JP6439242B2 - 放射性廃イオン交換樹脂の除染方法および除染装置 - Google Patents

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Description

本発明は、原子力発電所等にて使用された、放射性物質を吸着すると共に、酸化鉄を主成分とするクラッドを含む廃イオン交換樹脂から、放射性物質を効率的に除去する除染方法と除染装置に関する。
原子力発電所において、原子炉水浄化系(CUW)、燃料貯蔵プール水浄化系(FPC)といった直接燃料棒に触れ、放射性物質を含む冷却水系の浄化に使用されたイオン交換樹脂は、放射性物質を多く吸着しているため、高線量率の放射性廃棄物として、発電所内の樹脂タンクに貯留されている。また、原子力発電所では、放射性物質に汚染された一次冷却系の機器や配管、これらを含む系統の金属部材表面から放射性物質を化学洗浄により除去する際にも、イオン交換樹脂が使用されており、その使用済イオン交換樹脂もまた、高線量率の放射性廃棄物として樹脂タンクに貯留している。これらの放射性物質を含む廃棄物は、最終的にセメント等の固化助材と混練して安定化した後に、埋設処分される。埋設処分する際の費用は、内包する放射性物質の量で異なり、放射性物質濃度が高いほど高額となる。このため、高線量率の廃棄物はできるだけ減容した後に、固化体の埋設廃棄物とすることが経済的である。具体的には、イオン交換樹脂から放射性物質を固形物として分離し、遮蔽容器内に封じ込めることができれば、減容化の面で望ましい。放射性物質が除去された廃イオン交換樹脂は、処分費用が安価な低線量率の廃棄物であり、さらに、廃イオン交換樹脂を焼却可能なレベルまで放射性物質を除去できれば、焼却処理により、大幅な減容が達成できる。
この高線量の廃樹脂の処理方法として、特許文献1や特許文献2に提案されているように、フェントン法や超臨界水酸化等の湿式酸化により廃樹脂を分解する方法があるが、これらの方法を適用した場合、いずれの場合も高線量率の廃液が多量に生成される。その高線量率の廃液を最終的に処分する際には、さらに蒸発濃縮し、その濃縮液をセメントと混練する等の方法により固化体として安定化することが必要となる。この場合、セメント等の固化助材を新たに添加するため、その分最終処分される高線量率の廃棄物量が増加し、廃棄物量の低減に至らないという問題がある。
廃樹脂を焼却処分できれば放射性廃棄物の大幅な減容化が可能であるが、この場合には、焼却灰に放射性物質が濃縮してしまうため、焼却灰が高線量となってしまう。廃樹脂から放射性物質を完全に除去できれば、焼却灰が高線量となることを防ぐことができ、焼却による減容化が可能となるため、廃樹脂から放射性物質を除去する技術が種々検討されている。
従来、廃樹脂から放射性物質を除去する技術として、特許文献3には、廃樹脂を充填した溶離器に硫酸を通液し、イオン状の放射性物質を溶離し、溶離液から拡散透析により放射性物質を分離し、硫酸を循環再利用する技術が開示されている。この場合も、放射性物質を含む廃液が生成するが、その固化処理までは網羅されていない。
一方で、イオン状の放射性物質を含む廃液から放射性物質を除去する方法として、特許文献4には、放射性陽イオンが溶解した汚染除去溶液を、電析セルを通過させながら通電し、放射性陽イオンを放射性金属粒子として陰極に堆積させて、汚染除去溶液を再生・再利用する技術が開示されている。その際に、放射性金属粒子を堆積させた陰極は、陰極液を陰極全体に注いで放射性金属粒子を脱離させるとの記載がある。
特公昭61−9599号公報 特許第3657747号公報 特開2004−28697号公報 特許第4438988号公報
原子炉水浄化系や燃料貯蔵プール水浄化系で使用された高線量の廃樹脂は、放射性物質のイオンを吸着しているとともに、酸化鉄を主成分とするクラッドが混入している。そのクラッドにも放射性物質が含まれるため、廃樹脂から放射性物質を完全に除去するためには、廃樹脂中からクラッドも同時に除去する必要がある。
廃樹脂中に含まれるクラッドの化学形態は、主にマグネタイト(Fe)およびヘマタイト(α−Fe)が存在する。上記特許文献3に記載されるように、加温されていない常温の硫酸を廃樹脂に通液する方法では、難溶解性のヘマタイト(α−Fe)を溶解することが難しく、廃樹脂からクラッドを除去することができないため、放射性物質が残留するという問題がある。
本発明は、廃イオン交換樹脂中のイオン状の放射性物質を除去するとともに、クラッドを溶解除去することにより、廃イオン交換樹脂の線量を極低レベルにまで低減する除染方法および除染装置を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、所定温度に加温された酸を用いることにより、廃イオン交換樹脂中のイオン状放射性物質を溶離除去すると共に、クラッドをも溶解除去することができること、この除染処理で得られた酸廃液は、電着処理して循環再利用できることが分かり、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1] 放射性物質を吸着すると共に、酸化鉄を主成分とするクラッドを含む廃イオン交換樹脂に、80〜120℃に加温した酸を接触させて、該廃イオン交換樹脂中のイオン状の放射性物質を溶離除去するとともに、該クラッドを溶解除去する除染工程を含む放射性廃イオン交換樹脂の除染方法であって、前記酸は、硫酸および/またはシュウ酸であり、前記除染工程から排出されるイオン状放射性物質を含む酸廃液を60℃未満に冷却した後、陽極と陰極を有する電着槽に導入し、該陽極と陰極間に通電することにより、該酸廃液中のイオン状放射性物質を陰極上に電着させて、該酸廃液からイオン状放射性物質を除去する電着工程と、該電着工程で、該イオン状放射性物質を除去して得られた処理液を前記除染工程に循環して再利用する循環工程とを含み、前記電着槽は、陽極が設置された陽極室と、陰極が設置された陰極室とが、カチオン交換膜により隔てられており、前記酸廃液は該陽極室に導入され、該陽極と陰極間に通電することにより、該酸廃液中のイオン状放射性物質が該カチオン交換膜を透過して該陰極室に移動し、該陰極上に電着されることを特徴とする放射性廃イオン交換樹脂の除染方法。
] 前記酸は、5〜40重量%の硫酸溶液および/または0.1〜40重量%のシュウ酸溶液であることを特徴とする[1]に記載の放射性廃イオン交換樹脂の除染方法。
] 前記放射性物質はコバルト−60を含むことを特徴とする[1]または2]に記載の放射性廃イオン交換樹脂の除染方法。
] 前記陰極上に、コバルト−60と、前記クラッドの溶解物である鉄が電着されることを特徴とする[ないし]に記載の放射性廃イオン交換樹脂の除染方法。
] 放射性物質を吸着すると共に、酸化鉄を主成分とするクラッドを含む廃イオン交換樹脂に、80〜120℃に加温した酸を接触させて、該廃イオン交換樹脂中のイオン状の放射性物質を溶離除去するとともに、該クラッドを溶解除去する除染手段を含む放射性廃イオン交換樹脂の除染装置であって、該除染手段は、前記廃イオン交換樹脂が充填される充填塔と、該充填塔に前記加温した酸を導入する導入配管と、該導入配管に設けられた加温手段と、該充填塔からイオン状放射性物質を含む酸廃液を60℃未満に冷却して排出する排出配管とを備える放射性廃イオン交換樹脂の除染装置であって、前記酸は、硫酸および/またはシュウ酸であり、陽極と陰極を有する電着槽と、該陽極と陰極に通電する手段と、該電着槽に前記酸廃液を導入する手段と、該電着槽の処理液を前記加温手段の上流側に循環する手段とを有し、該陽極と陰極間に通電することにより、該酸廃液中のイオン状放射性物質を陰極上に電着させて、該酸廃液からイオン状放射性物質を除去し、該イオン状放射性物質を除去して得られた処理液が前記除染手段で再利用される放射性廃イオン交換樹脂の除染装置であり、前記電着槽は、陽極が設置された陽極室と、陰極が設置された陰極室と、該陽極室と陰極室とを隔離するカチオン交換膜とを有し、前記酸廃液は該陽極室に導入され、該陽極と陰極間に通電することにより、該酸廃液中のイオン状放射性物質が該カチオン交換膜を透過して該陰極室に移動し、該陰極上に電着されることを特徴とする放射性廃イオン交換樹脂の除染装置。
] 前記陰極上に、コバルト−60と、前記クラッドの溶解物である鉄が電着されることを特徴とする[5]に記載の放射性廃イオン交換樹脂の除染装置。
本発明によれば、廃イオン交換樹脂に60℃以上に加温した酸を接触させるため、廃イオン交換樹脂のカチオン交換樹脂に吸着している放射性金属イオンをHイオンとイオン交換して溶離除去できるとともに、廃イオン交換樹脂中に混入しているヘマタイトを含むクラッドをも効率良く溶解除去することができる。
また、この除染処理で排出される放射性金属イオンやクラッドの溶解物である鉄イオンを含む酸廃液を、陽極と陰極を配した電着槽に導入して、陽極と陰極間に通電することにより、放射性金属イオンと鉄イオンを同時に陰極上に電着させて除去することが可能であり、電着処理液を廃イオン交換樹脂の除染処理に再利用することができる。また、電着に用いた電極を交換して、或いは電極上の電着層を除去して電着を行うことにより、廃イオン交換樹脂の除染及び酸廃液からの放射性物質の除去を継続して行うことができ、大量の廃イオン交換樹脂を処理することが可能である。
本発明によれば、放射線量が極低レベルに低減された廃イオン交換樹脂を得ることができ、処理後の廃イオン交換樹脂は焼却処理が可能となる。そして、廃イオン交換樹脂を焼却して焼却灰とすることにより1/100〜1/200の容量に低減することができる。
本発明の実施の形態の一例を示す放射性イオン交換樹脂の除染装置の系統図である。 実施例1の結果を示すグラフである。 実験例2で用いた電着装置を示す系統図である。 実験例3〜9及び比較実験例1〜8で用いた電着装置を示す系統図である。 比較実験例2の電着試験結果を示すグラフである。 実験例3〜9及び比較実験例6の電着試験結果を示すグラフである。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明においては、放射性物質を吸着すると共に、酸化鉄を主成分とするクラッドを含む廃イオン交換樹脂に、60℃以上に加温した酸(以下、「溶離液」と称す場合がある。)を接触させて、廃イオン交換樹脂中のイオン状の放射性物質を溶離除去するとともに、クラッドを溶解除去する。
本発明で、除染処理する放射性廃イオン交換樹脂は、コバルト−60やニッケル−63等の放射性金属成分のように、溶離液中で陽イオンとなる放射性物質を吸着していると共に、酸化鉄を主成分とするクラッド(ここで酸化鉄を主成分とするとは、酸化鉄をクラッド中に50重量%以上含有することを意味する。)を含むものである。なお、廃イオン交換樹脂の放射性物質の吸着量やクラッドの含有量には特に制限はない。
溶離液としては、硫酸、塩酸、硝酸といった無機酸や、ギ酸、酢酸、シュウ酸といった有機酸の水溶液を用いることができる。これらの酸は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、60℃以上に加温して用いる際に揮発しにくく、危険物に該当しない硫酸および/またはシュウ酸を用いることが好ましい。
溶離液中の酸濃度は、用いる酸に応じて好適な濃度が存在し、例えば、硫酸濃度は、5〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。また、シュウ酸濃度は、0.1〜40重量%が好ましく、1〜20重量%がより好ましい。上記範囲よりも酸濃度が低いと、クラッドの主成分であるヘマタイト(α−Fe)の溶解効率が低下する。即ち、クラッドは、廃イオン交換樹脂に混入または樹脂内に入り込んだ形で存在しており、その主成分が難溶性のヘマタイトであり、低濃度の酸では溶解することは困難である。溶離液中の酸濃度が高いと後段の電着工程における、水素発生量が過多となり、電着効率が低下する。
本発明では、溶離液を60℃以上、好ましくは70〜120℃、より好ましくは80〜100℃に加温して用いる。この温度が低すぎると、クラッドの溶解効率が悪く、高すぎると水の蒸発、酸の揮発が過多となるため、作業上好ましくない。
加温した溶離液と廃イオン交換樹脂との接触方法としては特に制限はなく、溶離液中に廃イオン交換樹脂を投入して撹拌するバッチ式であってもよく、後述の図1に示すように、廃イオン交換樹脂を充填した充填塔に溶離液を通液する通液式であってもよい。
バッチ式処理の場合、溶離液と廃イオン交換樹脂の接触時間は0.5〜24hr程度とすることが好ましく、特に2〜12hr程度とすることが好ましい。また、通液式の場合は、充填塔容積に対して通液SV0.2〜10hr−1程度とすることが好ましい。
廃イオン交換樹脂との接触で、廃イオン交換樹脂に吸着したイオン状の放射性物質を溶離すると共に廃イオン交換樹脂に混入したクラッドを溶解させてこれらを含有する溶離液(以下、「酸廃液」と称す場合がある。)は、陽極と陰極を有する電着槽に導入し、電着槽の陽極と陰極間に通電することにより、酸廃液中の陽イオン状放射性物質とクラッドに由来する鉄イオンを陰極上に電着させて酸廃液から除去し、得られた処理液を溶離液として再利用することが好ましい。
以下に、廃イオン交換樹脂の除染処理、除染処理で得られた酸廃液を電着処理して再利用するための装置として好適な装置を、図1を参照して説明する。
図1の装置は、溶離液を貯留する溶離液貯槽1と、廃イオン交換樹脂10が充填された充填塔である溶離槽2と、溶離槽2から排出される酸廃液を貯留する酸廃液貯槽3と、酸廃液貯槽3からの酸廃液が導入される電着槽4と、電着槽4に供給される電着液を貯留する電着液貯槽5とを備える。電着槽4は、陽極6Aを有する陽極室6と陰極7Aを有する陰極室7とがカチオン交換膜8で隔離された構成とされており、酸廃液は陽極室6に通液され、電着液は陰極室7に通液される。9A,9Bは熱交換器であるが、熱交換器9Aは加熱、熱交換器9Bは冷却できればどのような手段でもよく、熱交換器9Aとして電気ヒータを使用することも可能である。
溶離液貯槽1内の溶離液は、ポンプPにより配管11を経て溶離槽2に送給される過程で熱交換器9Aで60℃以上に加温された後、溶離槽2に上向流で通液され、流出液(酸廃液)は配管12を経て、熱交換器9Bで電着槽4内のカチオン交換膜8の劣化が小さい60℃未満の温度、例えば10℃以上60℃未満に冷却された後酸廃液貯槽3に送給される。酸廃液貯槽3内の酸廃液は、ポンプPにより配管13を経て電着槽4の陽極室6に導入され、電着処理液は配管14より溶離液貯槽1に循環され、溶離液として再利用される。
一方、電着槽4の陰極室7には、電着液貯槽5内の電着液がポンプPにより配管15を経て導入され、配管16を経て電着液貯槽5に戻される。
溶離液貯槽1には適宜酸が配管21より補給され、電着液貯槽5には配管22より適宜電着液が補給される。
この装置では、加熱された溶離液を廃イオン交換樹脂10が充填された溶離槽2に通液することにより、廃イオン交換樹脂10に吸着しているイオン状の放射性物質が溶離除去されるとともに、廃イオン交換樹脂10に混入または樹脂粒子内に入り込んでいるクラッドが溶解除去される。廃イオン交換樹脂10と接触して、イオン状の放射性物質やクラッド溶解物を含む溶離液(酸廃液)は、酸廃液貯槽3を経て電着槽(電着セル)4の陽極室7に導入される。この電着槽4の陽極6Aと陰極7Aに通電することにより、酸廃液中の放射性金属イオンやクラッド由来の鉄イオンがカチオン交換膜8を透過して陰極室7に移動して、陰極7A上に電着される。電着槽4で放射性金属イオンや鉄イオンが除去された酸廃液の処理液は、溶離液貯槽1に戻され、循環再利用される。
陰極室7内の電着液は、ポンプPにより電着液貯槽5との間を循環させ、電着液の減少分を電着液貯槽5に添加しつつ循環再利用する。
なお、電着液としては、分子内に2つのカルボキシル基を有するジカルボン酸及びその塩(以下、「ジカルボン酸(塩)」と称す場合がある。)、並びに分子内に3つのカルボキシル基を有するトリカルボン酸及びその塩(以下、「トリカルボン酸(塩)」と称す場合がある。)から選択される1種以上の添加剤(以下「本発明の添加剤」と称す場合がある。)を含む水溶液を用いることが好ましい。
ジカルボン酸(塩)、トリカルボン酸(塩)は、そのキレート効果で電着中の懸濁物質の発生を抑制し、電着効果の向上に優れた効果を奏する。
これに対して、分子内に1つのカルボキシル基を持つモノカルボン酸では、Co−60等の放射性金属イオン(放射性物質は何らCo−60に限定されない。以下、Co−60と安定同位体Coを合わせてCoで示す。)やクラッドからのFeイオンとの結合力が弱く、液中でCoやFeの水酸化物からなる懸濁物質が発生する、陰極に均一に電着しないといった問題が生じる。また、分子内に4つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸を用いると、CoイオンやFeイオンとの結合力が強すぎて、液中にCoやFeが保持され、電着の速度が著しく低下するという問題が生じる。
ジカルボン酸(塩)、トリカルボン酸(塩)としては、下記式(1)で表されるものが、特に、懸濁物質が生じにくく、かつ電着が速やかに進むようになる点で好ましい。下記式(1)で表されるジカルボン酸(塩)やトリカルボン酸(塩)は、分子内のカルボキシル基同士の間に1〜3個の炭素原子が存在するものであり、その形状に由来して、CoイオンやFeイオンとの間に適度な結合力が得られると推測される。
OOC−(CHX)−(NH)−(CX)−CX−COOM
…(1)
(式(1)中、X,X,Xは各々独立にH又はOHを表し、X,Xは各々独立にH、OH又はCOOMを表し、M,M,Mは各々独立にH、1価のアルカリ金属又はアンモニウムイオンを表し、a,b,cは各々独立に0又は1の整数を表す。ただし、式(1)において、XとXは同時にCOOMとなることはない。)
本発明に好適なジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸(エタン二酸、HOOC−COOH)、マロン酸(プロパン二酸、HOOC−CH−COOH)、コハク酸(ブタン二酸、HOOC−CH−CH−COOH)、グルタル酸(ペンタン二酸、HOOC−CH−CH−CH−COOH)、リンゴ酸(2−ヒドロキシブタン二酸、HOOC−CH−CH(OH)−COOH)、酒石酸(2,3−ジヒドロキシブタン二酸、HOOC−CH(OH)−CH(OH)−COOH)、イミノ二酢酸(HOOC−CH−NH−CH−COOH)などが挙げられるが、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、イミノ二酢酸が特に好ましい。トリカルボン酸としては、クエン酸(HOOC−CH−COH(COOH)−CH−COOH)、1,2,3−プロパントリカルボン酸などが挙げられるが、クエン酸が特に好ましい。また、これらのジカルボン酸、トリカルボン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩が挙げられる。
電着液中には、ジカルボン酸(塩)及び/又はトリカルボン酸(塩)と共にアンモニウム塩を共存させることが好ましい。アンモニウム塩を添加しない場合には、通常FeよりもCoの方が電着速度が速く、Coの電着層の上にFeの電着層が生成する形となるが、アンモニウム塩を添加することにより、CoとFeの電着速度がほぼ同等となり、CoとFeが合金状に電着するようになる。CoとFeの電着速度が異なり、Co層とFe層に分かれて電着すると、電着物の浮きや剥がれが起きやすくなって、継続的な電着処理ができなくなる恐れがある。
アンモニウム塩としては、液中でアンモニウムイオンを生じるものであればよく、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム及びクエン酸アンモニウムが好適である。これらのアンモニウム塩は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。特に、シュウ酸アンモニウム等のジカルボン酸アンモニウムやクエン酸アンモニウム等のトリカルボン酸アンモニウムを用いると、アンモニウム塩と本発明の添加剤とを兼ねることができ、ジカルボン酸やトリカルボン酸のキレート効果による懸濁物質の発生抑制効果とCoとFeの電着速度を同等にする効果を1剤で得ることが可能である。
また、電着液のpHは1〜9とすることが好ましく2〜8.5とすることがより好ましい。電着液のpHが低すぎると、陰極上に電着したCoやFeの再溶解が起こり、電着速度が低下する恐れがある。また、pHが高すぎると、CoやFeの水酸化物が液中に懸濁物質として発生しやすくなる。このため、pHが上記範囲外となる場合には、アルカリや酸により、適宜pH調整を行うのが好ましい。pH調整に用いる酸としては、電着液中の本発明の添加剤と同じジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を用いるのが好ましい。
電着液としては、例えば、本発明の添加剤を0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜5重量%含む、pH1〜9、好ましくはpH2〜8.5の水溶液が用いられる。
電着液中の本発明の添加剤の量が少な過ぎると、本発明の添加剤を用いたことによる懸濁物質抑制の効果を十分に得ることができず、多過ぎるとキレート効果が大きくなりすぎて電着速度が低下する。
また、アンモニウム塩を用いる場合、アンモニウム塩は、0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜5重量%含むことが好ましい。アンモニウム塩の濃度が低過ぎるとアンモニウム塩を用いたことによる上記効果を十分に得ることができず、高過ぎると効果の向上がなく、薬品使用量が無駄となる。
電着条件(電流値、電流密度、温度等)には特に制限はないが、電流密度については、陰極面積に対して5〜600A/cmとするのが電着効率の面で好ましい。
図1は、本発明の実施に好適な除染装置の一例を示すものであって、本発明の除染装置は、何ら図示のものに限定されるものではない。
図1において、溶離液は、溶離槽2に上向流で通液されているが、下向流であってもよい。ただし、廃イオン交換樹脂が粉末状である場合には、通液の際に差圧上昇しやすいため、上向流とすることが好ましい。また、電着槽4において、酸廃液と電着液とはカチオン交換膜8を介して逆方向に通液されてもよい。更に、溶離槽2に導入される溶離液と排出される酸廃液とを熱交換することも可能である。
また、電着槽4は閉鎖系となっているが、陰極から水素ガスが発生するため、上部を開放した開放系とするのが好ましい。また、金属が電着した陰極を交換する際にも、電着槽の上部が開放されていた方が交換が容易となる。
本発明は、原子力発電所において、原子炉水浄化系、燃料貯蔵プール水浄化系といった直接燃料棒に触れる水系の浄化に使用された廃イオン交換樹脂、放射性物質に汚染された一次冷却系の機器や配管、これらを含む系統の金属部材表面から放射性物質を化学的に除去した際に排出される除染廃液の処理に使用された廃イオン交換樹脂等の、イオン状の放射性物質を吸着すると共に、酸化鉄を主成分とするクラッドを含む廃イオン交換樹脂に有効に適用される。
以下に実験例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
[実験例1]
表1に示す酸濃度及びpHの溶離液(水溶液)を500mL調製し、この溶離液中に模擬クラッド(高純度化学研究所製、α−Fe、メーカー公称径1μm)1gを入れ、表1に示す液温及び溶解時間で溶解試験を行った。
溶離液中のFe濃度から、Fe(クラッド)溶解率を調べ、結果を表1に示した。
Figure 0006439242
表1より明らかなように、低温で溶解試験を行ったNo.7〜12では溶解率が低いが、90℃に加温した硫酸および/またはシュウ酸水溶液を用いたNo.1〜6では、クラッドを効率良く溶解することができる。
[実施例1]
Coを吸着した混合樹脂は、塩化コバルト(II)6水和物96mgを溶解した水溶液に、粉末状H形カチオン交換樹脂(三菱化学(株)社製、交換容量:5.1meq/g、粒度10−200μm:95%)と粉末状OH形アニオン交換樹脂(三菱化学(株)社製、交換容量4.1meq/g、粒度0−100μm:74%、10−250μm:93%)を40.0gずつ混合し、12hr攪拌することにより調製した。12hr後に上澄水中のCo濃度を原子吸光光度計にて測定した結果、検出下限値以下であったことから、Coイオンのほぼ全量がイオン交換樹脂に吸着されたことが確認された。前記混合樹脂に模擬クラッドとしての鉄酸化物(高純度化学研究所製、α−Fe、メーカー公称径1μm)4.0gを添加して混合したものを模擬廃樹脂とした。その後、この模擬廃樹脂を90℃に加温した10重量%硫酸溶離液(水溶液)1.6L中に投入し、ホットスターラーで加熱攪拌しながら90℃に維持し、溶解挙動を確認した。
10重量%硫酸溶離液に模擬廃樹脂を投入後、所定時間毎に硫酸溶離液を数mLずつ採取し、濾過したサンプル中のFeを原子吸光光度計にて分析すると共に、CoをICP−MSにて分析した。
その結果、Feについては、図2に示すとおり、添加した模擬クラッド中のFe量のほぼ100%が硫酸溶離液中に溶解しており、模擬クラッド溶解後にカチオン交換樹脂への再吸着も起こっていないことが分かった。なお、2時間以降で溶解率が100%を超えているのは、加温による溶離液中の水の蒸発のためである。また、Coについては、添加した塩化コバルト中のCo量のほぼ100%が硫酸溶離液中に溶離しており、樹脂から良好にCoイオンを溶離できていることが確認できた。
[実験例2]
CoCl及びFeClと硫酸を水に溶解させて表2に示す性状の模擬酸廃液を調製し、また、クエン酸を水に溶解させて表2に示す性状の模擬電着液(陰極液)を調製して、図3の装置を用いて、Co、Feの電着試験を行った。図3において、図1に示す装置と同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。図3中、31は、電着処理液を酸廃液貯槽3に戻す配管である。電着条件は表2の通りである。陽極はPtメッキTi板、陰極はCu板を使用した。
Figure 0006439242
6hr通電後の模擬酸廃液中のCo及びFeを原子吸光光度計にて測定したところ、6hrの通電により、模擬酸廃液中のCoが19%、Feが10%除去でき、陰極に黒色の電着物が得られた。
この電着装置では、強酸性の廃液を直接陰極に接触させることなく、カチオン交換膜を介して金属イオンを陰極室に移動させて、効率的に電着させることができた。
[実験例3〜9、比較実験例1〜8]
各種の添加剤とCoCl及びFeClを用いて、表3に示す組成の電着液400mLを調製し、懸濁物質が発生しなかったものについて、図4の装置を用いて、電着試験を行った。通電は8hr、1A(電流密度62.5mA/cm)で行った。陽極にはPtメッキTi板を、陰極にはCu板を使用した。図4において、図1,2に示す装置と同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。20は電源である。
表3に通電前後での懸濁物質の発生の有無と液pHを示した。通電前後の両方において懸濁物質がない実験例3〜9、比較実験例2,6の電着液について、液中のCoとFeの濃度の経時変化を解析した結果を図5、6に示す。8hrの通電結果から、実験例3〜9においては、経時的にCo及びFeを電着できていることがわかる。
Figure 0006439242
1 溶離液貯槽
2 溶離槽
3 酸廃液貯槽
4 電着槽
5 電着液貯槽
6 陽極室
6A 陽極
7 陰極室
7A 陰極
8 カチオン交換膜
9A,9B 熱交換器
10 廃イオン交換樹脂

Claims (6)

  1. 放射性物質を吸着すると共に、酸化鉄を主成分とするクラッドを含む廃イオン交換樹脂に、80〜120℃に加温した酸を接触させて、該廃イオン交換樹脂中のイオン状の放射性物質を溶離除去するとともに、該クラッドを溶解除去する除染工程を含む放射性廃イオン交換樹脂の除染方法であって、
    前記酸は、硫酸および/またはシュウ酸であり、
    前記除染工程から排出されるイオン状放射性物質を含む酸廃液を60℃未満に冷却した後、陽極と陰極を有する電着槽に導入し、該陽極と陰極間に通電することにより、該酸廃液中のイオン状放射性物質を陰極上に電着させて、該酸廃液からイオン状放射性物質を除去する電着工程と、該電着工程で、該イオン状放射性物質を除去して得られた処理液を前記除染工程に循環して再利用する循環工程とを含み、
    前記電着槽は、陽極が設置された陽極室と、陰極が設置された陰極室とが、カチオン交換膜により隔てられており、前記酸廃液は該陽極室に導入され、該陽極と陰極間に通電することにより、該酸廃液中のイオン状放射性物質が該カチオン交換膜を透過して該陰極室に移動し、該陰極上に電着されることを特徴とする放射性廃イオン交換樹脂の除染方法。
  2. 前記酸は、5〜40重量%の硫酸溶液および/または0.1〜40重量%のシュウ酸溶液であることを特徴とする請求項1に記載の放射性廃イオン交換樹脂の除染方法。
  3. 前記放射性物質はコバルト−60を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の放射性廃イオン交換樹脂の除染方法。
  4. 前記陰極上に、コバルト−60と、前記クラッドの溶解物である鉄が電着されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の放射性廃イオン交換樹脂の除染方法。
  5. 放射性物質を吸着すると共に、酸化鉄を主成分とするクラッドを含む廃イオン交換樹脂に、80〜120℃に加温した酸を接触させて、該廃イオン交換樹脂中のイオン状の放射性物質を溶離除去するとともに、該クラッドを溶解除去する除染手段を含む放射性廃イオン交換樹脂の除染装置であって、該除染手段は、前記廃イオン交換樹脂が充填される充填塔と、該充填塔に前記加温した酸を導入する導入配管と、該導入配管に設けられた加温手段と、該充填塔からイオン状放射性物質を含む酸廃液を60℃未満に冷却して排出する排出配管とを備える放射性廃イオン交換樹脂の除染装置であって、
    前記酸は、硫酸および/またはシュウ酸であり、
    陽極と陰極を有する電着槽と、該陽極と陰極に通電する手段と、該電着槽に前記酸廃液を導入する手段と、該電着槽の処理液を前記加温手段の上流側に循環する手段とを有し、該陽極と陰極間に通電することにより、該酸廃液中のイオン状放射性物質を陰極上に電着させて、該酸廃液からイオン状放射性物質を除去し、該イオン状放射性物質を除去して得られた処理液が前記除染手段で再利用される放射性廃イオン交換樹脂の除染装置であり、
    前記電着槽は、陽極が設置された陽極室と、陰極が設置された陰極室と、該陽極室と陰極室とを隔離するカチオン交換膜とを有し、前記酸廃液は該陽極室に導入され、該陽極と陰極間に通電することにより、該酸廃液中のイオン状放射性物質が該カチオン交換膜を透過して該陰極室に移動し、該陰極上に電着されることを特徴とする放射性廃イオン交換樹脂の除染装置。
  6. 前記陰極上に、コバルト−60と、前記クラッドの溶解物である鉄が電着されることを特徴とする請求項に記載の放射性廃イオン交換樹脂の除染装置。
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