しかしながら、上述した従来のシングルスクリュー圧縮機では、運転中の熱膨張によってスクリューロータの歯溝とゲートロータの歯とが互いに接近するため、一般に樹脂で形成されたゲートロータの歯が摩耗してしまうという問題があった。
具体的に、シングルスクリュー圧縮機において、スクリューロータ側は圧縮室の高圧冷媒によって高温になる一方、ゲートロータ側は円筒壁の外部の低圧空間に位置しているため比較的低温である。そのため、ゲートロータ側よりもスクリューロータ側の方が熱膨張度が高くなり、スクリューロータおよびゲートロータの相対的な軸心間距離が短くなる。そうすると、スクリューロータの歯溝とゲートロータの歯とが接近し、歯溝と歯の接触圧力が過剰になり歯が摩耗してしまう。その結果、ゲートロータの歯とスクリューロータの歯溝との間に隙間が生じて、圧縮室の冷媒(ガス)が漏れてしまい、圧縮効率が低下するという問題があった。
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、運転中において、熱膨張などによりスクリューロータとゲートロータの軸心間距離が短くなっても、ゲートロータの歯が摩耗するのを防止して、圧縮効率の低下を抑制することである。
第1の発明は、外周面に螺旋状の歯溝(41)を有し、円筒壁(30)に回転可能に嵌合するスクリューロータ(40)と、上記円筒壁(30)を貫通して上記スクリューロータ(40)の歯溝(41)と噛み合う平歯(51)を有し、軸心が上記スクリューロータ(40)の軸心と直交する円板状のゲートロータ(50)とを備えているシングルスクリュー圧縮機を前提としている。そして、上記スクリューロータ(40)の歯溝(41)の溝幅は、該歯溝(41)の吸入側端部から吐出側端部寄りの所定位置まで次第に小さくなり、該所定位置から吐出側端部まで上記平歯(51)の両側面が接する大きさに形成されているものである。
上記の発明では、例えば図1に示すように、円筒壁(30)とスクリューロータ(40)の歯溝(41)とゲートロータ(50)の平歯(51)との間に圧縮室(23)が形成される。そして、スクリューロータ(40)の回転に伴って歯溝(41)が移動することにより、圧縮室(23)の容積が増減する。この圧縮室(23)の容積の増減により、歯溝(41)の一端(吸入側端部)から吸入された流体が圧縮され、歯溝(41)の他端(吐出側端部)から吐出される。
本発明では、例えば図6に示すように、スクリューロータ(40)の吸入側端部から吐出側端部寄りの所定位置の間において、歯溝(41)の溝幅がゲートロータ(50)の平歯(51)の歯幅よりも大きく形成されている。また、スクリューロータ(40)の上記所定値から吐出側端部の間においては、歯溝(41)の溝幅が平歯(51)の歯幅と略同一に形成されている。これにより、熱膨張などによってスクリューロータ(40)とゲートロータ(50)の軸心間距離が短くなっても(即ち、歯溝(41)と平歯(51)が接近しても)、少なくとも平歯(51)の両側面が歯溝(41)に干渉(ラップ)しない。
具体的に、上記のように軸心間距離が縮まると、歯溝(41)の吸入側端部から所定位置の間においては、平歯(51)がその径方向および周方向(即ち、平歯(51)の歯幅方向)に移動する。これにより、平歯(51)の先端面は歯溝(41)に干渉するが、平歯(51)の両側面は溝幅が大きく形成されているため歯溝(41)に干渉せずに接触する。一方、歯溝(41)の所定位置から吐出側端部の間においては、平歯(51)がその径方向にのみ移動する。これにより、平歯(51)の先端面は歯溝(41)に干渉するが、平歯(51)の両側面は歯溝(41)に接触したままである。つまり、本発明は、歯溝(41)の所定位置から吐出側端部において、溝幅を平歯(51)の歯幅と略同一にして平歯(51)の周方向移動を拘束している。そして、歯溝(41)の吸入側端部から所定位置において、平歯(51)が上記の拘束した分だけさらに周方向に移動するように、溝幅が大きく形成されている。さらに言い換えれば、本発明は、歯溝(41)の吸入側端部側で平歯(51)に対する周方向移動の制限を緩和することにより、吐出側端部側で平歯(51)に対する周方向移動を阻止するようにしている。
このように、少なくとも平歯(51)の両側面は歯溝(41)に干渉することはない。したがって、少なくとも平歯(51)の両側面の摩耗が防止される。また、吸入側端部から所定位置において、平歯(51)の両側面と歯溝(41)との間に隙間が生じるが、所定位置から吐出側端部において、平歯(51)の両側面は常に歯溝(41)に接触している。したがって、少なくとも歯溝(41)の吐出側端部側においては、平歯(51)の両側面が摩耗することなく歯溝(41)に接触する状態が常に確保される。
第2の発明は、上記第1の発明において、上記スクリューロータ(40)の歯溝(41)の溝深さは、その深さ方向に上記平歯(51)が移動可能な深さに形成されているものである。
上記の発明では、歯溝(41)の溝深さが全長に亘って従来よりも一様に深く形成されている。従来、スクリューロータの歯溝の溝深さは、ゲートロータの平歯の先端面が常に接するように設計される。つまり、歯溝の溝深さは、吸入側端部および吐出側端部で最も浅く、中央部に行くに従って深くなり中央部で最も深くなっている。ところが、本発明では、上記平歯(51)が歯溝(41)の深さ方向(即ち、平歯(51)の径方向)に移動できるように、歯溝(41)の深さが従来よりも深くなっている。
したがって、スクリューロータ(40)とゲートロータ(50)の軸心間距離が短くなると、歯溝(41)の全長に亘って平歯(51)がその径方向にも制限されずに移動する。そのため、平歯(51)の両側面だけでなく先端面の摩耗も防止される。したがって、熱膨張などにより軸心間距離が短くなっても、歯溝(41)の所定位置から吐出側端部においては、平歯(51)の両側面および先端面が歯溝(41)に接触する状態が確保される。
第3の発明は、外周面に螺旋状の歯溝(41)を有し、円筒壁(30)に回転可能に嵌合するスクリューロータ(40)と、上記円筒壁(30)を貫通して上記スクリューロータ(40)の歯溝(41)と噛み合う平歯(51)を有し、軸心が上記スクリューロータ(40)の軸心と直交する円板状のゲートロータ(50)とを備えているシングルスクリュー圧縮機を前提としている。そして、上記スクリューロータ(40)の歯溝(41)は、吸入側端部から吐出側端部寄りの所定位置の間において該歯溝(41)の吸入側の側面にのみ上記平歯(51)が接し且つ上記所定位置から吐出側端部の間において該歯溝(41)の両側面にのみ上記平歯(51)が接する第1状態と、吸入側端部から上記所定位置の間において該歯溝(41)の吐出側の側面および底面にのみ上記平歯(51)が接し且つ上記所定位置から吐出側端部の間において該歯溝(41)の両側面および底面に上記平歯(51)が接する第2状態とを許容するように構成されているものである。
上記の発明では、例えば図1に示すように、円筒壁(30)とスクリューロータ(40)の歯溝(41)とゲートロータ(50)の平歯(51)との間に圧縮室(23)が形成される。そして、スクリューロータ(40)の回転に伴って歯溝(41)が移動することにより、圧縮室(23)の容積が増減する。この圧縮室(23)の容積の増減により、歯溝(41)の一端(吸入側端部)から吸入された流体が圧縮され、歯溝(41)の他端(吐出側端部)から吐出される。
そして、本発明では、例えば図9(A)に示すように、スクリューロータ(40)とゲートロータ(50)の軸心間距離が変化する前(即ち、運転前または運転初期時)において、ゲートロータ(50)が第1状態でスクリューロータ(40)と噛み合う。つまり、吸入側端部側の歯溝(41)に対しては平歯(51)の吸入側の側面のみが接触し、吐出側端部側の歯溝(41)に対しては平歯(51)の両側面のみが接触する。また、軸心間距離が短くなると、例えば図9(B)に示すように、ゲートロータ(50)が第2状態でスクリューロータ(40)と噛み合う。つまり、吸入側端部側の歯溝(41)に対しては平歯(51)の吐出側の側面および底面のみが接触し、吐出側端部側の歯溝(41)に対しては平歯(51)の両側面および底面(即ち、平歯(51)の全周)が接触する。
このように、平歯(51)の先端面および両側面は歯溝(41)に干渉することはない。したがって、平歯(51)の摩耗が防止される。また、吐出側端部側の歯溝(41)では、常に平歯(51)の両側面または両側面および先端面が接触する。したがって、少なくとも歯溝(41)の吐出側端部側においては、平歯(51)が摩耗することなくその両側面が歯溝(41)に接触する状態が常に確保される。
第4の発明は、上記第1乃至第3の何れか1の発明において、上記スクリューロータ(40)の歯溝(41)の吐出側端部寄りの所定位置は、吐出行程が開始されるまでの位置に設定されているものである。
上記の発明では、少なくとも吐出行程の開始から終了までの間において、その圧縮室(23)に対応する平歯(51)の両側面が歯溝(41)に接触する状態が確保される。
第5の発明は、上記第1乃至第4の何れか1の発明において、上記ゲートロータ(50)が上記スクリューロータ(40)に対して対称に2つ設けられているものである。
上記の発明では、例えば図1に示すように、1つのスクリューロータ(40)に対して2つのゲートロータ(50)が噛み合う。この場合、圧縮室(23)が2つ形成される。
したがって、本発明によれば、スクリューロータ(40)の歯溝(41)の溝幅を、吸入側端部から吐出側端部寄りの所定位置までは次第に小さくなるように形成し、該所定位置から吐出側端部までは平歯(51)の両側面が接する一様の大きさに形成するようにした。つまり、本発明では、吐出側端部側の歯溝(41)における平歯(51)の周方向の移動分を吸入側端部側の歯溝(41)において吸収させるようにした。したがって、熱膨張などによりスクリューロータ(40)とゲートロータ(50)の軸心間距離が短くなっても、歯溝(41)の全長に亘って少なくとも平歯(51)の両側面との干渉を回避することができる。これにより、平歯(51)の摩耗による圧縮室(23)の気密性低下を抑制することができる。その結果、圧縮効率を従来よりも向上させることができる。
特に、吐出側端部側の歯溝(41)において平歯(51)の両側面を常に歯溝(41)に接触させることができるので、圧縮室(23)の圧力が高くなる付近で圧縮室(23)の気密性を一段と高めることができる。したがって、圧縮効率を一層且つ効果的に向上させることができる。
さらに、第2の発明によれば、歯溝(41)の深さ方向に平歯(51)が移動できるように歯溝(41)の深さをせっていするようにした。したがって、熱膨張などにより軸心間距離が短くなっても、歯溝(41)の全長に亘って平歯(51)の両側面および先端面の干渉を回避することができる。これにより、圧縮室(23)の気密性を一層高めることができる。
また、第3の発明によれば、平歯(51)が吸入側端部側の歯溝(41)に対してはその吸入側側面にのみ接し且つ吐出側端部側の歯溝(41)に対してはその両側面にのみ接する第1状態と、吸入側端部側の歯溝(41)に対してはその吐出側側面および底面にのみ接し且つ吐出側端部側の歯溝(41)に対してはその両側面および底面に接する第2状態とを許容するように歯溝(41)を構成するようにした。したがって、スクリューロータ(40)とゲートロータ(50)の軸心間距離が短くなっても、平歯(51)の先端面および両側面が歯溝(41)と干渉するのを回避することができる。これにより、平歯(51)の摩耗による圧縮室(23)の気密性低下を確実に抑制することができる。その結果、圧縮効率を従来よりも向上させることができる。
特に、吐出側端部側の歯溝(41)においては、平歯(51)の両側面または両側面および先端面を常に歯溝(41)に接触させることができるので、圧縮室(23)の圧力が高くなる付近で圧縮室(23)の気密性を一段と高めることができる。したがって、圧縮効率を一層且つ効果的に向上させることができる。
また、第4の発明によれば、吐出側端部寄りの所定位置を吐出行程が開始されるまでの位置に設定するようにした。したがって、少なくとも吐出行程の開始から終了までの間において、圧縮室(23)の気密性の低下を抑制することができる。そのため、吐出行程の間は圧縮室(23)の圧力がピークになっているが、その吐出圧力の低下を確実に抑制することができる。その結果、圧縮効率の向上を確実に図ることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態のシングルスクリュー圧縮機(1)(以下、単にスクリュー圧縮機(1)と言う。)は、冷凍空調用のもので、冷凍サイクルを行う冷媒回路に設けられて冷媒を圧縮するものである。
図1および図2に示すように、上記スクリュー圧縮機(1)は、全密閉型に構成されている。このスクリュー圧縮機(1)は、ケーシング(10)内に、低圧ガスが導入されて該低圧ガスを圧縮する圧縮機構(20)を備えている。ケーシング(10)内には、図示しないが電動機が固定されており、該電動機と圧縮機構(20)とが回転軸である駆動軸(21)によって連結されている。また、ケーシング(10)内には、冷媒回路の蒸発器(図示せず)から低圧のガス冷媒が導入されると共に該低圧ガスを圧縮機構(20)へ案内する低圧空間(S1)と、圧縮機構(20)から吐出された高圧のガス冷媒が流入する高圧空間(S2)とが区画形成されている。
上記圧縮機構(20)は、ケーシング(10)内に形成された円筒壁(30)と、該円筒壁(30)の中に配置された1つのスクリューロータ(40)と、該スクリューロータ(40)に噛み合う2つ(一対の)のゲートロータ(50)とを有している。スクリューロータ(40)は、上記駆動軸(21)に装着され、キー(22)によって駆動軸(21)に対する回り止めが施されている。
図3にも示すように、上記スクリューロータ(40)の外周面には、螺旋状の歯溝(41)が複数(本実施形態では、6本)形成されている。スクリューロータ(40)は、円筒壁(30)に回転可能に嵌合しており、歯先外周面が該円筒壁(30)に包囲されている。一方、各ゲートロータ(50)は、外周面に複数(本実施形態では、11枚)の平歯(51)を有する円板状に形成されている。各ゲートロータ(50)は、円筒壁(30)の外側にスクリューロータ(40)を挟んで対称に配置され、軸心がスクリューロータ(40)の軸心と直交している。そして、各ゲートロータ(50)は、平歯(51)が円筒壁(30)の一部を貫通してスクリューロータ(40)の歯溝(41)に噛み合うように構成されている。また、スクリューロータ(40)は金属製であり、ゲートロータ(50)は樹脂製である。なお、スクリューロータ(40)およびゲートロータ(50)の詳細については後述する。
上記駆動軸(21)の先端部は、圧縮機構(20)の高圧側(図1の右側)に位置する軸受ホルダ(60)に回転可能に支持されている。この軸受ホルダ(60)は、スクリューロータ(40)の高圧側端面(図1の右側)に隣接しており、ボール軸受(61)を介して駆動軸(21)を支持している。
上記スクリュー圧縮機(1)には、容量制御機構としてスライドバルブ(70)が設けられている。このスライドバルブ(70)は、円筒壁(30)がその周方向の2カ所において径方向外側に膨出したスライドバルブ収納部(31)内に設けられている。スライドバルブ(70)は、内面が円筒壁(30)の内周面の一部を構成すると共に、円筒壁(30)の軸心方向にスライド可能に構成されている。図1において、スライドバルブ(70)が右方向へスライドすると、スライドバルブ収納部(31)の端面(P1)とスライドバルブ(70)の端面(P2)との間に軸方向隙間を形成される。この軸方向隙間が圧縮室(23)から低圧空間(S1)へ冷媒を戻すためのバイパス通路(33)として構成されている。したがって、このバイパス通路(33)の開度を調節することにより、圧縮機構(20)の容量制御を行うことができる。また、スライドバルブ(70)は、貫通して圧縮室(23)と高圧空間(S2)とを連通させるための吐出口(25)が形成されている。
上記スクリュー圧縮機(1)には、スライドバルブ(70)をスライド駆動させるためのスライドバルブ駆動機構(80)が設けられている。このスライドバルブ駆動機構(80)は、軸受ホルダ(60)に固定されたシリンダ(81)と、該シリンダ(81)内に装填されたピストン(82)と、該ピストン(82)のピストンロッド(83)に連結されたアーム(84)と、該アーム(84)とスライドバルブ(70)とを連結する連結ロッド(85)と、アーム(84)を図1の右方向に付勢するスプリング(86)とを備えている。このスライドバルブ駆動機構(80)は、スプリング(86)によってスライドバルブ(70)が図1の右方向へ付勢される一方、ピストン(82)の左右の端面に高低差圧を付けることで該ピストン(82)の動きを制御し、スライドバルブ(70)の位置を調整するように構成されている。つまり、シリンダ(81)内において、ピストン(82)の左側空間には低圧圧力が作用し、ピストン(82)の右側空間には高圧圧力が作用する。
図2に示すように、上記各ゲートロータ(50)は、円筒壁(30)に隣接してケーシング(10)内に区画形成されたゲートロータ室(90)に配置されている。ゲートロータ(50)には、その中心に回転軸である従動軸(94)が連結されている。この従動軸(94)は、ゲートロータ室(90)に設けられた軸受ハウジング(91)によって回転可能に支持されている。この軸受ハウジング(91)は、ボール軸受(92,93)を介して従動軸(94)を支持し、ゲートロータ(50)を片持ち支持している。なお、各ゲートロータ室(90)は、低圧空間(S1)に連通している。
上記圧縮機構(20)では、円筒壁(30)の内周面と、スクリューロータ(40)の歯溝(41)と、ゲートロータ(50)の平歯(51)とによって囲まれた空間が圧縮室(23)になる。図1や図3において、スクリューロータ(40)は、左側端部が吸入側端部であり、右側端部が吐出側端部である。そして、スクリューロータ(40)の吸入側端部の外周部分はテーパ状に形成されている。スクリューロータ(40)の歯溝(41)は、吸入側端部において低圧空間(S1)に開放しており、この開放部分が圧縮機構(20)の吸入口(24)になっている。
上記圧縮機構(20)は、スクリューロータ(40)の回転に伴って、ゲートロータ(50)の平歯(51)がスクリューロータ(40)の歯溝(41)を移動することにより、圧縮室(23)の拡大動作および縮小動作が繰り返される。これにより、冷媒の吸入行程、圧縮行程および吐出行程が順に行われる。
次に、本発明の特徴として、スクリューロータ(40)の歯溝(41)の構成およびゲートロータ(50)の平歯(51)との関係について説明する。
従来では、図4(a)に示すように、スクリューロータの歯溝の溝幅が、ゲートロータの平歯の歯幅に対応して、吸入側端部から吐出側端部に亘って一定寸法に形成されている。つまり、歯溝の溝幅は平歯の歯幅と略同一に形成されている。また、スクリューロータの歯溝の溝深さは、外周面に沿って変化している。具体的に、歯溝の深さは、ゲートロータの平歯の先端面が常に接するように、吸入側端部および吐出側端部で最も浅く、中央部に行くに従って深くなり中央部で最も深くなっている。そして、一般に、その中央部での溝深さはゲートロータの平歯の歯高さと略同一に形成されている。
ところが、運転初期時においては上記の状態でも問題はないが、上述したようにある程度運転時間が経過すると、スクリューロータ側とゲートロータ側との間に温度差が生じるため、熱膨張度の差からスクリューロータおよびゲートロータの軸心間距離(以下、単に軸心間距離という。)が短くなる。つまり、図4(b)に示すように、スクリューロータの歯溝とゲートロータの平歯とが接近して、平歯がスクリューロータに干渉する(ハッチング部分)。具体的に、スクリューロータの吸入側の歯溝では平歯の先端部および右側側部(吐出側の側部)が、中央部の歯溝では平歯の先端部が、吐出側の歯溝では平歯の先端部および左側側部(吸入側の側部)がそれぞれ干渉する。したがって、この干渉部分が摩耗することになる。そして、ゲートロータは、回転しながら、各平歯が歯溝を吸入側端部から吐出側端部へ移動するため、全ての平歯において先端部および両側部が摩耗することになる(図5参照)。なお、図4(b)は、熱膨張により、ゲートロータの軸心からスクリューロータの軸心に直交する方向にスクリューロータ側とゲートロータ側とが接近した場合を示す。
このように、従来では、ゲートロータの平歯の全周(先端部および両側部)が摩耗するため、歯溝の全長に亘ってその歯溝と平歯との間に隙間が生じてしまう。その結果、圧縮室の気密性が損なわれ、圧縮効率が著しく低下してしまう。
そこで、本実施形態では、熱膨張によって軸心間距離が短くなっても平歯(51)が歯溝(41)に干渉しないように、歯溝(41)を構成するようにした。
図6に示すように、スクリューロータ(40)の各歯溝(41)の吸入側端部から吐出側端部寄りの所定位置においては、溝幅が平歯(51)の歯幅よりも大きく且つ所定位置にいくに従って次第に小さくなるように形成されている。また、上記所定位置から吐出側端部までの歯溝(41)の溝幅は、一定であり、ゲートロータ(50)の平歯(51)の両側面が接する大きさ、即ち平歯(51)の歯幅と略同一に形成されている。ここで、吐出側端部寄りの所定位置は、圧縮行程から吐出行程に移行する直前(即ち、吐出行程の手前)に相当する位置に設定されている。一方、各歯溝(41)の溝深さは、全長に亘って従来よりも一様に深くなっている。
具体的に、スクリューロータ(40)の歯溝(41)は、軸心間距離が変化する前の第1状態(図7に二点鎖線で示す状態)および熱膨張によって軸心間距離が変化した後の第2状態(図7に実線で示す状態)のゲートロータ(50)の平歯(51)と干渉しないように構成されている。この第2状態のゲートロータ(50)は、図4(b)において、歯溝の所定位置から吐出側端部の間で平歯の側面が歯溝に干渉しないように、ゲートロータを周方向右側へ回転させた状態と同じである。
このように、ゲートロータ(50)の第1状態から第2状態への変化が許容されるように、スクリューロータ(40)の歯溝(41)が形成されている。つまり、スクリューロータ(40)の歯溝(41)は、吸入側端部から所定位置においてはゲートロータ(50)の径方向および周方向(即ち、平歯(51)の歯幅方向)の移動を許容するが、所定位置から吐出側端部においてはゲートロータ(50)の径方向の移動のみを許容する。
したがって、上記スクリューロータ(40)の歯溝(41)の歯幅は、吸入側端部から所定位置において、熱膨張により推定されるゲートロータ(50)の周方向の移動距離の分だけ従来より幅広に形成されている。そして、周方向の移動距離は吸入側端部にいくほど大きくなるため、溝幅は所定位置側ほど小さくなっている。また、所定位置から吐出側端部において、スクリューロータ(40)の歯溝(41)の溝幅は、従来と同様に、平歯(51)の歯幅と略同一に形成されている。
一方、上記スクリューロータ(40)の歯溝(41)の溝深さは、従来と同様に、吸入側端部および吐出側端部で最も浅く、中央部に行くに従って深くなっている。そして、歯溝(41)の溝深さは、吸入側端部から吐出側端部までの全長に亘って、熱膨張により推定されるゲートロータ(50)の径方向の移動距離の分だけ従来より深くなっている。つまり、歯溝(41)の深さ方向に平歯(51)が移動できるように、歯溝(41)の深さを従来よりも深くしている。また、歯溝(41)の中央部において、その溝深さは平歯(51)の歯高さよりも大きくなっている。
以上により、本実施形態では、熱膨張によって軸心間距離が短くなっても、平歯(51)の先端面および両側面が歯溝(41)と干渉することはない。さらに、歯溝(41)の所定位置から吐出側端部において、常に平歯(51)の両側面が接触する。これにより、常に、吐出行程の直前においては圧縮室(23)の気密性を従来より確保することができる。
このように、本実施形態の歯溝(41)は、溝幅について、単に図4(b)に示した従来の干渉分を全長に亘って満遍なく幅広にするものではなく、所定位置から吐出側端部における溝幅については平歯(51)の歯幅と略同一にしたものである。つまり、本発明の技術的思想は、歯溝(41)の所定位置から吐出側端部において平歯(51)が周方向に移動しないように、吸入側端部から所定位置までの歯溝(41)の溝幅を従来の干渉分より大きく形成するというものである。言い換えると、本発明は、歯溝(41)の所定位置から吐出側端部において平歯(51)の周方向移動を拘束するため、その拘束した移動距離も含めて吸入側端部から所定位置における歯溝(41)の溝幅を幅広にしたものである。
要するに、従来は、平歯の両側面が歯溝の全長に亘って接触して逃げ代(にげしろ)がないため、軸心間距離が短くなれば図4(b)に示すように歯溝の全長に亘って干渉することになっていた。これに対し、本発明は、吸入側端部から所定位置における歯溝(41)の溝幅を従来の干渉分よりも大きめに形成することで、所定位置から吐出側端部における平歯(51)の周方向の移動分を吸収するようにしたものである。
−運転動作−
次に、上記シングルスクリュー圧縮機(1)の運転動作について説明する。
このシングルスクリュー圧縮機(1)において電動機を起動すると、駆動軸(21)が回転するのに伴ってスクリューロータ(40)が回転する。このスクリューロータ(40)の回転に伴ってゲートロータ(50)も回転し、圧縮機構(20)が吸入行程、圧縮行程および吐出行程を繰り返す。
上記圧縮機構(20)では、図8に示すように、スクリューロータ(40)が回転することにより、圧縮室(23)の容積が歯溝(41)の移動(即ち、平歯(51)の移動)に伴って拡大した後に縮小する動作を行う。圧縮室(23)の容積が拡大する間は、低圧空間(S1)の低圧ガス冷媒が吸入口(24)を通じて圧縮室(23)に吸入される(吸入行程、図8(a)を参照)。スクリューロータ(40)の回転が進むと、ゲートロータ(50)の平歯(51)により圧縮室(23)が仕切られた状態となり、圧縮室(23)の容積の拡大動作が終了して縮小動作が開始される。この圧縮室(23)の容積が縮小する間は、吸入された冷媒が圧縮される(圧縮行程、図8(b)を参照)。圧縮室(23)は、スクリューロータ(40)がさらに回転することで図8の右側へ移動して行き、やがて吐出口(25)と連通する。このように、圧縮室(23)の吐出側端部が開口すると、圧縮室(23)から高圧空間(S2)へ高圧ガス冷媒が吐出される(吐出行程、図8(c)を参照)。なお、ここでいう「圧縮室(23)」は、図8にハッチングで示すものである。
次に、上述した運転時において、スクリューロータ(40)の歯溝(41)とゲートロータ(50)の平歯(51)との関係を説明する。
図9(a)に示すように、運転初期時(または運転前)では、ゲートロータ(50)が第1状態にある。この第1状態では、歯溝(41)の吸入側端部から所定位置の間において、平歯(51)が歯溝(41)の吸入側側面(図の左側側面)にのみ接している。一方、歯溝(41)の所定位置から吐出側端部の間において、平歯(51)が歯溝(41)の両側面にのみ接している。つまり、第1状態では、吸入側端部から所定位置までの歯溝(41)において底部および吐出側側部に隙間が生じ、所定位置から吐出側端部までの歯溝(41)において底部のみに隙間が生じている。
そして、図9(b)に示すように、ある程度の運転時間が経過すると、熱膨張により軸心間距離が短くなり、ゲートロータ(50)が第2状態に変化する。この第2状態では、歯溝(41)の吸入側端部から所定位置の間において、平歯(51)が歯溝(41)の吐出側側面(図の右側側面)および底面にのみ接している。一方、歯溝(41)の所定位置から吐出側端部の間において、平歯(51)が歯溝(41)の全周(両側面および底面)に接している。つまり、第2状態では、吸入側端部から所定位置までの歯溝(41)において吸入側側部に隙間が生じ、所定位置から吐出側端部までの歯溝(41)において隙間は生じない。
このように、熱膨張により軸心間距離が短くなっても、ゲートロータ(50)の平歯(51)は、歯溝(41)の全長に亘って干渉することなく歯溝(41)の少なくとも一部と常に接している。したがって、干渉による平歯(51)の摩耗を防止でき、従来に比べて圧縮室(23)の気密性を確保することができる。つまり、従来は、最終的に平歯が全周(先端面および両側面)に亘って摩耗し、歯溝の全周に隙間が生じてしまうが、それよりも本実施形態の隙間は減少するので、圧縮室(23)の気密性が向上する。
また、歯溝(41)の所定位置から吐出側端部において、少なくとも平歯(51)の両側面が常に歯溝(41)に接している。即ち、吐出行程の手前から吐出行程が終了するまでに亘って、常に歯溝(41)の両側部が密閉されている。したがって、圧縮室(23)内の圧力が最も高くなる当たり(吐出行程の手前)で圧縮室(23)の気密性を一層高めることができる。そのため、上述した効果と相まって、圧縮効率を一層向上させることができる。特に、軸心間距離が短くなった後(第2状態)では、圧縮室(23)は平歯(51)によって完全に密閉されるため、圧縮効率の飛躍的な向上を期待できる。
また、歯溝(41)の吸入側端部から所定位置の間において、圧縮室(23)に隙間が生じるが、その隙間は冷凍機油の油膜によって密閉(シール)される。即ち、歯溝(41)の吸入側端部から所定位置までの間は吸入行程や圧縮行程の初期段階が行われ、圧縮室(23)内の圧力がそれ程高くならないので、冷凍機油によって隙間が十分にシールされる。これにより、圧縮室(23)の気密性向上を一層望むことができる。
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、スクリューロータ(40)の歯溝(41)の溝幅を、吸入側端部から吐出側端部寄りの所定位置までは次第に小さくなるように形成し、該所定位置から吐出側端部までは平歯(51)の両側面が接する一様の大きさに形成するようにした。つまり、本実施形態では、歯溝(41)の所定位置から吐出側端部における平歯(51)の周方向の移動分を吸入側端部から所定位置までの歯溝(41)で吸収させるようにした。したがって、熱膨張によりスクリューロータ(40)とゲートロータ(50)の軸心間距離が短くなっても、歯溝(41)の全長に亘って少なくとも平歯(51)の両側面との干渉を回避することができる。これにより、平歯(51)の摩耗による圧縮室(23)の気密性低下を抑制することができる。その結果、圧縮効率を従来よりも向上させることができる。
特に、歯溝(41)の所定位置以降、即ち圧縮行程の途中以降において平歯(51)の両側面を常に歯溝(41)に接触させることができるので、圧縮室(23)の圧力がピークになる付近で圧縮室(23)の気密性を一段と高めることができる。したがって、圧縮効率を一層且つ効果的に向上させることができる。
さらに、本実施形態では、軸心間距離の短縮による平歯(51)の径方向(即ち、歯溝(41)の深さ方向)の移動を許容できるように、歯溝(41)の全長に亘って溝深さを従来よりも一様に深くするようにした。つまり、本実施形態では、歯溝(41)の軸心方向における中央部の溝深さを平歯(51)の歯高さよりも大きくするようにした。したがって、熱膨張により軸心間距離が短くなっても、歯溝(41)の全長に亘って平歯(51)の両側面および先端面との干渉を回避することができる。これにより、圧縮室(23)の気密性を一層高めることができる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
例えば、上記実施形態において、スクリューロータ(40)の歯溝(41)の溝深さを従来と同様の深さとしてもよい。つまり、本発明は、スクリューロータ(40)およびゲートロータ(50)の軸心間距離が変化する前(運転前または運転初期時)において、平歯(51)の先端面が歯溝(41)の全長に亘ってその底面に接触するように歯溝(41)の溝深さを形成するようにしてもよい。この場合、熱膨張により軸心間距離が短くなると、平歯(51)の先端面が歯溝(41)と干渉して摩耗する。しかしながら、その場合でも、少なくとも平歯(51)の両側面と歯溝(41)との干渉を防止することができるため、その分は従来よりも圧縮室(23)の気密性を高めることができる。
また、上記実施形態では、歯溝(41)の吐出側端部寄りの所定位置として、圧縮行程から吐出行程に移行する直前(即ち、吐出行程の手前)の相当位置に設定するようにした。しかし、本発明は、これに限らず、さらに吸入側端部へ寄った位置を所定位置としてもよく、吐出行程が開始される前であれば如何なる位置であってもよい。
また、上記実施形態では、スクリューロータ(40)に対して2つのゲートロータ(50)が対称に噛み合うスクリュー圧縮機(1)について説明したが、1つのゲートロータ(50)が噛み合うスクリュー圧縮機についても同様の作用効果が発揮される。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。