多くの疾患は、疾患の開始及び/または進行に関与して、根底にある炎症性要素を有している。従って、炎症性疾患及び炎症を伴う疾患の範囲は広く、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症(MS)、及び自己免疫性肝炎などの自己免疫疾患;変形性関節症(OA)、アルツハイマー病(AD)、及び黄斑変性症などの変性疾患;ヒト免疫不全ウィルス(human immunodeficiency virus)(HIV)、慢性C型肝炎ウィルス(hepatitis C virus)(HCV)感染症、慢性B型肝炎ウィルス(hepatitis B virus)(HBV)、慢性サイトメガロウィルス(cytomegalovirus)(CMV)感染症、結核(tuberculosis)(TB)感染症、並びに他の慢性ウィルス及び細菌感染症などの慢性感染症;II型糖尿病、代謝症候群、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、及びアルコール性脂肪性肝炎を始めとする代謝性疾患;アテローム性動脈硬化症などの心血管疾患;炎症から生起し炎症を誘導し得るがん;並びに炎症性要素を伴う他の疾患を含む。
更なる炎症性疾患及び炎症を伴う疾患としては、尋常性ざ瘡;集簇性ざ瘡;閃光状アクネ;喘息;セリアック病;慢性前立腺炎;潰瘍性大腸炎;顕微鏡的大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎;クローン病;アトピー性皮膚炎;憩室炎;糸球体腎炎;間質性膀胱炎;B型肝炎及びC型肝炎を始めとする(但し、これらに限定されない)ウィルス性肝炎;間質性膀胱炎;過敏性腸症候群;再灌流傷害、サルコイドーシス;アミロイドーシス;及び心臓、肺、腎臓、膵臓、骨髄、幹細胞、皮膚、角膜、及び膵島細胞移植を始めとする(但し、これらに限定されない)移植拒絶反応が挙げられるが、これらに限定されるものではない。更なる炎症性疾患及び炎症を伴う疾患としては、がん及び前がん状態並びに関連する炎症反応が挙げられる。更なる炎症性疾患及び炎症を伴う疾患としては、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)、C型肝炎ウィルス(HCV)、及びB型肝炎ウィルス(HBV)による慢性感染症;梅毒;リケッチア病;ライム病;細菌性蜂巣炎;慢性真菌感染症;エールリヒア症;HHV−6;単純ヘルペスウィルス1及び2;糞線虫症;エプスタイン・バーウィルス;サイトメガロウィルス;マイコプラズマ感染症;クロイツフェルト・ヤコブ病;オンコセルカ症;ノカルディア;ウィップル病;マイコバクテリア症;白癬感染、及びチクングニア、ロス川ウィルス、または他のアルファウィルスを始めとする(但し、これらに限定されない)アルファウィルスを含む、炎症を伴う感染症が挙げられるが、これに限定されない。更なる炎症性疾患及び炎症を伴う疾患としては、抗リン脂質抗体症候群;橋本甲状腺炎;ドケルヴァン甲状腺炎;グレーブス甲状腺炎;副腎炎;I型糖尿病;下垂体炎、尋常性天疱瘡;水疱性類天疱瘡;イートン・ランバート症候群;重症筋無力症;アジソン病;強直性脊椎炎;円形脱毛症;自己免疫性溶血性貧血;免疫性血小板減少性紫斑病;自己免疫性肝炎;ベーチェット病;心筋症;慢性疲労症候群;慢性炎症性脱髄性多発神経障害;自己免疫性内耳疾患;瘢痕性類天疱瘡;ドゴー病;皮膚筋炎/若年性皮膚筋炎;多発性筋炎;封入体筋炎;ギラン・バレー症候群;メニエール病;混合性結合組織病;悪性貧血血管炎;多発性軟骨炎;多腺性自己免疫症候群;リウマチ性多発筋痛症;原発性胆汁性肝硬変;乾癬、乾癬性関節炎;レイノー現象;ライター症候群;反応性関節炎;リウマチ熱;強皮症;シェーグレン症候群;スティッフマン症候群;高安動脈炎;側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎;結節性多発動脈炎;ブドウ膜炎;白斑;自己免疫ウィルソン病;血液凝固因子に対する自己反応性に起因する出血性疾患;慢性蕁麻疹;並びに多発性血管炎を伴う肉芽腫症、多発性血管炎を伴う好酸球性肉芽腫、顕微鏡的多発性血管炎、ヘノッホ−シェーンライン紫斑病、過敏性血管炎、低補体蕁麻疹様血管炎、及び結節性多発動脈炎を始めとする(但し、これらに限定されない)血管炎が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
一分類において、炎症性疾患は、疼痛、腫大、熱をもつこと、発赤を始めとする目に見える炎症などの臨床症状(異常な臨床マーカー)を示す疾患と見なされる。この分類の炎症性疾患としては、RA、SLE、NAFLD、NASH、MS、代謝症候群、II型糖尿病、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患及びOAが挙げられようが、勿論これらに限定されるものではない。
炎症を伴う疾患は、その根底にある病理において、病巣性の、多病巣性の、または全身性の炎症過程を有しているが、これらは、明らかな臨床上の炎症を伴わない器官及び系の機能障害として現れる。この分類においては、高脂血症及びインスリン抵抗性は炎症を伴う疾患と呼ばれる。高脂血症などの健康状態は、それが潜在的な病理に関連する代謝異常であるため、本明細書において疾患と見なすことができる。同様に、インスリン抵抗性は、それが潜在的な病理に関連する代謝異常であるため、本明細書において疾患と見なすことができる。従って、高脂血症及びインスリン抵抗性は、炎症を伴う疾患と考えることができる。相当な比率の高脂血症、インスリン抵抗性の患者が、本格的なNASH(frank NASH)またはその前段階であるNAFLDの有無に拘わらず、代謝症候群として知られるものを有している。代謝症候群とは、心疾患、糖尿病、または他の健康上の問題を発症する危険性を高める、高血圧症、肥満症、高脂血症、及び(本格的な糖尿病(frank diabetes)または高空腹時血糖値若しくは耐糖能障害として発症する)インスリン抵抗性を始めとする一群の因子をいう(Grundyら、Circulation 2004、109:433〜438)。代謝症候群は、当該症候群の結果として、並びにその開始、進行、及び最終的な発病機序に対する要因としての両方で、炎症に関連している(Romeo GRら、Arterioscler Thromb Vasc Biol 2012 32(8):1771〜6;de Luca Cら、FEBS Lett 2008 582(1):97〜105; Ma Kら、Diabetes Metab Res Rev 2012 28(5):388〜94)。このことは、部分的には、肥満脂肪組織におけるマクロファージの蓄積に起因し、該肥満脂肪組織においては、飽和脂肪酸及び循環リポ多糖(lipopolysaccharide)(LPS)による刺激に応答して、マクロファージがTNF及び他の炎症性サイトカインを産生する(Johnsonら、Cell 2013 152(4):673〜84;Bhargava Pら、Biochem J. 2012 442(2):253〜62)。更に、TNF阻害は、インスリン抵抗性を抑制し得る(Johnsonら、Cell 2013 152(4):673〜84)。しかしながら、長期的なTNF阻害の危険性が大きく、また注射療法を必要とする。脂肪マクロファージの活性化及びサイトカイン産生を寛解させるための安全で有効な薬剤を特定することは有益なこととなろう。多くの抗炎症剤及び免疫抑制剤は、それ自体が有害な代謝上の危険性(すなわち、高血圧、インスリン抵抗性、高脂血症、及び/または肝脂肪症)を伴うため、かかる薬剤が代謝プロファイルに有利な効果を有する場合には、これは非常に有利となろう。
炎症性疾患のための様々な治療薬が存在し、例としては、イブプロフェン、ナプロシン及びアスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(non−steroidal anti−inflammatory drug)(NSAID);プレドニゾン及びメチルプレドニゾロンなどのステロイド;メトトレキサート、スルファサラジン、イムラン、シクロホスファミドを始めとする免疫細胞の増殖を阻害する低分子薬;イマチニブ、トファシチニブ、及びその他を始めとする低分子キナーゼ阻害薬;TNFを標的とする(アダリムマブ、インフリキシマブ等)、IL−6を標的とする(IL−6受容体を標的とするトシリズマブ)、IL−1を標的とする(カナキヌマブ)、IL−17を標的とする(セクキヌマブ)、IL−12p40を標的とする(ウステキヌマブ)、及びその他を標的とする抗体治療薬;CTLA4−Ig、エタネルセプト、及びIL−1受容体アンタゴニスト(アナキンラ)を始めとする非抗体生物学的治療薬が挙げられる。これらの薬剤は、異なる炎症性疾患に対して特異的な治療活性を示すことが周知である。例えば、抗TNF抗体は、関節リウマチ(RA)、乾癬及び強直性脊椎炎を効果的に治療するが、全身性エリテマトーデス(SLE)及び血管炎の治療においては有効でなく、多発性硬化症を悪化させ、慢性C型肝炎ウィルス感染症を有するRA及び乾癬の患者での使用には適するが、B型肝炎ウィルスの複製及び感染症の悪化を誘発するそれらの性質に起因して、慢性B型肝炎ウィルス感染症を有する患者には禁忌である。その一方、ウステキヌマブは乾癬を効果的に治療するが、関節リウマチまたは多発性硬化症においては恩恵がもたらされない。一方、メトトレキサートは関節リウマチ及び乾癬において効能を示すが、SLEまたはクローン病を治療しない。結果として、いずれの炎症性疾患または炎症を伴う疾患に対して、特定の抗炎症薬が恩恵をもたらすこととなるかを予測することは不可能である。抗炎症薬の臨床的有効性は適応症によって大きく異なるのみならず、特定の抗炎症薬は当該疾患の他の症状を悪化させ得る。従って、当該の特定の炎症性疾患に対する、安全、適切、且つ有効な治療として抗炎症候補薬を設定するためには、それぞれの抗炎症候補薬は、実験的に試用され、特定の炎症性疾患の治療に対する効能を提供することが実証されなければならない。
関節リウマチ(RA)は、通常、末梢関節の対称的な炎症を特徴とし、一般的な症状の有無に拘わらず、潜在的に関節及び関節周囲の構造の進行性の破壊をもたらす慢性症候群である(Firestein(2003) Nature 423(6937):356〜61;McInnes及びSchett(2011) N Engl J Med 365(23):2205〜19)。原因は不明である。遺伝的素因が特定されており、いくつかの集団において、クラスII組織適合性遺伝子のHLA−DR β1遺伝子座におけるペンタペプチドに局在化している。環境要因もまた関与し得る。例えば、喫煙は、「共有エピトープ」多型を含むHLA−DR4を有する個体のRA発症の危険性を約10〜20倍増加させる。喫煙は、抗シトルリン化タンパク質抗体(anti−citrullinated protein antibody)(ACPA)応答を誘導すると考えられ、該応答は市販の環状シトルリン化ペプチド(cyclic−citrullinated peptide)(CCP)アッセイを用いて測定される(Klareskogら(2006) Arthritis Rheum 54(1):38〜46)。更に、歯周炎及びポルフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis)による感染症もまた、RAの発症につながる自己免疫反応の開始に関与する可能性がある(Rutger及びPersson 2012、J Oral Microbiol 4)。免疫学的変化は多数の因子によって開始され得る。全ての人口の約0.6%が罹患し、女性は男性よりも2〜3倍より高い頻度で罹患する。発症は如何なる年齢であっても起こり得るが、最も頻度が高いのは25歳と50歳との間である。
病原性に重要である可能性がある主だった免疫学的異常としては、関節液細胞及び血管炎において見られる抗体及び免疫複合体が挙げられる。形質細胞がこれらの複合体に関与する抗体を産生する。滑膜組織に浸潤するリンパ球は主としてTヘルパー細胞であり、Tヘルパー細胞は炎症誘発性サイトカインを産生し得る。マクロファージ及びそのサイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)もまた、罹患滑膜において多数存在する。接着分子の増加が、滑膜組織における炎症細胞の遊出及び保持に関与する。初期疾患におけるいくつかのリンパ球及び血管の変化に伴って、マクロファージ由来の表層細胞の増加が顕著である。
慢性的に罹患した関節においては、滑膜表層細胞の数及び大きさの増加並びにリンパ球及び形質細胞によるコロニー形成のために、通常は繊細な滑膜が多数の絨毛様ヒダを成長させ肥厚する。上記表層細胞は、軟骨の破壊に関与し得るコラゲナーゼ及びストロメライシン、リンパ球増殖を刺激するインターロイキン−1、及びプロスタグランジンを始めとする様々な物質を産生する。浸潤した細胞は、初めは細静脈周囲の、後に胚中心と共にリンパ濾胞を形成し、インターロイキン−2、他のサイトカイン、RF、及びその他の免疫グロブリンを合成する。フィブリン沈着、線維症、及び壊死も存在する。過形成滑膜組織(パンヌス)は、軟骨、軟骨下骨、関節包、及び靭帯を侵食することがある。PMNは滑膜においては顕著ではないが、多くの場合、関節液中で大勢を占める。
通常発症は、進行性の関節の障害を伴い潜行性であるが、複数の関節における同時の炎症を伴い突然の場合もある。炎症を起こしたほぼ全ての関節における圧痛が、最も感知可能な身体的所見である。滑膜肥厚は最も特異的な身体的所見であり、最終的には罹患した殆どの関節で発生する。手の小さな関節(特に近位指節間関節及び中手指節関節)、足関節(中足指節)、手首、肘、足首の対称的な障害が一般的であるが、初期症状は如何なる関節でも発生し得る。RAは、RA患者の関節縁及び軟骨下骨における骨の分解及び再構築による限局性骨びらんの発症を特徴とする。一部のRAの顕著な特徴は、リウマチ因子(rheumatoid factors)(RF)及び抗シトルリン化タンパク質抗体(ACPA)を始めとする自己抗体の発生である。ヒトγ−グロブリンに対する抗体であるRFは、RA患者の約70%に存在する。しかしながら、RFは、全身エリテマトーデスなどの他の膠原病、肉芽腫性疾患、ウィルス性肝炎、亜急性細菌性心内膜炎、及び結核などの慢性感染症、並びにがんを始めとする他の疾患の患者に、多くの場合低力価で発生する。RFの低い力価は、少ない割合の一般集団においても発生し、高齢者においてより一般的に発生する。疾患の別な指標は、臨床的な抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体試験を用いて測定されるACPAの存在である。抗CCP抗体は、RAの診断に対してほぼ60%の感度及び95%の特異度であり、RFと同様に、より悪い予後を予測する。
全身性エリテマトーデス(SLE)は、頬の発疹、口腔潰瘍、光過敏症、漿膜炎、発作、低白血球数、低血小板数、発作、抗核抗体(anti−nuclear antibody)(ANA)検査陽性、及び陽性の他の自己抗体を特徴とする全身性自己免疫疾患である。SLEは、ポリクローナルB細胞の活性化を特徴とする自己免疫疾患であり、ポリクローナルB細胞の活性化は、組織の損傷に関与する免疫複合体及び炎症をもたらす多様な抗タンパク質及び非タンパク質自己抗体をもたらす(当該疾患の総説としては、例えば、Kotzinら、1996、Cell 85:303〜06を参照されたい。)。SLEは、悪化と寛解を特徴とする様々な経過があり、研究することが困難である。例えば、一部の患者は、主として皮膚の発疹及び関節痛を示し、自然寛解を示し、殆ど投薬を必要としない場合がある。その対極として、高用量のステロイド及びシクロホスファミドなどの細胞毒性薬による療法を必要とする、重度かつ進行性の腎障害(糸球体腎炎及び脳炎)を示す患者が含まれる。ヒドロキシクロロキンは、SLEの進行を遅らせ、SLEの管理のための主力治療薬である。
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の脱髄を特徴とする衰弱性、炎症性の神経学的疾患である。該疾患は主として若年成人が罹患し、女性の発生率が高い。該疾患の症状としては、疲労、しびれ、振戦、ヒリヒリ感、感覚異常、視覚障害、めまい、認知障害、泌尿器機能障害、運動性減退、及び抑うつが挙げられる。当該疾患の臨床上の様式が4の類型に分類される。すなわち、再発−寛解型、二次性進行型、一次性進行型及び進行−再発型である((S.L.Hauser及びD.E.Goodkin、ハリソンの内科の原理、第14版中の「多発性硬化症及び他の脱髄疾患」(Multiple Sclerosis and Other Demyelinating Diseases in Harrison’s Principles of Internal Medicine 14th Edition)、第2巻、Mc Graw−Hill、1998、2409〜19ページ)。
炎症性腸疾患としてはクローン病及び潰瘍性大腸炎が挙げられ、腸の自己免疫攻撃を伴う。これらの疾患は、慢性の下痢、頻繁な出血、並びに結腸機能不全の症状を引き起こす。
全身性硬化症(Systemic sclerosis)(SSc、または強皮症)は、皮膚及び内臓の線維症並びに広範囲の血管障害を特徴とする自己免疫疾患である。SScの患者は、皮膚硬化症の程度に応じて分類される。すなわち、限定的なSScの患者は顔、首、及び遠位四肢の皮膚の肥厚を有する一方、びまん性SScの患者は、体幹、腹部、及び近位四肢にも障害を有する。内部器官の障害は、限定的な疾患よりも、びまん性の患者における疾患の過程の初期において起こる傾向にある(Laingら(1997) Arthritis Rheum 40:734〜42)。重篤な内部器官の障害を発症するびまん性SScの患者の大多数は、診断後最初の3年以内に該障害を発症すると同時に、皮膚が次第に線維症になっていく(Steen及びMedsger(2000) Arthritis Rheum 43:2437〜44)。かなりの罹患率及び死亡率の原因となるびまん性SScの共通な症状としては、間質性肺疾患(interstitial lung disease)(ILD)、レイノー現象及び指の潰瘍、肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension)(PAH)(Tradら(2006) Arthritis Rheum 54:184〜91)、筋骨格症状、並びに心臓及び腎臓の障害が挙げられる(Ostojic及びDamjanov(2006) Clin Rheumatol 25:453〜7)。現在の療法は特定の症状の治療に焦点を当てているが、根本的な病因を標的とする疾患修飾薬はない。
自己免疫性肝炎は、体の免疫系が肝細胞を攻撃する疾患である。この免疫反応は、肝炎とも呼ばれる肝臓の炎症を引き起こす。研究者らは、遺伝的因子によって、一部の人が自己免疫疾患に対してより敏感になり得ると考えている。自己免疫性肝炎を有する人の約70%が女性である。該疾患は通常非常に重篤であり、治療しなければ時間の経過とともに悪化する。自己免疫性肝炎は一般的に慢性であり、これは該疾患が何年も継続し得ること、及び肝臓の硬変、すなわち瘢痕化及び硬化に繋がり得ることを意味する。最終的には肝不全に至る可能性がある。
自己免疫性肝炎の4種の亜型が認知されているが、亜型を区別することの臨床上の有用性は限定的である。(1)ANA及びSMA陽性、免疫グロブリンGの上昇(古典的な形態、低用量ステロイドに良好に応答)、(2)LKM−1陽性(一般的に女性の子供及びティーンエイジャー、疾患は重篤な場合あり)、LKM−2陽性またはLKM−3陽性、(3)可溶性肝臓抗原に対する抗体陽性(当該群は第1群と同様の挙動)(抗SLA、抗LP)、及び(4)自己抗体の非検出(約20%)(妥当性/重要性について議論の余地あり)(Krawittら 自己免疫性肝炎(Autoimmune hepatitis)New England Journal of Medicine、1996 334(14):897〜903)。
多くの変性疾患は根底にある炎症性要素を有しており、かかる変性疾患の例としては、変形性関節症(OA)、アルツハイマー病(AD)、及び黄斑変性症が挙げられる。
米国では約2700万人が変形性関節症(OA)に罹患し、これは一次医療の医師を訪れる人の25%、全NSAID処方薬の半分を占める。関節リウマチ(RA)は、世界の人口の約0.6%が罹患する自己免疫性滑膜炎である。OAは、骨の肥大(骨棘形成)を含み得る骨の再構築、軟骨下硬化症、及び軟骨下嚢胞の形成を始めとする他の関節の変化と共に、関節軟骨の破壊及び潜在的な減損を特徴とする慢性関節症である。OAは、滑膜関節の障害と見なされる(Abramsonら、Arthritis Res Ther 2009、11(3):227;Krasnokutskyら、Osteoarthritis Cartilage 2008、16 補遺3:S1〜3;Brandtら、Rheum Dis Clin North Am 2008年8月、34(3):531〜59)。OAによって、関節軟骨及び軟骨下骨を含む関節が劣化し、機械的な異常をきたし、関節機能が損なわれる。症状としては、関節痛、圧痛、こわばり、時には滲出、及び関節機能障害を挙げることができる。様々な原因が軟骨の減損に繋がる過程を開始し得る。
OAは、関節への外傷に由来する関節の損傷;半月板、関節軟骨、関節靱帯、または別な関節構造体への機械的損傷;軟骨基質成分の欠損などから始まる場合がある。多くの個体において、関節への機械的ストレスがOA発症の根本をなす可能性があり、先天性または病原性の原因によって引き起こされる骨のミスアラインメント;機械的損傷;太り過ぎ;関節を支える筋肉の強度の減損;及び関節に過大なストレスを与える突然のまたは共調運動不全の動きに繋がる末梢神経の障害を始めとする多種多様な機械的ストレス源がある。
関節軟骨は、細胞外基質を生成し、それに囲まれる軟骨細胞を含む。滑膜関節においては、関節腔を満たす透明なアルカリ性の粘着性流体である滑液を分泌する滑膜に囲まれる少なくとも2つの可動な骨の表面、及び上記接合する骨の表面の間に介在する関節軟骨がある。変形性関節症における最も初期の肉眼的な病理学的所見は、関節面の常に負荷がかかる領域における関節軟骨の軟化である。この関節軟骨の軟化すなわち膨潤は、多くの場合軟骨基質からのプロテオグリカンの減損を伴う。変形性関節症の進行に伴い、軟骨表面の健常性が失われ、細線維化と呼ばれる過程において軟骨の深さ方向に延びる垂直な裂溝を伴って、関節軟骨が菲薄化する。関節の動きによって、細線維化した軟骨の断片が脱落し、下の骨(軟骨下骨)を露出させる場合がある。軟骨下硬化症の発症、軟骨下嚢胞の発症、及び骨棘と呼ばれる異所性骨の形成を含むOAにおいては、軟骨下骨は再構築される。滑液で満たされる場合がある軟骨下嚢胞も発症する。関節縁において骨棘(骨増殖体)が形成される。軟骨下骨の再構築は、関節軟骨上層及び軟骨下骨の両方に対して機械的ひずみ及び応力を増大させ、軟骨及び軟骨下骨の両方の更なる損傷に繋がる。
組織の損傷は、修復を試みるように軟骨細胞を刺激し、これによりプロテオグリカン及びコラーゲンの産生を増加させる。しかし、修復の努力は、軟骨を分解する酵素、並びに、通常は少量存在している炎症性サイトカインをも刺激する。炎症性メディエータは、更に軟骨細胞及び滑膜表層細胞を刺激する炎症サイクルをトリガーし、最終的に軟骨を破壊する。軟骨細胞はプログラム細胞死(アポトーシス)を起こす。
OAは、主にマクロファージを含み、B細胞及びT細胞も含む炎症細胞の軽度の浸潤を病理学的な特徴とする。これらの細胞、繰り返しになるが主としてマクロファージは、OA関節において炎症性サイトカイン及びMMPを産生し得る。しかし、IL−1及びTNFを始めとする炎症性サイトカインによって刺激された場合、滑膜線維芽細胞及び軟骨胞及を始めとする関節内の一次細胞は、IL−6並びに複数のMMPを始めとする更なるサイトカインを産生し得る。
通常は1ヶ所または2、3ヶ所の関節に始まり、緩やかに症状及び徴候が発現する患者、特に高齢者においては、OAを疑う必要がある。時に深い疼きとして表現される疼痛は、最も初期の症状である可能性がある。疼痛は通常、荷重負荷によって悪化し休息により和らぐが、最終的には不断となり得る。目覚めまたは活動をしない後にこわばりが起こる。OAが疑われる場合には、最も症候性である関節の通常のX線写真を撮る必要がある。X線検査は、一般的に、限界骨棘、関節腔の狭小化、軟骨下骨の密度増加、軟骨下嚢胞形成、骨の再構築、及び関節滲出液(これらは異常な画像診断マーカーと見なされる。)を明らかにする。関節腔の狭小化の検出においては、立位での膝のX線検査がより鋭敏である。磁気共鳴画像診断(MRI)を用いて軟骨の変性を検知することができ、いくつかのMRIに基づく採点システムが、OAの重篤度を特徴付けるために開発されている(Hunterら、PM R 2012年5月、4(5補遺):S68〜74)。
OAは、理論的には体内の全ての関節が罹患する可能性があるが、一般的には、手、足、脊椎、並びに股関節及び膝などの大きな荷重負荷を受ける関節が罹患する。OAが進行すると、罹患した関節は外観がより大きくなり、こわばり及び疼痛があり、通常は穏やかに使用していると具合がよいが、過度にまたは長期に使用すると悪化する。治療は一般的に、運動、生活習慣の変更、及び鎮痛薬の組み合わせを含む。疼痛が衰弱を招くようになった場合には、関節交換術を用いて生活の質を改善し得る。
ドキシサイクリン(おそらくMMP阻害因子におけるその作用による)、ビスフォスフォネート(おそらく破骨細胞の活性化を阻害することを目的とする)及びリコフェロン(シクロオキシゲナーゼ及びリポキシゲナーゼ経路を阻害することによる)などの、疾患修飾のために提供することが提案されている薬剤の中では、いずれもが、軟骨破壊の減速によって定義される確実な軟骨保護を実証していない。OAに伴う疼痛の制御において部分的な効能を実証している薬剤の中で、アセトアミノフェンなどの鎮痛剤、並びに非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、アヘン剤、関節内コルチコステロイド、及びヒアルロン酸誘導体を始めとする抗炎症剤は、関節内に注入される。これらの薬剤は、軟骨の減損を防ぐこと、または関節機能の減損を減速させることは実証されていない。
OAにおいて見られる遅い進行を考慮すると、長期間薬剤を摂取する必要があることから、高い段階の安全性が必要とされる。従って、疾患修飾機能活性及び長期の治療継続期間を可能にする安全性プロファイルを提供する療法の選択肢が必要である。
OAのマウスモデルとしては、内側半月板の不安定化(destabilization of the medial meniscus)(DMM)または内側半月板除去(medial meniscectomy)(MM)によるOAの誘導が挙げられる。MMモデルにおいて、内側半月板切除後の一連の時点で、膝(ひざ)関節の関節軟骨の組織学的分析が行われる。外科的誘導のほぼ2〜6ヶ月後にマウスを屠殺し、組織学的切片を、トルイジンブルー、サフラニン−O、並びに/またはヘマトキシリン及びエオシン(hematoxylin and eosin)(H&E)で染色し、軟骨の減損の程度(または軟骨変性の程度、すなわち「OAスコア」)、並びに骨棘形成の程度、及び滑膜の炎症(滑膜炎という。)の程度を測定する。
アルツハイマー病(AD)は、人口の中で最も一般的な神経変性疾患である(Cummingsら、Neurology 51、S2〜17、考察 S65〜7、1998)。ADは65歳を超える人のほぼ10%、85歳を超える人のほぼ50%が罹患する。2025年までに、約2200万人がADに罹患すると推定されている。ADは緩慢な進行性の認知症を特徴とする。認知症、神経原線維変化、及び老人斑の3要素が死後に見出された場合には、ADの確定診断がなされる。老人斑はアルツハイマー病患者の脳に常に見られる。老人斑の主な構成成分はアミロイドβタンパク質(Aβ)である(岩坪ら、Neuron 13:45〜53、1994)(Lippaら、Lancet 352:1117〜1118、1998)。Aβは、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein)(APP)に由来する42アミノ酸ペプチドであり、APPは、細胞増殖、接着、細胞シグナル伝達、及び神経突起伸長を始めとする様々な生理学的役割を有する膜貫通糖タンパク質である(Sinhaら、Ann N Y Acad Sci 920:206〜8、2000)。APPは通常、Aβドメイン内で開裂し、分泌フラグメントを生成する。しかし、これに代わる過程において、APPが開裂して可溶性Aβを生成し、該可溶性Aβが老人斑中に蓄積し得る。現在利用可能な薬剤は、脳内のシナプス後アセチルコリンの濃度を増加させることを目的とした中枢性コリンエステラーゼ阻害因子である(Farlow及びEvans、Neurology 51、S36〜44、考察 S65〜7、1998;Hake、Cleve Clin J Med 68、608〜9:613〜4、616、2001)。これらの薬剤は、僅かに2、3の認知パラメータにおいてのみ、僅かな臨床的有用性を提供するに過ぎない。
黄斑変性は、網膜血管新生及び血管漏出に関係した含水型のものだけでなく、より一般的な、加齢黄斑変性症(age−related macular degeneration)(AMD)としても知られる乾性型のものの場合もある。AMDは、中心視力の低下、霧視、及び最終的には失明を伴う慢性疾患である。AMDに関する原因及び危険性要因は多因子的であるが、補体活性化を伴う自然免疫の活性化並びにマクロファージ及びミクログリアによるサイトカイン産生が、AMDの発症に関与している。コルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症剤、メトトレキサート、ラパマイシン、並びにTNF阻害因子及び補体阻害因子を始めとする生物学的薬剤を含む抗炎症療法は、AMDの進行を遅らせることが示唆されている(Wangら、2011 Eye(2011)25、127〜139)。しかし、これらの治療は治癒的ではなく、またAMDが慢性且つ非致死的疾患であるため、これらの使用は毒性の危険性によって制限を受ける。
HIVウィルスは、治療しない場合にはほぼ一様に致命的な疾患であるAIDSの原因である。しかし、高活性抗レトロウィルス療法(highly active antiretroviral therapy)(HAART)の出現は、HIVを致命的な疾患から慢性疾病へと変えている。HIVを有する個体の寿命の長期化に伴って、ウィルスの抑制、更には末梢CD4T細胞数によって測定される免疫再構築にも拘わらず、代謝撹乱及び高い心血管の危険性に主として起因して、高い罹患率と死亡率が依然として存在することが指摘されている。この免疫活性化の正確な原因は判明していないが、低水準のHIVウィルスの複製及びエンドソームTLR7受容体の活性化、並びにCD8T細胞応答の活性化の継続が関与している。更に、腸粘膜の免疫細胞に対する不可逆的な損傷が、細菌の増加やエンドトキシンの移行、及びそれによる全身性炎症を招く(Deeks 2011 Annu Rev Med、62:141〜55)。予想されるように、HAART療法の成功にも拘わらず、TNF、IL−6を始めとするサイトカインのレベル、並びにCRPなどの他の炎症マーカー、並びにDダイマーなどの凝固マーカーのレベルも顕著に上昇している(Deeks 2011 Annu Rev Med 62:141〜55)。
他の慢性感染症もまた、持続性の炎症を引き起し得る。かかる感染症としては、慢性B型肝炎ウィルス感染症、慢性C型肝炎ウィルス感染症、サイトメガロウィルス(CMV)感染症、単純ヘルペスウィルス(herpes simplex virus)(HSV)感染症、エプスタイン・バーウィルス(Epstein Barr virus)(EBV)感染症、慢性シュードモナス感染症、慢性ブドウ球菌感染症、及び他の慢性のウィルス、細菌、真菌、寄生虫、及びその他の感染症が挙げられる。
非アルコール性脂肪性肝疾患(non−alcoholic fatty liver disease)(NAFLD)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は肝臓の脂肪浸潤を伴う疾病である。NAFLDは脂肪肝の原因の一つであり、過剰なアルコール摂取に起因せずに脂肪が肝臓に蓄積する場合(脂肪症)に起こる(Clark JMら、J.American Medical Association 289(22):3000〜4、2003)。NAFLDは、インスリン抵抗性及び代謝症候群に関係する可能性があり、減量、メトホルミン及びチアゾリジンジオンなどの、元来他のインスリン抵抗性状態(例えば2型糖尿病)のために開発された治療に対して反応を示す場合がある。
NAFLDは疾患活動性の範囲を含むと見なされる。この範囲は肝臓への脂肪の蓄積(脂肪肝)として始まる。肝臓は、肝機能を阻害することなく脂肪過多の状態を維持することができるが、機序が変化すること及び考えられる肝臓の損傷によって、進行して、脂肪症が炎症及び線維症と組み合わされた状態であるNASHとなり得る。NASHは進行性の疾患であり、10年間で、NASH患者の最大20%が肝硬変を発症し、10%が肝疾患に関連して死に至ることとなる。NASHはNAFLDの最も極端な形態であり、原因不明の肝硬変の主な原因と見なされている(McCulough AJら、Clinics in Liver Disease 8(3):521〜33、2004)。
NAFLD及びNASHにおける共通の所見は、肝酵素の上昇及び脂肪症を示す肝臓超音波検査である。超音波検査はまた、胆石の問題(胆石症)を排除するために用いることもできる。肝生検(組織検査)が、NASHを他の肝疾患形態から確定的に区別するものとして広く認知されている唯一の検査であり、炎症及びその結果として生じる線維症の重篤度を診断するために用いることができる(Adams LAら、Postgrad Med J 82(967):315〜22、2006)。肝線維症を推定するフィブロテスト(FibroTest)、及び脂肪症を推定するステアトテスト(SteatoTest)などの非侵襲的な診断検査が開発されているが、それらの使用は広く採用されてはいない(McCulough AJら、Clinics in Liver Disease 8(3):521〜33、2004)。
脂肪浸潤単独では肝臓の損傷を引き起こさないが、それが炎症反応を伴うと、線維症及び肝硬変、並びに最終的には肝不全に繋がる可能性がある。NASHにおける炎症は、マクロファージ及びリンパ球による肝臓への浸潤、並びに肝臓のマクロファージ様クッパー細胞数の変化を特徴とする(Tilgら、2010 Hepatology 52(5):1836〜46)。炎症性サイトカイン、特にTNFは、NASHの病理の中心をなす。TNFの出所は不明確であり、末梢性、すなわち炎症性脂肪組織、または局所性、すなわち門脈由来のエンドトキシンにより、または遊離脂肪酸により活性化された自然免疫細胞である可能性がある。エンドトキシン応答性TLR4受容体は、NASHのマウスモデルにおいて、疾患にとって重要であることが示されている(九十九ら、Diabetes 2007 56(8):1986〜98)。
NAFLD及びNASHの治療が多数研究されている。治療手法としては、(i)栄養摂取及び過剰な体重の治療、(ii)減量、(iii)減量手術、(iv)メトホルミン及びチアゾリジンジオンを始めとするインスリン増感剤、(v)ビタミンEが一部の症状を改善することができる、(vi)スタチンがNAFLD患者における肝臓の生化学及び組織学を改善することが示されている(McCulough AJら、前出;Chalasani N.ら、Gastroenterology 142(7):1592〜1609、2012)。
II型糖尿病及び代謝症候群。II型糖尿病はインスリン抵抗性及び高血糖症を特徴とし、次第に網膜症、腎症、神経障害、または他の病態を引き起こす可能性がある。更に、糖尿病は、アテローム硬化性心臓血管疾患の周知の危険因子である。代謝症候群は、高血圧症、肥満症、高脂血症、及びインスリン抵抗性(本格的な糖尿病または高空腹時血糖値または耐糖能障害として発現)を始めとする一群の因子を指し、これらの因子は心疾患、糖尿病または他の健康問題を発症する危険性を高める(Grundyら、Circulation 2004、109:433〜438)。正常な代謝状態から、空腹時血糖値異常(impaired fasting glucose)(IFG:100mg/dLを超える空腹時血糖値)の状態へ、または耐糖能障害(impaired glucose tolerance)(IGT:140〜199mg/dLの75グラムの経口でのグルコース負荷後2時間の血糖値)の状態への進行について、詳細が明らかになっている。IFG及びIGTが共に前糖尿病状態と見なされ、50%を超えるIFGを有する被験者が、平均で3年以内に本格的なII型糖尿病へと進行する(Nichols、Diabetes Care 2007 (2):228〜233)。インスリン抵抗性は、少なくとも部分的に、慢性の軽度の炎症によって引き起こされる(Romeo GRら、Arterioscler Thromb Vasc Biol 2012 32(8):1771〜6;de Luca Cら、FEBS Lett 2008 582(1):97〜105;Ma Kら、Diabetes Metab Res Rev 2012 28(5):388〜94)。マクロファージは肥満脂肪組織に蓄積し、そこではマクロファージが飽和脂肪酸及び循環リポ多糖(LPS)による刺激に応答して、TNF及び他の炎症性サイトカインを産生する(Johnsonら、Cell 2013 152(4):673〜84;Bhargava Pら、Biochem J 2012 442(2):253〜62)。更に、TNF阻害はインスリン抵抗性を抑制することができる(Johnsonら、Cell 2013 152(4):673〜84)。
高脂血症は、潜在的な病理に関連する代謝異常であるため、本明細書において疾患と考える。高脂血症は、いずれかまたは全ての血液中の脂質及び/またはリポタンパク質の異常に高いレベルを伴う。脂質の用語はコレステロール及びトリグリセリドを包含する。多くの異なる種類の脂質(リポタンパク質とも呼ばれる)がある。血液検査でリポタンパク質のレベルを測定することができる。標準の脂質血液検査は、総コレステロール、LDL(低密度リポタンパク質(low density lipoprotein))及びHDL(高密度リポタンパク質)及びトリグリセリドの測定を含む。
総コレステロールレベル − 高い総コレステロールレベルは、個体の心血管疾患の危険性を高める可能性がある。但し、いつ高コレステロールを治療するかについての決定は、通常、総コレステロールレベルではなくLDLまたはHDLコレステロールレベルに基づく。200mg/dL(5.17mmol/L)未満の総コレステロールレベルは正常である。200〜239mg/dL(5.17〜6.18mmol/L)の総コレステロールレベルは境界域の高さである。240mg/dL(6.21mmol/L)以上の総コレステロールレベルは高い。総コレステロールレベルは1日の任意の時間に測定することができる。検査前に絶食する(12時間食べることを避ける)必要はない。
LDL − 低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール(ときに「悪玉コレステロール」と呼ばれる。)は、総コレステロールよりも心血管疾患のより正確な予測因子である。高いLDLコレステロールレベルは心血管疾患の危険性を高める。
殆どの医療提供者は、12〜14時間食事を抜いた(絶食)後にLDLコレステロールを測定することを選ぶ。結果が若干異なる場合があるが、絶食していない人でLDLを測定する検査も利用可能である。高いLDLコレステロールは心臓発作及び脳卒中の高い危険性を伴う。一般的に、LDLレベルは以下の分類に入る。すなわち、100mg/dL未満 最適、100〜129mg/dL 最適近くまたはこれを超える、130〜159mg/dL 境界域の高さ、160〜189mg/dL 高い、190mg/dL以上 非常に高い、である。
フラミンガムリスクスコア(Framingham Risk Score)は、個体の心血管事象、心筋梗塞、卒中、心不全、及びその他の事象の危険性を含む、10年間の心血管の危険性を予測するために用いられる、性別特異性のアルゴリズムであり、かかる心血管疾患は、炎症性疾患及び/または炎症を伴う疾患を表わす。フラミンガムリスクスコアは、最初、フラミンガム心臓研究から得られたデータに基づいて、10年間の冠動脈性心臓疾患発症を予測するために開発された(Wilsonら、危険因子の分類を用いた冠動脈性心臓疾患の予測(Prediction of coronary heart disease using risk factor categories) 1998 Circulation 97(18):1837〜1847;D’Agostinoら、一次医療で用いるための一般的な心血管危険性プロファイル:フラミンガム心臓研究2008(General cardiovascular risk profile for use in primary care:the Framingham Heart Study 2008) Circulation 117(6):743〜753)。フラミンガムリスクスコアは、性別及び年齢、総コレステロールレベル、喫煙歴、HCLコレステロールレベル、収縮期血圧を組み込んだ性別固有の計算式に基づく。
アテローム性動脈硬化症及びアテローム性動脈硬化性心血管疾患は動脈壁の疾患である。これらの疾患は動脈壁における脂肪性物質の蓄積を特徴とし、脂肪性プラークの発生を招き、該脂肪性プラークは破裂し、血管の閉塞及び虚血を引き起こす場合がある。かかる血管閉塞及び虚血が冠動脈内で発生した場合、心筋梗塞に繋がり得る。アテローム性動脈硬化症は、マクロファージ及びより少ない程度のT及びB細胞を始めとする炎症細胞の蓄積、並びに炎症性サイトカイン、ケモカイン、及びMMPの高レベルの産生
を特徴とする高度に炎症性の環境を含む(Libbyら、Nature 2011 473(7347):3170〜25)。アテローム性動脈硬化症はまた、一部は薬剤ロスバスタチンを用いた治療によって対抗することができる異常である、高レベルの血液中の高感度CRP(high−sensitivity CRP)(hsCRP)によって裏付けられる軽度の全身性炎症を伴う場合がある(Libbyら、Nature 2011 473(7347):3170〜25)。
ヒドロキシクロロキン(HCQ)は炎症性疾患を治療するために用いられる強力な抗炎症剤であり得る。しかし、かかる療法におけるHCQの使用は、網膜毒性の大きな危険性により制限される。従って、特に網膜毒性の危険性が高い人に対しては、注意深い眼科上の監視を用量の低減と組み合わせること、あるいはHCQの回避さえもが推奨される。網膜毒性の危険性が高い個体としては、5年間よりも長期間HCQを摂取した人、高い体脂肪量、付随する腎臓若しくは肝臓疾患または付随する網膜疾患などの他の危険因子を有する人、年齢が60を超える人、あるいは背丈及び/または体重が特に小さい人が挙げられる。付随する網膜疾患を有する患者、または付随する網膜疾患の発症の大きな危険性がある患者の集団としては、急速に増加しているII型糖尿病及び関連する代謝症候群を有する患者の集団が挙げられる。米国の殆どの地域において、現在、糖尿病の有病率は10%を超え、他の先進国でも同様の水準に近付いており、これにより、人口のかなりの割合において、HCQ媒介性の網膜毒性の危険性が高まることとなる。とりわけ、関節リウマチ及び全身性エリテマトーデスを始めとする、現在HCQが適応である炎症性疾患の患者の間で、II型糖尿病の割合が更に増加している(Dubreil H、Rheumatology(2014)53(2):346〜352)。以前はHCQで治療することがなかった(または治療することを示唆されることもなかった)他の炎症性疾病としては、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)がある。NASHは肝臓の脂肪浸潤を伴い、最も一般的にII型糖尿病及び関連する代謝症候群の並存を伴う炎症性疾病である。実際に、II型糖尿病患者の86%がNASHを有し、NASH患者のほぼ同じ割合がII型糖尿病を有すると推定されている(Verderese JP、Expert Rev Gastroenterol Hepatol 2013年7月、7(5):405〜7)。従って、NASH患者の大多数がII型糖尿病を有し、一般的には網膜毒性の危険性が高く、HCQ療法忌避症である。従って、かかる患者のための低網膜毒性である、改善された療法が必要とされる。
ヒドロキシクロロキン(HCQ)の代謝物としては、デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)、デスエチルクロロキン(DCQ)、及びビスデスエチルクロロキン(BDCQ)が挙げられ、それらの化学構造を図1に示す。デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)はCAS 4298−15−1が割り当てられており、クレトキン、デスエチル・ヒドロキシ・クロロキン(DESETHYL HYDROXY CHLOROQUINE)とも呼ばれる。
HCQは、抗原提示細胞中のリソソームのpHを増加させ、このことが、HCQが抗炎症作用を発現し、トール様受容体(toll−like receptor)(TLR)の活性を変える主要なメカニズムであると考えられている(Wallerら Medical pharmacology and therapeutics(第2版)370ページ)。HCQは、形質細胞様樹状細胞、マクロファージ及び他の細胞上のTLRを阻害する。DNA含有免疫複合体を認識するTLRであるTLR9の活性化はインタ−フェロンの産生に繋がり、樹状細胞を成熟させ、T細胞に対して抗原を提示する。HCQは、TLR9シグナル伝達を低減することにより、樹状細胞の活性化、ひいては炎症過程を低下させる。
本明細書記載のように、デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)は、炎症性疾患の治療または予防において、HCQによる治療に比べて、類似の、及び様々なケースにおいては優位の(図2〜9、19〜21)活性を示す。更に、HCQの代謝物であるBDCQ及びDCQは炎症性疾患及び炎症を伴う疾患の治療において活性がなかった一方で、唯一HCQの代謝物であるDHCQだけが、炎症性疾患及び炎症を伴う疾患の予防及び治療に強力な効能を示したことは、予想外且つ驚くべきことであった(図1、2、3、9、19、及び20)。DHCQは、炎症性疾患の治療における予想外な効能の発現に加えて、予想外且つ驚くべきことに、代謝異常の治療、具体的には、高血糖値の低減、血清脂質の低減、及び代謝によって誘発される炎症性疾患の治療においても、HCQのそれを凌駕する水準の効能を示す。
DHCQ及びHCQが共に、炎症性疾患及び炎症を伴う疾患の予防及び治療に活性を示すにも拘わらず、DHCQは、HCQについて観測される網膜への蓄積及び毒性に比較して、網膜への蓄積の大幅な減少、並びに網膜細胞に対する毒性の大幅な減少を示す。HCQの代謝物であるDHCQを用いた治療のみが網膜毒性の減少を与え、HCQの代謝物であるBDCQを用いた治療はそうでなかったことから、DHCQにおける網膜細胞毒性の減少は予想外であり驚くべきものである(図11〜12)。更に、HCQの代謝物であるDHCQのみが網膜細胞毒性の減少を与え、HCQの代謝物であるBDCQはそうでなかったことから、DHCQによる網膜細胞毒性の減少は予想外であり驚くべきものである(図11〜12)。加えて、HCQの代謝物の中でDHCQのみが抗炎症性の効能を示し、BDCQ及びDCQはそうではなかった(図2、3、9、19及び20)。
自己免疫疾患、変性疾患、代謝性疾患、及び他の炎症性疾患を始めとする炎症性疾患または炎症を伴う疾患を予防するまたは治療するための組成物及び方法が、有効量の、アミノキノリンであるデスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)を、上記組成物及び方法を必要とする個体に投与することによって提供される。更なる実施形態において、本明細書で提供される組成物及び方法は、軽度の炎症を治療する、または炎症を緩和する、または炎症に関連する疾患を治療する、または炎症を伴う疾患に関連する代謝異常を治療することに好適である。本発明の方法の利点は、個体に、ヒドロキシクロロキン(HCQ)による治療で見られる網膜への蓄積及び毒性を免れさせる一方で、炎症を治療することに有効である薬剤の用量を送達する能力である。治療中の網膜毒性の監視を低減することができることが、HCQによる治療と比べてDHCQを用いた治療の特徴とすることができる。DHCQを用いた治療は、従来の治療方法及び薬剤と比較して、疾患過程のより早期に開始することができ、且つより長期間持続させることができる。
いくつかの実施形態において、本発明は、DHCQまたはその薬学的に許容される塩若しくはエステル、あるいはDHCQまたはその薬学的に許容される塩若しくはエステルと、異なる薬物の種別からの1種または複数種の第2の薬剤、例えば異なる効果であるが一部重なって媒介する効果を発揮する薬剤との組み合わせの組成物を提供し、該組成物は炎症性疾患を治療するために利用される。
ヒトにおける最近の臨床上の知見では、従来の用量のHCQを服用すると(一般的な用量である400mg/日で)、網膜毒性の発生率は治療の継続期間と共に著しく増加し、5年間の治療の後ではHCQによる治療を受けたヒトのほぼ1%において、また10〜15年間の治療の後ではHCQによる治療を受けたヒトのほぼ2%において発生する(Marmorら、Arthritis Care Res 2010、62(6):775〜84;Levyら、大規模な多施設での外来診療における1,207名の患者中のヒドロキシクロロキン網膜症の発生率 Arthritis Rheumatism 1997、40(8):1482〜6;Mavrikakisら、ヒドロキシクロロキン治療を受けた患者における不可逆的網膜毒性の発生率:再評価 Opthalmology、2003、110(7):1321〜6)。特に、上記観測された網膜毒性の発生率に拘わらず、(眼科検査で認知された無症候性の変化を含む)より初期の眼の問題のために医師がHCQを中止した合計の割合は、5年にわたる治療を受けた患者の7%に近い(Marmorら、関節リウマチ及び全身性エリテマトーデス患者におけるヒドロキシクロロキン網膜毒性の発生率及び予測因子 (Marmorら、Arthritis Care Res 2010、62(6):775〜84)。
本データは、驚くべきことに、イン・ビボ及びイン・ビトロの両方で、HCQを用いた従来の治療の臨床的有効性と同様の臨床的有効性を与える投与量水準において、DHCQが、有意な網膜への蓄積の減少並びに有意な網膜毒性の減少を示すことを実証する(図11〜18を参照のこと)。DHCQを用いた長期治療に関する網膜毒性の推定される発生率は、HCQと同様の有効累積用量で、及び同様の期間にわたって使用される場合において、現在報告されているHCQに関する発生率の50%未満である。より詳細には、Marmorらによって報告された、HCQを用いた治療に関する網膜毒性の発生率(Ophthalmology 2011年2月、118(2):415〜22)と比較し、HCQ及びDHCQの両方について同様の水準の治療活性及び投与期間を仮定すると、DHCQが与える網膜毒性は、HCQ投与による網膜毒性と比較して50%未満と推定される。従って、5年後で網膜毒性発生率が1%に近い、アメリカ眼科学会及びMarmorら(Ophthalmology 2011年2月、118(2):415〜22)により報告された患者集団と類似の患者集団において、DHCQ療法は、網膜毒性を、治療を受ける個体の0.5%未満にまで低減すると推定される。更に、毒性の発生率が1%に近いことから網膜検診が妥当であるとの従来の仮定を考慮するならば、DHCQ療法に伴う網膜毒性の累積発生率の減少により、網膜毒性検診の必要性が5年及び10年での1回の検診へと大幅に低減される、あるいは検診の必要性が完全になくなることとなる。
以下の説明では、従来から炎症治療の分野で用いられる多くの用語が広範に利用される。明細書及び特許請求の範囲の明確且つ一貫した理解、並びにかかる用語に与えられる範囲を提供するために、以下に定義を行う。
本発明は、記載された特定の方法論、プロトコル、細胞株、動物種または属、及び試剤に限定されるものではなく、それ自体変化し得ることが理解されるべきである。また、本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とするためのものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきある。
本明細書において用いられる単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限りにおいて、複数の対象を包含する。従って、例えば、「細胞」(a cell)への言及は、複数のかかる細胞を包含し、「当該培養物」(the culture)への言及は、1または複数の培養物及び当業者に公知のその等価物などへの言及を包含する。本明細書において用いられる全ての技術的及び科学的用語は、明確に別段の表示がない限りにおいて、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同様の意味を有する。
本明細書において言及される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、全ての目的のために、各個々の刊行物、特許、または特許出願が、具体的かつ個別に示され、参照により組み込まれるのと同様の程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
炎症性疾患は炎症を伴う疾患である。炎症の存在は、病歴、身体所見検査、臨床検査、組織の組織学的分析、バイオマーカーの分析、及び画像診断を始めとする種々の手法によって検知することができる。炎症の臨床的特徴及び身体所見検査のマーカーとしては、腫大、滲出、浮腫、発赤、熱をもつこと、疼痛、または病理学的に炎症性細胞の流入若しくは炎症性メディエータの産生に関連することが挙げられる。炎症性細胞の数の増加が実証されたときには、臨床検査及び/または組織学的マーカーが異常となる。炎症のマーカーとしては分子マーカー(複数可)を挙げることができ、分子マーカーの例としては、C反応性タンパク質、サイトカイン、抗体、DNA配列、RNA配列、軟骨マーカー、代謝マーカー、骨マーカー、またはそれらの組み合わせが挙げられる。画像診断は、組織の増強、組織の浮腫及び腫大、並びに炎症を示す他の所見を始めとする所見を明らかにすることができる。炎症の画像診断マーカーの例としては、磁気共鳴画像診断、超音波検査、コンピュータ断層撮影、血管造影法、及びそれらの組み合わせを用いて測定される画像診断マーカーを挙げることができる。
軽度の炎症の存在は、TNF−α、IL−6、及びC反応性タンパク質(CRP)などのサイトカインの局所または全身濃度の上昇(複数可)を特徴とし、肥満症、変形性関節症、アルツハイマー病、II型糖尿病、代謝症候群、冠動脈疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎、並びに多くの慢性及び変性疾患において起こる。軽度の炎症は、(活動性関節リウマチ、乾癬、クローン病、全身エリテマトーデス、自己免疫性肝炎、及び他の自己免疫状態などの)活動性自己免疫疾患、並びに、その間にヒトが臨床症状を経験する、(インフルエンザウィルス感染症、黄色ブドウ球菌感染症、及び他の感染症などの)特定のウィルス及び細菌感染症において検知される「重度の」炎症よりも低い水準で存在する炎症を呈する。
炎症の低減すなわち炎症の改善は、症状の軽減(疼痛の軽減を含むがそれに限定されない)、X線画像の変化、生化学的変化、病理学/組織学的変化、かかる炎症のマーカーの進行の縮小、組織若しくは器官の損傷を示す所見の進展の縮小、疾患の症状若しくは徴候の進展の縮小、または疾患の進展の縮小によって裏付けられる、炎症の消散、炎症細胞の数または炎症性メディエータのレベルの減少により示される。
症状とは、個体が気付いた、正常な機能または感覚からの逸脱であり、疾患または異常の存在を示す。症状は主観的であり、個々の患者によって観察され、直接測定することはできない。
疾患の徴候すなわち医学的徴候(本明細書においてはマーカー(複数可)ともいう)とは、患者のイン・ビボ試験により、臨床検査により、X線画像若しくは他の画像診断検査により、またはその他により、身体所見検査中に検知し得るいくつかの医学的事実または特性の客観的な表示である。徴候すなわちマーカーは、患者にとっては意味をもたない場合があり、認知されないままの場合すらあるが、医療提供者にとっては、患者の症状の原因である医学的状態(複数可)の診断の補助となることにおいて、有意義かつ重要な場合がある。異常なマーカーすなわち徴候の例としては、血圧の上昇(収縮期約140mmHg超及び/または拡張期90mmHg超)、コレステロール(LDL 約140mg/dL超、トリグリセリド 約200mg/dL超、またはHDL 約40mg/dL未満)、太鼓撥指形成(肺疾患、または多くの他の事象の徴候である可能性がある)、老人環、軟骨中のプロテオグリカンの減損、血糖値の上昇、肝臓炎症の特定マーカーレベルの上昇、約20を超えるESRを始めとする急性期タンパク質レベルの上昇、約0.75mg/Lを超えるhsCRP、及び他の所見が挙げられる。徴候は、客観的に(すなわち、患者以外の誰かによって)観察することができる医学的状態のいずれかの表示である一方、症状は、単に患者にとって目に見えるいずれかの状態の発現(すなわち、患者に自覚的に影響を与える何か)である。この定義からは、無症候性の患者は疾患によって制約を受けていないということができる。しかし、医師は「疾患」を経験しない無症候性の患者における高血圧の徴候を発見することがあり、該徴候は、患者に対して危険を提起する前臨床または初期段階の疾患状態を示している。
動物、ヒトまたは他の哺乳動物への薬物または他の化学物質の投与としては、経口、皮内、筋肉内、腹腔内、または静脈内を始めとする任意の経路を介する投与が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
医薬製剤とは、ヒトまたは他の生物を治療するための最終的な医薬品を製造するために、組み合わせられ配合される種々の化学物質であって、活性薬物、賦形剤等を始めとする(但し、これらに限定されない)上記化学物質を含む組成物である。
無菌製剤とは、生きた細菌または微生物を実質的に含まない製剤である。
治療上有効な量とは、製剤中の活性薬物の質量、及び製剤の投与の頻度であって、症状の発現の防止、疾患のマーカーまたは徴候の発現の防止、組織または器官の損傷の発症の防止、疾患の進行の防止、疾患の重篤度の低減、または上記に定義した疾患の症状の治療に帰着する、上記質量及び頻度である。
各個々の薬剤に関する用量の範囲とは、症状の発現の防止、疾患の発症の防止、疾患の異常なマーカーすなわち徴候の発現の防止、組織または器官の損傷の発症の防止、疾患の進行の防止、疾患の重篤度の低減、または上記に定義した疾患の症状の治療に帰着する製剤における活性薬物の質量、及び該製剤の投与の頻度の範囲である。
投与計画(レジメン)とは、用量;投与の頻度、例えば1日当たり2回、毎日、毎週、隔週等;及び治療の継続期間、例えば1日、数日、1週間、数週間、1ヶ月、数ヶ月、1年、数年等を意味する。
負荷用量とは、より速やかに体内で治療濃度に到達させるために与えられる、初回の大きな投与量または一連のかかる投与量である。負荷用量は、維持用量よりも多くまたは少なくすることができる。いくつかの例において、治療が、組織において当該薬物または他の化学物質の治療レベルに速やかに到達させるために、数日間、数週間または数ヶ月間負荷用量にて開始され、その後、用量が長期間の維持用量に低減される。いくつかの場合において、初期に短期間低用量を用いて患者を当該薬物に対して寛容化及び適応化させ(例えば、1日当たり約200mgで1週間)、続いて負荷用量とし(例えば、約800mg/日で12週間)、その後維持用量とする(約400mg/日)。ヒドロキシクロロキン硫酸塩及びクロロキンリン酸塩に関しては、400mg/日の標準用量では、治療組織レベルに到達させるためには4〜6ヶ月要し得る。従って、一部の医師は、活性のためには治療レベルが必要な組織において、より速やかに当該治療レベルに到達させるために、ヒドロキシクロロキン硫酸塩またはクロロキンリン酸塩の負荷用量、例えば、少なくとも約600mg/日(約10mg/kg/日)、少なくとも約800mg/日(約13.3mg/kg/日)、少なくとも約1000mg/日(約16.67mg/kg/日)、並びに約1200mg/日(約20mg/kg/日)まで、及び約1600mg/日(約26.7mg/kg/日)までの用量を1〜16週間用いる。デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)もまた、組織中にゆっくりと蓄積されることが予想され、その結果、DHCQで治療する場合、例えば、少なくとも約600mg/日(約10mg/kg/日)、少なくとも約800mg/日(約13.33mg/kg/日)、少なくとも約1000mg/日(約16.67mg/kg/日)、並びに約1200mg/日(約15mg/kg/日)まで、約1400mg/日(約23.33mg/kg/日)まで、及び約1600mg/日(約26.6mg/kg/日)までの負荷用量を1〜24週間、好ましくは1〜16週間用いることもまた、治療上有利となり得る。炎症性疾患の治療のためのHCQの負荷用量がFurstら(Arthritis Rheum. 1999年2月、42(2):357〜65 PMID:10025931)に議論されている。
単位用量(剤形とも呼ばれる)とは、基本的に、使用に向けて市販される形態での医薬製品であり、一般的には活性薬物成分及び非薬物成分(賦形剤)の混合物を、成分または包材のいずれでもないと見なされ得る他の再使用不可の材料(例えば、カプセル殻など)と共に含む。複数の単位用量とは、文脈に応じて、共に包装された異なる薬剤製品、または複数の薬物及び/または用量を含む単一の薬剤製品を指す場合がある。剤形との用語はまた、ときには、薬剤製品の構成薬剤物質(複数可)及び関連する任意の配合物のみを指す場合がある。
用量パックとは、一式でまたは可変用量で患者に投与される、ブリスター包装または他のひと続きの容器を始めとする(但し、これらに限定されない)、投与レジメンを容易にすることを目的とした容器中に入った、予め測定された量の薬物である。用量パックは、初回用量及び/または負荷用量、並びにこれに続く維持用量の個体への送達を容易にするために使用することができる。
賦形剤は、一般的に、薬剤の活性医薬成分(active pharmaceutical ingredient)(「API」)と共に処方される、薬理学的に不活性な物質である。賦形剤は、一般的に、効能をもつ活性成分を含有する製剤を増量するために用いられ(従って、しばしば「増量剤」、「充填剤」または「希釈剤」と呼ばれる)、剤形を製造する際に、薬剤物質の簡便且つ正確な分配を可能にする。賦形剤はまた、薬物の吸収若しくは溶解を促進するなどの治療効果を高める種々の目的、または他の薬物動態学的な考慮に役立てることもできる。
「炎症のマーカー」(本明細書において、炎症のバイオマーカーともいう)とは、分子的測定値、生化学的測定値、画像診断測定値、または全般的な身体的測定値を始めとする(但し、これらに限定されない)、前病態または病態における炎症の存在を反映する、客観的に測定された特性である。本明細書において用いられる「炎症のマーカー」としては、炎症マーカー、代謝マーカー、画像診断マーカー、生化学的マーカー、遺伝子マーカー、プロテオミクスマーカー、遺伝子発現マーカー、及び個体内の炎症を診断するために用いることができる他のマーカーが挙げられる。個体における異常なマーカーの測定値は、当該個体が、定着した炎症性疾患または炎症を伴う疾患の発症の危険性が高いこと、該疾患の前臨床段階にあること、該疾患の初期段階にあること、または該疾患を有することを識別する。
炎症の分子マーカー(複数可)(本明細書において、「バイオマーカー」または「炎症バイオマーカー」ともいう)は、炎症の存在を示す、患者の組織(例えば、血液)試料より得られた分子である。かかるマーカーの非限定的な例としては、例えば、C反応性タンパク質、サイトカイン、抗体、DNA配列、RNA配列、軟骨マーカー、代謝マーカー、骨マーカー、またはそれらの組み合わせを挙げることができる。炎症の分子マーカーは生化学的マーカーを含む。
炎症の画像診断マーカー(複数可)(本明細書において、「画像診断マーカー」または「画像診断バイオマーカー」ともいう)とは、超音波検査、X線画像、コンピュータ断層撮影、磁気共鳴画像診断、または核医学走査を始めとする(但し、これらに限定されない)画像診断モダリティーを用いることによって、炎症の存在を測定、さもなければ判定するマーカーである。
生化学的マーカー(複数可)(本明細書において、「分子マーカー」ともいう)とは、バイオマーカーとしての、血液または他の組織中で測定される生物学的物質である。着目する生物学的バイオマーカーとしては、タンパク質、核酸、代謝物、脂肪酸、ペプチド等が挙げられるが、これらに限定されない。
「炎症マーカー」(本明細書において、「炎症バイオマーカー」ともいう)は、炎症を起こした状態を示すバイオマーカーである。着目する炎症バイオマーカーとしては、サイトカイン、ケモカイン、高感度C反応性蛋白(hs−CRP)、赤血球沈降速度(ESR)、炎症性メディエータをコードするmRNAの発現、炎症性細胞、炎症を裏付ける画像診断バイオマーカー、及び炎症を示す他のマーカーが挙げられるが、これらに限定されない。
基準範囲とは、正常集団の95%がその中に入る一組の値として定義される。基準範囲は、一般的には、(本明細書において、「マーカー」または「バイオマーカー」という)マーカーの値またはレベルをいい、かかるマーカーの例としては、炎症マーカー、代謝マーカー、画像診断マーカー、生化学的マーカー、臨床マーカー、X線画像マーカー、及び他のバイオマーカーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。個々の患者におけるマーカーの値またはレベルが、正常集団の95%がその中に入る一組の値またはレベルから外れる場合には、当該患者において、当該マーカーは異常なレベルを示していると見なされる(例えば、当該患者は「異常なマーカー」を有すると判定される)。いくつかの実施形態において、個々の患者における炎症マーカーの値またはレベルが、正常集団の95%がその中に入る一組の値またはレベルから外れる場合には、当該患者において、当該炎症マーカーは異常なレベルを示していると見なされる(例えば、当該患者は「異常な炎症マーカー」を有すると判定される)。いくつかの実施形態において、個々の患者における代謝マーカー(「代謝性疾患マーカー」ともいう)の値またはレベルが、正常集団の95%がその中に入る一組の値またはレベルから外れる場合には、当該患者において、当該代謝マーカーは異常なレベルを示していると見なされる(例えば、当該患者は「異常な代謝マーカー」を有すると判定される)。いくつかの実施形態において、個々の患者における画像診断マーカーの結果が、正常集団の95%以内において観測される同一の画像診断の変動範囲から外れる場合には、当該画像診断マーカーは異常な結果を示していると見なされる(例えば、「異常な画像診断マーカー」であると判定される)。いくつかの実施形態において、個々の患者における臨床マーカーの結果が、正常集団の95%以内において観測される同一の臨床マーカーの変動範囲から外れる場合には、当該臨床マーカーは異常な結果を示していると見なされる(例えば、「異常な臨床マーカー」であると判定される)。個体における異常なマーカーの測定値は、当該個体が、定着した炎症性疾患または炎症を伴う疾患の発症の危険性が高いこと、該疾患の前臨床段階にあること、該疾患の初期段階にあること、または該疾患を有することを識別する。
アミノキノリンは、抗マラリア薬としてのその役割によって最も有名なキノリン誘導体である。アミノキノリン分類の代表的な例としては、アモジアキン、ヒドロキシクロロキン、クロロキンなどの4−アミノキノリン、並びにプリマキン及びパマキンなどの8−アミノキノリンが挙げられるが、これらに限定されない。かかる薬物は「遊離塩基」として、またはより一般的にはその塩として処方され得る。
ヒドロキシクロロキン(HCQ)の代謝物としては、デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)、デスエチルクロロキン(DHQ)、及びビスデスエチルクロロキン(BDCQ)が挙げられ、それらの化学構造を図1に示す。図1Bは、図2〜25に示したHCQ並びにその代謝物DHCQ、DCQ及びBDCQに関する抗炎症性疾患活性及び抗代謝性疾患活性(「効能」という。)及び網膜毒性(「毒性」という。)に関する実験結果のまとめを示す。
本明細書において用いられる語句「薬学的に許容される塩(複数可)」とは、哺乳動物における経口及び局所使用に対して、(例えば、FDA及びEMEAなどの規制機関によって)安全且つ有効と見なされ、且つ所望の生物学的活性を有する本発明の化合物の塩を意味する。薬学的に許容される塩としては、本発明の化合物中に存在する酸性基または塩基性基の塩が挙げられる。薬学的に許容される塩としては、当技術分野で公知なように、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチジン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカル酸塩、糖酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、パモ酸塩(すなわち、1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸塩))、アルミニウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩、及びジエタノールアミン塩などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明におけるDHCQの投与は、日用量で、1日当たり少なくとも約50mg(約0.83mg/kg/日)、1日当たり少なくとも約100mg(約1.67mg/kg/日)、1日当たり少なくとも約155mgの(約2.58mg/kg/日)、1日当たり少なくとも約200mg(約3.33mg/kg/日)、1日当たり少なくとも約250mg(約4.16mg/kg/日)、1日当たり少なくとも約300mg(約5mg/kg/日)、1日当たり少なくとも約310mg(約5.16mg/kg/日)、1日当たり少なくとも約350mgの(約5.83mg/kg/日)、1日当たり少なくとも約400mg(1日約6.67mg/kg/日)、1日当たり約450mg(約7.5mg/kg/日)、1日当たり約465mg(約7.75mg/kg/日)、1日当たり約500mg(約8.33mg/kg/日)、1日当たり約550mg(約9.16mg/kg/日)、1日当たり約600mg(約10mg/kg/日)、1日当たり約620mg(約10.33mg/kg/日)、1日当たり約800mg(約13.33mg/kg/日)、約930mg/kg/日(約15.5mg/kg/日)、1日当たり約1000mg(約16.67mg/kg/日)、1日当たり約1200mg(約20mg/kg/日)、1日当たり約1300mg(約21.67mg/kg/日)、1日当たり約1400mg(約23.3mg/kg/日)、1日当たり約1500mg(約25mg/kg/日)、または1日当たり約1600mg(約26.67mg/kg/日)の、但し、それらの間の全ての範囲及び部分範囲を含む、DHCQまたは薬学的に許容されるそれらの塩若しくはエステルを含む、からなる、あるいはから本質的になる。特定の実施形態において、上記DHCQ医薬組成物は、1日1回の投与で送達される。
本明細書で論じるように、様々な実施形態において、本発明の組成物及び方法は、列挙された量若しくは日用量のDHCQ、または本明細書に記載の薬学的に許容される塩若しくはエステルのいずれかを含むことができる。DHCQは、錠剤、懸濁液またはカプセルの形態の医薬組成物中で送達することができる。DHCQ医薬組成物は、別個の投与または2、3、4、5、若しくは6回の等しい用量で毎日投与することができる。別段の断りがない限りにおいて、活性化合物、例えばDHCQ、の薬学的に許容される塩またはエステルの示された用量は、当該活性化合物の相当する「遊離塩基」(非塩、非エステル)の量として表される。
HCQ媒介性の及び他のアミノキノリン媒介性の網膜毒性に対する検診を行うための最新の勧告が記載されている(Marmorら、Ophthalmology 2011、118(2):415〜22;Bernstein HN、Surv Ophthalmol Oct 1967、12(5):415〜47;Anderson Cら、Retina 2009、29(8):1188〜92;Michaelides Mら、Arch Ophthalmol 2011年1月、129(1):30〜9)。該勧告は、基準点としての役割を果たすように、これらの薬物を使い始める患者のベースライン検査を実施することを含む。眼毒性に対する年1回の検診は、5年後、または、1000gを超える総累計投与量、維持用量>6.5mg/kg/日、腎臓の異常、肝疾患、基礎網膜疾患、若しくは60歳を超える年齢を始めとする更なる危険因子が存在する場合には、それよりも早く始める必要がある。年1回の検診は、10−2自動視野検査を、以下の検査、すなわち、多局所網膜電位図(mfERG)、スペクトラルドメイン光干渉断層撮影(SD−OCT)、または眼底自発蛍光(FAF)の内の少なくとも1種と共に含む必要がある。mfERG検査は機能を診断する客観的な検査であるため、視野検査に代えて用いることができる。眼底検査は資料整備ためには推奨されるが、目視可能な標的黄斑症は後期の変化であり、検診の目的は毒性をより早い段階で検知することである。年1回のHCQ毒性検診において、多局所網膜電位図(mfERG)、スペクトラルドメイン光干渉断層撮影(SD−OCT)、眼底自発蛍光(FAF)、視野検査、及び/または黄斑の直接可視化の結果の悪化(検査における成績の低下及び/または網膜または黄斑所見の悪化)が示されることは、網膜毒性の発症を示している。クロロキン/ヒドロキシクロロキン毒性における初期の眼底変化としては、中心窩反射の減損、黄斑浮腫、及び赤色除去フィルタによって際立つ色素の微細な斑点が挙げられる。上記斑点の出現は視野検査の結果とはあまり相関しない。低い網膜毒性(すなわち、より少ない網膜毒性)とは、これらの検査の結果が安定し、最初の治療前のベースライン検査で得られたベースラインの結果から変化していないことを意味する。
最も初期のアミノキノリン及びHCQ毒性に起因する黄斑の変化は非特異的であり、加齢による変化と区別できない場合があるため、ベースラインとしての中心視野検査(視野測定)は有用となり得る。アムスラーグリッドで見出された欠陥を確認するためには、ハンフリー10−2プログラム(ホワイトターゲット)が推奨される。
網膜電位図(ERG)は、全視野、局所、または多局所とすることができる。局所ERG技術は、中心窩及びparifoveal領域からのERG応答を記録することができる。mfERGは、一般的には大きな診療センターにおいて利用可能であり、組織分布的に後極全体にわたって局所的ERG応答を生起させ、ERGの落ち込みの標的黄斑症分布を詳細に記録することができるため、クロロキン及び/またはヒドロキシクロロキンの毒性の診断に対してより適している。mfERGは機能を客観的に診断し、視野検査に代えて用いることができる。
スペクトラルドメイン光干渉断層撮影(SD−OCT)は、ヒドロキシクロロキンまたはクロロキンへの長期曝露のある患者における乳頭周囲の網膜神経線維層(retinal nerve fiber layer)(RNFL)の厚さ及び黄斑内側と外側の網膜の厚さを測定する。OCTは、臨床的に明らかな網膜症における乳頭周囲のRNFLの菲薄化を検知するために有用である。加えて、黄斑内網膜の選択的な菲薄化を、臨床的に明らかな眼底変化の非存在下及び該眼底変化の前に検出することができる。
動物実験において、クロロキンによる治療開始後1週間以内に目視可能となる最初の形態学的変化としては、膜状の細胞質体を発現する神経節細胞を含む。網膜の他の神経細胞は、後になってからこれらの変化を示す。5ヶ月までの治療の間には可逆的変化が存在する。長期治療によって、外節の関与を伴う、神経節細胞並びに光受容体細胞の細胞体及び核の進行性の変性が起こった。最も重篤な変化は周中心窩の傾向にあり、中心窩は相対的に温存された。神経節細胞及び光受容体の変性が定着した後にのみ、色素上皮及び脈絡膜の異常が見られた。記載した全ての観測事項は、いずれの異常もが眼底検査またはERGにおいて検知可能となる前に起こった。クロロキン網膜症の患者の病理学的研究は少なく、且つ進行した網膜症の場合に限られている。全てに見られる所見としては、外側の網膜、特に光受容体及び外核層の変性が挙げられ、中心窩における光受容体は相対的に温存される。網膜への色素の移行が見られる。神経節細胞における病理学的変化は全てに見られる所見である。網膜細動脈の硬化症は起る場合と起らない場合とがある。
網膜毒性の危険性が高い患者の治療においては、かかる患者におけるHCQの好ましからざる安全性プロファイルに起因して、HCQの使用は多くの場合に禁忌である。網膜毒性に対する危険性が高い患者としては、糖尿病性及び高血圧性の網膜症、黄斑変性症prior網膜外傷(macular degeneration prior retinal trauma)などの既知の網膜異常を有する患者が挙げられる。I型またはII型糖尿病を有する患者、長期間(例えば、約5年以上)HCQを摂取している患者、約1000g以上の累積投与量を摂取した患者、60歳を超える患者、または低身長(約60kgの理想的な体重以下)の患者、並びに肥満症の患者及び肝機能障害または腎機能障害を有する患者のいずれかにおいて、同様の高い危険性がある。
投薬の中止及び治療の他の形態への転換は、HCQ及び他のアミノキノリンに伴う初期の網膜毒性または網膜異常を有する個体に対する治療の標準である。リウマチ科医及び皮膚科医との連携は、患者の包括的な治療のために合理的と認められている。過剰投与または敏感性から重篤な毒性症状が生じた場合には、療法を停止した後に、塩化アンモニウムを(成人の場合で1日に8gを分割投与で)3〜4回/週で数ヶ月間、経口投与することが提案されている。塩化アンモニウムによって尿を酸性化することが、4−アミノキノリン化合物の腎排泄を20〜90%増加させる。腎機能障害及び/または代謝性酸血症がある患者では注意が必要である。
最近の臨床観測において、従来の用量の(一般的な用量である400mg/日で)HCQを摂取しているヒトにおいて、網膜毒性の有症率は、1,000人の使用者当たり6.8人であることが示された(Marmorら、Ophthalmology 2011年2月、118(2):415〜22)。上記有症率はHCQの使用期間に依存していた。5〜7年間の使用の後では、毒性が1%に向けて急激に上昇した。15年間を超える治療においては、更に高い網膜毒性の発生率を招いた。
本明細書に提示の発見に基づき、DHCQ及びHCQが同様の有効総累積用量で、且つ同様の期間にわたって用いられる場合には、DHCQを用いた炎症性疾患または疾病の長期治療後の網膜毒性の発生率が、HCQを用いた治療に対して報告されている発生率よりも低いこととなる(MarmorらはHCQ単独での治療に対する網膜毒性の発生率を報告している(Ophthalmology 2011年2月、118(2):415〜22))。HCQ媒介性網膜毒性は、年1回の検診の多局所網膜電位図(mfERG)、スペクトラルドメイン光干渉断層撮影(SD−OCT)、眼底自発蛍光(FAF)、視野検査、及び/または黄斑の直接可視化における結果の悪化(検査の成績の低下及び/または網膜または黄斑所見の悪化)に基づいて識別される。低い網膜毒性(すなわち、より少ない網膜毒性)とは、DHCQによる治療を受けた個体の群に関して、HCQによる治療を受けた個体に対して報告された網膜毒性の発生率と比較して(または、HCQによる治療を受けた個体の群と比較して)、少なくとも約25%、少なくとも約35%、少なくとも約45%、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約75%低い網膜毒性(例えば、年1回の検診の結果における網膜若しくは黄斑の機能若しくは能力の悪化、または異常な身体的特性若しくは所見の発現または悪化に基づいて判定された毒性)の発生率となるであること、及びほぼ50%または最大で約50%低い該発生率となり得ることを意味する。
同様の有効累積用量で、且つ同様の期間にわたってHCQを摂取した個体と比較した、DHCQを用いた治療を受けた個体における網膜毒性の発生率(発症率)を記録するための具体的な測定としては、それらに限定されるものではないが、以下の通りである(Marmorら、Ophthalmology 2011年2月、118(2):415〜22)。
すなわち、(1)眼科検査。標的黄斑症の形跡に関して網膜黄斑を調べるための、徹底した眼科的拡張眼底検査。目視可能な標的黄斑網膜症は、毒性が十分に長い期間継続し、RPEの変性を引き起こしていることを示し、比較的後期の所見である。DHCQを用いた治療は、同様な有効累積用量での且つ同様な期間にわたるHCQによる治療と比較して、5年、10年、15年、及び20年の治療の時点で、標的黄斑症の発生率を、少なくとも約25%、少なくとも約35%、少なくとも約45%、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約75%低くし、ほぼ50%または最大で約50%低い該発生率であってもよい。
(2)自動臨界視野検査。眼底検査で変化が見られる前に、視覚感度の傍中心窩での減損が現れることがある。ホワイト10−2パターンを用いた自動臨界視野検査(すなわち、ホワイトターゲットを用いた、中心窩の10度以内の検査)は、黄斑領域内での高い分解能を与える。再現性をもって低下した中心部または傍中心窩のいずれのスポットの所見も、初期の毒性を示している可能性がある。毒性が進行すると、一般的に、(中央部の感度の減損の有無に拘わらず)かなり進展した傍中心暗点が現れる。DHCQによる治療は、同様な有効累積用量での且つ同様な期間にわたるHCQによる治療と比較して、5年、10年、15年、及び20年の治療の時点で、低下した中心部または傍中心窩のスポットの発生率を、少なくとも約25%、少なくとも約35%、少なくとも約45%、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約75%、及び最大で約50%低くする。DHCQによる治療は、同様な有効累積用量での且つ同様な期間にわたるHCQによる治療と比較して、5年、10年、15年、及び20年の治療の時点で、少なくとも約25%、少なくとも約35%、少なくとも約45%、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約75%低い、再現性をもって低下した中心部または傍中心窩のスポットの発生率を伴うことが予期され、ほぼ50%または最大で約50%低い低下した中心部または傍中心窩のスポットの発生率であってもよい。
(3)スペクトラルドメイン光干渉断層撮影。スペクトラルドメイン光干渉断層撮影は、黄斑における網膜層の断面を示す。高解像度の装置(SDまたはフーリエドメインOCT)は傍中心窩領域における網膜層の局部的な菲薄化を示し、毒性を確認することができる。内節/外節ラインの消失は、傍中心窩の損傷の初期の客観的な徴候である場合がある。視野検査またはmfERGに対する相対的なSD−OCTの感度を評価するための更なる検討が必要ではあるが、多くのケースにおいて、視野の減損よりも前に顕著なSD−OCTの変化が示されており、16、19〜22のSD−OCT検査は迅速であり、装置は多くの医院及び診療所において利用可能である。DHCQを用いた治療は、同様な有効累積用量での且つ同様な期間にわたるHCQを用いた治療と比較して、5年、10年、15年、及び20年の治療の時点で、傍中心窩領域における網膜層の局部的な菲薄化の発生率を、少なくとも約25%、少なくとも約35%、少なくとも約45%、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約75%、及び最大で約50%低くする。
(4)眼底自発蛍光。自発蛍光画像診断は、自発蛍光の低下を伴う微妙なRPEの欠陥を明らかにし、または(外節デブリの蓄積に由来する自発蛍光の増加として現れる)初期の光受容体の損傷領域を示す。自発蛍光画像診断は、フルオレセイン血管造影に対して、より迅速であって且つ色素の注入を必要としないという利点を有する。いくつかのケースにおいて、視野の減損の前にFAFの異常が示される。DHCQを用いた治療は、同様な有効累積用量での且つ同様な期間にわたるHCQを用いた治療と比較して、5年、10年、15年、及び20年の治療の時点で、自発蛍光の低下を伴う微妙なRPEの欠陥または初期の光受容体の損傷領域の発生率を、少なくとも約25%、少なくとも約35%、少なくとも約45%、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約75%、及び最大で約50%低くする。
(5)多局所網膜電位図。mfERGは、初期のCQ及びHCQ網膜症において、組織分布的に後極全体にわたって局所的ERG応答を生起させ、局在化した傍中心のERGの落ち込みを客観的に記録することができる。mfERGは、ホワイト10−2視野検査よりも、初期の傍中心の機能の減損に対してより鋭敏であり得る。DHCQによる治療は、同様な有効累積用量での且つ同様な期間にわたるHCQによる治療と比較して、5年、10年、15年、及び20年の治療の時点で、局在化した傍中心のERGの落ち込みの発生率を、少なくとも約25%、少なくとも約35%、少なくとも約45%、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約75%、及び最大で約50%低くする。
本明細書に記載のように、本技術分野において報告されている網膜毒性の発生率と比較して、HCQに関する同様の治療上の活性及び投与期間のレベルを想定すると、DHCQを用いた治療における毒性は、同様の有効総累積HCQ用量で用いたHCQによる治療と比較してより少ない。一実施形態において、実質的に網膜毒性なしとは、アメリカ眼科学会及びMarmorらによって報告された(Ophthamolology 2011年2月、118(2):415〜22)、HCQを用いて治療を受けた個体において5年後の網膜毒性発生率が1%に近かった患者集団と類似の患者集団において、DHCQを用いた治療が、網膜毒性の発生率を、治療を受けた個体の約0.5%未満にまで低減することを意味する。網膜毒性は、年1回の検診の多局所網膜電位図(mfERG)、スペクトラルドメイン光干渉断層撮影(SD−OCT)、眼底自発蛍光(FAF)、視野検査、及び/または黄斑の直接可視化の試験における結果の悪化(検査の成績の低下、及び/または網膜若しくは黄斑の身体的特性または所見の身体的異常の発現あるいは悪化)に基づいて識別される。更に、毒性の発生率が1%に近いことから網膜検診が妥当であるとの現在の仮定を考慮するならば、DHCQによる治療に伴う網膜毒性の累積発生率の減少により、今度は、網膜毒性検診の必要性を5年及び10年での1回の検診へと低減する、または検診の必要性を完全になくす、あるいは、検診を、療法の開始後7年から始めて2年毎に行うこととすることができる。DHCQのより低い網膜毒性に起因して、DHCQを用いることによって、HCQを用いた治療に比較してより高い総累計投与量を送達することが可能になり、ひいては、より高い日用量及び/またはより長期間での投薬が、炎症性疾患の治療におけるより大きな効能を与えることを可能にする。DHCQのより低い網膜毒性に起因して、DHCQを用いることで、長期にわたる治療を必要とする、炎症性疾患または炎症を伴う疾患の危険性が高い、該疾患の前臨床段階にある、または該疾患の初期段階にある個体の治療が、炎症性疾患または炎症を伴う疾患の発症を防止することを可能にする。
別の実施形態において、実質的に網膜毒性なしとは、複数の被験者の群であって、その中の一つの群がDHCQを用いた治療を受け、第2の群がHCQを用いた治療を受ける上記複数の群において(DCHQ及びHCQは同じ総累積用量で用いられる場合)、5年間の治療後に、上記DHCQを用いた治療を受けた群が、HCQを用いた治療を受けた群に比較して、ほぼ50%低い網膜毒性の発生率を示すこととなることを意味する。別の実施形態において、実質的に網膜毒性なしとは、複数の被験者の群であって、その中の一つの群がDHCQを用いた治療を受け、第2の群がHCQを用いた治療を受ける上記複数の群において(DCHQ及びHCQは同じ総累積用量で用いられる場合)、10年間の治療後に、上記DHCQを用いた治療を受けた群が、HCQを用いた治療を受けた群に比較して、ほぼ50%低い網膜毒性の発生率を示すこととなることを意味する。別の実施形態において、実質的に網膜毒性なしとは、複数の被験者の群であって、その中の一つの群がDHCQを用いた治療を受け、第2の群がHCQを用いた治療を受ける上記複数の群において(DCHQ及びHCQは同じ総累積用量で用いられる場合)、15年間の治療後に、上記DHCQを用いた治療を受けた群が、HCQを用いた治療を受けた群に比較して、ほぼ50%低い網膜毒性の発生率を示すこととなることを意味する。別の実施形態において、実質的に網膜毒性なしとは、複数の被験者の群であって、その中の一つの群がDHCQを用いた治療を受け、第2の群がHCQを用いた治療を受ける上記複数の群において(DCHQ及びHCQは同じ総累積用量で用いられる場合)、20年間の治療後に、上記DHCQを用いた治療を受けた群が、HCQを用いた治療を受けた群に比較して、ほぼ50%低い網膜毒性の発生率を示すこととなることを意味する。
上述のように網膜毒性の発生率を低減することに加えて、DHCQを用いることにより、網膜毒性が起きてしまった場合に、その重篤度を低減することができる。網膜毒性の重篤度を低減するDHCQの使用とは、DHCQを摂取していて網膜毒性を発症した個体に関して、同様な累積用量のHCQを用いて、且つHCQを用いた同様な期間にわたって治療を受けた個体に関して報告された網膜毒性の重篤度と比較して、少なくとも約25%、少なくとも約35%、少なくとも約45%、少なくとも約55%、少なくとも約65%、少なくとも約75%の網膜毒性の重篤度(例えば、年1回の検診の結果における網膜または黄斑の、機能若しくは能力の悪化、あるいは異常な身体的特性若しくは所見の発現または悪化に基づいて判定される毒性の程度)の低下があることとなる、及びほぼ50%または最大で約50%の該低下があり得ることを意味する。
上述したように、HCQ媒介性の及び他のアミノキノリン媒介性の網膜毒性に対する検診に関する現在の勧告が報告されている(Marmorら、Ophthalmology 2011、118(2):415〜22;Bernstein HN Surv Ophthalmol 1967年10月、12(5):415〜47;Anderson Cら、Retina 2009、29(8):1188〜92;Michaelides Mら、Arch Ophthalmol 2011年1月、129(1):30〜9)。該勧告は、基準点としての役割を果たすように、これらの薬剤を使い始める患者のベースライン検査を実施することを含む。網膜毒性に対する危険因子をもたない個体に対しては、このベースライン検査に続いて、5年のHCQによる治療時に開始する年1回の検診が推奨される。網膜毒性に対する危険因子をもつ個体に対しては、個体のHCQによる治療が5年に達する前に、年1回の検診を開始することが推奨される。上記勧告は、網膜毒性に関する危険因子を、以下の内の1または複数を含むこととして概説する。すなわち、1000gを超えるHCQ硫酸塩の総累計投与量、HCQ硫酸塩の維持用量>6.5mg/kg/日、腎機能不全、肝疾患、基礎網膜疾患、60歳を超える年齢である。年1回の検診は、10−2自動視野検査を、以下の検査、すなわち、多局所網膜電位図(mfERG)、スペクトラルドメイン光干渉断層撮影(SD−OCT)、または眼底自発蛍光(FAF)の内の少なくとも1種と共に含む必要がある。mfERG検査は機能を診断する客観的な検査であるため、視野検査に代えて用いることができる。眼底検査は資料整備ためには推奨されるが、目視可能な標的黄斑症は後期の変化であり、検診の目的は毒性をより早い段階で検知することである。年1回のHCQ毒性検診において、多局所網膜電位図(mfERG)、スペクトラルドメイン光干渉断層撮影(SD−OCT)、眼底自発蛍光(FAF)、視野検査、及び/または黄斑の直接可視化の結果の悪化(検査における成績の低下及び/または網膜または黄斑所見の悪化)が示されることは、網膜毒性の発症を示している。クロロキン/ヒドロキシクロロキン毒性における初期の眼底変化としては、中心窩反射の減損、黄斑浮腫、及び赤色除去フィルタによって際立つ色素の微細な斑点が挙げられる。上記斑点の出現は視野検査の結果とはあまり相関しない。低い網膜毒性(すなわち、より少ない網膜毒性)とは、これらの検査の結果が安定し、最初の治療前のベースライン検査で得られたベースラインの結果から変化していないことを意味する。
本明細書に記載の、HCQなどの従来の療法に比較して低いDHCQの毒性の発見は、網膜毒性に関する懸念を減少させ、それ故に、DHCQが用いられる場合には、HCQと比較して、網膜毒性の検診を大幅に後から安全に開始することができる。一実施形態において、DHCQを用いることによって、治療開始後約5年で開始して、網膜毒性検診を安全に行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、治療開始後約7年で開始して、網膜毒性検診を安全に行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、治療開始後約10年で開始して、網膜毒性検診を安全に行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、治療開始後約15年で開始して、網膜毒性検診を安全に行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、治療開始後約20年で開始して、網膜毒性検診を安全に行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、網膜毒性検診を実施しないことが可能となる。対照的に、HCQを用いる場合は、網膜毒性検診を、ベースライン時及びHCQ療法の開始後5年で開始して、年1回必要とする。
同様に、DHCQの低毒性により、HCQによる治療と比較して、より少ない頻度の網膜毒性検診が可能になる。一実施形態において、DHCQを用いることによって、網膜毒性検診を安全に約1年間隔で行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、網膜毒性検診を安全に約18ヶ月間隔で行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、網膜毒性検診を安全に約2年間隔で行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、網膜毒性検診を安全に約3年間隔で行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、網膜毒性検診を安全に約5年間隔で行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、網膜毒性検診を安全に約7年間隔で行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、網膜毒性検診を安全に約10年間隔で行うことが可能となる。別の実施形態において、DHCQを用いることによって、患者が、如何なる網膜検診も行うことなく治療を継続することが可能となる。
別の実施形態において、DHCQを治療に使用することによって、以前ヒドロキシクロロキンを使用していた個体を始めとする(但し、それらに限定されない)、網膜毒性に対する危険性が高い人において、アミノキノリン療法を安全に用いるまたは継続して用いることが可能となる。一実施形態において、DHCQを使用することによって、以前に約2.5年よりも長くHCQを使用したために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある個体の治療(または継続した治療)が可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、以前に約5年よりも長くHCQを使用したために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある個体の治療(または継続した治療)が可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、以前に約7年よりも長くHCQを使用したために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある個体の治療(または継続した治療)が可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、以前に約10年よりも長くHCQを使用したために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある個体の治療(または継続した治療)が可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、以前に約15年よりも長くHCQを使用したために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある個体の治療(または継続した治療)が可能となる。
別の実施形態において、DHCQ療法を用いることによって、60歳を超える個体においてアミノキノリン療法(または継続した療法)が可能となる。別の実施形態において、DHCQ療法を用いることによって、低身長または低体重の個体、網膜症を有する個体、基礎疾患としての網膜症の危険性を有する個体、他の眼症状を有する個体、または1000グラム以上のHCQを摂取してきた個体の治療が可能となる。文献において、ある場合には短躯または小柄と呼ばれる低身長とは、60kg未満すなわち135ポンド未満の体重のヒトをいう。
別の実施形態において、DHCQを使用することによって、1000グラム以上のHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきたために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある患者において、アミノキノリン療法(または継続した療法)が可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、2000グラム以上のHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきたために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある患者において、アミノキノリン療法(または継続した療法)が可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、3000グラム以上のHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきたために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある患者において、アミノキノリン療法(または継続した療法)が可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、5000グラム以上のHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきたために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある患者において、アミノキノリン療法(または継続した療法)が可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、500グラムを超えるHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきたために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある患者において、アミノキノリン療法の危険性が低減される。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、250グラムを超えるHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきたために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある患者において、アミノキノリン療法の危険性が低減される。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、100グラムを超えるHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきたために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある患者において、アミノキノリン療法の危険性が低減される。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、50グラムを超えるHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきたために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある患者において、アミノキノリン療法の危険性が低減される。
別の実施形態において、DHCQを使用することによって、1000グラム以上のDHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきたために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある患者において、アミノキノリン療法を安全に用いることが可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、2000グラム以上のDHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきたために、容認できない水準の網膜毒性の危険性がある患者において、アミノキノリン療法を安全に用いることが可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、3000グラム以上のDHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきた患者において、アミノキノリン療法を安全に用いることが可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、5000グラム以上のDHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきた患者において、アミノキノリン療法を安全に用いることが可能となる。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、500グラムを超えるDHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきた患者において、アミノキノリン療法を用いることの危険性が低減される。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、250グラムを超えるDHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきた患者において、アミノキノリン療法を用いることの危険性が低減される。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、100グラムを超えるDHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきた患者において、アミノキノリン療法を用いることの危険性が低減される。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、50グラムを超えるDHCQの投与量をその生涯においてに摂取してきた患者において、アミノキノリン療法を用いることの危険性が低減される。
別の実施形態において、DHCQを使用することによって、HCQを始めとする(但し、それには限定されない)抗マラリア剤を用いる療法の候補になるであろう患者において、アミノキノリン療法由来の網膜毒性の危険性が低減される。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、HCQを始めとする(但し、それには限定されない)抗マラリア剤を用いる療法の候補になるであろう、肥満症の患者(肥満指数>30)において、アミノキノリン療法由来の網膜毒性の危険性が低減される。別の実施形態において、DHCQを使用することによって、ヒドロキシクロロキンを始めとする(但し、それには限定されない)抗マラリア剤を用いる療法の候補になるであろう患者または低身長(肥満指数<18.5)及び/若しくは低い理想体重(<60kg)において、アミノキノリン療法由来の網膜毒性の危険性が低減される。
別の実施形態において、DHCQを使用することによって、HCQを始めとする(但し、それには限定されない)抗マラリア剤を用いる療法の候補になるであろう、腎障害(クレアチニンクリアランス<60ml/ml)または肝障害(血清アルブミン<3.5mg/dLまたはINR>1.2または直接ビリルビン>0.2mg/dL)を有する患者において、アミノキノリン療法由来の網膜毒性の危険性が低減される。
別の実施形態において、DHCQを使用することによって、ヒドロキシクロロキンを始めとする(但し、それには限定されない)抗マラリア剤を用いる療法の候補になるであろう、(糖尿病性または高血圧性の網膜症、黄斑変性症、または以前の網膜外傷を始めとする)基礎疾患としての網膜疾患を有する患者において、アミノキノリン療法を用いることの危険性が低減される。
別の実施形態において、DHCQを使用することによって、ヒドロキシクロロキンを始めとする(但し、それには限定されない)抗マラリア剤を用いる療法の候補になるであろう、(糖尿病患者、高血圧患者、及び黄斑変性症の強い家族歴を有する患者を始めとする)網膜の合併症の危険性がある患者において、アミノキノリン療法を用いることの危険性が低減される。
スタチンはHMG−CoA還元酵素の阻害因子である。これらの薬剤は、種々の刊行物に詳細に記載されている。例えば、メバスタチン及び関連化合物が米国特許第3,983,140号に開示され、ロバスタチン(メビノリン)及び関連化合物が米国特許第4,231,938号に開示され、プラバスタチン及び関連化合物が米国特許第4,346,227号に開示され、シンバスタチン及び関連化合物が米国特許第4,448,784号及び第4,450,171号に開示され、フルバスタチン及び関連化合物が米国特許第5,354,772号に開示され、アトルバスタチン及び関連化合物が米国特許第4,681,893号、第5,273,995号及び第5,969,156号に開示され、並びにセリバスタチン及び関連化合物が米国特許第5,006,530号及び第5,177,080号に開示される。更なるスタチン化合物が米国特許第5,208,258号、第5,130,306号、第5,116,870号、第5,049,696号、再発行特許第36,481号、及び再発行特許第36,520号に開示される。スタチンはそれらの塩及び/またはエステルを包含する。
本発明の目的のためには、DHCQ(またはその塩若しくはエステル)との組み合わせにおけるスタチンの有効用量は、通常は少なくとも約1週間、約2週間以上、または数ヶ月若しくは数年といった長期間までである適当な期間だけ投与される場合において、当該疾患の進行の低減を裏付けることとなる用量である。初期の投与はかかる期間だけ行われ、その後維持投与が行われてもよく、いくつかの場合において、該維持投与は少ない用量とすることとなる。
スタチンの製剤及び投与は周知であり、一般的に、従来の用法に従う。炎症を治療するために必要な用量は、高コレステロール血症の治療に用いられる用量に相当するものであってもよい。例えば、アトルバスタチンは、少なくとも約1mg、少なくとも約5mg、少なくとも約10mg、且つ約250mg以下、約150mg以下、または80mg以下(但し、それらの間の値、範囲、及び部分範囲を含む)の日用量で投与することができる。一般的にはスタチン、特にアトルバスタチンは、1日当たり約1〜250mg(約0.01〜2.5mg/kg)、DHCQは具体的には約50〜1000mg(約0.83〜16.67mg/kg)の用量で用いることができる。表1は、半減期(T1/2 )、最高濃度(mg/Lで表したCmax )、Cmax に到達するまでに要する時間(時間で表したTmax )、体積分布(Lで表したVd )及びパーセントで表したアトルバスタチンの経口での生物学的利用能を示す。
DHCQ(またはその塩若しくはエステル)、及び/またはスタチンは、治療のための投与用の種々の製剤に組み込むことができる。より詳細には、本発明の化合物は、単独若しくはアミノキノリンとの組み合わせのいずれかにおいて、適当な薬学的に許容される担体または希釈剤と組み合わせにより、医薬組成物に製剤化することができ、また、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤、ゲル、ミクロスフェア、及びエアロゾールなどの、固体、半固体、液体または気体の形態の製剤に処方することができる。従って、該化合物の投与は、経口、口腔、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮、気管内、関節内などの投与を始めとする種々の方法で行うことができる。上記活性薬剤は、投与後に全身性であってもよいし、あるいは、局所投与、壁内投与を用いることによって、または移植の部位において活性な用量を保持するように作用する移植を用いて、局在化させてもよい。特定の実施形態において、上記製剤は経口製剤である。
併用療法を用いることによって、いずれかの単剤療法の従来の投薬の効能を超える効能を始めとする顕著な効能を達成しつつ、それぞれの単剤療法の用量を、標準的な実施において現在用いられているものよりもより低くすることができる。当業者は、用量水準は、具体的な化合物、症状の重篤度、及び投薬対象の副作用に対する感受性の関数として変化し得ることを容易に認識することとなる。いくつかの具体的な化合物は他の化合物よりもより効能が高い。所与の化合物の好ましい用量は、当業者により、様々な手段によって容易に決定される。好ましい手段としては、所与の化合物の生理学的効力を測定することである。併用療法を用いることによって、いずれかの単剤療法の従来の投薬によって達成される効能よりもより大きな効能を始めとする顕著な効能を達成しつつ、それぞれの単剤療法の用量を、標準的な実施において現在用いられているものよりもより低くすることができる。
本発明の方法において有用なスタチンの具体的な例としては、アトルバスタチン(リピトール(登録商標))、セリバスタチン(リポバイ(登録商標))、フルバスタチン(レスコール(登録商標))、ロバスタチン(メバコール(登録商標))、メバスタチン(コンパクチン(登録商標))、ピタバスタチン(リバロ(登録商標))、プラバスタチン(プラバコール(登録商標))、ロスバスタチン(クレストール(登録商標))、シンバスタチン(ゾコール(登録商標))等である。
本発明の併用医薬製品は、活性成分であるDHCQ及びスタチンの単一の製剤として、または2つの別個の製剤として提供することができる上記製品であって。特定の実施形態において、上記併用は、疾患マーカーまたは疾患の症状において、単一の薬剤としてのいずれかの薬物の投与に対比して、相乗的な改善を与える。
いくつかの実施形態において、活性薬剤の製剤または組み合わせは、DHCQとアトルバスタチンとの組み合わせから本質的になる、すなわち、当該製剤中には、賦形剤、包材などは存在することとなるが、更なる活性薬剤は含まれない。いくつかの実施形態において、上記製剤は、アスピリンを始めとするNSAIDを含まない。いくつかの実施形態において、上記製剤は、葉酸または葉酸塩を含まない。重要なこととして、上記組み合わせは、抗生剤、抗ウィルス剤、または抗菌剤の使用を必要とせず、いくつかの実施形態において、上記製剤は、抗生剤、抗ウィルス剤、または抗菌剤を含まない。
上記組み合わせは、上記2種の薬物の用量比に基づいて規定することができ、ここでDHCQは通常、存在する塩基薬物の量として表される、すなわち、対イオンの重量の寄与を含まない。上記組成物がDHCQ及びアトルバスタチンを含む場合、これら2種の活性薬剤の比率は、約160mg:80mg(約2.6mg/kg:1.3mg/kg)〜約600mg:1mg(約10mg/kg:0.016mg/kg)、約500mg:100mg(約8.33mg/kg:1.6mg/kg)〜約500mg:10mg(約8.33mg/kg:0.16mg/kg)、約100mg:10mg(約1.6mg/kg:0.16mg/kg)〜約600mg:10mg(約10mg/kg:0.16mg/kg)、約150mg:10mg(2.5mg/kg:0.16mg/kg)まで、約600mg:20mg(約10mg/kg:0.28mg/kg)までの範囲であってもよい。
特定の実施形態において、デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)及びアトルバスタチンの組み合わせは、以下の内の1の1日1回の固定用量(DHCQ塩基(mg):アトルバスタチン塩基(mg))で投与される。すなわち、約800:80、約600:80、約500:80、約465:80、約450:80、約425:80、約400:80、約375:80、約325:80、約310:80、約300:80、約275:80、約250:80、約225:80、約200:80、約155:80約100:80、約800:60、約600:60、約500:60、約465:60、450:60、約425:60、約400:60、約375:60、約325:60、約310:60、約300:60、約275:60、約250:60、約225:60、約200:60、約155:60約100:60、800:50、600:50、500:50、465:50、450:50、425:50、400:50、375:50、325:50、310:50、約300:50、約275:50、約250:50、約225:50、約200:50、約155:50、約100:50、約800:45、約600:45、約500:45、約465:45、約450:45、約425:45、約400:45、約375:45、約325:45、約310:45、約300:45、約275:45、約250:45、約225:45、約200:45、約155:45、約100:45、約800:40、約600:40、約500:40、約465:40、約450:40、約425:40、約400:40、約375:40、約325:40、約310:40、約300:40、約275:40、約250:40、約225:40、約200:40、約155:40、約100:40、約800:35、約600:35、約500:35、約465:35、約450:35、約425:35、約400:35、約375:35、約325:35、約310:35、約300:35、約275:35、約250:35、約225:35、約200:35、約155:35、約100:35、約800:30、約600:30、約500:30、約465:30、約450:30、約425:30、約400:30、約375:30、約325:30、約310:30、約300:30、約275:30、約250:30、約225:30、約200:30、約155:30、約100:30、約800:25、約600:25、約500:25、約465:25、約450:25、約425:25、約400:25、約375:25、約325:25、約310:25、約300:25、約275:25、約250:25、約225:25、約200:25、約155:25、約100:25、約800:20、約600:20、約500:20、約465:20、約450:20、約425:20、約400:20、約375:20、約325:20、約310:20、約300:20、約275:20、約250:20、約225:20、約200:20、約155:20、約100:20、約800:15、約600:15、約500:15、約465:15、約450:15、約425:15、約400:15、約375:15、約325:15、約310:15、約300:15、約275:15、約250:15、約225:15、約200:15、約155:15、約100:15、約800:10、約600:10、約500:10、約465:10、約450:10、約425:10、約400:10、約375:10、約325:10、約310:10、約300:10、約275:10、約250:10、約225:10、約200:10、約155:10、約100:10、約800:5、約600:5、約500:5、約465:5、約450:5、約425:5、約400:5、375:5、約325:5、約310:5、約300:5、約275:5、約250:5、約225:5、200:5、約155:5、または約100:5である。
2種の薬剤(例えば、DHCQ及びアトルバスタチンなどのスタチン)の相乗的な活性を実証し、臨床研究のための適当な固定用量比を確立するために、異なる量の2種の薬剤が炎症性疾患の適当な動物モデルに、疾患の活動時(疾患発症後)または前臨床疾患を代表する初期の時点のいずれかで投与され、疾患の活動性または進行に対する効果が測定される。あるいは、異なる量の2種の薬剤の効果が、疾患の病因に関与し得る炎症を媒介する細胞応答において試験される。
好ましい投与の経路を決定する及び対応する剤形及び量、並びに投与レジメン、すなわち、投与頻度を決定することは、臨床医の技術水準の範囲内である。特定の実施形態において、上記併用療法は、1日1回(s.i.d.)の投与で送達されることとなる。他の実施形態において、1日2回(b.i.d.)の投与が用いられてもよい。但し、この一般化は、特定の種類の炎症性疾患、関与する特定の治療薬及びその薬学動態プロファイル、並びに関与する特定の個体などの重要な変数を考慮に入れてはいない。市場で認可された製品に関しては、この情報の多くは、既にかかる認可を得るために行われた臨床試験の結果によって提供されている。他の場合において、かかる情報は、当業者の知識及び技量に照らして、入手した当該の詳細説明に含まれる教示及び指針に従って簡単に得ることができる。得られた結果は、認可された製品の、同一のアッセイにおける対応する評価に由来するデータと相関させることができる。
いくつかの実施形態において、DHCQは、この薬剤が広い分布、ひいては長い最終的な半減期を有することから、血液及び組織において、確実により迅速に治療レベルに到達するように、より高い初期用量範囲(負荷用量)で投与される。かかる負荷により、単回投与での毎日の投与よりもより迅速に定常状態の血液レベルに到達し、組織レベルが増加し、より早く治療効果が得られる(Furstら、Arthritis Rheum 1999年2月、42(2):357〜65)。HCQに対して用いられる負荷用量に基づいて、DHCQに対する一般的な負荷用量は、約500〜1600mg/d(約8.33〜26.6mg/kg/d)の範囲で、約1〜24週間または約1〜16週間とすることができる。この負荷用量は、スタチンとは別個に投与され、単独で行われる、またはスタチンと組み合わせて行われる、のいずれであってもよく、初回の負荷用量及びそれに続く安定した毎日の投薬での継続、若しくは他の、目標の薬物レベル及び薬力学的有効性に到達するために十分な規則的な投薬間隔を容易にすることとなる、日々の投薬に関する明確な情報を提供する、ブリスター包装による「投薬パック」または他の仕組みの使用を含む。負荷用量は一般的に1〜16週の間毎日行われ、それに続いて、用量が一般的な維持用量である1日当たり約400〜800mg(約6.67〜13.3mg/kg/日)、または1日当たり約550〜700mg(9.16〜11.67mg/kg/日)へと低減される。DHCQは、1日1回の投薬(例えば、1日当たり約600mg[約10mg/kg/日]を経口投与)、または分割された1日2回の投薬(例えば、1日当たり2回、約300mg[合計で約10mg/kg/日]を経口投与)で送達することができる。DHCQは、1日1回の投薬(例えば、1日当たり約550mg[約9.16mg/kg/日]を経口投与)、または分割された1日2回の投薬(例えば、1日当たり2回、約275mg[合計で約9.16mg/kg/日]を経口投与)で送達することができる。
一態様において、本発明は、本発明の製剤の単位剤形を提供する。用語「単位用量」または「単位剤形」とは、ヒトの対象に対する単位の投薬として適した物理的に別個の単位をいい、各単位は薬学的に許容される希釈剤、担体、またはビヒクルと共に、所望の効果を生じるために十分な計算された量で所定量の薬物を含む。本発明の単位剤形に関する仕様は、用いられる特定の組み合わせ及び達成されるべき効果、並びに患者に関連する薬力学に依存する。
一態様において、DHCQは、適当な薬学的に許容される担体または希釈剤との組み合わせによって医薬組成物に処方され、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、懸濁剤、乳剤、座剤、注射剤、吸入剤、ゲル、ミクロスフェア、及びエアロゾールなどの固体、半固体、液体、懸濁液、乳化液、または気体の形態の製剤へと製剤化される。従って、投与は様々な方法で行うことができ、通常は経口投与による。製薬剤形において、薬物は、それらの薬学的に許容される塩の形態で投与することができ、あるいは単独で、または適当な連合体、並びに他の薬学的に活性な化合物との組み合わせで用いてもよい。以下の方法及び賦形剤は例示であり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
特定の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのTmax は、約15分〜約2時間、約15分〜約1時間、約30分〜約1時間、約30分〜約2時間、約30分〜約3時間、約1時間〜約2時間、約1時間〜約2.5時間、約1時間〜約3時間、約1時間〜約4時間、または約1時間〜約5時間、約2時間〜約6時間、約2時間〜約7時間、約1時間〜約8時間、約1時間〜約9時間、約1時間〜約10時間、約1時間〜約11時間、約1時間〜約12時間の範囲である。いくつかの他の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのTmax は、約2時間〜2.5時間、約2〜3時間、約2〜4時間、約2〜5時間、約2〜6時間、約2〜7時間、約2〜8時間、約2〜9時間、約2〜10時間、約2〜11時間、または約2〜12時間の範囲である。
特定の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのCmax (全血に対するng/mlで表される)は、約25〜50、約25〜100、約25〜150、約25〜200、約50〜75、約50〜100、約50〜150、約50〜200、約50〜250、約50〜300、約50〜400、または約50〜500の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのCmax (全血に対するng/mlで表される)は、約100〜150、約100〜200、約100〜250、約100〜300、約100〜350、約100〜400、約100〜450、約100〜500、約100〜550、約100〜600、または約100〜700の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのCmax (全血に対するng/mlで表される)は、約150〜200、約150〜250、約150〜300、約150〜350、約150〜400、約150〜450、約150〜500、約150〜550、約150〜600、約150〜650、約150〜700、または約150〜800の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのCmax (全血に対するng/mlで表される)は、約200〜250、約200〜300、約200〜350、約200〜400、約200〜450、約200〜500、約200〜550、約200〜600、約200〜650、約200〜700、約200〜750、または約200〜800の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのCmax (全血に対するng/mlで表される)は、約250〜300、約250〜350、約250〜400、約250〜450、約250〜500、約250〜550、約250〜600、約250〜650、約250〜700、約250〜750、約250〜800、または約250〜850の範囲である。
特定の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQの分布の体積(Vd、リットルで表される)は、約100〜150、約100〜200、約100〜250、約100〜300、約100〜350、約100〜400、約100〜450、約100〜500、約100〜550、約100〜600、または約100〜700の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQの分布の体積(Vd、リットルで表される)は、約150〜200、約150〜250、約150〜300、約150〜350、約150〜400、約150〜450、約150〜500、約150〜550、約150〜600、約150〜650、約150〜700、または約150〜800の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQの分布の体積(Vd、リットルで表される)は、約200〜250、約200〜300、約200〜350、約200〜400、約200〜450、約200〜500、約200〜550、約200〜600、約200〜650、約200〜700、約200〜750、または約200〜800の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQの分布の体積(Vd、リットルで表される)は、約250〜300、約250〜350、約250〜400、約250〜450、約250〜500、約250〜550、約250〜600、約250〜650、約250〜700、約250〜750、約250〜800、または約250〜850の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQの分布の体積(Vd、リットルで表される)は、約300〜350、約300〜400、約300〜450、約300〜350、約300〜400、約300〜450、約300〜500、約300〜550、約300〜600、約300〜650、約300〜700、約300〜750の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQの分布の体積(Vd、リットルで表される)は、約350〜400、約350〜450、約350〜500、約350〜550、約350〜600、約350〜650、約350〜700、約350〜750、約350〜800、約350〜850、約350〜900、または約350〜950の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQの分布の体積(Vd、リットルで表される)は、約400〜450、約400〜500、約400〜550、約400〜600、約400〜650、約400〜700、約400〜750、約400〜800、約400〜850、約400〜900、約400〜950、または約400〜1000の範囲である。
特定の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのクリアランス(Cl、時間当たりのリットルで表される)は、約0.5〜1、約0.5〜1.5、約0.5〜2、約0.5〜2.5、約0.5〜3、約0.5〜3.5、約0.5〜4、約0.5〜4.5、約0.5〜5、約0.5〜5.5、約0.5〜6、約0.5〜6.5の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのクリアランス別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのクリアランス(Cl、時間当たりのリットルで表される)は、約1〜1.5、約1〜2、約1〜2.5、約1〜3、約1〜3.5、約1〜4、約1〜4.5、約1〜5、約1〜5.5、約1〜6、約1〜6.5、約1〜7の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのクリアランス(Cl、時間当たりのリットルで表される)は、約1.5〜2、約1.5〜2.5、約1.5〜3、約1.5〜3.5、約1.5〜4、約1.5〜4.5、約1.5〜5、約1.5〜5.5、約1.5〜6、約1.5〜6.5、約1.5〜7、約1.5〜7.5の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのクリアランス(Cl、時間当たりのmlで表される)は、約150〜200、約150〜250、約150〜300、約150〜350、約150〜400、約150〜450、約150〜500、約150〜550、約150〜600、約150〜650、約150〜700、または約150〜800の範囲である。
別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのクリアランス(Cl、時間当たりのmlで表される)は、約250〜300、約250〜350、約250〜400、約250〜450、約250〜500、約250〜550、約250〜600、約250〜650、約250〜700、約250〜750、約250〜800、または約250〜850の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのクリアランス(Cl、時間当たりのmlで表される)は、約350〜400、約350〜450、約350〜500、約350〜550、約350〜600、約350〜650、約350〜700、約350〜750、約350〜800、約350〜850、約350〜900、または約350〜950の範囲である。別の実施形態において、本発明の組成物の投与後のDHCQのクリアランス(Cl、時間当たりのmlで表される)は、約400〜450、約400〜500、約400〜550、約400〜600、約400〜650、約400〜700、約400〜750、約400〜800、約400〜850、約400〜900、約400〜950、または約400〜1000の範囲である。
経口製剤に関しては、DHCQは、単独で、あるいは錠剤、懸濁剤、散剤、顆粒剤またはカプセル剤を作製するために適当な添加剤、例えば、ラクトース、マンニトール、コーンスターチ、またはジャガイモデンプンなどの従来の添加剤;結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチまたはゼラチンなどの結合剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、またはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤;タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;及び所望であれば、希釈剤、緩衝剤、保湿剤、保存剤、及び香味剤との組み合わせで用いることができる。
ビヒクル、アジュバント、担体または希釈剤などの薬学的に許容される賦形剤は市販される。更に、pH調整剤及び緩衝剤、張度調整剤、安定剤、湿潤剤などの薬学的に許容される補助物質も市販される。本発明の方法及び組成物において有用な任意の化合物は、薬学的に許容される塩基付加塩として提供することができる。「薬学的に許容される塩基付加塩」とは、当該遊離酸の生物学的有効性及び特性を維持する塩であり、生物学的にまたはその他の点で望ましからざるものではない上記塩をいう。これらの塩は、当該遊離酸に対して無機塩基または有機塩基を添加することによって調製される。無機塩基から誘導される塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム塩等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい無機塩は、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウム塩である。有機塩基から誘導される塩としては、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N−エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などのような、天然に存在する置換アミン、環状アミン及び塩基性イオン交換樹脂を始めとする第一級、第二級、及び第三級アミン、置換アミンの塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。代表的な有機塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン、及びカフェインである。いくつかの実施形態において、上記塩は塩化物または硫酸塩である。他の実施形態において、上記塩は、フマル酸、コハク酸などの二座塩である。
活性薬剤、またはそれらの薬学的に許容される塩は、1または複数の不斉中心を含んでいてもよく、従って、絶対立体化学の用語で(R)−若しくは(S)−、またはアミノ酸に対しては(D)−若しくは(L)−として定義され得る、鏡像異性体、ジアステレオマー、及び他の立体異性体形態を生じることができる。本発明は、かかる全ての可能な異性体、並びにそれらのラセミ体及び光学的に純粋な形態を包含することを意味する。光学活性な(+)及び(−)、(R)−及び(S)−、または(D)−及び(L)−異性体は、キラルな出発原料またはキラルな反応剤を用いて合成することができ、または逆相HPLCなどの従来の技術を用いて分割することができる。本明細書に記載の化合物がオレフィン性二重結合または他の幾何学的非対称性の中心を含み、且つ別段の指定がない限り、当該化合物はE及びZ幾何異性体の両方を含むことが意図される。同様に、全ての互変異性形態も包含されることが意図される。
本発明の活性薬剤またはその塩は、溶媒和物及び/または結晶多形を形成していてもよく、本発明は、様々な種類のかかる溶媒和物及び結晶多形を含む。溶媒和物とは、本発明の化合物またはその塩の溶媒和物を意味し、例としては、その溶媒がアルコール(例えば、エタノール)である溶媒和物、水和物などが挙げられる。水和物の例としては、一水和物、二水和物などが挙げられる。溶媒和物は、任意の数の溶媒分子(例えば、水分子)に配位されることができる。上記化合物またはその塩は、大気中に放置され水分を吸収してもよく、吸着水が結合する場合、すなわち水和物を形成する場合があり得る。更に、上記化合物またはその塩は、再結晶化してそれらの結晶多形を形成させてもよい。
本明細書で用いられる「市販」の化合物は、以下を始めとする商業的供給源から得ることができるが、それらに限定されない。すなわち、Acros Organics社(ペンシルベニア州ピッツバーグ)、Aldrich Chemical社(ウィスコンシン州、ミルーウォーキー、Sigma Chemical社及びFluka社を含む)、Apin Chemicals社(英国、ミルトンパーク)、Avocado Research社(英国、ランカシャー)、BDH社(カナダ、トロント)、Bionet社(英国、コーンウォール)、Chemservice社(ペンシルベニア州、ウェストチェスター)、Crescent Chemical社(ニューヨーク州、ホーポージ)、Eastman Organic Chemicals社、Eastman Kodak社(ニューヨーク州、ロチェスター)、Fisher Scientific社(ペンシルバニア州、ピッツバーグ)、Fisons Chemicals社(英国、レスターシャー州)、Frontier Scientific社(ユタ州、ローガン)、ICN Biomedicals社(カリフォルニア州、コスタメサ)、Key Organics社(英国、コーンウォール)、Lancaster Synthesis社(ニューハンプシャー州、ウィンダム)、Maybridge Chemical社(英国、コーンウォール)、Parish Chemical社(ユタ州、オレム)、Pfaltz & Bauer社(コネチカット州、ウォーターベリー)、Polyorganix社(テキサス州、ヒューストン)、Pierce Chemical社(イリノイ州、ロックフォード)、Riedel de Haen社(ドイツ、ハノーバー)、Spectrum Quality Product社(ニュージャージー州、ニューブランズウィック)、TCI America社(オレゴン州、ポートランド)、Trans World Chemicals社(メリーランド州、ロックビル)、和光ケミカルUSA社(バージニア州、リッチモンド)、Novabiochem社及びArgonaut Technology社である。
化合物はまた、当業者に公知の方法によって製造することもできる。本明細書において用いられる「当業者に公知の方法」は、様々な参考図書及びデータベースを通して確認することができる。本発明の化合物の調製に有用な反応剤の合成を詳述する、または上記調製を説明する文献の参照を提供する適当な参考書及び論文としては、例えば、「合成有機化学」(「Synthetic Organic Chemistry」)、John Wiley & Sons社、ニューヨーク;S.R.Sandlerら、「有機官能基の合成」(「Organic Functional Group Preparations」)第2版、Academic Press、ニューヨーク、1983;H.O.House、「現代合成反応」(「Modern Synthetic Reactions」)、第2版、W.A.Benjamin社、カリフォルニア州メンローパーク 1972;T.L.Gilchrist「複素環化学」(「Heterocyclic Chemistry」)、第2版、John Wiley & Sons社、ニューヨーク、1992;J.March、「先端有機化学:反応、機構及び構造」(「Advanced Organic Chemistry:Reactions, Mechanisms and Structure」)、第4版、Wiley Interscience、ニューヨーク、1992が挙げられる。特定の反応剤及び類似物はまた、アメリカ化学会のケミカルアブストラクト・サービスによって作成された既知化学品の索引によって確認することもでき、ケミカルアブストラクト・サービスは殆どの公共及び大学の図書館、並びにオンラインデータベースにおいて利用可能である(更なる詳細は、ワシントンD.C.のアメリカ化学会に連絡することができる。)。既知の化学品であるがタカログ掲載品として市販されていないものは、注文による化学品合成会社によって調製することができ、(例えば、上記に掲げた)通常の化学品供給会社の多くが、注文合成サービスを提供している。
具体的な薬物が本明細書に例示されてはいるが、本開示の企図に基づいて当業者に明らかな、これらに代わる多くの薬物及び方法のいずれもが、本発明の実施において用いられることに対して同様に適用可能であり、好適である。本発明の方法、並びに特定の患者または応用における当該方法の有効性を判定するための試験は、本明細書の教示に従い、本技術分野で標準的な手順を用いて実施することができる。従って、本発明の実施は、当業者の範囲内の(組換え技術を含む)分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来技術を用いることができる。かかる技術は、「分子クローニング:実験室操作法」(「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」)、第2版(Sambrookら、1989);「オリゴヌクレオチド合成」(「Oligonucleotide Synthesis」)(M.J.Gait編、1984);「動物細胞培養」(「Animal Cell Culture」)(R.I.Freshney編、1987);「酵素学における方法」(「Methods in Enzymology」)(Academic Press社);「実験免疫学ハンドブック」(「Handbook of Experimental Immunology」)(D.M. Weir及びC.C. Blackwell編);「哺乳動物細胞への遺伝子導入ベクター」(「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」)(J.M.Miller及びM.P.Calos編、1987);「分子生物学の最新プロトコル」(「Current Protocols in Molecular Biology」)(F.M.Ausubelら編、1987);「PCR:ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR:The Polymerase Chain Reaction」)(Mullisら編、1994);及び「免疫学における最新プロトコル」(「Current Protocols in Immunology」)(J.E. Coliganら編、1991);並びに上記の全ての更新版または改訂版などの文献に詳細に説明されている。
用語「対象」(「被験者」)、「個体」及び「患者」は本明細書において互換的に用いられ、治療のために診断を受ける及び/または治療を受ける哺乳動物を指す。ある実施形態において、上記哺乳動物はヒトである。従って、用語「対象」(「被験者」)、「個体」及び「患者」は、前段または初期段階の炎症性疾患を有するヒトを包含する。対象(被験者)はヒトであってよいが、他の哺乳動物、特にヒト疾患のための実験用モデルとして有用である哺乳動物、例えばマウス、ラット、ネコ、イヌ、ウマ等を包含する場合がある。
本明細書において用いられる表現「体液」とは、当該液体中に、検査対象である化合物を、用いられる検査装置またはアッセイの検出限界以内である十分な濃度で含み得る、臨床検体として用いることができる、入手可能な体液の全てを包含することが意図される。従って、体液としては、全血、血清、血漿、尿、脳脊髄液、滑液、間質性及びその他の細胞外液、特に罹患関節の滑液が挙げられることとなる。いくつかの実施形態において、初期の炎症の異常なマーカーの判定に用いられる体液は、初期の関節炎に罹患していると疑われる関節由来の滑液である。他の実施形態において、マーカーの判定に用いられる体液は、例えば、血液、尿等の全身性のものである。
試験される上記液体の採取及び保存には注意を払う必要がある。関与する検査を液体が採取された直後に行うことができる場合を除き、検査対象である化合物のタンパク質分解を避けるためのステップを採る必要があり、通常、当該液体の凍結が妥当とされる。滑液中の検査対象である化合物の濃度がより高いであろう蓋然性から、通常は、血清よりもむしろ滑液を用いることが好ましい。一方、滑液における高い粘度レベルは、技能者によって取り扱われることとなるであろう免疫測定システムにおいて問題を起こす。個体が関節軟骨変性の初期段階にあるか、従って本発明の方法による介入治療の候補であるかの判定において、可能な限り最も正確なプロファイルを得るために、サイトカイン及びマーカー並びにそれらのそれぞれの阻害因子及び結合タンパク質の選択の長期的な検討を行うことが好ましい場合がある。
本発明の方法は、治療目的のみならず予防のために使用することができる。一実施形態において、本明細書で用いられる用語「治療する」とは、初期段階の炎症性疾患の危険性が高い、または該疾患の初期段階にある個体における予防的、すなわち病気を防ぐための使用をいう。かかる個体において、治療は、疾患の症状または徴候の発現を防止する、疾患の発症を防止する、及び/または疾患の徴候または症状を逆行させる。別の実施形態において、用語「治療する」とは、定着した疾患を有する個体を治療し、疾患の症状または徴候を低減する、疾患の進行を防止する、及び/または疾患の徴候の症状を逆行させることをいう。
炎症性疾患の危険性が高い、または初期段階の炎症性疾患を有する個体は、一般的に無症候性であり、当該疾患の症状及び徴候を全く示さないか、僅かにしか示さない。いくつかの実施形態において、炎症性疾患を発症する危険性が高い個体が、炎症性疾患の徴候を発現する、炎症性疾患の症状を発現する、または炎症性疾患を発症することを予防的に防ぐために、DHCQを用いて治療される。いくつかの実施形態において、炎症性疾患を発症する危険性が高い個体が、炎症性疾患の徴候または炎症性疾患の症状の進行を示すことを防止する、及び/または炎症性疾患を発症することを防止するために、DHCQを用いて治療される。このように、本発明は、疾患の臨床的症状若しくは徴候の発現を防止する、または疾患の臨床的症状若しくは徴候の進行を防止することによって、危険性がある個体、前臨床所見を有する個体、または初期段階の疾患を有する個体の治療において、顕著な進歩を提供する。かかる治療は、疾患の臨床的症状または徴候の発現の前、且つ、罹患した組織における機能の著しい減損の前、すなわち、炎症性疾患状態の「危険性が高い」または炎症性疾患状態の「初期段階」において行われることが望ましい。
特定の実施形態において、本発明は、炎症性疾患の危険性が高い、前臨床の炎症性疾患を有する、若しくは初期段階の炎症性疾患を有するが無症候性である、または初期及び軽度の疾患の症状若しくは徴候を有するヒトまたは他の哺乳動物の治療を提供し、本明細書において、これらの下位群の全てが、炎症性疾患または炎症を伴う疾患を発症する危険性が高い患者と呼ばれる。かかる前臨床または初期段階の炎症性疾患を有する無症候性である個体において、本発明は、症候性炎症性疾患の発症を防止し、当該疾患の徴候の発現を防止し、または初期の症候性炎症性疾患の進行を低減することができる。炎症性疾患の徴候の初期症状を有する個体において、かかる初期症状及び徴候が出ているのが6ヶ月未満であるか、重篤度が軽度である場合には、本発明は、炎症性疾患の完全症状の発現を防止すること、疾患の徴候及び特徴の発現を防止すること、または初期段階の炎症性疾患の進行を低減することができる。本発明の一態様は、症候性炎症性疾患の発症を防ぐための、前臨床のまたは初期段階の炎症性疾患を有する無症候性の個体の治療である。
様々な実施形態において、本発明は、詳細には、(あるケース及び疾患においては、軽度の症状、または断続的な症状、または6ヶ月未満の症状を有する場合がある)初期段階の炎症性疾患または定着した炎症性疾患を有するヒト及び他の哺乳動物の治療を提供する。初期段階のまたは定着した炎症性疾患を有するかかる症候性の個体において、本発明は、炎症性疾患の症状及び徴候の進行を防止する、または炎症性疾患の症状及び徴候の重篤度を低減することができる。
一実施形態において、炎症性疾患の発症の危険性が高い個体の治療は、炎症性疾患の発症の全体としての危険性を低減した。個体の炎症性疾患の発症の危険性を減少させるとは、DHCQを用いた治療を受けた個体または個体の群に関して、DHCQを用いた治療を受けていない個体における炎症性疾患の発症率(類似の特性を有する患者集団に関して、または代わりの療法によって治療を受けた個体に関して、文献中で以前に報告されたもののいずれか)と比較して、少なくとも約25%、少なくとも約35%、少なくとも約45%、約55%程度、少なくとも約65%、少なくとも約75%低い炎症性疾患の発症率となるであろうこと、及び約50%または最大で約50%低い該発症率となり得ることを意味する。
炎症性疾患を発症するとは、医師によって正式に炎症性疾患と診断されることを意味する。更に、炎症性疾患を発症するとは、炎症性疾患の確立した診断基準に合致し、ひいては、医師が、個体が炎症性疾患であると診断することを可能にする症状、身体所見検査の所見、臨床検査所見、画像診断所見、及び他の所見を発現することを意味する。
本明細書において用いられる「現在または将来的に」との表現は、当該判定を行う下記の方法に従って、個体が、現在かかる治療を必要としている、または近い将来かかる治療が大いに必要になりそうである、若しくは必要になることが予想されることを特定することが可能であることを意味することが意図される。予期される治療の必要性は、当業者の経験から、初期段階の炎症性疾患に直接繋がる陽性因子の判定によって確定することができる。
「炎症性疾患または炎症を伴う疾患を発症する危険性が高い」(本明細書において、「危険性が高い」ともいう。)とは、無症候性ではあるが、かかる疾患を発症する高い蓋然性を有する個体、軽度の症状を有し、かかる疾患を発症する高い蓋然性を有する個体、無症候性ではあるが、かかる疾患の前臨床段階にある個体、軽度の症状を有するが、かかる疾患の前臨床段階にある個体、無症候性ではあるが、疾患の初期段階にある個体、及び軽度の症状を有し、疾患の初期段階にある個体を意味することが意図される。「炎症性疾患の初期段階」とは、初期の病理学的変化の極めて初期を意味することが意図される。該病理学的変化としては、罹患した組織または器官の組成、形態、密度、徴候並びに/または炎症の状態及び/若しくは代謝の状態の、健康な個体にみられるそれ(組織または器官の組成、形態、密度、徴候並びに/または炎症の状態及び/若しくは代謝の状態)と比較しての変化が挙げられる。
炎症性疾患または炎症を伴う疾患を発症する危険性が高い個体は、DHCQを用いた治療を受けて、疾患の発症を防止する、疾患の徴候の発現を防止する、症候性疾患の発症を防止する、疾患の徴候若しくは症状の進行を防止する、または炎症の進行を防止する、あるいは代謝異常の進行を防止する、または関連する代謝性疾病若しくは疾患の進行を防止することができる。DHCQは、錠剤、カプセル剤または懸濁剤を用いて経口投与により送達することができる。
HCQの網膜毒性により、炎症性疾患または炎症を伴う疾患の危険性がある、該疾患の前臨床段階にある、または該疾患の初期段階にあるヒトを治療するためのHCQの医学的使用が大幅に制限される。多くの医師は、約5年の治療後でほぼ0.5〜1%の網膜毒性発症の危険性(発生率)、約7年の治療後でほぼ1%の網膜毒性発症の危険性、及び約10〜15年の治療後でほぼ2%の網膜毒性発症の危険性故に、炎症性疾患または炎症を伴う疾患の危険性がある、該疾患の前臨床段階にある、または該疾患の初期段階にある個体を、数年間または数十年間HCQを用いて治療することに対して消極的である。医師または他の医療の専門家から、炎症性疾患または炎症を伴う疾患の前臨床段階にある、または該疾患の初期段階にあることを伝えられた個々のヒトは、上記の、約5年の治療後でほぼ0.5〜1%の網膜毒性発症の危険性(発生率)、約7年の治療後でほぼ1%の網膜毒性発症の危険性、及び約10〜15年の治療後でほぼ2%の網膜毒性発症の危険性故に、疾患の発症を防止することを試みるために、数年間または数十年間HCQを摂取することに対して消極的または不本意である。
DHCQが確実な抗炎症効果を有する一方で、僅かな網膜細胞毒性しか有さず、それによって、DHCQを、炎症性疾患または炎症を伴う疾患の危険性がある個体を治療して該疾患の発症を防止するために、数年間または数十年間安全に使用することが可能になることは、予想外且つ驚くべき知見である。DHCQが確実な抗炎症効果を有する一方で、僅かな網膜細胞毒性しか有さず、それによって、DHCQを、炎症性疾患または炎症を伴う疾患の前臨床段階にある個体を治療して該疾患の発症または進行を防止するために、数年間から数十年間安全に使用することが可能になることは、予想外且つ驚くべき知見である。DHCQが確実な抗炎症効果を有する一方で、僅かな網膜細胞毒性しか有さず、それによって、DHCQを、炎症性疾患または炎症を伴う疾患の前臨床段階にある個体を治療して該疾患の発症または進行を防止するために、数年間から数十年間安全に使用することが可能になることは、予想外且つ驚くべき知見である。DHCQによる療法を用いた場合、HCQの累積用量と同様の累積用量に対する、且つ同様の投与期間にわたっての網膜毒性の発生率は、HCQによる療法を用いた場合に観測される発生率よりも、約30、40、50、60、または70%低いことが予想される。DHCQによる療法を用いた場合、約5年の治療後での網膜毒性の率(発生率)は0.5%未満、または0.25%未満、または0.1%未満と予想される。DHCQによる療法を用いた場合、約7年の治療後での網膜毒性の発生率は0.6%未満、または0.5%未満、0.25%未満、または0.1%未満と予想される。DHCQによる療法を用いた場合、約10年の治療後での網膜毒性の発生率は1%未満、または0.75%未満、または0.5%未満、0.25%未満、または0.1%未満と予想される。DHCQによる療法を用いた場合、約15年の治療後での網膜毒性の発生率は1.5%未満、または1%未満、または0.5%未満、または0.25%未満、または0.1%未満と予想される。
別の実施形態において、本発明は、定着した炎症性疾患を有する個体の治療を提供する。上記炎症性疾患は、医師が、当該個体が当該炎症性疾患を有することを正式に診断することを可能にする症状、徴候、臨床的特徴、臨床検査結果、画像診断検査結果、マーカーの結果、及びその他の所見を呈する個体に基づいて診断される。いくつかの実施形態において、定着した炎症性疾患とは、炎症性疾患であって、それに対して、個体が6ヶ月よりも長期の間、医師によってなされた上記疾患の正式な診断を受けている上記疾患である。定着した炎症性疾患においては、疾患の徴候または症状がより重篤な場合がある。定着した炎症性疾患においては、疾患の過程が組織または器官の損傷を引き起こす場合がある。
炎症性疾患の発症の危険性が高い個体、初期段階の炎症性疾患を有する個体、または定着した炎症性疾患を有する個体を、本発明のDHCQによって治療して、疾患の発症を防止する、疾患の進行を防止する、及び疾患の症状または徴候の進行を防止することができる。DHCQの用量は一般的に、1日当たり約400mg、または1日当たり約500mg、または1日当たり約550、または1日当たり約600mg、または1日当たり約650mg、または1日当たり約700mg、または1日当たり約750mg、または1日当たり約800mgであるが、1日当たり25〜1600mgの間で変えることができる。炎症性疾患及び炎症を伴う疾患としては、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、クローン病、乾癬、自己免疫性肝炎、及び他の自己免疫疾患を始めとする自己免疫疾患;変形性関節症、アルツハイマー病、黄斑変性症及び他の変性疾患を始めとする変性疾患;II型糖尿病、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、高脂血症、インスリン抵抗性、代謝症候群、及び他の代謝性疾患を始めとする代謝性疾患;ヒト免疫不全ウィルス感染症、C型肝炎ウィルス感染症、サイトメガロウィルス感染症、及び他のウィルス、細菌、真菌、寄生虫及び他の感染症を始めとする、炎症を生じる慢性感染症;並びに脂肪肝疾患などの他の炎症性疾患が挙げられる。
本発明は、関節軟骨の変性若しくは破壊または軟骨下骨の再構築の治療あるいは予防方法であって、かかる治療を必要とする個体の関節における上記方法を提供し、該方法は、個体の状態が、現在または将来的に上記初期段階にあり、従ってかかる治療を必要とすると確定すること、及び、当該個体にDHCQまたはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを、上記関節軟骨若しくは軟骨下骨の変性または破壊の治療あるいは予防に治療上有効な量で投与することを含む。いくつかの実施形態において、治療の判断基準は、罹患した関節の炎症の形跡を更に含む。
OAの診断は、Kellgren−Lawrence(KL)分類システム(Kellgren及びLawrence、Ann Rheum Dis、16:494〜502、1957、参照により本明細書に具体的に組み込まれる)を用いることができる。KL分類システムは、前後方向(anterior−posterior)(AP)のX線検査に基づき、以下の通りである。すなわち、0度=OAの特徴なし;1度=OAの存在が疑わしく、微小な骨棘(複数可)の存在、関節腔は不変;2度=僅かなOA、明確な骨棘(複数可)、関節腔は不変;3度=中程度のOA、関節腔の中程度の減少;4度=重度のOA、軟骨下骨の硬化症を伴い、関節腔が大幅に減少、である。本発明の目的のためには、KLスコアは3未満であり、いくつかの実施形態においては2未満であり、望ましくは1未満である。
本明細書に記載のDHCQの使用は、いくつかの実施形態において、OAの前臨床段階または初期段階の間での介入を目的とし、該前臨床段階または初期段階の間においては、画像診断若しくは直接的可視化方法、分子マーカー分析、またはOAを発症しやすくする状況若しくは事象の病歴によって判定される、前臨床または初期段階のOAを示す少なくとも1種の異常な画像診断マーカーの存在によって定義される軽度の軟骨の異常または病変のみの形跡が存在する。本発明のDHCQ療法は、KLスコア及び/または関節腔の狭小化の安定化、または(MRI若しくは別の画像診断方法を用いた画像診断によって診断された)更なる軟骨破壊の防止、または軟骨破壊の分子マーカーのレベルの低下によって測定されるOA疾患の進行を緩和する。
前臨床または「前OA」を有する個体とは、異常な炎症マーカー、異常な生化学的マーカー、異常な画像診断マーカー、または異常な臨床マーカーによって裏付けられる、OAを発症する危険性が高い個体である。OAを発症しやすくする状況若しくは事象としては、関節への傷害の履歴;臨床的にまたはX線検査により診断された、外科的介入を伴う若しくは伴わない半月板損傷;臨床的にまたはX線検査により診断された、前または後十字若しくは内側若しくは外側の側副靭帯損傷を伴う靱帯の捻挫(Chuら、Arthritis Res Ther 2012 14(3):212、PMID:22682469);臨床的に測定された肢部長さの相違;現在または長期にわたる履歴としての期間のBMI>27を伴う肥満症;あるいは異常な歩行または関節の動きの生体運動学的特徴が挙げられるが、これらに限定されない。一般に、前臨床のOAの判定は、健常な対照試料に対する、軟骨プロテオグリカンの減損;軟骨の損傷;または分解酵素のレベルの上昇、軟骨若しくは細胞外基質の分解生成物の存在または骨の再構築を始めとする(但し、限定されない)、1以上、2以上、3以上の関節病理のパラメータ(異常なマーカー)と関連する。OAの危険性がある、前OAを有する、及び初期段階のOAを有するヒトは、多くの場合無症候性であるが、一部の患者は、軟骨の損傷(例えば半月板損傷)、靱帯損傷(例えば前十字靭帯の断裂)、または別な関節の異常に起因する関節痛を経験する。前OA及び初期段階のOAを有する個体における関節痛は、一般に本質的に断続的且つ軽度である。
健常な対照個体の関節と比較して、前臨床のOAを有する個体の関節は0のKLスコアを示し、前臨床の疾患を示す1、2、3、4またはそれ以上の異常なマーカーを有することとなる。MRIにより検知される前臨床のOAの存在を示す画像診断マーカーとしては、軟骨浮腫、軟骨プロテオグリカンの減損、軟骨基質の減損、骨髄浮腫、関節軟骨亀裂、関節軟骨変性、半月板断裂、前十字靱帯断裂、後十字靱帯断裂、及び関節内の軟骨または靭帯のその他の異常が挙げられる。超音波検査は、軟骨浮腫及び損傷の形跡を示すこととなる。関節鏡検査は、軟骨浮腫、軟骨軟化、軟骨菲薄化、軟骨亀裂、軟骨びらん、または他の軟骨の異常の直接検知または視覚化を可能にすることができる。軟骨の損傷は、多くの場合、アウターブリッジの分類基準または類似の関節内の直接観察される変化によって定義される。例えば、一つのかかる採点システムは、次のように損傷の存在を定義する。すなわち、0度=正常な軟骨;I度:軟骨の軟化及び腫大;II度:軟骨下骨に達しないまたは直径1.5cmを超えない表面の裂傷を伴う、軟骨における部分的な厚さの欠陥;III度:直径1.5cmを超える領域で軟骨下骨の深さに及ぶ軟骨における裂傷、である。OAの危険性があるまたは「前臨床のOA」を有するヒトは、無症候性であるか、またはKLスコア0であり、軽度の症状を有することがあるが、軟骨の損傷、半月板損傷、靭帯損傷、またはMRI画像診断、超音波画像診断、若しくは関節鏡検査での関節の直接の可視化に基づく関節の他の異常の徴候を有する場合がある。
健常な個体における関節と比較して、初期OAを有する個体における関節は、一般的に0または1のKLスコア(異常な画像診断マーカー)を示し、1、2、3、4、またはそれ以上の、初期疾患を示す異常なマーカーを有することとなる。罹患した関節の通常のX線検査は、骨棘なしまたは小さな骨棘、及び関節腔の狭小化なしまたは僅かな狭小化を含む、0〜2のKLスコアと一致する特徴を示すこととなろう。MRIにより検知される初期段階のOAを示す画像診断マーカーとしては、軟骨プロテオグリカンの減損、軟骨の菲薄化、軟骨亀裂または軟骨破壊が挙げられる。超音波検査は、軟骨浮腫または損傷の形跡を表示することとなる。関節鏡検査は、軟骨浮腫、軟骨軟化、軟骨菲薄化、軟骨亀裂、軟骨びらん、または他の軟骨の異常を直接検知するまたは可視化することができる。軟骨の損傷は、多くの場合、アウターブリッジの分類基準または類似の関節内の直接観察された変化によって定義される。初期段階のOAを有するヒトは、無症候性であるか、または軽度若しくは断続的な症状を有するか、または6ヶ月未満の間の症状を有する場合があるが、アウターブリッジ0度、I度及びII度のスコア、または類似の関節内の直接観察される変化によって表される軟骨の損傷、並びにMRI画像診断、超音波画像診断、または関節鏡検査での関節の直接の可視化に基づく、他の軟骨、半月板及び靭帯の損傷に関する所見を呈す場合がある。
前臨床のOA(OAの危険性があるともいう。)及び初期段階のOAとは対照的に、定着したまたは進行したOAは、X線検査でKL≧2として、またはMRIでの形跡が広範囲な、完全な、若しくは完全に近い関節軟骨の減損として定義することができる。関節障害の他のマーカーの形跡は、関節腔若しくは軟骨の広範囲な、完全な、または完全に近い減損の直接的なまたは間接鏡での可視化によって、機能面での関節の健常性を維持することができないことの生体運動学的診断によって、あるいは、全範囲で動かすことまたは正常な関節の機能を維持することができないことによって裏付けられる関節障害の臨床的診断によって判定することができる。身体所見検査において、進行したOAの患者は、骨の肥大、小規模な滲出、摩擦音、及び滑膜関節のアライメント不良を始めとする異常な臨床マーカーを有することがある。OAの重篤度を分類するために用いることができる半定量的なMRI採点システムの例としては、WORMS(Whole−Organ Magnetic Resonance Imaging Score、Peterfy CGら、Osteoarthritis Cartilage 2004、12:177〜190);KOSS(Knee Osteoarthritis Scoring System、Kornaat PRら、Skeletal Radiol 2005、34:95〜102);BLOKS(Boston Leeds Osteoarthritis Knee Score、Hunter DJら、Ann Rheum Dis 2008、67:206〜211);MOAKS(MRI Osteoarthritis Knee Score、Hunter DJら、Osteoarthritis Cartilage 2011、19(8):990〜1002);HOAMS(Hip Osteoarthritis MRI Score、Roemer FWら、Osteoarthritis Cartilage 2011、19(8):946〜62);OHOA(Oslo Hand Osteoarthritis MRI Score)が挙げられる。進行したOAは、強い関節痛及び関節機能障害による可動性の減損を起こす場合がある。
好ましい実施形態において、本発明の組成物を用いて、及び本発明の方法によって治療を受ける個体は、前臨床のOA若しくはRA(OA若しくはRAの危険性がある)または初期段階のOA若しくはRAを有する。他の実施形態において、本発明の方法によって治療される個体は、定着したOA、RAまたは他の種類の関節炎を有する。
様々なマーカーを用いて、前臨床のOA、初期段階のOA、及び進行したOAにおける炎症を診断することができ、上記マーカーとしては、画像診断マーカー、分子マーカー、及び臨床マーカーが挙げられる。異常な臨床マーカーの例としては、身体所見検査での関節滲出の存在が挙げられる。異常な臨床マーカーの別の例としては、関節における朝のこわばりの存在が挙げられる。異常な画像診断マーカーの例としては、MRIまたは超音波検査で検知される関節における炎症の徴候の使用が挙げられる。MRIはガドリニウム造影を用いてまたは用いずに実施することができ、MRIで裏付けられる炎症は、以下の所見の内の1または複数の存在として定義される。すなわち、滑膜炎(滑膜表層の肥厚、増殖、及び/または滑膜表層における明確なドップラーフロー信号を始めとする増強(信号の増加))、関節滲出、骨髄浮腫などである(Krasnokutskyら、Arthritis Rheum 2011 63(10):2983〜91 doi:10.1002/art.30471 PMID:21647860;Roemerら、Osteoarthritis Cartilage 2010年10月、18(10):1269〜74 PMID: 20691796;Guermaziら、Ann Rheum Dis 2011 70(5):805〜11、PMID:21187293)。超音波検査で裏付けられる炎症(異常画像診断マーカー)は、以下の所見の内の1または複数の存在として定義される。すなわち、滑膜表層の肥厚及び/または増強、関節滲出、骨髄の増強等である(Guermaziら、Curr Opin Rheumatol 2011 23(5):484〜91 PMID:21760511;林ら、Osteoarthritis Cartilage 2012年3月、20(3):207〜14 PMID:22266236;Haugenら、Arthritis Res Ther 2011、13(6):248 PMID:22189142)。炎症を診断するために使用することができる分子マーカーとしては、赤血球沈降速度(ESR)、CRP、サイトカイン、ケモカイン、及び他の炎症性メディエータが挙げられる。ESR及びCRPは、血液中で測定され、他の炎症の分子マーカーは、血液または滑液中で測定することができる。
一実施形態において、異常な身体所見検査マーカー、異常な画像診断マーカー(MRI所見、超音波検査所見)、異常な臨床検査マーカー(CRP、ESR)、及び他の異常なバイオマーカーを始めとするこれらの炎症マーカーの1種または複数種が、DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンを用いた治療に最も反応する蓋然性が高い活動性の炎症を有する個体を識別するために用いられる。別の実施形態において、膝の変性半月板断裂を有する個体は、膝のMRI分析及びhs−CRP臨床検査に供される。MRIの滑膜炎スコア(Guermaziら、Ann Rheum Dis 2011 70(5):805〜11 PMID:21187293)が>5であると測定される、またはhs−CRPが>2.5mg/Lであると測定される場合には、当該個体はOAの危険性が高い、または初期段階のOAを有すると判定され、従ってDHCQを用いた治療を受ける。別の実施形態において、断続的な膝の疼痛を経験し、膝OAの危険性が高い個体は、膝のMRI分析及びhs−CRP臨床検査に供される。MRIの滑膜炎スコア(Guermaziら、Ann Rheum Dis 2011 70(5):805〜11 PMID:21187293)が>5であると測定される、またはhs−CRPが>2.5mg/Lであると測定される場合には、当該個体はOAの危険性が高い、または初期段階のOAを有すると判定され、従ってDHCQを用いた治療を受ける。
別の実施形態において、これらの同様の炎症マーカーの1種または複数種が、治療に対する個体の応答を監視するために、治療を継続すべきかを判定するために、または治療を中止することができるかどうかを判定するために用いられる。例えば、DHCQを用いた治療を受けているOAの危険性が高い個体は、年1回または1年おきにMRI及びhs−CRPによって監視を受ける。MRIの滑膜炎スコアが3未満に低下した、またはhs−CRPが1mg/L未満に低下した個体は、療法に対して肯定的な応答を示していると識別され、また当該個体の危険性がある状態、初期疾患状態、または定着した疾患の状態が治療に対して良好に応答していると識別される。
RAの発症の危険性が高い、または「前臨床のRA」を有する、または、初期段階のRAを有する個体は、RAを示す異常な炎症マーカー、異常な画像診断マーカー、または異常な臨床マーカーの存在に基づいて識別される。個体が初期段階のRAを有することを示唆する異常なマーカーとしては、以下の内の1種または複数種が挙げられる。すなわち、(Sokoloveら、PLoS One 2012、7(5):e35296;Deaneら、Arthritis Rheum 2010 62(11):3161〜72;Gerlagら、Ann Rheum Dis 2012 71(5):638〜41に記載されるように)1ヶ所または複数ヶ所の腫大した関節の存在、抗CCPまたは抗RF抗体の存在、MRI走査または超音波検査での滑膜増強の形跡(信号の増加)の存在、RAの発症を予測することができる自己抗体またはサイトカインレベルの上昇である。個体のRAを発症する危険性を増大させる因子としては、以下の内の1または複数が挙げられる。すなわち、(Deaneら、Rheum Dis Clin North Am 2010 36(2):213〜41;Klareskogら、Semin Immunol 2011年4月、23(2):92〜8に記載されるように)(特に一等親における)RAの家族歴、抗CCP及び/または抗RF自己抗体レベルの増加、RAに対する感受性に関連する遺伝的プロファイル、及び喫煙である。
個体は、当該個体が特定の異常な生化学的マーカー、血清学的マーカー、遺伝的マーカー、画像診断マーカー、または臨床マーカーを有することが測定されることに基づいて、RAを発症する危険性があると分類される。前臨床段階のRAは、臨床的に明らかなRAの発症の数年前に、抗シトルリン化タンパク質抗体(ACPA)及びリウマチ因子(RF)の発現を始めとするRAの異常な炎症マーカーが存在することを特徴とする。臨床の明白な疾患の発症が近づくと、ACPA応答が拡大する、すなわち、シトルリン化タンパク質を標的とする自己抗体レベルの数値が増加する。更に、多くの場合に、血清サイトカイン及びケモカイン、並びに(ESR及びCRPを始めとする、但しこれらに限定されない)急性期反応物質のレベルが同時に上昇する(Sokoloveら、PLoS One 012、7(5):e35296 2012、PMID:22662108;Deaneら、Arthritis Rheum 2010年11月、62(11):3161〜72)。従って、「危険性がある」と「前臨床」とのRAは分子マーカーACPA、RF、上昇したサイトカイン、またはこれらのマーカーの組み合わせの存在によって定義することができる。加えて、「危険性がある」を包含する前臨床のRAは、遺伝子マーカー及び/または家族歴によって定義することもできる。かかる遺伝子マーカーは、本明細書において異常なマーカーと見なされ、該遺伝子マーカーとしては、HLA DR4共有エピトープ並びにPTPN22、PAD4、STAT4、及びTRAF1−C5などの他の遺伝子多型が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
初期段階のRAは殆どが無症候性ではなく、殆どの場合に、小さなまたは中位の関節における疼痛及び/または該関節のこわばりとして現れ、関節腫大または滑膜炎を伴う場合がある。初期段階のRAは、継続期間3〜6ヶ月未満のRAと一致する徴候及び症状並びに異常なマーカーの存在、且つ通常のX線検査によって判定されるX線検査上の関節損傷が見られないことによって定義することができる。初期段階のRAはまた、滑膜の増強、骨髄浮腫、滲出、または炎症を示す他の所見などの(例えば、超音波検査におけるドップラーフロー信号の増加を始めとする、MRI若しくは超音波検査によって判定される)異常な画像診断マーカーの存在によっても示される(Gerlagら、Ann Rheum Dis 2012 71(5):638〜41、PMID:22387728)。
進行したRAは、3〜6ヶ月を超える継続期間、多くの場合少なくとも1年の継続期間のRAとして定義することができる。骨の関節周囲びらんなどのX線検査上でのRAの徴候(異常な画像診断マーカー)は、疾患発症の1〜2年以内に検知することができ、従って、進行したRAの別な定義としては、X線検査上での関節腔の狭小化及び/またはびらんの形跡を挙げることができる。
多発性硬化症は、免疫傷害の結果としての神経細胞の脱髄によって引き起こされる自己免疫神経学的疾病である。多発性硬化症は、ミエリン鞘のタンパク質及び脂質成分への、自己反応性T細胞及びB細胞によって媒介される直接の免疫攻撃によって引き起こされる。
前臨床のMSを有する個体とは、異常な生化学的パラメータ、血清学的パラメータ、遺伝的パラメータ、画像診断パラメータ、または臨床パラメータによって示される、MSを発症する危険性が高い個体である。MSの前臨床段階は、後にMSの発症を伴う異常な炎症マーカー、例えば臨床的に明らかなMSの発症の数年前に現れる自己抗体の存在を特徴とすることができる。加えて、またはこれに代えて、前臨床のMSを有する個体は、それ単独ではMSを診断しないが、後に臨床的に明らかなMSの発症を伴う場合がある神経学的徴候及び/または症状を有する場合がある。かかる徴候または症状としては、(一般的に片目の失明または視力の低下として現れる)視神経炎、しびれ、めまい、筋肉の痙攣が挙げられるが、これらに限定されない。前臨床のMSの症状は通常継続期間が限られるが、盛衰する場合がある。上記症状は、MRIによって判定される白質の病変を始めとする(但し、それらに限定されない)X線検査の変化を伴う場合があり、上記白質の病変は、多くの場合、T2強調MRIにおいて明るい領域として現れる。更に、前臨床のMSは、異常に高い白血球数またはタンパク質レベルを始めとする脳脊髄液(cerebrospinal fluid)(CSF)の異常の存在、及び/またはオリゴクローナルバンドの存在を伴う場合がある。
従って、前臨床のMSは、初期の脱髄の臨床症状の存在として、及び/または血清若しくはCSF中の特定の自己抗体、CSF中の異常に高レベルのタンパク質または白血球、画像診断によって検知される脳若しくは脊髄の病変、またはこれらのマーカーの組み合わせの存在によって定義することができる。
初期段階のMSは、殆どの場合、限局性または多源性のしびれ、うずき、脱力感、バランスの喪失、または霧視若しくは複視を始めとする視覚障害を含むがこれらに限定されない、持続性または反復性の脱髄の神経症状を発現する。MSの確定診断は、MRIで検知される2以上の脳の病変の形跡及び/または2回以上の、少なくとも24時間継続し、且つ少なくとも1ヶ月の間隔をおいて発生する神経症状の発作を要件とする。
進行したMSは、通常はMRIによって検知される非回復性病変を伴う、永続性の神経学的障害へと進行していくMSとして定義することができる。加えて、MSの症状は、再発寛解型MSとして知られるパターンで盛衰する場合がある。このパターンは、疾患が、以前の病変から完全に回復することなく、増加する神経症状を伴って進行する慢性進行パターンにおける損傷の継続的な発生を伴いまたはそれを伴わず、MSの経過の終盤に見られる場合がある。
アテローム性動脈硬化症は、脂肪性プラークの生成をもたらす、動脈壁における脂肪性物質の蓄積を特徴とし、上記脂肪性プラークは破裂し、血管閉塞及び虚血を起こす場合がある。アテローム性動脈硬化症の病変は、マクロファージ及びより程度の少ないT細胞及びB細胞を始めとする炎症細胞の蓄積、並びに炎症性サイトカイン、ケモカイン、及びMMPの高い水準での産生を特徴とする、高度に炎症性の環境を含む(Libbyら、Nature 2011 473(7347):3170〜25 PMID#21593864)。アテローム性動脈硬化症は軽度の炎症を伴い、おそらく該炎症によって促進されるものと思われる。
アテローム性動脈硬化症の発症の危険性がある個体とは、アテローム硬化性冠動脈疾患に関する既知の危険因子を有する個体である。危険因子としては、フラミンガムリスクスコアに記載されているものなどの、アテローム硬化性心臓疾患に対する古典的な危険因子が挙げられ、以下の異常なマーカーを含む。すなわち、高血圧、喫煙、高いレベルのHDLコレステロール、耐糖能障害、加齢、男性、及びその他の因子である(D‘Agostino RB Sr、Vasan RS、Pencina MJ、Wolf PA、Cobain M、Massaro JM、Kannel WB、Circulation 2008年2月12日、117(6):743〜53 PMID:18212285を参照のこと。)。
初期段階のアテローム性動脈硬化症は、冠動脈、脳動脈、及び/または他の動脈における初期の変化を特徴とする。かかる動脈の異常は、MRI、CT、血管造影、または他の方法を用いた画像診断によって可視化することができる。かかる初期段階の疾患に罹患した血管を閉塞させることはないため、個体は無症候性であり、(X線造影を用いた読み取り及び/または虚血を示唆する心電図(EKG)の変化に基づく)正常な運動(トレッドミル若しくは自転車)または化学的(ペルサンチン、アデノシン若しくはドブタミン)ストレステストの結果を示す。
進行したアテローム性動脈硬化症は、狭心症、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、及び/または動脈閉塞に起因する脳卒中を始めとする、症候性の心臓または循環器の疾患を特徴とする。進行したアテローム性動脈硬化症は、MRI、CT、血管造影、及び他の方法を用いた画像診断によって異常な画像診断マーカーとして可視化することができる、より進行した動脈の異常として現れる。加えて、進行したアテローム性動脈硬化症を有する場合、運動(トレッドミル若しくは自転車)または化学的(ペルサンチン若しくはアデノシン若しくはドブタミン)ストレステストを用いた機能検査は、X線造影及び/または心電図(EKG)によって検知される虚血を示唆する所見を生じる。
一実施形態において、1種または複数種の炎症の異常なマーカーが、アテローム性疾患に対する危険性が高く、活動性の炎症を示し、それ故にDHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療に対して応答する蓋然性が高い個体を識別するために用いられる。別の実施形態において、血中コレステロールの上昇(総コレステロール>250mg/dLまたはLDL>150mg/dL)があり、アテローム硬化性疾患に対する危険性が高い個体が、hs−CRP臨床検査に供される。hs−CRP>3である場合には、当該個体は、アテローム硬化性心疾患の進行の危険性が高いと判定され、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療を受ける。
別の実施形態において、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療に対する個体の応答を監視するためにhs−CRPが用いられ、アテローム硬化性疾患の危険性が高い個体が治療に対して応答しているか、及び/または当該治療を継続すべきかを判定する。例えば、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療を受けているアテローム硬化の危険性が高い個体は、年1回、または1年おきに、繰り返しのコレステロール及びhs−CRP試験により監視が行われる。総コレステロールが220未満に低下する、LDLコレステロールが120未満に低下する、及びhs−CRPが低下して1未満になる個体は、療法に対して肯定的な応答を示していると識別され、当該個体の危険性がある状態、初期の疾患状態、または定着した疾患状態が、DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンの併用療法により良好に制御されていると識別される。
II型糖尿病はインスリン抵抗性及び高血糖値の存在を特徴とし、網膜症、腎症、神経障害、または他の合併症を引き起こす可能性がある。インスリン抵抗性(insulin reshistanse)(IR)は、本明細書において疾患状態と呼ばれるが、細胞がホルモンインスリンの正常動作に応答しない生理学的状態である。身体はインスリンを産生するが、体内の細胞がインスリン抵抗性となり、効果的にインスリンを用いることができず、高血糖値に繋がる。続いて、膵臓中のβ細胞がそのインスリンの産生を増加させ、更に高インスリン血症に寄与する。このことは多くの場合に検知されないままであり、II型糖尿病との診断の原因になる場合があり得る。更に、II型糖尿病は、アテローム硬化性心血管疾患に対する周知の危険因子である。代謝症候群とは、心疾患、糖尿病、または他の健康問題を発症する危険性を高める高血圧症、肥満症、高脂血症、及びインスリン抵抗性(本格的な糖尿病または高空腹時血糖値若しくは耐糖能障害として発現する)を始めとする一群の因子をいう(Grundyら、Circulation 2004、109:433〜438)。正常な代謝状態から、空腹時血糖値異常(IFG:100mg/dLを超える空腹時血糖値)によって診断される「インスリン抵抗性」の状態、または耐糖能障害(impaired glucose tweranse)(IGT:140〜199mg/dLの75グラムの経口でのグルコース負荷後2時間の血糖値)の状態への進行の特徴が明らかになっている。IFG及びIGTの両方が前糖尿病状態を示す異常な代謝マーカーと考えられ、IFGを有する被験者の50%超が、平均で3年以内に本格的なII型糖尿病へと進行する(Nichols、Diabetes Care 2007 (2):228〜233)。インスリン抵抗性は、少なくとも部分的に、慢性の軽度の炎症によって引き起こされる(Romeo GRら、Arterioscler Thromb Vasc Biol 2012 32(8):1771〜6;de Luca Cら、FEBS Lett 2008 582(1):97〜105;Ma Kら、Diabetes Metab Res Rev 2012 28(5):388〜94)。
前臨床のII型糖尿病またはII型糖尿病の「危険性がある」とは、100mg/dLを超える空腹時血糖値によって定義される空腹時血糖値異常として定義することができる。空腹時血糖値異常を有するヒト及びII型糖尿病を発症する「危険性がある」ヒトは無症候性である。
初期段階のII型糖尿病とは、2回の別個の検査における、>126mg/dLである異常な空腹時血糖の測定値により定義される。初期段階のII型糖尿病を有する個体は、組織の損傷若しくは終末器官の損傷の症状または徴候を有さない。
進行したII型糖尿病は、200mg/dLを超える、非空腹状態での血糖値レベルの持続的な上昇、または空腹状態での>126mg/dLである複数の測定値、及び>7%であるヘモグロビンA1cの測定値を始めとする異常な代謝マーカーを特徴とする。進行したII型糖尿病を有するヒトは、多くの場合、症状、微小血管合併症、及び/または終末器官若しくは組織の損傷を有する。
一実施形態において、1種または複数種の異常な代謝及び炎症マーカーの測定値を用いて、II型糖尿病の危険性が高い個体であって、活動性炎症を有し、それ故に当該個体のII型糖尿病の進行の危険性が最も高く、DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療に対して応答する蓋然性も最も高い個体が識別される。例えば、25を超える肥満指数(BMI)を有する個体は、当該個体の空腹時空腹時血糖値、ヘモグロビンA1c、及びhs−CRPに関して検査が行われる。2回の別個の検査において>126mg/dLの空腹時空腹時血糖値を示し、ヘモグロビンA1c>6.5%またはhs−CRP>3mg/Lのいずれかを有する個体は、異常な代謝マーカー(複数可)を示すものとして識別され、疾患の進行の危険性が最も高く、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた療法が開始される。
別の実施形態において、治療に対する個体の応答を監視するために、これらの同一の代謝及び炎症マーカーの1種または複数種を用いて、治療を継続する必要があるかを判定し、または治療を中止することができるかを判定する。例えば、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療を受けているII型糖尿病の危険性が高い個体は、ヘモグロビンA1c及びhs−CRPに関する検査によって年1回監視が行われる。ヘモグロビンA1cが5.6%未満に低下し、且つhs−CRPが1未満に低下した個体は、療法に対して肯定的な応答を示していると識別され、当該個体の危険性がある状態、初期の疾患状態、または定着した疾患状態が、治療に対して良好に応答していると識別される。
用語「代謝症候群」の国際糖尿病連合で合意の万国共通の定義(2006)は、以下の炎症マーカー、代謝マーカー及び臨床マーカーの異常に基づく。すなわち、(民族固有の値を用いるウェスト周囲長として定義される)中心性肥満及び次の、>150mg/dL(1.7mmol/L)である高いトリグリセリド、またはこの脂質異常に対する特定の治療;男性において<40mg/dL(1.03mmol/L)、女性において<50mg/dL(1.29mmol/L)である低いHDLコレステロール、またはこの脂質異常に対する特定の治療;高い血圧(blood pressure)(BP)であって、収縮期BP>130mmHgまたは拡張期BP>85mmHgである上記血圧、または以前に診断を受けた高血圧症の治療;>100mg/dL(5.6mmol/L)である高い空腹時血漿糖(fasting plasma glucose)(FPG)、または以前に診断を受けたII型糖尿病、の内の任意の2種である。世界保健機関の1999年基準は、糖尿病、耐糖能障害、空腹時血糖値異常またはインスリン抵抗性のいずれか1種、並びに以下の、140/90mmHg≦である血圧;1.695mmol/L≦のトリグリセリド(TG)及び0.9mmol/L≧(男性)、1.0mmol/L≧(女性)の高密度リポタンパク質コレステロール(HDL−C)である脂質異常症;ウェスト:ヒップ比>0.90(男性)、>0.85(女性)、または肥満指数>30kg/m2である中心性肥満;及び20μg/分≦である微量アルブミン尿:尿中アルブミン排泄比またはアルブミン:30mg/g≦であるクレアチニン比、の内の2種の存在を要件とする。関連する疾患及び徴候は次の通りである。すなわち、高尿酸血症、NAFLDへと進行する脂肪肝(特に同時に肥満症の場合)、多嚢胞性卵巣症候群(女性)、及び黒色表皮症である。代謝症候群が進行すると、本格的な糖尿病または高空腹時血糖値若しくは耐糖能障害を生じ、結果として、個体は、冠動脈疾患、II型糖尿病、心臓疾患、糖尿病、または他の健康上の問題の症状及び徴候を発現する。一実施形態において、DHCQが代謝症候群を有する患者を治療するために用いられ、結果として血清脂質の低下が得られる(総コレステロール、LDL、またはトリグリセリドの減少、あるいはHDLの増加を誘発)。別の実施形態において、DHCQが代謝症候群を有する患者を治療するために用いられ、結果として、空腹時血清糖レベルの低下、食後の血清糖レベルの低下、及び/またはヘモグロビンA1cの低下によって示されるインスリン抵抗性の低下が得られる。別の実施形態において、DHCQが高脂血症を有する患者を治療するために用いられ、結果として、総コレステロール、またはLDL、またはトリグリセリドの低下、あるいは、HDLの増加が得られる。
代謝症候群は炎症性疾病である。代謝症候群の状況において、マクロファージが肥満の脂肪組織に蓄積し、ここでマクロファージが飽和脂肪酸及び循環リポ多糖(LPS)による刺激に応答してTNF及び他の炎症性サイトカインを産生する(Johnsonら、Cell 2013 152(4):673〜84;Bhargava Pら、Biochem J 2012 442(2):253〜62)。更に、TNF阻害がインスリン抵抗性を抑制することができるが(Johnsonら、Cell 2013 152(4):673〜84)、これは長期間の治療に対して実用的ではなく、あるいは安全ではない。このように、代謝症候群は、直接的または間接的に合併性炎症を伴う代謝性疾患である。上述したように、最も一般的に使用される抗炎症の療法は、それ自体が潜在的な肝毒性を有する(すなわち、コルチコステロイド、メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン)、または代謝症候群の構成要素を悪化させる可能性を有する(すなわち、タクロリムス及びシクロスポリンなどのカルシニューリン阻害因子は、高血圧、高脂血症、及び糖尿病、並びに肝毒性の僅かな潜在的危険性を伴う)。
一実施形態において、1種または複数種の代謝及び炎症マーカーを用いて、活動性の基礎疾患を有し、それ故に疾患の進行の危険性が高く、DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療に応答する蓋然性が最も高い、代謝症候群の危険性が高い個体を識別する。例えば、25を超える肥満指数(BMI)を有する個体は、以下の代謝マーカーの内の2種以上について検査が行われる。すなわち、空腹時血糖値、ヘモグロビンA1c、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリド、及び血圧である。2回の検査において空腹時血糖値>126であり、且つ以下の徴候または所見の少なくとも1種、または以下の徴候または所見の少なくとも2種、または以下の徴候または所見の少なくとも3種を有する個体は、異常な代謝マーカー(複数可)を有し、従って代謝症候群の発症の危険性が高いと識別され、DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療が開始される。徴候または所見としては、次の異常な炎症マーカー、代謝マーカー、及び臨床マーカーが挙げられるが、それらに限定されない。すなわち、140/90mmHg≦である血圧、1.695mmol/L≦であるトリグリセリド(TG)及び0.9mmol/L≧(男性)、1.0mmol/L≧(女性)である高密度リポタンパク質コレステロール(HDL−C);または20μg/分≦である微量アルブミン尿:尿中アルブミン排泄比若しくは30mg/g≦であるアルブミン:クレアチニン比である。
別の実施形態において、DHCQによる治療、またはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせによる治療に対する個体の応答を監視するために、1種または複数種のこれらの同様の代謝及び炎症マーカーを用いて、治療を継続すべきかを判定し、または治療を中止することができるかを判定する。例えば、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療を受けている代謝症候群の危険性が高い個体は、年1回監視が行われる。以下の1または複数を示す個体は、療法に対して肯定的な応答を示していると識別される。すなわち、空腹時血糖値が126mg/dL未満に戻る、ヘモグロビンA1cが5.6%未満に低下する、血圧が140/90mmHg未満になる、1.695mmol/L未満のトリグリセリド(TG)、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL−C)が上昇する、及び微量アルブミン尿:尿中アルブミン排泄比が正常化するである。1または複数の徴候及び所見の改善に基づいて、療法に対して肯定的な応答を示す個体は、療法に対して肯定的な応答を示したものとして識別され、当該個体の危険性がある状態、初期疾患状態、または定着した代謝性疾患状態が、DHCQを用いた治療に対して、またはDHCQ+アトルバスタチンを用いた治療に対して良好に応答していると識別される。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝臓の脂肪浸潤(または肝臓への脂肪蓄積)を伴う疾病である。脂肪浸潤単独では肝臓の損傷を引き起こさないが、該浸潤が炎症反応を伴う場合には、線維症及び肝硬変、並びに最終的には肝不全に繋がる場合がある。NASHにおける炎症は、マクロファージ及びリンパ球による肝臓への浸潤、並びに肝臓のマクロファージ様クッパー細胞の数の変化を特徴とする(Tilgら、2010 Hepatology 52(5):1836〜46)。炎症性サイトカイン、特にTNFはNASHの病理の中心をなす。TNFの出所は不明であり、末梢性、すなわち、炎症性脂肪組織の可能性があり、または局所的すなわち、門脈由来のエンドトキシンまたは遊離脂肪酸によって活性化された自然免疫細胞である可能性がある(Tilgら、2010 Hepatology 52(5):1836〜46)。エンドトキシン応答性TLR4受容体は、NASHのマウスモデルにおいて、疾患にとって重要であることが示されている(九十九ら、Diabetes 2007 56(8):1986〜98)。
現在承認されているNASHに対する薬物治療はない。食生活の改善、減量、及び結果として前者に繋がる胃のバイパスが、NASHの治療において最も大きな有効性を示してきた。小〜中規模のメトホルミン、ピオグリタゾン、及びビタミンEの研究において、僅かではあるが有意な効能が示されている。但し、結果は多くの研究と一致せず、最終的に、線維症の最終的な変化を示すことができていない(Schwenger KJP、World J Gastroenterol 2014年2月21日、20(7):1712〜1723)。炎症がNASHの主要な構成要素であることを仮定すると、抗炎症療法または免疫抑制療法が、NASHの治療において有効であり得ると予想された。しかし、最も一般的に用いられる抗炎症療法及び免疫抑制療法は、それ自体が潜在的な肝毒性を有する。例えば、コルチコステロイドは脂肪肝の発症を伴い、非ステロイド性抗炎症薬は胆汁うっ滞を伴い、肝硬変の状況には禁忌である。同様に、メトトレキサート、レフルノミド、及びスルファサラジンなどの、全身性の炎症性疾患において一般的に用いられる他の薬剤は、しばしば肝毒性を伴う。同様に、他の一般的に用いられる免疫抑制剤は、NASHの患者に一般的に見られる共存疾患の多くを伴う。例えば、タクロリムス及びシクロスポリンなどのカルシニューリン阻害因子は、高血圧、高脂血症、糖尿病、並びに僅かな肝毒性の潜在的な危険性を伴う。
前臨床のNASHまたはNASHの「危険性がある」とは、NAFLDとして定義することができ、NAFLDは、アルコール消費または他の肝臓毒への曝露がない場合における、超音波検査での肝臓の脂肪浸潤の存在(異常な画像診断マーカー)である。上記肝臓の脂肪浸潤の異常な画像診断マーカーは、肝臓の超音波画像化、及び、個々の患者が、正常なヒトの95%における超音波検査所見の範囲外にある肝臓の脂肪浸潤と一致する超音波検査の結果を示すとの判定によって診断される。前臨床のNASH(すなわち、NAFLD)を有するNAFLDを有するヒトは、正常なレベルの血液中の肝臓酵素(例えば、正常なAST(SGOT)及びALT(SGPT)を始めとする正常なアミノトランスフェラーゼ[トランスアミナーゼ]レベル)を有する。
初期段階のNASHとは、肝臓の炎症及び損傷と組み合わさった、異常に高いレベルの血中アミノトランスフェラーゼ(すなわち、ヒトにおける正常な範囲と比較して高いAST(SGOT)及びALT(SGPT)のレベルであって、NASHに関する炎症の異常なマーカーを表わす)に反映されるNAFLDの存在として定義される。
進行したNASHとは、持続的に高いレベルの肝トランスアミナ−ゼ(持続的に高いAST(SGOT)及びALT(SGPT))に反映される、慢性の肝臓の炎症及び損傷の存在、並びに初期若しくは進行した肝線維症及び/または肝硬変の存在として定義される。肝線維症は、肝臓の超音波検査若しくはCT若しくはMRI画像診断により、または肝臓生検により識別される。
一実施形態において、1種または複数種の異常な代謝マーカー、異常な炎症マーカー、及び異常な画像診断マーカーの測定値を用いて、その後のNAFLDまたはNASHの発症の危険性が高く、それ故にDHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療に応答する蓋然性が最も高い個体を識別する。例えば、AST>60IL/L(正常範囲6〜40IU/L)またはALT>50IU/L(正常範囲7〜35IU/L)に基づく肝トランスアミナーゼの上昇、脂肪肝を示す超音波検査所見、及び2回の別個の測定値における126<である空腹時血糖値、または6.5%<であるヘモグロビンA1cを有する個体は、異常な炎症マーカー、異常な画像診断マーカーまたは異常な代謝マーカーを示すと識別され、従ってNASHへの進行の危険性が高いと識別され、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療が開始される。
別の実施形態において、個体の治療に対する応答を監視するために、1種または複数種のこれらの同様の代謝及び炎症マーカーを用いて、当該個体が療法に対して肯定的な応答を示しているかを判定し、または治療を中止することができるかを判定する。例えば、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療を受けている、NAFLDまたはNASHの危険性が高い個体は、AST、ALT、ヘモグロビンA1c及び空腹時血糖値に関する検査により定期的に監視を受ける。AST及びALTが正常化し、ヘモグロビンA1cが5.6%未満に低下し、且つ空腹時血糖値が正常化する個体は、療法に対して肯定的な応答を示していると識別され、該個体の危険性がある状態、初期疾患状態、または定着した疾患状態は、治療に対して良好に応答していると識別される。
代謝症候群における高脂血症及びインスリン抵抗性の共起を考慮すると、DHCQは、代謝症候群に罹患したまたはその発症の危険性がある患者の人口統計学において、耐容性が良好である抗炎症剤及び抗代謝剤として、独特且つ予想外な役割を果たす可能性がある。代謝症候群の治療にHCQを用いることの潜在的な危険性は、2型糖尿病の状況における、HCQの使用に伴う潜在的な網膜毒性である。現在、基礎網膜疾患を有するヒト、糖尿病有するヒト、体重過多、または60歳を超えるヒトを始めとする、網膜毒性の危険性が高いヒトにおいては、HCQは注意をもって用いる、あるいは避けることが推奨されている。従って、HCQの免疫調節特性及び代謝特性を有するが、網膜毒性の危険性が低下した薬剤の特定は、その代謝的要素と炎症的要素との両方を含む代謝症候群に対する、実行可能な療法を提供することを可能にし得る。例としては、潜在的に初期の十分な投薬を可能にするだけでなく、更に、HCQに対して推奨される用量の制限よりも高い水準の投薬を含む、臨床上の有効性を得る水準までの用量設定をも可能にし得る、DHCQを用いた代謝症候群を有する患者の治療である。予想される結果は、全身性炎症の抑制及びこれと同時に起こる血清脂質の低下及びインスリン感受性の向上、並びに併発NASHの状況における肝酵素の低下または正常化である。
開示されるDHCQを含む組成物及び方法はまた、アルコ−ル性脂肪性肝炎を治療するためにも用いることができる。長期にわたる相当な量のアルコールの消費は、単純な脂肪肝から硬変性肝不全までの様々な症状をもたらし得る。1日に60グラムを超えるアルコールを消費する個体の90%近くが肝臓の脂肪浸潤を発症することとなる。この脂肪症は、軽度且つ慢性進行性の疾患から重篤な劇症壊死性肝炎までに及ぶ場合がある慢性アルコール性肝炎に進行し得る。アルコール性肝炎の機序はおそらく多因子であるが、自然免疫受容体並びにTNFα及びIL−1βなどのサイトカインを始めとする複数の経路が関与する炎症の役割がある。急性アルコール性肝炎は、コルチコステロイド並びにTNFαブロッカーを始めとする様々な抗炎症療法を用いて治療されている(O’Sheaら、アルコール性肝疾患(Alcoholic Liver Disease)、Hepatology、2010、51(1):307〜28)。重篤なアルコール性肝炎の急性の状況においては潜在的に有効ではあるが、かかる療法の危険性−利得プロファイルからは、慢性アルコール性脂肪性肝炎に用いることは禁止される。TLRを介した自然免疫活性化を始めとする炎症に対する重要な役割を考慮すると、開示されるDHCQを含む組成物及び方法はまた、慢性アルコール性脂肪性肝炎を治療するためにも用いることができる。肝不全は、ヒドロキシクロロキンによる網膜毒性の危険因子であり、従って、網膜毒性に関してより広い治療のウィンドウを有する薬剤がより好ましいであることから、このことは特に重要である。
以下は、自己免疫疾患(例えば、RA、MS、クローン病、乾癬等)、軽度の炎症が関与する変性疾患(例えば、OA、アルツハイマー病、黄斑変性症等)、他の炎症性疾患(例えば、NASH、II型糖尿病、代謝症候群、アテローム性動脈硬化症、心臓疾患等)、並びに慢性の炎症を伴う炎症性疾患(例えば、HIV感染症、HCV感染症、CMV感染症、結核感染症等)などの様々な異なる炎症性疾患の危険性がある個体を始めとする個体中に、炎症が存在するかどうかを判定する手法の例を提供する。以下は、特に、関節炎を発症する危険性がある、または初期段階の関節炎を有するヒトにおける、炎症を識別するための手法を説明するが、別の実施形態において、定着した炎症性疾患を有する個体において、該手法は、疾患の活動性または組織若しくは器官の損傷を診断するための使用である。
画像診断マーカー、分子マーカー、及び臨床マーカーを始めとする様々なマーカーを用いて、炎症性疾患における炎症を診断することができる。かかるマーカーの異常なレベル若しくは値または所見の測定値または検知は、炎症性疾患若しくは炎症を伴う疾患の発症の危険性が高い個体または該疾患の初期段階にある個体の識別を容易にすることができ、これを以ってDHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンを用いた治療の恩恵を受けることとなる個体を識別することができる。
上述のものを始めとする多くの炎症性疾患または炎症を伴う疾患は、異常な代謝マーカーのレベルまたは値に反映される代謝異常を伴う。かかる障害を治療するために用いられることとなる殆どの抗炎症療法/免疫抑制療法はまた、炎症性疾患に伴って見られる代謝異常を改善するための有意な能力も欠いており、コルチコステロイド及びカルシニューリン阻害因子を始めとする多くが、それ自体、インスリン抵抗性、高血圧、及び高脂血症などの代謝異常を誘起する場合がある。同様に、代謝症候群を有するヒトの間におけるNAFLD/NASHに起因する基礎肝疾患の高い危険性を考慮すると、メトトレキサート及びレフルノミドなどの免疫抑制剤は、その潜在的な内因性の肝毒性に依り回避される必要がある。同様に、好ましい代謝プロファイルを有し得るHCQは、それ自体が網膜毒性の危険性を伴い、従って、II型糖尿病を有するヒトを始めとする基礎網膜疾患の危険性が高いヒトにおいては、慎重に用いられるまたは回避される必要がある。従って、DHCQの使用は、炎症だけでなく、インスリン抵抗性、高脂血症、及びNASHを始めとする(但し、これらに限定されない)炎症性疾患の代謝構成要素をも治療する特有の能力を有する。そしてDHCQは、網膜毒性の危険性の低下と共にかかる能力を有することができる。従って、一実施形態において、DHCQを用いて、インスリン抵抗性、II型糖尿病、高脂血症、並びにNAFLD及び/またはNASHを始めとする(但し、これらに限定されない)関連する代謝性疾患を伴う炎症を治療することができる。別の実施形態において、DHCQを用いて、患者を網膜毒性の高い危険性に曝す関連する代謝性疾患を伴う炎症を治療することができる。親分子であるHCQの他の代謝物には、網膜毒性の低下及び好ましい代謝効果の両方がない点において、DHCQのかかる特性は予想外である。
一般的な、前臨床または初期段階の炎症性疾患に関して発現するマーカーへの取り組み方の例として、OA及びRAに関する(炎症マーカー、代謝マーカー、臨床マーカー及び画像診断マーカーを始めとする)マーカーの包括的な説明を提示する。関節炎において、異常な臨床マーカーの例としては、熱をもつこと、紅斑(発赤)、炎症、及び滲出が挙げられる。異常な臨床マーカーの他の例としては、1時間を超えて続く朝の関節のこわばり、並びに疼痛及び腫大が挙げられる。異常な画像診断マーカーの例としては、関節内のMRIまたは超音波検査で検知される炎症が挙げられる。ガドリニウム造影を用いてまたは用いずに実施されるMRIは、以下の1または複数の所見の存在に基づいて炎症(異常画像マーカー)を検知する。すなわち、滑膜炎(滑膜表層の肥厚、増殖及び/または増強(Gd−MRIにおける信号の増加)、滑膜表層におけるドップラーフロー信号の増加);関節滲出;広範な骨髄浮腫;及び炎症を示唆する他の所見である。超音波検査が用いられる画像診断方法である場合には、炎症(異常な画像診断マーカー)は、以下の所見、すなわち滑膜表層の肥厚及び/または増強、関節滲出、骨髄増強、及び他の炎症を示唆する所見の内の1種または複数種の存在によって定義される。炎症の診断に用いることができる分子マーカーとしては、ESR、CRP、サイトカイン、ケモカイン、及び他の炎症メディエータが挙げられる。ESR及びCRPは血液中で測定され、他の炎症の分子マーカーは血液または滑液中で測定することができる。前臨床のRAまたは初期段階のRAを有する個体を識別するための血液中の分子マーカーの使用は、Sokoloveら(PLoS One 2012、7(5):e35296)及びDeaneら(Arthritis Rheum 2010 62(11):3161〜72)に記載されている。
前臨床及び初期段階の炎症性疾患の存在は、滑液を始めとする(但し、それに限定されない)体液または間接組織中の分子マーカー及び炎症マーカーのレベルの、対照である関節炎がない個体由来の体液または関節組織中の上記レベルとの対比における差によって判定または確認することができる。前臨床若しくは初期段階のOA及びRAにおける分子マーカーのレベルのかかる変化の例は以下の通りである。すなわち、インターロイキン−1β(IL−1β)のレベル上昇;TNFのレベル上昇;IL−1受容体アンタゴニストタンパク質(IL−1 receptor antagonist protein)(IRAP)に対するIL−1βの比の上昇;p55 TNF受容体(P55 TNF−R)の発現の上昇;インターロイキン−6(IL−6)レベルの上昇;白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor)(LIF)レベルの上昇;インスリン様成長因子−1(IGF−1)レベルの変化、形質転換成長因子β(transforming growth factor β)(TGFβ)レベルの上昇、血小板由来増殖因子(platelet−derived growth factor)(PDGF)、または塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor)(b−FGF)のレベルの上昇;ケラタン硫酸レベルの上昇;ストロメリシンレベルの上昇;組織性メタロプロテアーゼ阻害因子(tissue inhibitor of metalloprotease)(TIMP)に対するストロメライシンの比の上昇;オステオカルシンレベルの上昇;アルカリホスファターゼの増加;ホルモン曝露に応答するcAMPの増加;ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子(urokinase plasminogen activator)(uPA)の増加;軟骨オリゴマー基質タンパク質レベルの上昇;コラゲナーゼレベルの上昇;他のサイトカインレベルの上昇;CRPレベルの上昇;または滑膜関節タンパク質若しくは他の生体分子に対する自己抗体レベルの上昇である。本明細書において用いられる用語「メタロプロテアーゼ」とは、MMP、特に、関節軟骨変性がある場合に一般的にそのレベルが高い濃度であるMMP、すなわちストロメライシン、コラゲナーゼ、及びゼラチナーゼを指すことが意図される。アグリカナーゼもこの用語の範囲内に包含される。変性の初期段階の間に関節軟骨中に存在する3種のコラゲナーゼは、コラゲナーゼ−1(MMP−1)、コラゲナーゼ−2(MMP−8)、及びコラゲナーゼ−3(MMP−13)である。3種のストロメライシン、ストロメライシン−1(MMP−3)、ストロメライシン−2(MMP−10)、及びストロメライシン−3(MMP−11)の中のストロメライシン−1のみが、関節軟骨変性の初期段階の間に関節軟骨に現れる。メタロプロテアーゼが前酵素として軟骨細胞によって分泌され、細胞外基質の巨大分子を分解することが可能になるには、その前に、該前酵素が活性化される必要がある。
かかる炎症の分子マーカーに対する基準範囲は、正常集団の95%がその中に入る値の集合として定義される。個々の患者における炎症の分子マーカーの値すなわちレベルが、上記正常集団の95%がその中に入る値すなわちレベルの集合の外側にある場合、当該マーカーは、当該患者において異常なレベルを示すと見なされる(例えば、当該患者は、「異常なマーカー」または異常な炎症の分子マーカーを有すると判定される)。
IL−1は、IL−1α及びIL−1βとして存在し、哺乳動物の関節の関節軟骨の損傷及び減損を媒介する異化性サイトカインである。IL−1は、線維芽細胞に特徴的なI型コラーゲンの合成を促進しながら、関節軟骨内に存在するII型コラーゲンの合成を抑制し、基質の分解に関与する酵素の産生を誘導し、新しいプロテオグリカンを合成する軟骨細胞の能力を抑制する。IL−1及びそのモジュレータIRAPは、滑膜マクロファージによる自己分泌及び傍分泌の形態で産生され、IRAPの産生は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte macrophage colony−stimulating factor)(GM−CSF)の存在下で増加し得る。しかしながら、IL−1はIRAPよりもはるかに強力であり、IL−1の病原作用を無効にするためには、軟骨細胞及び軟骨の外植片において測定して、ほぼ130倍多いIRAPが必要とされる。IL−1とIRAPとの間の不均衡が関節軟骨の変性を悪化させる。結果として、限局性の軟骨の減損がX線検査によって識別可能となる前に、IL−1及びIRAPのレベルの異常、並びにIRAPに対するIL−1の比の異常を識別し、個体が軟骨の損傷及び減損の初期段階にあることを識別することも適切である。従って、IL−1及びIRAPのレベル、並びにIRAPに対するIL−1の比を判定することは、顕著な軟骨変性が起こる前の早期の薬理学的介入の候補である個体の識別を可能にすることができる。更に、初期段階の関節軟骨変性に罹患している関節の滑液及び滑膜組織中では、正常な関節、すなわち、関節軟骨の変性がない関節由来の滑液及び滑膜組織中よりも、IL−1α及びIL−1βを分泌するマクロファージの出現頻度が有意に大きい。
膝関節の十字靭帯の切開に供せられた哺乳動物では、切開された膝関節の滑液中におけるTNFの濃度は、切開していない対側の膝関節の滑液中よりも統計的に高い。関節軟骨中の軟骨細胞上でのp55 TNF受容体(TNF−R)の発現もまた、切開された膝関節においてより高い。従って、TNFレベルの増加、及びおそらくTNFシグナル伝達の増加が、初期の軟骨の損傷及び減損と関連しているために、軟骨の変性及び減損の危険性がある個体の関節におけるTNF及びTNF−Rのレベルを測定することが適切である。これらの結果は、顕著な軟骨変性が起こる前の早期の薬理学的介入の候補である個体の診断分類に寄与する。
IL−6は、損傷した肢部の関節及び滑液中で、そのレベルが健常な関節及び滑液に比較して異常に高い(統計的に高い)炎症性サイトカインである。IL−6は、軟骨細胞上のTNF−Rの発現及び軟骨細胞によるプロテオグリカンの産生を増加させ、IL−6はまた、軟骨基質からのグリコサミノグリカンの放出をも誘導する。関節軟骨の損傷及び減損の初期段階にある関節の滑液及び軟骨細胞におけるIL−6のレベルを、対照の関節の滑液及び軟骨細胞におけるIL−6のレベルと比較することにより、いずれかの限局性の軟骨の減損がX線検査によって検知可能になる前に、薬理学的治療の適切な候補である個体を識別することができる。
LIFは、単球、顆粒球、T細胞、線維芽細胞、及び炎症性疾病に関連する他の細胞型によって産生される。滑膜細胞及び軟骨細胞は、IL−1β及びTNFαの存在下でLIFを合成及び分泌する。従って、LIFのレベルの上昇を識別することは、初期段階の関節軟骨の損傷及び減損の薬理学的治療の候補の選択を可能にすることができる。
IGFはI型及びII型として存在し、IGF−Iは軟骨の合成に介在する。更にIGF−Iは、IL−1β及びTNFαの存在下であっても、プロテオグリカンの分解を低減し、その合成を促進する。IGF−1の血清レベルは、高親和性結合タンパク質(high−affinity binding protein)(IGF−BP)によって維持され、またIGF−1は、骨及び軟骨の代謝回転の両方を調節する。IGF−1の異常に高いレベルを検知することにより、関節軟骨変性の早期の薬理学的治療の候補の識別が可能になる。
TGFβは軟骨細胞によって産生され、軟骨及び骨の両方の代謝回転に寄与する強力なマイトジェンとして作用する。TGFβは更に、細胞外基質の合成を刺激し、抗炎症活性を有する。TGFβはまた、プロテアーゼ阻害因子の産生を刺激し、コラゲナーゼ及びメタロプロテアーゼの放出を遮断することによって、細胞外基質の分解を阻害する。更になお、TGFβは、哺乳動物の関節における種々の細胞によるコラーゲン、フィブロネクチン、プラスミノーゲン活性化因子の阻害因子、及び組織性メタロプロテアーゼ阻害因子(TIMP)の産生を刺激することによって、軟骨修復を促進する。関節軟骨の損傷及び減損の初期段階での哺乳類の関節において、TGFβの滑液レベルは異常に低い。その結果として、対照と比較したTGFβのレベルは、関節軟骨変性の初期の薬理学的治療の候補の診断評価を可能にする。
進行性の変性、すなわち、関節内の関節軟骨の異化に伴い、軟骨変性の発生及び進行の両方に対する、軟骨変性のマーカーとして有用な多数の代謝物が産生される。例えば、IL−1α及びIL−1βまたはTNFαは、軟骨の分解及びグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)(GAGS)の放出を媒介する、炎症性及び分解性経路を活性化し、これは個体の滑液中で測定することができる。更に、GAGレベルは治療後に変化することから、関節軟骨の代謝回転のマーカーとして滑液中のGAGレベルを用いることにより、薬理学的介入の有効性を監視することができる。また、関節軟骨の分解はコラーゲン並びに他の軟骨成分が関係するため、哺乳動物においては、いくつかのコラーゲンの分解生成物が、軟骨分解のマーカーとして役立つ。II型特異的コラーゲン分解生成物、例えば、20〜30アミノ酸ネオエピトープは、滑液、血漿、血清、及び尿などの体液中で同定することができる。これらの体液中のコラーゲンネオエピトープの存在は、OAの発症及び進行の指標として用いることができる。
GAGケラタン硫酸のネオエピトープである5D4の滑液中における存在またはレベルの増加は、初期の関節軟骨の損傷及び減損のマーカーである。逆に、別なGAGであるコンドロイチン硫酸の様々なネオエピトープの存在またはレベルの増加は、初期段階の軟骨の損傷及び減損にある哺乳類の関節軟骨における同化事象と関連する。滑液中のこれらのエピトープ、特に3B3、7D4及び846のレベルは、特定のモノクローナル抗体によって測定することができる。3B3エピトープは、細胞外基質の修復及び再構築の間に軟骨のコンドロイチン硫酸鎖上に発現され、その結果、滑液中の3B3エピトープのレベルは5D4のレベルと逆相関する。検査対象の哺乳類の滑液中の3B3レベルの判定及びこれらのレベルの対照の値との比較により、早期の薬理学的治療の適当な候補である哺乳類の診断プロファイルの作成が可能になる。
軟骨同化作用の更なるマーカーとしては、II型プロコラーゲンのプロペプチド(PIIP)がある。II型コラーゲンは関節軟骨の主要なコラ−ゲンであり、軟骨細胞によりプロコラーゲンPIIPとして産生される。コラーゲン原線維形成過程の間に、アミノ末端プロペプチド及びカルボキシ末端プロペプチド、PIIPの非コラーゲン性部分が開裂して体液中に放出され、体液中で、これらを関節軟骨における同化活動を反映するものとして測定することができる。軟骨同化の間には、滑液中のPIIPのカルボキシ末端プロペプチド(カルボキシ−PIIP)のレベルが高く、軟骨における病理学的変化のX線検査による形跡と相関する。従って、滑液中のカルボキシ−PIIPのレベルの増加を検出することにより、早期の薬理学的治療に適した個体が識別される。
哺乳類の関節軟骨及び関節液におけるストロメリシン:TIMP比のかく乱は、初期段階の関節軟骨変性のもう一つのマーカーである。関節損傷後の異常な関節負荷は、IL−1媒介過程において軟骨細胞及び滑膜細胞により産生される酵素であるストロメリシンの過剰な産生を引き起こす。ストロメリシンの濃度は、フィブリル化した(損傷を受けた)軟骨においては、損傷に対してより遠位の軟骨における当該濃度よりも高い。ストロメリシンのレベルは短時間の間のみ過剰に高くなることがあるが、関節に対する損傷が関節軟骨の最高到達域を超えて軟骨下骨に達する場合には、それに続く関節軟骨変性が起こる相当な蓋然性があり、通常は軟骨下骨の硬直化が先行する。かかる状況においては、ストロメリシン、IL−1α、IL−1β、並びにがん遺伝子タンパク質c−MYC、c−FOS、及びc−JUNの合成に関与する細胞の数が増加する。滑膜においては、これらの因子を分泌する細胞は表在性の滑膜表層細胞であり、一方軟骨においては、かかる細胞は、表層及び中間層中の軟骨細胞及び脛骨プラトーのフィブリル化領域中の軟骨細胞である。更に、ストロメリシン及びIL−1は脛骨プラトーの軟骨基質中に拡散する。ストロメリシンは、プロテオグリカン及びIX型コラーゲンを始めとする結合組織の成分を分解するが、関節軟骨変性の初期段階にある哺乳類の滑膜中で積極的に合成され、軟骨破壊に関与する主要なタンパク質分解酵素である。かかる哺乳類の滑液において、コラゲナーゼmRNAのレベルの上昇が検知可能であるときには、ストロメリシンmRNAのレベルの上昇が検知可能である。IL−1の両方のイソ型、但し特にIL−1β、のレベルの上昇が、滑膜線維芽細胞によるストロメリシン及びコラゲナーゼの合成を刺激する。IL−1は組織性メタロプロテア−ゼ阻害因子(TIMP)の産生を刺激しないので、滑膜におけるこのメタロプロテアーゼ阻害因子のレベルは変わらないままである一方、メタロプロテアーゼのレベルが劇的に増加する。上述の文章は、詳細な説明がOA及びRAに対するものであることを述べているが、手法、マーカーの種類、及びマーカーのサブセットは、広い範囲の炎症性疾患に関係しており、これらの説明は、前臨床または初期段階の炎症性疾患一般に関して発現するマーカーへの取り組み方の例としての役割を果たすように意図される。
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、治療に先立って、個体における初期段階の炎症性疾患の存在または炎症性疾患の発症に対する感受性を判定する工程を含み、そのようにして治療の必要性を示す。該方法は更に、投与するステップの前に炎症の存在を判定することを含み、そこでは、炎症性疾患の危険性が高いまたは炎症性疾患の初期段階にあり、炎症、特に関係する器官の炎症の徴候を示す個体が、DHCQを用いた治療、またはDHCQとアトルバスタチンとの併用療法に対して選択される。各疾患に関係するマーカーは、当該疾患のそれぞれの説明中に示されている。かかるマーカーとしては、臨床マーカー、代謝マーカー、炎症マーカー、画像診断マーカー、研究マーカー、及び様々な疾患に関係する別個のマーカーのサブセットを伴うその他のマーカーが挙げられる。上記マーカーは、それらのレベルまたは値または結果が、健常な集団の95%に対して観測されるレベル、値または結果の分布の外側にある場合に、異常と見なされる。疾患特異的な炎症マーカー、代謝マーカー、臨床マーカー、画像診断マーカー、またはその他のマーカーの異常なレベルを有する個体は、炎症性疾患または炎症を伴う疾患の発症の危険性が高い、または該疾患の初期段階にある。
いくつかの実施形態において、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンの組み合わせを用いた治療は、疾患の発症を防止する。いくつかの実施形態において、DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療は、炎症性疾患の徴候または症状の進行を防止する。いくつかの実施形態において、DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療は、炎症性疾患の初期の徴候または症状を正常に戻す。いくつかの実施形態において、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンの組み合わせを用いた治療は、炎症マーカーを正常化する。いくつかの実施形態において、DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療は、器官または組織の損傷の発生を防止する。いくつかの実施形態において、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療は、臨床検査、画像診断マーカー、または疾患の他のマーカーを安定化または正常化する。
更に他の実施形態において、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療は、炎症マーカーの上昇(異常な炎症マーカー)を示す個体における定着した疾患を治療するために用いられる。いくつかの実施形態において、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた定着した炎症性疾患の治療は、炎症マーカー及び他の疾患マーカーを正常化する。いくつかの実施形態において、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療は、疾患の臨床検査マーカー、画像診断マーカー、または他のマーカーを安定化または正常化する。いくつかの実施形態において、DHCQ、またはDHCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いた治療は、器官または組織の損傷の発生を防止する。
本発明における炎症マーカーの分析においては、様々な技術及び試剤を用いることができる。本発明の一実施形態において、血液若しくは滑液試料、または血液に由来する試料、例えば血漿、血清等が、特定のバイオマーカーの存在に関してアッセイされる。試料の他の出所は、滑液、リンパ液、脳脊髄液、気管支吸引液、唾液、乳汁、尿などの体液である。試料の出所としては、かかる細胞及び体液の誘導体並びに画分も挙げられる。診断試料は、個体が炎症性疾患を有する、または炎症性疾患を発症する危険性があると疑われる任意の時点で採取される。かかるアッセイは、自己抗原アレイ;酵素結合免疫吸着アッセイ(enzyme−linked immunosorbent assay)(ELISA)及びラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay)(RIA);懸濁液または溶液中で、フローサイトメトリーまたは質量分析によって標識ペプチドの結合を測定するアッセイを始めとする多くの異なる形式で行われる。
かかる方法の多くは当業者に公知であり、ELISA、蛍光イムノアッセイ、タンパク質アレイ、eTagシステム、ビーズに基づくシステム、タグまたは他のアレイに基づくシステム、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance)(SPR)に基づく検知システム等が挙げられる。かかる方法の例は先行技術に記載され、なかんずく、チップに基づくキャピラリー電気泳動:Colyerら(1997) J Chromatogr A 781(1〜2):271〜6;質量分析:Petricoinら(2002) Lancet 359:572〜77;eTagシステム:Chan−Huiら(2004) Clinical Immunology 111:162〜174;粒子増強免疫ネフェロメトリー(microparticle−enhanced nephelometric immunoassay):Montagneら(1992) Eur J Clin Chem Clin Biochem 30(4):217〜22;Luminex XMAPビーズアレイシステム(www.luminexcorp.com);その他が挙げられ、これらの各々は参照により本明細書に組み込まれる。
多重分析のために、着目するバイオマーカーを認識する1種または複数種の検知用抗体を含むアレイを作製することができる。バイオマーカーを定量するために設計された種々のイムノアッセイを、検診において使用することができる。試料若しくはその画分中の標的タンパク質または他のバイオマーカーの濃度の測定が、様々な具体的アッセイによって行うことができる。例えば、従来のサンドイッチ型アッセイは、アレイ、ELISA、RIA、ビーズアレイ等の形式で用いることができる。
生物学的試料の分析は、例えば後述するような、任意の簡便なプロトコルを用いることによって行うことができる。測定値は、平均値、代表値、中央値若しくは分散または測定に伴う、他の統計的にまたは数学的に導出された値とすることができる。測定値の情報は、対応する参照または対照測定値との直接比較によって更に精査することができる。
アッセイされる試料中のマーカーの定量に続いて、試料を得た患者の表現型に関する診断を行うために、得られた値が参照または対照値と比較される。一般的には、非罹患個体由来の試料または一連の試料から得られた類似の値との比較が行われる。加えて、参照または対照値は、RAまたはOAなどの、着目する自己免疫疾患または変性疾患を有することが知られている患者の試料から得られた値であってもよく、従って、陽性の参照または対照プロファイルとすることができる。
予後を目的として、複数の抗体の特異性及び/若しくはサイトカインレベル、並びに/または軟骨変性マーカーのレベル、並びに/または他のマーカーの判定結果を組み合わせる、且つ、かかるマーカーの異常なレベルを有する個体を識別し、従って、定着した自己免疫疾患、例えばRA、若しくは定着した変性疾患、例えばOAを発症する危険性が高いまたは該疾患を有する個体と対照とを確実に区別するアルゴリズムを用いることができる。
炎症の分子マーカーの例(炎症のマーカーともいう。)としては、c反応性タンパク質(CRP)、高感度CRP(hs−CRP)(または標準のCRP)、赤血球沈降速度(ESR)、血清アミロイドA、血清アミロイドP、フィブリノゲン、血液または他の生物学的流体中のサイトカイン、サイトカイン、抗体(自己抗体、または抗菌抗体など)、DNA配列、RNA配列(例えば、1種または複数種のサイトカインまたはその他の免疫分子をコードするmRNA)、他の炎症のマーカー、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
高感度CRP(hs−CRP)を含むc反応性タンパク質(CRP)は、炎症のマーカーとして挙げられ、様々な炎症性疾患のマーカーとして有用性がある。高レベルのhs−CRP(異常なレベル、例えば、異常な炎症マーカー)を有する個体は、それが正常範囲の上限であっても、アテローム性動脈硬化症、アテローム性動脈硬化性心血管疾患、RA、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス、変形性関節症、II型糖尿病、代謝症候群、NAFLD、NASH及び他の炎症性の代謝性疾患を始めとする(但し、これらに限定されない)炎症性疾患または炎症を伴う疾患を発症する、1.5〜4倍高い危険性を有することが知られている。アメリカ心臓協会及びアメリカ疾病管理予防センターは、hs−CRPレベルに基づいて、以下のように危険性グル−プを定義している。
・低危険性:1.0mg/L未満のhs−CRP
・平均的な危険性:1.0〜3.0mg/Lのhs−CRP(異常な炎症マーカーを表わす)
・高危険性:3.0mg/Lを超えるhs−CRP(異常な炎症マーカーを表わす)
正常と見なされる血漿フィブリノゲンのレベルの範囲は研究室毎に変わるが、一般的には1.5〜4.0g/Lである。2.8g/Lを超える血漿フィブリノゲンのレベルは異常な炎症マーカーであると考えられ、炎症性疾患を発症する高い危険性を伴い、レベル>4g/Lは更に高い危険性を伴う。
正常な血清アミロイドA(serum amyloid A)(SAA)のレベルは広い範囲である。しかし、SAAレベルの上昇は、高い炎症性疾患の危険性を伴ってきており、中程度の上昇(>3.9mg/Lであるが<8mg/L、異常なSAA[炎症マーカー]レベル)は最低三分位を超える高い危険性を与え、8.2mg/Lよりも大きな値(最高三分位、異常なSSA[炎症マーカー]レベル)は最も高い危険性を与える。
正常と見なされるESR値は広い範囲であるが、異常な、従って炎症を示すESR値としては、50歳未満の男性ではESR>15mm/時、50歳を超える男性及び50歳未満の女性では>20mm/時、50歳を超える女性では>30mm/時が挙げられる。患者における異常なESR(炎症マーカー)レベルの測定値は、個々の患者が、炎症性疾患または炎症を伴う疾患を発症する危険性が高いことを示す。
異常な代謝マーカーとしては、約160mg/dLより高い、約180mg/dLより高い、約190mg/dLより高い、約200mg/dLより高い、約210mg/dLより高い、約220mg/dLより高い、約230mg/dLより高い、約240mg/dLより高い、約250mg/dLより高い、約260mg/dLより高い総コレステロール(total cholesterol)(TC)が挙げられる。異常な代謝マーカーとしては、約70mg/dLより高い、約80mg/dLより高い、約90mg/dLより高い、約100mg/dLより高い、約110mg/dLより高い、約120mg/dLより高い、約130mg/dLより高い、約140mg/dLより高い、約150mg/dLより高い、約160mg/dLより高いLDLコレステロールが挙げられる。異常な代謝マーカーとしては、約60mg/dL未満、約50mg/dL未満、約40mg/dL未満、約30mg/dL未満、約20mg/dL未満のHDLコレステロールが挙げられる。異常な代謝マーカーとしては、一般集団に比較して高いLDL粒子数または低いHDL粒子数が挙げられる。異常な代謝マーカーは、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、アテローム硬化性疾患、NASH、NAFLD、代謝症候群、並びに他の炎症性疾患及び炎症を伴う疾患を始めとする定着した疾患の発症に対する高い危険性、前臨床期間の該疾患、初期段階の該疾患、または該疾患を予測する。
炎症を伴う代謝性疾患の危険性がある患者の他の炎症及び代謝マーカーとしては、約30mg/dLを超える異常な代謝マーカーレベルであるリポタンパク質a(lipoprotein a)(LPa)、約123mg/dL未満の異常な代謝マーカーレベルであるアポリポタンパク質A1、約100mg/dLを超える異常な代謝マーカーレベルであるアポリポタンパク質B、約200ng/mlを超える異常な代謝マーカーレベルであるリポタンパク質関連ホスホリパーゼA2(lipoprotein associated phospholipase A2)(Lp−PLA2)、または異常なマーカー比を表す約30mg/gを超える比である尿アルブミン/クレアチニン比が挙げられる。
ガドリニウム若しくはその他の造影剤を用いて、または用いずに、MRIを使用して炎症の存在を検知し、それによって炎症性疾患を有する、または炎症性疾患を発症する危険性の高い個体を識別することができる。例えば、MRIにより検知される炎症(異常な画像診断マーカーの結果を表す)は、以下の所見のうちの1または複数の存在によって定義される。すなわち、滑膜炎(滑膜表層の肥厚、増殖及び/または増強)、関節滲出、骨髄浮腫、及び炎症を示唆する他のMRI画像診断所見である(Krasnokutskyら、Arthritis Rheum 2011 63(10):2983〜91 doi:10.1002/art.30471 PMID:21647860;Roemerら、Osteoarthritis Cartilage 2010 Oct、18(10):1269〜74 PMID:20691796;Guermaziら、Ann Rheum Dis 2011 70(5):805〜11、PMID:21187293)。Guermaziら(Guermaziら、Ann Rheum Dis 2011 70(5):805〜11、PMID:21187293)は、(1)個体が炎症を有するか否か、及び(2)個体における炎症の程度、を判定することを可能にする、関節内の炎症のレベルを等級分けする半定量的な採点システムを規定する。Guermazi採点システムによる関節の炎症の形跡を有する個体は、OAの発症の危険性が高い、前臨床のOAを有する、初期段階のOAを有する、または定着したOAを有するとして分類することができる。Guermazi採点システムによって診断された炎症の程度は、炎症性疾患であるOAの発症及び/または進行を予測する。MRIを、ガドリニウムを用いてまたは用いずに、他の多くの疾病に適用して、炎症(異常な画像診断マーカーの結果)が存在するか否かを判定し、存在する場合には、個体が、炎症性疾患を発症する危険性が高いか、前臨床の炎症性疾患を有するか、初期段階の炎症性疾患を有するか、または定着した炎症性疾患若しくは炎症を伴う疾患を有するか否かを判定することができる。
超音波検査によって検知される炎症(異常な画像診断マーカー)とは、1または複数の以下の所見の存在によって定義される。すなわち、滑膜表層の肥厚及び/または増強、関節滲出、骨髄の増強、滑膜表層におけるドップラーフローシグナル、並びに炎症を示唆するその他の所見である(Guermaziら、Curr Opin Rheumatol 2011 23(5):484〜91 PMID:21760511;林ら、Osteoarthritis Cartilage 2012年3月、20(3):207〜14 PMID:22266236;Haugenら、Arthritis Res Ther 2011、13(6):248 PMID:22189142)。超音波検査によって検知される炎症を有する個体は、定着した炎症性疾患若しくは炎症を伴う疾患を発症する危険性が高い、該疾患の初期段階にある、または該疾患を有する。
様々な態様において、本発明は、炎症性疾患及び炎症を伴う疾患を治療するためのDHCQ、またはアトルバスタチンとの組み合わせでのDHCQの使用に関する。一実施形態において、上記スタチンはアトルバスタチンを含み、他の実施形態において、上記スタチンは、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、またはピタバスタチンを含むことができる。重要なこととして、DHCQとスタチンとの組み合わせのこの新規な使用は、抗生物質、抗ウィルス剤または抗細菌剤の使用を必要としない。DHCQ、またはDHCQとスタチンとの組み合わせに関して記載される抗炎症活性及び疾患修飾活性に対しては、抗生化合物、抗ウィルス化合物、または抗細菌化合物は必要とされない。
あるイン・ビトロアッセイ、エキソ・ビボアッセイ、及びイン・ビボモデルにおいて、DHCQとアトルバスタチンとの組み合わせは、イン・ビトロ及びエキソ・ビボアッセイでは炎症メディエータの産生を減少させることにおいて、イン・ビボモデルでは疾患の活動性及び炎症を減少させることにおいて、予想外且つ驚くべき相乗効果を示した。他のイン・ビトロアッセイ、エキソ・ビボアッセイ、及びイン・ビボモデルにおいて、上記組み合わせは、イン・ビトロ及びエキソ・ビボアッセイでは炎症メディエータの産生を減少させることにおいて、イン・ビボモデルでは疾患の活動性及び炎症を減少させることにおいて、予想外且つ驚くべき相乗効果を示した。一般的に、DHCQ単独及び個々のスタチン単独では、上記組み合わせ(DHCQ+アトルバスタチンの組み合わせ)が与えるような確実な抗炎症活性または疾患修飾活性を与えることはなく、これらは組み合わされた場合に相乗的な恩恵をもたらすことができる。
炎症性疾患の複数のマーカー、及びこれらのマーカーの異常なレベルの具体的な検知を用いて、疾患に対する危険性の高い、または初期段階の疾患を有する個体を識別する、並びにDHCQ、またはDHCQ及びアトルバスタチンによる療法を用いた介入に対する応答を監視することができる。バイオマーカーともいうかかるマーカーとしては、臨床検査結果、画像診断結果、身体所見、研究試験マーカー、並びに炎症及び疾患の他のマーカーが挙げられる。臨床検査マーカーの例としては、全身性炎症の尺度としてのhs−CRP;全身性炎症の尺度としてのESR;低下した血糖値制御の尺度、ひいては糖尿病及び/または代謝症候群の重篤度の尺度としてのヘモグロビンA1C;肝機能障害並びにNAFLD及びNASHの活動性の尺度としての肝酵素検査;並びにアテローム性動脈硬化症の徴候としてのコレステロール及びLDLコレステロールが挙げられる。画像診断マーカーの例としては、前臨床または初期段階のRAを有する個体における手関節のMRI上での初期滑膜炎の形跡;OAの危険性がある個体における関節のMRI上での軽度の滑膜炎の形跡;MSの危険性がある個体の脳のMRI上での脱髄病変の形跡が挙げられる。研究バイオマーカーの例としては、全身性炎症を有する個体を識別するため、及び個体を「危険性がある」状態とするまたは初期段階の疾患を媒介するサイトカインの特定のサブセットを判定するための血液中のサイトカインの多重プロファイリング;炎症性疾患を亜型として分類するための遺伝子発現の分析;個体が発症する危険性が高い炎症性疾患(複数可)を判定するための、個体のゲノムの遺伝子型の同定または配列決定を介する遺伝子変異型の分析が挙げられる。他の実施形態において、かかる臨床検査バイオマーカー、画像診断バイオマーカー及び研究バイオマーカーを用いて、炎症性疾患を発症する危険性が高い、または初期段階の炎症性疾患を有する個体を識別する。他の実施形態において、DHCQ療法に対する個体の応答を監視するために、かかる臨床検査バイオマーカー、画像診断バイオマーカー及び研究バイオマーカーを用いて、治療を継続する必要があるか、または治療を増加させる必要があるか、または個体の危険性が減少し、ひいては治療を中止することができるかを判定する。
例
以下は、本発明の方法及び組成物の例である。上述の一般的な説明を考慮すれば、様々な他の実施形態を行うことができることが理解される。
(例1) デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)を用いた治療は、マウスの慢性関節リウマチ(RA)の発症を防止し、その重篤度を低減した。
完全フロイントアジュバント(complete Freund’s adjuvant)(CFA)中に乳化させたII型コラーゲンを用いた免疫化、及び不完全フロイントアジュバント(incomplete Freund’s adjuvant)(IFA)中に乳化させたII型コラーゲンを用いた21日後の追加免疫により、DBA/1マウス(群あたりn=12〜15)をコラーゲン誘導性関節炎(collagen−indused arthritis)(CIA)を発症するように誘導した(RAのマウスモデル)。初回の免疫化の日、すなわち、マウスがRAの症状は示さなかったが、(CFAによる免疫化に起因して)既に高い炎症状態に誘導されており、高い炎症状態を示し、且つこの前RAまたは初期RA疾患段階の間に、第14日までに自己抗体を発現する時点において、ヒドロキシクロロキン(HCQ)、デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)、デスエチルクロロキン(DCQ)、またはビスデスエチルクロロキン(BDCQ)を用いて治療を開始し、各分子を経口胃管投与(1日1回の投与)により50mg/kg/日で、初回免疫の日から2週間投与し、次に経口胃管投与により、第14日から100mg/kg/日の負荷用量まで増加させ、組織において治療のための薬物濃度に効率的に到達させ、その後第21日に50mg/kg/日のより低い維持用量に下げ戻し、経口胃管投与によりこれを継続した。個々の群に対するスコアを統計的に比較することにより、HCQまたはDHCQを用いた治療が、ビヒクル(対照)を用いた治療と比較して、統計的に疾患の発症を低減し、疾患の活動性を低減することが実証された(マン・ホイットニーU検定により#P<0.05)。これとは対照的に、HCQの代謝物であるデスエチルクロロキン(DCQ)及びビスデスエチルクロロキン(BDCQ)は、ビヒクルで治療したマウスに比較して、統計的に保護または疾患の重篤度の低減を伴わなかった(マン・ホイットニーU検定による)。
RAのマウスモデルを作製するために、8週齢の雄のDBA/1マウス(Jackson Laboratory社)を用いた。実験は、スタンフォード大学動物実験委員会承認のプロトコルの下、NIH指針に従って実施した。DBA/1マウスを、加熱殺菌した結核菌H37Ra(BD)を250μg/マウス含む完全フロイントアジュバント(CFA)中で乳化したウシII型コラーゲン(Chondrex社)の100μg/マウスを用い、皮内投与で免疫化した。免疫化の21日後に、マウスに不完全フロイントアジュバント(IFA)中で乳化したウシCIIの100μg/マウスを尾の基部に皮下注射した。ほぼ第28日の前に、マウスはRAの症状は示さないが、コラーゲン免疫化に起因して、炎症のレベルの上昇を伴う前RAまたは初期RAの状態にある。更に、第14日までに、免疫化された前RAのマウスは、II型コラーゲンに対する自己抗体を発現しており、自己抗体応答がエピトープの伝播を起こし、マウスは持続的に炎症のある前RA疾患状態を有する(Arthritis Res Ther 2008、10(5):R119;Finneganら、Autoimmunity 2012 45(5):353〜63)。マウスはほぼ第28日に臨床上のRAを発症し始め、マウスにおける炎症性関節炎を、四肢の炎症を目視で採点すること、足の厚さを測定すること、及び脾臓を計量することにより評価した。上記目視での採点システムは次の通りであった。すなわち、0度:腫大または紅斑なし、1度:軽度の腫大及び紅斑または指の炎症、2度:足の中部よりも遠位の領域に限定される中程度の腫大及び紅斑、3度:足首まで拡大するより顕著な腫大及び紅斑、4度:足首、足、及び指の重篤な腫大、紅斑、及び関節の硬化、であった。各四肢を0〜4のスコアで等級付けし、各個々のマウスに対する最大可能なスコアは16であった。足の厚さは、両方の後足の厚さを0〜10mmのノギスで測定し、2回の測定値の平均値を計算することによって決定した。
初回免疫の日に、ヒドロキシクロロキン(HCQ)、デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)、デスエチルクロロキン(DCQ)、またはビスデスエチルクロロキン(BDCQ)を用いて治療を開始し、1日1回で2週間、経口胃管投与により、100μL中、50mg/kg/日を送達させ、次に、組織におけるアミノキノリンの治療濃度に効率的に到達させるために、1週間、経口胃管投与により、100mg/kg/日の負荷用量まで増加させ、その後追加免疫の時点(第21日)で、用量を、経口胃管投与による50mg/kg/日のHCQ、DHCQ、DCQまたはBDCQの維持用量に低減した。上記負荷用量の目的は、治療の開始に続いて、投与したアミノキノリンの組織中の濃度を治療濃度に到達させることを促進することであった。対照群のマウスはビヒクル単独で治療した。目視での採点システム(「関節炎スコア」という。)を用いてマウスを関節炎の重篤度に関して採点し、追加免疫後約1週間、関節炎を発症させた(最初の免疫化後28日)。HCQ及びDHCQによる治療群の関節炎の重篤度は、ビヒクル、ビスデスエチルクロロキン(BDCQ)、またはデスエチルクロロキン(DCQ)を用いて治療したマウスにおける関節炎の重篤度よりも統計的により低かった(マン・ホイットニーのU検定によりP<0.05)。図2は、CIAを誘導し、HCQまたはDHCQを用いて治療したマウスが、BDCQまたはビヒクルで治療したマウスと比較して、総関節炎スコアによって測定された関節炎が減少したことを示している(マン・ホイットニーのU検定によりP<0.05)。
(例2) デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)は多発性硬化症(MS)に対する実験的自己免疫性脳脊髄炎のマウスモデルの発症を防止し、その重篤度を低減した。
CFA中のプロテオリピドタンパク質ペプチド139−151(proteolipid protein peptide 139―151)(PLP 139−151)を用いた免疫化により、SJLマウス(群当たりn=10)に、MSのマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis)(EAE)を誘導した。免疫化の時点で開始して、投与したアミノキノリンの治療のための組織濃度に到達させることを促進するために、治療の開始に続いて、経口胃管投与による負荷用量の100mg/kg/日のDHCQまたはHCQを用いてマウスを治療し、第8日に、50mg/kg/日の維持用量に低減した。最初の免疫化後の初めの約10日間は、マウスはMSの症状を呈さないが、炎症を起こしており、自己抗体を発現し、前MSまたは初期MSの疾患状態にある。第8日に開始して、マウスをEAEの重篤度に関して毎日採点した。群間のマン・ホイットニーのU検定の比較によって、DHCQを用いた治療及びHCQを用いた治療の両方が、対照のビヒクルまたはビスデスエチルクロロキン(BDCQ)を用いた治療と比較して、EAEの発症を防止し、EAEの重篤度を低減することが実証された(図3)。このように、我々は、デスエチルヒドロキシクロロキンがMSのEAEマウスモデルの発症を防止すること、及びその重篤度を低減することを実証し(マン・ホイットニーのU検定により *P<0.05)、且つ上記炎症の低減が疾患の重篤度の低減と相関することを実証した。DHCQは、いくつかの時点で、HCQによる治療と比較して、より大きな程度にEAEの疾患活動性を低下させる、統計的に優れた活性を示した(マン・ホイットニーのU検定により#P<0.05)。
(例3) デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)は定着したマウス多発性硬化症(MS)を治療した。
CFA中のプロテオリピドタンパク質ペプチド139−151(PLP 139−151)を用いた免疫化により、SJLマウス(群当たりn=10)に、MSのマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導した。マウスが約2.5の平均臨床スコアを示した第14日に、経口胃管投与による100mg/kg/日のDHCQまたは100mg/kg/日のHCQを用いて治療を開始し、8日後に容量を50mg/kg/日に低減した。群間のマン・ホイットニーのU検定の比較によって、DHCQを用いた治療及びHCQを用いた治療の両方が、対照のビヒクルを用いた治療と比較して、EAEの重篤度を低減することにより、定着したEAEを治療することが実証された(マン・ホイットニーのU検定により *P<0.05、**P<0.01)(図4A)。実験の終了時にマウスを屠殺し、脳を採取し、固定し、盲検化された試験者が、切片を髄膜及び実質における炎症病巣の数について、確立された「炎症病巣スコア」(Changら、「B7−1/B7−2欠損マウスのCNSにおいて、EAEからの回復は脳炎誘発性T細胞の生存率の減少を伴う」(Recovery from EAE is associated with decreased survival of encephalitogenic T cells in the CNS of B7−1/B7−2−deficient mice)European J.Immunology、2003、33(7):2022〜32)を用いて組織学的に採点した。対照のビヒクルによる治療と比較して、HCQを用いた治療は、髄膜における炎症病巣スコアを低減し(両側T検定により *P<0.05)、且つ実質におけるスコア及び合計のスコアにおいて減少に向かう傾向を示した(図4B)一方で、DHCQを用いた治療では、髄膜、実質における炎症病巣スコア、並びに合計のスコアを統計的に低減した(両側T検定により *P<0.05)(図4C)。このようにDHCQは、EAEマウスモデルにおいて定着した多発性硬化症を明確に治療し、HCQを用いた治療よりも確実な治療活性を示した。
(例4) デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)はマウスモデルにおける変形性関節症(OA)の発症を防止し、その重篤度を低減した。
この例は、内側半月板の不安定化(DMM)によりOAを発症させるように外科的に誘導されたマウスにおいて、デスエチルヒドロキシクロロキン用いた治療が、OAの重篤度を統計的に防止及び低減することを実証した(両側T検定によりP=0.03)(図5及び6)。C57BL6(B6)マウス(群当たりn=6〜10)を、内側半月板の不安定化(DMM)によりOAを発症するように外科的に誘導した。外科的誘導後1週間後に、経口胃管投与(1日1回)により100mg/kg/日で投与する対照のビヒクル、ヒドロキシクロロキン(HCQ)、またはデスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)を用いて治療を開始した。3ヶ月後にマウスを屠殺し、関節を採取し、関節の切片を切り出し、組織切片をサフラニン−Oで染色した。治療について盲検化された試験者が、顕微鏡を用いてOAの重篤度を採点した。盲検化された試験者が「軟骨変性スコア」(「OAスコア」、「重篤度スコア」及び「組織学スコア」としても知られる)を測定し、両側T検定を用いて、群間に軟骨変性スコアの統計的な差異が存在するかを判定した。DHCQは、対照のビヒクルを用いた治療と比較した両側T検定により、軟骨変性スコアを用いて評価されたOAの重篤度を、統計的に防止し且つ低減した(P=0.03)(図5)。ヒドロキシクロロキンは、軟骨変性スコアに基づいて、統計的に有意にOAの重篤度を防止または低減することはなかった(図5)。
上記及び図5に示す、マウスOA実験の終了時に作製された組織学的切片を、「骨棘スコア」(骨棘、すなわち異所性骨の形成量の尺度)及び「滑膜炎スコア」(滑膜及び関節の炎症の量の尺度)に対する盲検化した採点に供した。群間のスコアを両側T検定により比較した。ビヒクルで治療した対照と比較して、DHCQは、軟骨変性の重篤度を統計的に防止及び低減し、且つ骨棘(P<0.01)及び滑膜炎(P<0.01)の発症も統計的に防止及び低減した(図6)。
C57/BL6(B6)マウス(群当たりn=7〜10)を、内側半月板の不安定化(DMM)によりOAを発症するように外科的に誘導した。実験は、スタンフォード大学動物実験委員会承認のプロトコルの下、NIH指針に従って実施した。マウスOAは、DMMの不安定化により外科的に生起させた(Glasson,S.,S.,ら、Osteoarthritis Cartilage、15:1061〜1069(2007))。DMMモデルの外科的誘導の1週間後に、マウスは正常に歩行及び走行し、関節軟骨は未変化であってOAの形跡はないが、上記外科的処置に起因して、マウスは前OAまたは初期OA疾患状態にあり、その後の数か月間にわたってOAを発症する。
手術の3ヶ月後にマウスを安楽死させた。マウスの後膝関節をEDTA溶液中で脱灰し、4%パラホルムアルデヒド中で固定化し、パラフィン中に包埋した。連続した複数の4ミクロンの切片を切り出し、トルイジンブルーで染色した。以前に報告された複合的な採点システム(Kamekura,S.ら、Osteoarthritis Cartilage 13:632〜641(2005);Bendele,A.M.、J Musculoskelet Neuronal Interact、1:363〜376(2001))の修正版に従い、これらの組織学的切片における関節炎の採点を行った。「OAスコア」は次のように計算した。すなわち、軟骨変性(0〜4)に大腿内側及び脛骨内側顆の各1/3の幅(表面積の、1は1/3、2は2/3、及び3は3/3)を乗じ、6領域に対するスコアを合計した。骨棘(異所性骨)の形成を評価するために、以前報告された採点システム(Kamekura,S.ら、膝関節の不安定性により誘導された新規な実験的マウスモデルにおける変形性関節症の発症(Osteoarthritis development in novel experimental mouse models induced by knee joint instability)、Osteoarthritis Cartilage 13:632〜641(2005))に従い、トルイジンブルー染色した切片を採点した。すなわち、0:なし、1:軟骨様組織の形成、2:軟骨基質の増加、3:軟骨内骨化、であった。滑膜炎を評価するために、以前報告された採点システム(Blom,A.B.ら、滑膜表層マクロファージは実験的変形性関節症の間に骨棘形成を仲介する(Synovial lining macrophages mediate osteophyte formation during experimental osteoarthritis) Osteoarthritis Cartilage 12、627〜635(2004))に従って、H&E染色した切片を採点した。すなわち、0:正常な関節に比較して変化なし、1:滑膜表層の肥厚及び多少の炎症細胞の流入、2:滑膜表層肥厚及び中程度の炎症細胞の流入、3:重大な滑膜表層の肥厚(4層の細胞層を超える)及び観測される最大限の炎症細胞の流入、であった。骨棘形成及び滑膜炎に関するスコアを、手術した側の関節上の大腿内側及び脛骨内側顆について記録し、上記2つの領域に関するスコアを合計し、両側T検定を用いて統計的な比較を行った。
内側半月板の不安定化(DMM)の外科的誘導の1週間後に治療を開始し、その時点で、マウスはOAの発症の危険性が高かった。マウスにおけるDMMは、ヒトにおける変性または外傷性半月板断裂に類似し、該半月板断裂は、ヒトのOAの発症に対する危険性を5倍増加させることが実証されている。DMMの誘導の1週間後に、マウスは正常に歩行及び走行し、OAの発症に対する危険性は高いが、OAの古典的な組織学的特徴を示さず、具体的には、この時点で明白な軟骨の減損または骨の再構成(骨棘形成、軟骨下骨の再構成))の形跡はない。それにも拘わらず、DMMの1週間後には、軟骨浮腫、プロテオグリカンの減損、その他のマウス及びヒトOAの両方に特徴的な初期の特徴が存在する蓋然性がある。
(例5) デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)は高脂肪食餌誘導非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の発症を防止した。
NASHの発症に繋がり得る非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の動物モデルに対するDHCQ及びHCQの効果を評価するために、C57BL/6マウス(群当たり8頭)に、高脂肪の「洋風の」食餌(カロリー含有量の60%が脂肪由来、Taconic)を6週間給餌した。マウスは、この期間を通して無症候性であったが、前疾患状態または初期疾患状態を発症しつつあった。マウスを、高脂肪食餌の開始時から始めて、NAFLD及びNASHの発症を防止するために、HCQ(100mg/kg/日)、DHCQ(100mg/kg/日)、または対照のビヒクルを用いて治療した。高脂肪の食餌としつつ、HCQ、DHCQ、及びビヒクル(対照)を用いて6週間治療した後に、血液を採取し、マウスを屠殺し、肝臓病理の組織学的分析を行った。各治療群のマウス由来の肝臓を固定化し、包埋し、切片化し、H&Eで染色し(代表的な顕微鏡写真を(10倍及び20倍の両方の倍率で)図7Aに示す。)、NASHに対して確立された採点システム(Bruntら、非アルコール性脂肪性肝炎:組織学的病変を等級分け及び病期分類するための提案(Nonalcoholic steatohepatitis:a proposal for grading and staging the histological lesions)、American J.Gastroenterology、1999、94(9):2467〜74)を用いて「肝スコア」測定した。図7Bに示すように、DHCQで治療したマウス(P<0.001)及びHCQで治療したマウス(P<0.05)の両方において、対照のビヒクルで治療したマウスと比較して、「肝スコア」が統計的に減少した(両側T検定による)。NASHの血清の検査マーカーとして、アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase)(ALT、血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(serum glutamic pyruvate transaminase)[SGPT]としても知られる)の血清レベル及び血清アスパラギン酸トランスアミナーゼ(aspartate transaminase)(AST、血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(serum glutamic oxaloacetic transaminase)[SGOT]としても知られる)を測定し、DHCQは、対照のビヒクルでの治療と比較して、これらの肝トランスアミナーゼのレベルの異常な上昇を防止及び低減することが実証された(両側T検定、 *P<0.05、 ***P<0.001)(図7C、D)。これらの検討は、DHCQを用いた治療がNAFLD及びNASHの発症を防止し、且つNAFLD及びNASHの重篤度を低減することを実証した。更にDHCQは、肝スコア、AST及びALTを低減することにおいて、HCQに対して統計的に優れた活性を示した(両側T検定によりP<0.05、図7C〜Dにおけるグラフは示していない)。
(例6) デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)は定着した高脂肪食餌誘導非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を治療した。
定着したNASHに対するDHCQ及びHCQの効果を評価するために、C57BL/6マウス(群当たり8頭)に、高脂肪の「洋風の」食餌(カロリー含有量の60%が脂肪由来、Taconic)を6週間給餌した。高脂肪食餌の開始2週間後に血液を採取し、AST及びALTを始めとするNASHに関する血清マーカーの異常な上昇について分析した。最初の2週間の高脂肪食餌後にAST及びALTが異常に高くなり、その時点でHCQ(10mg/kg/日)、DHCQ(10mg/kg/日)、または対照のビヒクルを用いた治療を開始した。6週間の治療の後、マウスを絶食させ、血液を採取して血清分析を行い、マウスを屠殺して肝臓病理の組織学的分析を行った。図8Aは、代表的な肝臓組織切片の10倍及び20倍の両方の倍率における顕微鏡写真を示す。肝臓切片を、以前に報告された採点システム(Tousら、アポリポタンパク質E−ノックアウトマウスへのコレステロール及び脂肪に富む食餌の給餌は非アルコール性脂肪性肝炎のモデルとなり得る(Feeding apolipoprotein E−knockout mice with cholesterol and fat enriched diets may be a model of non−alcoholic steatohepatitis) Mol cell Biochemistry、2005、268:53〜59;Tousら、アポE欠損マウスの大動脈及び肝臓における食餌性コレステロール及び示差単球走化性タンパク質−1遺伝子発現(Dietary cholesterol and differential monocyte chemoattractant protein−1 gene expression in aorta and liver of apo E−deficient mice) Biochemical and Biophysical Research Communications、2006、340:1078〜1084)の精度を上げた改変版を用いて、「全領域の脂肪症の割合」に関して採点したところ、DHCQまたはHCQのいずれかを用いた治療は、肝臓の組織診断により評価した脂肪症の割合を統計的に低減していた(両側T検定により *P<0.05、 ***P<0.01)(図8B)。採取した血清中のAST及びALTレベルを測定し、両側T検定を用いて群間のレベルを比較した。DHCQを用いた治療は、対照のビヒクルと比較して、AST及びALTの異常な上昇を統計的に低減した(P<0.001、図8C、D)一方で、HCQを用いた治療は、AST及びALTの異常な上昇の減少に向けた傾向を示すのみであった(N.S.=有意ではない(non−significant))。DHCQによる治療は、HCQを用いた治療と比較して、AST及びALTの統計的な減少を示した(両側T検定により *P<0.05、**P<0.01)。これらの検討は、DHCQが定着したNASHの治療において確実な有効性を示すことを実証している。
(例7) DHCQは食餌誘導性肥満症マウスにおけるII型糖尿病、高脂血症及び代謝症候群を治療した。
食事誘導性II型糖尿病、高脂血症及び代謝症候群のマウスモデルに対するDHCQ及びHCQを用いた治療を評価するために、C57BL/6マウス(群当たり8頭)に、高脂肪の「洋風の」食餌(カロリー含有量の60%が脂肪由来、Taconic)を給餌した。例6における形式と類似の形式で、高脂肪食餌の開始2週間後に、高脂肪食餌群のマウスに、対照のビヒクル、HCQ(10mg/kg/日)またはHCQの代謝物であるDHCQ(10mg/kg/日)、DCQ(10mg/kg/日)、若しくはBDCQ(10mg/kg/日)を用いた治療を開始した。6週間の治療の後に血液を採取し、グルコース、トリグリセリド、及びコレステロールのレベルの分析を行った。図9は、食餌誘導性肥満症マウスにおけるII型糖尿病、高脂血症及び代謝症候群のHCQ、DHCQ、DCQ、及びBDCQによる治療に関して、グルコース、トリグリセリド及びコレステロールのレベルを比較したグラフを示す。グルコースのレベルは、初期のインスリン抵抗性及びII型糖尿病の早期発症のバイオマーカーを表し、DHCQを用いた治療は、対照のビヒクルを用いた治療と比較して、血糖値レベルを統計的に低減した( *P<0.05、両側T検定)(図9A)一方で、HCQ、DCQ及びBDCQは対照的に、対照のビヒクルと比較して、血糖値を統計的に低減することはなかった(図9A)。採取した血清において脂質のレベルも測定し、DHCQによる治療は、両側T検定による統計的解析に基づいて、対照のビヒクルを用いた治療と比較して、総コレステロール( ***P<0.001、図9B)及びトリグリセリド( ***P<0.001、図9C)を統計的に低減した。HCQ、DCQ及びBDCQを用いた治療は、対照のビヒクルで治療したマウスにおけるレベルと比較して、グルコース、コレステロールまたはトリグリセリドを統計的に低減することはなかった(N.S.=両側T検定により有意ではない)(図9)。更に、DHCQによる治療は、HCQを用いた治療と比較して、コレステロール及びトリグリセリドを統計的に有意に低減した(両側T検定により ***P<0.001)。DHCQによる治療はまた、DCQを用いた治療と比較して、グルコース、コレステロール及びトリグリセリドを統計的に有意に低減し(両側T検定により *P<0.05、 ***P<0.001)、BDCQを用いた治療と比較して、コレステロールを統計的に有意に低減した(両側T検定により ***P<0.001)。これらのデータは、DHCQが、食餌誘導性肥満症に関連するインスリン抵抗性、II型糖尿病、高脂血症、及び代謝症候群の発症を治療し、且つHCQ、DCQ及びBDCQよりも統計的により効果的に治療したことを示す。
(例8) デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)は炎症誘発性刺激に応答する炎症性サイトカイン産生を低減した。
DHCQは、炎症誘発性リポ多糖(LPS)刺激に応答した、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)による炎症誘発性サイトカイン 腫瘍壊死因子(TNF)の産生を減少させた(図10)。Ficollを用いてヒトPBMCを単離し、96ウェルプレートの各ウェルに200,000個のPBMCを添加し、0〜50μΜの濃度範囲のDHCQ、または0〜50μΜの濃度範囲のHCQの存在下で14時間、10μg/mlのLPSで刺激し、それに続いて培養液上清を回収し、ELISAによってTNFを測定した。アッセイは3回繰り返しで行った。平均のTNFレベルを該平均値の標準誤差と共に示す。チューキー検定を用いて群間の結果を統計的に比較したところ、HCQ及びDHCQの両方が10、25及び50μΜの濃度において、これらの分子の非存在下でのLPS刺激と比較して、PMBC TNFの産生を低減した(両側T検定により**P<0.001)。
(ヒトPBMC及び単球の単離) Ficoll−Paque(登録商標)Plus(ネコ、17−1440−03、GE Healthcare社)を用い、健常なドナーより採取した血液由来のヒト末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。細胞培養のために、単離したPBMCを、10%FCS及び抗生物質(ペニシリン100IU/mL及びストレプトマイシン100μg/mL)を含有する培地(RPMI1640)に再懸濁させた。単球単離キットII(ネコ、130−091−153、Miltenyi Biotec社)を用い、ヒトPBMCの懸濁液から単球を単離した。
(刺激アッセイ) 48ウェル培養プレートに1.0×106 細胞/ウェルで蒔種したヒトPBMCを、37℃、5%CO2 で60分間、HCQ若しくはデスエチルヒドロキシクロロキンまたはビヒクルで前処理した。ml当たり10マイクログラムのリポ多糖(LPS、Sigma社)20時間、37℃、5%CO2 で前処理した。96ウェル培養プレートに5.0×104 細胞/ウェルで蒔種したヒト単球を、37℃、5%CO2 で60分間、HCQ若しくはデスエチルヒドロキシクロロキンまたはビヒクルで前処理し、次いで37℃、5%CO2 で15時間、LPS(Sigma社)を用いて刺激した。
(読み出し) PMBC細胞アッセイからの出力は、LPS刺激アッセイに対するTNFとした。各アッセイに対して、同一に処理された並列ウェルを調製し、LDHのレベルを測定し、薬物処理によって細胞死の形跡が誘発されていないことを確認した。
(例9) デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)による処理は、共に高い網膜細胞死を招いたヒドロキシクロロキン(HCQ)またはビスデスエチルヒドロキシクロロキン(BDCQ)を用いた処理と比較して、網膜細胞に対して細胞毒性がより低い。
ヒドロキシクロロキンの長期投与に対する主要で深刻な危険性は、網膜への蓄積とそれに続く眼毒性である(Terahiら、2008 Semin Opthal (3):201〜208 PMID)。HCQ、DHCQ、及びBDCQの眼への沈着は、等価の濃度のこれらの分子を網膜色素上皮細胞株ARPE−19と共にインキュベートすることによる、直接的な網膜細胞毒性により評価した。ARPE−19は分化特性を有するヒト網膜色素上皮細胞株である(Dunnら、Exp Eye Res 1996 62(2):155〜69)。ARPE−19細胞を90%コンフルエンスまで増殖させ、次に10g/mlのHCQ、DHCQ、BDCQ、または対照のビヒクルに24時間曝露し、それに続いて顕微鏡分析及び顕微鏡撮影を40倍の倍率で実施した。図11は、DHCQによる処理は、高い細胞毒性及び細胞死をもたらすHCQまたはBDCQを用いた処理と比較して、より低いARPE−19細胞毒性しか伴わないことを実証する代表的な顕微鏡写真を示す。網膜上皮細胞の生存率は、対照のビヒクル及びDHCQで処理した細胞の両方において高かった。HCQ及びBDCQで処理した細胞においては、網膜細胞の異形性の特徴及び網膜細胞死が観察された(赤い矢印)。このように、DHCQは、HCQまたはBDCQによる処理で観察された高い網膜細胞の細胞毒性と比較して、より低い網膜細胞の細胞毒性を示した。
図12において、この細胞毒性を乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase)(LDH)の放出に基づいて定量する。前述のように、ARPE−19細胞を90%コンフルエンスまで増殖させ、その後10μg/mlのHCQ、DHCQ、BDCQ、または対照のビヒクルに24時間曝露し、続いて乳酸脱水素酵素(LDH)放出アッセイ(Abcam社)により細胞死を定量した。図12は、DHCQによる処理は、対照のビヒクルによる処理と比較して、細胞の細胞毒性及び細胞死を引き起こさなかったことを実証する(両側T検定によりP=N.S.(有意ではない))。対照的に、BDCQ及びHCQは両方共に、対照のビヒクルと比較して、統計的にLDH放出を、ひいては網膜上皮細胞株の細胞の細胞毒性を増加させた(両側T検定により ***P<0.01)。更に、等モル濃度のHCQ及びBDCQは、DHCQと比較して、網膜細胞毒性を有意に増加させた(両側T検定により###P<0.001)(図12)。これらのデータは、DHCQが、イン・ビトロで僅かな網膜細胞毒性しか示さないことを実証し、このことは、共に有意に高い網膜細胞毒性を示したHCQ及びHCQの代謝物であるBDCQとは対照的である。
(例10) DHCQが、網膜中に蓄積する低レベルに比較して高いレベルで血漿及び滑膜組織中に蓄積する一方、HCQは対照的に、血漿または滑膜組織中のレベルに比較して高いレベルで網膜中に蓄積することの実証
ヒドロキシクロロキンの長期投与に対する主要な危険性は、網膜への蓄積とそれに続く眼毒性である(Terahiら、2008 Semin Opthal (3):201〜208 PMID)。我々はHCQ及びDHCQの網膜への沈着を評価しようと努めた。該評価を行うために、我々は、HCQまたはDHCQのいずれかで治療したマウス由来の網膜中、手術側及び非手術側の滑膜組織中、並び血漿中の薬物及び代謝物の含量の質量分光分析を行った。図13は、HCQを投与したマウス由来の示した組織(血漿、網膜、手術側からの滑膜組織、非手術側からの滑膜組織)中のHCQレベル、HCQを投与したマウス由来の示した組織中のDHCQレベル、及びDHCQを投与したマウス由来の示した組織中のDHCQレベルの測定濃度を示す。各群由来の示した組織中で測定されたレベル間の示した統計的比較を、両側T検定によって比較した( *P<0.05、**P<0.01、 ***P<0.001)。HCQまたはDHCQを投与したマウスの群において、示した組織中で測定されたHCQ及びDHCQの濃度の比の比較を、図14〜16に示す。
DHCQは、血漿及び滑膜組織においては高レベルで蓄積し、網膜においては低レベルの蓄積に過ぎなかったが、このことは、血漿または滑膜組織におけるより低いレベルと比較して、網膜中に高いレベルで蓄積したHCQとは対照的である(両側T検定により *P<0.05、 ***P<0.01)(図13)。HCQで治療したマウスの網膜中のHCQは高いレベルであるが、HCQマウスまたはDHCQで治療したマウスの網膜中のDHCQの蓄積は低レベルに過ぎないことが実証される(両側T検定により *P<0.05、 ***P<0.01)(図13)。このように、HCQとは対照的に、DHCQは、HCQで治療したマウス及びDHCQで治療したマウスの両方において、網膜への低い蓄積を示す。
このことは更に、種々の投与群及び組織におけるDHCQまたはHCQのレベルの比を比較することにより実証される(図14〜16)。具体的には、図13における、HCQ及びDHCQ投与群で測定されたDHCQ及びHCQの濃度が、以下の3種の比率の一つとして表示される。すなわち、(1)手術した後膝関節(ヒザ)の滑膜組織中のレベル/血漿中のレベル、(2)網膜中のレベル/血漿中のレベル、(3)手術した後膝関節(ヒザ)の滑膜組織中のレベル/網膜中のレベルである(図14〜16)。
DHCQレベルは、血漿に比較して網膜においてより低い一方、HCQは対照的に、血漿に比較して網膜においてより高いレベルで蓄積した(図14及び15)。図15は、DHCQまたはHCQを投与したマウスにおけるDHCQの網膜中のレベル/血漿中のレベルの比、及びDHCQを投与したマウスにおけるDHCQの網膜中のレベル/血漿中のレベルの比を示す。これらのデータは、HCQは、網膜において血漿よりも約8.5倍高いレベルに達する一方、DHCQは対照的に、HCQを投与したマウス及びDHCQを投与したマウスの両方において正反対を示し、網膜に比較して血漿において大幅に低いレベルである。
更に、DHCQは、網膜において測定される低レベルに比較して、手術した関節の滑膜組織中により高いレベルで蓄積した一方で、HCQは対照的に、手術した関節の滑膜組織において測定される低レベルに比較して、網膜中により高いレベルで蓄積した(図14及び図16)。図16は、DHCQまたはHCQを投与したマウスにおけるDHCQの手術側の滑膜中のレベル/網膜中のレベルの比、及びDHCQを投与したマウスにおけるDHCQの手術側の滑膜中のレベル/網膜中のレベルの比を示す。これらのデータは、HCQを投与したマウス及びDHCQを投与したマウスの両方において、DHCQは、手術した関節の滑膜組織中に、網膜に蓄積した低いレベルと比較して高いレベルで、異なる形で蓄積したことを示す。これとは対照的に、HCQを投与したマウスにおいては、HCQのレベルは、血漿または手術した関節組織におけるレベルに比較して、網膜においてより高かった。このように、DHCQが、網膜における低レベルと比較して、手術した関節の滑膜において高レベルで優先的に蓄積することが、DHCQがHCQよりも網膜毒性を生じ難いことに対して、おそらく寄与しているものと思われる。
(マウス、HCQ及びDHCQの投与、特定の組織の単離、及び組織試料中のHCQ及びDHCQの質量分光分析測定) C57BL6(B6)マウス(群あたり当たりn=5)を、経口胃管投与により3ヶ月間、HCQ(100mg/kg/日)またはDHCQ(100mg/kg/日)を用いて治療した。実験終了時(3ヶ月後)にマウスを屠殺し、解剖顕微鏡下で眼を取り出した。湾曲した顕微解剖用ハサミを用いて角膜及び強膜に沿って切開し、レンズ及び臓側を取り出して廃棄し、神経網膜をeye shellと共に残し、これをリン酸緩衝食塩水(PBS)中にとり、均質化後に遠心分離した。手術した膝または対側の手術していない膝から滑膜を顕微解剖し、組織の重量によって正規化し、これをHPLCグレードの水中にとった後、均質化及び遠心分離を行った。尾での採血により血漿を得た。血漿及び組織試料をアセトニトリルによって沈殿させ、Climax Laboratories社(カリフォルニア州サンノゼ)において、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)によりHCQ、DHCQ、BDCQのレベルを評価した。LC/MS分析は、ACE C18、50×2.1 HPLCカラムを備えたShimadzu 10A HPLCシステム(Shimadzu Scientific Instruments社、カリフォルニア州プレザントン)並びに電子噴霧イオン化(Electrospray Ionization)(ESI)及び陰イオンモード多重反応モニタリング(negative Multiple Reaction Monitoring)(MRM)走査を用いたABSciex API−4000質量分析計(ABSciex社、カリフォルニア州フォスターシティ)を用いて行った。試験化合物の分離において、移動相A(5mMのNH4Ac中0.1%ギ酸)及び移動相B(アセトニトリル中0.1%ギ酸)による傾斜溶離を用いた。
(例11) 網膜組織学の分析は、イン・ビボでのDHCQを用いた治療が、HCQを用いた治療と比較して、より低い網膜毒性及び細胞死しか伴わないことを実証する。
例10及び図13〜16に記載した、3ヶ月間100mg/kg/日のHCQまたは100mg/kg/日のDHCQを投与したマウスの群(n=5)より、網膜の分析を行い、該分析は、HCQを用いて治療したマウスと比較して、DHCQを用いて治療したマウスにおいて、網膜毒性が低下することを実証した。実験終了時に、各治療群由来の眼を注意深く顕微解剖して網膜を無傷のまま確保し、当該の眼をホルマリンで固定し、固定した眼を切片化して網膜を可視化した。網膜細胞層をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色し、神経節細胞層(ganglion cell layer)(GCL)中の核の数、並びに、網膜神経節細胞の選択的な減損を示唆するGCLにおける核の収縮を評価した。図17に示す結果に基づけば、HCQを用いて治療したマウスにおいて、GCLにおける核の収縮の増加が観察された(図17B)。DHCQで治療したマウスの群においては、GCLにおける核収縮の増加は認められなかった(図17C)。各治療群由来のH&E染色した網膜切片の代表的な画像を図17に示す。
Shichiriら(Shichiriら、JBC 2012、287(4):2926〜34 PMID 22147702)から採用した組織学的且つ定量的な病理学方法論を用いて、上記H&E染色した網膜切片を、神経節細胞層(GCL)中の核の数に関して評価した(図18)。当該グラフは、示した治療群由来の網膜のGCL中の核の数の定量化を示す。各治療群についての網膜のGCL中の細胞の数を、両側T検定により、ビヒクルで治療した対照中の細胞数と比較した。ビヒクルで治療した対照マウス由来の網膜と比較して、我々は、ビヒクルを用いて治療したマウスと比較して、HCQを用いて治療したマウスにおいて、GCL中の細胞の数が有意に少ないことを見出した( *P<0.05)(図18)。対照的に、ビヒクルで治療した対照マウス由来の網膜と比較して、DHCQを用いて治療したマウス由来の網膜におけるGCL中の細胞の数には、減少はなかった(N.S.=非有意)(図18)。更に我々は、HCQで治療したマウスと比較して、DHCQで治療したマウス由来の網膜のGCL中の細胞の数を統計的に比較し、HCQによる治療により、DHCQによる治療と比較して、網膜細胞の減損が統計的に増加することを実証した(#P<0.05)(図18)。
これらの結果は、DHCQを用いた治療が、HCQを用いた治療に比較して、網膜毒性(網膜症)を統計的により低くすることを実証している。
(例12) DHCQまたはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療はマウスの変形性関節症(OA)の発症を防止し、その重篤度を低減した。
図19は、アトルバスタチン、HCQ、DHCQ、BDCQ、DCQ、アトルバスタチン+HCQ、アトルバスタチン+DHCQ、またはアトルバスタチン+BDCQを用いて治療したマウスの群に関する軟骨変性スコアを比較した結果を示す。DHCQ+アトルバスタチン及びHCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、マウスモデルにおける変形性関節症(OA)の発症を防止し、その重篤度を低減させた。C57BL6(B6)マウス(群当たりn=7〜10)を、内側半月板(DMM)の不安定化によって、外科的にOAを発症するように誘導した。外科的誘導の1週間後、マウスが無症候性であったまたは軽度の前OA関節症状を示す時点で、以下の分子の1種または複数種を用いて治療を開始した。すなわち、40mg/kg/日のアトルバスタチン、100mg/kg/日のHCQ(HCQ)、100mg/kg/日のDHCQ、100mg/kg/日のデスエチルクロロキン(DCQ)、または100mg/kg/日のビスデスエチルヒドロキシクロロキン(BDCQ)であり、全てを(図に表示したように)個々でまたは分子の組み合わせとして、1日1回、経口胃管投与により送達した。3ヶ月後、マウスを屠殺し、関節を採取し、関節を切片に切り出し、組織切片をサフラニン−Oで染色した。後膝関節の内側の領域のサフラニン−O染色切片における平均「軟骨変性スコア」をグラフに示す。両側T検定を用い、ビヒクル対照群と比較し、各群に対する軟骨変性スコアを比較した。
図20は、アトルバスタチン、HCQ、DHCQ、BDCQ、DCQ、HCQ+アトルバスタチン、DHCQ+アトルバスタチン、またはBDCQ+アトルバスタチンを用いて治療したマウスの群に関する、「軟骨変性スコア」、「骨棘スコア」、及び「滑膜炎スコア」(これらのスコアの説明については、Wangら、変形性関節症における補体の重要な役割の識別(Identification of a critical role for complement in osteoarthritis)、Nature Medicine、2011、17(12):1674〜9)を参照されたい。)を比較した表である。DHCQ+アトルバスタチン、及びHCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、OAの発症を防止し、OAのマウスモデルにおいて軟骨変性スコアの重篤度を低減した。図19に示すマウスのOA実験から、両側T検定により、後膝関節の内側の領域のサフラニン−O染色切片における平均「軟骨変性スコア」を、ビヒクルによる治療群と各々の他の治療群との間で比較したところ、DHCQ+アトルバスタチン、並びにHCQ+アトルバスタチンの組み合わせの両方が、ビヒクルにより治療したマウスと比較して、統計的に関節における滑膜炎(炎症)を低減し(P<0.01)、OAの発症を防止し(P<0.01)、OAの重症度を低減することが実証された(P<0.01)。
図21は、HCQ、DHCQ、BDCQ、またはDCQとアトルバスタチンとの組み合わせを用いて治療した非検体と、これに対するHCQ、DHCQ、またはアトルバスタチン単独を用いた単剤療法に関する、軟骨変性スコア、骨棘スコア、及び滑膜炎スコアを比較した表である。マウスOAにおいて、DHCQ+アトルバスタチン及びHCQ+アトルバスタチンの保護効果を、HCQまたはアトルバスタチンの単剤療法単独のいずれかと比較した。図19に示すマウスのOA実験から、両側T検定により、平均の「軟骨変性スコア」、「骨棘スコア」、及び「滑膜炎スコア」を、個々の単一の薬物により治療した群(例えばアトルバスタチンにより治療した、またはHCQにより治療した、またはDHCQにより治療した)と、各々の併用治療を受けた群(例えばDHCQ+アトルバスタチン、またはHCQ+アトルバスタチン)との間で比較し、DHCQ+アトルバスタチン並びにHCQ+アトルバスタチンの組み合わせの両方が、ビヒクルにより治療したマウスと比較して、統計的にOA関節における滑膜炎(炎症)を低減し(P<0.01)、OAの発症を防止し(P<0.01)、OAの重篤度を低減する(P<0.01)ことが実証された。
DHCQを単独で用いた治療は、ビヒクルを用いた治療と比較して「軟骨変性スコア」を低減した(両側T検定によりP=0.03)(図19及び20)。これとは対照的に、HCQ単独またはアトルバスタチン単独のいずれかを用いた治療では、「軟骨変性スコア」の改善の傾向が見られたのみであった(図19及び20)。DHCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、ビヒクルにより治療した群(P<0.01)、並びにDHCQ単独またはアトルバスタチン単独のいずれかを用いた治療(P<0.05)の両方と比較して、両側T検定により統計的に、「軟骨変性スコア」を低減した(図21)。加えて、DHCQを単独で用いた治療は、ビヒクルを用いた治療と比較して、滑膜炎及び骨棘の発症に対して、統計的に有意に保護し(図20)、DHCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、いずれかの薬物を単独で用いた治療と比較して、一層強力にかつ統計的に有意に、滑膜炎及び骨棘の発症を防止且つ低減した(図21)。
このように、DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、骨棘の発症を防止し、骨棘の重篤度を低減することが実証された。
(例13) DHCQ、DHCQ+アトルバスタチンの組み合わせ、及びHCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、OAのマウスモデルの滑膜において、炎症性サイトカイン産生の発現を阻害する。
例12及び図19に示したマウスOA実験に対する並列実験から、イン・ビボ投与に続き終了時に、OA滑膜組織を顕微解剖し、均質化して可溶化液を形成し、遠心分離し、上清を、マルチプレックス・ビーズベース・サイトカイン・アッセイ(multiplex bead−based cytokine assay)(BioRad Laboratories社、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いて炎症性サイトカインのレベルに関してアッセイを行った。図22は、ビヒクルで治療したマウス(CTRL)、ヒドロキシクロロキンで治療したマウス(HCQ)、デスエチルヒドロキシクロロキンで治療したマウス(DHCQ)、アトルバスタチンで治療したマウス(アトルバ)、HCQ+アトルバの組み合わせで治療したマウス、及びDHCQ+アトルバの組み合わせで治療したマウス由来のマウスOA滑膜(SNY)中の炎症性サイトカインのレベルを表すヒートマップを示す。各治療群からの2頭の別個のマウスのそれぞれ由来の2の別個の測定値の結果を示し、解析を行う。対照のビヒクルで治療したマウスと比較して、OA滑膜における炎症性サイトカインのレベルは、HCQ単独でまたはDHCQ単独で治療したマウスにおいてより低く、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせで治療したマウスにおいて更に低く、DHCQ+アトルバスタチンの組み合わせで治療したマウスにおいて最も低かった(図22)。同様に、図22及び図23は、対照のビヒクルによる治療と比較した場合に、DHCQ単独を用いて治療したマウス由来のマウスOA滑膜組織において(図22及び図23A〜E)、並びに対照のビヒクルによる治療と比較した場合に、DHCQ+アトルバスタチンで治療したマウスにおいて(図22及び図23F〜I)、複数の炎症性サイトカインのレベルがより低いことを実証する。HCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療はまた、対照のビヒクルでの治療と比較して、炎症性サイトカインの産生をも阻害した(図22及び図23J)。図24は、マイクロアレイの有意性解析(Significance Analysis of Microarrays)のアルゴリズム及びソフトウェア(Tusherら、PNAS 2001 98(9):5116〜21 PMID 11309499)を用いた複数のサイトカインの高次元解析を示し、偽発見率<0.1%(q値)によって識別される、様々な治療群由来のOA滑膜中で差次的に産生されるサイトカインを識別する。図24に示すように、以下の通りである。
HCQ単剤療法と比較して、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療は、MCP−1のレベルを有意により低くした(図24I)。
アトルバスタチン単剤療法と比較して、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、TNFα及びMCP1のレベルを有意により低くした。
対照のビヒクルによる治療と比較して、DHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療は、IL−1β、MCP−1、IL12p40、及びIL−12p70のレベルを有意により低くした。
アトルバスタチン単剤療法と比較して、DHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療は、IL−1β、MCP−1、IL12p40、及びIL−10のレベルを有意により低くした。
DHCQ単独療法は、対照のビヒクル、アトルバスタチン単独(図24H)、HCQ+アトルバスタチン(図24G)、HCQ単独(図24F)を用いた治療と比較して、IL−1b、MCP−1、IFNγ、TNF−α、IL12p40、及びIL−12p70を始めとする複数の炎症性サイトカインのレベルを低減した。
(例14) 16週間の非盲検パイロット治験(NCT01645176)において、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせが、内側区画膝OAを有するヒト被験者において、滑膜炎を低減し、疼痛及び機能スコアを改善する。
米国では2700万人近くの人が何らかの形態の変形性関節症(OA)を有し、OAは1990年の2100万人から増加している。膝OAは、45歳以上の全ての成人の16%に蔓延している。カナダでは、全人口の10%がOAに罹患している。2005年において、米国の労働者のOAに起因して失われた生産時間の推測値は700億ドルを超えた。1990年から2000年に実施された人口に基づく研究では、45歳を超える患者における膝全置換の発生率は、当該期間中に81.5%増加したことを示した。2000年における米国の医療システムに対する膝全置換の総費用は、約1億4800万ドルであった。
OAを治療するために用いられる薬物療法としては、非ステロイド性抗炎症薬薬(NSAID)、アセトアミノフェン、関節内コルチコステロイド、関節内ヒアルロン酸製剤、麻薬、及び理学療法が挙げられる。これらの全ては、OAに伴う症状を軽減し得るが、軟骨の減損の進行を防止する、または疾患過程を逆転させる、現在利用可能な薬物療法は存在しない。より重篤な膝OAを有する患者においては、関節全置換術が選択肢である。膝全置換の発生率は着実に上昇して、OAは、膝置換術の主たる原因である。膝置換術の発生率の増加は、医療システムに負担を掛け、並びに外科的合併症の危険性を生み出している。
前臨床研究によって、Arthrostatin、すなわちHCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、内側半月板(DMM)マウスモデルの不安定化において、OAの発症を防止することが実証された(図19〜21)。他のいくつかの組み合わせ及びHCQまたはアトルバスタチン単独での治療では、OAの重篤度を統計的に有意に低減することがなかった一方で、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、このモデルにおいて、統計的に有意な利点があった。
これまでに、HCQがヒトOAにおいて試験されており、一連のびらん性OAのケースでは治療上の利点が見られる傾向を示したが、非びらん性OAにおいては、疾患修飾活性または疼痛を軽減する活性は実証されていない。
治験の主たる目的は、OA患者において、第0〜第24週の間のMRIによって測定される膝の滑膜炎の変化の違いを測定する、変形性関節症(非びらん性)の治療に関するArthrostatinの効能の評価である。第2の目的は、試験薬の第24週を超えた後の安全性及び忍容性の評価、並びに疼痛及び機能に対する試験薬の効果の評価である。調査の目的は、滑膜炎の超音波検査による診断、並びに軟骨破壊、代謝及び炎症のマーカーを始めとするマーカー分析である。現在までに、7人のヒト内側区画膝OAの患者が、ベースライン、生活の中での、及びフォローアップの試験、検査、並びにガドリニウム造影MRI画像診断の全てを含む16週間の投与を完了した。
この検討の主たる終了点は、第24週においてMRIによって測定される、Athrostatinを用いた治療を受けた患者における、Gd−MRIによって測定される、第24週において4ポイントを超える滑膜炎スコア(Guermaziら、Ann Rheum Dis 2011 70(5):805〜11 PMID:21187293)の低下に基づく、有意な滑膜炎の改善を達成した、Athrostatinを用いた治療を受けた被験者の比率の決定である。このパイロット治験に関する最も重要な仮説は、この非盲検のパイロット治験において軽度の滑膜炎OAを(Gd−MRIにより測定して)低減する介入は、後続のフェーズII、フェーズIIIの治験において軟骨保護効果を与え、OAの進行を低減することとなることである。
第2の終了点としては、初期OAを有する被験者におけるArthrostatinの安全性及び忍容性;WOMAC疼痛サブスケールにおけるベースラインから第4、第12及び第24週の変化、及びWOMAC機能サブスケールにおけるベースラインから第4、第12及び第24週の変化;患者の全般的VASにおけるベースラインから第4、第12及び第24週の変化;OMERACT−OARSI応答者指数(Onelら、Clin Drug Investig 2008、28(1):37〜45 PMID18081359)を用いた効能データの解析;HAQ−DIにおけるベースラインから第4、第12及び第24週の変化;医師の全般的VASにおけるベースラインから第4、第12及び第24週の変化;並びに第4、第12及び第24週における、必要な救護のための薬物治療の使用を判定することが挙げられる。
OAを有する被験者を募集し、インフォームドコンセントを得た。34日に及ぶ検診期間中に、被験者は、病歴及び関節炎の病歴、身体所見検査を受け、WOMACの疼痛及び機能サブスケールの質問表及び患者の全般的VAS診断を完了した。ECG、左右両側の膝のX線及び指標とする膝のMRIを行い、併用薬を記録する。尿検査、血液学検査、血液化学検査、及び(妊娠の可能性のある女性向けの)尿妊娠検査のための試料を得た。生活反応及び体重を記録する。被験者に、治験の過程の間、NSAID及び/または他の鎮痛剤の患者の通常の用量を維持するように求めた。但し、第1日(ベースライン)、及び第2、第4、第12並びに第24週のアセトアミノフェンの先行効果の診断(WOMAC及びHAQ質問表、並びに患者の全般的VAS診断)のための48時間または24時間を除く。
治験対象患者基準を全て満たし、且つ治験対象除外基準のいずれをも満たさなかった被験者が第1日の検討に入り、Arthrostatinの投与を受けることとなった。評価予定に従い、更なるフォローアップのための来訪を第2、第4、第12及び第24週に行い、安全性及び効能の評価を行う。電話でのフォローアップのための訪問を、第8週、第16、及び第20週に行うこととなる。投薬レジメンは、HCQ400mg/日及びアトルバスタチン40mg/日である。
治験対象患者基準(異常マーカー):1.少なくとも6ヶ月間症状があり、直近の30日間の殆どの日に疼痛がある、膝のOAを有する歩行可能な被験者(異常な臨床マーカーの診断)。症状としては、膝関節痛を含む必要がある。左右両側の膝OAを有する被験者においては、より症候性の膝を指標の膝とする(異常な臨床マーカーの診断)。2.肥満指数<35を有する年齢>40の男性または女性の成人(異常な代謝マーカーの測定値)。3.前後方向(posteroanterior)(PA)及び横方向の、立位、屈曲でのX線検査での、いずれかの膝における少なくとも1の骨棘のX線写真による形跡(異常な代謝マーカーの測定値)。4.指標とする膝におけるOARSI Atlas関節腔狭小化1度または2度(異常な画像診断マーカーの画像診断)。5.2回目の検診来訪及び第1日/ベースライン往訪での、指標とする膝における8<のWOMACの疼痛スコア(異常な画像診断マーカーの測定値)。6.指標とする膝のガドリニウム造影MRI(Gd−MRI)及びGuermaziら(Ann Rheum Dis 2011 70(5):805〜11 PMID:21187293)に記載の採点システムに基づく、(11箇所からの合計したスコアに基づく)9〜14の滑膜炎スコア(異常な画像診断マーカーの測定値)。7.研究を承諾し、インフォームドコンセントを与えることができる。8.英語を読み、書き且つ理解することができる。
この治験に対しては、候補である患者を、要件である複数の異常な臨床及び検査マーカーの存在に基づいて、軽度の炎症性疾患であるOAの形跡に関して診断した。測定された、且つ治験への参加の要件である臨床マーカーとしては、少なくとも6ヶ月間の膝の疼痛、片側に局在化する膝の疼痛、及び8<のWOMAC疼痛スコアを含んでいた。加えて、前後方向(PA)及び横方向の、立位、屈曲でのX線検査での、いずれかの膝における少なくとも1の骨棘のX線写真による形跡、並びに指標とする膝のガドリニウム造影MRI(Gd−MRI)及びGuermaziら(Ann Rheum Dis 2011 70(5):805〜11 PMID:21187293)に記載の採点システムに基づく、(11箇所からの合計したスコアに基づいて)9〜14の滑膜炎スコア(異常な画像診断マーカーの測定値)を含む2種の画像診断マーカーが治験への参加の要件であった。(上記治験対象患者基準に詳細に記載される)これらの異常な臨床マーカー及び異常な画像診断マーカーの測定値及び検知に基づいて、個体をパイロット治験に登録し、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いて治療した。
治験対象除外基準:1.痛みの軽減のための高効力オピオイドを用いた治療の要件。2.NSAID及び/またはアセトアミノフェンを除く他の鎮痛剤による薬物療法(すなわち、COX−2阻害剤、トラマドール)については本研究中の疼痛診断の前48時間、そしてアセトアミノフェンについては同診断の前24時間、これらの薬剤を控えることをよしとしないこと。心臓血管の健康のための低用量アスピリンを服用する被験者は、研究を通して、その安定的な投与を続けてもよい。3.1回目の検診来訪以前の少なくとも3ヶ月間にNSAIDまたは鎮痛剤を安定的ではない形で投与している。4.障害補助装置(すなわち、杖、歩行器)を、50%を超える時間使用している。5.新しい理学療法を受けているかまたは1回目の検診往訪の以前の少なくとも3ヶ月間に安定して行っていなかった減量若しくは運動プログラムに参加しており、被験者が本研究に参加している間、安定的にそれを維持しないこととなる。6.過去6ヶ月に指標とする膝に対して関節鏡術または直視下術の既往歴を有していたあるいは研究のフォローアップ中に手術を予定していた。7.指標とする膝において関節置換術を受けた。8.1回目の検診往訪の以前の少なくとも3ヶ月以内に、コルチコステロイド、短時間作用型ヒアルロン酸、若しくは他の関節内注射を受容した、及び/または本研究の継続期間中に治療を控えることをよしとしない。9.過去5〜10年の、反応性関節炎、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、炎症性腸疾患を伴う関節炎、サルコイドーシス、アミロイドーシスまたは線維筋痛症の病歴。10.活動性膝感染症の臨床徴候及び症状または軟骨石灰化症以外の結晶疾患(すなわち、痛風及びCPPD)のX線検査上の形跡。11.いずれかの重大な医学的疾患を示す2.5×ULNを超える異常な検査結果の履歴。治験実施者の意見によれば、該履歴は当該被験者の本研究への参加の妨げになるであろうとのこと。12.検診中における以下のいずれかの異常な検査結果。すなわち、a.ALT及びAST>2.5×ULN、b.ヘモグロビン<9g/dL、c.WBC<3500細胞/mm3、d.リンパ球数<1000細胞/mm3、e.血清クレアチ二ン>1.5×ULNである。13.過去10年間(<10歳)における悪性腫瘍の病歴、但し、切除した基底細胞がん、皮膚の扁平上皮がん、または切除した原位置の子宮頸部異型若しくはがんを除く。14.指標とする膝と同側であって、指標とする膝の疼痛の診断の妨げとなる可能性がある顕著な股関節痛。15.判明しているあるいは臨床上疑われる、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)、またはC型若しくはB型肝炎ウィルスによる感染症。16.別な治験薬またはワクチンの研究に3ヶ月以内に参加した、または本研究と同時に参加することとなる。17.過去3年間の薬物若しくはアルコールへの依存またはその乱用の履歴。18.生殖能を有する女性であって、本研究の継続期間中避妊を行うことをよしとしない、及び/または投薬の12ヶ月以内に妊娠する意図のある上記女性。19.治験実施者の判断により、被験者の安全を損なう、被験者の本研究を完遂する能力を制限する、及び/または本研究の目的を損なうおそれのある、その他の重篤な、非悪性の、重大な、急性または慢性の医学的または精神医学的な疾患。
全ての被験者を、試験中、AEに関して監視する。診断としては、以下のパラメータのいずれかまたは全てを監視することが挙げることができる。すなわち、被験者の臨床症状;臨床検査上の、病理学的な、X線検査上の、若しくは外科的な所見;身体所見検査の所見;またはその他の適当な検査及び手法、である。被験者に研究への参加を中止させるAEに対しては、当該事象が消散する、安定する、またはベースラインに復帰する(ベースライン診断が可能な場合)のいずれかまで、フォローアップを行う必要がある。
本治験は、「膝の変形性関節症(OA)の治療におけるヒドロキシクロロキン/アトルバスタチン」(「Hydroxychloroquine/Atorvastatin in the Treatment of Osteoarthritis (OA) of the Knee」)との標題にて、NCT01645176としてClinicalTrials.gov上に登録された。現在までに、7人のヒト内側区画膝OAの患者が治験対象患者基準を満たして登録されている。我々の治験において、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた療法を開始し、離脱した被験者はいなかった。本治験において重大な有害事象はなかった。7人全ての被験者が現在、ベースライン、生活の中での、及びフォローアップの試験、検査、並びにガドリニウム造影MRI画像診断の全てを含む16週間の投与を完了した。図25に示すように、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせ(該組み合わせを「Arthrostatin」と名付けた。)は、この16週間の非盲検治験において、内側区画膝OAを有するヒトにおける関節の炎症を低減した。ベースライン時及び16週間の生活の中でのHCQ+アトルバスタチンによる治療期間の終了時に、上記MRI滑膜炎スコアを、各被験者の罹患した膝のガドリニウム造影MRI走査により測定し、該スコアは当該関節における炎症の程度を表わす。9〜14の異常なMRI滑膜炎スコアを他の臨床及び炎症マーカーと共に有する候補被験者のみを登録し、治療した。被験者を、16週間、毎日の経口投与によるHCQ600mg及び毎日の経口投与によるアトルバスタチン40mgの組み合わせを用いて治療した。2種の方法を対にしたT検定によりMRI滑膜炎スコアを解析し、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療が、罹患した膝関節における滑膜炎(炎症)の量を統計的に低減したことを実証した(P=0.024)(図25)。
更に、登録した7人の内側区画膝OA患者において、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、この16週間の非盲検治験において、内側区画膝OA患者と共に、ヒトにおけるWOMAC疼痛スコア、WOMAC機能スコア及びWOMAC複合スコアを低減した。この治験において、我々は、ウェスタンオンタリオ大学及びマクマスター大学の関節炎指数(Western Ontario and McMaster Universities Arthritis Index)(WOMAC)の疼痛、機能及び複合スコア(McConnellら、ウェスタンオンタリオ大学及びマクマスター大学の変形性関節症指数(WOMAC):その有用性と測定特性の展望(The Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)(WOMAC):a review of its utility and measurement properties、Arthritis Rheum 2001、45:453〜61 PMID:11642645を参照のこと。)も測定した。上記WOMAC疼痛、機能及び複合スコアを片側T検定によって解析し、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療が、第16週においてWOMAC疼痛スコア(P=0.035)、WOMAC機能スコア(P=0.005)、及びWOMAC複合スコア(P=0.003)を統計的に低減することを実証した(図25B〜D)。
このように、我々の、内側区画膝OAを有するヒトにおけるHCQ+アトルバスタチンの組み合わせの16週間の非盲検パイロット治験は、この組み合わせが、罹患した膝における滑膜炎(炎症)を低減し(P=0.024、図25A)、且つWOMAC疼痛スコア、機能スコア、及び複合スコアを改善すること(図25B〜D)を実証した。加えて、これらのデータは、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせが、ヒトにおけるOA疾患の進行に対して有意な臨床上の利点を与え、該疾患の進行における炎症を低減し、従って該疾患の進行を低減し得ることを示唆する。
炎症を低減する薬物は、軟骨保護(例えば、軟骨破壊速度の低減)を始めとする疾患減速効果を与え得る。具体的には、HCQ+アトルバスタチンの組み合わせは、滑膜炎を低減し得るだけでなく、該滑膜炎の低減がOAの疾患進行を減速させることとなる。後続のフェーズII及びフェーズIIIの治験におけるこのOAの疾患進行の減速は、関節腔の温存を示す(例えば、罹患した膝の内側区画中の関節腔の狭小化の減速を示す)、罹患した膝の荷重負荷下での通常のフィルムX線検査によって実証されることとなり、並びに/または当該膝のMRI走査が、軟骨の容量及び/若しくは健常性の温存を示す(ひいては、疾患進行の減速を示す)こととなる。
軟骨容量及び健常性を測定するための新しい方法が開発されつつあり、これらの新しい方法を後続のフェーズII及びフェーズIIIの研究で用い、HCQ+アトルバスタチンが共に、ヒトOAにおける軟骨の減損から保護することを示すこととなる。内側区画膝OAにおける通常のX線検査による関節腔の狭小化を分析するための方法の例はBrandtら(Arthritis and Rheumatism、52(7):2015〜2025、PMID:15986343)に記載され、関節腔の狭小化の減速は、OAにおける疾患減速活動を示すと考えられる。軟骨保護を実証するための第2の且つより高感度の方法は、MRI走査上で軟骨容量の温存を示すことであり、軟骨容量の温存を示すためにMRIを用いる方法の例はRaynauldら(Ann Rheum Dis 2009、68(6):938〜47 PMID:18653484)に記載されている。
DHCQの強力な抗炎症特性を考慮すれば、DHCQ+アトルバスタチンがヒトOAにおいて、Gd−MRI上での滑膜炎の低減、WOMAC疼痛スコアの低減、及びWOMAC機能スコアの改善において一層大きな効能を与え得る。
(例15) 変形性関節炎症(OA)の発症を防止するためのDHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンを用いた併用療法の使用
初期OAまたはOAの発症の高い危険性の形跡に関してヒトの検診を行う。関節損傷、関節の手術、変性半月板断裂、関節軟骨の変性、前十字靱帯断裂、コラーゲン及び他の基質タンパク質の欠損、遺伝的素因、並びにその他の因子を始めとする多くの因子によって、ヒトが臨床前OA疾患状態になり得る。OAの発症過程にある、または初期OAの特徴を有するヒトを、DHCQまたはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いて治療し、OAの発症及び進行を防止することができる。更に、OAの危険性があるまたは初期OAを有するヒトを、罹患した関節における炎症の存在について更に検査し、DHCQまたはDHCQ+アトルバスタチンを用いた治療に応答する蓋然性が最も高い個体を識別することができる。関節の炎症に対する検査を、ガドリニウム造影を用いた若しくは用いないMRI、または超音波検査などの画像診断マーカーを用いて行い、以下の、すなわち滑膜増強または増殖、滲出が存在する、及び骨髄浮腫、の1種または複数種の炎症を示す異常な画像診断マーカーが存在するかを判定することができる。炎症の分子マーカーを検査し、異常なレベルのCRP、ESR及び炎症性サイトカインの1種または複数種を始めとする、異常な分子炎症マーカーを識別することもできる。最後に、病歴及び検査(身体所見検査における滲出または履歴における朝のこわばりを始めとする異常な臨床マーカーの存在を含む)を用いて、炎症を診断することができる。
DHCQの用量は、約400mg/日(約6.7mg/kg/日)とすることができるが、約500mg/日(約8.3mg/kg/日)、または1日当たり約550mg(9.16mg/kg/日)、または約600mg/日(約10mg/kg/日)、または約800mg/日(約13.3mg/kg/日)、または100〜1600mg/日の間(約1.6〜26.67mg/kg/日)とすることもできる。アトルバスタチンの用量は、一般には、約20または約40mg/日(約0.33〜0.66mg/kg/日)であるが、約5及び80mg/日の間(約0.08〜1.3mg/kg/日)とすることもできる。DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンは、個々の錠剤若しくはカプセルで、または両方の薬剤を含む、複合化した錠剤若しくはカプセルで送達することができる。
発症の危険性が高い及び前臨床OAを有するヒト、並びに当該ヒトのDHCQまたはDHCQ+アトルバスタチンによる併用療法を用いた治療の例としては、以下が挙げられる。
(1)膝の疼痛を有する59歳の男性が、右膝の変形性関節症(Kellgren−Lawrence、KL、II度)と診断される。彼は、膝におけるこわばりまたは「ゲル化」の感覚により、長時間走る及び座ることが制限される。彼の右膝の可動範囲は損なわれてはおらず、歩行における内転モーメントの角状変形はない。診断は、膝関節の痛み、機能及びこわばりを診断するためのウェスタンオンタリオ大学及びマクマスター大学(WOMAC)OA指標、並びに疼痛に対する視覚的アナログスコア(visual analog score)(VAS)を用いた1〜100のスコアを用いて行う。上記患者は、半定量的採点システムを用いて診断される滑膜炎と一致する増強を測定且つ明らかにする、右膝のガドリニウムを用いたMRI検査を受ける。異常な臨床及び画像診断マーカーに基づいて、上記患者は、OAの初期段階にあることが判定され、従って、複合化されたカプセルとして1日1回摂取する550mgのDHCQを用いて治療を受ける。別のMRIが、滑膜炎の低減があるかを判定するための診断と共に6ヶ月で繰り返される。
(2)44歳の男性アマチュアラグビー選手が左膝の疼痛を発症し、走るとカチカチという音がする。彼はX線検査による診断によりK-L1度の変化が示され、また膝MRI検査による診断により後方半月板断裂が明らかになったことで評価され、関節鏡視下での壊死組織切除術を予定している。血液検査により、3.1の高い(異常な)C反応性タンパク質(CRP)が明らかになる。上記患者は、外科的壊死組織切除の1ヶ月前に開始して1週間、毎日200mg、その後3週間毎日800mg、それ以降は毎日600mgのDHCQを用いて治療を受ける。
(3)54歳の男性が左膝に軽度の断続的なロッキング(locking)を呈する。X線検査でK-L1度のOAが明らかになり、超音波検査で変性半月板断裂及び滑膜炎と一致する中程度の滑膜増強が示される。上記患者は、関節鏡視下での半月板壊死組織切除術を提案されているが、外科的介入を拒否している。彼は600mgのDHCQを処方されている。
(4)28歳の男性が右足首(脛骨プラフォン)を骨折し、適切な整復及びギブス固定が行われている。彼のX線検査はOAの特徴を何ら示さない。2〜4年以内での30%の有意なX線検査上でのOAの危険性が、骨折後11年までに74%に増加することを考慮し、上記患者を、超音波及びMRI検査並びに/または分子マーカーによって、関節の炎症の形跡に関して監視している。超音波検査は滑膜滲出及び滑膜炎を検知(測定)し、その結果、上記患者はOAへの進行の危険性が高いと判断され、それ故に1日2回、300mgのDHCQ(合計で1日当たりの用量600mg[10mg/kg/日])を開始する。
(5)49歳の男性が左膝に軽度の断続的な疼痛を呈する。X線検査でK-L1度のOAが明らかになり、且つMRI検査で変性半月板断裂及び滑膜炎と一致する中程度の滑膜増強が示される。上記患者は、関節鏡視下での半月板壊死組織切除術を提案されているが、外科的介入を拒否している。彼は、病歴並びに異常な臨床マーカー及び画像診断マーカーの存在及び測定値に基づいて、初期段階のOAを有すると判定される。彼は、初期段階のOAの進行を治療及び防止するために、毎日550mgのDHCQ+毎日40mgのアトルバスタチンの組み合わせを処方される。
(例16) 全身性エリテマトーデスの治療のためのDHCQの使用
全身性エリテマトーデス(SLE)は多様な症状を伴う全身性炎症性障害である。エンドソーム・トル様受容体(TLR7及びTLRを始めとするTLR)の関与が疾患の原因に強く関与しており(Rahmanら、2008 NEJM (9)929〜939、PMID#18305268)、ヒドロキシクロロキンの治療効果は、おそらくエンドソーム阻害を介して作用するが、十分に確立されている(Rahmanら、2008 NEJM (9)929〜939、PMID#18305268)。しかしながら、SLEは慢性疾患であり、殆どの患者はHCQを用いた長期の治療を必要とし、該治療の中止の理由は眼への沈着及び潜在的な眼毒性である(Terahiら、2008 Semin Opthal (3):201〜208 PMID#18432546)。
発症の危険性が高い、前臨床のSLEを有する、または定着したSLEを有するヒト、及びDHCQを用いた該ヒトの治療の例としては以下が挙げられる。
(1)22歳の女性が、頬部発疹、関節痛を呈し、また血清クレアチニンの上昇及び赤血球円柱を示す検尿によって裏付けられる腎炎を有することが判っている。彼女はプレドニゾン、シクロホスファミド、及びHCQを用いた治療を受け、数ヶ月後に、軽度の関節痛及び太陽光への強い曝露に伴う頬部発疹の再発を除く全ての症状の寛解を示す。シクロホスファミドを中止し、プレドニゾンを漸減する。継続的にHCQを用いて治療を受けるSLE患者における再発の危険性低下の証左を考慮し、彼女は終生存続するように指導を受ける。長期の治療の必要性を考えると、網膜毒性の高い危険性がある。網膜毒性を回避するために、上記患者をHCQによる治療からDHCQによる治療に切り替え、5年間のアミノキノリン療法後に、2年毎の予定で網膜毒性に関する眼科検査を開始する。
(2)12年のSLEの病歴をもつ34歳の女性がフォローアップで診察を受ける。最初の症状としては、発疹、関節炎、及び急性糸球体腎炎が挙げられ、これらをプレドニゾン及びシクロホスファミドを用いて治療し、その後、アザチオプリン及びHCQに移行した。フレアが約6回、それぞれプレドニゾンの投与量を低〜中程度としたことに応答して起きている。しかし、眼底自発蛍光(FAF)を用いた最近の眼科診断において、潜在的な網膜症と一致する初期の変化が観察される。SLEのフレアの重篤度を防止及び低減するための抗マラリア薬療法の確立された有効性を考慮し、初期網膜症の状況において、彼女の治療を、HCQから毎日550mgのDHCQに変更する。彼女はその後の10年間、毎日550mgのDHCQを継続し、毎年の眼科検査において黄斑症の進行はない。更に彼女は、同じ10年間にわたり、SLEのフレアの割合または重篤度の増加に言及していない。
(3)28歳の女性の研修医が、頬部発疹、光感受性、関節炎、口腔潰瘍、及び胸膜炎に基づいてSLEと診断される。彼女は52kgであり、治療に対して部分的にしか応答しない200mgのヒドロキシクロロキンを用いた治療を受ける。彼女は、小さな体格及び低骨量のために、コルチコステロイドの使用に対して強い抵抗があり、また、病気の患者と頻繁に接触することから、免疫抑制剤を断る。彼女及び担当医は、より高用量のヒドロキシクロロキンにより彼女の網膜毒性の危険性が高まることを認識しており、そのために彼女は、1日2回の300mgのDHCQ(合計で1日当たり600mg)を処方され、全てのSLEの徴候及び症状が解消する。DHCQを用いた治療の5年目及び10年目の眼科検診は網膜毒性の形跡を示さず、DHCQを用いた治療の10年目より後は、眼科上の監視を2年毎に行って網膜毒性を監視し、更なる10年間で網膜毒性は観測されない。
(例17) ヒトにおける非アルコール性脂肪性肝疾患(NASH)の治療のためのDHCQの使用
非アルコール性脂肪性肝疾患(NALFD)は、肝臓中の脂肪沈着を特徴とする一般的な疾病である。NAFLD患者は、消化管におけるエンドトキシンによるTLR4の活性化に基づく炎症性肝疾患である非アルコール性脂肪性肝炎の発症の重大な危険性がある。LPS媒介性のTLR4の活性化を排除するヒドロキシクロロキンの観測されている能力を考慮すると、ヒドロキシクロロキンの処方が考えられる。しかし、上記患者は知られている、一般的にNAFLD/NASHが共存する疾病である2型糖尿病であり、その結果、初期の糖尿病性網膜症が起きている。NASH/NAFLDは慢性疾患であるため、HCQを用いた長期間の治療が必要とされることとなり、患者が、眼への沈着及び潜在的な眼毒性に対して危険な状態となる。
NASHの発症の危険性が高い、前臨床のNASHを有する、または定着したNASHを有するヒト、及びかかるヒトのDHCQを用いた治療の例としては、以下が挙げられる。
59歳の男性が、長期の2型糖尿病について、定常的なフォローアップで診察を受ける。彼は、正常値の上限の2倍の高いAST及びALT有していることが特記される。彼は無症候性であり、肝毒性のある薬物治療の報告はない。腹部超音波検査は肝臓の脂肪浸潤と一致する。臨床症状及び異常な炎症マーカー及び画像診断マーカーに基づいて、当該患者はNASHへ進行する危険性が高いと判定される。ヒドロキシクロロキンを用いた治療が考えられるが、該患者は、網膜毒性の危険性を低減するために、1日当たり550mgのDHCQによる治療を受け、該治療は当該患者がNASHへと進行することを防止し、10年にわたるDHCQによる治療後に、当該患者は、網膜毒性について検診を受けるが所見はなく、眼科検診は5年毎に継続される。
(2)53歳の男性が多尿(頻尿)について診察を受ける。彼は390mg/dLの空腹時血糖値及び8.5mg/dL>のヘモグロビンA1Cを有することが判っている。彼の肝酵素(ALT及びAST)は正常値の上限の3倍近いこと、及び高感度CRP(hsCRP)が2.1で上昇することが特記される。彼は上記以外については無症候性であり、肝毒性のある薬物治療の報告はない。腹部超音波検査は肝臓の脂肪浸潤と一致し、肝生検によりマクロファージのクラスターを伴う脂肪肝が明らかになっている。インスリン及びメトホルミンによる治療を開始し、血糖が制御され、6ヶ月でヘモグロビンA1cが7.5mg/dLに低下する。しかしながら、AST及びALTは依然として正常値の上限の3倍近くであり、hsCRPは1.9である。測定された異常な臨床マーカー、異常な代謝マーカー、及び異常な画像診断グマーカーに基づいて、当該患者はNASHを有すると判定される。HCQが考えられるが、該患者は、網膜毒性の危険性を低減するために、1日当たり600mgのDHCQによる治療を受け、該治療は当該患者が進行することを防止し、AST及びALTを正常化し、hsCRPを0.9mg/dLへと低減する。特に、ヘモグロビンA1cは、初めの血糖降下治療の用量設定を更に行うことなく、6.1に低減される。10年間のDHCQによる治療後に、当該患者は、網膜毒性について検診を受けて所見はなく、該患者はその後、隔年で網膜毒性に関する眼科検査による検診を受ける。
(例18) DHCQを用いた、代謝性疾患である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療
49歳の男性が、59IU/Lのアラニントランスアミナーゼ(ALT)レベル及び55IU/Lのアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)レベルの高い肝酵素を有する。肝臓の超音波検査は脂肪浸潤と一致することとなるであろうし、血清学的検査はB型またはC型肝炎ウィルスについて陰性となるであろうし、彼はアルコールの摂取を否定することとなるであろう。上記患者は、120より高い空腹時血糖値異常及び320mg/dLより高いトリグリセリドの上昇を有することが判っている。彼は肝生検を受け、該生検は、脂肪症による肥大、肝細胞の変性、並びに混合門脈炎症を示し、但し、線維症は示さない。これらの異常な所見及びマーカーに基づいて、彼はNAFLD及び初期NASHと診断され、この診断に基づいて、1日当たり600mgのDHCQを処方される。血清試料をベースライン時及び2ヶ月の治療後に採取し、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT、血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ[SGPT]としても知られる)及びアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST、血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ[SGOT]としても知られる)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、並びに多様なサイトカインのパネルのレベルについて評価する。ALT、AST及び/またはサイトカインの減少は、治療に対する肯定的な応答を示している。
(例19) 代謝性及び炎症性疾患の治療:DHCQを用いたII型糖尿病及び代謝症候群の治療
発症の危険性が高い、前臨床のII型糖尿病、若しくは定着したII型糖尿病を有する、及び/または代謝症候群を有するヒト、並びにDHCQを用いたそれらの治療の例としては、以下の通りである。
(1)肥満症の病歴を有する42歳の男性(肥満指数31)が106mg/dLの空腹時血糖値、135のLDLレベル、及び220のトリグリセリドレベルを有することが判っている。高血糖の二次的原因に関する診断は陰性であり、上記異常な代謝マーカーに基づいて、彼は、炎症性疾患または炎症を伴う疾患の発症の危険性が高いと判定される。この高い危険性に基づいて、彼は、毎日40mgのアトルバスタチン及び毎日400mgのDHCQを用いた治療を受ける。
(2)肥満症の病歴を有する48歳の男性(肥満指数30)が121mg/dLの空腹時血糖値、135のLDLレベル、及び220のトリグリセリドレベルを有することが判っている。高感度CRP(hsCRP)が1.9で上昇する。彼は40mgのアトルバスタチンを用いて4ヶ月間治療を受け、LDLが105に、hsCRPが1.7に低下する。彼はその後、毎日400mgのDHCQを用いた治療を開始し、更にLDLが95に、hsCRPが0.9に低下する。加えて、空腹時血糖値レベルが101に低下し、5年間にわたり2型糖尿病への進行がない。
(3)高血圧の病歴及び心筋梗塞の既往歴のある53歳の男性が、140mg/dLのLDLコレステロールレベル及び1.6mg/Lの高感度CRP(hsCRP)を有することが特記される。彼はアトルバスタチンを用いた治療を受け、LDLが115mg/dLに減少し、hsCRPが1.2へ低下する。続いて彼は、毎日600mgのDHCQを用いた治療を受け、臨床的に回復し、LDLが99mg/dlへ、高感度CRPが0.8へと更に低下する。10年の治療後に彼は網膜毒性について検診を受け、その形跡を有さない。
(例20) 全身性エリテマトーデスの治療のためDHCQの使用
全身性エリテマトーデス(SLE)は多様な症状を伴う全身性炎症性障害である。エンドソーム・トル様受容体(TLR7及びTLRを始めとするTLR)の関与が疾患の原因に強く関与しており(Rahmanら、2008 NEJM (9)929〜939、PMID#18305268)、ヒドロキシクロロキンの治療効果は、おそらくエンドソーム阻害を介して作用するが、十分に確立されている(Rahmanら、2008 NEJM (9)929〜939、PMID#18305268)。しかしながら、SLEは慢性疾患であり、殆どの患者はHCQを用いた長期の治療を必要とし、該治療の中止の理由は眼への沈着及び潜在的な眼毒性である(Terahiら、2008 Semin Opthal (3):201〜208 PMID#18432546)。
発症の危険性が高い、前臨床のSLEを有する、または定着したSLEを有するヒト、及びDHCQを用いた該ヒトの治療の例としては以下が挙げられる。
(1)22歳の女性が、頬部発疹、関節痛を呈し、また血清クレアチニンの上昇及び赤血球円柱を示す検尿によって裏付けられるネフローゼ症候群を有することが判っている。彼女はプレドニゾン、シクロホスファミド、及びHCQを用いた治療を受け、数ヶ月後に、軽度の関節痛及び太陽光への強い曝露に伴う頬部発疹の再発を除く全ての症状の寛解を示す。シクロホスファミドを中止し、プレドニゾンを漸減する。継続的にHCQを用いて治療を受けるSLE患者における再発の危険性低下の証左を考慮し、彼女は終生存続するように指導を受ける。長期の治療の必要性を考えると、網膜毒性の危険性が増大する。網膜毒性を回避するために、上記患者をHCQによる治療からDHCQによる治療に切り替える。
(2)SLEの12年の病歴をもつ34歳の女性がフォローアップで診察を受ける。最初の症状としては、発疹、関節炎、及び急性糸球体腎炎が挙げられ、これらをプレドニゾン及びシクロホスファミドを用いて治療し、その後、アザチオプリンに移行した。フレアが約6回、それぞれプレドニゾンの投与量を低〜中程度としたことに応答して起きている。しかし、眼底自発蛍光(FAF)を用いた最近の眼科診断において、潜在的なヒドロキシクロロキン網膜症と一致する初期の変化が観察される。SLEのフレアを防止及び/または低減するための抗マラリア薬療法の確立された有効性を考慮し、但し初期のヒドロキシクロロキン黄斑症の状況において、彼女を毎日400mgのDHCQを用いて治療し、その後の10年間、毎年の検査において黄斑症の進行はない。更に彼女は、同じ10年間にわたり、SLEのフレアの割合または重篤度の増加に言及していない。
(3)28歳の女性の研修医が、頬部発疹、光感受性、関節炎、口腔潰瘍、及び胸膜炎に基づいてSLEと診断される。彼女は52kgであり、治療に対して部分的にしか応答しない200mgのヒドロキシクロロキンを用いた治療を受ける。彼女は、小さな体格及び低骨量のために、コルチコステロイドの使用に対して強い抵抗があり、また、病気の患者と頻繁に接触することから、免疫抑制剤を断る。彼女及び担当医は、より高用量のヒドロキシクロロキンにより彼女の網膜毒性の危険性が高まることを認識しており、そのために彼女は、毎日600mgのDHCQを処方され、全てのSLEの徴候及び症状が解消する。毎年の眼科検診は、治療の5年目及び10年目において、網膜症の形跡を示さない。
(4)30歳の女性が疲労し、頬部発疹を発症し、1:320のSm抗体価を有することが判明する。彼女はSLEを発症する危険性があり、550mg/日のDHCQを用いた治療を受け、彼女の症状は改善し、5年の治療の後に、隔年で網膜の監視を開始し、網膜毒性は観測されない。
(例21) DHCQを用いた代謝性及び炎症性疾患であるII型糖尿病の治療
発症の危険性が高い、前臨床のII型糖尿病を有する、または定着したII型糖尿病を有するヒト、及びDHCQを用いた該ヒトの治療の例としては、以下が挙げられる。
(1)肥満症の病歴を有する42歳の男性(肥満指数31)が106mg/dLの空腹時血糖値、135のLDLレベル、及び220のトリグリセリドレベルを有することが判っている。高血糖の二次的原因に関する診断は陰性であり、彼は、毎日40mgのアトルバスタチン及び400mgのDHCQを用いた治療を受ける。
(2)高血圧の病歴及び心筋梗塞の既往歴のある53歳の男性が、140mg/dLのLDLコレステロールレベルを有することが特記される。彼はアトルバスタチンを用いた治療を受け、LDLが115mg/dLに減少する。続いて彼は、毎日600mgのDHCQを用いた治療を受け、臨床的に回復し、10年の治療後に網膜毒性について検診を受け、その形跡を有さない。
(例22) DHCQを用いた、HIV感染症における慢性免疫活性化及び代謝異常の治療
9年のHIV疾患の病歴を有し、抗レトロウィルス療法の三重薬物療法で治療を受けている38歳の男性が、ウィルス量が検出限界未満(<10,000コピー/ml)であり、CD4 T細胞数が490である。彼は体調がよく、日和見感染もない。彼は109mg/dLの空腹時血糖値異常及び299mg/dLの高いトリグリセリドを有することが特記される。高感度C反応性蛋白(hsCRP)レベルは5.8mg/Lである。冠動脈CT走査により、Agatstonスコアが124であり、冠動脈の有意な石灰化が明らかになるが、運動負荷検査では誘導性心筋虚血は示さない。これらの異常な炎症マーカー及び異常な代謝マーカーに基づいて、彼は毎日600mgのDHCQを処方され、臨床的に回復し、10年の治療後に網膜毒性について検診を受け、その形跡を有さない。
(例23) DHCQを用いたアテローム性動脈硬化症の治療
発症の危険性が高い、前臨床のアテローム性動脈硬化症を有する、または定着したアテローム性動脈硬化症を有するヒト、及びDHCQを用いた該ヒトの治療の例としては、以下が挙げられる。
(1)高血圧症の病歴のある59歳の男性が労作時胸痛の診断を受ける。運動負荷画像診断により、心臓の側壁に虚血の可逆領域があることが明らかになり、彼は心臓カテーテル検査を受け、左主冠動脈及び冠動脈左前下行枝に、40〜60%の狭窄のびまん性病変があることが明らかになる。彼は、1日当たり500mgのDHCQを用いた治療を受け、更なる心筋梗塞は起きていない。
(2)活動性の医学上の問題はなく、加療も受けていない48歳の男性が、1時間続く急性の胸痛の初めての発作について診察を受け、非ST上昇心筋梗塞と診断される。彼は初期の冠動脈疾患の家族歴を有する。心臓の負荷検査により、心電図(electrocardiogram)(ECG)または核灌流画像診断において、欠陥のある限局的な領域はない。彼のLDLは161mg/dLである。彼は毎日81mgのアスピリン及び40mgのアトルバスタチンを含む新たなレジメンによって治療を受け、退院する。8週間でのフォローアップにおいて、彼に症状はなく、LDLは90であるが、以前はどちらも正常であったALTが71、ASTが66であることが特記される。アトルバスタチンの投与量を20mgに低減することで、ALT/ASTの僅かな機会がもたらされるが、既知の冠動脈疾患に関するLDLの目標を大幅に超える140までLDLが上昇する。彼は、毎日20mgのアトルバスタチンに加えて摂取する、毎日400mgのDHCQを処方され、LDLは110mg/dLに低下し、AST/ALTは正常化する。アトルバスタチンを40mgに再び増加させると、LDLは80mg/dLに低下し、AST/ALTの上昇はない。治療を10年以上継続し、治療5年目、10年目、及び20年目において、安定したLDL、AST/ALT、並びに正常な網膜検査は得られない。
(例24)
関節リウマチ(RA)の発症を防止し、その重篤度を低減するための、デスエチルヒドロキシクロロキン(DHCQ)、または併用DHCQ+アトルバスタチン療法の使用
初期RAの形跡またはRAの発症に対する高い危険性があることに対して、ヒトを検診する。個々のヒトが初期RAを有することを示唆する所見としては、以下の内の1種または複数種が挙げられる。すなわち、1または複数の腫大した関節の存在、抗CCPまたはリウマチ因子抗体の存在、MRI走査または超音波検査上での滑膜増強の形跡、及び(Sokoloveら、PLoS One 2012、7(5):e35296、PMID:22662108に記載されるように)その後のRAの発症に対する予知としての有用性があることが実証されている、自己抗体及びサイトカインの上昇を始めとするマーカー、である。無症候性の個体、または単関節炎を有する個体を、RAを発症する危険性が高い状態にする因子としては、以下の内の1種または複数種が挙げられる。すなわち、(特に一等親における)RAの家族歴、抗CCP及び/若しくはリウマチ因子抗体の上昇、並びにRAに対する高い感受性を伴う遺伝的プロファイル、及び/または滑膜炎(関節の腫大及び炎症)を示す1または複数の関節である。
更に、RAに対する危険性が高いまたは初期のRAを有するヒトを、罹患した関節における炎症の存在に関して検査し、DHCQを用いた治療またはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いた治療に対して応答する蓋然性が最も高い個体を識別することができる。関節の炎症に対する検査を、ガドリニウム造影を用いた若しくは用いないMRI、または超音波検査などの画像診断マーカーを用いて実施し、以下の、すなわち滑膜増強または増殖、滲出が存在する、及び骨髄浮腫、の1種または複数種の炎症を示す特徴が存在するかを判定することができる。CRP、ESR及び炎症性サイトカインの1種または複数種を始めとする、炎症の分子マーカーに対して、検査を行うこともできる。最後に、炎症を診断するために、身体所見検査における滑膜炎、身体所見検査における滲出、または病歴における1時間を超える朝のこわばりの存在を始めとする病歴及び検査が用いられる。
臨床前または初期RAを有する個々のヒトを、特に画像診断マーカー、分子マーカーまたは臨床マーカーを用いて炎症の形跡が見出された場合に、DHCQ、またはDHCQ+アトルバスタチンの組み合わせを用いて治療し、臨床前または初期RAの進行を防止することができる。DHCQの投与量は、一般的に少なくとも約400mg/日であるが、100〜1600mg/日の間、または550mg/日と1000mg/日との間とすることができる。DHCQは、個々の錠剤またはカプセルで送達することができ、あるいは組み合わせたDHCQ+アトルバスタチンが、両薬物を含む複合化錠剤またはカプセルとして送達することができる。
本明細書で引用する全ての刊行物及び特許文献は、その全体が参照により組み込まれる。上記参照により組み込まれる資料が本明細書に反するまたは矛盾する範囲において、本明細書が、かかる如何なる資料にも取って代わることとなる。
(政府の権利)
本発明は、国立衛生研究所によって授与された契約番号第AI69160号及び第HV000242号の下に、政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。