パーソナルコンピュータから出力されるデータ画像などを拡大投射して表示させる画像表示装置(以下「プロジェクタ」ともいう。)は、会議や教育現場などの様々なシーンにおいて用いられている。
図11は、プロジェクタにおける投射光学系の光取り込み範囲を示す図である。同図に示すように、プロジェクタでは、ランプ110から出射された光(照明光)が、ロッドインテグレータ112と照明用レンズ140,150とからなる照明光学系111を通過する。照明光学系111を通過した光は、例えばDMD(Digital Micromirror Device)のような反射型の画像表示素子220を照明する。プロジェクタでは、照明光により照明された画像表示素子220から反射された拡大像を投射光学系210により不図示のスクリーンに投射する。
画像表示素子220は、傾斜角αを例えば+12°〜−12°の範囲で変えることができる多数のマイクロ(微小)ミラーからなるデバイスである。
図11に(A)で示すように、投射光学系210のレンズ(投射レンズ)の光取り込み範囲は、例えばマイクロミラーの角度が−12°のときに照明光の反射光が投射レンズ210に入り、+12°のときに反射光が投射レンズ211に入らないように設定する。
また、図11に(B)で示すように、投射光学系210の光取り込み範囲は、画像表示素子220の表面に取り付けられた不図示のカバーガラスからの反射光が、投射レンズに入ってスクリーンに映りこまないように設定する。さらに、図11に(C)で示すように、投射光学系210の光取り込み範囲は、画像表示素子220の電源が入っていない状態の傾斜角のときの反射光が、投射レンズに入ってスクリーンに映りこまないようにも設定する。
照明光が画像表示素子220に向かう角度を設定した上で画像表示素子220の各マイクロミラーの傾斜角を制御することにより、プロジェクタは、スクリーン上にデジタル画像を形成することができる。
ところで、DMDは、マイクロミラーの最大傾斜角を増加させる方向で技術が進歩している。
例えば、図11に(A)で示す投射光学系の光取り込み範囲は、DMDのマイクロミラーの傾斜角の範囲が±10°であれば図11の断面方向において20°であり、マイクロミラーの傾斜角の範囲が±12°であれば図11の断面方向において24°である。
図12は、プロジェクタにおける照明光学系111の光取り込み範囲と投射光学系210の光取り込み範囲との関係を示す図である。同図において、照明光学系111の光取り込み範囲と投射光学系210の光取り込み範囲とを、画像表示素子220の画像面の短辺と投射光学系210の光軸APを含む断面で示す。なお、同図に示す断面は、プロジェクタの画像表示素子220の画像面への垂線を含む任意の断面ともいえる。
図12に示すように、照明光学系111のロッドインテグレータ112の出口(ランプ110からの入射光を出射する口)の図12の断面上での幅をL、ロッドインテグレータ112の出口から出射される光線範囲を示す角度をθ、画像表示素子220の幅をL2、投射光学系210の光取り込み範囲を示す角度をθ2とすると、下記の式1が成立する.
L・sin(θ/2)≒L2・sin(θ2/2) ・・・(式1)
ここで、ロッドインテグレータ112が一般的な4枚の平板鏡を組み合わせたものであれば、θはランプ110のサイズにより決まる定数である。また、L2は画像表示素子220のサイズで決まる定数である。つまり、投射光学系210の光取り込み範囲θ2が、20°から24°に大きくなると、ロッドインテグレータ112の出口径(および入口径)Lを大きくすることができる。
図12に示すように、ランプ110からの光は、ロッドインテグレータ112の入口に入射させるときに一度集光させているが,この集光点は実際には大きさを持つ。集光点の大きさは、ランプ110のリフレクタの設計や加工による誤差、あるいはランプ110の発光部の大きさによって、ロッドインテグレータ112の入口径Lよりも大きなサイズになる。集光点の大きさによる光損失は、照明光学系111の光利用効率を大きく損なう。
以上のように、投射光学系210の光取り込み範囲θ2を拡大することにより、ロッドインテグレータ112のサイズが拡大することができる。ロッドインテグレータ112のサイズが拡大することができることにより、ランプ110からロッドインテグレータ112への光取り込み量が増えるため、投射光学系210から投影される光量を増加させることができる。
また、投射光学系210の光取り込み範囲θ2を拡大することにより、画像表示素子220のマイクロミラー間で回折格子のように発生する回折光を投射光学系210に取り込み投射光学系210から投射する光量を増加させることができる。
しかしながら、画像表示素子220のマイクロミラーの最大傾斜角が拡大するに従い、
投射光学系210の光取り込み角θを拡げると,画像表示素子220により表示される画像にムラ(照度ムラ)が生じ、ひいては投影画像にも照度ムラが生じることが判明した。
図13は、プロジェクタにおける照明光の端部光線が画像表示素子220に入射する様子の例を示す図である。同図に示すように、投射光学系210の光取り込み角θ2を拡げることは、すなわち照明光学系111が画像表示素子220を照射する範囲(同じくθ2)を拡げることを意味する。このため、図13に示すように、照明光の端部の光線(下光線)LLが画像表示素子220に入射する角度ζは小さくなる。
図14は、プロジェクタにおける照明光の端部光線が画像表示素子220に入射する様子の別の例を示す図である。同図に示すように、ζは,θ2のほかに、投射光学系210の光軸APと画像表示素子220の画像中心とのずれ量(オフセット量OF)と、画像表示素子220の上の照明位置によって決まる。
図14は、図13よりも上述のオフセット量OFを増やした場合を示し、画像表示素子220から投射光学系210へ光を導くために照明光学系111から画像表示素子220への照明光の角度(傾き)を、全体的に大きくしている。つまり、オフセット量OFを増やし照明光学系111から画像表示素子220への照明光の角度を多くすることにより、プロジェクタにおいては、照明光の端部光線が画像表示素子220に入射する角度ζ1が小さくなる。
また、図13に示すように、投射光学系210の光軸APから遠い側(オフセット側)の端部光線角度ζ1の方が、投射光学系の光軸APから近い側(オフセット反対側)の端部光線の角度のζ2よりも小さくなる(ζ1<ζ2)。これは、ロッドインテグレータ112から出た光は、ロッドインテグレータ112と画像表示素子220との間の正屈折力の光学部品(例えば、凸レンズ)によって,収束光束になるためである。
また、一般に画像表示素子220には、画像表示面(マイクロミラーアレイ面)の上にカバーガラスが配置されている。マイクロミラーの最大傾斜角を増やし、投射レンズ211のθ2を大きくすると、カバーガラスの正反射により光が反射されるため、カバーガラスでの透過率が低下する。
なお、カバーガラスの正反射による透過率低下の割合は、上述のオフセット側で最も大きく,オフセット反対側で最も小さい。
カバーガラスの正反射による透過率低下により、画像表示素子220の画像面には照度ムラが発生し、ひいてはスクリーン画像の照度ムラに発展する。照度ムラは、ζ1が45°程度であれば無視することができるレベルであったが,ζ1が30°よりも小さくなると,カバーガラスの両面に反射防止コーティングを施しても無視することができないレベルの照度差になっていた。
また、カバーガラスへの光線入射角度ζが減少することにより、カバーガラスにより反射された図11に示した(B)の光の光量が増えると、この光が画像表示素子220や投射光学系210の周囲の部材に当たることで乱反射光が増えることになる。そして、この乱反射光は、投射レンズ211に入ることにより、スクリーン上にゴースト光として映り込む、画像のコントラストを下げるなどの要因になる。
図15は、プロジェクタにおける画像表示素子220とプリズムと投射光学系210の例を示す光学配置図である。同図に示すように、プロジェクタにおいて、画像表示素子220と投射光学系210との間に第1プリズム36と第2プリズム38が配置されている。
第1プリズム36と第2プリズム38とのエアギャップにおいて、画像表示素子220から投射レンズ211に向かう光は、第1プリズム36から出射するときに大きく屈折する。また、第1プリズム36から出射した光が第2プリズム38に入射するときにも、屈折により入射角度ζ5が小さくなるため、光の透過率が低くなる。
図16は、プロジェクタにおける画像表示素子220とプリズムと投射光学系210の別の例を示す光学配置図である。同図において、図15と同様に、プロジェクタにおいて、画像表示素子220と投射光学系210との間に第1プリズム36と第2プリズム38が配置されている。
図16に示すように、画像表示素子220からの光がθ2の拡がり角を持っているため、投射レンズ211の中心に入る光線よりも、特に、投射レンズに入る光線束の端の光線が第2プリズム38に入射する角度ζ6が小さくなる。このため、画像表示素子220からの光のθ2が大きくなると、光線の透過率が最も低くなる。第1プリズム36と第2プリズム38との間で透過されなかった光線は、ゴースト光になるため、スクリーン画像のコントラスト低減の要因になる。
以上のように、プロジェクタにおいて、画像表示素子220のマイクロミラーの最大傾斜角(チルト角)が増えることに対応して投射光学系210の光取り込み角θ2を拡大したときに、上述の要因により高品質な画像が得られないという問題があった。
なお、画像表示装置において、開口絞りと画像表示素子との間にアンダーな像面湾曲のレンズ群を有することにより、照度ムラを改善する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1の技術は、画像表示素子220のマイクロミラーの最大傾斜角が増えることによる照度ムラ、光利用効率の低下、ゴースト光の発生などという問題には対応することが考慮されていない。
以下、本発明に係る画像表示装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る画像表示装置の実施の形態を示す光学配置図である。同図に示すように、本実施の形態において、画像表示装置120は、画像表示素子22と、光源からの光を照明する照明光学系10と、画像表示素子22からの光を拡大投射する投射光学系121とを有する。なお、画像表示装置120は、この他にいずれも不図示の凹面反射ミラーやカバーガラスなどを有していてもよい。
●照明光学系の構成
次に、画像表示装置120の照明光学系の構成について説明する。
図1に示すように、照明光学系10は、ランプ11から順に、リフレクタ12と、ロッドインテグレータ13と、照明用レンズ14と、照明用レンズ15と、ミラー16と、曲面ミラー18とが配置されている。
ランプ11は、光源として超高圧水銀ランプや、LD(Laser Diode)やLED(Light Emitting Diode)などの固体光源を使用することができる。光源としてLDやLEDを使用することにより、ランプは、超高圧水銀ランプを使用した場合に比べて長寿命であり色再現性が向上する。
リフレクタ12は、ランプ11が発した光を一定の方向(ロッドインテグレータ13の開口部方向)に向けて反射する。リフレクタ12は、ランプ11が発した光をロッドインテグレータ13の開口部に向けて集光させるために、例えば楕円面形状を有する。
ロッドインテグレータ13は、光の進行方向において、リフレクタ12の後段に配置されている。ロッドインテグレータ13は、入射した光の照度を均一にして出射する照度均一化素子である。
ロッドインテグレータ13は、両端に開口部を有する四角柱型の中空構造を有する。ロッドインテグレータ13は、中空構造の内面が4枚の反射ミラーで構成されている。
つまり、ロッドインテグレータ13は、一端の開口部から入射した光が反射ミラーにより内部反射して、他端の開口部から均一な照度分布の光として出射するように構成されている。ここで、ロッドインテグレータ13の開口部の開口のサイズは、例えば6mmx4mmである。
照明用レンズ14と照明用レンズ15は、ロッドインテグレータ13からの光の進行方向において、ロッドインテグレータ13の後段に配置されている。照明用レンズ14と照明用レンズ15は、例えばリレーレンズである。照明用レンズ14と照明用レンズ15は、ロッドインテグレータ13から出射された光をミラー16へと導光する導光手段である。
ミラー16は、ロッドインテグレータ13からの光が画像表示素子22を照明するように、光の進行方向を変更する手段である。ミラー16によって、図1の+A軸方向へと進行してきた光は、進行方向が変更される。
曲面ミラー18は、ミラー16からの光を画像表示素子22に入射させるように、光の進行方向を変更する手段である。
●画像表示素子の構成
画像表示素子22は、複数の微小ミラーが二次的に配置されている例えばDMD(Digital Micromirror Device)などである。画像表示素子22は、例えば、一辺が10μm程度の正方形ミラーを表示画素に対応させて配列してなる。表示する画像の解像度の規格がWXGA規格であれば、これに対応する画像表示素子22の微小ミラーは、1280×800個の配列になる。画像表示素子22上の画像の表示サイズは、変更可能(可変)である。
画像表示素子22が備える各微小ミラーの形状は、正方形である。各微小ミラーは、2次元的に配列された状態から対角方向において±12度の傾きを形成できるようになっている。この各微小ミラーの傾きは、被投射面であるスクリーンに表示する画像の映像信号に基づいて適宜制御されて切り替わる。
例えば、微小ミラーの角度が+12度の状態をON状態、微小ミラーの角度が−12度の状態をOFF状態とする。画像表示素子22を照明した光は、ON状態の微小ミラーによって投射光学系121に向けて反射される。一方、OFF状態のミラーを照明した光は、投射光学系121が配置されている方向とは異なる方向へと反射される。投射光学系121に向けて反射された光は、画像情報として投射光学系121を通過して、スクリーン上へと投射される。一方、その他の反射光は、照明光学系10が設置される図示しないハウジングに配置されている吸収部材などによって吸収される。
ここで、画像表示素子22は、微小ミラーを照明する光により、2次的な面光源(ライトバルブ)として作用するため、反射型ライトバルブともいう。
各微小ミラーの傾きは、映像信号に基づいて制御される。また、照明光の色変換を行うカラーホイール12の動作も映像信号に基づいて制御される。この制御によって、映像信号に基づく画像が画像表示素子22によって形成され、これがスクリーン上に拡大投射されて表示される。
なお、画像表示素子22の前面側(微小ミラーの反射面が配置されている側)には、保護ガラスが配置されている。
●投射光学系の構成
次に、画像表示装置120が備える投射光学系121の構成について説明する。
投射光学系121は、画像表示素子22において反射された光を図示しないスクリーンに投射するための投射レンズ群である。なお、図1において、投射レンズ群を所定の配置で保持するレンズ鏡胴などは図示を省略している。
照明光学系10によって画像表示素子22に照射された光のうち、画像表示素子22の個々の微小ミラーのON状態の画素に対応する光が、画像情報として投射光学系121を通り抜けて拡大投射される。投射光学系121を通過した光は、図示していないスクリーンに投射されスクリーン上に画像を形成する。
●開口部の構成
次に、画像表示装置120が有する開口部について説明する。
図2は、図1に示す画像表示装置120が備える開口部の配置の例を示す光学配置図である。同図に示すように、画像表示装置120は、ランプ11とロッドインテグレータ13との間に、ロッドインテグレータ13に入射する光線束の幅を制約する開口部17を有する。
また、図3は、参考例の画像表示装置の例を示す光学配置図である。参考例の画像表示装置は、先に説明した図13に示したプロジェクタと同様の構成を有する。
画像表示装置において、表示される画像に照度ムラやゴースト光を生じさせるのは、図3において角度ζ1や角度ζ2で画像表示素子220に入射する光線である。このような光線の発生源をランプ110まで辿ると、図3において点線で示したように、リフレクタ12で反射された光線のうち、ロッドインテグレータ13に対して大きな角度で入射する光線であることがわかる。
そこで、画像表示装置120では、この光線を開口部17により遮光することにより、ロッドインテグレータ13に入射させないようにする。
つまり、図2に示すように、開口部17を有する画像表示装置120において照明光学系10から画像表示素子22に向かう光線角度の最小値は、ζ3またはζ4になる(ζ1<ζ3,ζ2<ζ4)。
したがって、開口部17を有する画像表示装置120によれば、照明光学系10から画像表示素子22に向かう光線角度の分布が小さくなるため、画像表示素子22の面上での照度分布が一様化される。このため、画像表示装置120によれば、画像表示素子22のカバーガラスにおける透過率分布を小さくすることができる。
また、開口部17を有することにより、画像表示装置120によれば、ζ3の光線やζ4の光線透過率が上がり、乱反射光によるゴースト光の減少に繋がるため、ゴースト光の発生を減少させることができる。
特に、投射光学系121の光取り込み範囲の境界を通る光線は、照明光学系10を構成する部品の加工誤差や組付け誤差等により、本来は投射光学系121に取り込まれない光線が、投射光学系121の光取り込み範囲に含まれてしまう場合がある。この場合には、そのような光によりゴースト(異常画像)がスクリーンに映り込む、あるいはスクリーン画像のコントラスト低減を引き起こすおそれがある。
一方、上述の光取り込み範囲の境目の光線は、画像表示素子22と投射光学系121との間に設けた遮光部品により遮光することが可能である。また、投射光学系121の光軸APと画像表示素子22の画像中心とのずれ(オフセット)された画像表示素子22のオフセット方向と反対側の光量が増えることによるフレア光も、同様の遮光部品により遮光することが可能である。
しかし、この場合に、遮光部品が高温になると、遮光部品が膨張することにより、画像表示素子22と投射光学系121との位置関係が変わるため、投影画像性能(特にピント性能)が劣化するおそれがある。
したがって、投射光学系121から遠い、ランプ11とロッドインテグレータ13との間で遮光する開口部17を有することは、投影画像の品質を確保する点においても優れている。
さらに、図16で説明した角度ζ6で第2プリズム38に入射する光線も、開口部17を有することにより、入射角度がζ6よりも大きくなる。このため、画像表示装置120によれば、画像表示素子22と投射光学系121との間に配置されている第1プリズム36と第2プリズム38で発生するフレア光が少なくなり、スクリーン画像への不要光入射が減少し、コントラストを改善することができる。
次に、開口部17の開口形状について説明する。
図4は、図1に示す画像表示装置が備える開口部の第1の例を示す正面図である。同図に示すように、画像表示装置120において、ランプ11の発光源を含むリフレクタ12の中心軸をランプ光軸AL(光源の光軸)とする。同図は、図2に垂直な断面においてランプ11をロッドインテグレータ13側から(正面から)見た図である。
開口部17は、開口制御部171を有する。開口部17は、正面視ランプ光軸ALを中心とした中央に円形の開口形状を有する円形である。開口制御部171は、開口部17の開口形状の一部に沿った円弧状の外縁を有し円弧の両端を直線状に結んだ形状を有する。このような開口形状と開口制御部171とを有することにより、開口部17は、開口形状がランプ光軸ALに対して回転非対称な形状となる。このような開口部17を有することにより、画像表示装置120によれば、リフレクタ12により反射された照明光のうち、画像表示素子22に入射する角度ζが小さい光線が、画像表示素子22やプリズムに入射するのを防止することができる。
また、開口部17は、ランプ光軸AL(図4の矢印方向)に関して回転させて調整することができるように(回転可能に)することにより、開口部17を回転させることで遮光する光線を選択可能にする構造が望ましい。このようにすることで、開口部17は、ランプ11の発光点、あるいはリフレクタ12やロッドインテグレータ13の形状など、照明光学系10の構成のばらつきに起因するゴーストやコントラスト、あるいは照明ムラを改善することができる。
図5は、図1に示す画像表示装置が備える開口部の第2の例を示す正面図である。同図に示すように、開口部27は、開口制御部271を有する。開口部27は、正面視正方形の開口形状を有する円形である。開口制御部271は、開口部27の開口形状の一部に沿った矩形状である。このような開口形状と開口制御部271とを有することにより、開口部27は、開口部27に平行な面(ランプ光軸ALに垂直な面)においてランプ光軸ALを通る直線に関し非対称な(線非対称な)矩形形状の開口形状を有している。ここで、開口部27は、重力方向、重力と垂直方向、またはその両方の方向について線非対称な形状ともいえる。
一般に、リフレクタ12は必ずしも回転対称な形状ではないため、リフレクタ12の形状によっては開口部27の開口形状も矩形形状が望ましい場合がある。その場合には、開口部27の形状は、図5の紙面左右方向に関して線非対称とし(紙面上下方向は線対称であってもよい)、画像表示素子22に入射する角度ζが小さい光線が、画像表示素子22やプリズムに入射するのを防止することができる。
また、開口部27は、開口制御部271をランプ光軸ALに垂直な面においてランプ光軸ALを挟む方向(図5において紙面左右方向)に移動することができるようにしてもよい。このようにすれば、画像表示装置120において、開口部7による遮光面積を調整することができるため、画像の照度ムラやゴーストを改善しつつ、画像の明るさを最大限に得ることができる。
なお、開口部27についても、先に説明した開口部17と同様にランプ光軸ALに関して回転調整してもよい。
つまり、開口部27を有することにより、画像表示装置120によれば、使用状況に合わせて開口形状を変更することができる。
また、開口制御部171や開口制御部271の回転位置調整や移動位置調整は、画像表示装置120の組み立て時に行ってもよいし、使用時に行ってもよい。
●開口絞りの構成
次に、画像表示装置120が有する開口絞りについて説明する。
図2に示すように、画像表示装置120の投射光学系121は、光軸を共有する複数枚の投射レンズ122と、画像表示素子22から入射する光量を制限する開口絞り123と、を有する。
ここで、開口絞り123は、画像表示素子22から投射光学系121への光取り込み尺度をFimgとしたときに、下記の式2を満足する。
Fimg > 1/{2×tan(6+α/2)} ・・・(式2)
ただし、Fimgは、下記の式3で示される。
Fimg = Bf/φ ・・・(式3)
式2において、画像表示素子22のマイクロミラーの最大傾角をαとする。また、式3において、画像表示素子22の画像面に引いた垂線方向において、画像表示素子22の画像表示面を含む平面から投射光学系121のうち最も画像表示素子22に近い光学面との距離の最小値をBfとする。また、式3において、最も画像表示素子に近い光学面の光取り込み幅をφとする。
式2について説明するのにあたり、従来どおり画像表示素子22のマイクロミラーの傾斜角が大きくなることに対応して、投射光学系121の光取り込み角θ2を拡げることを式で表すと,下記の式4のようになる。
Fimg ≒ 1/(2×tanα)・・・(式4)
これに対し、上述の式2の関係を満たしていれば、照明光学系10のθ2を式4により導かれる値よりも小さく設定することができる。すなわち、式4では、マイクロミラーの最大傾斜角αの値が右辺のtanαに代入されるものの、式2では、例えばα=14°であれば右辺のtan(6+α/2)=tan(6+14/2)°=13°となる。
つまり、画像表示装置120では、画像表示素子22の傾斜角が大きくなっても、投射光学系121の光取り込み角θ2を式2の関係を満たすように設定することにより、照度ムラの影響、ゴースト、あるいはフレア光を抑えることができる。
●開口部の効果
次に、画像表示装置120の実施例に基づいて、開口部17の効果を説明する。
図6は、図1に示す画像表示装置が備える開口絞りの配置の例を示す光学配置図である。
なお、図6にいて、理解を容易にするために、画像表示素子22の上のマイクロミラーが図5の断面方向に±12°あるいは±16°傾くものとする。
投射光学系121の開口絞り123は、開口絞り123より後段の構成の光学計算を簡素にするために、投射レンズ122よりも画像表示素子22側に位置させている。図6に示すように、開口絞り123は、画像表示素子22の画像表示面を含む平面から、50mmの位置に配置されている。
ここで、Bfは、開口絞り123から画像表示素子22の画像表示面までの距離とする。すなわち、画像表示装置120において、開口絞り123も光学面であるという取り扱いをする。
また、図6,7に示すように、画像表示素子22の投射光学系121の光軸APと画像表示素子22の画像中心とのずれ量(オフセット量)は、6.5mmに設定した。
以上の画像表示装置120の実施例に対して、表1に示す2つの条件で投射光学系121の光軸APから遠い側(オフセット側)の端部光線角度ζ1と投射光学系121の光軸APから近い側(オフセット反対側)の端部光線角度のζ2を計算する。そして、条件1と条件2とを比較することにより、開口部17の開口形状を回転非対称にするメリットを具体的に説明する。
表1
図6について、ロッドインテグレータ13から出射される点線の光線(主光線)は、ロッドインテグレータ13の出射口に対して垂直方向に進む光線である。この光線は、図6において画像表示素子22上の最もオフセット側のマイクロミラーを照明する光束の中心の光線である。ここで、この光線が画像表示素子22に入射する角度をη1,η2とする。
図7は、図1に示す画像表示装置が備える開口絞り123と下光線との関係の例を示す光学配置図である。
なお、図7において、説明の簡略化のため、投射光学系121の光軸APから遠い側(オフセット側)の照明光学系10からの端部光線角度ζ1のみ説明し、ζ2の説明は省略する。
ロッドインテグレータ13の出口から出射される光は、出口のどの位置においても主光線を中心とする多数の光線からなっており、その多数の光線の束が光束と呼ばれている。
ロッドインテグレータ13の出口から出射される光束のうち、図7で最も下端(画像表示素子22寄りの端部)を通る光線を下光線という。下光線が画像表示素子22に入射する角度がζ1であり、この角度ζ1が画像表示素子22に入射する光線の入射角としては最も小さい値である。
従来の画像表示装置では、画像表示素子に入射する下光線の入射角ζ1が小さい角度であるため、画像表示素子上のカバーガラスでの透過率が下がることが課題である。
また、従来の画像表示装置では、ζ1と投射光学系の光軸APから近い側(オフセット反対側)の端部光線角度のζ2で透過率が異なることにより投射された画像に照度ムラが発生すること、投射された画像にゴースト光が発生することも課題である。
図8は、図1に示す画像表示装置が備える開口絞りと下光線との関係の例を示す部分拡大図である。同図に示すように、画像表示素子22から開口絞り123までの距離を50mm、投射光学系121の光軸APから最も離れたマイクロミラー221との距離を11mmとしたとき、前記条件1と条件2におけるη1とζ1の角度を、表2に示すように幾何学的に計算した。
表2
表2によれば、画像表示素子22のマイクロミラー221の傾斜角αが大きくなったことに併せて、照明光の光取り込み角θ2を大きく設定した場合には、主光線と下光線のカバーガラス入射角度の差(η1−ζ1)が大きくなることがわかる。また、この場合には、ζ1が小さくなりカバーガラスでの透過率が下がることがわかる。
図9は、図1に示す画像表示装置が備える開口絞りと下光線との関係の別の例を示す部分拡大図である。同図に示すように、図8に示した条件と同様の条件において、投射光学系121の光軸APから最も近いマイクロミラー221との距離を2mmとしたとき、条件1と条件2におけるη2とζ2の角度を、表3に示すように幾何学的に計算した。
表3
表2と表3とによれば、η1とη2、およびζ1とζ2は、いずれも10°の差があることがわかる。この画像表示素子22のマイクロミラー221への光線の入射角の差により、特に条件2のようにマイクロミラー角度αが12°よりも大きくなった場合に、下光線の入射角ζ1が小さくなるため、透過率の低下などの影響が顕著になる。
以上のような照明光学系10から出射される光線の透過率の低下などの影響を解消するため、開口部17,27は、ランプ光軸ALに関して回転非対称な(線非対称な)開口形状に設定して画像表示素子22への入射角が小さい光線をカットするのが望ましい。
また、画像表示装置120において、開口絞り123の開口サイズをαによって定まる投射光学系121の光取り込み角θ2よりも少し小さめに設定することなどが望ましい。
画像表示素子22の画像面に引いた垂線方向において、画像表示素子22の画像表示面を含む平面から投射光学系121のうち最も画像表示素子に近い光学面との距離の最小値をBfとする。そして、画像表示素子22の短辺方向の長さをH、画像表示素子のオフセット量をOとしたとき、下記の式5を満足する。
Bf /(H/2+O) ≧ 4.5 ・・・(式5)
ここで、式5について、図8,図9では、H=9mm、O=6.5mm、Bf=50mmである。
これらの値を式5に代入すると、
Bf/(H/2+O)= 4.5
であり、図7,図8の例が条件式の境界値であることを示している。
Bf/(H/2+O)の値が4.5よりも小さいということは,例えば図9においてオフセット量6.5mmを増やすことになるため、ζ1が小さくなることを示している。
つまり、表3に示したように、式5により算出された値が境界値4.5であるということは、ζ1が30°であるということである。ζ1が30°よりも小さくなると、画像表示素子22のカバーガラスに反射防止膜を施しても透過率が著しく低下してしまうため、好ましくない。
なお、式5に基づく数値の導出は、図8などに示すように画像表示装置120の断面で行ったが、実際には図8の紙面を貫く方向に画像表示装置120の光線にも画像表示素子22にも奥行きがある。
図10は、投射光学系121の光軸APに平行な方向から見た画像表示素子22への入射光の角度を示す図である。同図に示すように、ζ1が最小になるのは奥行き方向も含めて光軸から最も遠く照明光に最も近いマイクロミラー221への入射角である。
つまり、画像表示装置120において、式5により定まる値は、4.5よりも大きい値を取る構成が望ましい。つまり、式5による4.5という値は、下限値であるといえる。
そのため、式5の値が4.5を上回るために、画像表示装置120の構成は、以上説明したように画像表示素子22のオフセット量を小さくする、画像表示素子22のサイズを小さくする、あるいはθ2を小さくするなどとするのが望ましい.
●実施の形態の効果●
以上説明したように、本実施の形態に係る画像表示装置120によれば、ランプ光軸ALに関して回転非対称な開口形状の開口部17を有するため、照明光学系10から画像表示素子22への入射角が小さい光線を遮光することができる。このため、画像表示装置120によれば、投射される画像の照度ムラ改善やゴースト光の低減などがされた、高品質な画像を得ることができる。
また、画像表示装置120は、開口部17の回転調整可能にすることにより、開口制御部171をランプ光軸ALに対して調整することができるため、照度ムラ改善やゴースト光低減に対して最も効果的な位置に開口制御部171を配置することができる。
また、画像表示装置120によれば、ランプ光軸ALに関して垂直な面においてランプ光軸ALを挟んで線非対称な開口形状の開口部27を有するため、照明光学系10から画像表示素子22への入射角が小さい光線を遮光することができる。このため、画像表示装置120によれば、投射される画像の照度ムラ改善やゴースト光の低減などがされた、高品質な画像を得ることができる。
また、画像表示装置120によれば、開口部17,27の開口制御部171,272を移動可能として、開口面積を変更可能にしたため、投射光量と照度ムラやゴースト光低減とのバランスを考慮して最適な開口面積に調節することができる。
また、画像表示装置120によれば、投射光学系121に開口絞り123を設けて上述の式2で表すような値に設定することにより、開口部17,27で遮光しきれなかった不要光線を確実に遮光することができるため、さらに高品質な画像を得ることができる。