JP6455238B2 - 保磁力に優れたSmFeN磁石 - Google Patents

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本発明は、希土類磁石成形体である保磁力に優れたSmFeN磁石に関する。
現在、用いられている希土類磁石には、主に焼結磁石とボンド磁石の2種類がある。ボンド磁石は、室温で、優れた磁気特性を有する磁石原料粉末を樹脂で固化成形して用いられている。
ボンド磁石が焼結磁石と異なる点は、ボンド磁石の場合、磁石原料粉末が磁気特性を有するのに対し、焼結磁石の場合、磁石原料粉末には磁気特性が乏しく、液相が発生する程度の高温に加熱することで優れた磁気特性が発現する点に違いがある。そして、ボンド磁石用の原料粉末については、高温に加熱した場合、逆に磁気特性が劣化してしまう問題が生じる。
磁気特性が劣化する理由としては、以下のようなものが挙げられる。例えば、SmFeN磁石の様に、高温で磁石化合物が分解して特性を失うものや、NdFeB磁石の様に、結晶粒を微細化した組織により優れた磁気特性を有する磁粉が、加熱によって結晶粒が粗大化し、その優れた磁気特性が損なわれるといったものがある。
従って、通常の焼結磁石のように、1000℃近辺に加熱して粒界改質や組織変化を伴いながら固化成形を実施する類のプロセスでは、SmFeN磁石ではバルク成形体を得られない問題がある。
そこで、これらの磁石原料粉末は、常温あるいは比較的低温での固化成形技術として、樹脂と混錬したスラリーを射出成形や型成形でバルク化する手法が用いられているのである。しかし、これらの手法では、樹脂が不可避で存在し、磁石の正味成分を減少させる問題があった。
これに対して、高密度なバルク成形体を得る手法として、基板に磁石原料粉末を堆積させて固化成形する手法がある。例えば、非特許文献1には、真空中でエアロゾル化した磁石原料粉末を基板に吹き付ける手法(エアロゾルデポジッション法;AD法)が試されている。
しかしながら、非特許文献1に記載の方法でもボンド磁石と比較すれば高密度になるものの、ガスの流速がコールドスプレイより原理的に遅いため、粒子間の密着性が劣り、必ずしも十分な高密度なバルク体が得られない問題がある。また、ガス流速が遅いため、用いることのできる原料粉末として大きい粒子や重い粒子が加速できないうえ、成膜速度が遅く、成膜可能と推定される500μm(実測値は175μm)よりも厚膜を得ることができていない問題がある。また、真空プロセスの一種であるため、大気圧下でのプロセスと比較して、真空チャンバ内で作製する必要がある。そのため、装置が高額なことと生産性が悪くなる問題もある。
そこで、厚膜化と高密度化と磁気特性(特に保磁力と残留磁束密度と密着性)の向上を同時に満足する磁石成形体、および該磁石成形体を効率よく形成する方法を提供することを目的とし、特許文献1に記載の手法が提案されている。
すなわち、希土類磁石相がSmとFeを含有する窒素化合物を主成分とし、希土類磁石相で構成された場合の磁石成形体の理論密度の80%以上を有した磁石において、Znの粒子を磁石成形体内に分散した構造を有するものである。
特開2013−135071号公報
電気学会論文誌A Vol.124(2004),No.10 pp.887−891
本発明者らは、上記特許文献1に記載の手法による磁石成形体の磁気特性(特に保磁力等)に満足することなく、更なる検討を重ねた結果、以下のことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
即ち、特許文献1に記載の手法により、Zn粒子を混合したSmFeN磁石粒子をコールドスプレイにて成膜する場合、特に、成膜後に熱処理を実施することで、著しく保磁力を向上することができることを見出したものである。しかしながら、Znを同じ程度含有する磁石成形体を同一条件にて熱処理を実施した場合においても、保磁力の向上効果が大きくばらつく問題が発生した。
詳しくは、特許文献1に記載の手法により、ZnをSmFeN磁石粒子と混合して、ガス温度が400℃以下のコールドスプレイで混合成形体を作製したところ、以下のことを見出したものである。当該知見によれば、Znが溶融することがない温度領域で、保磁力が劣化しないだけではなく、むしろ用いた原料状態よりも保磁力が向上することを見出した。さらに、本発明者らは、得られた成形体に熱処理を施すことで、著しく保磁力が向上する効果を得ることができることを見出したものである。しかしながら、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理しても、必ずしも一定の保磁力向上効果が得られない問題が発生した。
そこで、本発明の目的は、Zn粒子とSmFeN磁石粒子を混合して成形した磁石成形体の熱処理による保磁力向上について、安定して顕著な保磁力向上効果を発現させることで、優れた磁石成形体を効率よく提供(生産)することにある。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討した結果、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理しても、必ずしも一定の保磁力向上効果が得られない違いが、成形体中の酸素濃度により大きく異なることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
即ち、本発明は、SmとFeを含有する窒素化合物を主成分とする希土類磁石相で構成された磁石成形体が、熱処理されたものであり、Zn粒子が磁石成形体内に分散した構造を有し、酸素濃度が1.5質量%以下である希土類磁石成形体により達成される。
本発明によれば、SmとFeを含有する窒素化合物を主成分とする希土類磁石相で構成された磁石成形体が、Zn粒子が磁石成形体内に分散した構造を有する。そのため、磁石成形体内部に混合されたZnの微細粒子によって、磁石成形体内部の磁石粒子の表面の保磁力が改善されるため、磁気特性に優れた磁石成形体を得ることができる。更に本発明によれば、磁石成形体がSmとFeを含有する窒素化合物を主成分とする希土類磁石粉末を成形した成形体に熱処理を行って作製されたものであり、Zn粒子が磁石成形体内に分散した構造を有し、かつ酸素濃度が1.5質量%以下である。そのため、成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができる。即ち、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理した場合に、大きくばらつくことなく安定して、一定の保磁力向上効果を発現することができる。また磁石の正味含有量が多くなり、小型強力磁石が得られる。その結果、従来、樹脂で固化成形して使用されていたボンド磁石用の磁石粉末を高密度で固化成形でき、かつ、磁気特性を向上させつつ大幅に膜厚を向上できるため、モータの小型高性能化に寄与することができる。
図1は、磁石成形体内に分散したZn粒子が、帯状の偏析構造を有する様子を観察すべく、EPMAを用いて磁石成形体断面のZnの分布状態についてマッピング解析を実施した様子を表す磁石成形体の断面組織を観察した図面である。図1の3図面とも同一試料の同一視野を観察しており、得られた磁石厚膜である希土類磁石成形体の断面組織である。図1(a)は、SEM観察像を示し、図1(b)は、EPMAによるZnのKα線マッピング像を示し、図1(c)は、ZnのKα線のマッピング像にZnの帯状の偏析部を破線で書き込みした図である。 図2(a)は、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比を求めるノインデンテーション法に使う実験装置を模式的に表した概略図である。図2(b)は、図2(a)の実験装置を使って得られた圧入深さhと荷重Pの関係から弾塑性比の算出するためのグラフである。図中の負荷曲線と除荷曲線とで囲まれた面積(実線のハッチ部分)が、塑性変形に消費したエネルギーEpである。負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線と除荷曲線と横軸で囲まれた面積(破線のハッチ部分)が、弾性変形で吸収されたエネルギーEeである。以上から粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比=Ee/Ep×100(%)として求められる値である。 粉体成膜段階(固化成形段階)で得られる粉体成膜(固化成形体)の形成に用いられてなる、粒子を堆積させて成膜する粉体成膜の工法として代表的なコールドスプレイ法に用いられるコールドスプレイ装置構成を模式的に表す概略図である。 磁石粉末の大きさ(平均粒子径)と酸素濃度の関係を表すグラフである。 SmFeN磁石成形体の製造工程を示す工程図である。 図6(a)は、表面磁石型同期モータ(SMPまたはSPMSM))のロータ構造を模式的に表す断面概略面である。図6(b)は、埋込磁石型同期モータ(IMPまたはIPMSM))のロータ構造を模式的に表す断面概略面である。 Zn添加材の熱処理後の保磁力と磁石成形体の酸素濃度の相関(表1の結果)を表したグラフである。
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
(A)磁石成形体(第1の実施形態)
本実施形態は、SmとFeを含有する窒素化合物を主成分とする希土類磁石相で構成された磁石成形体において、前記磁石成形体が、前記窒素化合物を主成分とする希土類磁石粉末を成形した成形体に熱処理を行って作製されたものである。更に本実施形態では、Zn粒子が前記磁石成形体内に分散した構造を有し、かつ酸素濃度が1.5質量%以下であることを特徴とする希土類磁石成形体である。ここで、窒素化合物を単に窒化物とも称する。かかる第1の実施形態の磁石成形体の構成を有することにより、磁石成形体内部に混合されたZnの微細粒子によって、磁石成形体内部の磁石粒子の表面の保磁力が改善されるため、磁気特性に優れた磁石成形体を得ることができる。これは、そもそも、希土類磁石相(磁石粒子)の構成元素としてZnを含有していなくても、皮膜形成時に混合するだけで、磁石成形体内部にZn粒子が均一微細に分散され、かつ磁石の保磁力を効果的に向上できるためである。そのため、磁気特性(保磁力、残留磁石密度、密着性=剥離強度)に優れた磁石成形体とすることができる点で優れている。更に磁石成形体がSmとFeを含有する窒素化合物を主成分とする希土類磁石粉末とZn粒子を混合し成形した成形体に熱処理が施されたものであり、酸素濃度が1.5質量%以下であるため、成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果が安定して得られる。すなわち、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理した場合に、大きくばらつくことなく安定して、一定の保磁力向上効果を発現することができる。さらに磁石の正味含有量が多くなり、小型強力磁石が得られる。その結果、従来、樹脂で固化成形して使用されていたボンド磁石用の磁石粉末を高密度で固化成形でき、かつ、磁気特性を向上させつつ大幅に膜厚を向上できるため、モータの小型高性能化に寄与することができる。以下、磁石成形体の構成及び製造方法(第2の実施形態)について、順次説明する。
(1)磁石成形体の構成
本実施形態の磁石成形体は、(1)SmとFeを含有する窒素化合物(単にSm−Fe−Nとも称する)を主成分とする希土類磁石相で構成され、(2)前記窒素化合物を主成分とする希土類磁石粉末を成形した成形体に熱処理を行って作製されたものである。更に(3)Zn粒子が、前記磁石成形体内に分散した構造を有し、(4)前記磁石成形体内の酸素濃度が1.5質量%以下である。また(5)前記磁石成形体は、更に任意成分として特定の非磁性金属粒子を含有する構成であってもよい。また本実施形態の磁石成形体では、該磁石成形体を構成する粒子同士の間に空隙部を有する構造となっている。ここで、特定の非磁性金属粒子とは、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子をいう。以下、上記(1)〜(5)の磁石成形体の構成要件につき、説明する。
(1a)Sm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相
本実施形態の磁石成形体は、Sm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相を含有するものである(前記希土類磁石相で構成されている)。これにより、従来のプロセスでは得られなかった高密度な窒化物の磁石成形体(好ましくは理論密度の80%以上を有する)を得ることができ、モータ等のシステムの小型化ができる点で優れている。
Sm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相としては、例えば、SmFe17(ここで、xは、好ましくは1.5〜4.0、より好ましくは2.0〜3.5、更に好ましくは2.5〜3.3、より好ましくは2.8〜3.2である)、SmFe17、(Sm0.75Zr0.25)(Fe0.7Co0.3)N(ここで、xは、好ましくは2.5〜3.5である)、SmFe11TiN(ここで、xは好ましくは2.5〜3.5である)、(SmZrFe848515、SmFe93(ここで、xは、好ましくは1〜20である)などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。これらSm−Fe−Nは1種単独でもよいし、2種以上を有する磁石成形体でもよい。更に、異なる種類のSm−Fe−Nの希土類磁石相が積層されてなる多層構造の磁石成形体であってもよい。この場合、多層構造の各層のSm−Fe−Nに関しても1種単独でもよいし、2種以上を有する磁石成形体でもよい。
(1b)主成分(Sm−Fe−N)の含有量
本実施形態の希土類磁石相としては、Sm−Fe−Nを主成分とするものであればよく、Sm−Fe−Nを希土類磁石相全体に対して50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは90〜99質量%である。なお、さらに好ましい範囲の上限値を99質量%とし、100質量%としていないのは、表面の酸化物や不可避的不純物が含まれている為である。すなわち、本実施形態では50質量%以上であればよく、100質量%のものを使用することも可能であるが、実際上、表面の酸化物や不可避的不純物を取り除くことは困難かつ複雑ないし高度な精製(精錬)技術を用いる必要があり、高価である。そのため、さらに好ましい範囲には含めていないものである。
(1c)Sm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相に含まれる他の成分等
Sm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相には、他の元素を含有したものも本実施形態の技術範囲に含まれるものである。含有してよい他の元素としては、例えば、Ga、Nd、Zr、Ti、Cr、Co、Zn、Mn、V、Mo、W、Si、Re、Cu、Al、Ca、B、Ni、C、La、Ce、Pr、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Th、MMなどが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独又は2種以上を含有してもよい。これらの元素は主にSm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相の相構造の一部と置換されるか、挿入されるなどして導入されるものである。
同様に、Sm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相には、Sm−Fe−N以外の他の希土類磁石相を含んでいてもよい。こうした他の希土類磁石相としては、Sm−Fe−N以外の他の既存の希土類磁石相が挙げられる。かかる他の既存の希土類磁石相としては、例えば、SmFe14B、SmCo14B、Sm(Fe1−xCo14B(ここで、xは好ましくは0≦x≦0.5である)、Sm15Fe77、Sm15Co77、Sm11.77Fe82.355.88、Sm11.77Co82.355.88、Sm1.1Fe、Sm1.1Co、SmFe10、SmCo10、(Sm1−xDy15Fe77(ここで、xは、好ましくは0≦y≦0.4である)、(Sm1−xDy15Co77(ここで、xは、好ましくは0≦y≦0.4である)、SmCo17(ここで、xは好ましくは1〜6である)、Sm15(Fe1−xCo77Al、Sm15(Fe0.80Co0.2077−yAl(ここで、yは、好ましくは0≦y≦5である)、(Sm0.95Dy0.0515Fe77.5Al0.5、(Sm0.95Dy0.0515(Fe0.95Co0.0577.56.5Al0.5Cu0.2、SmFe8020、Sm4.5Fe73CoGaB18.5、Sm5.5Fe66CrCo18.5、Sm10Fe74Co10SiB、Sm3.5Fe7818.5、SmFe76.518.5、SmFe77.518.5、Sm4.5Fe7718.5、Sm3.5DyFe73CoGaB18.5、Sm4.5Fe72CrCo18.5、Sm4.5Fe73SiB18.5、Sm4.5Fe71CrCo18.5、Sm5.5Fe66CrCo18.5、SmCo、SmCo17、SmCo、SmCo、SmCo、SmCo、SmCo等のSm−Co合金系、SmFe17、SmFe、SmFe等のSm−Fe合金系、CeCo、CeCo17、Ce24Co11、CeCo、CeCo、CeCo、CeCo19等のCe−Co合金系、NdFe17等のNd−Fe合金系、CaCu等のCa−Cu合金系、TbCu等のTb−Cu合金系、SmFe11Ti等のSm−Fe−Ti合金系、ThMn12等のTh−Mn合金系、ThZn17等のTh−Zn合金系、ThNi17等のTh−Ni合金系、LaFe14B、CeFe14B、PrFe14B、GdFe14B、TbFe14B、DyFe14B、HoFe14B、ErFe14B、TmFe14B、YbFe14B、YFe14B、ThFe14B、LaCo14B、CeCo14B、PrCo14B、GdCo14B、TbCo14B、DyCo14B、HoCo14B、ErCo14B、TmCo14B、YbCo14B、YCo14B、ThCo14B、YCo、LaCo、PrCo、NdCo、GdCo、TbCo、DyCo、HoCo、ErCo、TmCo、MMCo、MM0.8Sm0.2Co、Sm0.6Gd0.4Co、YFe11Ti、NdFe11Ti、GdFe11Ti、TbFe11Ti、DyFe11Ti、HoFe11Ti、ErFe11Ti、TmFe11Ti、LuFe11Ti、Pr0.6Sm0.4Co、Sm0.6Gd0.4Co、Ce(Co0.72Fe0.14Cu0.145.2、Ce(Co0.73Fe0.12Cu0.14Ti0.016.5、(Sm0.7Ce0.3)(Co0.72Fe0.16Cu0.12、Sm(Co0.69Fe0.20Cu0.10Zr0.017.4、Sm(Co0.65Fe0.21Cu0.05Zr0.027.67などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独ででもよいし、2種以上を有していてもよい。
(1d)希土類磁石相(ないし希土類磁石粉末)の形状
本実施形態のSm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相(主相・結晶相)(ないし希土類磁石粉末)の形状としては、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば如何なる形状であってもよい。例えば、球形状、楕円形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい)、円柱形状、多角柱(例えば、三角柱、四角柱、五角柱、六角柱、・・n角柱(ここで、nは7以上の整数である))形状、針状ないし棒状形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい。)、板状形状、円板(円盤)形状、薄片形状、鱗片形状、不定形状などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。磁石相(ないし磁石粉末)の形状として好ましくは、付着性が極端に悪いような粒子速度や弾性挙動を示さなければ、特に規定しないが、あまり扁平した形状は加速が困難になるため、できるだけ球状粒子に近い形状が好ましい。なお、Sm−Fe−Nの希土類磁石相(主相・結晶相)は結晶構造を有しており、結晶成長により所定の結晶形状とすることもできる。
(1e)希土類磁石相(ないし希土類磁石粉末)の大きさ(平均粒子径)
本実施形態のSm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相(ないし希土類磁石粉末)の大きさ(平均粒子径)としては、本発明の作用効果を有効に発現し得る範囲内であればよく、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは1〜5μmの範囲である。希土類磁石相ないし磁石粉末の平均粒子径が上記範囲内であれば、磁石特性(保磁力、残留磁束密度、密着性)に優れた所望の磁石成形体とすることができる。なお、Sm−Fe−Nの希土類磁石相(主相・結晶相)は結晶構造を有しており、結晶成長により所定のサイズの結晶粒とすることもできる。ここで、上記希土類磁石相(ないし磁石粉末)の平均粒子径は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)観察、TEM(透過型電子顕微鏡)観察などにより粒度分析(測定)することができる(実施例参照)。なお、希土類磁石相(磁石粉末)ないしその断面の中には、球状ないし円形状(断面形状)ではなく、縦横比(アスペクト比)が違う不定形状の希土類磁石相が含まれている場合もある。したがって、上記でいう希土類磁石相ないし磁石粉末の平均粒子径は、希土類磁石相(ないし磁石粉末)の形状ないしその断面形状が一様でないことから、観察画像内の各希土類磁石相(ないし磁石粉末)の切断面形状の絶対最大長の平均値で表すものとする。ここで、絶対最大長とは、希土類磁石相(ないし磁石粉末)の断面形状の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の長さをとるものとする。但し、この他にも、例えば、X線回折における希土類磁石相ないし磁石粉末の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径、または透過型電子顕微鏡像より得られる希土類磁石相ないし磁石粉末の粒子径の平均値を求めることにより得ることもできる。なお、他の平均粒子径の測定方法についても、同様にして求めることができる。
(1f)希土類磁石相(主相・結晶相)以外の磁石成形体の構成について
本実施形態の磁石成形体において、上記希土類磁石相(主相・結晶相)以外の構成としては、磁石としては機能しない成分として、Znの粒子、更に任意成分として特定の非磁性金属粒子が、体積率で全体の15%程度あり、残りは隣接する希土類磁石相同士の間の空隙部からなる。かかる構成を取り得ることで、従来、バインダーとして樹脂が充填されて固化成形されていたボンド磁石に対して、こうした樹脂が不要となり軽量化できる。尚且つ使用されていた樹脂量(バインダー容積)よりも空隙部の体積の方が遙に小さくでき、小型で高密度化できる。その結果、高密度で固化成形でき、モータ等のシステムの小型高性能化に寄与することができる。
ここで、希土類磁石として機能しない成分(相)のうち、本実施形態においてその効果が確認されているものとしては、磁石成形体に分散されてなるZn粒子、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子がある。一方、磁石として機能しない成分(相)のうち、本実施形態においてその効果が未確認なものとして、Zn粒子や非磁性金属粒子(Cu粒子、Al粒子)以外に不可避的な成分がある。主相の境界部などに存在するものであり、希土類磁石相(主相・結晶相)同士の境界部などに存在するものである希土類酸化物相(SmO相)、Fe・希土類のコンタミ、Feリッチ相、Feプアー相や他の不可避的不純物等である。
以下、上記Zn粒子および非磁性金属粒子につき説明する。
(2a)磁石成形体内に分散されてなるZn粒子
本実施形態では、磁石成形体内に分散されてなるZn粒子を有する。これは、Sm−Fe−Nの磁気特性改善の元素としては、Znが知られている。Znは、低融点のメタルバインダとして用いられており、バルク化時に、Sm−Fe−Nが熱分解で発生するFeと反応して非磁性のFe−Zn化合物を形成することで、保磁力の低下を抑制している。
本実施形態では、ZnをSm−Fe−Nの希土類磁石相(主相・結晶相)と混合してなる混合成形体とすることで、Znが溶融することがない温度領域で保磁力が劣化しないだけではなく、むしろ用いた原料状態よりも保磁力が向上することを見出したものである。
本実施形態では、磁石成形体内にZn粒子を分散させることで磁性特性に寄与する(十分な効果が得られる)ことができ、所望の作用効果を奏することができる点で優れている。本実施形態では、Zn粒子に加えて、特定の非磁性金属粒子として好適な1種であるCu粒子等と併用するのが好適な態様の1つと言える。
(2b)Zn粒子の形状
本実施形態のZn粒子の形状としては、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば如何なる形状であってもよい。例えば、球形状、楕円形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい)、円柱形状、多角柱(例えば、三角柱、四角柱、五角柱、六角柱、・・N角柱(ここで、Nは7以上の整数である。))形状、針状ないし棒状形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい。)、板状形状、円板(円盤)形状、薄片形状、鱗片形状、不定形状などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。粒子形状として好ましくは、付着性が極端に悪いような粒子速度や弾性挙動を示さなければ、特に規定しないが、あまり扁平した形状は加速が困難になるため、できるだけ球状粒子に近い形状が好ましい。
(2c)Zn粒子の大きさ(平均粒子径)
本実施形態のZn粒子の大きさ(平均粒子径)としては、本発明の作用効果を有効に発現し得る範囲内であればよく、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは1〜5μmの範囲である。Zn粒子の平均粒子径が上記範囲内であれば、磁石特性(保磁力、残留磁束密度、密着性)に優れた所望の磁石成形体とすることができる。ここで、上記Zn粒子の平均粒子径は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)観察、TEM(透過型電子顕微鏡)観察などにより粒度分析(測定)することができる。なお、Zn粒子ないしその断面の中には、球状ないし円形状(断面形状)ではなく、縦横比(アスペクト比)が違う不定形状のZn粒子が含まれている場合もある。したがって、上記でいうZn粒子の平均粒子径は、Zn粒子の形状(ないしその断面形状)が一様でないことから、観察画像内の各Zn粒子の切断面形状の絶対最大長の平均値で表すものとする。ここで、絶対最大長とは、Zn粒子(ないしその断面形状)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の長さをとるものとする。但し、この他にも、例えば、X線回折におけるZn粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径、または透過型電子顕微鏡像より得られるZn粒子の粒子径の平均値を求めることにより得ることもできる。なお、他の平均粒子径の測定方法についても、同様にして求めることができる。
(2d)Zn粒子が磁石成形体内に分散した構造
本実施形態では、Zn粒子は、少なくともその一部が磁石成形体内に分散した構造を有するものである。詳しくは、上記したように、Zn粒子は、Sm−Fe−Nの希土類磁石相(主相・結晶相)と混合してなる混合成形体として、希土類磁石相(主相・結晶相)内部ではなく、希土類磁石相同士の境界線上に適当に分散した構造を有するものである。即ち、Zn粒子は、磁石成形体内で、Sm(Fe,Zn)NなどとしてZnが置換元素として、希土類磁石相(主相・結晶相)内部に存在していない状態で存在するものがある。即ち、SmFeNの希土類磁石相(主相・結晶相)とZn粒子の混合した状態(混合成形体)のままで、磁石成形体として存在しているものである。ここで、Zn粒子は、磁石成形体内に分散した構造は、磁石形成体を切断して断面の組織観察を行い、SEMで回折してマッピング(元素をX線回折)することで確認することができる。
本実施形態では、前記磁石成形体内に分散したZn粒子が、できるだけ微細な帯状の偏析構造を有することが好ましい。磁石成形体内に分散したZn粒子が、帯状の偏析構造を有することの確認(分析)は、EPMA(電子(線)プローブマイクロアナライザ;Electron Probe MicroAnalyser)やEDX(エネルギー分散型X線分析;Energy Dispersive X−ray spectrometry)等を用いて、希土類磁石成形体断面のZnの分布状態についてマッピング解析を実施することにより行うことができる。本実施形態では、EPMAまたはEDX等を用いて、希土類磁石成形体断面のZnの分布状態についてのマッピング解析を、200倍以下(100倍)の視野で数か所以上観察し、Znが平均以上に濃化した領域が層状に複数発生しているものを『帯状の偏析構造を有する』とする(図1参照)。図1は、前記磁石成形体内に分散したZn粒子が、帯状の偏析構造を有する様子を観察すべく、EPMAを用いて希土類磁石成形体断面のZnの分布状態についてマッピング解析を実施した様子を表す断面組織の観察図面である。図1の3図面とも同一試料の同一視野を観察しており、得られた磁石厚膜である希土類磁石成形体の断面組織である。ここで、図1(a)は、SEM観察像を示し、図1(b)は、EPMAによるZnのKα線マッピング像を示し、図1(c)は、ZnのKα線のマッピング像にZnの帯状の偏析部を破線で書き込みした図である。図中の破線は、偏析構造を示すため、目視で書き込んだものである。図1では、磁石成形体内に分散したZn粒子が、ミクロな帯状の偏析構造を有する様子が確認できる。このように磁石成形体内に分散したZn粒子が、帯状の偏析構造を有することにより、通常の撹拌プロセスを用いた粒子の混合粉末を成形型に流し込んだ場合のZn粒子の特定部位へのマクロな偏りを抑制することができる。すなわち、偏析は不可避で生じるが、磁石成形体全体からみた場合には、小さい偏析箇所が成形体全体に均一に分布することで、たとえば、磁石成形体上部、あるいは、下部といった特定領域へのZn粒子の偏りを抑制することができる。
(2e)磁石成形体に占めるZn粒子の割合
本実施形態では、Zn粒子の含有量として、体積率を用いて規定することができる。この際のZn粒子の含有量は、体積率で3%以上30%以下が好ましい。より好ましくは3%以上20%以下である。Zn粒子の含有量を上記範囲内とすることで、Znの含有量が多すぎることで磁石体積を減少させ、磁束密度が低い磁石になることもなく、またZnの含有量が少なすぎることで保磁力向上の効果が低減することなく高い保磁力を維持することができる点で優れている。即ち、Znによる保磁力向上効果を有しつつ、希土類磁石相の正味の含有量が不足することによる残留磁束密度の低下が少ない磁石成形体を得ることができる。そもそも、磁石粒子からなる希土類磁石相の構成元素としてZnを含有していなくても、皮膜形成時に上記体積率で3%以上30%以下が好ましく、好ましくはより好ましくは3%以上20%以下の範囲で混合するだけで、磁石成形体内にZn粒子が微細に分散され(図1参照)、磁石の保磁力を効果的に向上できる。そのため、磁気特性(保磁力、残留磁石密度、密着性=剥離強度)に優れた磁石成形体とすることができる。即ち、Zn粒子の含有量が体積率で3%以上であれば、十分な磁石特性(保磁力、残留磁束密度)を発現することができる。一方、Zn粒子の含有量の上限は特に制限がないが、体積率で30%以下であれば、従来のボンド磁石と異なり、磁気特性(特に残留磁束密度)の向上効果が得られる。なお、Zn粒子の体積率は、SEM(走査型電子顕微鏡)による断面組織観察を行い、AES(オージュ電子分光分析法)、EPMA(電子(線)プローブマイクロアナライザ)等の手法で元素マッピングを行い面積率を求めた。任意の10視野について面積率を計測し、平均値を体積率とみなした。
また、本実施形態では、Zn粒子の含有量として、磁石成形体全体に占める質量割合(質量%)を用いて規定することもできる。この際のZn粒子の含有量は、3質量%以上30質量%以下が好ましい。より好ましくは3質量%以上20質量%以下である。Zn粒子の含有量を上記範囲内とすることで、Znの含有量が多すぎることで磁石体積を減少させ、磁束密度が低い磁石になることもなく、またZnの含有量が少なすぎることで保磁力向上の効果が低減することなく高い保磁力を維持することができる点で優れている。即ち、Znによる保磁力向上効果を有しつつ、希土類磁石相の正味の含有量が不足することによる残留磁束密度の低下が少ない磁石成形体を得ることができる。そもそも、磁石粒子からなる希土類磁石相の構成元素としてZnを含有していなくても、皮膜形成時に3質量%以上30質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以上20質量%以下の範囲で混合するだけで、磁石成形体内にZn粒子が微細に分散され(図1参照)、磁石の保磁力を効果的に向上できる。そのため、磁気特性(保磁力、残留磁石密度、密着性=剥離強度)に優れた磁石成形体とすることができる。即ち、Zn粒子の含有量が体積率で3質量%以上であれば、十分な磁石特性(保磁力、残留磁束密度)を発現することができる。一方、Zn粒子の含有量の上限は特に制限がないが、30質量%以下であれば、従来のボンド磁石と異なり、磁気特性(特に残留磁束密度)の向上効果が得られる。なお、Zn粒子の含有量は、希土類磁石相及び磁石成形体の組成解析として、誘導結合プラズマ発光分光分析法(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPS−3520UV型)を用いて定量解析することで、算出することができる。
(3)磁石成形体内の酸素濃度
本実施形態では、磁石成形体内の酸素濃度が1.5質量%以下であることを特徴とする。これにより、成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができる。磁石成形体内の酸素濃度は、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下で、磁気特性的には、低いほど好ましい。一方、低酸素化すると、大気中で急激に酸化して燃焼するなど取り扱いが難しく、また、粒子同士が凝集して配向制御が難しくなるため、製造性の観点では0.1質量%以上に留めることが望ましい。磁石成形体内の酸素濃度分析は、希土類磁石成形体から切り出した小片を、堀場製作所製の酸素窒素分析装置EMGA−920型を用いて、赤外線吸収法により実施し、求めることができる(実施例では当該装置及び分析法により実施した)。但し、本実施形態では、他の分析装置(分析法)を用いて磁石成形体内の酸素濃度を測定(分析)してもよいことは言うまでもない。
(4a)塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子
本実施形態では、磁石成形体内に、塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子(以下、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子とも略記する)を更に含有しているのが望ましい。弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子を有することで、この弾塑性比が50%以下の変形しやすい粒子が、皮膜の厚膜化に伴う応力を緩和するため、厚膜化しても剥離しにくい、保磁力の高い磁石成形体を得ることができる。
また、原料粉末(Sm−Fe−Nの希土類磁石相)に、Zn粒子と同時に、弾塑性比が50%以下の変形しやすい非磁性金属粒子を混合することで、剥離が少なく厚膜化が可能で、保磁力に優れた磁石成形体を得ることができる。
上記弾塑性比が50%以下の変形しやすい非磁性金属粒子としては、Ni、Co、Fe以外の金属元素は、非磁性金属元素であり、粉末として得られるものであれば非磁性金属粒子とすることができる。ただし、上記したZn粒子は、弾塑性比が50%以下の変形しやすい非磁性金属粒子と区別する必要上、当該非磁性金属粒子には含めないものとする。具体体的には、CuやAlといった軟質の合金などが好適に用いられる。ただし、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではない。
(4b)弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の形状
本実施形態の上記弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の形状としては、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば如何なる形状であってもよい。例えば、球形状、楕円形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい)、円柱形状、多角柱(例えば、三角柱、四角柱、五角柱、六角柱、・・N角柱(ここで、Nは7以上の整数である。))形状、針状ないし棒状形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい。)、板状形状、円板(円盤)形状、薄片形状、鱗片形状、不定形状などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の粒子形状として好ましくは、付着性が極端に悪いような粒子速度や弾性挙動を示さなければ、特に規定しないが、あまり扁平した形状は加速が困難になるため、できるだけ球状粒子に近い形状が好ましい。
(4c)弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の大きさ(平均粒子径)
本実施形態の弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の平均粒子径としては、本実施形態の作用効果を有効に発現し得る範囲内であればよく、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは1〜5μmの範囲である。弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の平均粒子径が上記範囲内であれば、磁石特性(保磁力、残留磁束密度、密着性)に優れた所望の磁石成形体とすることができる。ここで、上記弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の平均粒子径は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)観察、TEM(透過型電子顕微鏡)観察などにより粒度分析(測定)することができる。なお、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子ないしその断面の中には、球状ないし円形状(断面形状)ではなく、縦横比(アスペクト比)が違う不定形状の弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子が含まれている場合もある。したがって、上記でいう弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の平均粒子径は、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の形状(ないしその断面形状)が一様でないことから、観察画像内の各弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の切断面形状の絶対最大長の平均値で表すものとする。ここで、絶対最大長とは、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子(ないしその断面形状)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の長さをとるものとする。但し、この他にも、例えば、X線回折における弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径、または透過型電子顕微鏡像より得られる弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の粒子径の平均値を求めることにより得ることもできる。なお、他の平均粒子径の測定方法についても、同様にして求めることができる。
(4d)弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子が磁石成形体内に分散した構造
本実施形態では、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子は、磁石成形体内に分散した構造を有するものである。詳しくは、上記したように、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子は、Zn粒子と同様に、Sm−Fe−Nの希土類磁石相(主相・結晶相)と混合してなる混合成形体として、希土類磁石相(主相・結晶相)内部ではなく、希土類磁石相同士の境界線上に適当に分散した構造を有するものである。即ち、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子(例えば、Cu、Al)の一部が、磁石成形体内で、Sm(Fe,Cu)NやSmFeNAlなどとしてCuやAlが置換元素として、希土類磁石相(主相・結晶相)内部に存在していない状態である。即ち、SmFeNの希土類磁石相(主相・結晶相)と弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の混合した状態(混合成形体)のままで、磁石成形体として存在しているものである。ここで、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子は、磁石成形体内に分散した構造は、磁石形成体を切断して断面の組織観察を行い、SEMで回折してマッピング(元素をX線回折)することで確認することができる。
(4e)磁石成形体に占める弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の割合
本実施形態では、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量(合計量)として、体積率を用いて規定することができる。この際の弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量(合計量)は、体積率で0%を超えて20%未満、好ましくは1%以上20%未満の範囲であるのが望ましい。これは磁気特性(保磁力、残留磁石密度、密着性=剥離強度)を損ねないためには、体積率としては小さいほど良いが、ゼロになると成膜性が損なわれる(特にZn粒子を含有しない場合には、顕著となる)。そのため、1%以上20%未満含有することで効率的に成膜が可能になる点で望ましいといえる。即ち、Zn粒子の含有量が0%で尚且つ非磁性金属粒子の含有量も0%の場合には十分な磁石特性(保磁力、残留磁束密度)が得られない問題がある。弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量が20%未満であれば、従来のボンド磁石と異なり、磁気特性(特に残留磁束密度)の向上効果が得られる。なお、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の体積率は、SEM(走査型電子顕微鏡)による断面組織観察を行い、AES(オージュ電子分光分析法)、EPMA(電子プローブマイクロアナリシス)等の手法で元素マッピングを行い面積率を求めた。任意の10視野について面積率を計測し、平均値を体積率とみなした。
なお、本実施形態では、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量(合計量)として、磁石成形体全体に占める質量割合(質量%)を用いて規定することもできる。この際のZn粒子の含有量(合計量)は、0質量%を超えて20質量%未満、好ましくは1質量%以上20質量%未満の範囲であるのが望ましい。これは磁気特性(保磁力、残留磁石密度、密着性=剥離強度)を損ねないためには、含有量としては小さいほど良いが、ゼロになると成膜性が損なわれる(特にZn粒子を含有しない場合には、顕著となる)。そのため、1質量%以上20質量%未満含有することで効率的に成膜が可能になる点で望ましいといえる。即ち、Zn粒子の含有量が0質量%で尚且つ非磁性金属粒子の含有量も0質量%の場合には十分な磁石特性(保磁力、残留磁束密度)が得られない問題がある。弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量は、(磁石の比重)÷(非磁性金属粒子の比重)×質量%で規定される値が、20質量%未満であれば、従来のボンド磁石と異なり、磁気特性(特に残留磁束密度)の向上効果が得られる。なお、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量は、希土類磁石相及び磁石成形体の組成解析として、誘導結合プラズマ発光分光分析法(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPS−3520UV型)を用いて定量解析することで、算出することができる。
(4f)変形しやすい非磁性金属粒子の弾塑性比
上記した変形しやすい非磁性金属粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比は50%以下であればよい。変形しやすい非磁性金属粒子の弾塑性比の下限値には、値も臨界的な意味も存在しないが、軟質過ぎると付着強度が小さくなりすぎるので、軟質金属でも2.5%程度の弾塑性比があった方が好ましい。また、上限値は、弾塑性比が低いほど、効率的に成膜が可能になるので、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下とする。よって、変形しやすい非磁性金属粒子の弾塑性比として好ましくは2.5〜50%、より好ましくは2.5〜45%、特に好ましくは2.5〜40%の範囲である。変形しやすい非磁性金属粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比は、ナノインデンテーション法を用いて、変形のし易さの指標として定義した。図2(a)は、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比を求めるノインデンテーション法に使う実験装置を模式的に表した概略図である。図2(b)は、図2(a)の実験装置を使って得られた圧入深さhと荷重Pの関係から弾塑性比の算出するためのグラフを用である。ナノインデンテーション法は、図2(a)に示すように、実験装置30の基盤(図示せず)上に載置した試料33の表面にダイヤモンド製の三角錐の圧子31をある荷重まで押し込んだ(圧入)後、その圧子31を取り除く(除荷)までの荷重(P)と変位(圧入深さh)の関係(圧入(負荷)−除荷曲線)を測定する方法である。図2(b)に示す、圧入(負荷)曲線は材料の弾塑性的な変形挙動を反映し、除荷曲線は弾性的な回復挙動により得られる。そして。図2(b)に示す負荷曲線と除荷曲線と横軸で囲まれた面積(実線のハッチ部分)が、塑性変形に消費したエネルギーEpである。また負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線と除荷曲線とで囲まれた面積(破線のハッチ部分)が、弾性変形で吸収されたエネルギーEeである。以上から、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比=Ee/Ep×100(%)として求められる。例えば、Cu粒子の弾塑性比は22%であり、Al粒子の弾塑性比は38%である。このことから、実施例で用いたCu粒子(非磁性金属粒子)は弾塑性比50%以下のものといえる。
(5)磁石成形体の理論密度に対する割合(%)について
本実施形態の磁石成形体の理論密度に対する割合は、80%以上であるのが望ましい。言い換えれば、本実施形態の磁石成形体は、前記Sm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相(主相・結晶相)で構成された場合の磁石成形体の理論密度の80%以上を有するものである。磁石成形体の理論密度に対する割合は、好ましくは80%以上96%未満、より好ましくは81〜95%、特に好ましくは82〜94.6%である。磁石成形体の理論密度に対する割合が80%以上であれば、磁気特性(特に保磁力、残留磁束密度、密着性)が十分に良好な特性を得ることができる。一方、磁石成形体の理論密度の上限値は特に制限されるものではないが、磁石成形体の理論密度に対する割合が96%未満であれば、磁気特性(特に保磁力、残留磁束密度、密着性)に優れた磁石成形体を得ることができる。ここで、本明細書及び特許請求の範囲で言う「理論密度」とは、用いた原料粉末中の磁石主相(希土類磁石相)が、X線解析から求められる格子定数をもつとして、磁石成形体の100%の体積を占めるとした場合の密度のことである。
(6)磁石成形体の保磁力と残留磁束密度
本実施形態の磁石成形体は、熱処理による保磁力の向上効果が相対値として、1.00以上または残留磁束密度が0.75以上、好ましくは保磁力の相対値が1.05以上または残留磁束密度が0.80以上であるのが望ましい。特に、コールドスプレイ法を用いた磁石成形体において、キャリアガスに不活性ガスを用いることにより、上記要件を満足する磁気特性(保磁力、残留磁束密度)に優れた磁石成形体を得ることができる。なお、保磁力及び残留磁束密度の測定方法は実施例に記載の方法に従って測定したものである。即ち、Cu基材上に成膜した磁石成形体の表面を研磨した後、5mm角に試料を切りだし、Cu基材ごと試料振動型磁力計(VSM)にて磁気測定を行う。反磁界補正は、磁石成形体の膜厚から基材の厚さを除いて厚さを算出して(形状を求めて)実施する。保磁力と残留磁束密度について、原料粉末の値を100%として、固化成形後の値を用いる。但し、原料粉末は、0.03gを秤量し、エポキシ樹脂にて固化して等方性ボンド磁石を作製し、VSMにて測定する。保磁力に対しては、反磁界補正は実施せずに計測した値を用いる。
(7)磁石成形体の厚さ
本実施形態の磁石成形体の厚さは、使用用途に応じて適宜調整すればよく特に制限されるものではないが、本実施形態では従来の成膜プロセスよりも厚膜化できることから、通常200〜3000μm、好ましくは500〜3000μm、より好ましくは1000〜3000μmの範囲である。これは、従来のAD法による175μm(実測値)と膜厚の点で特別に顕著な差異はないが、従来のAD法では175μmを超えて厚膜化しようとすると剥離が生じる問題がある。一方、本実施形態では、200μm以上3000μm以下の厚膜であっても、剥離の問題もなく成膜できる点で極めて優れている。更に、磁石成形体の厚さが200μm以上であれば、厚膜化と高密度化と磁気特性(特に保磁力、残留磁束密度、密着性)向上を同時に満足した磁石成形体を得ることができる。更に本発明の目的である、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理した場合に、大きくばらつくことなく安定して、一定の保磁力向上効果を発現することができる磁石成形体を得ることができ、極めて幅広い用途に適用することができる。特に軽量且つ小型高性能化が図れる為、あらゆる分野の希土類磁石に適用し得る点で優れている。磁石成形体の厚さが3000μm以下であれば、本発明の目的である厚膜化と高密度化と磁気特性(特に保磁力、残留磁束密度、密着性)向上を同時に満足した磁石成形体を得ることができ、極めて幅広い用途に適用することができる。特に自動車電装分野のように大型の表面磁石型同期モータや埋込磁石型同期モータなどに好適に適用することで軽量且つ小型高性能化が図れる為、電気自動車やハイブリッド自動車の小型軽量化にも大いに貢献し得るものである。
(8)粒子を堆積させて成膜する粉体成膜の工法を用いてなる磁石成形体
本実施形態の磁石成形体は、粒子を堆積させて成膜する粉体成膜の工法を用いて成形されているものである。当該工法のメリットは、粉末の焼結や型成形のように高温に晒されたり、密度が低下する問題が発生しにくく、高温で磁気特性を損なう種類の磁石粒子を原料としても、効率よく高密度で磁気特性に優れた磁石成形体を得ることができる。また本実施形態本来の磁力を高めることができる上記工法により、従来のボンド磁石では実現できなかった理論密度の80%以上を達成することができ、磁気特性(特に保磁力、残留磁束密度、密着性=剥離強度)の向上効果が得られる。さらに、そもそも、磁石粒子からなる希土類磁石相(主相・結晶相)の構成元素としてZnを含有していなくても、皮膜形成時に混合するだけで、磁石成形体内部にZn粒子が均一微細に分散され、かつ磁石の保磁力を効果的に向上できる。そのため、磁気特性(保磁力、残留磁石密度、密着性=剥離強度)に優れた磁石成形体とすることができる点でも優れている。
ここで、粒子とは、磁石成形体の原料粉末をいう。原料粉末としては、(a)Sm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相を構成する磁石粉末と、(b)Zn粒子と、更に(c)任意成分として特定の非磁性金属粒子とを含むものを用いることができる。ここで、特定の非磁性金属粒子とは、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子をいう。以下、上記(a)〜(c)の原料粉末成分については、第2の実施形態で詳しく説明する。
粒子を堆積させて成膜する粉体成膜の工法としては、厚膜化と高密度化と磁気特性(保磁力、留磁束密度、密着性)向上とを同時に満足する成形体を簡単に得ることができるコールドスプレイ装置を用いた粉体成膜工法を用いるのが望ましい。ただし、かかるコールドスプレイ装置を用いた粉体成膜工法(コールドスプレイ法)に何ら制限されるものではなく、本実施形態の作用効果を有効に発現し得るものであれば、いかなる粉体成膜工法であってもよい。
(9)磁石成形体の原料粉末を成形した成形体に熱処理を行って作製された磁石成形体
本実施形態の磁石成形体は、Sm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石粉末、Zn粒子、更に任意成分として特定の非磁性金属粒子を含む、磁石成形体の原料粉末を成形した成形体に熱処理を行って作製されたものである。かかる成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができる点で優れている。熱処理の有無を見分けるには、熱処理により、微量ではあるがZnがFeと合金化することから、TEMでの解析で判断可能である。あるいは、熱処理前に比べて、熱処理後のX線構造解析ではZnのピークが不明瞭になることでも判断可能である。その他、熱処理により、微量ではあるがSmFeN粒子(希土類磁石粉末)側へのZn拡散が生じることから、SmFeN粒子側へのZn拡散をTEM等で解析することでも判断可能である。なお、磁石成形体の構成において、製造プロセスである熱処理を要件としたのは、上記した解析などにより熱処理の有無を見分けることはできるが、熱処理後の磁石成形体内のZn−Fe合金の生成量やSmFeN粒子側へのZn拡散量は微量であり、定量的に測定することは難しく、これら定量化して規定することまでは困難なためである。
(10)熱処理について
原料粉末を成形した成形体に熱処理を行って作製された磁石成形体により、Zn粒子が磁石成形体内に分散した構造を有し、かつ酸素濃度が1.5質量%以下とすることができる。そのため、成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができる。即ち、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理した場合に、大きくばらつくことなく安定して、一定の保磁力向上効果を発現することのできる磁石成形体を得ることができるものである。
(10a)熱処理温度
熱処理温度としては、低すぎると熱処理効果が得られず、高すぎると磁石の化合物が熱分解して磁気特性を損ねることから、300℃から460℃の範囲が好ましい。より好ましくは、350℃から450℃、さらに好ましくは350℃から450℃である。
(10b)熱処理時間
熱処理時間の最適な時間は、熱処理温度によって異なる。そこで、400℃以下の低温では0.5〜24時間程度が好ましく、400℃以上の高温では2.0時間以内の保持時間に制限することが好ましい。かかる範囲内であれば、過度に熱処理を行うと本来の保磁力向上の目的を達した後も、Znが過剰にSmFeN磁石内部に拡散して、磁石粒子の磁束密度を低下させてしまう問題が発生するのを抑制することができるためである。
(10c)熱処理中の雰囲気ガス
熱処理中は、酸化を抑制するため不活性ガス雰囲気が好ましい。例えば、N、He、ArまたはH等のガス雰囲気が使用できる。経済性、取扱い性の観点からは、Nガス雰囲気が好ましい。
(10d)熱処理時の圧力
熱処理時の圧力としては特に制限されるものではないが、減圧すると窒素が抜けて組成が変わる恐れがあるため、熱処理中は、炉内の圧力を大気圧に保つことが好ましい。
(10e)熱処理装置
雰囲気制御が可能な熱処理炉であれば、加熱方式は特に制限なく従来公知のものを用いることができる。例えば、磁石成形体が小さい場合は、温度制御が容易で加熱速度と冷却速度が速い赤外線加熱炉等が好ましい。大量に処理する場合は、抵抗発熱体による加熱方式の炉でも使用できる。
以下、本実施形態の磁石成形体の代表的な製造方法の1つである、コールドスプレイ装置を用いた粉体成膜工法(コールドスプレイ法)を用いてなる磁石成形体の製造方法(第2の実施形態)につき、図面を用いて説明する。
(B)磁石成形体の製造方法(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態は、粒子を堆積させて成膜する粉体成膜の工法を用いてなる磁石成形体の製造方法である。詳しくは、SmとFeを含有する窒化物を主成分とする希土類磁石相で構成された磁石成形体を、粒子を堆積させて成膜する粉体成膜の工法において、前記成膜を不活性ガスに置換した容器内でコールドスプレイにより行うことを特徴とするものである。
第2の実施形態として詳しくは、下記(I)〜(II)の段階を含む磁石成形体の製造方法である。即ち、(I)粉体成膜段階(固化成形段階):不活性ガスに置換した容器内で、キャリアガスと窒化物を含む原料粉末とを混合し加速した状態の高速キャリアガス流にて原料粉末のスプレイを行うコールドスプレイにより、噴射された原料粉末を基材上に堆積して成膜を行う段階である。(II)熱処理段階:磁石成形体の原料粉末を成膜(固化成形)して成形した粉体成膜(成形体)に熱処理を行う段階である。
加えて本実施形態では、原料粉末が窒化物系の希土類磁石粉末とZn粒子を含むものであり、前記(I)の粉体成膜段階(固化成形段階)が不活性ガスに置換した容器内で(大気圧下でよい)行われることを特徴とする磁石成形体の製造方法である。また、前記(I)段階のスプレイ(噴射)に用いる高速キャリアガスの温度が、前記窒化物の分解温度未満とするのが望ましい。
(I)粉体成膜段階(固化成形段階)
前記(I)粉体成膜段階は、高圧キャリアガス発生部、キャリアガス加熱ヒータ、原料粉末供給装置、キャリアガス加速部、基材保持部、チャンバ容器、不活性ガス供給装置、及び集塵機を備えたコールドスプレイ装置を用いた粉体成膜(固化成形体)の製造方法である。チャンバ容器は、少なくともキャリアガス加速部および基材保持部を収容し、チャンバ容器内は不活性ガスで置換されている。
(I)段階で得られる粉体成膜(固化成形体)は、この段階で既に保磁力、残留磁束密度、密着性に優れ、かつ高密度な磁石成形体である。しかしながら、その後の(II)段階で得られる一定の保磁力向上効果を発現できる磁石成形体と区別するため、粉体成膜(固化成形体)と称する。
詳しくは、(I)粉体成膜段階(固化成形段階)では、高圧キャリアガス発生部及びキャリアガス加熱ヒータを経た一次キャリアガス流と、原料粉末供給装置からの原料粉末を含有する原料投入ガスとをキャリアガス加速部内に投入し混合して加速した高速キャリアガス流を不活性ガス雰囲気下で噴射する。かかる高速キャリアガス流の噴射にて、原料粉末を基材保持部上の基材に堆積して固化成形するものである。加えて(I)段階では、前記原料粉末が窒化物系の希土類磁石粉末とZn粒子を含むものであり、高速キャリアガスの温度を、前記窒化物の分解温度未満として、固化成形することを特徴とする粉体成膜(固化成形体)の製造方法である。(I)段階では、磁石粉末の磁気特性を損なうことなく、厚膜化と高密度化と磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性)の向上を同時に満足する粉体成膜(固化成形体)を製造することができる。固化成形後の(II)段階の熱処理によって、発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができる優れた磁石成形体を製造することができる。即ち、(I)段階では、保磁力、残留磁束密度、密着性に優れ、かつ、高密度な粉体成膜(固化成形体)を効率よく形成することにある。その後の(II)段階で、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理した場合に、大きくばらつくことなく安定して、一定の保磁力向上効果を発現することのできる磁石成形体を製造することができる。また磁石の正味含有量が多くなり、小型強力磁石が得られる。その結果、従来、樹脂で固化成形して使用されていたボンド磁石用の磁石粉末を高密度で固化成形でき、かつ、磁気特性を向上させつつ大幅に膜厚を向上できるため、モータの小型高性能化に寄与することができる。
即ち、(I)段階の特徴のひとつは、磁石粉末を基材に堆積させて粉体成膜(固化成形体)を得る装置としてコールドスプレイ(装置)と称される成膜装置を用いてなるコールドスプレイ法により成膜することである。まず、コールドスプレイ法による従来のAD法にない特徴として、(i)粒子速度の高速化による高密度化が達成できるため、磁気特性(∝密度)が向上する。(ii)より大きな粒子を噴射可能である。そのため、一次粒子の微粒化による凝集二次粒子(高密度化していない)に起因する粉体成膜(固化成形体)の不均質化による局所的な密度のバラツキの発生、ひいては、磁気特性の劣化を効果的に抑制することもできる。また最適な大きさの粒子を用いることで、粒子と空隙部の最適化(最適配置)が可能となり、所望の理論密度に対する割合(%)を実現させることもできる。(iii)圧倒的に高速な皮膜成長速度を実現することもできる。その結果、厚膜化でバルク体が得られる。以上の従来のAD法にない特徴から、コールドスプレイ法の効果として、高密度化により、残留磁束密度B(%)及び硬度が向上する。次に、このコールドスプレイ法では、粒子の加速を減圧装置に拠らず、キャリアガスを加熱することによっているため、磁石粉末(原料粉末)を基材に向けて噴射させて成膜する際に、大気圧下での成膜が可能となるものである。しかしながら、単に磁石粉末にコールドスプレイ法を適用するだけでは、磁石粉末が皮膜として成長しない問題があった。これは、硬い磁石粒子によって基材が研磨されたり、一度付着した膜が削られたりするためであった。さらに、粉体成膜(固化成形体)、ひいては磁石成形体としては、厚膜化が必要であるが、数100μm以上の厚さに成長すると、局所的に剥離を生じる問題が生じた。本発明者らは、これらの問題が、微量の柔らかい金属粒子を混合することで解決できることを見出したものである。また、(I)段階による手法(コールドスプレイ法)では、焼結法に比べて著しく低温であり、時間は数msec程度の一瞬であるが、粒子加速のため、不可避で数100℃に加熱される。また、基材温度も衝突エネルギーで100℃以上に到達する場合があり、SmFeN系の希土類磁石のように、熱分解温度が低い磁石粒子を用いた場合に、磁気特性が多少なりとも劣化する場合が生じた。これら全ての問題は、SmFeN系磁石粒子と微量の柔らかい金属粒子群の中からZn粒子を混合してコールドスプレイ法に供する場合に限り解決することを見出したものである。なお、上記、熱分解温度が低い磁石粒子としては、成分にもよるが400〜550℃程度とみなせる。不安定な準安定窒素化合物では、200℃程度の分解温度のものもある。そして、こうした熱分解温度が低い磁石粒子を用いた場合に、磁気特性を多少なりとも劣化する場合とは、磁気特性として落ちない特性はなく、保磁力、残留磁化、エネルギー積、角型性と言った、一般的な磁気特性が低下する。(I)段階では、これら全ての問題に対して、SmFeN系磁石粒子と微量の柔らかい金属粒子群の中からZn粒子、更に必要に応じて弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子を混合してコールドスプレイ法に供することで解決し得るものである。また、磁石粉末(原料粉末)を基材に向けて噴射させて成膜する際に、粉体成膜(固化成形体)、ひいては磁石成形体内の酸素濃度を1.5質量%以下に制限することで、保磁力の安定化を図る観点から、不活性ガスに置換した容器内(酸素濃度がコントロールされた雰囲気下)であれればよく、特に圧力制御を要しない大気圧下で行うのが好ましい。
(1)コールドスプレイ装置
本実施形態のコールドスプレイ装置は、不活性ガス雰囲気下にて、原料粉末を溶融またはガス化させることなく、キャリアガスと共に超高速で噴射(コールドスプレイ)し固相状態のまま基材に衝突させて(堆積させていくことで)粉体皮膜を形成する装置である。
図3は、本発明の磁石成形体の製造方法のうち、(I)段階で得られる粉体成膜(固化成形体)の形成に用いられてなる、粒子を堆積させて成膜する粉体成膜の工法として代表的なコールドスプレイ法に用いられるコールドスプレイ装置構成を模式的に表す概略図である。
図3に示すように、(I)段階で得られるコールドスプレイ装置10の基本構成としては、高圧キャリアガス発生部11、キャリアガス加熱ヒータ13、原料粉末供給装置15、キャリアガス加速部17および基材保持部19、チャンバ容器20、不活性ガス供給装置21及び集塵機23が備えられている。更に高圧キャリアガス発生部11からキャリアガス加熱ヒータ13に、低温(室温ないし未加熱状態の温度)の(高圧の)キャリアガス(=低温ガス)を圧送するための配管12が設けられている。また、キャリアガス加熱ヒータ13からキャリアガス加速部17に、キャリアガス加熱ヒータ13で加熱された高温のキャリアガス(=一次キャリアガス)を圧送するための配管14が設けられている。更に原料粉末供給装置15からキャリアガス加速部17内に原料粉末が投入し得るように、原料粉末供給装置15からキャリアガス加速部17に原料投入ガスを注入する配管16が設けられている。また、キャリアガス加速部17の(例えば、可動式ノズルの)先端部と基材保持部19上に設置される基材B表面との間(距離)は一定間隔をあけて設置(配置)されている。また、少なくともキャリアガス加速部17および基材保持部19(基板Bを含む)を収容するチャンバ容器20が設けられている。また不活性ガス供給装置21から不活性ガス(置換ガス)をチャンバ容器20内に圧送し、大気ガスを不活性ガスに置換するための配管22が設けられている。更に、チャンバ容器20と集塵機24の間にチャンバ容器20内の廃棄ガスや粉末を廃棄・回収するための配管24が設けられている。これにより、(I)段階を開始する前に、不活性ガス供給装置21からチャンバ容器20内への置換ガス(不活性ガス)の圧送により、チャンバ容器20内の大気ガスを置換ガス(不活性ガス)に置換する。但し、チャンバが小さい場合や、設備投資が困難な場合は、粒子を供給する前段階で、一次キャリアガスを過剰に供給することで、キャリアガスでガス置換することも可能である。この間に、チャンバ容器20内の大気ガスは、配管24から集塵機23を介して系外に排気される。また、(I)段階を開始後は、チャンバ容器20内を不活性ガス雰囲気下に保ちつつ、キャリアガス加速部17からの原料投入ガスのうち、基板Bに固化成膜しなかった粉末(粉塵)及びガス(キャリアガス等)を配管24から集塵機23に圧送して、固化成膜しなかった粉末(粉塵)及びガス(キャリアガス等)から粉末及びガスを回収する。この回収した粉末は、原料粉末供給装置15に戻して再利用(リサイクル)するのが望ましい。また回収したガスも、成分および圧力調整が可能であれば、一次キャリアガスまたは置換ガス(不活性ガス)に戻して再利用(リサイクル)するのが望ましい。なお、チャンバ容器20に繋がる(ないし貫通する)各種配管14、16、22、24は、置換ガス(不活性ガス)の置換効率、(I)段階開始後の粉体成膜(固化成形体)、ひいては磁石成形体中の酸素濃度の調節(制御)の観点から、十分にシールされているのが望ましい。また、キャリアガス加速部17と基材保持部19との間は大気圧下(不活性ガス雰囲気)であればよいが、原料投入ガスを注入量に対する集塵機23の粉末(粉塵)及びガス(キャリアガス等)の回収能力によっては、チャンバ容器20が負圧または加圧になっても特に問題ない。かかる装置構成により、装置10の稼動時(詳しくは(I)段階開始後)には、キャリアガス加速部17から基材保持部19上の基材B表面に向けて、キャリアガス加速部17で加速された(高温高圧の)高速キャリアガスによって原料粉末が不活性ガス雰囲気下で(超高速)噴射される構成(構造)となっている。以下、装置の各構成部材につき説明する。
(1a)高圧キャリアガス発生部
ここで、高圧キャリアガス発生部11としては特に制限されるものではなく、キャリアガスを封入した高圧ガスボンベや高圧ガスタンク、キャリアガスを高圧下で液化して封入した高圧液化ボンベ、高圧液化タンク、ガスコンプレッサなどが挙げられるが、これらになんら制限されるものではない。なお、当該高圧キャリアガス発生部11から圧送される高圧キャリアガスは低温(通常、常温)状態であるのが一般的であるが、常温より低い液化ガスや、ヒータで常温より高く加熱したガスなども、適宜使用することが可能である。
(1b)キャリアガスガス加熱ヒータ
キャリアガスガス加熱ヒータ13としては特に制限されるものではなく、キャリアガスを通す内部配管をコイル状にして当該コイル部位に電流を流して、内部配管を加熱ヒータとして利用して配管内のキャリアガスを加熱する構成(構造)でもよい。あるいは、キャリアガスを通す内部配管の周囲にヒータを貼付けたり、ヒータコイルを巻付けて加熱ヒータとし、配管内のキャリアガスを加熱する構成(構造)でもよい。あるいは、キャリアガスを通す内部配管の内面にヒータを貼付けたり、ヒータコイルを巻付けて加熱ヒータとし、配管内のキャリアガスを加熱する構成(構造)でもよい。更には、遠赤外線ヒータや電磁誘導コイルなどを用いて配管内のキャリアガスを加熱する構成(構造)としてもよいなど、特に制限されるものではない。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではなく、ガスの加熱手段として有効に活用し得るものであればよく、従来公知のガス加熱手段の中から適宜選択することができる。また、キャリアガス加熱ヒータ13内の内部配管としては、耐圧性、耐腐食性、耐候性等に加えて、更に800℃程度の高温に耐え得る耐熱性に優れた炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)等の鋼鉄や高強度Ni合金、高強度Fe合金、Ti合金や所謂、超硬等の金属材質を用いた配管等を利用することができる。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではなく、当該配管として有効に活用し得るものであればよく、従来公知の配管群の中から適宜選択することができる。
(1c)高圧キャリアガス発生部とキャリアガス加熱ヒータとの連結配管
本実施形態に用いることのできる連結配管12としては、高圧キャリアガス発生部11から圧送される高圧キャリアガスにより、破裂したり、腐食されたりしない、耐圧性、耐腐食性、耐候性等を有するものであればよい。よって、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)等の鋼鉄や銅合金、Ni合金、Fe合金、Ti合金、Al合金等の金属材質やアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等のエンジニアリングプラスチック、炭素繊維材料、テフロン(登録商標)等の耐圧性の樹脂材質を用いた配管等を利用することができる。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではなく、当該配管として有効に活用し得るものであればよく、従来公知の配管群の中から適宜選択することができる。なお、当該配管12をキャリアガス加熱ヒータ13内の内部配管としても利用する場合には、耐圧性、耐腐食性、耐候性等に加えて、更に400℃程度の高温に耐え得る耐熱性に優れた炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)等の鋼鉄や銅合金、Ni合金、Fe合金、Ti合金、Al合金等の金属材質を用いた配管等を利用するのが望ましい。
(1d)キャリアガス加熱ヒータとキャリアガス加速部との連結配管
本実施形態に用いることのできる連結配管14としては、キャリアガス加熱ヒータ13から圧送される高温高圧キャリアガスにより、溶融、軟化したり、破裂したり、腐食されたりしない、耐熱性、耐圧性、耐腐食性、耐候性等を有するものであればよい。よって、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)等の鋼鉄や銅合金、Ni合金、Fe合金、Ti合金、Al合金や所謂、超硬等の金属材質を用いた配管等を利用することができる。なお、耐熱性に関しては、800℃未満の高温に耐え得る耐熱性を有するものが望ましく、耐圧性に関しては、0.5MPaを超えて5MPa以下程度のガス圧に耐え得る耐圧性を有するものが望ましい。キャリアガス加熱ヒータ13とキャリアガス加速部17は、一体化したノズル構造をとることで、敢えて連結配管を設けなくてもよい構造にすることも可能である。
(1e)原料粉末供給部
原料粉末供給部15では、高圧キャリアガス発生部11からキャリアガスの一部が配管(図示せず)を通じて圧送されており、原料粉末とキャリアガスが所定の混合比率となるように調整されてなる原料投入ガスが形成される。あるいは、原料粉末供給部17では、高圧キャリアガス発生部11とは異なる高圧キャリアガス発生部(図示せず)からキャリアガスが配管(図示せず)を通じて圧送されていてもよい。この場合でも、原料粉末とキャリアガスが所定の混合比率となるように調整されてなる原料投入ガスが形成される。なお、本実施形態では、原料粉末とキャリアガスとの混合による原料投入ガスの調製方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の他の調製方法の中から適宜選択・利用することができることはいうまでもない。また、原料粉末供給部15からの原料投入ガスは、配管14の途中でキャリアガス流と合流するように、配管14に配管16を連結してもよい。
(1f)原料粉末供給装置とキャリアガス加速部との連結配管
本実施形態に用いることのできる連結配管16としては、高圧キャリアガス発生部11や別の高圧キャリアガス発生部(図示せず)から圧送される高圧キャリアガスにより、破裂したり、腐食されたりしない、耐圧性、耐腐食性、耐候性等を有するものであればよい。よって、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)等の鋼鉄や銅合金、Ni合金、Fe合金、Ti合金、Al合金等の金属材質やアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等のエンジニアリングプラスチック、炭素繊維材料等の耐圧性の樹脂材質を用いた配管等を利用することができる。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではなく、当該配管として有効に活用し得るものであればよく、従来公知の配管群の中から適宜選択することができる。なお、当該配管16をキャリアガス加速部15内部にまで導入して、高温高圧のキャリアガスと共に原料粉末を超高速化させて噴射させるのに利用する場合には、耐圧性、耐腐食性、耐候性等に加えて、更に400℃未満(表1参照)の高温に耐え得る耐熱性に優れた炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)等の鋼鉄や銅合金、Ni合金、Fe合金、Ti合金、Al合金等の金属材質を用いた配管等を利用するのが望ましい。
(1g)キャリアガス加速部
本実施形態に用いることのできるキャリアガス加速部17としては、特に制限されるものではなく、ガスの加速手段として有効に活用し得るものであればよく、従来公知のガスの加速手段の中から適宜選択することができる。具体的には、例えば、キャリアガス加速部17ではアスピレータ式のノズルガン等が用いられる為、キャリアガスを流すと、キャリアガス加速部17内の細くなった部分で流速が増すことキャリアガスを高速化させることができる。またキャリアガス加速部17内の細くなった部分で流速が増すため、ベンチュリ効果によって圧力が低下する。この減圧になったキャリアガス流に配管16からの原料投入ガスが流れ込み、結果として配管16の吸い込み口が減圧となり、原料投入ガスが減圧注入される機構(原理ないし構造)を利用してもよい。しかし、キャリアガスのガスと、原料投入ガスのガス圧に大差が生じると、場合によって、配管16に加熱された一次キャリアガスが逆流する恐れが生じる。そこで、低温ガス12を2系統に分岐して、一方を一次キャリアガスとし、もう一方を原料投入ガスとして、原料粉末供給部に高圧ガスを供給することが一般的である。分岐した2系統のそれぞれに、圧力調整用の減圧弁を設けることで、常に、原料粉末の逆流を防止しつつ、粉末の供給を可能にすることができる。以下、キャリアガス加速部17として上記ノズルガンを用いて説明するが、これに制限されるものではなく、上記した他のガスの加速手段を用いても以下の説明と同様のことが言える。
(1h)温度センサ
図3に示すように、本実施形態では、キャリアガス加速部17内(例えば、ノズルガンの原料投入ガス配管16と、一次キャリアガスとの合流点)に原料粉末を含んだキャリアガスの温度を計測する為の温度センサ(図示せず)が設置されているのが望ましい。キャリアガス加速部17内のキャリアガスの温度を希土類磁石粉末の結晶粒の粒成長温度未満とすることで、原料粉末が溶融・ガス化することなくキャリアガスと共に超高速で固相状態のまま基材Bに衝突・結着(堆積化)させて皮膜を固化成形することができる。これにより、厚膜化と高密度化と磁気特性(特に残留磁束密度)の向上を同時に満足する粉体成膜(固化成形体)、ひいては磁石成形体を得ることができる。かかる調整には、キャリアガス加熱ヒータ13内での高圧キャリアガスの加熱条件をコントロール(調整)する等の方法などが挙げられるがこれらに制限されるものではない。なお、温度センサには、概ね150〜800℃程度までは正確に計測できるものを用いるのが望ましい。具体的には、例えば、Kタイプの熱電対などを利用することができる。
(1i)温度センサ
キャリアガス加速部17内のキャリアガスの温度を希土類磁石粉末の結晶粒の粒成長温度未満とすることで、原料粉末が溶融・ガス化することなくキャリアガスと共に超高速で固相状態のまま基材Bに衝突・結着(堆積化)させて皮膜を固化成形することができる。これにより、厚膜化と高密度化と磁気特性(特に残留磁束密度)の向上を同時に満足する粉体成膜(固化成形体)、ひいては磁石成形体を得ることができる。かかる調整には、キャリアガス加熱ヒータ13内での高圧キャリアガスの加熱条件をコントロール(調整)する等の方法などが挙げられるがこれらに制限されるものではない。なお、温度センサには、概ね150〜800℃程度までは正確に計測できるものを用いるのが望ましい。具体的には、例えば、Kタイプの熱電対などを利用することができる。
(1j)酸素(濃度)センサ
図3に示すように、本実施形態では、基材保持部19の基材Bの周辺に、チャンバ容器20内の酸素濃度を計測するための酸素(濃度)センサ(図示せず)が設置されているのが望ましい。これは、チャンバ容器20内の大気ガスを不活性ガスに十分に置換できていることを計測しコントロール(調整)するためである。不活性ガスへの置換が十分にできていれば、その後の(I)段階による原料粉末を含んだキャリアガスを基材Bに衝突・結着(堆積化)させて皮膜を固化成形することで、得られる粉体成膜(固化成形体)の酸素濃度を1.5質量%以下に保持できるためである。なお、酸素センサは、酸素濃度0〜20質量%程度までは正確に計測できるものを用いるのが望ましい。酸素センサには、東レエンジニアリング社の酸素センサなど、既に市販の種々の酸素センサの中から適宜選択することができる。
(1k)基材保持部
本実施形態に用いることのできる基材保持部19としては、原料粉体をキャリアガスと共に超高速で固相状態のまま基材Bに衝突させて皮膜を形成することができるように、当該基材Bを保持しえるものであればよく、特に制限されるものではない。具体的には、高温高圧のキャリアガスと共に原料粉末を超高速で固相状態のまま基材Bに衝突させても基材Bが破損することなく強固に固定できるように耐圧性、耐腐食性、耐候性に優れたものであればよい。好ましくは、基材Bがキャリアガスの吹付けや原料粉末の衝突・堆積化により加熱されて高温化して溶融またはガス化するのを防止して、効果的に熱を逃がすのに適した高熱伝導性部材を用いるのが望ましい。かかる観点から、炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)等の鋼鉄や銅合金、Ni合金、Fe合金、Ti合金、Al合金等の金属材質や各種セラミックス材料、鉱物材料(大理石や御影石等の石盤や岩盤など)を用いた基材保持部19を利用するのが望ましい。なお、効果的に熱を逃がすために基材保持部19に冷却手段を具備させてもよい。例えば、基材保持部19の内部に冷媒(水など)を循環させることができるように冷却流路を設けてもよいなど、従来公知の冷却手段を適宜適用することができる。
(1l)不活性ガス供給装置
本実施形態に用いることのできる不活性ガス供給装置21としては、不活性ガス供給装置20に不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)を供給することで、チャンバ容器20内の大気ガスを不活性ガスに置換することができるものであればよく、特に制限されるものではない。好ましくは、(I)段階を開始する前(成膜開始前)に、不活性ガス供給装置21からチャンバ容器20内への置換ガス(不活性ガス)の圧送により、チャンバ容器20内の大気ガスを速やかに置換ガス(不活性ガス)に置換することができるのが望ましい。その為、高圧の置換ガス(不活性ガス)の圧送を可能とするような耐圧性に優れた不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)の高圧貯蔵タンクや貯蔵ボンベなどを用いることができるが、これらに制限されるものではなく従来公知の不活性ガス供給手段を適宜用いることができる。また、隣接する別の工業プラントで余った(不要となった)不活性ガスを配管22により長期搬送して、直接チャンバ容器20内に供給するようにしてもよい。
(1m)不活性ガス供給装置とチャンバ容器との連結配管
本実施形態に用いることのできる連結配管22としては、上記したように(I)段階を開始する前(成膜開始前)に、チャンバ容器20内の大気ガスを速やかに置換ガス(不活性ガス)に置換することができるのが望ましい。その為、不活性ガス供給装置21からチャンバ容器20内部に圧送される高圧の置換ガス(不活性ガス)により、破裂したり、腐食されたりしない、耐圧性、耐腐食性、耐候性等を有するものであればよい。よって、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)等の鋼鉄や銅合金、Ni合金、Fe合金、Ti合金、Al合金等の金属材質やアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等のエンジニアリングプラスチック、炭素繊維材料等の耐圧性の樹脂材質を用いた配管等を利用することができる。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではなく、当該配管として有効に活用し得るものであればよく、従来公知の配管群の中から適宜選択することができる。また、配管22の途中に圧入ポンプや圧力調整弁や逆止弁などを設けてもよい。なお、連結配管22のチャンバ容器20への接続部分は、図3に示すように集塵機23と対峙する位置(集塵機23からできるだけ離れた上部側の位置)に設置するのが望ましい。
(1n)チャンバ容器
本実施形態に用いることのできるチャンバ容器20としては、少なくともキャリアガス加速部17及び基材保持部19を収容するものであればよい。よって、チャンバ容器20の材質は、例えば、アルミニウム又はその合金、銅、ステンレス鋼(SUS)、スチール等の金属でも、耐熱性を有する不燃性の樹脂製品が使用できる。なかでも、耐圧性、耐熱性、粉塵が付着しないための絶縁(非帯電)性、(粉塵爆発などが起きないように)内部を観察するための観察窓の設置、粒子が衝突しても傷ついたりしない耐擦過性・機械的強度などを勘案すると、アルミ合金が好ましいが、経済的にはスチールが優れる。防爆の観点から樹脂製品は、好ましくないが、観察窓等を一部樹脂で作製することは特に問題はない。
(1o)チャンバ容器と集塵機との連結配管
本実施形態に用いることのできる連結配管24としては、上記したように(I)段階を開始する前(成膜開始前)に、チャンバ容器20内の大気ガスを速やかに置換ガス(不活性ガス)に置換するのが望ましい。その為、この間に、チャンバ容器20内部から速やかに大気ガスを配管24から集塵機23を介して系外に排気することができればよい。また、(I)段階を開始後は、基板Bに固化成膜しなかった原料粉末(粉塵)及びガス(キャリアガス等)を配管24から集塵機23に圧送して、固化成膜しなかった粉末(粉塵)及びガス(キャリアガス等)から粉末及びガスを回収するのが望ましい。こうしたチャンバ容器20内部から集塵機23に圧送される高圧の大気ガス、原料粉末(粉塵)及びガス(キャリアガス等)により、破裂したり、腐食されたりしない、耐圧性、耐腐食性、耐候性等を有するものであればよい。よって、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)等の鋼鉄や銅合金、Ni合金、Fe合金、Ti合金、Al合金等の金属材質やアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等のエンジニアリングプラスチック、炭素繊維材料等の耐圧性の樹脂材質を用いた配管等を利用することができる。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではなく、当該配管として有効に活用し得るものであればよく、従来公知の配管群の中から適宜選択することができる。なお、連結配管24のチャンバ容器20への接続部分は、図3に示すように不活性ガス供給装置21の連結配管22の接続部と対峙する位置(不活性ガス供給装置21の連結配管22の接続部からできるだけ離れた下部側の位置)で尚且つ基材保持部19より後方に設置するのが望ましい。
(1p)集塵機
本実施形態に用いることのできる集塵機23としては、特に制限されるものではなく、従来公知の集塵機を適宜用いることができる。当該集塵機23では、(I)段階を開始する前(成膜開始前)には、チャンバ容器20内部から大気ガスを系外に排気できればよい。また、(I)段階を開始後では、基板Bに固化成膜しなかった原料粉末(粉塵)及びガス(キャリアガス等)から、固形分の原料粉末(粉塵)を回収できるものであればよい。好ましくは、気体成分のガス(キャリアガス等)を更に回収できるのが望ましい。例えば、重力集塵機、慣性集塵機、サイクロン、バグフィルター、電気集塵機、普通スクラッパー、ベンチュリースクラッパー、湿式電気集塵機、移動層フィルター、充填層エアフィルターなどを用いることができる。具体的には、日本ドナルドソン社製の型式DFO1−1タイプの集塵機(実施例で使用)等を用いることができる。排気ガスとキャリアガスを回収再利用するには、そういう仕様で装置を設計する必要があり、市販品の集塵機では対応するものはないため、特注するか、内製して作製する必要がある。なお、内部観察が不要な量産段階に用いるような場合には、破裂したり、腐食されたりしない、耐圧性、耐腐食性、耐候性等を有するものであればよい。よって、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)等の鋼鉄や銅合金、Ni合金、Fe合金、Ti合金、Al合金等の金属材質やアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等のエンジニアリングプラスチック、炭素繊維材料等の耐圧性の樹脂材質を用いた配管等を利用することができる。なお、この回収した原料粉末は、原料粉末供給装置15に戻して再利用(リサイクル)するのが望ましい。また回収したガス(キャリアガス等)も、成分および圧力調整が可能であれば、一次キャリアガスまたは置換ガス(不活性ガス)に戻して再利用(リサイクル)するのが望ましい。
上記した装置構成により、装置10の稼動時には、キャリアガス加速部17から基材保持部19上の基材B表面に向けて、該加速部17で加速された高温高圧の高速キャリアガスによって原料粉末が不活性ガス雰囲気下、超高速で噴射される構成(構造)となっている。この際、原料粉末は、キャリアガス加速部17内で高温高圧のキャリアガスと気固混合される際に、溶融またはガス化されないように、前段階のキャリアガス加熱ヒータ13でのキャリアガスの加熱による温度調節がなされている。こうして原料粉末を溶融・ガス化させずにキャリアガス加速部17の先端部から、高温高圧の高速キャリアガスと共に超高速で噴射し固相状態のまま基材保持部19上の基材B表面に衝突・付着(堆積化)させて皮膜(成形体)を固化成形するものである。なお、キャリアガスの温度に関しては、本実施形態の重要な要件であるため、別途説明する。
(1q)キャリアガス加速部の先端部と基材保持部上の基材B表面との距離
キャリアガス加速部17(例えば、ノズルガン)の先端部と基材保持部19上に設置される基材B表面との間(=噴射ノズル(噴射圧)と基材との距離)は、一定間隔をあけて設置(配置)されているのが望ましい。かかるキャリアガス加速部17(ノズルガン)の先端部と基材保持部19上に設置される基材B表面との間(距離)としては、5〜30mm、好ましくは5〜20mm、より好ましくは5〜15mmの範囲での一定間隔をあけられているのが望ましいである。これは、噴射されるキャリアガスを逃がす空間が制限され、ガスが逃げにくく滞留するガスが抵抗となるため、キャリアガスを好適に逃がすために一定の距離が必要である。かかる観点から、噴射ノズル(噴射圧)と基材との距離は、5mm以上が必要といえる。即ち、噴射ノズル(噴射圧)と基材との距離が5mm以上であれば、キャリアガスが逃げやすく抵抗となるおそれがなく、キャリアガスを効率よく周囲に逃がすことができる点で優れている。一方、噴射ノズル(噴射圧)と基材との距離が30mm以下であれば、空気抵抗で原料粉末(希土類磁石粉末)が減速しすぎることなく、キャリアガスと共に超高速で固相状態のまま基材に衝突・付着して好適に堆積させることができる点で有利である。なお、当該キャリアガスを効率よく回収して再利用してもよいことは言うまでもない。
(1r)基材B
(1r−1)基材Bの材質
基材Bの材質としては、例えば、Cu、ステンレス鋼(SUS)、Al、炭素鋼などの金属基板、シリカ、マグネシア、ジルコニア、アルミナなどのセラミック基板が挙げられる。熱が逃げ易く、比較的安価なCu、Alが望ましく、中でも最も熱が逃げ易く、比較的価格が安定して安価で、製造過程でAlに比して電力使用量が少ない(=COの発生が少ない)ことから、Cuが最も望ましい形態の1つである。
(1r−2)基材Bの形状
上記では基材保持部19上の基材Bを、平板状のように基材B全面が平面構造であるとして説明したが、当該基板Bが円筒(円柱)状、球状のような曲面を有する形状の場合でも、既存の塗装技術を用いてこれら円筒(円柱)状、球状のような形状の所望の箇所に磁石成形体を形成させることはできる。これは、例えば、自動車や家電製品等の塗装技術のように決して一様でない複雑な曲面で構成された自動車(ボディ等)や家電製品表面に均質な塗膜(多層塗膜)をノズルガン(スプレイガン)と基材保持部材19とを用いて形成している。本実施形態でもこうした既に確立された自動車や家電製品等の塗装技術を適用して、あらゆる形状の基材B表面(内面を含む)に所望の磁石成形体と形成(塗装)することができるものである。
即ち、上記基材Bとしては、特に制限されるものではなく、希土類磁石が用いられる各種用途に応じた形状を持っていればよい。即ち、希土類磁石が用いられる、オーディオ機器のキャプスタンモータ、スピーカ、ヘッドホン、CDのピックアップ、カメラの巻上げ用モータ、フォーカス用アクチュエータ、ビデオ機器等の回転ヘッド駆動モータ、ズーム用モータ、フォーカス用モータ、キャプスタンモータ、DVDやブルーレイの光ピックアップ、空調用コンプレッサ、室外機ファンモータ、電気かみそり用モータなどの民生用電子機器分野;ボイスコイルモータ、スピンドルモータ、CD−ROM、CD−Rの光ピックアップ、ステッピングモータ、プロッタ、プリンタ用アクチュエータ、ドットプリンタ用印字ヘッド、複写機用回転センサなどのコンピュータ周辺機器・OA機器;時計用ステッピングモータ、各種メータ、ペジャー、携帯電話用(携帯情報端末を含む)振動モータ、レコーダーペン駆動用モータ、加速器、放射光用アンジュレータ、偏光磁石、イオン源、半導体製造機器の各種プラズマ源、電子偏光用、磁気探傷バイアス用などの計測、通信、その他の精密機器分野;永久磁石型MRI、心電図計、脳波計、歯科用ドリルモータ、歯固定用マグネット、磁気ネックレスなどの医療用分野;ACサーボモータ、同期モータ、ブレーキ、クラッチ、トルクカップラ、搬送用リニアモータ、リードスイッチ等のFA分野;リターダ、イグニッションコイルトランス、ABSセンサ、回転、位置検出センサ、サスペンション制御用センサ、ドアロックアクチュエータ、ISCVアクチュエータ、電気自動車駆動用モータ、ハイブリッド自動車駆動用モータ、燃料電池自動車駆動用モータ、パワーステアリング、カーナビゲーションの光ピックアップなど自動車電装分野など極めて幅広い分野の各種用途に応じた形状を持っていればよい。但し、本実施形態の希土類磁石が用いられる用途は、上記したほんの一部の製品(部品)に何ら制限されるものではなく、現在希土類磁石が用いられる用途全般に適用し得るものであることはいうまでもない。さらに、基材を離型材として利用し、基材上に形成した磁石成形体を基材表面から剥離した(剥がした)磁石成形体のみを取り出して、各種用途に使用することもできる。こうした場合には、基材の形状を使用用途に適用する形状にしておけばよく、多角形(三角形、正四角形菱形、六角形、円形等)の平板(円板)形状、多角形(三角形、正四角形菱形、六角形、円形等)波板状、ドーナツ状など、特に制限さえるものではない。
以上が、本実施形態のコールドスプレイ装置10の概要である。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではなく、原料粉末を溶融またはガス化させることなく、キャリアガスと共に超高速で固相状態のまま基材に衝突させて皮膜を形成する装置であればよく、既存コールドスプレイ装置を適宜利用することができる。
(2)コールドスプレイ法
本実施形態のコールドスプレイ法とは、不活性ガスで置換したチャンバ容器内で、原料粉末を溶融またはガス化させることなく、キャリアガスと共に超高速で固相状態のまま基材に衝突させて皮膜を形成する方法である。
本実施形態では、上記したコールドスプレイ装置10用いたコールドスプレイ法により、不活性ガスで置換したチャンバ容器内で、高速キャリアガス流に、原料粉末を投入することにより、キャリアガスにて原料粉末を堆積して固化成形する磁石成形体の製造方法である。詳しくは、上記コールドスプレイ装置10において、不活性ガスで置換したチャンバ容器内で、高速キャリアガス流に、原料粉末を溶融またはガス化させることなく投入することにより、キャリアガスと共に超高速で固相状態のまま原料粉末を基材に衝突・付着して皮膜を形成する。更にかかる操作を繰り返すことで原料粉末を基材上に堆積して堆積物(固化成形体)を固化成形する方法である。そして、本実施形態では、前記原料粉末が窒化物系の希土類磁石粉末とZn粒子を含むものであり、前記高速キャリアガスの温度を、前記窒化物の分解温度未満として、固化成形することを特徴とするものである。好ましくは前記キャリアガスとして、不活性ガスを使用することを特徴とするものであり、更に好ましくは前記原料粉末が、記原料粉末が、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子を更に含有することを特徴とするものである。
(2a)キャリアガス
ここで、キャリアガスとしては、任意のガスを用いることができる。より優れた磁気特性を得るためには、希ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn)、窒素ガス(N)など、磁石特性を劣化させない不活性ガスを用いることが好ましい。Ar、He、Nなど、入手が容易で安価であり、磁気特性を劣化させない不活性ガスを用いることが好ましい。より好ましくは、窒素ガス(N)は窒化物の分解が生じにくい利点や、ガスが安価であるという利点があり、Heは分子量が小さく、低圧でも速いガス速度が得やすく、設備費用が安価にできる利点がある。特に、酸化防止のため水素を含有させても良い。キャリアガスとして、こうした不活性ガスを使用することによって、より磁石粉末の磁気特性を損なうことなく、高密度な磁石成形体(バルク成形体)を得ることができる点で優れている。Nガスは窒化物の分解が生じにくく、Nを用いることで耐熱性特性を高めることができる利点があり、Heガスは分子量が小さく、ガス速度が得やすい利点がある。特に、酸化防止のため水素を含有させても良い。N−Hガスであれば、アンモニア分解ガスとして安価に入手できる利点がある。なお、キャリアガスとして、Air(空気)あるいは酸素ガス等の活性ガスを含むキャリアガスを用いた場合には、磁気特性の保磁力が0.31、残留磁束密度0.34と極端に低く(非常悪く)なることが実験により確かめられている。このことから、本実施形態では、上記したように不活性ガスを用いることが好ましいともいえる。
(2b)高速キャリアガスの調製
本実施形態で用いられる高速キャリアガスは、コールドスプレイ装置10を用いて以下の手順で調製される。まず、キャリアガス発生部11で低温のキャリアガス(低温ガスもという)を発生させる。発生した低温ガスは配管12内を圧送され、キャリアガス加熱ヒータ13のヒータ加熱により高温のキャリアガス(一次キャリアガスともいう)となる。次に、原料粉末供給部15で原料粉末とキャリアガスが所定の混合比率となるように調整された原料投入ガスと一次キャリアガスとが混合され、キャリアガス加速部17で加速されて高速キャリアガスが調製される。その後、この原料粉末を含む高速キャリアガスが基材に向けて超高速噴射され、基板上に磁石成形体を形成する。
(2c)低温ガス
上記したように低温ガスは、キャリアガス発生部11で発生させた低温のキャリアガスである。
(2c−1)低温ガスの温度
ここで、低温ガスの温度としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。低温ガスの温度の大体の目安としては、−30〜80℃、好ましくは0〜60℃、より好ましくは20〜50℃の範囲である。但し、かかる範囲に何ら制限されるものではなく、上記範囲を外れていても本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、本実施形態の技術範囲に含まれることはいうまでもない。低温ガスの温度が−30℃以上、好ましくは0℃以上、特に好ましくは20℃以上であれば、配管の結露が防止でき、水分の巻き込みによる材料特性の劣化を防止できるメリットがある。低温ガスの温度が80℃以下、好ましくは60℃以下、特に好ましくは50℃以下であれば、配管素材の劣化が防止できる他、安全上、配管に手を触れても火傷を防止することができる。また、原料粉末が不要な高温にさらされることがなく、安定した品質の磁石厚膜を得ることができるほか、高圧のボンベやタンクなどを冷却することなく安価に利用することができる。
(2c−2)低温ガスの圧力
低温ガスの圧力としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。低温ガスの圧力の大体の目安としては、0.3〜10MPa、好ましくは0.5〜5MPaの範囲である。但し、かかる範囲に何ら制限されるものではなく、上記範囲を外れていても本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、本実施形態の技術範囲に含まれることはいうまでもない。低温ガスの圧力が0.3MPa以上、特に好ましくは0.5MPa以上であれば、高圧で高速での粉末の加速が可能である。低温ガスの圧力が10MPa以下、特に好ましくは5MPa以下であれば、ガスの高圧化による高価な設備投資が抑制できるメリットがある。
(2c−3)低温ガスの流速・流量原料ガスの流速
低温ガスの流速・流量原料ガスの流速としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。低温ガスの流量も、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。装置仕様により異なるため一義的に規定することは困難であるが、低温ガスの流量の大体の目安としては、0.1〜1.0m/分の範囲が望ましい。
(2d)一次キャリアガス
一次キャリアガスは、キャリアガス発生部11で発生させた低温ガスを配管12で圧送し、キャリアガス加熱ヒータ13でヒータ加熱してなる高温のキャリアガスをいう。
(2d−1)一次キャリアガスの温度
一次キャリアガスの温度は、必ずしもヒータ加熱温度と同じである必要はなく、目的のガス温度に到達できるよう、一次キャリアガスの流量と流速に応じてヒータ加熱温度を調節すればよい。
一次キャリアガスのヒータ加熱温度については、特に規定はない。一次キャリアガスの加熱温度が高温でも、原料粉末が加熱される時間は、混合されてからノズル内を通過するごく一瞬であるため、磁気特性にはほとんど影響しないからである。即ち、キャリアガス加熱ヒータ13での一次キャリアガスの温度については、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。これは、キャリアガス加熱ヒータ13での加熱温度が高温でも、加熱された高温のキャリアガス(一次キャリアガス)により原料粉末が加熱される時間は、混合されてからキャリアガス加速部17(ノズルガン)のノズル内を通過するごく一瞬であるため、磁気特性にはほとんど影響しないためである。上記ヒータ加熱温度としては、ガス種、ガス温度にもよるので、ガス温だけを規定することが難しいが、200〜800℃、好ましくは300〜700℃、より好ましくは400〜650℃の範囲である。これは、ガス種、ガス温度、ガス圧力にもよるので、ガス温度だけを規定することが難しい。しかしながら、200℃以上であれば、原料投入ガスと混合した際に、温度が低下しすぎる懸念もなく、低温の原料投入ガスとの混合により原料粉末、噴射時に高速キャリアガスに求められるガス温度に調整することができるためである。一方、800℃以下であれば、一次キャリアガス温度が高くなりすぎて、原料粉末を劣化させる懸念もなく、キャリアガスガス加熱ヒータ13全体を耐熱性に優れた高価な部品・部材を使用しなくてもよく、生産コストを低減することができる点で優れている。以上のことから、一次キャリアガス温度は、200〜800℃の範囲にとどめることが好ましい。但し、かかる範囲に何ら制限されるものではなく、上記範囲を外れていても本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、本実施形態の技術範囲に含まれることはいうまでもない。
(2d−2)一次キャリアガスの圧力
一次キャリアガスの圧力としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。一次キャリアガスの圧力の大体の目安としては、0.3〜10MPa、好ましくは0.5〜5MPaの範囲である。但し、かかる範囲に何ら制限されるものではなく、上記範囲を外れていても本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、本実施形態の技術範囲に含まれることはいうまでもない。一次キャリアガスの圧力が0.3MPa以上、特に好ましくは0.5MPa以上であれば、重い金属粒子でも成膜に必要な加速速度に加速が可能である。一次キャリアガスの圧力が10MPa以下、特に好ましくは5MPa以下、さらに好ましくは、3MPa以下、特に好ましいのは1MPa以下であれば、ガスの高圧化による高価な設備投資が抑制できるメリットがある。
(2d−3)一次キャリアガスの流速
一次キャリアガスの流速としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。
(2e)原料粉末
本実施形態で用いられる原料粉末は、原料粉末供給部15で一次キャリアガスと所定の混合比率となるように調整されて原料投入ガスが調製される。
本実施形態で用いられる原料粉末としては、(1)Sm−Fe−NまたはSm−Feを主成分とする希土類磁石相を構成する磁石粉末と、(2)Zn粒子と、更に(3)任意成分として特定の非磁性金属粒子と、を含むものを用いることができる。ここで、上記Sm−Fe−Nとは、SmとFeを含有する窒化物をいう。上記Sm−Feとは、SmとFeを含有する窒化物以外の化合物をいう。上記特定の非磁性金属粒子とは、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子をいう。以下、上記(1)〜(3)の原料粉末成分につき説明する。
(2f)Sm−Fe−Nを主成分とする磁石粉末(希土類磁石相)
本実施形態の磁石粉末は、Sm−Fe−Nを主成分とするものである。これにより、従来のプロセスでは得られなかった高密度な窒化物の磁石成形体(理論密度の80%以上を有する)を得ることができ、モータ等のシステムの小型化ができる点で優れている。Sm−Fe−Nを主成分とする磁石粉末としては、例えば、SmFe17(ここで、xは、好ましくは1.5〜4.0、より好ましくは2.0〜3.5、更に好ましくは2.5〜3.3、より好ましくは2.8〜3.2)、SmFe17、(Sm0.75Zr0.25)(Fe0.7Co0.3)N(ここで、xは、好ましくは2.5〜3.5である)、SmFe11TiN(ここで、xは好ましくは2.5〜3.5である)、(SmZrFe848515、SmFe93(ここで、xは、好ましくは1〜20である)などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。好ましくは、SmFe14(x=2.5〜3.5)のような粉末でも高い磁気特性を発現できる磁石粉末を用いることが望ましい。焼結法と異なり、液相による粒子表面の清浄化作用が期待できないため、焼結プロセスを経て磁気特性を発現する類の焼結磁石用磁石粉末では、本プロセスで磁石成形体を作製しても、十分な特性が期待できないためである。言い換えれば、SmFe14(x=2.5〜3.5)のような焼結プロセスの適用が困難な磁石粉末を用いることが望ましいといえる。高速キャリアガス温度が、SmFe14(x=2.5〜3.5)のような窒化物(磁石粉末)が分解する温度以上になると磁気特性が損なわれるからである。本実施形態に用いる磁石粉末として、より望ましくはSmFe14(x=2.5〜3.3)、特に好ましくは、希土類磁石相がSmFe14(x=2.8〜3.2)構成される磁石粉末を用いることが望ましい。これは、SmFeNは、x=2.5〜3.3、特に2.8〜3.2で異方性磁界と飽和磁化が最大になり、磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性=剥離強度)に優れるためである。上記したような本実施形態の磁石粉末は、市販品を用いてもよいし、自ら調製してもよい。
(2f−1)磁石粉末の主成分の含有量
本実施形態の磁石粉末の主成分(Sm−Fe−N)の含有量は、磁石粉末全体に対して50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは90〜99質量%である。なお、さらに好ましくは範囲の上限値を99質量%とし、100質量%としていないのは、表面の酸化物や不可避的不純物が含まれている為である。すなわち、本実施形態では50質量%以上であればよく、100質量%のものを使用することも可能であるか、実際上、表面の酸化物や不可避的不純物を取り除くことは困難かつ複雑ないし高度な精製(精錬)技術を用いる必要があり、高価である。そのため、さらに好ましい範囲には含めていないものである。
(2f−2)磁石粉末に含まれる他の成分等
磁石粉末には、主成分(Sm−Fe−N)以外に他の元素(成分)を含有したものも本実施形態の技術範囲に含まれるものである。含有してよい他の元素としては、例えば、Ga、Nd、Zr、Ti、Cr、Co、Zn、Mn、V、Mo、W、Si、Re、Cu、Al、Ca、B、Ni、C、La、Ce、Pr、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Th、MMなどが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独又は2種以上を含有してもよい。これらの元素は主にSm−Fe−Nを主成分とする希土類磁石相の相構造の一部と置換されるか、挿入されるなどして導入されるものである。
同様に、磁石粉末には、Sm−Fe−N以外の他の磁石粉末を含んでいてもよい。こうした他の磁石粉末としては、Sm−Fe−N以外の他の既存の磁石粉末が挙げられる。かかる他の既存の磁石粉末としては、例えば、SmFe14B、SmCo14B、Sm(Fe1−xCo14B(ここで、xは好ましくは0≦x≦0.5である)、Sm15Fe77、Sm15Co77、Sm11.77Fe82.355.88、Sm11.77Co82.355.88、Sm1.1Fe、Sm1.1Co、SmFe10、SmCo10、(Sm1−xDy15Fe77(ここで、xは、好ましくは0≦y≦0.4である)、(Sm1−xDy15Co77(ここで、xは、好ましくは0≦y≦0.4である)、SmCo17(ここで、xは好ましくは1〜6である)、Sm15(Fe1−xCo77Al、Sm15(Fe0.80Co0.2077−yAl(ここで、yは、好ましくは0≦y≦5である)、(Sm0.95Dy0.0515Fe77.5Al0.5、(Sm0.95Dy0.0515(Fe0.95Co0.0577.56.5Al0.5Cu0.2、SmFe8020、Sm4.5Fe73CoGaB18.5、Sm5.5Fe66CrCo18.5、Sm10Fe74Co10SiB、Sm3.5Fe7818.5、SmFe76.518.5、SmFe77.518.5、Sm4.5Fe7718.5、Sm3.5DyFe73CoGaB18.5、Sm4.5Fe72CrCo18.5、Sm4.5Fe73SiB18.5、Sm4.5Fe71CrCo18.5、Sm5.5Fe66CrCo18.5、SmCo、SmCo17、SmCo、SmCo、SmCo、SmCo、SmCo等のSm−Co合金系、SmFe17、SmFe、SmFe等のSm−Fe合金系、CeCo、CeCo17、Ce24Co11、CeCo、CeCo、CeCo、CeCo19等のCe−Co合金系、NdFe17等のNd−Fe合金系、CaCu等のCa−Cu合金系、TbCu等のTb−Cu合金系、SmFe11Ti等のSm−Fe−Ti合金系、ThMn12等のTh−Mn合金系、ThZn17等のTh−Zn合金系、ThNi17等のTh−Ni合金系、LaFe14B、CeFe14B、PrFe14B、GdFe14B、TbFe14B、DyFe14B、HoFe14B、ErFe14B、TmFe14B、YbFe14B、YFe14B、ThFe14B、LaCo14B、CeCo14B、PrCo14B、GdCo14B、TbCo14B、DyCo14B、HoCo14B、ErCo14B、TmCo14B、YbCo14B、YCo14B、ThCo14B、YCo、LaCo、PrCo、NdCo、GdCo、TbCo、DyCo、HoCo、ErCo、TmCo、MMCo、MM0.8Sm0.2Co、Sm0.6Gd0.4Co、YFe11Ti、NdFe11Ti、GdFe11Ti、TbFe11Ti、DyFe11Ti、HoFe11Ti、ErFe11Ti、TmFe11Ti、LuFe11Ti、Pr0.6Sm0.4Co、Sm0.6Gd0.4Co、Ce(Co0.72Fe0.14Cu0.145.2、Ce(Co0.73Fe0.12Cu0.14Ti0.016.5、(Sm0.7Ce0.3)(Co0.72Fe0.16Cu0.12、Sm(Co0.69Fe0.20Cu0.10Zr0.017.4、Sm(Co0.65Fe0.21Cu0.05Zr0.027.67などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独ででもよいし、2種以上を有していてもよい。
(2f−3)磁石粉末の形状
本実施形態の磁石粉末の形状としては、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば如何なる形状であってもよい。例えば、球形状、楕円形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい)、円柱形状、多角柱(例えば、三角柱、四角柱、五角柱、六角柱、・・n角柱(ここで、mは7以上の整数である))形状、針状ないし棒状形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい。)、板状形状、円板(円盤)形状、薄片形状、鱗片形状、不定形状などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。粒子形状として好ましくは、付着性が極端に悪いような粒子速度や弾性挙動を示さなければ、特に規定しないが、あまり扁平した形状は加速が困難になるため、できるだけ球状粒子に近い形状が好ましい。なお、Sm−Fe−Nの希土類磁石相(主相・結晶相)は結晶構造を有しており、結晶成長により所定の結晶形状とすることもできる。
(2f−4)磁石粉末の大きさ(平均粒子径)と酸素濃度
本実施形態では、磁石粉末の大きさ(平均粒子径)と酸素濃度の関係を図4に示す。図4に示すように本実施形態では、スプレイに供する磁石粉末として、以下の(1)または(2)の要件を満足するものを用いるのが本発明の作用効果を有効に発現し得る点で望ましい。即ち、(1)スプレイに供する磁石粉末の酸素濃度が0.5〜1.5質量%でかつ平均粒子径が0.5〜10μmである、または(2)スプレイに供する磁石粉末の酸素濃度が0.5質量%以下でかつ平均粒子径が10μm以上であるのが望ましい。
上記(1)では、磁石粉末の酸素濃度が0.5〜1.5質量%でかつ平均粒子径が0.5〜10μmとすることで、磁石粉砕が不十分、且つ、弱いスプレイ条件でも比較的容易に高いHcの磁石を得ることができる。さらにコールドスプレイ法を利用するための最適な粒子速度を得ることができる。そのため、より効率的に成膜(成形体)を成長させることができ、磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性)に優れた所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)とすることができる。また成膜(成形体)、更には磁石成形体中の酸素濃度が高くなるのを抑制することができる点で優れている。
ここで、上記(1)の磁石粉末の酸素濃度としては、通常0.5〜1.5質量%、好ましくは0.6〜1.5質量%、より好ましくは0.7〜1.4質量%の範囲である。磁石粉末の酸素濃度が上記範囲内であれば、表面に適度な酸化膜が形成できており酸素濃度が高くなりすぎるのを防止し、磁石性能を損なうことなく発火を防止でき、安全かつ容易に取り扱うことができる点で優れている。但し、上記(1)の場合、磁石粉末の表面に、酸化膜を形成するのではなく、酸化防止の皮膜処理を施してもよい。この場合の磁石粉末の酸素濃度は、上記範囲よりも低い酸素濃度(0.5質量%以下)であってもよい。これは、磁石粉末が、粒径の小さい微粉末であっても酸素濃度を低くすることで、磁石性能を損なうことなく発火を防止でき、安全かつ容易に取り扱うことができる点で優れている為である。
また上記(1)の磁石粉末の平均粒子径としては、本発明の作用効果を有効に発現し得る範囲内であればよく、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは1〜5μmの範囲のものを利用することが好ましい。磁石粉末の平均粒子径が上記範囲内であれば、コールドスプレイ法を利用して、最適な粒子速度を得ることができる。そのため、より効率的に成膜(成形体)を成長させることができ、磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性)に優れた所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)とすることができる点で優れている。詳しくは、上記磁石粉末の平均粒子径が0.5μm以上であれば、粒子が軽すぎることもなく、最適な粒子速度を得ることができる。そのため、粒子速度が早くなりすぎて基板を削ることもなく、基材に最適な速度で衝突・付着し、堆積化することで所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。上記磁石粉末の平均粒子径が10μm以下であれば、粒子が単結晶になり磁気特性の優れた成形体を得ることができる。また、比較的容易に粒子を加速することができ、経済的に有利である。
上記(1)のスプレイに供する磁石粉末の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用することができる。以下、溶融法を利用した磁石粉末の製造例につき説明する。但し、かかる製法に何ら制限されるものではなく、以下に説明する溶融還元法(溶融拡散法)等を利用して磁石粉末を製造することもできる。
(溶融法を利用した磁石粉末の製造例)
例えば、いわゆる溶融法で作成したSmFe17の2元合金を窒化処理することで、SmFeN化合物を得ることができる。
以下に各プロセス(段階)について詳細に述べる。
1.母合金の合成
原料合金は高周波炉、アーク溶解炉によっても、又液体超急冷法によっても作製できる。Sm−Fe原料合金の組成はSmが20〜30mass%、Feが80〜70mass%の範囲にあることが好ましい。Sm−Fe原料合金におけるSmが5モル%未満では合金中にα−Fe相が多く存在し、高保磁力が得られない。また、25モル%を越えると高い残留磁束密度が得られない。
高周波炉及びアーク溶解炉を用いた場合、溶融状態から合金が凝固する際にFeが析出し易く、このことは磁気特性、とくに保磁力の低下をひきおこす。そこでFe単体での相を消失させ、合金の組成の均一化および結晶性の向上を目的として焼鈍を行うことが有効である。この焼鈍は800℃〜1300℃で行う場合に効果が顕著である。この方法で作製した合金は液体超急冷法などと比較して結晶性が良好であり、高い残留磁束密度を有している。
液体超急冷法、ロール回転法などの合金作製法でも、目的組成の合金を作製できる。ただし、冷却速度が大きい場合には合金の非晶質化が起こり、残留磁束密度、保磁力が他の方法ほど上昇しない場合がある。この場合にも焼鈍等の後処理が必要である。
2.粗粉砕
この段階の粉砕はジョークラッシャー、スタンプミル、ブラウンミル等のような粗粉のみを調製するような方法でもよいし、ボールミル、ジェットミルによっても条件次第で可能である。しかし、この粉砕は次の段階における窒化を均一に行わしめるためのものであり、その条件とあわせて十分な反応性を有し、かつ酸化が顕著に進行しない粉体状態に調製することが重要である。
またこの段階(工程)で、水素吸蔵と水素放出処理を行うことで、その体積変化により粉砕を促進することができる。
3.窒化
粉砕された原料母合金を窒化させる方法としては、原料母合金粉末をアンモニア分解ガスまたは、窒素と水素の混合ガス中で加熱処理する方法が有効である。合金中に含まれる窒素量は加熱温度と処理時間によって制御し得る。
窒素、水素、アンモニアガスの混合比は処理条件との関連で変化させ得るが、アンモニアガス分圧としては、とくに0.02〜0.75atmが有効であり、処理温度は200〜650℃の範囲が好ましい。処理温度が低温では侵入速度が小さく、650℃を越える高温では鉄の窒化物が生成し、磁気特性は低下する。また、可能な限り、酸素分圧と露点を低下させる方が望ましい。
4.微粉砕
酸素濃度が低い粗大なSmFeN系合金粉末(磁石粗粉末)を、不活性ガス雰囲気中で、所定の平均粒子径になるまで粉砕加工(微粉砕処理)を施し、乾燥する。微粉砕方法としてはボールミルやビーズミルで粉砕することが最も有効であるが、カッターミル、ジェットミルなどの方法で粉砕することも可能である。
微粉砕工程では、湿式粉砕の場合、乾燥時の雰囲気中の酸素濃度を制御することで、表面に適度に酸化膜が形成されたSmFeN系粉末(磁石微粉末)を得ることができ、スプレイに供する磁石粉末として用いることができる。
ビーズミルでは、溶媒中の酸素濃度を0.3%以下の無水の有機溶剤を用いて粉砕することが好ましい。また、0.1〜20質量%程度の潤滑剤を添加してもよい。潤滑剤としては、粘度が10mPa・s(10cP)以下で、発火性がなく乾燥も行いやすい有機液体を用いるのが好ましく、例えば、オクタン酸、オクタン酸エチル、オクタン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸ブチル、ラウリン酸メチル等がある。乾燥では、IPA(イソプロピルアルコール)やヘキサンを用いて、有機溶液を洗い流すとともに、揮発性の高いものに置換し、不活性ガス雰囲気のグローブボックス中で室温で放置して、乾燥させればよい。
(溶融還元法(溶融拡散法)を利用した製造例)
以下では、上記(1)の磁石粉末の製造方法の他の例として、溶融還元法(溶融拡散法)を利用した磁石粉末の製造例を図5を用いて説明する。更に、得られた磁石粉末を用いたSmFeN系磁石成形体の製造プロセスを図5を用いて説明する。
1.混合
まず、図5に示すように、サマリウム酸化物粉末を主成分として含む希土類酸化物粉末(必要に応じ、その他の原料粉末を含む)と鉄粉とを調合、混合する(第1工程;S1)。
上記サマリウム酸化物粉末を主成分として含む希土類酸化物粉末としては、Smを主成分として含むものであればよく、特に制限はない。主成分のSm以外にも、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Th、MM等の希土類元素を含んでいてもよい。高い保磁力を得る観点からは、主成分のSmを希土類元素全体の60質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましく100質量%(全量サマリウム酸化物)である。
また、サマリウム酸化物粉末を主成分として含む希土類酸化物粉末には、保磁力の向上、生産性の向上、さらに低コスト化の観点から、必要に応じ、その他の原料粉末が所定量添加されていてもよい。その他の原料粉末としては、所定量のGa、Zr、Ti、Cr、Co、Zn、Mn、V、Mo、W、Si、Re、Cu、Al、Ca、B、Ni、C等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
サマリウム酸化物粉末を主成分として含む希土類酸化物粉末の粒子径は、特に制限はないが、反応性および作業性などの面から10μm以下であることが好ましい。
また上記希土類酸化物粉末に必要に応じ添加されるその他の原料粉末の粒子径も特に制限はないが、反応性および作業性などの面から10μm以下であることが好ましい。
また、上記鉄粉としては、特に制限はなく、還元鉄粉、ガスアトマイズ粉、水アトマイズ粉、カルボニル鉄粉および電解鉄粉などを用いることができる。また、鉄の20質量%以下をコバルトで置換した鉄粉を用いてもよい。
鉄粉の粒子径としては、粒子径が10〜70μmの粉末が80体積%以上占める粉末を用いることが好ましい。これは、鉄粉が70μm以下であれば、SmFe合金を合成させるのに、Fe中にSmが拡散するのに時間を要することなく行うことができる点優れている。鉄粉が10μm以上であれば、粉砕するのに時間及びコストを要することなく(購入する場合には安価に調達できる)、また粉砕時に粉塵化することもなく、取扱い易い点でも優れている。
希土類酸化物粉末と鉄粉の混合には、例えば、V字ブレンダ、S字ブレンダなど、公知の混合器を用いることができる。
次にS1で調合、混合された原料を還元、洗浄、乾燥してSmFe合金粉末を製造する(第2〜4工程;S2〜S4)。即ち、S1で調合、混合された原料から還元拡散法によりSmFe合金粉末を製造(原料を還元、洗浄、乾燥)する。
2.還元
ここで、原料の還元工程(S2)で用いた還元拡散法では、まず、S1で調合、混合された原料に、さらに原料(サマリウム酸化物粉末を主成分として含む希土類酸化物粉末)を還元するのに十分な還元剤を添加混合する。その後、この混合物を反応容器に投入し、非酸化性雰囲気(酸素が実質的に存在しない雰囲気)中において、還元剤が溶融する温度800℃以上、好ましくは1000℃以上でかつ、SmFe合金が溶融しない温度まで昇温、保持して加熱処理する。かかる加熱処理することにより、サマリウム酸化物をSm元素(同様に他の希土類酸化物を希土類元素)に還元する共に、このサマリウム酸化物ないしSm元素(更に他の希土類酸化物ないし希土類元素)を鉄粉中に拡散させて、SmFe合金を合成する。
3.洗浄
洗浄工程(S3)では、得られたSmFe合金を、空冷、炉冷により、室温まで冷却した後、純水中に投入して、崩壊処理を施すとともに、酸化カルシウムや金属カルシウムなどとして残留する還元剤を溶解、除去する。水洗処理として、攪拌とデカンテーションを所定回数行うことにより、合金粉末を主体としたスラリーが得られる。次に、得られたスラリーに対して酸洗処理を行う。酸洗処理では、残った水酸化カルシウムなどの除去と、磁石粉末の表面状態を活性に保つために過剰に添加した希土類元素(Sm元素)によって生成した希土類元素(Sm元素)リッチ相の除去とを行う。次に酸洗処理後に、得られた合金粉末から、酸を除去するための水洗処理を行う。ここでの水洗処理では、酸洗処理後に得られた合金粉末を、純水中に投入して、酸を除去する。水洗処理として、攪拌とデカンテーションを所定回数行うことにより、合金粉末を主体としたスラリーが得られる。その後、乾燥(S4)を行えばよい。
4.乾燥
乾燥工程(S4)では、上記水洗処理で得られたスラリーをエタノールで数回、掛水洗浄し、10〜65℃(例えば、35℃程度)で真空乾燥すればよい。
なお、S2とS3の間に、粉砕を容易にするため、水素吸蔵と水素放出処理を行うことで、その体積変化により粉砕を促進することができる。
5.窒化
次に、S4で得られたSmFe合金粉末を、窒化処理する(第5工程;S5)。S5では、S4で得られたSmFe合金粉末を、Nガス、NHガス(加熱により分解して窒素を供給しうる化合物ガス)、NとHガスの混合ガスなどの雰囲気中で600℃以下、好ましくは300〜500℃の温度で熱処理(窒化処理)を施す。これにより、SmFeN系合金粉末(磁石粗粉末)とすることができる。S4で得られたSmFe合金粉末は、多数のクラックを含む塊状であるため、粉砕を行うことなく、窒素含有雰囲気中、上記温度範囲内で熱処理を施すことにより、均一にSmFe合金(反応生成物)を窒化することができる。
次に、S5により得られた酸素濃度が低い粗大なSmFeN系合金粉末(磁石粗粉末)を、ビーズミルを用いて、所定の平均粒子径になるまで粉砕加工(微粉砕処理)を施し(第6工程;S6)、乾燥する(第7工程;S7)。かかるS6〜S7により、表面に適度に酸化膜が形成されたSmFeN系粉末(磁石微粉末)を得ることができ、スプレイに供する磁石粉末として用いることができる。
6.微粉砕
ビーズミルを用いた微粉砕処理(S6)では、溶媒中の酸素濃度を0.3%以下の無水の有機溶剤を用いて粉砕することが好ましい。また、0.1〜20質量%程度の潤滑剤を添加してもよい。潤滑剤としては、粘度が10mPa・s(10cP)以下で、発火性がなく乾燥も行いやすい有機液体を用いるのが好ましく、例えば、オクタン酸、オクタン酸エチル、オクタン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸ブチル、ラウリン酸メチル等がある。
7.乾燥
乾燥(S7)では、IPAやヘキサンを用いて、有機溶液を洗い流すとともに、揮発性の高いものに置換し、不活性ガス雰囲気のグローブボックス中、室温で放置して、乾燥させればよい。
8.固化成形
次に、S7で得られた磁石粉末をコールドスプレイ法により固化成形する(第8工程;S8)ことで、成形体を形成する。その後、図示していないが、得られた成形体を熱処理することで、所望の磁石成形体を作製することができる。
なお、この固化成形工程(S8)は、上記(1)のスプレイに供する磁石粉末の製造方法として、従来公知の方法を適宜利用して得られた磁石粉末に適用し得るものである。よって、上記した溶融法を利用して得られた磁石粉末をコールドスプレイ法により固化成形することで成形体を形成することができる。
上記(2)では、磁石粉末の酸素濃度0.5質量%以下でかつ平均粒子径10μm以上とすることで、施工中(粉体成膜中)の雰囲気の影響を受け難く、磁石成形体中の酸素濃度が高くなるのを抑制することができ、保磁力等の磁石性能に優れた磁石成形体を得ることができる。また、後述するように製造工数を低減でき、また粉塵などの発生もなく取り扱いが容易である点でも優れている。これは、通常、平均粒子径10μm以上(35μm以下)の粗大なSmFeN粒子等の磁石粉末は、保磁力が弱く、磁石として機能しない。そのため、0.5〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは1〜5μmの粒子径にまで粉砕加工(微粉砕)して用いている。しかし、この様な微粉末は、粒子径が小さくなるほど発火の危険があるため、通常、表面に意図的(積極的)に酸化膜を形成させたり、酸化防止の皮膜処理を施して用いられている(市販品を含む)(上記(1)参照)。コールドスプレイのような、粒子を高速に加速して基板に吹き付けて成膜するプロセスでは、粗大な粒子は基板への衝突時に粉砕されることになる。そのため、上記(2)で規定するような酸素濃度が低い粗大な磁石粉末を用いても、粉砕して磁石特性を発現させながら成形体に加工することができるものである。
ここで、上記(2)の磁石粉末の酸素濃度としては、通常0.5質量%以下、好ましくは0.4質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下で、磁気特性的には、低いほど好ましい。一方、低酸素化すると、大気中で急激に酸化して燃焼するなど取り扱いが難しく、また、粒子同士が凝集して配向制御が難しくなるため、製造性の観点では0.1質量%以上に留めることが望ましい。
上記(2)の磁石粉末の平均粒子径としては、通常10μm以上、好ましくは10〜40μm、より好ましくは10〜35μm、更に好ましくはより好ましくは10〜30μmの範囲のものを利用することが好ましい。磁石粉末の平均粒子径が上記範囲内(10μm以上)であれば、コールドスプレイ法を利用して、粒子を高速に加速して基板に吹き付けて成膜するプロセスにより、粗大な粒子は基板への衝突時に粉砕されることになる。そのため、上記(2)の酸素濃度が低い粗大な磁石粉末を用いても、基板への衝突時に粉砕して磁石特性を発現させながら成形体に加工することができる。そのため、より生産性良く効率的に成膜(成形体)を成長させることができ、磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性)に優れた所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)とすることができる。なお、磁石粉末の平均粒子径の上限値については、特に制限されるものではないが、好ましくは上記したように40μm以下である。これは、上記(1)で説明したように、SmFe合金粉末を窒化すると、粒子径の大きい粉末は、窒化膨張で割れることから、通常、その平均粒子径が40μmを超えることはないためである。
本実施形態の磁石粉末の粒子径は、イソプロパノール中に磁石粉末を分散させてレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて粒度測定を行い、もっとも頻度が多いモード径を平均粒子径とみなした。
また本実施形態の磁石粉末内の酸素濃度分析は、磁石粉末(サンプル)を、酸素窒素分析装置(例えば、堀場製作所製のEMGA−920型)を用いて、赤外線吸収法により実施し、求めることができる(実施例では当該装置及び分析法により実施した)。但し、本実施形態では、他の分析装置(分析法)を用いて磁石粉末内の酸素濃度を測定(分析)してもよいことは言うまでもない。
上記(2)のスプレイに供する磁石粉末についても、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用することができる。例えば、SmFeN系磁石成形体の製造工程を示す図5を用いて説明すれば、上記(1)の磁石粉末の製造方法で説明した溶融法の1段階から3段階(窒化)まで、或いは溶融還元法のS1からS5(窒化)までを行えばよい。その後、窒化処理により得られた酸素濃度が低い粗大なSmFeN磁石粗粉末をスプレイに供する磁石粉末として用い、コールドスプレイ法により固化成形する(第6’工程;S6’)ことで、成形体を形成することができる。その後、得られた成形体を熱処理することで、所望の磁石成形体を作製することができる。
上記したように、上記(2)のスプレイに供する磁石粉末は、窒化処理後に粉砕加工を施されていないことが望ましい。上記(2)のスプレイに供する磁石粉末が窒化処理後に粉砕加工(微粉砕)等(溶融法の4段階、或いは溶融還元法のS6〜S7(図5参照))が施されていない。そのため、安価な原料粉末(3段階(窒化)或いはS5(窒化)で得られた磁石粉末)を使用することが可能で、経済的に優れる磁石成形体を得ることができる点で優れている。
(2f−5)磁石粉末以外の原料粉末の構成について
本実施形態の原料粉末において、上記磁石粉末のほかに、Zn粒子と、更に(3)任意成分として特定の非磁性金属粒子と、を含むものである。以下、Zn粒子および非磁性金属粒子につき説明する。
(2g)Zn粒子
本実施形態では、原料粉末としてZn粒子を含む。これは、Sm−Fe−Nの磁気特性改善の元素としては、Znが知られている。Znは、低融点のメタルバインダとして用いられており、バルク化時に、Sm−Fe−Nが熱分解で発生するFeと反応して非磁性のFe−Zn化合物を形成することで、保磁力の低下を抑制している。
本実施形態では、原料粉末として、Zn粒子を磁石粉末(Sm−Fe−N)と混合して、固化成形体(ひいては磁石成形体)を固化形成とすることで、Zn粒子が溶融することがない温度領域で保磁力が劣化しないだけではなく、むしろ用いた原料状態よりも保磁力が向上することを見出したものである。
本実施形態では、上記したようにZn粒子を用いることで所望の作用効果を奏することができる点で優れている。Zn粒子は磁性特性に寄与する(十分な効果が得られる)が、他の金属粒子(例えば、Mn粒子等)では磁性特性にさほど寄与することができない(一定の効果に留まる)為である。但し、実施例にも示すようにZn粒子単独のほかに、特定の非磁性金属粒子として好適な1種であるCu粒子等を併用しても、所望の作用効果を奏することができる点で好適な態様の1つと言える。
(2g−1)Zn粒子の形状
本実施形態のZn粒子の形状としては、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば如何なる形状であってもよい。例えば、球形状、楕円形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい)、円柱形状、多角柱(例えば、三角柱、四角柱、五角柱、六角柱、・・N角柱(ここで、Nは7以上の整数である。))形状、針状ないし棒状形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい。)、板状形状、円板(円盤)形状、薄片形状、鱗片形状、不定形状などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。粒子形状として好ましくは、付着性が極端に悪いような粒子速度や弾性挙動を示さなければ、特に規定しないが、あまり扁平した形状は加速が困難になるため、できるだけ球状粒子に近い形状が好ましい。
(2g−2)Zn粒子の大きさ(平均粒子径)
本実施形態のZn粒子の大きさ(平均粒子径)としては、本発明の作用効果を有効に発現し得る範囲内であればよく、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは1〜5μmの範囲である。Zn粒子の平均粒子径が上記範囲内であれば、コールドスプレイ法を利用して、最適な粒子速度を得ることができる。そのため、より効率的に成膜を成長させることができ、磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性)に優れた所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)とすることができる点で優れている。詳しくは、上記Zn粒子の平均粒子径が0.5μm以上であれば、粒子が軽すぎることもなく、最適な粒子速度を得ることができる。そのため、粒子速度が早くなりすぎて基板を削ることもなく、基材に最適な速度で衝突・付着し、堆積化することで所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。一方、上記磁石粉末の平均粒子径が10μm以下であれば、粒子が重くなりすぎることもなく、失速することなく最適な粒子速度を得ることができる。即ち、粒子速度が遅くなりすぎて、基材と衝突して跳ね返されることもないため、基材に最適な速度で衝突・付着し、堆積化することで所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。粒子の平均粒子径の測定方法については、第1の実施形態で説明した各種の粒子の平均粒子径の測定方法と同様にして行うことができる。
(2g−3)原料粉末に占めるZn粒子の割合(体積率)
本実施形態では、Zn粒子の含有量(合計量)は、体積率で0%を超えて15%以下、好ましくは3〜15%の範囲であるのが望ましい。原料粉末に占めるZn粒子の含有量(合計量)を上記範囲内とすることで、Znによる保磁力向上効果を有しつつ、磁石粒子の正味の含有量が不足することによる残留磁束密度の低下が少ない混合成形体を得ることができる。そもそも、磁石粒子からなる希土類磁石相の構成元素としてZnを含有していなくても、皮膜形成時に上記体積率で0%を超えて15%以下として混合するだけで、磁石成形体内部にZn粒子が均一微細に分散され、磁石の保磁力を効果的に向上できる。そのため、磁気特性(保磁力、残留磁石密度、密着性=剥離強度)に優れた固化成形体(ひいては磁石成形体)とすることができる。即ち、Zn粒子の含有量(合計量)が0%の場合には十分な磁石特性(保磁力、残留磁束密度)が得られない問題がある。Zn粒子の含有量が15%以下であれば、従来のボンド磁石と異なり、磁気特性(特に残留磁束密度)の向上効果が得られる。なお、Zn粒子の体積率は、SEM(走査型電子顕微鏡)による断面組織観察を行い、AES(オージュ電子分光分析法)、EPMA(電子プローブマイクロアナリシス)等の手法で元素マッピングを行い面積率を求めた。任意の10視野について面積率を計測し、平均値を体積率とみなした。
また、本実施形態では、原料粉末に占めるZn粒子の含有量として、質量割合(質量%)を用いて規定することもできる。この際のZn粒子の含有量は、3質量%以上、好ましくは3〜15質量%の範囲であるのが望ましい。Zn粒子の含有量を上記範囲内とすることで、Znの含有量が少なすぎて保磁力向上効果の発現が得られない問題を避けることができる。即ち、Znによる保磁力向上効果を有しつつ、希土類磁石相の正味の含有量が不足することによる残留磁束密度の低下が少ない磁石成形体を得ることができる。そもそも、磁石粒子からなる希土類磁石相の構成元素としてZnを含有していなくても、皮膜形成時に3質量%以上、好ましくは3〜15質量%の範囲で混合するだけで、磁石成形体内にZn粒子が均一微細に分散され(図1参照)、磁石の保磁力を効果的に向上できる。そのため、磁気特性(保磁力、残留磁石密度、密着性=剥離強度)に優れた磁石成形体とすることができる。即ち、Zn粒子の含有量が3質量%以上であれば、十分な磁石特性(保磁力、残留磁束密度)を発現することができる。一方、Zn粒子の含有量の上限は特に制限がないが、15質量%以下であれば、従来のボンド磁石と異なり、磁気特性(特に残留磁束密度)の向上効果が得られる。なお、Zn粒子の含有量は、希土類磁石相及び磁石成形体の組成解析として、誘導結合プラズマ発光分光分析法(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPS−3520UV型)を用いて定量解析することで、算出することができる。
(2h)粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子
本実施形態では、原料粉末に、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子(以下、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子とも略記する)を含有していてもよい。原料粉末に弾塑性比が50%以下の変形しやすい粒子を含めることで、皮膜の厚膜化に伴う応力を緩和するため、厚膜化しても剥離しにくい、保磁力の高い磁石成形体を得ることができる。
また、原料粉末に、上記Zn粒子と共に、弾塑性比が50%以下の変形しやすい非磁性金属粒子を混合することで、剥離が少なく厚膜化が可能で、保磁力に優れた磁石成形体を得ることができる。
上記弾塑性比が50%以下の変形しやすい非磁性金属粒子としては、Ni、Co、Fe以外の金属元素は、非磁性金属元素であり、粉末として得られるものであれば非磁性金属粒子とすることができる。ただし、上記したZn粒子は、弾塑性比が50%以下の変形しやすい非磁性金属粒子を区別する必要上、当該非磁性金属粒子には含めないものとする。具体体的には、CuやAlといった軟質の合金などが好適に用いられる。ただし、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではない。
(2h−1)弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の形状
本実施形態の上記弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の形状としては、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば如何なる形状であってもよい。例えば、球形状、楕円形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい)、円柱形状、多角柱(例えば、三角柱、四角柱、五角柱、六角柱、・・N角柱(ここで、Nは7以上の整数である。))形状、針状ないし棒状形状(長軸方向に平行な中央部断面の縦横比(アスペクト比)が1.0を超えて10以下の範囲が望ましい。)、板状形状、円板(円盤)形状、薄片形状、鱗片形状、不定形状などが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の粒子形状として好ましくは、付着性が極端に悪いような粒子速度や弾性挙動を示さなければ、特に規定しないが、あまり扁平した形状は加速が困難になるため、できるだけ球状粒子に近い形状が好ましい。
(2h−2)弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の大きさ(平均粒子径)
本実施形態の弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の平均粒子径としては、本実施形態の作用効果を有効に発現し得る範囲内であればよく、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは1〜5μmの範囲である。弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の平均粒子径が上記範囲内であれば、コールドスプレイ法を利用して、最適な粒子速度を得ることができる。そのため、より効率的に成膜を成長させることができ、磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性)に優れた所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)に寄与できる点で優れている。詳しくは、上記非磁性金属粒子の平均粒子径が0.5μm以上であれば、粒子が軽すぎることもなく、最適な粒子速度を得ることができる。そのため、粒子速度が早くなりすぎて基板を削ることもなく、基材に最適な速度で衝突・付着し、堆積化することで所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)の固化成形に寄与することができる。一方、上記磁石粉末の平均粒子径が10μm以下であれば、粒子が重くなりすぎることもなく、失速することなく最適な粒子速度を得ることができる。即ち、粒子速度が遅くなりすぎて、基材と衝突して跳ね返されることもないため、基材に最適な速度で衝突・付着し、堆積化することで所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)の固化成形に寄与することができる。粒子の平均粒子径の測定方法については、第1の実施形態で説明した各種の粒子の平均粒子径の測定方法と同様にして行うことができる。
(2h−3)原料粉末に占める非磁性金属粒子の割合(体積率)
本実施形態では、原料粉末に占める上記弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量(合計量)は、体積率で0%を超えて20%未満、好ましくは1%以上20%未満の範囲であるのが望ましい。これは磁気特性(保磁力、残留磁石密度、密着性=剥離強度)を損ねないためには、体積率としては小さいほど良いが、ゼロになると成膜性が損なわれる(特にZn粒子を含有しない場合には、顕著となる)。そのため、1%以上20%未満含有することで効率的に成膜が可能になる点で望ましいといえる。即ち、Zn粒子の含有量(合計量)が0%で尚且つ非磁性金属粒子の含有量も0%の場合には十分な磁石特性(保磁力、残留磁束密度)が得られない問題がる。原料粉末に占める上記弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量が20%未満であれば、従来のボンド磁石と異なり、磁気特性(特に残留磁束密度)の向上効果が得られる。なお、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の体積率は、SEM(走査型電子顕微鏡)による断面組織観察を行い、AES(オージュ電子分光分析法)、EPMA(電子プローブマイクロアナリシス)等の手法で元素マッピングを行い面積率を求めた。任意の10視野について面積率を計測し、平均値を体積率とみなした。
なお、本実施形態では、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量(合計量)として、磁石成形体全体に占める質量割合(質量%)を用いて規定することもできる。この際のZn粒子の含有量(合計量)は、0質量%を超えて20質量%未満、好ましくは1質量%以上20質量%未満の範囲であるのが望ましい。これは磁気特性(保磁力、残留磁石密度、密着性=剥離強度)を損ねないためには、含有量としては小さいほど良いが、ゼロになると成膜性が損なわれる(特にZn粒子を含有しない場合には、顕著となる)。そのため、1質量%以上20質量%未満含有することで効率的に成膜が可能になる点で望ましいといえる。即ち、Zn粒子の含有量が0質量%で尚且つ非磁性金属粒子の含有量も0質量%の場合には十分な磁石特性(保磁力、残留磁束密度)が得られない問題がある。弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量に対して、(磁石の比重)÷(非磁性金属粒子の比重)×質量%で規定される値が、20質量%未満であれば、従来のボンド磁石と異なり、磁気特性(特に残留磁束密度)の向上効果が得られる。なお、弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子の含有量は、希土類磁石相及び磁石成形体の組成解析として、誘導結合プラズマ発光分光分析法(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPS−3520UV型)を用いて定量解析することで、算出することができる。
(2h−4)変形しやすい非磁性金属粒子の弾塑性比
上記した変形しやすい非磁性金属粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比は50%以下であればよい。変形しやすい非磁性金属粒子の弾塑性比の下限値には、値も臨界的な意味も存在しないが、軟質過ぎると付着強度が小さくなりすぎるので、軟質金属でも2.5%程度の弾塑性比があった方が好ましい。また、上限値は、弾塑性比が低いほど、効率的に成膜が可能になるので、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下とする。よって、変形しやすい非磁性金属粒子の弾塑性比として好ましくは2.5〜50%、より好ましくは2.5〜45%、特に好ましくは2.5〜40%の範囲である。変形しやすい非磁性金属粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比は、ナノインデンテーション法を用いて、変形のし易さの指標として定義した。図2(a)は、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比を求めるナノインデンテーション法に使う実験装置を模式的に表した概略図である。図2(b)は、図2(a)の実験装置を使って得られた圧入深さhと荷重Pの関係から弾塑性比の算出するためのグラフの模式図ある。ナノインデンテーション法は、図2(a)に示すように、実験装置20の基盤(図示せず)上に載置した試料23の表面にダイヤモンド製の三角錐の圧子21をある荷重まで押し込んだ(圧入)後、その圧子21を取り除く(除荷)までの荷重(P)と変位(圧入深さh)の関係(圧入(負荷)−除荷曲線)を測定する方法である。図2(b)に示す、圧入(負荷)曲線は材料の弾塑性的な変形挙動を反映し、除荷曲線は弾性的な回復挙動により得られる。そして。図2(b)に示す負荷曲線と除荷曲線とで囲まれた面積(実線のハッチ部分)が、塑性変形に消費したエネルギーEpである。また負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線と除荷曲線とで囲まれた面積(破線のハッチ部分)が、弾性変形で吸収されたエネルギーEeである。以上から、粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比=Ee/Ep×100(%)として求められる。
(2i)原料粉末全体の大きさ(平均粒子径)
原料粉末は、上記したように(1)SmとFeを含有する窒化物(単にSm−Fe−Nとも称する)を主成分とする希土類磁石相と、(2)Zn粒子と、更に(3)任意成分として特定の非磁性金属粒子とからなる。これらの成分の混合物である原料粉末の平均粒子径は、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは1〜5μmの範囲のものを利用することが好ましい。即ち、原料粉末の平均粒子径は、経済性を損ねない範囲で、皮膜が成長できるような範囲であれば、特に制限は不要であるが、比重が6〜8g/cm程度の金属粒子であることを考えると、0.5〜10μm程度の範囲にあれば、十分な粒子速度がえられる。そのため、経済的に皮膜が成長することができるので好ましい。また、原料粉末の平均粒子径が上記範囲内であれば、コールドスプレイ法を利用して、最適な粒子速度を得ることができる。そのため、より効率的に成膜を成長させることができ、所望の磁石成形体とすることができる点で優れている。即ち、原料粉末の平均粒子径0.5μm以上であれば、粒子が軽すぎることもなく、最適な粒子速度を得ることができる。そのため、粒子速度が早くなりすぎて基板を削ることもなく、基材に最適な速度で衝突・付着し、堆積化することで所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。更に原料粉末を溶融またはガス化させることなく、キャリアガスと共に超高速=最適な粒子速度で固相状態のまま基材Bに衝突させて高密度の厚膜を形成することができる。また、最適な固体温度で基材Bに衝突させることで、粒子同士が溶融結合することなく好適な境界層を保持した状態で基材B上に結着(付着)し、堆積化させることができ、より高密度で磁気特性に優れる堆積物(=固化成形体)を固化成形することができる点でも優れている。一方、原料粉末の平均粒子径10μm以下であれば、粒子が重くなりすぎることもなく、失速することなく最適な粒子速度を得ることができる。即ち、粒子速度が遅くなりすぎて、基材と衝突して跳ね返されることもないため、基材に最適な速度で衝突・付着し、堆積化することで所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。特に、大気圧下、原料粉末が空気抵抗により失速することなく、最適な粒子速度で固相状態のまま基材Bに衝突させて高密度の厚膜を形成することができる。また、原料粉末を溶融またはガス化させることなく、より高密度で磁気特性に優れる堆積物(=固化成形体)を固化成形することができる点でも優れている。粉末の平均粒子径の測定方法については、第1の実施形態で説明した各種の粒子の平均粒子径の測定方法と同様にして行うことができる。
(2j)原料投入ガス
本実施形態で用いられる原料投入ガスは、原料粉末供給部15で原料粉末と原料投入ガス調整用キャリアガスが所定の混合比率となるように調整することで得られる。ここで、原料粉末については、上記した通りである。また、原料投入ガス調整用キャリアガスについては、上記した(2a)のキャリアガスと同様のものを用いることができる。なお、上記(2a)のキャリアガスと原料投入ガス調整用キャリアガスは、同じ種類のものを用いてもよいし、異なる種類のものを用いてもよい。好ましくは同じ種類のものを用いる方が粒子速度が双方の重さの違いによるバラツキを防止できる等の点で望ましい。
(2j−1)原料投入ガスの温度
ここで、原料投入ガスの温度としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。原料投入ガスの温度の大体の目安としては、−30〜80℃、好ましくは0〜60℃、より好ましくは20〜40℃の範囲である。但し、かかる範囲に何ら制限されるものではなく、上記範囲を外れていても本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、本実施形態の技術範囲に含まれることはいうまでもない。原料投入ガスガスの温度が−30℃以上、好ましくは0℃以上、特に好ましくは20℃以上であれば、配管の結露が防止でき、水分の巻き込みによる材料特性の劣化を防止できるメリットがある。原料投入ガスの温度が80℃以下、好ましくは60℃以下、特に好ましくは40℃以下であれば、配管素材の劣化が防止できる他、安全上、配管に手を触れても火傷を防止することができ、また、原料粉末が不要な高温にさらされることがなく、安定した品質の磁石厚膜を得ることができる。
(2j−2)原料投入ガスの圧力
原料投入ガスの圧力としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。原料投入ガスの圧力の大体の目安としては、一次キャリアガス14と同等以下が好ましい。
(2j−3)原料投入ガスの流速・流量
原料投入ガスの流速としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。原料投入ガスの流量は、一次キャリアガスとの流量比によって必要以上にガス温度が高くならないようにする必要がある。流量比(一次キャリアガスの流量/原料投入ガスの流量)は、1〜7、より好ましくは、2〜5程度に制御することが好ましい。流量比が7以下であれば、原料粉末の供給過多によるノズルや配管の逼塞などによるトラブルを低減することができ、1以上であれば、高温の一次キャリアガスとの接触による原料粉末の特性劣化を抑制することができる。
(2j−4)原料投入ガスと一次キャリアガス(高速キャリアガス)との混合
本実施形態においては、原料粉末を原料投入ガスとして一次キャリアガスに投入するには、原料粉末供給部17より原料投入ガスを配管16を通じて上記キャリアガス加速部17に投入すればよい。原料粉末の一次キャリアガス(直接、高速キャリアガスに投入してもよい)流への投入量としては、少なすぎると不経済で、多すぎると逼塞する恐れがある。どの程度投入するかは、ガスの流量との兼ね合いで、基材への付着速度が最適化するように選択することができる。
(2j−5)原料粉末の供給量
また、原料粉末の供給量としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。原料粉末の供給量の大体の目安としては、1〜100g/min、好ましくは5〜20g/min、より好ましくは8〜10.5g/minの範囲である。但し、かかる範囲に何ら制限されるものではなく、上記範囲を外れていても本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、本実施形態の技術範囲に含まれることはいうまでもない。原料粉末の供給量が、1g/min以上であれば、比較的生産性が良好で、短時間に目的の膜厚に到達できる。更に、原料投入ガス調整用キャリアガスとの混合比率にもよるが、基材Bに噴射する際に、高速キャリアガスと共に原料粉末が超高速化しすぎて基材Bに衝突して跳ね返さえることもない。そのため、基板Bに衝突・付着し、堆積させることができる点で優れている。原料粉末の供給量が、100g/min以下であれば、ノズル詰りなどのトラブルを低減できるメリットがある。更に、原料投入ガス調整用キャリアガスとの混合比率にもよるが、基材Bに噴射する際に、原料粉末が失速することなく、高速キャリアガスと共に超高速で基板Bに衝突・付着し、堆積させることができる点で優れている。
(2j−6)一次キャリアガスと原料投入ガスの混合比率
一次キャリアガスと原料投入ガスの混合比率としても、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。一次キャリアガスと原料投入ガスの混合比率の大体の目安としては、原料投入ガス1体積部に対して一次キャリアガスを1〜20体積部、好ましくは5〜15体積部の範囲である。但し、かかる範囲に何ら制限されるものではなく、上記範囲を外れていても本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、本実施形態の技術範囲に含まれることはいうまでもない。原料投入ガス1体積部に対して一次キャリアガスが1体積部以上であれば高温の一次キャリアガスとの接触による原料粉末の特性劣化を抑制することができる。更に、原料粉末が所望の粒子速度を超えて固相状態のまま基材Bに衝突され、基材を削ったり、反発して堆積できない等の問題もなく、良好に衝突・堆積化により皮膜を形成することができる。また、かかる操作を繰り返すことで、より高密度化された磁石厚膜を固化成形することができる点で優れている。原料投入ガス1体積部に対して一次キャリアガスが20体積部以下であれば原料粉末の供給過多によるノズルや配管の逼塞などによるトラブルを低減することができる。更に、高速キャリアガスと共に原料粉末を所望の粒子速度(超高速)で固相状態のまま基材に衝突・堆積させて皮膜を形成することができる。また、かかる操作を繰り返すことで、高密度化された磁石厚膜を固化成形することができる点で優れている。
(2k)高速キャリアガス
本実施形態で用いられる高速キャリアガスは、原料投入ガスと一次キャリアガスとが混合され、キャリアガス加速部17で加速されて調製される。
(2k−1)高速キャリアガスの流速
本実施形態において、上記高速キャリアガス流の流速は、上記キャリアガス加速部17にて、600m/s以上、好ましくは700m/s以上、より好ましくは音速域近傍である1000m/s以上、特に好ましくは1000〜1300m/sの範囲まで高速に加速されるものである。高速キャリアガス流が600m/s以上であれば、コールドスプレイ法により、原料粉末を所望の粒子速度で固相状態のまま基材に衝突・付着させて皮膜を形成することができる。更に、かかる操作を繰り返すことで、基板上に好適に堆積化させることができ、高密度化され磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性等)に優れた所望の磁石成形体(mm単位製品)を固化成形することができる点で優れている。高速キャリアガス流が1300m/s以下であれば、基材表面を磁石粉末(原料粉末)が削るようになることもなく、原料粉末が所望の粒子速度を超えて固相状態のまま基材Bに衝突され、基材を削ったり、反発して堆積できない等の問題もない。その結果、基材Bに良好に衝突・付着により皮膜を形成することができる。更に、かかる操作を繰り返すことで、より高密度化され磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性等)に優れた固化成形体(ひいては磁石成形体)を固化成形することができる点で優れている。なお、上記高速キャリアガス流は、キャリアガス加速部17に導入されるまでにキャリアガス発生部11、キャリアガス加熱ヒータ13を経て高温高圧のキャリアガス(一次キャリアガス)流に調整されてなるものである。
(2l)基材に向けた高速キャリアガスの高速噴射
本実施形態では、基材保持保磁部19上に載置(固定)された基材に向けて上記高速キャリアガスをキャリアガス加速部17より高速噴射することで、基板上に衝突・付着して皮膜を形成し、更に堆積させて固体成形することで、所望の固化成形体を得るものである。これにより厚膜化・高密度化され磁気特性(特に(保磁力、残留磁束密度、密着性等))に優れた固化成形体(ひいては磁石成形体)を得ることができる。特に不活性ガスで置換されたチャンバ容器20内で行うことで、得られる固化成形体、ひいては熱処理後の磁石成形体中の酸素濃度を1.5質量%以下にすることができるものである。即ち、上記成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができる。即ち、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理した場合に、大きくばらつくことなく安定して、一定の保磁力向上効果を発現することができる点で優れている。
(2l−1)粒子速度(噴射速度)≒基材Bへの衝突速度
本実施形態では、不活性ガスで置換されたチャンバ容器20内で、キャリアガス加速部17(ノズルガン)のノズル先端部より、大気圧下、キャリアガスにて原料粉末を(高速)噴射して、基材B上に衝突・結着(付着)させ堆積化して堆積物(=固化成形体)を固化成形するものである。かかるキャリアガスにて原料粉末を(高速)噴射する際の粒子速度(噴射速度)≒基材Bへの衝突速度(以下、粒子速度とのみ称する)としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。キャリアガスにて原料粉末を高速噴射する際の粒子速度としては、600m/s以上、好ましくは700m/s以上、より好ましくは音速域近傍である1000m/s以上、特に好ましくは1000〜1300m/sの範囲まで超高速化させることが望ましい。粒子速度が600m/s以上であれば、コールドスプレイ法により、不活性ガス置換された大気圧下、原料粉末が空気抵抗により失速することなく、原料粉末を所望の粒子速度で固相状態のまま基材に衝突・付着させて皮膜を形成することができる。更に、かかる操作を繰り返すことで、基板上に好適に堆積化させることができ、高密度で磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性等)に優れる所望の堆積物(=固化成形体;mm単位製品)を固化成形することができる点で優れている。粒子速度が1300m/s以下であれば、噴射から衝突までの間に音速を超えることによる摩擦音が発生して、せっかく付与した運動エネルギーの一部を損なうこともなく、超高速化を維持することができる点で優れている。また、基材表面を磁石粉末(原料粉末)が削るようになることもなく、基材Bに噴射する際の原料粉末の粒子速度が超高速化しすぎて基材に衝突して跳ね返されることもない。また、原料粉末が所望の粒子速度を超えて固相状態のまま基材Bに衝突され、基材を削ったり、反発して堆積できない等の問題もない。その結果、基材Bに良好に衝突・付着により皮膜を形成することができる。更に、かかる操作を繰り返すことで、より高密度化され磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性等)に優れた固化成形体(ひいては磁石成形体)を固化成形することができる点で優れている。
(2l−2)噴射領域の雰囲気(圧力)
本実施形態では、上記キャリアガス加速部17(ノズルガン)のノズル先端部から基材Bまでの噴射領域を不活性ガス置換された大気圧(常圧)下としているのは、従来の減圧下で行うAD法の問題点(「発明が解決しようとする課題」の項目を参照)を解消するためである。加えて、噴射領域を不活性ガス置換された大気圧(常圧)下とすることで、基材B上に衝突・結着(付着)された原料粉末(希土類磁石粉末)は、基材Bからより表面積の大きな基材保持部19に素早く伝熱して除熱=チャンバ容器20中に放熱されながら、固化成形することで磁気特性の劣化が抑制された固化成形体(ひいては磁石成形体)を得ることができる点でも優れている。
(2m)高速キャリアガスの温度
この高速キャリアガス温度は、ヒータで加熱された一次キャリアガスと、原料投入ガスの両者を混合した温度になる。この温度調整は、一次キャリアガスと原料投入ガスのガス流量比でも調整できるが、目標とするキャリアガス温度と、ノズルに設置された温度センサーとの乖離状態に応じて、一次キャリアガスの加熱ヒータの温度を調節することでキャリアガス温度を調節する方式も可能である。本実施形態では、高速キャリアガスの温度が、希土類磁石粉末(原料粉末)の窒化物の分解温度未満であるとすることを特徴とするものである。ここで、高速キャリアガスの温度は、キャリアガス加速部17(ノズルガン)のノズル先端部から基材Bに向けて高速噴射する際(詳しくは噴射直前)の温度である。キャリアガス加速部17(ノズルガン)のノズル内に設けた上記温度センサで計測することができる。高速キャリアガスの温度を窒化物の分解温度未満とすることにより、磁石粉末の磁気特性を損なうことなく、厚膜化と特に優れた高密度化と磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性等)を同時に満足する固化成形体(ひいては磁石成形体)の製造方法を提供できる。その結果、所望の固化成形体(ひいては磁石成形体:バルク成形体)を得ることができる。希土類磁石粉末(原料粉末)が窒化物を含む場合でも、高速キャリアガスの温度は、希土類磁石粉末(原料粉末)の種類(材質)によっても異なる為、一義的に規定できない。そこで、1例を示せば、希土類磁石R−M−XがSm−Fe−N、詳しくはSmFe14(x=2.5〜3.5)の場合、450℃以上で分解が発生する。かかる観点から、高速キャリアガスの温度は100℃以上450℃未満、好ましくは150〜400℃、より好ましくは170〜380℃、特に好ましくは200〜350℃の範囲である。上記高速キャリアガスの温度が100℃以上であれば、基板に衝突した際に付着しやすく、また生産性にも優れるため好ましい。上記高速キャリアガスの温度が450℃未満、好ましくは400℃以下であれば、希土類磁石(原料粉末)=窒化物の分解を抑えることができ、磁気特性(特に保磁力、残留磁束密度)の劣化を抑えることができる点で優れている。上記条件は、スプレイに供する磁石粉末の平均粒子径が0.5〜10μmである場合に特に適している。スプレイに供する磁石粉末の平均粒子径が10μm以上(40μm以下)である場合にも高速キャリアガスの温度は100℃以上450℃未満であればよい。すなわち、高速キャリアガスの温度が上記範囲内であれば、粗大な粒子であってもコールドスプレイにて高速に加速して基板に吹き付けて成膜することができるためである。これは、粗大な粒子をコールドスプレイする場合には、基板上への衝突時に(適度なサイズに)粉砕させ、粉砕された粒子を付着、堆積化することで固化成形(成膜)することができる。そのため、酸素濃度が低い粗大な磁石粒子を用いても、粉砕して磁石特性を発現させながら成形体に加工することができるものである。特にこうした、酸素濃度が低い粗大な磁石粒子を用いて最適な粒子速度を得る観点からは、高速キャリアガスの温度を高めに設定するのが望ましく、250〜430℃とするのが好ましく、より好ましくは300〜400℃、特に好ましくは330〜370℃の範囲である(実施例の表4参照)。但し、本実施形態は上記範囲に何ら制限させるものではなく、希土類磁石(原料粉末)の種類(材質)ごとに、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内で適宜最適な高速キャリアガスの温度を決定すればよい。ここで、希土類磁石(原料粉末)が窒化物を含む場合、窒化物の分解温度は、DSC(示差走査熱量測定)解析にて、分解温度を特定した。例えば、原料粉末が450℃以上で分解が発生した場合、希土類磁石(原料粉末)=窒化物の分解温度(分解開始温度)は450℃とする。
これは、高速キャリアガスの温度は、高ければ高いほど高エネルギーを磁石粉体(原料粉末)に与えることができる。そのため、窒化物の分解温度未満の場合には、短時間とはいえ窒化物粒子(特に表面近傍)が分解されるおそれもなく、所望の磁気特性を有効に発現することができる点で好ましい。高速キャリアガスの温度としては好ましくは500℃以下、より好ましくは100〜500℃、特に好ましくは100〜400℃、なかでも200〜300℃の範囲である。100℃以上であれば、基板上に付着、堆積化させることができ、生産性の観点からも望ましいといえる。なお、高速キャリアガスの温度を窒化物の分解温度以上の高温=780℃とした場合には、磁気特性の保磁力が0.21、残留磁束密度0.27と極端に低く(非常悪く)なることが実験で確認されている。このことから、本実施形態では、上記したように高速キャリアガスの温度を窒化物の分解温度未満として固化成形するのが好ましいともいえる。上記条件は、スプレイに供する磁石粉末の平均粒子径が0.5〜10μmである場合に特に適している。スプレイに供する磁石粉末の平均粒子径が10μm以上(40μm以下)である場合にも高速キャリアガスの温度は500℃以下であればよい。すなわち、高速キャリアガスの温度が上記範囲内であれば、上記した作用効果を奏することができるためである。特にこうした、酸素濃度が低い粗大な磁石粒子を用いて最適な粒子速度を得る観点からは、高速キャリアガスの温度を高めに設定するのが望ましく、250〜500℃とするのが好ましく、より好ましくは300〜400℃、特に好ましくは330〜370℃の範囲である(実施例の表4参照)。
ここで言う高速キャリアガス温度とは、上記した通り、原料粉末を含んだ加速された高速キャリアガスの温度のことである。本明細書では、加熱する前のキャリアガスのことを低温ガス、原料粉末を投入する前の加熱されたキャリアガスのことを一次キャリアガス、室温の原料粉末を供給するガスを原料投入ガスと称して、高速キャリアガスと区別する(図1参照)。この高温キャリアガスの温度は、キャリアガス加熱ヒータ13で加熱された一次キャリアガスと、原料投入ガスの両者を混合した温度になる。この温度調整は、一次キャリアガスを加熱する加熱ヒータの温度を変えることで調節できる。
なお、原料粉末を混合した状態で噴射された高速キャリアガスの温度は、基材温度に影響する。基材B上に成膜された固化成形体(皮膜→厚膜)は、長時間ガス温度に晒されることになり、高速キャリアガスの温度が上記に規定する温度条件よりも高すぎると磁気特性の劣化を生じるおそれがある。なお、高速キャリアガスの温度が上記に規定する温度範囲内であっても、必要に応じて、徐冷(水冷、空冷)などを行ってもよいし、熱吸収性のよい基板保持部19を用いて基材B上に成膜された固化成形体(皮膜→厚膜)の温度の安定化を図ってもよい。
(2n)原料粉末の超高速噴射による基板上への固化成形体の固化成形
本実施形態では、原料粉末の超高速噴射による基板上への固化成形体を固化成形するものである。この際、キャリアガス加速部17(ノズルガンの先端部)と基材保持部19上に設置される基材B表面との間(距離)は一定間隔をあけて設置(配置)されている。また、キャリアガス加速部17として可動式(走査式)ノズルガンを用いることで、ノズルガンのノズル先端部が一定速度で基材Bに平行(上下、左右方向)に走査することで、基板全体ないし任意の一部分(一定領域)に均一な皮膜を形成していくことができる。
(2n−1)ノズルガンを用いる場合のガスノズルの走査速度
キャリアガス加速部17として、可動式(走査式)のノズルガンを用いる場合のガスノズルの走査速度としては、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば、特に制限されるものではない。ここで、ノズルガンとは、原料粉末を含んだキャリアガスを噴射するノズルを備えており、ノズルを基材Bに対して走査させることで、皮膜を成長させて厚膜を得るノズルガンをいう。かかるガスノズルの走査速度として、好ましくは1〜500mm/s、より好ましくは10〜200mm/s、特に好ましくは50〜100mm/sの範囲である。ガスノズルの走査速度が、1mm/s以上であれば、加熱領域が均質化し、密着性のよい皮膜が得られるほか、生産効率の低下なく、厚膜化することが可能となる点で優れている。また走査速度が遅いほど直進性に優れる為、基材周辺部への原料粉末の飛散を防止することができ経済的にも優れている他、基板全体に均一な膜厚を形成する上でも有利である。ガスノズルの走査速度が、500mm/s以下であれば、噴霧の不均一によるムラの発生を抑制できるほか、生産効率(生産性)に優れ、磁石厚膜の量産化による製品コストの低下を図ることができる。また走査速度が速いほど、パス回数を増やして非常に厚膜な固化成形体(ひいては磁石成形体)を成膜することも可能であるし、非常に大型の磁石厚膜を効率よく形成する上でも有利である。そのため、自動動車分野、特に電気自動車の駆動用モータのように非常に大きく、厚膜なものが必要とされる分野にも十分に対応できる技術といえる点で優れている。
(2n−2)走査式ノズルガンを用いた厚膜化形態(1)=多層構造
またキャリアガス加速部17として可動式(走査式)のノズルガンを用いて厚膜化するには、上記平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を複数回繰り返して行うことで所望の厚膜とすることができる。すなわち、1回の平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)で形成できる皮膜厚さが20μmの場合、1000μmの固化成形体を固化成形するには、基材全面に亘って50回の平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を行うようにすればよい。
この際、厚さ1000μmの固化成形体(ひいては磁石成形体)の種類の異なる希土類磁石による2層構造とする場合には、例えば、1層目の原料粉末を用いて基材全面に亘って25回の平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を行う。その後、2層目の原料粉末を用いて基材全面に亘って25回の平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を行うことで、各層の厚さが500μmの2層構造の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。同様にして、各層の厚さを任意に調整し、各層ごとに種類の異なる希土類磁石による多層構造の固化成形体(ひいては磁石成形体)を実現することができる。
(2n−3)走査式ノズルガンを用いた厚膜化形態(2)=分画構造
また、基材の左右で種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成する場合には、例えば、2台の可動式ノズルガンを用い、そのうちの1台の可動式ノズルガンで基材表面の右半分に亘って50回の平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を行う。これと同期して、もう1台の可動式ノズルガンで基板表面の左半分に亘って50回の平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を行う。この際、2台可動式ノズルガンにはそれぞれ種類の異なる原料粉末(希土類磁石)を用いることで左右の繋ぎ目に段差などのムラや凹凸のない左右で種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。かかる操作を応用することで、基材上に種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を複数組み合わせた固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。具体的には、基材を格子状に16分割したような場合には、当該16分割(分画)した領域ごとに種類の異なる希土類磁石による細分化構造の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することもできる。この際、連続して種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することもできるが、必要に応じて、当該16分割(分画)した格子線上部分には固化成形体を形成せずに、個々に独立した16種類の(ひいては磁石成形体)を形成することもできる。即ち、不連続に、いわゆる飛び石状に固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成・配置することもできる。こうした技術により、使用用途に応じた最適な固化成形体(ひいては磁石成形体)を必要な箇所のみに適宜配置させることもできる。
(2n−4)走査式ノズルガンを用いた厚膜化形態(3)=多層+分画構造
更に、上記した多層構造の固化成形体(ひては磁石成形体)形成技術と細分化構造の固化成形体(ひいては磁石成形体)形成技術とを適用に組み合わせて3次元的に種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することもできる。また、可動式ノズルガンが、基材全面に対して垂直(前後方向)にも移動もしくは駆動できるようにしてもよい。これは例えば、厚さ2mm(2000μm)程度の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成する場合、可動式ノズルガンの先端部と基板全面との間の間隔(距離)が僅かながら変化するのを補正するためのものである。これにより、可動式ノズルガンの先端部と基材全面との間の間隔(距離)を常にほぼ一定に保持することができ、固化成形体(ひいては磁石成形体)内の厚さ方向の密度のより一層の均質化・高密度化を図ることができる点で優れている。
(2n−5)走査式の基材保持部を用いた厚膜化形態
また、上記で説明したのとは逆に、キャリアガス加速部17の固定式ノズルガンの先端部と可動式(走査式)の基材保持部19上に設置される基材B表面との間(距離)が一定間隔をあけて設置(配置)されていてもよい。この場合には、キャリアガス加速部17の固定式ノズルガンの先端部に対して、可動式の基材保持部19が一定速度で平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)する。これにより可動式(走査式)の基材保持部19上に設置された基材も同様に走査(移動ないし駆動)することで、広い面積の基材全体ないし任意の一部分(一定領域)に均一な皮膜を形成していくことができる。
(2n−6)走査式の基材保持部を用いた厚膜化形態(1)=多層構造
また可動式の基材保持部19を用いて厚膜化するにも、上記平行(上下、左右方向)に移動(駆動)を複数回繰り返して行うことで所望の厚膜とすることができる。即ち、1回の平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)で形成できる皮膜厚さが20μmの場合、1000μmの固化成形体(ひいては磁石成形体)を固化成形するには、ノズルガン先端部に対して可動式の基材保持部19を50回平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を行うようにすればよい。
この際、可動式の基材保持部19を用いて、厚さ1000μmの固化成形体(ひいては磁石成形体)の種類の異なる希土類磁石による2層構造とする場合にも、可動式ノズルガンの場合と同様にして行うことができる。例えば、1層目の原料粉末を用いて基材全面に亘って25回の平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を行う。その後、2層目の原料粉末を用いて基材全面に亘って25回の平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を行うことで、各層の厚さが500μmの2層構造の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。同様にして、各層の厚さを任意に調整し、各層ごとに種類の異なる希土類磁石による多層構造の固化成形体(ひいては磁石成形体)を実現することができる。
(2n−7)走査式の基材保持部を用いた厚膜化形態(2)=分画構造
また、可動式の基材保持部19を用いて、基材の左右で種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成する場合にもキャリアガス加速部17が可動式ノズルガンの場合と同様にして行うことができる。例えば、2台の固定式ノズルガンを用い、そのうちの1台のノズルガンで基材表面の右半分をカバーするように基材保持部19が50回平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を行う。これと同期して、もう1台のノズルガンで基板表面の左半分をカバーするように基材保持部19が50回平行(上下、左右方向)に走査(移動ないし駆動)を行う。この際、2台の固定式ノズルガンにはそれぞれ種類の異なる原料粉末(希土類磁石)を用いることで左右の繋ぎ目に段差などのムラや凹凸のない左右で種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。かかる操作を応用することで、基材上に種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を複数組み合わせた固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することができる。具体的には、基材を格子状に16分割したような場合には、当該16分割(分画)した領域ごとに種類の異なる希土類磁石による細分化構造の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することもできる。この際、連続して種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することもできるが、必要に応じて、当該16分割(分画)した格子線上部分には固化成形体を形成せずに、個々に独立した16種類の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することもできる。即ち、不連続に、いわゆる飛び石状に固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成・配置することもできる。こうした技術により、使用用途に応じた最適な固化成形体(ひいては磁石成形体)を必要な箇所のみに適宜配置させることもできる。
(2n−8)走査式の基材保持部を用いた厚膜化形態(3)=多層+分割構造
更に、上記した多層構造の固化成形体(ひいては磁石成形体)形成技術と細分化構造の固化成形体(ひいては磁石成形体)形成技術とを適用に組み合わせて3次元的に種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することもできる。また、可動式基材保持部19が、ノズルガンの先端部に対して垂直(前後方向)にも移動ないし駆動できるようにしてもよい。これは例えば、厚さ2mm(2000μm)程度の固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成する場合、固定式ノズルガンの先端部と可動式基材保持部19上の基材B全面との間の間隔(距離)が僅かながら変化するのを補正するためのものである。これにより、固定式ノズルガンの先端部と可動式基材保持部19上の基材B全面との間の間隔(距離)を常にほぼ一定に保持することができ、固化成形体(ひいては磁石成形体)内の厚さ方向の密度のより一層の均質化・高密度化を図ることができる点で優れている。
(2n−9)走査式のノズルガンと走査式の基材保持部を併用した厚膜化形態
また、上記キャリアガス加速部17のノズルガンと基材保持部19を共に可動式(走査式)として併用してもよい。これはインクジェットプリンタと同様の原理で、一方のキャリアガス加速部17のノズルガン(=インクジェット部)が基材平面(左右方向:X軸方向と上下方向:Y軸方向)の左右方向:X軸方向にのみ走査(移動ないし駆動)する構造とする。他方の基材保持部19(=印画紙)が基材平面の上下方向:Y軸方向にのみ走査(移動ないし駆動)する構造とする。こうしたキャリアガス加速部17のノズルガンと基材保持部19とが連動(同期)した構成(構造)とすることで、比較的簡単な動作・制御により、所望の固化成形体(ひいては磁石成形体)を得ることができる点で優れている。なおこれらの構成でも、上記したように多層構造の固化成形体(ひいては磁石形成体)を形成することもできるし、細分化構造の固化成形体(ひいては磁石形成体)を得ることもできる。更にこれら多層構造の固化成形体(ひいては磁石形成体)形成技術と細分化構造の固化成形体(ひいては磁石形成体)形成技術とを適用に組み合わせて3次元的に種類の異なる希土類磁石による固化成形体(ひいては磁石成形体)を形成することもできる。
以上が、本発明の第2の実施形態の固化成形体の製造方法の説明であるが、言い換えれば、下記(1)〜(2)の段階を含む固化成形体の製造方法ともいえるものである。即ち(1)不活性ガスで置換したチャンバ容器20内で、キャリアガスと窒化物を含む原料粉末とを混合し加速した状態の高速キャリアガス流にて前記原料粉末を噴射する噴射段階と、(2)噴射された前記原料粉末を基材上に堆積して固化成形体を形成する固化成形段階とを含む。加えて本実施形態では、前記原料粉末が、窒化物系の希土類磁石粉末とZn粒子を含むものである。更に前記(1)の噴射段階の高速キャリアガスの温度が、前記窒化物の分解温度未満であり、前記(2)の固化成形段階が大気圧下で行われることを特徴とする固化成形体の製造方法である。以下、これらの要件につき説明する。
(1)不活性ガスで置換したチャンバ容器内で、キャリアガスと窒化物を含む原料粉末とを混合し加速した状態の高速キャリアガス流にて前記原料粉末を噴射する噴射段階
本実施形態の噴射段階は、不活性ガスで置換したチャンバ容器20内で、キャリアガスと窒化物を原料粉末とを混合し加速した状態の高速キャリアガス流にて前記原料粉末を噴射するものである。好ましくは、上記コールドスプレイ装置において、不活性ガスで置換したチャンバ容器20内で、キャリアガスと前記原料粉末とを混合し加速した状態(=原料粉末を溶融またはガス化させることなく、所定の温度・圧力・速度に調整された状態)の高速キャリアガス流にて前記原料粉末を噴射するものである。噴射の際には、上記高速キャリアガス流にて原料粉末を、原料粉末を溶融またはガス化させることなく、ノズルガンの噴射ノズルの先端部より、キャリアガスと共に超高速で固相状態のままで基材上に向けて噴射するものである。即ち、SmとFeを含有する窒化物を主成分とする希土類磁石相で構成された固化成形体を粒子を堆積させて成膜して形成する粉体成膜において、成膜を不活性ガスに置換した容器内でスプレイを行うコールドスプレイにより行うことを特徴とする希土類磁石成形体の製造法である。そのため、成形後に熱処理して作製される磁石成形体中の酸素濃度が高くなることを抑制することができ、成形後の熱処理によって発現する磁石成形体の保磁力の向上効果を安定して得ることができる。本実施形態の噴射段階については、本実施形態(B)の上記(1)全般及び(2a)〜(2l−1)等に説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
(2)噴射された前記原料粉末を基材上に堆積して固化成形体を形成する固化成形段階
本実施形態の固化成形段階も、不活性ガスで置換したチャンバ容器20内で、前記(1)の噴射段階で噴射された前記原料粉末を基材上に堆積して固化成形体を形成するものである。好ましくは、前記(1)の噴射段階で噴射された原料粉末をキャリアガスと共に超高速で固相状態のまま基材に衝突・付着して高密度な皮膜を形成する。更にかかる操作を繰り返すことで原料粉末を基材上に堆積して、高密度で磁気特性に優れる厚膜の堆積物を固化成形するものである。これにより高密度で磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性)に優れる固化成形体(ひいては磁石成形体)を得ることができるものである。本実施形態の固化成形段階についても、本実施形態(B)の上記(1)全般及び(2n)等に詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
(3)原料粉末、キャリアガスの温度及び大気圧下
本実施形態で用いる原料粉末、前記(1)の噴射段階での高速キャリアガスの温度及び前記(2)固化成形段階が大気圧下で行われることについては、本実施形態(B)の上記(2e)〜(2i)、(2l−2)、(2m)等に詳しく説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
(4)噴射段階の(高圧キャリアガスの)ガス圧力
噴射段階の(高圧キャリアガス)のガス圧力については、低すぎると基板Bに衝突した粒子が十分に付着しないことがあり、0.6MPa以上のガス圧力で噴射して固化成形することが望ましい。これ以下では粒子速度の低下が著しくなり皮膜の成長が困難になるためである。即ち、本実施形態の前記(1)の噴射段階でのガス圧力としては、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、特に制限されるものではない。この噴射段階でのガス圧については、低すぎると基板に衝突した粒子が十分に付着しないことがあり、0.5MPa超、好ましくは0.6MPa以上のガス圧力で噴射して固化成形することが望ましい。即ち、ガス圧力を0.5MPa超、好ましくは0.6MPa以上とする理由は、0.5MPa以下では粒子速度の低下が著しくなり皮膜の成長が困難になるおそれがあるためである。上記ガス圧の範囲とすることにより、磁石粉末の磁気特性を損なうことなく、厚膜化と高密度化と磁気特性(特に優れた残留磁束密度)を同時に満足する磁石の製造方法を提供することができ、所望の磁石成形体(バルク成形体)を得ることができる。上記条件は、スプレイに供する磁石粉末の平均粒子径が0.5〜10μmである場合に特に適している。スプレイに供する磁石粉末の平均粒子径が10μm以上(40μm以下)である場合にもガス圧力は0.5MPa超であればよい。すなわち、ガス圧力が0.5MPa超であれば、粗大な粒子であってもコールドスプレイにて高速に加速して基板に吹き付けて成膜することができるためである。これは、粗大な粒子をコールドスプレイする場合には、基板上への衝突時に(適度なサイズに)粉砕させ、粉砕された粒子を付着、堆積化することで固化成形(成膜)することができる。そのため、酸素濃度が低い粗大な磁石粒子を用いても、粉砕して磁石特性を発現させながら成形体に加工することができるものである。特にこうした、酸素濃度が低い粗大な磁石粒子を用いて最適な粒子速度を得る観点からは、ガス圧力を高めに設定するのが望ましく、0.7MPa以上とするのが好ましく、より好ましくは0.8MPa以上である(実施例の表4参照)。ここで、ガス圧力は、大気開放前の噴射段階での圧力であり、上記した圧力センサ8aで計測することができる。かかるキャリアガス圧は、キャリアガス温度との兼ね合いになる。圧力が低すぎると温度をどんなに上げても基材Bに衝突・付着し堆積させることができない。また、ガス圧の上限値は、基材Bとの相性により異なるものであり、同じ圧力でも、基材を削るように作用することもあれば、基材が跳ね返すように作用することもあるし、基材上に好適に堆積することもある。例えば、基材にCu基板を用いた場合では基板に衝突・付着し、該基板上に好適に堆積するガス圧力であっても、基材にAl基板を用いた場合には、該基板を削るように作用することもあり得る。かかる観点から、ガス圧に関しては一義的に規定することはできないが、0.5MPa超であればよく、好ましくは0.6MPa以上、より好ましくは0.6〜5Mpa、特に好ましくは0.8〜3MPaの範囲である。但し、かかる範囲を外れる場合であっても、本実施形態の作用効果に影響することなく、所望の作用効果を好適に発揮し得る範囲内であれば、本実施形態の技術範囲に含まれ得るものである。ガス圧力が0.5MPa超であれば、超高速の粒子速度の低下を招くことなく、高密度で磁気特性(保磁力、残留磁束密度、密着性=剥離強度)に優れた皮膜の成長による固化成形体(ひいては磁石成形体)を得ることができる点で好ましい。
(5)成膜形成時のチャンバ容器中の酸素濃度の調整
原料粉末をスプレイする前に、所定の時間、チャンバ容器20内を不活性ガス(例えば、窒素ガス)置換することで、チャンバ容器20内の酸素濃度を調整してもよい。好ましくは、チャンバ容器20内に設けた酸素濃度センサを用いて、酸素は常時モニタリングしている。例えば、HeやN等のキャリアガスのスプレイ中でも、酸素濃度が高くなったら、不活性ガス供給装置21から配管22を通じて不活性ガス(例えば、窒素ガス)を流して、チャンバ容器20内の酸素を下げる仕組みを用いるのが望ましい。チャンバ容器20内の酸素濃度とガス温度に対する固化成形体(ひいては磁石成形体)内の酸素濃度との相関関係をあらかじめ予備実験を通じて、チャンバ容器20内の酸素濃度及びとガス温度の変化に応じた固化成形体(磁石成形体)内の酸素濃度の変化の相関データを取得し、その後の運転に活用すればよい。
即ち、チャンバ容器20内の酸素濃度とガス温度(上記に規定)を調整することで、固化成形体(磁石成形体)の酸素濃度も調整することができる。そこで、磁石成形体の酸素濃度を1.5質量%以下とする上で適したチャンバ容器20内の酸素濃度は、チャンバ容器20内の酸素濃度が低いほど、固体成形体(磁石成形体)の酸素濃度も低くできる。チャンバ容器20内の酸素濃度が低ければ低いほど良いので、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下の範囲とするのが望ましい。チャンバ容器20内の酸素濃度を下げるほど有利であるが、不活性ガスの使用量が増えるため、経済性を考慮すると5質量%以下が好ましいといえる。しかし、酸素濃度が5質量%でも長時間かけて厚膜を成膜すると基板温度が上昇して、酸化が進むことがあるため、その場合は、より低酸素な1質量%下、さらには0.1質量%以下が好ましいといえる。
(5a)成膜形成時のチャンバ容器中の圧力
チャンバ容器20内の圧力範囲には、特に制限はない。負圧になるとチャンバ容器20外部の大気の侵入量が増えて酸素濃度を抑えるために、大量の窒素ガスが必要になり、陽圧になるとチャンバ容器20内の粉末が飛散する恐れが大きくなるので、大気圧近傍での操作が望ましいと言える。その為には、チャンバ容器20内の圧力センサと連動して、集塵機からの廃棄ガス量をコントロールして大気圧近傍となるように調整してもよい。通常、集塵機の吸引量>ノズルからのスプレイ量になっており、集塵機の吸引量≒ノズルからのスプレイ量+置換ガス量になっている(=大気圧近傍にコントロールされている)。なお、ノズルからのスプレイにより成膜が順調に行うことができる範囲内であれば、ガスの分配(ノズルからのスプレイ量と、置換ガス量)に関してまでは、特に制限されるものではない。
(6)チャンバ容器に供給し得る不活性ガス(置換ガス)
チャンバ容器20内に供給し得る不活性ガス(置換ガス)としては、He、N、Ar、およびこれらと3%以下の水素混合ガスを用いることができる。Heが軽いので、加速しやすく、また冷却も早いので特性的には優れたものができる点で優れている。一方、Heガスは高価なので、Nでも十分な場合は、Nの方が安価に製造(コスト低減)できる点で優れている。
(6a)チャンバ容器に供給する不活性ガス(置換ガス)の温度
チャンバ容器20に不活性ガス供給装置21から供給する不活性ガス(置換ガス)の温度としては、特に制限されるものではないが、原料粉末の特性が損なわれない温度に保つ必要がある。プロセス上は、できるだけ加熱を抑制したい(設備などのコストやガスを加熱するための維持コストがかかる)ので、室温で操業することが好ましい。これは、固化成形体(磁石成形体)の酸素濃度を1.5質量%以下とする上で適したチャンバ容器10内のガス温度(雰囲気ガス)として、これ(雰囲気ガス)が高温状態では、成膜した膜(成形体)が冷却できず、雰囲気温度でキープされることになるので、好ましくない。かといって、極度に冷却すると装置が結露したりするので、大掛かりな対策が必要になるので好ましくない。結局、室温近傍で維持することが経済的で好ましいと言える。実際のところは、チャンバ容器20内は、温度分布と変動が大きく、計測する位置で全然異なる値になる。総じて、キャリアガスにより、多少、温度上昇するが、チャンバ容器10内のガス温度(雰囲気ガス)としては、100℃以下の範囲であればよいといえる。なお、上記したように、チャンバ容器20内は、温度分布と変動が大きく、計測する位置で全然異なる値になることから、チャンバ容器20の温度は、チャンバ容器20の各所に多数の温度センサを設置し、温度分布と変動を計測することで、全体の平均値を求めるか、この平均値に近い温度分布と変動を示す位置の温度センサを、チャンバ容器20の温度分布と変動の計測に用いるのが望ましい。経済性の観点からは後者であり、正確性の観点からは前者が望ましい。なお、キャリアガス加速部17のノズルからのキャリアガスの温度については、上述した通りであり、粒子が加速できて、熱分解温度以下で、酸化しなければよいので、500℃以下が好ましく、特に450℃以下で低いほど好ましい。但し、温度とガスの流速がトレードオフなので、温度を下げすぎると成膜ができなくなることから、100℃以上は必要である。
(6b)チャンバ容器に供給する不活性ガス(置換ガス)の圧力
チャンバ容器20に不活性ガス供給装置21から供給する不活性ガス(置換ガス)の圧力としては、特に制限されるものではないが、集塵機23との兼ね合いで、大気圧に近い状態で制御することが好ましい。
(7)第2の実施形態の固化成形体の製造方法の特徴について
上記したように、本実施形態では、原料粉末を溶融またはガス化させること無くキャリアガスと共に超高速で固相状態のまま基材に衝突させて皮膜を形成する工法(成膜法)であるコールドスプレイ法を利用するものである。このコールドスプレイ法は、従来の溶射法やプラズマ溶射法等と比較すると、材料の融点以下での加工が可能なため、エアロゾルデポジッション(AD)法等と同様に低温プロセスに分類される。しかしながら、コールドスプレイは、AD法とは、ガスの加速方法が異なる。AD法が、真空チャンバの減圧による加速法であるのに対し、コールドスプレイ法は、キャリアガスを加熱して加速している特徴がある。そのため、コールドスプレイ法では、AD法よりも速い粒子速度が得られる反面、原料粉末が室温以上に加熱される問題があった。一般的に、キャリアガス温度が高いほど粒子速度を加速することができるため、通常1000℃を超える溶射プロセスと比較すると、きわめて低い温度域での固化成形技術であると言えるが、それでも数百度に達する問題があった。これまで、コールドスプレイ法では、高融点の金属、硬質材料やセラミックのコーティング手法としてコールドスプレイ法が活用されてきているが、いずれの材料も、もともと数百度というコールドスプレイ法の温度域では特性の変化が小さいという利点があった。しかしながら、本実施形態(変形例を含む)で用いたボンド用磁石粉末のように、400℃以上の熱に対して特性が大きく変化する材料では、更に低温での操作が必要になる。そこで、キャリアガス温度を低くして噴射したところ、粒子の基材への衝突速度が低下して、基材に付着しなくなり皮膜が成長しない問題が生じた。逆に、キャリアガス温度を高くすると磁気特性が損なわれるだけでなく、磁石材料のように硬質脆性材料が加速されすぎることにより、磁石粒子が研磨剤として作用し、基板を研削するため、磁石として成膜しない問題が生じた。そこで、我々は、この点について改善に取り組んだ。その結果、希土類磁石の原料粉末においては、キャリアガスの温度を、希土類磁石の結晶粒の粒成長温度未満とすることで、磁気特性の劣化を防止でき、皮膜の成長が可能なことを見出したものである。
(II)粉体成膜段階(固化成形段階)
第2の実施形態においては、上記した(I)粉体成膜段階(固化成形段階)を行って固体成形体を形成した後、この(II)段階では、磁石成形体の原料粉末をコールドスプレイにより成膜して形成した固体成形体を熱処理して磁石成形体を製造するものである。これにより、Zn粒子が磁石成形体内に分散した構造を有し、かつ酸素濃度が1.5質量%以下とすることができる。そのため、成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができる。即ち、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理した場合に、大きくばらつくことなく安定して、一定の保磁力向上効果を発現することのできる磁石成形体を得ることができるものである。
(1a)熱処理温度
前記(I)段階のコールドスプレイ法により形成された固体成形体の熱処理温度としては、低すぎると熱処理効果が得られず、高すぎると磁石の化合物が熱分解して磁気特性を損ねることから、200℃から470℃の範囲が好ましい。より好ましくは、300℃から460℃、さらに好ましくは350℃から450℃である。
(1b)熱処理時間
熱処理時間の最適な時間は、熱処理温度によって異なる。そこで、400℃以下の低温では0.5〜24時間程度が好ましく、400℃以上の高温では2時間以内の保持時間に制限することが好ましい。かかる範囲内であれば、過度に熱処理を行うと本来の保磁力向上の目的を達した後も、Znが過剰にSmFeN磁石内部に拡散して、磁石粒子の磁束密度を低下させてしまう問題が発生するのを抑制することができるためである。
(1c)熱処理中の雰囲気ガス
熱処理中は、酸化を抑制するため不活性ガス雰囲気が好ましい。例えば、N、He、ArまたはH等のガス雰囲気が使用できる。経済性、取扱い性の観点からは、Nガス雰囲気が好ましい。
(1d)熱処理時の圧力
熱処理時の圧力としては特に制限されるものではないが、減圧すると窒素が抜けて組成が変わる恐れがあるため、熱処理中は、炉内の圧力を大気圧に保つことが好ましい。
(1e)熱処理装置(熱処理炉)
雰囲気制御が可能な熱処理炉であれば、加熱方式は特に制限なく従来公知のものを用いることができる。例えば、磁石成形体(固体成形体)が小さい場合は、温度制御が容易で加熱速度と冷却速度が速い赤外線加熱炉等が好ましい。大量に処理する場合は、抵抗発熱体による加熱方式の炉でも使用できる。
(2)磁石成形体内の酸素濃度
(II)段階の固体成形体を熱処理して形成された磁石成形体内の酸素濃度は、1.5質量%以下であることを特徴とする。これにより、成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができる。磁石成形体内の酸素濃度は、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下で、磁気特性的には、低いほど好ましい。一方、低酸素化すると、大気中で急激に酸化して燃焼するなど取り扱いが難しく、また、粒子同士が凝集して配向制御が難しくなるため、製造性の観点では0.1質量%以上に留めることが望ましい。磁石成形体内の酸素濃度分析は、希土類磁石成形体から切り出した小片を、堀場製作所製の酸素窒素分析装置EMGA−920型を用いて、赤外線吸収法により実施し、求めることができる(実施例では当該装置及び分析法により実施した)。但し、本実施形態では、他の分析装置(分析法)を用いて磁石成形体内の酸素濃度を測定(分析)してもよいことは言うまでもない。なお、磁石成形体内の酸素濃度の調整は、上記したように上記(I)段階のチャンバ容器内の酸素濃度の調整等により行うことができる。
(C)磁石モータ(第3の実施形態)
本実施形態の磁石モータは、上記第1の実施形態に記載の磁石成形体及び上記第2の実施形態(変形例を含む)に記載の製造方法により得られた磁石成形体よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種の磁石成形体を用いてなることを特徴とするものである。即ち、本実施形態の磁石モータでは、第1及び第2の実施形態の磁石成形体を1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。本実施形態の磁石モータでは、第1及び第2の実施形態の少なくとも1種の磁石成形体を用いたことを特徴とする磁石モータ(例えば、小型家電用、表面磁石型など)であるため、同等の特性を軽量、小型高性能システムとして得ることができる点で優れている。
図6(a)は、表面磁石型同期モータ(SMPまたはSPMSM))のロータ構造を模式的に表す断面概略面である。図6(b)は、埋込磁石型同期モータ(IMPまたはIPMSM))のロータ構造を模式的に表す断面概略面である。図6(a)に示す表面磁石型同期モータ40aでは、第1及び第2の実施形態の少なくとも1種の磁石(成形体)41を表面磁石型同期モータ用のロータ43表面に直接固化成形した(または貼り付けた)ものである。表面磁石型同期モータ40aでは、第1及び第2の実施形態で説明したように、基材にロータ43を用いることで、直接ロータ43に原料粉末を噴射し、付着・堆積化して固化成形後、熱処理した磁石成形体41を表面磁石型同期モータ40a上に形成する。この磁石成形体41を着磁することで面磁石型同期モータ40aを得ることができる。この点が埋込磁石型同期モータ40bに比して優れているともいえる。特に直接固化成形後、熱処理した場合には、遠心力で高速回転させた場合でも、ロータ43から磁石成形体41が剥離せずに使いやすくなる点で優れている。一方、図6(b)に示す埋込磁石型同期モータ40bでは、第1及び第2の実施形態の少なくとも1種の磁石(成形体)45を埋込磁石型同期モータ用のロータ47に形成した埋込溝に圧入(挿入)して固定化したものである。埋込磁石型同期モータ40bでは、まず、第1及び第2の実施形態で説明したように、基材に埋込溝(図示図)と同じ表面形状のものを用い、埋込溝と同じ厚さdになるまで原料粉末を基材上に噴射し、基材上に付着・堆積化して固化成形後、熱処理した磁石成形体45を得る。あるいは基材に埋込溝(図示図)と同じ表面形状のものを用い、埋込溝の1/10の厚さdになるまで原料粉末を基材上に噴射し、基材上に付着・堆積化して固化成形後、熱処理した磁石成形体45aを10セット作製する。この時点では基材と磁石成形体45、45aとは密着(一体化)している。次に、基材表面(溶剤に溶解しやすい極薄い金属箔を張り付けるなどしておく)から磁石(成形体)55,55aを適当な溶剤(基材表面の金属箔のみを溶解する溶剤)を用いて剥離するか、あるいは物理的に応力を加えて剥離して(剥がして)磁石成形体45、45aだけを得る。次に、磁石成形体45、45aを着磁し、磁石成形体45aは必要な厚さdになるよう、磁石成形体45aを10枚重ね合わせる。その後、ロータ47の埋込溝に磁石成形体45又は45a(10枚積層体)を圧入(挿入)することにより、埋込磁石型同期モータ40bを得ることができる。この場合には、磁石成形体45、45aの形状が平板状であり、磁石成形体45、45aの固化成形及び熱処理が、曲面上に磁石を固化形成する必要のある表面磁石型同期モータ40aに比して比較的容易である点で優れている。なお、本実施形態は、上記に説明した特定のモータだけに何ら制限されるものではなく、幅広い分野に適用することができるものである。即ち、希土類磁石が用いられる、オーディオ機器のキャプスタンモータ、スピーカ、ヘッドホン、CDのピックアップ、カメラの巻上げ用モータ、フォーカス用アクチュエータ、ビデオ機器等の回転ヘッド駆動モータ、ズーム用モータ、フォーカス用モータ、キャプスタンモータ、DVDやブルーレイの光ピックアップ、空調用コンプレッサ、室外機ファンモータ、電気かみそり用モータなどの民生用電子機器分野;ボイスコイルモータ、スピンドルモータ、CD−ROM、CD−Rの光ピックアップ、ステッピングモータ、プロッタ、プリンタ用アクチュエータ、ドットプリンタ用印字ヘッド、複写機用回転センサなどのコンピュータ周辺機器・OA機器;時計用ステッピングモータ、各種メータ、ペジャー、携帯電話用(携帯情報端末を含む)振動モータ、レコーダーペン駆動用モータ、加速器、放射光用アンジュレータ、偏光磁石、イオン源、半導体製造機器の各種プラズマ源、電子偏光用、磁気探傷バイアス用などの計測、通信、その他の精密機器分野;永久磁石型MRI、心電図計、脳波計、歯科用ドリルモータ、歯固定用マグネット、磁気ネックレスなどの医療用分野;ACサーボモータ、同期モータ、ブレーキ、クラッチ、トルクカップラ、搬送用リニアモータ、リードスイッチ等のFA分野;リターダ、イグニッションコイルトランス、ABSセンサ、回転、位置検出センサ、サスペンション制御用センサ、ドアロックアクチュエータ、ISCVアクチュエータ、電気自動車駆動用モータ、ハイブリッド自動車駆動用モータ、燃料電池自動車駆動用モータ、ブラシレスDCモータ、ACサーボモータ、ACインダクション(誘導)モータ、パワーステアリング、カーエアコン、カーナビゲーションの光ピックアップなど自動車電装分野など極めて幅広い分野の各種用途に応じた形状を持っていればよい。但し、本実施形態の希土類磁石が用いられる用途は、上記したほんの一部の製品(部品)に何ら制限されるものではなく、現在希土類磁石が用いられる用途全般に適用し得るものであることはいうまでもない。さらに、基材を離型材として利用し、基材上に形成した磁石成形体を基材表面から剥離した(剥がした)磁石成形体のみを取り出して、各種用途に使用することもできる。こうした場合には、基材の形状を使用用途に適用する形状にしておけばよく、多角形(三角形、正四角形、菱形、六角形、円形等)の平板(円板)形状、多角形(三角形、正四角形、菱形、六角形、円形等)波板状、ドーナツ状など、特に制限されるものではない。
本発明による磁石成形体は、SmとFeを含有する窒化物を主成分とする希土類磁石相で構成された磁石成形体において、磁石成形体がSmとFeを含有する窒化物を主成分とする希土類磁石粉末を含む原料粉末を成形後に熱処理を行って作製されたものである。さらに本発明の磁石成形体は、Zn粒子が磁石成形体内に分散した構造を有し、かつ酸素濃度が1.5質量%以下であることを特徴とする希土類磁石成形体である。そのため、成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができる。以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
(実験例1〜11及び比較例1〜6)
図3に示すコールドスプレイ装置10を用いたコールドスプレイ法により、成形体を固化形成し、熱処理を行うことで磁石成形体の形成を行った。
チャンバ容器20内に、基材Bとして、幅50mm、長さ80mm、厚さ1mmのCu基材を石盤製の基材保持部19に設置(基材四隅を固定。必要に応じて、裏面も両面粘着シートで固定する)した。キャリアガス加速部17としてコールドスプレー用ノズルガンを準備した。基材Bの表面から10mmの高さ(距離)に、吐出口が位置するようにコールドスプレー用ノズルガンのノズルを設置した。その後、不活性ガス供給装置21より不活性ガス(窒素ガス)を供給しチャンバ容器20内を窒素ガスに置換した後、基材Bに向けて原料粉末を噴射することで、固化成形体(磁石)の皮膜を成長させた。
キャリアガス加速部17(ノズルガン)は、原料粉末を含んだキャリアガスを噴射するノズルを備えており、ノズルをCu基材に対して走査させることで、皮膜を成長させて厚膜(固化成形体)を得た。ノズルを基材に対して、複数回走査させることで、厚膜が得られる。そこで、皮膜の厚さが1.5mmの厚さに到達するまでパス数を重ねた。走査速度は50mm/sとし、1回走査する毎に、横に0.5mm移動し、幅15mmの範囲を走査し終えた後、その上に重ねてスプレイする手順で成膜した。また、ガス圧力は、0.8MPa、キャリアガス温度は280℃で固化成形体を形成した。ここで言うキャリアガス温度とは、ノズルから噴射される原料粉末を含んだキャリアガスの温度のことである。キャリアガス温度は、ノズル上流側に設置したK型熱電対にて、リアルタイムに計測した。
コールドスプレイに供する原料粉末として、磁石粉末には市販のボンド磁石用のSmFeN磁石粉末(日亜化学工業製;SmFe14(x=2.5〜3.5)化合物)、更にZn粉末(高純度科学)、弾塑性比が50%以下のCu粉末(日本アトマイズ加工)を用意した。粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察で確認したところ、それぞれ磁石粉末は、約1〜5μm、Zn粉末は約1〜7μm、Cu粉末は約1〜3μmであった。粒度分析の結果、磁石粉末は平均粒子径は3μm、Zn粉末は4μm、Cu粉末は2μmであった。SmFeN磁石粉末をDSC(示差走査熱量測定)解析にて、分解温度を特定した結果、450℃以上で分解が発生した。また、SmFeN磁石粉末の酸素濃度は、0.7質量%であった。SmFeN磁石粉末の酸素濃度分析は、SmFeN磁石粉末(サンプル)を、堀場製作所製の酸素窒素分析装置EMGA−920型を用いて、赤外線吸収法により計測した。
磁石粉末170gに対し、Cu粉末10g(5質量%)、Zn粉末20g(10質量%)を、容量500mLの蓋つきのガラス捕集瓶に挿入し、Nガスを充填した後、撹拌ミルで1hr撹拌し、均一に混ぜた(混合)原料粉末を作製した。作製した原料粉末を、コールドスプレイに供した。
コールドスプレイのプロセスは、次のとおりである。コールドスプレイとは、チャンバ容器内を窒素ガス(不活性ガス)に置換した後、原料粉末を溶融またはガス化させること無くキャリアガスと共に超高速で固相状態のまま基材に衝突させて皮膜を形成する装置である。図3にコールドスプレイの装置構成を示す。
キャリアガスとしては、任意のガスを用いることができる。より優れた磁気特性を得るためには、Ar、He、Nなど、磁石特性を劣化させない不活性ガスを用いることが好ましい。窒素は窒化物の分解が生じにくい利点や、ガスが安価であるという利点があり、Heは分子量が小さく、低圧でも速いガス速度が得やすく、設備費用が安価にできる利点がある。特に、酸化防止のため水素を含有させても良い。ここでは、Heガスを用いて、0.8MPaのガス圧でスプレイした。この際、粒子速度(噴射速度)は、超高速化され、該粒子速度(噴射速度)≒基材Bへの衝突速度は、900m/s以上であった。
ここでは、原料粉末を投入する前の加熱されたキャリアガスのことを一次キャリアガス、室温の原料粉末を供給するガスを原料投入ガスと称して区別する。コールドスプレイ法で用いたキャリアガスは、高圧キャリアガス発生部11である高圧Heボンベまたは高圧窒素ボンベから発生させた低温(室温)のHeガスを用いた(詳しくは、表1参照)。高圧キャリアガス発生部11で発生させた低温キャリアガスを、キャリアガス加熱ヒータ13で加熱した。キャリアガス加熱ヒータ13で加熱後の一次キャリアガスの加熱温度(ガス温度;ヒータ温度)は600℃一定とした。キャリアガス加熱ヒータ13としては、発熱抵抗体としてカンタル線を用いた。また、原料粉末供給部15としてステンレス製の小型ホッパー内に、粉末の流動確保のための回転攪拌機を設置し、ホッパー底部に設けたメッシュの上に堆積した原料粉末を、攪拌機で撹拌しつつ、メッシュから濾し出す方式を用いた。原料粉末供給部15からは上記原料粉末をキャリアガスと同種のガスを用いて混合してなる原料投入ガスをノズルガンに投入した。また、原料粉末全体の投入量は、いずれも8.5g/minで行った(下記表1参照)。
本実施例では、チャンバ容器20内を窒素ガスに置換した後に、上記原料粉末供給部15からは上記原料粉末をキャリアガスと同種のガスを用いて混合してなる原料投入ガスをノズルガンに投入し、原料粉末をスプレイした。スプレイ用のノズルはチャンバ容器20内に設置されており、原料粉末をスプレイする前に、所定の時間、チャンバ容器20内を窒素ガスで置換することで、チャンバ容器20内の酸素濃度を調整した。酸素濃度は、東レエンジニアリング社の酸素センサにてモニタリグした。チャンバ容器20内の酸素濃度とガス温度(容器内のガス雰囲気温度)を調整することで、固化成形体、ひいては磁石成形体の酸素を調整することができるためである。また、キャリアガス温度と圧力は、一次キャリアガスと原料投入ガスが混合された後、キャリアガス加速部(ノズルガン)17内の温度センサ及び圧力センサで計測した。
得られた固体成形体は、表面を研磨した後、放電加工により5mm角に試料を切りだし、Cu基材ごと試料振動型磁力計(VSM)にて磁気測定を行い、保磁力(熱処理前)を求めた。
磁気測定の後、アルバック理工製のゴールドイメージ炉にて、Ar気流中で420℃で2時間の熱処理を施し、磁石成形体を作製した。この磁石成形体につき、再度VSMにて磁気測定を行い、保磁力(熱処理後)を求めた。
磁気測定の後、密度を求めた。密度は、ワイヤ切断によって基板のCuを除去した後、成膜した磁石部分の密度をアルキメデス法にて計測した。別途、添加した金属濃度は湿式分析にて定量した。Cu、Zn濃度に相当する重量を除いた重量に相当する密度を算出して、理論密度に対する相対値を求めた。
ここで、理論密度を、用いた原料粉末中の磁石主相(磁石粉末;希土類磁石相)が、X線解析から求められる格子定数をもつとして、磁石成形体の100%の体積を占めるとした場合の密度と定義した。用いた磁石粉末のSmFe14(x=2.5〜3.5)化合物の格子定数をX線解析にて測定した結果、理論密度は7.67g/cmと算出できた。その値を用いて、理論密度に対する割合を算出した。得られた結果を表1に示す。
従って、磁石成形体の理論密度80%以上とは、用いた磁石粉末のSmFe14(x=2.5〜3.5)化合物の成形体内での体積率を規定している。
添加する非磁性金属粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比は、ナノインデンテーション法を用いて、変形のし易さの指標として定義した。ナノインデンテーション法は、図2(a)に示すように、適当な基盤(図示せず)上に載置された試料23(非磁性金属製プレート)の表面にダイヤモンド製の三角錐の圧子21をある荷重まで押し込んだ(圧入)後、その圧子21を取り除く(除荷)までの荷重Pと変位(試料21への圧入深さh)の関係(圧入(負荷)−除荷曲線)を測定する方法である。図2(b)に示すように、負荷(圧入)曲線は材料(試料23の非磁性金属製プレート)の弾塑性的な変形挙動を反映し、除荷曲線は弾性的な回復挙動により得られる。図2(b)の負荷曲線と除荷曲線とで囲まれた面積(実線のハッチ部分)が、塑性変形に消費したエネルギーEpである。負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線と除荷曲線と横軸で囲まれた面積(破線のハッチ部分)が、弾性変形で吸収されたエネルギーEeである。以上から粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比=Ee/Ep×100(%)として求められる値である。粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子として用いたCu粒子の弾塑性比は50%以下(具体的には22%)であった。
実験例1〜11及び比較例1〜6では、コールドスプレイ時の酸素濃度を変えて実験した結果を表1にまとめた。磁石成形体の酸素濃度が1.5質量%以下の場合、熱処理によって、保磁力が著しく向上する効果を得られることが分かる。磁石成形体の酸素濃度分析は、磁石成形体から切り出した小片を、堀場製作所製の酸素窒素分析装置EMGA−920型を用いて、赤外線吸収法により計測した。なお、実験例1のコールドスプレイ施工時のチャンバ内の酸素濃度は0.2質量%であった。
表1の実験例1について、断面組織を観察した。得られた結果を図1に示す。既に説明したように、図1から、Znが帯状に偏析した形態を有していることが分かる。
また、Zn添加材の熱処理後の保磁力と磁石成形体の酸素濃度の相関を図7に示す(表1の結果)。図7から原料磁粉では、図中の黒く塗りつぶされた領域となることから、磁石成形体の酸素濃度は本発明の実験例と同範囲でありながら、Zn添加材の熱処理後の保磁力が大幅に劣ることが分かる。言い換えれば、磁石成形体の酸素濃度は本発明の実験例と同範囲である原料磁粉に比べて、本発明の実験例1〜11では、格段に高い保磁力を安定して発現できていることが分かる。また、磁石成形体の酸素濃度が1.5質量%よりも多く含む比較例1〜6では、本発明の実験例1〜11と同じZn添加量であるにも関わらず、熱処理による保磁力向上効果が認められず、バラつきが大きいことが確認できる。言い換えれば、本発明の実験例1〜11では、Zn添加量か同じ比較例1〜6に比して磁石成形体の酸素濃度を1.5質量%以下に制御することで、成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができることが確認できた。即ち、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理した場合に、大きくばらつくことなく安定して、一定の保磁力向上効果を発現することができることがわかった。
(実験例12〜17および比較例7〜10)
次に、実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス種、ガス圧力、ガス温度、走査速度および、Cu、Znの添加量を変化させて実験した内容、さらに得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
(実験例12)
実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス温度を280℃から270℃に、Cu粒子の添加量を5質量%から0質量%(添加せず)に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
(実験例13)
実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス温度を280℃から200℃に、走査速度を50mm/sから100mm/sに、Cu粒子の添加量を5質量%から0質量%(添加せず)に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
(実験例14)
実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス温度を280℃から200℃に、Zn粒子の添加量を10質量%から5質量%に、Cu粒子の添加量を5質量%から3質量%に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
(実験例15)
実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス種をHeからNに、ガス圧力を0.8MPaから1.0MPaに、ガス温度を280℃から300℃に、Cu粒子の添加量を5質量%から0質量%(添加せず)に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
(実験例16)
実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス種をHeからNに、ガス圧力を0.8MPaから1.0MPaに、ガス温度を280℃から350℃に、Cu粒子の添加量を5質量%から3質量%に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
(比較例7)
実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス圧力を0.8MPaから0.5MPaに、ガス温度を280℃から270℃に、Zn粒子の添加量を10質量%から0質量%(添加せず)に、Cu粒子の添加量を5質量%から0質量%(添加せず)に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
(実験例17)
実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス圧力を0.8MPaから0.4MPaに、ガス温度を280℃から270℃に、Cu粒子の添加量を5質量%から10質量%に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
(比較例8)
実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス種をHeからAirに、ガス温度を280℃から270℃に、Cu粒子の添加量を5質量%から0質量%(添加せず)に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
(比較例9)
実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス種をHeからNに、ガス圧力を0.8MPaから1.0MPaに、ガス温度を280℃から480℃に、Zn粒子の添加量を10質量%から0質量%(添加せず)に、Cu粒子の添加量を5質量%から1質量%に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
(比較例10)
実験例1に対して、コールドスプレイ時のガス温度を280℃から270℃に、Zn粒子の添加量を10質量%から0質量%(添加せず)に、Cu粒子の添加量を5質量%から0質量%(添加せず)に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表2にまとめた。
実験例12〜17および比較例7〜10において、残留磁束密度は、予めVSMで計測した、原料粉末のボンド磁石との相対値として数値化した。ボンド磁石は、用いた市販の日亜化学工業製のSmFeN磁石粉末を0.03g秤量し、内径(Φ)6mm、高さ2.5mmの容器に挿入し、特に配向処理をしないまま、エポキシ樹脂にて固化した。SmFeN合金の比重を7.5g/cmとして、ボンド磁石の残留磁化を数値化した。この結果から、磁石成形体の密度が80%以上に到達していれば、残留磁束密度の高い性能を有する磁石成形体が得られることが分かる。
実験例12〜17および比較例7〜10において、表2の外観(剥離の有無)の判定は、厚さ1mmの80×50mmのCu基板に、実験例12〜17および比較例7〜10ごとに、それぞれ長さ50mmの膜を5箇所成膜し、剥離状態を比較した。実験例12〜17および比較例7〜10では、各実験例および比較例ごとの所定の走査速度でノズルを1層のみ走査させて、上記の長さ50mmの膜を5箇所成膜した以外は、各実験例および比較例と同様にして、磁石成形体を形成した。剥離状態は目視で確認した。5本中、1本でも剥離が発生したものは「有り」とし、5本中、1本も剥離がないものを「無し」として評価した。このことから、比較例7、10のように、Cu粒子、Zn粒子といった塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子を含有しない場合、得られた皮膜が剥離する問題が生じることが分かる。
また、表2の結果から、本発明の実験例12〜17では、格段に高い保磁力を安定して発現できていることが分かる。また、磁石成形体の酸素濃度が1.5質量%よりも多く含む比較例7〜9やZnが添加されていない比較例10では、熱処理による保磁力向上効果が認められず、バラつきが大きいことが確認できる。言い換えれば、本発明の実験例12〜17では、比較例7〜10に比して、成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができることが確認できた。即ち、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理した場合に、大きくばらつくことなく安定して、一定の保磁力向上効果を発現することができることがわかった。
(実験例18〜22および比較例11〜13)
更に、Zn濃度とCu添加について調査した結果を表3にまとめた。
(実験例18)
実験例1に対して、実験例1のコールドスプレイ時の酸素濃度は0.2質量%から0.01質量%に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表3にまとめた。
(実験例19)
実験例1に対して、実験例1のコールドスプレイ時の酸素濃度は0.2質量%から3質量%に、Zn粒子の添加量を10質量%から5質量%に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表3にまとめた。
(実験例20)
実験例1に対して、実験例1のコールドスプレイ時の酸素濃度は0.2質量%から0.8質量%に、Zn粒子の添加量を10質量%から3.5質量%に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表3にまとめた。
(実験例21)
実験例1に対して、実験例1のコールドスプレイ時の酸素濃度は0.2質量%から0.5質量%に、Zn粒子の添加量を10質量%から2.5質量%に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表3にまとめた。
(実験例22)
実験例1に対して、実験例1のコールドスプレイ時の酸素濃度は0.2質量%から1.5質量%に、Zn粒子の添加量を10質量%から2.0質量%に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表3にまとめた。
(比較例11)
実験例1に対して、実験例1のコールドスプレイ時の酸素濃度は0.2質量%から15質量%に、Zn粒子の添加量を10質量%から0質量%(添加せず)に、Cu粒子の添加量を5質量%から0質量%(添加せず)に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表3にまとめた。
(比較例12)
実験例1に対して、実験例1のコールドスプレイ時の酸素濃度は0.2質量%から12質量%に、Zn粒子の添加量を10質量%から0質量%(添加せず)に、Cu粒子の添加量を5質量%から0質量%(添加せず)に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表3にまとめた。
(比較例13)
実験例1に対して、実験例1のコールドスプレイ時の酸素濃度は0.2質量%から10質量%に、Zn粒子の添加量を10質量%から0質量%(添加せず)に、Cu粒子の添加量を5質量%から0質量%(添加せず)に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力、密度、更に残留磁束密度)を測定した結果を表3にまとめた。
実験例18〜22および比較例11〜13において、表3の外観(剥離の有無)の判定は、厚さ1mmの80×50mmのCu基板に、実験例18〜22および比較例11〜13ごとに、それぞれ長さ50mmの膜を5箇所成膜し、剥離状態を比較した。実験例18〜22および比較例11〜13では、各実験例および比較例ごとの所定の走査速度でノズルを1層のみ走査させて、上記の長さ50mmの膜を5箇所成膜した以外は、各実験例および比較例と同様にして、磁石成形体を形成した。剥離状態は目視で確認した。5本中、1本でも剥離が発生したものは「有り」とし、5本中、1本も剥離がないものを「無し」として評価した。このことから、比較例11〜13のように、Cu粒子、Zn粒子といった塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子を含有しない場合、得られた皮膜が剥離する問題が生じることが分かる。
表3の結果から、本発明の実験例18〜20では、Zn濃度が2質量%以上、好ましくは3質量%以上含有されないと、熱処理による保磁力向上効果が十分に得られ難いことが分かる。詳しくは、表3の結果から、本発明の実験例18〜20では、比較例11〜13に比べて格段に高い保磁力を安定して発現できていることが分かる。また実験例21〜22では、比較例11〜13に比べると格段に高い保磁力を安定して発現できている。しかしながら、Zn濃度が2〜2.5質量%(3質量%以下)であるため、実験例18〜20よりも若干、高い保磁力が発現しにくいといえる。言い換えれば、Znが添加されていない比較例11〜13では、熱処理による保磁力向上効果が認められず、バラつきが大きいことが確認できる。一方、本発明の実験例18〜22(特にZn添加量が3質量%以上の実験例18〜20)では、比較例11〜13に比して、成形後の熱処理によって発現する保磁力の向上効果を安定して得ることができることが確認できた。即ち、同一濃度のZnを混合した成形体を同一条件で熱処理した場合に、大きくばらつくことなく安定して、一定の保磁力向上効果を発現することができることがわかった。
(実験例23〜28)
次に、実験例1に対して、磁石粉末として、市販のボンド磁石用のSmFeN磁石粉末に代えて、溶融法にて作製した平均粒子径及び酸素濃度の異なる3種類のSmFeN磁石粉末を用い、コールドスプレイ時のガス圧力、ガス温度を変化させて実験した内容、さらに得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力)を測定した結果を表4にまとめた。なお、実験例23〜28とは別に、以下に示す溶融法に準じて作製した平均粒子径及び酸素濃度の異なる14種類のSmFeN磁石粉末(このうち、6種類については、更に、ボールミルまたはビーズミルにて粒子の微粉砕を行った)につき、平均粒子径と酸素濃度の関係を調査した結果を図4に示す。図4の結果から、コールドスプレイに供するSmFeN磁石粉末の平均粒子径及び酸素濃度につき、上記「(2f−4)磁石粉末の大きさ(平均粒子径)と酸素濃度」の項に示す2種類の範囲を規定したものである。
以下、溶融法により作製したSmFeN磁石粉末を用いた実験例により本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
(溶融法によるSmFeN磁石粉末1の作製)
純度99.9%のSmおよび純度99.9%のFeを用いてアルゴン雰囲気中、高周波炉で溶解混合し、次いで溶湯を鋳型中に流し込んで冷却し、さらにアルゴン雰囲気中において1250℃で3時間焼鈍することにより、Sm25mass%およびFe75mass%からなるSmFe17組成の結晶構造を有する合金を調製した。
この合金を窒素雰囲気中、ジョークラッシャーで粉砕した後、さらにコーヒーミルによって平均粒径100μmにまで粗粉砕した。
得られた合金粉末を管状炉中に入れ、450℃において、1.0atmの水素ガス流を該管状炉中に流して、30分間該合金粉末中に水素を侵入せしめた。その後、30分間Arガス気流に切り替えて脱水素を行ったのち、N−3%H混合ガス気流に切り替えて、30分間窒化処理を行った。続いて上記雰囲気中で室温まで徐冷することにより、SmFe17組成の合金粉末を得た。これにより、上記したように平均粒子径25μmのSmFeN合金粉末(磁石粗粉末)を得た。
次に、得られた酸素濃度が低い粗大なSmFeN系合金粉末(磁石粗粉末)に、Arガス雰囲気中でビーズミルを用いて、平均粒子径2.5μmになるまで粉砕加工(微粉砕処理)を施した。粉砕用のビーズは1μmのジルコニア粒子を用いた。また、溶媒として硫酸ナトリウムで脱水したIPAを用いてスラリー化した。
粉砕後、Ar気流中で、ホットプレートで20〜45℃に加温して乾燥させた。しかる後、徐々に、Ar中に大気を混入させることで表面に適度に酸化膜が形成されたSmFeN系粉末(磁石粉末)を得、スプレイに供する磁石粉末として用いた。得られたSmFeN磁石粉末1の組成は、ICP分析装置および酸素窒素分析装置で確認したところ、SmFe14(x=2.9〜3.3)であった。また、このSmFeN磁石粉末1の粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察で確認したところ、約1〜5μmであった。粒度分析の結果、SmFeN磁石粉末1の平均粒子径は2.5μmであった。SmFeN磁石粉末1をDSC(示差走査熱量測定)解析にて、分解温度を特定した結果、450℃以上で分解が発生した。また、SmFeN磁石粉末1の酸素濃度は、SmFeN磁石粉末1を堀場製作所製の酸素窒素分析装置EMGA−920型を用いて、赤外線吸収法により計測した結果、1.1質量%であった。
(溶融法によるSmFeN磁石粉末2の作製)
まず、SmFeN磁石粉末1の作製方法と同様の手法にて、平均粒子径25μmのSmFeN合金粉末(磁石粗粉末)を作製した。次に、得られた酸素濃度が低い粗大なSmFeN系合金粉末(磁石粗粉末)に、Arガス雰囲気中でビーズミルを用いて、粉砕加工(微粉砕処理)を施した。粉砕用のビーズは5μmのジルコニア粒子を用いた。また、溶媒として硫酸ナトリウムで脱水したIPAを用いてスラリー化した。粉砕後、Ar気流中で、ホットプレートで20〜45℃に加温して乾燥させた。しかる後、徐々に、Ar中に大気を混入させることで、表面に適度に酸化膜が形成されたSmFeN系粉末(磁石粉末)を得、スプレイに供する磁石粉末として用いた。得られたSmFeN磁石粉末2の組成は、ICP分析装置および酸素窒素分析装置で確認したところ、SmFe14(x=2.9〜3.3)であった。また、このSmFeN磁石粉末2の粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察で確認したところ、約2〜20μmであった。粒度分析の結果、SmFeN磁石粉末2の平均粒子径は10.5μmであった。SmFeN磁石粉末2をDSC(示差走査熱量測定)解析にて、分解温度を特定した結果、520℃以上で分解が発生した。また、SmFeN磁石粉末2の酸素濃度は、SmFeN磁石粉末2を堀場製作所製の酸素窒素分析装置EMGA−920型を用いて、赤外線吸収法により計測した結果、0.42質量%であった。
(溶融法によるSmFeN磁石粉末3の作製)
まず、SmFeN磁石粉末1の作製方法と同様の手法にて、平均粒子径25μmのSmFeN合金粉末(磁石粗粉末)を作製した。次に、得られた酸素濃度が低い粗大なSmFeN系合金粉末(磁石粗粉末)を、遊星ボールミルを用いて、粉砕加工(微粉砕処理)を施した。ボールミルは、Arガス雰囲気中に密封されたボールミル用のポット内に、粗粉末と粉砕用メディアとして10mmのジルコニア粒子を挿入して30分粉砕した。また、酸化防止のため、溶媒として硫酸ナトリウムで脱水したIPAを粉末が隠れる程度に注入した。粉砕後、Ar気流中で、ホットプレートで20〜40℃に加温して乾燥させた。しかる後、徐々に、Ar中に大気を混入させることで、表面に適度に酸化膜が形成されたSmFeN系粉末(磁石粉末)を得、スプレイに供する磁石粉末として用いた。得られたSmFeN磁石粉末3の組成は、ICP分析装置および酸素窒素分析装置で確認したところ、SmFe14(x=2.9〜3.3)であった。また、このSmFeN磁石粉末3の粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察で確認したところ、約10〜35μmであった。粒度分析の結果、SmFeN磁石粉末3の平均粒子径は23μmであった。SmFeN磁石粉末3をDSC(示差走査熱量測定)解析にて、分解温度を特定した結果、520℃以上で分解が発生した。また、SmFeN磁石粉末3の酸素濃度は、SmFeN磁石粉末3を堀場製作所製の酸素窒素分析装置EMGA−920型を用いて、赤外線吸収法により計測した結果、0.14質量%であった。
(実験例23)
実験例1に対して、磁石粉末として、市販のボンド磁石用のSmFeN磁石粉末に代えて、上記に示す溶融法により作製したSmFeN磁石粉末1を用いた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力)を測定した結果を表4にまとめた。
(実験例24)
実験例1に対して、磁石粉末として、市販のボンド磁石用のSmFeN磁石粉末に代えて、上記に示す溶融法により作製したSmFeN磁石粉末2を用い、コールドスプレイ時のガス圧力を0.8MPaから0.9MPaに、ガス温度を280℃から350℃にし、粒子速度(噴射速度)≒基材Bへの衝突速度を1050m/sまで超高速化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力)を測定した結果を表4にまとめた。
(実験例25)
実験例1に対して、磁石粉末として、市販のボンド磁石用のSmFeN磁石粉末に代えて、上記に示す溶融法により作製したSmFeN磁石粉末3を用い、コールドスプレイ時のガス圧力を0.8MPaから1.0MPaに、ガス温度を280℃から350℃にし、粒子速度(噴射速度)≒基材Bへの衝突速度を900m/sまで超高速化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力)を測定した結果を表4にまとめた。
(実験例26)
実験例1に対して、磁石粉末として、市販のボンド磁石用のSmFeN磁石粉末に代えて、上記に示す溶融法により作製したSmFeN磁石粉末1を用い、Zn粒子の添加量を10質量%から5質量%に変化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力)を測定した結果を表4にまとめた。
(実験例27)
実験例1に対して、磁石粉末として、市販のボンド磁石用のSmFeN磁石粉末に代えて、上記に示す溶融法により作製したSmFeN磁石粉末2を用い、コールドスプレイ時のガス圧力を0.8MPaから0.9MPaに、ガス温度を280℃から350℃にし、Zn粒子の添加量を10質量%から5質量%に変化させ、粒子速度(噴射速度)≒基材Bへの衝突速度を1050m/sまで超高速化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力)を測定した結果を表4にまとめた。
(実験例28)
実験例1に対して、磁石粉末として、市販のボンド磁石用のSmFeN磁石粉末に代えて、上記に示す溶融法により作製したSmFeN磁石粉末3を用い、コールドスプレイ時のガス圧力を0.8MPaから1.0MPaに、ガス温度を280℃から350℃にし、Zn粒子の添加量を10質量%から5質量%に変化させ、粒子速度(噴射速度)≒基材Bへの衝突速度を900m/sまで超高速化させた以外は実験例1と同様に実験し、その内容および得られた固体乃至磁石成形体の特性(保磁力)を測定した結果を表4にまとめた。
表4に示すように、平均粒子径及び酸素濃度の異なるSmFeN磁石粉末3種類をコールドスプレイに供した結果、平均粒子径を粗大化させたものは、スプレイ時の速度が得やすいように、キャリアガスの温度と圧力を変化させた。これは、粒子速度が遅くなりすぎると、粒子が粉砕されずに、粗大なまま堆積するので磁石特性を発現しない問題があるため、粒子速度(噴射速度)≒基材Bへの衝突速度を、少なくとも600m/s以上に加速して行ったものである。表4に示すように、平均粒子径の大きなSmFeN磁石粉末2、3を用いることで、酸素濃度の低い磁石成形体を容易に得ることができ、尚且つ優れた磁石性能(高保磁力)を保持することができること(表1の比較例1〜6と対比参照のこと)が確認できた。また、平均粒子径の大きなSmFeN磁石粉末2、3を用いれば、図5に示すように、従来、磁石特性の発現のために必須であった微粉砕加工を省略することが可能になる利点も得られる。
10 コールドスプレイ装置、
11 高圧キャリアガス発生部、
12 高圧キャリアガスを圧送するための(低温ガス用)配管、
13 キャリアガス加熱ヒータ、
14 高温高圧のキャリアガス(一次キャリアガス)を圧送するための配管、
15 原料粉末供給装置、
16 原料投入ガスを注入する配管、
17 キャリアガス加速部(ノズルガン)、
19 基材保持部、
20 チャンバ容器、
21 不活性ガス供給装置、
22 不活性ガス(置換ガス)を注入する配管、
23 集塵機、
24 廃棄ガス及び粉末をチャンバ容器から排出するための配管、
B 基板、
30 ナノインデンテーション法の実験装置、
31 ダイヤモンド製の三角錐の圧子、
33 試料(粒子の塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属製プレート)、
40a 表面磁石型同期モータ、
40b 埋込磁石型同期モータ、
41 表面磁石型同期モータ用のロータの磁石(成形体)、
43 表面磁石型同期モータ用のロータ、
45、45a 埋込磁石型同期モータ用の磁石(成形体)、
47 埋込磁石型同期モータのロータ、
d 埋込磁石型同期モータのロータに設けられた埋込溝の厚さ。

Claims (10)

  1. SmとFeを含有する窒素化合物を主成分とする希土類磁石相で構成された磁石成形体において、
    前記磁石成形体が、SmとFeを含有する窒素化合物を主成分とする希土類磁石粉末を含む原料粉末を成形した成形体に熱処理を行って作製されたものであり、
    Zn粒子が前記磁石成形体内に分散した構造を有し、かつ前記磁石成形体内の酸素濃度が1.5質量%以下であることを特徴とする希土類磁石成形体。
  2. 前記磁石成形体の理論密度に対する割合が、80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石成形体。
  3. 前記磁石成形体内に分散したZn粒子が、帯状の偏析構造を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の希土類磁石成形体。
  4. 前記磁石成形体内のZn含有量が、3質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の希土類磁石成形体。
  5. 前記磁石成形体内に、塑性変形に伴うエネルギーの弾塑性比が50%以下の非磁性金属粒子を更に含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の希土類磁石成形体。
  6. 前記磁石成形体が、粒子を堆積させて成膜する粉体成膜の工法を用いて成形されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の希土類磁石成形体。
  7. SmとFeを含有する窒素化合物を主成分とする希土類磁石相で構成された磁石成形体を、粒子を堆積させて成膜する粉体成膜の工法において、前記成膜として不活性ガスに置換した容器内でスプレイを行うコールドスプレイにより行って成形体を形成した後、
    前記成形体を熱処理して磁石成形体を作製することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の希土類磁石成形体の製造方法。
  8. 前記粉体成膜が、Zn粒子をSmとFeを含有する窒素化合物を主成分とする磁石粉末と混合して、ガス温度が400℃以下のコールドスプレイで作製された混合成形体であることを特徴とする請求項7に記載の希土類磁石成形体の製造方法。
  9. 前記スプレイに供する前記磁石粉末の酸素濃度が0.5質量%以下でかつ平均粒子径が10μm以上であることを特徴とする請求項8に記載の希土類磁石成形体の製造方法。
  10. 前記スプレイに供する前記磁石粉末が、窒化処理後に粉砕加工を施されていないことを特徴とする請求項8または9に記載の希土類磁石成形体の製造方法。
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