以下、本発明の実施形態に係るSAW装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
第2の実施形態以降において、既に説明された実施形態と同一または類似する構成については、既に説明された実施形態の構成に付された符号と同一の符号を用い、また、図示および説明を省略することがある。また、第2の実施形態以降において、既に説明された実施形態の構成と対応(類似)する構成について、既に説明された実施形態の構成に付した符号とは異なる符号を付した場合においても、特に断りがない事項については、既に説明された実施形態の構成と同様である。
同一又は類似する構成については、「第1反射器7A」、「第2反射器7B」のように、同一名称に対して互いに異なる番号等およびアルファベットを付して呼称することがあり、また、この場合において、単に「反射器7」といい、これらを区別しないことがある。
<第1の実施形態>
(SAW素子の基本構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係るSAW素子1の構成を示す平面図である。なお、この図は断面図ではないが、図を見やすくするために、ハッチングを適宜に付している。
SAW素子1は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下の実施形態では、便宜的に、D1軸、D2軸およびD3軸からなる直交座標系を定義し、D3軸の正側(図1の紙面手前側)を上方として、上面等の語を用いることがあるものとする。なお、D1軸は、後述する圧電基板3の主面(紙面手前側の面)に沿って伝搬するSAWの伝搬方向に平行になるように定義され、D2軸は、圧電基板3の主面に平行かつD1軸に直交するように定義され、D3軸は、圧電基板3の主面に直交するように定義されている。
SAW素子1は、いわゆる1ポートSAW共振子を構成しており、例えば、第1端子51Aおよび第2端子51Bの一方から所定の周波数の電気信号が入力されると共振を生じ、その共振を生じた信号を第1端子51Aおよび第2端子51Bの他方から出力する。このような1ポートSAW共振子としてのSAW素子1は、例えば、圧電基板3と、圧電基板3の主面上に設けられたIDT電極5と、IDT電極5の両側に位置する第1反射器7Aおよび第2反射器7Bとを有している。
圧電基板3は、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶,ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶等の圧電性を有する単結晶の基板によって構成されている。圧電基板3の結晶軸は以下の通りとなっている。X軸は、例えば、圧電基板3の主面に平行(D1軸に平行)である。Y軸は、例えば、圧電基板3の主面の法線に対して所定の角度θ(図2(c)参照)で傾斜している。すなわち、圧電基板3は、回転Yカット−X伝搬の基板となるようにカットされている。圧電基板3の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。なお、図1では、IDT電極5および反射器7の周囲に圧電基板3の縁部を示しているが、1つの圧電基板3上に複数組のIDT電極5および反射器7が設けられてよい。
IDT電極5および反射器7は、圧電基板3の主面上に設けられた層状導体によって構成されている。IDT電極5および反射器7は、例えば、互いに同一の材料および厚さで構成されている。これらを構成する層状導体は、例えば、金属である。金属は、例えば、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)である。Al合金は、例えば、Al−Cu合金である。層状導体は、複数の金属層から構成されてもよい。層状導体の厚さは、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。一例として、50nm〜400nmである。
IDT電極5は、第1櫛歯電極9Aおよび第2櫛歯電極9Bを有している。各櫛歯電極9は、互いに対向する2本のバスバー11と、各バスバー11から他のバスバー11側へ互いに並列に延びる複数の電極指13とを有している。なお、ここでいう電極指13からは、後述する間引き電極19は除くものとする。1対の櫛歯電極9は、複数の電極指13が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。
バスバー11は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向(X軸方向、D1軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。そして、一対のバスバー11は、SAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)において互いに対向している。
各電極指13は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。各櫛歯電極9において、複数の電極指13は、例えば、互いに同等の長さであり、また、SAWの伝搬方向に概ね一定の間隔で配列されている。電極指13の本数は、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。なお、図1等は模式図であることから、電極指13の本数は少なく示されている。実際には、図示よりも多くの電極指13が配列されてよい。後述する反射器7の電極指17についても同様である。また、電極指の先端とバスバー間にはダミー電極と呼ばれる短い電極指が配置されていてもよい。
第1櫛歯電極9Aの電極指13と第2櫛歯電極9Bの電極指13とは、基本的には、SAWの伝搬方向において交互に配列されている。1対の櫛歯電極9の複数の電極指13のピッチpは、基本的に一定であり、共振させたい周波数でのSAWの波長λの半波長と同等とされている。波長λ(2p)は、例えば、1.5μm〜6μmである。各電極指13の幅w1は、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定され、例えば、ピッチpに対して0.4p〜0.7pである。
反射器7は、例えば、格子状に形成されている。具体的には、例えば、反射器7は、SAWの伝搬方向に直交する方向において互いに対向する一対のバスバー15と、これらバスバー15間においてSAWの伝搬方向に直交する方向に延びる複数の電極指17とを有している。複数の電極指17の幅およびピッチは、例えば、IDT電極5の電極指13の幅およびピッチと概ね同等である。また、反射器7とIDT電極5との間隔(反射器7の最もIDT電極5側の電極指17とIDT電極5の最も反射器7側の電極指13とのピッチ)は、IDT電極5の電極指13のピッチと同等(またはその概ね整数倍)である。なお、反射器7は、電気的に浮遊状態とされていてもよいし、基準電位部に接続されていてもよい。ここで、基準電位とは、特定の電位を指すものであり、接地電位に限定されるものではない。
IDT電極5によって圧電基板3に電圧が印加されると、圧電基板3の主面付近において主面に沿ってD1軸方向に伝搬するSAWが誘起される。誘起されたSAWは、IDT電極5の電極指13とその非配置領域との境界において反射する。その結果、電極指13のピッチpを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指13によって取り出される。このようにしてSAW素子1は共振子として機能する。
また、IDT電極5において誘起されたSAWは、反射器7の電極指17とその非配置領域との境界においても反射する。すなわち、SAWの発散が抑制される。これにより、IDT電極5における定在波が強く立ち、SAW素子1の共振子としての機能が向上する。
なお、特に図示しないが、圧電基板3の主面は、IDT電極5および反射器7の上からSiO2等からなる保護膜によって覆われていてもよい。保護膜は、単にIDT電極5等の腐食を抑制するためのものであってもよいし、温度補償に寄与するものであってもよい。また、保護膜が設けられる場合等において、IDT電極5および反射器7の上面には、SAWの反射係数を向上させるために、絶縁体または金属からなる付加膜が設けられてもよい。
また、SAW素子1を含むSAW装置では、例えば、特に図示しないが、圧電基板3の主面の振動を許容してSAWの伝搬を容易化する空間が圧電基板3上に構成される。この空間は、例えば、圧電基板3に被せられる箱型のカバーを形成することによって、または、回路基板の主面と圧電基板3の主面とをバンプを介在させつつ対向させることによって構成される。
(歪信号の発生)
既述のように、このようなSAW素子1においては、圧電特性の非線形性によって歪信号が生じる。特許文献1では、各電極指13の側方両側(D1軸方向両側)において生じる歪信号同士は相殺されることを開示している。しかし、本願発明者の鋭意検討によって、IDT電極5のD1軸方向の端部(端部電極指Fb)付近においては、電極指13の側方両側において生じる歪信号が相殺されず、その結果、端子51から出力される信号にも歪信号の影響が現れることがわかった。
図2は、端部電極指Fb付近における歪信号の発生原理を説明するための模式図である。具体的には、図2(a)は、図1のIIa-IIa線における断面図に相当し、図2(b)は、図1のIIb-IIb線における断面図に相当し、図2(c)は、図1のIIc-IIc線における断面図に相当する。ただし、図2(a)および図2(b)においては、便宜上、圧電基板3の断面を示すハッチングは省略されている。
矢印y1は、ある瞬間における電場を示している。この例では、IDT電極5に電気信号が入力されて、第2櫛歯電極9Bの電位が第1櫛歯電極9Aの電位よりも高くなっており、第2櫛歯電極9Bの電極指13から第1櫛歯電極9Aの電極指13へ電場が形成されている。この電場が比較的大きい場合等においては、圧電特性の2次の非線形性に応じて2次の歪信号が生じる。
図2(a)に示すように、IDT電極5の端部電極指Fb付近を除く範囲においては、1対の櫛歯電極9の電極指13(2種の電位の電極指13)が一定のピッチで交互に配列されていることから、各電極指13に関して対称な電場が形成される。ここで、2次の歪信号の強さは、電場の強さの2乗に比例し、2次の歪信号(歪電流)の向きは、結晶軸の向きで決定され、電場の向きによらない。従って、端部電極指Fb以外の電極指13においては、その両側で、大きさが同等で同一の向きの歪信号が生じることになる。すなわち、各電極指13においては、出力した歪信号と同一の大きさの歪信号が入力される。その結果、歪信号は相殺される。
一方、図2(b)に示すように、1対の櫛歯電極9の電極指13(2種の電位の電極指13)の交互の配列は端部電極指Fbまでで終わり、その後は、反射器7の電極指17が配列される。端部電極指Fbの1つ手前の電極指13である直前電極指Fcから反射器7側を見ると、端部電極指Fbの背後に隣接するのは自己と同電位の電極指13ではなく、反射器7の電極指17(外側電極指Fe)であるから、端部電極指Fbだけでなく、電極指17も、直前電極指Fcとの間で電場を形成する導体となり得る。その結果、例えば、直前電極指Fcから端部電極指Fbへの電場は反射器7側へ相対的に広がる。すなわち、端部電極指Fb付近においては、電場が非対称に形成され、相殺されない歪信号が生じる。
前述したように、2次の歪信号(歪電流)の向きは、結晶軸の向きで決定され、電場の向きによらない。従って、ここで発生する歪信号の向きは、端部電極指Fbから直前電極指Fcの方向(結晶軸によっては直前電極指Fcから端部電極指Fbの方向)になる。IDT電極5の両端の端部電極指Fbのうち、一方が第1櫛歯電極9Aのものであり、他方が第2櫛歯電極9Bのものである場合においては、一方では第1櫛歯電極9Aから第2櫛歯電極9Bの方向へ歪電流が流れ、他方では第2櫛歯電極9Bから第1櫛歯電極9Aの方向へ歪電流が流れることになり、全体として歪電流は相殺され、端部電極指Fbにおいて生じた歪信号は端子51から出力される信号に現れない(若しくは相対的に小さい)。一方、IDT電極5の両端の端部電極指Fbが同一の櫛歯電極9のものである場合においては、両端で第1櫛歯電極9Aから第2櫛歯電極9Bの方向へ歪電流が流れることになり、端部電極指Fbにおいて生じた歪信号は端子51から出力される信号に現れる。なお、端部電極指Fbに代えて、直前電極指Fcが同一の櫛歯電極9に属するか否かを判断してもよい。
(歪信号低減のための構成)
図1に戻って、SAW素子1においては、第1櫛歯電極9Aが両端の端部電極指Fbを有している。そして、第2櫛歯電極9Bは、その端部電極指Fbによる歪信号を低減するために、間引き電極19を有している。
間引き電極19は、3本以上の奇数本(図1の例では3本)の電極指13の配列範囲に相当する範囲において電極指13に並列に延びる電極である。間引き電極19の幅w2は、例えば、間引き電極19に相当する電極指13の本数をn、電極指13のピッチをp、電極指13の幅をw1とすると、w2=p×(n−1)+w1である。ただし、これよりも若干太くされたり細くされたりしてもよい。間引き電極19の長さは、例えば、隣接する電極指13の長さと同等(本実施形態では全ての電極指13の長さと同等)である。
間引き電極19は、両端の端部電極指Fbを有する第1櫛歯電極9Aにおいては、設けられていなくても良いし(図1の例)、1以上設けられていてもよい。一方、第2櫛歯電極9Bにおいては、間引き電極19は、第1櫛歯電極9Aに設けられた間引き電極19の数(第1間引き電極数;N1)よりも1多い数(N1+1)だけ設けられている。
従って、例えば、図1の例では、IDT電極5のうち間引き電極19からD1軸方向の正側(紙面上方)の部分においては、D1軸方向の両側に電場が非対称の部分が形成されるとともに、その両端は、第1櫛歯電極9Aの端部電極指Fbと、第2櫛歯電極9Bの間引き電極19となる。従って、このD1軸方向の正側の部分においては、1対の端部電極指Fbが互いに異なる櫛歯電極9に属する場合と同様に、両端の歪信号が打ち消し合う。同様に、IDT電極5のうち間引き電極19からD1軸方向の負側の部分においては、両端の歪信号が打ち消し合う。その結果、IDT電極5全体としても、端部電極指Fbにおける歪信号が低減される。この効果は、両側の端部電極指Fbを有する第1櫛歯電極9Aにおいて間引き電極19の数がN1(N1は0を含む自然数)であり、第2櫛歯電極9Bにおいて間引き電極19の数(第2間引き電極数;N2)がN1+1であれば奏される。
間引き電極19は、IDT電極5の両端には位置しないことが好ましい。また、間引き電極19よりもD1軸方向の外側に2本以上の電極指13が位置することが好ましい。元々電界が非対称の位置に間引き電極19を設けても本実施形態で意図する効果を得られないからである。
また、間引き電極19が1つだけの場合は、間引き電極19はIDT電極5の概ね中央に位置することが好ましい。例えば、間引き電極19に対して一方側に位置する電極指13の数と、他方側に位置する電極指13の数との差は、2本以内であることが好ましい。間引き電極19が中央にあることによって、例えば、IDT電極5全体としての電場の対称性が向上し、歪信号が低減される。
複数の間引き電極19が設けられる場合において、間引き電極19同士は隣接せず、間引き電極19の間には電極指13(好ましくは2本以上)が位置することが好ましい。間引き電極19同士が隣接または近くにあると、例えば、その間に形成される電場は、電極指13と間引き電極19との間に形成される電場に比較して、端部電極指Fbと反射器7との間に形成される電場に類似しない。そのような電場の形成を低減することにより、IDT電極5全体として、歪信号を低減することができる。
複数の間引き電極19は、IDT電極5においてできるだけ均等に設けられることが好ましい。複数の間引き電極19を均等に設けることによって、例えば、IDT電極5全体として、電場を均等にでき、歪信号を低減することができる。
例えば、複数の間引き電極19間の間隔(その間の電極指の数)は概ね一定であることが好ましい。また、複数の間引き電極19は、1対の櫛歯電極9にできるだけ均等に分配されることが好ましい。例えば、間引き電極19が3個設けられるのであれば、3個を第2櫛歯電極9Bに設けるのではなく、2本を第1櫛歯電極9Aに設け、1個を第2櫛歯電極9Bに設けることが好ましい。すなわち、間引き電極19が全体で奇数個設けられる場合、1対の櫛歯電極9間における間引き電極19の数の差は1つであることが好ましい。また、複数の間引き電極19は、間引き電極19だけに着目したときに(電極指13を無視したときに)、一方の櫛歯電極9の間引き電極19と、他方の櫛歯電極9の間引き電極19とがD1軸方向において交互に配置されていることが好ましい。
また、電極指13の先端のギャップにおいて生じる歪信号を低減するための方策(例えば特許文献1および2に開示のもの)が、本実施形態における歪信号を低減するための方策に併せて講じられることが好ましい。
なお、上述した好ましい態様(例えば、間引き電極19は、IDT電極の両端には位置しないことが好ましいこと、間引き電極19は、IDT電極の概ね中央に位置することが好ましいこと、間引き電極19間には(好ましくは2本以上の)電極指13が位置することが好ましいこと、複数の間引き電極19間の間隔(その間の電極指の数)は概ね一定であることが好ましいこと、複数の間引き電極19は、1対の櫛歯電極9にできるだけ均等に分配されることが好ましいこと、一方の櫛歯電極9の間引き電極19と他方の櫛歯電極9の間引き電極19とが交互に配置されていることが好ましいこと等)は、後述する他の実施形態においても好ましい。
以上のとおり、SAW素子1は、圧電基板3と、圧電基板3上に設けられ、互いに接続された複数の第1電極指(第1櫛歯電極9Aの電極指13)と、圧電基板3上に設けられ、互いに接続されており、複数の第1電極指と交互に一定のピッチpで配列された複数の第2電極指(第2櫛歯電極9Bの電極指13)と、複数の第1電極指および複数の第2電極指の配列中に位置し、複数の第1電極指および複数の第2電極指の、3本以上の奇数本に相当する範囲において複数の第1電極指および複数の第2電極指に並列に延びる間引き電極19と、SAWの伝搬方向において複数の第1電極指および複数の第2電極指全体のうちの両端の端部電極指Fbの外側に隣接し、複数の第1電極指および複数の第2電極指のいずれとも非接続とされた1対の外側電極指Feと、を有している。両端の端部電極指Fbは、いずれも第1電極指(第1櫛歯電極9Aの電極指13)であり、複数の第1電極指に接続された間引き電極19の数は、0を含む自然数(本実施形態では0)であり、複数の第2電極指(第2櫛歯電極9Bの電極指13)に接続された間引き電極19の数は、第1電極指に接続された間引き電極19の数よりも1多い(本実施形態では1である)。
従って、上述したように、間引き電極19と反射器7との間それぞれ、または、(複数の間引き電極19が設けられた場合の)間引き電極19間それぞれにおいては、両側に非対称な電場が形成され、その結果、IDT電極5全体として、端部電極指Fb付近の歪信号が低減される。ひいては、SAW素子1のSN比が向上する。
<第2実施形態>
図3は、第2実施形態に係るSAW素子201を示す平面図である。なお、第2実施形態以降において、圧電基板3の主面の縁部の図示、および、圧電基板3の符号は省略し、また、端子51も適宜に省略する。
SAW素子201は、第1実施形態と同様に、1ポートSAW共振子として構成されており、IDT電極205(206)と、その両側に位置する第1反射器207A(208A)および第2反射器207B(208B)とを有している。ただし、IDT電極205と反射器207とが互いに接続されている点が第1実施形態と相違する。
具体的には、例えば、IDT電極205の第1櫛歯電極209Aおよび第2櫛歯電極209Bのうち第1櫛歯電極209Aのバスバー11と、各反射器207の2本のバスバー15のうち第1櫛歯電極209Aのバスバー11側に位置するバスバー15とが接続されている。従って、第1櫛歯電極209Aと、1対の反射器207とは同電位である。
ここで、例えば、IDT電極と反射器との境界において、電極指が一のバスバーから延びるものであるか、互いに対向する1対のバスバーに接続されているか等の形状に着目すると、紙面左側に示すように、IDT電極206と、1対の反射器208とが定義される。一方、2種の電位(1対の櫛歯電極9の電位)の電極指が交互に配列されているか否かに着目すると、紙面右側に示すように、IDT電極205と反射器207とが定義される。また、特に図示しないが、紙面右側の定義のIDT電極205の両端となる電極指(端部電極指Fb)の紙面左側の先端を反射器207の紙面左側のバスバー15から切り離し、形状に着目しても紙面右側の定義が成り立つようにしても、電気特性は殆ど変わらない。従って、いずれの定義が用いられてもよい。なお、本実施形態の説明では、便宜上、紙面右側の定義を基本的に用いる。
第2実施形態においては、第1実施形態と同様に、端部電極指Fbまでは、IDT電極205から反射器207側へ、2種の電位の電極指が一定のピッチで配列される。その後は、第1実施形態とは異なり、端部電極指Fbと同電位の電極指17(外側電極指Feを含む)が続く。ただし、直前電極指Fcから反射器207側を見たときに、端部電極指Fbだけでなく、外側電極指Feを含む電極指17が直前電極指Fcと電場を形成しうる導体となることは、第1実施形態と同様である。すなわち、第1実施形態と同様に、電場の非対称性が生じ、ひいては、相殺されない歪信号が生じる。
また、SAW素子201では、第1櫛歯電極209AがIDT電極205全体の両端の端部電極指Fbを有している。従って、端部電極指Fb付近の歪信号は、第1実施形態と同様に、IDT電極205から出力される信号に現れる。
そこで、SAW素子201では、第1実施形態と同様に、第1櫛歯電極209Aの間引き電極19の数は0を含む自然数とされ、第2櫛歯電極209Bの間引き電極19の数は複数の第1櫛歯電極209Aに接続された間引き電極19の数よりも1つ多い数(図示の例では1つ)とされている。従って、第1実施形態と同様に、IDT電極205の端部において生じる歪信号を低減することができる。
また、反射器207の電位が端部電極指Fbの電位と同等となることから、例えば、反射器207が電気的に浮遊状態とされている場合に比較して、IDT電極205の端部において生じる電場の非対称性の予測性が高くなる。その結果、歪信号を考慮した設計が容易化される。また、例えば、反射器207を基準電位部に接続する場合に比較して、基準電位部からの配線をIDT電極205および反射器207の周囲に引き回す必要がなく、圧電基板3上のパターンが簡素化され、ひいては、SAW素子201の小型化が図られる。
<第3実施形態>
図4は、第3実施形態に係るSAW素子301を示す平面図である。
SAW素子301は、第1実施形態と同様に、1ポートSAW共振子として構成されており、IDT電極305と、その両側に位置する第1反射器307Aおよび第2反射器307Bとを有している。ただし、IDT電極305の両側の端部電極指Fbは、1つが第1櫛歯電極309Aのものであり、他の1つは第2櫛歯電極309Bのものである。
このようなSAW素子301においては、第1実施形態の説明において述べたように、間引き電極19が設けられなくても、端部電極指Fb付近における歪信号はSAW素子301から出力される信号に現れない。ただし、間引き電極19は、共振点と反共振点との周波数差Δfを小さくすることなどを目的として設けられることがある。
そこで、SAW素子301のIDT電極305は、間引き電極19を2以上の偶数個だけ有している。より具体的には、第1櫛歯電極9Aに接続された間引き電極19の数と第2櫛歯電極9Bに接続された間引き電極19の数とが等しくなっている。このようにすることにより、間引き電極19を設けて所望の特性を得つつ、間引き電極19付近および端部電極指Fb付近における歪信号がSAW素子301の出力信号に現れるおそれを低減できる。
<第4実施形態>
図5は、第4実施形態に係るSAW素子401を示す平面図である。
SAW素子401は、第2実施形態と同様に、1ポートSAW共振子において、IDT電極405(406)と、その両側に位置する第1反射器407A(408A)および第2反射器407B(408B)とが接続されている構成である。ただし、第2実施形態においては、1対の反射器207が同一の櫛歯電極209に接続されたのに対して、本実施形態では、1対の反射器307は、互いに異なる櫛歯電極409に接続されている。
なお、第4実施形態においても、第3実施形態と同様に、電極指等の形状に着目して、紙面左側に示すように、IDT電極406と、1対の反射器408とを定義でき、その一方で、電位が異なる電極指が交互に配列されているか否かに着目して、紙面右側に示すように、IDT電極405と反射器407とを定義できる。ここでも、便宜上、紙面右側の定義を基本的に用いる。
SAW素子401においては、2種の電位が交互に一定のピッチで配列されている範囲の両端の端部電極指Fbのうち一方は、IDT電極405の第1櫛歯電極409Aのものであり、他方は、IDT電極405の第2櫛歯電極409Bのものである。従って、第3実施形態と同様に、IDT電極405全体における間引き電極19の数を2以上の偶数にすることにより、IDT電極405の端部において生じる歪信号を低減することができる。より具体的には、第1櫛歯電極9Aに接続された間引き電極19の数と第2櫛歯電極9Bに接続された間引き電極19の数とを等しくすることで、歪電流の発生を低減させることができる。また、両者の間引き本数も同一であることが好ましい。
<第5実施形態>
(SAW素子の基本構成)
図6は、本発明の第5実施形態に係るSAW素子501の平面図である。
第1〜第4実施形態のSAW素子が1ポートSAW共振子として構成されていたのに対して、本実施形態のSAW素子501は、多重モード型SAWフィルタとして構成されている。具体的には、例えば、以下のとおりである。なお、本実施形態において、多重モード型は、ダブルモード型を含むものとする。
SAW素子501は、例えば、圧電基板3(図示省略)と、圧電基板3上においてSAWの伝搬方向(D1軸方向)に配列された複数(本実施形態では3つ)の第1IDT電極505A〜第3IDT電極505Cと、その両側に配置された1対の反射器7(図示省略)とを有している。
各IDT電極505は、既述の実施形態のIDT電極と同様に、互いに噛み合う1対の櫛歯電極509(信号用櫛歯電極509Sおよび基準電位用櫛歯電極509G)を有している。各櫛歯電極509は、既述の実施形態の櫛歯電極と同様に、バスバー11と、バスバー11から互いに並列に延びる複数の電極指13とを有しており、1対の櫛歯電極509は、その電極指がSAWの伝搬方向に互いに交互に配列されている。
互いに隣り合うIDT電極505の間隔は、例えば、電極指13のピッチpと同等(またはその概ね整数倍)とされている。従って、SAWは、IDT電極505間においても伝搬する。なお、外側両側のIDT電極505(本実施形態では505Bおよび505C)と、1対の反射器7との間隔も既述の実施形態と同様に、ピッチpと同等(またはその概ね整数倍)である。
中央に位置する第1IDT電極505Aは、入力端子551IN(信号用配線)に接続された信号用櫛歯電極509Sと、基準電位部に接続された基準電位用櫛歯電極509Gとを有している。一方、第1IDT電極505Aと隣り合う第2IDT電極505B及び第3IDT電極505Cそれぞれは、出力端子551OUT(信号用配線)に接続された信号用櫛歯電極509Sと、基準電位部に接続された基準電位用櫛歯電極509Gとを有している。
従って、入力端子551INに入力された電気信号は、第1IDT電極505AによってSAWに変換されて第2IDT電極505B及び第3IDT電極505Cに伝搬し、第2IDT電極505B及び第3IDT電極505Cによって再度電気信号に変換され、出力端子551OUTへ出力される。
第2IDT電極505Bの信号用櫛歯電極509Sと第1IDT電極505Aの信号用櫛歯電極509Sとの間隔(両信号用櫛歯電極509Sで互いに最も近い電極指13同士の距離)と、第3IDT電極505Cの信号用櫛歯電極509Sと第1IDT電極505Aの信号用櫛歯電極509Sとの間隔とは略等しい。従って、第2IDT電極505Bの信号用櫛歯電極509Sの出力する信号と、第3IDT電極505Cの信号用櫛歯電極509Sが出力する信号とは位相が等しい。別の観点では、SAW素子501は、不平衡信号が入力され、不平衡信号を出力する。
また、本実施形態では、第2IDT電極505Bの信号用櫛歯電極509Sと第1IDT電極505Aの信号用櫛歯電極509Sとの間隔、および、第3IDT電極505Cの信号用櫛歯電極509Sと第1IDT電極505Aの信号用櫛歯電極509Sとの間隔は、いずれも、ピッチpの偶数倍である。従って、第1IDT電極505Aの信号用櫛歯電極509Sと、第2IDT電極505Bおよび第3IDT電極505Cの信号用櫛歯電極509Sとは、信号の位相が等しい。
(歪信号の発生およびその低減のための構成)
第1実施形態では、図2(b)を参照して説明したように、端部電極指Fbよりも1つ手前の直前電極指Fcから見ると、端部電極指Fbだけでなく、反射器7(外側電極指Fe)も電場を形成する導体となった。その結果、電場の非対称性が生じ、ひいては、相殺されない歪信号が生じた。同様の理由により、SAW素子501においても、IDT電極505の端部付近において相殺されない歪信号が生じる。具体的には、例えば、以下のとおりである。
まず、第1IDT電極505の端部近傍の電界について考察する。図6に示すDMS型のSAW素子501は受信用フィルタとして用いられることが多い。ここで、歪信号は、送信用フィルタに強い電力が入力されたときに生じるものである。すなわち、図6に示すSAW素子501の共振周波数とは全く異なる共振周波数の信号が入力されたときに歪信号が生じる。この場合には、SAW素子501は、単なる容量素子として機能し、第1IDT505Aには信号が入力されるが、第2IDT505B,第3IDT505Cには信号が入力されない。かつ、第2IDT505B、第3IDT505Cにおける櫛歯電極509Gと櫛歯電極509Sの間の静電容量は、第1IDT505Aの櫛歯電極509Gと第2IDT505B、第3IDT505Cにおける櫛歯電極509Gの間の静電容量よりも十分に大きい。すなわち、第1IDT505Aの信号用櫛歯電極509Sからみると、それ以外の電位はすべて基準電位と略同一とみることができる。
このため、第1IDT電極505Aと第2IDT電極505Bとの境界付近においては、例えば、第1IDT電極505A側から第2IDT電極505B側へ順に、第1IDT電極505Aの信号用櫛歯電極509Sの電極指13(直前電極指Fc′)、第1IDT電極505Aの基準電位用櫛歯電極509Gの電極指13(端部電極指Fb′)、および、第2IDT電極505Bの信号用櫛歯電極509Sの電極指13(外側電極指Fe′)が配列されている。ここで、第1IDT電極505Aの基準電位用櫛歯電極509Gおよび第2IDT電極505Bの信号用櫛歯電極509Sは、いずれも基準電位としてみなすことができる。すなわち、2種の電位の電極指が一定のピッチで交互に配列されているといえるのは、端部電極指Fb′までである。従って、第1実施形態と同様に、直前電極指Fc′から第2IDT電極505B側を見ると、範囲AR1に位置する複数の電極指13(端部電極指Fb′および外側電極指Fe′を含む)が直前電極指Fc′と電界を形成し得る幅広な導体に相当する。その結果、この境界付近において相殺されない歪信号が生じる。
また、第1IDT電極505Aと第3IDT電極505Cとの境界付近においては、第1IDT電極505A側から第3IDT電極505C側へ順に、第1IDT電極505Aの信号用櫛歯電極509Sの電極指13(直前電極指Fc″)、第3IDT電極505Cの基準電位用櫛歯電極509Gの電極指13(端部電極指Fb″)、および、第3IDT電極505Cの信号用櫛歯電極509Sの電極指13(外側電極指Fe″)が配列されている。ここで、第3IDT電極505Cの信号用櫛歯電極509Sは、信号用であるが、その電位は基準電位としてみなすことができる。すなわち、2種の電位の電極指が一定のピッチで交互に配列されているといえるのは、端部電極指Fb″までである。従って、直前電極指Fc″から第3IDT電極505C側を見ると、範囲AR2に位置する複数の電極指13(端部電極指Fb″および外側電極指Fe″を含む)が直前電極指Fc″と電界を形成し得る幅広な導体に相当する。その結果、この境界付近において相殺されない歪信号が生じる。
直前電極指Fc′およびFc″は、いずれも第1IDT電極505Aの信号用櫛歯電極509Sのものである。従って、第1IDT電極505Aの信号用櫛歯電極509Sは、第1実施形態の第2櫛歯電極9Bに相当し、第1IDT電極505Aの基準電位用櫛歯電極509Gは、第1実施形態の第1櫛歯電極9Aに相当する。そして、直前電極指Fc′およびFc″の歪信号は互いに打ち消し合わずにSAW素子501の出力信号に現れる。
そこで、第1実施形態と同様に、第1IDT電極505Aにおいて、信号用櫛歯電極509Sに間引き電極19を1個だけ設けるとともに、基準電位用櫛歯電極509Gに間引き電極19を設けない、または、基準電位用櫛歯電極509Gに信号用櫛歯用電極509Sに設けた間引き電極19の数よりも1少ない数の間引き電極19を設ける。これにより、第1IDT電極505Aの端部において生じた歪信号を低減することができる。
<第6実施形態>
(SAW素子の基本構成)
図7は、本発明の第6実施形態に係るSAW素子601の平面図である。
SAW素子601は、第5実施形態のSAW素子501と同様に、多重モード型SAWフィルタを構成するものである。ただし、第5実施形態のSAW素子501が不平衡信号が入力され、不平衡信号を出力する構成であったのに対して、SAW素子601は、不平衡信号が入力され、平衡信号を出力する構成とされている。なお、不平衡信号は、基準電位との電位差を信号レベルとする信号であり、平衡信号は、2つの信号からなり、その電位差を信号レベルとする信号である。
具体的には、例えば、SAW素子601は、第5実施形態と同様に、圧電基板3(図示省略)上においてSAWの伝搬方向に配列された複数(本実施形態では3つ)の第1IDT電極605A〜第3IDT電極605C等を有している。また、各IDT電極605は、第5実施形態と同様に、信号用櫛歯電極609Sと基準電位用櫛歯電極609Gとを有している。
ただし、第5実施形態とは異なり、第2IDT電極505Bの信号用櫛歯電極609Sと、第3IDT電極505Cの信号用櫛歯電極609Sとは、互いに別個に設けられた出力端子(第1出力端子651OUT−Aおよび第2出力端子651OUT−B)に接続されている。
また、第5実施形態とは異なり、第2IDT電極605Bの信号用櫛歯電極609Sと第1IDT電極605Aの信号用櫛歯電極609Sとの間隔と、第3IDT電極605Cの信号用櫛歯電極609Sと第1IDT電極605Aの信号用櫛歯電極509Sとの間隔とは、ピッチpの奇数倍であるか偶数倍であるかが互いに異なっている。例えば、図7の例では、前者の間隔はピッチpの偶数倍であり、後者の間隔はピッチpの奇数倍である。従って、第2IDT電極605Bの信号用櫛歯電極609Sが出力する信号と、第3IDT電極605Cの信号用櫛歯電極609Sが出力する信号とは位相が互いに逆である。これにより、入力端子651INに入力された不平衡信号は、平衡信号に変換されて、第1出力端子651OUT−Aおよび第2出力端子651OUT−Bに出力される。
(歪波の発生およびその低減のための構成)
このように、第5実施形態とは異なり、第1IDT電極605Aと、その両側の第2IDT電極605B及び第3IDT電極605Cとの間において、信号用櫛歯電極609Sの位相が互いに逆の場合においても、歪信号を低減するために、第1IDT電極605Aの間引き電極19の数は、図6と同様とされる。その理由は、以下のとおりである。
第1IDT電極605Aと第2IDT電極605Bとの境界付近の構成は、第5実施形態と同様である。従って、第5実施形態と同様に、第1IDT電極605Aの信号用櫛歯電極609Sの電極指13(直前電極指Fc′)から第2IDT電極605B側を見ると、範囲AR1に位置する複数の電極指13(端部電極指Fb′および外側電極指Fe′含む)が直前電極指Fc′と電界を形成し得る幅広な導体に相当する。
一方、第1IDT電極505Aと第3IDT電極605Cとの境界付近において考察する。図7に示すDMS型のSAW素子601は、図6に示すSAW素子501同様に受信用フィルタとして用いられることが多い。ここで、歪信号は、送信用フィルタに強い電力が入力されたときに生じるものである。すなわち、図7に示すSAW素子601の共振周波数とは全く異なる共振周波数の信号が入力されたときに歪信号が生じる。この場合には、SAW素子601は、単なる容量素子として機能し、第1IDT605Aには信号が入力されるが、第2IDT605B,第3IDT605Cには信号が入力されない。かつ、第2IDT605B、第3IDT605Cにおける櫛歯電極609Gと櫛歯電極609Sの間の静電容量は、第1IDT605Aの櫛歯電極609Gと第2IDT605B、第3IDT605Cにおける櫛歯電極609Gの間の静電容量よりも十分に大きい。すなわち、第1IDT605Aの信号用櫛歯電極609Sからみると、それ以外の電位はすべて基準電位と略同一とみることができる。そして、第1IDT電極605A側から第3IDT電極605C側へ順に、第1IDT電極605Aの基準電位用櫛歯電極609Sの電極指13(直前電極指Fc″)、第3IDT電極605Cの信号用櫛歯電極609Sの電極指13(端部電極指Fb″)、および、第3IDT電極605Cの基準電位用櫛歯電極609Gの電極指13(外側電極指Fe″)が配列されている。第1IDT電極605A側から第3IDT電極605C側へ、2種の電位が一定のピッチで配列されているといえるのは、端部電極指Fb″までである。従って、直前電極指Fc″から第3IDT電極605C側を見ると、範囲AR2に位置する複数の電極指13(端部電極指Fb″および外側電極指Fe″を含む)が直前電極指Fc″と電界を形成し得る幅広な導体に相当する。
直前電極指Fc′およびFc″は、第1IDT電極605Aの同じ櫛歯電極609のものである。従って、第5実施形態と同じ状態となり、直前電極指Fc′およびFc″の歪信号を間引き電極19により互いに打ち消し合う。
<第5および第6実施形態の変形例>
特に図示しないが、第5および第6実施形態のように、第1IDT電極の両側に第2IDT電極および第3IDT電極が配置される場合の変形例として、以下の変形例が挙げられる。
第5実施形態(図6)では、第2IDT電極505Bおよび第3IDT電極505Cは、いずれの位相も第1IDT電極505Aの位相と同一とされ、これにより、両者の位相が同一とされた。これに対して、第2IDT電極および第3IDT電極は、いずれの位相も第1IDT電極の位相と逆にされ、これにより、両者の位相が同一とされてもよい。すなわち、第2IDT電極の信号用櫛歯電極と第1IDT電極の信号用櫛歯電極との間隔と、第3IDT電極の信号用櫛歯電極と第1IDT電極の信号用櫛歯電極との間隔とは、共に、ピッチpの奇数倍とされてもよい。
ここで、これまでの説明から理解されるように、多重モード型SAWフィルタにおいて、2種の電位の電極指が一定のピッチで交互に配列されている範囲の両端の端部電極指Fb′およびFb″(または、その1つ手前の直前電極指Fc′およびFc″)は同一の電位となり、この範囲は、第1IDT電極の範囲と同一とは限らない。従って、第1IDT電極の両端の電極指は、第5および第6実施形態とは異なり、共に信号用櫛歯電極のものであってもよいし、共に基準電位用櫛歯電極のものであってもよい。
また、第5実施形態(図6)では、信号用櫛歯電極509Sから基準電位用櫛歯電極509Gへの向き(D2軸方向)が、第1IDT電極505Aと、第2IDT電極505Bおよび第3IDT電極505Cとで逆であるが、これらの向きは全て同一であるなどしてもよい。これまでの説明において、第1IDT電極505Aの端部の歪信号の発生原理について電極指13についてのみ言及し、バスバー11に言及していなことから理解されるように、この向きは、本実施形態で着目している、伝搬方向の端部電極指付近における歪信号には影響しない。第6実施形態についても同様である。
また、第5および第6実施形態では、IDT電極の数が3の場合を例に挙げたが、IDT電極の数は、3以上の適宜な数とされてよい。また、第1IDT電極(間引き電極19が設けられるIDT電極)は、入力信号が入力されるIDT電極としたが、出力信号を出力するIDT電極であってもよい。
<第7実施形態>
図8は、本発明の第7実施形態に係るSAW素子701の平面図である。
第5および第6実施形態のSAW素子では、IDT電極に挟まれたIDT電極に着目したが、本実施形態では、IDT電極と反射器とに挟まれたIDT電極に着目して間引き電極19を設けている。具体的には、例えば、以下のとおりである。
SAW素子701は、例えば、第1IDT電極705Aと、その伝搬方向の両側に位置する反射器7と第2IDT電極705Bとを有している。なお、第2IDT電極705Bの第1IDT電極705Aとは反対側には、さらに他のIDT電極が配置されていてもよいし、反射器7が配置されていてもよい。SAW素子701は、第1端子751Aおよび第2端子751Bのうち一方から入力された信号を他方へ出力する。
このような構成においても、2種の電位の電極指が交互に一定のピッチで配列されている範囲の端部電極指Fb′およびFb″(またはその一つ手前の直前電極指Fc′およびFc″)が同一の電位である(例えば同一の櫛歯電極のものである)場合においては間引き電極19を設けることにより、歪信号を低減することができる。
図8の例では、第1IDT電極705Aと第2IDT電極705Bとの関係は、図6の第1IDT電極505Aと第3IDT電極505Cとの関係と同様であり、直前電極指Fc″は、第1IDT電極705Aの信号用櫛歯電極709Sのものである。
一方、第1IDT電極705Aと反射器7との境界付近において、第1IDT電極705A側から反射器7側へ2種の電位の電極指が配列されているのは、第1IDT電極705Aの基準電位用櫛歯電極709Gの端部の電極指13(端部電極指Fb′)までである。従って、直前電極指Fc′は、第1IDT電極705Aの信号用櫛歯電極709Sのものである。
上記のように、図8の例では、直前電極指Fc′およびFc″は、いずれも第1IDT電極705Aの信号用櫛歯電極709Sのものである。従って、歪信号を低減するために、間引き電極19は、第1IDT電極705Aの信号用櫛歯電極709Sに設けられ、第1IDT電極705Aの基準電位用櫛歯電極709Gには信号用櫛歯電極709Sに設けられた間引き電極19の数より1少ない数(0を含む)だけ設けられる。
第1〜第6の実施形態の説明から理解されるように、反射器7に隣接するのは、信号用櫛歯電極709Sの電極指13であってもよいし、基準電位用櫛歯電極709Gの電極指13であってもよい。また、第1IDT電極と第2IDT電極との位相は同一であってもよいし、逆であってもよい。
具体的には、第1〜第4の実施形態(図1〜図5)から理解されるように、第1IDT電極の反射器7側の端部電極指Fb′は、第1IDT電極の電極指13の、反射器7に隣接する電極指13となる。なお、これは、反射器7が信号用櫛歯電極に接続されていても、接続されていなくても、図3の紙面右側の定義に従えば成り立つ。また、第1IDT電極の第2IDT電極側の端部電極指Fb″は、第5および第6実施形態(図6および図78)の説明から理解されるように、第1IDT電極の第2IDT電極に隣接する基準電位用櫛歯電極の電極指または第2IDT電極である。
第5または第6実施形態と、第7実施形態とは、組み合わされてもよい。例えば、第5実施形態の第2IDT電極505Bが第1IDT電極505Aと反射器7とに挟まれている場合において、第1IDT電極505Aに間引き電極19を設けるだけでなく、第2IDT電極505Bにも間引き電極19を設けてもよい。
<間引き電極の変形例>
図9(a)および図9(b)は、間引き電極の変形例を示す平面図である。
図9(a)に示すように、間引き電極61は、電極指13と同様の電極指63が、電極指13の奇数本の範囲に亘って、同一のバスバー11から延びることによって構成されていてもよい。また、図9(b)に示すように、そのような電極指63の先端が互いに接続され、間引き電極65が構成されていてもよい。このような間引き電極61または65によっても、ベタ状の間引き電極19と同様の効果が得られることが、発明者のシミュレーションによって確認されている。
<SAW素子の利用例>
図10は、SAW素子の利用例を示す模式図である。なお、図10では、第1実施形態のSAW素子1および第6実施形態のSAW素子601の符号を用いているが、これらのSAW素子は、他の実施形態のSAW素子に置き換えられてもよい。
図10は、分波器101を模式的に示している。分波器101は、例えば、送信端子105からの送信信号をフィルタリングしてアンテナ端子103へ出力する送信フィルタ109と、アンテナ端子103からの受信信号をフィルタリングして1対の受信端子107に出力する受信フィルタ111とを有している。
送信フィルタ109は、例えば、ラダー型フィルタによって構成されている。すなわち、複数のSAW素子1が直列に接続されるとともに並列に接続されている。なお、複数のSAW素子1を構成するIDT電極5および1対の反射器7は、例えば、同一の圧電基板3に設けられている。
受信フィルタ111は、例えば、互いに直列に接続されたSAW素子1およびSAW素子601によって構成されている。これらを構成するIDT電極5および1対の反射器7は、例えば、同一の圧電基板3に設けられている。この圧電基板3は、送信フィルタ109が構成される圧電基板3と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
なお、上記の説明から理解されるように、図1等において示した端子51および圧電基板3の縁部は便宜的なものである。
このように、歪信号を低減できる実施形態のSAW素子が分波器に利用されると、例えば、送信信号と妨害波信号とが混合されて、受信信号の周波数帯内の周波数を有する歪信号が生成されるおそれが低減される。その結果、SN比が向上する。なお、このような歪信号は、アンテナ端子103に近いSAW素子ほど生じやすいことから、アンテナ端子103に最も近いSAW素子において、本実施形態の間引き電極による歪信号の低減が行われることが好ましい。
図11は、分波器101を有する通信装置151の要部を示すブロック図である。通信装置151は、電波を利用した無線通信を行うものである。
通信装置151において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF−IC153によって変調および周波数の引き上げ(搬送波周波数の高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ155によって送信用の通過帯以外の不要成分が除去され、増幅器157によって増幅されて分波器101(送信端子105)に入力される。そして、分波器101は、入力された送信信号TSから送信用の通過帯以外の不要成分を除去し、その除去後の送信信号TSをアンテナ端子103からアンテナ159に出力する。アンテナ159は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号(電波)に変換して送信する。
また、通信装置151において、アンテナ159によって受信された無線信号(電波)は、アンテナ159によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器101に入力される。分波器101は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯以外の不要成分を除去して増幅器161に出力する。出力された受信信号RSは、増幅器161によって増幅され、バンドパスフィルタ163によって受信用の通過帯以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RSは、RF−IC153によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RISとされる。
なお、送信情報信号TISおよび受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された音声信号である。無線信号の通過帯は、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)等の各種の規格に従ったものでよい。送信用の通過帯と、受信用の通過帯とは、通常、互いに重なっていない。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせのいずれであってもよい。回路方式は、図11では、ダイレクトコンバージョン方式を例示したが、それ以外の適宜なものとされてよく、例えば、ダブルスーパーヘテロダイン方式であってもよい。また、図11は、要部のみを模式的に示すものであり、適宜な位置にローパスフィルタやアイソレータ等が追加されてもよいし、また、増幅器等の位置が変更されてもよい。
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
弾性波素子は、複数の電極指を有するものであればよい。なお、圧電基板と圧電基板上に設けられた層との境界において弾性波を伝搬させる、弾性境界波素子と呼ばれるもの(広義にはSAW素子に含まれる)も、本発明を適用可能な弾性波素子である。
櫛歯電極等のバスバーは、弾性波の伝搬方向に傾斜していてもよいし、屈曲していてもよい。1対の櫛歯電極は、複数の電極指の先端とギャップを介して対向するダミー電極を有していてもよい。1対の櫛歯電極は、複数の電極指の長さが変化する、いわゆるアポダイズが施されたものであってもよい。
間引き電極は、3本の電極指13に相当する範囲に亘るものに限定されず、例えば、5本または7本の電極指13に相当する範囲に亘るものであってもよい。
反射器と当該反射器に隣接するIDT電極とが接続される場合、1対の反射器のうち一方のみがIDT電極に接続されてもよい。1ポートSAW共振子だけでなく、多重モード型フィルタにおいても、反射器と、当該反射器に隣接するIDT電極とが接続されてもよい。
1対の櫛歯電極は、間引き電極とは異なり、電極指が文字通り間引かれた部分(電極指のピッチが半波長の2倍以上となる隙間)を有していてもよい。IDT電極間、または、IDT電極と反射器との間も同様である。