JP6436136B2 - 自動変速機の制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、自動変速機の制御装置に関する。
有段の自動変速機の変速制御において、動力源のトルクダウン制御により変速ショックを抑制する技術として、特許文献1に記載の技術がある。
この特許文献1に記載の技術では、変速用摩擦要素の締結による変速時のイナーシャフェーズ中、変速用摩擦要素の締結容量制御および動力源のトルクダウン制御により変速ショックを軽減するようにした自動変速機において、トルクダウンにより達成すべき目標動力源のうち、動力源のトルク下限値よりも小さい実現不要分だけ、変速用摩擦要素の締結容量をフィードフォワード制御で補正するようにしている。以下、この技術を従来技術という。
特開2004−314842号公報
上記従来技術では、変速開始時にフィードフォワード制御を行うので、変速中に自動変速機の入力トルク(以下、入力トルクともいう)の低下がある場合には対応できない。
すなわち、従来技術において、変速中の入力トルクの低下に対してもトルクダウン制御による実行不能分を摩擦要素の締結容量で補正するようにしたとしても、変速開始時に設定した目標変速特性値(変速目標値)に基づいた変速制御を実行している場合、トルクダウン制御による実行不能分の増加により摩擦要素の締結容量の補正量が過大となり、入力トルクの低下(アクセル戻し操作等による低下)にも関わらず、押し出され感を伴うショックが発生する。
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、自動変速機の変速中に入力トルクが低下しても、ショックの発生を抑制することが可能な制御装置を提供することを目的とする。
本発明は、複数の摩擦係合要素を選択的に係合させることにより複数の変速段を成立させ、入力軸の回転を変速して出力軸に出力する有段式の自動変速機に適用され、変速開始時の前記自動変速機の入力トルクに応じて、目標入力軸加速度または目標変速時間を目標変速特性値として設定し、その設定された目標変速特性値に基づいて変速進行度に応じた変速制御を行い、この変速制御では、目標変速特性値を実現させる制御操作量としての前記自動変速機の要求入力トルク、係合側摩擦係合要素の要求トルク容量、および、解放側摩擦係合要素の要求トルク容量を制御する制御装置において、前記自動変速機の変速中に、入力トルクが変速開始時よりも所定値以上低下した場合に目標変速特性値を更新する特性値更新手段を備え、前記特性値更新手段にて更新される目標変速特性値は、更新時の入力トルクで変速が開始された場合に設定される目標変速特性値に更新され、その更新された目標変速特性値に基づいて前記更新時の変速進行度から変速制御を行うように構成されていることを特徴としている。
本発明によれば、変速中にアクセル戻し操作等により入力トルクが変速開始時よりも所定値以上低下した場合には、その時点の入力トルクに基づいて目標変速特性値を更新し、その更新した目標変速特性値に基づいて更新時の変速進行度から変速制御を行う。このような制御により、変速中の入力トルクの低下に対して、安定した変速制御を実行することが可能となる。これによりショックの発生を抑制することができる。
本発明において、自動変速機の1回の変速中に、目標変速特性値を更新した後、その更新時よりも入力トルクが所定値以上低下した場合には、目標変速特性値が再度更新されて、当該目標変速特性値が、再度更新時の入力トルクで変速が開始された場合に設定される目標変速特性値とされ、その再度更新された目標変速特性値に基づいて前記再度更新時の変速進行度から変速制御を行うようにしてもよい。
このような制御を行うことにより、変速中における入力トルクの低下量が大きい場合には、1回の変速中に、目標変速特性値が複数回更新されるので、入力トルクの低下量が大きくても、変速中において安定した変速制御を継続することができ、ショックの発生を抑制することができる。
本発明によれば、自動変速機の変速中に入力トルクが低下しても、ショックの発生を抑制することができる。
本発明を適用する自動変速機が搭載された車両の概略構成を示す図である。 トルクコンバータおよび自動変速機の構成を示すスケルトン図である。 自動変速機における変速段毎の第1クラッチ〜第4クラッチ、第1ブレーキおよび第2ブレーキの係合状態を示す係合表である。 車両の制御系の構成を示すブロック図である。 ECUが実行するパワーオンアップ制御の一例を示すフローチャートである。 パワーオンアップ制御時における目標入力軸回転速度、実入力軸回転速度および入力トルクの各変化の一例を示すタイミングチャートである。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、図1〜図4を参照して、本実施形態に係る車両100について説明する。
車両100は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、油圧制御装置4と、ECU5とを備えている。この車両100は、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式であり、エンジン1の出力が、トルクコンバータ2および自動変速機3を介してデファレンシャル装置6に伝達され、左右の駆動輪(前輪)7に分配されるようになっている。
−エンジン−
エンジン(内燃機関)1は、走行用の駆動力源であり、例えば多気筒ガソリンエンジンである。エンジン1は、スロットルバルブのスロットル開度(吸入空気量)、燃料噴射量、点火時期などにより運転状態を制御可能に構成されている。
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、図2に示すように、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト1aに連結されたポンプインペラ21と、自動変速機3に連結されたタービンランナ22と、トルク増幅機能を有するステータ23と、エンジン1と自動変速機3とを直結するためのロックアップクラッチ24とを含んでいる。なお、図2では、トルクコンバータ2および自動変速機3の回転中心軸に対して、下側半分を省略して上側半分のみを模式的に示している。
−自動変速機−
自動変速機3は、エンジン1と駆動輪7との間の動力伝達経路に設けられ、入力軸3aの回転を変速して出力軸3bに出力するように構成されている。この自動変速機3では、入力軸3aがトルクコンバータ2のタービンランナ22に連結され、出力軸3bがデファレンシャル装置6などを介して駆動輪7に連結されている。
自動変速機3は、第1遊星歯車装置31aを主体として構成される第1変速部(フロントプラネタリ)31、第2遊星歯車装置32aと第3遊星歯車装置32bとを主体として構成される第2変速部(リアプラネタリ)32、第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2などによって構成されている。
第1変速部31を構成する第1遊星歯車装置31aは、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であって、サンギヤS1と、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1と、これらピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するプラネタリキャリアCA1と、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1とを備えている。
プラネタリキャリアCA1は、入力軸3aに連結され、その入力軸3aと一体的に回転するようになっている。サンギヤS1は、トランスミッションケース30に固定され、回転不能である。リングギヤR1は、中間出力部材として機能し、入力軸3aに対して減速されてその減速回転を第2変速部32に伝達する。
第2変速部32を構成する第2遊星歯車装置32aは、シングルピニオン型の遊星歯車機構であって、サンギヤS2と、ピニオンギヤP2と、そのピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するプラネタリキャリアRCAと、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤRRとを備えている。
また、第2変速部32を構成する第3遊星歯車装置32bは、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であって、サンギヤS3と、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2およびP3と、それらピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持するプラネタリキャリアRCAと、ピニオンギヤP2およびP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤRRとを備えている。なお、プラネタリキャリアRCAおよびリングギヤRRは、第2遊星歯車装置32aおよび第3遊星歯車装置32bで共用されている。
サンギヤS2は、第1ブレーキB1によりトランスミッションケース30に選択的に連結される。また、サンギヤS2は、第3クラッチC3を介してリングギヤR1に選択的に連結される。更に、サンギヤS2は、第4クラッチC4を介してプラネタリキャリアCA1に選択的に連結される。サンギヤS3は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に選択的に連結される。プラネタリキャリアRCAは、第2ブレーキB2によりトランスミッションケース30に選択的に連結される。また、プラネタリキャリアRCAは、第2クラッチC2を介して入力軸3aに選択的に連結される。リングギヤRRは、出力軸3bに連結され、その出力軸3bと一体的に回転するようになっている。
第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2は、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる摩擦係合要素であり、油圧制御装置4およびECU5によって制御される。
図3は、変速段(ギヤ段)毎の第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1および第2ブレーキB2の係合状態または解放状態を示した係合表である。なお、図3の係合表において、○印は「係合状態」を示し、空白は「解放状態」を示している。
図3に示すように、この例の自動変速機3では、第1クラッチC1および第2ブレーキB2が係合されることにより、変速比(入力軸3aの回転速度/出力軸3bの回転速度)が最も大きい第1変速段(1st)が成立する。第1クラッチC1および第1ブレーキB1が係合されることにより第2変速段(2nd)が成立する。
第1クラッチC1および第3クラッチC3が係合されることにより第3変速段(3rd)が成立し、第1クラッチC1および第4クラッチC4が係合されることにより第4変速段(4th)が成立する。
第1クラッチC1および第2クラッチC2が係合されることにより第5変速段(5th)が成立し、第2クラッチC2および第4クラッチC4が係合されることにより第6変速段(6th)が成立する。
第2クラッチC2および第3クラッチC3が係合されることにより第7変速段(7th)が成立し、第2クラッチC2および第1ブレーキB1が係合されることにより第8変速段(8th)が成立する。なお、第3クラッチC3および第2ブレーキB2が係合されることにより後進段(Rev)が成立する。
−油圧制御装置−
油圧制御装置4は、自動変速機3の複数の摩擦係合要素(クラッチC1〜C4、ブレーキB1,B2)の係合および開放を制御する。また、油圧制御装置4は、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ24を制御する機能も有する。なお、油圧制御回路4は、自動変速機3の各摩擦係合要素の油圧アクチュエータ、および、その各油圧アクチュエータにそれぞれ制御油圧を供給するリニアソレノイドバルブなどを備えている。
−ECU−
ECU5は、エンジン1の運転制御および自動変速機3の変速制御などを行うように構成されている。具体的には、ECU5は、図4に示すように、CPU51と、ROM52と、RAM53と、バックアップRAM54と、入力インターフェース55と、出力インターフェース56とを含んでいる。なお、ECU5は、本発明の「制御装置」の一例である。
CPU51は、ROM52に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。ROM52には、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップなどが記憶されている。RAM53は、CPU51による演算結果や各センサの検出結果などを一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM54は、イグニッションをオフする際に保存すべきデータなどを記憶する不揮発性のメモリである。
入力インターフェース55には、クランクポジションセンサ81、入力軸回転速度センサ82、出力軸回転速度センサ83、アクセル開度センサ84、スロットル開度センサ85、およびエアフロメータ86などが接続されている。
クランクポジションセンサ81は、エンジン1の回転速度を算出するために設けられている。入力軸回転速度センサ82は、自動変速機3の入力軸3aの回転速度(タービン回転速度)を算出するために設けられている。出力軸回転速度センサ83は、自動変速機3の出力軸3bの回転速度を算出するために設けられている。なお、出力軸3bの回転速度から車速を算出することが可能である。アクセル開度センサ84は、アクセルペダルの踏込量(操作量)であるアクセル開度を検出するために設けられている。スロットル開度センサ85は、スロットルバルブのスロットル開度を検出するために設けられている。エアフロメータ86は、エンジン1の吸入空気量を検出するために設けられている。
出力インターフェース56には、インジェクタ91、イグナイタ92、スロットルモータ93および油圧制御装置4などが接続されている。インジェクタ91は、燃料噴射弁であり、燃料噴射量を調整可能である。イグナイタ92は、点火プラグによる点火時期を調整するために設けられている。スロットルモータ93は、スロットルバルブのスロットル開度を調整するために設けられている。
そして、ECU5は、各センサの検出結果などに基づいて、スロットル開度、燃料噴射量および点火時期などを制御することにより、エンジン1の運転状態を制御可能に構成されている。また、ECU5は、油圧制御装置4を制御することにより、自動変速機3の変速制御およびトルクコンバータ2のロックアップクラッチ24の制御を実行可能に構成されている。
ECU5による変速制御では、例えば、車速およびアクセル開度をパラメータとする変速マップに基づいて要求変速段が設定され、実際の変速段が要求変速段になるように油圧制御装置4が制御される。なお、上記変速マップは、車速およびアクセル開度に応じて、適正な変速段(最適な効率となる変速段1st〜8th)を求めるための複数の領域が設定されたマップであって、ECU5のROM52内に記憶されている。変速マップには、各領域を区画するための複数の変速線(1st〜8thの各変速領域を区画するためのアップシフト線およびダウンシフト線)が設定されている。
そして、ECU5は、後述する目標変速特性値に基づいて変速進行度(変速制御の進行度合い)に応じた変速制御を実行する。さらに、ECU5は、後述するパワーオンアップシフト制御を実行する。
−変速モデルを用いた変速制御−
本実施形態において特徴とする制御(パワーオンアップシフト制御)を説明する前に、自動変速機3において目標変速特性値(変速目標値)を実現させる制御操作量を決定するための変速制御の概略について説明する。
一般的な変速制御としては、例えば変速ショックや変速時間等が適切であるか否かを実車にて評価しつつ適合により予め定められた制御マップに基づいて、変速時の各摩擦係合要素のトルク容量(あるいは油圧指令値)を決定して変速を実行する手法がある。この制御マップを用いる手法では、パワーオンダウンシフトやパワーオフアップシフト等の変速パターンおよび変速前後の変速段の組み合わせに応じて、多数の制御マップを作成しておく必要がある。そのため、自動変速機の変速段が多段化されるほど、適合作業に多くの労力が必要となってしまう。
そこで、本実施形態では、変速制御として、制御マップを用いる手法に替えて、目標変速特性値を実現させる制御操作量を決定する変速モデルを用いて変速を実行する手法を採用している。目標変速特性値は、変速時に実現したい変化態様を定める要素(例えば、変速時間、駆動力等)の目標値である。制御操作量は、制御対象に対して操作する要素(エンジントルク、クラッチトルク等)の要求値である。
以下、変速モデルを用いた変速制御について説明する。変速中における運動方程式は、下記の式(1)および式(2)で表される。
Figure 0006436136
この式(1)および式(2)は、自動変速機3を構成する相互に連結された各回転要素毎の運動方程式、および、自動変速機3を構成する遊星歯車装置における関係式から導き出されたものである。各回転要素毎の運動方程式は、各回転要素におけるイナーシャと回転速度時間変化率との積で表されるトルクを、遊星歯車装置の3つの部材、および摩擦係合要素の両側の部材のうち各回転要素に関与する部材に作用するトルクにて規定した運動方程式である。また、遊星歯車装置における関係式は、遊星歯車装置の歯車比を用いて、その遊星歯車装置の3つの部材におけるトルクの関係と回転速度時間変化率の関係とを各々規定した関係式である。
式(1)および式(2)において、dωt/dtは、タービン回転速度(回転角速度)ωt(すなわち自動変速機2の入力軸回転速度ωi)の時間微分すなわち時間変化率であり、入力軸3a側の回転部材の速度変化量としての入力軸3aの加速度(角加速度、以下、入力軸加速度という)を表している。この入力軸加速度dωt/dtが本発明でいう入力軸回転速度変化率に相当する。dωo/dtは、自動変速機2の出力軸回転速度ωoの時間変化率であり、出力軸加速度を表している。Ttは、入力軸3a側の回転部材上のトルクとしての入力軸3a上のトルクであるタービントルクすなわち変速機入力トルクTiを表している。このタービントルクTtは、トルクコンバータ2のトルク比tを考慮すればエンジントルクTe(=Tt/t)と同意である。Toは、出力軸3b側の回転部材上のトルクとしての出力軸3b上のトルクである変速機出力トルクを表している。Tcaplは、変速時に係合動作を行う摩擦係合要素のトルク容量(以下、係合側クラッチトルクという)である。Tcdrnは、変速時に解放動作を行う摩擦係合要素のトルク容量(以下、解放側クラッチトルクという)である。a1,a2,b1,b2,c1,c2,d1,d2はそれぞれ、式(1)および式(2)を導き出した際に定数としたものであり、各回転要素におけるイナーシャおよび遊星歯車装置の歯車比から設計的に定められる係数である。この定数の具体的な数値は、例えば変速の種類(例えば変速パターンや変速前後の変速段の組み合わせ)毎に異なる。したがって、上記運動方程式としては1つの所定のものであるが、自動変速機3の変速には、変速の種類毎に異なる定数とされたそれぞれの変速の種類に対応する運動方程式が用いられる。
式(1)および式(2)は、目標変速特性値と制御操作量との関係を定式化した自動変速機3のギヤトレーン運動方程式である。目標変速特性値は、変速時間および駆動力の各目標値を表現でき、ギヤトレーン運動方程式上で取り扱えるものである。本実施形態では、変速時間を表現できる物理量の一例として入力軸加速度dωt/dtを用いている。また、駆動力を表現できる物理量の一例として変速機出力トルクToを用いている。ここで、本実施形態では、目標変速特性値を、入力軸加速度dωt/dtの目標値(目標入力軸速度)としている。なお、目標変速特性値については、変速時間の目標値(目標変速時間)などであってもよい。
一方、本実施形態では、目標変速特性値を成立させる制御(フィードバック制御)の制御操作量を、タービントルクTt(エンジントルクTeも同意)と、係合側クラッチトルクTcaplと、解放側クラッチトルクTcdrnとの3つの値で設定している。そうすると、運動方程式が式(1)および式(2)の2式で構成されることに対して、制御操作量が3つあるため、2つの目標変速特性値を成立させる制御操作量を一意に解くことはできない。なお、各式中の出力軸加速度dωo/dtは、出力軸回転速度センサ83の検出値である出力軸回転速度ωoから算出される。
そこで、本実施形態では、式(1)および式(2)の運動方程式の解を求めるための拘束条件として、解放側クラッチと係合側クラッチとで受け持つ伝達トルクのトルク分担率を用いる。トルク分担率を拘束条件とすることで、変速中における解放側クラッチと係合側クラッチとのトルクの受け渡し(つまり変速進行度)を運動方程式に組み込むことができ、かつ制御操作量を一意に解くことができる。
トルク分担率は、自動変速機3の変速時に解放側クラッチと係合側クラッチとで受け持つ必要がある合計の伝達トルク(合計伝達トルク)を、例えば入力軸3a上のトルク(入力軸上合計伝達トルク)に置き替えたときに、その入力軸上合計伝達トルクに対して両摩擦係合要素が各々分担する伝達トルクの割合である。そして、このようなトルク分担率を変速中において変速進行度に応じて変化させていく。
本実施形態では、係合側クラッチのトルク分担率を「xapl」とし、解放側クラッチのトルク分担率を「xdrn」として、それぞれのトルク分担率を、変速中のトルクの受け渡しを反映するように時系列で変化するトルク分担率x(例えば0≦x≦1)を用いて次式(3)および次式(4)のように定義する。
xapl=x ・・・(3)
xdrn=1−x ・・・(4)
係合側クラッチトルクTcaplと解放側クラッチトルクTcdrnとの関係式は、入力軸3a上のトルクに置き替えた「Tcapl」および「Tcdrn」と、式(3)および式(4)とに基づいて、「x」(=xapl)と「1−x」(=xdrn)とを用いて定義することができる。そして、式(1)、式(2)、および、「Tcapl」と「Tcdrn」との関係式から、制御操作量である、タービントルクTt、係合側クラッチトルクTcapl、および、解放側クラッチトルクTcdrnを算出する関係式が導き出される。タービントルクTt(エンジントルクTeも同意)は、「x」(=xapl)、「1−x」(=xdrn)、入力軸加速度dωt/dt、および、変速機出力トルクToなどを用いた関係式にて表される。同様に、係合側クラッチトルクTcaplは、「x」(=xapl)、入力軸加速度dωt/dt、および、変速機出力トルクToなどを用いた関係式にて表される。同様に、解放側クラッチトルクTcdrnは、「1−x」(=xdrn)、入力軸加速度dωt/dt、および、変速機出力トルクToなどを用いた関係式にて表される。
つまり、本実施形態の変速モデルは、目標変速特性値と制御操作量とを含む自動変速機3の運動方程式(式(1),(2))と、トルク分担率を表す関係(式(3),(4))とを用いて、目標変速特性値に基づいて制御操作量を算出するものである。このように、本実施形態では、式(1),(2)に、トルク分担率xにて設定した拘束条件を追加することで、変速モデルを用いて自動変速機3の変速を実行する。よって、2つの目標変速特性値に対して3つの制御操作量があったとしても、上記変速モデルを用いて3つの制御操作量を適切に決定することができる。この変速モデルとしては1つの所定のものであるが、上述したように変速の種類(例えば変速パターンや変速前後の変速段の組み合わせ)毎に異なる定数とされたギヤトレーン運動方程式が用いられるので、自動変速機3の変速には、それぞれの変速の種類に対応する変速モデルが用いられることになる。
そして、ECU5は、変速パターン毎に変速進行度に応じて、目標変速特性値および制御操作量を算出する。なお、変速パターンというのは、例えば、パワーオンアップシフト、パワーオフアップシフト、パワーオンダウンシフト、およびパワーオフダウンシフトである。
例えば、パワーオンアップシフトの場合、目標変速段に応じた摩擦係合要素に対する油圧制御を開始すると、まず、各摩擦係合要素における要求トルク容量の分担が変化するトルク相の段階となり、その後、自動変速機3の変速比が変化するイナーシャ相の段階を経て、変速終了となる。つまり、自動変速機3の変速は、トルク相前の段階、トルク層の段階、イナーシャ相の段階、変速終了時の段階へと進行する。
このような変速の進行に対応して変化する好適なトルク分担率が、変速パターン毎の変速進行度に応じて設定されたマップ等が予め実験またはシミュレーション等によって作成されており、ECU5のROM52に記憶されている。ECU5は、変速制御の際に変速進行度に応じたトルク分担率を読み出して、そのトルク分担率を目標変速特性値とともに変速モデルに適用し、制御操作量(入力軸3aの要求入力トルク、係合側および解放側の摩擦係合要素の要求トルク容量)を算出する。
そして、ECU5は、要求トルク容量になるように、変速進行度に応じて係合側および解放側の摩擦係合要素の制御(油圧制御)を行う。また、ECU5は、目標変速特性値に基づいて変速進行度に応じて、実入力軸回転速度が目標入力軸回転速度になるように変速制御を行う。
−パワーオンアップシフト制御−
次に、ECU5が実行するパワーオンアップシフト制御について説明する。
まず、パワーオンアップシフト制御にあっては、変速時に発生するイナーシャトルクをトルクダウン制御により相殺することで、ショックを抑制している。例えば、上記した従来技術では、トルクダウンにより達成すべき目標動力源のうち、動力源のトルク下限値よりも小さい実現不要分だけ、変速用摩擦要素の締結容量をフィードフォワード制御で補正するようにしている。
ここで、変速開始時に決定した目標変速特性値に基づいて変速制御を実行している際に、パワーオンアップシフト中に変速機入力トルク(以下、入力トルクともいう)が低下(アクセル戻し操作等による低下)すると、その低下した入力トルクに対し、目標入力回転速度を実現するのに必要なトルクダウン量が過剰となり、トルクダウン実行不能となるトルクダウン量の割合が増加する。
このようにパワーオンアップシフト中に入力トルクが低下する場合に、上記従来技術を適用しても、上記したように、自動変速機のクラッチのクラッチトルクの補正量が過大となってしまい、入力トルクの低下にも関わらず、押し出され感を伴うショックが発生する場合がある。
なお、上記トルクダウン実行不能となるトルクダウン量が所定値以上になった場合、クラッチトルクの補正量に制限をかけることや、クラッチトルクの補正そのものを禁止することによりショックを抑制することが考えられるが、この場合、実際の変速時間が目標変速時間よりも長くなるため、フィードバック制御により、結局はクラッチトルクが補正されてしまうので、安定的にショックを抑制することは難しい。
以上のような問題を解消するため、本実施形態では、パワーオンアップシフト中にアクセル戻し操作等により入力トルクが低下した場合であっても、ショックの発生を抑制することが可能な制御を実現する。
その制御(パワーオンアップシフト制御)の一例について、図5のフローチャートおよび図6のタイミングチャートを参照して説明する。図5の制御ルーチンはECU5において所定時間毎に繰り返して実行される。
図5の制御ルーチンの実行中において、ECU5は自動変速機3の入力トルクを逐次算出している。具体的には、ECU5は、例えば、エアフロメータ86の出力信号から得られる吸入空気量、およびエンジン1の点火時期などに基づいてエンジントルクを算出し、そのエンジントルクにトルクコンバータ2のトルク比tを乗算することにより入力トルクを算出している。なお、入力トルクについては、エンジン1のクランクシャフト1aまたは自動変速機3の入力軸3aにトルクセンサを設け、そのトルクセンサの出力信号に基づいて算出するようにしてもよい。
図5の制御ルーチンが開始されると、まずはステップST101において、自動変速機3の変速要求があり、その変速がパワーオンアップシフトであるか否かを判定する。その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST101の判定結果が肯定判定(YES)である場合はステップST102に進む。
ステップST102では変速開始時であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定(YES)である場合(変速開始時である場合)はステップST103に進む。ステップST102の判定結果が否定判定(NO)である場合については後述する。
ステップST103では変速開始時の目標変速特性値を設定する。その目標変速特性値の設定について以下に説明する。
本実施形態においては、上記運動方程式の式(1)における入力軸加速度dωt/dtの目標値(目標入力軸加速度)を目標変速特性値とする。この目標入力軸加速度は車両状態に応じて設定する。具体的には、例えば、変速開始時の入力トルクおよび車速(出力軸回転速度センサ83の出力信号から算出)に基づいて目標入力軸加速度マップを参照して目標入力軸加速度を設定する。目標入力軸加速度マップは、車両状態を示す入力トルクおよび車速をパラメータとして、それら入力トルクおよび車速に応じて要求される目標入力軸加速度が予め実験またはシミュレーション等によって設定されたマップであって、ECU5のROM52に記憶されている。以下、目標入力軸加速度を目標変速特性値という。
次に、ステップST104では、上記ステップST103で設定された目標変速特性値(変速開始時の入力トルクに応じた目標変速特性値)に基づいて変速進行度に応じた変速制御(パワーオンアップシフト制御)を実行する。その後にリターンする。
一方、上記ステップST102の判定結果が否定判定(NO)である場合は、パワーオンアップシフトの変速中であると判定してステップST105に進む。
ステップST105では、変速中に入力トルクが変速開始時の入力トルクよりも所定値(Tht)以上低下した否かを判定する。具体的には、図6に示す変速開始時t1に対する入力トルクの低下量ΔTiが所定値Tht以上であるか否かを判定する。
ここで、ステップST105の判定に用いる所定値Thtについては、例えば、パワーオンアップシフト中に入力トルクが低下した場合に、上記ショックが発生する入力トルクの低下量(変速開始時に対する入力トルクの低下量)を、予め実験またはシミュレーション等によって求めておき、その結果に基づいて、パワーオンアップシフト中に入力トルクが低下した際にショックが発生しないような入力トルクの低下量(許容値)にマージンを加えた値を所定値Thtとして設定する。
そして、ステップST105の判定結果が否定判定(NO)である場合([変速開始時に対する入力トルクの低下量ΔTi<Tht]である場合)は、目標変速特性値を保持して(ステップST106)、ステップST104に戻る。ステップST104では、保持している目標変速特性値に基づいて変速進行度に応じた変速制御を実行する。その後にリターンする。
一方、ステップST105の判定結果が肯定判定(YES)である場合、つまり変速開始時に対する入力トルクの低下量ΔTiが所定値Tht以上になった場合には、ステップST107に進む。
ステップST107では、目標変速特性値の更新が1回目であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定(YES)である場合(目標変速特性値の更新が1回目である場合)はステップST108に進む。ステップST107の判定結果が否定判定(NO)である場合(目標変速特性値の更新が2回目以上である場合)はステップST110に進む。
ステップST108では、上記ステップST105の判定結果が肯定判定(YES)となった時点、つまり変速開始時に対する入力トルクの低下量ΔTiが所定値Tht以上になった時点(図6のt2時点)を更新時として目標変速特性値を更新する。
このステップST108での目標変速特性値の更新は、更新時(図6のt2時点)の入力トルクに基づいて行う。具体的には、目標変速特性値を、更新時の入力トルク(低入力トルク)で変速が開始された場合に実行される変速制御での目標変速特性値(目標入力軸加速度:ステップST103と同じ処理にて取得)に更新する、という処理にて目標変速特性値を更新する。このようにして、目標変速特性値を更新することにより、フィードバック制御等の補正機能についても、低トルク側で安定した入力トルクの状態で開始された変速制御の場合と同じような制御を実行することが可能になる。
そして、ステップST109では、ステップST108で更新された目標変速特性値に基づいて更新時の変速進行度から変速制御を行う。例えば、変速が50%進行している状況のときに、目標変速特性値を更新する場合には、その変速進行度50%での目標変速特性値(更新後の目標変速特性値)に基づいて、変速進行度が50%になった時点から変速制御を開始する。
次に、ステップST110において、変速中(1回の変速中)に入力トルクが前回の更新時よりも所定値(Tht)以上低下したか否かを判定する(前回の更新時に対する入力トルクの低下量が所定値Tht以上になったか否かを判定する)。このステップST110の判定に用いる所定値Thtは、上記ステップST105での判定に用いる値と同じとする。
ステップST110の判定結果が肯定判定(YES)である場合、つまり1回の変速中に、目標変速特性値の更新を一度行った後に、入力トルクがさらに低下して、その入力トルクが更新時(前回の更新時)よりも所定値(Tht)以上低下した場合([前回更新時に対する入力トルクの低下量≧Tht]となった場合)には、ステップST108に戻って目標変速特性値を再度更新する。具体的には、目標変速特性値を、再度更新時の入力トルク(低入力トルク)で変速が開始された場合に実行される変速制御での目標変速特性値(目標入力軸加速度:ステップST103と同じ処理にて取得)に更新する、という処理にて目標変速特性値を更新する。次に、ステップST109では、ステップST108で再度更新された目標変速特性値に基づいて再度更新時の変速進行度から変速制御を行う。
以上の再度更新処理および変速制御処理(ステップST110およびステップST108〜ステップST109の処理)は、1回の変速中において複数回実行される場合もある。
一方、ステップST110の判定結果が否定判定(NO)である場合([前回更新時に対する入力トルクの低下量<Tht]である場合)は、目標変速特性値を保持して(ステップST111)、ステップST104に戻る。ステップST104では、保持している目標変速特性値に基づいて変速進行度に応じた変速制御を実行する。その後にリターンする。
なお、図5のステップST101〜ステップST111がECU5によって実行されることにより、本発明の「自動変速機の制御装置」が実現される。
<効果>
以上説明したように、本実施形態によれば、パワーオンアップシフト中に、アクセル戻し操作等により入力トルクが所定値以上低下した場合には、その時点の入力トルクに基づいて目標変速特性値を更新し、その更新した目標変速特性値に基づいて更新時の変速進行度から変速制御を行う。このような制御により、パワーオンアップシフト中の入力トルク低下に対して、安定した変速制御を実行することが可能となる。これにより、押し出され感を伴うショックの発生を抑制することができる。
しかも、本実施形態では、自動変速機3の1回の変速中に、目標変速特性値を更新した後、その更新時よりも入力トルクが所定値以上低下した場合には、目標変速特性値を再度更新し、その再度更新した目標変速特性値に基づいて再度更新時の変速進行度から変速制御を行うようにしている。このような制御により、パワーオンアップシフト中における入力トルクの低下量が大きい場合には、1回のパワーオンアップシフト中(変速中)に、目標変速特性値が複数回更新されるので、例えば高車速でのアクセル戻し操作等により、入力トルクの低下量が大きくなる場合であっても、パワーオンアップシフト中において安定した変速制御を継続することができ、ショックを抑制することができる。
−他の実施形態−
なお、今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、以上の実施形態では、パワーオンアップシフト制御に本発明を適用した例を示したが、これに限られることなく、他の変速制御において変速中に入力トルクが低下する場合の制御にも本発明を適用することができる。
以上の実施形態では、前進8速の自動変速機3の制御に本発明を適用した例について説明したが、これに限られることなく、前進7速以下または前進9速以上の自動変速機の制御にも本発明を適用することができる。
以上の実施形態では、車両100がFFである例を示したが、本発明は、これに限られることなく、車両が、FR(フロントエンジン・リアドライブ)であってもよいし、4輪駆動であってもよい。
以上の実施形態では、エンジン1が多気筒ガソリンエンジンである例を示したが、本発明はこれに限られることなく、エンジンがディーゼルエンジンなどであってもよい。
なお、以上の実施形態において、ECU5が複数のECUによって構成されていてもよい。
本発明は、複数の摩擦係合要素を選択的に係合させることにより複数の変速段を成立させる有段式の自動変速機の制御装置に有効に利用することができる。
1 エンジン
2 トルクコンバータ
3 自動変速機
3a 入力軸
C1〜C4 クラッチ(摩擦係合要素)
B1,B2 ブレーキ(摩擦係合要素)
5 ECU
82 入力軸回転速度センサ
83 出力軸回転速度センサ
84 アクセル開度センサ
86 エアフロメータ

Claims (2)

  1. 複数の摩擦係合要素を選択的に係合させることにより複数の変速段を成立させ、入力軸の回転を変速して出力軸に出力する有段式の自動変速機に適用され、変速開始時の前記自動変速機の入力トルクに応じて、目標入力軸加速度または目標変速時間を目標変速特性値として設定し、その設定された目標変速特性値に基づいて変速進行度に応じた変速制御を行い、この変速制御では、目標変速特性値を実現させる制御操作量としての前記自動変速機の要求入力トルク、係合側摩擦係合要素の要求トルク容量、および、解放側摩擦係合要素の要求トルク容量を制御する制御装置であって、
    前記自動変速機の変速中に、入力トルクが変速開始時よりも所定値以上低下した場合に目標変速特性値を更新する特性値更新手段を備え、
    前記特性値更新手段にて更新される目標変速特性値は、更新時の入力トルクで変速が開始された場合に設定される目標変速特性値に更新され、その更新された目標変速特性値に基づいて前記更新時の変速進行度から変速制御を行うように構成されていることを特徴とする自動変速機の制御装置。
  2. 請求項1に記載の自動変速機の制御装置において、
    前記自動変速機の1回の変速中に、目標変速特性値を更新した後、その更新時よりも入力トルクが所定値以上低下した場合には、目標変速特性値が再度更新されて、当該目標変速特性値が、前記再度更新時の入力トルクで変速が開始された場合に設定される目標変速特性値とされ、その再度更新された目標変速特性値に基づいて前記再度更新時の変速進行度から変速制御を行うように構成されていることを特徴とする自動変速機の制御装置。
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