する領域には外周コーティングのみを設け、境界よりも内周側に位置する領域にはチップシールを設けるとよい。
かかるコーティングは、チップシールが配置されるシール溝の幅方向両側に位置するラップの先端、あるいは、チップシールの表面などに設けることができる。
そのコーティングにより歯先と歯底との間のスペースが占有されることで、占有された分だけ、スクロール全体における漏れ経路の断面積が減少するので、漏れを低減することができる。
上記構成において、外周コーティングが設けられない領域の歯先には、チップシールを収容するシール溝が、チップシールの長さ方向の一端側である内周側から長さ方向の他端側である外周側に向かうにつれて次第に浅くなるように形成され、外周コーティングが設けられない領域の歯先に設けられるコーティングは、チップシールの幅方向両側に、チップシールの長さ方向に沿って設けられていることが好ましい。
また、外周コーティングが設けられない領域の歯先に設けられるコーティングの厚みと、外周コーティングの厚みとが同等であることが好ましい。
上記構成においては、段差部の根元に、外周コーティングが位置していることが好ましい。
〔第1実施形態〕
図1に示すスクロール圧縮機10は、固定スクロール20と、固定スクロール20に対して公転旋回運動される旋回スクロール30と、旋回スクロール30を回転させる回転力を出力するモータ11と、これらを収容する円筒状のハウジング14とを備えている。
スクロール圧縮機10は、空気調和機を構成しており、吸入配管16からハウジング14内に供給される冷媒を固定スクロール20と旋回スクロール30との間で圧縮する。スクロール圧縮機10により圧縮された冷媒は、吐出配管17を通じて図示しない冷媒回路へと吐出される。
スクロール圧縮機10は、モータ11の回転数を制御する制御装置により、圧縮能力が可変に運転制御される。
シャフト15は、ハウジング14に設けられた上部軸受19Aおよび下部軸受19Bにより回転可能に支持されている。
シャフト15の上端には、軸心に対して偏心した偏心ピン151が設けられている。
ラップ21は、最外周211から最内周212までに亘って一定の高さに形成されている。
旋回スクロール30は、旋回端板300と、旋回端板300の一面側から立ち上がる渦巻状のラップ31とを備えている。
ラップ31は、最外周311から最内周312までに亘って一定の高さに形成されている。
旋回スクロール30は、旋回端板300の背面に設けられるボス34により、上述の偏心ピン151に結合される。シャフト15が回転すると、旋回スクロール30は、図示しないオルダムリングにより自転が阻止されつつ、固定スクロール20に対して公転旋回運動される。
固定スクロール20と旋回スクロール30との間には、ラップ21,31の渦巻きの中心部に対して点対称に圧縮室18が形成される。
固定スクロール20に対して旋回スクロール30が旋回されると、吸入配管16からハウジング14内に導入された冷媒が、ラップ21の最外周211とラップ31の側壁との間に形成される吸入口210と、ラップ31の最外周311とラップ21の側壁との間に形成される吸入口310とからスクロール20,30間へと吸入される。それらの吸入口210,310は、旋回スクロール30が旋回されると周期的に開閉される。
図2は、それらの吸入口210,310が閉じ、かつ、吸入口210,310よりも奥側でラップ21の側面とラップ31の側面とが接触することで最外周側に位置する一対の圧縮室18が締め切られた状態を示している。
旋回スクロール30の旋回に伴って、圧縮室18は容積を減少させながら次第に内周側へと追い込まれる。圧縮室18内の冷媒は、固定端板200において渦巻きの中心部に形成された吐出ポート201(図1)から吐出される。
ここで、ラップ21,31の各々の先端のことを歯先24と称し、ラップ21,31の先端が対向する相手側の端板200,300の各々において歯先24が対向する箇所のことを歯底25(図4)と称する。
チップシール22は、固定スクロール20のラップ21の歯先24に形成されたシール溝26に配置されている。
シール溝26は、図4および図6(a)に示すように、ラップ21の先端面24Aからラップ21の基端に向けて矩形状に掘り下げるように形成されている。
図4において、シール溝26を一点鎖線により示している。図11においても同様である。
なお、ラップ31に設けられるチップシール22についても同様である。
内周コーティング23は、スクロール圧縮機10の運転時に、歯底25と接触すると磨滅することで、歯先24と歯底25との間に形成されるクリアランスを最小に保持する。以下では、摩滅により、歯先24と歯底25との間に形成されるクリアランスを最小に保持することを、歯先24と歯底25との間を塞ぐと記載している。これは、後述する外周コーティング27についても同様である。
内周コーティング23が摩滅する分だけ、歯先24と歯底25との間のクリアランスの厳密な管理を要求することなく、歯先24と歯底25との焼き付きを防止しつつ漏れ経路の断面積を減少させて漏れを低減することができる。
その他、金属材料やセラミックス材料も含め、歯底25との接触により摩滅する任意の材料から内周コーティング23を形成することができる。
上記の材料はいずれも、後述する外周コーティング27に適用することができる。
内周コーティング23および外周コーティング27は、必ずしも同じ材料から形成されている必要はない。
外周コーティング27は、ラップ21の最外周211から内周側へ2πまでの外周領域R1に亘り設けられている。
ラップ21において、残りの内周領域R2には、上述のチップシール22および内周コーティング23が設けられている。
つまり、ラップ21において外周領域R1と内周領域R2との境界Bは、ラップ21の最外周211から内周側へ2πの位置にある。
本実施形態では、図4に示すように、外周コーティング27と内周コーティング23とが同等の厚みに形成されている。流動性を有するコーティング材料をラップ21の先端面24Aに供給するコーター装置により、内周コーティング23および外周コーティング27を連続して形成することができる。
内周コーティング23および外周コーティング27は、塗装、めっき、化学気相成長法、物理気相成長法などの任意の方法により形成することができる。
内周コーティング23および外周コーティング27は、1つ以上の層から構成することができる。
ラップ31において、残りの内周領域R2には、チップシール22および内周コーティング23が設けられている。
スクロール圧縮機10が圧力比(圧縮後の圧力/圧縮前の圧力)が大きい条件で運転されると、圧縮冷媒によりスクロール20,30が加熱されて高温となるのでラップ21,31の伸び量が大きい。それと比べて、圧力比が小である運転時にはラップ21,31の伸び量が小さい。
圧縮時の温度と圧力の関係を次式に示す。
この式より、圧力比が大きいほど、圧縮前の温度と圧縮後の温度(つまりラップ外周部と内周部の温度)に差がつく。
ラップの伸び量の変動は、スクロール20,30において中心側(内周側)に設けられた内周コーティング23による封止に影響する。
一方、スクロール20,30の外周側では、ラップ21,31の伸び量が殆ど変動しないことから、外周コーティング27による封止には殆ど影響がない。以下、説明する。
スクロール圧縮機10が運転されると、図5(a)に示すように、ラップ21の背丈が、一点鎖線で示す常温時の高さH0から高さH1にまで伸びる。それにより、外周コーティング27が歯底25に接触すると、外周コーティング27は歯先24と歯底25との間の隙間S1より大きい厚みに形成されていても隙間S1に応じた厚みにまで摩滅し、歯先24と歯底25との間を塞ぐ。
また、ラップ31の背丈もラップ21と同様に伸び、その歯先24に設けられた外周コーティング27が歯底25に接触すると、外周コーティング27が歯先24と歯底25との間の隙間S1に応じた厚みにまで摩滅し、歯先24と歯底25との間を塞ぐ。なお、ラップ21の歯先24と対向する歯底25との間の隙間S1と、ラップ31の歯先24と対向する歯底25との間の隙間S1とは、必ずしも一致しない。
ラップ21,31の各々の歯先24と、対向する歯底25との間は、外周コーティング27により、歯の厚みの全体に亘り封止される。
外周コーティング27の摩滅により、歯先24と歯底25との間に形成されるクリアランスC1が最小に保持される。クリアランスC1は外周コーティング27の表面と歯底25との間に形成されており、このクリアランスC1を介して冷媒が漏れる量は微量であることから、歯先24と歯底25との間には、実質的に漏れ経路が存在しない。漏れ経路としては、圧縮室18を区画するラップ21の側面21Sとラップ31の側面31Sとの間の間隙Spに限られる。
しかも、スクロール20,30の周囲からスクロール20,30間に吸い込まれる冷媒と接触することで冷却されるため、外周領域R1に亘りラップ21,31の伸び量が抑制される。その点でも、圧力比大のときのラップ21,31の高さH1と、圧力比小のときのラップ21,31の高さH2との差が小さい。
したがって、圧力比大の運転により外周コーティング27が摩滅した後、圧力比小で運転されたとしても、歯先24と歯底25との間に形成されるクリアランスC1が、依然、最小に保持される。つまり、歯先24と歯底25との間が外周コーティング27により十分に塞がれている。
以上により、スクロール20,30の外周側においては、運転条件に応じたラップ21,31の伸び量の変動が、外周コーティング27による封止に殆ど影響しない。
チップシール22をなくすと、チップシール22の背面側の背圧室を通じて冷媒が漏れることがない。この背圧室は、図6(a)に示すように、チップシール22の背面とシール溝26の底面との間の空間S2である。この空間S2は、背圧を導入してチップシール22を浮上させることで歯先24と歯底25との間を封止する機構を実現する上で不可避的に生じる。
本実施形態では、スクロール20,30の外周側において、チップシール22を併用することなく、歯先24と歯底25との間の封止を外周コーティング27のみに受け持たせているので、空間S2をなくすことができる。その空間S2がなくなる分だけ、スクロール20,30の全体における漏れ量を低減することができる。
図6(a)および(b)は、固定スクロール20および旋回スクロール30の各々の内周側に位置するラップ21,31を示す。図6(a)は相対的に圧力比大でスクロール圧縮機10が運転されたときの状態を示し、図6(b)は相対的に圧力比小でスクロール圧縮機10が運転されたときの状態を示している。
スクロール圧縮機10が運転されると、図6(a)に示すように、ラップ21の背丈が、一点鎖線で示す常温時の高さH0から高さH1にまで伸びる。それにより、内周コーティング23が歯底25に接触すると、内周コーティング23は歯先24と歯底25との間の隙間S3に応じた厚みにまで摩滅し、歯先24と歯底25との間を塞ぐ。
ラップ31の背丈もラップ21と同様に伸び、ラップ31の内周コーティング23も歯先24と歯底25との間の隙間S3に応じた厚みにまで摩滅し、歯先24と歯底25との間を塞ぐ。なお、ラップ21の歯先24と対向する歯底25との間の隙間S3と、ラップ31の歯先24と対向する歯底25との間の隙間S3とは、必ずしも一致しない。
ここで、圧縮の中盤から最終過程に相当するスクロール20,30の内周側では、冷媒の圧力の増大による温度上昇が顕著であり、なおかつ、圧力比大の運転時には圧縮冷媒からの放熱量が多いことから、ラップ21,31の伸び量が大である。
ここで、アブレイダブルコーティングは一旦摩滅すると復元しないので、S4>S3であると、内周コーティング23の表面と歯底25との間に隙間Sp2があいてしまい、歯先24と歯底25との間を内周コーティング23により十分に封止することができない。
したがって、運転条件に応じてラップ21,31の伸び量の変動が大であるスクロール20,30の内周側においては、内周コーティング23に頼らずにチップシール22を設ける必要がある。スクロール20,30の内周側には、歯先24と歯底25との間を封止する機構として、チップシール22および内周コーティング23のうち少なくともチップシール22を設ける必要がある。ラップ21,31の内周側にチップシール22は必須であるが、内周コーティング23は省略することができる。
最外周211,311から2.5πまでの領域には、圧縮前の冷媒との接触による冷却作用が及ぶ。
その冷却作用により、最外周211,311から内周側へ2.5πまでの領域においては、ラップ21,31の伸び量が十分に小さく、運転条件が変わっても伸び量の変動が殆どないので、所定厚にまで摩滅する外周コーティング27により十分な封止効果を確実に得ることができる。
ここで、最外周211,311から内周側へ1.0π未満の領域にチップシール22を設けても、高圧部から伝搬される背圧と表面側の圧力との差圧を十分に確保してチップシール22を確実に浮上させることが難しい場合がある。その理由を説明する。ある圧縮室18に位置するチップシール22の裏面には、その圧縮室18の一つ先(360°先)の圧縮室18の圧力が背圧として作用する。そして、スクロール20,30内の圧力は、外周側から中央部へといくにつれて指数関数的に増加していく。そのため、図2に示すように、スクロール20,30の中央部から外周側へとA,B,Cの圧縮室18がある場合、A室とB室との圧力差と、B室とC室の圧力差とでは、B室とC室の圧力差の方が小さい。つまり、チップシール22は外周側にいくにつれて浮上し難い。
以上より、外周領域R1と内周領域R2との境界Bを、ラップ21,31の最外周211,311からそれぞれ内周側へ1.0π以上、2.5π以下の範囲に定めることが好ましい。そして、境界Bよりも外周側に位置する外周領域R1においては、チップシール22を設けずに外周コーティング27のみを設け、境界Bよりも内周側に位置する内周領域R2においては、チップシール22を設けるとよい。
また、圧縮冷媒の温度上昇による影響を最も受け難いラップ21,31の最外周211,311から所定の範囲には、外周コーティング27を設けないことも許容される。
体積効率は、最外周に位置する一対の圧縮室18,18が締め切られたときの圧縮室18,18の合計の体積の冷媒が、そのまま外部に漏れることなく所定の圧力まで圧縮されて圧縮機から吐出される流量に対して、実際に圧縮機から吐出される流量の比である。体積効率100%の流量は、最外周に位置する圧縮室18,18の合計の体積と、最外周の圧縮室18,18が締め切られたときの冷媒の密度と、スクロール圧縮機10の回転数とを乗じることによって求めることができる。
歯先24にチップシール22を設ける場合、チップシール22の背面側に背圧室(図6(a)の空間S2)が必要となる。この背圧室の存在により、最外周側の圧縮室18内に受け入れて内周側へと追い込むことのできる実効的な冷媒体積が減少する。そのため、ラップ21の最外周211から、少なくとも、最外周側の圧縮室18を区画する2πまでに亘り、チップシール22をなくして外周コーティング27のみを設けることとすれば、チップシール22の背圧室がなくなる分、体積効率を向上させることができる。
つまり、外周領域R1と内周領域R2との境界Bがラップ21の最外周211から2π以上に位置し、境界Bよりも外周側に存在する外周領域R1に亘り、チップシール22を設けずに外周コーティング27のみを設けることが好ましい。
上記では固定スクロール20のラップ21についてのみ説明したが、旋回スクロール30のラップ31についても同様に、外周領域R1と内周領域R2との境界Bをラップ31の最外周311から2π以上に定め、境界Bよりも外周側に存在する外周領域R1に亘り、チップシール22を設けずに外周コーティング27のみを設けることにより、体積効率を向上させることができる。
上記は、第2実施形態の内周ラップ21A,31Aの高さと外周ラップ21B,31Bの高さについても該当する。
ここでは、歯先24と歯底25との間と同様に漏れ経路となるチップシール22の裏側のクリアランスを最適化する方法について述べる。
チップシール22の裏面とシール溝26´の底面との間に適切なクリアランスが形成されるように、シール溝26´を内周側から外周側に向かうにつれて次第に浅くなるように形成している。このシール溝26´に、長さ方向の全体に亘り一定の厚みに形成されたチップシール22を配置する。
ここで、チップシール22の幅方向両側に設けられているアブレイダブルコーティング23はラップの伸び量に応じて削れる。アブレイダブルコーティング23が削れた分だけ歯先24と歯底25とが接近する。したがって、仮にシール溝26´の深さが一定であるとして、チップシール22の長さ方向の一端側(外周側)と他端側(内周側)とを比べると、アブレイダブルコーティング23の削れる量が多いチップシール22の内周側(長さ方向の一端側)においてチップシール22の裏面とシール溝26´の底面との間に形成されるクリアランスよりも、チップシール22の外周側(長さ方向の他端側)においてチップシール22の裏面とシール溝26´の底面との間に形成されるクリアランスの方が大きくなる。このことを見込んで、シール溝26´の深さを内周側と外周側とで変化させているので、チップシール22の裏面とシール溝26´の底面との間のクリアランスを周方向に平準化、最適化して漏れ量を低減することができる。
なお、旋回スクロール30のラップ31にも上記と同様のシール溝26´を形成することができる。
また、第2実施形態の内周ラップ21A,31Aにも上記と同様のシール溝26´を形成することができる。
次に、図8〜図11を参照し、第2実施形態について説明する。
以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態で説明した構成と同様の構成には同じ符号を付している。
第2実施形態に係るスクロール圧縮機103D(図8)は、3Dタイプであり、固定スクロール20および旋回スクロール30の間に形成される圧縮室18の容積が渦巻きの途中でラップ21,31の高さ方向にも減少している。
固定スクロール20および旋回スクロール30の双方において、ラップ21,31の高さが外周側よりも内周側で低く、ラップ21,31に対向する相手側の端板300,200の内周側が外周側よりも内面側に突出している。
ラップ21,31の各々には、外周側から内周側へと低くなる段差部21C,31Cが形成されている。端板300,200の各々には、外周側から内周側へと高くなる段差壁20C,30Cが形成されている。
ラップ21に対向する旋回端板300の底部は、段差壁30Cを境に内周底部と外周底部(共に図示しない)とに区分される。
段差部21Cおよび段差壁30Cは、ラップ21の最外周211から内周側へ約2πの位置にある。
ラップ31に対向する固定端板200の底部は、段差壁20Cを境に内周底部20Aと外周底部20Bとに区分される。
段差部31Cおよび段差壁20Cは、ラップ31の最外周311から内周側へ約2πの位置にある。
本明細書においてラップの「周方向」は、渦巻きの方向に沿った方向をいうものとする。
外周ラップ21B,31Bは、旋回スクロール30が2πの回転角で1回転する間、それぞれ、吸入口210,310から吸い込まれた冷媒に接触する。
固定スクロール20において、外周コーティング27が設けられる外周側と、外周コーティング27が設けられていない内周側との境界Bは、段差部21Cの位置に定められる。
旋回スクロール30において、外周コーティング27が設けられる外周側と、外周コーティング27が設けられていない内周側との境界Bは、段差部31Cの位置に定められる。
一方、固定スクロール20の外周ラップ21Bの歯先24には、歯底25との接触により摩滅する外周コーティング27が歯先24の全体に施されている。外周ラップ21Bの歯先24にはチップシール22が設けられていない。
第1実施形態で説明したように、ラップ21,31の最外周211,311から2.5πまでの領域に、圧縮前の冷媒との接触による冷却作用が及ぶことと、最外周211,311から内周側へ1.0π未満の領域では、チップシール22の背圧と表面側の圧力との差圧を十分に確保してチップシール22を確実に浮上させることが難しい場合があるためである。
また、外周ラップ21B,31B上に境界Bを設定した場合には、外周ラップ21B,31Bにおける内周側の部位に、チップシール22が単独であるいは内周コーティング23と共に設けられる。
なお、旋回スクロール30の内周ラップ31Aにおいてチップシール22が設けられていない段差部31Cの根元の位置に、外周コーティング28を設けることもできる。
以下、ラップ21,31のうちラップ21を例に取り説明する。
ラップ21の高さが2箇所で変化しており、ラップ21が高さに応じて外周ラップ21B、中間ラップ、および内周ラップ21Aに区分されているとする。その場合でも、運転条件により伸び量が変動しても歯先24と歯底25との間を外周コーティング27のみで十分に封止することのできる領域に亘り、外周コーティング27を設け、残りの領域にチップシール22を設ければよい。例えば、外周コーティング27が設けられる外周領域R1とチップシール22が設けられる内周領域R2との境界Bを外周ラップ21Bと中間ラップとの間に置くと、外周ラップ21Bの歯先24には外周コーティング27のみを設け、中間ラップおよび内周ラップ21Aの各々の歯先24にはチップシール22を単独または内周コーティング23と共に設けることができる。
例えば、旋回スクロール30の歯先24と、対向する固定スクロール20の歯底25との間の隙間のバラツキが大きいためにその隙間を広くとらざるを得ない場合は、旋回スクロール30の歯先においてのみ、外周側に外周コーティング27を設けるとともに内周側にチップシール22を設け、固定スクロール20においては、内周側および外周側に亘ってチップシール22を単独であるいは内周コーティング23と共に設けることができる。
旋回スクロール30の歯先24と、対向する固定スクロール20の歯底25との間の隙間のバラツキが大きい場合としては、例えば、固定スクロール20と旋回スクロール30とのペアリングを実施しない場合がある。ペアリングは、製作した多数のスクロール20,30に対してグループ分けを実施し、高さが合うスクロール20,30同士でペアを作る作業をいう。そのペアリングを行うと、固定スクロール20と旋回スクロール30との歯先と歯底との間の隙間のバラツキを小さくすることができるが、ペアリングを省いて、固定スクロール20と、それを支持する上部軸受19Aとの間に薄板を入れることで、固定スクロール20の歯先24に関する隙間調整だけを行う場合がある。その場合、旋回スクロール30の歯先24に関しては隙間調整がされないために旋回スクロール30の歯先24と固定スクロール20の歯底25との間の隙間のバラツキが大きいので、当該隙間を大きく設定する。そういった場合に、固定スクロール20と旋回スクロール30とのうち、いずれか一方にだけ外周コーティング27を設けるとしたら、固定スクロール20の歯底25との間の隙間が大きい旋回スクロール30の歯先24に対して優先的に外周コーティング27を設けるとよい。
本発明のスクロール圧縮機は、モータの回転力を動力とするものには限られず、エンジンからベルトを介してシャフトに伝達される駆動力を動力とするものであってもよい。
また、本発明のスクロール圧縮機は、冷媒、空気など、圧縮対象である作動流体を選ばない。
11 モータ
12 ステータ
13 ロータ
14 ハウジング
15 シャフト
16 吸入配管
17 吐出配管
18 圧縮室
19A 上部軸受
19B 下部軸受
20 固定スクロール
20A 内周底部
20B 外周底部
20C 段差壁
21 ラップ
21A 内周ラップ
21B 外周ラップ
21C 段差部
21S 側面
22 チップシール
23 内周アブレイダブルコーティング
24 歯先
24A 先端面
25 歯底
26 シール溝
27 外周アブレイダブルコーティング(外周コーティング)
28 外周コーティング
30 旋回スクロール
30C 段差壁
31 ラップ
31C 段差部
31S 側面
34 ボス
35 スラストプレート
100 チップシール
101 歯先
102 歯底
103 漏れ経路
104 側面
105 側面
106 シール溝
107 アブレイダブルコーティング
108 背圧室
151 偏心ピン
200 固定端板
201 吐出ポート
210 吸入口
211 最外周
212 最内周
300 旋回端板
310 吸入口
311 最外周
312 最内周
B 境界
C1 クリアランス
Cr1 クリアランス
G 間隙
P 接触点
H1,H2 高さ
R1 外周領域
R2 内周領域
S1 隙間
S2 空間
S3 隙間
S4 隙間
Sp 間隙
Sp2 隙間
Claims (6)
- 固定スクロールおよび旋回スクロールを備えたスクロール圧縮機であって、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの各々のラップは、相手側の端板に対向した状態に互いに噛み合わせられ、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの少なくとも一方の外周側における前記ラップの歯先には、相手側の前記端板における歯底との接触により摩滅する外周コーティングが設けられ、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの各々において前記外周コーティングが設けられない内周側の領域の前記歯先には、前記歯底との間にチップシールが設けられ、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの各々における内周側と前記外周側との境界は、前記ラップの最外周から内周側へ1.0π以上、2.5π以下の回転角に位置する、
ことを特徴とするスクロール圧縮機。 - 前記外周コーティングが設けられない領域の前記歯先には、
前記チップシールに加えて、
前記歯底との接触により摩滅するコーティングが設けられている、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。 - 前記外周コーティングが設けられない領域の前記歯先には、
前記チップシールを収容するシール溝が、前記チップシールの長さ方向の一端側である内周側から前記長さ方向の他端側である外周側に向かうにつれて次第に浅くなるように形成され、
前記外周コーティングが設けられない領域の前記歯先に設けられる前記コーティングは、前記チップシールの幅方向両側に、前記チップシールの前記長さ方向に沿って設けられている、
請求項2に記載のスクロール圧縮機。 - 前記外周コーティングが設けられない領域の前記歯先に設けられる前記コーティングの厚みと、前記外周コーティングの厚みとが同等である、
請求項2または3に記載のスクロール圧縮機。 - 前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールのいずれの前記ラップも、外周側から内周側へと段差部を経て高さが低くなり、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールのいずれの前記端板にも、相手側の前記ラップの前記段差部に倣って立ち上がる段差壁が形成され、
前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールの各々における内周側と外周側との境界は、
前記段差部の位置にある、
請求項1から4のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。 - 前記段差部の根元に、前記外周コーティングが位置している、
請求項5に記載のスクロール圧縮機。
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JP2014148005A JP6461504B2 (ja) | 2014-07-18 | 2014-07-18 | スクロール圧縮機 |
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JP2016023580A JP2016023580A (ja) | 2016-02-08 |
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Family Applications (1)
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2014
- 2014-07-18 JP JP2014148005A patent/JP6461504B2/ja active Active
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