以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(従来の電縫管溶接装置)
初めに、図1〜図3を参照しながら、特許文献1に記載されているような従来の電縫管溶接装置について説明する。図1は、誘導コイルをオープン管の外周に巻き、この誘導コイルに流した一次電流により、オープン管に発生する誘導電流で高周波電気抵抗溶接して電縫管を製造する電縫管溶接装置を説明する概略平面図であり、図2は図1の概略側面図である。また、図3は、図1および図2に示す装置の概略縦断面図である。ここで、オープン管の端部を流れる電流の大部分は向かい合った端面部を流れるが、説明を簡単にするため、図1においては、便宜上、オープン管の端面部の上面側(外周面側)を電流が流れている様に描いて示している(以下、同様。)。この場合の誘導コイルに流れる一次電流もオープン管に発生する誘導電流も、互いの向きが逆向きの交番電流(交流)であるが、図面上では便宜上、ある瞬間の電流の向きと大きさを有するベクトルで記載している(以下、同様。)。また、インピーダーは、通常樹脂ケースに収められ、ケース内を流れる冷却水により冷却される。このインピーダーケースは、装着時にぶつけるなどしてインピーダーが破壊されるのを防いでいる。以下の説明では、説明の図がわかりにくくなるため、このインピーダーケースの図示を省略している。
一般に、電縫管は、造管する径に合わせた幅にスリットされた走行する金属帯板を、ロールで曲げながらその幅方向両端面部を対向させ、筒状のオープン管に成形する。その後、誘導コイルにより発生させた誘導電流によってオープン管に誘導電流を流し、オープン管の端面部(開口部に臨む端面部)を加熱溶融させる。その後、工程の下流において、オープン管の対向する両端面部をスクイズロールで押しつけて、欠陥となり易い酸化物とともに溶融軟化部分を表裏面外に排出させながら溶接を完了させる。その後、排出されたビード部を切削除去することにより欠陥のない健全な溶接部を有する電縫管が得られる。ここで、本明細書で説明する「下流」とは、金属帯板またはオープン管の走行方向における下流のことであり、以下、「上流」および「下流」という場合は、それぞれ、金属帯板またはオープン管の走行方向における「上流」および「下流」を指すものとする。
図1〜図3に示すように、被溶接材である金属帯板1は、平板状態から走行中に図示しないロールで曲げ加工されて両端面部2a、2bが向かい合わさる筒状のオープン管1の形に成形され、次いでスクイズロール6で両端面部2a、2bが押しつけられて接合部(スクイズロール部、溶接部)5で接触するように通材される。このスクイズロール6の上流には、向かい合う両端面部2a、2bを溶融させて接合部5で接合するために、図1〜図3に示すような誘導コイル(ソレノイドコイル)3が設けられ、この誘導コイル3に高周波電流(通常は、100kHzオーダー)を流すことにより、誘導コイル直下の円筒状のオープン管1の表層に誘導電流4c、4dが発生する。この誘導電流は、オープン管1を周回する誘導コイル3に沿ってオープン管1の外周面を周回するが、途中でオープン管1の開口部2が存在することから、この部分では誘導電流が誘導コイル直下を流れることができず、大別して2つの方向の誘導電流が流れようとする。つまり、図1に誘導コイル3の一次電流とオープン管1の誘導電流のそれぞれを便宜的にある瞬間の向きで示すように、1番目の方向に流れる電流は、オープン管1の端面部2a、2bに沿って接合部5を通る電流4a、4bであり、2番目の方向に流れる電流は、オープン管1の開口部から外周面を回る電流4c、4dである。これらの電流のうち、接合部5を通る電流4a、4bは、高周波電流による近接効果により、オープン管1の開口部2に臨む両端面部2a、2bの表層を流れて当該箇所を加熱および溶融し、最終的にスクイズロール6で接合部5が圧接されて溶接が完結される。
なお、図1中では、オープン管1の内周面を回ろうとする電流については、その図示を省略している。これは、インピーダー7と呼ばれるフェライト等からなる強磁性体のコアを、オープン管1の内部に配置し、オープン管1の内周面のインピーダンスを高めることにより、内周面を電流が流れるのを防止できるためである。あるいは、接合部5への往復長に比べて製造する電縫管の径が大きく、オープン管1の内周が十分に長い場合には、インピーダー7を配置しなくても内周面のインピーダンスが十分に大きくなり、内周面を回る電流が抑制される場合もあるためである。
また、オープン管1の内部の接合部5よりも下流側には、溶接後の内面ビードを切削する(内面ビードの切削を内面ビードカットともいう。)ためのバイト(図示せず)が配置されている。なお、このバイトは、オープン管1の略中心部に配置されたロッド8に支持されている。また、このロッド8の途中にはインピーダー7が配置されている。ロッド8は、例えば、略円柱状のインピーダー7の略中心部を貫通するように配置されている。
(本発明に至る経緯)
ここで、従来の電縫管溶接装置における誘導コイル3は、上述したように、オープン管1の外周面に沿って周回しており、誘導コイル3の導体部がオープン管1の開口部2を跨ぐように配置されている。このような場合、電縫管を製造する際の溶接時にオープン管1の内部でも強磁場となってインピーダー7が焼損したり、内面ビードカット用のバイト(図示せず)を連結するロッド8が破断したりすることがあり、長時間安定して操業ができないという、問題があった。
本発明者が調査したところによると、インピーダー7の焼損原因は、(1)オープン管1の開口部2を跨ぐように配置された誘導コイル3が発生させる高磁束密度の磁束が直接透磁率の高いインピーダー7に入ること、および、(2)開口部2の端面部2a、2bを流れる誘導電流(溶接電流)により発生する磁束がインピーダー7に入ることにより、インピーダー7が磁束飽和を起こし、焼損することによることがわかった。製造される電縫管が、小径管、例えば、管内径が100mm程度以下の管で、特に厚肉管、例えば、肉厚が6mm超の管の場合には、誘導コイルとインピーダー7との間の空間が狭くなることにより強磁場にインピーダー7がさらされること、また、オープン管1の開口部2の端面部2a、2bとインピーダー7との距離が短く、インピーダー7の近傍を大電流が流れることにより、インピーダー7の磁束密度が高くなることから、インピーダー7が発熱し磁性が失われ、損傷が激しくなる状況にある。
また、インピーダー7が焼損すると、誘導電流が、開口部2の端面部2a、2bを流れずに、オープン管1の内周面に沿って周回するようになるため、端面部2a、2bの溶接に必要な電流が確保できないこととなり、端面部2a、2bにおける発熱量が低下し、溶接ができなくなる場合がある。さらに、オープン管1の内周面に沿って周回する誘導電流によりロッド8が加熱され、破断してしまう場合もある。また、インピーダー7を収納している樹脂製のインピーダーケース(図示せず)は、その内部を流れているインピーダー7を冷却するための冷却水がインピーダー7の発熱により加熱され過ぎると、インピーダーケース上部にある発熱した端面部2a、2bからの輻射熱で容易に変形して穴があき冷却水が噴き出す等して、インピーダー7を冷却できなくなり操業ができなくなる場合もある。
そこで、本発明者は、誘導コイルから直接インピーダー7に入る磁束を避けるとともに、オープン管1の開口部2の端面部2a、2bを流れる誘導電流のピークおよび平均の強度を下げることで、インピーダー7の磁束密度を低下させる方法について検討した。
その結果、本発明者は、誘導コイルから発生する磁束がオープン管1の開口部2から直接高透磁率のインピーダー7に入らないように、誘導コイルがオープン管1の開口部2を跨がずに閉回路を形成するようにすることにより、インピーダー7の磁束密度を低下させることができるという知見を得た。具体的には、本発明では、オープン管1の開口部2に沿った誘導コイルの導体部(開口近設導体部)をオープン管1の両端面部2a、2bにそれぞれ近接させて一対で配置するとともに、この開口近設導体部の少なくとも接合部5側のそれぞれの端部に、オープン管1の開口部2を除く部分を周回する誘導コイルの部分周回導体部を配置して閉回路を成すように接続し、開口近設導体部の他方のそれぞれの端部は、オープン管1の上流側で電源接続導体部により高周波電源に接続されている。これにより、誘導コイルで発生して直接インピーダー7に入る磁束を避けるとともに加熱効率が高まって、オープン管1の開口部2の端面部2a、2bを流れる誘導電流のピークおよび平均の強度を下げることが可能となる。以下、上記知見により完成した本発明の好適な実施の形態を述べる。
なお、スクイズロール6の近傍においてオープン管1の上方には、例えば電源からのリードなど種々の設備が配設されているため、従来技術に係る誘導コイル3のようにオープン管1を周回している場合、誘導コイル3自体をスクイズロール6に近づけるには自ずと限界があった。かかる場合、オープン管1に誘導電流を発生させる位置が接合部からある程度距離を置いた位置にならざるを得ず、加熱効率が悪くなる。この点、本発明のように、上述した開口近設導体部と部分周回導体部を備えた誘導コイルを用いれば、従来技術と対比してオープン管1の上方に大きなスペースを確保することができるので、そのスペースに応じて誘導コイルをスクイズロール6に近づけることができるだけでなく、オープン管の上方のスペースにシールドや測定装置などの付属設備を設置することもでき、また加熱効率を向上させることも可能となる。
(第1実施形態)
まず、図4〜図6を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る電縫管溶接装置10の構成を説明する。なお、図中ではインピーダーをそのまま描いているが、実際にはインピーダーはインピーダーケースに納められている。しかし、狭い場所に描くのは図が判りづらいことから、ここでも、インピーダーケースは図示をしないこととする。図4は、本実施形態に係る電縫管溶接装置10を模式的に示す平面図であり、図5は、図4に示す電縫管溶接装置10の側面図であり、(a)は走行方向右側から見た右側面図、(b)は走行方向左側から見た左側面図である。図6は、図4および図5に示す電縫管溶接装置10の第1部分周回導体部、開口近設導体部での横断面図であり、(a)は、図4および図5におけるI−I線で切断したI−I断面図であり、(b)は、図4および図5におけるII−II線で切断したII−II断面図である。
図4〜図6に示すように、本実施形態に係る電縫管溶接装置10は、走行方向Rに走行する金属帯板1が、図示しないロールにより、金属帯板1の幅方向における両端面部(端面部)2a、2bが間隔を空けて対向するように円筒状に曲げられてオープン管1に成形された後、該オープン管1の開口部2近傍に配置された誘導加熱手段としての誘導コイル100に高周波電流を通じ、発生させた誘導電流により両端面部2a、2bを溶融させる。すなわち、電縫管溶接装置10は、誘導コイル100により、オープン管1の開口部2近傍に誘導電流である高周波電流を誘起させる。通常は、誘導電流は誘導コイル直下に発生して流れるが、極性の異なる高周波電流が近くを流れる場合、インダクタンスを低下させる様に、すなわち、これらの電流が囲む空間が狭くなる様に、高周波電流は互いに近寄ろうとする。本実施形態の場合、オープン管1の両端面部2a、2bが近接して向き合った位置になることから、この両端面部2a、2bが囲む空間が発生した極性の異なる誘導電流が囲む空間となり、開口部2の外で発生させた誘導電流が分流して、この両端面部2a、2bを流れるようになり、この電流によって両端面部2a、2bを加熱・溶融させる。開口部2の間隔は、スクイズロール6でオープン管1の両側が押圧されることにより次第に狭めながら、該両端面部2a、2b同士が接触し溶接される。より具体的には、本実施形態に係る電縫管溶接装置10は、走行方向に延びる開口部2を有するオープン管1の、該開口部2に両側から相互に臨む管素材の端面部(言い換えると、該開口部2を挟んで対向する端面部)2a、2bの双方を、誘導加熱手段によって発生させた誘導電流により溶融させるとともに、開口部2の間隔を次第に狭めながら端面部2a、2b同士を接合部5において接触させて溶接する、電縫管を製造するための装置である。この電縫管溶接装置10は、誘導加熱手段として、1対の開口近設導体部110A、110B(以下、Aは一方の端面部2a側を意味し、Bは他方の端面部2b側を意味するものとし、1対の開口近設導体部をまとめて、「開口近設導体部110」と記載する場合もある。)と、第1部分周回導体部120とからなる誘導コイル100を備えている。
1対の開口近設導体部110A、110Bは、図4、図5および図6(b)に示すように、開口部2の両側の端面部2a、2bのそれぞれに沿って走行方向に延設された導体であり、それぞれ、平面視において開口部2と重ならない位置に、オープン管1の外周面から離間して配置される。なお、開口近設導体部110A、110Bは、平面視において開口部2に重ならない位置、すなわち開口近設導体部110A、110Bの開口部2に近い側の端部と、開口部2の端面部2a、2bとが平面視において接する直前の位置に配置されていてもよい。但し、開口近設導体部110A、110Bは、開口部2を介して、当該開口近設導体部110A、110Bとインピーダー7が互いに見えない位置に配置されるのが好ましい。
第1部分周回導体部120は、図4、図5および図6(a)に示すように、開口近設導体部110の長手方向の少なくとも接合部5に近い側の端部に一体に設けられ、オープン管1の外周面のうち開口部2を除いた部分に沿って周回するように、オープン管1の外周面から離間して配置される。なお、開口近設導体部110の長手方向の接合部5から遠い側の端部は、図示しない高周波電源へ接続される。より詳細には、図4〜図6に例示する本実施形態に係る誘導コイル100では、開口近設導体部110の長手方向の接合部5から遠い側の端部が、電源接続導体部125、126により図示しない高周波電源に接続されている。
本発明において用いる誘導コイル100は、銅等の良導体のパイプや線材、板等からなるもので、オープン管1上に閉回路を形成する誘導コイルの総称として用いており、その材質等は特に限定されない。また、誘導コイル100の形状も、上述した開口近設導体部110と第1部分周回導体部120とからなるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、図4および図5に例示するように、開口近設導体部110を直線状としているが、開口近設導体部110は、開口部2の両側の端面部2a、2bのそれぞれに沿って走行方向に延設され、平面視において開口部2と重ならない位置に、オープン管1の外周面から離間して配置されるものであれば、曲線部分を有しているものであってもよい。また、第1部分周回導体部120は、オープン管1の外周面のうち開口部2を除いた部分を周回し、円形の層(レイヤ)を描くような形状(円形コイル)で例示されているが、例えば矩形の層を描くような形状(矩形コイル)であってもよい。さらに、その層数については、本実施形態では1層とする。ここで、本明細書における誘導コイルの周回数「1層」とは、平面視において、誘導コイルの周回方向の一端部と他端部とが一致またはオーバーラップすることにより、オープン管1の外周面を完全に1周するものではなく、図4〜図6に示す第1部分周回導体部120等のように、他端部が一端部の手前で終端し、完全に1周していないものである。
図5に例示するように、本実施形態に係る電縫管溶接装置10は、誘導コイル100に一次電流CPが通電される(図5で示す一次電流CPの方向は、交番する電流のある瞬間の方向を便宜的に示すもので、交番して逆方向に流れる場合も当然に含まれる。)。この際、誘導コイル100に高周波数の一次電流が流れ、磁束が生じることにより、オープン管1には、図7および図8中の矢印(交番する誘導電流をある瞬間で切り取ったもの)に示すような誘導電流40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40hの分布が生じる。より詳細に述べると以下の通りである。なお、図7は、図8に示す誘導電流分布のうち、走行方向右側の側面の誘導電流分布のみを示しており、走行方向左側の側面の誘導電流分布の図示は省略している。また、図8で示した誘導電流40fは、オープン管1の周囲を最終的には周回するが、第1部分周回導体部120直下の誘導電流40dと異なり通電領域が長手方向に広く分散してしまうため、ベクトル長として表記できないほど極小となってしまうことから、図7では分散後の誘導電流40fは具体的に表示していない。
図5(b)に示すように、交番する高周波電流のある瞬間を切り取ると、誘導コイル100を流れる一次電流CPは、図示しない高周波電源に接続された電源接続導体部125を通って図5(b)中の上方から下方へと流れ、開口近設導体部110Aを通って走行方向と同じ向き(図5(b)中の右方から左方)へ流れる。次いで、誘導コイル100を流れる電流は、第1部分周回導体部120を通ってオープン管1の周囲を周回(約1周)するように流れた後、図5(b)と同じ瞬間を切り取った図5(a)に示すように、開口近設導体部110Bを通って走行方向と逆向き(図5(a)中の右方から左方)へ流れる。さらに、誘導コイル100を流れる電流は、上記高周波電源に接続された電源接続導体部126を通って図5(a)中の下方から上方へと流れ、該高周波電源へ戻る。
上述のような経路で一次電流を誘導コイル100に流すと、同じ瞬間でそれとは逆向きでオープン管1の外周面を流れる誘導電流が発生する。具体的には、図5と同じ瞬間を切り取った図7および図8に示すように、誘導コイル100を流れる一次電流CPにより、開口近設導体部110Bの近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40cと、オープン管1の端面部を流れる誘導電流40bとに分流して誘導電流が発生し、第1部分周回導体部120の近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40dが発生し、開口近設導体部110Aの近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40eと、オープン管1の端面部を流れる誘導電流40aとに分流して誘導電流が発生し、これらの誘導電流同士を連続して繋ぐように開口近設導体部110A、110Bのそれぞれの上流側端部の近傍を起点および終点として誘導電流40fが流れて主電流ループ(閉回路)40b+40c、40d、40a+40e、40fが形成される。さらに、開口近設導体部110A、110Bのそれぞれの下流側端部と第1部分周回導体部120とのそれぞれの連結部の近傍を起点および終点として、この主電流ループから接合部5側の端面部に分流する誘導電流40g、40hの電流ループが形成される。また、開口近設導体部110A、110Bのそれぞれの上流側端部の近傍を起点および終点として、上記主電流ループから上流に分流する誘導電流50a、50bとで電流ループが形成される。このうち、端面部を流れる誘導電流40a、40bと溶接部側両端面部を流れる誘導電流40g、40hにより、両端面部2a、2bが発熱溶融し、溶接が行われる。この際、接合部5側の位置では、オープン管1の開口部2の幅が狭まってインピーダンスが低くなることから、近接効果によって電流が集中して高温になりやすい効果も相乗される。また、開口近設導体部110が開口部2の両端面部2a、2bに沿って配置されているので、誘導電流は、開口近設導体部110に近いところを流れようとし、両端面部2a、2bの近接効果とも相まって両端面部2a、2bにも効率的に流れることから、誘導電流40a、40bの電流量が増加し、効率的に接合部5を加熱することができる。
本実施形態では、上述した構成を有する誘導コイル100を用いているため、オープン管1の開口部2を跨がずに、誘導電流40b、40d、40a、40fからなる閉回路、および誘導電流40c、40d、40e、40fからなる閉回路が形成される。その結果、誘導コイル100から直接インピーダー7に入る磁束を避けることができるとともに、加熱効率が高まることでオープン管1の開口部2の端面部2a、2bを流れる誘導電流のピークおよび平均の強度を下げることが可能となる。その結果、インピーダー7の損傷を防ぐことができ、このような効果は小径管、例えば、管内径が100mm程度以下の管で、特に厚肉管、例えば、肉厚が6mm超の管を製造する際に特に有用となる。
また、本実施形態の誘導コイル100は、従来の特許文献1に記載の誘導コイルのようにオープン管を周回せず、開口近設導体部110を有することで電源接続導体部125、126を接合部5から遠ざけることができるので、オープン管1の上方にスペースを確保することができ、さらには、誘導コイル100自体をスクイズロール6に近づけることもできる。したがって、オープン管1の上方のスペースにシールドや測定装置などの付属設備を設置することが可能となる。また、誘導コイル100をスクイズロール6に近づけることで、電縫管を製造する際の加熱効率を向上させることも可能となる。
また、従来の特許文献3に記載の予熱コイルは周波数1〜20kHz程度の予熱用電源に接続されており、さらに予熱コイルと接合部との間には、予熱用電源とは別の周波数100〜400kHz程度の溶接用電源に接続された接触子(コンタクトチップ)が設けられている。したがって、この予熱コイルをスクイズロールに近づけることはできない。これに対して、本実施形態の誘導コイル100には、電源接続導体部126を介して高周波電源が接続され、誘導コイル100と接合部5との間には他の電源は設けられていない。このため、誘導コイル100をスクイズロール6に近づけることができる。
さらに、特許文献3に記載の装置には、予熱コイルに接続される電源と、接触子に接続される電源の、2つの電源がある。かかる場合、お互いが誘導結合し合う場合があり、そうすると負荷が不安定になり、整合がとれなくなって発振しなくなり、電流が流れなくなるおそれがある。その結果、オープン管を加熱することができず、電縫管を適切に製造することができない場合がある。
なお、本実施形態の電縫管溶接装置10は、小径管に限定されず、中径管にも適用可能である。中径管は、例えば管内径が100〜700mm程度である。
中径管の電縫溶接の場合には、一般に、小径管の場合よりも溶接のための電力投入量が増加する事に加え、オープン管1の開口部2も広くなるため、誘導コイル3で発生する強磁場が直接インピーダー7へ影響を与えることが懸念されるが、本実施形態の構成を有する誘導コイル100を用いることで、その影響を最小にして安定した生産をすることが可能となる。すなわち、一般的な電縫管溶接では、オープン管1の開口部2は遮るものがないため、当該開口部2を通して、誘導コイル3で発生する強磁場からの磁束が透磁率の高いインピーダー7を選択的に貫通する。そのため、インピーダー7が磁束飽和をしない十分な断面積を有していない場合、インピーダー7は磁束飽和して発熱し、インピーダー7の損傷が抑制できず、また電流のオープン管1の内周面周りを抑制する効果も失わせる。これに対し、本実施形態の誘導コイル100では、当該誘導コイル100で発生する磁束は開口部2から入らないため、電力を増やしてもインピーダー7の損傷を防止することが可能になり、安定製造が可能となる。
また、中径管の場合、一般に、溶接に要する電力が小径管より増えるので付与する電流値も増加させる必要があり、小径管に比べて加熱効率が悪くなる。これに対して、本実施形態では、誘導コイル100をスクイズロール6に近づけることができるので、加熱効率を向上させることが可能となる。したがって、かかる効果は中径管を製造する際に特に有用となる。
なお、中径管の場合、一般に、溶接に要する電力が小径管より増えるので付与する電流値も増加させる必要があるが、後述する第5実施形態の図22〜図24に示すように第1部分周回導体部520(521、522)を複数層にすることにより磁界の強度を上げ、同じ磁場強度を少ない電流で発生させてもよい。
次に、本実施形態において、誘導コイル100の好ましい配置について説明する。誘導コイル100の内周面とオープン管1の外周面との距離は、できるだけ近い方が効率が良いものの、誘導コイル100とオープン管1との接触を避けるため5〜10mmあけるのが好ましい。
また、本実施形態において、図9に示すように第1部分周回導体部120とスクイズロール6との最短距離Gは20mm以上(G≧20mm)であることが好ましい。この最短距離Gを上記範囲とすることで、スクイズロール6が誘導加熱されるのを抑制し、効果的に溶接を行うことができる。なお、図9の例では、第1部分周回導体部120とスクイズロール6との最短距離Gは側面視において斜め方向であるが、例えば第1部分周回導体部120の径に比べてスクイズロール6の径(側面視における上下長さ)が小さい場合、最短距離Gは水平方向となる。最短距離Gの方向は、第1部分周回導体部120の径とスクイズロール6の側面視における湾曲部の曲率との関係に応じて決まる。
さらに、本実施形態において、開口近設導体部110の長手方向の接合部5から遠い側の端部と、接合部5との距離Lの1例として下式(1)を満たしているのが好ましい場合が多い。電源接続導体部125、126の接合部5からの距離を示す、距離Lが下記式(1)を満たすようにすることで、接合部5における十分な加熱量を得る状態で、加熱効率を向上させることができる。(1)式は、接合部5端面のコイルからの往復距離2Lに対し、経験上内周の距離πDの約3倍程度有れば効率良く加熱が可能であることを示す式であり、係数3についてはそれぞれの装置によって変化する。
2L≦3πD ・・・(1)
但し、L:開口近設導体部110の長手方向の接合部5から遠い側の端部と、接合部5との距離、D:オープン管1の内径
ここで、本実施形態においては、交番する高周波電流のある瞬間を切り取った図7および図8に示すように、開口近設導体部110(110A、110B)の上流側端部の近傍の誘導電流は、接合部5方向へ流れる誘導電流40b、40c、および接合部5方向から流れ込む誘導電流40a、40eのみならず、一部の電流が分流して誘導コイル100の上流に流れている。すなわち、誘導電流としては、誘導電流40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40h以外に、上述したように、誘導コイル100の開口近設導体部110Bの上流側端部の近傍から上流に流れる誘導電流50b、および誘導コイル100の開口近設導体部110Aの上流側端部の近傍に上流から戻る誘導電流50aも発生する。これら誘導電流50a、50bは、誘導コイル100の上流の管外面に閉回路を形成し、この閉回路のある管外面において溶接には寄与しない発熱に消費される。これら誘導電流50a、50bは、接合部5の加熱にほとんど寄与しないため、誘導コイル100で供給した電力の一部の無駄な電力として消費されることになってしまう。
そこで、以下に述べる本発明の第2実施形態に係る電縫管溶接装置20では、誘導コイル100の上流側に誘導電流50a、50bが流れるのを阻止するために、誘導コイル100の走行方向上流において、オープン管1の開口部2の両端面部2a、2bの間に強磁性体200を配置している。以下、本発明の第2実施形態に係る電縫管溶接装置20について述べる。
(第2実施形態)
次に、図10および図11を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る電縫管溶接装置20の構成を説明する。図10は、本実施形態に係る電縫管溶接装置20を模式的に示す側面図(走行方向右側から見た右側面図)であり、図11は、図10に示す電縫管溶接装置20を模式的に示す横断面図であり、図10におけるIV−IV線で強磁性体コア部を切断したIV−IV断面図である。
図10および図11に示すように、本実施形態に係る電縫管溶接装置20は、上述した第1実施形態に係る電縫管溶接装置10と同様の構成に加え、誘導コイル100よりも走行方向上流側の開口部2に配置される強磁性体200をさらに備える。この強磁性体200はインピーダンスが高いため、電流が流れると、それを阻止するように働き、誘導コイル100の上流側に流れる電流を阻止する。具体的には、図12に示すように、誘導コイル100の上流側に流れようとする誘導電流50a、50b(図7、図8参照。)の想定流路口に強磁性体(磁性体コア)200が配置されているため、強磁性体200に対向するオープン管1に誘導電流50a、50bが流れようとすると、この誘導電流50a、50bを阻止するように強磁性体200が働くため、誘導コイル100の上流側に流れようとする誘導電流50a、50bを阻止することができる。その結果、図13に示すような誘導電流分布に近づいていく。そのため、オープン管1の外周面で発生した誘導電流の多くを接合部5側に流すことができ、接合部5に流れる電流の密度を上げて発熱量を上げることが可能となる。
また、本発明者の検討によれば、誘導電流は、オープン管1の端面部2a、2b、特に管断面における上部と下部の端部(コーナー部)に多く流れ、上部コーナー部の方が下部コーナー部よりも多く流れることが判明している。そのため、強磁性体200は、対向するオープン管1の両端面部2a、2b間の開口部2に対応する位置で、これら両端面部2a、2bに対し遊挿されるように設置されると共に、オープン管1の走行方向に垂直な断面で見た場合に、対向するオープン管1の両端面部2a、2bにおける各上部コーナー部、各下部コーナー部の一方または双方を覆う形状を有していることがより好ましい。
強磁性体200は、例えば、図11に示すようなT字状の形状とすることができる。上述したように、誘導電流は、オープン管1の端面部2a、2b、特に管断面における上部と下部の端部(コーナー部)に多く流れ、上部コーナー部の方が下部コーナー部よりも多く流れることから、誘導電流が多く流れる上部コーナー部を覆うような形状とすることで、効果的に誘導電流を阻止することができる。また、誘導電流の阻止(抑制)効果を最も高めるためには、図示は省略するが、強磁性体200をH字を横にしたような形状とすることが好ましい。これにより、端面部2a、2bのみならず、上部コーナー部および下部コーナー部に流れる誘導電流も阻止することができる。また、強磁性体200の形状としては、H字を横にしたような形状を曲面で形成したもの、I字状、逆T字状等、様々な形状が考えられる(例えば、国際公開第2011/034119の図8〜図12およびその説明等を参照)。
強磁性体200の材質としては、フェライトや電磁鋼板などの比透磁率が高く導電率の低い良磁性体を用いればよい。
また、強磁性体200を設置する位置は、誘導コイル100よりも上流側であればよいが、誘導コイル100により近い方が、上流側へ流れようとする誘導電流を元から阻止するためには効果的である。ただし、強磁性体200が誘導コイル100に近付き過ぎると、磁束密度が高くなって強磁性体200が発熱しやすくなるため、適宜影響のない位置を決めればよい。また、必要に応じて強磁性体200を冷却するのも、強磁性体200の発熱を抑えるのに効果的である。また、強磁性体200の長さや厚さに関しては、使用する条件で異なることから、特別に定めるものではないが、長さに関しては一般に、数十mm以上あれば良く、厚さに関してはオープン管1の両端面部2a、2bに接触しない程度で開口部2に近接する程度にすれば効果がより高められる。
また、強磁性体200の設置の仕方に関しては、内周面回りの電流を抑えるインピーダー7と組み合わせ、オープン管1の端面部2a、2bから内周へ電流が流れ込まない状態にしておいて、強磁性体200を設置すると、誘導コイル100の上流に流れる誘導電流の阻止効果が大きくなる。すなわち、図12および図13に示すように、インピーダー7の上流側端部と誘導コイル100までとの間で、強磁性体200がインピーダー7上に配されるように設置するのが好ましい。
また、強磁性体200とオープン管1の端面部2a、2bとの隙間は、可能な限り近づけた方が電流抑制効果は高く、離れると効果が薄れるので、両者をなるべく近づけることが好ましい。
強磁性体200を設置する場合、実機においては、オープン管1の端面部2a、2bが強磁性体200と接触することが考えられる。ここで、強磁性体200に、例えばフェライトを使用した場合、衝撃が加わった際に簡単に割れやすい。このように、フェライトからなる強磁性体200が割れた場合、下流のスクイズロール6で噛みこんだり、誘導コイル100に挟まったりする等の設備トラブルを生じる可能性がある。そこで、強磁性体200の外表面を被覆することにより、安全性や生産性を考慮した装置とすることが好ましい。すなわち、強磁性体200の外表面に、樹脂板などを保護板として用いることで、万が一、強磁性体200に衝撃が加わっても割れにくいようにすることがより好ましい。
強磁性体200を被覆する材料としては、非磁性材でかつ非導電性の材料であれば良く、ガラステープや、耐熱性のビニールテープで被覆したり、樹脂でモールドしても良く、また、ゴム等を貼り付けても構わない。このような強磁性体200の被覆は、必ずしも必須ではないが、処置をしておいた方が安定操業の観点からより好ましい。
さらに、強磁性体200の設置に関しては、例えば、オープン管1の端面部2a、2bの位置が走行中にねじれて変位する場合には、強磁性体200を固定して設置すると、端面部2a、2bと接触して破損するおそれが高くなる。そこで、強磁性体200が、走行中のオープン管1における端面部2a、2bが接触した際に、端面部2a、2bの間の開口部2内で、強磁性体200の破損を避けるように移動できる移動機構を有していてもよい。このような移動機構の詳細な説明は省略する(例えば、国際公開第2011/034119の図13〜図15およびその説明等を参照)。
(第3実施形態)
次に、図14〜図16を参照しながら、本発明の第3実施形態に係る電縫管溶接装置30の構成を説明する。インピーダーケースは図示をしないことについては上述した第1実施形態と同様である。図14は、本実施形態に係る電縫管溶接装置30を模式的に示す平面図であり、図15は、図14に示す電縫管溶接装置30の側面図であり、(a)は走行方向左側から見た左側面図、(b)は走行方向右側から見た右側面図である。図16は、図14および図15に示す電縫管溶接装置30の横断面図であり、(a)は、図14および図15におけるI−I線で切断したI−I断面図であり、(b)は、図14および図15におけるII−II線で切断したII−II断面図であり、(c)は、図14および図15におけるIII−III線で切断したIII−III断面図である。
図14〜図16に示すように、本実施形態に係る電縫管溶接装置30は、走行方向Rに走行する金属帯板1が、図示しないロールにより、金属帯板1の幅方向における両端面部(端面部)2a、2bが間隔を空けて対向するように円筒状に曲げられてオープン管1に成形された後、該オープン管1の開口部2近傍に配置された誘導加熱手段としての誘導コイル300に高周波電流を通じ、発生させた誘導電流により両端面部2a、2bを溶融させる。すなわち、電縫管溶接装置30は、誘導コイル300により、オープン管1の開口部2近傍に誘導電流である高周波電流を誘起させる。本実施形態に係る電縫管溶接装置30は、走行方向に延びる開口部2を有するオープン管1の、該開口部2に両側から相互に臨む管素材の端面部(言い換えると、該開口部2を挟んで対向する端面部)2a、2bの双方を、誘導加熱手段によって発生させた誘導電流により溶融させるとともに、開口部2の間隔を次第に狭めながら端面部2a、2b同士を接合部5において接触させて溶接する、電縫管を製造するための装置である。この電縫管溶接装置30は、誘導加熱手段として、1対の開口近設導体部310A、310B(以下、Aは一方の端面部2a側を意味し、Bは他方の端面部2b側を意味するものとし、1対の開口近設導体部をまとめて、「開口近設導体部310」と記載する場合もある。)と、第1部分周回導体部320と、第2部分周回導体部330とからなる誘導コイル300を備えている。すなわち、本実施形態に係る電縫管溶接装置30は、上述した第1実施形態とは、誘導コイルの構造が異なるものである。より具体的には、電縫管溶接装置30では、2つの部分周回導体部(第1部分周回導体部320および第2部分周回導体部330)を備え、かつ、図示しない高周波電源に接続される電源接続導体部(後述する電源接続導体部325、326)が第2部分周回導体部330に一体に設けられる点で、第1実施形態に係る電縫管溶接装置10と異なる。電縫管溶接装置30のその他の構成については、第1実施形態に係る電縫管溶接装置10と同様であるので、以下、電縫管溶接装置10と異なる点を主に述べる。
1対の開口近設導体部310A、310Bは、図14、図15および図16(b)に示すように、開口部2の両側の端面部2a、2bのそれぞれに沿って走行方向に延設された導体であり、それぞれ、平面視において開口部2と重ならない位置に、オープン管1の外周面から離間して配置される。なお、開口近設導体部310A、310Bは、平面視において開口部2に重ならない位置、すなわち開口近設導体部310A、310Bの開口部2に近い側の端部と、開口部2の端面部2a、2bとが平面視において接する直前の位置に配置されていてもよい。但し、開口近設導体部310A、310Bは、開口部2を介して、当該開口近設導体部310A、310Bとインピーダー7が互いに見えない位置に配置されるのが好ましい。
第1部分周回導体部320は、図14、図15および図16(c)に示すように、開口近設導体部310の長手方向の少なくとも接合部5に近い側の端部に一体に設けられ、オープン管1の外周面のうち開口部2を除いた部分に沿って周回するように、オープン管1の外周面から離間して配置される。また、第2部分周回導体部330は、図14、図15および図16(a)に示すように、開口近設導体部310の長手方向の接合部5から遠い側の端部(第1部分周回導体部320よりも走行方向上流側)に一体に設けられ、オープン管1の外周面のうち開口部2を除いた部分に沿って周回するように、オープン管1の外周面から離間して配置される。なお、第1部分周回導体部320と第2部分周回導体部330のうちのいずれか一方は、図示しない高周波電源へ接続される。図14〜図16に例示する本実施形態に係る誘導コイル300では、第2部分周回導体部330が、電源接続導体部325、326により図示しない高周波電源に接続されている。また、ここでは、第2部分周回導体部330への電源接続導体部325、326の接続位置が第2部分周回導体部330の最下部相当位置の例を示しているが、これに限らず、これらの接続位置は、オープン管1の開口部2を除いた部分に沿った周方向での第2部分周回導体部330の任意の周方向位置でもかまわない。
本発明において用いる誘導コイル300の材質は、上述した誘導コイル100と同様である。また、誘導コイル300の形状も、上述した開口近設導体部310と部分周回導体部320、330とからなるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、開口近設導体部310の形状は、開口近設導体部110と同様に、曲線部分を有しているものであってもよい。また、部分周回導体部320、330の形状は、第1部分周回導体部120と同様に、矩形の層を描くような形状(矩形コイル)であってもよい。さらに、その層数については、1層とする。
図15に例示するように、本実施形態に係る電縫管溶接装置30は、誘導コイル300に一次電流CPが通電される(図15で示す一次電流CPの方向は、交番する電流のある瞬間の方向を便宜的に示すもので、交番して逆方向に流れる場合も当然に含まれる。)。この際、誘導コイル300に高周波数の一次電流が流れ、磁束が生じることにより、オープン管1には、図17および図18中の矢印(交番する誘導電流をある瞬間で切り取ったもの)に示すような誘導電流40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40hの分布が生じる。より詳細に述べると以下の通りである。なお、図17は、図18に示す誘導電流分布のうち、走行方向右側の側面の誘導電流分布のみを示しており、走行方向左側の側面の誘導電流分布の図示は省略している。
図15(a)に示すように、交番する高周波電流のある瞬間を切り取ると、誘導コイル300を流れる一次電流CPは、図示しない高周波電源に接続された電源接続導体部325を通って図15(a)中の下方から上方へと流れ、第2部分周回導体部330の走行方向左半分を通ってオープン管1の周囲を周回(約半周)するように流れた後、開口近設導体部310Aを通って走行方向(図15(a)中の右方から左方)へ流れる。次いで、誘導コイル300を流れる電流は、第1部分周回導体部320側を通ってオープン管1の周囲を周回(約1周)するように流れた後、開口近設導体部310Bを通って走行方向と反対向き(図15(b)中の右方から左方)へ流れる。さらに、誘導コイル300を流れる電流は、第2部分周回導体部330の走行方向右半分を通ってオープン管1の周囲を周回(約半周)するように流れた後、上記高周波電源に接続された電源接続導体部326を通って図15(b)中の上方から下方へと流れ、該高周波電源へ戻る。
上述のような経路で一次電流を誘導コイル300に流すと、同じ瞬間でそれとは逆向きでオープン管1の外周面を流れる誘導電流が発生する。具体的には、図15と同じ瞬間を切り取った図17および図18に示すように、誘導コイル300を流れる一次電流CPにより、第2部分周回導体部330の走行方向右半分の誘導コイル300の近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40fが発生し、開口近設導体部310Bの近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40cと、オープン管1の端面部を流れる誘導電流40bとに分流して誘導電流が発生し、第1部分周回導体部320の近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40dが発生し、開口近設導体部310Aの近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40eと、オープン管1の端面部を流れる誘導電流40aとに分流して誘導電流が発生し、第2部分周回導体部330の走行方向左半分の誘導コイルの近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40fが発生し、これらの誘導電流同士を連続して繋ぐように誘導電流が流れて主電流ループ(閉回路)40f、40b+40c、40d、40a+40e、40fが形成される。さらに、開口近設導体部310A、310Bのそれぞれの下流側端部と第1部分周回導体部320とのそれぞれの連結部の近傍を起点および終点として、この主電流ループから接合部5側の端面部に分流する誘導電流40g、40hの電流ループが形成される。また、開口近設導体部310A、310Bのそれぞれの上流側端部と第2部分周回導体部330とのそれぞれの連結部の近傍を起点および終点として、この主電流ループから上流に分流する誘導電流50a、50bとで電流ループが形成される。このうち、端面部2a、2bを流れる誘導電流40a、40bと溶接部側両端面部2a、2bを流れる誘導電流40g、40hにより、両端面部2a、2bが発熱溶融し、溶接が行われる。この際、接合部5側の位置では、オープン管1の開口部2の幅が狭まってインピーダンスが低くなることから、近接効果によって電流が集中して高温になりやすい効果も相乗される。また、開口近設導体部310が開口部2の両端面部2a、2bに沿って配置されているので、近接効果により誘導電流が開口近設導体部310に近いところを流れようとするため、両端面部2a、2bに効率的に誘導電流を流すことができ、その結果、誘導電流40a、40bの電流量が増加し、効率的に接合部5を加熱することができる。
本実施形態では、上述した構成を有する誘導コイル300を用いているため、オープン管1の開口部2を跨がずに、誘導電流40f、40b、40d、40a、40fからなる閉回路、および誘導電流40f、40c、40d、40e、40fからなる閉回路が形成される。その結果、誘導コイル300から直接インピーダー7に入る磁束を避けることができるとともに、オープン管1の開口部2の端面部2a、2bを流れる誘導電流のピークおよび平均の強度を下げることが可能となる。その結果、インピーダー7の損傷を防ぐことができ、このような効果は小径管、例えば、管内径が100mm程度以下の管で、特に厚肉管、例えば、肉厚が6mm超の管を製造する際に特に有用となる。
また、本実施形態の誘導コイル300は、従来の特許文献1に記載の誘導コイルのようにオープン管を周回せず、開口近設導体部310を有することで電源接続導体部325、326を接合部5から遠ざけることができるので、オープン管1の上方にスペースを確保することができ、さらには、誘導コイル300自体をスクイズロール6に近づけることもできる。したがって、オープン管1の上方のスペースにシールドや測定装置などの付属設備を設置することが可能となる。また、誘導コイル300をスクイズロール6に近づけることで、電縫管を製造する際の加熱効率を向上させることも可能となる。
なお、本実施形態の電縫管溶接装置30も、第1実施形態の電縫管溶接装置10と同様に、小径管に限定されず、中径管にも適用可能である。
また、本実施形態における誘導コイル300の好ましい配置は、第1実施形態における誘導コイル100の好ましい配置と同様である。すなわち、誘導コイル300の内周面とオープン管1の外周面との距離は5〜10mmであるのが好ましい。
また、本実施形態において、第1部分周回導体部320は、できる限り接合部5に近いことが望ましいが、コイル導体とスクイズロール6との干渉回避およびスクイズロール6の誘導加熱を避けるため、第1部分周回導体部320とスクイズロール6との最短距離Gは20mm以上(G≧20mm)であることが好ましい。誘導コイル300の先端位置を示す、最短距離Gを上記範囲とすることで、実際の装置において効果的に溶接を行う事ができる。
さらに、本実施形態において、開口近設導体部310の長手方向の接合部5から遠い側の端部と、接合部5との距離Lが下記式(1)を満たしているのが好ましい。第2部分周回導体部330の接合部5からの距離を示す、距離Lが下記式(1)を満たすようにすることで、接合部5における十分な加熱量を得ることができ、加熱効率を向上させる事ができる。
2L≦3πD ・・・(1)
但し、L:開口近設導体部310の長手方向の接合部5から遠い側の端部と、接合部5との距離、D:オープン管1の外径
ここで、本実施形態においては、交番する高周波電流のある瞬間を切り取った図17および図18に示すように、第2部分周回導体部330の直下からの誘導電流は、接合部5方向へ流れる誘導電流40b、40c、および接合部5方向から流れ込む誘導電流40a、40eのみならず、一部の電流が分流して誘導コイル300の上流に流れている。すなわち、誘導電流としては、誘導電流40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40h以外に、上述したように、誘導コイル300の第2部分周回導体部330の直下から上流に流れる誘導電流50b、および誘導コイル300の上流から第2部分周回導体部330の直下に戻る誘導電流50aも発生する。これら誘導電流50a、50bは、誘導コイル300の上流の管外面に閉回路を形成し、この閉回路のある管外面において溶接には寄与しない発熱に消費される。これら誘導電流50a、50bは、接合部5の加熱にほとんど寄与しないため、誘導コイル300で供給した電力の一部の無駄な電力として消費されることになってしまう。
そこで、以下に述べる本発明の第4の実施形態に係る電縫管溶接装置40では、誘導コイル300の上流側に誘導電流50a、50bが流れるのを阻止するために、誘導コイル300の走行方向上流において、オープン管1の開口部2の両端面部2a、2bの間に強磁性体400を配置している。以下、本発明の第4実施形態に係る電縫管溶接装置40について述べる。
(第4実施形態)
まず、図19を参照しながら、本発明の第4実施形態に係る電縫管溶接装置40の構成を説明する。図19は、本実施形態に係る電縫管溶接装置40を模式的に示す側面図(走行方向右側から見た右側面図)である。なお、第4実施形態は、第2実施形態と同様に、誘導コイル300の上流側に誘導電流50a、50bが流れるのを阻止するために、誘導コイル300の走行方向上流において、オープン管1の開口部2の両端面部2a、2bの間に強磁性体を配置している。
図19に示すように、本実施形態に係る電縫管溶接装置40は、上述した第3実施形態に係る電縫管溶接装置30と同様の構成に加え、誘導コイル300よりも走行方向上流側の開口部2に配置される強磁性体400をさらに備える。この強磁性体400はインピーダンスが高いため、電流が流れると、それを阻止するように働き、誘導コイル300の上流側に流れる電流を阻止する。具体的には、図20に示すように、誘導コイル300の上流側に流れようとする誘導電流50a、50b(図17、図18参照。)の想定流路口に強磁性体400が配置されているため、強磁性体400に対向するオープン管1に誘導電流50a、50bが流れようとすると、この誘導電流50a、50bを阻止するように強磁性体400が働くため、誘導コイル300の上流側に流れようとする誘導電流50a、50bを阻止することができる。その結果、図21に示すような誘導電流分布に近づいていく。そのため、オープン管1の外周面で発生した誘導電流の多くを接合部5側に流すことができ、接合部5に流れる電流の密度を上げて発熱量を上げることが可能となる。
また、強磁性体400の具体的な構成、機能、配置等は、上述した第2実施形態に係る強磁性体200(図11を参照)と同様であるので、その詳細な説明を省略する。
(第5実施形態)
次に、図22〜図24を参照しながら、本発明の第5実施形態に係る電縫管溶接装置50の構成を説明する。インピーダーケースは図示をしないことについては上述した第1実施形態および第3実施形態と同様である。図22は、本実施形態に係る電縫管溶接装置50を模式的に示す平面図であり、図23は、図22に示す電縫管溶接装置50の側面図であり、(a)は走行方向左側から見た左側面図、(b)は走行方向右側から見た右側面図である。図24は、図22および図23に示す電縫管溶接装置50の横断面図であり、(a)は、図22および図23におけるI−I線で切断したI−I断面図であり、(b)は、図22および図23におけるII−II線で切断したII−II断面図であり、(c)は、図22および図23におけるIII−III線で切断したI−III断面図である。
なお、本実施形態の電縫管溶接装置50も、第1実施形態の電縫管溶接装置10および第3実施形態の電縫管溶接装置30と同様に、小径管に限定されず、中径管にも適用可能である。
図22〜図24に示すように、本実施形態に係る電縫管溶接装置50は、走行方向Rに走行する金属帯板1が、図示しないロールにより、金属帯板1の幅方向における両端面部(端面部)2a、2bが間隔を空けて対向するように円筒状に曲げられてオープン管1に成形された後、該オープン管1の開口部2近傍に配置された誘導加熱手段としての2層の誘導コイル500に高周波電流を通じ、発生させた誘導電流により両端面部2a、2bを溶融させる。すなわち、電縫管溶接装置50は、誘導コイル500により、オープン管1の開口部2近傍に誘導電流である高周波電流を誘起させる。本実施形態に係る電縫管溶接装置50は、走行方向に延びる開口部2を有するオープン管1の、該開口部2に両側から相互に臨む管素材の端面部(言い換えると、該開口部2を挟んで対向する端面部)2a、2bの双方を、誘導加熱手段によって発生させた誘導電流により溶融させるとともに、開口部2の間隔を次第に狭めながら端面部2a、2b同士を接合部5において接触させて溶接する、電縫管を製造するための装置である。
この電縫管溶接装置50は、誘導加熱手段として、1対の開口近設導体部510A、510B(以下、Aは一方の端面部2a側を意味し、Bは他方の端面部2b側を意味するものとし、1対の開口近設導体部をまとめて、「開口近設導体部510」と記載する場合もある。)と、第1部分周回導体部520と、第2部分周回導体部530とからなる誘導コイル500を備えている。本実施形態に係る電縫管溶接装置50は、上述した第1実施形態および第3実施形態とは、誘導コイル500が2層である等、誘導コイルの構造が異なるものである。より具体的には、電縫管溶接装置50では、第1部分周回導体部520には接合部5側から上流側に並ぶ順で部分周回導体部521、522を備え、1対の開口近設導体部510(510A、510B)には、部分周回導体部521に接続される1層目の開口近設導体部511(511A、511B)、その上層で部分周回導体部522に接続される2層目の開口近設導体部512(512A、512B)を備え、第2部分周回導体部530には、接合部5側から上流側に並ぶ順で部分周回導体部531、532、533を備え、これら部分周回導体部のうち、約半周分の部分周回導体部531は、電源接続導体部535と開口近設導体部511Aに接続され、約1周分の部分周回導体部532は、開口近設導体部511Bと開口近設導体部512Aに接続され、約半周分の部分周回導体部533は、開口近設導体部512Bと電源接続導体部536に接続されるように2層の誘導コイル500を備える点で、第1実施形態に係る電縫管溶接装置10および第3実施形態に係る電縫管溶接装置30と異なる。
上記のとおり、誘導コイル500は、開口近設導体部511、512の長手方向の接合部5に近い側のそれぞれの端部において、第1部分周回導体部520の2つの部分周回導体部521、522を備えており、2層になっている。以下の説明においては、部分周回導体部521を1層目といい、部分周回導体部522を2層目という場合がある。
まず、誘導コイル500の開口近設導体部510(511、512)の構成について説明する。1層目において、1対の開口近設導体部511A、511Bは、図22〜図24に示すように、開口部2の両側の端面部2a、2bのそれぞれに沿って走行方向に延設された導体であり、それぞれ、平面視において開口部2と重ならない位置に、オープン管1の外周面から離間して配置される。2層目において、1対の開口近設導体部512A、512Bはそれぞれ、1対の開口近設導体部511A、511Bと同様の構成を有し、当該1対の開口近設導体部511A、511Bの上方に重ねて配置される。なお、1対の開口近設導体部512A、512Bは、平面視において開口部2に対し1対の開口近設導体部511A、511Bの外側(開口部2から離れる側の隣接位置)に配置されてもよいが、開口近設導体部510によるオープン管1の外周面に発生する誘導電流の領域を、端面部2a、2bに近い領域に集め易いことから、2層目の1対の開口近設導体部512A、512Bはそれぞれ、1対の開口近設導体部511A、511Bの上方に重ねて配置されるのが好ましい。
次に、誘導コイル500において、接合部5に近い側の第1部分周回導体部520(521、522)の構成について説明する。1層目において、部分周回導体部521は、図22〜図24に示すように、開口近設導体部511の長手方向の少なくとも接合部5に近い側の端部に一体に設けられ、オープン管1の外周面のうち開口部2を除いた部分に沿って周回するように、オープン管1の外周面から離間して配置される。2層目において、部分周回導体部522は、開口近設導体部512の長手方向の少なくとも接合部5に近い側の端部に一体に設けられ、オープン管1の外周面のうち開口部2を除いた部分に沿って周回するように、オープン管1の外周面から離間して配置される。また、2層目の部分周回導体部522は、スクイズロール6との干渉を避けるため、1層目の部分周回導体部521より、走行方向上流側に配置される。
次に、誘導コイル500において、接合部5に遠い側の第2部分周回導体部530(531、532、533)の構成について説明する。1層目の約半周分の部分周回導体部531は、図22〜図24に示すように、開口近設導体部511Aの長手方向の接合部5から遠い側の端部に一体に設けられ、オープン管1の外周面のうち開口部2を除いた部分に沿って周回(約半周)するように、オープン管1の外周面から離間して配置される。部分周回導体部531は、電源接続導体部535により図示しない高周波電源に接続されている。1層目の残り約半周分と2層目の約半周分となる部分周回導体部532は、開口近設導体部511B、512Aの長手方向の接合部5から遠い側の端部に一体に設けられ、オープン管1の外周面のうち開口部2を除いた部分に沿って周回(約1周)するように、オープン管1の外周面から離間して配置される。2層目の残り約半周分の部分周回導体部533は、開口近設導体部512Bの長手方向の接合部5から遠い側の端部に一体に設けられ、オープン管1の外周面のうち開口部2を除いた部分に沿って周回(約半周)するように、オープン管1の外周面から離間して配置される。部分周回導体部533は、電源接続導体部536により図示しない高周波電源に接続されている。なお、ここでは、第2部分周回導体部531、533への電源接続導体部535、536の接続位置が、第2部分周回導体部531、533の最下部相当位置の例を示しているが、これに限らず、これらの接続位置は、オープン管1の開口部2を除いた部分に沿った周方向での第2部分周回導体部531、533の周方向長さを相補的に適宜変更することで決定される任意の周方向位置でもかまわない。
本発明において用いる誘導コイル500の材質は、上述した誘導コイル100、300と同様である。また、誘導コイル500の形状も、上述した開口近設導体部510(511、512)と部分周回導体部520(521、522)、530(531、532、533)とからなるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、開口近設導体部510(511、512)の形状は、開口近設導体部110、310と同様に、曲線部分を有しているものであってもよい。また、部分周回導体部520(521、522)、530(531、532、533)の形状は、部分周回導体部120、320、330と同様に、矩形の層を描くような形状(矩形コイル)であってもよい。
図23に例示するように、本実施形態に係る電縫管溶接装置50は、誘導コイル500に一次電流CPが通電される(図23で示す一次電流CPの方向は、交番する電流のある瞬間の方向を便宜的に示すもので、交番して逆方向に流れる場合も当然に含まれる。)。この際、誘導コイル500に高周波数の一次電流が流れ、磁束が生じることにより、オープン管1には、図25および図26中の矢印(交番する誘導電流をある瞬間で切り取ったもの)に示すような誘導電流40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40hの分布が生じる。より詳細に述べると以下の通りである。なお、図25は、図26に示す誘導電流分布のうち、走行方向右側の側面の誘導電流分布のみを示しており、走行方向左側の側面の誘導電流分布の図示は省略している。
図23(a)に示すように、交番する高周波電流のある瞬間を切り取ると、誘導コイル500を流れる一次電流CPは、図示しない高周波電源に接続された電源接続導体部535を通って図23(a)中の下方から上方へと流れ、第2部分周回導体部531を通ってオープン管1の周囲を周回(約半周)するように流れた後、開口近設導体部511Aを通って走行方向(図23(a)中の右方から左方)へ流れる。次いで、誘導コイル500を流れる電流は、第1部分周回導体部521側を通ってオープン管1の周囲を周回(約1周)するように流れた後、開口近設導体部511Bを通って走行方向と反対向き(図23(b)中の右方から左方)へ流れる。さらに、誘導コイル300を流れる電流は、第2部分周回導体部532を通ってオープン管1の周囲を周回(約1周)するように流れた後、開口近設導体部512Aを通って走行方向(図23(a)中の右方から左方)へ流れる。次いで、誘導コイル500を流れる電流は、第1部分周回導体部522側を通ってオープン管1の周囲を周回(約1周)するように流れた後、開口近設導体部512Bを通って走行方向と反対向き(図23(b)中の右方から左方)へ流れる。さらに、誘導コイル300を流れる電流は、第2部分周回導体部533を通ってオープン管1の周囲を周回(約半周)するように流れた後、上記高周波電源に接続された電源接続導体部536を通って図23(b)中の上方から下方へと流れ、該高周波電源へ戻る。
上述のような経路で一次電流を誘導コイル500に流すと、同じ瞬間でそれとは逆向きでオープン管1の外周面を流れる誘導電流が発生する。具体的には、図23と同じ瞬間で切り取った図25および図26に示すように、誘導コイル500を流れる一次電流CPにより、第2部分周回導体部530(531、532、533)の近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40fが発生し、開口近設導体部510B(511B、512B)の近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40cと、オープン管1の端面部を流れる誘導電流40bとに分流して誘導電流が発生し、第1部分周回導体部520(521、522)の近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40dが発生し、開口近設導体部510(511A、512A)の近傍では、オープン管1の外表面を流れる誘導電流40eと、オープン管1の端面部を流れる誘導電流40aとに分流して誘導電流が発生し、これらの誘導電流同士を連続して繋ぐように誘導電流が流れて主電流ループ(閉回路)40f、40b+40c、40d、40a+40eが形成される。さらに、開口近設導体部510(511、512)の下流側端部と第1部分周回導体部520(521、522)とのそれぞれの連結部の近傍を起点および終点として、この主電流ループから接合部5側の端面部に分流する誘導電流40g、40hの電流ループが形成される。また、開口近設導体部510(511、512)の上流側端部と第2部分周回導体部530(531、532、533)とのそれぞれの連結部の近傍を起点および終点として、この主電流ループから上流に分流する誘導電流50a、50bとで電流ループが形成される。このうち、端面部2a、2bを流れる誘導電流40a、40bと溶接部側両端面部2a、2bを流れる誘導電流40g、40hにより、両端面部2a、2bが発熱溶融し、溶接が行われる。この際、接合部5側の位置では、オープン管1の開口部2の幅が狭まってインピーダンスが低くなることから、近接効果によって電流が集中して高温になりやすい効果も相乗される。また、開口近設導体部510(511、512)が開口部2の両端面部2a、2bに沿って配置されているので、近接効果により誘導電流が開口近設導体部510(511、512)に近いところを流れようとするため、両端面部2a、2bに効率的に誘導電流を流すことができ、その結果、誘導電流40a、40bの電流量が増加し、効率的に接合部5を加熱することができる。
本実施形態では、上述した構成を有する誘導コイル500を用いているため、オープン管1の開口部2を跨がずに、誘導電流40b、40d、40a、40fからなる閉回路、および誘導電流40c、40d、40e、40fからなる閉回路が形成される。その結果、誘導コイル500から直接インピーダー7に入る磁束を避けることができるとともに、オープン管1の開口部2の端面部2a、2bを流れる誘導電流のピークおよび平均の強度を下げることが可能となる。その結果、インピーダー7の損傷を防ぐことができ、このような効果は小径管、例えば、管内径が100mm程度以下の管で、特に厚肉管、例えば、肉厚が6mm超の管を製造する際に特に有用となる。
また、本実施形態の誘導コイル500は、従来の特許文献1に記載の誘導コイルのようにオープン管を周回せず、開口近設導体部510を有することで電源接続導体部535、536を接合部5から遠ざけることができるので、オープン管1の上方にスペースを確保することができ、さらには、誘導コイル500自体をスクイズロール6に近づけることもできる。したがって、オープン管1の上方のスペースにシールドや測定装置などの付属設備を設置することが可能となる。また、誘導コイル500をスクイズロール6に近づけることで、電縫管を製造する際の加熱効率を向上させることも可能となる。
さらに、本実施形態の電縫管溶接装置50の誘導コイル500は2層になっているため、同じ電流なら磁界の強度を上げ、同じ磁界の強度なら少ない電流で発生させることができ、これにより加熱効率を向上させることが可能となる。したがって、このように複数の層数を有する誘導コイルを備えることは、上述したように大きい電力が必要な中径管、例えば管内径が100〜700mm程度の管の電縫溶接に特に有用となる。なお、本実施形態の電縫管溶接装置50は、2層の誘導コイル500を備えていたが、3層以上の誘導コイルを備えていてもよい。
なお、この誘導コイル500の複数層による効果、すなわち加熱効率を向上させる効果を享受するためには、上述のように誘導コイル500がシリアル(直列)な閉回路で複数層の部分周回導体部を備えていればよい。したがって、例えば第1部分周回導体部520が部分周回導体部521、522を備える2層であって、第2部分周回導体部530が1層であってもよい。図22〜図24に示した例では、第2部分周回導体部530において、電源接続導体部535、536をそれぞれ開口部2と反対側に設けていたが、これら電源接続導体部535、536を開口部2と同じ側に設けるようにすれば、半周分の部分周回導体部531、533を省略することができる。そうすると、第2部分周回導体部530を1層にすることが可能となる。このように、電源の設置方向によって、第2部分周回導体部530のレイアウトは任意に設計することができる。
上述した電縫管溶接装置50の誘導コイル500はシリアルな閉回路を備えていたが、第1部分周回導体部が複数層であっても、パラレルな閉回路を備える場合がある。図27は、本実施形態の変形例に係る電縫管溶接装置55を模式的に示す平面図である。電縫管溶接装置55は、誘導加熱手段として、パラレルな閉回路を備えた誘導コイル550を有している。そして、本変形例において誘導コイル550は、例えば、上記第1実施形態の誘導コイル100がパラレル(並列)に設けられた構成を有している。パラレル接続は、コイル導体に流す電流密度が高く,効率が低下するのを避けるという観点あるいは安全上の観点などから分流してコイル導体の電流密度を下げたい場合などに使用すれば良い。この場合、電気的にはコイル導体の鋼管に対する面積が広がっただけで、効果は1本の導体の場合と変わりがないが、冷却路が独立して設けられるため、コイル導体での発熱が避けられ、大電流通電が可能となる。
誘導コイル550は、1対の開口近設導体部560A、560B(以下、Aは一方の端面部2a側を意味し、Bは他方の端面部2b側を意味するものとし、1対の開口近設導体部をまとめて、「開口近設導体部560」と記載する場合もある。)と、第1部分周回導体部570とからなる。第1部分周回導体部570は、接合部5側から上流側に並ぶ順で部分周回導体部571、572を備えている。1対の開口近設導体部560(560A、560B)は、部分周回導体部571に接続される1層目の開口近設導体部561(561A、561B)と、部分周回導体部572に接続される2層目の開口近設導体部562(562A、562B)を備えている。開口近設導体部561A、561B、562A、562Bの長手方向の接合部5から遠い側の端部は、それぞれ電源接続導体部565A、565B、566A、566Bに接続され、これら電源接続導体部565A、565B、566A、566Bは図示しない共通の高周波電源に接続されている。
そして、電縫管溶接装置55には、1層目の第1部分周回導体部571、開口近設導体部561(561A、561B)、電源接続導体部565(565A、565B)からなる第1閉回路と、2層目の第1部分周回導体部572、開口近設導体部562(562A、562B)、電源接続導体部566(566A、566B)からなる第2閉回路と、がパラレルに形成されている。
かかる電縫管溶接装置55では、共通の高周波電源からの電流が、これら2つの閉回路に分流され、オープン管1の開口部2が誘導加熱される。例えば、電縫溶接するにあたって大電流が必要な場合には、このような誘導コイル500を用いて電流を分流させればよい。なお、各閉回路の誘導加熱の方法は、上記第1実施形態の誘導コイル100による誘導加熱と同様であるので、詳細な説明を省略する。
なお、本変形例では、誘導コイル550において、開口近設導体部561A、561B、562A、562Bの長手方向の接合部5から遠い側の端部は周回していないが、第2部分周回導体部のようにオープン管1の外周面のうち開口部2を除いた部分に沿って周回していてもよい。例えば、電源の設置方向によって、誘導コイル550の接合部5から遠い側の端部のレイアウトは任意に設計することができる。
また、本実施形態における誘導コイル500、550の好ましい配置は、第1実施形態における誘導コイル100および第3実施形態における誘導コイル300の好ましい配置と同様である。
(第6実施形態)
次に、図28を参照しながら、本発明の第6実施形態に係る電縫管溶接装置60の構成を説明する。図28は、本実施形態に係る電縫管溶接装置60を模式的に示す側面図(走行方向右側から見た右側面図)である。なお、第6実施形態は、第2実施形態および第4実施形態と同様に、誘導コイル500の上流側に誘導電流50a、50bが流れるのを阻止するために、誘導コイル500の走行方向上流において、オープン管1の開口部2の両端面部2a、2bの間に強磁性体を配置している。
図28に示すように、本実施形態に係る電縫管溶接装置60は、上述した第5実施形態に係る電縫管溶接装置50と同様の構成に加え、誘導コイル500よりも走行方向上流側の開口部2に配置される強磁性体600をさらに備える。この強磁性体600はインピーダンスが高いため、電流が流れると、それを阻止するように働き、誘導コイル500の上流側に流れる電流を阻止する。具体的には、図29に示すように、誘導コイル500の上流側に流れようとする誘導電流50a、50b(図25、図26参照。)の想定流路口に強磁性体600が配置されているため、強磁性体600に対向するオープン管1に誘導電流50a、50bが流れようとすると、この誘導電流50a、50bを阻止するように強磁性体600が働くため、誘導コイル500の上流側に流れようとする誘導電流50a、50bを阻止することができる。その結果、図30に示すような誘導電流分布に近づいていく。そのため、オープン管1の外周面で発生した誘導電流の多くを接合部5側に流すことができ、接合部5に流れる電流の密度を上げて発熱量を上げることが可能となる。
また、強磁性体600の具体的な構成、機能、配置等は、上述した第2実施形態に係る強磁性体200(図11を参照)と同様であるので、その詳細な説明を省略する。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
管径φ31.8mm、肉厚6.3mmの普通鋼製鋼管を、以下に示す実施例1〜実施例7および比較例1の電縫管溶接装置を用いて、3000Aの電流を流して電縫管溶接を行った場合の接合部から上流700mmの範囲の鋼管端面の総発熱量を赤外線映像装置により測定した。その結果を表1に示す。なお、表1においては総発熱量として、総発熱量比を示しているが、この総発熱量比とは、同じ幅、溶接部からの距離を同じにした通常のオープン管の開口部を跨いで周回する誘導コイルで同じ通電電流で発熱させた時の開口部端面の総発熱量を1とした場合に対する実施例および比較例での鋼管端面の総発熱量の比率を示している。また、このような電縫管溶接の条件でFEM(Finite Element Method:有限要素法)解析してインピーダーの最大磁束密度[T]を計算した結果を同じく表1に示す。
(実施例1)
実施例1の電縫管溶接装置としては、図4〜図6に示した第1実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、外径10mm、肉厚1.5mmの水冷銅管であって、1対の開口近設導体部と、溶接部側に1つの部分周回導体部(第1部分周回導体部)を有する誘導コイルを備えた装置を用いた。ここで、開口近設導体部は、水冷銅管をオープン管(鋼管)の開口部から5mm周方向外側で鋼管から半径方向に10mm離した位置で、接合部から走行方向上流側に80mmの位置とその位置から100mm上流の位置の範囲に配置した。また、部分周回導体部は、開口近設導体部の溶接部側の端部位置となる接合部から走行方向上流側に80mmの位置に、鋼管から半径方向に10mm離した位置で、開口部を外して外周方向に周回(1層)するように配置した。
(実施例2)
実施例2の電縫管溶接装置としては、図14〜図16に示した第3実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、外径10mm、肉厚1.5mmの水冷銅管であって、1対の開口近設導体部と、2つの部分周回導体部を有する誘導コイルを備える装置を用いた。ここで、開口近設導体部は、水冷銅管をオープン管(鋼管)の開口部から5mm周方向外側で鋼管から半径方向に10mm離した位置で、接合部から走行方向上流側に80mmの位置とその位置から100mm上流の位置の範囲に配置した。また、2つの部分周回導体部は、開口近設導体部の端部位置となる接合部から走行方向上流側に80mmの位置に第1部分周回導体部を、さらにその位置から100mm上流の位置に第2部分周回導体部を、鋼管から半径方向に10mm離した位置で、開口部を外して外周方向にそれぞれ周回(1層)するように配置した。
(実施例3)
実施例3の電縫管溶接装置としては、図10に示した第2実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、上記実施例1と同じ誘導コイルを用い、さらに、誘導コイルの上流50mmの位置から100mm上流の位置の範囲で、開口部にフェライト製の強磁性体コアを挿入したものを用いた。強磁性体コアとしては、図11に示すようなT字状の形状のものを用い、T字水平部の奥行きを50mm、幅を50mm、また、T字垂直部の高さを20mm、幅を4mmとした。
(実施例4)
実施例4の電縫管溶接装置としては、図19に示した第4実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、上記実施例2と同じ誘導コイルを用い、さらに、誘導コイルの上流50mmの位置から100mm上流の位置の範囲で、開口部にフェライト製の強磁性体コアを挿入したものを用いた。強磁性体コアとしては、図11に示すようなT字状の形状のものを用い、T字水平部の奥行きを50mm、幅を50mm、また、T字垂直部の高さを20mm、幅を4mmとした。
(実施例5)
実施例5の電縫管溶接装置としては、図22〜24に示した第5実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、上記実施例2と同じ誘導コイルの外側に更にもう1層の水冷銅管を1mmのテフロン(日本国登録商標)シートを間に挟んで重ね、シリアル接続とした。なお、電流は磁界の強度を合わせるため、上記実施例2の半分の1500Aとした。
(実施例6)
実施例6の電縫管溶接装置としては、図27に示した第5実施形態の変形例の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、上記実施例5と同様の誘導コイルの構成で、電源からの接続をパラレルとした。なお、電流は3000Aとした。
(実施例7)
実施例7の電縫管溶接装置としては、図28〜30に示した第6実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、上記実施例2と同じ誘導コイルの外側に更にもう1層の水冷銅管を1mmのテフロンシートを間に挟んで重ね、シリアル接続とし、コイル入り側上流50mmの位置から100mm上流の位置の範囲で開口部の上部を覆うT字の フェライトコア(長さ50mm)を設置した。なお、電流は磁界の強度を合わせるため、上記実施例2の半分の1500Aとした。
(比較例1)
比較例1の電縫管溶接装置としては、オープン管の開口部を跨ぐように配置された誘導コイルを備える装置を用いた。具体的には、比較例1の誘導コイルは、接合部から走行方向上流側に80mm離した位置で、鋼管から半径方向に10mm離した位置に、幅50mmで外周方向に2層にした外径10mm、肉厚1.5mmの水冷銅管である。
表1に示すように、実施例1〜実施例7の開口近設導体部および部分周回導体部を有する誘導コイルを備える電縫管溶接装置を用いて電縫管溶接した場合に開口部の端面部で発生する発熱量は、比較例1の開口部を跨ぐように配置された誘導コイルを備える電縫管溶接装置を用いて電縫管溶接した場合に発生する熱量とほぼ同等でありながら、インピーダーに入る磁束(すなわち、インピーダーの最大磁束密度)を約3割低減させることが可能となることがわかった。
特に、強磁性体コアを備える電縫管溶接装置を用いた実施例3、4、7は、強磁性体コアを備えていない電縫管溶接装置を用いた実施例1、2、5よりも総発熱量比を高めることができ、より効率的に溶接することが可能となることがわかった。
次に、上記実施例1〜7および比較例1より、管径が大きい場合の実施例について説明する。具体的には、管径φ100mm、肉厚4mmの普通鋼製鋼管を、以下に示す実施例8〜実施例13および比較例2の電縫管溶接装置を用いて、4000Aの電流を流して電縫管溶接を行った場合の接合部から上流700mmの範囲の鋼管端面の総発熱量を赤外線映像装置により測定した。その結果を表2に示す。なお、表2においては総発熱量として、総発熱量比を示しているが、この総発熱量比とは、同じ幅、溶接部からの距離を同じにした通常の誘導コイルで同じ通電電流で発熱させた時の開口部端面の総発熱量を1とした場合に対する実施例および比較例での鋼管端面の総発熱量の比率を示している。また、このような電縫管溶接の条件でFEM(Finite Element Method:有限要素法)解析してインピーダーの最大磁束密度[T]を計算した結果を同じく表2に示す。
(実施例8)
実施例8の電縫管溶接装置としては、図4〜図6に示した第1実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、外径10mm、肉厚1.5mmの水冷銅管であって、1対の開口近設導体部と、溶接部側に1つの部分周回導体部(第1部分周回導体部)を有する誘導コイルを備えた装置を用いた。ここで、開口近設導体部は、水冷銅管をオープン管(鋼管)の開口部から5mm周方向外側で鋼管から半径方向に10mm離した位置で、接合部から走行方向上流側に120mmの位置とその位置から100mm上流の位置の範囲に配置した。また、部分周回導体部は、開口近設導体部の溶接部側の端部位置となる接合部から走行方向上流側に120mmの位置に、鋼管から半径方向に10mm離した位置で、開口部を外して外周方向に周回(1層)するように配置した。
(実施例9)
実施例9の電縫管溶接装置としては、図14〜図16に示した第3実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、外径10mm、肉厚1.5mmの水冷銅管であって、1対の開口近設導体部と、2つの部分周回導体部を有する誘導コイルを備える装置を用いた。ここで、開口近設導体部は、水冷銅管をオープン管(鋼管)の開口部から5mm周方向外側で鋼管から半径方向に10mm離した位置で、接合部から走行方向上流側に120mmの位置とその位置から100mm上流の位置の範囲に配置した。また、2つの部分周回導体部は、開口近設導体部の端部位置となる接合部から走行方向上流側に80mmの位置に第1部分周回導体部を、さらにその位置から100mm上流の位置に第2部分周回導体部を、鋼管から半径方向に10mm離した位置で、開口部を外して外周方向にそれぞれ周回(1層)するように配置した。
(実施例10)
実施例10の電縫管溶接装置としては、図10に示した第2実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、上記実施例8と同じ誘導コイルを用い、さらに、誘導コイルの上流50mmの位置から100mm上流の位置の範囲で、開口部にフェライト製の強磁性体コアを挿入したものを用いた。強磁性体コアとしては、図11に示すようなT字状の形状のものを用い、T字水平部の奥行きを50mm、幅を50mm、また、T字垂直部の高さを20mm、幅を4mmとした。
(実施例11)
実施例11の電縫管溶接装置としては、図19に示した第4実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、上記実施例9と同じ誘導コイルを用い、さらに、誘導コイルの上流50mmの位置から100mm上流の位置の範囲で、開口部にフェライト製の強磁性体コアを挿入したものを用いた。強磁性体コアとしては、図11に示すようなT字状の形状のものを用い、T字水平部の奥行きを50mm、幅を50mm、また、T字垂直部の高さを20mm、幅を4mmとした。
(実施例12)
実施例12の電縫管溶接装置としては、図22〜24に示した第5実施形態の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、上記実施例9と同じ誘導コイルの外側に更にもう1層の水冷銅管を1mmのテフロンシートを間に挟んで重ね、シリアル接続とした。なお、電流は磁界の強度を合わせるため、上記実施例9の半分の2000Aとした。
(実施例13)
実施例13の電縫管溶接装置としては、図27に示した第5実施形態の変形例の電縫管溶接装置を用いた。具体的には、上記実施例12と同様の誘導コイルの構成で、電源からの接続をパラレルとした。なお、電流は4000Aとした。
(比較例2)
比較例2の電縫管溶接装置としては、オープン管の開口部を跨ぐように配置された誘導コイルを備える装置を用いた。具体的には、比較例1の誘導コイルは、接合部から走行方向上流側に80mm離した位置で、鋼管から半径方向に10mm離した位置に、幅50mmで外周方向に2層にした外径10mm、肉厚1.5mmの水冷銅管である。
表2に示すように、管径が大きい場合であっても、表1に示した管径が小さい場合と同様の傾向が確認できた。すなわち、実施例8〜実施例13の開口近設導体部および部分周回導体部を有する誘導コイルを備える電縫管溶接装置を用いて電縫管溶接した場合に開口部の端面部で発生する発熱量は、比較例2の開口部を跨ぐように配置された誘導コイルを備える電縫管溶接装置を用いて電縫管溶接した場合に発生する熱量とほぼ同等でありながら、インピーダーに入る磁束(すなわち、インピーダーの最大磁束密度)を約2割低減させることが可能となることがわかった。
特に、強磁性体コアを備える電縫管溶接装置を用いた実施例10、11は、強磁性体コアを備えていない電縫管溶接装置を用いた実施例8、9よりも総発熱量比を高めることができ、より効率的に溶接することが可能となることがわかった。