以下、実施形態の地中レーダ装置及び測定方法を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1から図14を参照し、第1の実施形態について説明する。図1は、本実施形態の鉄筋コンクリート100の測定方法を説明する図である。図1(a)は上面図であり、図1(b)は側面図である。図1(a)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部には縦横方向の格子状に鉄筋103,104が存在する。送信アンテナ101は地中レーダの電磁波を地中に向かって放射する。受信アンテナ102は、送信アンテナ101から放射された電磁波の反射波を測定するために、地中レーダの電磁波を受信する。送信アンテナ101と受信アンテナ102とは、鉄筋103に沿って配置される。送信アンテナ101から放射される電磁波の偏波成分のうち、鉄筋103に沿う方向の偏波成分をH偏波成分とし、鉄筋104に沿う方向の偏波成分をV偏波成分とする。H偏波成分に対してV偏波成分は垂直である。
図1(b)に示されるように、鉄筋コンクリート100は地中(土壌)に埋設されてある。送信アンテナ101から地中に向かって放射された電磁波は、図1(b)中の実線矢印で示されるように、鉄筋コンクリート100のコンクリート表面で反射され、反射波として受信アンテナ102で受信される。また、送信アンテナ101から地中に向かって放射された電磁波は、図1(b)中の破線矢印で示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104で反射され、反射波として受信アンテナ102で受信される。また、送信アンテナ101から地中に向かって放射された電磁波は、図1(b)中の一点鎖線矢印で示されるように、地中の不要散乱体で反射され、反射波として受信アンテナ102で受信される。地中の不要散乱体として、例えば、大きな石や空洞などがある。
図2は、図1の受信アンテナ102で受信された反射波の各偏波成分の時間応答を示す。図2(a)はH偏波成分の時間応答を示し、図2(b)はV偏波成分の時間応答を示す。図2(a)及び(b)のグラフにおいて、横軸は時間(t)であり、縦軸は反射強度(IH),(IV)である。図2(a)において、鉄筋コンクリート100のコンクリート表面による反射波は、その他の鉄筋や不要散乱体による反射波よりも、の反射強度(IH)が強い。また、図2(a)のH偏波成分の時間応答では、H偏波成分と直交する関係にある鉄筋104による反射波は観測されない。他方、図2(b)のV偏波成分の時間応答では、V偏波成分と平行な鉄筋104、つまり、H偏波成分と直交する関係にある鉄筋104による反射波が観測される。このように、各偏波成分の時間応答では、各偏波成分の方向に依存して、各鉄筋103,104による反射波が観測されたり、観測されなかったりする。
上記の図1及び図2を参照して説明したように、H偏波成分とV偏波成分との両方を使用して反射波を観測し比較することによって、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104と不要散乱体とを区別したり、各鉄筋103,104の配置方向(向き)の違いを判断したりすることができる。
なお、送信アンテナ101から放射する電磁波(偏波)としては、受信アンテナ102で受信された反射波のH偏波成分とV偏波成分とを検出できればよい。例えば、送信アンテナ101から放射する電磁波(偏波)として、同時に重ね合せた円偏波又は楕円偏波を使用してもよい。又は、送信アンテナ101から放射する電磁波(偏波)として、H偏波とV偏波とを短時間ずつ交互に放射してもよい。又は、送信アンテナ101から放射する電磁波(偏波)として、H偏波成分とV偏波成分の割合が違う偏波角30°と偏波角60°の各直線偏波を短時間ずつ交互に放射してもよい。又は、送信アンテナ101から放射する電磁波(偏波)として、偏波角が変わる偏波面回転波を使用してもよい。
図3は、図1に示す鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104の配置を示す。図3の座標系(3軸:X軸,Y軸,Z軸)において、鉄筋103はX軸方向に配置され、鉄筋104はY軸方向に配置される。これにより、鉄筋103,104は格子状に配置される。また、偏波のX軸方向成分がH偏波成分となり、偏波のY軸方向成分がV偏波成分となる。Z軸は深さ方向の位置を示す。Z軸に関して、アンテナの位置から地中の深さ方向(Z軸のマイナス方向)へ順に、鉄筋コンクリート100のコンクリート表面、Y軸方向に配置された鉄筋104、X軸方向に配置された鉄筋103が存在する。
鉄筋コンクリート100のコンクリート表面と各鉄筋103,104との間隔よりも、鉄筋103と鉄筋104との間隔の方が短い。このため、鉄筋103と鉄筋104とを、単に反射波の到達時間の違いで区別することは難しい。そこで、上記の図2(a),(b)により説明したように、H偏波成分とV偏波成分とを使用して反射波を測定し、異なる偏波成分による“観測できる”又は“観測できない”の特徴を利用して各鉄筋103,104の配置方向を判断する。
図4は、偏波角や位相による反射波の状況を示す。図4に示した時間応答は、反射強度(I)が2軸(θが0°の軸と90°の軸)となっている。この図4を参照して、鉄筋配置方向の判断方法を説明する。ここでは、ほぼ同時刻で且つほぼ同強度の反射波が存在する場合について説明する。図4において、3つの波形G101,G102,G103は、ほぼ同時刻で且つほぼ同強度の反射波の時間応答である。他方、波形G100は、波形G101,G102,G103とは時間的又は強度的に大きく異なる反射波の時間応答である。具体的には、波形G100の時刻taは、波形G101,G102,G103の各時刻tb,tc,tdよりも明らかに早いが、波形G101,G102,G103の各時刻tb,tc,tdには明らかな差がない。また、波形G100の反射強度Iaは、波形G101,G102,G103の各反射強度Ib,Ic,Idよりも明らかに大きいが、波形G101,G102,G103の各反射強度Ib,Ic,Idには明らかな差がない。
波形G100については、到達時間の違い又は反射強度の違いに基づいて識別し分離することができる。波形G100は、例えば鉄筋コンクリート100のコンクリート表面による反射波の時間応答である。他方、波形G101,G102,G103については、到達時間も反射強度もほぼ同じであるために、到達時間の違い又は反射強度の違いに基づいて波形G101,G102,G103の各々を識別し分離することが難しい。波形G101,G102,G103は、例えば鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104による反射波の時間応答である。
ここで、波形G101,G102,G103に対して、偏波角や位相を基に、希望反射波を抽出することを考える。波形G101,G102,G103のうち、波形G102は、他の波形G101,G103とは偏波角や位相が明らかに異なる。具体的には、波形G102の位相θcは、波形G101,G103の位相θb,θdとは明らかに異なる。この位相の違いに基づいて、波形G102を識別し抽出することができる。
図5及び図6は、図1及び図3に示す鉄筋コンクリート100に対する位相による反射波の状況を示す。図5は、H偏波成分とV偏波成分の各時間応答を示す。図6(a)は、時刻T0でのX軸とY軸の各反射強度(IH,IV)を示す。図6(b)は、時刻T1でのX軸とY軸の各反射強度(IH,IV)を示す。時間は、位置に対応し、またアンテナからの距離に相当する。アンテナから比較的に近い位置(短い時間)に鉄筋コンクリート100のコンクリート表面が存在し、アンテナから比較的に遠い位置(長い時間)にX軸方向に配置の鉄筋103とY軸方向に配置の鉄筋104とが存在する(この図5での反射の時間順序は、X軸方向に配置の鉄筋103に続きY軸方向に配置の鉄筋104とした。しかし図3に示す鉄筋コンクリート100を対象にした正確な反射の時間では順序が逆になる。つまり、Y軸方向に配置の鉄筋104が上にあるためこの鉄筋104の反射が時間的に先となり、X軸方向に配置の鉄筋103の反射が時間的に後になる)。また、地面から鉄筋コンクリート100のコンクリート表面までの地中には、大きな石や空洞などの不要散乱体が存在することが想定される。
鉄筋コンクリート100のコンクリート表面ではX軸とY軸の両方向に対して反射するため、図5(a),(b)に示されるように、H偏波成分とV偏波成分とで各反射強度(IH,IV)が観測される。不要散乱体についても同様に、H偏波成分とV偏波成分とで各反射強度(IH,IV)が観測される。
鉄筋103,104は、不要散乱体や鉄筋コンクリート100のコンクリート表面に比してアンテナから遠い位置(長い時間)に存在する。このため、図5(a),(b)に示されるように、時間応答に基づいて、鉄筋103,104による反射波を不要散乱体による反射波や鉄筋コンクリート100のコンクリート表面による反射波と区別することはできる。しかし、X軸方向に配置の鉄筋103とY軸方向に配置の鉄筋104とは、ほぼ同じ位置(ほぼ同じ時間)に存在するので、鉄筋103による反射波と鉄筋104による反射波とを時間応答で区別することは難しい。このため、H偏波成分とV偏波成分の各観測により、各偏波成分で反射波が観測されるか観測されないかに基づいて、X軸方向(H偏波成分の方向)に配置の鉄筋103による反射波であるか又はY軸方向(V偏波成分の方向)に配置の鉄筋104による反射波であるかを判断する。
図5(a)のV偏波成分のグラフでは、X軸方向に配置の鉄筋103についてはV偏波成分の方向と垂直に配置されるので鉄筋103による反射波が“観測されない(反射強度IVが閾値以上検出されない)”が、Y軸方向に配置の鉄筋104についてはV偏波成分の方向と平行に配置されるので鉄筋104による反射波が“観測される(反射強度IVが閾値以上検出される)”。これとは逆に、図5(b)のH偏波成分のグラフでは、Y軸方向に配置の鉄筋104についてはH偏波成分の方向と垂直に配置されるので鉄筋104による反射波が“観測されない(反射強度IHが閾値以上検出されない)”が、X軸方向に配置の鉄筋103についてはH偏波成分の方向と平行に配置されるので鉄筋103による反射波が“観測される(反射強度IHが閾値以上検出される)”。
図6(a)には、時刻T0において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向を示す。この時刻T0では、図6(a)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、Y軸方向の偏波つまりV偏波成分Y_100となっている。他方、図6(b)には、時刻T1において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向を示す。この時刻T1では、図6(b)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、X軸方向の偏波つまりH偏波成分X_101となっている。これらの反射波の違いを利用して、ほぼ同じ位置に存在するX軸方向に配置の鉄筋103とY軸方向に配置の鉄筋104のいずれによる反射波であるのかを区別することができる。
なお、不要散乱体による反射波では、H偏波成分とV偏波成分の各反射強度が弱く、また偏波の方向の特徴も有る。これにより、既知の設備である鉄筋コンクリート100による反射波と不要散乱体による反射波とを区別することができる。
次に図7及び図8を参照して具体的な適用例を説明する。図7は、本実施形態の適用例を示す図である。本適用例では、道路に埋設されたインフラ設備のうちマンホールを測定対象にする。マンホールの天井は、図3に示される鉄筋コンクリート100と同様の構成の鉄筋コンクリート製である。
図7(a)は、車両に搭載される地中レーダのアンテナ構成を示す概念図である。図7(a)において、地中レーダのアンテナは車両の後部に搭載される。図7(a)では、1つの送信アンテナ101と1つの受信アンテナ102とのアンテナ組が1組のみ車両の後部に搭載される。他方、図7(d)には、複数の送信アンテナ101と複数の受信アンテナ102を、送信アンテナ101と受信アンテナ102を交互に並べて配置する構成が示される。図7(d)のアンテナ構成では、車両の走行方向に対して垂直となる横断方向に、送信アンテナ101と受信アンテナ102が交互に並べて配置される。図7(d)のアンテナ構成は、例えば車両の後部に搭載される。
車両に搭載される地中レーダのアンテナ構成として、図7(a),(d)のいずれでもよい。但し、図7(d)のアンテナ構成によれば、同時に複数のアンテナにより測定を行うことができる。このため、道路に埋設されたマンホールを測定(地中レーダの走査)するために車両が道路を走行する際、1度の走行で、複数のアンテナにより複数の測定データを取得できる。これにより、図7(d)のアンテナ構成によれば、図7(a)のアンテナ構成に比して、より少ない車両の走行回数でより多くの測定データを取得できるので、効率よく且つ、きめの細かい高精度の測定を行うことができる。
図7(b),(c)は、マンホールの道路上の配置を示す。図7(b)のケースAでは、マンホールは道路の走行車線に埋設される。図7(c)のケースBでは、マンホールは、道路の交差点の中央部分において、交差する道路に沿って埋設される。
(ケースA)
図7(b)のケースAにおいて、車両の走行方向(長さ方向)をX軸とし、横断方向(幅方向)をY軸とする。このケースAでは、マンホールの天井の鉄筋コンクリートの内部に格子状に存在する鉄筋が車両の走行方向(X軸方向)と横断方向(Y軸方向)とに配置される。したがって、走行車両に搭載された地中レーダの送信アンテナ101と受信アンテナ102とが移動する方向(X軸方向)は、X軸方向に配置された鉄筋に対して平行に走査する方向になり、他方、Y軸方向に配置された鉄筋に対して垂直に走査する方向になる。
(ケースB)
図7(c)のケースBにおいて、マンホールの天井の鉄筋コンクリートの内部に格子状に存在する鉄筋は、交差する各道路の方向に沿って配置される。ここで、マンホールが交差点の中央部分に埋設されることから、車両がマンホールの上を走行するために、車両は交差点を右折する。このため、車両の走行方向は、マンホールの天井の鉄筋コンクリートの内部に格子状に存在する鉄筋の配置方向に対して、図7(c−1),(c−2)に示されるように、斜めになる。
図7(c−1)と図7(c−2)との違いは、2軸(X軸とY軸)と車両の走行方向との関係が90°異なる点である。図7(c−1),(c−2)のいずれの場合でも、車両の走行方向つまり地中レーダの走査方向は、マンホールの天井の鉄筋コンクリートの内部に格子状に存在する鉄筋の配置方向に対して、斜めになる。このとき、1つのマンホールにおいて、一方の軸として例えばX軸の方向に配置された鉄筋に対して斜めに走査すると、もう一方の軸であるY軸の方向に配置された鉄筋に対しても斜めに走査することになる。したがって、ケースBでは、格子状に存在する鉄筋のいずれに対しても、斜め方向に走査が行われる。つまり、ケースBでは、走行車両に搭載された地中レーダの送信アンテナ101と受信アンテナ102とが移動する方向は、測定対象のマンホールの天井の鉄筋コンクリートの内部に格子状に存在する鉄筋の配置方向に対して、同一方向でもなく垂直方向でもない、斜めに走査する方向になる。
上述したケースA,Bの各々に対して、地中レーダを搭載した走行車両による測定により、測定対象のマンホールの天井の鉄筋コンクリートの内部に格子状に存在する鉄筋を把握することを図る。上述の図1から図3を参照して説明した地中レーダによる測定方法では、鉄筋の配置方向に対して同一方向の偏波成分と垂直方向の偏波成分とを使い分けることにより、格子状に配置された鉄筋のX軸とY軸の構成をより的確に把握することができる。また、図4から図6を参照して説明した地中レーダによる測定方法では、H偏波成分とV偏波成分とが時間で変化する電磁波を使用することにより、格子状に配置された鉄筋のX軸とY軸の構成をより的確に把握することができる。H偏波成分とV偏波成分とが時間で変化する電磁波の例として、以下の例1から例4が挙げられる。
(例1)H偏波とV偏波とが短時間で交互に変化する電磁波。
(例2)H偏波成分とV偏波成分の割合が異なる偏波が短時間で交互に変化する電磁波。例えば、偏波角が30°の直線偏波であればH偏波成分とV偏波成分の割合は“2:1”であり、偏波角が60°の直線偏波であればH偏波成分とV偏波成分の割合は“1:2”である。その両方の直線偏波を短時間で交互に入れ替える。
(例3)円偏波の電磁波。
(例4)楕円偏波の電磁波。
また、偏波角が時間的に変化する電磁波を使用する場合には、図7に示す走行車両に搭載した地中レーダにより、図7(b)のケースAのように道路の走行車線に沿って埋設された地中埋設設備であるマンホールだけではなく、図7(c)のケースBのように道路の交差点の中央部分において交差する道路に沿って埋設されたマンホールも測定対象にし、走行しながら測定して各測定対象を把握することができる。偏波角が時間的に変化する電磁波として、例えば、円偏波、楕円偏波、又は偏波面回転波などの電磁波が挙げられる。
図8は、本実施形態の測定方法の実施例を示す。図8(a)は、測定対象の埋設物と複数の送信/受信アンテナを示す鳥瞰図である。図8(b)は、測定対象と複数アンテナを示す平面図である。図8(c)は、反射波の処理結果を示す図である。
図8(a)において、地面上には車載された複数の送信/受信アンテナを示す(走行車両は図示せず)。複数の送信/受信アンテナは車両の走行方向に移動する。この走行方向が複数の送信/受信アンテナの走査方向になる。地中には測定対象の埋設物(例えばマンホール)が存在する。ここでは、測定対象の埋設物はマンホールとする。このマンホールの天井は、図3に示される鉄筋コンクリート100と同様の構成の鉄筋コンクリート製である。埋設されたマンホールの配置方向は、複数の送信/受信アンテナの走査方向に対して斜めの方向である。
図8(b)の平面図に示されるように、測定対象のマンホールが車両の走行方向に対して斜めの方向に配置されている。また、複数の送信/受信アンテナについては、走行方向(走査方向)に対して垂直な横断方向に、送信アンテナと受信アンテナとが交互に並べて配置されている。このように車両の走行方向(走査方向)に対して垂直な横断方向に複数の送信/受信アンテナを配置することにより、車両が通過する路面上を漏れなく走査し測定することができる。
図8(c)に示される反射波の処理結果は、図8(a),(b)の構成により測定対象のマンホールの測定を行って取得された全ての反射波を統合処理した結果の画像例である。この統合処理では、各受信アンテナから得られた反射波を全て使用する。この全ての反射波の反射強度から、例えば鉄筋の深さ位置の情報と、互いに直交する偏波成分とを使用して、鉄筋と鉄筋の配置方向とを検知する。その検知した鉄筋の配置方向(鉄筋は格子状であるのでX軸とY軸)と走査方向(X’軸とX’軸に直交するY’軸)との座標回転をさせて鉄筋の分布図を作成する。このように作成した鉄筋の分布図である図8(c)の画像においては、X’軸が走行方向であり、Y’軸が複数の送信/受信アンテナの配置方向となる。また、図8(c)の画像において、X軸とY軸とが、格子状に配置された鉄筋の方向となる。
次に図9及び図10を参照して、地中レーダから放射する電磁波の例を説明する。図9(a)は、地中レーダから放射する電磁波の例を示す。図9(b)は、図9(a)により放射された電磁波の反射波の例を示す。図9(a)に示されるように、H偏波の放射とV偏波の放射とが交互に切り換えられる。H偏波への切換えAとV偏波への切換えBとがある。H偏波及びV偏波は直線偏波である。H偏波とV偏波とは偏波面が90°異なる。
なお、一般にH偏波とは、電場の振動方向が地面に対して水平な方向である偏波のことを言う。しかし、本実施形態では、H偏波とは、電場の振動方向が車両の走行方向(X軸方向)となる偏波のことを言う。また、一般にV偏波とは、電場の振動方向が地面に対して垂直な方向である偏波のことを言う。しかし、本実施形態では、V偏波とは、電場の振動方向が車両の走行方向(X軸方向)に対して垂直な横断方向(Y軸方向)となる偏波のことを言う。
図10(a)は、図9(a)の放射する電磁波の例を示す。図10(a)には、H偏波への切換えAのタイミングとV偏波への切換えBのタイミングとが示される。V偏波として、偏波面がY軸方向のガウシアンパルスを送信する。V偏波の送信周期は、V偏波のガウシアンパルスを送信する時間tvoと、V偏波のガウシアンパルスの送信を休止する時間2Tvとから成る。V偏波のガウシアンパルスを送信する時間tvoは、V偏波のガウシアンパルスの分散σに相当する時間幅である。V偏波のガウシアンパルスを送信してから時間Tvが経過した後、H偏波への切換えAを行い、H偏波のガウシアンパルスを送信する。H偏波のガウシアンパルスは、偏波面がX軸方向である。H偏波の送信周期は、H偏波のガウシアンパルスを送信する時間thoと、H偏波のガウシアンパルスの送信を休止する時間2Thとから成る。H偏波のガウシアンパルスを送信する時間thoは、H偏波のガウシアンパルスの分散σに相当する時間幅である。H偏波のガウシアンパルスを送信してから時間Thが経過した後、V偏波への切換えBを行い、V偏波のガウシアンパルスを送信する。
H偏波への切換えAとV偏波への切換えBとは交互に繰り返される。H偏波への切換えAは、V偏波の送信終了から時間Tvが経過したV偏波の休止中に実行される。V偏波への切換えBは、H偏波の送信終了から時間Thが経過したH偏波の休止中に実行される。このH偏波とV偏波の交互の送信の繰り返しに伴って、反射波の受信においてもH偏波成分とV偏波成分とがそれぞれ受信される。
図10(b)は、図10(a)に示される電磁波の放射に対応する反射波の受信を示す。図10(b)には、地中レーダで受信された反射波の時間変化が示される。図10(b)において、V偏波成分もH偏波成分もV偏波とH偏波が送信されてからそれぞれ時間τ1経過後と時間τ2経過後とに受信される。これら受信されたV偏波成分とH偏波成分とは同一の伝搬時間τ1とτ2であるので、2つの対象物による反射波が存在していると考えられる。つまり、第1の対象物による反射波は伝搬時間τ1で受信されたV偏波成分とH偏波成分とを有し、第2の対象物による反射波は伝搬時間τ2で受信されたV偏波成分とH偏波成分とを有する。そして、図9(b)に示すように、同一の伝搬時間で受信されたV偏波成分とH偏波成分をそれぞれY軸とX軸に当てはめて合成し、合成した結果の方向に基づいて当該反射波を反射した対象物の配置方向を判断することができる。
なお、図10(b)の例では、2つの対象物による反射波の各伝搬時間τ1とτ2がほぼ同じであるために、当該2つの対象物による反射波の各V偏波成分同士、各H偏波成分同士が重なっている。しかし、同じ車両に搭載された別の送信/受信アンテナ(同じ車両における設置場所が異なる他の送信/受信アンテナ)による反射波を使用したり、又は偏波面の変化の仕方を変えたりすることによって、それら2つの対象物による反射波の各V偏波成分同士、各H偏波成分同士の重なりが無い測定結果を得ることができれば、当該2つの対象物による反射波を分離することが可能となる。このように単純なH偏波とV偏波とを使用することにより、対象物の配置方向を検知することができる。
また図10(a),(b)では、V偏波とH偏波の送信間隔(休止する時間)2Tvと2Thに対し、半分以下の時間(TvとTh)となる対象物による反射波の伝搬時間τ1とτ2(≦Tvおよび≦Th)の受信を示している。この受信タイミング(V偏波とH偏波が送信されてから対象物による反射波の受信までの経過時間τ1とτ2)は、V偏波とH偏波の送信間隔以内(≦2Tvおよび≦2Th)であれば許容される。
次に本実施形態に係る地中レーダの装置構成を説明する。図11は、本実施形態の地中レーダ装置130の構成を示す図である。図11に示す地中レーダ装置130は、上記の図7に示されるケースAに適用される。図11に示す地中レーダ装置130は、送信部140と、受信部150と、送信アンテナ161と、受信アンテナ162とを備える。送信アンテナ161は、H偏波とV偏波とを各々に送信することができる。受信アンテナ162は、H偏波とV偏波とを各々に受信することができる。送信部140は、切換え制御部141とH偏波生成部142_HとV偏波生成部142_Vとを備える。受信部150は、H偏波成分抽出部151_HとV偏波成分抽出部151_Vと統合処理部152と処理結果出力部153とを備える。
送信部140は、上記の図10(a)に示されるようにV偏波とH偏波とが切換わる電磁波を送信アンテナ161へ出力する。切換え制御部141は、V偏波とH偏波の生成と生成休止とを制御する信号である切換え情報を、H偏波生成部142_HとV偏波生成部142_Vとに出力する。H偏波生成部142_HとV偏波生成部142_Vとは送信アンテナ161に接続される。H偏波生成部142_Hは、切換え情報に従って、H偏波の生成と生成休止とを行う。H偏波生成部142_Hによって生成されたH偏波は送信アンテナ161へ出力される。V偏波生成部142_Vは、切換え情報に従って、V偏波の生成と生成休止とを行う。V偏波生成部142_Vによって生成されたV偏波は送信アンテナ161へ出力される。これにより、上記の図10(a)に示されるようにV偏波とH偏波とが切換る電磁波が、送信アンテナ161から地中に向かって放射される。H偏波生成部142_HとV偏波生成部142_Vとは、上記の図10(a)に示されるようにH偏波への切換えAとV偏波への切換えBとを示す偏波切換え情報を、受信部150へ出力する。受信部150に入力された偏波切換え情報は、H偏波成分抽出部151_HとV偏波成分抽出部151_Vとに入力される。
送信アンテナ161から地中に向かって放射された電磁波は、地中の測定対象(例えばマンホール)の鉄筋で反射される。その地中の測定対象の鉄筋で反射された反射波は、受信アンテナ162で受信される。受信部150のH偏波成分抽出部151_HとV偏波成分抽出部151_Vとは受信アンテナ162に接続される。H偏波成分抽出部151_Hは、受信アンテナ102の受信信号からH偏波成分を抽出する。H偏波成分抽出部151_Hで抽出されたH偏波成分は統合処理部152へ出力される。V偏波成分抽出部151_Vは、受信アンテナ102の受信信号からV偏波成分を抽出する。V偏波成分抽出部151_Vで抽出されたV偏波成分は統合処理部152へ出力される。H偏波成分抽出部151_HとV偏波成分抽出部151_Vとは、偏波切換え情報に基づいて、H偏波への切換えAとV偏波への切換えBとを認識する。
統合処理部152は、H偏波成分抽出部151_Hから入力されたH偏波成分と、V偏波成分抽出部151_Vから入力されたV偏波成分とを使用して、統合処理を実行する。この統合処理では、上記の図9(b)を参照して説明したように、同一の伝搬時間で受信されたV偏波成分とH偏波成分をそれぞれY軸とX軸に当てはめて合成し、合成した結果の方向に基づいて、当該反射波を反射した鉄筋がX軸方向に配置されるのか又はY軸方向に配置されるのかを判断する。統合処理部152の処理結果は処理結果出力部153へ出力される。処理結果出力部153は、統合処理部152の処理結果を出力する。統合処理部152の処理結果として、例えば、地中のマンホールの鉄筋の分布図が挙げられる。処理結果出力部153から出力された統合処理部152の処理結果は、表示装置の表示画面上に表示される。
なお、上記の図11の構成では、1つの送信アンテナ161と1つの受信アンテナ162とから成る1組のアンテナ対を示したが、上記の図7(d)に示されるように複数の送信アンテナ161と複数の受信アンテナ162とから成る複数組のアンテナ対を備えてもよい。この場合、受信部150において、H偏波成分抽出部151_HとV偏波成分抽出部151_Vとが、各対の測定データから、各々H偏波成分とV偏波成分とを抽出する。そして、統合処理部152が、各対の測定データから抽出されたH偏波成分とV偏波成分とを統合する処理を実行する。これにより、複数組のアンテナ対で測定された測定データを使用することができるので、より高精度の測定を行うことができる。また、複数の送信アンテナ161と複数の受信アンテナ162の中から、任意に、送信アンテナ161と受信アンテナ162の組合せを選択するように構成してもよい。
また、上記の図11の構成では、H偏波とV偏波とで各々別個に、H偏波生成部142_H、V偏波生成部142_V、H偏波成分抽出部151_H及びV偏波成分抽出部151_Vを設けた。しかし、上記の図10(a)に示されるように、V偏波とH偏波とが送信される時間は分離されるので、H偏波とV偏波とで共通の偏波生成部と偏波成分抽出部とを設け、共通の偏波生成部が切換え情報に従ってH偏波とV偏波とを出力し、共通の偏波成分抽出部が偏波切換え情報に従ってH偏波成分とV偏波成分とを抽出してもよい。また、共通の偏波生成部は、切換え情報に従って、送信アンテナ161のH偏波送信部とV偏波送信部との接続の切換えを行ってもよい。また、共通の偏波成分抽出部は、偏波切換え情報に従って、受信アンテナ162のH偏波受信部とV偏波受信部との接続の切換えを行ってもよい。
図12を参照して、図11に示される地中レーダ装置130の動作を説明する。図12は、本実施形態の測定方法のフローチャートである。
(ステップS101)切換え制御部141が、V偏波とH偏波の生成と生成休止とを制御する信号である切換え情報を、H偏波生成部142_HとV偏波生成部142_Vとに出力する。
(ステップS102)H偏波生成部142_Hが切換え情報に従ってH偏波を生成する。H偏波生成部142_Hによって生成されたH偏波は送信アンテナ161へ出力される。V偏波生成部142_Vが切換え情報に従ってV偏波を生成する。V偏波生成部142_Vによって生成されたV偏波は送信アンテナ161へ出力される。H偏波とV偏波とが切換る電磁波が、送信アンテナ161から地中に向かって放射される。H偏波生成部142_HとV偏波生成部142_Vとが、H偏波への切換えAとV偏波への切換えBとを示す偏波切換え情報を、受信部150へ出力する。受信部150に入力された偏波切換え情報は、H偏波成分抽出部151_HとV偏波成分抽出部151_Vとに入力される。
(ステップS103)受信アンテナ162により地中レーダの電磁波である反射波を受信して、受信した信号はH偏波成分抽出部151_HとV偏波成分抽出部151_Vへ伝えられる。
(ステップS104)H偏波成分抽出部151_Hが受信アンテナ102の受信信号からH偏波成分を抽出する。V偏波成分抽出部151_Vが受信アンテナ102の受信信号からV偏波成分を抽出する。
(ステップS105)統合処理部152が、H偏波成分抽出部151_Hにより抽出されたH偏波成分と、V偏波成分抽出部151_Vにより抽出されたV偏波成分とを使用して、統合処理を実行する。
(ステップS106)処理結果出力部153が統合処理部152の処理結果を出力する。処理結果出力部153から出力された統合処理部152の処理結果は、表示装置の表示画面上に表示される。
次に図13及び図14を参照して、地中レーダから放射する電磁波の他の例を説明する。図13は、地中レーダから放射する電磁波の他の例1を示す。図14は、地中レーダから放射する電磁波の他の例2を示す。
(偏波面の異なるパルス)
図13を参照して、地中レーダから放射する電磁波の他の例1を説明する。図13には、地中レーダから放射する電磁波として、偏波面の異なるパルスが示される。図13に示されるように、一定間隔Tでパルスが繰り返し送信される。送信されるパルスは、各々異なる偏波面を有する複数のガウシアンパルスである。図13の例では、パルス送信区間では、V偏波成分(Y軸)のガウシアンパルスとH偏波成分(X軸)のガウシアンパルスとが重ね合せられた電磁波が放射される。このとき、図13に示されるように、ガウシアンパルスの分散σに相当する時間幅toの半分の時間「to/2」だけズラして、V偏波成分(Y軸)のガウシアンパルスとH偏波成分(X軸)のガウシアンパルスとを重ね合せる。具体的には、各ガウシアンパルスのピーク時間をパルス幅の1/2だけズラしたパルスとする。この理由を説明する。H偏波成分(X軸成分)のガウシアンパルスとV偏波成分(Y軸成分)のガウシアンパルスとを同時に重ねた場合、45°直線偏波になる。しかし、これではH偏波成分とV偏波成分とで反射が常に同じ割合となるので、上記の図9(b)を参照して説明したV偏波成分とH偏波成分の合成結果に基づく方向検知ができないからである。
H偏波成分(X軸)のガウシアンパルスは、V偏波成分(Y軸)のガウシアンパルスに対して、偏波面が90°異なる。これにより、パルス送信間隔Tを、上記の図10(a)のH偏波送信間隔やV偏波送信間隔の半分(T=Tv=Th)にすることができる。
また、上記の図7に示されるように地中レーダのアンテナを搭載した車両を走行させて測定する場合において、上記の図10(a)のようにV偏波とH偏波とを交互に切換えながら測定するときには、V偏波を送信した時間のアンテナ位置とH偏波を送信した時間のアンテナ位置とが異なる。このアンテナ位置(測定位置)のズレにより、上記の図9(b)を参照して説明したV偏波成分とH偏波成分の合成結果に基づく方向検知などの統合処理に影響が生じる。しかし、図13に示されるように、V偏波成分とH偏波成分とを重ね合せて使用する場合には、地中レーダのアンテナを搭載した車両を走行させて測定するときにも、測定位置のズレは生じない。これにより、上述の統合処理等の測定データの処理への影響もでないので、より詳細かつ精度の高い測定と測定データ処理が可能になる。
なお、図13では、偏波面が90°異なる一例としてH偏波とV偏波を示したが、偏波面が60°異なる偏波など、他の偏波面であってもよい。但し、偏波面の角度差がないか又はその角度差が数度と小さい偏波は不適当である。このような偏波では、直線偏波又は直線に近い楕円偏波になるので、上述した45°直線偏波の場合と同様に、上記の図9(b)を参照して説明したV偏波成分とH偏波成分の合成結果に基づく方向検知ができないからである。
(円偏波としたFM−CW方式)
図14を参照して、地中レーダから放射する電磁波の他の例2を説明する。図14には、地中レーダから放射する電磁波として、円偏波としたFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave、周波数変調−連続波)方式が示される。ここでは、パルス圧縮処理として、代表的なチャープ(直線状周波数)変調方式を使用する。なお、送信信号の生成処理と受信信号の解析処理とではデジタルデータで処理すると都合が良いので、周波数の変調を直線状ではなく、不連続なステップ状に設定するステップ変調方式を使用してもよい。以下の説明では、説明を簡単にするため、チャープ変調方式を使用する。
図14(a),(b)に、円偏波に直線状の周波数変調を加えた送信パルスを示す。円偏波は、Y軸の正弦波(V偏波成分)と、Y軸の正弦波に対して90°位相が異なるX軸の正弦波(H偏波成分)とを重ねた偏波である。この円偏波に対してさらに図14(a)に示される周波数変調が加わることにより、図14(b)に示されるように低い周波数から高い周波数へと時間の経過に伴って正弦波の波長が短くなる。ここで周波数の変化の帯域幅(周波数帯域幅)がΔfであり、周波数の変化の時間(パルス幅)がTである。図14(b)に示される直線状FMパルスを、地中レーダから放射する電磁波に使用する。図14(b)に示される直線状FMパルスは、チャープ信号と呼ばれる。
図14(b)に示される直線状FMパルスが地中レーダの送信アンテナから送信されて対象物で反射された反射波は、地中レーダの受信アンテナで受信される。この受信アンテナで受信された受信信号を、図14(c)に示される周波数遅延時間特性を有する受信信号処理回路に入力する。図14(c)に示される周波数遅延時間特性では、周波数の変化の帯域幅がΔfであり、遅延時間の変化が0からTまでである。図14(c)に示される周波数遅延時間特性を有する受信信号処理回路によって、受信信号の周波数成分のうち、低周波数成分には比較的大きな遅延が生じ、高周波数成分には比較的小さな遅延が生じる。つまり、図14(b)に示される送信パルス(直線状FMパルス)の前半部分の低周波数成分には比較的大きな遅延が生じ、後半部分の高周波数成分には比較的小さな遅延が生じる。
図14(c)に示される周波数遅延時間特性を有する受信信号処理回路による受信信号の処理の結果として該受信信号処理回路から出力された信号は、パルス内に順番に分散された周波数成分が1点に集中されて急峻なインパルス状になる。この受信信号の処理をパルス圧縮と呼ぶ。
図14(d)は、パルス圧縮の結果の信号を示す。パルス圧縮前のパルス幅Tで帯域幅Δfの信号に対し、パルス圧縮によって、信号波形のピーク出力を「√(TΔf)」倍に増大させる効果が得られる。またピークとなる時間は、図14(b)に示される直線状FMパルスを送信アンテナから送信してから、受信アンテナで反射波を受信するまでの時間差Δtに相当する。この時間差Δtから対象物の距離rは、「r=c・Δt/2」により算出できる。但し、cは光速である。図14(d)に示されるFM−CW方式での周波数掃引を使用したパルス圧縮が、偏波成分の抽出方法である。
なお、FM−CW方式の周波数−連続変調は、休止時間なく、連続して繰り返される。また、図14に示す円偏波としたFM−CW方式において、H偏波成分とV偏波成分とは位相差が90°である一例であり、他の例として位相差が75°であってもよい。図14に示す円偏波としたFM−CW方式では、直線偏波及び直線に近い楕円偏波でなければ、楕円偏波でも構わない。
また、この図14に示す円偏波のFM−CW方式を用いる場合、図11に示す地中レーダ装置130の構成において、切換え制御部141が切換え情報の代わりに連続して繰り返しに関する情報をV偏波生成部142_V及びH偏波生成部142_Hに伝えて、図14(b)のチャープ信号を送信する。また図12のフローチャートでのステップS101もV/H偏波の切換え制御に代わり、チャープ信号を連続して繰り返し制御になる。
上述した第1の実施形態によれば、互いに直交する偏波成分を各々生成し、生成された偏波成分を有する電磁波を送信アンテナから地中に向かって放射する。その電磁波の反射波を受信アンテナで受信し、受信された反射波の受信信号から偏波成分を抽出する。次いで、抽出された偏波成分の各強度の比に基づいて、線状導体からなる埋設物の向きを判断する。これにより、地中に埋設された鉄筋などの線状導体の向きを識別することができる。さらに、互いに直交する偏波成分を使用することにより、地中レーダを使用した測定の効率の向上を図ることができる。なお、上述した鉄筋コンクリート100の鉄筋103,104は、線状導体からなる埋設物の一例である。
(第2の実施形態)
図15から図28を参照し、第2の実施形態について説明する。本実施形態では、測定対象の一例として、図3に示される鉄筋コンクリート100を挙げて説明する。図15及び図16は位相による反射波の状況を示す。図15及び図16では、上記の図14を参照して説明したFM−CW方式の周波数−連続変調による偏波面の異なる正弦波を、地中レーダから放射する電磁波に使用する。
図15は、4つの時刻(T0,T1,T2,T3)を例に、各時刻T0,T1,T2,T3におけるX軸方向の電界強度IxとY軸方向の電界強度Iyとを示す。図15に示されるように、時刻T0,T2,・・・,T2n(n=0,1,2,・・・)の時間スリットを通過させ、X軸の電界強度(H偏波成分)に比較的強く反応する対象物を検出する。また別の時刻T1,T3,・・・,T2n+1(n=0,1,2,・・・)の時間スリットを通過させ、Y軸の電界強度(V偏波成分)に比較的強く反応する対象物を検出する。このように、反射波に対して特定の時間スリットを通過させ、対象物の方向を検出することができる。
図16(a)は、時刻T0でのX軸とY軸の各反射強度(IH,IV)を示す。図16(b)は、時刻T1でのX軸とY軸の各反射強度(IH,IV)を示す。図16(c)は、時刻T2でのX軸とY軸の各反射強度(IH,IV)を示す。図16(d)は、時刻T3でのX軸とY軸の各反射強度(IH,IV)を示す。図16(a),(b),(c),(d)において、Z軸は深さを示す。
図16(a)には、時刻T0において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T0では、図16(a)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、X軸方向の偏波つまりH偏波成分X_200が比較的強く、Y軸方向の偏波つまりV偏波成分が比較的弱い。したがって、時刻T0では、X軸方向の鉄筋103による反射波がY軸方向の鉄筋104による反射波よりも強く観測される。
図16(b)には、時刻T1において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T1では、図16(b)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、Y軸方向の偏波つまりV偏波成分Y_201が比較的強く、X軸方向の偏波つまりH偏波成分が比較的弱い。したがって、時刻T1では、Y軸方向の鉄筋104による反射波がX軸方向の鉄筋103による反射波よりも強く観測される。
図16(c)には、時刻T2において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T2では、図16(c)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、X軸方向の偏波つまりH偏波成分X_202が比較的強く、Y軸方向の偏波つまりV偏波成分が比較的弱い。したがって、時刻T2では、X軸方向の鉄筋103による反射波がY軸方向の鉄筋104による反射波よりも強く観測される。
図16(d)には、時刻T3において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T3では、図16(d)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、Y軸方向の偏波つまりV偏波成分Y_203が比較的強く、X軸方向の偏波つまりH偏波成分が比較的弱い。したがって、時刻T3では、Y軸方向の鉄筋104による反射波がX軸方向の鉄筋103による反射波よりも強く観測される。
なお、図16(a),(b),(c),(d)において、X−Y軸での各位相についての反射強度が仮にZ軸方向の全ての範囲で同じ場合には、H偏波成分とV偏波成分とが重ね合わさり円偏波となる。
上述したように、図16(a),(b),(c),(d)では各位相に対し反射波の反射強度が対応して分かる4つの時刻T0,T1,T2,T3を示した。これら各位相による反射波の反射強度の時間変化に対応するX軸方向とY軸方向の電磁界強度は、図15に反映される。この図15に示されるX軸方向とY軸方向の各電磁界強度Ix,Iyのグラフから、X軸方向とY軸方向で各々強調される情報が得られる。なお、図15及び図16では代表的な4つの時刻T0,T1,T2,T3を例に挙げたが、実際の地中レーダ装置ではより多くの時間に分けた構成を実装することにより、より細かな測定データが得られるようにしてもよい。
次に図17を参照して本実施形態に係る地中レーダの装置構成を説明する。図17は、本実施形態の地中レーダ装置220の構成を示す図である。図17に示す地中レーダ装置220は、上記の図7に示されるケースAに適用される。図17に示す地中レーダ装置220は、送信部230と、受信部240と、送信アンテナ251と、受信アンテナ252とを備える。送信アンテナ251は、H偏波とV偏波とを各々に送信することができる。受信アンテナ252は、H偏波とV偏波とを各々に受信することができる。送信部230は、入力制御部231とH偏波成分生成部232_HとV偏波成分生成部232_Vとを備える。受信部240は、H偏波成分抽出部241_HとV偏波成分抽出部241_Vと統合処理部242と処理結果出力部243とを備える。
入力制御部231は、H偏波成分とV偏波成分の生成を制御する信号である制御情報を、H偏波成分生成部232_HとV偏波成分生成部232_Vとに出力する。H偏波成分生成部232_HとV偏波成分生成部232_Vとは送信アンテナ251に接続される。H偏波成分生成部232_Hは、制御情報に従って、H偏波成分の生成を行う。H偏波成分生成部232_Hによって生成されたH偏波成分の偏波信号は送信アンテナ251へ出力される。V偏波成分生成部232_Vは、制御情報に従って、V偏波成分の生成を行う。V偏波成分生成部232_Vによって生成されたV偏波成分の偏波信号は送信アンテナ251へ出力される。送信アンテナ251は、H偏波成分の偏波信号とV偏波成分の偏波信号とから成る電磁波を地中に向かって放射する。H偏波成分生成部232_HとV偏波成分生成部232_Vとは、偏波信号の情報である偏波情報を受信部240へ出力する。受信部240に入力された偏波情報は、H偏波成分抽出部241_HとV偏波成分抽出部241_Vとに入力される。
H偏波成分の偏波信号とV偏波成分の偏波信号とが同一の強度かつ同一の周波数で位相差が90°(π/2ラジアン)の正弦波である場合には、送信アンテナ251から放射される電磁波は円偏波になる。この円偏波の一例として、上記の図14に示される円偏波としたFM−CW方式が挙げられる。これにより、H偏波成分生成部232_Hで生成されたH偏波成分の偏波信号と、V偏波成分生成部232_Vで生成されたV偏波成分の偏波信号とから生成される電磁波においては、互いに直交するH偏波成分とV偏波成分とが送信アンテナ251から放射されて重ね合わさり円偏波となる。
送信アンテナ251から地中に向かって放射された電磁波は、地中の測定対象である鉄筋コンクリート100の鉄筋で反射される。その地中の鉄筋コンクリート100の鉄筋で反射された反射波は、受信アンテナ252で受信される。受信部240のH偏波成分抽出部241_HとV偏波成分抽出部241_Vとは受信アンテナ252に接続される。H偏波成分抽出部241_Hは、受信アンテナ252の受信信号から、X軸方向に対応するH偏波成分を抽出する。V偏波成分生成部232_Vは、受信アンテナ252の受信信号から、Y軸方向に対応するV偏波成分を抽出する。H偏波成分抽出部241_HとV偏波成分抽出部241_Vとは、上記の図14(c),(d)に示されるFM−CW方式での周波数掃引を使用したパルス圧縮によって、各々に偏波成分を抽出する。
H偏波成分抽出部241_Hは、偏波情報に基づいて、H偏波成分の偏波信号の送信タイミングを認識する。また、V偏波成分抽出部241_Vは、偏波情報に基づいて、V偏波成分の偏波信号の送信タイミングを認識する。この送信タイミングから反射波の受信タイミングまでの時間が電磁波伝搬時間に相当し、この電磁波伝搬時間から、反射波を反射した対象物の位置(深さ)を計算することができる。
例えば、X軸方向(H偏波成分に対応)の鉄筋103による反射波の伝搬時間でH偏波成分が比較的強く観測された場合には、鉄筋103を検出できたことになる。他方、Y軸方向(V偏波成分に対応)の鉄筋104による反射波の伝搬時間でV偏波成分が比較的強く観測された場合には、鉄筋104を検出できたことになる。
H偏波成分抽出部241_Hで抽出されたH偏波成分の情報は統合処理部242へ出力される。V偏波成分抽出部241_Vで抽出されたV偏波成分の情報は統合処理部242へ出力される。統合処理部242は、H偏波成分抽出部241_Hから入力されたH偏波成分の情報と、V偏波成分抽出部241_Vから入力されたV偏波成分の情報とを使用して、統合処理を実行する。この統合処理では、統合処理部242は、上記の図15及び図16を参照して説明したX軸成分を強調する処理とY軸成分を強調する処理とを実行し、この実行結果に基づいて、当該反射波を反射した鉄筋がX軸方向に配置されるのか又はY軸方向に配置されるのかを判断する。統合処理部242の処理結果は処理結果出力部243へ出力される。処理結果出力部243は、統合処理部242の処理結果を出力する。統合処理部242の処理結果として、例えば、上記の図7(b)に示されるケースAの場合の地中のマンホールの鉄筋の分布図が挙げられる。処理結果出力部243から出力された統合処理部242の処理結果は、表示装置の表示画面上に表示される。
なお、上記の図17の構成では、1つの送信アンテナ251と1つの受信アンテナ252とから成る1組のアンテナ対を示したが、上記の図7(d)に示されるように複数の送信アンテナ251と複数の受信アンテナ252とから成る複数組のアンテナ対を備えてもよい。この場合、受信部240において、H偏波成分抽出部241_HとV偏波成分抽出部241_Vとが、各対の測定データから、各々H偏波成分とV偏波成分とを抽出する。そして、統合処理部242が、各対の測定データから抽出されたH偏波成分とV偏波成分とを統合する処理を実行する。これにより、複数組のアンテナ対で測定された測定データを使用することができるので、より高精度の測定を行うことができる。また、複数の送信アンテナ251と複数の受信アンテナ252の中から、任意に、送信アンテナ251と受信アンテナ252の組合せを選択するように構成してもよい。
図18を参照して、図17に示される地中レーダ装置220の動作を説明する。図18は、本実施形態の測定方法のフローチャートである。
(ステップS201)入力制御部231が、H偏波成分とV偏波成分の生成を制御する信号である制御情報を、H偏波成分生成部232_HとV偏波成分生成部232_Vとに出力する。
(ステップS202)H偏波成分生成部232_Hが制御情報に従ってH偏波成分を生成する。H偏波成分生成部232_Hによって生成されたH偏波成分の偏波信号は送信アンテナ251へ出力される。V偏波成分生成部232_Vが制御情報に従ってV偏波成分を生成する。V偏波成分生成部232_Vによって生成されたV偏波成分の偏波信号は送信アンテナ251へ出力される。これにより、H偏波成分の偏波信号とV偏波成分の偏波信号とから成る電磁波が、送信アンテナ251から地中に向かって放射される。H偏波成分生成部232_HとV偏波成分生成部232_Vとは、偏波信号の情報である偏波情報を受信部240へ出力する。受信部240に入力された偏波情報は、H偏波成分抽出部241_HとV偏波成分抽出部241_Vとに入力される。
(ステップS203)受信アンテナ252により地中レーダの電磁波である反射波を受信して、この受信した信号がH偏波成分抽出部241_HとV偏波成分抽出部241_Vへ伝えられる。
(ステップS204)H偏波成分抽出部241_Hが受信アンテナ252の受信信号からX軸方向に対応するH偏波成分を抽出する。V偏波成分生成部232_Vが受信アンテナ252の受信信号からY軸方向に対応するV偏波成分を抽出する。
(ステップS205)統合処理部242が、H偏波成分抽出部241_Hにより抽出されたH偏波成分の情報と、V偏波成分抽出部241_Vにより抽出されたV偏波成分の情報とを使用して、統合処理を実行する。
(ステップS206)処理結果出力部243が統合処理部242の処理結果を出力する。処理結果出力部243から出力された統合処理部242の処理結果は、表示装置の表示画面上に表示される。
次に図19及び図20を参照して、地中レーダから放射する電磁波の他の例を説明する。図19及び図20は偏波面回転波を示す。図19は、偏波面回転波の偏波面をX−Y軸の面とし、伝搬方向をZ軸の方向とした図である。図20は、偏波面回転波の偏波角を示す図であり、偏波面のX−Y軸平面上である。図20に示す偏波面回転波では、ある測定時間内での偏波面が8方向に各々存在する。以下に、図19及び図20に示す偏波面回転波を地中レーダに使用する場合を、図21から図28を参照して説明する。なお、円偏波と偏波面回転波との違いは、円偏波では偏波面が電磁波の基本周波数(搬送波周波数)で回転するのに対し、偏波面回転波では電磁波の搬送波周波数よりも低い任意の周波数で回転することである。
図21及び図22は偏波面回転波による反射波の状況を示す。図21は、4つの時刻(T0,T1’,T2’,T3’)を例に、各時刻T0,T1’,T2’,T3’における各偏波角θ0,θ1,θ2,θ3の電界強度を示す。偏波角の例として、θ0=0°、θ1=45°、θ2=90°、θ3=135°である。なお、図21中には、偏波角0°,45°,90°,135°の各々に対応する電界強度I0,I45,I90,I135のうち、電界強度I0,I45,I90を示し、電界強度I135については省略している。また、偏波角0°をX’軸方向とし、偏波角90°をY’軸方向とする。
図21に示されるように、反射波に対して特定の時間スリットを通過させ、対象物の方向を検出する。時間スリットは、各偏波角0°,45°,90°,135°に対応する。偏波角0°(X’軸)に対して、時刻T0,T4’,・・・,T4n(n=0,1,2,・・・)の時間スリットを通過させ、偏波角0°(X’軸)の電界強度I0に比較的強く反応する対象物を検出する。偏波角45°に対して、時刻T1’,T5’,・・・,T4n+1(n=0,1,2,・・・)の時間スリットを通過させ、偏波角45°の電界強度I45に比較的強く反応する対象物を検出する。偏波角90°(Y’軸)に対して、時刻T2’,T6’,・・・,T4n+2(n=0,1,2,・・・)の時間スリットを通過させ、偏波角90°(Y’軸)の電界強度I90に比較的強く反応する対象物を検出する。偏波角135°に対して、時刻T3’,T7’,・・・,T4n+3(n=0,1,2,・・・)の時間スリットを通過させ、偏波角135°の電界強度I135に比較的強く反応する対象物を検出する。
図22(a)は、時刻T0でのX’軸とY’軸の各反射強度(IX’,IY’)を示す。図22(b)は、時刻T1’でのX’軸とY’軸の各反射強度(IX’,IY’)を示す。図22(c)は、時刻T2’でのX’軸とY’軸の各反射強度(IX’,IY’)を示す。図22(d)は、時刻T3’でのX’軸とY’軸の各反射強度(IX’,IY’)を示す。図22(a),(b),(c),(d)において、Z軸は深さを示す。
図22(a)には、時刻T0において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T0では、図22(a)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、X’軸方向つまり偏波角0°(X’軸)の反射強度X’_220が比較的強く、Y’軸方向つまり偏波角90°(Y’軸)の反射強度が比較的弱い。
図22(b)には、時刻T1’において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T1’では、図22(b)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、X’軸方向つまり偏波角0°(X’軸)の反射強度とY’軸方向つまり偏波角90°(Y’軸)の反射強度との間には格別な差がない。
図22(c)には、時刻T2’において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T2’では、図22(c)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、Y’軸方向つまり偏波角90°(Y’軸)の反射強度Y’_222が比較的強く、X’軸方向つまり偏波角0°(X’軸)の反射強度が比較的弱い。
図22(d)には、時刻T3’において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T3’では、図22(d)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、X’軸方向つまり偏波角0°(X’軸)の反射強度とY’軸方向つまり偏波角90°(Y’軸)の反射強度との間には格別な差がない。
図22(a),(b),(c),(d)の例では、偏波角0°(X’軸)の方向が鉄筋103のX軸方向に一致し、偏波角90°(Y’軸)の方向が鉄筋104のY軸方向に一致することが考えられる。なお、偏波角0°(X’軸)の方向と偏波角90°(Y’軸)の方向とが、鉄筋103,104のX軸,Y軸の方向と一致しなくてもよい。
また、図21及び図22では代表的な4つの時刻T0,T1’,T2’,T3’を例に挙げたが、実際の地中レーダ装置ではより多くの時間に分けた構成を実装することにより、より細かな測定データが得られるようにしてもよい。また、図21及び図22では代表的な4つの偏波角θ0=0°、θ1=45°、θ2=90°、θ3=135°を例に挙げたが、実際の地中レーダ装置ではより多くの偏波角に分けた構成を実装することにより、走査の効率化を図ると共により細かな測定データが得られるようにしてもよい。
次に図23を参照して本実施形態に係る地中レーダの他の装置構成を説明する。図23は、本実施形態の地中レーダ装置260の構成を示す図である。図23に示す地中レーダ装置260は、上記の図7に示すケースA及びケースBに適用される。上記の図17に示す地中レーダ装置220ではH偏波成分とV偏波成分とを重ね合わせた電磁波を使用するが、図23に示す地中レーダ装置260では偏波面回転波を使用する。この偏波面回転波については、上記の図19と図20に一例を挙げ説明している。
図23に示す地中レーダ装置260は、送信部270と、受信部280と、送信アンテナ261と、受信アンテナ262とを備える。送信アンテナ261は、偏波面回転波を送信することができる。受信アンテナ262は、偏波面回転波を受信することができる。送信部270は、入力制御部271と偏波面回転波生成部272とを備える。受信部280は、複数(図23の例では「k+1」個)の信号抽出部281_0〜kと統合処理部282と処理結果出力部283とを備える。
入力制御部271は、偏波面回転波の生成を制御する信号である制御情報を、偏波面回転波生成部272に出力する。偏波面回転波生成部272は送信アンテナ261に接続される。偏波面回転波生成部272は、制御情報に従って、偏波面回転波信号の生成を行う。この偏波面回転波信号の生成処理では、偏波面回転波生成部272は、上記の図14に示されるFM−CW方式の周波数−連続変調を、上記の図19及び図20に示す偏波面回転波に対して実行する。このFM−CW方式の周波数−連続変調の実行の結果として、偏波面回転波信号が生成される。偏波面回転波生成部272によって生成された偏波面回転波信号は送信アンテナ261へ出力される。送信アンテナ261は、偏波面回転波信号から成る電磁波を地中に向かって放射する。偏波面回転波生成部272は、偏波面回転波信号の偏波角の情報である偏波角情報を受信部280へ出力する。受信部280に入力された偏波角情報は、信号抽出部281_0〜kに入力される。
送信アンテナ261から地中に向かって放射された電磁波は、地中の測定対象である鉄筋コンクリート100の鉄筋で反射される。その地中の鉄筋コンクリート100の鉄筋で反射された反射波は、受信アンテナ262で受信される。受信部280の信号抽出部281_0〜kは、受信アンテナ262に接続される。信号抽出部281_0〜kは、受信アンテナ262の受信信号から、予め定められた偏波角θ0〜θkに沿う信号を抽出する。具体的には、信号抽出部281_nは、受信アンテナ262の受信信号から、偏波角θnに沿う信号を抽出する(n=0,1,・・・,k)。この偏波角θnに沿う信号の抽出処理では、信号抽出部281_nは、上記の図14(c),(d)に示されるFM−CW方式での周波数掃引を使用したパルス圧縮により、偏波角θnに沿う信号を抽出する。信号抽出部281_nは、偏波角情報に基づいて、偏波面回転波信号のうち偏波角θnの信号を認識する。
各信号抽出部281_0〜kで抽出された各偏波角θ0〜θkに沿う信号は、統合処理部282へ出力される。統合処理部282は、各信号抽出部281_0〜kから入力された各偏波角θ0〜θkに沿う信号を使用して、統合処理を実行する。この統合処理では、統合処理部282は、上記の図21及び図22を参照して説明した各偏波角θ0〜θkに沿う信号を強調する処理を実行し、この実行結果に基づいて、当該反射波を反射した鉄筋が偏波角θ0〜θkのうちいずれの偏波角の方向に配置されるのかを判断する。
統合処理部282の処理結果は処理結果出力部283へ出力される。処理結果出力部283は、統合処理部282の処理結果を出力する。統合処理部282の処理結果として、例えば、上記の図7に示される地中のマンホールの鉄筋の分布図が挙げられる。処理結果出力部283から出力された統合処理部282の処理結果は、表示装置の表示画面上に表示される。
図23に示す地中レーダ装置260は、上記の図7(b)に示されるケースA及び図7(c)に示されるケースBのいずれのケースにも適用することができる。図7(b)に示されるケースAでは、図23に示される地中レーダの走査における座標のX’軸とY’軸とが、鉄筋方向の座標のX軸とY軸とに一致する。したがって、偏波角θ0〜θkのうちX’軸方向に一致する偏波角とY’軸方向に一致する偏波角とに基づいて、鉄筋の存在及び配置方向を容易に判断することができる。
他方、図7(c)に示されるケースBでは、図23に示される地中レーダの走査における座標のX’軸とY’軸とが、鉄筋方向の座標のX軸とY軸とは一致しない。しかし、偏波角θ0〜θkの中に鉄筋方向の座標のX軸又はY軸の方向に一致する偏波角が存在する場合、該一致する偏波角に基づいて、地中レーダの走査における座標のX’軸とY’軸とを鉄筋方向の座標のX軸とY軸とに合わせることができる。例えば、統合処理部282は、該一致する偏波角に基づいて、地中レーダの走査における座標のX’軸とY’軸とを鉄筋方向の座標のX軸とY軸とに合わせるための座標回転角φを判断し、座標回転角φにより統合処理の結果の測定データに対する座標回転を実行する。なお、偏波角θ0〜θkの全てが鉄筋方向の座標のX軸及びY軸の方向から多少ずれていても、大凡の鉄筋方向を判断することはできる。
上述のように図23に示す地中レーダ装置260は、地中レーダの走査方向と測定対象の鉄筋の方向とが一致する場合にも不一致する場合にも適用することができる。これにより、地中レーダの走査方向を任意に設定することができる。例えば、上記の図7(b)に示されるケースAのように、埋設されたマンホールの天井の鉄筋コンクリートの内部に格子状に存在する鉄筋が車両(地中レーダ)の走行方向(走査方向であるX’軸方向)と横断方向(走査方向に垂直なY’軸方向)とに配置される場合に、図23に示す地中レーダ装置260を適用することができる。また、図7(c)に示されるケースBのように、マンホールが交差点の中央部分に埋設され、車両(地中レーダ)の走行方向(走査方向であるX’軸方向)が、マンホールの天井の鉄筋コンクリートの内部に格子状に存在する鉄筋の配置方向に対して、図7(c−1),(c−2)に示されるように斜めになる場合であっても、図23に示す地中レーダ装置260を適用することができる。これにより、図7(c)に示されるケースBでは、図7(c−1),(c−2)のいずれの場合にも、地上レーダを搭載した車両が交差点を右折して交差点の中央部分を通過するタイミングで、地中のマンホールの天井の鉄筋コンクリートについての測定を行うことができる。
なお、上記の図23の構成では、1つの送信アンテナ261と1つの受信アンテナ262とから成る1組のアンテナ対を示したが、上記の図7(d)に示されるように複数の送信アンテナ261と複数の受信アンテナ262とから成る複数組のアンテナ対を備えてもよい。この場合、受信部280において、信号抽出部281_0〜kが、各対の測定データから、各々の偏波角θ0〜θkに沿う信号を抽出する。そして、統合処理部282が、各対の測定データから抽出された各偏波角θ0〜θkに沿う信号を統合する処理を実行する。これにより、複数組のアンテナ対で測定された測定データを使用することができるので、より高精度の測定を行うことができる。また、複数の送信アンテナ261と複数の受信アンテナ262の中から、任意に、送信アンテナ261と受信アンテナ262の組合せを選択するように構成してもよい。
図24を参照して、図23に示される地中レーダ装置260の動作を説明する。図24は、本実施形態の他の測定方法のフローチャートである。
(ステップS301)入力制御部271が、偏波面回転波の生成を制御する信号である制御情報を、偏波面回転波生成部272に出力する。
(ステップS302)偏波面回転波生成部272が制御情報に従って偏波面回転波信号を生成する。偏波面回転波生成部272によって生成された偏波面回転波信号は送信アンテナ261へ出力される。これにより、偏波面回転波信号から成る電磁波が、送信アンテナ261から地中に向かって放射される。偏波面回転波生成部272は、偏波面回転波信号の偏波角の情報である偏波角情報を受信部280へ出力する。受信部280に入力された偏波角情報は、信号抽出部281_0〜kに入力される。
(ステップS303)受信アンテナ262により地中レーダの電磁波である反射波を受信して、この受信した信号は信号抽出部281_0〜kへ伝えられる。
(ステップS304)信号抽出部281_0〜kが、受信アンテナ262の受信信号から、予め定められた偏波角θ0〜θkに沿う信号を抽出する。
(ステップS305)統合処理部282が、各信号抽出部281_0〜kにより抽出された各偏波角θ0〜θkに沿う信号を使用して、統合処理を実行する。
(ステップS306)処理結果出力部283が統合処理部282の処理結果を出力する。処理結果出力部283から出力された統合処理部282の処理結果は、表示装置の表示画面上に表示される。
図25は、図23に示す偏波面回転波生成部272及び送信アンテナ261の実施例を示す。図25において、偏波面回転波生成部272は、搬送波発振器2701と副搬送波発振器2702と逓倍器2703と混合器2704,2707と同調/電力増幅器2705,2708とπ/2位相器2706とを備える。送信アンテナ261は、XアンテナとYアンテナとを備える。XアンテナとYアンテナとは直交する。
搬送波発振器2701は搬送波f0を生成する。搬送波f0は、逓倍器2703を介して、混合器2704,2707に入力される。混合器2704は、搬送波f0と副搬送波発振器2702により生成された搬送波fsとをミキシングする。混合器2704によるミキシング結果の信号fiは、同調/電力増幅器2705を介して、送信アンテナ261のYアンテナに出力される。
また、副搬送波発振器2702により生成された搬送波fsはπ/2位相器2706により搬送波fs’となって混合器2707に入力される。混合器2707は、搬送波f0と搬送波fs’とをミキシングする。混合器2707によるミキシング結果の信号fi’は、同調/電力増幅器2708を介して、送信アンテナ261のXアンテナに出力される。
図26は、偏波面回転波を生成する平衡変調波の例を示す。図26(a)は平衡変調波Axを示し、図26(b)は平衡変調波Ayを示す。図25に示す送信アンテナ261のYアンテナに入力される信号fiとXアンテナに入力される信号fi’の一例として、信号fiは図26(a)に示す平衡変調波Axであり、信号fi’は図26(b)に示す平衡変調波Ayである。図25に示す送信アンテナ261において、Yアンテナから平衡変調波Axが送信され且つXアンテナから平衡変調波Ayが送信されることにより、偏波面回転波が生成される。なお、受信アンテナ262は送信アンテナ261と同じ構成とする。
図27は、送信アンテナ261及び受信アンテナ262の実施例を示す。図27には、一般に地中レーダに使用されるボウタイアンテナが示される。地中レーダにボウタイアンテナが使用される理由は、自己相似アンテナであり、周波数に寄らず同一周波数特性で広帯域において使用可能であるからである。図27(a)には、サイズs_a,s_bのボウタイアンテナが示される。サイズs_aは210[単位はmm]、サイズs_bは105[単位はmm]である。図27(b)は、図27(a)に示すボウタイアンテナの絶対利得を示す。図27(b)に示されるように、周波数特性で数百MHzから2GHzまでの範囲において一定の利得(−3dB以上)が得られる。そして、直交する偏波に対応するために、2つの同じボウタイアンテナを直交させた構成を、送信アンテナ261及び受信アンテナ262の各々に使用する。
図28は、クロススロットボウタイアンテナを示す。図28に示されるように、クロススロットボウタイアンテナは、図27(a)に示すボウタイアンテナの形の穴が導体2800に形成されている。その穴の形は、図27(a)に示すボウタイアンテナを2つ交差させた形である。さらに穴の奥には、一部切れた円形のループ導体2801を内蔵する。送信アンテナ261においては、ループ導体2801の両端が送信する電磁波信号を供給する給電端となる。受信アンテナ262においては、ループ導体2801の両端が受信信号を出力する受電端となる。
上述した第2の実施形態によれば、偏波面が回転する偏波面回転波を生成し、生成された偏波面回転波を有する電磁波を送信アンテナから地中に向かって放射する。その電磁波の反射波を受信アンテナで受信し、受信された反射波の受信信号から特定の複数の各偏波角に沿う信号を抽出する。次いで、抽出された各偏波角に沿う信号の強度の比に基づいて、線状導体からなる埋設物の向きを判断する。これにより、地中に埋設された鉄筋などの線状導体の向きを識別することができる。また、埋設物からの反射波がほぼ同じ反射強度である場合でも、偏波角の違いにより方向の異なる鉄筋を識別することができる。また、偏波面が回転する偏波面回転波を使用することにより、地中レーダを使用した測定の効率の向上を図ることができる。なお、上述した鉄筋コンクリート100の鉄筋103,104は、線状導体からなる埋設物の一例である。
第2の実施形態によれば、抽出された各偏波角に沿う信号の強度の比に基づいて、偏波角の座標系から埋設物の座標系に変換する座標回転角を取得する。これにより、地中レーダの走査における座標系と線状導体からなる埋設物の座標系とを合わせることができる。
(第3の実施形態)
図29から図31を参照し、第3の実施形態について説明する。本実施形態では、測定対象の一例として、図3に示される鉄筋コンクリート100を挙げて説明する。図29を参照して本実施形態に係る地中レーダの装置構成を説明する。図29は、本実施形態の地中レーダ装置310の構成を示す図である。図29に示す地中レーダ装置310は、上記の図17に示す地中レーダ装置220の変形例である。上記の図17に示す地中レーダ装置220は上記の図7に示されるケースAに適用されるが、本実施形態の図29に示す地中レーダ装置310は上記の図7に示すケースA及びケースBに適用される。
図29に示す地中レーダ装置310は、送信部320と、受信部330と、送信アンテナ311と、受信アンテナ312とを備える。送信アンテナ311は、H偏波とV偏波とを各々に送信することができる。受信アンテナ312は、H偏波とV偏波とを各々に受信することができる。送信部320は、入力制御部321とH偏波成分生成部322_HとV偏波成分生成部322_Vと符号化変調部323_Hと符号化変調部323_Vとを備える。受信部330は、H偏波成分抽出部331_HとV偏波成分抽出部331_Vと統合処理部332と処理結果出力部333とを備える。
入力制御部321は、H偏波成分とV偏波成分の生成を制御する信号である制御情報を、H偏波成分生成部322_HとV偏波成分生成部322_Vとに出力する。H偏波成分生成部322_Hは、制御情報に従って、H偏波成分の生成を行う。H偏波成分生成部322_Hによって生成されたH偏波成分の信号は符号化変調部323_Hへ出力される。V偏波成分生成部322_Vは、制御情報に従って、V偏波成分の生成を行う。V偏波成分生成部322_Vによって生成されたV偏波成分の信号は符号化変調部323_Vへ出力される。
符号化変調部323_Hは、H偏波成分生成部322_Hから入力されたH偏波成分の信号に対して、予め定められたH偏波成分用の符号化変調を行う。符号化変調部323_Vは、V偏波成分生成部322_Vから入力されたV偏波成分の信号に対して、予め定められたV偏波成分用の符号化変調を行う。H偏波成分用の符号化変調とV偏波成分用の符号化変調とは、H偏波成分とV偏波成分とを識別できるようにするための符号化変調である。このため、直交する相手の成分とは異なる符号化変調コードを使用して符号化変調を行う。符号化変調コードとして、例えば、PN符号系列(Pseudorandom Noise Code Sequence,疑似雑音符号系列)、M系列(Maximum-length shift-register sequence,M- sequence,最大長シフトレジスタ系列)、Gold系列(ゴールド系列)などを使用することができる(例えば非特許文献3,4参照)。
符号化変調部323_Hと符号化変調部323_Vとは送信アンテナ311に接続される。符号化変調部323_HによってH偏波成分用の符号化変調が行われたH偏波成分の偏波信号は送信アンテナ311へ出力される。符号化変調部323_VによってV偏波成分用の符号化変調が行われたV偏波成分の偏波信号は送信アンテナ311へ出力される。送信アンテナ311は、H偏波成分の偏波信号とV偏波成分の偏波信号とから成る電磁波を地中に向かって放射する。なお、図29に示す地中レーダ装置310では、上記の図17に示す地中レーダ装置220とは異なり、送信部320から受信部330へ偏波情報を送らない。
H偏波成分生成部322_Hによって生成されたH偏波成分の信号とV偏波成分生成部322_Vによって生成されたV偏波成分の信号とが同一の強度かつ同一の周波数で位相差が90°(π/2ラジアン)の正弦波であり、かつ、H偏波成分用の符号化変調コードとV偏波成分用の符号化変調コードとが両方とも値「1」の連続である場合には、送信アンテナ251から放射される電磁波は円偏波になる。これにより、符号化変調部323_Hで生成されたH偏波成分の偏波信号と、符号化変調部323_Vで生成されたV偏波成分の偏波信号とから生成される電磁波においては、互いに直交するH偏波成分とV偏波成分とが送信アンテナ311から放射されて重ね合わさり円偏波となる。
送信アンテナ311から地中に向かって放射された電磁波は、地中の測定対象である鉄筋コンクリート100の鉄筋で反射される。その地中の鉄筋コンクリート100の鉄筋で反射された反射波は、受信アンテナ312で受信される。受信部330のH偏波成分抽出部331_HとV偏波成分抽出部331_Vとは受信アンテナ312に接続される。H偏波成分抽出部331_Hは、受信アンテナ312の受信信号から、X’軸方向に対応するH偏波成分を抽出する。このH偏波成分の抽出処理では、H偏波成分抽出部331_Hは、受信アンテナ312の受信信号に対して予め定められたH偏波成分用の復調を行うことにより、H偏波成分を抽出する。該H偏波成分用の復調は、符号化変調部323_Hが行うH偏波成分用の符号化変調に対応する。V偏波成分抽出部331_Vは、受信アンテナ312の受信信号から、Y’軸方向に対応するV偏波成分を抽出する。このV偏波成分の抽出処理では、V偏波成分抽出部331_Vは、受信アンテナ312の受信信号に対して予め定められたV偏波成分用の復調を行うことにより、V偏波成分を抽出する。該V偏波成分用の復調は、符号化変調部323_Vが行うV偏波成分用の符号化変調に対応する。なお、X’軸とY’軸とは地中レーダの走査における座標の2軸である。
H偏波成分抽出部331_Hで抽出されたH偏波成分の情報は統合処理部332へ出力される。V偏波成分抽出部331_Vで抽出されたV偏波成分の情報は統合処理部332へ出力される。統合処理部332は、H偏波成分抽出部331_Hから入力されたH偏波成分の情報と、V偏波成分抽出部331_Vから入力されたV偏波成分の情報とを使用して、統合処理を実行する。この統合処理については後述する。統合処理部332の処理結果は処理結果出力部333へ出力される。処理結果出力部333は、統合処理部332の処理結果を出力する。処理結果出力部333から出力された統合処理部332の処理結果は、表示装置の表示画面上に表示される。
図30を参照して、図29に示される地中レーダ装置310の動作を説明する。図30は、本実施形態の測定方法のフローチャートである。
(ステップS401)入力制御部321が、H偏波成分とV偏波成分の生成を制御する信号である制御情報を、H偏波成分生成部322_HとV偏波成分生成部322_Vとに出力する。
(ステップS402)H偏波成分生成部322_Hが制御情報に従ってH偏波成分を生成する。V偏波成分生成部322_Vが制御情報に従ってV偏波成分を生成する。
(ステップS403)符号化変調部323_Hが、H偏波成分生成部322_Hにより生成されたH偏波成分の信号に対して、予め定められたH偏波成分用の符号化変調を行う。符号化変調部323_Vが、V偏波成分生成部322_Vにより生成されたV偏波成分の信号に対して、予め定められたV偏波成分用の符号化変調を行う。符号化変調部323_HによってH偏波成分用の符号化変調が行われたH偏波成分の偏波信号は送信アンテナ311へ出力される。符号化変調部323_VによってV偏波成分用の符号化変調が行われたV偏波成分の偏波信号は送信アンテナ311へ出力される。これにより、H偏波成分の偏波信号とV偏波成分の偏波信号とから成る電磁波が、送信アンテナ311から地中に向かって放射される。
(ステップS404)受信アンテナ312により地中レーダの電磁波である反射波を受信して、この受信した信号がH偏波成分抽出部331_HとV偏波成分抽出部331_Vへ伝えられる。
(ステップS405)H偏波成分抽出部331_Hが、受信アンテナ312の受信信号から、X’軸方向に対応するH偏波成分を抽出する。V偏波成分抽出部331_Vが、受信アンテナ312の受信信号から、Y’軸方向に対応するV偏波成分を抽出する。
(ステップS406)統合処理部332が、H偏波成分抽出部331_Hにより抽出されたH偏波成分の情報と、V偏波成分抽出部331_Vにより抽出されたV偏波成分の情報とを使用して、統合処理を実行する。
(ステップS407)処理結果出力部333は、統合処理部332の処理結果を出力する。処理結果出力部333から出力された統合処理部332の処理結果は、表示装置の表示画面上に表示される。
図31を参照して図29に示す地中レーダ装置310の統合処理部332の動作を説明する。図31は、図29に示す地中レーダ装置310の統合処理部332による統合処理を説明する図である。図31には、X軸方向に配置される鉄筋103による反射波に着目する場合の処理が示される。図29及び図31に示されるように、地中レーダの走査における座標において、X’軸方向成分がH偏波成分に対応し、Y’軸方向成分がV偏波成分に対応する。また、鉄筋コンクリート100の内部に格子状に存在する鉄筋の方向の座標において、X軸方向が鉄筋103の配置方向に対応する。走査における座標(X’軸,Y’軸,Z軸)及び鉄筋方向の座標(X軸,Y軸,Z軸)において、Z軸は地中の深さ方向に対応し、両方の座標で共通である。
走査における座標(X’軸,Y’軸,Z軸)と鉄筋方向の座標(X軸,Y軸,Z軸)とはZ軸は共通であるが、他の2軸が異なる。ここでは、走査における座標(X’軸,Y’軸,Z軸)と鉄筋方向の座標(X軸,Y軸,Z軸)とにおいて、X’軸とX軸とが成す角度をφとする。統合処理部332による統合処理では、X’軸とX軸とが成す角度φを求める。測定の前提条件として、鉄筋コンクリート100の鉄筋103の深さは既知である。この前提条件により、鉄筋103による反射波は、鉄筋103の既知の深さに対応する伝搬時間から特定できる。
統合処理部332は、H偏波成分抽出部331_Hから入力されたH偏波成分の情報とV偏波成分抽出部331_Vから入力されたV偏波成分の情報とのうち、鉄筋103の既知の深さに対応する伝搬時間で受信された受信信号から抽出されたH偏波成分(X’軸方向成分)の信号強度とV偏波成分(Y’軸方向成分)の信号強度とを取得する。統合処理部332は、その取得したH偏波成分(X’軸方向成分)の信号強度とV偏波成分(Y’軸方向成分)の信号強度とを、図31に示すように、それぞれX’軸とY’軸に当てはめて合成する。この合成した結果の方向がX軸方向である。統合処理部332は、その合成した結果の方向(X軸方向)とX’軸とが成す角度φを求める。この角度φは、地中レーダの走査における座標のX’軸とY’軸とを鉄筋方向の座標のX軸とY軸とに合わせるための座標回転角φである。この求められた角度φによって、走査における座標(X’軸,Y’軸,Z軸)と鉄筋方向の座標(X軸,Y軸,Z軸)との空間的な対応関係を明確に把握することができる。これにより、鉄筋コンクリート100の鉄筋103,104の配置方向を判断することができる。
なお、図31ではX軸方向に配置される鉄筋103による反射波に着目したが、Y軸方向に配置される鉄筋104による反射波に着目する場合も同様に処理することができる。Y軸方向に配置される鉄筋104による反射波に着目する場合には、鉄筋104の既知の深さに対応する伝搬時間で受信された受信信号から抽出されたH偏波成分(X’軸方向成分)の信号強度とV偏波成分(Y’軸方向成分)の信号強度とを、それぞれX’軸とY’軸に当てはめて合成する。この合成した結果の方向がY軸方向であるので、合成した結果の方向(Y軸方向)とY’軸とが成す角度φを求める。なお、Y軸方向とY’軸とが成す角度φの値はX軸方向とX’軸とが成す角度の値と同じである。したがって、X軸方向に配置される鉄筋103による反射波に着目してもよく、又は、Y軸方向に配置される鉄筋104による反射波に着目してもよい。
図29に示す地中レーダ装置310は、上記の図7(b)に示されるケースA及び図7(c)に示されるケースBのいずれのケースにも適用することができる。図7(b)に示されるケースAでは、図29及び図31に示される地中レーダの走査における座標のX’軸とY’軸とが、鉄筋方向の座標のX軸とY軸とに一致する。したがって、X’軸方向のH偏波成分とY’軸方向のV偏波成分とに基づいて、鉄筋の存在及び配置方向を容易に判断することができる。これにより、統合処理部332の処理結果として、例えば、上記の図7(b)に示されるケースAの場合の地中のマンホールの鉄筋の分布図を、表示装置の表示画面上に表示することができる。
他方、図7(c)に示されるケースBでは、図29及び図31に示される地中レーダの走査における座標のX’軸とY’軸とが、鉄筋方向の座標のX軸とY軸とは一致しない。しかし、上記の図31を参照して説明した地中レーダ装置310の統合処理部332による統合処理によって、走査における座標(X’軸,Y’軸,Z軸)と鉄筋方向の座標(X軸,Y軸,Z軸)との空間的な対応関係を明確に把握することができる。これにより、図7(c)に示されるケースBであっても、鉄筋の存在及び配置方向を判断することができる。そして、図7(c)に示されるケースBでは、地上レーダを搭載した車両が交差点を右折して交差点の中央部分を通過するタイミングで、地中のマンホールの天井の鉄筋コンクリートについての測定を行うことができる。これにより、統合処理部332の処理結果として、例えば、上記の図7(c)に示されるケースBの場合の地中のマンホールの鉄筋の分布図を、表示装置の表示画面上に表示することができる。
上述のように図29に示す地中レーダ装置310は、地中レーダの走査方向と測定対象の鉄筋の方向とが一致する場合にも不一致する場合にも適用することができる。これにより、地中レーダの走査方向を任意に設定することができる。
なお、上記の図29の構成では、1つの送信アンテナ311と1つの受信アンテナ312とから成る1組のアンテナ対を示したが、上記の図7(d)に示されるように複数の送信アンテナ311と複数の受信アンテナ312とから成る複数組のアンテナ対を備えてもよい。この場合、受信部330において、H偏波成分抽出部331_HとV偏波成分抽出部331_Vとが、各対の測定データから、各々H偏波成分とV偏波成分とを抽出する。そして、統合処理部332が、各対の測定データから抽出されたH偏波成分とV偏波成分とを統合する処理を実行する。これにより、複数組のアンテナ対で測定された測定データを使用することができるので、より高精度の測定を行うことができる。また、複数の送信アンテナ311と複数の受信アンテナ312の中から、送信アンテナ311と受信アンテナ312の組合せを任意に選択するように構成してもよい。
また、地中レーダ装置310に複数組のアンテナ対を備える場合には、送信部320の各符号化変調部323_H,323_Vが、複数の送信アンテナ311の各々に個別の符号化変調を行う。これにより、受信部330のH偏波成分抽出部331_H及びV偏波成分抽出部331_Vは、複数の送信アンテナ311の各々に個別の復調を行うことにより、複数の送信アンテナ311の各々からの反射波を識別することができる。但し、複数の送信アンテナ311の各々に個別の復調として、トーン信号をキーとする復調を使用することは難しい。しかし、送信アンテナ311が1つのみである場合や、複数の送信アンテナ311を時間で切り替えて使用する場合には、偏波面の移動回転量に同期して周波数を掃引させた低周波信号(トーン信号)により振幅変調する簡単な変調方式を利用することができる。
また、地中レーダ装置310に複数組のアンテナ対を備える場合には、アンテナ対毎に空間座標が変わる可能性がある。しかしながら、車両(地中レーダ)の走行方向(走査方向であるX’軸方向)に対して垂直な横断方向(走査方向に垂直なY’軸方向)に複数組のアンテナ対が並べて配置される場合には、どのアンテナ対を測定に使用しても同じ空間座標(X’軸,Y’軸,Z軸)で処理することができる。
また、図29に示す地中レーダ装置310によれば、受信部330における反射波の受信処理は、送信アンテナ311から送信される電磁波の偏波情報を使用しない。したがって、送信部320から受信部330へ偏波情報を送る必要がないので、送信部320及び送信アンテナ311と、受信部330及び受信アンテナ312とを物理的に分離することができる。これにより、送信アンテナ311と受信アンテナ312の間隔を任意に変えたり、又は、送信アンテナ311と受信アンテナ312を多数並べて同時に並行して測定したりすることができる。また、送信アンテナ311や受信アンテナ312を増やしたり、又は減らしたりすることも容易である。
なお、もしも上記の図17に示す地中レーダ装置220のように送信部320から受信部330へ偏波情報を送る場合において送信部320と受信部330の間を通信ケーブルで接続するときには、ケーブル長等の通信接続に関する制限のために測定上の不都合が生じる。また、送信アンテナ311と受信アンテナ312を多数並べて同時に並行して測定する場合には、送信アンテナ311と受信アンテナ312の組毎に偏波情報を送るために、ケーブル本数が増えるという煩わしさもある。しかしながら、図29に示す地中レーダ装置310によれば、送信部320から受信部330へ偏波情報を送る必要がないので、そのような測定上の不都合や煩わしさが解消される。
上述した第3の実施形態によれば、互いに直交する偏波成分を各々生成し、生成された偏波成分を有する電磁波を送信アンテナから地中に向かって放射する。その電磁波の反射波を受信アンテナで受信し、受信された反射波の受信信号から偏波成分を抽出する。次いで、抽出された偏波成分の各強度の比に基づいて、線状導体からなる埋設物の向きを判断する。これにより、地中に埋設された鉄筋などの線状導体の向きを識別することができる。さらに、互いに直交する偏波成分を使用することにより、地中レーダを使用した測定の効率の向上を図ることができる。また、抽出された偏波成分の各強度の比に基づいて、偏波成分の座標系から埋設物の座標系に変換する座標回転角を取得する。これにより、地中レーダの走査における座標系と線状導体からなる埋設物の座標系とを合わせることができる。なお、上述した鉄筋コンクリート100の鉄筋103,104は、線状導体からなる埋設物の一例である。
第3の実施形態によれば、生成された偏波成分に対して、直交する相手の成分とは異なる符号化変調コードを使用して符号化変調を行う。そして、偏波成分抽出の際に、符号化変調コードに基づく復調により偏波成分の抽出を行う。これにより、地中レーダの送信部から受信部に対して偏波情報を送る必要がないので、地中レーダ装置の構成の簡略化、測定の自由度の向上などの効果が得られる。
(第4の実施形態)
図32から図36を参照し、第4の実施形態について説明する。本実施形態では、符号化変調を施した偏波面回転波を使用する。また、本実施形態では、測定対象の一例として、図3に示される鉄筋コンクリート100を挙げて説明する。図32は、符号化変調を施した偏波面回転波を示す。図32には、偏波角や位相による反射波の状況が示される。図32に示した時間応答は、反射強度(I)が2軸(θが0°の軸と90°の軸)となっている。図32において、4つの時刻ta,tb,tc,tdの各々で反射波が示される。ここでは、例えば、コンクリート表面での反射波が時刻ta、交差する鉄筋での反射波が時刻tb及びtc、コンクリート裏面での反射波が時刻tdに対応するものとする。このうち3つの時刻tb,tc,tdでは、ほぼ同時刻で且つほぼ同強度の反射波が示される。他方、時刻taと時刻tb,tc,tdとでは、時間的又は強度的に大きく異なる反射波が示される。具体的には、時刻taは時刻tb,tc,tdよりも明らかに早いが、各時刻tb,tc,tdには明らかな差がない。また、時刻taの反射強度は時刻tb,tc,tdの各反射強度よりも明らかに大きいが、時刻tb,tc,tdの各反射強度には明らかな差がない。
図32に示されるように、時刻taの反射波は、12桁の符号化変調コード“101101010111”で符号化変調が行われて地中レーダ装置から送信された偏波面回転波に対応する。この符号化変調コード“101101010111”は偏波角θaに対応する。時刻tbの反射波は、12桁の符号化変調コード“101101011011”で符号化変調が行われて地中レーダ装置から送信された偏波面回転波に対応する。この符号化変調コード“101101011011”は偏波角θbに対応する。時刻tcの反射波は、12桁の符号化変調コード“101110101101”で符号化変調が行われて地中レーダ装置から送信された偏波面回転波に対応する。この符号化変調コード“101110101101”は偏波角θcに対応する。時刻tdの反射波は、12桁の符号化変調コード“111010111010”で符号化変調が行われて地中レーダ装置から送信された偏波面回転波に対応する。この符号化変調コード“111010111010”は偏波角θdに対応する。
このように、各偏波角に固有の符号化変調コードが使用される。これにより、地中レーダ装置で受信された反射波に含まれる符号化変調コードを判別することによって、当該反射波の偏波角を容易に識別することができる。符号化変調コードとして、例えば、PN符号系列、M系列、Gold系列などを使用することができる。図32に示されるように、地中レーダ装置で受信された反射波に対して符号化変調コードを基に復調を行うことにより、符号化変調コードに対応する偏波角の反射波を抽出することができる。
図33及び図34は、符号化変調を施した偏波面回転波による反射波の状況を示す。図33は、4つの時刻(T0,T1’,T2’,T3’)を例に、各時刻T0,T1’,T2’,T3’における各偏波角θ0,θ1,θ2,θ3の電界強度を示す。偏波角の例として、θ0=0°、θ1=45°、θ2=90°、θ3=135°である。なお、図33中には、偏波角0°,45°,90°,135°の各々に対応する電界強度I0,I45,I90,I135のうち、電界強度I0,I45,I90を示し、電界強度I135については省略している。また、偏波角0°をX’軸方向とし、偏波角90°をY’軸方向とする。
図33に示されるように、反射波に対して符号化変調コードを基に復調を行うことにより、符号化変調コードに対応する偏波角の反射波を抽出する。偏波角0°,45°,90°,135°の各々に固有の符号化変調コードが使用される。
図34(a)は、時刻T0でのX’軸とY’軸の各反射強度(IX’,IY’)を示す。図34(b)は、時刻T1’でのX’軸とY’軸の各反射強度(IX’,IY’)を示す。図34(c)は、時刻T2’でのX’軸とY’軸の各反射強度(IX’,IY’)を示す。図34(d)は、時刻T3’でのX’軸とY’軸の各反射強度(IX’,IY’)を示す。図34(a),(b),(c),(d)において、Z軸は深さを示す。
図34(a)には、時刻T0において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T0では、図34(a)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、X’軸方向つまり偏波角0°(X’軸)の反射強度X’_400が比較的強い。
図34(b)には、時刻T1’において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T1’では、図34(b)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、偏波角45°の反射強度X’Y’_401が比較的強い。この反射強度X’Y’_401におけるX’成分とY’成分には差がなく、偏波角45°の反射として強度があることを表している。
図34(c)には、時刻T2’において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T2’では、図34(c)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)において、Y’軸方向つまり偏波角90°(Y’軸)の反射強度Y’_402が比較的強い。
図34(d)には、時刻T3’において、地表のアンテナから地中の各位置までの位相の変化する方向が示される。この時刻T3’では、図34(d)に示されるように、鉄筋コンクリート100の内部の鉄筋103,104が存在する位置(Z軸)においては、偏波角間に反射強度の格別な差がない。これは、上記の図22(d)に示した反射強度のX’軸方向とY’軸方向の各成分には差がないのと同様である。
なお、図33に示されるように、反射波に対して偏波角に対応する時間スリットを通過させ、当該偏波角の反射波を抽出する。偏波角「θ0=0°」の反射波を抽出する場合には、その反射時間に対応する時刻T0,T4’,・・・,T4n(n=0,1,2,・・・)のの時間スリットを通過させる。偏波角「θ1=45°」の反射波を抽出する場合には、その反射時間に対応する時刻T1’,T5’,・・・,T4n+1(n=0,1,2,・・・)の時間スリットを通過させる。偏波角「θ2=90°」の反射波を抽出する場合には、その反射時間に対応する時刻T2’,T6’,・・・,T4n+2(n=0,1,2,・・・)の時間スリットを通過させる。偏波角「θ3=135°」の反射波を抽出する場合には、その反射時間に対応する時刻T3’,T7’,・・・,T4n+3(n=0,1,2,・・・)の時間スリットを通過させる。
なお、偏波角θ0,θ1,θ2,θ3は、地中レーダの走査における座標系(X’軸,Y’軸)に対応するものであり、必ずしも鉄筋方向の座標系(X軸,Y軸)と一致するとは限らない。
次に図35を参照して本実施形態に係る地中レーダの装置構成を説明する。図35は、本実施形態の地中レーダ装置410の構成を示す図である。図35に示す地中レーダ装置410は、上記の図23に示す地中レーダ装置260の変形例である。本実施形態の図35に示す地中レーダ装置410では、符号化変調を施した偏波面回転波を使用する。本実施形態の図35に示す地中レーダ装置410は、上記の図7に示すケースA及びケースBに適用される。
図35に示す地中レーダ装置410は、送信部420と、受信部430と、送信アンテナ411と、受信アンテナ412とを備える。送信アンテナ411は、偏波面回転波を送信することができる。受信アンテナ412は、偏波面回転波を受信することができる。送信部420は、入力制御部421と偏波面回転波生成部422と符号化変調部423とを備える。受信部430は、複数(図35の例では「k+1」個)の信号抽出部431_0〜kと統合処理部432と処理結果出力部433とを備える。
入力制御部421は、偏波面回転波の生成を制御する信号である制御情報を、偏波面回転波生成部422と符号化変調部423とに出力する。偏波面回転波生成部422は、制御情報に従って、偏波面回転波の生成を行う。偏波面回転波生成部422によって生成された偏波面回転波は符号化変調部423へ出力される。
符号化変調部423は、偏波面回転波生成部422から入力された偏波面回転波に対して、予め定められた符号化変調を行う。この符号化変調では、符号化変調部423は、偏波角毎に、予め定められた異なる符号化変調コードを使用する。図35の例では、各偏波角θnに対して固有の符号化変調コードが予め定められる(n=0,1,・・・,k)。符号化変調の実行の結果として、偏波面回転波信号が生成される。符号化変調コードとして、例えば、PN符号系列、M系列、Gold系列などを使用することができる。符号化変調部423は送信アンテナ411に接続される。符号化変調部423によって生成された偏波面回転波信号は送信アンテナ411へ出力される。送信アンテナ411は、偏波面回転波信号から成る電磁波を地中に向かって放射する。なお、図35に示す地中レーダ装置410では、上記の図23に示す地中レーダ装置260とは異なり、送信部420から受信部430へ偏波角情報を送らない。
送信アンテナ411から地中に向かって放射された電磁波は、地中の測定対象である鉄筋コンクリート100の鉄筋で反射される。その地中の鉄筋コンクリート100の鉄筋で反射された反射波は、受信アンテナ412で受信される。受信部430の信号抽出部431_0〜kは、受信アンテナ412に接続される。信号抽出部431_0〜kは、受信アンテナ412の受信信号から、予め定められた偏波角θ0〜θkに沿う信号を抽出する。具体的には、信号抽出部431_nは、受信アンテナ412の受信信号から、偏波角θnに沿う信号を抽出する(n=0,1,・・・,k)。この偏波角θnに沿う信号の抽出処理では、信号抽出部431_nは、偏波角θnに対して予め定められた符号化変調コードを使用して、受信信号の復調を行う。この復調の結果として、偏波角θnに沿う信号が抽出される。
各信号抽出部431_0〜kで抽出された各偏波角θ0〜θkに沿う信号は、統合処理部432へ出力される。統合処理部432は、各信号抽出部431_0〜kから入力された各偏波角θ0〜θkに沿う信号を使用して、統合処理を実行する。この統合処理では、統合処理部432は、上記の図33及び図34を参照して説明した各偏波角θ0〜θkに沿う信号を強調する処理として、偏波角に対応する時間スリットを通過させる処理を実行し、この実行結果に基づいて、当該反射波を反射した鉄筋が偏波角θ0〜θkのうちいずれの偏波角の方向に配置されるのかを判断する。なお、符号化変調コードによる復調で各偏波角θ0〜θkに沿う信号の抽出処理により、時間スリットの通過処理と同様の結果が得られる。このために図33と図34において、“符号化変調コードによる復調”を単純に“時間スリットの通過処理”のように見なし示した。
なお、地中レーダの走査における座標(X’軸,Y’軸,Z軸)と鉄筋方向の座標(X軸,Y軸,Z軸)との空間的な対応関係を把握する処理については、上記の図31を参照して説明した処理と同じである。これにより、上記の図7(b)に示されるケースA及び図7(c)に示されるケースBのいずれのケースにも適用することができる。また、地中レーダの走査における座標のX’軸とY’軸とを鉄筋方向の座標のX軸とY軸とに合わせるための座標回転角φを取得することができる。
統合処理部432の処理結果は処理結果出力部433へ出力される。処理結果出力部433は、統合処理部432の処理結果を出力する。統合処理部432の処理結果として、例えば、上記の図7に示される地中のマンホールの鉄筋の分布図が挙げられる。処理結果出力部433から出力された統合処理部432の処理結果は、表示装置の表示画面上に表示される。
なお、上記の図35の構成では、1つの送信アンテナ411と1つの受信アンテナ412とから成る1組のアンテナ対を示したが、上記の図7(d)に示されるように複数の送信アンテナ411と複数の受信アンテナ412とから成る複数組のアンテナ対を備えてもよい。この場合、受信部430において、信号抽出部431_0〜kが、各対の測定データから、各々の偏波角θ0〜θkに沿う信号を抽出する。そして、統合処理部432が、各対の測定データから抽出された各偏波角θ0〜θkに沿う信号を統合する処理を実行する。これにより、複数組のアンテナ対で測定された測定データを使用することができるので、より高精度の測定を行うことができる。また、複数の送信アンテナ411と複数の受信アンテナ412の中から、任意に、送信アンテナ411と受信アンテナ412の組合せを選択するように構成してもよい。
図36を参照して、図35に示される地中レーダ装置410の動作を説明する。図36は、本実施形態の測定方法のフローチャートである。
(ステップS501)入力制御部421が、偏波面回転波の生成を制御する信号である制御情報を、偏波面回転波生成部422と符号化変調部423とに出力する。
(ステップS502)偏波面回転波生成部422が制御情報に従って偏波面回転波を生成する。
(ステップS503)符号化変調部423が、偏波面回転波生成部422により生成された偏波面回転波に対して、予め定められた符号化変調を行う。符号化変調部423によって生成された偏波面回転波信号は送信アンテナ411へ出力される。これにより、偏波面回転波信号から成る電磁波が送信アンテナ411から地中に向かって放射される。
(ステップS504)受信アンテナ412により地中レーダの電磁波である反射波を受信して、この受信した信号は信号抽出部431_0〜kへ伝えられる。
(ステップS505)信号抽出部431_0〜kは、受信アンテナ412の受信信号から、予め定められた偏波角θ0〜θkに沿う信号を抽出する。
(ステップS506)統合処理部432が、各信号抽出部431_0〜kにより抽出された各偏波角θ0〜θkに沿う信号を使用して、統合処理を実行する。
(ステップS507)処理結果出力部433は、統合処理部432の処理結果を出力する。処理結果出力部433から出力された統合処理部432の処理結果は、表示装置の表示画面上に表示される。
上述した第4の実施形態によれば、偏波面が回転する偏波面回転波を生成し、生成された偏波面回転波を有する電磁波を送信アンテナから地中に向かって放射する。その電磁波の反射波を受信アンテナで受信し、受信された反射波の受信信号から特定の複数の各偏波角に沿う信号を抽出する。次いで、抽出された各偏波角に沿う信号の強度の比に基づいて、線状導体からなる埋設物の向きを判断する。これにより、地中に埋設された鉄筋などの線状導体の向きを識別することができる。また、埋設物からの反射波がほぼ同じ反射強度である場合でも、偏波角の違いにより方向の異なる鉄筋を識別することができる。
また、偏波面が回転する偏波面回転波を使用することにより、地中レーダを使用した測定の効率の向上を図ることができる。また、偏波面が回転する偏波面回転波を使用することにより、地中レーダを使用した測定の効率の向上を図ることができる。また、抽出された各偏波角に沿う信号の強度の比に基づいて、偏波角の座標系から埋設物の座標系に変換する座標回転角を取得する。これにより、地中レーダの走査における座標系と線状導体からなる埋設物の座標系とを合わせることができる。なお、上述した鉄筋コンクリート100の鉄筋103,104は、線状導体からなる埋設物の一例である。
第4の実施形態によれば、生成された偏波面回転波に対して、偏波角毎に異なる符号化変調コードを使用して符号化変調を行う。そして、信号抽出の際に、符号化変調コードに基づく復調により偏波角に沿う信号の抽出を行う。これにより、地中レーダの送信部から受信部に対して偏波角情報を送る必要がないので、地中レーダ装置の構成の簡略化、測定の自由度の向上などの効果が得られる。具体的には、複数の送受信アンテナを使用する際に、このアンテナ数が増えても送信部と受信部間で情報をやり取りするケーブルが不要である。この結果、多数のアンテナを持つ地中レーダ装置が実現し易く拡張性に優れている。同時にアンテナ数の増加で測定精度の向上も図ることができる。
また、偏波角に対応した符号化変調を行うことにより、不確定な時間(例えば、測定対象の内部構造又は埋設物の深さ等の情報から計算された反射波の戻る時間など)に基づいた推定よりも、より正確に反射波の偏波角を特定することが可能になる。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、上述の地中レーダ装置は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、あるいはパーソナルコンピュータ等のコンピュータシステムにより構成され、地中レーダ装置の各部の機能を実現するためのプログラムを実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
また、その地中レーダ装置には、周辺機器として入力装置、表示装置等が接続されてもよい。ここで、入力装置とはキーボード、マウス等の入力デバイスのことをいう。表示装置とはCRT(Cathode Ray Tube)や液晶表示装置等のことをいう。また、上記周辺機器については、地中レーダ装置に直接接続するものであってもよく、あるいは通信回線を介して接続するようにしてもよい。
また、上述した実施形態は、地中の埋設物の状態を検知、把握する非破壊検査に利用することができる。例えば、地中に埋設された設備の一例であるマンホールの天井の鉄筋コンクリートの劣化の状態を検知、把握することが挙げられる。上述した実施形態によれば、統合処理の結果として、例えば、地中に埋設されたマンホールの天井の鉄筋コンクリートの鉄筋の分布を示す高精度のレーダ画像情報を取得することができる。
また、上述した実施形態は、地中レーダを車両に搭載し、当該車両を走行させながら測定を実施する非破壊検査に利用することができる。例えば、道路下に埋設されたマンホールの天井の鉄筋コンクリートの劣化の状態を、地中レーダを搭載した車両を当該道路上で走行させながら測定を実施して検知、把握することが挙げられる。このとき、上述した実施形態によれば、地中レーダの走査の効率がよいので、地中レーダを搭載した車両により同じ場所を何度も走行して測定する手間が省ける。また、鉄筋コンクリート内の鉄筋の向きが車両の走行方向(地中レーダの走査方向)と異なっている場合にも適用することができる。例えば、交差点の中央部の下に埋設されたマンホールを測定対象にして、地中レーダを搭載した車両により当該交差点を右折しながら測定を実施することができる。