JP6416066B2 - ピストンリング - Google Patents

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本発明は、内燃機関用のピストンリングに関するものである。
内燃機関用のピストンリングは、その摺動面に高い摺動性能が要求される。このためピストンリング基材の外周面には、硬質被膜が設けられる。このような硬質被膜を備えたピストンリングとしては、CrN系の硬質被膜を備えたピストンリングが知られている。たとえば、特許文献1では、耐摩耗性に優れ、かつ、特に耐クラック性および耐剥離性を備えた高靭性のCrN系の硬質被膜を備えたピストンリングが提案されている。
WO2013/136510
一方、近年、自動車用内燃機関の燃料としては、硫黄分やエタノール等のアルコール分を多く含む燃料が使われる場合もある。しかし、このような燃料を用いた場合、従来のCrN系の硬質被膜を備えたピストンリングであっても、耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性が不十分となることがあった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、硫黄分、アルコール分、あるいは、これら双方の成分を多く含む燃料を用いた内燃機関においても、耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性に優れたピストンリングを提供することを課題とする。
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
第一の本発明のピストンリングは、ピストンリング基材と、ピストンリング基材の少なくとも外周面を被覆するように設けられた硬質被膜と、を含み、硬質被膜のマイクロビッカース硬さ(H)と、硬質被膜のポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)との比率(H/EIT’)は、0.050 以上であり、硬質被膜は、金属元素としてCrおよびAlを少なくとも含み、非金属元素としてNを少なくとも含むNaCl型の結晶構造を有し、硬質被膜中に含まれる各々の構成元素の含有量割合が下式(1)〜(5)を満たすことを特徴とする。
・式(1) 15≦b≦65
・式(2) 0≦c≦10
・式(3) 0(e+f)≦40
・式(4) 0e≦40
・式(5) 0f≦20
〔但し、各式中、bは硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対するAlの含有量割合(原子%)を表し、cは硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対する金属元素X(但し、Xは、ZrおよびVからなる群より選択されるいずれかまたは双方の金属元素)の含有量割合(原子%)を表し、eは硬質被膜中に含まれる全非金属元素の総量に対するOの含有量割合(原子%)を表し、fは硬質被膜中に含まれる全非金属元素の総量に対するCの含有量割合(原子%)を表す。〕
第二の本発明のピストンリングは、ピストンリング基材と、ピストンリング基材の少なくとも外周面を被覆するように設けられた硬質被膜と、を含み、硬質被膜のマイクロビッカース硬さ(H)と、硬質被膜のポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)との比率(H/EIT’)は、0.050 以上であり、硬質被膜は、金属元素としてCrおよびAlを少なくとも含み、非金属元素としてNを少なくとも含むNaCl型の結晶構造を有し、硬質被膜中に含まれる各々の構成元素の含有量割合が下式(1)〜(5)を満たし、硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対する、Cr、Al、X(但し、Xは、ZrおよびVからなる群より選択されるいずれかまたは双方の金属元素)以外のその他の金属元素の含有量割合が5原子%以下であることを特徴とする。
・式(1) 15≦b≦65
・式(2) 0≦c≦10
・式(3) 0≦(e+f)≦40
・式(4) 0≦e≦40
・式(5) 0≦f≦20
〔但し、各式中、bは硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対するAlの含有量割合(原子%)を表し、cは硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対する金属元素Xの含有量割合(原子%)を表し、eは硬質被膜中に含まれる全非金属元素の総量に対するOの含有量割合(原子%)を表し、fは硬質被膜中に含まれる全非金属元素の総量に対するCの含有量割合(原子%)を表す。〕
第一および第二の本発明のピストンリングの一実施形態は、cが0原子%であることが好ましい。
第一および第二の本発明のピストンリングの他の実施形態は、cが0原子%を超え10原子%以下であることが好ましい。
第二の本発明のピストンリングの他の実施形態は、eおよびfが0原子%であることが好ましい。
第二の本発明のピストンリングの他の実施形態は、eが0原子%を超え40原子%以下であり、且つ、fが0原子%であることが好ましい。
第二の本発明のピストンリングの他の実施形態は、eが0原子%であり、且つ、fが0原子%を超え20原子%以下であることが好ましい。
第二の本発明のピストンリングの他の実施形態は、eが0原子%を超え40原子%以下であり、且つ、fが0原子%を超え20原子%以下であることが好ましい。
第一および第二の本発明のピストンリングの他の実施形態は、ポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)が245GPa以上であることが好ましい。
第一および第二の本発明のピストンリングの他の実施形態は、ピストンリング基材の外周面に被覆された硬質被膜の円周方向における表面粗さRaが、0.30μm以下であることが好ましい。
第一および第二の本発明のピストンリングの他の実施形態は、硬質被膜がアークイオンプレーティング法で形成されていることが好ましい。
本発明によれば、硫黄分、アルコール分、あるいは、これら双方の成分を多く含む燃料を用いた内燃機関においても、耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性に優れたピストンリングを提供することができる。
本発明のピストンリングの一例を示す模式断面図である。 本発明のピストンリングの製造に用いるアークイオンプレーティング装置の一例を示す模式概略図である。 リングオンプレート式往復動摩耗試験機の模式概略図である。 リングオンディスク試験機の模式概略図である。
本実施形態のピストンリングは、ピストンリング基材と、ピストンリング基材の少なくとも外周面を被覆するように設けられた硬質被膜と、を含み、硬質被膜のマイクロビッカース硬さ(H)と、硬質被膜のポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)との比率(H/EIT’)は、0.050 以上であり、硬質被膜は、金属元素としてCrおよびAlを少なくとも含み、非金属元素としてNを少なくとも含むNaCl型の結晶構造を有し、硬質被膜中に含まれる各々の構成元素の含有量割合が下式(1)〜(5)を満たすことを特徴とする。
・式(1) 15≦b≦65
・式(2) 0≦c≦10
・式(3) 0≦(e+f)≦40
・式(4) 0≦e≦40
・式(5) 0≦f≦20
但し、各式中、bは硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対するAlの含有量割合(原子%)を表し、cは硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対する金属元素X(但し、Xは、ZrおよびVからなる群より選択されるいずれかまたは双方の金属元素)の含有量割合(原子%)を表し、eは硬質被膜中に含まれる全非金属元素の総量に対するOの含有量割合(原子%)を表し、fは硬質被膜中に含まれる全非金属元素の総量に対するCの含有量割合(原子%)を表す。
本実施形態のピストンリングにおいて、硬質被膜のポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)は、特に制限されるものではないが、245GPa以上であることが好ましい。ポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)を245GPa以上とすることにより、ピストンリング用の硬質被膜として必要とされる剛性を確保することがより容易になる。ポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)の上限値については特に制限されるものではないが、実用上、370GPa以下が好ましい。なお、ポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)は、EIT/(1−(νs))で表される値であり、ここで、EITは硬質被膜の押し込み弾性率、νsは硬質被膜のポアソン比である。
また、硬質被膜のマイクロビッカース硬さ(H)〔GPa〕と、ポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)〔GPa〕との比率(マイクロビッカース硬さ(H)/ポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)は、0.050以上であり、0.055以上が好ましく、0.060以上がより好ましい。H/EIT’を0.050以上とすることにより、従来のピストンリングで使用されている一般的なCrN硬質被膜と比べても同等程度あるいはそれ以上の優れた耐摩耗性を得ることができる。なお、H/EIT’の上限値は特に限定されるものではないが、実用上は0.1以下が好ましい。
また、硬質被膜は、金属元素としてCrおよびAlを含み、非金属元素としてNを含むNaCl型の結晶構造を有している。なお、Cr、Al、Nは、硬質被膜を構成する必須元素である。ここで、硬質被膜に含まれる金属元素としては、Cr、Alのみであってもよいが、第三の金属元素XとしてZr、Vの少なくとも1種がさらに含まれていることも好ましい。また、硬質被膜には、必要に応じてCr、Al、X以外のその他の金属元素がさらに含まれていてもよい。
非金属元素としては、Nに加えて、その他の非金属元素がさらに1種類以上含まれていてもよい。このようなその他の非金属元素としては、OあるいはCが好適である。
すなわち、本実施形態の硬質被膜の組成は、大きく分けると、金属元素に関しては、cが0原子%のCrAl系と、cが0原子%を超え10原子%以下であるCrAlX系とが有り、非金属元素に関しては、eおよびfが0原子%のN系と、eが0原子%を超え40原子%以下であり、且つ、fが0原子%であるNO系と、eが0原子%であり、且つ、fが0原子%を超え20原子%以下であるNC系と、eが0原子%を超え40原子%以下であり、且つ、fが0原子%を超え20原子%以下であるNOC系とが有る。また、上記に列挙した各種金属元素(Cr、Al、X)と、非金属元素(N、C、O)との好適な組み合わせからなる硬質被膜としては、CrAlN系被膜、CrAlZrN系被膜、CrAlVN系被膜、CrAlZrVN系被膜、CrAlNO系被膜、CrAlZrNO系被膜、CrAlVNO系被膜、CrAlZrVNO系被膜、CrAlNC系被膜、CrAlZrNC系被膜、CrAlVNC系被膜、CrAlZrVNC系被膜、CrAlNOC系被膜、CrAlZrNOC系被膜、CrAlVNOC系被膜、CrAlZrVNOC系被膜が挙げられる。
なお、Crは不動態を形成することができるためCrを含む硬質被膜は基本的に耐腐食性に優れると考えられる。しかし、本発明者らが検討したところ、単純なCrN組成からなる硬質被膜を備えたピストンリングを、硫黄分やアルコール分を多く含む燃料、すなわち低硫黄、ノンアルコールタイプの一般的な燃料と比べて腐食性の高い燃料を用いた内燃機関において使用しても、耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性が十分に確保できなかった。しかしながら、本実施形態のピストンリングに用いるCrとAlとを必須元素として含む窒化物系硬質被膜であれば、硫黄分やアルコール分を多く含む燃料を用いた内燃機関においても十分な耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性を確保することが容易となる。この理由の詳細は不明であるが、AlがCrの固溶強化に適していることに加えて、Alも不動態を形成することができると共にCrとは性質の異なる耐腐食特性を有していることから、硫黄分やアルコール分を多く含む燃料を用いた内燃機関の使用環境下において、より優れた耐腐食性を発揮し、結果的に耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性を向上させるものと考えられる。
硬質被膜中の全金属元素の総量に対するCrの含有量割合aは、全金属元素の総量からCr以外の硬質被膜を構成する他の金属元素の含有量割合を差し引いた残量であればよいが、通常は、35〜85原子%の範囲内である。また、硬質被膜中の全金属元素の総量に対するAlの含有量割合bは、式(1)に示すように15〜65原子%の範囲内である。bが15原子%未満では、固溶強化の効果が現れにくく、十分な耐クラック性および耐剥離性が得られない。また、bが65原子%を超えると硬質被膜中に、六方晶系AlNが晶出してNaCl型結晶と混在するため、耐摩耗性が低下すると共に耐クラック性および耐剥離性も低下する。なお、bは20〜65原子%の範囲内が好ましく、30〜65原子%の範囲内がより好ましい。
また、本実施形態のピストンリングでは、上述したように硬質被膜に金属元素としてCrとAlとが同時に含まれるため、従来のCrN硬質被膜と比べて耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性を向上させることが容易となる。しかしながら、これらの特性の少なくともいずれかをさらに向上させる観点から、硬質被膜は第三の金属元素Xが含まれていてもよい。すなわち、全金属元素の総量に対する第三の金属元素Xの含有量割合cが0原子%を超え10原子%以下である場合、硬質被膜が金属元素としてCrおよびAlのみを含む場合と比べて耐摩耗性をより向上させることがより容易となる場合がある。これに加えて、cを10原子%以下とすることにより、耐クラックおよび耐剥離性を劣化させることなく優れた耐摩耗性を確保することもできる。なお、cは3〜10原子%の範囲内がより好ましく、5〜10原子%の範囲内がさらに好ましい。なお、硬質被膜には、第三の金属元素として、Zrのみが含まれる場合、Vのみが含まれる場合、あるいは、ZrおよびVが同時に含まれる場合があるが、ZrおよびVが同時に含まれる場合は、両金属元素の総量について、cが0〜10原子%の範囲内であればよい。
また、硬質被膜には、金属元素として、Cr、Al、X以外のその他の金属元素が、耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性に顕著な悪影響を与えない範囲で必要に応じて含まれていてもよい。この場合、全金属元素の総量に対するその他の金属元素の含有量割合は、5原子%以下が好ましく、3原子%以下がより好ましい。しかしながら、通常、その他の金属元素は、硬質被膜中に、不純物として微量含まれる場合を除いて実質的には含まれないことが最も好ましい。
また、硬質被膜中には、非金属元素として少なくともNが含まれるが、必要に応じてさらにO、Cが含まれる場合もある。Nの一部を置換する形で、Oおよび/またはCを硬質被膜に適量配合することで、侵入型固溶体の形成により固溶強化できると共に、硬質被膜の結晶が微細化され、結晶粒内を強化し易くなる。この場合、耐クラック性および耐剥離性を向上させることが容易となる。
硬質被膜中の全非金属元素の総量に対するNの含有量割合dは、全非金属元素の総量からN以外の硬質被膜を構成する他の非金属元素の含有量割合を差し引いた残量であればよいが、通常は、60〜100原子%の範囲内である。また、全非金属元素の総量に対するN以外の非金属元素O、Cの含有量割合;(e+f)は、式(3)に示すように、0〜40原子%である。(e+f)が40原子%を超える場合は、N以外の非金属元素としてOの含有量割合が多いときはCrが酸化して酸化クロムとなり、耐クラック性および耐剥離性の低下を招き、N以外の非金属元素としてCの含有量割合が多いときは硬度が低下し、摩耗量が多くなるとともに、耐クラック性および耐剥離性が低下する。
なお、Oの含有量割合の多さに起因する耐クラック性および耐剥離性の低下を防止する観点からは、全非金属元素の総量に対するOの含有量割合;eは、式(4)に示すように0〜40原子%の範囲である。ここで、eは、耐クラック性および耐剥離性をより向上させる観点から15〜40原子%の範囲内が好ましく、20〜30原子%の範囲内がさらに好ましい。また、Cの含有量割合の多さに起因する耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性の低下を防止する観点からは、全非金属元素の総量に対するCの含有量割合;fは、式(5)に示すように0〜20原子%の範囲である。また、fは、耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性をバランスよく改善することがより容易となる観点からは5〜20原子%の範囲内が好ましく、5〜10原子%の範囲内がより好ましい。
また、非金属元素として、OおよびCの双方が同時に含まれる場合、OおよびCを全く含まない場合と比べて、耐摩耗性、耐クラック性および耐剥離性をバランスよく改善することがより容易となる観点からは(e+f)は、15〜40原子%の範囲内がより好ましく、15〜30原子%の範囲内がさらに好ましい。またOとCとの原子比率については、特に限定されるものではないが、3:1〜3:2程度が適当である。
また、硬質被膜中における全金属元素に対する全非金属元素の比率は、化学量論的には0.50であるが、特に制限されるものではなく、実用上は、0.48〜0.58の範囲程度であればよい。なお、a〜fの値(原子%)は、EPMA(Electron Probe MicroAnalyser)測定により硬質被膜中に含まれる各金属元素および各非金属元素の質量を求め、これに基づいて算出した。ここで、EPMA測定には島津製作所製のEPMA−8705を用いた。EPMA測定は、具体的には以下の手順で実施した。まず、硬質被膜が成膜されたピストンリング片などの測定サンプルをIPA(イソプロピルアルコール)などの有機溶剤にて約10分間超音波洗浄を行った後、分析室に設置した。次に、分析室を真空排気後に、測定サンプルに電子線を照射して、金属被膜の成分組成を定量分析した。観察条件は、加速電圧を15kV,試料電流を50〜100nA,電子線のビーム径を30〜100μmとした。各元素の定量値は、定量分析プログラムにて硬質被膜を構成する各元素に対応した標準物質の分析を行った後、標準物質から計測される特性X線と硬質被膜から計測される特性X線とを対比することで算出した。なお、定量値の算出にはZAF法を用いた。定量分析に用いた標準物質としては、定量分析の対象がCr等の金属元素の場合は、各々の金属元素に対応した純金属を用い、定量分析の対象がN、O、Cの場合は、各々、BN、Al、グラファイトを用いた。
ピストンリング基材を構成する材料としては、炭素鋼、低合金鋼、高合金鋼、鋳鉄、ステンレス鋼等、公知のピストンリング基材用の材料が制限なく利用できる。なお、ステンレス鋼からなるピストンリング基材を用いる場合には、予め窒化処理を施し、窒化処理により形成された表面ポーラス層を除去したピストンリング基材を用いてもよい。また、ピストンリング基材と硬質被膜との密着性を向上させるために、必要に応じて、ピストンリング基材と硬質被膜との間に、アンダーコート層を設けてもよい。このアンダーコート層としては、たとえば、Ti、Cr、Cr−Al合金などを主成分とする薄膜を利用することができる。
硬質被膜の膜厚は特に限定されるものではないが、耐久性を確保する観点から、5μm以上であることが好ましい。また、膜厚の上限値は特に限定されるものではないが、生産性等の実用上の観点から50μm以下であることが好ましい。また、硬質被膜を形成した後に、ラッピングや研磨加工を行い、硬質被膜の表面粗さRaを0.30μm以下とすることが好ましい。硬質被膜の表面粗さRaを小さくすることにより、相手材の摩耗を抑制すると共に、摩擦抵抗を減少させることで硬質被膜の損傷を抑制することがより容易になる。また、硬質被膜の層構造は、単層構造でもよく多層構造でもよい。但し、多層構造の場合は、少なくともいずれか1層が、上述した膜組成および機械的物性値を満たすことが必要であり、特に最表面層が、上述した膜組成および機械的物性値を満たすことが好ましい。
図1は、本実施形態のピストンリングの一例を示す模式断面図であり、具体的には、図1中において上下方向に伸びるピストンリングの軸方向(図中、不図示)を含む面でピストンリングを切断した場合の断面構造の一例を示す図である。図1に示すピストンリング10は、合口隙間が設けられたリング状のピストンリング基材12と、ピストンリング基材12の少なくとも外周面14を被覆するように設けられた硬質被膜16とを備えている。なお、図1に示す例では、硬質被膜16は単層構造であり、ピストンリング基材12の外周面14のみを被覆している。ピストンリング10を内燃機関において使用する場合、ピストンリング10は円柱状のピストンの外周面の外周方向に沿って形成された溝に装着される。そして、ピストンがシリンダボア内を上下動した場合に、ピストンリング10の外周摺動面18(硬質被膜16の表面)と、シリンダボアの内周面とが摺動する。この場合、ピストンリング10の外周摺動面18は、硬質被膜16から構成されるため、外周摺動面18の摩耗を防ぐことができる。
なお、通常、ピストンの外周面には外周方向に沿ってトップリング溝、セカンドリング溝、オイルリング溝の3つの溝が形成されており、それぞれの溝にトップリング、セカンドリング、オイルリングが装着される。本実施形態のピストンリングは、トップリング、セカンドリング、オイルリングのいずれにも適用できる。
以上に説明したように、本実施形態のピストンリングは、硫黄分、アルコール分、あるいは、これら双方の成分を多く含む燃料を利用する内燃機関に好適に利用できる。なお、このような燃料としては、具体的には硫黄含有量が約50〜約1000ppm、および/または、アルコール含有量が市場での水準では5質量%を超え100質量%以下の燃料が挙げられ、本実施形態のピストンリングを用いた内燃機関としては、内燃機関の製造元によって上述した燃料の使用が許可または推奨されている内燃機関が挙げられる。但し、本実施形態のピストンリングは、硫黄濃度が低く、アルコール分を実質的に含まない一般的に広く利用されている燃料(硫黄含有量:5ppm以下、アルコール含有量:5質量%以下)においても勿論利用することができ、このような燃料のみの使用が許可または推奨されている内燃機関に利用することもできる。また、このような燃料には不純物としてたとえば水が混入することも知られており、本実施形態のピストンリングは、この水が混入した燃料においても利用可能である。
本実施形態のピストンリングの製造方法は特に限定されず、公知の成膜方法を利用して、ピストンリング基材の少なくとも外周面に硬質被膜を成膜する方法が採用できる。しかしながら、硬質被膜の成膜方法としてはアークイオンプレーティング法が好適である。以下に、ピストンリングを、図2に示すアークイオンプレーティング装置を用いて製造する場合についてより具体的に説明する。
ここで、図2に示すアークイオンプレーティング装置30は、真空チャンバー40と、真空チャンバー40内に配置された陰極として機能する金属ターゲット42および水平方向に回転可能な支持台44と、真空チャンバー40に設けられたガス導入口46および排気口48と、真空チャンバー40外に配置されると共に金属ターゲット42に接続されたアーク供給源50と、真空チャンバー40外に配置されると共に支持台44に接続されたバイアス電源供給源52と、を備えている。なお、アーク供給源50は陽極(図中、不図示)とも接続されている。
成膜に際しては、まず、ピストンリング基材12を支持台44上に設置した後、圧力が1.3×10−3Pa程度となるまで、真空チャンバー40内を減圧する。次に、ピストンリング基材12を573K〜673K程度に加熱する。そして、ピストンリング基材12に対して、支持台44を介してバイアス電源供給源52から−600〜−800V程度のバイアス電圧を印加することでイオンボンバードを行う。その後、−5〜−50V程度にバイアス電圧を下げる。これによりアーク放電が行われ、金属ターゲット42が金属イオン60となる。一方、ガス導入口46から真空チャンバー40内に導入されたプロセスガスは反応ガス分子62となる。そして、金属イオン60と反応ガス分子62とが、バイアス電圧が印加されたピストンリング基材12の外周面14等に堆積することで、硬質被膜16が形成される。
ここで、金属ターゲット42の組成は、成膜する硬質被膜16の組成に応じて適宜選択される。たとえば、金属ターゲット42としてCr−Al合金ターゲットを用いることができる。このCr−Al合金ターゲットを構成するCrとAlとの比率は、成膜する硬質被膜16の組成に応じて適宜選択される。ここで、CrとAlとの原子比率を3:1であるCr−Al合金ターゲットを単独で用いて成膜すれば、得られた硬質被膜16のbは25原子%{=100×1/(3+1)}となる。
また、硬質被膜16のbは、異なる組成の金属ターゲット42を組み合わせて調整することも可能であり、又は、それらを用いて成膜する際のそれぞれの金属ターゲット42のアーク電流値によっても調整することが可能である。たとえば、CrとAlとの原子比率が3:1である第一の金属ターゲット42と、CrとAlとの原子比率が1:1である第二の金属ターゲット42とを1枚ずつ用いて成膜した場合、各々の金属ターゲット42のターゲット材の蒸発レートが実質同等であれば、硬質被膜16のbは37.5原子%〔=100×{1/(3+1)+1/(1+1)}/2〕となる。また、各々の金属ターゲットのターゲット材の蒸発レートが異なる場合は、各々の金属ターゲットの組成比と蒸発レートとを積算した値に基づいて、硬質被膜16のbを容易に求めることができる。
さらに、それぞれの金属ターゲット42のアーク電流値を上げ下げすることで、金属ターゲット42の蒸発量が変化するため、増やしたい成分を多く含む金属ターゲット42のアーク電流値を高くすることで、硬質被膜16の組成を制御することができる。なお、一般に金属ターゲット42が消耗すると成膜効率が低下するため、硬質被膜16の組成を精度良く管理するためには、同程度の消耗量の金属ターゲット42を使用するとよい。
また、金属ターゲット42を2種類以上組み合わせて使用する場合、上記に例示した以外の組み合わせとしては、たとえば、Cr−Al合金ターゲットとZrターゲットとの組み合わせや、Cr−Al合金ターゲットとVターゲットとの組み合わせ、なども挙げることができる。さらに、金属ターゲット42を2種類以上組み合わせて使用する場合、各々の金属ターゲット42は、真空チャンバー40内の同じ位置に設けられてもよく、異なる位置に設けられてもよい。たとえば、図2示すアークイオンプレーティング装置30において2種類の金属ターゲット42を用いる場合、支持台44を中心として、図2中の左右側の位置などのように略点対称を成す位置に各々の金属ターゲット42を配置してもよいこの場合、2種類のターゲット材からなる硬質被膜が交互に積層した多層構造を有する硬質被膜の作製が可能となる。それぞれの積層周期は、各々の金属ターゲット42のアーク電流および支持台44の回転速度によって制御することができる。また、2種類のターゲットを近接した位置に設置すると、それぞれのターゲット材からなる硬質被膜間の境界部分の組成変化が徐々に変化する傾斜構造を形成できる。
また、プロセスガスとしては、硬質被膜16の組成に応じて適宜選択できるが、通常は、Nガス、あるいは、NガスとCおよびOから選択される少なくともいずれかの非金属元素を含むガスと所定の割合で混合した混合ガスを用いることができる。なお、Cを含むガスとしてはCHガス等の炭化水素ガスが挙げられ、Oを含むガスとしてはOガスが挙げられる。
また、マイクロビッカース硬さ(H)や、ポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)の値は、成膜条件を適宜選択することにより硬質被膜の組成等を制御することで調整できる。さらに、マイクロビッカース硬さ(H)/ポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)の値は、成膜時のバイアス電圧や内圧によっても調整でき、バイアス電圧を適度に上げるあるいは内圧を下げることで値が大きくなる傾向がある。
なお、アークイオンプレーティング法にて硬質被膜16を成膜する場合、硬質被膜16中にドロップレットと呼ばれる未反応粒子が混在する。この未反応粒子は、金属ターゲット42上のアークスポットから一度に大量に成膜原料が放出されることにより、Nガスなどのガス成分と十分反応せずに硬質被膜16中に取り込まれた粒子状の物質のことをいう。アークイオンプレーティング法においてはドロップレットを完全に0にすることは困難とされる。また、硬質被膜16中において未反応粒子の周辺部や未反応粒子が脱落した跡には空隙が形成される。そして、このような硬質被膜16中に存在する未反応粒子や、この未反応粒子に起因して形成される空隙は、硬質被膜16の機械的特性を低下させる。このため、硬質被膜16の成膜に際しては、発生する未反応粒子の数・サイズを抑制すると共に、未反応粒子に起因して形成される空隙の割合も小さくすることが必要である。
したがって、アークイオンプレーティング法にて形成された硬質被膜16(未反応粒子を含むと共に空隙を有する硬質被膜)においては、硬質被膜16の断面において硬質被膜16中の空隙に起因する面積率(空隙面積率)は2.2%以下であることが好ましい。また、硬質被膜16中に含まれる未反応粒子の断面面積率は約1.5%以下であることが好ましい。空隙面積率を2.2%以下とすることにより、硬質被膜16の局部的な強度低下を抑制でき、結果的に、硬質被膜16に高い負荷が加わった際に硬質被膜16のクラック・剥離を抑制することがより容易となる。また、未反応粒子の断面面積率を約1.5%以下とすることにより、硬質被膜16中の未反応粒子が形成された部分において、マイクロスカッフが発生するのを抑制でき、結果的に、硬質被膜16の損傷を抑制することが容易となる。なお、空隙面積率は、1.8%以下であることがより好ましく、0%に近いほどよい。また、未反応粒子の断面面積率も0%に近いほどよい。また、未反応粒子が粗大であるほどマイクロスカッフも生じやすくなるため、未反応粒子の粒径は7μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましく、粒径は小さければ小さいほどよい。
なお、空隙の数やサイズを小さくする方法としては特に限定されないが、たとえば、金属ターゲット42と成膜対象であるピストンリング基材12との距離を大きく取り、バイアス電圧を高めに設定する方法が有効である。また、未反応粒子の数やサイズを小さくするためには、たとえば、金属ターゲット42の近傍に防着板等を配置することが有効である。また、成膜により金属ターゲット42の消耗が進行すると空隙や未反応粒子の数・サイズが増大するため、金属ターゲット42の交換頻度を多くすることも空隙や未反応粒子の数・サイズを抑制する上では有効である。この他にも、蒸発源の磁場を強力にすることで、未反応粒子数を低減する技術も採用できる。
以下に本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものでは無い。
<評価用サンプルの作製>
評価用サンプルは、実施例、比較例および参考例共に以下の手順で作製した。まず、ピストンリング基材12を、アークイオンプレーティング装置30内にセットした後、真空チャンバー40内を真空排気して減圧すると共に、ピストンリング基材12を加熱した。その後、ピストンリング基材12に対して所定のバイアス電圧を印加することでイオンボンバードを行った。次に、バイアス電圧を所定の値に設定した後、真空チャンバー40内にプロセスガスを導入することで、ピストンリング基材12の少なくとも外周面14に厚さ20μmから30μmの硬質被膜16を成膜した。そして、最後に、硬質被膜の表面をラッピング加工することでピストンリングサンプルを得た。なお、各実施例、比較例および参考例のいずれのピストンリングサンプルにおいても、硬質被膜の円周方向における表面粗さRaは0.30μm以下であった。
各実施例、比較例および参考例のピストンリングサンプルの硬質被膜16の組成および機械的物性値を表1〜表6に示す。なお、同一のCrN膜を硬質被膜として用いた比較例1および参考例1のピストンリングサンプルは、アルコールを含まず且つ硫黄含有量が5ppm以下である一般的な燃料を用いる市販の自動車用エンジンにおいて広く使用されているピストンリングと実質同等のものである。また、同一のTiN膜を硬質被膜として用いた比較例2および参考例2のピストンリングサンプルは、マイクロビッカース硬さ(H)およびポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)に関して、比較例1および参考例1のピストンリングサンプルの硬質被膜(CrN膜)に対して強度が高い特性を持つTiN膜を硬質被膜として用いたものである。また、各実施例の硬質被膜16の結晶構造をX線回折測定により調べたところ、いずれもNaCl型であった。
<耐摩耗性試験>
硬質被膜の耐摩耗性試験は、ピストンリングサンプルを使って、以下の方法で行った。耐摩耗性試験には図3に示すリングオンプレート式往復動摩擦試験機100を使用した。このリングオンプレート式往復動摩擦試験機100は、試験片102を、スプリング荷重により荷重Pを加えてプレート104に押し付け、プレート104が往復動することにより両者が摺動するよう構成されている。
ここで試験片102としてはピストンリングサンプルを円周方向に1〜2cmの長さに切断した切断片を使用し、プレート104としては自動車エンジン用シリンダボア材と同材質の鋳鉄製プレートを使用した。摺動に際しては、試験片102の硬質被膜16が成膜された面をプレート104の表面と接触させると共に、チュービングポンプやエアディスペンサーを用いて潤滑油を供給した。
ここで、実施例および比較例のピストンリングサンプルについては、エタノールおよび硫黄を多く含む燃料を用いる自動車用エンジンで使用し長時間運転後の状況を想定した評価を行うために、劣化オイルを使用した。この劣化オイルは、市販のSN級5W−30エンジンオイルを、約25質量%のエタノールと約300ppmの硫黄分とを含む燃料を用いて数百時間のベンチテストを行った後の状態のオイル(劣化オイルA)である。このようにして得られた劣化オイルAは、塩基価はほぼ0で、40,000G×30分(G:重力加速度)の高速遠心分離における油中不溶解分抽出量が約2%であった。耐摩耗性試験の試験条件を以下に示す。
また、参考例のピストンリングサンプルについては、アルコールを含まず且つ硫黄含有量が5ppm以下である一般的な燃料を用いる自動車用エンジンでの使用を想定した評価を行うために、SN級5W−30エンジンオイルを用いて数百時間のベンチテストを行った後の状態のオイル(劣化オイルB)を用いた。
−試験条件−
荷重P :30N
プレート104の往復動の平均速度 :0.5m/s
プレート104の往復動のストローク:50mm
試験時間 :120min
潤滑油 :劣化オイルA(実施例および比較例)
劣化オイルB(参考例)
潤滑油の滴下量 :1ml/hr
プレート104の材質 :FC(ねずみ鋳鉄)
耐摩耗性試験の評価結果を表1〜表6に示す。なお、表1〜表6中に示す評価結果である相対摩耗量の比は、比較例1の摩耗量を基準値(1.00)とした場合の相対摩耗量である。また、参考例1は、ノンアルコール・低硫黄濃度の一般的な燃料と市販車に広く利用されているピストンリングとの組み合わせを模した条件であることから、参考例1の相対摩耗量0.30は、十分に実用的なレベルを意味する。ここで、比較例1および参考例1の相対摩耗量の違いから明らかなように、一般的な燃料を使用する自動車用エンジンと比べて、高アルコール・高硫黄濃度タイプの燃料を使用する自動車用エンジンでは、市販車のピストンリングに使用されているCrN膜の摩耗が3倍前後も増加している。すなわち、通常の燃料ではなく、高アルコール・高硫黄濃度タイプの燃料を使用する自動車用エンジンにおいてピストンリングを使用する場合、硬質被膜の摩耗が極めて促進される厳しい条件であることが判る。
なお、表1〜表6中に示す判定結果の判断基準は以下の通りである。
A:相対摩耗量が1.00以下
B:相対摩耗量が1.00を超え1.15以下
C:相対摩耗量が1.15を超える
<マイクロビッカース硬さおよびポアソン比を含む押し込み弾性率の測定>
硬質被膜のマイクロビッカース硬さ(H)およびポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)の測定は、フィッシャーイントルメンツ製のインデンテーション試験機・HM−2000を用いた。圧子はビッカース硬度測定と同一のダイヤモンド製で、測定荷重は1000mNとした。測定に際しては、30秒掛けて荷重を最大荷重まで上げた後、5秒間その最大荷重を保持し、さらに30秒掛けて除荷した。ここで、マイクロビッカース硬さは、圧子の形状と押込み深さから圧痕の対角線長さが測定できるので、これらの測定値に基づいて算出した。
また、ポアソン比を含む押し込み弾性率は上記の測定における試験力と圧子の押込み深さとの関係から算出した。具体的には、インデンテーション試験機・HM−2000付属の解析ソフト(設定:リニア外挿モード、最大荷重の65%−95%区間を指定)を用いて、除荷−押込み深さ曲線の最小二乗フィットより求めた直線の傾きおよびこの傾きの直線が最大荷重を通るときの押し込み深さ軸との交点を求め、ISO 14577−1(A.5)に従って計算を行った。計算の際、圧子の弾性率は1200GPa、圧子のポアソン比は0.07を用いた。
<耐クラック性および耐剥離性試験>
硬質被膜の耐クラック性および耐剥離性試験は、ピストンリングサンプルを使って、以下の方法で行った。耐クラック性および耐剥離性試験には、図4に示すリングオンディスク試験機110を使用した。このリングオンディスク試験機110は、一定の荷重Qを加えた試験片112を相手材である円板状のディスク114に押し付けた状態でディスク114を所定の条件で矢印R方向に回転させることで、試験片112に設けられた硬質被膜の耐クラック性および耐剥離性を評価する試験機である。
ここで試験片112としては耐摩耗性試験で用いたものと同様にピストンリングサンプルを円周方向に1〜2cmの長さに切断した切断片を使用し、ディスク114としてはJIS G4051のS45C鋼材からなるディスクを使用した。耐クラック性および耐剥離性試験の試験条件を以下に示す。なお、以下の試験条件に示す摺動速度とは、試験片112がディスク114の表面と接触する位置におけるディスク114の周速度を意味する。
−試験条件−
荷重Q :30N
摺動速度 :10m/s(実施例および比較例)
5m/s(参考例)
試験時間 :600min(実施例および比較例)
60min(参考例)
潤滑油 :5W−30
ディスク114の材質:スチール(S45C)
なお、実施例および比較例の試験条件は、摺動面がスカッフ気味の摺動状況下で摺動距離を長くすることを前提条件として硬質被膜の耐クラック性および耐剥離性を評価することを目的としている。
耐クラック性および耐剥離性の評価は、所定の試験時間が経過した後の硬質被膜の摺動面を電子顕微鏡により観察することで実施した。なお、表1〜表6中に示す評価結果の評価基準は以下の通りである。ここで、A,Bは、実用上、許容されるレベルであり、C,Dは、実用上、許容できないレベルである。
A:クラックおよび剥離は全く確認されなかった
B:クラックおよび剥離の発生は確認されなかったものの、スカッフ気味な摺動の痕跡が確認された
C:クラックのみ発生が確認された
D:クラックおよび剥離の双方の発生が確認された
<表面粗さ測定>
ピストンリングサンプルの硬質被膜の表面粗さは株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡・VK−9700にて測定した。撮影条件は、対物レンズ倍率50倍、高さスムージング2、傾き補正自動とし、測定視野の中でピストンリングの円周方向を指定して測定した。表面粗さRaはJISB0601−2001に従って測定した。なお、JISB0601−2001はISO4287−1997に準拠している。
<評価結果>
各実施例、比較例および参考例のピストンリングサンプルの硬質被膜の組成、物性と共に評価結果を表1〜表6に示す。
10 :ピストンリング
12 :ピストンリング基材
14 :外周面
16 :硬質被膜
18 :外周摺動面
30 :アークイオンプレーティング装置
40 :真空チャンバー
42 :金属ターゲット
44 :支持台
46 :ガス導入口
48 :排気口
50 :アーク供給源
52 :バイアス電源供給源
60 :金属イオン
62 :反応ガス分子
100 :リングオンプレート式往復動摩擦試験機
102 :試験片
104 :プレート
110 :リングオンディスク試験機
112 :試験片
114 :ディスク

Claims (11)

  1. ピストンリング基材と、
    前記ピストンリング基材の少なくとも外周面を被覆するように設けられた硬質被膜と、を含み、
    前記硬質被膜のマイクロビッカース硬さ(H)と、前記硬質被膜のポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)との比率(H/EIT’)は、0.050 以上であり、
    前記硬質被膜は、金属元素としてCrおよびAlを少なくとも含み、非金属元素としてNを少なくとも含むNaCl型の結晶構造を有し、
    前記硬質被膜中に含まれる各々の構成元素の含有量割合が下式(1)〜(5)を満たすことを特徴とするピストンリング。
    ・式(1) 15≦b≦65
    ・式(2) 0≦c≦10
    ・式(3) 0(e+f)≦40
    ・式(4) 0e≦40
    ・式(5) 0f≦20
    〔但し、前記各式中、bは前記硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対するAlの含有量割合(原子%)を表し、cは前記硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対する金属元素X(但し、Xは、ZrおよびVからなる群より選択されるいずれかまたは双方の金属元素)の含有量割合(原子%)を表し、eは前記硬質被膜中に含まれる全非金属元素の総量に対するOの含有量割合(原子%)を表し、fは前記硬質被膜中に含まれる全非金属元素の総量に対するCの含有量割合(原子%)を表す。〕
  2. ピストンリング基材と、
    前記ピストンリング基材の少なくとも外周面を被覆するように設けられた硬質被膜と、を含み、
    前記硬質被膜のマイクロビッカース硬さ(H)と、前記硬質被膜のポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)との比率(H/EIT’)は、0.050 以上であり、
    前記硬質被膜は、金属元素としてCrおよびAlを少なくとも含み、非金属元素としてNを少なくとも含むNaCl型の結晶構造を有し、
    前記硬質被膜中に含まれる各々の構成元素の含有量割合が下式(1)〜(5)を満たし、
    前記硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対する、Cr、Al、X(但し、Xは、ZrおよびVからなる群より選択されるいずれかまたは双方の金属元素)以外のその他の金属元素の含有量割合が5原子%以下であることを特徴とするピストンリング。
    ・式(1) 15≦b≦65
    ・式(2) 0≦c≦10
    ・式(3) 0≦(e+f)≦40
    ・式(4) 0≦e≦40
    ・式(5) 0≦f≦20
    〔但し、前記各式中、bは前記硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対するAlの含有量割合(原子%)を表し、cは前記硬質被膜中に含まれる全金属元素の総量に対する金属元素Xの含有量割合(原子%)を表し、eは前記硬質被膜中に含まれる全非金属元素の総量に対するOの含有量割合(原子%)を表し、fは前記硬質被膜中に含まれる全非金属元素の総量に対するCの含有量割合(原子%)を表す。〕
  3. eおよびfが0原子%であることを特徴とする請求項に記載のピストンリング。
  4. eが0原子%を超え40原子%以下であり、且つ、fが0原子%であることを特徴とする請求項に記載のピストンリング。
  5. eが0原子%であり、且つ、fが0原子%を超え20原子%以下であることを特徴とする請求項に記載のピストンリング。
  6. eが0原子%を超え40原子%以下であり、且つ、fが0原子%を超え20原子%以下であることを特徴とする請求項に記載のピストンリング。
  7. cが0原子%であることを特徴する請求項1〜6のいずれか1つに記載のピストンリング。
  8. cが0原子%を超え10原子%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のピストンリング。
  9. 前記ポアソン比を含む押し込み弾性率(EIT’)が245GPa以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載のピストンリング。
  10. 前記ピストンリング基材の外周面に被覆された前記硬質被膜の円周方向における表面粗さRaが、0.30μm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載のピストンリング。
  11. 前記硬質被膜は、アークイオンプレーティング法で形成されていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1つに記載のピストンリング。
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