JP6453412B2 - 臓器癒着防止材 - Google Patents

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Description

本発明は口腔用組成物に関し、詳細には、口腔内粘膜の保護や口腔内粘膜における創傷の保護、治療、又は抜歯、歯周外科、インプラントなどにおける術後の創傷部の縫合治療並びに保護及び感染予防、さらには義歯の安定、口腔乾燥の予防や口臭予防にも使用でき、加えて、含嗽剤としても用いることができる口腔用組成物に関する。
口腔用組成物としては種々のものが提案されている。例えば、特許文献1には、歯牙貼付型歯磨剤として、水不溶性の支持体に支持された歯牙粘着性を有する膏体組成物が開示されており、特許文献2には、口腔又は歯科衛生組成物として、ゲル化剤と医薬用として許容可能な活性成分を含む半固体組成物が開示されている。さらに、特許文献3には、プロタミンの加水分解物を有効成分として含む唾液分泌促進剤、並びにこの唾液分泌促進剤を含む口腔用組成物が開示されている。
しかし、これら特許文献1〜3に開示されている口腔用組成物は、歯磨剤、口臭の除去又は予防剤、或いはドライマウスの治療又は予防剤として使用されるものであり、口腔内粘膜の保護や口腔内粘膜における創傷の保護又は治療に用いられるものではない。
一方、特許文献4には、プロタミン分解ペプチドを含有する食用シート又はその裁断小片を、炎症が生じた歯周ポケットや炎症が認められた歯牙間の歯肉部分に挿入することによって、炎症の消失と歯肉の引き締めを行うことが開示されている。しかしながら、特許文献4において使用が提案されている食用シートは、歯周ポケットや歯肉部分に挿入して使用されるものであり、口腔内粘膜に付着させて使用されるものではない。また、特許文献4において使用が提案されている食用シートは、唾液や、歯肉から排出される膿、血液などの口腔内浸出物の影響により口腔内での軟化が早く、仮にこれを口腔内粘膜に付着させて使用したとしても、口腔内及び歯間部にとどまる滞留時間が短いため、口腔内粘膜を覆って保護するには不適であり、十分な治療効果が期待出来ないという欠点を有している。
因みに、特許文献4の食用シートで用いられているプロタミンは、従来から食品用抗菌剤として使用されているが、必要とされる使用量が多く、アルデヒド基を有する化合物を含む食品と共に加熱すると褐変し、焦げ臭が生じるという不都合を有している。また、プロタミンの副作用としては、低頻度ではあるが、血圧降下、肺高血圧症、呼吸困難、除脈、一過性皮膚潮紅温感、悪心、嘔吐などのアレルギー症状が知られている。
特開2003−113058号公報 特開2004−244419号公報 特開2010−265217号公報 特開2011−225490号公報
本発明は、口腔内粘膜への付着性に優れ、口腔内滞留性が高い口腔用組成物であって、口腔内粘膜の保護や口腔内粘膜における創傷の保護や感染予防、治療、又は抜歯、歯周外科、インプラントなどの術後の創傷部の縫合治療や保護治療、さらには義歯の安定、口腔乾燥の予防、口臭予防にも使用でき、加えて、含嗽剤としても用いられる口腔用組成物を提供することを課題とするものである。
上記の課題を解決すべく、本発明者は、従来から口腔用組成物におけるゲル化剤として汎用されている寒天に着目して鋭意研究を重ねた結果、寒天だけを用いたのでは口腔内粘膜への付着性の改善には限度があるものの、寒天にフノリを組み合わせることによって、口腔内粘膜への付着性が改善され、口腔内粘膜を覆って保護することができるとともに、口腔用組成物の口腔内滞留性が高まることを見出した。
すなわち、本発明は、寒天、フノリ、及び水を含有する口腔用組成物を提供することによって上記の課題を解決するものである。寒天とフノリは、人類には古くからの食経験がある物質であり、極めて安全である。したがって、本発明の口腔用組成物は使用者が嚥下しても安全な口腔用組成物であり、食品としても利用できる口腔用組成物である。
本発明の口腔用組成物において、寒天に対して用いられるフノリの量には原則的に特段の制限はなく、口腔粘膜に対する付着力が得られる限りにおいて適宜設定可能であるが、好ましくは、寒天1質量部に対してフノリを0.02〜1.00質量部、好ましくは0.05〜0.75質量部配合するのが良い。寒天1質量部に対するフノリの量が0.02質量部未満である場合には、決して使用できないという訳ではないが、口腔粘膜に対する付着性や、口腔内滞留性が低くなる傾向があり、逆に、1.00質量部を超えると、この場合でも決して使用できないという訳ではないが、得られる口腔用組成物が硬くなる傾向がある。
本発明の口腔用組成物は、寒天、フノリ、及び水だけから構成されていても良いが、それらの成分に加えて、さらに他の薬効成分を含有しても良い。薬効成分としては、通常、口腔内での発現が期待される薬効を有する成分を用いるのが良く、例えば、抗菌作用を有する成分、抗ウイルス作用を有する成分、止血作用を有する成分、抗炎症作用を有する成分、血流改善作用を有する成分、鎮痛作用を有する成分、血管収縮作用を有する成分などを用いることができる。ただし、本発明の口腔用組成物を食品としても利用できる組成物とする上では、これらの薬効成分としては自然界に存在する天然成分を用いるのが好ましく、動物性よりも植物性の天然成分を薬効成分として用いるのがより好ましい。本発明の口腔用組成物において好適に用いられる薬効成分としては、例えば、漢方薬やハーブ類が挙げられ、これら漢方薬及びハーブ類から選ばれる1種又は2種以上を本発明の口腔用組成物に配合すれば良い。なお、本発明の口腔用組成物は、口腔内で使用後に嚥下しても良いように、界面活性剤を含まないのが望ましい。
本発明の口腔用組成物は、口腔内での使用に適するように種々の形態とすることができる。例えば、本発明の口腔用組成物をシート状に成型してシート状又はフィルム状の口腔用組成物としても良く、本発明の口腔用組成物がシート状又はフィルム状である場合には、当該シート又はフィルムをそのまま、或いは適宜の大きさに裁断して、保護したい口腔内粘膜上に貼り付けて使用することができる。或いは、本発明の口腔用組成物はシリンジ内に充填されていても良い。本発明の口腔用組成物がシリンジ内に充填されている場合には、使用時に際しては、術後の創傷部や不完全な縫合部に適量の本発明の口腔用組成物をシリンジから添加注入し、粘膜面を被覆し保護すれば良い。因みに、皮膚は外界からの刺激を遮断する極めて重要なバリアーであり、通常は、手術後には創傷部を縫合して確実に創傷部を閉鎖することが必要であるが、症例によっては、本発明の口腔内組成物で創傷部を被覆保護するだけで、縫合と同様の効果を得ることができる。いずれの場合であっても、本発明の口腔用組成物は口腔内粘膜への付着性に優れているので、口腔内粘膜に密着してその場所に滞留し、比較的長期にわたって口腔内粘膜を被覆、保護し、治療、予防、乃至は縫合効果を発揮する。例えば、歯周外科、抜歯、又はインプラント術後に骨の露出面を縫合によって保護した後、依然として露出している骨面や骨膜に本発明の口腔内組成物を貼り付けることによって、口腔創傷面を有効に保護し、かつ、感染を有効に予防することができる。また、本発明の口腔内組成物を縫合箇所の上に貼り付ける場合には、縫合箇所が固定源となり、本発明の口腔内組成物が創傷面から脱落するのを防止することができる。加えて、本発明の口腔内組成物を抜歯窩の保護に使用すれば、ドライソケットの予防や、出血の防止に有効である。
また、本発明の口腔用組成物は液体状であっても良く、本発明の口腔用組成物が液体状である場合には、これを含嗽剤として使用することができる。本発明の口腔用組成物は口腔内粘膜への付着性に優れているので、これを含嗽剤として使用する場合には、口腔内粘膜、咽喉部の粘膜、舌、歯間部等に付着し、比較的長期にわたってその場所に滞留して、治療乃至は予防効果を発揮する。
さらに、本発明の口腔用組成物は、医科にも幅広く使用することができ、例えば、臓器の癒着防止材としても使用することができる。すなわち、本発明の口腔用組成物をシート状又はフィルム状に成形し、これを様々な手術時における臓器の癒着防止材として使用する場合には、隣接する臓器組織間が有効に分離されるとともに、シート状又はフィルム状に成形された本発明の口腔用組成物が血液や滲出液を吸収するので、癒着防止効果が極めて大きい。なお、本発明の口腔用組成物を癒着防止材として使用する場合には、フノリは含まれていなくても良い。
本発明の口腔内組成物は口腔内粘膜への付着性に優れ、口腔内滞留時間が長いので、本発明の口腔内組成物によれば、口腔内粘膜に密着して口腔内粘膜や口腔内に生じた創傷を被覆して、例えば、縫合が行われないか不十分な縫合しか行われなかった場合であっても、確実に創傷部を被覆保護して痛みや出血を軽減することができるとともに、外部からの刺激や細菌等の侵入を防止して口腔内粘膜や創傷部分を感染から保護することができるという利点が得られる。また、本発明の口腔内組成物が各種薬効成分を含んでいる場合には、口腔内粘膜や創傷部分を保護に加えて、含まれている薬効成分に応じた様々な薬理効果を発揮して、各種の治療乃至は予防効果をもたらすことができるという利点が得られる。本発明の口腔用組成物は、口腔内粘膜に付着させて使用しても異物感がほとんどなく、使用感に優れているという利点も備えている。
さらに、本発明の口腔用組成物が液状で含嗽剤として使用される場合には、口腔内粘膜、咽喉部の粘膜、舌、歯間部等に付着し、比較的長期にわたって治療乃至は予防効果を発揮することができるという利点が得られる。加えて、本発明の口腔用組成物が、薬効成分を含まないか、薬効成分として漢方薬又はハーブ類を含んでいる場合には、そのまま嚥下しても安心な食品組成物として使用することができるという利点が得られる。
また、本発明の口腔用組成物を癒着防止材として使用する場合には、隣接する臓器組織間が有効に分離されるとともに、シート状又はフィルム状に成形された本発明の口腔用組成物が血液や滲出液を吸収するので、癒着防止効果が極めて大きいという利点が得られる。
本発明の口腔用組成物は、基本成分として、寒天とフノリと水とを含有するものである。寒天とは、良く知られているとおり、テングサ(天草)、オゴノリなどの紅藻類から得た粘液を凍結・乾燥したものであり、粉末寒天、フレーク寒天、糸寒天、角寒天などの形態で、種々の市販品が存在する。本発明においては、寒天であれば、基本的にどのような寒天であっても使用できるが、計量が容易で、比較的均質な粉末寒天を用いるのが好ましい。
用いる寒天自体の特性にも原則として特段の制限はないが、寒天の1.5質量%水溶液を20℃で15時間放置し、凝固させたゲルの固さとして定義されるゼリー強度において、30〜10000g/cmのものを用いるのが好ましい。本発明の口腔用組成物をシート状又はフィルム状にして用いる場合、及び、シリンジ内に充填して用いる場合には、ゼリー強度が比較的高い寒天、例えば、ゼリー強度が100〜10000g/cmのものを用いるのが好ましく、本発明の口腔用組成物を液状の含嗽剤として用いる場合には、ゼリー強度が比較的低い寒天、例えば、ゼリー強度が30〜1500g/cmのものを用いるのが好ましい。このような寒天としては、例えば、低ゼリー強度寒天である「AX−30」、「BX−30」、「UX−30」、超高粘弾性寒天である「大和」、即溶性寒天である「UP−37K」(いずれも、伊那食品工業株式会社販売の製品名)などを挙げることができる。
本発明の口腔用組成物に含有させる寒天の量は、本発明の口腔用組成物をシート状に成型してシート状の口腔用組成物とする場合には、常温でゲル化してシート状態を維持できる濃度であれば良く、0.02〜10質量%の範囲が好ましい。また、本発明の口腔用組成物をシリンジに充填した状態で保存し、使用時にシリンジから押し出して使用する場合にも、同様に、0.02〜10質量%の範囲が好ましい。一方、本発明の口腔用組成物を液状として含嗽剤として使用する場合には、体温若しくは体温を若干上回る温度で液体状態を維持できる濃度であれば良く、0.02〜0.1質量%の範囲が好適である。
一方、フノリとは、紅藻類、フノリ科、フノリ属に属する海藻であり、我が国においては、フクロフノリ、マフノリ、ハナフノリが良く知られている。本発明で用いるフノリは、これら海藻から異物を除去し、適宜精製して、乾燥させ、剪断或いは粉末化したものであっても良く、また、一旦抽出物を得て、それを粒状化又は粉末化したものであっても良い。
本発明の口腔用組成物において、フノリは、口腔内粘膜への付着性を高めるために使用され、その量は寒天の量に依存して決まり、用いる寒天やフノリの種類にも依るが、通常、寒天1質量部に対してフノリを0.02〜1.00質量部配合するのが良く、寒天1質量部に対してフノリを0.05〜0.75質量部質量部配合するのがより好ましい。寒天1質量部に対するフノリの量が0.02質量部未満である場合には、決して使用できないという訳ではないが、口腔粘膜に対する十分な付着性が得られない恐れがあり、逆に、1.00質量部を超えると、この場合でも決して使用できないという訳ではないが、得られる口腔用組成物が硬くなり過ぎて、かえって付着性が低下する恐れがある。したがって、本発明の口腔用組成物における寒天の含有量は、水を除外した固形分換算で、50質量%以上であるのが好ましく、57質量%以上であるのがより好ましいということになる。
本発明の口腔用組成物は、基本的には、上述した寒天と、フノリと、水とから構成される組成物であり、上述した量の寒天とフノリ以外の残部は水ということになる。本発明の口腔用組成物は、斯かる基本的な組成であっても口腔内粘膜に対する優れた付着性を備えているので、口腔内粘膜や創傷部を被覆して外部と遮断し、外部からの刺激や咀嚼残渣や細菌などの侵入を防止し、口腔内粘膜や、口腔内に生じた創傷の被覆、保護、縫合作用を有している。
加えて、本発明の口腔用組成物に含まれるフノリには、中国の古典である『本草綱目』に「体内の余分な水分や毒素、腫瘤(しこり)などを溶かす」と記載されているとおり、それ自体に優れた薬理効果があるといわれている。また、フノリには、各種ビタミン、セレニウム、ゲルマニウム、タウリン、フコイダン、フノランなどが含まれ、セレニウムには強力な抗酸化作用、ゲルマニウムには抗癌作用、そして、フノランには抗ウイルス作用、免疫増強作用、抗癌作用があるといわれている。さらには、寒天は食物繊維を多量に含んでおり、それ自体で、体脂肪率や総コレステロール値を改善する効果があるといわれている。したがって、寒天と、フノリと、水とから構成される場合であっても、本発明の口腔用組成物は、抗酸化作用や抗癌作用、抗ウイルス作用を備え、かつ、優れた食物繊維の供給源として有用である。
なお、本発明の口腔用組成物を臓器の癒着防止材として使用する場合には、寒天と水を主成分とする組成物であれば良く、フノリは含まれていても良いが、含まれていなくても良い。因みに、寒天と水を主成分とする組成物とは、寒天と水が組成物中の50質量%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上を占める組成物をいうものとする。
本発明の口腔用組成物には、さらに、薬効を有する適宜の成分を配合することができる。本発明の口腔用組成物に含有させることができる薬効を有する成分としては、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗炎症剤、鎮痛剤、止血剤などの口腔内で通常使用される各種の薬効成分を挙げることができる。しかし、本発明の口腔用組成物をそのまま嚥下可能な食品組成物として利用する場合には、含有させる薬効成分としては天然物由来のものが好ましく、中でも、植物由来の天然の薬効成分を用いるのが好ましい。
本発明の口腔用組成物において特に好適に用いられる植物由来の天然の薬効成分としては、例えば、漢方薬及びハーブ類を挙げることができる。用いることができる漢方薬及びハーブ類には特段の制限はないが、漢方薬としては、例えば、ガジュツ及び/又は田七を用いるのが好ましい。
ガジュツとは、中国の本草学の古典である『本草綱目』にも収載されている薬草であり、学名クルクマ・ゼドアリス・ロスコーエというインド、ヒマラヤ原産のショウガ科の多年草の根茎部分を、スライスし乾燥したうえで粉末にしガジュツ末として用いたり、また、根茎部分からの抽出エキスとして使用したりするものである。
本発明の口腔用組成物中のガジュツの量は、固形分換算で、通常、0.01〜10質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.02〜5質量%の範囲である。ガジュツの量が0.01質量%未満では所期の作用効果が得られず、また、10質量%を越えると、苦味が増し、使用感を損なうという不都合がある。このようにガジュツには苦味があり、これまでは口腔用組成物のように口腔内に長時間保持されるものには使用できないと考えられていたのであるが、本発明者の新たに見出した知見によれば、意外にもそれほどの違和感なく使用できるものである。
ガジュツには、シネオールや、カンファー類やアズレンなどのセスキテルペン類、フラボン系の配糖体なども含まれており、歯周病や虫歯の予防効果、口臭の除去効果があり、更には、黄色ブドウ球菌やβ型溶血性レンサ球菌を抑制する作用、健胃作用、殺菌・防腐作用、抗炎症・抗潰瘍・抗ペプシン作用があるので、アフタ性口内炎の治療効果などもある。また、ガジュツ末やガジュツ抽出エキスには植物繊維が多く含まれているという特徴がある。
また、田七とは、三七人参とも称されるウコギ科人参属の多年生草本で、サポニン配糖体を含み、ジンセノサイド(ginsenoside)を主成分とするものである。田七には、朝鮮人参の約10倍ものサポニンが含まれており、サポニン以外にも、フラボノイド、有機ゲルマニウム、鉄分などを多く含み、数百年も前から漢方薬として重宝されてきたものである。田七には、古くから止血作用、抗真菌作用が報告されており、これを本発明の口腔用組成物に使用する場合には、止血作用、血流改善を発揮し、歯肉を引き締めるとともに、抗真菌作用も発揮して、カンジダを抑制する作用がある。本発明の口腔用組成物中の田七の量は、固形分換算で、通常、0.01〜10質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.02〜5質量%の範囲である。田七の量が0.01質量%未満では所期の作用効果が得られず、また、10質量%を越えると、苦味が増し、使用感を損なうという不都合がある。
本発明の口腔用組成物において好適に用いられるハーブ類は、薬草又はその抽出物であり、ハーブとしての作用を発揮することができるものである。例えば、柑橘系ハーブ類としては、オレンジ・ビター、スイートオレンジ、グレープフルーツ、レモン、マンダリン、ベルガモットなどを好適に用いることができ、これらのハーブ類には、香気付与作用に加えて、抗炎症作用、コーチゾン作用、鎮痛作用、抗菌作用、抗ウイルス作用がある。ミント系ハーブ類としては、ペパーミント、アニス、スペアミント、シナモン、コリアンダー、フェンネルなどが好適に用いられ、これらのハーブ類には、清涼感付与作用に加えて、鎮痛作用、血管収縮作用、抗菌作用、抗真菌作用、抗ウイルス作用、免疫調整作用、肝臓強壮作用、冷却作用がある。ラベンダー系及びタイム系のハーブ類も好適に用いることができ、これらのハーブ類には抗菌作用、抗ウイルス作用、免疫調整作用、コーチゾン作用があり、特に、カンジダ・アルビカンスなどの真菌に対して強い抗菌作用を有している。また、モノテルペンアルコール類を比較的多く含むハーブ類としては、ユーカリ・ヴィニナリス、ユーカリ・グロブルス、ラベンダー・レイドバン、ゼラニウム・エジプト、ゼラニウム・コルシカ、ゼラニウム・チャイナ、ゼラニウム・ブルボン、タイム・ゲラニオール、タイム・リナロール、ローズウッド、ローズマリー・ジネオール、ローレルなどを好適に用いることができ、これらのハーブ類には、抗真菌作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、免疫調節作用、抗痙攣作用、鎮静作用、鎮痛作用、抗炎症作用、神経強壮作用、血圧降下作用などがあり、特にカンジダ菌などの真菌に対して強い抗真菌作用がある。
本発明の口腔用組成物には、上記のハーブ類を必要に応じて1種又は2種以上配合することができ、その配合量は、ハーブ類の合計で、0.01〜2質量%の範囲が好ましい。
本発明の口腔用組成物には、上記各成分に加えて、必要に応じて、増粘剤として、適宜の水溶性多糖類を配合することができる。本発明で用いる水溶性多糖類としては、天然多糖類を用いるのが好ましく、例えば、寒天オリゴ糖、カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、タマリンドガム、コンニャクマンナン、フォーセレラン、ペクチンから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
本発明の口腔用組成物は、水に各成分を投入し、例えば80℃以上に加熱しながら撹拌して、水に寒天とフノリとを溶解させることによって製造される。なお、本発明の口腔用組成物を臓器の癒着防止材として使用する場合には、フノリは特に用いなくても良い。溶解後、溶解液を平坦なトレー上に流延して自然冷却すると、寒天のゲル化温度は、通常、30〜40℃であるので、溶解液はゲル化して固まり、シート状の本発明の口腔用組成物が得られる。因みに、本明細書においてシート状とは、厚みに比べて縦及び/又は横方向の長さが比較的長いものをいい、例えば、厚みに比べて縦横共に長い平板状のものや、厚みの薄いフィルム状と称されるものも含まれ、縦又は横方向の長さに比べて横又は縦方向の長さが長いテープ状のものも含まれる。好ましい厚さは、用途にもよるが、通常、0.01mm〜2mmである。
使用に際しては、シート状の本発明の口腔用組成物をそのまま、若しくは適宜の大きさに裁断して、保護すべき口腔内粘膜や、歯周外科術後又はインプラント術後の創傷部や、抜歯窩に付着させれば良い。本発明の口腔用組成物は口腔内粘膜への付着性に優れているので、押圧することによって口腔内粘膜や創傷部や抜歯窩などに良く付着し、その位置でシート状の形態を保ったまま比較的長時間滞留する。また、場合によっては、シート状の本発明の口腔用組成物の上に、シリンジを用いて、軟化した本発明の口腔用組成物をさらに添加し、固定するようにしても良い。斯くして、シート状の本発明の口腔用組成物は、対象となる口腔内粘膜や創傷部や抜歯窩、さらには骨面や骨膜などを被覆して外部から遮断し、細菌や咀嚼物残渣の侵入を阻止して保護するとともに、薬効成分を含んでいる場合には、その薬効成分に応じて、止血、鎮痛、抗菌等の種々の薬理効果を発揮する。
また、適宜の各成分と含み、寒天とフノリが溶解した溶解液をシリンジに充填して自然冷却すると、シリンジに充填された本発明の口腔用組成物が得られる。使用に際しては、シリンジを寒天が軟化する温度(通常は80℃以上)まで加熱し、軟化した時点で50℃に設定された固定液を用いて50℃にまで温度を低下させる。温度が安定した時点でシリンジから押し出し、創傷部や口腔内の適宜の位置に充填する。寒天のゲル化温度は、通常、30〜40℃であるので、体温が平均で36.4℃であるヒトの口腔内で硬化し、口腔内粘膜や創傷部の被覆、保護に有効である。本発明の口腔用組成物は口腔内粘膜への付着性に優れているので、口腔内粘膜や創傷部、さらには抜歯窩などに良く付着し、その位置で比較的長時間滞留する。斯くして、シリンジに充填された本発明の口腔用組成物は、対象となる口腔内粘膜や創傷部や抜歯窩、さらには骨面や骨膜などを被覆して外部から遮断し、細菌や咀嚼物残渣の侵入を阻止して保護するとともに、薬効成分を含んでいる場合には、その薬効成分に応じて、止血、鎮痛、抗菌等の種々の薬理効果を発揮する。
さらに、本発明の口腔用組成物である寒天とフノリを溶解した水溶液は、これをそのまま、或いは適宜希釈して、或いはさらに適宜の薬効成分などを溶解させるなどして、口腔内手術後の含嗽剤、口臭の除去又は予防用、口腔内の炎症予防や口内炎の治療・予防用、さらには、口腔内乾燥予防用の含嗽剤として使用することができる。
本発明の口腔用組成物は、口腔内粘膜の保護や、抜歯後や歯周外科後、インプラント後の口腔内粘膜及び歯周組織の保護に用いて、口腔内の炎症の治療又は予防などはもちろん、創傷部の縫合を不要にしたり、縫合数を減じたりすることができる。また、本発明の口腔用組成物は、口腔内粘膜に付着させておくことにより、各種薬効成分が徐々に放出されるので、口腔内の乾燥予防、口臭の除去又は予防、ハップ剤、口内炎薬、DDS基剤さらには、義歯の安定化剤、アトピー性皮膚炎における皮膚粘膜の保護材、すり傷、切り傷の保護材などとしても使用することができる。
さらに、本発明の口腔用組成物は、口腔内用の組成物としてだけでなく、例えば、様々な疾病の手術時における臓器の癒着防止材としても使用することができる。本発明の口腔用組成物を、癒着防止材として、例えば、シート状又はフィルム状に成形して様々な手術時の癒着防止に使用する場合には、隣接する臓器組織間を有効に分離するとともに、血液や滲出液を良く吸収し、極めて優れた癒着防止効果を発揮する。このように、本発明の口腔用組成物は、各種幅広い用途を有する組成物である。
下記の材料を使用して本発明の口腔用組成物を製造した。すなわち、水に寒天とフノリとを投入し、加熱しながら撹拌して、寒天とフノリとを溶解させた。溶解後、溶解液を平坦なトレー上に流延して、自然冷却させ、厚さ約1mm、縦横約50mmのシート状の口腔用組成物1を製造した。
<使用材料>
寒天:「ウルトラ寒天AX−200」(伊那食品工業株式会社製、ゼリー強度200g/cm)2g
フノリ:「粉末フノリ」(株式会社大脇萬蔵商店販売)0.2g
水:精製水100g
寒天とフノリに加えて下記のガジュツ及び田七を用いた以外は実施例1と同様にして、シート状の口腔用組成物2を製造した。
<使用材料>
ガジュツ:ガジュツエキス(精製水100質量部にガジュツ2.5質量部を加えて加熱抽出したもの)1g(抽出前のガジュツ固形分質量)
田七:田七エキス(精製水100質量部に田七2.5質量部を加えて加熱抽出したもの)1g(抽出前の田七固形分質量)
寒天として下記の寒天を用い、さらに下記のハーブ類を用いた以外は実施例2と同様にして、シート状の口腔用組成物3を製造した。
<使用材料>
寒天:「超高弾性寒天 大和」(伊那食品工業株式会社製、ゼリー強度400±30g/cm)5g
ペパーミント:0.4ml
<比較例1>
フノリを用いない以外は実施例1と同様にして、シート状の口腔用組成物4を製造した。
実施例1〜3及び比較例1で製造したシート状の口腔用組成物1〜4を、長さ3cm、幅1cmに裁断し、成人男子の下顎歯肉部に圧接、付着させたところ、フノリを含む口腔用組成物1〜3は歯肉に良く付着し、6時間経過後も付着したままであった。特に、ペパーミントを配合した口腔用組成物3からは徐々にペパーミントが放出され、6時間経過後も口腔内における清涼感が維持されていた。これに対し、フノリを含まない口腔用組成物4は、圧接した直後は歯肉部に付着したものの、数分以内に剥離し、歯肉部が露出した。この結果は、寒天とともにフノリを含有する本発明の口腔用組成物が、単に寒天だけでは得られない口腔内粘膜への優れた付着性を有することを示している。
下記の材料を使用して本発明の口腔用組成物を製造した。すなわち、水に寒天とフノリ、及び他の薬効成分を投入し、加熱しながら撹拌して、寒天とフノリとを溶解させた。溶解後、溶解液を歯科用印象材が収容されるシリンジに充填し、自然冷却させ、シリンジに充填された口腔用組成物5を製造した。
<使用材料>
寒天:「ウルトラ寒天AX−200」(伊那食品工業株式会社製、ゼリー強度200g/cm)5g
フノリ:「粉末フノリ」(株式会社大脇萬蔵商店販売)1g
ガジュツ:ガジュツエキス(精製水100質量部にガジュツ2.5質量部を加えて加熱抽出したもの)2.5g(抽出前のガジュツ固形分質量)
田七:田七エキス(精製水100質量部に田七2.5質量部を加えて加熱抽出したもの)2.5g(抽出前の田七固形分質量)
ラベンダー:0.4ml
水:精製水100g
シリンジに充填された口腔用組成物5をシリンジごと加熱して、口腔用組成物5を軟化させた。充填可能な状態にまで軟化した口腔用組成物5をシリンジから押し出し、抜歯、縫合後の抜歯窩に充填付着させた。抜歯窩に充填付着した口腔用組成物5は、術後7日後の抜糸時にも抜歯窩に滞留し、ガジュツエキス、田七エキスに含まれる薬効成分が作用し、痛みもなく、抜歯窩は清潔に保たれ、予後順調に回復した。
実施例4で用いたのと同じ口腔用組成物5を、歯肉剥離掻爬手術後の患部に適用した。すなわち、歯周病治療のために、上顎第1小臼歯から第2大臼歯までの歯肉を切開、削除し、露出した骨面に口腔用組成物5をシリンジから押し出して注入した。術後10日後に抜糸したが、骨面が露出していた創傷面はきれいに治癒、回復していた。
本発明によれば、口腔内粘膜によく付着し、口腔内滞留時間の長い口腔用組成物が提供される。斯かる口腔用組成物は、口腔内粘膜の保護、術後や抜歯後の口腔内創傷の保護や治療に有用であるばかりでなく、抜歯・歯周外科手術後やインプラント手術後の縫合を補助又は縫合に代替可能な組成物として有用である。さらに、本発明の口腔内組成物は、口腔内での異物感がほとんどなく、舌感に優れ、刺激性がなく、使用性に優れており、口腔内における炎症、乾燥、口臭などの治療又は予防にも極めて有用であり、さらには含嗽剤としても、また、医科用の癒着防止材としても利用することができる。本発明の口腔内組成物の原料は、すべてが植物由来の天然物であり、安心して使用できる。本発明が歯科治療及び口腔内衛生の向上並びに医科における手術時の臓器癒着防止に寄与するところは多大であり、本発明は大いなる産業上の利用可能性を有するものである。

Claims (1)

  1. 寒天、フノリ、及び水を含有し、寒天の含有量が水を除外した固形分換算で50質量%以上であり、寒天1質量部に対してフノリを0.02〜1.00質量部含有するシート又はフィルム状の臓器癒着防止材
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