JP6452145B2 - レーダ装置の信号処理装置、レーダ装置、および校正式作成方法 - Google Patents

レーダ装置の信号処理装置、レーダ装置、および校正式作成方法 Download PDF

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Description

本発明は、レーダ装置に関し、特に、人工衛星や航空機に搭載されるのに好適なレーダ装置の信号処理装置に関する。
レーダ装置は、例えば人工衛星に搭載すれば、宇宙から雲やエアロゾルを観測できる。レーダ装置では、その観測データとして観測対象の移動速度を計測することも可能になった。
本発明に関連する先行技術文献が種々知られている。
例えば、特開2011−53028号公報(特許文献1)は、干渉波による影響を除去してドップラ速度を算出する「ドップラレーダ装置」を開示している。この特許文献1に開示されたドップラレーダ装置は、受信信号を2系統に分配して、互いに90°位相オフセットした基準中間周波数発振信号(COHO信号)によって直交検波(IQ検波)するIQ検波部(IQ検波器)を備えている。すなわち、IQ検波部は、観測対象から反射された受信波(エコー)の直交検波を行い、同相(In-phase)成分と直交成分(Quadrature)を時系列で生成する。なお、特許文献1に開示されたドップラレーダ装置は、干渉波除去部と、ドップラレーダ信号処理部と、をさらに備えている。
また、WO2005/124388号公報(特許文献2)は、動作中の環境変化による温度変動、或いは経年変化による変化が随時補正される「レーダ装置」を開示している。特許文献2に開示されたレーダ装置において、動作環境の温度変動の影響で特性に変化が発生した可能性がある場合、演算されたずれ量に基づいて補正値を生成している。特許文献2では、このように温度情報を検出することにより、レーダ装置の環境変化に追随して、補正処理を行っている。
さらに、特開2003−28951号公報(特許文献3)は、周波数変調特性の検出や補正を簡単な構成で安価に実現可能な「レーダ装置」を開示している。この特許文献3において、連続波(CW)を周波数変調(FM)した送信波を用いるFM−CW方式レーダは、温度センサで電圧制御発振器(VCO)近傍などの温度を検出し、この検出した温度を信号処理回路に与えて、補正を行っている。
さらにまた、特開2001−333120号公報(特許文献4)は、直交復調装置の受信動作を停止することなく、I(Q)信号変換部の校正を行うことができる「直交復調装置」を開示している。特許文献4は、先行技術の直交復調装置では、I信号変換部およびQ信号変換部には、温度変化などの要因により誤差(振幅誤差、位相誤差、オフセット誤差)が生ずるので、校正する必要がある、ことを記載している。また、特許文献4は、その第五の実施形態として、I信号変換部およびQ信号変換部の出力を乗算、積分したものを縦軸、横軸にとった結果をもとに、DCオフセット誤差、位相誤差、振幅誤差を求める、直交復調装置を開示している。
特開2011−53028号公報([図2]、[0023]) WO2005/124388 特開2003−28951号公報([0069]) 特開2001−333120号公報([0004]、[図18]、[図21]、[0156]〜[0167])
上述した人工衛星搭載用のレーダ装置では、宇宙環境で使用できる部品の制約と、宇宙環境や衛星の軌道条件や高度変動等の様々な外部環境の影響を考慮する必要がある。この種のレーダ装置は、受信信号(レーダエコー)のレベルの変動幅、システムハードウェアが曝される温度の変動幅が大きいので、高精度の観測要求精度を信号レベル、温度条件の変動幅の全域に渡って維持することが非常に困難である。その対応のために、この種のレーダ装置では、システムの温度変動を抑制する仕組みを導入する等しなければならないので、ハードウェアの規模増大を招いたり、また観測条件の制約を設けたりしなければならないという問題がある。
人工衛星の場合、ハードウェア規模の増大は、開発コストや打上費用の増大を招き、観測条件の制約は、サービスの低下を招くことに繋がってしまう。この問題に対して、部品選定の制約をクリアし、且つ最小限のハードウェア構成で解決できる手段の確立が望まれている。
本発明者は、人工衛星搭載用以外のレーダ装置も同様の問題を有すると考える。
特許文献1に開示されたドップラレーダ装置において、IQ検波部(IQ検波器)は、単に、エコー(受信信号)の直交検波を行っているだけである。
しかしながら、実際のIQ検波器は、それ自体、オフセット特性を持っている。特に、レーダエコー(受信信号)の信号入力レベルが低い場合、IQ検波器は、そのオフセット特性のために、直交度が劣化する。更にIQ検波器のオフセット特性は、回路部が曝される温度によってもその特性が変化する。
従って、レーダエコー(受信信号)の信号入力レベルが低く、広い範囲の温度変動が予測される人工衛星搭載のレーダ装置の場合、この直交度の劣化と温度変動は、信号処理装置としての位相決定精度に悪影響を及ぼす。その結果として、レーダ装置のドップラ速度の計測精度に悪影響を与える。
なお、レーダ装置では、レーダエコー(受信信号)の強度情報も観測データの処理に必要となる。そのため、AGC(Auto Gain Control)の様にIQ検波器への入力レベルをIQ検波器の特性に応じて、適正なレベルに制御する様な方法は採用できない。これらのことから、IQ検波器の特性がレーダ装置の性能を決定する主な要因となっている。
また、特許文献2および特許文献3は、物体(目標物)で反射された反射電波の受信信号と送信信号の一部とをミキシングして、ビート信号を生成するミキサ(ダウンコンバート部;ミキシング手段)を開示しているに過ぎない。すなわち、特許文献2および特許文献3においても、ミキサのオフセット特性を何ら考慮していない。
一方、特許文献4は、温度変化などの要因により誤差(振幅誤差、位相誤差、オフセット誤差)が生じるので、それらを校正する技術を開示している。しかしながら、特許文献4では、受信信号(レーダエコー)の入力信号レベルに応じた、直交復調装置のオフセット特性については何ら考慮していない。また、特許文献4では、「温度変化などの要因により誤差が生じる」と記載しているものの、実際の運用時において、温度を検出してはいない。さらに、特許文献4の直交復調装置では、受信動作を停止することなく、直交復調装置それ自体の内部のハードウェア構成によって校正を行っているので、ハードウェアの規模が増大してしまう。その結果、特許文献4に開示された直交変調装置を、人工衛星に搭載することは困難である。
そこで、本発明の目的は、レーダエコー(受信信号)の入力信号レベルが極めて低い場合でも、広い温度範囲で、ドップラ速度の計測精度を高精度に維持できる、レーダ装置の信号処理装置およびその校正式作成方法を提供することにある。
本発明の一態様によるレーダ装置の信号処理装置は、観測対象から反射された受信信号を処理して、当該観測対象の観測データを求める、レーダ装置の信号処理装置であって、受信信号の直交検波を行い、同相成分および直交成分を時系列で生成する直交検波器と、当該直交検波器の入力信号レベルに応じた温度毎のオフセット成分をキャンセルするための校正式を格納し、検出した温度情報に基づいて校正式により補正値を算出し、同相成分および直交成分を補正値により補正した値を用いて、パルスペア演算を行って、観測データを計算する信号処理回路と、を有する。
また、本発明の他の態様による校正式作成方法は、信号処理装置に含まれる直交検波器のオフセット成分をキャンセルするための校正式を作成する方法であって、(a)信号処理装置を所定の温度に維持するステップと、(b)直交検波器への基準信号の入力信号レベルを決定するステップと、(c)基準信号の位相をシフトさせて、直交検波器から出力される同相成分および直交成分を位相平面上でプロットするステップと、(d)ステップ(b)に戻って基準信号の入力信号レベルを新たに決定して、ステップ(b)および(c)を第1の所定回数、繰り返すステップと、(e)ステップ(a)に戻って信号処理装置の温度を変更して、ステップ(a)乃至(d)を第2の所定回数、繰り返すステップと、(f)位相平面のプロット結果に基づいて、入力信号レベルに対応した温度毎の直交検波器のオフセット成分を推定するステップと、(g)オフセット成分と温度と信号レベルとの間の関係を数式化して、オフセット成分をキャンセルするための校正式を作成するステップと、を含む。
本発明によれば、レーダエコー(受信信号)の入力信号レベルが極めて低い場合でも、広い温度範囲で、観測データの計測精度を高精度に維持できる。
関連技術のIQ検波器への入力信号レベルと位相決定誤差(直交度)の関係を示す図である。 本発明の実施形態に係るレーダ装置の信号処理装置を示すブロック図である。 図2に示したレーダ装置の信号処理装置による、位相決定精度(IQ検波系統の直交度)の改善効果を示す図である。 本発明の実施例に係る、人工衛星搭載用の雲・エアロゾル観測レーダ装置の信号処理装置を示すブロック図である。 図4に示した信号処理装置の製作・試験段階で、装置個体の校正式を生成する場合の動作について説明するシーケンス図である。 図4に示した信号処理装置の運用段階の動作を説明するシーケンス図である。 図4に示した信号処理装置の運用期間において校正処理を実行する場合の動作を説明するシーケンス図である。 本発明の実施例の効果を説明する図であって、(A)は、関連技術の信号処理装置のドップラ速度変動(常温時取得データに基づく速度推定結果)を示す図であり、(B)は、本実施例に係る信号処理装置のドップラ速度推定値(常温時取得データに基づく速度推定結果)を示す図である。 本発明の変形例に係るIQ検波器のリニアリティ確認回路の動作例を示す図である。
[関連技術]
本発明について説明する前に、本発明の理解を容易にするために、図1を参照して関連技術について説明する。
図1は、関連技術のあるIQ検波器への入力信号レベルと位相決定誤差(直交度)の関係を示す図である。図1において、横軸は入力信号レベル(dBm)を示し、縦軸は位相決定誤差[直交度](deg)を示す。
図1から分かるように、このIQ検波器は、入力信号レベルが低い場合に、IQ検波器自体が持つオフセット特性に依存して、直交度が劣化する。具体的には、このIQ検波器は、IQ検波器に入力するレーダエコー(受信信号)の入力信号レベルが−40dBmあたりから、直交度が大きく劣化する。
詳述すると、図1から、レーダエコー(受信信号)の入力信号レベルが−40dBm以上では、直交度が±3dBに抑えられていることが分かる。しかしながら、レーダエコー(受信信号)の入力信号レベルが、−40dBmより小さくなると、直交度が急激に劣化していることが分かる。
更にこのIQ検波器のオフセット特性は、アナログ回路部が曝される温度によっても変化する。
従って、レーダエコー(受信信号)の入力信号レベルが低く、広い範囲の温度変動が予測されるレーダ装置の場合、この直交度の劣化と温度変動とは、信号処理装置での位相決定精度に悪影響を及ぼすことになる。その結果として、レーダ装置のドップラ速度(観測データ)の計測精度に悪影響を与える。
なお、この種のレーダ装置(例えば、人工衛星搭載用レーダ装置)では、レーダエコーの強度情報も観測データの処理に必要となる。そのため、AGC(Automatic Gain Control)の様にIQ検波器への入力信号レベルをIQ検波器の特性に応じて、適正なレベルに制御する様な方法は採用できない。これらのことから、IQ検波器の特性がレーダ装置の性能を決定する一要因として働く。
[実施形態]
次に、図2を参照して、本発明の一実施形態に係るレーダ装置について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係るレーダ装置の信号処理装置を示すブロック図である。
本レーダ装置は、人工衛星に搭載される。このレーダ装置は、宇宙から雲やエアロゾルを観測し、その移動速度を含む観測データを計測する装置である。
レーダ装置は、図示しない高周波装置と、図2に示した信号処理装置とを有する。高周波装置は、空中線装置(アンテナ)と、送信装置と、受信装置と、周波数変換装置とから成る。
周波数変換装置は、信号処理装置から供給されるアナログの送信IF(中間周波数)信号を送信RF(無線周波数)信号に変換(アップコンバート)する。送信装置は、送信RF信号を遠距離での観測が可能な送信電波に増幅する。送信電波は空中線装置から空中に放射され、観測対象によって反射される。本例の場合、観測対象は、雲やエアロゾルである。
観測対象からの反射波(受信電波)は、空中線装置によって捕捉され、受信装置で受信される。受信装置は、受信した受信電波を復調し、受信RF信号を出力する。周波数変換装置は、受信RF信号を受信IF信号に周波数変換(ダウンコンバート)する。この受信IF信号は、図2に示す信号処理装置に供給される。受信IF信号は、単に、受信信号またはIF信号とも呼ばれる。また、受信IF信号は、レーダエコーとも呼ばれる。
本実施形態では、図2に示した、レーダ装置の信号処理装置(搭載機器)における、高精度に観測データ(ドップラ速度)計測を実現するための校正と信号処理方法を説明する。
対象となる信号処理装置は、図2に示す通り、IQ検波回路100と、信号処理回路200とから成る。IQ検波回路100は、校正回路300と、レーダエコーの検波を行うIQ検波器400とから成る。信号処理回路200は、A/D変換器500と、パルスペア演算を行うデジタル信号処理回路600とから成る。IQ検波器400は、直交検波器とも呼ばれる。
図示の信号処理装置は、IQ検波器400でレーダエコー(受信信号)を直交検波し、デジタル信号処理回路600でパルスペア演算(共分散処理)を行い、相関係数を観測データとして出力する装置である。
校正回路300は、デジタル信号処理回路600からの校正指令に応答して、校正用の信号(以下、単に「校正信号」とも呼ぶ)をIQ検波器400へ供給する。また、校正回路300は、校正用温度情報を、デジタル信号処理回路600へ供給する。
IQ検波器400は、受信信号の直交検波を行い、検波出力信号として、同相信号(I-out)と直交信号(Q-out)とを時系列で生成する。校正回路300から校正信号が供給されている場合、IQ検波器400は、検波出力信号として校正信号検波出力信号を出力する。それ以外の場合(例えば、通常の運用時)、IQ検波器400は、検波出力信号としてレーダエコー検波出力信号を出力する。
A/D変換器500は、アナログ信号である同相信号(I-out)および直交信号(Q-out)を、それぞれ、デジタル信号であるI−チャンネル信号(I-ch)およびQ−チャンネル信号(Q-ch)に変換する。以下では、I−チャンネル信号(I-ch)およびQ−チャンネル信号(Q-ch)を、それぞれ、同相成分および直交成分とも呼ぶ。
デジタル信号処理回路600は、IQ検波器400の入力信号レベルに応じた温度毎のオフセット成分をキャンセルするための校正式をメモリ(図示せず)に格納している。尚、入力信号レベルと温度値とを独立変数とする関数である校正式は、後に説明するように準備すればよい。デジタル信号処理回路600は、検出した温度情報に基づいて校正式により補正値を算出し、同相成分および直交成分を補正値により補正した値を用いて、パルスペア演算を行って、移動速度を含む観測データを計算する。
このように、本実施形態では、信号処理装置内に設けた校正回路300から得た温度情報を用いた校正処理により、IQ検波系統・信号処理系統回路の温度に対応した信号オフセット成分を推定している。そして、信号処理装置内に設けた信号処理回路200によるデジタル信号処理において、IQ検波器400のオフセット成分をキャンセルする補正値を適用した演算を実行している。このような構成を採用することにより、レーダエコー(受信信号)の入力信号レベルがたとえ低い状態でも、広い温度範囲で、信号処理装置の位相決定精度を高精度に維持することが出来る様になる。その結果として、レーダ装置として、観測データ(ドップラ速度)の計測精度を高精度に維持できるようになる。
図3は、図2に示したレーダ装置の信号処理装置による、位相決定精度(IQ検波系統の直交度)の改善効果を示す図である。
図3から、信号処理装置によってオフセットキャンセル処理を実行することにより、レーダエコー(受信信号)の入力信号レベルが−40dBmより小さな値であっても、直交度が±3dB内に収まることが分かる。
図4は、本発明の実施例に係る、人工衛星搭載用の雲・エアロゾル観測レーダ装置の信号処理装置を示すブロック図である。
図4において、(A)部は校正回路300を示す。校正回路300は、IQ検波回路100内に、アンプ302、可変減衰器304、移相器306、および温度センサ308を具備する。本実施例では、校正用温度情報は、アナログ値で信号処理装置200に供給されるが、デジタル値で通知する態様でもよい。
校正回路300には、図示しない基準発振器から基準中間周波数発振信号(COHO信号)が供給される。基準中間周波数発振信号(COHO信号)は、単に、基準信号とも呼ばれる。尚、COHO信号は、IQ検波器400にも供給される。
可変減衰器304は、アンプ302で増幅されたCOHO信号(基準信号)を校正指令に従って可変減衰して減衰した信号を出力する。移相器306は、減衰した信号の位相を校正指令に従ってシフトして、位相シフトした信号を校正信号として出力する。
したがって、この校正回路300では、可変減衰器304でCOHO信号の入力信号レベルを任意のレベルに固定して、移相器306でその位相を360°回転させることができる。これにより、任意の入力信号レベルで位相決定精度(直交度)を評価できる様になる。また、校正回路300は温度センサ308を具備していることから、位相決定精度の温度依存性も評価することが出来る。
IQ検波回路100には、IF信号(中間周波数信号)が供給される。IF信号は、前述したように、レーダエコーや受信信号とも呼ばれる。
IQ検波回路100は、第1のIFアンプ102と、バンドパスフィルタ(BPF)104と、第2のIFアンプ106と、スイッチ108とを含む。
通常の動作(運用)時、IF信号は、第1のIFアンプ102、バンドパスフィルタ104、第2のIFアンプ106、およびスイッチ108を介して、IQ検波器400に供給される。
一方、校正処理を行う(校正式を作成する)時には、校正回路300からの校正信号が、スイッチ108を介してIQ検波器400へ供給される。
IQ検波器400からの検波出力信号は、アンプ110を介して信号処理回路200へ供給される。
図4において、(B)部は、信号処理回路200である。信号処理回路200において、A/D変換器500は、2つのアンプ回路501、502と、2つのA/D変換器506、507とから成る。
また、信号処理回路200において、デジタル信号処理回路600は、デジタル信号処理用FPGA(Field Programmable Gate Array)610と、マイクロプロセッサ620とから成る。マイクロプロセッサ620は、そのメモリ(図示せず)に本発明に係る処理動作を実行させる制御用ソフトウェアを格納している。
FPGA610は、図示はしないが、信号処理ロジックと、内部バッファとを備える。
信号処理回路200は、校正回路300の温度センサ310と、アナログマルチプレクサ(MUX)202と、A/D変換器204とを更に具備する。
アナログマルチプレクサ202は、IQ検波回路100内の温度センサ308で検出された温度情報(校正用温度情報)と信号処理回路200内の温度センサ310で検出された温度情報との一方を選択して出力する。A/D変換器204は、アナログマルチプレクサ202で選択された温度情報をデジタルの温度データに変換して、マイクロプロセッサ620へ供給する。
この信号処理回路200では、IQ検波器400の検波出力信号をA/D変換器500でA/D変換して、デジタル信号処理用FPGA610に入力する。FPGA610内の信号処理ロジックは、パルスペア演算を行い、その結果をFPGA610の内部バッファに蓄積する。
マイクロプロセッサ620は、FPGA610の演算結果を通信用パケットに編集して、観測データを通信機能部に引き渡す処理を行う。また、マイクロプロセッサ620は、予め校正処理により取得した校正式を基に、温度センサ308の計測値から、現温度でのオフセット値を推定して、FPGA610の信号処理ロジックへオフセット成分をキャンセルするための補正値を設定する機能を備えている。
校正処理(校正式作成)時、FPGA610は、校正信号検波出力信号を位相平面上にプロットして、IQ検波器400のオフセット成分を推定するオフセット推定手段として働く。推定したオフセット成分は、校正データとして、マイクロプロセッサ620に供給される。マイクロプロセッサ620は、オフセット成分(校正データ)と温度と信号レベルとの関係を数式化して、オフセット成分をキャンセルするための校正式を作成する校正式作成手段として働く。
一方、通常の運用時、マイクロプロセッサ620は、温度センサ310で検出した温度情報に基づいて、校正式により補正値を算出する補正式算出手段として働く。FPGA610は、レーダエコー検波出力信号(同相成分および直交成分)を補正値により補正した値を用いて、パルスペア演算を行って、相関係数を求めるパルスペア演算手段として働く。そして、マイクロプロセッサ620は、相関係数から移動速度を含む観測データを計算する手段として働く。
このように、校正回路300と信号処理回路200とにより、IQ検波系・信号処理系回路のオフセット成分を動的にキャンセルすることで、信号処理装置の位相決定精度を、低い入力信号レベルでも、広い温度範囲で高精度に維持することが出来る。
次に、図5乃至図7を参照して、図4に示した信号処理装置の動作について説明する。
図5は、本実施例の信号処理装置用の校正式を求めるシーケンス図である。
図6及び図7は、本実施例の信号処理装置の動作を示すシーケンス図である。
先ず、図5を参照して、信号処理装置の製作・試験段階で、装置個体の校正式を生成する場合の動作について説明する。
このとき、マイクロプロセッサ620は、ソフトウェア指令により、IQ検波回路100のスイッチ108を校正回路300の校正信号を選択するように制御する。また、マイクロプロセッサ620は、ソフトウェア指令により、信号処理回路200のアナログマルチプレクサ202を温度センサ308からの校正用温度情報を選択するように制御する。
先ず、信号処理装置を恒温槽等、温度制御が出来る環境に設置する(ステップS101)。
次に、信号処理装置の温度が任意の温度T(例えば、−20℃)に維持されるように恒温槽等で環境を温度制御して(ステップS102)、校正用温度センサ308の温度をモニタし、内部温度が安定するまで状態を維持する(ステップS103)。尚、マイクロプロセッサ620が、校正用温度センサ308の温度をモニタし、内部温度が安定するまで計測を待機するようにしてもよい。
次に、マイクロプロセッサ620は、校正回路300の可変減衰器304にソフトウェア指令として校正指令を与え、IQ検波器400への入力信号レベルPを決定する(ステップS104)。
次に、マイクロプロセッサ620は、入力信号レベルPに固定した状態で、校正指令によって移相器306に、校正信号の位相を0°〜360°まで逐次的にシフトさせながら、その時のI信号、Q信号出力を信号処理回路200で取得し、そのデータを位相平面上にプロットする(ステップS105)。なお、取得出データの位相平面上へのプロットは事後的に行ってもよい。
ここで、位相平面は、原点と、原点で直交する実軸および虚軸とを持つ。実軸は同相軸(I軸)とも呼ばれ、虚軸は直交軸(Q軸)とも呼ばれる。
1つの入力信号レベルPの測定が終了したら、ステップS104に戻って、マイクロプロセッサ620は、可変減衰器304にソフトウェア指令を与え、IQ検波器400への入力信号(校正信号)のレベルを変更して、第1の所定回数、同様のプロットを行う(ステップS106)。
ここで、前述したように、IQ検波器400のオフセット成分の影響が顕著に現れるのは、IQ検波器400の入力信号レベルが低い時である。したがって、どの程度の入力信号レベルをどの程度のステップで変化させてデータを取得するかは、使用するIQ検波器400の特性に合わせて設定する。
その後、ステップS102に戻り、温度Tを信号処理装置が性能保証する温度範囲で、例えば5〜10℃のステップで変更しながら、第2の所定回数、上記ステップS104、ステップS105を繰り返す。
次に、FPGA610は、IQ検波器400の温度と信号レベル毎のオフセット成分を、測定データに表れた理想値とのズレ量で推定する。なお、この推定値は、位相平面上で、温度毎に各入力信号レベルで測定した各位相のプロット群の座標中心(円の中心)と、理想原点との間の距離を求めればよく、その手法は問わない。
そして、マイクロプロセッサ620は、このズレ分(オフセット成分)と温度と信号レベルとの関係を数式化して、オフセット成分をキャンセルするための校正式を作成する(ステップS107)。
最後に、この校正式を信号処理装置のマイクロプロセッサ620のメモリに制御ソフトウェアの一部として実装する(ステップS108)。
次に、図6を参照して、信号処理装置の運用段階の動作について説明する。
このとき、マイクロプロセッサ620は、ソフトウェア指令により、IQ検波回路100のスイッチ108を第1のIFアンプ106からの受信信号(IF信号)を選択するように制御する。また、マイクロプロセッサ620は、ソフトウェア指令により、信号処理回路200のアナログマルチプレクサ202を温度センサ308からの温度情報を選択するように制御する。
この場合、信号処理装置内で自動的に環境温度に応じて、オフセット成分の補正値を算出して、信号処理装置内のデジタル信号処理回路600でオフセット成分のキャンセルを行い、観測データを生成することになる。
まず、マイクロプロセッサ620は、1つの観測データ単位のデータを取得する際に、校正用の温度センサ308または、310からIQ検波回路100の温度情報を取得する(ステップS201)。
次に、マイクロプロセッサ620は、その温度情報に基づき、実装された校正式により、オフセット成分キャンセル用の補正値を算出し、それをデジタル信号処理用FPGA610に設定する(ステップS202)。
次に、マイクロプロセッサ620は、デジタル信号処理用FPGA610にレーダのパルス送信とデータ取得を指示する(ステップS203)。
入力されるレーダエコーを信号処理する際に、デジタル信号処理用FPGA610は、I-ch、Q-chのA/D変換結果を補正値により、補正した値を用いて、パルスペア処理演算を行い、相関係数を求める。そして、マイクロプロセッサ620は、この相関係数から観測データ(観測対象の移動速度)を生成する(ステップS204)。
次に、図7を参照して、信号処理装置の運用期間において校正処理を実行する場合の動作について説明する。
このとき、マイクロプロセッサ620は、ソフトウェア指令により、IQ検波回路100のスイッチ108を校正回路300の校正信号を選択するように制御する。また、マイクロプロセッサ620は、ソフトウェア指令により、信号処理回路200のアナログマルチプレクサ202を温度センサ308からの温度情報または、温度センサ310からの温度情報を選択するように制御する。
まず、マイクロプロセッサ620は、校正信号を取得する際に、校正用の温度センサ308からIQ検波回路100の温度情報を取得する(ステップS301)。
次に、マイクロプロセッサ620は、校正回路300の可変減衰器304に校正指令を与え、IQ検波器400への入力信号レベルPを決定する(ステップS302)。
次に、マイクロプロセッサ620は、入力信号レベルPに固定した状態で移相器306に校正指令を与え、校正信号の位相を0°〜360°までシフトさせて、その時のI信号、Q信号出力を信号処理回路200で取得し、そのデータを位相平面上にプロットする(ステップS303)。
1つの入力信号レベルPの測定が終了したら、ステップS302に戻って、マイクロプロセッサ620は、可変減衰器304及び移相器306に新たに校正指令を与え、IQ検波器400への入力信号(校正信号)のレベルと位相を変更して、第1の所定回数、同様のプロットを行う(ステップS304)。
そして、マイクロプロセッサ620は、このように校正回路300を用いて取得した校正データと、上述した初期設定段階で取得したデータとの変化を確認することで、回路特性の経時変動等の特性変化を監視する(ステップS305)。なお、ステップS305に係る処理は、地上局(オペレータ側)が受け持つこととしてもよい。
尚、マイクロプロセッサ620は、必要に応じて運用期間の校正データを反映させて再調整した校正式を生成し、校正式を更新することにより特性変化後のハードウェアに追従することを自動的に実行してもよい。
図8を参照して、本発明の実施例の効果について説明する。
図8(A)は、関連技術の信号処理装置のドップラ速度変動(常温時取得データに基づく速度推定結果)を示す図である。図8(B)は、本実施例に係る信号処理装置のドップラ速度推定値(常温時取得データに基づく速度推定結果)を示す図である。
図8(A)および図8(B)ともに、IF信号レベル特性(パルス入力時)における速度変動が1.6m/sのドップラシフト条件の場合の例を示している。図8(A)において、横軸はIF信号レベル[dBm]を示し、縦軸は速度変動[m/s]を示し、ダイナミックレンジは95dB(+10dBm〜−85dBm)である。図8(B)において、横軸はIF信号レベル[dBm]を示し、縦軸はドップラ速度推定値[m/s]を示し、ダイナミックレンジは120dB(+10dBm〜−110dBm)である。
図8(A)から明らかなように、関連技術では、信号処理装置への入力信号レベルが−40dBmより低くなると、ドップラ速度推定精度が劣化し始めることが分かる。
これに対して、図8(B)から明らかなように、本実施例では、IF信号入力レベルが−76dBmまで、ドップラ速度精度要求(±0.2m/s)を満足していることが分かる。そして、本実施例では、入力信号レベルが、−60dBmまで特性が維持されていることが分かる。従って、オフセットキャンセル方法を改変することにより、約18dB改善していることが分かる。
以上の様に、レーダ装置の信号処理装置を採用することにより、レーダエコーの入力信号レベルが低く、信号処理装置の温度が広い温度範囲で変動する様な環境においても、回路固有のオフセット成分と、その環境条件による特性変化とを動的にキャンセルすることができる。そのため、信号処理装置の位相決定精度(直交度)を高精度に維持することができる。その結果として、レーダ装置の観測データ(ドップラ速度)の計測精度を高精度に維持することができるという効果が得られる。
[変形例]
図4のA部の校正回路300は、移相器306の設定を固定し、可変減衰器304により校正信号のレベルを変化させて、IQ検波器400の出力をプロットすることで、IQ検波器400のリニアリティ確認回路としても使用できる(図9参照)。
以上、実施形態(及び実施例)を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態(実施例)に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
本発明は、人工衛星や航空機搭載のレーダ装置に利用可能である。
100 IQ検波回路
102 第1のIFアンプ
104 バンドパスフィルタ(BPF)
106 第2のIFアンプ
108 スイッチ
110 アンプ
200 信号処理回路
202 アナログマルチプレクサ(MUX)
204 A/D変換器
300 校正回路
302 アンプ
304 可変減衰器
306 移相器
308 温度センサ
310 温度センサ
400 IQ検波器(直交検波器)
500 A/D変換器
501,502 アンプ回路
506,507 A/D変換器
600 デジタル信号処理回路
610 デジタル信号用FPGA
620 マイクロプロセッサ(制御用ソフトウェア)

Claims (8)

  1. 観測対象から反射された受信信号を処理して、当該観測対象の観測データを求める、レーダ装置の信号処理装置であって、
    前記受信信号の直交検波を行い、同相成分および直交成分を時系列で生成する直交検波器と、
    当該直交検波器の入力信号レベルに応じた温度毎のオフセット成分をキャンセルするための校正式を格納し、検出した温度情報に基づいて前記校正式により補正値を算出し、前記同相成分および前記直交成分を前記補正値により補正した値を用いて、パルスペア演算を行って、前記観測データを計算する信号処理回路と、
    前記校正式を求めるために必要な校正信号を前記直交検波器へ供給する校正回路と、
    を有し、
    前記校正回路は、
    基準信号を可変減衰して減衰した信号を出力する可変減衰器と、
    前記減衰した信号の位相をシフトして、位相シフトした信号を前記校正信号として前記直交検波器へ送出する移相器と、
    を含み、
    前記直交検波器は、前記校正信号に応答して、前記同相成分および前記直交成分として、校正信号検波出力信号を出力する、
    信号処理装置。
  2. 前記観測データが前記観測対象の移動速度を含む、請求項1に記載の信号処理装置。
  3. 前記校正回路は、前記温度情報を前記信号処理回路に供給する温度センサを含む、請求項1又は2に記載の信号処理装置。
  4. 前記信号処理回路は、
    前記校正信号検波出力信号を位相平面上にプロットして、前記直交検波器のオフセット成分を推定するオフセット成分推定手段と、
    前記オフセット成分と温度と信号レベルとの関係を数式化して、前記オフセット成分をキャンセルするための前記校正式を作成する校正式作成手段と、
    を含む請求項1乃至3のいずれか1つに記載の信号処理装置。
  5. 前記信号処理回路は、
    前記検出した温度情報に基づいて前記校正式により前記補正値を算出する補正式算出手段と、
    前記同相成分および前記直交成分を前記補正値により補正した値を用いて、パルスペア演算を行って、相関係数を求めるパルスペア演算手段と、
    前記相関係数から前記観測データを計算する手段と、
    を有する請求項1乃至のいずれか1つに記載の信号処理装置。
  6. 請求項1乃至のいずれか1つに記載の信号処理装置を含むレーダ装置。
  7. レーダ装置の信号処理装置に含まれる直交検波器のオフセット成分をキャンセルするための校正式を作成する方法であって、
    (a)前記信号処理装置を所定の温度に維持するステップと、
    (b)前記直交検波器への基準信号の入力信号レベルを決定するステップと、
    (c)前記基準信号を可変減衰して減衰した信号の位相をシフトさせて、位相シフトした信号を校正信号として前記直交検波器へ供給することにより前記直交検波器から出力される同相成分および直交成分の校正信号検波出力信号を位相平面上でプロットするステップと、
    (d)前記ステップ(b)に戻って前記基準信号の入力信号レベルを新たに決定して、前記ステップ(b)および(c)を第1の所定回数、繰り返すステップと、
    (e)前記ステップ(a)に戻って前記信号処理装置の温度を変更して、前記ステップ(a)乃至(d)を第2の所定回数、繰り返すステップと、
    (f)前記位相平面のプロット結果に基づいて、前記入力信号レベルに対応した温度毎の前記直交検波器のオフセット成分を推定するステップと、
    (g)前記オフセット成分と前記温度と信号レベルとの間の関係を数式化して、前記オフセット成分をキャンセルするための前記校正式を作成するステップと、
    を含む校正式作成方法。
  8. 直交検波器の入力信号レベルに応じた温度毎のオフセット成分をキャンセルする信号処理方法であって、
    前記オフセット成分をキャンセルするために請求項7で作成された校正式をメモリに格納し、
    検出した温度情報に基づいて前記校正式により補正値を算出し、
    前記直交検波器から得られた同相成分および直交成分を前記補正値により補正した値を用いて、パルスペア演算を行って、相関係数を求め、
    前記相関係数から観測対象の観測データを計算する、
    信号処理方法。
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