JP6434397B2 - セルロース繊維複合フィルム、配線基板およびセルロース繊維複合フィルムの製造方法 - Google Patents

セルロース繊維複合フィルム、配線基板およびセルロース繊維複合フィルムの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、セルロース繊維複合フィルム、配線基板およびセルロース繊維複合フィルムの製造方法に関する。
近年、セルロースを充填材として利用した複合体が提案されている。
この複合体には、セルロースの微細な繊維が含まれており、このセルロース繊維としては、例えば、セルロースのフィブリル状物質を機械的に微細化してなるセルロースミクロフィブリル等が挙げられる。
このような微細化セルロース繊維を配合した複合体は、機械的強度および透明性が高く、軽量で、熱膨張係数が小さいという特徴を有するものとなる。
そのため、光学分野、構造材料分野、建材分野、精密機械分野、半導体分野等の種々の分野において、プラスチックやガラスの代替材料として期待されている。
例えば、特許文献1には、「セルロースナノファイバーと液状の有機媒体とを含むゲル状体であって、有機媒体が水よりも20℃における蒸気圧が小さく、含水率が50質量%以下であるゲル状体。」が記載されており([請求項1])、液状の有機溶媒として、グリセリン誘導体などのいわゆる滑剤が記載されている([請求項2])。
特開2013−082796号公報
本発明者らは、セルロース繊維に対して特許文献1などに記載された従来公知の滑剤を用いた場合、得られる複合体フィルムの靭性が良好となり、セルロース繊維に由来する脆性が改善できることが分かったが、滑剤の種類によっては、複合体フィルムの表面に凹凸(レチキュレーション)が発生し、平面性が劣ることが分かった。
そこで、本発明は、靭性に優れ、かつ、平面性が高いセルロース繊維複合フィルム、配線基板およびセルロース繊維複合フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、所定の分子量を有する滑剤を配合し、表面および/または裏面の近傍に存在する滑剤の量を減らすことにより、セルロース繊維複合フィルムの靭性が良好となり、かつ、平面性も高くなることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
[1] セルロース繊維および低分子滑剤を含有するセルロース繊維複合フィルムであって、
低分子滑剤の分子量が60以上400以下であり、
飛行時間型二次イオン質量分析法で検出される低分子滑剤に由来するシグナルについて、フィルムの厚み方向における最大強度(I(Lp)max)と、フィルムの少なくとも一方の表面における強度(I(Lp)sur)との比が、下記式(1)を満たし、
飛行時間型二次イオン質量分析法で検出される、低分子滑剤に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Lp))と、セルロース微細繊維に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cel))との比が、下記式(2)を満たす、セルロース繊維複合フィルム。
0≦I(Lp)sur/I(Lp)max≦0.8 ・・・(1)
0.05≦I(Lp)/I(Cel)<0.6 ・・・(2)
[2] 低分子滑剤の沸点が120℃以上400℃以下である、[1]に記載のセルロース繊維複合フィルム。
[3] 更に、架橋剤に由来する架橋構造を有する、[1]または[2]に記載のセルロース繊維複合フィルム。
[4] 架橋剤が、ジビニルスルホン、カルボジイミド、ジヒドラジン、ジヒドラジド、エピクロルヒドリン、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アミノ化合物、および、イソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、[3]に記載のセルロース繊維複合フィルム。
[5] 飛行時間型二次イオン質量分析法で検出される、架橋剤に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cro))と、セルロース微細繊維に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cel))との比が、下記式(3)を満たす、[3]または[4]に記載のセルロース繊維複合フィルム。
0.2≦I(Cro)/I(Cel)≦2 ・・・(3)
[6] セルロース繊維の平均繊維径が3〜50nmである、[1]〜[5]のいずれかに記載のセルロース繊維複合フィルム。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載のセルロース繊維複合フィルムを有する基板と、基板上に設けられる配線回路とを有する、配線基板。
[8] 配線回路が、有機半導体を用いた回路である、[7]に記載の配線基板。
[9] [1]に記載のセルロース繊維複合フィルムを作製するセルロース繊維複合フィルムの製造方法であって、
少なくとも、セルロース繊維、分子量が60以上400以下の低分子滑剤および分散媒を含有するセルロース繊維含有溶液を基材上に塗工し、塗膜を形成する塗工工程と、
塗膜を乾燥する乾燥工程と、を有し、
乾燥工程が、塗膜の内部温度を塗膜の少なくとも一方の表面温度より1℃以上35℃以下低くして乾燥する工程である、セルロース繊維複合フィルムの製造方法。
[10] 塗膜工程と乾燥工程との間に、塗膜を半乾燥させる半乾燥工程を有し、
半乾燥工程と乾燥工程との間に、半乾燥後の塗膜を基材から剥離する剥離工程を有する、[9]に記載のセルロース繊維複合フィルムの製造方法。
[11] セルロース繊維含有溶液が、架橋剤を含有し、
剥離工程の後に、剥離後の塗膜を加熱して架橋する熱架橋工程を有する、[10]に記載のセルロース繊維複合フィルムの製造方法。
本発明によれば、靭性に優れ、かつ、平面性が高いセルロース繊維複合フィルム、配線基板およびセルロース繊維複合フィルムの製造方法を提供することができる。
図1は、本発明の配線基板の一例である有機薄膜トランジスタ(ボトムゲート・トップコンタクト型)の構造の断面を示す概略図である。 図2は、本発明の配線基板の一例である有機薄膜トランジスタ(ボトムゲート・ボトムコンタクト型)の構造の断面を示す概略図である。 図3は、実施例で作製した有機薄膜トランジスタ(ボトムゲート・ボトムコンタクト型)の構造の断面を示す概略図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
[セルロース繊維複合フィルム]
本発明のセルロース繊維複合フィルム(以下、「本発明の複合フィルム」とも略す。)は、セルロース繊維と、分子量が60以上400以下の低分子滑剤とを含有する。
また、本発明の複合フィルムは、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF−SIMS)で検出される低分子滑剤に由来するシグナルについて、フィルムの厚み方向における最大強度(I(Lp)max)と、フィルムの少なくとも一方の表面における強度(I(Lp)sur)との比が、下記式(1)を満たす。
更に、本発明の複合フィルムは、TOF−SIMSで検出される、低分子滑剤に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Lp))と、セルロース微細繊維に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cel))との比が、下記式(2)を満たす。
0≦I(Lp)sur/I(Lp)max≦0.8 ・・・(1)
0.05≦I(Lp)/I(Cel)<0.6 ・・・(2)
また、本発明の複合フィルムは、架橋剤由来の架橋構造を有する場合、架橋剤に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cro))と、セルロース微細繊維に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cel))との比が、下記式(3)を満たしているのが好ましい。
0.2≦I(Cro)/I(Cel)≦2 ・・・(3)
<TOF−SIMSの測定条件>
本発明におけるTOF−SIMSによる測定は、以下に示すように測定する。
(1)測定対象となるセルロース繊維複合フィルムをエポキシ樹脂に包埋させた測定サンプルを作製する。なお、エポキシ樹脂は、測定対象の両面に1mm以上包埋させる。
(2)ミクロトームを用いて測定サンプルを厚み方向に切削し、測定対象となるセルロース繊維複合フィルムの断面を露出させる。この際、測定対象の厚みが50μm未満の場合は、切削面が測定対象の両表面に至るように斜め方向に切削し、また、セルロース繊維複合フィルムの露出面(切削線)の長さが50μm以上100μm以下になるように斜め切削角を調整する。
(3)露出した断面を以下の装置および条件で測定する。
・装置:TOF−SIMS IV(ION−TOF社製)
・一次イオン:Bi3+(ビーム直径2μm)
・測定範囲:厚み方向および直交方向に各々256点ずつラスタースキャンする
・極性:posi、nega
(4)TOF−SIMSによる極大値(ピーク)が2以上存在する場合は、ピーク強度の大きい方の値を採用する。
<最大強度(I(Lp)max)および強度(I(Lp)sur)>
TOF−SIMSで検出される低分子滑剤に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における最大強度(I(Lp)max)、および、表面における強度(I(Lp)sur)は、以下に示すように測定する。
(1)低分子滑剤の標品を用い、最も強いフラグメントを求める。
(2)上記フラグメントに着目し、エポキシ樹脂に包埋した測定サンプルの断面について、包埋樹脂、セルロース繊維複合フィルムおよび包埋樹脂の順にスキャンして測定する。なお、複合フィルム前後の包埋樹脂の測定長を各々5μmとし、各々の平均強度を結んだ線をベースラインとする。
(3)測定対象であるセルロース繊維複合フィルムの断面のうち、フィルムの各表面から全厚みの5%まで測定した強度の平均値(ベースラインからの強度の平均値)を各表面の強度(I(Lp)sur)とする。
(4)測定対象であるセルロース繊維複合フィルムの断面のうち、フィルムの両表面から全厚みの5%の部分を除いた全厚みの90%の領域で測定した強度(ベースラインからの強度)の最大値をフィルムの厚み方向における最大強度(I(Lp)max)とする。
<平均強度(I(Lp))および平均強度(I(Cel))>
TOF−SIMSで検出される、低分子滑剤に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Lp))、および、セルロース微細繊維に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cel))は、以下に示すように測定する。
(1)低分子滑剤およびセルロース微細繊維の標品を用い、各々の最も強いフラグメントを求める。
(2)低分子滑剤について、上記フラグメントに着目し、上述した最大強度(I(Lp)max)および強度(I(Lp)sur)の測定と同様の方法で強度を測定し、ベースラインの上に現れるシグナルの強度を断面方向に積分し、これを測定対象の断面(切削線)の長さで除して単位厚みあたりの平均強度を算出した。これを平均強度(I(Lp))とする。
(3)セルロース微細繊維について、上記(2)と同様の方法で平均強度を算出した。これを平均強度(I(Cel))とする。
<平均強度(I(Cro))>
TOF−SIMSで検出される架橋剤に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cro))は、以下に示すように測定する。
(1)架橋剤の標品を用い、最も強いフラグメントを求める。
(2)架橋剤について、上記フラグメントに着目し、上述した最大強度(I(Lp)max)および強度(I(Lp)sur)の測定と同様の方法で強度を測定し、ベースラインの上に現れるシグナルの強度を断面方向に積分し、これを測定対象の断面(切削線)の長さで除して単位厚みあたりの平均強度を算出した。これを平均強度(I(Cro))とする。なお、斜め方向に切削した場合は、次のように補正する。例えば、厚みが30μmの測定対象を断面(切削線)の長さが60μmになるように斜め方向に切削した場合は、厚み方向の測定長を30/60に補正し、単位厚みあたりの平均強度とする。
本発明の複合フィルムは、低分子滑剤に由来する最大強度(I(Lp)max)と強度(I(Lp)sur)との比が下記式(1)を満たし、かつ、低分子滑剤に由来する平均強度(I(Lp))とセルロース微細繊維に由来する平均強度(I(Cel))との比が下記式(2)を満たすことにより、靭性に優れ、かつ、平面性が高くなる。
0≦I(Lp)sur/I(Lp)max≦0.8 ・・・(1)
0.05≦I(Lp)/I(Cel)<0.6 ・・・(2)
このように靭性に優れ、平面性が高くなる理由は、詳細には明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
すなわち、上記式(2)を満たすことにより靭性が良好となり、かつ、上記式(1)を満たすことにより、表面付近に存在する低分子滑剤の量が内部に存在する低分子滑剤の量よりも相対的に少なくなるため、内部に比べて表面付近の弾性率が低下せず、製膜時の乾燥中の収縮応力などによる変形が抑止され、平面性が高くなったと考えられる。
本発明においては、低分子滑剤に由来する最大強度(I(Lp)max)と強度(I(Lp)sur)との比率〔I(Lp)sur/I(Lp)max〕は、上記式(1)に示した通り、0以上0.8以下であるが、セルロース繊維複合フィルムの表面性がより良好となる理由から、0.05以上0.7以下であるのが好ましく、0.1以上0.6以下であるのがより好ましい。
また、上記比率〔I(Lp)sur/I(Lp)max〕を0以上0.8以下に調整する方法としては、後述する本発明のセルロース繊維複合フィルムの製造方法に示す加熱工程により達成することができる。
更に、上記比率〔I(Lp)sur/I(Lp)max〕の値(0以上0.8以下)は、いずれか一方の表面における強度(I(Lp)sur)と最大強度(I(Lp)max)との比率が満たしていればよいが、電子機器の配線基板として用いる際の優位性を考慮すると、両表面における強度(I(Lp)sur)と最大強度(I(Lp)max)との比率がいずれも満たしているのが好ましい。
本発明においては、低分子滑剤に由来する平均強度(I(Lp))とセルロース微細繊維に由来する平均強度(I(Cel))との比率〔I(Lp)/I(Cel)〕は、上記式(2)に示した通り、0.05以上0.6未満であるが、セルロース繊維複合フィルムの靭性がより良好となり、電子機器の配線基板として好適に用いることができる理由から、0.05以上0.5以下であるのが好ましく、0.08以上0.4以下であるのがより好ましく、0.12以上0.35以下であるのが更に好ましい。
また、上記比率〔I(Lp)/I(Cel)〕を0.05以上0.6未満に調整する方法としては、例えば、上記セルロース微細繊維に対する上記低分子滑剤の添加量を調整することにより行うことができる。
以下に、本発明の複合フィルムに含まれるセルロース繊維および低分子滑剤、ならびに、任意の架橋剤に由来する構造等について詳述する。
〔セルロース繊維〕
本発明の複合フィルムに含まれるセルロース繊維とは、植物細胞壁の基本骨格などを構成するセルロースのミクロフィブリル、または、これを構成する繊維のことであり、平均繊維径(幅)が概ね100nm以下のいわゆるセルロースナノファイバー(CNF)をいう。
このようなセルロース繊維としては、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビートパルプ、ポテトパルプ、農産物残廃物、布、紙等に含まれる植物由来の繊維が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等が挙げられる。
紙としては、例えば、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等が挙げられる。
パルプとしては、例えば、植物原料を化学的もしくは機械的に又は両者を併用してパルプ化することで得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、セミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等が挙げられる。
上記セルロース繊維は、化学修飾および/または物理修飾を施して機能性を高めたものであってもよい。
ここで、化学修飾としては、例えば、カルボキシ基、アセチル基、硫酸基、スルホン酸基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2−ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、チイラン基、チエタン基などを付加させることなどが挙げられる。
また、化学修飾は、通常の方法を採ることができる。すなわち、セルロースを化学修飾剤と反応させることによって化学修飾することができる。必要に応じて、溶媒、触媒を用いたり、加熱、減圧等を行ったりしてもよい。
化学修飾剤の種類としては、酸、酸無水物、アルコール、ハロゲン化試薬、アルコール、イソシアナート、アルコキシシラン、オキシラン(エポキシ)等の環状エーテルが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
酸としては、例えば、酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロパン酸、ブタン酸、2−ブタン酸、ペンタン酸等が挙げられる。
また、化学修飾を行った後には、反応を終結させるために水で充分に洗浄することが好ましい。未反応の化学修飾剤が残留していると、後で着色の原因になったり、樹脂と複合化する際に問題となったりすることがある。水で充分に洗浄した後、さらにアルコール等の有機溶媒で置換することが好ましい。この場合、セルロースをアルコール等の有機溶媒に浸漬しておくことで置換される。
一方、物理修飾としては、金属やセラミック原料を、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどの物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、無電解メッキや電解メッキなどのメッキ法などにより表面被覆させる方法が挙げられる。
本発明においては、上記セルロース繊維の平均繊維径は、3〜50nmであるのが好ましく、3〜30nmであるのがより好ましく、3〜20nmであるのが更に好ましい。
上記セルロース繊維の平均繊維径が3〜50nmであると、セルロース繊維複合フィルムの靭性がより良好となり、平面性がより高くなる。これは、後述する乾燥工程においてセルロース繊維に適度な凝集力が生じ、表面付近の低分子滑剤が内部に排斥されやすくなるためであると考えられる。
ここで、セルロース繊維の平均繊維径とは、以下のように測定した値をいう。
セルロース繊維を含有するスラリーを調製し、このスラリーを親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストして透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)観察用試料とする。径の大きなセルロース繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)像を観察してもよい。
構成する繊維の大きさに応じて1000倍、5000倍、10000倍、20000倍、50000倍および100000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。ただし、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、この直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で直線Xと垂直に交差する直線Yを引き、直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記のような電子顕微鏡観察画像に対して、直線Xに交錯する繊維、直線Yに交錯する繊維の各々について少なくとも20本(すなわち、合計が少なくとも40本)の幅(繊維の短径)を読み取る。こうして上記のような電子顕微鏡画像を少なくとも3組以上観察し、少なくとも40本×3組(すなわち、少なくとも120本)の繊維径を読み取る。
このように読み取った繊維径を平均して平均繊維径を求める。
上記セルロース繊維の平均繊維径を調整する方法は特に限定されないが、例えば、機械的解砕法では、使用する超高圧ホモジナイザーやグラインダーの処理時間、回数により調整することが可能であり、化学的解砕法では、酸化剤(例えば、次亜塩素酸ソーダなど)の種類、触媒(例えば、TEMPO(2,2,6,6-tetramethyl-1-piperidinyloxy)触媒など)の濃度、反応時間などで調整することが可能である。
また、本発明においては、上記セルロース繊維の平均繊維長は、200〜1500nmであるであるのが好ましく、300〜1200nmであるのがより好ましく、400〜800nmであるがの更に好ましい。
上記セルロース繊維の平均繊維長が200〜1500nmであると、セルロース繊維複合フィルムの靭性がより良好となり、平面性がより高くなる。これは、セルロース繊維同士の絡み合いが抑制され、後述する乾燥工程においてセルロース繊維に適度な凝集力が生じ、表面付近の低分子滑剤が内部に排斥されやすくなるためであると考えられる。
ここで、セルロース繊維の平均繊維長とは、以下のように測定した値をいう。
すなわち、セルロース繊維の繊維長は、上述した平均繊維径を測定する際に使用した電子顕微鏡観察画像を解析することにより求めることができる。
具体的には、上記のような電子顕微鏡観察画像に対して、直線Xに交錯する繊維、直線Yに交錯する繊維の各々について少なくとも20本(すなわち、合計が少なくとも40本)の繊維長を読み取る。
こうして上記のような電子顕微鏡画像を少なくとも3組以上観察し、少なくとも40本×3組(すなわち、少なくとも120本)の繊維長を読み取る。
このように読み取った繊維長を平均して平均繊維長を求める。
上記セルロース繊維の調製方法は特に限定されず、機械的または化学的に解砕する方法が好ましい。
機械的に解砕する方法としては、例えば、セルロース繊維含有材料の水懸濁液やスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機、ビーズミル等により機械的に摩砕または叩解することにより解繊する方法が挙げられる。機械処理法として、例えば、特許第5500842号公報、特許第5283050号公報、特許第5207246号公報、特許第5170193号公報、特許第5170153号公報、特許第5099618号公報、特許第4845129号公報、特許第4766484号公報、特許第4724814号公報、特許第4721186号公報、特許第4428521号公報、国際公開第11/068023号、特許第5477265号公報、特開2014−84434号公報などが挙げられる。
一方、化学的に解砕する方法としては、例えば、セルロース系原料を、N−オキシル化合物と、臭化物および/またはヨウ化物の存在下で、酸化剤を用いて酸化し、さらに酸化されたセルロースを湿式微粒化処理して解繊し、ナノファイバー化することにより製造することができる。化学処理法として、例えば、特許第5381338号公報、特許第4981735号公報、特許第5404131号公報、特許第5329279号公報、特許第5285197号公報、特許第5179616号公報、特許第5178931号公報、特許第5330882号公報、特許第5397910号公報などに記載された方法が挙げられる。
本発明においては、セルロース繊維複合フィルムに含まれる上記セルロース繊維の含有量は、複合フィルムの全質量に対して5質量%以上であるのが好ましく、10〜70質量%であるのが好ましく、20〜50質量%であるのがより好ましい。
〔低分子滑剤〕
本発明の合フィルムに含まれる低分子滑剤とは、プラスチックの成形加工において装置や金型との摩擦の低減や良好な離型を得るために広く知られた化合物のうち、分子量が60以上400以下のものをいう。
上記低分子滑剤として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、アラキルアルコール、ベへニルアルコール、カラナービルアルコール、セリルアルコール、セトステアリルアルコール、グリセリンなどのアルコール;
アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸2−ヘキシルデシル、アジピン酸ジ−2−ヘプチルウンデシル、モノイソステアリン酸−アルキルグリコール、イソステアリン酸イソセチル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、ジ−2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、2−エチルヘキサン酸セチル、トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、オクタン酸セチル、オクチルドデシルガムエステル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸ブチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸イソノニル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、クエン酸トリエチル、コハク酸2−エチルヘキシル、酢酸アミル、酢酸ブチル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸ブチル、イソステアリン酸メチル、イソステアリン酸エチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、パルミチン酸2−ヘキシルデシル、パルミチン酸2−ヘプチルウンデシル、12−ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸2−ヘキシルデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸ヘキシル、リンゴ酸ジイソステアリル、マロン酸ジメチルエステル、コハク酸ジイソブチル、グルタル酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチルなどのエステル油;
ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、脂肪酸変性ポリシロキサン、アルコール変性シリコーン、脂肪族アルコール変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、環状シリコーン、アルキル変性シリコーンなどのシリコーン;
オリーブ油、ホホバ油、ツバキ油、ローズヒップ油、ヒマシ油、大豆油、米油、米胚芽油、ヤシ油、パーム油、カカオ油、メドウフォーム油、シアーバター、ティーツリー油、アボガド油、マカデミアナッツ油、植物由来スクワランなどの植物由来の油脂;
ミンク油、タートル油などの動物由来の油脂;
ミツロウ、カルナウバロウ、ライスワックス、ラノリンなどのロウ類;
パラフィン、パラフィンワックス、流動パラフィン、ワセリン、スクワラン、スクワレン、オゾケライト、セレシン、プリスタン、ポリイソブチレン、マイクロクリスタリンワックスなどのパラフィン類;
ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、エイコセン酸などの脂肪酸;
トリメチルリン酸、トリエチルリン酸などのリン酸アステル類;等が挙げられる。
なお、これら低分子滑剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、上記低分子滑剤の他の例としては、ピラゾール誘導体(例えば、ジメチルピラゾール等)、ケトンオキシム類(例えば、メチルエチルケトンオキシム等)、カプロラクタム類(例えば、ε−カプロラクタム等)、第2級芳香族アミン類(例えば、N−メチルアニリン等)、ピロリドン類(例えば、N−メチルピロリドン等)、セロソルブ類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)などが挙げられる。
これらのうち、後述する乾燥工程中に油状であり流動性があるものが好ましく、具体的には、25〜120℃で油状となる有機物質(融点が120℃以下)であるのがより好ましく、25〜80℃で油状となる有機物質(融点が100℃以下)であるのが更に好ましく、25〜60℃で油状となる有機物質(融点が90℃以下)であるのが特に好ましい。
本発明においては、上記低分子滑剤の沸点が120℃以上400℃以下であるのが好ましく、150℃以上300℃以下であるのがより好ましく、170℃以上250℃以下であるのが更に好ましい。
上記低分子滑剤の沸点が120〜400℃であると、セルロース繊維複合フィルムの靭性がより良好となり、平面性がより高くなる。これは、後述する乾燥工程においても低分子滑剤が揮発せず、また、セルロース繊維が凝集する際に、低分子滑剤が内部に排斥されやすくなる(運動性が高くなる)ためであると考えられる。
また、本発明においては、上記低分子滑剤の分子量は、上述した通り60以上400以下であり、70以上220以下であるのが好ましく、80以上180以下であるのがより好ましい。
上記低分子滑剤の分子量が60〜400であると、セルロース繊維複合フィルムの靭性がより良好となり、平面性がより高くなる。これは、セルロース繊維複合フィルムの表面付近における低分子滑剤の凝集が抑制されるためであると考えられる。
以下に、好適な低分子滑剤について、融点、沸点および分子量を記載する。なお、括弧内の数値は、融点、沸点および分子量の順に記載した値である。
・アジピン酸ジイソブチル(−70℃、293℃、258)
・オレイン酸メチル(−20℃、218℃、296)
・クエン酸トリエチル(−46℃、298℃、276)
・酢酸アミル(−71℃、149℃、130)
・酢酸ブチル(−78℃、126℃、116)
・ミリスチン酸(54℃、295℃、228)
・メチルセロソルブ(−85℃、124℃、76)
・エチルセロソルブ(−75℃、135℃、90)
・フタル酸ジメチル(2℃、282℃、194)
・トリメチルリン酸(−46℃、197℃、140)
・トリエチルリン酸(−56℃、255℃、182)
・ベヘニルアルコール(68℃、180℃、326)
・グリセリン(18℃、290℃、92)
・ジメチルピラゾール(106℃、218℃、96)
・マロン酸ジメチル(−50℃、199℃、132)
・メチルエチルケトンオキシム(−30℃、152℃、87)
・ε−カプロラクタム(72℃、138℃、113)
・N−メチルアニリン(−57℃、196℃、121)
・アセチルアセトン(−23℃、140℃、100)
・N―メチルピロリドン(−24℃、202℃、99)
・エチレングリコール(13℃、197℃、62)
・フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(−50℃、385℃、390)
本発明においては、上記低分子滑剤の含有量は、上記セルロース細繊に対するモル比(低分子滑剤/セルロース細繊)で0.5以上5以下であるのが好ましく、0.8以上4以下であるのがより好ましく、1.2以上3.5以下であるのが更に好ましい。なお、セルロース微細繊維のモル数は、セグメントのモル数を指す。
また、上記低分子滑剤の含有量は、セルロース繊維の質量の0.2倍以上2倍以下であるのが好ましく、0.3倍以上1.5倍以下であるのがより好ましい。
〔架橋構造〕
本発明の複合フィルムは、靭性がより良好となり、平面性がより高くなる理由から、後述する架橋剤に由来する架橋構造を有していることが好ましい。
これは、架橋構造を有することで、製膜時の乾燥中の収縮応力などによる変形を抑制するため平面性が向上し、かつ、上記セルロース繊維同士を繋ぎとめ、脆化を抑制することができるためと考えられる。
ここで、架橋剤に由来する架橋構造とは、後述する架橋剤の種類によって構造が変わるため特に限定されないが、例えば、架橋剤が有する反応性官能基(例えば、イソシアネート基)とセルロース繊維に化学修飾した水酸基やカルボキシ基などとが反応した後の架橋剤の残基が挙げられる。
<架橋剤>
架橋剤としては、例えば、カルボジイミド基、オキサゾリン基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ジビニルスルホン、ジヒドラジン、ジヒドラジド、エピクロルヒドリンなどの反応性官能基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)としては、具体的には、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリシトール、ジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
また、イソシアネート基を有する化合物(イソシアネート化合物)としては、例えば、水分散性のポリイソシアネートが挙げられ、具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4´−ジイソシアネート、2、2´−ジフェニルプロパン−4,4´−ジイソシアネート、3,3´−ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、4,4´−ジフェニルプロパンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシジフェニル−4,4´−ジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、キシリレン−1,4´−ジイソシアネート、キシリレン−1,3´−ジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添加トリレンジジイソシアネート、水添加キシリレンジイソシアネート、水添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水添加テトラメチルキシリレンジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート及びこれらの化合物と活性水素基含有化合物との反応によるNCO基末端化合物等が挙げられる。
また、ポリイソシアネートとして、有機イソシアネートにポリオールを付加させるとともにイソシアヌレート化触媒を加え、イソシアヌレート環構造を導入したポリイソシアネートの代わりに、ジイソシアネートの重合体や2官能以上のポリオール等とジイソシアネートあるいはポリメトリック体との反応で得られるプレポリマー的なイソシアネート化合物を用いても構わない。これらのポリイソシアネートは単独又は2種以上の混合物で使用することができる。
また、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グルタルアルデヒド等のアルデヒド類;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル類;コハク酸、シュウ酸、マレイン酸等の多価カルボン酸類;エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリン化合物類;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の金属アルコキシド;などを挙げることができる。
本発明においては、上記で例示した架橋剤以外にも、国際公開第2011/065371号の[0046]段落、国際公開第2013/146847号の[0036]および[0037]段落、国際公開第2014/181560号の[0033]および[0072]段落に記載されたものも用いることができる。
本発明においては、上記架橋剤のうち、セルロース繊維複合フィルムの靭性がより良好となり、平面性がより高くなる理由から、ジビニルスルホン、カルボジイミド、ジヒドラジン、ジヒドラジド、エピクロルヒドリン、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アミノ化合物、および、イソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、中でも、カルボジイミド、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、および、イソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種であるのがより好ましい。
また、本発明においては、上述した通り、TOF−SIMSで検出される架橋剤に由来する平均強度(I(Cro))とセルロース微細繊維に由来する平均強度(I(Cel))との比率〔I(Cro)/I(Cel)〕は、上記式(3)に示した通り、0.2以上2以下であるのが好ましく、0.25以上1.5以下であるのがより好ましく、0.33以上1.2以下であるの更に好ましい。
上記比率〔I(Cro)/I(Cel)〕が0.25以上1.5以下であると、セルロース繊維複合フィルムの平面性がより高くなる。これは、導入される架橋構造の量が適切となり、製膜時の乾燥中の収縮応力などによる変形を抑制し、かつ、搬送中の表面の割れなどの発生も抑制したためであると考えられる。
また、上記比率〔I(Cro)/I(Cel)〕を0.25以上1.5以下に調整する方法としては、例えば、上記セルロース微細繊維に対する上記架橋剤の添加量を調整することにより行うことができる。
本発明においては、上記架橋剤の含有量は、上記セルロース細繊に対するモル比(架橋剤/セルロース細繊)で0.17以上1.7以下であるのが好ましく、0.27以上1.3以下であるのがより好ましく、0.4以上1.2以下であるのが更に好ましい。なお、セルロース微細繊維のモル数は、セグメントのモル数を指す。
また、上記架橋剤の含有量は、上記セルロース繊維の質量の0.1倍以上20倍以下であるのが好ましく、0.1倍以上10倍以下であるのがより好ましく、0.5倍以上6倍以下であるのが更に好ましく、0.8倍以上4倍以下であるのが特に好ましい。
〔エマルジョン樹脂〕
本発明の複合フィルムは、上述したセルロース繊維とともにエマルション樹脂を含有しているのが好ましい。
エマルション樹脂とは、分散媒中で乳化した、粒子径が0.001〜10μmの天然樹脂あるいは合成樹脂の粒子である。
エマルション樹脂を構成する樹脂の種類としては特に限定されないが、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、珪素樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の前駆体、およびこれらを構成するモノマーやオリゴマー等の樹脂エマルション;アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル−イソプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)等のエラストマー等であってもよい。
これらのエマルション樹脂は2種類以上含有しても構わない。
上記以外の樹脂としては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、オレフィン系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(例えば、2,6−キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(例えば、セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)などが挙げられる。
ここで、上記脂環式オレフィン系樹脂としては、特開平05−310845号公報及び米国特許第5179171号公報に記載されている環状オレフィンランダム共重合体、特開平05−97978号公報及び米国特許第5202388号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報(EP1026189号)に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体及びその水素添加物等が挙げられる。これらの文献は、全て参照することにより本明細書に取り込まれる。
〔親水性樹脂〕
本発明の複合フィルムは、上述したセルロース繊維とともに親水性樹脂を含有しているのが好ましい。
親水性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、水溶性ナイロン、ポリアクリルアミド、キチン類、キトサン類、デンプン、および、これらの共重合体を挙げることができる。
ポリアルキレングリコールとしては、具体的には、例えば、ポリメチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピルグリコール、ポリブテングリコール、ポリペンテングリコール等を用いることができる。
ポリアクリル酸としては、具体的には、例えば、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを重合させた重合体等が挙げられる。
〔硬化型樹脂〕
本発明の複合フィルムは、上述したセルロース繊維とともに硬化型樹脂を含有しているのが好ましい。
硬化型樹脂としては、例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できる。また、光硬化性のモノマーを用いた硬化型樹脂も使用することができる。
光重合性ビニルモノマーとしては、公知慣用のもの、例えば、スチレン、クロロスチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体;酢酸ビニル、酪酸ビニルまたは安息香酸ビニルなどのビニルエステル類;ビニルイソブチルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニル−t−ブチルエーテル、ビニル−n−アミルエーテル、ビニルイソアミルエーテル、ビニル−n−オクタデシルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、エチレングリコールモノブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類;トリアリルイソシアヌレート、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリルなどのアリル化合物;2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のエステル類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート類、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのアルキレンポリオールポリ(メタ)アクリレート、;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのポリオキシアルキレングリコールポリ(メタ)アクリレート類;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレートなどのポリ(メタ)アクリレート類;トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレートなどのイソシアヌルレート型ポリ(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらは、要求特性に合わせて、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の複合フィルムは、作業性等の観点から、厚みが10μm以上100μm以下であるのが好ましく、20μm以上80μm以下であるのがより好ましく、30μm以上70μm以下であるのが更に好ましい。
また、本発明の複合フィルムは、電子機器の配線基板として用いるのが好ましい。
すなわち、本発明の複合フィルムは、靭性に優れ、かつ、表面の平面性が高いセルロース繊維複合フィルムであるため、細断時の割れを抑制し、また、表面凹凸に起因する電子配線の断線も抑制することができるため、電子機器の配線基板として好適に用いることができる。
その他、本発明の複合フィルムは、バリア膜、補強材(コンポジット材)等の用途として有効に使用することができる。
[配線基板]
本発明の配線基板は、上述した本発明の複合フィルムを有する基板と、基板上に設けられる配線回路とを有する、配線基板である。
本発明の配線基板は、有機半導体を用いた配線回路を有することが好ましい。
ここで、有機半導体材料を用いたデバイスは、シリコンなどの無機半導体材料を用いた従来のデバイスと比較して、様々な優位性が見込まれているため、高い関心を集めている。
有機半導体材料を用いたデバイスとしては、例えば、有機半導体材料を光電変換材料として用いた有機薄膜太陽電池、固体撮像素子などの光電変換素子;非発光性の有機トランジスタ;発光性デバイス;などが挙げられる。
また、有機半導体材料を用いたデバイスは、無機半導体材料を用いたデバイスと比べて低温、低コストで大面積の素子を作製できる可能性がある。さらに分子構造を変化させることで容易に材料特性を変化させることが可能であるため、材料のバリエーションが豊富であり、無機半導体材料ではなし得なかったような機能や素子を実現することができる。
更に、基板をフィルムにすることで、軽量化、低コスト化、柔軟性があるため塗布等の連続法で有機半導体等の電子回路を形成できることから、例えば、液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイに用いられる薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT);電波方式認識(Radio Frequency Identifier:RFID)やメモリなどの論理回路を用いる装置;などに有機半導体膜(有機半導体層)を用いた有機半導体素子が利用されている。
このようなデバイスの基板に本発明の複合フィルムを用いると、湿度寸法変化が小さくなるため、例えば、デバイスが真空プロセスで脱湿された後に大気中に出された際の吸湿膨張や、その逆の工程における脱湿収縮などにおいても寸法変化が起き難くなり、回路を積層して構築する際の位置ずれが小さくなる利点が得られ、また、高温下でも力学強度が強くなるため、例えば、高温で有機半導体を塗設してもトラブル(例えば、基材の伸縮に因る有機半導体膜との破断等)が生じ難いなどの利点が得られる。
〔有機薄膜トランジスタ〕
本発明の配線基板の一例である有機薄膜トランジスタ(以下、「本発明の有機薄膜トランジスタ」ともいう。)は、有機電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)として用いられることが好ましく、ゲート−チャンネル間が絶縁されている絶縁ゲート型FETとして用いられることがより好ましい。
以下、本発明の有機薄膜トランジスタの好ましい構造の態様について、図面を用いて詳しく説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
<積層構造>
有機電界効果トランジスタの積層構造としては特に制限はなく、公知の様々な構造のものとすることができる。
本発明の有機薄膜トランジスタの構造の一例としては、最下層の基板の上面に、電極、絶縁体層、半導体活性層(有機半導体層)、2つの電極を順に配置した構造(ボトムゲート・トップコンタクト型)を挙げることができる。この構造では、最下層の基板の上面の電極は基板の一部に設けられ、絶縁体層は、電極以外の部分で基板と接するように配置される。また、半導体活性層の上面に設けられる2つの電極は、互いに隔離して配置される。ボトムゲート・トップコンタクト型素子の構成を図1に示す。
図1は、本発明の配線基板の一例である有機薄膜トランジスタ(ボトムゲート・トップコンタクト型)の構造の断面を示す概略図である。
図1に示す有機薄膜トランジスタは、最下層に基板11を配置し、その上面の一部に電極12を設け、さらに電極12を覆い、かつ電極12以外の部分で基板11と接するように絶縁体層13を設けている。さらに絶縁体層13の上面に半導体活性層14を設け、その上面の一部に2つの電極15aと15bとを隔離して配置している。
また、図1に示す有機薄膜トランジスタは、電極12がゲートであり、電極15aと電極15bはそれぞれドレインまたはソースである。
また、図1に示す有機薄膜トランジスタは、ドレイン−ソース間の電流通路であるチャンネルと、ゲートとの間が絶縁されている絶縁ゲート型FETである。
本発明の有機薄膜トランジスタの構造の他の一例としては、ボトムゲート・ボトムコンタクト型素子を挙げることができる。
ボトムゲート・ボトムコンタクト型素子の構成を図2に示す。
図2は、本発明の配線基板の一例である有機薄膜トランジスタ(ボトムゲート・ボトムコンタクト型)の構造の断面を示す概略図である。
図2に示す有機薄膜トランジスタは、最下層に基板31を配置し、その上面の一部に電極32を設け、さらに電極32を覆い、かつ電極32以外の部分で基板31と接するように絶縁体層33を設けている。さらに絶縁体層33の上面に半導体活性層35を設け、電極34aと34bが半導体活性層35の下部にある。
また、図2に示す有機薄膜トランジスタは、電極32がゲートであり、電極34aと電極34bはそれぞれドレインまたはソースである。
また、図2に示す有機薄膜トランジスタは、ドレイン−ソース間の電流通路であるチャンネルと、ゲートとの間が絶縁されている絶縁ゲート型FETである。
本発明の有機薄膜トランジスタの構造としては、その他、絶縁体、ゲート電極が半導体活性層の上部にあるトップゲート・トップコンタクト型素子や、トップゲート・ボトムコンタクト型素子も好ましく用いることができる。
<厚さ>
本発明の有機薄膜トランジスタは、より薄いトランジスタとする必要がある場合には、例えばトランジスタ全体の厚さを0.1〜0.5μmとすることが好ましい。
<封止>
有機薄膜トランジスタ素子を大気や水分から遮断し、有機薄膜トランジスタ素子の保存性を高めるために、回路形成後に有機薄膜トランジスタ素子全体を金属の封止缶やガラス、窒化ケイ素などの無機材料、パリレンなどの高分子材料や、低分子材料などで封止してもよい。
以下、本発明の有機薄膜トランジスタの各層の好ましい態様について説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
<基板>
本発明の有機薄膜トランジスタは、基板に上述した本発明の複合フィルムを用いるが、密着性や平滑性の観点から、セルロースフィルム上に保護層を積層することができる。
上記保護層の材料は特に限定されず、公知の材料を用いることができる。例えば、CYEPL(シアノエチルプルラン)、PVA(ポリビニルアルコール)、PVC(ポリビニルクロライド)、PMMA(ポリメチルメタクリラート)、PI(ポリイミド)、PVP(ポリビニルフェノール)、パリレン、フッ素樹脂、ポリシロキサンなどポリマーを中心とした様々な有機物、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナなどの無機物、さらに無機と有機のハイブリッドなど、がある。
また、ハンドリングや平滑性を保つために、ガラスや金属などの固い基板を貼り合せて用いることもできる。最終的に、フレキシブルとするためには、固い基板を取り除くことができる。
<電極>
(材料)
本発明の有機薄膜トランジスタは、電極を含むことが好ましい。
上記電極の構成材料としては、例えば、Cr、Al、Ta、Mo、Nb、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、In、Ni、Ndなどの金属材料およびこれらの合金材料、ならびに、カーボン材料、導電性高分子などの既知の導電性材料であれば特に制限することなく使用できる。
(厚さ)
上記電極の厚さは特に制限はないが、10〜50nmとすることが好ましい。
ゲート幅(またはチャンネル幅)Wとゲート長(またはチャンネル長)Lに特に制限はないが、これらの比W/Lが10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。
<絶縁層>
(材料)
絶縁層を構成する材料は必要な絶縁効果が得られれば特に制限はないが、例えば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、PTFE、CYTOP等のフッ素ポリマー系絶縁材料、ポリエステル絶縁材料、ポリカーボネート絶縁材料、アクリルポリマー系絶縁材料、エポキシ樹脂系絶縁材料、ポリイミド絶縁材料、ポリビニルフェノール樹脂系絶縁材料、ポリパラキシリレン樹脂系絶縁材料などが挙げられる。
絶縁層の上面は表面処理がなされていてもよく、例えば、二酸化ケイ素表面をヘキサメチルジシラザン(HMDS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の塗布により表面処理した絶縁層を好ましく用いることができる。
(厚さ)
絶縁層の厚さに特に制限はないが、薄膜化が求められる場合は厚さを10〜400nmとすることが好ましく、20〜200nmとすることがより好ましく、50〜200nmとすることが特に好ましい。
<半導体活性層(有機半導体層)>
(材料)
本発明の有機薄膜トランジスタを形成する有機半導体材料は、従来公知の有機半導体層に利用される公知の材料が、各種、利用可能である。
具体的には、6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPSペンタセン)等のペンタセン誘導体、5,11‐ビス(トリエチルシリルエチニル)アントラジチオフェン(TES‐ADT)等のアントラジチオフェン誘導体、ベンゾジチオフェン(BDT)誘導体、ベンゾチエノベンゾチオフェン(BTBT)誘導体、ジナフトチエノチオフェン(DNTT)誘導体、6,12‐ジオキサアンタントレン(ペリキサンテノキサンテン)誘導体、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(NTCDI)誘導体、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(PTCDI)誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(2,5‐ビス(チオフェン‐2‐イル)チエノ[3,2‐b]チオフェン)(PBTTT)誘導体、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体、オリゴチオフェン類、フタロシアニン類、フラーレン類等が例示される。
上記有機半導体層は、化合物単独や複数の化合物がブレンドされた層であってもよく、後述のポリマーバインダーがさらに含まれた層であってもよい。また、成膜時の残留溶媒が含まれていてもよい。
上記ポリマーバインダーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの絶縁性ポリマー、およびこれらの共重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリシランなどの光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレンなどの導電性ポリマー、半導体ポリマーを挙げることができる。
上記ポリマーバインダーは、単独で使用してもよく、複数併用してもよい。
また、有機半導体材料と上記ポリマーバインダーとは均一に混合していてもよく、一部または全部が相分離していてもよいが、電荷移動度の観点では、膜中で膜厚方向に有機半導体とバインダーが相分離した構造が、バインダーが有機半導体の電荷移動を妨げず最も好ましい。
薄膜の機械的強度が必要な場合ガラス転移温度の高いポリマーバインダーが好ましく、電荷移動度を考慮すると極性基を含まない構造のポリマーバインダーや光伝導性ポリマー、導電性ポリマーが好ましい。
上記半導体活性層中における上記ポリマーバインダーの含有量は、特に制限はないが、好ましくは0〜95質量%の範囲内で用いられ、より好ましくは10〜90質量%の範囲内で用いられ、さらに好ましくは20〜80質量%の範囲内で用いられ、特に好ましくは30〜70質量%の範囲内で用いられる。
(厚さ)
上記有機半導体層の厚さに特に制限はないが、薄膜化が求められる場合は厚さを10〜400nmとすることが好ましく、10〜200nmとすることがより好ましく、10〜100nmとすることが特に好ましい。
(成膜方法)
上記有機半導体層を基板上に成膜する方法はいかなる方法でもよい。
成膜の際、基板を加熱または冷却してもよく、基板の温度を変化させることで膜質や膜中での分子のパッキングを制御することが可能である。基板の温度としては特に制限はないが、0℃から200℃の間であることが好ましく、15℃〜160℃の間であることがより好ましく、20℃〜120℃の間であることが特に好ましい。
基板上に有機半導体層を成膜するとき、真空プロセスまたは溶液プロセスにより成膜することが可能であり、いずれも好ましい。
真空プロセスによる成膜の具体的な例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子ビームエピタキシー(MBE)法などの物理気相成長法;プラズマ重合などの化学気相蒸着(CVD)法;等が挙げられ、真空蒸着法を用いることが特に好ましい。
溶液プロセスによる成膜としては、ここでは有機化合物を溶解させることができる溶媒中に溶解させ、その溶液を用いて成膜する方法をさす。具体的には、キャスト法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法などの塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの各種印刷法、Langmuir−Blodgett(LB)法などの通常の方法を用いることができ、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法を用いることが特に好ましい。
また、移動度の高い有機半導体層を得るためには、有機半導体層の結晶性を向上することが重要である。そのため、湿式プロセスによる有機半導体層の形成においても、有機半導体層の結晶性を向上する方法を用いてもよい。例えば、溶媒蒸発速度の高いところから、結晶を析出させ、徐々に蒸発部を移動させることによって、大きな結晶を得るといった方法がある。
有機半導体層は、溶液塗布法により作製されたことが好ましい。また、有機半導体層がポリマーバインダーを含有する場合、層を形成する材料とポリマーバインダーとを適当な溶媒に溶解させ、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により形成されることが好ましい。
以下、溶液プロセスによる成膜に用いることができる、本発明の有機半導体デバイスを形成する有機半導体層形成用塗布溶液について説明する。
<有機半導体デバイス用塗布溶液>
本発明は、有機半導体化合物を含有する有機半導体層形成用塗布溶液にも関する。
溶液プロセスを用いて基板上に成膜する場合、層を形成する材料を適当な有機溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、デカリン、1−メチルナフタレンなどの炭化水素系溶媒、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル系溶媒、例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールなどのアルコール系溶媒、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶媒、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチルー2−ピロリドン、1−メチルー2−イミダゾリジノン等のアミド・イミド系溶媒、ジメチルスルフォキサイドなどのスルホキシド系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒)および/または水に、溶解または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。
溶媒は単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒またはエーテル系溶媒が好ましく、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジクロロベンゼンまたはアニソールがより好ましく、トルエン、キシレン、テトラリン、アニソールが特に好ましい。
例えば、有機半導体材料がTIPSペンタセンやTES−ADT等である場合には、トルエン、キシレン、メシチレン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール等の芳香族化合物が好適に例示される。
溶液プロセスで成膜するためには、上記で挙げた溶媒などに材料が溶解することが必要であるが、単に溶解するだけでは不十分である。
通常、真空プロセスで成膜する材料でも、溶媒にある程度溶解させることができる。
しかし、溶液プロセスでは、材料を溶媒に溶解させて塗布した後で、溶媒が蒸発して薄膜が形成する過程があり、溶液プロセス成膜に適さない材料は結晶性が高いものが多いため、この過程で不適切に結晶化(凝集)してしまい良好な薄膜を形成させることが困難である。上記有機半導体化合物は、このような結晶化(凝集)が起こりにくい点でも優れている。
有機半導体層形成用塗布溶液は、有機半導体化合物を含み、ポリマーバインダーを含有しなくてもよい。
また、有機半導体層形成用塗布溶液は、有機半導体化合物とポリマーバインダーを含有してもよい。この場合、層を形成する材料とポリマーバインダーとを前述の適当な溶媒に溶解させ、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。ポリマーバインダーとしては、上述の中から選択することができる。
[セルロース繊維複合フィルムの製造方法]
本発明のセルロース繊維複合フィルムの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」とも略す。)は、少なくとも、セルロース繊維、分子量が60以上400以下の低分子滑剤および分散媒を含有するセルロース繊維含有溶液を基材上に塗工し、塗膜を形成する塗工工程と、塗膜を乾燥する乾燥工程と、を有する。
また、本発明の製造方法は、上記乾燥工程が、塗膜の内部温度を塗膜の少なくとも一方の表面温度より1℃以上35℃以下低くして乾燥する工程である。
本発明の製造方法においては、上記乾燥工程を有することにより、低分子滑剤に由来する最大強度(I(Lp)max)と強度(I(Lp)sur)との比率〔I(Lp)sur/I(Lp)max〕を0以上0.8以下に調整することができる。
これは、セルロース繊維の凝集性が高いため、いったん乾燥が始まるとセルロース繊維間に存在する他の成分(低分子滑剤)を排除しようとするため、塗膜の内部温度を塗膜の表面温度よりも低くし、塗膜の表面を先に乾燥させることにより、表面付近の低分子滑剤が排除され内部に移動するためであると考えられる。
以下に、本発明の製造方法における塗工工程および乾燥工程ならびに任意の工程について詳述する。
〔塗工工程〕
本発明の製造方法が有する塗工工程は、少なくとも、セルロース繊維、分子量が60以上400以下の低分子滑剤および分散媒を含有するセルロース繊維含有溶液(以下、「キャスト溶液」ともいう。)を基材上に塗工し、塗膜を形成する工程である。
<キャスト溶液>
キャスト溶液に含まれるセルロース繊維および低分子滑剤は、上述した本発明の複合フィルムにおいて説明したものと同様である。
また、キャスト溶液に含まれる分散媒は特に限定されないが、水の他、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜6のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3〜6のケトン;直鎖又は分岐状の炭素数1〜6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2〜5の低級アルキルエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル等の極性溶媒等が例示される。これらの分散媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることができる。
これらのうち、水、炭素数1〜6のアルコール、炭素数3〜6のケトン、炭素数2〜5の低級アルキルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、コハク酸メチルトリグリコールジエステル等の極性溶媒が好ましく、環境負荷低減の観点から、水がより好ましい。
更に、キャスト溶液は、本発明の複合フィルムにおいて説明した任意の架橋剤や、安定剤、紫外線吸収剤、界面活性剤等を含有していてもよい。
ここで、キャスト溶液は、固形分としてCNFが0.3%〜10%混合されていることが好ましく、0.5%〜8%混合されていることがより好ましく、0.7%〜5%混合されていることが更に好ましい。
キャスト溶液を塗工する基材としては、シート、板または円筒体を使用することができる。
基材の材質としては、樹脂または金属が使用され、より容易にフィルムを製膜できる点では、樹脂が好ましい。
また、基材の表面は疎水性であってもよいし、親水性であってもよい。
樹脂基材としては、具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル樹脂等が挙げられる。
金属基材としては、具体的には、例えば、アルミニウム、ステンレス、亜鉛、鉄、真鍮等が挙げられる。
塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができ、厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましく、ダイコーターがより好ましい。
塗工温度は、20〜45℃であることが好ましく、25〜40℃であることがより好ましく、27〜35℃であることがさらに好ましい。
塗工温度が20℃以上であれば、キャスト溶液を容易に塗工でき、45℃以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程の前には、塗工開始の10分前から塗工開始までの間、キャスト溶液を撹拌する撹拌工程を有することが好ましい。
撹拌工程を有すると、塗工直前のキャスト溶液を均一化できる。そのため、均一なフィルムがより得られやすくなる。
撹拌工程の具体例としては、キャスト溶液を塗工する直前のキャスト溶液を貯めておくタンクの内部を撹拌する方法が挙げられる。
〔乾燥工程〕
本発明の製造方法が有する乾燥工程は、塗膜の内部温度を塗膜の少なくとも一方の表面温度より1℃以上35℃以下低くして乾燥する工程であり、2℃以上25℃以下低くして乾燥するのが好ましく、3℃以上20℃以下低くして乾燥するのがより好ましい。
<温度測定>
塗膜の内部温度および塗膜の表面温度は、以下に示すように測定する。
(1)基材上に塗膜を形成した直後に、塗膜の膜厚の中心から±15%の領域に熱電対を埋め込んで測定した温度を内部温度とする。なお、熱電対の埋め込み方法は特に限定されないが、基材上に、所定の厚みのスペーサー(例えば、ポリイミドテープやポリエステルテープなど)上を設置し、このスペーサーに熱電対の根元を固定し、熱電対の先端を宙に浮かせた状態で、キャスト溶液を塗布することで達成できる。
(2)乾燥工程中、塗膜の空気面側の表面温度を、非接触温度計を用いて測定する。これを表面温度Aとする。
(3)後述する半乾燥工程および剥離工程を有する場合、剥離後の塗膜の基材面側の表面温度を、非接触温度計を用い測定する。これを表面温度Bとする。
(4)乾燥工程が終了するまで内部温度および表面温度を経時で測定し、(表面温度A−内部温度)の最大値、および/または、(表面温度B−内部温度)の最大値を、塗膜の内部温度および塗膜の表面温度の差とする。なお、乾燥工程の終了の目安は、塗膜における残留溶媒量が5%未満の状態とする。
このような乾燥方法としては、加熱された乾燥風(以下、「熱風」ともいう。)の風速に変調を付与した熱風を利用する加熱乾燥法が好適に挙げられる。
ここで、風速に変調が付与されていない熱風を用いた場合は、塗膜上の境膜(すなわち、塗膜上を覆う加熱空気の層)を除去することができず、境膜の存在により熱風からの伝熱が低下するため、熱容量の小さい熱風では、塗膜の内部温度および塗膜の表面温度に温度差を付与することが困難であった。
これに対し、風速に変調を付与した熱風を用いると、塗膜の内部温度および塗膜の表面温度に温度差を付与することができることが分かった。これは、風速に変調を付与した熱風により、境膜を除去(破壊)することが可能となり、熱容量の小さい熱風でも塗膜の表面を効率的に乾燥させることができたためと考えられる。また、風速に変調が付与された熱風によって塗膜の表面が僅かに振動し、塗膜の表面付近のセルロース繊維が凝集する際にセルロース繊維同士が絡み合うことにより、塗膜の表面から内部への熱伝導が抑制されたことも原因であると考えられる。
本発明においては、熱風の風速に、1%以上50%以下の変調を与えるのが好ましく、2%以上35%以下の変調を与えるのがより好ましく、3%以上20%以下の変調を与えるのが更に好ましい。
このような風速の変調は、乾燥ゾーン中にファンを設置し、その回転数を増減させることにより調整することができる。
また、変調の周期(最大風速〜最低風速の間の時間)は、1秒以上100秒以下が好ましく、2秒以上30秒以下がより好ましく、3秒以上15秒以下が更に好ましい。
また、熱風の平均風速は0.5〜20m/秒が好ましく、1〜15m/秒がより好ましく、2〜10m/秒が更に好ましい。
また、本発明においては、熱風の温度、すなわち、乾燥工程における加熱温度は、40〜180℃とすることが好ましく、60〜170℃とすることがより好ましく、70℃以上150℃以下とすることが更に好ましい。
加熱温度が40℃以上であれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、180℃以下であれば、加熱に要するコストの抑制及びセルロースの熱による変色を抑制できる。
〔半乾燥工程および剥離工程〕
本発明の製造方法は、作製されるセルロース繊維複合フィルムの両面の平面性を向上させることができる理由から、上述した塗膜工程と乾燥工程との間に、塗膜を半乾燥させる半乾燥工程を有し、半乾燥工程と上述した乾燥工程との間に、半乾燥後の塗膜を基材から剥離する剥離工程を有しているのが好ましい。
<半乾燥工程>
半乾燥工程における乾燥方法は特に限定されないが、上述した乾燥工程における加熱乾燥法と同様の方法であるのが好ましい。
また、塗膜が半乾燥している状態とは、塗膜における残留溶媒量が5%以上50%以下の状態をいうが、上記半乾燥工程においては、塗膜の残留溶媒量を10%以上45%以下にすることが好ましく、15%以上40%以下にすることがより好ましい。
ここで、残留揮発分は、以下の方法で測定する。
(1)基板上にキャスト溶液を塗工した直後の質量から、予め測定しておいた基材の質量を差し引いた塗膜の質量(W1)を測定する。
(2)乾燥しながら塗膜の質量(Wt)を5分ごとに測定する。
(3)質量変化が1%以下になった時点を乾燥完了とし、この時の塗膜の質量をW2とする。
(4)5分ごとに下記式により残留溶媒量を算出する。
残留溶媒量(%)=100×(Wt−W2)/(W1−W2)
<剥離工程>
剥離工程における剥離方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
〔熱架橋工程〕
本発明の製造方法は、キャスト溶液が架橋剤を含有する場合、剥離工程の後に、剥離後の塗膜(フィルム状物)を加熱して架橋する熱架橋工程を有しているのが好ましい。
熱架橋工程における加熱温度は、架橋の進行とセルロース繊維の分解抑制の観点から、100℃以上が好ましく、200℃以下が好ましい。また、乾燥工程における加熱温度よりも10〜50℃高い温度が好ましく、20〜40℃高い温度であることがより好ましい。
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
〔実施例1〜32および比較例1〜5〕
(1)セルロース繊維(セルロースナノファイバー(CNF))の調製
粉末セルロース(日本製紙ケミカル社製、粒径24μm)15質量部(絶乾)を、TEMPO(2,2,6,6-tetramethyl-1-piperidinyloxy,Sigma Aldrich社)0.07878質量部および臭化ナトリウム0.755質量部を溶解した水溶液500質量部に加え、粉末セルロースが均一に分散するまで攪拌した。
次いで、反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)50質量部を添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。
反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。
下記表1に示す時間(反応時間X)反応した後、遠心操作(6000rpm、30分、20℃)で酸化した粉末セルロースを分離し、十分に水洗することで酸化処理した粉末セルロースを得た。
酸化処理した粉末セルロースの2%(w/v)スラリーをミキサーにより12,000rpm、15分処理し、さらに粉末セルローススラリーを超高圧ホモジナイザーにより140MPaの圧力で下記表1に示す回数(処理回数Y)処理することにより、下記表1に示す平均繊維長および平均繊維径を有するセルロースナノファイバー(CNF−1〜CNF−5)を含有する透明なゲル状分散液を得た。
(2)キャスト溶液の調製
調製した分散液に、以下に示す架橋剤、および、下記表2に示す低分子滑剤を下記表3に示した配合で添加した。
次いで、ホモジナイザーを用いて3000rpmで5分撹拌した後、孔径7μmの濾布で濾過し、真空排気装置の付いた自公転ミキサー(クラボウ社製 マゼルスター)で1200rpm、10分間、混練脱泡し、キャスト溶液を調製した。
<架橋剤>
・CR−1:ブロックド多官能性イソシアネート(BI)のエマルジョン系水分散体(Baxenden社製 BI220)
・CR−2:多官能性イソシアネート(旭化成社製 デュラネートWE40)
・CR−3:下記式E−5で表される化合物
・CR−4:下記式A−5で表される化合物

<低分子滑剤>
(3)塗工・乾燥
調製したキャスト溶液を、ダイヘッドに送液し、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板上に塗工し、乾燥後の厚みが下記表3に示す値となるように塗膜を形成した。なお、厚みの調整はダイヘッドのリップクリアランスを調整することで実施した。
次いで、下記表3に示す乾燥温度の恒温槽にいれ、平均風速3m/秒とし、風速に下記表3に示す変調を与えた熱風を用いて乾燥した。なお、変調の周期はいずれも10秒とした。
次いで、熱風による乾燥中、残留溶媒量が30%となった半乾燥状態の塗膜を基材から剥ぎ取り、再度、上記熱風を用いて乾燥した。
なお、実施例31は、半乾燥状態の塗膜を基材から剥離せず、基材上で塗膜を乾燥させた後に基材から剥離した。
また、比較例4は、赤外線ヒーター(スチーム式遠赤外ヒーター、ノリタケカンパニーリミテド社製)を用いて、PET基板上の塗膜を加熱して乾燥した。なお、塗膜表面の温度が120℃になるようにヒーター出力を調整した。
また、比較例5は、PET基材上の塗膜に対して、内部に熱媒を通して120℃に調温した加熱ロールを接するように通して乾燥した。
(4)熱処理
乾燥後、架橋反応を促進するため、空気恒温槽中で150℃2時間の熱処理を施し、セルロース繊維複合フィルムを作製した。
〔比較例6〕
特許文献1(特開2013−082796号公報)の[0079]段落に記載された実施例1と同様の方法でゲル状体を調製した。
なお、液状の有機媒体として用いたグリセリンは、下記表3中、低分子滑剤として記載する。
〔実施例33〕
特許文献1(特開2013−082796号公報)の[0079]段落に記載されたゲル前駆体を調製した。
この前駆体を用いて、下記表3に示す乾燥方法を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、セルロース繊維複合フィルムを作製した。
〔評価〕
作製した各セルロース繊維複合フィルムについて、TOF−SIMSを用いて上述した方法により強度を測定し、比率〔I(Lp)sur/I(Lp)max〕、比率〔I(Lp)/I(Cel)〕、および、比率〔I(Cro)/I(Cel)〕を測定した。これらの値を下記表3に示す。
また、以下に示す方法により、表面平滑性(表面性の評価)、破断伸度(靭性の評価)および弾性率、ならびに、電子配線基板得率を測定した。これらの結果を下記表3に示す。
なお、下記表3中、「空気面側」とは、塗膜の表面のうち基材と接していない側の表面をいい、「基材面側」とは、塗膜の表面のうち基材と接していた側の表面をいう。また、下記表3中、「空気面側/基材面側」と記載された項目における値(A/B)は、該当する項目について空気面側の値Aと基材面側の値Bとをそれぞれ表記したものである。
(1)表面平滑性(表面性の評価)
3次元表面構造解析顕微鏡(New View5022、Zygo社製)を用いて、以下の測定条件で、作製した各セルロース繊維複合フィルムの両面の算術平均粗さ(Ra)を測定した。
<測定条件>
・対物レンズ:2.5倍
・イメージズーム:1倍
(2)破断伸度および弾性率
作製した各セルロース繊維複合フィルムから1cm×10cmのサンプル片を切り出し、25℃相対湿度60%下で一晩調湿した後、この環境下で、チャック間:5cm、引張り速度:20%/分の条件にて引っ張り測定し、初期最大傾きを弾性率とし、破断したときの伸度を破断伸度とした。
この測定を切り出し方向が直交する2種のサンプル片で行い、各々の平均値を求めた。
(3)電子配線基板の作製
<有機半導体電子回路の形成>
作製した各セルロース繊維複合フィルム上に、以下に示すように基板保護層を積層し、図3に示す有機薄膜トランジスタ(ボトムゲート・ボトムコンタクト型)を作製した。
(基板保護層の形成)
各セルロース繊維複合フィルム上に、ポリ(4−ビニルフェノール)(SIGMA-ALDRICH社製、436216)を20質量%含有するPGMEA(プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセタート)溶液と、ポリ(メラミン−co−ホルムアルデヒド)(SIGMA-ALDRICH社製、418560)を10質量%含有するPGMEA溶液とを、体積比1:2で混合した塗布液を調製した。
この塗布液を、スピンコートによって基板S上に塗布した。
次いで、乾燥窒素雰囲気のホットプレート上で150℃で1時間、加熱することにより、厚さ0.5μmの基板保護層16を形成した。
(ゲート電極の形成)
基板保護層16の上に、クロムを真空蒸着により、厚さ80nmのクロム層を、マスクを通して成膜して、ゲート電極12を作製した。
(ゲート絶縁層の形成)
ポリ(4−ビニルフェノール)(SIGMA-ALDRICH社製、436216)を20質量%含有するPGMEA溶液と、ポリ(メラミン−co−ホルムアルデヒド)(SIGMA-ALDRICH社製、418560)を10質量%含有するPGMEA溶液とを、体積比1:2で混合した塗布液を調製した。
この塗布液を、スピンコートによってゲート電極12の上に塗布した。次いで、乾燥窒素雰囲気のホットプレート上で150℃で1時間、加熱することにより、厚さ0.5μmのゲート絶縁層13を形成した。
これにより、各セルロース繊維複合フィルムからなる基材11の上に、基板保護層16、ゲート電極12およびゲート絶縁層13を積層した積層体64を作製した。
(有機半導体層の形成)
有機半導体材料(TIPS−ペンタセン(Aldrich製))0.0531gをトルエン3mlに溶かし、2wt%溶液とし、溶液Lを調製した。これを積層体64上に、スピンコートで形成し、厚さ0.06μmの有機半導体層14を形成した。その後、ホットプレート80℃上で30分加熱し、溶媒を除去した。
(ソース・ドレイン電極の形成)
有機半導体層14の上に、金を真空蒸着により、厚さ50nmの金層を、マスクを通して成膜して、ソース・ドレイン電極15を作製した。
<有機半導体移動度>
有機薄膜トランジスタの各電極と、Agilent Technologies社製の4155Cに接続されたマニュアルプローバの各端子とを接続して、ドレイン電流−ゲート電圧(Id−Vg)特性を測定し、電界効果移動度(単位:cm2/(V・s))を算出した。なお、p型有機薄膜トランジスタはドレイン電圧(Vd)を−40Vに、n型有機薄膜トランジスタはドレイン電圧(Vd)を40Vに、それぞれ設定した。結果を下記表3に示す。許容される移動度は0.1cm2/V・s以上である。
<電子回路得率>
100個の電子回路素子を作製し、配線が切断し通電できなかった素子の割合(電子回路得率)を計測した。この評価結果を下記表3に示す。
電子配線基板得率が90%以上であったものを「AA」と評価し、80%以上90%未満であったものを「A」、65%以上80%未満であったものを「B」と評価し、50%以上65%未満であったものを「C」と評価し、50%未満であったものを「D」と評価した。
なお、有機半導体移動度および電子回路得率は、実施例31および32以外については、空気面側に形成した場合と、基材面側に形成した場合の平均値を示し、実施例31および32については、空気面側に形成した場合で評価した。
表3に示す通り、実施例1〜6および比較例1の結果から、低分子滑剤に由来する最大強度(I(Lp)max)と強度(I(Lp)sur)との比率〔I(Lp)sur/I(Lp)max〕が0以上0.8以下であると、優れた靭性を維持し、平面性が向上することが分かった。
また、実施例7〜11および比較例2〜3の結果から、低分子滑剤に由来する平均強度(I(Lp))とセルロース微細繊維に由来する平均強度(I(Cel))との比率〔I(Lp)/I(Cel)〕が0.05以上0.6未満であると、破断伸度および弾性率が高くなり、靭性が良好となることが分かった。
また、実施例12〜18の結果から、分子量が60以上400以下の低分子滑剤はいずれも効果があることが分かり、また、低分子滑剤の沸点が120〜400℃であると、セルロース繊維複合フィルムの靭性がより良好となり、平面性がより高くなることが分かった。
また、実施例19〜25の結果から、架橋剤に由来する平均強度(I(Cro))とセルロース微細繊維に由来する平均強度(I(Cel))との比率〔I(Cro)/I(Cel)〕0.2以上2以下であると、セルロース繊維複合フィルムの靭性がより良好となり、平面性がより高くなることが分かった。
また、実施例26〜30の結果から、セルロース繊維の平均繊維径が3〜50nmであると、セルロース繊維複合フィルムの靭性がより良好となり、平面性がより高くなることが分かった。
また、実施例31および32の結果から、片側(空気面側)の表面のみを乾燥させた場合は、基材面側の平面性が劣るため、電子配線基板得率が低下することが分かった。
また、比較例4および5の結果から、赤外線ヒーターおよび加熱熱ロールを用いて塗膜を乾燥した場合は、塗膜の内部温度と塗膜の表面温度に差が生じず、その結果、比率〔I(Lp)sur/I(Lp)max〕が0以上0.8以下にならず、靭性および平面性に劣ることが分かった。
また、特許文献1(特開2013−082796号公報)に相当する比較例6は、室温(25℃)で乾燥させているため、塗膜の内部温度と塗膜の表面温度に差が生じず、その結果、比率〔I(Lp)sur/I(Lp)max〕が0以上0.8以下にならず、靭性および平面性に劣ることが分かった。これに対し、比較例6と同様のゲル前駆体を用いて所定の乾燥工程を行った場合は、比率〔I(Lp)sur/I(Lp)max〕が0以上0.8以下となり、靭性および平面性がいずれも改善されることが分かった。
また、実施例で作製した複合フィルムを基板に用いた場合は、充分な移動度を示し、有機半導体回路として正常に動作することが確認できた。
一方、比較例で作製した複合フィルムを基板に用いた場合は、移動度が大きく低下し、有機半導体回路として動作しないことが分かった。これは、基板の表面凹凸や、脆性により基板表面に発生したクラック等の欠陥で、均質な有機半導体層が形成できず、移動度が低減したものと思われる。
11 基板
12 電極
13 絶縁体層
14 半導体活性層(有機半導体層)
15a、15b 電極
16 基板保護層
31 基板
32 電極
33 絶縁体層
34a、34b 電極
35 半導体活性層(有機半導体層)
64 積層体

Claims (11)

  1. セルロース繊維および低分子滑剤を含有するセルロース繊維複合フィルムであって、
    前記低分子滑剤の分子量が60以上400以下であり、
    飛行時間型二次イオン質量分析法で検出される前記低分子滑剤に由来するシグナルについて、フィルムの厚み方向における最大強度(I(Lp)max)と、フィルムの少なくとも一方の表面における強度(I(Lp)sur)との比が、下記式(1)を満たし、
    飛行時間型二次イオン質量分析法で検出される、前記低分子滑剤に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Lp))と、前記セルロース微細繊維に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cel))との比が、下記式(2)を満たす、セルロース繊維複合フィルム。
    0≦I(Lp)sur/I(Lp)max≦0.8 ・・・(1)
    0.05≦I(Lp)/I(Cel)<0.6 ・・・(2)
  2. 前記低分子滑剤の沸点が120℃以上400℃以下である、請求項1に記載のセルロース繊維複合フィルム。
  3. 更に、架橋剤に由来する架橋構造を有する、請求項1または2に記載のセルロース繊維複合フィルム。
  4. 前記架橋剤が、ジビニルスルホン、カルボジイミド、ジヒドラジン、ジヒドラジド、エピクロルヒドリン、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アミノ化合物、および、イソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載のセルロース繊維複合フィルム。
  5. 飛行時間型二次イオン質量分析法で検出される、前記架橋剤に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cro))と、前記セルロース微細繊維に由来するシグナルのフィルムの厚み方向における平均強度(I(Cel))との比が、下記式(3)を満たす、請求項3または4に記載のセルロース繊維複合フィルム。
    0.2≦I(Cro)/I(Cel)≦2 ・・・(3)
  6. 前記セルロース繊維の平均繊維径が3〜50nmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロース繊維複合フィルム。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロース繊維複合フィルムを有する基板と、前記基板上に設けられる配線回路とを有する、配線基板。
  8. 前記配線回路が、有機半導体を用いた回路である、請求項7に記載の配線基板。
  9. 請求項1に記載のセルロース繊維複合フィルムを作製するセルロース繊維複合フィルムの製造方法であって、
    少なくとも、セルロース繊維、分子量が60以上400以下の低分子滑剤および分散媒を含有するセルロース繊維含有溶液を基材上に塗工し、塗膜を形成する塗工工程と、
    前記塗膜を乾燥する乾燥工程と、を有し、
    前記乾燥工程が、前記塗膜の内部温度を前記塗膜の少なくとも一方の表面温度より1℃以上35℃以下低くして乾燥する工程である、セルロース繊維複合フィルムの製造方法。
  10. 前記塗膜工程と前記乾燥工程との間に、前記塗膜を半乾燥させる半乾燥工程を有し、
    前記半乾燥工程と前記乾燥工程との間に、半乾燥後の前記塗膜を前記基材から剥離する剥離工程を有する、請求項9に記載のセルロース繊維複合フィルムの製造方法。
  11. 前記セルロース繊維含有溶液が、架橋剤を含有し、
    前記剥離工程の後に、剥離後の前記塗膜を加熱して架橋する熱架橋工程を有する、請求項10に記載のセルロース繊維複合フィルムの製造方法。
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