本発明の積層塗膜は、前記したように、最表層の塗膜として親水性塗膜が形成された積層塗膜であり、前記親水性塗膜の下層を形成する塗膜の樹脂成分の原料として用いられる単量体成分が多官能単量体を含有する単量体成分であることを特徴とする。
本発明の積層塗膜の塗膜のうち、最表層は、親水性塗膜で形成されている。当該親水性塗膜の下層を形成する塗膜には、多官能単量体を含有する単量体成分を重合させることによって得られる樹脂成分が用いられている。前記下層を形成する塗膜の下には、さらに他の塗膜が形成されていてもよい。また、積層塗膜が形成される基材の表面にはシーラーが塗布されていてもよい。積層塗膜を構成する塗膜の総数は、親水性、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を形成するとともに、積層塗膜全体の厚さを小さくする観点から、好ましくは2〜10層、より好ましくは2〜8層、さらに好ましくは3〜8層である。
本発明の積層塗膜の最表層を構成する親水性塗膜の下層の塗膜に用いられる塗料としては、親水性塗膜との親和性を向上させる観点から、水性塗料が好ましい。
好適な水性塗料としては、例えば、多官能単量体を含有する単量体成分を乳化重合させることによって得られる樹脂エマルションを含有する塗料などが挙げられる。
前記樹脂エマルションは、多官能単量体を含有する単量体成分を乳化剤の存在下で乳化重合させることによって得られる。
多官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜10の多価アルコールのジ(メタ)アクリレート;エチレンオキシドの付加モル数が2〜50のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドの付加モル数が2〜50のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの炭素数2〜4のアルキレンオキシド基の付加モル数が2〜50であるアルキルジ(メタ)アクリレート;エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜10の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜10の多価アルコールのテトラ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタ(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜10の多価アルコールのペンタ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜10の多価アルコールのヘキサ(メタ)アクリレート;ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2−(2’−ビニルオキシエトキシエチル)(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレート;ウレタン(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの多官能単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
多官能単量体のなかでは、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性を向上させる観点から、水酸基を2個有するアルキル基の炭素数が4〜8のアルキルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシドの付加モル数が2〜50のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドの付加モル数が2〜50のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート、多価アルコールのテトラ(メタ)アクリレート、多価アルコールのペンタ(メタ)アクリレートおよび多価アルコールのヘキサ(メタ)アクリレートが好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシドの付加モル数が2〜50のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートがより好ましい。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」または「メタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
単量体成分における多官能単量体の含有率は、親水性を有する最表層を有しつつ、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた水性塗料を得る観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、さらに一層好ましくは10質量%以上である。また、単量体成分における多官能単量体の含有率は、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた水性塗料を得る観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、さらに一層好ましくは35質量%以下である。
多官能単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、芳香族系単量体、エチレン性不飽和基含有脂肪族系単量体などが挙げられ、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
芳香族系単量体としては、例えば、スチレン系単量体、アラルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、tert−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。スチレン系単量体は、ベンゼン環にメチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、ニトロ基、ニトリル基、アルコキシル基、アシル基、スルホン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子などの官能基が存在していてもよい。スチレン系単量体のなかでは、塗膜の耐水性を高める観点から、スチレンが好ましい。
アラルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、ナフチルメチル(メタ)アクリレートなどの炭素数が7〜18のアラルキル基を有するアラルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアラルキル(メタ)アクリレートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
エチレン性不飽和基含有脂肪族系単量体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、脂環構造を有する(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有単量体、オキソ基含有単量体、フッ素原子含有単量体、窒素原子含有単量体、エポキシ基含有単量体、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、シラン基含有単量体、カルボニル基含有単量体、アジリジニル基含有単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのエチレン性不飽和基含有脂肪族系単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのエステル基の炭素数が1〜18のアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
脂環構造を有する(メタ)アクリレートにおいて、脂環構造は、好ましくは炭素数が4〜20のシクロアルキル基、より好ましくは炭素数が4〜10のシクロアルキル基である。脂環構造を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロアルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキルアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの脂環構造を有する(メタ)アクリレートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。脂環構造を有する(メタ)アクリレートは、本発明の目的を阻害しない範囲内で置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、tert−ブチル基などのアルキル基、ニトロ基、ニトリル基、アルコキシル基、アシル基、スルホン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
シクロアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル基の炭素数が好ましくは4〜20、より好ましくは4〜10のシクロアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのシクロアルキル(メタ)アクリレートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
シクロアルキルアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、4−メチルシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル基の炭素数が好ましくは4〜20、より好ましくは4〜10のシクロアルキルアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのシクロアルキルアルキル(メタ)アクリレートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
脂環構造を有する(メタ)アクリレートのなかでは、親水性を有する最表層を有しつつ、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた水性塗料を得る観点から、炭素数が4〜20のシクロアルキル基を有するシクロアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数が4〜10のシクロアルキル基を有するシクロアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレートおよびシクロヘキシル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのエステル基の炭素数が1〜18の水酸基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの水酸基含有(メタ)アクリレートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、ビニル安息香酸などのカルボキシル基含有脂肪族系単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのカルボキシル基含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのカルボキシル基含有単量体のなかでは、エマルション粒子の分散安定性を向上させる観点から、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸がより好ましい。
オキソ基含有単量体としては、例えば、エチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレートなどの(ジ)エチレングリコール(メトキシ)(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのオキソ基含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
フッ素原子含有単量体としては、例えば、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどのエステル基の炭素数が2〜6のフッ素原子含有アルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのフッ素原子含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
窒素原子含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのアクリルアミド化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの窒素原子含有(メタ)アクリレート化合物、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの窒素原子含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
エポキシ基含有単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、α−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアリルエーテルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのエポキシ基含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリプロポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルコキシアルキル(メタ)アクリレートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
シラン基含有単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−スチリルエチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヒドロキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルヒドロキシシランなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのシラン基含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
カルボニル基含有単量体としては、例えば、アクロレイン、ホウミルスチロール、ビニルエチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロペナール、アセトニル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートアセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレートアセチルアセテート、2−(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのカルボニル基含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
アジリジニル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリロイルアジリジン、(メタ)アクリル酸2−アジリジニルエチルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアジリジニル基含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
単量体成分における多官能単量体と共重合可能な単量体の含有率は、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた水性塗料を得る観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、さらに一層好ましくは65質量%以上である。また、単量体成分における多官能単量体と共重合可能な単量体の含有率は、親水性を有する最表層を有しつつ、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた水性塗料を得る観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下、さらに一層好ましくは90質量%以下である。
なお、多官能単量体と共重合可能な単量体のなかでは、脂環構造を有する(メタ)アクリレートが好ましい。多官能単量体と脂環構造を有する(メタ)アクリレートと併用することにより、親水性を有する最表層を有しつつ、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を形成することができる。
多官能単量体と脂環構造を有する(メタ)アクリレートと併用する場合、両者を併用することによって親水性を有する最表層を有しつつ、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた水性塗料を得る観点から、多官能単量体と脂環構造を有する(メタ)アクリレートとの比(多官能単量体/脂環構造を有する(メタ)アクリレート:質量比)は、好ましくは1/99〜50/50、より好ましくは3/97〜45/55、さらに好ましくは5/95〜40/60、さらに一層好ましくは10/90〜35/65である。
また、単量体成分には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、多官能単量体および脂環構造を有する(メタ)アクリレート以外の他の単量体を含有させてもよい。この場合、単量体成分における前記他の単量体の含有率は、親水性を有する最表層を有しつつ、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた水性塗料を得る観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
単量体成分に多官能単量体および脂環構造を有する(メタ)アクリレート以外の単量体のなかでは、芳香族系単量体、およびアルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有単量体、オキソ基含有単量体、窒素原子含有単量体、エポキシ基含有単量体などのエチレン性不飽和単量体が好ましい。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
単量体成分に多官能単量体および脂環構造を有する(メタ)アクリレート以外の単量体のなかでは、親水性を有する最表層を有しつつ、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた水性塗料を得る観点から、アルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキル(メタ)アクリレートおよびアルキル基の炭素数が1〜4のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
また、本発明においては、エマルション粒子に紫外線安定性や紫外線吸収性を付与する観点から、本発明の目的が阻害されない範囲内で、紫外線安定性単量体、紫外線吸収性単量体などを単量体成分に含有させてもよい。
紫外線安定性単量体としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,6,6−テトラメチルピペリジル−4−シアノ−4−(メタ)アクリレート、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイル−1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
紫外線吸収性単量体としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、ベンゾフェノン系紫外線吸収性単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体としては、例えば、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−5−tert−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルアミノメチル−5’−tert−オクチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチル−3’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−シアノ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5′−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−tert−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−3’−tert−ブチルフェニル]−4−tert−ブチル−2H−ベンゾトリアゾールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
ベンゾフェノン系紫外線吸収性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]プロポキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのベンゾフェノン系紫外線吸収性単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
単量体成分を乳化重合させる方法としては、例えば、メタノールなどの低級アルコールなどの水溶性有機溶媒と水とを含む水性媒体、水などの媒体中に乳化剤を溶解させ、撹拌下で単量体成分および重合開始剤を滴下させる方法、乳化剤および水を用いてあらかじめ乳化させておいた単量体成分を水または水性媒体中に滴下させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる方法のみに限定されるものではない。なお、媒体の量は、得られる水性樹脂組成物に含まれる不揮発分量を考慮して適宜設定すればよい。媒体は、あらかじめ反応容器に仕込んでおいてもよく、あるいはプレエマルションとして使用してもよい。また、媒体は、必要により、単量体成分を乳化重合させ、樹脂エマルションを製造しているときに用いてもよい。
単量体成分を乳化重合させる際には、単量体成分、乳化剤および媒体を混合した後に乳化重合を行なってもよく、単量体成分、乳化剤および媒体を攪拌することによって乳化させ、プレエマルションを調製した後に乳化重合を行なってもよく、あるいは単量体成分、乳化剤および媒体のうちの少なくとも1種類とその残部のプレエマルションとを混合して乳化重合を行なってもよい。単量体成分、乳化剤および媒体は、それぞれ一括添加してもよく、分割添加してもよく、あるいは連続滴下してもよい。
前記で得られた樹脂エマルションに含まれているエマルション粒子上に外層を形成させる場合には、前記樹脂エマルション中で前記と同様にして単量体成分を乳化重合させることにより、前記エマルション粒子上に外層を形成させることができる。また、前記外層が形成されたエマルション粒子上にさらに外層を形成させる場合には、前記と同様にして樹脂エマルション中で単量体成分を乳化重合させることにより、前記エマルション粒子上にさらに外層を形成させることができる。このように多段乳化重合法により、多層構造を有するエマルション粒子を含有する樹脂エマルションを調製することができる。
なお、多層構造を有するエマルション粒子を調製する際、前記内層を形成する乳化重合を行なう前に1段または複数段の乳化重合を行なってもよく、前記内層を形成する乳化重合と前記中間層を形成する乳化重合との間に1段または複数段の乳化重合を行なってもよい。また、前記中間層を形成する乳化重合と前記外層を形成する乳化重合との間に1段または複数段の乳化重合を行なってもよい。さらに、前記外層を形成する乳化重合の後に1段または複数段の乳化重合を行なってもよい。
乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤などが挙げられ、これらの乳化剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
アニオン性乳化剤としては、例えば、アンモニウムドデシルサルフェート、ナトリウムドデシルサルフェートなどのアルキルサルフェート塩;アンモニウムドデシルスルホネート、ナトリウムドデシルスルホネート、ナトリウムアルキルジフェニルエーテルジスルホネートなどのアルキルスルホネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルホネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルホネートなどのアルキルアリールスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩;ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸−ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリレート、ナトリウムステアリレートなどの脂肪酸塩;ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレートスルホネート塩、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩などのアリル基を有する硫酸エステルまたはその塩;アリルオキシメチルアルコキシエチルポリオキシエチレンの硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの縮合物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、エチレンオキサイドと脂肪族アミンとの縮合生成物、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
カチオン性乳化剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライドなどのアルキルアンモニウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
両性乳化剤としては、例えば、ベタインエステル型乳化剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレートなどのポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;これらの重合体を構成する単量体のうちの1種類以上を共重合成分とする共重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
また、前記乳化剤として、耐温水白化性、耐凍結融解性および耐ブロッキング性に総合的に優れた水性樹脂組成物および水性塗料を得る観点から、重合性基を有する乳化剤、すなわち、いわゆる反応性乳化剤が好ましく、環境保護の観点から、非ノニルフェニル型の乳化剤が好ましい。
反応性乳化剤としては、例えば、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩〔例えば、三洋化成工業(株)製、商品名:エレミノールRS−30など〕、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルホネート塩〔例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS−10など〕、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩〔例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンKH−10など〕、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルホネート塩〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSE−10など〕、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR−10、SR−30など〕、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルホネート塩〔例えば、日本乳化剤(株)製、商品名:アントックスMS−60など〕、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープER−20など〕、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル〔例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンRN−20など〕、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン〔例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープNE−10など)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
乳化剤の量は、単量体成分100重量部あたり、重合安定性を向上させる観点から、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、さらに好ましくは2重量部以上、特に好ましくは3重量部以上であり、耐温水白化性、耐凍結融解性および耐ブロッキング性に総合的に優れた水性樹脂組成物および水性塗料を得る観点から、好ましくは10重量部以下、より好ましくは6重量部以下、さらに好ましくは5重量部以下、特に好ましくは4重量部以下である。
重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2―ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)などのアゾ化合物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、過酸化アンモニウムなどの過酸化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
重合開始剤の量は、単量体成分100重量部あたり、重合速度を高め、未反応の単量体成分の残存量を低減させる観点から、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上であり、耐温水白化性、耐凍結融解性および耐ブロッキング性に総合的に優れた水性樹脂組成物および水性塗料を得る観点から、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。
重合開始剤の添加方法は、特に限定されない。その添加方法としては、例えば、一括仕込み、分割仕込み、連続滴下などが挙げられる。また、重合反応の終了時期を早める観点から、単量体成分を反応系内に添加する終了前またはその終了後に、重合開始剤の一部を添加してもよい。
なお、重合開始剤の分解を促進するために、例えば、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤、硫酸第一鉄などの遷移金属塩などの重合開始剤の分解剤を反応系内に適量で添加してもよい。
また、エマルション粒子を構成している重合体の重量平均分子量を調整するために、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、tert−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトエタノール、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。連鎖移動剤の量は、エマルション粒子の重量平均分子量を調整する観点から、単量体成分100質量部あたり、0.01〜10質量部であることが好ましい。
また、反応系内には、必要により、pH緩衝剤、キレート剤、造膜助剤などの添加剤を添加してもよい。添加剤の量は、その種類によって異なるので一概には決定することができないが、通常、単量体成分100重量部あたり、好ましくは0.01〜5重量部程度、より好ましくは0.1〜3重量部程度である。
単量体成分を乳化重合させる際の雰囲気は、特に限定されないが、重合開始剤の効率を高める観点から、窒素ガスなどの不活性ガスであることが好ましい。
単量体成分を乳化重合させる際の重合温度は、特に限定がないが、通常、好ましくは50〜100℃、より好ましくは60〜95℃である。重合温度は、一定であってもよく、重合反応の途中で変化させてもよい。
単量体成分を乳化重合させる重合時間は、特に限定がなく、重合反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、通常、2〜9時間程度である。
なお、単量体成分を乳化重合させるとき、得られる重合体が有する酸性基の一部または全部が中和剤で中和されるようにしてもよい。中和剤は、最終段で単量体成分を添加した後に使用してもよく、例えば、1段目の重合反応と2段目の重合反応との間に使用してもよく、初期の乳化重合反応の終了時に使用してもよい。
中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸化物;アンモニア、モノメチルアミンなどの有機アミンなどのアルカリ性物質が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの中和剤のなかでは、耐温水性および耐温水密着性を向上させる観点から、アンモニアなどの揮発性を有するアルカリ性物質が好ましい。中和剤は、例えば、水溶液として用いることができる。
また、単量体成分を乳化重合させるとき、耐温水性および耐温水密着性を向上させる観点から、シランカップリング剤を適量で用いてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基などの重合性不飽和結合を有するシランカップリング剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
以上のようにして単量体成分を乳化重合させることにより、エマルション粒子を含有する樹脂エマルションが得られる。
エマルション粒子を構成する重合体は、架橋構造を有していてもよい。重合体の重量平均分子量は、重合体が架橋構造を有する場合および架橋構造を有しない場合のいずれの場合であっても、親水性を有する最表層を有しつつ、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を形成させる観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは30万以上、さらに好ましくは55万以上、特に好ましくは60万以上である。重合体の重量平均分子量の上限値は、架橋構造を有する場合、その重量平均分子量を測定することが困難なため、特に限定されないが、架橋構造を有しない場合には、塗膜の可撓性を向上させる観点から、500万以下であることが好ましい。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー〔東ソー(株)製、品番:HLC−8120GPC、カラム:TSKgel G−5000HXLとTSKgel GMHXL−Lとを直列に使用〕を用いて測定された重量平均分子量(ポリスチレン換算)を意味する。
以上のようにしてエマルション粒子が得られるが、当該エマルション粒子の表面上には、さらに樹脂層が形成されていることが好ましい。前記エマルション粒子の表面上に樹脂層が形成されている場合、前記エマルション粒子を構成する重合体がエマルション粒子の内層を形成し、前記樹脂層が外層を形成する。このように少なくとも内層および外層を有するエマルション粒子は、通常、多層構造を有するエマルション粒子と称されている。
多層構造を有するエマルション粒子は、内層として前記重合体からなるエマルション粒子を形成させた後、当該エマルション粒子の表面に外層として樹脂層を形成させることにより、得ることができる。
外層を形成する樹脂のガラス転移温度は、親水性、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を得る観点から、40℃以下であることが好ましい。
外層を形成する樹脂は、前記で得られたエマルション粒子の存在下で、外層用単量体成分を乳化重合させることによって得ることができる。なお、外層用単量体成分を乳化重合させる際には、内層を構成する重合体の重合反応率が90%以上、好ましくは95%以上に到達した後に外層用単量体成分を乳化重合させることが、エマルション粒子内で層分離構造を形成させる観点から好ましい。
なお、内層を形成させた後、外層を形成させる前に、本発明の目的が阻害されない範囲内で、必要により、他の重合体からなる層が形成されていてもよい。したがって、本発明においては、内層を形成させた後、外層を形成させる前に、本発明の目的が阻害されない範囲内で、必要により、他の重合体からなる層が含まれていてもよい。
外層用単量体成分は、得られる重合体のガラス転移温度が40℃以下となる組成を有することが好ましい。
外層用単量体成分に用いられる単量体としては、前記芳香族系単量体、前記アルキル(メタ)アクリレート、前記水酸基含有(メタ)アクリレート、前記カルボキシル基含有単量体、前記オキソ基含有単量体、前記フッ素原子含有単量体、前記窒素原子含有単量体、前記エポキシ基含有単量体、前記アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、前記シラン基含有単量体、前記カルボニル基含有単量体、前記アジリジニル基含有単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
外層用単量体成分は、親水性、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を得る観点から、カルボキシル基含有単量体を含有することが好ましい。カルボキシル基含有単量体としては、前記単量体成分に用いられるカルボキシル基含有単量体と同様のものを例示することができる。カルボキシル基含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。カルボキシル基含有単量体のなかでは、エマルション粒子の分散安定性を向上させる観点から、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸がより好ましい。
外層用単量体成分におけるカルボキシル基含有単量体の含有量は、親水性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、親水性を有する最表層を有しつつ、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
カルボキシル基含有単量体と共重合可能な単量体のなかでは、親水性を有する最表層を有しつつ、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を形成させる観点から、アルキル(メタ)アクリレートおよび水酸基含有(メタ)アクリレートが好ましく、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートおよび2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
外層用単量体成分におけるカルボキシル基含有単量体と共重合可能な単量体の含有量は、親水性、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を形成させる観点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、塗膜の親水性を向上させる観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
外層用単量体成分を乳化重合させる方法および重合条件は、前記エマルション粒子の内層を構成する単量体成分を乳化重合させる方法および重合条件と同様であればよい。
以上のようにして外層用単量体成分を乳化重合させることにより、少なくとも内層および外層を有するエマルション粒子を得ることができる。なお、外層の表面上には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、必要により、他の重合体からなる表面層がさらに形成されていてもよい。
外層を形成する重合体は、架橋構造を有していてもよい。外層を形成する重合体の重量平均分子量は、外層を形成する重合体が架橋構造を有する場合および架橋構造を有しない場合のいずれの場合であっても、親水性、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を形成させる観点から、好ましくは1万以上、より好ましくは10万以上、さらに好ましくは30万以上、特に好ましくは50万以上である。外層を形成する重合体の重量平均分子量の上限値は、架橋構造を有する場合、その重量平均分子量を測定することが困難なため、特に限定されないが、架橋構造を有しない場合には、親水性に優れた積層塗膜を形成させる観点から、500万以下であることが好ましい。
内層を構成する重合体のガラス転移温度は、耐温水性および耐透水性を向上させる観点から、好ましく70℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上であり、耐温水密着性を向上させる観点から、好ましくは200℃以下である。内層を構成する重合体のガラス転移温度は、単量体成分に使用される単量体の組成を調整することにより、容易に調節することができる。
内層を構成する重合体に用いられる単量体成分におけるガラス転移温度が80℃以上の単量体の含有率は、親水性、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を形成させる観点から、80質量%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。なお、本願明細書において、「ガラス転移温度が80℃以上の単量体」は、その単量体からなる単独重合体のガラス転移温度が80℃以上である単量体を意味する。ガラス転移温度が80℃以上の単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
外層を形成する重合体のガラス転移温度は、耐温水密着性を向上させる観点から、40℃以下、好ましくは35℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。なお、外層を形成する重合体のガラス転移温度は、耐温水性および耐透水性に優れた積層塗膜を形成させる観点から、好ましくは−40℃以上、より好ましくは−25℃以上、さらに好ましくは−10℃以上である。外層を形成する重合体のガラス転移温度は、外層用単量体成分に使用される単量体の組成を調整することにより、容易に調節することができる。
エマルション粒子全体のガラス転移温度は、耐温水性を向上させる観点から、好ましくは−15℃以上、より好ましくは−10℃以上、さらに好ましくは−5℃以上であり、耐透水性および耐温水密着性を向上させる観点から、好ましくは60℃以下、より好ましくは55℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。
なお、本明細書において、重合体のガラス転移温度は、当該重合体を構成する単量体成分に使用されている単量体の単独重合体のガラス転移温度を用いて、式:
1/Tg=Σ(Wm/Tgm)/100
〔式中、Wmは重合体を構成する単量体成分における単量体mの含有率(質量%)、Tgmは単量体mの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度:K)を示す〕
で表されるフォックス(Fox)の式に基づいて求められた温度を意味する。
重合体のガラス転移温度は、例えば、2−エチルヘキシルアクリレートの単独重合体では−70℃、n−ブチルメタクリレートの単独重合体では20℃、メチルメタクリレートの単独重合体では105℃、スチレンの単独重合体では100℃、シクロヘキシルメタクリレートの単独重合体では83℃、tert−ブチルメタクリレートの単独重合体では107℃、イソボルニルメタクリレートの単独重合体では180℃、ヒドロキシエチルメタクリレートの単独重合体では55℃、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの単独重合体では130℃、アクリル酸の単独重合体では95℃である。
本明細書においては、重合体のガラス転移温度は、特に断りがない限り、前記式に基づいて求められたガラス転移温度を意味する。なお、特殊単量体、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能単量体などのようにガラス転移温度が不明の単量体については、単量体成分における当該ガラス転移温度が不明の単量体の合計量が10質量%以下である場合には、ガラス転移温度が判明している単量体のみを用いてガラス転移温度が求められる。単量体成分におけるガラス転移温度が不明の単量体の合計量が10質量%を超える場合には、重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量分析(DSC)、示差熱量分析(DTA)、熱機械分析(TMA)などによって求められる。
内層を構成する重合体と外層を形成する重合体との重量比〔内層を構成する重合体/外層を形成する重合体〕は、親水性、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を形成させる観点から、好ましくは25/75以上、より好ましくは35/65以上であり、好ましくは75/25以下、より好ましくは65/35以下である。
エマルション粒子における内層を構成する重合体と外層を形成する重合体との合計含有量は、親水性、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れた積層塗膜を形成させる観点から、50質量%以上、好ましくは65質量%以上であり、エマルション粒子における内層を構成する重合体と外層を形成する重合体との合計含有量が多いほど好ましく、その上限値は100質量%である。
樹脂エマルションにおける不揮発分量は、生産性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
なお、本明細書において、樹脂エマルションにおける不揮発分量は、樹脂エマルション1gを秤量し、熱風乾燥機で110℃の温度で1時間乾燥させ、得られた残渣を不揮発分とし、式:
〔樹脂エマルションにおける不揮発分量(質量%)〕
=(〔残渣の質量〕÷〔樹脂エマルション1g〕)×100
に基づいて求められた値を意味する。
エマルション粒子の平均粒子径は、エマルション粒子の貯蔵安定性を向上させる観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上、さらに好ましくは50nm以上であり、耐凍結融解性を向上させる観点から、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下である。
なお、本明細書において、エマルション粒子の平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定器〔パーティクル・サイジング・システムズ(Particle Sizing Systems)社製、商品名:NICOMP Model 380)を用いて測定された体積平均粒子径を意味する。
前記樹脂エマルションには、さらに架橋剤を含有させることにより、架橋性を付与することができる。架橋剤としては、常温で架橋反応を開始するものであってもよく、熱により架橋反応を開始するものであってもよい。樹脂エマルションに架橋剤を含有させることにより、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性を向上させることができる。
好適な架橋剤としては、例えば、オキサゾリン基含有化合物、ヒドラジン化合物、イソシアネート基含有化合物、アミノプラスト樹脂などが挙げられる。これらの架橋剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの架橋剤のなかでは、耐温水性、耐透水性および耐温水密着性を向上させる観点から、オキサゾリン基含有化合物が好ましい。
オキサゾリン基含有化合物は、単量体成分として用いられるカルボキシル基含有単量体が官能基として有するカルボキシル基と反応し得るオキサゾリン基を分子中に2個以上有する化合物である。
オキサゾリン基含有化合物としては、例えば、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレン−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド、オキサゾリン環含有重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのオキサゾリン基含有化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。オキサゾリン基含有化合物のなかでは、反応性を向上させる観点から、水溶性のオキサゾリン基含有化合物が好ましく、水溶性のオキサゾリン環含有重合体がより好ましい。
オキサゾリン環含有重合体は、付加重合性オキサゾリンを必須成分として含み、必要に応じて付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体を含む単量体成分を重合させることにより、容易に調製することができる。
付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの付加重合性オキサゾリンは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの付加重合性オキサゾリンのなかでは、入手が容易であることから、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが好ましい。
付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物、2−アミノエチル(メタ)アクリレートおよびその塩、(メタ)アクリル酸のカプロラクトン変性物、(メタ)アクリル酸−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、(メタ)アクリル酸−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジンなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムなどの(メタ)アクリル酸塩;(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどの不飽和アミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどのハロゲン含有α,β−不飽和脂肪族炭化水素化合物;スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウムなどのα,β−不飽和芳香族炭化水素化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
オキサゾリン基含有化合物は、例えば、(株)日本触媒製、商品名:エポクロスWS−500、エポクロスWS−700、エポクロスK−2010、エポクロスK−2020、エポクロスK−2030などとして商業的に容易に入手することができる。これらのなかでは、反応性を向上させる観点から、(株)日本触媒製、商品名:エポクロスWS−500、エポクロスWS−700などの水溶性を有するオキサゾリン基含有化合物が好ましい。
ヒドラジン化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどのジカルボン酸のジヒドラジドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものでナトリウムはない。これらのなかでは、アジピン酸ジヒドラジドが好ましい。
イソシアネート基含有化合物は、単量体成分として用いられる水酸基含有単量体が官能基として有する水酸基と反応し得るイソシアネート基を含有する化合物である。
イソシアネート基含有化合物としては、例えば、水分散型(ブロック)ポリイソシアネートなどが挙げられる。なお、(ブロック)ポリイソシアネートとは、ポリイソシアネートおよび/またはブロックポリイソシアネートを意味する。
水分散型ポリイソシアネートとしては、例えば、ポリエチレンオキシド鎖によって親水性が付与されたポリイソシアネートをアニオン性分散剤またはノニオン性分散剤で水に分散させたものなどが挙げられる。
ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのジイソシアネート;これらのジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ビューレット体、イソシアヌレート体などのポリイソシアネートの誘導体(変性物)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのポリイソシアネートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
水分散型ポリイソシアネートは、例えば、日本ポリウレタン工業(株)製、商品名:アクアネート100、アクアネート110、アクアネート200、アクアネート210など;住化バイエルウレタン(株)製、商品名:バイヒジュールTPLS−2032、SUB−イソシアネートL801など;三井武田ケミカル(株)製、商品名:タケネートWD−720、タケネートWD−725、タケネートWD−220など;大日精化工業(株)製、商品名:レザミンD−56などとして商業的に容易に入手することができる。
水分散型ブロックポリイソシアネートは、水分散型ポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化剤でブロックさせたものである。ブロック化剤としては、例えば、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、ε−カプロラクタム、ブタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、1,2,4−トリアゾール、ジメチル−1,2,4−トリアゾール、3,5−ジメチルピラゾール、イミダゾールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのブロック化剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのブロック化剤なかでは、160℃以下の温度、好ましくは150℃以下の温度で開裂するものが望ましい。好適なブロック化剤としては、例えば、ブタノンオキシム、シクロへキサノンオキシム、3,5−ジメチルピラゾールなどが挙げられる。これらのなかでは、ブタノンオキシムがより好ましい。
水分散型ブロックポリイソシアネートは、例えば、三井武田ケミカル(株)製、商品名:タケネートWB−720、タケネートWB−730、タケネートWB−920など;住化バイエルウレタン(株)製、商品名:バイヒジュールBL116、バイヒジュールBL5140、バイヒジュールBL5235、バイヒジュールTPLS2186、デスモジュールVPLS2310などとして商業的に容易に入手することができる。
アミノプラスト樹脂は、メラミン、グアナミンなどのアミノ基を有する化合物とホルムアルデヒドとの付加縮合物であり、アミノ樹脂とも呼ばれている。
アミノプラスト樹脂としては、例えば、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン、完全アルキル型メチル化メラミン、完全アルキル型ブチル化メラミン、完全アルキル型イソブチル化メラミン、完全アルキル型混合エーテル化メラミン、メチロール基型メチル化メラミン、イミノ基型メチル化メラミン、メチロール基型混合エーテル化メラミン、イミノ基型混合エーテル化メラミンなどのメラミン樹脂;ブチル化ベンゾグアナミン、メチル/エチル混合アルキル化ベンゾグアナミン、メチル/ブチル混合アルキル化ベンゾグアナミン、ブチル化グリコールウリルなどのグアナミン樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアミノプラスト樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
アミノプラスト樹脂は、例えば、三井サイテック(株)製、商品名:マイコート506、マイコート1128、サイメル232、サイメル235、サイメル254、サイメル303、サイメル325、サイメル370、サイメル771、サイメル1170などとして商業的に容易に入手することができる。
アミノプラスト樹脂の量は、通常、エマルション粒子に含まれている重合体の固形分とアミノプラスト樹脂の固形分との重量比〔重合体の固形分/アミノプラスト樹脂の固形分〕が60/40〜99/1となるように調整することが好ましい。
なお、本発明においては、前記した架橋剤以外にも、例えば、カルボジイミド化合物;ジルコニウム化合物、亜鉛化合物、チタニウム化合物、アルミニウム化合物などに代表される多価金属化合物などの架橋剤を本発明の目的が阻害されない範囲内で用いることができる。
前記樹脂エマルションには、必要により、顔料を含有させることができる。顔料としては、有機顔料および無機顔料が挙げられ、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
有機顔料としては、例えば、ベンジジン、ハンザイエローなどのアゾ顔料、アゾメチン顔料、メチン顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニンブルーなどのフタロシアニン顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イミノイソインドリン顔料、イミノイソインドリノン顔料、キナクリドンレッドやキナクリドンバイオレットなどのキナクリドン顔料、フラバントロン顔料、インダントロン顔料、アントラピリミジン顔料、カルバゾール顔料、モノアリーライドイエロー、ジアリーライドイエロー、ベンゾイミダゾロンイエロー、トリルオレンジ、ナフトールオレンジ、キノフタロン顔料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、三酸化アンチモン、亜鉛華、リトポン、鉛白、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化鉄、酸化クロムグリーン、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、フェロシアン化第二鉄(プルシアンブルー)、ウルトラマリン、クロム酸鉛などをはじめ、雲母(マイカ)、クレー、アルミニウム粉末、タルク、ケイ酸アルミニウムなどの扁平形状を有する顔料、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどの体質顔料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの無機顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
樹脂エマルションの不揮発分100重量部あたりの顔料の量は、耐ブロッキング性を向上させる観点から、好ましくは20重量部以上、より好ましくは40重量部以上であり、耐凍結融解性を向上させる観点から、好ましくは190重量部以下である。
なお、前記樹脂エマルションには、本発明の目的が阻害されない範囲内で、当該樹脂エマルション以外の他の樹脂エマルションが含まれていてもよい。
また、前記水性塗料には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、充填剤、レベリング剤、pH調整剤、分散剤、増粘剤、湿潤剤、可塑剤、安定剤、消泡剤、防腐剤、染料、酸化防止剤などの添加剤が適量で含まれていてもよい。
本発明においては、前記のように構成される樹脂エマルションを下層の塗膜を形成するための水性塗料として用いることができる。
下層の塗膜に用いられる塗料は、前記水性塗料に艶消し剤を含有させることにより、艶消し塗料として用いることができる。
艶消し塗料は、例えば、前記水性塗料と艶消し剤とを混合することによって調製することができる。
艶消し剤としては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、炭酸マグネシウム、タルクなどの無機系艶消し剤、ポリエチレン微粒子、ポリプロピレン微粒子、ポリウレタン微粒子、ポリメタクリル酸メチル微粒子、ポリカーボネート微粒子、尿素ホルムアルデヒド樹脂微粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂微粒子、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド樹脂微粒子、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン微粒子などの有機系艶消し剤が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。艶消し剤は、例えば、(株)日本触媒製、商品名:エポスターL15、MS、M30、MA1010、S、S6、S12などとして商業的に容易に入手することができる。
艶消し剤の粒子径は、塗料中で均一に分散させるとともに平滑な塗膜を形成する観点から、通常、2〜50μmの範囲内にあることが好ましい。
前記艶消し塗料の不揮発分100質量部あたりの艶消し剤の量は、本発明の積層塗膜の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該積層塗膜の用途などに応じて適宜調整することが好ましいが、通常、5〜40質量部程度である。
本発明においては、前記水性塗料から形成される塗膜および/または前記艶消し塗料から形成される塗膜を形成させた後、最表層の塗膜として親水性塗膜を形成させることにより、積層塗膜を製造することができる。その際、最表層の親水性塗膜の下層に形成される塗膜は、前記水性塗料から形成される塗膜のみであってもよく、前記艶消し塗料から形成される塗膜のみであってもよく、あるいは前記水性塗料から形成される塗膜と前記艶消し塗料から形成される塗膜との積層塗膜であってもよい。
なお、艶消し塗膜を形成させる前に、前記水性塗料を基材に塗布することによって塗膜を形成させておくことが、耐温水性、耐透水性、耐候性および温水凍結安定性に総合的に優れた積層塗膜を形成させる観点から好ましい。
前記水性塗料または前記艶消し塗料を基材の表面上に塗布する方法としては、例えば、刷毛、コテ、バーコーター、アプリケーター、エアスプレー、エアレススプレー、ロールコーター、フローコーターなどを用いた塗布方法が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
基材に塗布される水性塗料および前記艶消し塗料の各塗布量は、最表層の塗膜が親水性塗膜で形成されていても耐温水性、耐透水性、耐候性および温水凍結安定性に総合的に優れた積層塗膜を形成させる観点から、通常、それぞれ不揮発分量で20〜200g/m2程度であることが好ましい。
形成された塗膜の乾燥条件は、塗料に使用されている溶媒を十分に蒸散させることができればよく、塗料に使用される溶媒の種類、量などによって異なるので一概には決定することができない。通常、塗膜は、好ましくは50〜150℃、より好ましくは60〜120℃の温度に加熱することによって乾燥させればよい。なお、乾燥時間は、塗膜が十分に乾燥すればよく、特に限定されない。
積層塗膜を形成する際に用いられる基材としては、例えば、窯業系建材などの建材に代表される基材などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
窯業系建材としては、例えば、瓦、外壁材などが挙げられる。窯業系建材は、無機質硬化体の原料となる水硬性膠着材に無機充填剤、繊維質材料などを添加し、得られた混合物を成形し、得られた成形体を養生し、硬化させることによって得られる。建築物の外装を構成する無機質建材としては、例えば、フレキシブルボード、珪酸カルシウム板、石膏スラグパーライト板、木片セメント板、プレキャストコンクリート板、ALC板、石膏ボードなどが挙げられる。これらの建材の表面には、通常、所望の意匠を付与するために、上塗り材(水性塗料)が塗布されている。前記塗料は、この上塗り材(水性塗料)として用いることができる。
なお、基材の表面には、必要により、例えば、プライマー処理やシーラー処理などがあらかじめ施されていてもよい。
次に、最表層の塗膜として親水性塗膜を形成させる。ここで、親水性塗膜は、水との接触角が50°以下である塗膜を意味する。親水性塗膜の水との接触角は、例えば、接触角測定装置〔協和界面科学(株)製、商品名:FACE接触角計CA−X型〕などを用いて測定することができる。親水性塗膜の水との接触角は、積層塗膜を窯業系建材などの建材に代表される基材に親水性を十分に付与する観点から、40°以下であることが好ましい。
親水性塗膜を形成させる際には、親水性塗料を用いることができる。親水性塗料は、最表層の塗膜として親水性の塗膜を形成するものであればよく、特に限定されない。親水性塗料としては、例えば、アクリル系親水性塗料、セルロース系親水性塗料、ポリウレタン系親水性塗料、ポリエステル系親水性塗料、ポリエーテルポリオール系親水性塗料、ポリアミド系親水性塗料、エポキシ樹脂系親水性塗料、無機系親水性塗料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの親水性塗料のなかでは、少量で効率よく親水性を付与する観点から、界面活性剤、コロイダルシリカなどのコロイド溶液、アルミナゾルなどを含有する無機系親水性塗料が好ましい。
親水性塗料の塗布量は、最表層の塗膜が親水性塗膜で形成されていても耐温水性、耐透水性、耐候性および温水凍結安定性に総合的に優れた積層塗膜を形成させる観点から、通常、不揮発分量で0.2〜20g/m2程度であることが好ましい。
形成された最表層の塗膜の乾燥条件は、親水性塗料に使用されている溶媒を十分に蒸散させることができればよく、親水性塗料に使用される溶媒の種類、量などによって異なるので一概には決定することができない。通常、塗膜は、好ましくは50〜150℃、より好ましくは60〜120℃の温度に加熱することによって乾燥させればよい。なお、乾燥時間は、塗膜が十分に乾燥すればよく、特に限定されない。
以上のようにして積層塗膜を製造することができる。得られた積層塗膜は、最表層の塗膜として親水性塗膜が形成されているにもかかわらず、親水性、耐温水性、耐透水性、耐候性および耐温水密着性に総合的に優れている。したがって、本発明の積層塗膜は、例えば、窯業系建材などの建材に代表される基材などに好適に使用することができる。
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特に断りがない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
製造例1
滴下ロート、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に、脱イオン水656部を仕込んだ。滴下ロートに、脱イオン水440部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンBC−10〕の25%水溶液80部、乳化剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR−10〕の25%水溶液80部、2−エチルヘキシルアクリレート300部、n−ブチルメタクリレート200部、メチルメタクリレート380部、スチレン100部、ヒドロキシエチルメタクリレート10部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製し、そのうち全単量体成分の総量の5%にあたる80部をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、5%過硫酸アンモニウム水溶液14部を添加し、重合を開始した。その後、滴下用プレエマルションの残部と5%過硫酸アンモニウム水溶液86部と5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液60部を240分間にわたり均一にフラスコ内に滴下した。
滴下終了後、フラスコの内容物を80℃で60分間維持し、25%アンモニア水を添加することによってpHを8に調整し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却した後、300メッシュ(JISメッシュ、以下同じ)の金網で濾過することにより、樹脂エマルションを調製した。この樹脂エマルションにおける不揮発分の含有率は43%であり、樹脂エマルションに含まれているエマルション粒子を構成している樹脂のガラス転移温度は13℃であった。
製造例2
滴下ロート、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に、脱イオン水656部を仕込んだ。滴下ロートに、脱イオン水440部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンBC−10〕の25%水溶液80部、乳化剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR−10〕の25%水溶液80部、2−エチルヘキシルアクリレート300部、n−ブチルメタクリレート200部、メチルメチクリレート330部、スチレン100部、ヒドロキシエチルメタクリレート10部、エチレングリコールジメタクリレート50部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製し、そのうち全単量体成分の総量の5%にあたる80部をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、5%過硫酸アンモニウム水溶液14部を添加し、重合を開始した。その後、滴下用プレエマルションの残部と5%過硫酸アンモニウム水溶液86部と5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液60部を240分間にわたり均一にフラスコ内に滴下した。
滴下終了後、フラスコの内容物を80℃で60分間維持し、25%アンモニア水を添加することによってpHを8に調整し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却した後、300メッシュの金網で濾過することにより、樹脂エマルションを調製した。この樹脂エマルションにおける不揮発分の含有率は43%であり、樹脂エマルションに含まれているエマルション粒子を構成している樹脂のガラス転移温度は9℃であった。
製造例3
滴下ロート、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に、脱イオン水656部を仕込んだ。滴下ロートに、脱イオン水440部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンBC−10〕の25%水溶液80部、乳化剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR−10〕の25%水溶液80部、2−エチルヘキシルアクリレート300部、n−ブチルメタクリレート200部、シクロヘキシルメタクリレート500部、ヒドロキシエチルメタクリレート10部、エチレングリコールジメタクリレート50部、トリメチロールプロパントリメタクリレート50部およびアクリル酸10部からなる滴下用プレエマルションを調製し、そのうち全単量体成分の総量の5%にあたる80部をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、5%過硫酸アンモニウム水溶液14部を添加し、重合を開始した。その後、滴下用プレエマルションの残部と5%過硫酸アンモニウム水溶液86部と5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液60部を240分間にわたり均一にフラスコ内に滴下した。
滴下終了後、フラスコの内容物を80℃で60分間維持し、25%アンモニア水を添加することによってpHを8に調整し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却した後、300メッシュの金網で濾過することにより、樹脂エマルションを調製した。この樹脂エマルションにおける不揮発分の含有率は43%であり、樹脂エマルションに含まれているエマルション粒子を構成している樹脂のガラス転移温度は21℃であった。
製造例4
滴下ロート、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に、脱イオン水656部を仕込んだ。滴下ロートに、脱イオン水220部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンBC−10〕の25%水溶液80部、2−エチルヘキシルアクリレート100部、n−ブチルメタクリレート100部、シクロヘキシルメタクリレート200部、エチレングリコールジメタクリレート50部およびトリメチロールプロパントリメタクリレート50部からなる滴下用プレエマルションを調製し、そのうち全単量体成分の総量の5%にあたる80部をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、5%過硫酸アンモニウム水溶液14部を添加し、重合を開始した。その後、滴下用プレエマルションの残部と5%過硫酸アンモニウム水溶液43部と5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液30部を120分間にわたり均一にフラスコ内に滴下した。
滴下終了後、フラスコの内容物を80℃で60分間維持し、引き続いて脱イオン水220部、乳化剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR−10〕の25%水溶液80部、2−エチルヘキシルアクリレート80部、n−ブチルメタクリレート100部、シクロヘキシルメタクリレート300部、ヒドロキシエチルメタクリレート10部およびアクリル酸10部からなる2段目用プレエマルションを調製し、5%過硫酸アンモニウム水溶液43部および5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液30部を120分間にわたり均一にフラスコ内に滴下した。
滴下終了後、フラスコの内容物を80℃で60分間維持し、25%アンモニア水を添加することによってpHを8に調整し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却した後、300メッシュの金網で濾過することにより、樹脂エマルションを調製した。この樹脂エマルションにおける不揮発分の含有率は43%であり、樹脂エマルションに含まれているエマルション粒子を構成している樹脂のガラス転移温度は21℃であった。
製造例5
滴下ロート、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に、脱イオン水656部を仕込んだ。滴下ロートに、脱イオン水440部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンBC−10〕の25%水溶液80部、乳化剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR−10〕の25%水溶液80部、2−エチルヘキシルアクリレート400部、n−ブチルアクリレート130部、シクロヘキシルメタクリレート150部、tert−ブチルメタクリレート100部、イソボルニルメタクリレート100部、ヒドロキシエチルメタクリレート10部、エチレングリコールジメタクリレート50部、トリメチロールプロパントリメタクリレート50部および4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン10部からなる滴下用プレエマルションを調製し、そのうち全単量体成分の総量の5%にあたる80部をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、5%過硫酸アンモニウム水溶液14部を添加し、重合を開始した。その後、滴下用プレエマルションの残部と5%過硫酸アンモニウム水溶液86部と5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液60部を240分間にわたり均一にフラスコ内に滴下した。
滴下終了後、フラスコの内容物を80℃で60分間維持し、25%アンモニア水を添加することによってpHを8に調整し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却した後、300メッシュの金網で濾過することにより、樹脂エマルションを調製した。この樹脂エマルションにおける不揮発分の含有率は43%であり、樹脂エマルションに含まれているエマルション粒子を構成している樹脂のガラス転移温度は−5℃であった。
〔1層目用塗料Aの製造例〕
各製造例で得られた樹脂エマルション100部に成膜助剤としてブチルセロソルブ5部および2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート〔チッソ(株)製、品番:CS−12〕5部を添加し、さらに水21.5部および25%アンモニア水0.5部を添加し、ホモディスパーで回転速度1500min-1にて30分間撹拌した後、調製例で得られた白色ペースト30部および消泡剤〔サンノプコ(株)製、商品名:ノプコ8034L〕0.5部を添加し、クレーブス単位粘度計〔ブルックフィールド社製、品番:KU−1〕を用いて25℃で測定したときの粘度が61KUとなるように増粘剤〔(株)日本触媒製、商品名:アクリセットWR−503A〕を添加し、その状態で30分間撹拌することにより、塗料Aを調製した。
なお、製造例1〜5で得られた樹脂エマルションを用いることによって得られた塗料Aは、それぞれ順に、塗料A1〜A5と称する。
〔2層目用塗料Bの製造例〕
各製造例で得られた樹脂エマルション100部に成膜助剤としてブチルセロソルブ5部および2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート〔チッソ(株)製、品番:CS−12〕5部を添加し、さらに水21.5部および25%アンモニア水0.5部および樹脂微粒子〔(株)日本触媒製、商品名:エポスターMA1010〕5部を添加し、クレーブス単位粘度計〔ブルックフィールド社製、品番:KU−1〕を用いて25℃で測定したときの粘度が61KUとなるように増粘剤〔(株)日本触媒製、商品名:アクリセットWR−503A〕を添加し、その状態でホモディスパーを用いて回転速度1500min-1にて30分間撹拌することにより、塗料Bを調製した。
なお、製造例1〜5で得られた樹脂エマルションを用いることによって得られた塗料Bは、それぞれ順に、塗料B1〜B5と称する。
〔3層目用塗料Cの製造例〕
滴下ロート、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に、脱イオン水780部を仕込んだ。滴下ロートに、脱イオン水417部、乳化剤〔第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンBC−10〕の25%水溶液120部、n−ブチルアクリレート400部、メチルメタクリレート530部、ヒドロキシエチルメタクリレート30部、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン10部およびアクリル酸30部からなる滴下用プレエマルションを調製し、そのうち全単量体成分の総量の5%にあたる154部をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら70℃まで昇温し、5%過硫酸アンモニウム水溶液10部を添加し、重合を開始した。その後、滴下用プレエマルションの残部と5%過硫酸アンモニウム水溶液30部と5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液20部を240分間にわたり均一にフラスコ内に滴下した。
滴下終了後、フラスコの内容物を70℃で60分間維持し、25%アンモニア水を添加することによってpHを7に調整し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却した後、300メッシュの金網で濾過することにより、樹脂エマルションを調製した。この樹脂エマルションにおける不揮発分の含有率は43%であった。
次に、前記で得られた樹脂エマルション8部に、成膜助剤としてブチルセロソルブ3.5部を添加し、さらに水1000部、アニオン性界面活性剤〔(株)ADEKA製、商品名:アデカコールEC−8600〕1部およびコロイド溶液〔日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスC〕100部を添加し、ホモディスパーで回転速度1000min-1にて30分間撹拌することにより、塗料C(水性塗料)を調製した。
実施例1
スレート板〔日本テストパネル(株)製、縦:70mm、横:150mm、厚さ:6mm〕に、シーラー〔エスケー化研(株)製、商品名:EXシーラー〕をエアスプレーで150/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させた。
次に、形成された塗膜上に、1層目の塗膜を形成させるために、塗料A1をエアスプレーで150g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させることにより、1層目の塗膜を形成させた。その後、前記で形成された1層目の塗膜上に、塗料B2をエアスプレーで100g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で20分間乾燥させることにより、2層目の塗膜を形成させた。さらに、前記で形成された2層目の塗膜上に、塗料Cをエアスプレーで5g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で1分間乾燥させ、最表層の塗膜を形成させることにより、積層塗膜が形成された試験板を作製した。
前記で得られた試験板に形成された積層塗膜の物性を以下の方法に基づいて調べた。その結果を表1に示す。
〔親水性〕
試験板の塗膜表面の水の接触角を接触角測定装置〔協和界面科学(株)製、商品名:FACE接触角計CA−X型〕で測定し、以下の評価基準に基づいて親水性を評価した。
(評価基準)
○:水の接触角が30°未満
△:水の接触角が30°以上40°未満
×:水の接触角が40°以上
〔耐温水性〕
試験板を50℃の水温に保たれた温水中に240時間浸漬した後、温水から取り出し、水分を十分に拭き取り、1分間以内に色差計〔日本電色工業(株)製、分光式色差計SE−2000〕で測定し、試験前後に測定したL値から式:
[ΔL]=[試験後のΔL値]−[試験前のΔL値]
に基づいてΔLを算出し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:ΔLが5未満
△:ΔLが5以上10未満
×:ΔLが10以上
〔耐透水性〕
試験板の裏面および側面をバスボンド〔コニシ(株)製、商品名:バスボンドQ〕を用いてシールし、常温(約:25℃)の水中に試験板を水没させて24時間浸漬した後、水中から取り出し、水分を十分に拭き取り、試験片の水没前後の質量差を測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:試験片の水没前後の質量差が2g未満
△:試験片の水没前後の質量差が2g以上5g未満
×:試験片の水没前後の質量差が5g以上
〔耐温水密着性〕
試験板を50℃の水温に保たれた温水中に24時間浸漬した後、当該温水中に浸漬した状態で基材表面を爪で引っ掻くことにより、塗膜の密着状態を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:まったく変化なし
△:塗膜の表面に傷の発生あり
×:塗膜の剥がれの発生あり
次に、前記積層塗膜の物性の評価結果において、○を25点、△を15点、×を0点とし、各評価の得点を合計することにより、総合評価を行なった。その結果を表1に併記する。なお、総合評価の最高得点は100点であり、最低得点は0点である。
実施例2
スレート板〔日本テストパネル(株)製、縦:70mm、横:150mm、厚さ:6mm〕に、シーラー〔エスケー化研(株)製、商品名:EXシーラー〕をエアスプレーで150/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させた。
次に、形成された塗膜上に、1層目の塗膜を形成させるために、塗料A2をエアスプレーで150g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させることにより、1層目の塗膜を形成させた。その後、前記で形成された1層目の塗膜上に、塗料B1をエアスプレーで100g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で20分間乾燥させることにより、2層目の塗膜を形成させた。さらに、前記で形成された2層目の塗膜上に、塗料Cをエアスプレーで5g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で1分間乾燥させ、最表層の塗膜を形成させることにより、積層塗膜が形成された試験板を作製した。
前記で得られた試験板に形成された積層塗膜の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
実施例3
スレート板〔日本テストパネル(株)製、縦:70mm、横:150mm、厚さ:6mm〕に、シーラー〔エスケー化研(株)製、商品名:EXシーラー〕をエアスプレーで150/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させた。
次に、形成された塗膜上に、1層目の塗膜を形成させるために、塗料A1をエアスプレーで150g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させることにより、1層目の塗膜を形成させた。その後、前記で形成された1層目の塗膜上に、塗料B3をエアスプレーで100g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で20分間乾燥させることにより、2層目の塗膜を形成させた。さらに、前記で形成された2層目の塗膜上に、塗料Cをエアスプレーで5g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で1分間乾燥させ、最表層の塗膜を形成させることにより、積層塗膜が形成された試験板を作製した。
前記で得られた試験板に形成された積層塗膜の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
実施例4
スレート板〔日本テストパネル(株)製、縦:70mm、横:150mm、厚さ:6mm〕に、シーラー〔エスケー化研(株)製、商品名:EXシーラー〕をエアスプレーで150/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させた。
次に、形成された塗膜上に、1層目の塗膜を形成させるために、塗料A1をエアスプレーで150g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させることにより、1層目の塗膜を形成させた。その後、前記で形成された1層目の塗膜上に、塗料B4をエアスプレーで100g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で20分間乾燥させることにより、2層目の塗膜を形成させた。さらに、前記で形成された2層目の塗膜上に、塗料Cをエアスプレーで5g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で1分間乾燥させ、最表層の塗膜を形成させることにより、積層塗膜が形成された試験板を作製した。
前記で得られた試験板に形成された積層塗膜の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
実施例5
スレート板〔日本テストパネル(株)製、縦:70mm、横:150mm、厚さ:6mm〕に、シーラー〔エスケー化研(株)製、商品名:EXシーラー〕をエアスプレーで150/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させた。
次に、形成された塗膜上に、1層目の塗膜を形成させるために、塗料A2をエアスプレーで150g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させることにより、1層目の塗膜を形成させた。その後、前記で形成された1層目の塗膜上に、塗料B5をエアスプレーで100g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で20分間乾燥させることにより、2層目の塗膜を形成させた。さらに、前記で形成された2層目の塗膜上に、塗料Cをエアスプレーで5g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で1分間乾燥させ、最表層の塗膜を形成させることにより、積層塗膜が形成された試験板を作製した。
前記で得られた試験板に形成された積層塗膜の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
比較例1
スレート板〔日本テストパネル(株)製、縦:70mm、横:150mm、厚さ:6mm〕に、シーラー〔エスケー化研(株)製、商品名:EXシーラー〕をエアスプレーで150/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させた。
次に、形成された塗膜上に、1層目の塗膜を形成させるために、塗料A1をエアスプレーで150g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で10分間乾燥させることにより、1層目の塗膜を形成させた。その後、前記で形成された1層目の塗膜上に、塗料B1をエアスプレーで100g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で20分間乾燥させることにより、2層目の塗膜を形成させた。さらに、前記で形成された2層目の塗膜上に、塗料Cをエアスプレーで5g/m2の塗布量で均一に塗布し、100℃で1分間乾燥させ、最表層の塗膜を形成させることにより、積層塗膜が形成された試験板を作製した。
前記で得られた試験板に形成された積層塗膜の物性を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
表1に示された結果から、各実施例で得られた積層塗膜は、いずれも、最表層の塗膜として親水性塗膜が形成されているので親水性に優れているのみならず、さらに当該親水性塗膜の下層に多官能単量体を含有する単量体成分を重合させてなる樹脂成分を含有する塗膜が形成されているので、最表層の塗膜として親水性塗膜が形成されているにもかかわらず耐温水性、耐透水性および耐温水密着性に総合的に優れていることがわかる。また、実施例3および4の結果から、多官能単量体と脂環構造を有する単量体とが併用されている場合には、親水性、耐温水性および耐透水性が同時に優れている積層塗膜が形成されることがわかる。