JP6422157B2 - ダイヤモンドのエッチング方法、ダイヤモンドの結晶欠陥の検出方法、およびダイヤモンド結晶の結晶成長方法 - Google Patents

ダイヤモンドのエッチング方法、ダイヤモンドの結晶欠陥の検出方法、およびダイヤモンド結晶の結晶成長方法 Download PDF

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この発明は、ダイヤモンドをエッチングする技術に関する。
ダイヤモンドは、高い強度と良好な熱伝導性を有しており、電子デバイス用の基板として注目を集めている。しかしながら、電子デバイス用の基板として使用するためには、表面が原子レベルで平坦であるとともに、加工により結晶欠陥等が導入されたダメージ層を除去する必要がある。
一般に、ダイヤモンド表面の平坦化が可能な加工方法には、スカイフ研磨、レーザ加工、イオンビーム加工、プラズマスパッタリング、熱化学研磨および化学機械研磨が挙げられる。しかしながら、これらの加工方法は、加工時間の長さ、加工コストの高さ、あるいは、加工技術の習熟の難度の高さ等の技術的な課題が多く、表面の加工ダメージが除去された平坦面を有するダイヤモンド基板を製造することは、必ずしも容易でない。
そこで、エッチングによりダメージ層を除去し、ダイヤモンド表面の結晶性を向上させることが試みられている。例えば、非特許文献1では、ステンレススチールの坩堝内に、試料と、比率が4:1の水酸化カリウム(KOH)および過酸化ナトリウム(Na)とを入れた後、730℃で加熱し、その後、KOHおよびNaを水で洗浄すること、および、これにより表面の結晶性が向上することが報告されている。しかしながら、洗浄した水は強アルカリ性となるため、廃液処理に注意を払う必要がある。さらに、Naは、極めて反応性が高い酸化性固体であり、その取り扱いは必ずしも容易ではない。
また、非特許文献2では、酸素(O)を745μmol/s、水素(H)を1378μmol/s流した雰囲気下で、ダイヤモンドを1100℃で3分処理することにより、窒化ケイ素(SiN)でパターンを形成した領域に底面が平坦な四角柱型ピットを形成できることが報告されている。しかしながら、この方法では、OとHの比率が化学量論的比率に近く、加熱炉内の雰囲気や排気への引火等を防止するために高いレベルの注意を払う必要がある。このように、エッチングによりダイヤモンドの表面を平坦化することは、容易ではない。
なお、ダイヤモンド表面の平坦化の要求は、必ずしも電子デバイス用のダイヤモンド基板の製造に限らない。例えば、宝飾用のダイヤモンドであれば、商品価値を高くするため、表面における光の反射率を高くして、ダイヤモンド全体がより良好に輝くようにすることが求められる。この場合においても、表面における光の反射率を高くするため、研磨面を平滑化して散乱を抑制することが期待されている。
さらに、ダイヤモンドを電子デバイス用の基板として用いるためには、製造された基板の結晶欠陥を低減することが求められる。結晶欠陥を低減するためには、基板における結晶欠陥の発生状況を評価する必要がある。ダイヤモンドの結晶欠陥は、電子線照射で発生する発光(カソードルミネセンス:CL)の強弱分布を走査型電子顕微鏡等を用いて観察するCLイメージングや、シンクロトロン放射光などの高輝度X線光源を用いたX線トポグラフィにより検出することが可能である。しかしながら、いずれの方法も、高価な設備が必要であり、結晶欠陥の発生状況を簡便かつ低コストで行うことが困難である。
そこで、エッチングにより結晶欠陥の位置にエッチピットを発生させ、発生したエッチピットを観察することが提案されている。このようなエッチピットを発生させるため、非特許文献3では、525℃の硝酸カリウム(KNO)の溶融液でエッチングすることが提案されており、また、非特許文献4では、600℃から900℃のKNO溶融液もしくは硝酸ナトリウム(NaNO)溶融液でエッチングすることが提案されている。しかしながら、これらの非特許文献では、{111}面上での転位の検出が報告されているものの、電子デバイス用基板の結晶欠陥の評価に適した(001)面上での転位の検出はされていない。
J. A. Maj, A. T. Macrander, G. J. Waldschmidt, S. F. Krasnicki, Y. Zhong, R. Khachatryan, Y. S. Chu, R. Erck, and J. Woodford, Adv. X-ray Anal., Vol. 48 (2005), p. 176-182 C.D. McGray, R. A. Allen, M. Cangemi, J. Geist, Rectangular scale-similar etch pits in monocrystalline diamond., Diamond and Related Materials, Vol. 20(2011), p. 1363-1365 A. R. Patel, Physica, Vol. 28 (1962), p. 44-51 A. F. Khokhryakov, Y. N. Palyanov, Journal of Crystal Growth, Vol. 293 (2006), p. 469-474
このように、ダイヤモンドの表面を平坦化するためのエッチングは、必ずしも容易ではなく、また、電子デバイス用の基板の結晶欠陥の評価に適したエッチピット発生させるエッチング方法は、未だ確立されていない。
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、ダイヤモンドをより容易にエッチングする技術を提供することを目的とする。
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
ダイヤモンドのエッチング方法であって、アルカリ金属ハロゲン化物からなる主剤と、アルカリ金属水酸化物を含む添加剤と、からなるエッチング剤を準備し、溶融した前記エッチング剤に前記ダイヤモンドを浸漬することにより、前記ダイヤモンドをエッチングする、ダイヤモンドのエッチング方法。この適用例によれば、ダイヤモンドの表面を平坦化するエッチングを行うことが可能になるとともに、電子デバイス用基板の結晶欠陥の評価に適したエッチピットを発生させることが可能となる。
[適用例2]
前記添加剤に含まれる前記アルカリ金属水酸化物は、前記主剤に対する重量比が0.5%から20%である、適用例1記載のダイヤモンドのエッチング方法。この適用例によれば、十分に速いエッチングレートでエッチングができるとともに、より容易に廃液を処理することが可能となる。
[適用例3]
適用例1または2記載のダイヤモンドのエッチング方法であって、前記添加剤は、さらに、遷移金属を含んでいる、ダイヤモンドのエッチング方法。この適用例によれば、より低いエッチング温度においても、十分に速いエッチングレートでエッチングができる。
[適用例4]
前記添加剤に含まれる前記遷移金属は、前記主剤に対する重量比が0.005%から1%である、適用例3記載のダイヤモンドのエッチング方法。この適用例によれば、エッチングレートを十分に速くするとともに、エッチング量をより適切に調整することができる。
[適用例5]
適用例3または4記載のダイヤモンドのエッチング方法であって、前記添加剤は、前記遷移金属として、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属を含んでいる、ダイヤモンドのエッチング方法。この適用例によれば、より速いエッチングレートでエッチングすることができる。
[適用例6]
ダイヤモンドの結晶欠陥の検出方法であって、ダイヤモンドを適用例1ないし5のいずれか記載のエッチング方法によりエッチングする工程と、前記エッチングにより発生したエッチピットを観察する工程と、を含む、ダイヤモンドの結晶欠陥の検出方法。この適用例によれば、電子デバイス用基板の結晶欠陥の評価に適したエッチピットを観察することで結晶欠陥を検出することができるので、より品質の高い電子デバイス用基板を製造することが容易となる。
[適用例7]
ダイヤモンドの種結晶上にダイヤモンドの結晶を成長させる結晶成長方法であって、前記種結晶の表面を適用例1ないし5のいずれか記載のエッチング方法によりエッチングするエッチング工程と、前記エッチングが行われた前記種結晶の表面にダイヤモンドの結晶を成長させる結晶成長工程と、を含む、結晶成長方法。この適用例によれば、表面の結晶性が良好な種結晶に結晶成長を行うことができるので、より結晶欠陥が少ないダイヤモンド結晶を成長させることができる。
[適用例8]
適用例7記載の結晶成長方法であって、さらに、前記エッチング工程の後、前記結晶成長工程の前に、化学機械研磨、もしくは、熱化学研磨により、前記エッチングが行われた前記種結晶の表面を平坦化する、結晶成長方法。この適用例によれば、加工によるダメージ層の形成を抑制するとともに、結晶成長が行われる表面をより平坦にすることができるので、より結晶欠陥が少ないダイヤモンド結晶を成長させることが可能となる。
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、ダイヤモンドのエッチング方法、そのエッチング方法を用いたダイヤモンド基板の製造方法およびダイヤモンド結晶の成長方法、その製造方法で製造されたダイヤモンド基板、その成長方法で成長されたダイヤモンド結晶、ダイヤモンドの結晶欠陥検出方法等の態様で実現することができる。
第1実施形態における基板製造工程を示す工程図。 基板製造工程におけるエッチング工程の具体例を示す説明図。 エッチング前におけるダイヤモンド基板の種結晶側の表面形態観察像。 エッチング後におけるダイヤモンド基板の種結晶側の表面形態観察像。 エッチング後におけるダイヤモンド基板の成長端側の表面形態観察像。 表面粗さの測定を行った領域の光学顕微鏡による表面形態観察像。 比較例における処理後のダイヤモンド基板の成長端側の光学顕微鏡による表面形態観察像。 Feを含むエッチング剤によりエッチングしたダイヤモンド基板の表面形態観察像。
本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施形態:
A1.ダイヤモンド基板の製造工程:
A2.エッチング工程:
A3.第1実施形態の実施例:
B.第2実施形態:
B1.エッチング剤:
B2.第2実施形態の実施例:
C.他の適用形態:
A.第1実施形態:
A1.ダイヤモンド基板の製造工程:
図1は、第1実施形態におけるダイヤモンド基板の製造工程(以下、単に「基板製造工程」とも呼ぶ)を示す工程図である。図1(a)ないし(e)は、ダイヤモンド基板等の各工程におけるワークの形態を示している。また、図1(c)ないし(e)において、破線は、各工程の実行前(すなわち、前工程の実行後)におけるワークの形態を示し、実線は、各工程の実行後におけるワークの形態を示している。
第1実施形態の基板製造工程では、まず、図1(a)に示すように、モザイク状ダイヤモンド基板MDS(以下、「モザイク基板」とも呼ぶ)を準備する。具体的には、モザイク基板MDSの面積よりも面積が小さいダイヤモンド種結晶SDBを準備する。このダイヤモンド種結晶SDBをスライスすることにより、複数の種結晶基板SDSを得る。次いで、得られた種結晶基板SDSを隙間なく配列し、配列した種結晶基板SDS上に種結晶基板SDSを接合するための単結晶ダイヤモンドの層(接合ダイヤモンド層)BDLを結晶成長させる。これにより、種結晶基板SDSが接合され、モザイク基板MDSが得られる。
次いで、図1(b)に示すように、種結晶基板SDSの接合ダイヤモンド層BDLとは反対側の面に、単結晶ダイヤモンド91を結晶成長させる。この単結晶ダイヤモンド91をモザイク基板MDSから分離することにより、ダイヤモンド基板(成長基板)91が得られる。図1(c)は、このように、単結晶ダイヤモンド91をモザイク基板MDSから分離した状態を示している。なお、モザイク基板MDSの作成や、成長基板91のモザイク基板MDSからの分離については、例えば、特開2010−150069号公報等に開示された技術を用いて行うことができる。
図1(c)に示すように、成長基板91の種結晶基板SDS側(種結晶側)91aの表面には、単結晶基板SDSの境界部分の痕(境界痕)PSBが発生する。この境界痕PSBは、隣接する単結晶基板SDSの間に間隙があるために生ずる。また、成長基板91の分離のためにイオン注入等により非ダイヤモンド層を形成している場合等においては、成長基板91の種結晶側91aの表面付近には、非ダイヤモンド層が残存する。一方、成長基板91のダイヤモンドの結晶成長端側(成長端側)91bの表面には、結晶成長を行う際に生じるバンチング等により凹凸が発生する。
そこで、第1実施形態では、成長基板91の両面をスカイフ研磨することにより、種結晶側91aの表面に生じた境界痕PSBおよび当該表面付近に残存する非ダイヤモンド層と、成長端側91bの表面の凹凸とを除去している。これにより、図1(c)に示すように、比較的大きな凹凸や非ダイヤモンド層等が除去されたダイヤモンド基板(研磨基板)92が得られる。なお、スカイフ研磨は、円盤状の鉄製の研磨盤にダイヤモンド砥粒を含むペーストを塗布し、研磨盤を回転させながら成長基板91の表面を押し当てることにより行われる。
スカイフ研磨では、十分に粒度の細かいダイヤモンド砥粒を用いることにより、研磨基板92の表面粗さを十分に小さくすることができる。しかしながら、基板と砥粒とがともにダイヤモンドであるため、研磨基板92の表面には、図1(d)に示すように、スクラッチ傷SCRが発生する。また、スカイフ研磨では、高い面圧で成長基板91が研磨盤に押し当てられるので、結晶欠陥等が導入され、研磨基板92の表面に、数μmから十数μmの厚さのダメージ層DMGが発生する。なお、スクラッチ傷SCRおよびダメージ層DMGは、研磨基板92の両面に発生するが、図1(d)では、図示の便宜上、研磨基板92の一方の表面に生じたスクラッチ傷SCRおよびダメージ層DMGを図示している。
第1実施形態では、このように研磨基板92の表面に発生するスクラッチ傷SCRおよびダメージ層DMGを除去するため、研磨基板92の表面をエッチングしている。このエッチングにより、スクラッチ傷SCRおよびダメージ層DMGが除去されたダイヤモンド基板(エッチング基板)93が得られる。なお、エッチングの具体的な方法については、後述する。
エッチング基板93では、研磨基板92に存在するスクラッチ傷SCRおよびダメージ層DMGが除去されているが、表面粗さは、必ずしも十分小さくなるとは限らない。そこで、第1実施形態では、表面をより平坦にするため、エッチング基板93に仕上研磨を施す(図1(e))。なお、図1(e)においても、図示の便宜上、エッチング基板93の一方の表面に生じた凹凸のみを図示している。この仕上研磨により、エッチング基板93の表面の凹凸が除去されたダイヤモンド基板94が得られる。仕上研磨は、例えば、加熱した鉄等の金属板にダイヤモンド基板を押し当て、鉄等の金属とダイヤモンドとの化学的な反応を用いて研磨する熱化学研磨や、酸化性の薬液を含む研磨剤で研磨を行う化学機械研磨等の種々の方法で行うことができる。
このように、第1実施形態では、エッチングによりスクラッチ傷SCRやダメージ層DMGを除去することができる。そのため、ダイヤモンド基板に加わった加工ダメージを除去するとともに、平坦面を有するダイヤモンド基板をより容易に製造することができる。なお、図1の例では、エッチングの前にスカイフ研磨を行い、エッチングの後に仕上研磨を行っているが、スカイフ研磨および仕上研磨の少なくとも一方を省略することも可能である。また、第1実施形態では、エッチングによりスクラッチ傷SCRやダメージ層DMGを除去しているが、一般に、エッチングを行うことにより、応力を加えることなくダイヤモンドの表面部分を除去できるので、スクラッチ傷SCRの他、基板(結晶)を製造する種々の工程において形成される表面損傷を除去することが可能である。
A2.エッチング工程:
図2は、第1実施形態の基板製造工程におけるエッチング工程の具体例を示す説明図である。第1実施形態において、エッチングは、マッフル炉20を用い、空気雰囲気中で加熱・溶融したエッチング剤中に研磨基板92を浸漬することにより行われる。エッチング剤としては、主剤としての塩化カリウム(KCl)に、添加剤としての水酸化カリウム(KOH)を適量添加したものを使用することができる。
エッチングは、まず、ヒータ22に囲まれたマッフル炉20の炉内24に配置され、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、アルミナ(Al)等のエッチング剤に対する耐食性を有する素材からなる坩堝30に、固体のエッチング剤および研磨基板92を装入する(図2(a))。次いで、マッフル炉20のヒータ22に通電して炉内24を昇温する。炉内24の温度(炉内温度)がエッチング剤の融点を超えると、図2(b)に示すように、坩堝30に装入された固体のエッチング剤が融解して、液状の溶融エッチング剤中に研磨基板92が浸漬された状態となる。なお、エッチング剤の融点は、主剤であるKClの融点(776℃)よりも低い温度となる。
昇温は、エッチング剤が溶融した後も、炉内温度が所定のエッチング温度(後述する)に到達するまで継続される。炉内温度がエッチング温度に到達した後、所定の保持時間(例えば、5時間)炉内温度をエッチング温度に保持することにより、研磨基板92の表面はエッチングされ、エッチング基板93が得られる。なお、保持時間は、エッチング剤によるダイヤモンド基板のエッチングレートと、スクラッチ傷SCR(図1(d))の深さやダメージ層DMGの厚さとに基づいて、適宜変更される。
保持時間の経過後、炉内24は降温される。降温により、炉内温度がエッチング剤の融点を下回ると、図2(c)に示すように、坩堝30中の溶融エッチング剤が凝固して、固体エッチング剤中にエッチング基板93が埋め込まれた状態となる。炉内温度が略室温になった後、固体エッチング剤とエッチング基板93は、水中に投入される。これによりエッチング基板93を覆う固体エッチング剤が溶解し、図2(d)に示すように、エッチング基板93が取り出される。
エッチング剤におけるKOHの添加量は、KCl重量に対するKOH重量の比(KOH重量比)が0.5%以上であれば適宜設定することができる。但し、KOH重量比が低くなると、KOHを添加した効果が減弱する。そのため、KOH重量比は、1.0%以上とするのが好ましい。一方、KOH重量比が高くなると、溶融エッチング剤の表面からのKOHの蒸発量が増加し、坩堝30やマッフル炉20等のエッチング装置を腐食する虞がある。また、エッチング基板93を取り出すために、固体エッチング剤とエッチング基板93とを投入した水が強アルカリ性となり、廃液処理時の環境負担が大きくなる。そのため、KOH重量比は、20%以下とするのが好ましい。さらに、KOH重量比が高くなると、エッチング速度が速くなり、エッチング基板93の平坦性が低下する可能性がある。そのため、KOH重量比は、5%以下とするのがより好ましい。
エッチング温度は、エッチング剤の主剤であるKClの融点(776℃)から1300℃の範囲で適宜設定することが可能である。但し、エッチングの温度が低くなると、エッチング速度が急激に低下する可能性がある。そのため、エッチング温度は、900℃以上とするのが好ましい。一方、エッチング温度が添加剤であるKOHの沸点(1327℃)に近くなるとKOHの蒸発量が急激に増加する。そのため、エッチング温度は、1200℃以下とするのが好ましい。
なお、図2の例では、予め固体エッチング剤および研磨基板92を坩堝30に装入し、その坩堝30をマッフル炉20で加熱することによりエッチングを行っているが、エッチングの方法はこれに限定されない。例えば、予めエッチング剤を溶融し、溶融されたエッチング剤中に研磨基板を浸漬するものとしても良い。
第1実施形態では、エッチング剤の主剤としてKClを利用しているが、KClに換えて、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)等の種々のアルカリ金属ハロゲン化物(アルカリハライド)を利用することもできる。また、複数のアルカリ金属ハロゲン化物を混合したものを主剤として用いることも可能である。但し、入手がより容易である点で、KClとNaClとの少なくとも一方を主剤として使用するのが好ましい。また、エッチング剤の添加剤として、KOHに換えて、水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化リチウム(LiOH)等の他のアルカリ金属水酸化物を利用することもでき、複数のアルカリ金属水酸化物を混合して用いることも可能である。
A3.第1実施形態の実施例:
[実施例]
第1実施形態の実施例では、第1実施形態によりエッチングが可能であることを確認するため、モザイク基板(図1のモザイク基板MDS)上に結晶成長させた後、モザイク基板から分離したダイヤモンド基板(図1の成長基板91)を準備した。この準備したダイヤモンド基板の表面形態を、光学顕微鏡で観察し、また、重量と厚さを測定した。
次いで、ダイヤモンド基板のエッチングを行った、具体的には、まず、アルミナ(Al)製の坩堝にKOH重量比が1.6%のエッチング剤とダイヤモンド基板とを装入した後、坩堝をマッフル炉中に配置し、マッフル炉を昇温した。炉内温度がエッチング温度の1100℃に到達した後、5時間の保持時間にわたり、炉内温度を1100℃に維持した。保持時間の経過後、降温し、炉内温度が略室温に達した後、坩堝をマッフル炉から取り出した。取り出した坩堝ごとエッチング剤と、エッチングされたダイヤモンド基板とを水中に投入することにより、エッチング剤を溶解させ、エッチングされたダイヤモンド基板を得た。
次いで、このように得られたエッチング後のダイヤモンド基板の評価を行った。具体的には、光学顕微鏡を用いて、ダイヤモンド基板の種結晶側および成長端側(図1における種結晶側91aおよび成長端側91b)の表面の形態を観察した。また、成長端側の表面粗さを測定した。さらに、エッチングレートを算出するため、エッチング前と同様に、ダイヤモンド基板の重量と厚さを測定した。エッチング前後のダイヤモンド基板の厚さの変化から算出される片面のエッチングレートは、1.9μm/hであった。また、エッチングにより、ダイヤモンド基板の重量は、16.6%減少した。
図3は、エッチング前におけるダイヤモンド基板の種結晶側の表面形態観察像である。図3(a)は、基板全体の観察像であり、図3(b)は、図3(a)において左側の正方形で示した領域(左側正方領域)の拡大像であり、図3(c)は、図3(a)において右側の正方形で示した領域(右側正方領域)の拡大像である。図3(a)ないし図3(c)に示すように、エッチング前の状態では、ダイヤモンド基板の表面には、結晶製造工程による表面損傷が多数観察された。なお、図3(a)において、矢印で示した部分が境界痕PSB(図1)であり、その他の基板全体を分割する[100]方向および[010]方向の線は、基板全体の観察像を生成した際に現れたアーチファクト(偽像)である。
図4は、エッチング後におけるダイヤモンド基板の種結晶側の表面形態観察像である。図4(a)は、基板全体の観察像であり、図4(b)および図4(c)は、それぞれ、図4(a)において正方形で示した左側正方領域および右側正方領域の拡大像である。図4(a)ないし図4(c)に示すように、エッチング前(図3)に存在した多数の表面損傷は、エッチングを行うことにより除去された。一方、右側正方領域の右下に位置する多数の黒い点は、結晶欠陥の位置に現れたエッチピットである。
図5は、エッチング後におけるダイヤモンド基板の成長端側の表面形態観察像である。図5(a)は、基板全体の観察像であり、図5(b)は、図5(a)において正方形で示した、正方領域の拡大像である。この正方領域は、矢印で示す境界痕PSB(図1)の上に位置している。図5(a)から分かるように、エッチング後の表面は、略平坦な面となっている。一方、境界痕PSB(図1)の上に生じた欠陥がエッチピットとして現れた。なお、図5(b)に示すように、結晶欠陥の位置に現れるエッチピットは、逆ピラミッド形をしている。このような逆ピラミッド形のエッチピットの形状が非対称的な形状に変化している場合、その形状の変化の様子に基づいて、転位の進展方向を把握することができる。また、逆ピラミッド形状の頂点が消失している場合、結晶欠陥が加工で導入された転位であると判断することができる。
図6は、表面粗さの測定を行った領域の表面形態の光学顕微鏡による観察像である。表面粗さは、図6の破線に沿って測定した。表面粗さRaは、0.087μmであり、原子レベルでの平坦性は得られなかったが、仕上研磨における研磨量を十分に少なくすることが可能であることが判った。
[比較例]
比較例として、実施例と同様にダイヤモンド基板を準備し、そのダイヤモンド基板のエッチングを試みた。比較例では、エッチング剤のKOH重量比を0.4%とし、エッチング時の保持時間を0.5時間とした。他の点は、実施例と同じである。
図7は、比較例における処理後のダイヤモンド基板の成長端側の光学顕微鏡による表面形態観察像である。図7に示すように、比較例では、バンチングにより生じた斜めに伸びる線状の凹凸が観察された。これは、処理前の表面形態として現れていたものと同等であり、エッチング剤のKOH重量比を0.4%とすることにより、エッチングがほとんど進まなかったものと考えられる。また、ダイヤモンド基板の重量および厚さは、エッチングの前後でほとんど変化しなかった。
このように、KClにKOHを添加したエッチング剤を溶融し、溶融したエッチング剤にダイヤモンド基板を浸漬することにより、ダイヤモンド基板のエッチングが可能であることが判った。また、このエッチングにより、ダイヤモンド基板の表面を十分に平坦にすることができるとともに、エッチピットを発生させて転位等の欠陥を検出することが可能であることが判った。
B.第2実施形態:
B1.エッチング剤:
第2実施形態は、エッチング工程において使用するエッチング剤が異なっている点で、第1実施形態と異なっている。他の点は、第1実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。具体的には、第2実施形態は、添加剤としてKOHに加えて鉄(Fe)を添加している点で、添加剤としてKOHのみを添加している第1実施形態と異なっている。
第2実施形態では、エッチング剤にKOHに加えてFeを添加することにより、Feを添加しない第1実施形態よりもエッチングレートをより速くすることができる。なお、Feに換えて、複数の酸化数をとり得る他の遷移金属を単独で、もしくは、Feを含む遷移金属を複数組み合わせて添加することも可能である。但し、よりエッチングレートを速くすることが可能となる点で、遷移金属のうち、Fe、クロム(Cr)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属を添加するのが好ましい。
エッチング剤におけるKOHの添加量は、第1実施形態と同様に決定される。KCl重量に対するFe重量の比(Fe重量比)は、0.002%から1%の範囲で適宜設定することができる。但し、Fe重量比が小さくなると、Feを添加した効果が減弱する。そのため、Fe重量比は、0.005%以上とするのが好ましく、0.01%以上とするのがより好ましい。また、Fe重量比が大きくなるとエッチングレートが急激に上昇し、エッチング量の調整が困難となる。そのため、Fe重量比は、0.5%以下とするのが好ましい。
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、KClに換えて、種々のアルカリ金属ハロゲン化物、あるいは、複数のアルカリ金属ハロゲン化物を混合したものを主剤として用いることができる。また、添加剤に含まれるKOHに換えて、種々のアルカリ金属水酸化物、あるいは、複数のアルカリ金属水酸化物を混合したものを用いることも可能である。
B2.第2実施形態の実施例:
[実施例1]
第2実施形態の第1の実施例(実施例1)は、エッチング剤が異なっている点を除き、準備するダイヤモンド基板や、エッチングの方法および条件等は、第1実施形態の実施例と同一である。そのため、ここでは、使用したエッチング剤と、そのエッチング剤でのエッチング結果について説明し、第1実施形態の実施例と同一の部分についてはその説明を省略する。
実施例1では、KOH重量比を第1実施形態の実施例と同じ1.6%にするとともに、Fe重量比を0.1%および0.25%としてエッチング剤を調製した。そして、調製したエッチング剤とダイヤモンド基板とを坩堝に装入してエッチングを行った。
その結果、いずれの試料も、5時間のエッチングでダイヤモンド基板が完全に消失した。このことから、Feの添加量をFe重量比で0.1%以上とすることにより、エッチングレートを20μm/h以上とすることができることが判った。
[実施例2]
第2実施形態の第2の実施例(実施例2)では、KOH重量比を実施例1と同じ1.6%にするとともに、Fe重量比を0.02%とし、エッチング温度を900℃とした。また、エッチングを行う際の保持時間を10分とした。他の点は、実施例1と同じである。
図8は、Feを添加したエッチング剤でエッチングしたダイヤモンド基板の表面形態観察像である。図8(a)は、エッチング後における種結晶側の表面形態観察像であり、図8(b)は、エッチング後における成長端側の表面形態観察像である。図8に示すように、Feを添加したエッチング剤を用いることによっても、ダイヤモンド基板の表面を平坦化するエッチングを行うことができるとともに、結晶欠陥に対応するエッチピットを発生させることが可能であることが分かった。また、このエッチングにより、ダイヤモンド基板の重量は、約1%減少した。このことから、第2実施形態のようにエッチング剤にFeを添加することにより、Feを添加しない第1実施形態よりも低いエッチング温度(実施例2では900℃)においても、エッチングレートを十分に速くすることができることが分かった。
C.他の適用形態:
上記各実施形態では、溶融したエッチング剤にダイヤモンド基板を浸漬してエッチングすることにより、スクラッチ傷SCR(図1)やダメージ層DMG等を除去するものとしているが、このエッチング方法は、他の目的にも使用できる。
C1.適用形態1:
上述のように、上記各実施形態のエッチングにより、ダイヤモンド基板にエッチピットが発生する。そのため、上記各実施形態のエッチング方法を適用してエッチピットを発生させ、発生したエッチピットを観察することにより、ダイヤモンド基板の結晶欠陥を検出することができる。なお、この場合、エッチピットをより確実に発生させるため、エッチング温度は、1000〜1100℃にするのが好ましい。一方、エッチピットの発生を抑制し、エッチング後の表面をより平坦にするためには、エッチング温度は、900℃以下とするのが好ましい。
C2.適用形態2:
上記各実施形態では、モザイク基板MDS(図1)上に結晶成長された単結晶ダイヤモンド基板91の加工にエッチングを使用しているが、上記各実施形態のエッチング方法により、モザイク基板MDSを構成する種結晶基板SDSの表面や、他の種結晶の表面をエッチングし、その上に単結晶ダイヤモンドを結晶成長させることも可能である。この場合においても、エッチングの後、仕上研磨を行うのが好ましい。
C3.適用形態3:
また、上記各実施形態では、ダイヤモンド基板をエッチングするために上記各実施形態のエッチング方法を用いているが、エッチングの対象は、ダイヤモンド基板に限定されない。例えば、宝飾用ダイヤモンドのエッチングを行い、研磨時のスクラッチ傷を除去して表面を平滑化するものとしても良い。このように表面を平滑化すると、表面での光の反射率が高くなり、宝飾用ダイヤモンドがより良好に輝くようになる。
20…マッフル炉
22…ヒータ
24…炉内
30…坩堝
91…成長基板
92…研磨基板
93…エッチング基板
94…ダイヤモンド基板
BDL…接合ダイヤモンド層
DMG…ダメージ層
MDS…モザイク基板
PSB…境界痕
SCR…スクラッチ傷
SDB…ダイヤモンド種結晶
SDS…種結晶基板

Claims (8)

  1. ダイヤモンドのエッチング方法であって、
    アルカリ金属ハロゲン化物からなる主剤と、アルカリ金属水酸化物を含む添加剤と、からなるエッチング剤を準備し、
    溶融した前記エッチング剤に前記ダイヤモンドを浸漬することにより、前記ダイヤモンドをエッチングする、
    ダイヤモンドのエッチング方法。
  2. 前記添加剤に含まれる前記アルカリ金属水酸化物は、前記主剤に対する重量比が0.5%から20%である、請求項1記載のダイヤモンドのエッチング方法。
  3. 請求項1または2記載のダイヤモンドのエッチング方法であって、
    前記添加剤は、さらに、遷移金属を含んでいる、
    ダイヤモンドのエッチング方法。
  4. 前記添加剤に含まれる前記遷移金属は、前記主剤に対する重量比が0.005%から1%である、請求項3記載のダイヤモンドのエッチング方法。
  5. 請求項3または4記載のダイヤモンドのエッチング方法であって、
    前記添加剤は、前記遷移金属として、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属を含んでいる、
    ダイヤモンドのエッチング方法。
  6. ダイヤモンドの結晶欠陥の検出方法であって、
    ダイヤモンドを請求項1ないし5のいずれか記載のエッチング方法によりエッチングする工程と、
    前記エッチングにより発生したエッチピットを観察する工程と、
    を含む、
    ダイヤモンドの結晶欠陥の検出方法。
  7. ダイヤモンドの種結晶上にダイヤモンドの結晶を成長させる結晶成長方法であって、
    前記種結晶の表面を請求項1ないし5のいずれか記載のエッチング方法によりエッチングするエッチング工程と、
    前記エッチングが行われた前記種結晶の表面にダイヤモンドの結晶を成長させる結晶成長工程と、
    を含む、
    結晶成長方法。
  8. 請求項7記載の結晶成長方法であって、さらに、
    前記エッチング工程の後、前記結晶成長工程の前に、化学機械研磨、もしくは、熱化学研磨により、前記エッチングが行われた前記種結晶の表面を平坦化する、
    結晶成長方法。
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